説明

抗アレルギー飲食品

【課題】 高い抗アレルギー性を備えているとともに、保存し易く、環境にも優しい抗アレルギー飲食品を提供する。
【解決手段】この発明の抗アレルギー飲食品は、じゃばら果皮を含んでいるものである。なお、この発明の抗アレルギー飲食品のじゃばら果皮としては、熱乾燥法、フリーズドライ法、スプレードライ法などによって乾燥した乾燥果皮やこれを顆粒状に加工したものが例示できる。また、この発明の抗アレルギー飲食品は、じゃばら果皮以外の成分、例えば還元麦芽糖などを含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高い抗アレルギー性を備える飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
じゃばらは、日本国和歌山県北山村だけに自生するユズやダイダイ、カボスの仲間の柑橘類であり、果汁を多く含み、糖度と酸度のバランスがとれた、まろやかな風味を備えた果実である。
【0003】
じゃばらの果汁は、ビタミンやミネラルを多く含むとともに、抗アレルギー作用を有するナリルチンを含んでおり、これを飲み続けることによって抗アレルギー作用、具体的には抗花粉症作用があることが既に確認されている(非特許文献1を参照)。
【0004】
しかし、じゃばら果汁は、液体であるため、容器に入れて保存しなければならず、冷蔵庫等にいれて冷蔵しなければ搾ってから数日間で腐敗してしまうので、保存したり、携帯して持ち歩いたりするには不便であるとの問題点があった。また、じゃばら果汁を保管する容器の容量に比べて1回ごとの飲用量が少ないため、容器を頻繁に開閉せねばならず、衛生面での問題点があった。さらに、果汁を搾った後には、果皮が大量に残り、これを焼却処分するために多大な燃料を必要とするとの問題点もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】月刊「臨床免疫・アレルギー科」,50(3):360-364,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、高い抗アレルギー性を備えているとともに、保存し易く、環境にも優しい抗アレルギー飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討の結果、じゃばらの果汁を搾った後の果皮がナリルチンを多く含み、高い抗アレルギー性を備えていることを見出し、この発明を完成させた。すなわち、この発明の抗アレルギー飲食品は、じゃばら果皮を含んでいることを最も主要な特徴とする。なお、この発明の抗アレルギー飲食品は、じゃばら果皮として乾燥した果皮や顆粒状に加工した果皮を使用してもよく、じゃばら果皮以外の成分、例えば還元麦芽糖などを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明の抗アレルギー飲食品は、じゃばら果汁よりも高い抗アレルギー性を備えており、じゃばら果汁が液体であるのと異なり固体であるため、保存性に優れている。また、従来は焼却廃棄されていたじゃばら果皮が利用できるため、環境にも優しい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の抗アレルギー飲食品は、じゃばら果皮を含んでいることを特徴としている。そこで、じゃばら果皮とその加工方法について以下に説明する。
【0010】
(1)じゃばら果皮
この発明で使用するじゃばら果実は、特に限定することなく使用できるが、なかでも、単位重量当たりのナリルチンの含有量が多いことから、摘果された果実や果皮が黄変する以前の未成熟段階の果実が好ましい。ここで、未成熟段階の果実とは、具体的には、着果から3月〜4月後に摘果した果実が好ましい。なお、じゃばらは、一般的に6月ごろに着果することから、9月〜10月ごろに収穫された果実が好ましい。
【0011】
また、じゃばら果皮は、じゃばら果実から手で剥いたもの、公知の自動皮むき機により剥いたもの、果汁圧搾機により果汁を搾った後に残る残渣などが使用できるが、手間を考えると果汁圧搾機の残渣が好ましい。
【0012】
(2)加工方法
じゃばら果皮は、例えば、生の状態で砂糖などととともにジャムやジュースなどに加工してもよいが、保存性をより高めるため、乾燥させた乾燥果皮が好ましい。乾燥果皮としては、一般的な方法、すなわち、果皮果実をそのまま又は細切したのち、日陰、陽干し、若しくは乾燥機によって乾燥する熱乾燥法、フリーズドライ法、スプレードライ法又はこれらの方法を組み合わせて製造したものが、例示できる。
【0013】
なお、フリーズドライ法で乾燥したのち、熱乾燥法で乾燥することによって、高いナリルチン濃度を維持したまま、乾燥果皮に含まれるリモネンを蒸発させ、その苦味を抑えることができる。
【0014】
なお、この乾燥果皮はそのままでも使用できるが、食べやすさなどを考慮して、一般的な方法、すなわちボールミル等により粉末状に加工してから使用するほうがより好ましい。
【0015】
粉末状に加工した乾燥果皮は、それ単独でも使用できるが、フリカケ、お茶漬けのもと等と混ぜて使用することにより、又は還元麦芽糖等の糖類と混ぜて顆粒状にすることにより、食味を向上させることができる。また、顆粒状に加工した乾燥果皮は、腸溶カプセル等のカプセルに収容してカプセル剤としてもよく、ステアリン酸マグネシウム等の公知の添加剤、賦形等と混合して、公知の製剤技術により錠剤としてもよい。
【0016】
以下に、実施例に基づいてこの発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は如何なる意味においても特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0017】
1.収穫時期が異なるじゃばら果実のナリルチン含有量の測定
(1)標品の調製と検量線の作成
乾燥じゃばら果皮の粉末(35g)をヘキサンで脱脂したのち、メタノールで抽出して、メタノール抽出液を得た。メタノール抽出液から、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:塩化メチレン・メタノール系)、ゲルろ過クロマトグラフィー(セルファデックスLH-20、移動層:メタノール)、分取HPLC(移動層:20%アセトニトリル)を使用して、ナリルチンを単離・精製し、標品130mgを得た。
【0018】
得られたナリルチン及びHPLC法を使用して定法により検量線を作成した(Y=1461387X-497,r=0.9999,0.0051-5.1μg)。なお、HPLC法における測定条件は、カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II(直径4.6mm×250mm)、カラム温度:40℃、移動層:20%アセトニトリル(0.8%酢酸)、移動層の流速:1.0mL/min、検出:紫外線検出器(280nm)、であった。
【0019】
(2)じゃばら果実のナリルチン含有量の測定
和歌山県和歌山市松江北の同一の木から、9月から12月までの間、約1月毎に、各月に5つのじゃばら果実を採取して冷凍保存した。冷凍保存した果実を、一晩冷蔵庫で解凍したのち、手で果皮を剥ぎ取った。果皮が剥ぎ取られた果実をジューサーで搾って果汁を得た。得られた果皮と果汁の重量を測定した。
【0020】
果皮5gに9倍量の蒸留水を加えてホモジナイズした。ホモジナイズした果実及び果汁を0.5gずつ精秤し、これに50%メタノールを加えて正確に10mLとしたのち、0.45μmのフィルターでろ過して分析試料とした。この分析試料のナリルチン濃度を、(1)で作成した検量線により測定した。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1から、果皮のほうが果汁よりもナリルチン濃度及び果実1個当たりのナリルチン量が高いことが分かる。また、果皮及び果汁ともに9月に採取した果実のほうが、よりナリルチン濃度が高く、着果から日が経って成熟度が増すにつれてナリルチン濃度が低くなっていることが分かる。反対に、果実1個あたりのナリルチン量は、日が経つにつれて多くなっていることが分かる。これは着果から、摘果までの期間が短ければ果実が小さいからであると考えられる。
【0023】
これらの結果から、高濃度のナリルチンを得るためには着果から3月〜4月後、すなわち9月〜10月に摘果されたじゃばら果実を利用するのが適当であり、総ナリルチン量を多くするためには着果から5月〜6月後、すなわち11月〜12月に摘果されたじゃばら果実を利用するのが適当であることが分かる。
【実施例2】
【0024】
2.抗アレルギー飲食品の調製(熱乾燥法)とその抗アレルギー効果
(1)抗アレルギー飲食品の調製
じゃばら果実(11月採取)のヘタをナイフで切除して果実を横にして二分した。二分した果実を果実圧搾機で圧搾し、果皮と果汁に分離した。得られた果皮を粗砕して、乾燥トレーに並べ、水分含有量が5重量%未満になるまで、80℃で15時間熱風乾燥した。乾燥果皮を、ボールミルで平均粒径が100μm以下となるまで粉砕した。粉砕した果皮50重量%と粉末還元麦芽糖(MR-50、三菱商事フードテック)50重量%とを混合した。混合物を顆粒状に造粒して、この顆粒を2gずつスティック包装した。
【0025】
(2)ナリルチン濃度の測定
(1)で調製した抗アレルギー飲食品2gからジメチルスルホキシド・メタノール溶液により抽出した。抽出した溶液の容積を測定して、フィルターろ過し、分析試料とした。抽出液のナリルチン濃度を、文献(Kawai et al., J.Agric.Food.Chem.,2001,49,3982-3986.)に従って、標準物質を対象としてHPLC法で測定した。その結果、抗アレルギー飲食品のナリルチンの濃度は、40.4mg/gであった。
【0026】
なお、HPLC法における測定条件は、カラム:YMC Pack Pro C18 RS(直径4.6mm×150mm)、カラム温度:40℃、移動層:A(10mM リン酸緩衝液)、B(メタノール)の2つの移動層を使用して、A80%、B20%の割合で2分間送液したのち、送液開始から43分後にA55%、B45%となるように直線濃度勾配でグラジエント、移動層の流速:1.0mL/min、検出:紫外線検出器(280nm)、であった。
【0027】
(3)抗アレルギー飲食品の抗アレルギー効果
(2)で調製した抗アレルギー飲食品を、花粉症の罹患者である成人30人(男性18人、女性12人)に、その症状に応じて飲用させた。その結果、花粉症の症状が比較的軽症である15人(男性10人、女性5人)は、抗アレルギー飲食品を1日1回(ナリルチンの飲用量:計約40mg)飲用することによって、飲用から1時間〜3時間後にその症状が100%緩和した。また、花粉症の症状が中程度である10人(男性5人、女性5人)は、抗アレルギー飲食品を1日2回(ナリルチンの飲用量:計約80mg)飲用することによって、飲用から1日〜3日後にその症状が100%緩和した。さらに、花粉症の症状が比較的重症である5人(男性3人、女性2人)は、抗アレルギー飲食品を1日3回(ナリルチンの飲用量:計約120mg)飲用することによって、飲用から1日〜7日後にその症状が100%緩和した。
【実施例3】
【0028】
3.抗アレルギー飲食品の調製(フリーズドライ法)とその抗アレルギー効果
(1)抗アレルギー飲食品の調製
じゃばら果実(11月採取)のヘタをナイフで切除して果実を横にして二分した。二分した果実をローラー方式の果実圧搾機で圧搾し、果皮と果汁に分離した。得られた果皮を粗砕して、乾燥トレーに並べて-80℃まで急速に凍結した。凍結果皮を乾燥トレーごと減圧して真空状態にし、-5℃常温で水分を蒸発させて乾燥した。その結果、水分含有量が5重量%未満の乾燥果皮を得た。
【0029】
乾燥果皮をボールミルで平均粒径が100μm以下となるまで粉砕した。粉砕した果皮50重量%と粉末還元麦芽糖50重量%とを混合した。混合物を顆粒状に造粒して、この顆粒を2gずつスティック包装した。得られた抗アレルギー飲食品のナリルチンの濃度を、実施例2と同様にして測定した。その結果、抗アレルギー飲食品のナリルチンの濃度は、55.6mg/gであった。
【0030】
(2)抗アレルギー飲食品の抗アレルギー効果
(1)で調製した抗アレルギー飲食品を、花粉症の罹患者である成人30人(男性13人、女性17人)に、その症状に応じて飲用させた。その結果、花粉症の症状が比較的軽症である10人(男性5人、女性5人)は、抗アレルギー飲食品を1日1回(ナリルチンの飲用量:計約55mg)飲用することによって、飲用から1時間〜3時間後にその症状が100%緩和した。また、花粉症の症状が中程度である10人(男性3人、女性7人)は、抗アレルギー飲食品を1日2回(ナリルチンの飲用量:計約110mg)飲用することによって、飲用から1日〜2日後にその症状が100%緩和した。さらに、花粉症の症状が比較的重症である10人(男性5人、女性5人)は、抗アレルギー飲食品を1日3回(ナリルチンの飲用量:計約165mg)飲用することによって、飲用から1日〜3日後にその症状が100%緩和した。
【実施例4】
【0031】
4.抗アレルギー飲食品の調製(スプレードライ法)とその抗アレルギー効果
(1)抗アレルギー飲食品の調製
じゃばら果実(11月採取)のヘタをナイフで切除して果実を横にして二分した。二分した果実をローラー方式の果実圧搾機で圧搾し、果皮と果汁に分離した。得られた果皮を粗砕したのち、ミキサーによりピュレ状にした。得られたじゃばら果皮ピュレをスプレードライヤにより乾燥した。その結果、水分含有量が5重量%未満の乾燥果皮粉末を得た。
【0032】
乾燥果皮50重量%と粉末還元麦芽糖50重量%とを混合した。混合物を顆粒状に造粒して、この顆粒を2gずつスティック包装した。得られた抗アレルギー飲食品のナリルチンの濃度を、実施例2と同様にして測定した。その結果、抗アレルギー飲食品のナリルチンの濃度は、60mg/gであった。
【0033】
(2)抗アレルギー飲食品の抗アレルギー効果
(1)で調製した抗アレルギー飲食品を、花粉症の罹患者である成人30人(男性15人、女性15人)に、1日2回(ナリルチンの飲用量:計約60mg)飲用させた。その結果、飲用から1時間〜3時間後に、男性10人と女性11人は症状に改善が見られ、男性5人と女性4人は症状にかなりの改善が見られた。
【実施例5】
【0034】
5.抗アレルギー飲食品(トローチ)の調製(熱乾燥法)とその抗アレルギー効果
(1)抗アレルギー飲食品の調製
じゃばら果実(11月採取)のヘタをナイフで切除して果実を横にして二分した。二分した果実を果実圧搾機で圧搾し、果皮と果汁に分離した。得られた果皮を粗砕して、乾燥トレーに並べ、水分含有量が5重量%未満になるまで、80℃で15時間熱風乾燥した。乾燥果皮をパワーミルで粉砕し、30メッシュの篩を通過した乾燥果皮粉末を回収した。乾燥果皮粉末のナリルチン濃度を実施例2と同様にして測定したところ、60.0mg/gであった。
【0035】
乾燥果皮粉末12.5重量%と、ブドウ糖(グルファイナル、サンエイ糖化)63.5重量%と、結晶セルロース(微結晶セルロースS102、ISPジャパン)10.0重量%と、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステルS-370F、三菱化学フーズ)5.0重量%と、無水クエン酸(無水クエン酸粉砕品、極東化成工業)4.0重量%と、柑橘系香料(ドライコートグレープフルーツ#3261 0.5重量% 、ドライコートオレンジ#1400 1重量%、ドライコートライム#2961 1重量%、高田香料)2.0重量%と、ネオテーム(ミラスィー200、大日本住友製薬)1.0重量%と、微粒二酸化ケイ素(カーブレックスFPS-500、DSLジャパン)2.0重量%とを混合した。この混合粉末を直径20mmで平角となるようにロータリー式打錠機で打錠した。その結果、平均で重さ2020mg、錠厚5.23mm、水分6.59重量%、硬度16.3kgのトローチ型抗アレルギー飲食品(ナリルチン濃度:15mg/錠)が得られた。
【0036】
(2)抗アレルギー飲食品の抗アレルギー効果
(1)で調製した抗アレルギー飲食品を、花粉症の罹患者である成人20人(男性10人、女性10人)に1日4回(ナリルチンの飲用量:計約60mg)舌下投与した。その結果、男性5人と女性4人は症状に改善が見られ、男性5人と女性6人は症状にかなりの改善が見られた。なお、男性6人と女性7人は投与から5分後には効果が確認でき、男性4人と女性3人は投与から10分後には効果が確認できた。
【0037】
さて、非特許文献1は、じゃばら果汁を5mLずつ朝夕2回、10mL/日ずつ、2週間から4週間、飲用することによって、水っぱな、くしゃみ、鼻づまり等の花粉症の各症状のスコアが約50%程度改善したことが記載している。
【0038】
以上の結果から、じゃばら果皮を利用するこの発明の飲食品は、じゃばら果汁を利用する従来の飲食品と比較して、より高い抗アレルギー活性を有することが証明できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
じゃばら果皮を含有する抗アレルギー飲食品。
【請求項2】
じゃばら果皮が、乾燥果皮である請求項1に記載の抗アレルギー飲食品。
【請求項3】
乾燥果皮が、熱乾燥法により製造される請求項2に記載の抗アレルギー飲食品。
【請求項4】
乾燥果皮が、フリーズドライ法により製造される請求項2に記載の抗アレルギー飲食品。
【請求項5】
乾燥果皮が、スプレードライ法により製造される請求項2に記載の抗アレルギー飲食品。
【請求項6】
じゃばら果皮が、顆粒状である請求項1から請求項5の何れかに記載の抗アレルギー飲食品。
【請求項7】
着果から3月〜4月後に採取したじゃばらを使用する請求項1から請求項6の何れかに記載の抗アレルギー飲食品。
【請求項8】
還元麦芽糖を含む請求項1から請求項7の何れかに記載の抗アレルギー飲食品。

【公開番号】特開2012−111743(P2012−111743A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114758(P2011−114758)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(510147570)株式会社ジャバラ・ラボラトリー (1)
【Fターム(参考)】