説明

抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物、木質板およびその製造方法

【課題】ダニや花粉等のアレルゲンを抑制することができ、かつ耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性も有する塗膜を形成可能な抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物およびそれを用いた木質板とその製造方法を提供する。
【解決手段】抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)、および1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)を含有し、塗工環境温度における粘度が1500mPa・s以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物およびそれを用いた木質板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では3人に1人がアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎等のアレルギー疾患を患っていると言われている。アレルギー疾患の原因としては、ダニ、花粉、カビ、ペットの毛等が挙げられる。
【0003】
特に室内から検出されるダニの70%以上を占めるチリダニのアレルゲン(以下「ダニアレルゲン」という。)が問題となっている。このチリダニは、虫体、死骸、抜け殻、フン等の全てがアレルゲンになると言われている。中でもフン由来のダニアレルゲンはアレルゲン活性が高く、しかも非常に小さく舞い上がり易いため人体に接触することが多いことから、最も問題とされている。
【0004】
一般に、室内のフローリング床はカーペットや畳に比べて、ダニアレルゲンはほとんど存在しないと考えられている。しかし近年、フローリング床においても厚生労働省が示すガイドラインを大きく上回るダニアレルゲンが存在することが報告されている。また、フローリング床に存在するダニアレルゲンは、非常に舞い上がり易いことから、微量でもダニで汚染されたカーペットと同じぐらい人体にとって危険であることが報告されており、フローリング床からアレルゲン粒子を除去することは、アレルギー疾患予防に大変有効である。
【0005】
また、室内の壁面にも、非常に小さく舞い易いダニアレルゲンやペット由来のアレルゲン物質が付着しており、掃除時等に非常に舞い上がり易いことから問題視されている。
【0006】
フローリング床や壁面に集積、付着したダニアレルゲンを低減、駆除する方法としては、掃除機やモップ等でダニアレルゲンを除去する方法が挙げられる。しかし、ダニアレルゲンは非常に小さくかつ舞い上がり易いため、完全に除去することは事実上不可能であった。
【0007】
一方、室内に存在するアレルゲンを抑制する方法として、建築材料中にジルコニウム塩等の抗アレルゲン剤を塗布する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、室内のフローリング床に存在するアレルゲンを抑制する方法として、抗アレルゲン剤を含有する床用艶出し剤を塗布する方法が提案されている(特許文献2参照)。当該方法によれば、抗アレルゲン剤を含有する床用艶出し剤を定期的に塗布することでアレルゲンを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−212806号公報
【特許文献2】特開2001−214130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、床用艶出し剤自体の耐摩耗性、耐薬品性、耐アルカリ性に乏しく、ペットのし尿、アルコール、酢等の調味料、洗剤、漂白剤等が付着した場合、容易に剥離、溶出、白化現象等を起こしてしまい、必ずしもアレルゲン抑制に対する十分な対策とは成り得なかった。
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、ダニや花粉等のアレルゲンを抑制することができ、かつ耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性も有する塗膜を形成可能な抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物およびそれを用いた木質板とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1に、本発明の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物は、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)、および1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)を含有し、塗工環境温度における粘度が1500mPa・s以下であることを特徴とする。
【0014】
第2に、本発明の木質板は、上記第1の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物により形成された塗膜を有することを特徴とする。
【0015】
第3に、本発明の木質板の製造方法は、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)、および1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)を含有する抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を、粘度が1500mPa・s以下となる塗工環境温度において木質基材に塗工する工程と、活性エネルギー線を照射することにより木質基材上の塗膜を硬化する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記第1の発明によれば、ダニや花粉等のアレルゲンを抑制することができ、かつ、耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性も有する塗膜を形成することができる。すなわち、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)および1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)を含有することで、耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性を共に満足させることができる。
【0017】
また、無機化合物(A)に担持された抗アレルゲン剤と相互作用しにくい脂肪族炭化水素系モノマー(D)を含有することで、抗アレルゲン性能を低下させることなく抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の粘度を低下させることができる。
【0018】
また、塗工環境温度における抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の粘度を1500mPa・s以下にすることで、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を木質基材に塗工し活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させる際に、いわゆるリフトアップ効果で抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)が表面近傍に配向するため、効率良く抗アレルゲン性能を発現させることができる。
【0019】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を用いて塗膜を形成しているので、当該塗膜によりダニや花粉等のアレルゲンを抑制することができ、かつ、耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性も有している。
【0020】
上記第3の発明によれば、上記(A)〜(D)の成分を含有する抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を用いているので、ダニや花粉等のアレルゲンを抑制することができ、かつ、耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性も有する塗膜を形成することができる。特に、塗工環境温度における抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の粘度を1500mPa・s以下にすることで、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を木質基材に塗工し活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させる際に、いわゆるリフトアップ効果で抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)が表面近傍に配向するため、効率良く抗アレルゲン性能を発現させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明に用いられる抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)は、抗アレルゲン剤(A1)と無機担体(A2)とからなる。
【0023】
抗アレルゲン剤(A1)は、抗アレルゲン性を有する物質であり、その具体例としては、アニオン系界面活性剤、フェノール系ポリマー、金属塩等が挙げられる。
【0024】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、臭化ヘキサデシルピリジニウム、臭化オクタデシルピリジニウム、臭化ドデシルピコリニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化ベンジルピリジニウム、塩化ブチルピリジニウム、アンモニウム塩、トリエタノールアミンやオクタデシルトリメチルアミン等のアミン、アミン塩等が挙げられる。
【0025】
フェノール系ポリマーの具体例としては、没食子酸、ポリビニルアルコール、ポリ(4−ビニルフェノール)、ポリチロシン、リグノフェノール誘導体、セルロース、スターチ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、イヌリン、キトサン、クラスターデキストリン、グアーガム、タンニン酸、カテキン、キチン、キトサン、植物抽出物等が挙げられる。
【0026】
金属塩の具体例としては、銅、亜鉛、ジルコニウム、錫、鉛、アルミニウム等の2〜4価の金属の硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩や、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等のアルカリ金属の炭酸塩、およびこれらを含む複塩等を挙げることができ、例えば、硫酸亜鉛、明礬、酢酸鉛等を用いることができる。
【0027】
上記の抗アレルゲン剤(A1)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、着色レベルが低く、素地の外観を損ねることがなく、市販され容易に入手可能であり、安全性が高いものが好ましい。
【0028】
無機担体(A2)としては、従来より知られている無機担体を特に制限なく用いることができ、通常は表面積の大きいものが好ましい。具体的には、無機酸化物、すなわちAl、La、Ce、Si、Ti、Zr、Th、V、Nb、Ta、Cr等の酸化物や、これらを2種以上複合させたもの、例えばシリカアルミナ、シリカマグネシア、シリカチタニア、アルミナチタニア、ヒドロキシアパタイト、ゼオライト、燐酸ジルコニウム、多孔質セラミックス等を用いることができ、あるいはモンモリロナイト、カオリン等の粘土鉱物や珪藻土等の天然物を用いることもできる。中でも、物理的、化学的に長期間安定なものが好ましく、特にシリカ、シリカゲル、燐酸ジルコニウム等が好ましい。
【0029】
そして無機担体(A2)としては、上記に例示したような無機担体に銀イオンまたは銅イオンを担持させたものが好ましく用いられる。
【0030】
無機担体(A2)に抗アレルゲン剤(A1)を担持させる方法は、特に制限はなく、例えば従来より知られている方法を用いることができる。例えば、粉末状、ペレット状等に成型した無機担体(A2)に、所望の抗アレルゲン剤(A1)の水溶液を含浸させ、余分な水分を濾過または蒸発により除去し、乾燥した後、必要に応じて焼成することにより無機担体(A2)に抗アレルゲン剤(A1)を担持させることができる。あるいは、無機担体(A2)のヒドロゾルまたはスラリーに所望の抗アレルゲン剤(A1)の水溶液を加え、混練した後乾燥し、必要に応じて焼成することにより無機担体(A2)に抗アレルゲン剤(A1)を担持させることができる。
【0031】
無機担体(A2)への抗アレルゲン剤(A1)の担持量は、特に制限はなく、無機担体(A2)や抗アレルゲン剤(A1)の種類によって異なるが、余り多過ぎると無機担体(A2)の長期安定性が発揮されず、少な過ぎると抗アレルゲン剤(A1)の性能が発揮されない。無機担体(A2)への抗アレルゲン剤(A1)の担持量は、通常は無機担体(A2)に対して0.1〜80質量%、好ましくは1〜60質量%の範囲内である。
【0032】
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)の平均粒径(レーザー回折・散乱法)は、好ましくは10μm以下である。平均粒径が10μmを超えると、意匠性、加工性が低下する場合がある。また、木質基材に抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を塗工した後、硬化する際に、リフトアップ効果が発現しにくくなる場合がある。
【0033】
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)の配合量は、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の固形分量に対して好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。当該配合量が少な過ぎると、抗アレルゲン性能が不十分となる場合があり、当該配合量が多過ぎると、塗膜の耐久性を確保することができない場合がある。
【0034】
本発明に用いられる2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)は、これを配合することで抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物による塗膜の耐汚染性、耐擦傷性等を付与するための塗膜強度を向上させることができる。
【0035】
2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するエネルギー線硬化型樹脂(B)は、1分子中に2個以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する光硬化性(メタ)アクリレートモノマーを重合して得られる樹脂である。その具体例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アクリル酸エステル共重合体の側鎖にアクリロイル基またはメタクリロイル基を導入した共重合系(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、フッ素含有オレフィンから誘導されるユニット、重合性不飽和基含有シリコーンから誘導されるユニット、または水酸基含有不飽和エーテルから誘導されるユニットを含有する共重合体であってもよい。
【0036】
上記の活性エネルギー線硬化型樹脂(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましくは、1分子中に3個以上のアクリロイル基を有するウレタンアクリレート、またはエステル変性されたエポキシアクリレートが用いられる。
【0037】
活性エネルギー線硬化型樹脂(B)の分子量(Mw)は、好ましくは500〜4000の範囲内である。分子量が小さ過ぎると、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の塗膜強度が不十分となる場合がある。分子量が大き過ぎると、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の粘度と、耐汚染性と、抗アレルゲン性能との良好なバランスを得ることが困難となる。
【0038】
活性エネルギー線硬化型樹脂(B)の配合量は、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物全量に対して好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜50質量%である。当該配合量が少な過ぎると、塗膜強度が不十分となる場合がある。当該配合量が多過ぎると、塗膜が硬過ぎて脆くなる場合がある。
【0039】
本発明に用いられる1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg(ガラス転移温度)100℃以上のモノマー(C)は、当該モノマーを重合して得られた重合体のTgが100℃以上であるものであり、これを配合することで抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物による塗膜の耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性を向上させることができる。
【0040】
Tg100℃以上のモノマー(C)の具体例としては、イソボニルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、アクリロイルモルフォリン、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。中でも、皮膚刺激性(P.I.I)が低いアクリロイルモルフォリン、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0041】
Tg100℃以上のモノマー(C)の配合量は、耐汚染性、耐擦傷性、耐クラック性を向上させる点からは、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物全量に対して好ましくは5〜50質量%である。
【0042】
本発明に用いられる1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)は、これを配合することで、抗アレルゲン性能を低下することなく抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の低粘度化を実現することができる。
【0043】
抗アレルゲン剤を担持した無機化合物(A)は、通常、水素結合能力の高い官能基を持つため、カルボニル基やエーテル基を有するポリマーとの間に相互作用が働く。しかし、アレルゲン物質を不活化する活性点である水素結合能力の高い官能基とポリマーとの間に水素結合による相互作用が働くと、十分な抗アレルゲン性能が発現しにくくなる場合がある。これに対して本発明では、抗アレルゲン剤を担持した無機化合物(A)を分散可能な脂肪族炭化水素系モノマー(D)を用いることにより、抗アレルゲン性能を低下することなく塗料の低粘度化を実現することができる。
【0044】
脂肪族炭化水素系モノマー(D)の具体例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート等の低分子量の2官能アクリレートが好ましい。
【0045】
脂肪族炭化水素系モノマー(D)の配合量は、抗アレルゲン性能を低下することなく抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の低粘度化を実現すると共に、他の塗膜物性も確保する点からは、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の固形分量に対して好ましくは3〜45質量%、より好ましくは5〜40質量%である。
【0046】
本発明の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物には、必要に応じて、上記の必須成分(A)〜(D)に加えて、本発明の効果を損なわない範囲内において希釈モノマー(E)、光重合開始剤(F)を配合することができる。
【0047】
希釈モノマー(E)は、反応性希釈剤や架橋剤として用いられ、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、N−ビニルホルムアミド、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、3−メトキシジブチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(ヘキサ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート等が挙げられる。
【0048】
希釈モノマー(E)を配合する場合、反応性希釈剤や架橋剤としての効果を得つつ、かつ塗膜物性等も損なわないようにする点からは、その配合量は、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の樹脂固形分量に対して好ましくは3〜45質量%、より好ましくは5〜40質量%である。
【0049】
光重合開始剤(F)としては、水素引き抜き型あるいは分子内開裂型のものを用いることができる。
【0050】
水素引き抜き型の光重合開始剤(F)の具体例としては、ベンゾフェノン/アミン系、ミヒラーケトン/ベンゾフェノン系、チオキサントン/アミン系の光重合開始剤等が挙げられる。
【0051】
分子内開裂型の光重合開始剤(F)の具体例としては、ベンゾイン型、アセトフェノン型、ベンゾフェノン型、チオキサントン型、アシルフォスフィンオキサイド型の光重合開始剤等が挙げられる。中でも、反応性が高いアセトフェノン型の2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシー2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、長波長まで吸収端が伸びているアシルフォスフィンオキサイド型のモノアシルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイドが好ましい。
【0052】
光重合開始剤(F)の配合量は、反応性を高め、かつ塗膜物性等も損なわないようにする点からは、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の樹脂固形分量に対して好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜6質量である。
【0053】
本発明の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内において上記の希釈モノマー(E)、光重合開始剤(F)以外の添加剤を配合することができる。このような添加剤の具体例としては、ワックス、抗菌剤、防黴剤、非反応性希釈剤、重合禁止剤、艶消し材、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、有機溶剤等が挙げられる。有機溶剤の具体例としては、アルコール、ケトン、エステル類、アミン等が挙げられる。中でも、アルコール、ケトン、エステル類等の電子供与性の高い溶剤は、より溶解し易く好適である。
【0054】
本発明の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物は、塗工環境温度における粘度が1500mPa・s以下、好ましくは1000mPa・s以下である。塗工環境温度における粘度が1500mPa・sを超える場合、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)のリフトアップ効果による表面近傍への配向が起こりにくくなり、効率良く抗アレルゲン性能を発現させることができない。
【0055】
抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の粘度は、常温で1500mPa・s以下であることが好ましいが、塗工時に抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物および塗工機を加温するか、あるいは木質基材の板温を予め上げておくことで粘度を調整してもよい。また、抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の粘度は、必要に応じて希釈剤(希釈モノマー、有機溶剤等)を添加して制御することができる。
【0056】
本発明の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を木質基材に塗工し、次いで塗膜を硬化することで、木質板を得ることができる。木質板の具体例としては、フローリング床等の床材、室内の壁材、階段、框、ドア、カウンター、家具の側面板・前面板等が挙げられる。上記塗膜を硬化する条件は、特に限定するものではなく、塗膜形成用樹脂組成物の粘度が1500mPa・sを超える粘度となる条件で加熱硬化してもよい。
【0057】
抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を塗工する木質基材は、突き板貼りであってもよく、印刷シート貼りであってもよく、無垢材であってもよい。また、木質基材は、必要に応じて従来公知の目止処理、着色処理等を予め表面に施すことができる。また、下塗り塗料、さらには中塗り塗料を塗工することもできる。
【0058】
本発明の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物は、例えば、フローコーター、ロールコーター、吹き付け法、エアレススプレー法、エアスプレー法、刷毛塗り、コテ塗り、浸漬法、引き上げ法、ノズル法、巻き取り法、流し法、盛り付け、パッチング法、グラビアコート法等により、木質基材に塗工することができる。木質基材への塗工は、自動化により、あるいは手動により行うことができる。また、塗工回数は特に制限はなく、1回でも2回以上でもよい。
【0059】
抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の塗膜の厚さは、硬化時の厚さで好ましくは1〜200μm、より好ましくは1〜100μmである。塗膜の厚さを当該範囲内とすることで、抗アレルゲン性能、表面平滑性、表面硬度、耐久性、耐汚染性等の塗膜特性を得ることができる。
【0060】
抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を木質基材に塗工した後、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射することにより塗膜を硬化することができる。経済的観点からは、紫外線を用いることが好ましい。例えば高圧水銀ランプを用いた場合、照射量250〜400mJ/cm2で塗膜を硬化することができる。また、電子線を用いる場合には、例えば窒素雰囲気下、加速電圧200kV、電子線量30kGyの条件で電子線を照射し塗膜を硬化することができる。
【0061】
また、活性エネルギー線で抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を完全に硬化させる前に、予めセミキュアーの工程を導入してもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
実施例および比較例で用いた各成分は以下の通りである。
・抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I
銀が担持されたシリカゲル(シルウェル、富士シリシア化学(株)製、平均粒径 3μm)100gに対し、硫酸亜鉛7水塩の30%水溶液100gを添加し、約30分間攪拌した後、120℃で3時間加熱乾燥を行い、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−Iを得た。
・抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II
銀が担持された燐酸ジルコニウム(ノバロンAG−300、東亞合成(株)製、平均粒径 2μm)50gをイオン交換水100gに分散させた後、オクタデシルトリメチルアミン30gおよびラウリルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウムを30g添加し、約30分間攪拌した後、120℃で3時間加熱乾燥を行い、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−IIを得た。
・2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)
UA−6LPA、新中村化学工業(株)製、ウレタンアクリレート
・Tg100℃以上のモノマー(C)
アロニックスM−215、東亞合成(株)製
ACMO、(株)興人製
・脂肪族炭化水素系モノマー(D)
L−C9A、第一工業製薬(株)製
・希釈モノマー(E)
アロニックスM−309、東亞合成(株)製
アロニックスM−220、東亞合成(株)製
4−HBA、大阪有機化学工業(株)製
・光重合開始剤(F)
IRGACURE184、Ciba社製
・艶消し材
サイロホービック200、富士シリシア化学(株)製
<実施例1>
(抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の調製)
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I 5.3部、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II 5.3部、UA−6LPA(新中村化学工業(株)製)28.6部、アロニックスM−215(東亞合成(株)製)1.2部、ACMO((株)興人製)14.3部、L−C9A(第一工業製薬(株)製)16.4部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)2.0部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)10.2部、4−HBA(大阪有機化学工業(株)製)6.1部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)6.1部、IRGACURE184(Ciba社製)4.3部を加えて均一に混合することにより抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
木質基材として厚さ12mmのラワン合板の表面に厚さ0.3mmのナラ材の突き板を貼着した突き板貼り合板を用い、この突き板表面に着色ステインをロールコーターで塗工し、80℃で1分乾燥後、下塗り塗料および中塗り塗料を固形分換算で合計70g/m2塗工してUV硬化させた。
【0064】
次いで、上塗り塗料として、上記のようにして得られた抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を雰囲気温度50℃のロールコーターにて固形分換算で10g/m2塗工し、無電極紫外線照射ランプ(出力 120mW/cm、照射線量 350mJ/cm2)により硬化させ、木質基材に抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物による塗膜が形成された木質板を得た。
<実施例2>
(抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の調製)
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I 5.6部、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II 5.6部、UA−6LPA(新中村化学工業(株)製)29.9部、アロニックスM−215(東亞合成(株)製)1.3部、ACMO((株)興人製)15.0部、L−C9A(第一工業製薬(株)製)17.1部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)2.1部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)10.7部、4−HBA(大阪有機化学工業(株)製)6.4部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)6.4部を加えて均一に混合することにより抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
木質基材としての化粧シート貼り合板を用い、この化粧シート表面にプライマー層を塗工し、上塗り塗料として、上記のようにして得られた抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物をグラビアコート法により雰囲気温度50℃で10g/m2塗工し、酸素濃度100ppmの雰囲気下、加速電圧175KeV、5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して樹脂を硬化させ、木質基材に抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物による塗膜が形成された木質板を得た。
<実施例3>
(抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の調製)
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I 4.9部、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II 4.9部、UA−6LPA(新中村化学工業(株)製)26.5部、アロニックスM−215(東亞合成(株)製)1.1部、ACMO((株)興人製)13.2部、L−C9A(第一工業製薬(株)製)15.1部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)1.9部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)9.5部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)5.7部、IRGACURE184(Ciba社製)3.9部、MEK6.1部を加えて均一に混合することにより抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
木質基材として厚さ12mmのラワン合板の表面に厚さ0.3mmのナラ材の突き板を貼着した突き板貼り合板を用い、この突き板表面に着色ステインをロールコーターで塗工し、80℃で1分乾燥後、下塗り塗料および中塗り塗料を固形分換算で合計70g/m2塗工してUV硬化させた。
【0065】
次いで、上塗り塗料として、上記のようにして得られた抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を雰囲気温度50℃のロールコーターにて固形分換算で10g/m2塗工し、60℃で1分セッティングした後、無電極紫外線照射ランプ(出力 120mW/cm、照射線量 350mJ/cm2)により硬化させ、木質基材に抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物による塗膜が形成された木質板を得た。
<実施例4>
(抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物の調製)
実施例1と同様にして抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
木質基材として厚さ12mmのラワン合板の表面に厚さ0.3mmのナラ材の突き板を貼着した突き板貼り合板を用い、この突き板表面に着色ステインをロールコーターで塗工し、80℃で1分乾燥後、下塗り塗料および中塗り塗料を固形分換算で合計70g/m2塗工してUV硬化させた。
【0066】
次いで、上塗り塗料として、上記のようにして得られた抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を雰囲気温度50℃のロールコーターにて固形分換算で10g/m2塗工し、無電極紫外線照射ランプ(出力 60mW/cm、照射線量 100mJ/cm2)によりセミキュアーさせた後、無電極紫外線照射ランプ(出力 120mW/cm、照射線量 350mJ/cm2)により硬化させ、木質基材に抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物による塗膜が形成された木質板を得た。
<比較例1>
(塗膜形成用樹脂組成物の調製)
UA−6LPA(新中村化学工業(株)製)27.9部、アロニックスM−215(東亞合成(株)製)2.3部、ACMO((株)興人製)16.3部、L−C9A(第一工業製薬(株)製)18.6部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)4.6部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)11.6部、4−HBA(大阪有機化学工業(株)製)7.0部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)7.0部、IRGACURE184(Ciba社製)4.8部を加えて均一に混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
上記のようにして得られた塗膜形成用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして木質板を製造した。
<比較例2>
(塗膜形成用樹脂組成物の調製)
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I 7.3部、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II 7.3部、アロニックスM−215(東亞合成(株)製)2.8部、ACMO((株)興人製)19.6部、L−C9A(第一工業製薬(株)製)22.4部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)5.6部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)14.0部、4−HBA(大阪有機化学工業(株)製)8.4部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)8.4部、IRGACURE184(Ciba社製)4.1部を加えて均一に混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
上記のようにして得られた塗膜形成用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして木質板を製造した。
<比較例3>
(塗膜形成用樹脂組成物の調製)
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I 6.2部、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II 6.2部、UA−6LPA(新中村化学工業(株)製)33.4部、L−C9A(第一工業製薬(株)製)19.1部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)4.8部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)11.9部、4−HBA(大阪有機化学工業(株)製)7.2部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)7.2部、IRGACURE184(Ciba社製)4.2部を加えて均一に混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
上記のようにして得られた塗膜形成用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして木質板を製造した。
<比較例4>
(塗膜形成用樹脂組成物の調製)
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I 6.2部、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II 6.2部、UA−6LPA(新中村化学工業(株)製)33.4部、アロニックスM−215(東亞合成(株)製)2.4部、ACMO((株)興人製)16.7部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)4.8部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)11.9部、4−HBA(大阪有機化学工業(株)製)7.2部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)7.2部、IRGACURE184(Ciba社製)4.2部を加えて均一に混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
上記のようにして得られた塗膜形成用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして木質板を製造した。
<比較例5>
(塗膜形成用樹脂組成物の調製)
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−I 5.2部、アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)−II 5.2部、UA−6LPA(新中村化学工業(株)製)31.8部、アロニックスM−215(東亞合成(株)製)13.9部、ACMO((株)興人製)2.0部、L−C9A(第一工業製薬(株)製)11.9部、アロニックスM−309(東亞合成(株)製)4.0部、アロニックスM−220(東亞合成(株)製)9.9部、4−HBA(大阪有機化学工業(株)製)6.0部、サイロホービック200(富士シリシア化学(株)製)6.0部、IRGACURE184(Ciba社製)4.3部を加えて均一に混合することにより塗膜形成用樹脂組成物を調製した。
(木質板の製造)
上記のようにして得られた塗膜形成用樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして木質板を製造した。
【0067】
実施例1〜4の抗アレルゲン用塗膜形成用樹脂組成物、比較例1〜5の塗膜形成用樹脂組成物、およびこれらを用いて得られた木質板について、下記の評価を行った。
[樹脂組成物の粘度]
実施例1〜4の抗アレルゲン用塗膜形成用樹脂組成物、および比較例1〜5の塗膜形成用樹脂組成物を50℃に加温したときの粘度をB型粘度計を用いて測定し、下記の基準により評価した。
○: 1500mPa・s以下
×: 1500mPa・s超
[抗アレルゲン性能]
予め調製したダニ抗原(アサヒビール(株)製、精製ダニ抗原Delf2)の水溶液0.4mlを実施例1〜4および比較例1〜5の木質板の塗膜に滴下した(初期濃度 C=T。Cはコントロールライン、Tはテストライン))。24時間後、木質板上のダニ抗原液を回収し、ダニアレルゲン濃度Tを免疫クロマトグラフィー(ダニスキャン、アサヒフードアンドヘルスケア社製)により、抗体とアレルゲン不活化処理した抗原との抗原抗体反応に基づき測定した。測定結果に基づき下記の基準により抗アレルゲン性能を評価した。
○: C>T (初期の抗原濃度より低下)
×: C=T (初期の抗原濃度と同じ)
[耐クラック性]
実施例1〜4および比較例1〜5の木質板について、JASの寒熱繰返しA試験を行い、下記の基準により耐クラック性を評価した。
○: クラック発生
×: クラックなし
[耐擦傷性]
次の耐摺動性試験を行った。実施例1〜4および比較例1〜5の木質板における塗膜形成面に1.0kgの荷重で雑巾掛けを往復10万回行い、その後の外観状態を目視にて判定し、下記の基準により耐擦傷性を評価した。
○: 外観異常なし
×: 塗膜に白化または傷あり
[耐汚染性]
(耐カレー染色性試験)
実施例1〜4および比較例1〜5の木質板の塗膜にカレー粉(ヱスビー食品(株)製)を湯で溶いたもの(濃度10%)を滴下し、水分が蒸発しないように時計皿を被せて24時間保持した。24時間後、水洗いし、色差計(CM2600:コニカミノルタセンシング(株)製)を用いて、試験前後の表面のLab値を測定し、色差ΔEを算出した。そして下記の基準により評価した。
○: ΔE≦3.0
×: 3.0<ΔE
(耐アルカリ性試験)
実施例1〜4および比較例1〜5の木質板の塗膜に5%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、水分が蒸発しないように時計皿を被せて24時間保持した。24時間後、水洗いし、外観状態より下記の基準により評価した。
○: 外観異常なし
×: 塗膜に白化あり
(耐酸性試験)
実施例1〜4および比較例1〜5の木質板の塗膜に1%塩酸水溶液を滴下し、水分が蒸発しないように時計皿を被せて24時間保持した。24時間後、水洗いし、外観状態より下記の基準により評価した。
○: 外観異常なし
×: 塗膜に白化あり
実施例1〜4および比較例1〜5の配合(質量部)および評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1より、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)、および1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)を含有し、塗工環境温度における粘度が1500mPa・s以下である抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を用いた実施例1〜4の木質板は、抗アレルゲン性能を有し、かつ耐クラック性、耐擦傷性、耐汚染性も有していた。
【0070】
一方、抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)を配合しない塗膜形成用樹脂組成物を用いた比較例1の木質板は、抗アレルゲン性能を有していなかった。
【0071】
2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)を配合しない塗膜形成用樹脂組成物を用いた比較例2の木質板は、耐クラック性、耐擦傷性、耐汚染性が低下した。
【0072】
1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)を配合しない塗膜形成用樹脂組成物を用いた比較例3の木質板は、耐クラック性、耐擦傷性、耐汚染性が低下した。
【0073】
1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)を配合しない塗膜形成用樹脂組成物を用いた比較例4の木質板は、抗アレルゲン性能を有していなかった。
【0074】
成分(A)〜(D)を全て配合したが塗工環境温度における粘度が1500mPa・sを超える塗膜形成用樹脂組成物を用いた比較例5の木質板は、抗アレルゲン性能を有していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)、および1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)を含有し、塗工環境温度における粘度が1500mPa・s以下であることを特徴とする抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物により形成された塗膜を有することを特徴とする木質板。
【請求項3】
抗アレルゲン剤が担持された無機化合物(A)、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂(B)、1〜3個の(メタ)アクリロイル基を有するTg100℃以上のモノマー(C)、および1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素系モノマー(D)を含有する抗アレルゲン塗膜形成用樹脂組成物を、粘度が1500mPa・s以下となる塗工環境温度において木質基材に塗工する工程と、活性エネルギー線を照射することにより木質基材上の塗膜を硬化する工程とを含むことを特徴とする木質板の製造方法。

【公開番号】特開2010−174075(P2010−174075A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15933(P2009−15933)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】