説明

抗アレルゲン性を有する化粧シート及び化粧板

【課題】高い抗アレルゲン性を有し、かつ耐候性に優れた耐久性のある化粧シート及びこれを用いた化粧板を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂基材上に、抗アレルゲン機能を有する硬化性樹脂層が形成された化粧シートであって、該硬化性樹脂層は、電離放射線硬化性樹脂と、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤とを含む電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化してなり、該電離放射線硬化性樹脂は、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含み、該電離放射線硬化性樹脂組成物において、抗アレルゲン剤の含有量が電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して5〜30質量部である化粧シート及びこれを用いた化粧板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルゲン性を有する化粧シート及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の床材、壁材などの内外装用建材には、アレルギー疾患に原因となる、ダニや花粉などのアレルゲンを除去ないし不活性化するような抗アレルゲン性のような機能性を持つことが求められている。このような抗アレルゲン性が付与された建材としては、ジルコニウム塩からなる抗アレルゲン剤を、木材の素材、合板などの木質素材などの表面に塗工した建築材料が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような建築材料では、抗アレルゲン剤を単に塗工処理したものであることから、剥離しやすく、耐久性が乏しいものであった。そこで、このような問題を解消するため、フェノール性水酸基を有する非水溶性高分子の抗アレルゲン剤を光重合性オリゴマーなどと混合した光硬化性樹脂組成物を木質系基材に塗布し、光硬化させた床材が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献2に記載された床材で用いている抗アレルゲン剤は、フェノール系高分子樹脂であり、このような抗アレルゲン剤では、抗アレルゲン性を付与するために抗アレルゲン剤の配合量が多くなると、抗アレルゲン剤を含む樹脂層の耐候性が低下し、長期にわたる抗アレルゲン性を発揮できないという問題があった。
【0004】
このように、床材等に使用される化粧シートにおいて、抗アレルゲン性を付与することが求められているものの、高いアレルゲン性と優れた耐候性を兼ね備えさせる技術は依然として開発できていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−212806号公報
【特許文献2】特開2008−239721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い抗アレルゲン性を有し、かつ耐候性に優れた耐久性のある化粧シート及びこれを用いた化粧板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂基材上に、抗アレルゲン機能を有する硬化性樹脂層が形成された化粧シートにおいて、電離放射線硬化性樹脂と、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤とを含む電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化することにより前記硬化性樹脂層を形成し、且つ前記電離放射線硬化性樹脂として少なくとも4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを使用し、更に該電離放射線硬化性樹脂組成物において、抗アレルゲン剤の含有量として電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して5〜30質量部の範囲に設定することによって、高い抗アレルゲン性を備えつつ、優れた耐候性をも備えさせ得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の化粧シート及び化粧版を提供する。
項1.熱可塑性樹脂基材上に、抗アレルゲン機能を有する硬化性樹脂層が形成された化粧シートであって、
該硬化性樹脂層は、電離放射線硬化性樹脂と、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤とを含む電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化してなり、
該電離放射線硬化性樹脂は、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含み、
該電離放射線硬化性樹脂組成物において、抗アレルゲン剤の含有量が電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して5〜30質量部である、化粧シート。
項2. 電離放射線硬化性樹脂組成物において、電離放射線硬化性樹脂の総量当たり、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが50質量%以上含まれる、項1に記載の化粧シート。
項3. ポリフェノール化合物が、カテキン及びタンニン酸から選ばれる少なくとも一種である項1又は2に記載の化粧シート。
項4. 無機固体酸が、リン酸塩である項1〜3のいずれかに記載の化粧シート。
項5. 熱可塑性樹脂基材が、ポリオレフィン系樹脂シートである項1〜4のいずれかに記載の化粧シート。
項6. 熱可塑性樹脂基材が、異なる二種以上のポリオレフィン系樹脂シートを積層してなる項5に記載の化粧シート。
項7. 硬化性樹脂層が、紫外線吸収剤、光安定化剤、抗菌剤、耐摩耗剤、及び艶消し剤から選ばれる少なくとも一種を含む項1〜6のいずれかに記載の化粧シート。
項8.項1〜7のいずれかに記載の化粧シートを木質基板に貼り付けてなる化粧板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化粧シート及びこれを用いた化粧板は、高い抗アレルゲン性を有し、かつ耐候性優れた耐久性を備えており、使用期間の経過に伴う抗アレルゲン性の低下を抑制することができる。また、本発明の化粧シート及びこれを用いた化粧板は、実用上求められる耐汚染性も有しており、化粧シートや化粧版に必要とされる実用性能も備えている。
【0010】
更に、本発明の化粧シート及びこれを用いた化粧板において、硬化性樹脂層に配合するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとして4〜10官能性のものを使用することにより、優れた加工性を備えることができ、例えば、断面V字溝を切削して該断面V字溝を閉じるようにL字型に折り曲げて加工(以下、「V字カット加工」と表記することもある)しても、該加工部におけるクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の化粧シートの断面を示す模式図である。
【図2】本発明の化粧板の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[化粧シート]
本発明の抗アレルゲン性を有する化粧シートは、熱可塑性樹脂基材上に、抗アレルゲン機能を有する硬化性樹脂層が形成された化粧シートであって、該硬化性樹脂層は、電離放射線硬化性樹脂と、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤とを含む電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化してなり、該電離放射線硬化性樹脂は、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含み、該電離放射線硬化性樹脂組成物において、抗アレルゲン剤の含有量が電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して5〜30質量部であることを特徴とするものである。
【0013】
図1は、本発明の抗アレルゲン性を有する化粧シートの好ましい態様の一例を示す模式図である。図1に示す本発明の一態様である化粧シート10は、熱可塑性樹脂基材1の上に、硬化性樹脂層4を設け、該硬化性樹脂層4はエンボス模様5を有したものであり、該熱可塑性樹脂基材1は、熱可塑性樹脂基材A、印刷層2、接着剤層3及び熱可塑性樹脂基材Bを順に積層したものである。
【0014】
また、本発明の化粧シートには、必要に応じて、熱可塑性樹脂基材1の裏面(硬化性樹脂層4を積層する面に対して反対側の面)に、樹脂層からなるバッカー層6を積層させてもよい。以下、本発明の化粧シートの構成について詳細に説明する。
【0015】
《熱可塑性樹脂基材1》
本発明で用いられる熱可塑性樹脂基材1としては、熱可塑性樹脂により構成され、通常化粧シートに用いられるものであれば特に制限はない。基材を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂のようなポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂からなる樹脂シートを用いることができる。これらのうち、床材として用いる場合には、コスト及びシート柔軟性の点でポリオレフィン系樹脂が好ましく、耐傷つき性といったシートとしての強度が求められる場合には、ポリエステル系樹脂が好ましく、求められる用途に応じて使い分けられる。
【0016】
また、熱可塑性樹脂基材1としては、二つ以上の樹脂シートを積層して得られる複層構成のシートを用いることもできる。この場合、二つ以上の樹脂シートに用いられる樹脂は同じでも異なっていてもよい。上記したなかでもポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができ、二層構成の場合、その樹脂の組合せとしては、ポリエチレン−ポリエチレン、ポリエチレン−ポリプロピレン、あるいはポリプロピレン−ポリプロピレンの組合せが好ましい。
複層構成のシートは、例えば二層構成の場合は、熱可塑性樹脂基材1Aの表面にコロナ放電処理などを施して易接着層を設け、該樹脂基材1Aにベタ層及び/又は絵柄層からなる印刷層2を形成し、ついで必要に応じて接着剤層3を設けた後に、熱可塑性樹脂基材1Bを押出ラミネーション、ドライラミネーション、ウエットラミネーション、サーマルラミネーションなどの方法により接着・圧着させて得られる。熱可塑性樹脂基材1A及び1Bは、着色されたものでも、無着色のものでもよく、意匠性を向上させる観点から、いずれか一方が着色されたものであることが好ましい。
【0017】
熱可塑性樹脂基材1の厚さは20〜300μmが加工性、柔軟性、強度の点で通常適用され、50〜200μm程度がより好ましい。熱可塑性樹脂基材1が複層構成のシートの場合、各層を構成する基材の厚さの合計が上記範囲内にあればよく、これらの基材の厚さは同じでも異なっていてもよい。各層を構成する基材(二層構成の場合は基材1A及び1B)単独での厚さは、好ましくは20〜150μmであり、より好ましくは40〜100μmである。
また、熱可塑性樹脂基材1は、その表面がコロナ放電処理やプラズマ処理などのいわゆる易接着性処理がなされたものであってもよく、また、熱可塑性樹脂基材表面にプライマー層やアンカー層などの易接着層が設けられたものであってもよい。
【0018】
《印刷層2》
印刷層2は、化粧シートの意匠性を向上させる目的で、所望によって設けられる任意の
層であり、通常熱可塑性樹脂基材1の上に設けられる。また、熱可塑性樹脂基材1が上記した複層構成のシートの場合、印刷層2は、例えば図1に示されるように各層を構成する基材間に設けてもよいし、該複層構成のシートの最も硬化性樹脂層に近い面に設けてもよい。
【0019】
印刷層2は、絵柄層及び/又はベタ層により構成され、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。絵柄層の模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等があり、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様もある。また、ベタ層は、全面にわたって被覆する一様均一な着色を施した層であり、意匠性を向上させる効果のほか、基材あるいは化粧シートを貼り合わせる基板を隠蔽する効果も有する。意匠性の向上の観点からは、絵柄層とベタ層とを設けることが好ましい。
印刷方法としては、通常の、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷などの輪転印刷、枚葉印刷のいずれをも適用できる。
また、絵柄層の印刷に用いるインキとしては、特に制限はなく、バインダーに、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、酸化チタン、紺青、カーボンブラック、紅柄などの無機顔料やジスアゾ系顔料、イソインドリノン、ポリアゾ系顔料、キナクリドン、フタロシアニンブルーなどの有機顔料、アルミニウム粉、銅粉、金属蒸着合成樹脂フィルムの微細断裁片、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔などのパール状光沢をもつ顔料などを混合したものが用いられる。
【0020】
《接着剤層3》
接着剤層3は、上記したように熱可塑性樹脂基材が複層構成のシートを採用する場合、二つ以上の熱可塑性樹脂基材をラミネートする際に、必要に応じて設けられる層である。接着剤としては、ウレタン系、アクリル系、アクリル/ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリスチレン系、セルロース系などが好ましく挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で、あるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0021】
《バッカー層6》
バッカー層6は、熱可塑性樹脂基材1の裏面(硬化性樹脂層4を積層する面に対して反対側の面)に設けられる樹脂層である。このようなバッカー層6を積層することにより、化粧シートを被着材(特に木質合板)と貼着して化粧材とする場合に、被着材表面に不可避的に存在する凹凸の影響を緩和することができる。特に床用化粧シートとして用いる場合には、バッカー層は化粧シートにクッション性を付与する層にもなる。
【0022】
バッカー層6を形成する樹脂としては、特に制限されないが、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリメチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート−イソフタレート共重合体、ポリイミド、ポリスチレン、ポリアミド、ABS等が挙げられる。
【0023】
バッカー層6は、例えば、上記樹脂成分を、カレンダー法、インフレーション法、Tダイ押し出し法等によって形成してもよく、また予め成型した樹脂フィルムを用いてもよい。
【0024】
バッカー層6を溶融樹脂の押出し成形によって形成する際は、例えば、Tダイを用いた押出し成形が好適に利用できる。また、バッカー層6が多層である場合には、例えば、マルチマニホールドタイプやフィードブロックタイプのTダイを用いることにより、多層同時押出しを行えばよい。バッカー層6を多層とする場合は、例えば、基材シートの裏面と最も近い層を易接着樹脂層とすることが好ましい。この様な改良は、例えば、易接着樹脂層とする層に公知の熱可塑性エラストマーを配合することによって達成できる。熱可塑性エラストマーの種類は、特に限定されず、バッカー層を構成する樹脂と相溶性が高く、基材シートとの密着性改善に寄与し得るものの中から広く選択できる。
【0025】
また、押し出し成形によって形成したバッカー層6が熱融着による接着では基材シート裏面と密着し難い場合には、必要に応じて、密着性を高めるためにバッカー層6と熱可塑性樹脂基材1の間井に接着剤層を設けてもよい。
【0026】
バッカー層6の厚さは100μm以上であればよいが、150〜600μm程度が好ましく、250〜400μm程度がより好ましい。バッカー層6は、その引張り弾性率が1000MPa以上であれば好ましく、1500MPa以上であれば好ましい。引張り弾性率の上限は特に限定的ではないが、2500MPa程度とすればよい。
【0027】
《硬化性樹脂層4》
硬化性樹脂層4は、熱可塑性樹脂基材1の上に必要に応じプライマー層などを介して設けられる層であり、本発明の化粧シートに抗アレルゲン性を付与するとともに、耐候性や耐汚染性などの優れた特性を付与する層である。
【0028】
硬化性樹脂層4は、電離放射線硬化性樹脂と、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤とを含み、かつ該電離放射線硬化性樹脂は、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含み、抗アレルゲン剤の含有量が電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して5〜30質量部である電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化してなる層である。
【0029】
(電離放射線硬化性樹脂)
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ラジカル重合性不飽和基を有するものである。本発明で用いられるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、このラジカル重合性不飽和基を4〜10を有する、すなわち4〜10官能のものであることを要する。より一層優れた抗アレルゲン性及び耐候性を備えさせつつV字カット加工等の加工性を良好にするという観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとして、好ましくは4〜8官能、更に好ましくは4〜6官能が挙げられる。また、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの官能基が多い程、硬化樹脂層4の防汚性を高めることができる。
【0030】
4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの数平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算の数平均分子量)は、600〜5000程度のものが好ましく、より好ましくは600〜3000であり、さらに好ましくは600〜2200である。このようなウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを後述する抗アレルゲン剤とともに用いることにより、抗アレルゲン性とともに耐候性に一層優れたものが得られる。また、電離放射線硬化性樹脂組成物が適度なチクソ性を有するので、硬化性樹脂層の形成が容易となる。
【0031】
電離放射線硬化性樹脂としては、上記した4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは必須であるが、本発明の効果を阻害しない範囲で、電離放射線硬化性樹脂として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであればよく、特に制限はない。これらの多官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
次に、重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えばエポキシ(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系などが挙げられる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテルなどの分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどがある。
【0033】
本発明においては、前記多官能性(メタ)アクリレートなどとともに、その粘度を低下させるなどの目的で、単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
電離放射線硬化性樹脂組成物の中で4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの含有量については、特に制限されないが、例えば、電離放射線硬化性樹脂の総量当たり、50質量%以上、好ましくは50〜95質量%、更に好ましくは60〜95質量%が挙げられる。4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの含有量が上記範囲内であると、一層優れた耐候性が得られると同時に、V字カット加工をはじめとする各種加工に対応できる優れた加工性が得られ、また一層優れた抗アレルゲン性も得られる。
【0035】
(抗アレルゲン剤)
本発明で用いられる抗アレルゲン剤は、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持されたものであり、本発明の化粧シートに優れた抗アレルゲン性だけでなく、優れた耐候性をも付与することができる。
【0036】
ポリフェノール化合物は、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基、すなわちベンゼン環やナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基を有する有機化合物である。例えば、エピカテキン、ガロタンニン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどのカテキンと称される低分子量ポリフェノールや高分子量のタンニン酸などが、優れた抗アレルゲン性を有するとともに、工業的に容易にかつ安価に入手できる観点から好ましく挙げられる。ポリフェノール化合物は、上記したものを単独で、あるいは複数を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、タンニン酸が抗アレルゲン性の観点から好ましい。
【0037】
無機固体酸は、無機物質であって、その表面に水素イオンを放出し、酸性を発現する酸点あるいは活性点を有するものである。例えば、H置換Y型ゼオライト、H置換ZSM−5型ゼオライトなどのゼオライト類、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、リン酸スズ、リン酸セリウム、リン酸チタニウムなどのリン酸塩、アンチモン酸のほか、シリカアルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、チタニアアルミナ、チタニアジルコニアなどの複合酸化物などが好ましく挙げられる。これらのなかでも、耐熱性に優れ、高い固体酸性を有する観点から、ゼオライト類、リン酸塩、複合酸化物が好ましく、特に酸強度が強いリン酸ジルコニウムが好ましく、結晶系が層状構造を有する層状リン酸ジルコニウムが好ましい。
【0038】
無機固体酸の形状は、粉末状、塊状、板状及び繊維状などが挙げられるが、取り扱いの点から粉末状であることが好ましい。粉末状の場合、その平均粒径は0.01〜50μmであることが好ましく、0.02〜20μmであることがより好ましい。平均粒径が上記範囲内であると、取り扱いが容易であり、優れた抗アレルゲン性を得る観点からも好ましい。また、硬化性樹脂層の塗工適性を高め、その艶や耐汚染性等に対する悪影響を排除するという観点から、無機固体酸は、硬化性樹脂層の厚さよりも小さい粒径であることが好ましい。なお、無機固体酸の粒径は、抗アレルゲン剤の粒径と実質的に同一である。
【0039】
本発明において、ポリフェノール化合物と無機固体酸との重量比率は、10:90〜95:5が好ましく、より好ましくは20:80〜80:20であり、さらに好ましくは20:80〜40:60である。重量比率が上記範囲内であると、ポリフェノール化合物と無機固体酸との相乗効果により、とりわけ優れた抗アレルゲン性が得られる。
【0040】
上記したような抗アレルゲン剤は、市販品として入手も可能であり、例えば、ポリフェノール化合物とジルコニウム化合物とを組み合わせた「アレリムーブ(商品名)」(東亞合成株式会社製)などが市販品として挙げられる。
【0041】
抗アレルゲン剤の含有量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、5〜30質量部であり、好ましくは8〜25質量部である。本発明では、このように抗アレルゲン剤の含有量が少なくても、優れた抗アレルゲン性が得られるとともに、優れた耐候性を備えることができる。更に、優れた抗アレルゲン性及び耐候性に加えて、V字カット加工等の加工性も良好にするという観点から、より好ましくは、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、抗アレルゲン剤が8〜15質量部が挙げられる。
【0042】
(他の添加剤)
また、電離放射線硬化性樹脂組成物には、本発明の化粧シートを適用するものに対して要求される特性を満たすために、さらに、紫外線吸収剤、光安定化剤、抗菌剤、耐摩耗剤、及び艶消し剤、あるいは沈降防止剤などの添加剤を含有させることができる。
【0043】
紫外線吸収剤(UVA)は有害な紫外線を吸収し、本発明の表面保護層が設けられたハードコートフィルムの長期耐候性、安定性を向上させる。また、光安定剤は、これ自体は紫外線をほとんど吸収しないが、紫外線により生じる有害なフリーラジカルを効率良く捕捉することにより安定化するものである。
【0044】
本発明で用いることができる紫外線吸収剤としては、無機系、有機系のいずれでもよく、無機系紫外線吸収剤としては、平均粒径が5〜120nm程度の酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを好ましく用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、サリチレート系、アクリロニトリル系などが好ましく挙げることができる。なかでも、紫外線吸収能が高く、また紫外線などの高エネルギーに対しても劣化しにくいトリアジン系がより好ましい。また、ブリードアウトを抑制するために、必要に応じて電離放射線反応型紫外線吸収剤を用いてもよい。
【0045】
これらのうち、トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンなどが好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0046】
紫外線吸収剤の含有量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0047】
また、本発明で用いる光安定剤としては、ヒンダードアミン系の光安定剤であることが好ましく、電離放射線反応型ヒンダードアミン系光安定剤であることが好ましい。
【0048】
ヒンダードアミン系の光安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン)などがあげられる。
【0049】
このような光安定剤の含有量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0050】
また、電離放射線反応型ヒンダードアミン系光安定剤は、電離放射線硬化性樹脂として採用される4〜8官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基などが好ましく挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。なかでも(メタ)アクリロイル基が好ましい。このような光安定剤としては、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレートなどがあげられる。
【0051】
このような電離放射線反応型ヒンダードアミン系光安定剤の配合量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部がより好ましい。
【0052】
本発明で用いる電離放射線硬化性樹脂組成物には、抗菌性を付与するために、抗菌剤を配合することができる。このような抗菌剤としては担体が無機化合物であり、当該担体に銀イオン又は銀イオンの他に銅イオン、亜鉛イオンを併用した少なくとも銀イオンを担持させたものである。無機化合物は任意のものが使用できる。例えば、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル等の無機系吸着剤、ゼオライト、水酸化アパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイド等の無機イオン交換体等が挙げられる。これらの無機化合物は、1種又は2種以上を組合せて用いることができる。
上記無機化合物の中で、無機イオン交換体は銀イオンを強固に担持できることから好ましく、ゼオライト、水酸化アパタイト、及びリン酸ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種を好適に使用でき、リン酸ジルコニウムを単独で用いるのがより好ましい。また、銀系抗菌剤はリン酸ジルコニウムの三次元ネットワーク構造に銀イオンを担持させたものが、変色や銀成分が溶出しない点で特に好ましい。
【0053】
このような抗菌剤の粒子形状としては、球、楕円体、多面体、鱗片形などがあるが、球状のものが好ましく、その平均粒子径は0.1〜3.0μm、より好ましくは、0.5〜2.5μm程度ものである。このような抗菌剤としては、例えば、銀イオン担持リン酸ジルコニウムである「ノバロンAG−300」(東亞合成化学社製、商品名)、銀イオン担持アパタイトである「抗菌セラミックス」(新東Vセラミックス社製、商品名)、銀イオン担持ゼオライトである「ゼオミックAJ−10D」(シナネンニューセラミック社製、商品名)などの市販品を用いることができる。これらの抗菌剤の配合量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは、0.5〜5質量部程度である。
【0054】
本発明で用いる電離放射線硬化性樹脂組成物には、硬化型樹脂層表面の硬度を高め、耐傷性を向上するために、耐摩耗剤を配合することができる。このような耐摩耗剤としては、無機系と有機系の充填剤があり、無機物では、例えば、α−アルミナ、シリカ、カオリナイト、酸化鉄、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の球状粒子が挙げられる。粒子形状は、球、楕円体、多面体、鱗片形等が挙げられ、特に制限はないが、球状が好ましい。
【0055】
これらの無機系の耐摩耗剤のうち、シリカは好ましいものの一つである。シリカは耐摩擦性を向上させ、かつ表面保護層の透明性を阻害しない。シリカとしては従来公知のシリカから適宜選択して用いることが可能であり、例えば、コロイダルシリカを好適に挙げることができる。コロイダルシリカは、添加量が増えた場合であっても、透明性に影響を及ぼすことが少なく、好ましい。シリカの粒子径としては、1次粒子径が5〜1000nmのものを用いることが好ましく、10〜50nmのものがさらに好ましく10〜30nmのものが特に好ましい。1次粒子径が1000nm以下のシリカを用いると透明性が確保される。また、用いるシリカの1次粒子径は一種類である必要はなく、異なる1次粒子径のシリカを混合して用いることも可能である。シリカの配合量としては、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して1〜20重量部の割合であることが好ましい。また、球状のα−アルミナあるいはコロイダルアルミナも、硬度が高く、耐摩耗性の向上に対する効果が大きいことや、球状の粒子を比較的得やすいことから、好ましいものである。
【0056】
また、有機物の充填剤では、架橋アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成樹脂ビーズが挙げられる。粒径は、通常膜厚の30〜100%程度とすることが透明性保持の観点から好ましい。配合量は、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して1〜20重量部程度の割合であることが好ましい。
【0057】
本発明で用いる電離放射線硬化性樹脂組成物には、硬化型樹脂層表面の艶消しのため、いわゆる艶消し剤(マット剤)を配合することができる。このような艶消し剤としては、種々のものが用いられ、無機質微粉末、有機フィラーなどを用いることができる。無機質微粉末としては、シリカ、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸塩、ケイ酸微粉末等が使用でき、有機フィラーとして、アクリル、ウレタン、ナイロン、ポリプロピレン、尿素系樹脂などからなるフィラー、スチレン架橋フィラー、ベンゾグアナミン架橋フィラーなどが挙げられる。
【0058】
これらの艶消し剤の中でも、無機質微粉末、特にシリカは入手のしやすさと少量の添加であっても十分な艶消し効果を発揮する点で好ましい。このようなシリカ粒子としては、粒径は1〜40μm程度であることが好ましく、2〜20μmであることが特に好ましい。このようなシリカ粒子の種類については、処理/未処理問わず、従来公知のものが使用でき、これらを単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。また、本発明においては、艶消し効果の観点から不定形のシリカも好ましく挙げられる。
シリカ粒子の配合量としては、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、4〜30質量部であり、10〜20質量部であることがより好ましい。
【0059】
また、本発明で用いられる電離放射線硬化性樹脂組成物には、その性能を阻害しない範囲で各種添加剤を含有することができる。各種添加剤としては、例えば重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、接着性向上剤、酸化防止剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、消臭剤、溶剤などが挙げられる。
【0060】
なお、電離放射線硬化型樹脂として紫外線硬化型樹脂を用いる場合には、光重合用開始剤を硬化型樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましく、光重合用開始剤としては、従来慣用されているもののなかから適宜選択することができる。
【0061】
(硬化性樹脂層の形成)
本発明の化粧シートの硬化性樹脂層4は、上記した電離放射線硬化性樹脂組成物、すなわち4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤とを必須成分として含み、その他の任意成分を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を、熱可塑性樹脂基材上に、必要に応じてプライマー層などの易接着層を介して、塗工し、電離放射線などを照射することにより架橋硬化させて形成する。硬化性樹脂層4の形成は、具体的には以下のようにして行われる。
【0062】
硬化性樹脂層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物の塗工は、硬化後の厚さが通常5〜30μm程度となるように、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコートなどの公知の方式、好ましくはグラビアコートにより行う。また、耐汚染性、耐傷性の観点から、好ましくは10〜20μmである。なお、電離放射線硬化性樹脂組成物が溶剤を含むような場合は、塗工後、熱風乾燥機などにより塗工層を予め加熱乾燥してから電離放射線を照射することが好ましい。
【0063】
上記の電離放射線硬化性樹脂組成物の塗工により形成した未硬化樹脂層は、電離放射線などを照射して架橋硬化することで、硬化性樹脂層3が形成される。ここで、硬化に電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
照射線量は、電離放射線硬化型樹脂の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
【0064】
電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0065】
また、電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯などが用いられる。
【0066】
(プライマー層)
熱可塑性樹脂基材1上に、硬化性樹脂層3を設ける際には、熱可塑性樹脂基材1と硬化性樹脂層3との間の接着性を確保するため、易接着層として、プライマー層(図示せず)を熱可塑性樹脂基材1と硬化性樹脂層3との間に設けることができる。
【0067】
このようなプライマー層を形成する樹脂としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル−ウレタン共重合体樹脂、アクリルポリオールを主成分とするウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンなどが用いられ、必要に応じて、これらの樹脂に体質含量、溶剤、安定剤、可塑剤、硬化剤などの配合されたものをプライマーとして用いることができる。
【0068】
プライマー層の形成は、上記のプライマー樹脂組成物をそのままで又は溶媒に溶解若しくは分散させた状態のものを用い、公知の印刷方法、塗布方法などによって、熱可塑性樹脂基材に塗布し、乾燥、硬化することによって行うことができる。プライマー層の厚さとしては、通常、0.1〜5μmの範囲であり、特に、0.5〜3μmの範囲であることが好ましい。なお、このプライマー層を熱可塑性樹脂基材上に形成する際に、熱可塑性樹脂基材シート1に対して、コロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理などの易接着処理を施し、熱可塑性樹脂基材との接着性を高めるようにすることもできる。
【0069】
また、プライマー層上に硬化性樹脂層3を積層する際に、硬化性樹脂層3とプライマー層との接着性を確保するために、プライマー層の表面に上記した易接着処理により硬化性樹脂層との間の接着性をさらに高めるようにすることもできるし、プライマー層を半硬化の状態にとどめ、その後、硬化性樹脂層を塗工した後、電離放射線を照射し、硬化性樹脂層を硬化することにより、硬化性樹脂層とプライマー層2とを一体化し、両者の間の接着性を高めるようにすることもできる。
【0070】
(エンボス模様)
このようにして、熱可塑性樹脂基材に硬化性樹脂層が積層された本発明の化粧シートは、床材や壁材などへの適用、あるいは意匠性を考慮すると、化粧シート表面に、エンボス加工によるエンボス模様5を施すこともできる。エンボス加工は、硬化性樹脂層面から、エンボス板で加熱加圧することのほか、種々の方法により形成することができる。エンボス模様5の形状としては、制限はないが、本発明の化粧シートが適用される建材の特性に応じて形成される。
【0071】
(セパレータ)
本発明の化粧シートは、熱可塑性樹脂基材シート側の表面に、粘着剤を介してセパレータを設けることもできる。こうした構成とすることにより、セパレータを剥がして露出した面を被貼着物に貼着することができる。
このようにして得られた化粧シートは、例えば、床材、壁材などの内装材に貼り付けて用いることができ、抗アレルゲン性に優れ、優れた耐候性とを有した内装材ないし外装材を得ることができる。
【0072】
[化粧板]
本発明の化粧板は、上記の本発明の化粧シートを木質基板に貼り付けてなるものである。図2は、本発明の化粧板の好ましい態様の一例を示す模式図である。本発明の化粧板12は、化粧シート10と木質系基板11とを接着剤を用いて貼り付けて積層したものである。
木質基板としては、木質系の板としては、杉、檜、欅、松、ラワン、チーク、メラピーなどの各種素材の突板、木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MD
F)などの木質材などが挙げられる。これらは単独で、または積層して用いることもできる。なお、木質系の板には、木質板に限らず、紙粉入りのプラスチック板や、補強され強度を有する紙類も包含される。
【0073】
また、化粧シートと木質基板とを貼り付けるために用いる接着剤としては、尿素系、酢酸ビニル樹脂系、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、イソシアネート系等の接着剤を用いることができ、単独であるいは任意混合した混合型接着剤として用いられる。接着剤には、必要に応じてタルク、炭酸カルシウム、クレー、チタン白等の無機質粉末、小麦粉、木粉、プラスチック粉、着色剤、防虫剤、防カビ剤等を添加混合して用いることができる。
接着剤は、スプレー、スプレッダー、バーコーター等の塗布装置を用いて塗布すればよい。この接着剤は、一般に、接着剤は固形分を35〜80質量%とし、塗布量50〜300g/mの範囲で基板表面に塗布される。
【0074】
鏡面化粧シートの基板上への貼着は、通常、鏡面化粧シートの裏面に接着剤層を形成し、基板を貼着するか、基板の上に接着剤を塗布し、鏡面化粧シートを貼着する等の方法による。貼着には、コールドプレス、ホットプレス、ロールプレス、ラミネーター、ラッピング、縁貼り機、真空プレス等の貼着装置を用いることができる。
【0075】
このようにして得られた本発明の化粧板は、任意切断して、表面や木口部にルーター、カッター等の切削加工機を用いて溝加工、面取加工等の任意加飾を施すことができる。そして種々の用途、例えば、床材、壁材などに好適に用いられる。
【実施例】
【0076】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
(評価方法)
(1)抗アレルゲン性
各実施例および比較例にて得られ化粧シートに、ダニアレルゲン(「精製ダニ抗原Der f II(商品名)」,株式会社シバヤギ製)の水溶液を400μl滴下して、24時間放置した後、該化粧シート上のダニアレルゲンを回収し、ダニアレルゲンの量をダニアレルゲン簡易測定キット(「ダニスキャン(商品名)」,アサヒビール株式会社製)を用いて下記の基準で抗アレルゲン性を評価した。
○ :抗アレルゲン性が認められるもの
× :抗アレルゲン性が認められないもの
【0078】
(2)耐候性
各実施例および比較例にて得られた化粧シートについて、岩崎電気株式会社製アイスーパーUVテスターを使用して、20時間のUV照射および4時間の噴水による促進耐候試験を実施(具体的には、10時間のUV照射、4時間の噴水、10時間のUV照射を順次実施)した後の化粧シート表面の変化について、以下の基準にて評価した。
○ :化粧シート表面が変化しないもの
△ :化粧シート表面が若干黄変するもの
× :化粧シート表面が著しく黄変するもの
【0079】
(3)耐汚染性
JIS−K−6902に準拠し、各実施例および比較例にて製造された化粧シート表面に事務用インキ及びブルーブラックを滴下した後、24時間後に水ふきした際の表面変化について、以下の基準にて評価した。
○ :表面の変化が生じないもの
△ :表面が若干汚染されているものの、外観を損なう程度ではないもの
× :表面が著しく汚染されているもの
【0080】
(4)V字カット加工適性(シート柔軟性に関する項目)
各実施例および比較例にて製造された化粧シートの基材シート側を、接着剤を用いて厚さ10mmのMDFに接着して積層した後、化粧シート側と反対側に、MDFと接着剤層との界面まで達する断面V字型の溝を切削し、溝を閉じるようにして合板をL字型(断面)に折り曲げて試験し、目視にて加工部を観察し、以下の基準にて評価した。なお、加工時の温度は常温で行った。
○ :シート加工部にクラックが発生しないもの
△ :シート加工部に微小なクラックが発生するが、外観上問題のないもの
× :シート加工部にクラックが発生し、シートの白化等の外観上の明確な変化が観察されるもの
【0081】
実施例1
熱可塑性樹脂基材として、ポリオレフィン系樹脂シート(60μm透明ポリプロピレンに対し、80μmの厚みで着色ポリエチレンを押し出して形成)を用い、密着用プライマー(「EBRプライマー」,昭和インク工業株式会社製)を1.5g/mで塗工した基材に対し、その表面に4官能のウレタンアクリレートオリゴマー(数平均分子量:1200)100質量部、ポリフェノール化合物がジルコニウム化合物に担持された抗アレルゲン剤A(「アレリムーブ(商品名)」,東亞合成株式会社製)10質量部及び艶消し剤(不定形シリカ,粒径:5μm)16質量部を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を塗工(15g/m)した。電離放射線硬化性樹脂組成物を塗工した後、加速電圧165kV、照射量30kG(3Mrad)の電子線を照射し、電離放射線硬化性樹脂組成物を硬化させて、硬化性樹脂層(15μm)を得た。得られた化粧シートについて、各特性を評価し、評価結果を電離放射線硬化性樹脂組成物の配合量とともに第1表に示した。
【0082】
実施例2
実施例1において、4官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを6官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量:1400)とした以外は実施例1と同様にして、化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0083】
実施例3
実施例1において、抗アレルゲン剤を20質量部とした以外は実施例1と同様にして、化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0084】
実施例4
実施例2において、抗アレルゲン剤を20質量部とした以外は実施例1と同様にして、化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0085】
実施例5
実施例1において、4官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを10官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量:1800)とした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0086】
実施例6
実施例5において、抗アレルゲン剤を20質量部とした以外は実施例5と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0087】
実施例7
実施例1において、4官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの代わりに、6官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量:1400)80質量部及び2官能グリコール(メタ)アクリレートモノマー(数平均分子量:300)20質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)及び(2)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0088】
実施例8
実施例1において、4官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの代わりに、6官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量:1400)70質量部及び2官能グリコール(メタ)アクリレートモノマー(数平均分子量:300)30質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)及び(2)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0089】
実施例9
実施例1において、4官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの代わりに、6官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量:1400)70質量部及び2官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量:1000)30質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0090】
比較例1
実施例1において、4官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを2官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー(数平均分子量:1000)とした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0091】
比較例2
比較例1において、抗アレルゲン剤を20質量部とした以外は比較例1と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0092】
比較例3
実施例2において、抗アレルゲン剤をポリフェノール化合物系の抗アレルゲン剤B(「マルカリンカーM(商品名)」丸善石油化学株式会社製)とした以外は実施例2と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0093】
比較例4
比較例3において、抗アレルゲン剤を20質量部とした以外は比較例3と同様にして化粧シートを作製し、上記(1)〜(4)に関する評価を行った。結果を第1表に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示す結果から明らかなように、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤(抗アレルゲン剤A)を併用し、該オリゴマー100質量部当たり該抗アレルゲン剤が5〜30質量部を充足する場合(実施例1〜9)には、優れた抗アレルゲン性を有すると共に、耐候性も良好になることが確認された。これに対して、2官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを使用した場合(比較例1〜2)、及び抗アレルゲン剤としてポリフェノール化合物を無機固体酸に担持させずに使用した場合(比較例3〜4)では、抗アレルゲン性が劣る、又は耐候性が劣る結果になり、高い抗アレルゲン性と優れた耐候性を兼ね備えることはできなかった。
更に、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとして、4〜8官能の化合物を使用した場合(実施例1〜4)には、V字カット加工における加工性が良好になることも明らかになった。
【符号の説明】
【0096】
1A.熱可塑性樹脂基材A
1B.熱可塑性樹脂基材B
2.印刷層
3.接着剤層
4.硬化性樹脂層
5.エンボス模様
10.化粧シート
11.木質系基板
12.化粧板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂基材上に、抗アレルゲン機能を有する硬化性樹脂層が形成された化粧シートであって、
該硬化性樹脂層は、電離放射線硬化性樹脂と、ポリフェノール化合物が無機固体酸に担持された抗アレルゲン剤とを含む電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化してなり、
該電離放射線硬化性樹脂は、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含み、
該電離放射線硬化性樹脂組成物において、抗アレルゲン剤の含有量が電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して5〜30質量部である、化粧シート。
【請求項2】
電離放射線硬化性樹脂組成物において、電離放射線硬化性樹脂の総量当たり、4〜10官能のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが50質量%以上含まれる、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
ポリフェノール化合物が、カテキン及びタンニン酸から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の化粧シート。
【請求項4】
無機固体酸が、リン酸塩である請求項1〜3のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂基材が、ポリオレフィン系樹脂シートである請求項1〜4のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項6】
熱可塑性樹脂基材が、異なる二種以上のポリオレフィン系樹脂シートを積層してなる請求項5に記載の化粧シート。
【請求項7】
硬化性樹脂層が、紫外線吸収剤、光安定化剤、抗菌剤、耐摩耗剤、及び艶消し剤から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜6のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の化粧シートを木質基板に貼り付けてなる化粧板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187922(P2012−187922A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−32610(P2012−32610)
【出願日】平成24年2月17日(2012.2.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】