説明

抗アレルゲン性を有する木質板とその製造方法

【課題】表面に傷が付きにくく、長期間にわたって抗アレルゲン性を持続して発揮することのできる、床材などに適用可能な、抗アレルゲン性を有する木質板と、この木質板を製造するための製造方法を提供すること。
【解決手段】板状の木質基材3と、木質基材3の表面に配設され、2層以上の複数層から形成された機能層4とを備え、機能層の最も外側に位置する最外表面層が抗アレルゲン剤を含有し、機能層には、最外表面層の直下に厚さ50〜100μmで、単層の厚膜層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニ、花粉やペット由来のアレルゲン物質を抑制することのできる、住宅用建材などに適用可能な木質板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では3人に1人がアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を患っていると言われている。アレルギー疾患の原因としては、ダニ、花粉、カビ、ペットの毛などが挙げられる。
【0003】
特に、室内から検出されるダニの70%以上を占めるチリダニのアレルゲン(以下、「ダニアレルゲン」という)が問題となっている。このチリダニは、虫体、死骸、抜け殻、フンなどの全てがアレルゲンになると言われている。中でもフン由来のダニアレルゲンはアレルゲン活性が高く、しかも粒子が非常に小さく舞い上がり易いため、人体に接触することが多く、最も問題とされている。
【0004】
一般に、室内のフローリング床は、カーペットや畳に比べてダニアレルゲンはほとんど存在しないと考えられている。しかし、近年、フローリング床においても厚生労働省が示すガイドラインを大きく上回るダニアレルゲンが存在することが報告されている。また、フローリング床に存在するダニアレルゲンは、非常に舞い上がり易いことから、微量でも、ダニで汚染されたカーペットと同じぐらい人体にとって危険であることが報告されており、フローリング床からアレルゲン粒子を除去することは、アレルギー疾患予防に大変有効である。
【0005】
また、室内の壁面にも、非常に小さく舞い易いダニアレルゲンやペット由来のアレルゲン物質が付着しており、掃除時などに非常に舞い上がり易いことから問題視されている。
【0006】
フローリング床や壁面に集積、付着したダニアレルゲンを低減、駆除する方法としては、掃除機やモップなどでダニアレルゲンを除去する方法が挙げられる。しかし、ダニアレルゲンは非常に小さくかつ舞い上がり易いため、完全に除去することは事実上不可能であった。
【0007】
一方、室内に存在するアレルゲンを抑制する方法として、建築材料にジルコニウム塩などの抗アレルゲン剤を塗布する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、室内のフローリング床に存在するアレルゲンを抑制する方法として、抗アレルゲン剤を含有する床用艶出し剤を塗布する方法が提案されている(特許文献2参照)。抗アレルゲン剤を含有する床用艶出し剤を定期的に塗布することでアレルゲンを抑制することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、床用艶出し剤自体の耐磨耗性、あるいは耐薬品性や耐アルカリ性などの耐汚染性が乏しく、ペットのし尿、アルコール、酢などの調味料、洗剤、漂白剤などが付着した場合、容易に剥離、溶出、白化現象などを起こしてしまい、必ずしもアレルゲン抑制に対する十分な対策とはなり得なかった。
【0010】
この問題点を解決するために、抗アレルゲン剤としてフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子を用いて、これを含有する紫外線、電子線などの活性エネルギー線による硬化性樹脂組成物を木質基材に塗布し硬化することにより、抗アレルゲン剤を含有する塗膜を表面に形成した床材が提案されている(特許文献3参照)。この床材では、抗アレルゲン剤を含有する塗膜に耐傷性や耐汚染性などの耐久性が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−212806号公報
【特許文献2】特開2001−214130号公報
【特許文献3】特開2008−239721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献3に記載された床材によれば、抗アレルゲン剤を塗膜中に含有させることによって、従来よりは長期間抗アレルゲン性が発揮されると期待される。
【0013】
しかしながら、床材の使用環境において塗膜に傷が付く場合、美観保持などのためにワックスが塗布されると、ワックスの皮膜によってアレルゲンが抗アレルゲン剤に接触しにくくなり、抗アレルゲン性の発揮が阻害されるという問題が指摘される。
【0014】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、表面に傷が付きにくく、長期間にわたって抗アレルゲン性を持続して発揮することのできる、床材などに適用可能な、抗アレルゲン性を有する木質板と、この木質板を製造するための製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の特徴を有している。
【0016】
第1の発明は、抗アレルゲン性を有する木質板に関し、板状の木質基材と、この木質基材の表面に配設され、2層以上の複数層から形成された機能層とを備え、機能層の最も外側に位置する最外表面層が抗アレルゲン剤を含有している抗アレルゲン性を有する木質板であって、前記機能層には、前記最外表面層の直下に厚さ50〜100μmの厚膜層が形成され、この厚膜層は単層であることを特徴としている。
【0017】
第2の発明は、上記第1の発明の特徴において、厚膜層は、硬化性樹脂組成物から構成される塗料の塗膜として形成されていることを特徴としている。
【0018】
第3の発明は、上記第2の発明の特徴において、前記硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー硬化型樹脂組成物であることを特徴としている。
【0019】
第4の発明は、上記第2または第3の発明の特徴において、前記木質基材の表面部に化粧溝が形成され、この化粧溝には、前記塗料が溜まって前記硬化性樹脂組成物による充填層が形成されていることを特徴としている。
【0020】
第5の発明は、上記第1の特徴を有する抗アレルゲン性を有する木質板の製造方法に関し、前記厚膜層の一部または全部を、硬化性樹脂組成物から構成される塗料をフローコーターによって塗布して形成させることを特徴としている。
【0021】
第6の発明は、上記第5の発明の特徴において、前記硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー硬化型樹脂組成物であることを特徴としている。
【0022】
第7の発明は、上記第5または第6の発明の特徴において、前記木質基材の表面部に形成された化粧溝に前記塗料が溜まり、前記硬化性樹脂組成物の充填層が形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
上記第1の発明によれば、木質基材の表面に配設された機能層において、抗アレルゲン剤を含有する最外表面層の直下に厚さ50〜100μmの単層の厚膜層が形成されているため、この厚膜層によって、最外表面層に傷が付きにくくなり、美観保持などが可能となる。最外表面層にワックスを塗布する必要がなくなる。したがって、抗アレルゲン性を有する木質板は、長期間にわたって抗アレルゲン性を持続して発揮することができる。
【0024】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加え、厚膜層が、硬化性樹脂組成物から構成される塗料の塗膜として形成されているため、厚膜層は、比較的容易に形成され、緻密で良好な耐久性を有する。
【0025】
上記第3の発明によれば、上記第2の発明の効果に加え、硬化性樹脂組成物が活性エネルギー硬化型樹脂組成物であるため、短時間で容易に塗膜が形成され、厚膜層の形成がより容易となる。
【0026】
上記第4の発明によれば、上記第2または第3の発明の効果に加え、木質基材の表面部に形成された化粧溝に塗料が溜まって硬化性樹脂組成物による充填層が形成されているので、アレルゲン物質が化粧溝に堆積するのが抑制される。化粧溝の形成にともなう抗アレルゲン性の低下を抑制することができ、しかもそれを容易に実現することができる。
【0027】
上記第5の発明によれば、厚膜層の一部または全部を、硬化性樹脂組成物から構成される塗料をフローコーターによって塗布して形成させるので、厚膜層は、厚さ50〜100μmの厚膜状に容易に形成される。しかも、厚膜層は、単層として形成されるので、多層とする場合の層間剥離などのおそれがなく、品質の良好な厚膜層が得られ、最外表面層の耐久性を十分に確保することができる。また、厚膜層の表面に外観上支障をきたさない程度の凹凸が形成され、最外表面層にたとえ傷が付いたとしても、傷が目立ちにくく、また、その凹凸によって木質板の表面が滑りにくくなり、また、べたつきにくくなる。
【0028】
上記第6の発明によれば、上記第5の発明の効果に加え、上記第3の発明と同様に、短時間で容易に塗膜を形成することができ、厚膜層の形成を容易にすることができる。
【0029】
上記第7の発明によれば、上記第5または第6の発明の効果に加え、上記第4の発明と同様に、アレルゲン物質が化粧溝に堆積するのを抑制することができる。化粧溝の形成にともなう抗アレルゲン性の低下を抑制することができ、しかもそれを容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)(b)は、それぞれ、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板の一実施形態を示した要部斜視図、断面図である。
【図2】図1に示した木質板における化粧溝およびその周辺を拡大して示した要部断面図である。
【図3】(a)(b)(c)は、それぞれ、図1に示した木質板に用いられる木質基材の一形態を示した断面図である。
【図4】比較例2の木質板における化粧溝およびその周辺を拡大して示した要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上記のとおり、図1(a)(b)は、それぞれ、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板の一実施形態を示した要部斜視図、断面図である。図2は、図1に示した木質板における化粧溝およびその周辺を拡大して示した断面図である。図3(a)(b)(c)は、それぞれ、図1に示した木質板における木質基材の一形態を示した要部断面図である。
【0032】
本実施形態の木質板1は、床材2として使用されるものである。
【0033】
すなわち、木質板1は、図1に示したように、板状の木質基材3と、木質基材3の表面に配設された、各種の機能(本発明では特に抗アレルゲン性)を発揮する機能層4とを備えている。機能層4は、後述するように、2層以上の複数層から形成されている。
【0034】
また、木質板1には、床材2として使用されることから、木質基材3の側端部、すなわち、左側端部に凹状の雌実5が形成され、右側端部に凸状の雄実6が形成されている。雄実6と雌実5は、それぞれ、木質板1が床材2として建物の床下地部に敷設されるとき、左右に隣接して配置される2枚の間において雄実6が雌実5に嵌合可能な形状を有している。具体的には、雄実6の外周形状と雌実5の内周形状が略一致している。このような雌実5および雄実6は、木質基材3の左右側端部だけでなく、木質基材3の長手方向に離間して位置する前端部および後端部にも同じように形成される。
【0035】
さらに、木質板1には、木質基材3の表面部に、断面略V字状の形状を有する化粧溝7が、木質基材3の長手方向にわたって2つ形成されている。2つの化粧溝7は、木質基材3の表面部において互いに離間して配置されている。化粧溝7は、床材2の敷設によって形成される床面に立体感を現出させるなどの意匠性の向上のために、たとえば目地などとして形成される。
【0036】
そして、木質基材3は、図2および図3(a)に示したように、合板8の表面に、化粧用の木質単板である突き板9が接着されて形成されている。
【0037】
木質板1に適用可能な木質基材3は、上記構成に限定されることはなく、合板8の他、パーティクルボード(Particle Board(PB))、中密度繊維板(Medium Density Fiberboard(MDF))、木粉と樹脂の混合物を板状に成形して形成される混合ボード(Wood Plastic Board(WPB))、または合板8を含め、これらが複合されたものが挙げられ
る。図3(b)に示した木質基材3は、合板8の表面にMDF10が接着されて複合化され、MDF10の表面に突き板9が接着されて形成されたものである。また、図3(c)に示した木質基材3は、合板8の表面にWPB11が接着されて複合化され、さらに、WPB11の表面に、木目模様などが印刷された樹脂製の化粧シート12が接着されて形成されたものである。このように、木質基材3のいわゆる化粧材についても、図3(a)(b)に示した突き板9の他、化粧シート12などの各種のものの適用が可能とされている。
【0038】
なお、木質基材3に形成された化粧溝7は、図2に示したように、突き板9(図3(c)に示した木質基材3の場合には化粧シート12)を含めた木質基材3の表面部に形成される。
【0039】
また、本実施形態の木質板1では、図2に示したように、機能層4は、3つの塗装層から形成されている。機能層4は、木質基材3の表面を形成する突き板9の表面上に形成された下塗り層13と、下塗り層13の表面上に形成された中塗り層14と、そして、中塗り層14の表面上に形成され、機能層4の最外表面層15を形成する上塗り層16の3つの塗装層から形成されている。各層13、14、16は、塗料の塗布による塗膜として形成されている。
【0040】
最外表面層15を形成する上塗り層16は、木質板1に抗アレルゲン性を発揮させるために、抗アレルゲン剤を含有する層である。抗アレルゲン剤は、塗料を構成する、後述する硬化性樹脂組成物に混合され、塗布によって形成される塗膜中に存在し、最外表面層15において抗アレルゲン性を発揮する。
【0041】
最外表面層15の厚さは、5〜20μmが好ましい。最外表面層15の厚さが5μmより小さいと、塗膜の形成が不安定となり、塗膜強度が不十分となる他、抗アレルゲン性を十分に発揮することができない場合がある。特に、紫外線硬化型塗料を使用する場合には、酸素阻害を受けるため、塗膜が十分に硬化しない場合がある。一方、最外表面層15の厚さが20μmより大きいと、塗料に含有される抗アレルゲン剤は硬化反応に関与しないため、同一含有量であっても塗膜の形成への影響が大きくなり、塗膜硬度などの物性を十分に発揮することができない場合がある。
【0042】
中塗り層14は、機能層4において最外表面層15の直下に形成され、上塗り層16の耐傷性を向上させる厚膜層17を含む層である。厚膜層17は、厚さ50〜100μmの厚膜状とされ、しかも、2層以上の複数層から形成されるのではなく、塗料の一度の硬化処理による単層として形成される。このような単層の形成方法としては、塗料の一度の塗布の後に、活性エネルギーの供給や加熱などによって硬化処理して形成することが例示され、また、1回目の塗布の後に、活性エネルギーの供給や加熱などをしない状態で塗料を重ね塗りし、その後、1回目に塗布した塗料と重ね塗りした塗料を合わせて硬化処理して形成することなども例示される。
【0043】
そして、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板の製造方法では、厚膜層17は、その一部または全部を、硬化性樹脂組成物から構成される塗料をフローコーターによって塗布して形成させる。フローコーターによる塗布にともなって、厚膜層17の形成用の塗料は、木質基材3の表面部に形成された化粧溝7に溜まり、図1(a)(b)および図2に示したような塗料溜まり18が形成される。塗料溜まり18は、硬化後、硬化性樹脂組成物による充填層19を形成する。また、上記重ね塗りの場合、重ね塗りをフローコーターにより行い、1回目の塗布はロールコーターで行うことができる。ロールコーターで形成した塗膜の方が、フローコーターで形成した塗膜より下層との密着が優れる傾向があるため、厚膜層17の密着性が良好となり、好ましい。
【0044】
なお、図2には、中塗り層14が、厚膜層17のみにより構成されることを例示しているが、実際には、後述するように、厚膜層17のみばかりでなく、木質板1に要求される各種の機能を考慮して、厚膜層17の下側に1つまたは2つ以上の複数の層を形成することができる。
【0045】
下塗り層13は、化粧のための着色塗装や、機能層4の、素地である木質基材3との密着性の向上、割れの抑制などのための下塗り塗装などとして形成される層である。下塗り層13は、単層または2層以上の複数層によって形成することができる。複数層によって形成する場合、たとえば、着色層の上に、上記のとおりの機能を発揮させる別の層を積層して形成することができる。このような下塗り層13は、一般にロールコーターによって塗料が木質基材3の表面(突き板9の表面など)に塗布されて形成される。ロールコーターによる塗装の場合、木質基材3の表面部に形成された化粧溝7に下塗り層13の形成用の塗料が入り込むことは少ない。
【0046】
最外表面層15を形成する上塗り層16が含有する抗アレルゲン剤は、具体的には、アレルゲン物質を抑制する極性部位を化学構造に有している。このような抗アレルゲン剤としては、フェノール性水酸基を有する非水溶性高分子が挙げられる。フェノール性水酸基を有する非水溶性高分子は、そのフェノール性水酸基によりアレルゲン物質を吸着捕捉し、アレルゲン物質のエネルギー活性を不活化(抑制)する。また、非水溶性高分子であるため、水の存在下や高湿度条件におけるブリードや溶け出しを防止できる。
【0047】
フェノール性水酸基を有する非水溶性高分子としては、たとえば、ポリ(3,4,5−ヒドロキシ安息香酸ビニル)、ポリ(4−ビニルフェノール)などのポリビニルフェノール、ポリチロシン、ポリ(1−ビニル−5−ヒドロキシナフタレン)、ポリ(1−ビニル−6−ヒドロキシナフタレン)、ポリ(1−ビニル−5−ヒドロキシアントラセン)などが挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリビニルフェノールは、モノフェノールであるため着色レベルが低く、素地の外観を損ねることがなく、加工性が高く、市販品として容易に入手できる点から好ましく用いられる。
【0048】
また、抗アレルゲン剤には、アニオン系界面活性剤、水酸基を有する化合物または高分子、金属塩などを無機担体に担持して用いることもできる。
【0049】
抗アレルゲン剤としてのアニオン系界面活性剤としては、たとえば、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、臭化ヘキサデシルピリジニウム、臭化オクタデシルピリジニウム、臭化ドデシルピコリニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化ベンジルピリジニウム、塩化ブチルピリジニウム、アンモニウム塩、トリエタノールアミンやオクタデシルトリメチルアミンなどのアミン、アミン塩などが挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0050】
抗アレルゲン剤としての水酸基を有する化合物または高分子としては、たとえば、没食子酸、ポリビニルアルコール、ポリ(4−ビニルフェノール)、ポリチロシン、リグノフェノール誘導体、セルロース、スターチ、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、イヌリン、キトサン、クラスターデキストリン、グアーガム、タンニン酸、カテキン、キチン、キトサン、植物抽出物などが挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
抗アレルゲン剤としての金属塩としては、たとえば、銅、亜鉛、ジルコニウム、錫、鉛、アルミニウムなどの2〜4価の金属の硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩や、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、およびこれらを含む複塩などを挙げることができ、たとえば、硫酸亜鉛、明礬、酢酸鉛などを用いることができる。これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記した抗アレルゲン剤としてのアニオン系界面活性剤、水酸基を有する化合物または高分子、および金属塩としては、着色レベルが低く、素地の外観を損ねることがなく、市販され容易に入手可能であり、安全性が高いものが好ましく用いられる。そしてこれらの抗アレルゲン剤は、無機担体に担持して無機粒子として用いられる。
【0053】
無機担体としては、従来知られている無機担体を特に制限なく用いることができ、通常は表面積の大きいものが好ましい。具体的には、無機酸化物、すなわちAl、La、Ce、Si、Ti、Zr、Th、V、Nb、Ta、Crなどの酸化物や、これらを2種以上複合させたもの、たとえば、シリカ、シリカゲル、シリカアルミナ、シリカマグネシア、シリカチタニア、アルミナチタニア、ヒドロキシアパタイト、ゼオライト、燐酸ジルコニウム、多孔質セラミックスなどを用いることができ、あるいはモンモリロナイト、カオリンなどの粘土鉱物や珪藻土などの天然物を用いることもできる。中でも、物理的、化学的に長期間安定なものが好ましく、特にシリカ、シリカゲル、燐酸ジルコニウムなどが好ましい。
【0054】
そして無機担体としては、上記に例示したような無機担体に銀イオンまたは銅イオンを担持させたものが好ましく用いられる。
【0055】
無機担体に抗アレルゲン剤を担持させる方法は、特に制限はなく、たとえば、従来より知られている方法を用いることができる。たとえば、粉末状、ペレット状などに成型した無機担体に、所望の抗アレルゲン剤の水溶液を含浸させ、余分な水分を濾過または蒸発により除去し、乾燥した後、必要に応じて焼成することにより無機担体に抗アレルゲン剤を担持させることができる。あるいは、無機担体のヒドロゾルまたはスラリーに所望の抗アレルゲン剤の水溶液を加え、混練した後乾燥し、必要に応じて焼成することにより無機担体に抗アレルゲン剤を担持させることができる。
【0056】
無機担体への抗アレルゲン剤の担持量は、特に制限はなく、無機担体や抗アレルゲン剤の種類によって異なるが、余り多過ぎると無機担体の長期安定性が発揮されず、少な過ぎると抗アレルゲン剤の性能が発揮されない。無機担体への抗アレルゲン剤の担持量は、通常は無機担体に対して0.1〜80質量%、好ましくは1〜60質量%である。
【0057】
抗アレルゲン剤の含有量は、上記に例示したフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子、アニオン系界面活性剤、水酸基を有する化合物または高分子、および金属塩などのいずれの抗アレルゲン剤を用いた場合においても、硬化性樹脂組成物の全量に対して好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。当該含有量が少な過ぎると抗アレルゲン性が十分に発揮されない場合がある。一方、当該含有量が多過ぎると塗膜の耐久性が不十分となる場合がある。
【0058】
最外表面層15である上塗り層16、厚膜層17を含む中塗り層14、さらに下塗り層13の形成に用いることのできる塗料を構成する硬化性樹脂組成物としては、塗膜耐久性の点から架橋可能なものであることが好ましい。たとえば、熱硬化性樹脂組成物や活性エネルギー硬化型樹脂組成物などが挙げられる。具体的には、熱硬化性樹脂として、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂や、シリコーン樹脂などが挙げられる。また、活性エネルギー硬化型樹脂として、紫外線硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂などが挙げられる。
【0059】
このような硬化性樹脂組成物の中で活性エネルギー硬化型樹脂組成物は、短時間で硬化し、層形成が容易であるので、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板とその製造方法では好ましいものとして例示される。
【0060】
活性エネルギー硬化型樹脂組成物は、従来公知のものを含め各種のものが候補となり、いわゆる反応性オリゴマーまたは反応性モノマーの少なくとも1種を含有するものであり、必要に応じて重合開始剤や溶剤などが添加される。
【0061】
反応性オリゴマーは、硬化性樹脂組成物の耐汚染性や耐擦傷性などの塗膜強度を向上させるのに有効なものであり、1分子中に2個以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する光硬化性(メタ)アクリレートモノマーを重合して得られる樹脂である。たとえば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アクリル酸エステル共重合体の側鎖にアクリロイル基またはメタクリロイル基を導入した共重合系(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、フッ素含有オレフィンから誘導されるユニット、重合性不飽和基含有シリコーンから誘導されるユニット、または水酸基含有不飽和エーテルから誘導されるユニットを含有する共重合体なども挙げられる。これらは、単独で、または2種類以上の併用として用いられる。好ましくは、1分子中に3個以上のアクリロイル基を有するウレタンアクリレートまたはエステル変性されたエポキシアクリレートが挙げられる。
【0062】
このような反応性オリゴマーの配合量は、たとえば、硬化性樹脂組成物の全体100質量%に対して10〜70質量%とすることができ、好ましくは、20〜50質量%とすることができる。配合量が10質量%未満の場合、抗アレルゲン性を有する硬化性樹脂組成物の塗膜強度が十分なものとならない場合があり、70質量%を超えると、塗膜が硬くなりすぎて脆くなる場合がある。
【0063】
反応性モノマーには、反応性希釈剤や架橋剤として単独または2種類以上の併用として用いられる。たとえば、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルホルムアルデヒド、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソボニルアクリレート、3−メトキシジブチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリレート、2(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(ヘキサ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどの各種のモノマーが挙げられる。
【0064】
また、1〜2個の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族炭化水素モノマーは、抗アレルゲン性を低下させることなく塗料の低粘度化を実現することができる。
【0065】
一般的に、抗アレルゲン剤を担持した無機化合物は、水素結合能力の高い官能基を持つため、カルボニル基やエーテル基などを有するポリマーとの間に相互作用が働く。しかし、アレルゲン物質を不活性化する活性点である水素結合能力の高い官能基とポリマーとの間に水素結合による相互力が働くと、抗アレルゲン性が十分に発揮しにくくなる場合がある。そこで、抗アレルゲン剤を担持した無機化合物を用いる場合には、この無機化合物を分散させることのできる上記脂肪族炭化水素モノマーを用い、抗アレルゲン性の低下を抑えつつ、塗料の低粘度化を実現し、フローコーターによる塗布がスムーズに行われるようにすることができる。
【0066】
このような脂肪族炭化水素モノマーとしては、たとえば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートなどの各種のモノマーが挙げられる。これらは単独で、または2種類以上の併用として用いられる。反応性モノマーの配合量は、硬化性樹脂組成物の樹脂固形分量に対して、3〜45質量%とすることができ、好ましくは、5〜40質量%とすることができる。
【0067】
硬化性樹脂組成物に必要に応じて添加される重合開始剤としては、従来公知のものを含め各種のものが候補となり、水素引き抜き型または分子内開裂型のものを用いることができる。水素引き抜き型としては、たとえば、ベンゾフェノン/アミン系、ミヒラーケトン/ベンゾフェン系、チオキサントン/アミン系などが挙げられる。分子内開裂型としては、たとえば、ベンゾイン型、アセトフェノン型、ベンゾフェノン型、チオキサントン型、アシルフォスフィンオキサイド型などが挙げられる。中でも、反応性が高い、アセトフェノン型の2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、長波長まで吸収端が伸びているアシルフォスフィンオキサイド型のモノアシルフォスフィンオキサイド、またはビスアシルフォスフィンオキサイドは、好ましいものとして挙げられる。
【0068】
このような重合開始剤の配合量は、硬化性樹脂組成物の樹脂固形分量に対して、1〜10質量%とすることができ、好ましくは、3〜6質量%とすることができる。
【0069】
この他、硬化性樹脂組成物には、図2に示した上塗り層16および中塗り層14としての塗膜形成が可能な限りにおいて、各種の添加剤の添加が可能である。そのような添加剤として、たとえば、ワックス、抗菌剤、防黴剤、非反応性希釈剤、重合禁止剤、艶消し剤、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0070】
さらに、硬化性樹脂組成物は、有機溶剤を含有することもできる。含有可能な有機溶剤としては、たとえば、アルコール、ケトン、エステル類、アミンなどが挙げられる。これらの中でもアルコール、ケトン、エステル類などの電子供与性の高い溶剤は、より溶解しやすく好適なものとして例示される。
【0071】
以上、実施形態において示したように、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板1は、木質基材3の表面に配設された機能層4において、抗アレルゲン剤を含有する最外表面層15(上塗り層16)の直下に厚さ50〜100μmの単層の厚膜層17が形成されているため、この厚膜層17によって、最外表面層15に傷が付きにくくなり、美観保持などが可能となる。最外表面層15にワックスを塗布する必要がなくなる。したがって、抗アレルゲン性を有する木質板1は、長期間にわたって抗アレルゲン性を持続して発揮することができる。
【0072】
また、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板1では、厚膜層17が、硬化性樹脂組成物から構成される塗料の塗膜として形成されているため、厚膜層17は、比較的容易に形成され、緻密で良好な耐久性を有する。
【0073】
さらに、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板1では、硬化性樹脂組成物が活性エネルギー硬化型樹脂組成物であるため、短時間で容易に塗膜が形成され、厚膜層17の形成がより容易となる。
【0074】
さらにまた、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板1では、木質基材3の表面部に形成された化粧溝7に塗料が溜まって硬化性樹脂組成物による充填層19が形成されているので、アレルゲン物質が化粧溝7に堆積するのが抑制される。化粧溝7の形成にともなう抗アレルゲン性の低下を抑制することができ、しかもそれを容易に実現することができる。
【0075】
他方、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板1の製造方法では、厚膜層17を、硬化性樹脂組成物から構成される塗料をフローコーターによって塗布して形成させるので、厚膜層17は、厚さ50〜100μmの厚膜状に容易に形成される。しかも、厚膜層17は、単層として形成されるので、多層とする場合の層間剥離などのおそれがなく、品質の良好な厚膜層が得られ、最外表面層15の耐久性を十分に確保することができる。また、厚膜層17の表面に外観上支障をきたさない程度の凹凸が形成され、最外表面層15にたとえ傷が付いたとしても、傷が目立ちにくく、また、その凹凸によって木質板1の表面が滑りにくくなり、また、べたつきにくくなる。
【0076】
また、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板1の製造方法では、短時間で容易に塗膜を形成することができ、厚膜層17の形成を容易にすることができる。
【0077】
さらに、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板1の製造方法では、アレルゲン物質が化粧溝7に堆積するのを抑制することができる。化粧溝7の形成にともなう抗アレルゲン性の低下を抑制することができ、しかもそれを容易に実現することができる。
【0078】
なお、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板とその製造方法においては、機能層は、必ずしも塗膜のみによって構成されるものではなく、その一部は、たとえば樹脂シートなどの同様の機能を発揮する他のものに置換することもできる。機能層において所期の機能が発揮される限り、機能層の構成は多種多様のものが考えられる。一方、機能層において厚膜層は、上記のとおり、抗アレルゲン剤を含有している最外表面層の直下に形成され、膜厚50〜100μmの単層とする。
【0079】
以下、本発明の抗アレルゲン性を有する木質板とその製造方法の実施例を示す。本発明が、以下の実施例に限定されることはないことは、上記の説明からも明らかである。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
以下の工程1〜5にしたがって木質板である床材を作製した。
[1] 厚さ11.8mmのラワン合板に厚さ0.2mmのビーチ材の単板を接着し、V溝加工を行い、化粧溝を形成し、床用の木質基材を作製した。
[2] 上記工程1で作製した木質基材に水性着色剤を塗布した後、80℃で1分間乾燥し、次いで、紫外線硬化型のウレタンアクリレート系下塗り塗料をスポンジロールで塗布した。金属リバース回転ロールで塗料を掻き取って塗布量を合計2g/尺(21.8g/m)に調整した後、さらに、ゴムロールを用いて1g/尺で同じ塗料を塗布し、次いで、積算照度100mJ/cmで紫外線を照射して硬化させ、下塗り層を形成させた。
[3] 上記工程2の後、1回目の中塗り塗装として、減摩材であるホワイトアルミナを30部配合した紫外線硬化型のウレタンアクリレート系中塗り塗料を、ゴムロールを2回通して合計2g/尺で塗布し、積算照度200mJ/cmで紫外線を照射して硬化させた後、#320サンドペーパーで表面を研磨した。
[4] 上記工程3の後、2回目の中塗り塗装として、紫外線硬化型のウレタンアクリレート系中塗り塗料をスポンジロールとゴムロールを用いて合計2g/尺で塗布した。そして、3回目の中塗り塗装として、フローコーターを用いて2回目の中塗り塗装に用いた塗料と同一の紫外線硬化型のウレタンアクリレート系中塗り塗料を7g/尺で塗布した。この後、積算照度100mJ/cmで紫外線を照射して硬化させ、厚膜層とともに中塗り層を形成させた。
【0081】
なお、3回目の中塗り塗装の際に、木質基材の表面部に形成された化粧溝には塗料が溜まり、硬化後、充填層が形成された。
[5] 上記工程4の後、ポリビニルフェノール系の抗アレルゲン剤が10%配合された紫外線硬化型のウレタンアクリレート系上塗り塗料を、ゴムロールを用いて1g/尺で塗布し、積算照度350mJ/cmで紫外線を照射して硬化させ、最外表面層である上塗り層を形成させた。
【0082】
このようにして、図2に示した木質板1とほぼ同様な構成を有する床材が作製され、この床材において厚膜層を形成する2回目と3回目の中塗り塗装による塗膜の膜厚は90μmであった。また、最外表面層の膜厚は10μmであった。
(実施例2)
実施例1の工程4の2回目の中塗り塗装において、スポンジロールおよびゴムロールによる中塗り塗料の塗布の合計塗布量を3g/尺にした以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0083】
作製した床材の厚膜層を形成する2回目と3回目の中塗り塗装による塗膜の膜厚は100μmであった。また、最外表面層の膜厚は10μmであった。
(実施例3)
実施例1の工程3の3回目の中塗り塗装において、フローコーターによる中塗り塗料の塗布量を5g/尺にした以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0084】
作製した床材の厚膜層を形成する2回目と3回目の中塗り塗装による塗膜の膜厚は70μmであった。また、最外表面層の膜厚は10μmであった。
(実施例4)
実施例1の工程4の2回目および3回目の中塗り塗装において、中塗り塗料を紫外線硬化型エポキシアクリレート系塗料に替えた以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。図2に示した木質板1とほぼ同様な構成を有する床材が作製され、この床材において厚膜層を形成する2回目と3回目の中塗り塗装による塗膜の膜厚は90μmであった。また、最外表面層の膜厚は10μmであった。
(比較例1)
実施例1において、工程4である2回目および3回目の中塗り塗料を省略して床材を作製した。上塗り層は、厚膜層のない膜厚20μmの中塗り層の上に形成され、また、化粧溝には塗膜はほとんど形成されなかった。
(比較例2)
実施例1と工程1〜3までは共通する一方で、工程4において、紫外線硬化型のウレタンアクリレート系中塗り塗料を、フローコーターを用いた3回目の中塗り塗装と、その後の紫外線の照射は行わず、スポンジロールとゴムロールを用いた2回目の中塗り塗装のみを行った。
【0085】
また、工程5において、ポリビニルフェノール系の抗アレルゲン剤が10%配合された紫外線硬化型のウレタンアクリレート系上塗り塗料を、ゴムロールに替えてフローコーターを用い、7g/尺で塗布した後、積算照度350mJ/cmで紫外線を照射して、2回目の中塗り塗装による塗膜と合わせて硬化させ、最外表面層を形成させた。同一系の塗料であり、中塗り塗装後硬化せずに上塗り塗料を塗布し、塗膜を硬化させたので、2回目の中塗り塗装による中塗り層は上塗り層とともに、単層の最外表面層を形成する。最外表面層の膜厚は90μmであった。
【0086】
図4は、作製された床材(木質板)の化粧溝およびその周辺を示した要部断面図である。図4図中において図2に示した部分と共通する部分には同一の符号を付している。
【0087】
機能層4に形成された抗アレルゲン剤を含有している最外表面層15の直下に形成する塗膜の膜厚は20μmであった。この塗膜には厚膜層を形成していない。また、化粧溝7には上塗り層16を形成する塗料の塗料溜まり18が形成され、硬化層20が形成された。
(比較例3)
実施例1の工程4において、2回目の中塗り塗装として、ゴムロールを2回通して合計3g/尺で中塗り塗料を塗布し、積算照度200mJ/cmで紫外線を照射して硬化させ、また、3回目の中塗り塗装は省略した以外は、実施例1と同様にして床材を作製した。
【0088】
以上7通りの床材の製造工程を表1にまとめた。また、作製した7つの床材について、外観、耐傷性および機能層の形成についての経済性を比較し、評価した。耐傷性は、最外表面層の硬度をJIS K5400に規定する標準方法にしたがって測定して評価した。結果は、表2に示すとおりである。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表2に示したように、実施例1〜4の床材は、抗アレルゲン性を発揮する最外表面層の鉛筆硬度が「5H」とワックスの塗布が不要な程度に優れたものであり、また、外観および経済性についても十分満足することのできるものであった。
【0092】
一方、比較例1の床材は、機能層に厚膜層が形成されていないため、最外表面層の鉛筆硬度が「H」と低くなった。
【0093】
比較例2の床材は、最外表面層の鉛筆硬度が「3H」であり、抗アレルゲン性の持続的な発揮のためには不十分であり、しかも、塗膜が黄赤色を帯び、外観不良となった。最外表面層の鉛筆硬度が低下し、耐傷性が不十分となったのは、最外表面層の下の層を形成する塗膜の膜厚が、本発明において規定する厚膜層の厚さの下限である50μmを下回っているからである。
【0094】
また、比較例2の床材では、最外表面層は膜厚90μmの厚膜であるが、フローコーターにより塗布した上塗り塗料に、硬化に関与しない抗アレルゲン剤が10%含まれているため、塗膜の硬度が低下したとも考えられる。塗膜の膜厚が10μm程度であれば、抗アレルゲン剤を10%含有していても硬度の低下は抑制されるが、塗布量7g/尺に相当する膜厚約70μm程度の厚膜となると、硬度への膜厚の影響は大きい。
【0095】
さらに、一般に、抗アレルゲン剤がフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子の場合、黄赤色を呈する。この抗アレルゲン剤を含有する塗料をフローコーターを用いて塗布すると、塗布量が7g/尺とロール塗装の時に比べ多くなるため、比較例2の床材において塗膜が黄赤色を帯びたと考えられる。
【0096】
さらにまた、機能層の形成についての経済性は、抗アレルゲン剤の量に大きく反映される。すなわち、比較例2の床材の場合、抗アレルゲン剤を含有する塗料をフローコーターを用いて塗布したために、塗布量が多くなり、その中に含有している抗アレルゲン剤の総量が多くなって経済性が低下したのである。
【0097】
比較例3の床材は、最外表面層の鉛筆硬度が「2H」であり、抗アレルゲン性の持続的な発揮のためには不十分であった。最外表面層の鉛筆硬度が低下し、耐傷性が不十分となったのは、比較例1の床材と同様に、最外表面層の下の層を形成する塗膜の膜厚が、本発明において規定する厚膜層の厚さの下限である50μmを下回っているからである。
【符号の説明】
【0098】
1 木質板
3 木質基材
4 機能層
7 化粧溝
15 最外表面層
17 厚膜層
19 充填層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の木質基材と、この木質基材の表面に配設され、2層以上の複数層から形成された機能層とを備え、機能層の最も外側に位置する最外表面層が抗アレルゲン剤を含有している抗アレルゲン性を有する木質板であって、前記機能層には、前記最外表面層の直下に厚さ50〜100μmの厚膜層が形成され、この厚膜層は単層であることを特徴とする抗アレルゲン性を有する木質板。
【請求項2】
厚膜層は、硬化性樹脂組成物から構成される塗料の塗膜として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の抗アレルゲン性を有する木質板。
【請求項3】
前記硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー硬化型樹脂組成物であることを特徴とする請求項2に記載の抗アレルゲン性を有する木質板。
【請求項4】
前記木質基材の表面部に化粧溝が形成され、この化粧溝には、前記塗料が溜まって前記硬化性樹脂組成物による充填層が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の抗アレルゲン性を有する木質板。
【請求項5】
請求項1に記載の抗アレルゲン性を有する木質板の製造方法であって、前記厚膜層の一部または全部を、硬化性樹脂組成物から構成される塗料をフローコーターによって塗布して形成させることを特徴とする抗アレルゲン性を有する木質板の製造方法。
【請求項6】
前記硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー硬化型樹脂組成物であることを特徴とする請求項5に記載の抗アレルゲン性を有する木質板の製造方法。
【請求項7】
前記木質基材の表面部に形成された化粧溝に前記塗料が溜まり、前記硬化性樹脂組成物の充填層が形成されることを特徴とする請求項5または6に記載の抗アレルゲン性を有する木質板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−25650(P2011−25650A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195388(P2009−195388)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】