説明

抗アレルゲン性を有する繊維製品およびアレルゲン低減加工剤

【課題】高いアレルゲン低減効果を有するとともに、白化及びチョークマークが生じにくく、摩擦耐久性に優れたポリエステル繊維製品を提供する。
【解決手段】ポリエステル繊維製品に、バインダーを介して、抗アレルゲン性を有するジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物が、1〜6g/m:0.05〜1.5g/mの割合で付着されていること、および、前記バインダーがアクリル系樹脂であって、0.05〜0.25g/mの量で付着されてことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スギ、ヒノキ、ブタクサなどの花粉やダニに起因するアレルゲン物質を不活性化する効果(抗アレルゲン性)を有する繊維製品に関する。より詳しくは、抗アレルゲン性を有し、白化、チョークマーク、キワつき等が生じにくく、摩擦耐久性に優れたポリエステル繊維製品、および当該繊維製品を製造するための加工剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スギ、ヒノキなどの花粉やダニに起因するアレルゲン物質を不活性化する効果を有する加工剤として、(1)カテキン(エビ、茶の抽出物)、オリーブ抽出物、コーヒー豆抽出物、ハーブ抽出物などの天然成分の抗アレルゲン剤、(2)カルシウム系、アルミニウム系、亜鉛系、ジルコニウム系、ランタン系などの無機系の抗アレルゲン剤、(3)ポリフェノール系、アミノ酸系、フタロシアニン系などの有機系の抗アレルゲン剤が知られている。
したがって、布帛等の繊維製品に抗アレルゲン性を付与したい場合、これらの抗アレルゲン剤を布帛に付着させることが考えられるが、これらの抗アレルゲン剤は、いずれもそのまま布帛表面に処理した場合、白化およびチョークマーク、キワつきを発生することがある。
そこで、このような問題を解決するために、バインダー(樹脂)を使用して、薬剤を樹脂固定することが考えられるが、樹脂の乳化分散剤の量や種類によって、難燃性が阻害されたり、逆に、白化およびチョークマーク、キワつきが発生しやすく成るなどの問題を生ずることがある。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2などには、花粉によるアレルギーの発生を抑制するための繊維加工剤として、酸化ジルコニウムを使用することが開示されているが、酸化ジルコニウムでは、ダニアレルギーに対する十分な抗アレルギー性を得にくく、また、加工布帛に対して白化やキワつきなどの問題を生じやすいものであった。更に、ダニや花粉などのアレルゲン物質を吸着補集するための抗アレルゲン剤として、特許文献3には、フェノール性水酸基を有する非水溶性高分子、ポリ−4−ビニルフェノールが開示されているが、この使用では熱及び光による変色などに問題があった。
【0004】
本件出願人らは、上記問題を解決するために、繊維製品に対するアレルゲン低減加工剤に係る発明を完成し、特許出願を行っている(特願2011−049822号)。当該発明によれば、白化、チョークマーク等を抑制しながら、アレルゲン物質を十分に不活性化することができる。しかしながら、前記特許出願の実施例に記載した処方を使用して布帛を加工した場合、布帛の摩擦堅牢度(摩擦耐久性)が十分とは言えないという問題があった。摩擦堅牢度が低い布帛を、自動車のシート布のように、人の衣服などで頻繁に摩擦されるものに使用した場合、前記布帛から衣服などへ色移りするおそれがある。したがって、特に前記布帛が、濃色の布帛や濃色の樹脂プリント(模様)を施した布帛である場合、摩擦が生じやすい用途に使用し辛いという問題があった。そのため、白化等が生じにくいだけでなく、高い摩擦堅牢度を有する抗アレルゲン性繊維製品が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−13543号公報
【特許文献2】特開2006−57212号公報
【特許文献3】特開2004−290922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上述した問題点を解決することであり、スギ、ヒノキ、ブタクサなどの花粉やダニに起因するアレルゲン物質を十分に不活性化する効果を有するとともに、白化、チョークマークおよびキワつきが生じにくく、優れた摩擦堅牢度を有する繊維製品を提供すること、および前記繊維製品を製造するためのアレルゲン低減加工剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、アレルゲン抑制効果のあるジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物を併用することで、ポリエステル繊維製品に、白化、チョークマークおよびキワつきを抑制しながら、ダニアレルゲンや、スギ、ヒノキ、ブタクサなどの花粉アレルゲンを十分に不活性化する効果を付与することに成功した。また、前記化合物を繊維製品に固定するためのバインダーとして、アクリル系樹脂を使用することにより、摩擦耐久性を向上させることに成功した。
【0008】
すなわち、本発明は、抗アレルゲン性を有する繊維製品であって、ポリエステル繊維製品に、バインダーを介して、抗アレルゲン性を有するジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物が、1〜6g/m:0.05〜1.5g/mの割合で付着されていること、および、前記バインダーがアクリル系樹脂であって、0.05〜0.25g/mの量で付着されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記繊維製品を製造するためのアレルゲン低減加工剤であって、前記ジルコニウム系化合物と、前記スルホニル基を有する芳香族化合物と、前記アクリル系樹脂を、1〜6:0.05〜1.5:0.05〜0.25の重量比率で併含する水性分散体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る繊維製品は、ジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物が、1〜6g/m:0.05〜1.5g/mの割合で付着されていることによって、様々な花粉アレルゲンやダニアレルゲンを十分に不活性化することができるとともに、白化、キワつき、チョークマーク等が生じにくい。
さらに、前記化合物を繊維製品に固定するバインダーとして、アクリル系バインダーが使用されていること、並びに、その付着量が0.05〜0.25g/mの範囲に調節されていることにより、高い摩擦堅牢度を有する。
【0011】
また、本発明の加工剤によれば、布帛などのポリエステル繊維製品に、白化、チョークマーク、キワつきを抑制しながら、花粉やダニ等のアレルゲン物質を十分に不活性化する効果を付与することができ、且つ、優れた摩擦堅牢度を有する繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、ジルコニウム系化合物としては、一般にアレルゲン抑制剤として公知のものがいずれも使用できる。例えば、酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、塩酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等がいずれも使用できるが、酸化ジルコニウム又はリン酸ジルコニウムの使用が好ましく、特にリン酸ジルコニウムの使用が好適である。
【0013】
また、スルホニル基を有する芳香族化合物としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリルスルホン、ポリフェニルスルホン、芳香族スルホニウム塩を含む重合体などがいずれも使用できる。
【0014】
本発明に係る繊維製品は、抗アレルゲン性を有するジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物(以下、両者を抗アレルゲン剤とも称する)が、1〜6g/m:0.05〜1.5g/mの割合で付着されていることで、ダニや花粉に対して優れた抗アレルゲン効果を発揮できるとともに、キワ付き、白化、チョークマーク等が生じにくい。
ジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物のより好ましい付着割合は、1.0〜3.5g/m:0.1〜0.4g/m程度であり、特に好ましい付着割合は、1.0〜3.0g/m:0.12〜0.33g/mである。
【0015】
また、本発明に係る繊維製品では、前記抗アレルゲン剤が繊維製品に付着され易い様に、バインダーとして、アクリル系樹脂が使用される。繊維製品に対するアクリル系樹脂の付着量は0.05〜0.25g/mの範囲に調節する必要がある。本発明において、アクリル系樹脂の付着量は非常に重要であり、付着量が0.25g/mを超える場合は、所望の摩擦耐久性を得ることができず、且つ繊維製品の難燃性が低下する。他方、アクリル系樹脂の付着量が0.05g/m未満の場合は、抗アレルゲン剤を繊維製品に十分に固定することができない。
繊維製品に対するより好ましいアクリル系樹脂の付着量は、0.07〜0.22g/mであり、特に好ましい付着量は0.09〜0.2g/mである。
【0016】
前記アクリル系樹脂としては、通常の加工用の樹脂がいずれも使用できるが、特に、ブチルアクリレートおよび/またはエチルアクリレートを70%以上含むものが、繊維製品表面に固定化させたときの繊維製品の柔らかさの観点から好ましく、また、前記アクリル系樹脂は、架橋性モノマーとして、エポキシド基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基もしくはアミド基などの官能基を有するアクリル系モノマー(n−ブトキシメチロールアクリルアミド、メタクリル酸グリシジル、ジアセトンアクリレートアクリルアミド、n−メチロールアクリルアミドなど)を1〜10%含むことが、アクリル樹脂の皮膜強度の強さの点から好ましい。前記%は、アクリル系樹脂を構成するモノマーの成分比に基づく%を意味する。
特に、前記アクリル系樹脂は、ガラス転移点が−30℃〜−5℃のものが好ましい。これは、繊維製品表面に固定化させたときに、繊維製品の柔らかさを保つことができるためである。ガラス転移点は、示差走査型熱量分析(DSC)により測定することができる。
【0017】
なお、前記ジルコニウム系化合物と前記スルホニル基を有する芳香族化合物はいずれも、粒状であるのが好ましく、例えば平均粒子径0.3〜2.0μmの粒状物であることが好ましい。
これらの抗アレルゲン剤を繊維製品に付着させるためには、抗アレルゲン剤とアクリル系樹脂を含む水性分散体(水性ペースト又は水性分散液)からなる加工剤を調製し、繊維製品を処理することが好ましい。なお、平均粒子径が0.3μm未満では、再凝縮し、安定したペースト又は分散液に調製し難く、2.0μmを超えると、白化を効果的に防止できる加工剤を得難いものとなる。上記平均粒子径は、散乱式粒子径分布測定装置(例えば、散乱式粒子径分布測定装置LA-950[堀場製作所製])を用いて測定することができる。
【0018】
前記加工剤(水性分散体)において、前記ジルコニウム系化合物と、前記スルホニル基を有する芳香族化合物と、前記アクリル系樹脂の混合割合は、重量比率で1〜6:0.05〜1.5:0.05〜0.25であることが好ましい。
なお、本発明の加工剤は、繊維製品にパディングまたはディッピング、コーティング等の方法で適用し、加熱乾燥すればよいが、ディッピング処理する場合の加工剤における上記ジルコニウム系化合物と芳香族化合物の合計割合は0.4〜5.5重量%であるのが好ましく、1〜5重量%であるのがより好ましく、特に1.5〜4重量%程度であるのが好ましい。また、加工剤中のアクリル樹脂の量は0.01〜0.50重量%程度であるのが好まく、0.03〜0.30重量%程度であるのがより好ましい。なお、この濃度は実際に処理を行う際の濃度(最終濃度)である。本発明に係る加工剤は、濃縮状態のものを製造しておき、使用する際、上記濃度に希釈して用いてもよい。例えば、上記濃度の2〜70倍程度の濃縮液を製造しておき、使用時に水で2〜70倍程度に希釈して使用することができる。
【0019】
本発明の加工剤は、例えば、布帛に、ディッピング処理した後、120〜170℃で乾燥することが好ましい。120℃以上で乾燥することにより、アクリル樹脂が皮膜を形成しやすくなるため、摩擦堅牢度の悪化を効果的に防止でき、170℃以下、特に150℃以下で乾燥することにより、繊維製品が染料で染まっている場合でも、アクリル樹脂による繊維製品からの染料の引き出しによる摩擦堅牢度の悪化、白化、キワつきなどが効果的に防止でき、しかも抗ダニアレルゲン性及び抗花粉アレルゲン性共に非常に優れた効果を付与できる。
【0020】
次に、試験例および実施例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に限られるものではない。
【0021】
試験例および実施例における性能評価における測定法は下記の通りである。
<アレルゲン不活性率測定法>
A法:抗アレルゲン剤の性能評価法(ダニ又はスギ)
ダニ又はスギ花粉アレルゲン懸濁液1mlに評価試料(10%水分散品)150μlを滴下し、1時間経過後、pHを中性に調整した液を評価液とし、この液中のダニ又はスギ花粉アレルゲン量をELISA法により測定し、蒸留水+アレルゲン懸濁液のアレルゲン量と比較することでアレルゲン低減率を求めた(下記式参照)。
(懸濁液+蒸留水のアレルゲン量−評価液のアレルゲン量)÷(懸濁液+蒸留水のアレルゲン量)×100
*初期アレルゲン量:ダニ約370ng、スギ花粉約10ng
なお、記載するダニアレルゲン量とは、Derf II 量から換算した総タンパク量を示す。スギ花粉アレルゲン量としてはCryj I 量を示す。
【0022】
B法:抗アレルゲン加工品の不活性率測定方法(ブタクサ)
試験管に5cm×5cmの評価用サンプルを投入し、ブタクサアレルゲン70ng/mlに調整した溶液を、1.0ml滴下し、37℃温度条件下で24時間養生させた。その液中のアレルゲン量をELISA法により測定し、投入したアレルゲンに対し、養生後に測定したアレルゲン量から低減したアレルゲン量を算出し、これを不活性率として算出する。
【0023】
C法:抗アレルゲン加工品の不活性率測定方法(ダニまたはスギ)
試験管に5cm×2.5cmの評価用サンプルを投入し、ダニアレルゲン47ng/ml又はスギアレルゲン6.7ng/mlに調整した溶液を、2.25ml滴下し、17時間養生させた。その液中のアレルゲン量をELISA法により測定し、投入したアレルゲンに対し、養生後に測定したアレルゲン量から低減したアレルゲン量を算出し、これを不活性率として算出する。
なお、ダニアレルゲン量とは、Derf II 量から換算した総タンパク量、スギ花粉アレルゲン量としてはCryj I 量を示す。
【0024】
D法:抗アレルゲン加工品の不活性率測定方法(ヒノキ)
ポリ容器に5cm×4cmの評価用サンプルとイオン交換水を入れ、27℃で2時間振とう洗浄後、50℃で一晩乾燥させた後、試験管に評価用サンプルを投入し、ヒノキ花粉10mg/mlに調整した溶液を1.0ml滴下し、1時間接触後、遠心分離により遠沈し、上澄み液をELISA法により測定し、投入したアレルゲンに対し、養生後に測定したアレルゲン量から低減したアレルゲン量を算出し、これを不活性率として算出する。
なお、ヒノキは花粉を使用し、別途花粉に含まれるアレルゲン量の測定結果を利用するものとする。
【0025】
E法:抗アレルゲン加工品の不活性率測定方法(ダニまたはスギ)
試験管に5cm×5cmの評価用サンプルを投入し、ダニアレルゲン33ng/ml又はスギ花粉アレルゲン12ng/mlに調整した溶液を1ml投入し、ダニアレルゲンは8時間、スギ花粉アレルゲンは24時間養生させた。その溶液中のアレルゲン量をELISA法により測定し、下記の式により不活化率を算出した。
不活化率=(未加工布のアレルゲン濃度−加工品のアレルゲン濃度)÷未加工布のアレルゲン濃度×100
なお、ダニアレルゲン量とは、Derf II量から換算した総タンパク量、スギ花粉アレルゲン量としてはCryj Iを示す。
【0026】
F法:抗アレルゲン加工品のアレルゲン擦り付け後の不活化率測定方法(ダニまたはスギ)
13cm×13cmの評価用サンプルの上にダニアレルゲン約85ng/mlを含むゴミ塵、又は、スギ花粉アレルゲン約772ng/mlを含むスギ花粉を撒き、ユニバーサル型摩耗試験機(島津製作所製)にて80回摩耗後の評価用サンプルのアレルゲン量をELISA法により測定し、下記の式により不活化率を算出した。
不活化率=(未加工布のアレルゲン濃度−加工品のアレルゲン濃度)÷未加工布のアレルゲン濃度×100
摩耗子としてはポリエステル白布(JIS0803)を使用した。
なお、ダニアレルゲン量とは、Derf II量から換算した総タンパク量、スギ花粉アレルゲン量としてはCryj Iを示す。
【0027】
難燃性能
燃焼試験(JIS D1201,ISO 3795)により、燃焼速度80mm/分以下を良好と判断した。
【0028】
キワつき試験
加工布表面に精製水5mlを滴下後、24時間自然乾燥後に、キワつき(色変化)の有無を級判定した。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0029】
白化確認試験
黒色に染色したポリエステル布帛(ブランク)を用い、各レサイプで抗アレルゲン加工を施したサンプルについて、ブランクとの色の変化(白さ)を級判定した。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0030】
チョークマーク確認試験
黒色に染色したポリエステル布帛(ブランク)を用い、各レサイプで抗アレルゲン加工を施したサンプルに対し、表面を爪で軽くこすり、傷による白化の程度を確認し、級判定した。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0031】
耐熱性能
80℃×200時間処理後の変色を確認
【0032】
耐光性能
キセノン80MJの評価
【0033】
摩擦堅牢度
JIS L0849に準じ、水に変えてJIS L0848に規定するアルカリ性人工汗液を使用し、汚染用グレースケール(JIS L0805に準拠)を用いて、級判定した。
【0034】
[試験例1]抗アレルゲン剤の選定
(1)表1の各薬剤1.5gを水と混合し、水分散体1000mlを作液し、薬剤が水に完全に溶解したものは耐水溶解性×とした。
(2)耐水溶解性が△(水に溶け難い)または○(水に溶けない)である薬剤の水分散体にA3サイズのポリエステルニット(ポリエステル100%、目付360g/m)を浸漬し、次いで、ロール間圧力3.0kgf/cmのマングルで絞り(絞り率65%)、150℃×3分間の乾燥を行った。
また、耐水溶解性が×である薬剤のいくつかについても、同じ処理を行った。
(3)このようにして得た加工布帛について、ダニアレルゲン量とスギ花粉アレルゲン量の測定[抗アレルゲン剤の性能評価法(A法)による]、耐熱性能及び耐光性能の測定をした。
これらの試験結果を、表1に示す。
なお、各実施例において使用したスルホニル基を有する芳香族化合物は、芳香族スルホニウム塩を含む重合体(積水化学工業社製のSSPA−WN)である。
【0035】
【表1】

【0036】
[試験例2」
表2に示すように、α−リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物の併用割合を変化させて、水分散体1000mlに作液した。ポリエステル系樹脂は、ポリエステル系樹脂を25重量%、分散剤(n−ブチルセロソルブ)5重量%を含む液剤の形で添加した。使用した剤は以下の通りである。
リン酸ジルコニウム:東亜合成社製のアレリムーブZK
スルホニル基を有する芳香族化合物:積水化学工業社製のSSPA
ポリエステル系樹脂:互応化学工業社製のプラスコートZ
【0037】
この分散体にA3サイズのポリエステルニット(ポリエステル100%、目付360g/m)を浸漬し、次いで、ロール間圧力3.0kgf/cmのマングルで絞り(絞り率65%)、150℃×3分間の乾燥を行った。
加工布帛の、キワつき、白化、チョークマーク、難燃性、抗ダニアレルゲン性及び抗スギ花粉アレルゲン性の測定をし、総合評価(○、△、×)をした。その結果を、表2に示す。
なお、表2において、リン酸ジルコニウム、スルホニル基を有する芳香族化合物、ポリエステル系樹脂の量は、加工布帛に対する付着量(g/m)で示しているが、加工剤(水性分散体)としては、付着量1g/m=0.426重量%で換算して得られる濃度の加工剤を使用した。
【0038】
【表2】

表2に示されるように、リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物の併用割合が1.0−6.0:0.05−1.5であるNo.3−5、8−9、11、15−16、19−21、25−27では、実用性ある抗アレルゲン性布帛が得られる。
しかし、スルホニル基を有する芳香族化合物を多く使用しても、リン酸ジルコニウムを使用しなかった場合(No.18や24)には、キワつき、白化、チョークマーク、難燃性全てに良好な結果が得られるが、併用する樹脂(バインダー)で薬剤が被覆されることにより、抗ダニアレルゲン性が非常に悪く、実用性ある結果を得ることができなかった。
逆に、リン酸ジルコニウムを使用することにより、抗ダニアレルゲン性は非常に良好となるが、スルホニル基を有する芳香族化合物を使用しない場合(No.1や2)には、キワつきや白化、チョークマークを避けることができなかった。
【0039】
[試験例3]
表3に示すように、α−リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物およびポリエステル系樹脂を併用し、水分散体1000mlに作液した。ポリエステル系樹脂は、ポリエステル系樹脂を25重量%、分散剤(t−ブチルセロソルブ)を10重量%含む液剤の形で添加した。この分散体にA3サイズのポリエステルニット(ポリエステル100%、目付360g/m)を浸漬し、次いで、ロール間圧力3.0kgf/cmのマングルで絞り(絞り率65%)、150℃×3分間の乾燥を行った。
この加工布帛と、未加工の布帛について、抗ブタクサアレルゲン性の測定を行った(試料数はそれぞれ3とした)。結果を、表3に示す。なお、表中の濃度は、加工剤(水分散体)中の重量%を示し、付着量は布帛への付着量を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示されるように、未加工の布帛(No.1〜3)では、ブタクサに対する抗アレルゲン性はほとんど観察されないが、リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物を含む水性分散体で加工した布帛(No.4〜6)は、ブタクサに対して100%に近い抗アレルゲン性を示した。
このことから、リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物を付着させた布帛が、花粉の種類にかかわらず、優れた抗アレルゲン性を発揮することが確認された。
【0042】
[試験例4]
表4に示すようにα―リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物およびポリエステル系樹脂を併用し、水分散体1000mlに作液した。使用したポリエステル系樹脂は試験例3と同一である。この分散体にA3サイズのポリエステルニット(ポリエステル100%、目付360g/m)を浸漬し、次いで、ロール間圧力3.0kgf/cmのマングルで絞り(絞り率65%)、150℃×3分間の乾燥を行った。
この加工布帛と、未加工の布帛について、抗ヒノキアレルゲン性の測定を行った。結果を表4に示す。なお、表中の濃度は、加工剤(水分散体)中の重量%を示し、付着量は布帛への付着量を示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4に示されるように、未加工の布帛(No.1)では、ヒノキに対する抗アレルゲン性は30%程度であったが、リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物を含む水性分散体で加工した布帛(No.2)は、ヒノキに対して80%に近い抗アレルゲン性を示した。
このことから、リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物を付着させた布帛が、花粉の種類にかかわらず、優れた抗アレルゲン性を発揮することが確認された。
【0045】
上記試験例2〜4から、ジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物を、1.0−6.0:0.05−1.5の割合で付着させた布帛が、ダニや様々な花粉に対し、高い抗アレルゲン性を示し、且つ、キワつき、白化、チョークマークを生じにくいことが分かった。
【0046】
[試験例5]
上記抗アレルゲン剤を繊維製品に付着させるバインダーについて検討した。
表5に示すように(表中の数値は重量%を示す)、α−リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物を併用し、樹脂の種類を変化させて水分散体1000mlに作液した。この分散体にA3サイズのポリエステルニット(ポリエステル100%、目付400g/m)を浸漬し、次いで、ロール間圧力3.0kgf/cmのマングルで絞り(絞り率64%)、150℃×3分間の乾燥を行った。
【0047】
表5に示す樹脂としては、下記のものを使用した。
ウレタン系樹脂:日華化学工業社製のエバファノールHA
アクリル系樹脂:新中村化学工業社製のニューコートFH
ポリエステル系樹脂:互応化学工業社製のプラスコートZ
【0048】
樹脂混合液の相溶性、加工布帛の白化、風合い、難燃性、摩擦堅牢度の評価を表5に示す。なお、白化については、上述した級判定の結果が3級〜5級のものを○と評価し、摩擦堅牢度については、上述した級判定の結果が3級〜5級のものを○と評価した。
【0049】
【表5】

【0050】
表5に示す通り、摩擦堅牢度については、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれを使用した場合も、所望の基準を達成できなかった。
【0051】
[実施例1]
試験例5の結果を鑑み、摩擦堅牢度の向上を目的として、バインダーについてさらに検討した。表6に示すように、抗アレルゲン剤およびバインダーの付着量を変化させて試験を行った。使用した布帛および布帛の処理方法は、試験例5と同じである。
使用した薬剤は、以下の通りである
α−リン酸ジルコニウム:東亜合成社製のアレリムーブZK(粒径0.8〜1.3μm)
スルホニル基を有する芳香族化合物(芳香族スルホニウム塩を含む重合体):積水化学工業社製のSSPA
アクリル系樹脂:新中村化学工業社製のニューコートACR(ガラス転移点−20℃)
ポリエステル系樹脂:互応化学工業社製のプラスコートZ
【0052】
【表6】

【0053】
表6に示す通り、アクリル系樹脂を使用し、布帛に対する付着量を0.09〜0.2g/mとした場合に、所望の摩擦堅牢度を達成することができた。アクリル系樹脂の付着量が0.3g/m以上の場合は、摩擦堅牢度が低く、また、0.03g/m以下の場合は、摩擦堅牢度は良いものの、所望の抗アレルゲン性を達成できなかった。なお、表中の摩擦堅牢度において「2−3」とは2級以上3級未満であることを、「3−4」とは3級以上4級未満であることを示す。他も同様である。
他方、ポリエステル系バインダーを使用した場合は、樹脂の量を減らしても、所望の摩擦堅牢度を達成することはできなかった。
【0054】
[実施例2]
実施例1の試料番号1(バインダーなし)、試料番号5,7〜9(アクリル系バインダー使用)について、難燃性を評価した。結果を表7に示す。表7中の「総合評価」は、表6の試験と表7の難燃性試験の両方を考慮した評価結果を表す。
また、試料番号8の布帛について、アレルゲン擦り付け後のアレルゲン不活性化率を測定した(F法)。F法は、乾燥状態でアレルゲン不活性化率の測定を行う点で、A〜E法(アレルゲンを含む溶液中に、評価用試料を投入して測定を行う)とは異なる評価方法であり、通常の使用態様に、より即した評価方法である。結果を表7に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
表7に示すように、アクリル系樹脂の付着量が0.2g/m以下の場合、布帛は自己消火性を示した。これに対し、アクリル系樹脂の付着量が0.3g/m以上の場合は、難燃性が不十分であった。
上記実施例1および実施例2並びにその他の実験から、繊維製品に対するアクリル系樹脂の付着量が0.05〜0.25g/mの場合に、所望の摩擦耐久性と難燃性を備え、さらに、抗アレルゲン性に優れ、白化やキワつき等が生じにくい繊維製品が得られることが分かった。
また、試料番号8の布帛について行った、アレルゲン擦り付け後の不活性化率測定の結果から、本発明における布帛が、アレルゲンと乾燥状態で接触した際にも、高いアレルゲン不活性化率を示すことが実証され、実用性の高いものであることが確認された。
【0057】
[実施例3]
表8に示すように、α−リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物を布帛に付着させた際の、布帛の白化を測定した。使用した布帛、布帛の処理方法は、試験例5と同じである。表中のL値、ΔE値は、SMカラーコンピューター(スガ試験機株式会社製)を用いて測定した。なお、布帛の白化の度合いが高いほど、ΔE値は大きくなる。使用した各成分は、実施例1と同じである。
【0058】
【表8】

【0059】
表8に示すように、リン酸ジルコニウムを単独で使用した場合(試料番号12,15)と比べ、リン酸ジルコニウムとスルホニル基を有する芳香族化合物を併用した場合は(試料番号13,16)、ΔE値が小さくなっており、2剤の併用により、白化が軽減されることが分かった。またバインダーとしてアクリル系樹脂を使用した場合(試料番号14,17)、さらにΔE値が小さくなることが分かった。本実施例の結果から、抗アレルゲン剤としてジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物を使用し、バインダーとしてアクリル系樹脂を使用して加工した繊維製品は、白っぽくなりにくく、濃色の繊維製品へ使用するのに非常に適していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の加工剤で加工した繊維製品は、キワつきや白化が生じにくく、難燃性及び抗アレルゲン性に優れている。また、摩擦が生じやすい環境でも色移りしにくいため、自動車内装材、家具、カーテン、マット、合成皮革などの室内装飾品に使用するのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アレルゲン性を有する繊維製品であって、ポリエステル繊維製品に、バインダーを介して、抗アレルゲン性を有するジルコニウム系化合物とスルホニル基を有する芳香族化合物が、1〜6g/m:0.05〜1.5g/mの割合で付着されていること、および、前記バインダーがアクリル系樹脂であって、0.05〜0.25g/mの量で付着されていることを特徴とする繊維製品。
【請求項2】
前記ジルコニウム系化合物と前記スルホニル基を有する芳香族化合物の割合が、1.0〜3.5g/m:0.1〜0.4g/mであって、アクリル系樹脂の付着量が0.07〜0.22g/mである、請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
前記ジルコニウム系化合物及び前記スルホニル基を有する芳香族化合物が、いずれも粒状である、請求項1または2に記載の繊維製品。
【請求項4】
前記ジルコニウム系化合物がリン酸ジルコニウムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維製品。
【請求項5】
前記スルホニル基を有する芳香族化合物が、芳香族スルホニウム塩を含む重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維製品。
【請求項6】
請求項1の繊維製品を製造するためのアレルゲン低減加工剤であって、前記ジルコニウム系化合物と、前記スルホニル基を有する芳香族化合物と、前記アクリル系樹脂を、1〜6:0.05〜1.5:0.05〜0.25の重量比率で併含する水性分散体であることを特徴とする加工剤。

【公開番号】特開2013−87386(P2013−87386A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229078(P2011−229078)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(510045438)TBカワシマ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】