説明

抗アレルゲン性難燃ろ材

【課題】難燃性と抗アレルゲン性を兼ね備え、加工性に優れ、かつ経時変化による変色や剛軟度の低下の少ないエアフィルタ用のろ材を提供する。
【解決手段】繊維シートの少なくとも繊維の表面にリン系難燃剤及び水系のバインダー樹脂とを混合し、含浸法によって繊維シートに付着させてた後、さらにポリフェノール化合物を含んだ加工液を含浸法、スプレー法またはグラビア印刷法により付着させることを特徴とする抗アレルゲン性難燃ろ材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルゲン性を有し、かつ難燃性を有するろ材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー活性疾患は、長年にわたり、多くの人が悩まされてきた問題である。これらのアレルギー活性疾患の原因物質(以下、アレルゲンと称す。)の代表的なものとしては、ハウスダスト、屋内に棲息するダニ、花粉、カビ胞子などがよく知られている。現在、アレルギー患者の治療には主に薬物療法が適用されているが、原因物質であるアレルゲンを患者自身の生活環境から除去することも、患者をアレルゲンへの暴露から直接守るという合理的な手段である。このようなアレルゲン除去による症状改善は、日本の他、ヨーロッパやアメリカにおいても報告がなされている。
【0003】
そこで、アレルゲンの生活環境から除去する方法として、以前から、空気清浄機のようにエアフィルターを用いて環境中に存在するハウスダスト、ダニ、花粉等のアレルゲンをろ過し捕集する方法が検討されてきている。しかし、エアフィルターに捕集されたアレルゲンは、アレルギー活性を保持しているため、エアフィルターを処理するときなどにアレルゲンが再飛散して、アレルギー患者に被爆する危険性を有している。そのため、確実にアレルゲンを除去するためにはアレルゲンをエアフィルターで捕捉した際に、アレルゲンを不活性化する必要があり、抗アレルゲン機能を有するフィルターが要望されている。
【0004】
かかる抗アレルゲン機能を有するフィルターとしては、例えばタンニン酸化合物のタンパク質との結合凝集作用を利用し、環境中に存在するアレルゲンを不活性化する抗アレルゲン剤ならびにそのフィルターへの利用法が知られている(例えば特許文献1)。他にもブドウ科ブドウ属植物の種子または果皮の水および/または有機溶媒抽出物からなることを特徴とするアレルゲン低減化組成物(例えば特許文献2)などが知られている。
【0005】
一方、自動車用の空調機等に取り付けられるフィルターや家庭用の空気清浄機やビル・工場のフィルターはろ過面積をかせぐためにプリーツ等の形状に加工する場合が多いが、これらのフィルターには、その形状を維持して形状変化による圧力損失の上昇を抑制するのに必要な剛性に優れる点で、短繊維を樹脂加工して固めた不織布などが広く用いられている。しかしながら、これらの不織布は主たる構成成分が有機物であるために易燃性であり、製造物や建築物の火災防止の観点から難燃性を付与したフィルターが必要とされている。
【0006】
フィルターに難燃性を付与するものとしては、経済的に難燃性を発現できる有機臭素化合物、有機塩素化合物、有機リン化合物などの有機系難燃剤とアンチモン化合物、金属水酸化物などの無機系難燃剤が知られている。また、環境志向の高まりにより非ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤等を用いたフィルターが提案されている(例えば、特許文献3)。さらに、難燃剤を樹脂で被覆し、マイクロカプセル化する方法も開示されている(例えば、特許文献4および特許文献5参照)。また特許文献6には、マイクロカプセル化された難燃剤を可燃性繊維材料に混合して難燃化する方法が示されている。
【0007】
しかし、抗アレルゲン機能及び難燃機能の両機能を同時に、かつ充分に有するフィルターはこれまでに存在しなかった。すなわち、上記公知技術はいずれも抗アレルゲン機能、または難燃機能をそれぞれ単独でエアフィルターに付与するための技術を開示したものであり、両機能を同時に付与する技術についての具体的記述はない。また、特許文献7には、スルファミン酸グアニジンを含有してなる難燃性ろ材に、撥水、香料、脱臭、抗菌、抗ウイルスまたは/および抗アレルゲンの付加機能が付与されてなることを特徴とするエアフィルター用難燃性ろ材が開示されているが(特許文献7の請求項11)、抗アレルゲン性を付与するための具体的薬剤処方や付着量についての記載はない。単に既存の抗アレルゲン剤と難燃剤を組み合わるだけでは、薬剤同士の凝集作用によってフィルターへの加工性が悪化したり、経時変化によって変色や剛軟度の低下を引き起こすという問題があり、また、薬剤同士が化学反応を起こして抗アレルゲン機能や難燃機能自体を低下させてしまうなどの問題があった。したがって、抗アレルゲン機能と難燃機能とを両立したフィルターが切望されていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−255579公報
【特許文献2】特開2008-088232公報
【特許文献3】特許第3484490号公報
【特許文献4】特開昭55−118988号公報
【特許文献5】特開平9−13037号公報
【特許文献6】特開2007−130632公報
【特許文献7】特開2006−136809公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記のような問題点を解消するものであり、加工性に優れ、かつ経時変化による変色や剛軟度の低下の少ない抗アレルゲン性難燃ろ材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、以下に関する。
【0011】
(1)維シートを形成する繊維の表面にリン系難燃剤とポリフェノール化合物とを有することを特徴とする抗アレルゲン性難燃ろ材。
【0012】
(2)前記リン系難燃剤が、25℃の水に対する溶解度が5wt%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
(3)前記リン系難燃剤がリン酸アンモニウムまたは/およびリン酸メラミンのポリ化合物であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
【0013】
(4)前記リン系難燃剤が、ケイ素化合物を含む被覆材で被覆されていることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
【0014】
(5)前記リン系難燃剤、前記ポリフェノール化合物及びバインダー樹脂とを水系の溶媒に混合した加工液を繊維シートに含浸して得られ、かつ、該加工液はpHが2.0〜5.0の範囲に調製されたものであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
【0015】
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材とガス成分を除去するガス除去層とが積層されてなることを特徴とする脱臭ろ材。
【0016】
(7)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材または前記(6)に記載の脱臭ろ材を用いてなることを特徴とするエアフィルター。
【0017】
(8)前記(1)〜(4)いずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法であって、前記リン系難燃剤、前記ポリフェノール化合物及びバインダー樹脂を水系の溶媒に混合して加工液とし、該加工液を繊維シートに含浸せしめることを特徴とする抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法。
【0018】
(9)前記(1)〜(4)いずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法であって、前記リン系難燃剤及び水系のバインダー樹脂とを混合し、含浸法によって繊維シートに付着させた後、さらにポリフェノール化合物を含んだ加工液を含浸法、スプレー法またはグラビア印刷法により付着させることを特徴とする抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法。
【0019】
(10)前記ポリフェノール化合物を含んだ加工液をpHを2.0〜5.0の範囲に調製することを特徴とする前記(8)または(9)に記載の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加工性に優れ、かつ経時変化による変色や剛軟度の低下の少ない抗アレルゲン性難燃ろ材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材は、繊維シートを形成する繊維の表面にリン系難燃剤とポリフェノール化合物とを有することを特徴とする。
【0022】
繊維シートを形成する繊維としては従来からろ材に用いられている繊維であればよく特に限定されないが、例えば、ビニロン繊維を好ましく採用することができる。ビニロン繊維は、燃焼時に炭化する燃焼挙動を示し、後述するリン系難燃剤との組み合わせにより優れた難燃性を得ることができる。ビニロン繊維を用いる場合、ポリエステル繊維を一部に用いることも好ましい。例えばビニロン繊維の伸度が6%程度なのに対してポリエステル繊維の伸度は36%程度と、ポリエステル繊維は高伸度であり、ポリエステル繊維を一部に用いることでろ材の強度に粘りを加えることで引裂強さを向上させることができる。
【0023】
難燃剤はその構成成分により、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤およびこれらの複合系などの有機系難燃剤と、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アンチモン系、シリコーン系などの無機系難燃剤に大別される。本発明における難燃剤は、上記難燃剤のなかでもリン系難燃剤を用いることが必要である。具体的にはリン酸のほか、リン酸エステル、リン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸メラミン、リン酸グアニル尿素およびこれらの化合物のポリ化合物などが好ましい。リン系難燃剤は、ビニロンやパルプなどのポリビニルアルコール成分やセルローズ成分が燃焼した時に炭化を促進する効果が高く、またポリエステル繊維などの燃焼時に溶融するタイプの繊維が混合されても炭化を促進して燃え広がるのを防止することができる。
【0024】
リン系難燃剤の含有量は、難燃剤の量が少ないとろ材の難燃性が得られなく、多すぎると繊維量が減少してしまうためにろ材の基本性能である通気量や寿命が低下してしまう。また、難燃剤の量が多いと、繊維シートの引張強度と硬さ(剛軟度)が低下する。そのため、リン系難燃剤の量は、繊維シートの重量対比で10〜40%であることが重要であり、さらに好ましくは12%〜20%である。
用いるリン系難燃剤は、25℃の水に対する溶解度が5wt%以下であることが好ましく、より好ましくは3wt%以下である。溶解度が5wt%を超えると、リン系難燃剤の水に対する親水性が高くなり、吸湿作用により繊維シートの剛軟度が低下する傾向がある。さらには後述するポリフェノール化合物の水酸基との親和性が高くなることにより、ポリフェノール化合物の抗アレルゲン効果を阻害する作用が表れるため、上記の溶解度のものを用いるのが好ましい。なお、溶解度は実施例の欄の測定方法(5)項に記載した方法によって測定した値をいう。
【0025】
リン系難燃剤の溶解度を5wt%以下にする手段としては、リン酸の重縮合によってポリ合物とする方法が例示され、なかでもリン酸アンモニウムまたは/およびリン酸メラミンのポリ化合物が高い難燃性とポリフェノール化合物のポリ化合物抗アレルゲン性を阻害しない点で好ましい。
また、リン系難燃剤は有機物の樹脂や無機化合物を含んだ被覆材で被覆し、複合粒子、いわゆるマイクロカプセルとすることが好ましい。なかでもケイ素化合物を含んだ被覆材で被覆されたものが好ましい。ケイ素系化合物には、リン系難燃剤の水に対する溶解度を低減させる効果があり、さらには難燃剤とポリフェノール化合物の相互作用を抑制し、共存状態を安定に保つことができるようになる。ケイ素系化合物としては、素材自体の難燃性にも優れ、かつ不活性でポリフェノールや他の樹脂バインダー成分と反応しないシリコーン樹脂が好ましい。
【0026】
難燃剤の粒子径としては、被覆材で被覆する場合、しない場合のいずれにおいても、100μm以下が好ましい。100μmを超えると、ろ材の空間を閉塞し通気抵抗が増してしまったり、難燃剤の付着ムラができてしまう等の問題が生じることがある。また、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。粒子径を小さくすることにより、難燃剤の表面積を増やすことができ、高い難燃効果を得ることができる。一方、粒子径があまりに小さすぎると、難燃剤粒子が樹脂の繋がりを遮断してしまい繊維間の接合力が低下し切断しやすいろ材となってしまう。このため粒子径の下限値としては好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.5μm以上である。
【0027】
リン系難燃剤を被覆する場合における、難燃剤とケイ素化合物による被覆材との割合としては、難燃性ろ材の剛性との兼ね合いから、リン系難燃剤80〜95質量%、ケイ素化合物による被覆材5〜20質量%が好ましい。
【0028】
本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材は、さらに、抗アレルゲン剤としてのポリフェノール化合物を繊維シートを形成する繊維の表面に有してなることが重要である。ポリフェノール化合物の作用により難燃性や剛軟度を損なうことなく抗アレルゲン性を付与することができる。なお、「繊維の表面に」とは、リン系難燃剤(被覆材で被覆されたリン系難燃剤も含む)やバインダー樹脂を介して間接的に有するものであってもよい。
【0029】
ポリフェノール化合物とは分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)をもつ植物性成分の総称であるが、本発明においてはこれら植物性ポリフェノール化合物の他にポリ−4−ビニルフェノールのような合成ポリフェノール化合物もに含まれる。
【0030】
植物性ポリフェノール化合物としては例えば、タンニン、カテキン、アントシアニン、フラボン、フラボノール、イソフラボン等を挙げることができる。タンニンとして、タンニン酸、ガロタンニン(五倍子抽出タンニン酸、没食子タンニン等)、エラジタンニン(ペデンクラギン、テリマグラジン、カジュアリニン等)、エラジタンニンオリゴマー(アグリモニイン、エノテインB等)、カフェータンニン(ロズマリン酸、リトスペルミン酸等)を例示できる。カテキンはエピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等であり、アントシアニン類として、プロペラルゴニジン、プロシアニジン、プロデルフィニジン等のプロアントシアニジン及びこれらの酸分解物(アントシアニジン)を例として挙げることができる。フラボンとしてアピゲニン、ルテオリン等、フラボノールとしてクエルセチン、クエルシトリン、イソクエルシトリン、ルチン、ケンフェロール等、イソフラボンとして、ダイゼイン、ゲニステイン、イソゲニン等及びこれらの配糖体を例示できる。これらのポリフェノール化合物は2種以上含むことが可能である
本発明において、ポリフェノール化合物の含有量は、繊維シート重量対比で0.1〜5重量%であることが好ましい。ポリフェノール化合物の含有量が上記未満であると抗アレルゲン作用が十分に発揮できない傾向があり、上記範囲を超えると繊維シートが目詰まりを起こしやすくエアフィルターの圧力損失が大きくなる傾向があることから、好ましくない。また、ポリフェノール化合物のなかでも、タンニン酸の含有量が多くなると異臭を発したり光により酸化されろ材が変色したりするため好ましくない。
【0031】
また、本発明の抗アレルゲン性難ろ材は、ガス除去粒子を含むガス除去粒子を有し、有害ガスを除去する作用を有するガス除去層(ガス除去用ろ材)と積層して、必要に応じて一体化してなる脱臭ろ材とすることも可能である。この本発明の脱臭ろ材は、空気中のアレルゲンを除去または不活化させると共に空気中の有害ガスを除去することが可能となるので、単にアレルゲン除去作用と有害ガス除去作用の双方の作用を有効とするのみならず、アレルゲンと有害ガスの相互作用によるアレルギー症状をも防止する効果があり、好ましい態様の一つである。なお、この形態の場合は、抗アレルゲン性難燃ろ材をガス除去層の上流側に配置することが好ましく、抗アレルゲン性難燃ろ材がアレルゲンを含む塵埃を多数捕集し、ガス除去層に付着することを防ぎ、ガス除去性能の低下を防ぐことが出来る。
【0032】
本発明において、抗アレルゲン性難燃ろ材の基材となる繊維シートで採用する繊維の断面形態としては、一般的は円形断面を有するものの他、異型断面形状を有するものや、繊維表面に多数の孔やスリットを有するものも好ましい。そうすることにより、繊維の表面積を大きくし、リン系難燃剤とポリフェノール化合物の担持性を向上させることができる。異型断面形状とは、円形以外の断面形状を指し、例えば扁平型、略多角形、楔型、十字型、Y字型、C字型、Z字型等を挙げることができる。異型断面形状の繊維は、異型孔を有する口金を用いて紡糸することにより得ることができる。また、繊維表面に多数の孔やスリットを有する繊維は、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをアロイ化して紡糸し、溶解性の高い方のポリマーを溶剤で溶解除去することにより得ることができる。また、繊維の形態は繊維シートをどのような繊維構造体とするかにより適宜選択でき、フィラメント、ステープル、紡績糸等用いることができ、捲縮や交絡等が施されていてもよい。
【0033】
繊維シートで採用する繊維の繊維径としては、抗アレルゲン性難燃ろ材をエアフィルターとして使用する用途において目標とする通気性や集塵性能に応じて選択すればよいが、好ましくは1〜1000μm、より好ましくは5〜100μmである。なお、異型断面形状の場合は、最大径を意味する。
本発明において、抗アレルゲン性難燃ろ材の基材となる繊維シートは通気性を有する繊維構造体であり、綿状物、編物、織物、不織布、紙およびその他の三次元網状体等を挙げることができる。これらのような構造をとることにより、通気性を確保しつつ、表面積を大きくとることができる。
【0034】
繊維シートの目付けとしては、10〜500g/mが好ましく、より好ましくは30〜200g/mである。繊維シートの目付けを10g/m以上とすることで、リン系難燃剤とポリフェノール化合物を担持するために十分な強度が得られ、エアを通気させた際にフィルター構造を維持するのに必要な剛性が得られる。また目付けを200g/m以下とすることで、プリーツ形状やハニカム形状に二次加工する際の取り扱い性の面でも好ましい。
【0035】
繊維シートは、熱接着性成分やバインダー樹脂などのバインダー成分を有することも、形状保持、強度向上、寸法安定性等の点で好ましい。またリン系難燃剤とポリフェノール化合物はこれらバインダー成分とともに繊維シートに含まれていてもよい。
【0036】
本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材は、上記のようなリン系難燃剤とポリフェノール化合物を担持させた繊維シートにさらに、ガス除去層とは異なる繊維構成のシートを積層して構成することも好ましい。例えば直行流型フィルターとして使用する場合においては、上流側に嵩高で目の粗い不織布シートを積層すれば、ダスト保持量が向上し長寿命化が可能となる。また下流側に極細繊維からなる不織布シートを積層すれば、高捕集効率化が可能となる。
【0037】
さらにこの極細繊維からなる不織布シートがエレクトレット処理されていればなお好ましい。エレクトレット処理がされていることにより、通常では除去しにくいサブミクロンサイズやナノサイズの微細塵を静電気力により捕集する事が出来るようになる。
【0038】
エレクトレット不織布を構成する材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成高分子材料等の、高い電気抵抗率を有する材料が好ましい。
【0039】
次に、本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法について、好ましい実施の形態を詳細に説明する。
【0040】
本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材の第1の製造方法として、リン系難燃剤、ポリフェノール化合物及びバインダー樹脂とを同浴で水系の溶媒に混合して加工液とし、該加工液を繊維シートに含浸せしめる工程を経る方法がある。含浸後、乾燥させて溶媒を除去する。
【0041】
上記製造方法において、繊維シートの製法は特に限定されず、湿式及び乾式のケミカルボンド法、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法またはニードルパンチ法などを挙げることができるが、均一な目付け調整が可能で、低い圧力損失でも高い剛性が付与できる点で、ケミカルボンド法が好ましい。
【0042】
ケミカルボンド法は、短繊維を乾式または湿式で抄造し、バインダー樹脂を使用して繊維を接着して不織布を成形する製法であり、同方法においてリン系難燃剤、ポリフェノール化合物及びバインダー樹脂とを同浴で水系の溶媒に混合して加工液とし、該加工液を繊維シートに含浸せしめたものを乾燥させる工程を経ることができる。
【0043】
また、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法またはニードルパンチ法などにより得られた繊維シートに、リン系難燃剤とポリフェノール化合物とを水系のバインダー樹脂に混合して加工液としたものを含浸せしめ、これを乾燥して本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材を得ることもできる。
またこの工程中もしくはほぼ同時に、リン系難燃剤及びポリフェノール化合物とは別の撥水、香料、脱臭、抗菌、抗ウイルスまたは着色剤など機能性の薬剤を付与することによって、ろ材へ付加価値を付けることもできる。
【0044】
加工液を塗布した繊維シートを乾燥する方法は特に限定されないが、熱風乾燥方式、ヤンキードラム方式などが好ましく採用される。乾燥温度は、100〜230℃が好ましい。さらに好ましくは、110〜160℃である。100℃以下では、バインダー樹脂が十分に硬化することができないため、ろ材の剛軟度が低下する。また230℃以上になるとポリフェノール化合物が分解するため、少なくともそれ以下の温度で乾燥することが好ましい。
【0045】
バインダー樹脂は、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、SBR樹脂、ポリエステル樹脂など宜選択して使用することが可能であるが、リン系難燃剤とポリフェノール化合物との相互作用が少なく、低コストで剛性が得られる点でスチレン−アクリル共重合体樹脂が好ましい。
【0046】
また本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材の第2の製造方法として、リン系難燃剤を水系のバインダー樹脂と混合し、含浸法によって繊維シートに付着させて乾燥させた後、さらに得られたシートにポリフェノール化合物を含んだ加工液を含浸法、スプレー法またはグラビア印刷法により付着させる方法がある。
【0047】
すなわち、上記製造方法においては、加工液は2段階に分けて繊維シートに付着加工させる。先ずは第一の工程でリン系難燃剤と水系のバインダー樹脂とを同浴で混合した加工液を、含浸法によって繊維シートに付着させる。好ましくは乾燥させた後に、得られた繊維シートに第2の工程でポリフェノール化合物を含んだ加工液を含浸法、スプレー法またはグラビア印刷法により付着させる。その後再び乾燥する。この順番で加工液を付着させることによりポリフェノール化合物が繊維の最外層に付着するため、より少ない付着量で高い抗アレルゲン性能を発揮することが可能である。またこの工程中もしくはほぼ同時に、リン系難燃剤及びポリフェノール化合物とは別の撥水、香料、脱臭、抗菌、抗ウイルスまたは着色剤など機能性の薬剤を付与することによって、ろ材へ付加価値を付けることもできる。
【0048】
ポリフェノール化合物を含んだ加工液の付着方法としては含浸法、スプレー法またはグラビア印刷法が好ましく、より均一な付着が可能である点で含浸法が好ましい。但し、含浸法は多量の加工液を一旦繊維シートに保持させてマングルで絞る工程を経るため、第一の工程で付着させたバインダー樹脂による繊維間結合が解れ、ろ材の剛性が低下する場合がある。繊維シートの耐水性が弱い場合には、ポリフェノール化合物を高濃度で希釈した水溶液を調整し、スプレー法またはグラビア印刷法で少量の液担持量で付着加工するとよい。
【0049】
本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法において、ポリフェノール化合物を含んだ加工液は、ポリフェノールの固形分濃度を1%〜40%の水溶液または水分散液としたときに、pHを2.0〜5.0の範囲に調製することが重要である。ポリフェノールを含んだ加工液を調製した際、pHが2より小さいと、ポリフェノール化合物が加工液中や、加工後の基材上でリン系難燃剤やバインダー樹脂と凝集反応を起こし、難燃性や抗アレルゲン性、あるいは剛軟度の性能低下を引き起こす。pHが5.0を超えると、ポリフェノール化合物のアレルゲンタンパク質との反応性が低下し、抗アレルゲン性能が低下する。なお、加工液のpH値はJIS Z 8802−1984に従って測定した値をいう。1サンプルについて5回の測定を繰り返し、小数点2桁目を四捨五入し、その算術平均値を測定値とする。
【0050】
pHの調整方法は、リン系難燃剤の複合やポリフェノール化合物自体の複合による濃度調整のほか、水溶性の添加剤を加えることにより調整することも可能である。添加剤としては、例えば酸性サイドに制御するものとしてクエン酸、グルコン酸、コハク酸、グルタミン酸、アジピン酸などが例示され、またアルカリ性サイドに制御するものとして炭酸カリウム、ピロリン酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが例示されるが、pH調整でき、かつ本発明の効果を損なわないものであればいかなる化合物でもよく、これら化合物に限定されるものではない。
【0051】
本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材および脱臭ろ材は、エアフィルター用途、とくに自動車用のキャビンフィルタ用ろ材として好適に用いることができる。自動車用のキャビンフィルタには自動車部材としての難燃性要求に加え、車室内空間の快適化ニーズの高まりにより抗アレルゲン性が要求されている。また自動車用のキャビンフィルタは通気風速が速いため、風圧に対し十分な強度を有し、プリーツなどの形状に加工した場合、その形状を維持して形状変化による圧力損失の上昇を抑制できること、プリーツ等の形状に成形する際の加工性に優れること、等の要求を満足しうるろ材が好ましい。本発明の抗アレルゲン性難燃ろ材は剛性を損なうことなく、難燃性と抗アレルゲン性を発揮できる点で、自動車用キャビンフィルタ用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
[測定方法]
(1)難燃性
難燃性試験は、JIS L−1091:1999 の水平法を用いて評価した。N数は5として、その平均値が5cm以下のものを「優れている」と評価し、表1中「○」印で表記した。その平均値が5cmを越えるのものを「劣る」と評価し、表1中「×」印で表記した。
【0053】
(2)アレルゲン低減化率
対象とするアレルゲン(スギ花粉アレルゲンCryj 1、ダニアレルゲンDerf 2、カビアレルゲンAlt a 1)をそれぞれリン酸緩衝液に100ng/mlとなるように溶解し、各アレルゲン溶液を作製した。次にろ材試料を各70mgでカットし、これをマイクロチューブへ入れ、アレルゲン溶液1mlをそれぞれに加えて4℃で5時間振とうし、20時間静置して反応させた。試料と反応させたアレルゲン溶液のアレルゲン濃度をサンドイッチELISA法で測定した。サンドイッチELISA法は、以下の手順で行なった。アレルゲン(抗原)に対する抗体をマイクロプレートの各ウェルに固相化→ポストコーティング(1%BSAPBS)→PBS(0.05%Tween20を含む)で3回洗浄(以下洗浄法は同じ)→サンプル、及び標準アレルゲンを添加→洗浄後アレルゲンに対する標識抗体を添加→洗浄後streptavidin HRPOを添加→洗浄後、O-phenylenediamineを添加→HSOを添加して反応停止後、マイクロプレートリーダー490nmの吸光度を測定する。別途、標準アレルゲン液にて吸光度−アレルゲン濃度の検量線を作成し、アレルゲン濃度を算出し、以下の式にてアレルゲン減少率を算出した。
アレルゲン低減率(%)=(B−A)/B×100
A:試料反応後のアレルゲン溶液中のアレルゲン濃度
B:試料未反応後のアレルゲン溶液のアレルゲン濃度
上記式によって算出された値について、全アレルゲンで95%以上のものを優(「◎」印)、全アレルゲンに対し75%以上のものを良(「○」印)、全アレルゲンに対し50%以上のものを可(「△」印)、50%以下のアレルゲンが一つでもあるものを不可(「×」印)として総合判定した。
【0054】
(3)剛軟度
剛軟度はJIS L 1096:1999(ガーレ法)に準拠し、幅25mm、長さ90mmのサンプルを、ガーレ式剛軟度試験機を用いて測定した。n数は5として、その平均値の値が5000μNより大きい値を示したものを良(「○」)、5000μN〜3000μNを可(「△」)、3000μNより小さいものを不可(「×」)と判定した。
【0055】
(4)pH測定
アズワン社製ハンディ型pH計SK−620PHを用い、JIS Z 8802−1984に従って加工液のpH値を測定した。1サンプルについて5回の測定を繰り返し、表示された値の小数点2桁目を四捨五入し、その算術平均値を測定値とした。
【0056】
(5)溶解度測定
対象化合物が塊状の場合はあらかじめ乳鉢で細かく粉砕して粒径を100μm以下にする。100gの純水を用意し、水温を25℃の一定温度に保ちながら、対象化合物が飽和するまで攪拌溶解する。水に不溶となった分はろ過して除去し、ろ液を減圧留去する。得られたものを100℃で完全に熱乾燥し、重量を測定しこれを溶解重量Aとした。次に以下式により溶解度を算出した。
溶解度(wt%)=A/(100+A)×100
[実施例1]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてポリリン酸アンモニウム(ブーデンハイム・イベリカ社製FR CROS 485、平均粒子径16μm)を用いた。
【0057】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0058】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シートを作製した。ポリリン酸アンモニウムとタンニン酸をアクリルバインダーと水系で混合してpH=5.0の加工液として(タンニン酸固形分濃度は2.0%)、これを前記繊維シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付50g/mのろ材を作製した。ポリリン酸アンモニウムとタンニン酸の付着量はろ材重量に対してそれぞれ15.0wt%と2.5wt%である。得られたろ材の難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてポリリン酸アンモニウムをシリコーン樹脂で被覆したマイクロカプセル化難燃剤(日華
化学(株)製、“ニッカファイノン”HF−36、平均粒子径15μm)を用いた。
【0060】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0061】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シートを作製した。ポリリン酸アンモニウムとタンニン酸をアクリルバインダーと水系で混合し(タンニン酸固形分濃度は2.0%)、これにpH調製剤としてクエン酸を添加してpH=2.0の加工液として、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付50g/mのろ材を作製した。ポリリン酸アンモニウムとタンニン酸の付着量はろ材重量に対してそれぞれ15.0wt%と2.5wt%である。得られた不織布の難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0062】
[実施例3]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてポリリン酸アンモニウムをシリコーン樹脂で被覆したマイクロカプセル化難燃剤(日華
化学(株)製、“ニッカファイノン”HF−36、平均粒子径15μm)を用いた。
【0063】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0064】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。ポリリン酸アンモニウムとタンニン酸をアクリルバインダーと水系で混合し(タンニン酸固形分濃度は2.0%)、これにpH調製剤としてピロリン酸カリウムを添加してpH=7.0の加工液として、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付50g/mのろ材を作製した。ポリリン酸アンモニウムとタンニン酸の付着量はろ材重量に対してそれぞれ15.0wt%と2.5wt%である。得られた不織布の難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0065】
[実施例4]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてポリリン酸アンモニウムをシリコーン樹脂で被覆したマイクロカプセル化難燃剤(日華化学(株)製、“ニッカファイノン”HF−36、平均粒子径15μm)を用いた。
【0066】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0067】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。ポリリン酸アンモニウムをアクリルバインダーと水系で混合し、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。ポリリン酸アンモニウムの付着量は不織布重量に対し15.0wt%であった。得られた不織布をpH=1.5に調製したタンニン酸水溶液(タンニン酸固形分濃度は2.5%)中に含浸し、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、140℃で5分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。タンニン酸の付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0068】
[実施例5]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてポリリン酸メラミン(三和ケミカル社製、MPPB、平均粒径12.0μm)を用いた。
【0069】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0070】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。ポリリン酸メラミンをアクリルバインダーと水系で混合し、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。ポリリン酸メラミンの付着量は不織布重量に対し15.0wt%であった。得られた不織布をpH=2.0に調製したタンニン酸水溶液中に含浸し(タンニン酸固形分濃度は2.5%)、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、140℃で5分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。タンニン酸の付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0071】
[実施例6]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてポリリン酸メラミン(三和ケミカル社製、MPPB、平均粒径12.0μm)を用いた。
【0072】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0073】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。ポリリン酸メラミンをアクリルバインダーと水系で混合し、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。ポリリン酸メラミンの付着量は不織布重量に対し15.0wt%であった。得られた不織布をpH=4.0に調製したタンニン酸水溶液中(タンニン酸固形分濃度は2.5%)に含浸し、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、140℃で5分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。タンニン酸の付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0074】
[実施例7]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてポリリン酸メラミン(三和ケミカル社製、MPPB、平均粒径12.0μm)を用いた。
【0075】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物として茶抽出カテキンを用いた。
【0076】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。ポリリン酸メラミンをアクリルバインダーと水系で混合し、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。ポリリン酸メラミンの付着量は不織布重量に対し15.0wt%であった。得られた不織布をpH=5に調製したカテキン水溶液(カテキンの固形分濃度は2.5%)中に含浸し、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、120℃で10分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。カテキンの付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0077】
[実施例8]
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤としてリン酸グアニジン(三和ケミカル社製、アピノン−303)を用いた。
【0078】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0079】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。リン酸グアニジンをアクリルバインダーと水系で混合し、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。リン酸グアニジンの付着量は不織布重量に対し15.0wt%であった。得られた不織布をpH=4に調製したタンニン酸水溶液(タンニン酸固形分濃度は2.5%)中に含浸し、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、140℃で5分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。タンニン酸の付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
(難燃剤)
難燃剤として水酸化アルミニウムを用いた。
【0081】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0082】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。水酸化アルミニウムとタンニン酸をアクリルバインダーと水系で混合してpH=4.0の加工液とし(タンニン酸固形分濃度は2.0%)、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付50g/mのろ材を作製した。リン酸グアニジンとタンニン酸の付着量はろ材重量に対してそれぞれ15.0wt%と2.5wt%である。得られた不織布の難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0083】
[比較例2]
(難燃剤)
難燃剤としてスルファミン酸グアニジン(三和ケミカル社製、アピノン−101)を用いた。
【0084】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0085】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。スルファミン酸グアニジンをアクリルバインダーと水系で混合し、これを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。スルファミン酸グアニジンの付着量は不織布重量に対し15.0wt%であった。得られた不織布をpH=4.0に調製したタンニン酸水溶液中(タンニン酸固形分濃度は2.5%)に含浸し、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、150℃で5分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。タンニン酸の付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
(難燃剤)
難燃剤としてデカブロモジフェニルエーテルを用いた。
【0087】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0088】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。デカブロモジフェニルエーテルをアクリルバインダーと水系で混合しこれを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。デカブロモジフェニルエーテルの付着量は不織布重量に対し13.0wt%であった。得られた不織布をpH=4.0に調製したタンニン酸水溶液中(タンニン酸固形分濃度は2.5%)に含浸し、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、150℃で5分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。タンニン酸の付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。同ろ材は黒い斑点状の変色異常が見られた。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0089】
[比較例4]
(難燃剤)
難燃剤としてデカブロモジフェニルエーテルをシリコーン樹脂で被覆した難燃剤を使用した。
【0090】
(ポリフェノール化合物)
ポリフェノール化合物としてタンニン酸を用いた。
【0091】
(抗アレルゲン性難燃ろ材)
ポリエステル繊維とビニロン繊維との短繊維を抄紙して繊維シート作製した。難燃剤をアクリルバインダーと水系で混合しこれを前記シートに含浸して付着加工を行ない、150℃で10分間乾燥して目付49g/mの不織布を製布した。難燃剤の付着量は不織布重量に対し13.0wt%であった。得られた不織布をpH=4.0に調製したタンニン酸水溶液中(タンニン酸固形分濃度は2.5%)に含浸し、ロールで絞ることにより前記水溶液を前記不織布に付着させた後、150℃で5分間乾燥させて、目付け50g/mのろ材を作製した。タンニン酸の付着量は得られた不織布重量の2.0wt%である。同ろ材は黒い斑点状の変色異常が見られた。難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度を測定し、その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
各実施例・比較例の配合構成と難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度の測定結果を表1に示した。
【0094】
製法についてリン系難燃剤、ポリフェノール化合物及びバインダー樹脂とを同浴で水系の溶媒に混合して加工液とし、該加工液を繊維シートに含浸せしめたものを乾燥させる方法を「同浴加工」と表記し、リン系難燃剤と水系のバインダー樹脂とを同浴で混合した加工液を、含浸法によって繊維シートに付着させて乾燥させた後、得られたシートにさらにポリフェノール化合物を含んだ加工液を含浸法、スプレー法またはグラビア印刷法により付着させる方法を「後加工」として表記した。
【0095】
実施例1〜2については難燃性、アレルゲン低減化率、剛軟度の良好な抗アレルゲン性難燃ろ材を得ることができた。また、実施例3よりも抗アレルゲン性が良好であることから、加工液のpHを5以下とすることが好適であることを示している。pHを5以下とすることによりポリフェノール化合物のアレルゲンタンパクへの反応性が低下するのを抑制できるためだと考えられる。
【0096】
一方で実施例4は、剛軟度は実施例1〜3よりは劣るものの高いアレルゲン低減化率を示した。これはpHが低い加工液を担持させたことにより、ポリフェノール化合物のアレルゲンタンパクへの反応性が高くなっていることを示しているが、同時にバインダー樹脂が膨潤し、繊維間結合が弱くなったことによる剛難度の低下が起きていると推定される。
【0097】
実施例4、5、6は「後加工」によりポリフェノール化合物を付着加工したものであるが、いずれも良好な抗アレルゲン性を示していることから、アレルゲン低減化率を高くする方法としては「後加工」が好適であることがわかる。実施例7はポリフェノール化合物としてカテキンを用いたものであるがタンニン酸にはアレルゲン低減率が及ばないものの抗アレルゲン性難燃ろ材としてバランスよく好適な構成である。
【0098】
実施例8は25℃の水に対する溶解度10wt%のリン系難燃剤(リン酸グアニジン)とタンニン酸を付着したものである。リン系難燃剤は水に対する溶解度が高いと、ポリフェノール化合物の水酸基とも相互作用を起こしやすくなり、その結果、抗アレルゲン性に影響を及ぼすと考えられ、したがって25℃の水に対する溶解度が5wt%以下であることが好ましいことがわかる。またリン系難燃剤は水に対する溶解度が高いと、吸湿しやすくなることから、シートの剛軟度の観点から25℃の水に対する溶解度が5wt%以下であることが好ましいと考えられる。
【0099】
比較例は難燃剤としてそれぞれ水酸化アルミニウム(比較例1)、スルファミン酸グアニジン(比較例2)、デカブロモジフェニルエーテル(比較例3)、いずれも難燃性あるいはアレルゲン低減化率が大きく低下する結果となり、比較例3においては変色異常も発生した。これはポリフェノール化合物と難燃剤が化学反応を引き起こして、変色や薬剤機能を低下を引き起こしているものと推定される。比較例4は、デカブロモジフェニルエーテルをシリコーン樹脂で被覆した難燃剤を用いたものであるが、比較例3対比で抗アレルゲン性はわずかに高くなるものの性能は不十分で剛難度も低い結果となった。難燃剤がケイ素化合物を含む被覆材で被覆されていても、熱履歴を受けると一部は剥き出しになってしまい、ポリフェノールと化学反応を引き起こしてしまうと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明による抗アレルゲン性難燃ろ材および脱臭ろ材は、自動車や鉄道車両等の車室内の空気を清浄化するためのエアフィルター、健康住宅、ペット対応マンション、高齢者入所施設、病院、オフィス等で使用される空気清浄機用フィルター、エアコン用フィルター、OA機器の吸気・排気フィルター、ビル空調用フィルター、産業用クリーンルーム用フィルター等のエアフィルター濾材として好ましく使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートを形成する繊維の表面にリン系難燃剤とポリフェノール化合物とを有することを特徴とする抗アレルゲン性難燃ろ材。
【請求項2】
前記リン系難燃剤が、25℃の水に対する溶解度が5wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
【請求項3】
前記リン系難燃剤がリン酸アンモニウムまたは/およびリン酸メラミンのポリ化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
【請求項4】
前記リン系難燃剤が、ケイ素化合物を含む被覆材で被覆されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
【請求項5】
前記リン系難燃剤、前記ポリフェノール化合物及びバインダー樹脂とを水系の溶媒に混合した加工液を繊維シートに含浸して得られ、かつ、該加工液はpHが2.0〜5.0の範囲に調製されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材とガス成分を除去するガス除去層とが積層されてなることを特徴とする脱臭ろ材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材または請求項6に記載の脱臭ろ材を用いてなることを特徴とするエアフィルター。
【請求項8】
請求項1〜4いずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法であって、前記リン系難燃剤、前記ポリフェノール化合物及びバインダー樹脂を水系の溶媒に混合して加工液とし、該加工液を繊維シートに含浸せしめることを特徴とする抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4いずれかに記載の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法であって、前記リン系難燃剤及び水系のバインダー樹脂とを混合し、含浸法によって繊維シートに付着させてた後、さらにポリフェノール化合物を含んだ加工液を含浸法、スプレー法またはグラビア印刷法により付着させることを特徴とする抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法。
【請求項10】
前記ポリフェノール化合物を含んだ加工液をpHを2.0〜5.0の範囲に調製することを特徴とする請求項8または9に記載の抗アレルゲン性難燃ろ材の製造方法。