説明

抗アレルゲン組成物

【課題】ダニや花粉等のアレルゲン物質のアレルゲン性を低減化させる抗アレルゲン組成物とし、さらに抗アレルゲン組成物で加工した不織布、繊維または繊維製品などの抗アレルゲン加工品が、水洗されてもアレルゲン性を低減化させる機能を失わずに耐久性よく保持し、さらに着色や変色を起こさないこと、またこれらの組成物や加工品を用いて環境中に存在するアレルゲン性物質のアレルゲン性を効率よく低減化できるようにすることである。
【解決手段】平均粒子径5μm以下の微粒子状酸化タングステンを含有する抗アレルゲン組成物とする。酸化タングステンは、白金、銅、亜鉛、ニッケルおよびコバルトなどのような遷移金属を担持した酸化タングステンであってもよく、このような抗アレルゲン組成物を加工した塗料、コーティング剤、樹脂製品、壁紙、不織布、繊維または繊維製品とする。さらにこれらを人の生活環境で用いることからなるアレルゲン物質のアレルゲン低減化方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダニや花粉等のアレルゲン物質のアレルゲン性を低減化させる抗アレルゲン組成物、およびこれを用いた塗料、コーティング剤、樹脂製品、壁紙、不織布、繊維または繊維製品並びにこれらを用いた生活環境中のアレルゲン物質のアレルゲン性低減化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎等のアレルギー性疾患は多くの人が悩まされているものであり、特に近年では増加する傾向となっている。
これらのアレルギー性疾患の原因となっているのは環境中に存在する種々のアレルゲンであり、それらの中でも屋内に棲息するダニやペットの毛、花粉、カビは代表的な吸入性のアレルゲンとして、良く知られている。
【0003】
特に、家屋内に生息する塵性ダニであるヒョウヒダニ類は、アレルゲンの発生源として大きな問題となっている。ヒョウヒダニ類は、畳、絨毯、寝具、カーテン等の家屋内の繊維製品、あるいは屋外においても電車や自動車等の移動車両の座席シート生地等が生育の温床となる。
【0004】
ヒョウヒダニ類の中でも、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)とヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)は、代表的な種であり、これらのダニの死骸や糞が強いアレルゲン物質となる。
【0005】
また、春先に飛散するスギ(Cryptomeria japonica)の花粉を初め、多種の植物の花粉もアレルゲンとなるものであり、特にアレルギー性鼻炎を発症させる原因となっている。飛散する花粉は春先のスギ花粉だけでなく、ヒノキ、ヨモギ、ブタクサ、カモガヤ等、多くの種類があり一年を通じて何らかの花粉が飛散している状態であり、いつの時期でも花粉によるアレルギーを引き起こす危険性があると考えられる。
【0006】
このようなダニや花粉等のアレルゲンを除去するためには、エアコンや空気清浄機を用いて空気をフィルターに通じる方法があるが、除去できるのは空気中に舞うアレルゲンのみであり、フィルターにアレルゲン物質を集める結果となり、フィルターを交換する際にはアレルゲンが再飛散する危険性がある。
【0007】
また、マスクはスギ等の花粉を吸入するのを防ぐために用いられているが、マスクに付着した花粉はアレルゲン性が消失するわけではないので、再飛散することによって吸収してしまう危険性がある。
【0008】
電気掃除機は、アレルゲン除去の方法として有効であるが、吸引したゴミに含まれる多量のアレルゲンは集塵袋に貯蔵されるだけであり、集塵袋の廃棄時にアレルゲンが再飛散する危険性が考えられる。
【0009】
アレルゲン物質のアレルギー性を低減あるいは除去するための薬剤に関しては、タンニン酸が古くから知られており、タンニン酸を応用する方法が提案されてきた。
しかし、タンニン酸は褐色に呈色しており、さらに経時的に着色が進行することで用途が制限される短所があった。
その後、着色や変色を起こしにくい抗アレルゲン剤として種々の提案が行われ、例えば亜鉛やマグネシウム等の無機塩を利用した方法が提案された(特許文献1、6)。
【0010】
しかし、このような無機塩は水溶性であり、水によって流脱することから繊維等の耐洗濯性が必要な用途には使用できないという問題点があった。
【0011】
水によって流脱しない抗アレルゲン剤についても、最近ではいくつかの提案が行われている。
さらに、着色や変色を起こさずに、しかも水によって流脱しない抗アレルゲン剤としては、非水溶性亜鉛化合物あるいは非水溶性亜鉛・金属酸化物の複合粒子を用いたアレルゲン不活化剤(特許文献2)が、さらに二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウムを用いたアレルゲン不活化剤が提案されているが、耐水性や継続的なアレルゲン不活化性能の点で満足できるものではなかった。
【0012】
また、これらの抗アレルゲン剤は水溶性ではないが、不織布、繊維、繊維製品、プラスチック製品、木質材料にバインダーとしてアクリルエマルジョン等の樹脂エマルジョンを用いて加工した場合(特許文献7)、バインダー量が十分な場合は抗アレルゲン剤を覆ってしまい、流脱を防ぐものの抗アレルゲン性能そのものが発揮されず、バインダー量が少ないと流脱を防ぐことができずに効力を維持できないことが多かった。
【0013】
また、抗アレルゲン剤として酸化チタン等の光触媒を利用したものも提案されている(特許文献3、4、5、7、8)が、光触媒は光のない条件では効力が発揮されにくく、光触媒作用により加工した基質そのものを劣化させてしまう恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2004−510717号公報
【特許文献2】特開2006−239393号公報
【特許文献3】特開2007−145742号公報
【特許文献4】特開2007−146453号公報
【特許文献5】特開2006−265498号公報
【特許文献6】特開2006−241431号公報
【特許文献7】特開2008−237793号公報
【特許文献8】特開2005−278781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、この発明の背景技術には、抗アレルゲン剤が水によって流脱(流失または脱落)しやすいため、繊維等に加工した場合に耐洗濯性が充分でなく、または耐水性とアレルゲンの低減化性という機能を両立させて継続できるものがなく、これらを必要とする用途において抗アレルゲン剤を使用できないという問題点がある。
【0016】
そこで、この発明の課題は、上記した背景技術の問題点を解決して、ダニや花粉等のアレルゲン物質のアレルゲン性を低減化させる抗アレルゲン組成物とし、さらに抗アレルゲン組成物で加工した不織布、繊維または繊維製品などの抗アレルゲン性加工品が、水洗されてもアレルゲン性を低減化させる機能を失わずに耐久性よく保持し、さらに着色や変色を起こさないこと、またこれらの組成物や加工品を用いて環境中に存在するアレルゲン性物質のアレルゲン性を効率よく低減化できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願の発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、平均粒子径5μm以下、好ましくは0.01μm以上の微粒子酸化タングステンが抗アレルゲン剤として卓越した効果を奏することを見出し、さらに耐水性を有する抗アレルゲン剤としても有効であることを見出した。
【0018】
すなわち、この発明は、(1)平均粒子径5μm以下(好ましくは0.01μm以上)である微粒子状酸化タングステンを含有することを特徴とする抗アレルゲン組成物であり、(2)酸化タングステンが、遷移金属を担持した酸化タングステンである抗アレルゲン組成物であり、(3)担持する遷移金属が、白金、銅、亜鉛、ニッケル及びコバルトから選択される1種以上の金属である抗アレルゲン組成物であり、(4)これらの抗アレルゲン組成物を加工した塗料、コーティング剤、樹脂製品、壁紙、不織布、繊維または繊維製品であり、また(5)これらの抗アレルゲン組成物を、塗料、コーティング剤、樹脂製品、壁紙、不織布、繊維または繊維製品に加工して、これらの加工物を人の生活環境中に存在させることにより、前記生活環境中のアレルゲン物質のアレルゲン性を低減させるアレルゲン低減化方法としたのである。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、所定粒径の酸化タングステンを含有することを特徴とする抗アレルゲン組成物としたことにより、ダニや花粉等のアレルゲン物質のアレルゲン性を低減化させる抗アレルゲン組成物となり、さらに抗アレルゲン組成物で加工した不織布、繊維または繊維製品などの抗アレルゲン性加工品が、水洗されてもアレルゲン性を低減化させる機能を失わずに耐久性よく保持され、さらに着色や変色を起こさないこと、またこれらの組成物やフィルターやマスクなどの加工品を用いて環境中に存在するアレルゲン性物質のアレルゲン性を効率よく低減化できるようになるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明に用いる微粒子状酸化タングステンは、工業用原料として入手可能な微粉末の酸化タングステンを使用することができ、そのような酸化タングステンの粉末を、水または溶剤に分散させれば種々の用途に用いやすくなる。分散を行うときには、適宜に分散剤としての界面活性剤等を添加可能である。
【0021】
光触媒性を高める金属を担持した酸化タングステンを調製する場合には、酸化タングステンに担持させる予定の金属を混合する。または酸化タングステンの前駆体となる化合物に対して担持させる予定の金属塩を混合し、この混合物を必要に応じて成形または塗布し、その後に焼成したり、光を照射することによって得ることもできる。
【0022】
例えば、白金を担持した酸化タングステンを調製するとき、0価の白金が担持されることが好ましく、金属の白金を混合することも可能であるが、例えば2価や4価の白金化合物を有機物と共に酸化タングステンの前駆体と混合し、それを焼成したり、光を照射することによって白金を担持した酸化タングステンが得られる。
【0023】
酸化タングステンの前駆体としては、タングステン酸塩を挙げることができ、タングステン酸塩としては種々のものが使用できる。例えば、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム等のタングステン酸塩が挙げられる。
【0024】
上記した2価や4価の白金化合物としては、特に制限なく例えば、ジクロロジアンミン白金(II)、ジニトロアンミン白金(II)、テトラアンミン白金(II)塩化物、塩化白金(II)、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸等を使用できる。
【0025】
これらの白金化合物は、二種類以上を混合して使用しても差し支えない。また、金属塩を還元させるために混合する有機物には特に制限はないが、グラファイト等の炭素材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、エポキシ樹脂、でんぷん等の粒子を用いることができる。これらの有機物は二種類以上を組み合わせて用いても差し支えない。
【0026】
担持する金属の量は、酸化タングステン100質量部に対して通常3.0質量部以下、好ましくは1.0質量部以下となるようにするのが適している。担持する金属量が3質量部よりも超えた場合には、抗アレルゲン効果の効率よい向上が期待できず、担持させる金属のコストや量からみて実用性を失する。
【0027】
担持させる金属には種々のものを使用することができ、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、白金、銀、金、イリジウム等の遷移金属が挙げられ、これらの中でも白金、銅、金が好ましい。これらの金属は、金属状態の微粒子、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩のいずれもが使用可能であり、一種類のみならず二種類以上を併用して担持することもできる。
【0028】
酸化タングステンの前駆体と上記有機物及び金属塩化合物の混合物を焼成する場合、気流焼成炉、トンネル炉、回転炉等の焼成装置を用いることができる。その場合の焼成温度は、350〜750℃の範囲、好ましくは400〜550℃の範囲で設定する。また焼成時間は、焼成温度や焼成装置の種類に応じて適宜設定すればよいが、通常は10分〜30時間の範囲、好ましくは30分〜10時間の範囲で設定する。
【0029】
この発明における酸化タングステン、または金属を担持した酸化タングステンの粒子径は、平均粒子径が5μm以下とすることによって、より高いアレルゲン低減化効果が奏される。また、酸化タングステンの平均粒子径の下限値は、この発明の作用効果からは特に設定する理由は認められないが、実用上の観点から平均粒子径0.01μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.03μm以上である。
【0030】
通常の工業製品である酸化タングステンを水に分散させた場合、平均粒子径は25μm以上の値を示すが、ガラスビーズやジルコニアビーズを用いて湿式粉砕を行うことによって粒子径を小さくすることができる。
【0031】
また、粉砕を行なった酸化タングステンまたは金属を担持した酸化タングステンの平均粒子径は、5μm以下とする必要があるが、好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、よりさらに好ましくは0.5μm以下とする。
【0032】
平均粒子径を測定するには、レーザー回折式粒度分布測定装置を使用することができ、後述する実施例では株式会社島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2200を使用し、平均粒子径の値としてメディアン径を用いた。ただし、他の粒度分布測定装置、例えば遠心沈降式粒度分布測定装置を使用することも可能であり、この場合はレーザー回折式粒度分布測定装置との相関を取っておくことが好ましい。
【0033】
また同じレーザー回折式粒度分布測定装置であっても、機器メーカーの違いやレーザー光源の波長分布によって平均粒子径の測定値が異なる場合があり、種々の機器同士で相関を取っておくことが好ましい。
【0034】
酸化タングステンや特に遷移金属を担持した酸化タングステンは、光触媒としての性能を示すが、本願発明の抗アレルゲン剤としての性能に関しては、必ずしも光の存在は必要ではなく、暗所においてもアレルゲン低減化効果を発揮する。
【0035】
また、酸化タングステンは、水や有機溶剤に溶解しないため、製剤化を行う場合にはフロアブル剤が適している。フロアブル剤を調製するには、酸化タングステンを分散剤と共に湿式粉砕を行うことで可能である。フロアブル剤とする場合には、通常、水をベースとした製剤を行うことが有利であるが、水以外の溶剤をベースとしたフロアブル剤を調製することも可能である。
フロアブル剤等の抗アレルゲン組成物中の酸化タングステンの含有率は、0.01〜60%の範囲で調製できるが、好ましくは0.1〜50%、さらに好ましくは1〜30%で調製できる。60%を超えると剤の流動性が低下し、0.01%未満であると有効成分量が少なくなり適切な加工が難しくなる。
【0036】
抗アレルゲン組成物に使用する溶剤については、特に制限はないが、非極性溶剤と極性溶剤のいずれも使用可能である。このような溶剤の例としては、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量1000以下)、ポリプロピレングリコール(分子量1000以下)、酢酸エチル、酢酸ブチル、灯油、アルキルベンゼン、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、流動パラフィン等が挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して使用しても差し支えない。
【0037】
フロアブル剤とするときの分散剤については、アニオン系界面活性剤または非イオン系界面活性剤、あるいはこれらの併用が通常使用されるが、カチオン系界面活性剤や両性界面活性剤を使用することも可能である。界面活性剤の種類は特に限定されないが、非イオン性界面活性剤として、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
アニオン性界面活性剤にはアルキルベンゼンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ジアルキルスルホサクシネート等が挙げられる。カチオン性界面活性剤では脂肪族アミン塩や4級アンモニウム塩等が挙げられ、両イオン性界面活性剤ではベタイン型界面活性剤、アミノカルボン酸塩等が挙げられる。
また、これらの非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤は一種を単独に用いても二種以上を併用してもよい。
【0039】
この発明の抗アレルゲン組成物に対して、公知の抗アレルゲン成分をさらに添加することも可能である。そのような抗アレルゲン成分としては、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシ安息香酸系化合物またはその塩等や柿渋等が挙げられる。
【0040】
この発明の抗アレルゲン組成物は、屋内塵性ダニのアレルゲン除去を目的に使用する場合は、殺ダニ剤を添加して加工することにより、その抗アレルゲン効果をさらに持続させることも可能である。
【0041】
使用する殺ダニ剤は、屋内塵性ダニに対して致死効果や忌避効果のあるものであれば特に限定はなく、例えば、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、サリチル酸フェニル、シンナムアルデヒド、ヒソップ油、ニンジン種子油等を用いることができ、また天然ピレトリン、フェノトリン、ペルメトリン等のピレスロイド系化合物、フェニトロチオン、マラチオン、フェンチオン、ダイアジノン等の有機リン系化合物、ジコホル、クロルベンジレート、ヘキシチアゾクス、テブフェンピラド、ピリダベン、アミドフルメト等を用いることができる。
【0042】
この発明の抗アレルゲン組成物は、不織布、繊維または繊維製品に浸漬、塗布、スプレー等の方法によって加工して使用することができる。繊維または繊維製品としては、衣料品、カーペット、ソファー、壁紙、カーテン等のインテリア類、布団側地、布団カバー、布団中綿、シーツ、枕カバー、マット等の寝具類、カーシート、カーマット、天井材及び床材等の自動車部品類、ぬいぐるみ等が挙げられ、不織布としては掃除用ウェットワイパー、マスク、フィルター材料、電気掃除機の集塵袋等が挙げられる。
【0043】
この発明の抗アレルゲン組成物を加工することができる不織布や繊維には種々のものがあるが、たとえばナイロン、綿、ポリエステル、羊毛等が挙げられ、これらの繊維を2種類以上使用した複合繊維であっても差し支えない。また、ポリエチレンやポリプロピレンを用いた不織布にも使用することが可能である。
【0044】
この発明の抗アレルゲン組成物の不織布、繊維または繊維製品への加工方法は、特に限定されるものではないが、浸漬処理、スプレー処理、吸尽加工等を行うことが可能である。
繊維への加工量は、不織布、繊維または繊維製品の重量に対して、酸化タングステンまたは金属を担持した酸化タングステンとして0.01〜10g/mであり、好ましくは0.05〜2g/mであり、さらに好ましくは0.1〜1g/mである。
【0045】
この発明の抗アレルゲン組成物を不織布や繊維、繊維製品に加工すると、高い耐洗濯性を示すが、洗濯耐久性をさらに向上させるために、バインダーを併用することも可能である。バインダーの種類については、アクリルやウレタン等のいずれの種類の樹脂エマルジョンも使用することが可能である。ウレタンバインダーは、エステル型、エーテル型、ポリカーボネート型等いずれの種類でも差し支えなく、イオン性についてもアニオン性、カチオン性、非イオン性いずれでも差し支えない。
【0046】
また、使用するバインダーの濃度については、特に制限はないが、配合される樹脂の量は、酸化タングステンの等量以下であることが望ましい。バインダーの使用量があまり多くなりすぎると、抗アレルゲン剤を覆ってしまう結果となり効力が発揮されにくくなる。
【0047】
この発明の抗アレルゲン組成物の製剤化に際しては、前述の界面活性剤、防ダニ剤の他に、必要に応じてキレート剤、防錆剤、抗菌剤、香料、スケール防止剤、消泡剤、帯電防止剤、増粘剤、柔軟加工剤等を添加することも可能である。
【0048】
この発明の抗アレルゲン組成物の使用形態としては、主に加工剤用途が挙げられる。
また、洗濯耐久性を要求される繊維または繊維製品以外にも、生活環境中で人が接触する可能性のある組成物、たとえば柔軟剤、消臭剤、防カビ剤、除菌剤、殺虫剤、塗料、接着剤等に添加することによって生活環境中のアレルゲンを低減化させることも可能であり、生活環境中で人が接触する可能性のある材料、たとえば木材、木質材料、合板、コンクリート、金属、石、ガラス等の建材等、ゴム、紙、樹脂、プラスチックのよる成型品等に加工することによって生活環境中のアレルゲンを低減化させることも可能である。
【0049】
この発明の抗アレルゲン組成物、およびそれを加工した不織布、繊維または繊維製品等を使用することにより、ハウスダスト中のダニ由来のアレルゲン、イヌやネコ等のペットの毛や上皮、ゴキブリ、羽毛、カビ由来のアレルゲン、及びスギ、ヨモギ、ハルガヤ、ヒノキ、ブタクサ等の花粉、天然ゴムラテックス等の植物アレルゲンを低減化することができ、多種のアレルゲンを実質的になくすことができる。従って、この発明は、人の生活環境中のアレルゲンがハウスダスト中のダニアレルゲンや植物アレルゲンの場合に特に効果的に作用するものである。
【実施例】
【0050】
以下に、この発明の実施形態を実施例および評価試験によって更に詳しく説明する。なお、下記に示す%は、全て質量%である。
【0051】
[実施例1]
酸化タングステン(和光純薬工業株式会社製)30g、アニオン系界面活性剤(花王株式会社製:ポイズ520)1g、水69gを混合し、直径1mmのガラスビーズを用いて湿式粉砕を15分間行い、30メッシュの金網でガラスビーズを取り除いた。この分散液をイオン交換水で3倍に希釈し、酸化タングステン10%の分散物を得た。酸化タングステンの平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製:SALD2200)で測定したところ、0.4μmであった。
【0052】
[実施例2]
酸化タングステン(和光純薬工業株式会社製)30g、アニオン系界面活性剤(花王株式会社製:ポイズ520)1g、水69gを混合し、直径1mmのガラスビーズを用いて湿式粉砕を2分間行い、30メッシュの金網でガラスビーズを取り除いた。この分散液をイオン交換水で3倍に希釈し、酸化タングステン10%の分散物を得た。酸化タングステンの平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定したところ、5.0μmであった。
【0053】
[実施例3]
国際公開第11/068095号の実施例1に記載の方法に従って、白金を担持した酸化タングステン10%の分散物を得た。得られた酸化タングステンの平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定したところ、0.4μmであった。
【0054】
[比較例1]
酸化タングステン(和光純薬工業株式会社製)30g、アニオン系界面活性剤(花王株式会社製:ポイズ520)1g、水269gを混合してよく振り混ぜ、酸化タングステン10%の分散液を得た。この分散液の酸化タングステンの平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定したところ、28μmであった。
【0055】
[比較例2]
アナタース型酸化チタン(石原産業株式会社製:ST−01)20g、アニオン系界面活性剤(花王株式会社製:ポイズ520)1.0g、水79gを混合し、直径1mmのガラスビーズを用いて湿式粉砕を20分間行い、酸化チタンの分散物を得た。酸化チタンの平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定し、2.7μmであった。
【0056】
[比較例3]
酸化亜鉛(和光純薬工業株式会社製)30g、アニオン系界面活性剤(花王株式会社製:ポイズ520)1.0g、水69gを混合し、直径1mmのガラスビーズを用いて湿式粉砕を15分間行い、酸化亜鉛の分散物を得た。酸化亜鉛の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定し、0.7μmであった。
【0057】
[比較例4]
タンニン酸(富士化学工業株式会社製)25g、水60gおよびエタノール15gを混合溶解し、タンニン酸溶液を得た。
【0058】
[評価試験1](抗アレルゲン組成物によるダニアレルゲンの低減化効果の測定)
標準ハウスダストに含まれるダニアレルゲンDer f2約900ng/mL{リン酸緩衝液(pH7.2)}溶液1mLに対し、実施例1〜3及び比較例1〜3をそれぞれイオン交換水で10倍に希釈した液、さらに対照として蒸留水をそれぞれ50μL、暗所において反応させた。これら試料についてDer f2酵素免疫測定法(ELISA)のサンドイッチ法にてダニアレルゲンの低減化効果の測定を行った。
【0059】
まず、リン酸緩衝液(pH7.4)で2μg/mLに希釈した抗Der f2 モノクローナル抗体15E11を、F16 MAXISORP NUNC−IMMUNO MODULEプレート(NUNC社製)の1ウェルあたり100μLずつ添加し、4℃にて3日以上感作させた。感作後、液を捨て、ブロッキング試薬{1質量%牛血清アルブミン+リン酸緩衝液(pH7.2)}を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液(pH7.2)にてプレートを洗浄した。
【0060】
次に、ダニアレルゲンと上記組成物を反応させて得られた抽出液を1ウェルあたり100μLずつ滴下し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液(pH7.2)にてプレートを洗浄した。そして、ペルオキシダーゼ標識した抗Der f2モノクローナル抗体をリン酸緩衝液{pH7.2、1質量%牛血清アルブミン及び0.05質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で200μg/mLに溶解し、それをリン酸緩衝液(pH7.2、1質量%牛血清アルブミン及び0.05質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有)で1200倍希釈した液を、1ウェルあたり100μLずつ添加した。
【0061】
37℃、60分間反応させた後、リン酸緩衝液(pH7.2)でプレートを洗浄した。0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.2)6.5mLにオルト−フェニレンジアミンジヒドロクロライド(和光純薬工業株式会社製:13mg Tablet)1錠と30%過酸化水素水6.5μLを加えたものを1ウェルあたり100μLずつ添加し、37℃で3分間反応させた。
【0062】
その後、直ちに、1mol/L HSOを50μLずつ入れて反応を停止させ、マイクロプレート用分光光度計(テカンジャパン株式会社製)で吸光度(OD490nm)を測定し、その結果を表1中に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果からも明らかなように、実施例1〜3のダニアレルゲン量の減少率は、比較例1〜3に比べて充分に大きく、ダニアレルゲンのアレルゲン性を低減化させる抗アレルゲン組成物が得られていることがわかる。
【0065】
[評価試験2](抗アレルゲン組成物によるスギ花粉アレルゲンCry j1の低減化効果の測定)
実施例1〜3及び比較例1〜3をそれぞれ有効成分が0.2%となるようにイオン交換水で希釈した。スギ花粉に含まれるスギ花粉アレルゲンCry j1約12.5ng/mL{リン酸緩衝液(pH7.2)}溶液1mLに対しこれらの希釈液と、対照として蒸留水をそれぞれ50μL、暗所において反応させた。これら試料についてCry j1酵素免疫測定法(ELISA)のサンドイッチ法にてスギ花粉アレルゲンの低減化効果の測定を行った。
【0066】
まず、リン酸緩衝液(pH7.4、0.1質量%NaN含有)で2μg/mLに希釈したCry j1モノクローナル抗体013を、F16 MAXISORP NUNC−IMMUNO MODULEプレート(NUNC社製)の1ウェルあたり100μLずつ添加し、4℃にて1日以上感作させた。感作後、液を捨て、ブロッキング試薬{1質量%牛血清アルブミン+リン酸緩衝液(pH7.2、0.1質量%NaN含有)}を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。
【0067】
次に、スギ花粉アレルゲンと上記組成物を反応させて得られた抽出液を1ウェルあたり100μLずつ滴下し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。ペルオキシダーゼ標識したCry j1モノクローナル抗体053を蒸留水で200μg/mLに溶解し、それをリン酸緩衝液{pH7.2、1質量%牛血清アルブミン及び0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で1200倍希釈した液を、1ウェルあたり100μLずつ添加した。37℃、60分間反応させた後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}でプレートを洗浄した。
【0068】
0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.2)13mLにオルト−フェニレンジアミンジヒドロクロライド(26mg Tablet、SIGMA CHEMICAL CO.製)と30%過酸化水素水13μLを加えたものを1ウェルあたり100μLずつ添加し、37℃、5分間反応させた。その後、直ちに、2mol/L HSOを50μLずつ入れて反応を停止させ、マイクロプレート用分光光度計(テカンジャパン株式会社製)で吸光度(OD490nm)を測定し、その結果を表2に示した。
【0069】
【表2】

【0070】
表2の結果からも明らかなように、実施例1〜3のスギ花粉アレルゲン量の減少率は、比較例1〜3に比べて充分に大きく、花粉アレルゲンのアレルゲン性を低減化させる抗アレルゲン組成物が得られていることがわかる。
【0071】
[加工品によるダニアレルゲンの低減化効果の測定]
(加工例1、不織布への加工)
実施例1〜2または比較例1、4をそれぞれイオン交換水で80倍に希釈した液50gに80g/mの不織布(20cm×30cm)を1分間浸漬し、しぼり率200%で処理後、110℃で10分間乾燥させた(加工量は2g/m)。このようにして加工した不織布を二つに切断し、一方を4Lのイオン交換水に浸漬して30分間攪拌し、取り出して室温で風乾し水洗後の試料とした。
【0072】
[評価試験3](抗アレルゲン組成物加工不織布のダニアレルゲンの低減化効果の測定)
加工例1において加工した不織布またはブランク布を5cm×5cmに切り取り、チャック付きポリ袋に投入し標準ダニアレルゲン懸濁液(アレルゲン量900ng/mL)1mLを加え、試料とアレルゲンを接触させた。なお、接触は光を照射しない条件で行なった。1時間後にチャック付きポリ袋からアレルゲン液を搾り出し、遠心分離後のこれら試料について、Der f2酵素免疫測定法(ELISA)のサンドイッチ法にてダニアレルゲンの低減化効果の測定を行なった。
【0073】
まず、リン酸緩衝液(pH7.4、0.1質量%NaN含有)で2μg/mLに希釈したDer f2モノクローナル抗体15E11を、F16 MAXISORP NUNC−IMMUNO MODULEプレート(NUNC社製)の1ウェルあたり200μLずつ添加し、4℃にて3日以上感作させた。感作後、液を捨て、ブロッキング試薬{1質量%牛血清アルブミン+リン酸緩衝液(pH7.2、0.1質量%NaN含有)}を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。次に、加工不織布と接触させたダニアレルゲン抽出液試料を1ウェルあたり100μLずつ滴下し、37℃、60分間反応させた。
【0074】
反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。ペルオキシダーゼ標識したDer f2モノクローナル抗体を蒸留水で200μg/mLに溶解し、それをリン酸緩衝液{pH7.2、1質量%牛血清アルブミン及び0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で1000倍希釈した液を、1ウェルあたり100μLずつ添加した。37℃、60分間反応させた後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で、次いで蒸留水でプレートを洗浄した。0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.2)13mLにオルト−フェニレンジアミンジヒドロクロライド(26mg Tablet、SIGMA CHEMICAL CO.製)と30%過酸化水素水13μLを加えたものを1ウェルあたり100μLずつ添加し、37℃、5分間反応させた。その後、直ちに2mol/L HSOを50μLずつ入れて反応を停止させ、マイクロプレート用分光光度計(テカンジャパン株式会社製)で吸光度(OD490nm)を測定し、その結果を表3に示した。
【0075】
【表3】

【0076】
表3の結果からも明らかなように、実施例1、2のダニアレルゲンの減少率は、水洗後にも比較的高い値を維持しており、抗アレルゲン組成物は水洗されてもアレルゲン性を低減化させる機能を失わずに耐久性よく保持されていることがわかる。また、粒径28μmという大粒径の酸化タングステンを使用した比較例1では、当初からダニアレルゲンの減少率は低く、水洗後も同様の結果であった。
【0077】
[評価試験4](抗アレルゲン組成物加工不織布のスギ花粉アレルゲンの低減化効果の測定)
加工例1において加工した不織布またはブランク布を5cm×5cmに切り取り、チャック付きポリ袋に投入し標準スギ花粉アレルゲン懸濁液(アレルゲン量12.5ng/mL)1mLを加え、試料とアレルゲンを接触させた。なお、接触は光を照射しない条件で行なった。1時間後にチャック付きポリ袋からアレルゲン液を搾り出し、遠心分離後のこれら試料についてCry j1酵素免疫測定法(ELISA)のサンドイッチ法にてダニアレルゲンの低減化効果の測定を行なった。
【0078】
まず、リン酸緩衝液(pH7.4、0.1質量%NaN含有)で2μg/mLに希釈したCry j1モノクローナル抗体013を、F16 MAXISORP NUNC−IMMUNO MODULEプレート(NUNC社製)の1ウェルあたり100μLずつ添加し、4℃にて1日以上感作させた。感作後、液を捨て、ブロッキング試薬{1質量%牛血清アルブミン+リン酸緩衝液(pH7.2、0.1質量%NaN含有)}を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。次に、加工不織布と接触させたスギ花粉アレルゲン抽出液試料を1ウェルあたり100μLずつ滴下し、37℃、60分間反応させた。
【0079】
反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。ペルオキシダーゼ標識したCry j1モノクローナル抗体053を蒸留水で200μg/mLに溶解し、それをリン酸緩衝液{pH7.2、1質量%牛血清アルブミン及び0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で1200倍希釈した液を、1ウェルあたり100μLずつ添加した。37℃、60分間反応させた後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}でプレートを洗浄した。0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.2)13mLにオルト−フェニレンジアミンジヒドロクロライド(26mg Tablet、SIGMA CHEMICAL CO.製)と30%過酸化水素水13μLを加えたものを1ウェルあたり100μLずつ添加し、37℃、5分間反応させた。その後、直ちに2mol/L HSOを50μLずつ入れて反応を停止させ、マイクロプレート用分光光度計(テカンジャパン株式会社製)で吸光度(OD490nm)を測定し、その結果を表4に示した。
【0080】
【表4】

【0081】
表4の結果からも明らかなように、実施例1、2のスギ花粉アレルゲンの減少率は、水洗後にも比較的高い値を維持しており、抗アレルゲン組成物は水洗されてもアレルゲン性を低減化させる機能を失わずに耐久性よく保持されていることがわかる。また、粒径28μmという大粒径の酸化タングステンを使用した比較例1では、当初はスギ花粉アレルゲンの減少率は13%という数値であったが、水洗後は殆どなくなり、水洗によって効果が失われたことがわかる。
【0082】
[加工例2、不織布への加工]
実施例3をそれぞれイオン交換水で65倍または130倍に希釈した液50gに80g/mの不織布(20cm×20cm)を1分間浸漬し、しぼり率160%で処理後、110℃で10分間乾燥させた(加工量は約1g/m2または約2g/m)。このようにして加工した不織布を二つに切断し、一方を4Lのイオン交換水に浸漬して30分間攪拌し、取り出して室温で風乾し水洗後の試料とした。
【0083】
[評価試験5](抗アレルゲン組成物加工不織布のダニアレルゲンの低減化効果の測定)
加工例2において加工した不織布またはブランク布を5cm×5cmに切り取り、チャック付きポリ袋に投入し標準ダニアレルゲン懸濁液(アレルゲン量900ng/mL)1mLを加え、試料とアレルゲンを接触させた。これに20Wの蛍光灯を6000ルクスとなるように照射を1時間行ったものと暗所に1時間保管したものを調製した。次に、チャック付きポリ袋からアレルゲン液を搾り出し、遠心分離後のこれら試料についてDer f2酵素免疫測定法(ELISA)のサンドイッチ法にてダニアレルゲンの低減化効果の測定を行なった。
【0084】
まず、リン酸緩衝液(pH7.4、0.1質量%NaN含有)で2μg/mLに希釈したDer f2モノクローナル抗体15E11を、F16 MAXISORP NUNC−IMMUNO MODULEプレート(NUNC社製)の1ウェルあたり200μLずつ添加し、4℃にて3日以上感作させた。感作後、液を捨て、ブロッキング試薬{1質量%牛血清アルブミン+リン酸緩衝液(pH7.2、0.1質量%NaN含有)}を1ウェルあたり200μLずつ添加し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。次に、加工不織布と接触させたダニアレルゲン抽出液試料を1ウェルあたり100μLずつ滴下し、37℃、60分間反応させた。反応後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}にてプレートを洗浄した。ペルオキシダーゼ標識したDer f2モノクローナル抗体を蒸留水で200μg/mLに溶解し、それをリン酸緩衝液{pH7.2、1質量%牛血清アルブミン及び0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で1000倍希釈した液を、1ウェルあたり100μLずつ添加した。37℃、60分間反応させた後、リン酸緩衝液{pH7.2、0.1質量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート含有}で、次いで蒸留水でプレートを洗浄した。0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH6.2)13mLにオルト−フェニレンジアミンジヒドロクロライド(26mg Tablet、SIGMA CHEMICAL CO.製)と30%過酸化水素水13μLを加えたものを1ウェルあたり100μLずつ添加し、37℃、5分間反応させた。その後、直ちに、2mol/L HSOを50μLずつ入れて反応を停止させ、マイクロプレート用分光光度計(テカンジャパン株式会社製)で吸光度(OD490nm)を測定し、その結果を表5に示した。
【0085】
【表5】

【0086】
表5の結果からも明らかなように、白金を担持した酸化タングステンを用いた抗アレルゲン組成物を用いた実施例3は、光照射によってアレルゲン低減効果が活性化され、減少率が高められた。なお、実施例3は、光照射されなくても使用に耐えるアレルゲン低減効果を有していた。また、光照射の有無にかかわらず、水洗の前後でアレルゲン低減効果は変化を受けておらず、水洗されてもアレルゲン性を低減化させる機能を失わずに耐久性よくダニアレルゲン低減効果が維持されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
この発明により、ダニや花粉等のアレルゲン物質のアレルゲン性を低減化させることができ、また不織布、繊維または繊維製品に洗濯耐久性のある、アレルゲン性を低減化させる機能を付与するための抗アレルゲン組成物、及びアレルゲンを低減化できる塗料、プラスチック製品、塩化ビニル壁紙、不織布、繊維または繊維製品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径5μm以下の微粒子状酸化タングステンを含有することを特徴とする抗アレルゲン組成物。
【請求項2】
酸化タングステンが、遷移金属を担持した酸化タングステンである請求項1に記載の抗アレルゲン組成物。
【請求項3】
上記遷移金属が、白金、銅、亜鉛、ニッケルおよびコバルトからなる群から選ばれる1種以上の金属である請求項2に記載の抗アレルゲン組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗アレルゲン組成物を加工した塗料、コーティング剤、樹脂製品、壁紙、不織布、繊維または繊維製品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗アレルゲン組成物を、塗料、コーティング剤、樹脂製品、壁紙、不織布、繊維または繊維製品に加工し、これらを人の生活環境で用いることからなるアレルゲン物質のアレルゲン低減化方法。

【公開番号】特開2013−64058(P2013−64058A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203229(P2011−203229)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】