説明

抗イディオタイプ抗体を得る方法

【課題】自己免疫疾患関連自己抗体(auto−antibody)(自己抗体(autoantibodies))の1イディオタイプを模倣する分子の同定方法。
【解決手段】該方法は、以下の段階、すなわち(a)自己免疫疾患に苦しめられている1人若しくはそれ以上の患者の血清から自己抗体を精製すること;(b)該自己抗体を固相に結合してアフィニティーマトリックスを形成すること;(c)免疫グロブリンを含んでなるプールした血漿若しくはB細胞をアフィニティーマトリックスと接触させること、次いで未結合の血漿成分を除去すること;(d)自己抗体に対する抗イディオタイプ抗体(抗Id)である結合した免疫グロブリンをマトリックスから溶出すること;(e)複数の分子メンバーを含んでなる分子ライブラリーを提供すること;ならびに(e)該分子ライブラリーと抗Idを接触させること、および該抗Idにより結合される結合した分子を単離すること(該結合した分子は自己抗体の1イディオタイプを模倣する分子である)を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫性自己抗体を模倣する合成分子の選択のための一ツールとして、および自己免疫疾患における治療的使用のための特異的抗体の単離のための一供給源としての、プールした血漿から精製した免疫グロブリンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症(MG)および特発性血小板減少性紫斑病(ITP)のような自己免疫疾患は、自己成分を認識かつ攻撃するように個体の免疫系が始動される場合に発生する。例えば、SLEは典型的な異常な臨床検査値を伴う軽度の臨床所見から生命を脅かす状態までの範囲にわたる非常に多彩な臨床症状発現を伴う多系自己免疫疾患である。臨床検査値異常は、夥しい組織抗原に対する自己抗体の高力価を包含する。DNA、RNA、ヒストン、核タンパク質およびタンパク質−核複合体のような細胞核の成分に対し向けられるものが最も特徴的である。SLEの臨床経過は高度に変動性かつ予測不可能であり、寛解および再発の期間を頻繁に伴う。
【0003】
SLEを伴う患者の生存は、主としてコルチコステロイドおよび細胞傷害性薬物の使用により、過去数十年にわたって顕著に改善した。こうした医薬は強力な抗炎症および免疫調節効果を有する一方、それらの使用は免疫抑制、骨髄抑制および/若しくは多数の他の頻繁な副作用により厳しく制限されている。この障害のための免疫調節療法の安全かつ効率的な一様式はなお欠如している。
【0004】
静脈内免疫グロブリン(IVIG)は何千名もの健康な血液供与者から収集したプールしたヒト血漿から製造した高度に精製されたIgG製剤である。IVIGは自己免疫疾患に罹っている患者の臨床的改善を生じさせ得ることが既知である。高用量の静脈内免疫グロブリン(IVIG)の投与は免疫調節性であるがしかし免疫抑制的若しくは骨髄傷害性でない。IVIGは動物モデルおよびヒトにおいてSLEを調節することが可能であるのみならず、しかしそれはまた感染を助長するよりはむしろそれに対する防禦も提供しうる。しかしながら、SLEの治療においてIVIGを使用することは、現在、費用、作用機序の不十分な理解および臨床的有効性に関する文献に提示されている逸話的報告により制限されている。
【0005】
抗体はそれらのH鎖の構造に基づき異なるクラスに分類される。これらはIgG、IgM、IgAおよびIgEを包含する。同一の定常構造を有する抗体は同一の「アイソタイプ」のものであるとみなされる。異なるアレルの遺伝の結果として異なる抗原決定基を有する同一アイソタイプの抗体は「アロタイプ」と呼ばれる。抗体の抗原結合部位に関連するLおよび/若しくはH鎖の可変領域中の抗原決定基は「イディオタイプ」と呼ばれる。あるイディオタイプに対して生じる若しくは反応する抗体は「抗イディオタイプ抗体」(抗Id)と呼ばれる。
【0006】
特許文献1はヒト抗DNA抗体に対するモノクローナル(mAB)抗Id抗体の製造を開示する。該mABは複数のSLE患者の抗DNA抗体上に存在する決定基を結合する。該決定基は好ましくは抗体のDNA結合部位の外側にある。抗天然DNA抗体(anti−native DNA antibody)の血清中での測定のための診断試薬、およびSLEに罹っている患者の血清からの抗天然DNA抗体の除去方法で使用しうる治療的試薬もまた開示される。
【0007】
非特許文献1は、SLEを伴う7例の無関係の患者由来であったヒト−ヒトハイブリドーマにより産生された60種のポリヌクレオチドに結合するモノクローナルの狼瘡自己抗体中でのイディオタイプの交差反応の評価を記述する。2例の患者からのモノクローナル自己抗体でのウサギ若しくはマウスの免疫感作により3種の抗イディオタイプ試薬を製造した。該3種の試薬のそれらの対応するイディオタイプへの結合は、1種若しくはそれ以上のポリヌクレオチドにより阻害され、該抗イディオタイプが自己抗体の可変領域と反応したことの表示である。モノクローナル抗イディオタイプ試薬は7例の患者のうち6例からの自己抗体と交差反応し、そして16/6と命名された。無関係の患者からの免疫グロブリンのイディオタイプの交差反応は、該自己抗体が、SLEを伴う患者により発現される生殖系列遺伝子の関連したファミリー由来であることを示唆する。
【0008】
非特許文献2は、SLE患者の血清由来の抗DNA抗体に結合するプールした正常ヒトIgGからの抗Id抗体の製造を記述する。SLE患者に対するIVIGの治療効果は部分的に抗イディオタイプ抗体のIVIG中での存在によるかもしれないと仮定されている。
【0009】
この仮説は、IVIGから精製した抗Id抗体による狼瘡患者由来の抗DNAを分泌する末梢血単核細胞のin vitro調節を記述する同一著者によるその後の論文(非特許文献3)でさらに裏付けられた。
【0010】
非特許文献4は、SLEと関連する抗DNA抗体に関する多数のイディオタイプ(Id)マーカーを記述する。これらのマーカーは16/6、F4、3Iおよび8.12を包含する。多発性骨髄腫を伴う患者から単離した100種の陽イオン性ヒトIgG骨髄腫タンパク質の43%が、該Idマーカーの最低1種の存在を示すことが見出された。抗DNA Idのいくつかは会合しているようであるがしかし正確な構造的基礎はさらなる研究を必要とすると述べられている。
【0011】
特許文献2は、マウスでSLE様疾患を誘発する(実験的SLE)病原性の抗DNA MabのH若しくはL鎖の相補性決定領域(CDR)の部分を複製する合成ペプチドを開示する。具体的には、12〜30アミノ酸の5ペプチドの配列が開示されている。SLE患者から単離したTリンパ球の増殖応答を阻害するためのこうしたペプチドの使用もまた開示される。
【0012】
非特許文献5は、16/6 Idをもつ病原性の抗DNA MabのCDR1およびCDR3の配列に基づく2種のペプチドの合成および特徴付けを記述する。該ペプチドはマウスで実験的SLEを調節することが見出された。
【0013】
特許文献3は、抗DNA抗体上に位置するイディオタイプ決定基に対する特異性を有する精製した抗Id抗体(抗DNA抗Id)を含んでなる抗体組成物を投与することによるSLEの治療方法を開示する。IVIGからの抗DNA抗Idの精製方法もまた開示される。該方法において、イディオタイプ決定基を発現するガンマグロブリン血症を伴う患者からの抗DNA骨髄腫抗体を固相に結合する。IVIGに該固相を通過させ、そして結合画分を溶出し、該結合画分は抗DNA抗Idを含有する。
【0014】
特許文献3は自己反応性の自己抗体のイディオタイプ決定基を複製することが可能な合成ペプチドを製造する可能性もまた開示する。こうした決定基は、非特許文献6に記述されているところのコンピュータプログラムに基づくイディオタイプと抗イディオタイプの相互作用の疎水性プロファイルの比較により同定されるかもしれない。これらの合成ペプチドは固相に結合されてもよく、そして上述されたとおりIVIGから抗DNA抗Idを精製するのに使用してよい。
【0015】
非特許文献7は、SLE患者から単離したポリクローナルおよびモノクローナル双方の抗DNA抗体に対する広範な交差反応性を示すことが見出された4種のSLE血清からのヒト抗イディオタイプの単離を記述する。該抗イディオタイプは単一の狼瘡患者から調製した、精製済IgG抗dsDNA F(ab’)アフィニティーカラム上で単離した。
【0016】
非特許文献8は、5種のランダムペプチドファージディスプレイライブラリー、ならびに感染していない個体およびC型肝炎ウイルス(HCV)により感染した患者からの血清抗体を使用するリガンドのスクリーニングおよび同定を記述する。該ウイルスの数種の免疫優性エピトープを模倣する多量体合成ペプチドを使用して、血清中のHCVに対する抗体を検出する診断アッセイを開発した。
【0017】
非特許文献9はミモトープ(mimotope)のようなdsDNA上の抗原性および免疫原性エピトープを模倣するペプチドについてファージペプチドライブラリーをスクリーニングするためのSLE患者の血清から単離した抗dsDNA抗体の使用を記述する。該合成ペプチドミモトープは配列RLTSSLRYNPを有し、そしてssDNAと交差反応する抗dsDNA抗体陽性SLE血清の88%により認識された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4,690,905号明細書(Diamond)
【特許文献2】第WO 96/30057号明細書(Mozes)
【特許文献3】米国特許第6,231,856号明細書(Williams)
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Shoenfeld Yら、(1983)J.Exp Med.158(3):718−30
【非特許文献2】Evans,M.J.ら(1991)J.Clin.Immunol.11:291−5
【非特許文献3】Evans,M.とAbdou,N.I.(1993)Lupus 2:371−375
【非特許文献4】Williams Jr.,R.C.ら(1994)Clin.Immunol.Immunopath.73:215−223
【非特許文献5】Waisman,A.ら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.94:4620−4625
【非特許文献6】Maier,C.C.ら(1994)Immunomethods 5:107−113
【非特許文献7】Zhang,W.ら(2001)Scand.J.Immunol.53:192−197
【非特許文献8】Monaci,P.ら(2001)Europ.J.of Biochem.268:4758−4768
【非特許文献9】Sun,Y.ら(2001)Int.Immunol.13:223−232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
自己免疫疾患と関連する抗体中に存在する抗原決定基を模倣する分子を提供することが、本発明の一目的である。
【0021】
こうした分子の製造方法を提供することが、本発明のさらなる一目的である。
【0022】
自己免疫疾患を治療するのに使用しうる抗イディオタイプ抗体の製造方法を提供することが、本発明のなおさらなる一目的である。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第一の局面において:
(a)自己免疫疾患に苦しめられている1人若しくはそれ以上の患者の血清から自己抗体を精製すること;
(b)該自己抗体を固相に結合してアフィニティーマトリックスを形成すること;
(c)免疫グロブリンを含んでなるプールした血漿若しくはB細胞を該アフィニティーマトリックスと接触させ、次いで未結合の血漿成分を除去すること;
(d)自己抗体に対する抗イディオタイプ抗体(抗Id)である結合した免疫グロブリンをマトリックスから溶出すること;
(e)複数の分子メンバーを含んでなる分子ライブラリーを提供すること;ならびに
(f)該抗Idを該分子ライブラリーと接触させること、および該抗Idにより結合される結合した分子を単離すること(該結合した分子は自己抗体のあるイディオタイプを模倣する分子である)
を含んでなる、1種または複数の自己免疫疾患関連自己抗体(auto−antibody)のイディオタイプを模倣する分子の同定方法を提供する。
【0024】
本発明は、抗原を結合する抗体中よりもむしろ疾患に関連する抗原中に存在する抗原決定基を模倣する分子を単離する以前に記述された方法と異なり、自己免疫疾患と関連する抗体中に存在する抗原決定基を模倣する分子の単離に基づく。
【0025】
本発明の方法は、本発明の分子および抗体は疾患に罹った個体から採取した血清と接触させずに製造され、その結果生成物は患者への投与に安全であるために、以前に知られている方法と異なる。
【0026】
本明細の情況において、以下の用語は、別の方法で示されない限り、それらの後に続く意味するところを有する:
自己免疫疾患は自己抗原に対する細胞性および体液性応答の結果である。体液性の優勢な自己免疫状態は、それが今日そうであることが知られているにしろ将来そうしたものとして診断されうるものであるにしろ、患者自身のエピトープの1種若しくはそれ以上を結合する抗体を患者がその経過中に産生する疾患、疾病、障害若しくは症候群を包含する。
【0027】
今日まで知られている自己免疫疾患は、本発明の背景で挙げられたいかなる疾患、および以下すなわち重症筋無力症(MG)、先天性重症筋無力症、多発性硬化症(MS)、スティッフマン症候群、熱帯性痙性対麻痺、ラスムッセン脳炎、急性運動性軸索性神経障害、急性感覚運動性軸索性神経障害、後根神経節神経炎、急性汎自律神経性神経障害、腕神経叢炎、急性壊死性出血性白質脳炎、散発性壊死性ミエロパシー、腫瘍随伴性小脳変性、ギラン・バレー症候群、辺縁系脳炎、眼球クローヌス−筋クローヌス運動失調、感覚神経炎、自律神経性神経障害、脱髄性神経障害、AIDS痴呆複合体、トゥーレット症候群、ミラー・フィッシャー症候群、アルツハイマー病、グレーヴズ病、橋本甲状腺炎、分娩後甲状腺炎、限局性甲状腺炎、若年性甲状腺炎、特発性甲状腺機能低下、I型(インスリン依存性)糖尿病、アジソン病、下垂体炎、自己免疫性尿崩症、副甲状腺機能低下、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、水疱性類天疱瘡/妊娠性類天疱瘡、瘢痕性類天疱瘡、ヘルペス状皮膚炎、後天性表皮水疱症、多形性紅斑、妊娠性ヘルペス、白斑、慢性蕁麻疹、円板状狼瘡、全身性/円形脱毛症、乾癬、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、慢性活動性肝炎/原発性胆汁性肝硬変重複症候群、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、エバンス症候群、ヘパリン誘発性血小板減少症、原発性自己免疫性好中球減少症、乳児期の自己免疫性(原発性)好中球減少症、骨髄移植後の自己免疫性好中球減少症、後天性自己免疫性血友病、自己免疫性胃炎および悪性貧血、セリアック病、クローン病、潰瘍性大腸炎、唾液腺炎、自己免疫性早発性卵巣機能不全、無精子症、性腺機能低下、精子の自己抗体に関連する男性不妊症、自己免疫性精巣炎、早発性卵巣機能不全、自己免疫性卵巣炎、ブドウ膜炎、網膜炎、症候性眼炎、バードショット脈絡網膜炎、フォークト・小柳・原田肉芽腫性ブドウ膜炎、網膜変性、レンズ誘発性ブドウ膜炎、視神経炎、自己免疫性感音障害、メニエール病、自己免疫性心筋炎、先天性心ブロック(新生児狼瘡)、シャーガス病、アドリアマイシン心毒性、ドレスラー心筋炎症候群、気管支喘息、間隙性線維化性肺疾患、急速進行性糸球体腎炎、自己免疫性尿細管間質性腎炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質症候群、慢性関節リウマチ、若年性慢性関節リウマチ、フェルティ症候群、大型顆粒リンパ球増加症(LGL)、シェーグレン症候群、全身性硬化症(強皮症)、Crest症候群、混合型結合組織疾患、多発性筋炎/皮膚筋炎、グッドパスチャー病、ヴェーゲナー肉芽腫症、チャーグ−ストラウス症候群、ヘノッホ−シェーンライン紫斑病、顕微鏡的多発血管炎、結節性動脈周囲炎、ベーチェット症候群、アテローム硬化症、側頭(巨)細胞性動脈炎、高安動脈炎、川崎病、強直性脊椎炎、ライター病、スネドン病、自己免疫性多発性内分泌腺症、カンジダ症−外胚葉性ジストロフィ、生理的クリオグロブリン血性脈管炎、皮膚白血球破砕性血管炎、ライム病、リウマチ熱および心疾患、好酸球性筋膜炎、発作性寒冷血色素尿症、リウマチ性多発性筋痛、線維筋痛症、POEMS症候群(多発性神経炎、臓器肥大症、内分泌異常症、M−spotおよび皮膚病変)、再発性多発性軟骨炎、自己免疫性リンパ増殖症候群、TINU症候群(急性尿細管間質性腎炎およびブドウ膜炎)、分類不能型免疫不全、TAP(抗原提示に関連する輸送体)欠損症、オーメン症候群、過剰IgM(hyperIgM)症候群、BTK無ガンマグロブリン血症、ヒト免疫不全ウイルスならびに骨髄移植後のいずれかを包含する。
【0028】
自己免疫疾患関連自己抗体(auto−antibody)(自己抗体(autoantibody))は、自己抗原に対し身体により産生されかつ自己免疫疾患の病因若しくは症状に関与若しくは関連するいずれかの抗体である。
【0029】
分子は、例としてペプチド、タンパク質およびコンビナトリアル化学物質、ならびに単独であれ他の分子とともにであれ例えばポリリシンバックボーン若しくは他の化学的基盤に基づく上のそれぞれの二量体、オリゴマー若しくは多量体(n=2若しくはそれ以上)を包含する有機若しくは無機、合成若しくは天然のいずれかの分子である。ペプチドおよびタンパク質の場合、分子という用語は、該分子の模倣機能に実質的に影響を及ぼさずに1個若しくはそれ以上のアミノ酸が付加、欠失若しくは置換されているペプチドおよびタンパク質の誘導体もまた包含する。
【0030】
本発明の情況における模倣(する)は、その構造を必ずしも複製せずにエピトープの三次元(3D)コンホメーションを再現する能力を有することを意味している。この模倣は完全な複製である必要はなく、そして、模倣する分子が元のイディオタイプと同一の抗Id抗体により結合されるであろうように元のイディオタイプのものに十分に類似であるその近似であってもまたよい。
【0031】
プールした血漿は、複数の健康な被験体からプールした免疫グロブリンを含有する血漿およびその画分を意味している。本発明の当業者は、こうしたプールした血漿は、限定されるものでないがプールした血漿のいかなる免疫グロブリン含有画分も挙げることができることを認識するであろう。プールした血漿のいかなる部分的に精製された若しくは精製された画分も本発明により使用してよい。好ましい一態様において、プールした血漿はIVIG若しくはそのいずれかの誘導体である。プールした刺激したB細胞、および乳房(初乳)、腎、肺若しくは脳のような免疫グロブリンが豊富であるプールした器官もまた、本発明の範囲内で企図している。
【0032】
本発明の情況における分子ライブラリーは、本発明により選択すべきイディオタイプを模倣する1種若しくはそれ以上の分子をそれから選択してよい分子の集合体を提供するいかなるライブラリーも意味している。例えばペプチドファージディスプレイライブラリー、コンビナトリアル化学物質ライブラリー、一本鎖抗体ライブラリー、リボソームライブラリーなどを包含する多くのこうしたライブラリーが容易に入手可能である。
【0033】
患者は、該人の疾患の相若しくは進行に関係なく、および該ヒトが該疾患若しくはその症状のいずれかについて治療されているか若しくはいないかに関係なく、自己免疫疾患に苦しめられているいかなる人も意味している。従って、患者は疾患の活動期(すなわち疾患の症状が発現されている場合)に苦しめられていても、若しくは寛解(すなわち該人が健康であるようにみえる)にあってもよい。
【0034】
自己抗体は単一の患者若しくは患者の特定の一サブグループから収集してよいことが認識されるであろう。これは、本発明により、ドナーが罹っている特定の下位分類の自己免疫疾患と対応する、模倣する分子の同定を可能にすることができる。あるいは、分類されていない複数の患者からの自己抗体の収集は、例えば異なる予後を特徴とする、複数の異なる分類の同一の自己免疫疾患に対応する模倣分子の同定を可能にするかもしれない。
【0035】
本発明のアフィニティーマトリックスを形成するのに使用される固相は、カラム、磁性ビーズ若しくはフィルターのようないずれかの適切な形態のエポキシ若しくはホルミル基のような当該技術分野で既知のいずれかの適切な固相であってよい。固相は一般に自己抗体がそれに結合することを可能にするように活性化することができる。活性化の例は、限定されるものでないがCNBr活性化および過ヨウ素酸酸化を挙げることができる。
【0036】
本発明の好ましい一態様によれば自己免疫疾患はSLEである。少なくとも、いくつかの自己免疫疾患において、自己抗体を提供する患者は活動期の自己免疫疾患で苦しめられているかもしれないか、若しくは寛解にあるかもしれないかのいずれかであることが確立されている。従って、得られる抗体の量および型は異なるかもしれず、異なる組の模倣する分子を提供する。
【0037】
本発明の好ましい一態様によれば、分子ライブラリーはペプチドファージディスプレイライブラリーである。こうしたファージディスプレイライブラリーは、例えば3若しくはそれ以上のアミノ酸を含んでなるペプチド、または例えば環状ペプチドを表示してよい。
こうしたライブラリーの使用は自己抗体のイディオタイプを模倣するペプチドを提供することができ、そして、こうしたペプチドの配列(アミノ酸であろうと核酸であろうと)は、既知の方法により同一のライブラリーから容易に得ることができる。他の態様において、分子ライブラリーはコンビナトリアル化学物質ライブラリー若しくは一本鎖抗体ライブラリーであってもよい。
【0038】
当業者は、プールした血漿を一連のアフィニティーマトリックス(各アフィニティーマトリックスは異なる自己免疫疾患、若しくは一自己免疫疾患の異なる症状発現からの自己抗体をそれに結合させている)と接触させてよいことをさらに認識するであろう。従って、プールした血漿の1サンプルから、各自己免疫疾患についてプールした血漿を再度収集する必要性なしに多様な模倣する分子を同定することができる。これはプールした血漿のより効率的かつ経済的使用を見込むことができる。
【0039】
本発明の第二の局面によれば、以下のペプチド:
【0040】
【表1】

【0041】
を除外する、ある自己抗体の1イディオタイプを模倣する分子が提供される。
【0042】
本発明の当業者は、上で挙げられた分子を、ある自己抗体のイディオタイプを模倣する分子の上述された同定方法の段階a〜fにより製造しうることを認識するであろう。
【0043】
本発明の一例により、33種のこうしたペプチドを製造し、そして、以下の配列:
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
を有することが発見された。
【0047】
こうした分子は多量体の形態にあってもよい。
【0048】
第三の局面によれば、本発明は、自己免疫疾患に苦しめられている患者に有効量の本発明の分子を投与することを含んでなる、該患者の治療方法を提供する。
【0049】
本発明のなおさらなる一局面によれば、有効量の本発明の分子を製薬学的に許容できる賦形剤と一緒に含んでなる自己免疫疾患の治療のための製薬学的組成物が提供される。こうした賦形剤は当業者に公知である。
【0050】
別の局面によれば、本発明は、(a)以下のペプチド:
【0051】
【表4】

【0052】
を除外する、ある自己免疫疾患の1イディオタイプを模倣する分子を提供すること;(b)スクリーニングした化合物を該分子と接触させること;および(c)該分子に結合する化合物を同定すること(該結合する化合物は自己免疫疾患の治療における潜在的使用を有する)を含んでなる、自己免疫疾患の治療におけるそれらの潜在的使用についての化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0053】
化合物への該分子の結合は、例えば結合条件(例えば塩濃度、pHなど)の変動を包含する、該分子および選択すべき化合物に適切なところの多くの多様な方法により達成しうることが、本発明の当業者により認識されるであろう。
【0054】
別の局面によれば、本発明は、以下の段階:
(a)自己免疫疾患に苦しめられている1人若しくはそれ以上の患者の血清から自己抗体を精製すること;
(b)該自己抗体を固相に結合してアフィニティーマトリックスを形成すること;
(c)免疫グロブリンを含んでなるプールした血漿を該アフィニティーマトリックスと接触させ、次いで未結合の血漿成分を除去すること;
(d)自己抗体に対する抗イディオタイプ抗体(抗Id)である結合した免疫グロブリンを該マトリックスから溶出すること;
(e)複数の分子メンバーを含んでなる分子ライブラリーを提供すること;ならびに
(f)該抗Idを該分子ライブラリーと接触させること、および該抗Idにより結合される結合した分子を単離すること(該結合した分子は自己抗体のイディオタイプを模倣する分子である);
(g)該結合した分子の1種若しくはそれ以上を固相に結合して第二のアフィニティーマトリックスを形成すること;
(h)免疫グロブリンを含んでなるプールした血漿を第二のアフィニティーマトリックスと接触させること、次いで未結合の血漿成分を除去すること;
(i)該第二のマトリックスから、自己抗体に対する第二の抗Idである結合した免疫グロブリンを溶出すること(第二の抗Idは自己免疫疾患の患者の血清由来のタンパク質と接触されていない)
を含んでなる、自己免疫疾患の患者の血清由来のタンパク質と接触されていない、自己抗体に対する抗Idの製造方法を提供する。
【0055】
好ましい一態様において、プールした血漿はIVIGである。
【0056】
段階(d)の第一の抗Idと異なり、第二の抗Idは自己免疫疾患に苦しめられている患者の血漿成分の血清と接触されていない。これは第二の抗Idを第一の抗Idよりも投与により安全にする。健康でない個体の血漿成分による第二の抗Idの汚染の危険が除去されているためである。
【0057】
第二の抗Idは自己免疫疾患に苦しめられている患者の治療方法において有用であり得ることが、本発明の当業者により認識されるであろう。こうした方法は、有効量のこうした抗Idを患者に投与することを含んでなる。
【0058】
本発明の別の局面によれば、有効量の本発明の分子で動物を免疫することを含んでなる、自己抗体に対する抗Idの製造方法が提供される。
【0059】
さらなる一局面によれば、本発明は、以下の段階:
(a)本発明の既知のイディオタイプ特異性の一連の抗Idを提供すること;
(b)該自己抗体を該一連の抗Idと接触させること;および
(c)自己抗体に結合する抗Idを同定すること(結合した抗Idのイディオタイプは自己抗体のイディオタイプである)
を含んでなる、自己抗体の特異的1イディオタイプの同定方法を提供する。
【0060】
本方法は1患者若しくは1分類の患者の特定の自己抗体の診断において有用であり得る。本発明の当業者は、こうした同定が異なる患者に予後を提供して疾患の異なる局面の特徴付けに、および最終的には患者の治療において有用であるかもしれないことを認識するであろう。1患者における1種の自己抗体の特定のイディオタイプが同定されていることは、該患者の治療のために本発明の特定の1分類の分子若しくは抗Idを選択することを可能にするかもしれない。
【0061】
なおさらなる一局面によれば、本発明は、以下の段階:
(a)被験体を本発明の分子で免疫すること;
(b)該被験体から血清を収集すること;および
(c)該血清からヒト抗Id免疫グロブリンを精製すること
を含んでなる、精製されたヒト抗Id免疫グロブリンの製造方法を提供する。
【0062】
本発明を理解するため、およびそれが実務においてどのように実施されうるかを知るために、付随する図面を参照して制限しない例としてのみ好ましい態様を今や記述することができ、ここで:
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】自己抗体のイディオタイプを模倣する分子を同定するための本発明の方法の一態様を示す流れ図である。
【図2】自己抗体に対する抗Idの本発明の製造方法の一態様を示す流れ図である。
【図3】706ペプチド配列をもつペプチドカラムからのビオチニル化ペプチド706、707およびR706への免疫グロブリンピーク溶出の特異的結合を具体的に説明するグラフである。
【図4】707ペプチド配列をもつペプチドカラムからのビオチニル化ペプチド706、707およびR706への免疫グロブリンピーク溶出の特異的結合を具体的に説明するグラフである。
【実施例】
【0064】
[実施例I]
自己免疫−a−aのイディオタイプを模倣する分子の同定方法の一態様を図1に具体的に説明する。
【0065】
参照数字2により図1中で示される該方法の第一段階は、自己免疫疾患に苦しめられている1人若しくはそれ以上の患者の血清から自己抗体を精製することを必要とする。例えば、抗二本鎖DNA(抗dsDNA)抗体をSLEに罹っている数十例の患者(狼瘡患者)から精製してよい。次の段階4において、自己抗体を固相に結合してアフィニティーマトリックスを形成する。上の例に従えば、抗dsDNA抗体をCNBr−活性化セファロース(Sepharose)カラムに結合する。
【0066】
後に続く段階6は、免疫グロブリンを含んでなるプールした血漿をアフィニティーマトリックスと接触させること、次いで未結合の血漿成分の除去の段階8を含んでなる。該実施例において、IVIGをアフィニティーカラムに負荷し、それをその後洗浄して未結合の免疫グロブリンを除去する。抗dsDNA抗体を結合する免疫グロブリンのみがカラムに結合されたまま留まる。
【0067】
次の段階10において、結合した抗イディオタイプ抗体(=抗Id)をアフィニティーマトリックスから溶出する。該実施例において、これらは抗−抗dsDNA抗イディオタイプであることができる。例えばin vitro試験により、および狼瘡実験モデルを使用してin vivoで、抗Idの効力を確認してよい12。
【0068】
後に続く段階14において、複数の分子メンバーを含んでなる分子ライブラリーを提供し、そして、溶出した抗Idを該分子ライブラリーと接触させる。抗Idにより結合されている分子を単離かつ同定する16。これらの分子は自己抗体の1イディオタイプを模倣する。上の実施例において、抗dsDNA抗体をC7C−ペプチドファージディスプレイライブラリーに導入し、そして該抗体により結合されたペプチドを単離かつ同定する。これらのペプチドは抗dsDNA抗体のイディオタイプを模倣する。その後、模倣するペプチドを合成してよい18。
【0069】
[実施例II]
自己抗体に対する抗Idの製造方法の一態様を図2に示す。
【0070】
第一段階22において、図1に具体的に説明された方法により得た模倣する分子を固相に結合して第二のアフィニティーマトリックスを形成することにより、アフィニティーマトリックスを形成する。模倣する分子は、分子ライブラリーから単離されたものであっても、若しくは単離された分子に基づき合成した他の分子であってもよい。図1に関して示された実施例に従えば、これらは抗dsDNA抗体のイディオタイプを模倣するペプチドであることができる。
【0071】
次の段階24において、免疫グロブリンを含んでなるプールした血漿をこの第二のアフィニティーマトリックスと接触させ、次いで未結合の血漿成分を除去する26。該実施例において、IVIGをカラムに負荷し、それをその後洗浄して未結合の免疫グロブリンを除去する。後に続く段階28において、抗Idをアフィニティーマトリックスから溶出する。抗Idの効力を例えばin vitro試験によりおよび狼瘡実験モデルを使用してin vivoで確認してよい30。これらの第二の抗Idは、自己免疫疾患の患者の血清由来のタンパク質と接触されておらず、患者の治療での使用に安全である。例えばそれらは狼瘡患者を治療するのに使用してよい。
【0072】
[実施例III]
1種の自己抗体のイディオタイプを模倣する分子の同定
1.材料および方法
実施例Iで上述されたところのIVIGから単離した抗−抗dsDNA(抗Id)を使用して、M13ファージにより提示される特異的ペプチドを検出した。商業的Ph.D.7TMファージディスプレイライブラリー(カタログ番号E8100S、New England Biolabs Inc)を、発明者により以下のとおりわずかに改変した製造元の手順に従って使用した:
50mM NaHCO3(Ph8.5)中の抗Idを、スルホ−NHS−LC−ビオチン(Pierce #21335)を添加することによりビオチニル化し、氷上で2時間インキュベートしかつ2%麦芽糖に対し透析した。ビオチニル化の効率はニュートラビジン(neutravidine)被覆プレート上でのELISAによりアッセイした。
【0073】
ビオチニル化抗Id(1μg)をペプチドファージディスプレイライブラリー(10μg−2×1011pfu)に4℃で一夜導入した。混合物を、3%BSAでブロッキングしたストレプトアビジン被覆ペトリ皿(3cm、Nunc)に入れた。20分のインキュベーション後に、ストレプトアビジンとファージとの間の非特異的な低親和性結合を、ビオチン0.1mMを5分間添加することにより予防した。TBS/Tweenでの徹底的な洗浄後に、結合したファージをグリシン−HCl 0.2M pH2.3で溶出しかつトリスpH9で即座に中和した。
【0074】
溶出されたファージを対数中期(OD600 約0.5)でER2738大腸菌(E.coli)宿主株に導入し、そして室温で5分間インキュベートしてファージを細菌に進入させ;その後複製のため4.5時間インキュベートし、そして細菌を遠心分離により沈降させた。4℃でのPEG−8000 1:5とのインキュベーションによりファージを上清から単離した。増幅されたファージを、第2回のため、元のビオチニル化抗Idとともに再度インキュベートした。最後に、同一手順を使用して5回の増幅手順を実施した。各回の間に、ファージを再度Fc被覆プレート上でのパニングにかけてFc結合ファージを最大限に抹消(delete)した。
【0075】
10倍連続希釈の、最後の回からの溶出されたファージをトップアガロースと混合し、そしてLB/IPTG/XGALプレート上にプレーティングした。青色プラークを収集し、そして各プラークをファージ収集のため10ml LB中で4.5時間個別に増殖させ、そして遠心分離した。ファージはPEG−8000 1:5とともに上清をインキュベートすることにより培養物から単離した。
【0076】
847個のコロニーをELISAにより抗Idによる認識についてスクリーニングした。プレート(96ウェル)をヤギ抗M13で被覆し、3%BSAおよびヘモシアニンでブロッキングし、そしてファージとともにインキュベートした。ビオチニル化抗Id若しくはビオチニル化した個々のIgG(陰性対照としての1人から)で結合をプロービングし、次いでストレプトアビジン−アルカリホスファターゼおよび適切な基質に曝露した。最後に、33クローンが抗dsDNA抗Idに対し有意に陽性であることが見出され、かつ、1人の健康なドナーからアフィニティー精製したIgGにより認識されなかった。
【0077】
陽性クローンは、製造元の手順に従ってキアプレップ(QIAprep)M13(QIAGENE カタログ番号27704)を使用してDNA調製のためファージを5.5時間増幅するためにER2738大腸菌(E.coli)宿主株に導入した。簡潔には、上清を、少量DNA調製物のための1.4ml、およびLB中でのER2537(一夜培養物からの100倍希釈した細菌ER2537)への導入のための残部に分けた。沈殿溶液を1.4mlの上清チューブに添加し、ボルテックス攪拌しかつRTで7分間放置した。混合物を2回の700μl/ミニカラムでミニカラム/2mlチューブに負荷した。チューブは第一および第二の負荷後にRTで8,000rpmで15秒間遠心分離した。溶解緩衝液をカラムに添加し(700μl/カラム)、RTで1分インキュベートしかつ遠心分離した。洗浄緩衝液を700μl/カラム添加し、そしてカラムをRTで8,000rpm、15秒遠心分離し、液体を廃棄しかつカラムを再度遠心分離した。カラムを滅菌チューブに接続した。予め加温した(50℃)溶出緩衝液をカラム上に添加した(50μl/カラム)。カラムをRTで10分インキュベートし、そしてRTで14,000rpmで2分遠心分離した。
【0078】
DNA調製物を、mbc Company、イスラエル国ネス−ジオナ(Nes−Ziona)によりシークェンシングした。
【0079】
ペプチドはThe Weizmann Institute、イスラエル国レホボト(Rehovot)で環状ペプチドとして合成した。ペプチド配列を表1に列挙する:
【0080】
【表5】

【0081】
2.合成ペプチドへの抗Idの直接結合:
ペプチドへの抗Idの結合をELISAにより試験した。
【0082】
ELISAプレートをPBS中10μg/mlのペプチドにより4℃で一夜被覆した。プレートを3%BSAで37℃で1時間ブロッキングした。抗Idを多様な濃度で添加した。1ドナーから精製したIgGを陰性対照として使用した。
【0083】
アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ヒトIgGおよび適切な基質で免疫グロブリンの結合をプロービングした。各段階の間に0.05%PBS−Tweenで徹底的な洗浄を実施した。
以下のペプチドを使用した:
【0084】
【表6】

【0085】
結合の結果(405nmでのOD)を表2に提示する。
【0086】
【表7】

【0087】
3.直接結合合成ペプチド:
上と同一のプロトコルを使用したが、しかしこの試験で使用したペプチドは、前の実験で最初のペプチドであるペプチド番号1を除き文献から採用した。
【0088】
使用したペプチドは:
【0089】
【表8】

【0090】
であった。
【0091】
【表9】

【0092】
4.混合環状ペプチドでの阻害パーセント
上の2節(「合成ペプチドへの抗Idの直接結合」)で示した15種の環状ペプチドの混合物を使用して、7例の狼瘡患者のそれぞれからアフィニティー精製した抗dsDNA抗体への抗Idの結合を阻害した。混合物は狼瘡患者の抗dsDNA Id(1種若しくは複数)の認識確率を増大させるよう作成した。
【0093】
ELISAプレートを、NaHCO3 0.05M pH8.5中、抗Fc 2μg/mlで4℃で一夜被覆した。こうして、抗dsDNAの免疫グロブリン分子のF(ab)部分がイディオタイプをより効率的に提示することができる。
【0094】
プレートを3%BSAで37℃で1時間ブロッキングし、そして各ヒト抗dsDNA抗体溶液をPBS中10μg/mlで添加しかつ4℃で一夜インキュベートした。別個のチューブに、ペプチド混合物1を、4℃での一夜インキュベーションのため、IVIGからのビオチニル化抗dsDNA抗Id(抗dsDNAへの50%結合の濃度の)に多様な濃度で添加した。翌日、抗Idおよびペプチド混合物の混合物を抗dsDNA被覆したプレートに4時間添加した。ペプチド混合物により認識されなかった未結合の抗Idの結合を、アルカリホスファターゼと結合したストレプトアビジンおよび適切な基質でプロービングした。
【0095】
表4に提示した結果は、ペプチド混合物による、特定の1狼瘡患者からの抗dsDNAへの抗dsDNA抗Idの結合のIVIGの特定の画分の阻害のパーセンテージを示す。
【0096】
【表10】

【0097】
[実施例IV]:自己免疫疾患のイディオタイプ模倣の単離のための鋳型としてのIVIGおよび/若しくはプールした血漿の使用。
1.緒言:
本実施例は、共通のSLEイディオタイプすなわちId 16/6の同定をもたらした慣習的方法での直接選択の実験的立証を提供する。16.6 CDR、CDR3に基づくペプチドの1種がマウスでSLEの症状を引き起こし得る一方、CDR1の優勢な(predominate)機能は実験的SLEマウス(1)において疾患を軽減することであることが判明している。
【0098】
16/6 Idをもつ病原性マウスモノクローナル抗DNA Ab(5G12)の相補性決定領域(CDR)の配列に基づく2種のペプチドを合成した。pCDR1(CDR1−TGYYMQWVKQSPEKSLEWIG)およびpCDR3(CDR3−YYCARFLWEPYAMDYWGQGS)(CDRに下線を引いてある)が、それぞれBALB/cおよびSJLマウス系統における免疫優性のT細胞エピトープであることが示され、そして応答体(responder)マウスにおいて軽度のSLE様疾患を誘発した(High Yield Chemical Synthesis of Biologically Active Peptides on an Automated Peptide Synthesizer of Novel Design、Ragnarsson,U.編(Almqvist & Wiksell、ストックホルム)中、Kent,S.B.H.、Hood,L.E.、Beilan,H.、Meister,S.とGeiser,T.(1984)、pp.185−188)。さらに、CDRに基づくペプチドは、同一ペプチドまたはマウス若しくはヒトいずれかの起源のモノクローナル抗DNA 16/6Id+ Abで免疫したマウスのリンパ節細胞(LNC)のプライミングを阻害した。CDR1に基づくペプチドはまた、pCDR1若しくは病原性自己Abのいずれかで後に免疫したBALB/c新生マウスにおける自己Ab産生を予防することも示された(Kent、前掲書)。
【0099】
2.材料および方法
2.1 合成ペプチド。
706と呼称される16.6モノクローナル抗体CDR1に基づくペプチドTGYYMQWVKQSPEKSLEWIG(pCDR1)および707と呼称されるCDR3に基づくペプチドYYCARFLWEPYAMDYWGQGS(pCDR3)を、t−ブチルオキシカルボニル(BOC)戦略のための会社のプロトコルを使用して、自動化合成機(Applied Biosystemモデル430A)で製造した(Kent、前掲書、Schnolzer,M,、Alewood,P.F.とKent,S.B.H.(1992)Int.J.Pept.Protein Res.40、180−193)。R706と呼称される逆順のCDR1、GIWELSKEPSQKVWQMYYGTを対照として使用した。別の類似の合成において、生じるペプチドを、後にELISA試験で使用するためにそれらのN末端でビオチンにより標識した。
【0100】
2.2 アフィニティークロマトグラフィー:ペプチドカラムの調製
2.2.1 還元的アミノ化によるペプチド707のカップリング
2.2.1.1 活性化プロトコル
a.過ヨウ素酸酸化可能なマトリックスの創製
10mlのトヨパール(Toyopearl)NH65F(Tosohass、日本)を焼結グラスフィルター(多孔性G3)上で300mlの水で洗浄し、次いで1M NaOHで5回連続して(合計80ml)洗浄した。樹脂を焼結グラスフィルターから取り出し、そして10mlの1M NaOH、1mlのグリシドール(Sigma)および0.01gのホウ水素化ナトリウム(NaBH)で懸濁した。反応混合物を穏やかな回転を伴い室温で一夜インキュベートした。朝に、樹脂を200mlの水、1M NaClおよび再度水のそれぞれで徹底的に洗浄した。グリシドール修飾樹脂は今や過ヨウ素酸酸化の準備ができた。
b.マトリックスの直接過ヨウ素酸酸化
過ヨウ素酸酸化樹脂を調製するために以下のプロトコルを設計した。すなわち、ビシナルヒドロキシル基を含有する10mlの水分を含むゲルを10mlの0.2M NaIO4(100mlの水中の4.28gのメタ過ヨウ素酸ナトリウム)に再懸濁し、そして穏やかな回転により十分に混合した。反応を室温で90分間継続した。ホルミル樹脂を300mlの水により洗浄して酸化を停止した。この手順により創製されるアルデヒドは、カップリング能力の低下を伴わずに樹脂が長期間保存されることを可能にするのに十分安定である。
【0101】
2.2.1.2 リガンドカップリングプロトコル
NaCNBHおよび特定のペプチドを含有する1mlのリン酸緩衝液、pH7.0を2mlの過ヨウ素酸酸化マトリックスに添加した。リン酸緩衝液中のペプチドの濃度は10mg/ml(約3.3μモル/ml)であった。従って、該比は1mlの樹脂に対し1.1μモルの707であった。反応を攪拌しながら室温で一夜継続した。カップリングした樹脂を水、1M NaClおよび再度水で徹底的に洗浄して、未反応のリガンドおよびシアノホウ水素化ナトリウムを除去した。
【0102】
樹脂は20Mmリン酸緩衝液pH7中で保存した。
2.2.2 CNBr活性化マトリックスへのペプチド706のカップリング3gの凍結乾燥したCNBr活性化セファロース(Sepharose)4ファストフロー(fast flow)を20mlの1mM HCl(氷冷)に懸濁した。樹脂を200mlの酸を使用して焼結グラスフィルター(多孔性G3)上で15分間激しく洗浄した。
最終洗浄後に、2mlの洗浄した樹脂を、カップリングされるべきペプチドを溶解しておいたカップリング溶液中に移した。カップリング溶液は900μlの0.1−M炭酸ナトリウム(NaHCO)、pH8.5および100μlの100mg/mlのペプチド706を含有した。樹脂に対するペプチドの比は再度1mlの樹脂あたり1.1μモルであった。混合物を4℃で一夜回転した。カップリング後、樹脂を含むバイアルを樹脂の沈降のため垂直位置で放置した。上清を廃棄し、そして、樹脂上の残存する活性基の封鎖のため15mlの0.2Mグリシン、pH8.0を添加した。封鎖は回転しながら室温で4.5時間実施した。
【0103】
封鎖後に、樹脂を10カラム容量の0.1M炭酸ナトリウム(NaHCO)、pH8.5で洗浄し、次いで3周期の交替するpHで洗浄した。各周期は、0.5M NaClを含有する0.1M酢酸緩衝液pH4の15ml洗浄、次いで0.5M NaClを含有する0.1MトリスHCl緩衝液pH8での洗浄よりなった。
【0104】
樹脂を0.05Mトリス pH7.4中に保存した。
2.3 アフィニティークロマトグラフィー:ペプチドカラムを使用する静脈内免疫グロブリン溶液からの抗イディオタイプの精製。
【0105】
ペプチドカラムを、280nmでの吸光度測定値が安定(OD約0.005)になるまで、最低10容量の負荷緩衝液(20mM PB)で洗浄した。
【0106】
100mlの希釈IVIG(オムリガム(OmriGam)、(Omrix Biopharmaceuticals Ltd、イスラエル)製造工程の工程サンプルG12中、高精製二重不活性化IVIG)を2mlペプチド樹脂の上部に負荷した。出発原料の濃度は50mg/mlであった。この濃度に達するために、IVIGをリン酸緩衝液、pH7で希釈して所望のモル濃度に達せさせた。負荷はおよそ100μl/分の流速で4℃で一夜進行させた。負荷は2回実施した。その後、280での吸光度がベースラインに達するまで、カラムを負荷緩衝液で洗浄した。溶出は、溶出物を中和するための1Mトリス塩基緩衝液pH9中へ、0.1Mグリシン、HCl pH2.7を用いて行った。各溶出は1ピーク(通常は1mlカラムから約4〜5ml)よりなった。溶出および負荷中のタンパク質はブラッドフォード法(Bradford(1976)Anal.Biochem.72:248)により測定した。
【0107】
2.4 アフィニティークロマトグラフィー段階の効率:ELISA
ペプチドカラム溶出物(706および707)の結合効率を測定するために以下のELISAを実施した:
マイクロタイタープレート(Coster、米国)を、0.1M、pH8.8の炭酸−重炭酸緩衝液(Sigma 米国)に懸濁した10μg/mlのニュートラビジン(NeutrAvidin)(Pierce、米国)で2〜8℃で一夜被覆した。被覆溶液を除去し、洗浄緩衝液(1×PBS)で3回洗浄し、そしてウェルあたり200μlのブロッキング溶液(新たに調製した1%I Block、Tropix、米国)を添加しかつ37 ℃で1時間インキュベートした。被覆しかつブロッキングしたプレートは使用前に1か月間−20℃で保存し得る。
【0108】
ブロッキング溶液で希釈した、試験されるサンプルを、個別のチューブ中にて1μg/ml(最終濃度)の適切なビオチニル化ペプチドと混合し、そして混合物を37℃で1時間インキュベートした。その後、各反応チューブからの100μlを、ブロッキングしたマイクロタイタープレートに移し、そして37℃で1/2時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液で希釈した5000倍アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗ヒトIgG(Jackson、米国からのHおよびL鎖)100μlを該マイクロタイターウェルに適用しかつ1時間インキュベートした。アルカリホスファターゼの酵素活性はその場合、p−ニトロフェニルホスフェート基質(Sigma 米国)との室温での一夜インキュベーションにより示される。測定を405nmで測光的に行った。
【0109】
3.結果および考察。
200mlのIVIGを2mlのペプチドカラム(一方はCNBr活性化セファロース(Sepharose)マトリックスに結合するペプチド706、および他方は還元的アミノ化によりポリマーマトリックスに結合する707ペプチドよりなる(材料および方法を参照されたい))のそれぞれに負荷した。
【0110】
タンパク質濃度およびビオチニル化ペプチドの結合を試験し、そして結果を表5ならびに図3および4に提供する。
【0111】
【表11】

【0112】
結合したピークの溶出は異なる回収、すなわち、カラムペプチド706について約0.018%対カラムペプチド707について約0.047をもたらした。従って、ペプチドカラム706はプールしたIVIG中で見出される5555種の分子から1種を結合する能力を有する一方、ペプチドカラム707は2237種の免疫グロブリン分子から1種を結合する能力を有すると結論づけ得る。従って、707のエピトープがより豊富でありかつIVIg中でより高頻度で見出し得ると想定し得る。
【0113】
溶出ピークの特異性を、3種のビオチニル化ペプチド(706、707およびR706)に対するペプチドカラム溶出ピークへの特異的結合により評価し、そして結果を図3および4に要約する。
【0114】
ペプチド706をもつペプチドカラムから溶出された免疫グロブリンは、706のビオチニル化ペプチドとのみ直線状の様式で特異的に反応し、そしてペプチド707若しくは逆の順序の同一配列をもつペプチドとさえ反応しなかったことが示され得る(図3)。他方、ペプチド707と結合されたペプチドカラムからの溶出ピークは非特異的様式で反応した(図4)。生じる免疫グロブリンはビオチニル化ペプチド706と反応し、かつ、なおより興味深いことに、該免疫グロブリンは706の逆にした配列となおより強く反応した。707−免疫グロブリン調製物が707および706のペプチド配列ならびにおそらく多数の他の配列と非特異的に反応するかもしれないことを示す。
【0115】
上の結果は、Id16.6上で見出される全部のCDR配列が特異的であるわけでなく、かつ、それらの少なくともいくつかは非特異的様式でIVIgと反応することを示した。
【0116】
これらの結果は、SLE患者由来のモノクローナルの使用が免疫グロブリンの非特異的選択をもたらしうるという概念を裏付ける。
【0117】
【表12】











【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一覧:
【表1】

【表2】

から選択され、
(a)自己免疫疾患に苦しめられている1人若しくはそれ以上の患者の血清から自己抗体を精製すること;
(b)前記自己抗体を固相に結合してアフィニティーマトリックスを形成すること;
(c)免疫グロブリンを含んでなるプールした血漿若しくはB細胞を前記アフィニティーマトリックスと接触させ、次いで未結合の血漿成分を除去すること;
(d)自己抗体に対する抗イディオタイプ抗体(抗Id)である結合した免疫グロブリンを前記マトリックスから溶出すること;
(e)ランダムヘプタペプチドをディスプレイするペプチドファージディスプレイライブラリーまたはコンビナトリアル化学物質ライブラリーを提供すること;ならびに
(f)前記抗Idを前記ライブラリーと接触させること、および前記抗Idにより結合される結合したペプチドを単離すること(前記結合したペプチドは自己抗体のイディオタイプを模倣するが、イディオタイプの構造を複製しないペプチドである)
を含んでなる方法によって得られる、
全身性エリテマトーデス(SLE)イディオタイプ(Id)エピトープ模倣ヘプタペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−100361(P2013−100361A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−33225(P2013−33225)
【出願日】平成25年2月22日(2013.2.22)
【分割の表示】特願2009−297605(P2009−297605)の分割
【原出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【出願人】(504438853)オムリクス・バイオフアーマシユーチカルズ・インコーポレーテツド (5)
【Fターム(参考)】