抗インテグリン免疫グロブリン
インテグリンに対する免疫特異性を示す組換えヒト免疫グロブリンについて述べる。さらに、該組換え免疫グロブリンをコードするヌクレオチド配列およびペプチド配列ならびにそれらの使用について述べる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫グロブリンに関し、より具体的には、全くそれだけというわけではないが、インテグリンに対する特異性を示す組換え免疫グロブリンに関する。本発明はさらに、免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチド配列およびペプチド配列ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インテグリンは、αサブユニット鎖およびβサブユニット鎖から構成される、構造的、免疫化学的および機能的に関連するヘテロダイマー分子のファミリーである。現在、限定された様式で非共有結合により相互作用して20種を超えるファミリー構成分子を形成する、少なくとも8種の既知のβ鎖および少なくとも17種の既知のα鎖が存在する。
【0003】
インテグリンは、細胞外マトリックスから細胞内の細胞骨格へと一体化(インテグレート)するのでそのように命名されたレセプターであり、細胞間相互作用(例えば、細胞接着、細胞移動および凝血反応)に関与する。従って、インテグリンは、血液凝固の間に血小板凝集を阻止するだけでなく抗炎症性の試薬としても作用する試薬の開発を可能にすることによって、治療的介入のための良好な候補をなす。このことは、フィブリノゲンに対するレセプター(すなわち、血小板インテグリン糖タンパク質(GP)IIb/IIIa)を標的とするAbicimaxのような免疫グロブリン試薬の存在によって実証されている。フィブリノゲンとGPIIb/IIIaとの間の相互作用は、血小板の最初の凝集(すなわち血液凝固)における重要な事象である。血小板の凝集および接着は、心臓発作および脳卒中による死亡の主要な原因であり続ける血栓症における基礎的な事象である。
【0004】
試薬Abicimaxは、インテグリン糖タンパク質IIb/IIIaと反応するだけでなく、インテグリンMAC−1、LFA−1、VLA−4およびp150.95とも反応することが示されており、従ってこれらのインテグリンは抗炎症の治療標的としての可能性も有する。
【0005】
しかし、Abicimaxの主な不利益は、これが「ヒト化」されたマウス・モノクローナル抗体に由来することである。マウス・モノクローナル抗体のヒト化は、このマウス抗体分子の、同抗体とその標的抗原との直接的な相互作用に関与しない部分(すなわち、この抗体の枠組構造領域)を、ヒトの相当物によって置換することを含む。これは面倒な手法であり、標的抗原との相互作用に関与する抗体分子の部分(すなわち、抗体の相補性決定領域(CDR))の親和性ひいては治療的潜在能力を有意に喪失させてしまう可能性がある。
【0006】
インテグリン間が類似しているということは、免疫グロブリン・ライブラリーから単離された少数の抗体を使用することにより、各々が異なるインテグリンと反応する様々な免疫グロブリンのパネルを作製するための鋳型が得られるということである。残念ながら、上記のようなマウス/ヒト・ハイブリッド免疫グロブリンを適切な鋳型として使用することは困難である。
【0007】
マウス・モノクローナル抗体の使用に代わる手法は、抗体の枠組構造領域の置換を必要としないと思われるヒト免疫グロブリンの生産である。次いで、当該抗体を、異なるインテグリンに反応性を示す抗体のパネルを開発するための鋳型として使用すればよい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ヒト糖タンパク質インテグリンに対するヒト免疫グロブリンの主な不利益は、潜在的に病原性の分子に対してヒト患者を免疫することをめぐる倫理的な問題に起因して、該ヒト免疫グロブリンを生産するのは容易ではないということである。従って、ヒト患者を最初に免疫することなく、ヒト・インテグリンとの結合親和性を有するヒト免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体を生産する必要がある。
【0009】
本発明の実施形態の目的は、上記の問題に取り組むことならびにインテグリンに対する親和性を有する免疫グロブリンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[定義]
本明細書中で使用される用語「免疫グロブリン」は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる少なくとも1つのポリペプチドから構成されるタンパク質を含み得る。既知の免疫グロブリン遺伝子には、κ定常遺伝子、λ定常遺伝子、μ定常遺伝子、γ定常遺伝子、ζ定常遺伝子、α定常遺伝子およびε定常遺伝子、ならびにさらには、多数存在する免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。免疫グロブリンは、抗体全体およびその生物学的に機能的な断片のいずれの抗体としても存在し得る。このような生物学的に機能的な断片は、対応する完全長の抗体のうち少なくとも1つの抗原結合領域を保持する(すなわち、インテグリンに対する免疫特異性を備えている)。免疫グロブリンは、モノクローナル抗体またはその機能的断片を含み得る。
【0011】
1価の免疫グロブリンは、ジスルフィド架橋によって軽鎖(L)と結合した重鎖(H)を含むダイマー(HL)である。2価の免疫グロブリンは、少なくとも1つのジスルフィド架橋によって結合した2つのダイマーを含むテトラマー(H2L2)である。多価の免疫グロブリンを、例えば、複数のダイマーを連結することによって生産することも可能である。
【0012】
免疫グロブリンまたは抗体分子の基本的構造は、非共有結合的に結合し、ジスルフィド結合によって連結され得る、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖から構成される。各重鎖および軽鎖は、約110アミノ酸のアミノ末端可変領域と、鎖の残りの部分の定常配列とを含む。この可変領域は、抗体分子の抗原結合部位を形成し、抗原に対する抗体分子の特異性を決定するいくつかの超可変領域(すなわち相補性決定領域(CDR))を含む。重鎖および軽鎖のCDRの両側が枠組構造領域であり、CDRを係留および配向する比較的保存されたアミノ酸配列である。この定常領域は、5つの重鎖配列(μ、γ、ζ、αまたはε)のうち1つおよび2つの軽鎖配列(κまたはλ)のうち1つから構成される。重鎖定常領域の配列は、抗体のアイソタイプおよび分子のエフェクター機能を決定する。
【0013】
本明細書中で使用する場合、用語「ヒト免疫グロブリン」または「ヒト・モノクローナル抗体」は、ある特定のヒト免疫グロブリン中に見出されるのと実質的に同じ重鎖および軽鎖のCDRアミノ酸配列を含むモノクローナル免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体を意味することを意図する。重鎖CDRまたは軽鎖CDRと実質的に同じアミノ酸配列は、基準となる配列と比較した場合に、かなりの量または程度の配列同一性を示す。このような同一性とは、特定のヒト免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体のアミノ酸配列を示すものとして明確に知られている、または特定のヒト免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体のアミノ酸配列を示すものと認識することができる。実質的に同じ重鎖および軽鎖のCDRアミノ酸配列は、例えば、アミノ酸の軽微な修飾または保存的置換を有し得る。このようなヒト免疫グロブリンは、インテグリン抗原に選択的に結合するその機能を保持している。用語「ヒト・モノクローナル免疫グロブリン」は、ヒトCDRアミノ酸配
列を実質的に有するモノクローナル免疫グロブリンを含むことを意図し、該モノクローナル免疫グロブリンは、例えば、生産物がファージ・ライブラリーであるような組換え法により、リンパ球またはハイブリドーマ細胞により生産される。用語「組換えヒト免疫グロブリン」は、組換えDNA技術を使用して生産されたヒト免疫グロブリンを含むことを意図する。
【0014】
本明細書中で使用する場合、用語「抗原結合領域」は、抗原に対する特異的結合親和性を有する免疫グロブリンの領域を意味することを意図する。この結合領域は、超可変領域CDRでもよいし超可変領域CDRの機能的部分でもよい。CDRの「機能的部分」という用語により、CDR内の、抗原に対する特異的親和性を示す配列を意味することを意図する。CDRの機能的部分は、インテグリンに特異的に結合するリガンド(例えば、フィブロネクチン中に存在する「RGD」モチーフまたはテネイシン中に存在する「AEIDGIEL」)を含んでいてもよい。インテグリンを認識する他のリガンドまたはモチーフは、本明細書中に援用するプロウら(Plow et al. )の文献(J.Biol.Chem.第275巻第29号)中に記載されている。
【0015】
本明細書中で使用する場合、用語「CDR」は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域中の超可変領域を意味することを意図する。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の各々の中には、1つ、2つ、3つまたはそれ以上のCDRが存在し得る。通常、各鎖上に少なくとも3つのCDRが存在し、該CDRは、合わせて構成されると抗原結合部位(すなわち、抗原が結合または特異的に反応する3次元結合部位)を形成する。重鎖中に4つのCDRが存在し得ると仮定されている抗体もある。
【0016】
CDRの定義はまた、互いに比較した場合、アミノ酸残基の重複またはサブセットを含む。特定のCDRまたはその機能的部分を包含する正確な残基数は、CDRの配列およびサイズに依存して変動する。当業者は、抗体の可変領域のアミノ酸がわかれば、どの残基が特定のCDRを構成するかをごく普通に決定することができる。
【0017】
本明細書中で使用する場合、用語「機能的断片」は、ヒト免疫グロブリンに関して使用される場合、機能的活性を保持している免疫グロブリンの一部分を指すことを意図する。機能的活性とは、例えば、抗原結合活性でも抗原特異性でもよい。機能的活性はまた、例えば、抗体の定常領域によって提供されるエフェクター機能であってもよい。ヒト・モノクローナル免疫グロブリンの機能的断片には、例えば、個々の重鎖または軽鎖およびそれらの断片(例えば、VL、VHおよびFd);1価の断片(例えば、Fv、FabおよびFab’);2価の断片(例えば、F(ab’)2);単鎖のFv(scFv);ならびにFc断片が含まれる。このような用語は、例えば、本明細書中に援用する、ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane)、「Antibodies: A Laboratory Manual 」、ニューヨーク所在のコールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory )、1989年;「Molec. Biology and Biotechnology: A Comprehensive Desk Reference」、マイヤーズ アール.エイ.(Myers, R.A. )編、ニューヨーク所在のブイシーエイチパブリッシャーインコーポレイテッド(VCH Publisher, Inc. ));ヒューストンら(Huston et al. )、Cell Biophysics、第22巻、p.189〜224、1993年;プラックサム(Pluckthun )およびスケッラ(Skerra)、Meth.Enzymol.、第178巻、p.497〜515、1989年、ならびにデイ,イー.ディー.(Day, E.D. )、「Advanced Immunochemistry 第2版」、米国ニューヨーク州ニューヨーク所在のワイリー−リスインコーポレイテッド(Wiley-Liss, Inc.)、1990年の中に記載されている。
【0018】
用語「機能的断片」は、例えば、ヒト・モノクローナル抗体のプロテアーゼによる消化または縮減によって、および当業者に公知の組換えDNA法によって生産される断片を含
むことを意図する。
【0019】
用語「VL断片」とは、本明細書中で使用する場合、ヒト・モノクローナル抗体の軽鎖の断片を指し、この断片は、CDRなど、軽鎖可変領域の全てまたは一部を含む。VL断片は、軽鎖定常領域配列をさらに含み得る。
【0020】
用語「VH断片」とは、本明細書中で使用する場合、ヒト・モノクローナル抗体の重鎖の断片を指し、この断片は、CDRなど、重鎖可変領域の全てまたは一部を含む。
用語「Fd断片」とは、本明細書中で使用する場合、重鎖の可変領域および定常領域に連結された軽鎖の可変領域および定常領域をいう(すなわち、VL CLおよびVH CH−1)。
【0021】
用語「Fv断片」とは、本明細書中で使用する場合、重鎖および軽鎖の可変領域の全てまたは一部を含み、重鎖および軽鎖の定常領域を含まない、ヒト・モノクローナル抗体の1価の抗原結合断片をいう。重鎖および軽鎖の可変領域は、例えばCDRを含む。例えば、Fv断片は、重鎖および軽鎖の両方の約110アミノ酸のアミノ末端可変領域の全てまたは一部を含む。
【0022】
用語「Fab断片」とは、本明細書中で使用する場合、Fv断片よりも大きいヒト・モノクローナル抗体の1価の抗原結合断片をいう。例えば、Fab断片は、重鎖および軽鎖の可変領域および第1の定常ドメインの全てまたは一部を含む。従って、Fab断片は、例えば重鎖および軽鎖の約110〜約220アミノ酸残基をさらに含む。
【0023】
用語「Fab’断片」とは、本明細書中で使用する場合、Fab断片よりも大きいヒト・モノクローナル抗体の1価の抗原結合断片をいう。例えば、Fab’断片は、軽鎖全体と、重鎖の可変領域全体と、重鎖の第1および第2の定常ドメインの全てまたは一部を含む。例えば、Fab’断片は、重鎖のアミノ酸残基220〜330の一部または全てをさらに含み得る。
【0024】
用語「F(ab’)2断片」とは、本明細書中で使用する場合、ヒト・モノクローナル抗体の2価の抗原結合断片をいう。F(ab’)2断片は、例えば、2つの重鎖および2つの軽鎖の可変領域の全てまたは一部を含み、2つの重鎖および2つの軽鎖の第1の定常ドメインの全てまたは一部をさらに含み得る。
【0025】
当業者には、ヒト・モノクローナル抗体の断片が機能的活性を維持している限り、同断片の正確な境界は重要でないことが知られている。周知の組換え法を使用して、当業者は、特定の適用のために所望される任意の終端を有する機能的断片を発現するようにポリヌクレオチド配列を操作し得る。
【0026】
本明細書中で使用する場合、用語「血液凝固障害」とは、血栓塞栓性の障害の疾患状態(すなわち、血栓塞栓症に罹患しているかまたは過剰な血液凝固(血栓)状態にある個体)および血液凝固障害の疾患状態(すなわち、極度の血液凝固不足(例えば特発性血小板減少症)に罹患している個体)を含むことを意図する。
【0027】
本明細書中で使用する場合、用語「炎症」は、感染に対する血液の任意の応答反応を包含することを意図し、該応答反応は、通常は白血球による感染に対する化学物質による反応である。
【0028】
本明細書中で使用する場合、用語「標識」は、ヒト免疫グロブリンまたは本発明の他の分子に結合され得る部分構造(moiety)を意味することを意図する。該部分構造は、例え
ば、治療手順または診断手順のために使用され得る。治療的標識には、例えば、本発明の免疫グロブリンに結合可能であり該免疫グロブリンのインテグリンへの結合をモニタリングするために使用可能な部分構造が含まれる。診断的標識には、例えば、分析方法によって検出可能な部分構造が含まれる。
【0029】
分析方法には、例えば、定性的手法および定量的手法が含まれる。定性的な分析方法には、例えば、免疫組織化学法および間接的免疫蛍光法が含まれる。定量的な分析方法には、例えば、イムノアフィニティ手法(例えば、ラジオイムノアッセイ、ELISAまたはFACS分析)が含まれる。分析方法にはまた、in vitroおよびin vivoの両方の画像化手法が含まれる。分析手段によって検出され得る診断的標識の具体的な例には、酵素、放射性同位体、蛍光色素、化学発光マーカーおよびビオチンが含まれる。
【0030】
標識は、本発明の免疫グロブリンに直接結合されてもよいし、または本発明の分子に特異的に結合する2次結合因子に結合されてもよい。このような2次結合因子は、例えば2次抗体であってもよい。2次抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルのいずれでもよく、ヒト抗体、げっ歯類の抗体またはキメラ起源の抗体のいずれでもよい。
【0031】
本明細書中で使用する場合、用語「免疫特異性」とは、その結合領域が、インテグリンと特異的に結合することによってインテグリンと免疫反応をし得ることを意味する。免疫グロブリンまたはその機能的断片は、約10−5M−1〜10−13M−1、好ましくは10−6M−1〜10−1M−1、なおより好ましくは10−7M−1〜10−9M−1の親和性定数で抗原(インテグリン分子)と選択的に相互作用し得る。用語「免疫反応」は、その結合領域が、インテグリンまたはそのエピトープと結合すると免疫応答を惹起し得ることを意味する。
【0032】
本明細書中で使用する場合、用語「エピトープ」とは、免疫グロブリンの結合領域を導き出し、該領域と結合する能力を有する抗原の任意の領域を意味する。
本明細書中で使用する場合、用語「有効量」は、特定の疾患状態(すなわち、血液凝固障害)を軽減させ得る本発明の分子の量を意味することを意図する。特定の適用についての有効量であるとみなされる実際の量は、例えば、本発明の分子の親和性、反応性、安定性、バイオアベイラビリティまたは選択性、該分子に結合した部分構造、薬学的担体および投与経路のような要因によって変化しうる。有効量は、当業者に公知の方法を使用して決定または推定可能である。このような方法には、例えば、培養細胞または組織生検試料を用いたin vitroアッセイおよび信頼性のある動物モデルが挙げられる。
【0033】
用語「実質的に該アミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列」により、本発明者らは、その配列が、参照された配列のいずれか1つのアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列と少なくとも60%の配列同一性を有することを意味する。異なるタンパク質配列間およびDNA配列間の同一性の割合(%)の計算は、Clustalプログラムによる多重アラインメントの作成によって実施され得る。参照された配列のいずれかに対して65%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。参照された配列のいずれかに対して70%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。参照された配列のいずれかに対して75%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。参照された配列のいずれかに対して80%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。好ましくは、アミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列は、参照される配列のいずれかに対して85%の同一性、より好ましくは90%の同一性、なおより好ましくは92%の同一性、なおより好ましくは95%の同一性、なおより好ましくは97%の同一性、なおより好ましくは98%の同一性を有し、最も好ましくは参照配列のいずれか
に対して99%の同一性を有する。
【0034】
実質的に類似するヌクレオチド配列は、配列番号1〜10、12および14〜20に示される配列またはそれらの相補体と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列によってコードされることになる。ストリンジェントな条件については、本発明者らは、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、約45℃で該ヌクレオチドをフィルタに結合したDNAにハイブリダイズさせた後、0.2×SSC/0.1% SDS中で約5℃〜65℃で少なくとも1回洗浄することを意味している。あるいは、実質的に類似するポリペプチドは、配列番号11および13に示される配列と、少なくとも1アミノ酸、しかし好ましくは100未満、50未満、20未満、10未満または5未満のアミノ酸が異なるものでよい。
【0035】
遺伝子コードの縮重に起因して、当然のことであるが、いかなる核酸配列も、同核酸配列によってコードされるタンパク質の配列に実質的に影響を与えることなく変更または変化させて、同核酸配列の機能的改変体を提供し得る。適切なヌクレオチド改変体は、その配列内に、同じアミノ酸をコードする異なるコドンで置換することによって変更された配列を有し、従ってサイレントな変化を生じる改変体である。
【0036】
他の適切な改変体は、相同なヌクレオチド配列を有するが、全配列または配列の一部分が異なるコドンで置換することによって変更されている改変体であり、該コドンは置換されるアミノ酸と類似した生物物理学的特性の側鎖を有するアミノ酸をコードしているので保存的変化を生じる。例えば、小さい非極性の疎水性アミノ酸には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリンおよびメチオニンが含まれる。大きい非極性の疎水性アミノ酸には、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンが含まれる。極性の中性アミノ酸には、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギンおよびグルタミンが含まれる。正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、リジン、アルギニンおよびヒスチジンが含まれる。負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。
【0037】
タンパク質配列またはDNA配列の正確なアラインメントは、多数の研究者によって詳細に研究されてきた複雑な方法である。配列の最適なマッチングとこのようなマッチングを得るためのギャップの導入との間の妥協が特に重要である。タンパク質の場合、マッチングをスコア化する手段もまた重要である。PAMマトリックス(例えば、デイホフ,エム.ら(Dayhoff, M. et al.)、1978年、「Atlas of protein sequence and structure 」、Natl.Biomed.Res.Found.)およびBLOSUMマトリックスのファミリーは、保存的置換の性質および見込みを定量し、多重アラインメント・アルゴリズムにおいて使用されるが、他の等しく適用可能なマトリックスも当業者には公知であろう。一般的な多重アラインメントのプログラムであるClustalWおよびそのウインドウズ・バージョンのClustalX(トンプソンら(Thompson et al. )、1994年、Nucleic Acids Research、第22巻、p.4673〜4680;トンプソンら(Thomson et al.)、1997年、Nucleic Acids
Research、第24巻、p.4876〜4882)は、タンパク質およびDNAの多重アラインメントを作成するのに有効な方法である。
【0038】
自動的に作成されたアラインメントは手動のアラインメントを必要とすることが多く、この手動のアラインメントには研究対象のタンパク質ファミリーに関する熟練した使用者の知識(例えば、保存性の高い重要な部位についての生物学的知識)が利用される。このようなアラインメント・エディタ・プログラムの1つはAlign(http://www.gwdg.de/~dhepper/download/ ;ヘッパール,ディー.(Hepperle, D.)、2001年、「Multicolor Sequence Alignment Editor. 」、ドイツ連邦共和国、16775、シュテヒリン(
Stechlin)所在の淡水生態学および内陸漁業研究所(Institute of Freshwater Ecology and Inland Fisheries)であるが、JalViewまたはCinemaのような他のプログラムもまた適切である。
【0039】
タンパク質間の同一性(%)は、Clustalによる多重アラインメントの作成の間に計算される。しかし、同一性の値は、そのアラインメントが手動で改善された場合、または2つの配列を慎重に比較するために、再計算される必要がある。同一性(%)は、(N/T)×100と規定することができるが、ここで、Nは、2つの配列が同一の残基を共有する部位の数であり、Tは比較される部位の総数である。一方の配列または両方の配列がギャップを有するアラインメント中の残基は、この計算に含めない。アラインメント内の対についてこの値を計算する多数のプログラムが存在する。タンパク質についての1例は、アミノ酸置換についてのモデルとして「Similarity Table」オプション(P)を使用した、PHYLIP系統発生学パッケージ中のPROTDIST(フェルゼンシュタイン(Felsenstein );http://evolution.gs.washington.edu/phylip.html)である。DNA/RNAについては、PHYLIPのDNADISTプログラム内に同一のオプションが存在する。別例として、同一性(%)を、(N/S)×100と規定することもでき、ここで、Sは比較されている配列の短い方の長さである。
【0040】
タンパク質配列における他の修飾(すなわち、例えばアセチル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化、タンパク質分解による切断またはリガンドへの連結によって、翻訳中または翻訳後に生じる修飾)もまた想定され、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内にある。
【0041】
本発明の第1の態様によれば、
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を有する抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片が提供される。
【0042】
この抗原結合領域は、免疫グロブリンの相補性決定領域(CDR)、またはその機能的断片を含み得る。免疫グロブリンまたはその機能的断片のCDR間で枠組構造領域に変異が存在してもよい。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号12の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたは
その機能的断片が提供される。
【0044】
本発明の第3の態様によれば、軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片が提供され、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号13に定められたアミノ酸配列を有し、該重鎖可変領域は実質的に配列番号11に定められたアミノ酸配列を有する。
【0045】
本発明の第4の態様によれば、軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片が提供され、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号12に定められたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ、該重鎖可変領域は実質的に配列番号10に定められたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる。
【0046】
第5の態様によれば、
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を含んでなる単離されたペプチドが提供される。
【0047】
このペプチドはポリペプチドを含み得る。好ましくは、このペプチドはインテグリンに結合するように適合している。
本発明の第6の態様によれば、
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号10の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0048】
好ましくは、このポリヌクレオチドは、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードする。好ましくは、このポリヌクレオチドは、組換えヒト免疫グロブリンの少なくとも1つの抗原結合領域のアミノ酸配列を実質的にコードするヌクレオチド配列、またはその機能的断片を含む。
【0049】
有利なことに、この免疫グロブリンまたはその機能的断片は、それ自体で潜在的な治療的相互作用を有し、非ヒト領域(例えばマウス)、Fc断片(枠組構造領域)または少なくとも1つのマウス抗原結合領域(すなわち、相補性決定領域(CDR))を含む免疫グロブリンを使用する現在の治療に対する改善である。
【0050】
第7の態様によれば、医薬としての使用または診断における使用のための、各々任意選
択で誘導体化された、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドが提供される。
【0051】
第1〜第4の態様のいずれかに規定される免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドは、誘導体化されなくてもよい。
【0052】
好ましくは、前記医薬は、血液凝固障害を抑制または予防するように適合している。
第8の態様によれば、血液凝固障害を治療するための医薬の調製のための、任意選択で誘導体化済みの、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドの使用が提供される。
【0053】
従って、免疫グロブリンもしくはその機能的断片、ペプチドまたはポリヌクレオチドは、好ましくはその誘導体または改変体を作製するために、使用前に改変されてもよい。第1〜第4の態様のいずれかに規定される免疫グロブリンもしくはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、または第6の態様に規定されるポリヌクレオチドは、誘導体化されなくてもよい。
【0054】
好ましくは、前記医薬は、血栓塞栓性の障害および炎症のうち少なくともいずれかを抑制または予防するように適合している。
第9の態様によれば、血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかを治療する方法が提供され、この方法は、各々任意選択で誘導体化された、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドを患者に投与する工程を含む。
【0055】
治療する方法は、抗炎症治療法および抗血栓塞栓治療法のうち少なくともいずれかを含み得る。
第10の態様によれば、各々任意選択で誘導体化された、本発明の第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたは機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチド、ならびに薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤または安定剤を含む医薬組成物が提供される。
【0056】
第1〜第4の態様のいずれかに規定される免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドは、誘導体化されなくてもよい。
【0057】
適切な医薬品賦形剤には、例えば、生理学的に緩衝化された生理食塩水のような水溶液、および、グリコール、グリセロール、油または注射可能な有機エステルのような他の溶媒または媒体が含まれる。医薬品担体は、例えば、医薬組成物を安定化させるように、または医薬組成物の溶解性を増大させるように作用する生理学的に許容可能な化合物を含み得る。このような生理学的に許容可能な化合物は、例えば、炭水化物(例えば、グルコース、スクロースまたはデキストロース);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸またはグルタチオン);キレート剤;低分子量タンパク質;または別の安定剤もしくは賦形剤であってもよい。当業者には周知のことであるが、医薬品媒体の選択および組成物の適切な調製は、意図される用途および投与様式に依存する。
【0058】
好ましくは、この組成物は、患者において血液凝固障害および炎症のうち少なくともい
ずれかを予防または軽減させるために前記患者に投与されるように適合している。好ましくは、この血液凝固障害は、患者における血栓塞栓性の障害を含む。好ましくは、この組成物は、患者において血液凝固障害を、より好ましくは血栓塞栓性の障害および炎症のうち少なくともいずれかを検出するためにも使用され得る。
【0059】
第11の態様によれば、血液凝固障害を有する個体を治療または診断するためのキットが提供され、このキットは、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドを含む。
【0060】
好ましくは、このキットは検出手段をさらに含み、該検出手段は、前記免疫グロブリンもしくはその機能的断片、ペプチドまたはポリヌクレオチドに特異的な抗原の有無を検出するように適したアッセイを含むことが好ましい。キットは、該検出手段によって検出され得る標識を含み得る。
【0061】
第12の態様によれば、血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかに対する個体の感受性を決定するための方法が提供され、この方法は、
(i)個体から試料を得る工程、および
(ii)第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドを使用して、試料中の抗原のレベルを決定する工程
を含む。
【0062】
抗原はインテグリンを含んでなることが好ましく、GPIIb/IIIaを含んでなることがより好ましい。試料は、血液、尿、組織などを含み得る。
この組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片は、第1および第2の態様に規定される抗原結合領域を、少なくとも2つ、適切には少なくとも3つ、より適切には少なくとも4つ含んでなるとよい。好ましくは、この組換え免疫グロブリンまたは機能的断片は、少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも6つ、なおより好ましくは少なくとも7つの抗原結合領域を含んでなる。好ましい実施形態において、この組換え免疫グロブリンまたは機能的断片は、8つ全ての抗原結合領域を含んでなる。
【0063】
この組換え免疫グロブリンは、抗原結合領域のうちいずれか、または全ての抗原結合領域を含み得る。この組換え免疫グロブリンは抗原結合部位を含み得るが、この抗原結合部位に抗原が結合し、好ましくは免疫学的応答を惹起する。好ましくは、少なくとも1つの抗原結合領域が抗原結合部位の少なくとも一部を形成する。
【0064】
好ましくは、この免疫グロブリンまたはその機能的断片は1価である。しかし、この免疫グロブリンは2価であっても多価であってもよい。
不都合なことに、2価または多価の免疫グロブリンは、フィブリノゲン代替物として作用して血小板凝集を促進する傾向を有する可能性がある。これは、2価免疫グロブリンが、第1の血小板細胞上の第1のフィブリノゲン・レセプターに結合し、かつ第2の血小板細胞上の第2のフィブリノゲン・レセプターにも結合し得るからである。従って、2価免疫グロブリンによって2つの血小板細胞間に架橋が形成され、その結果血小板の凝集が生じる。これは危険性があろう。
【0065】
有利なことに、上で議論した2価および多価の免疫グロブリンとは対照的に、1価の免疫グロブリンは、単一の血小板上の1つのフィブリノゲン・レセプターだけに結合し得るので、血小板にフィブリノゲンが結合するのを防止し、従って、血小板凝集を防止する。1価の免疫グロブリンは、血小板細胞間に架橋を形成し得ない。
【0066】
従って、本発明は、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を作製する方法まで及び得るが、該方法において、免疫グロブリンまたはその機能的断片は1価である。
【0067】
好ましくは、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、1価の免疫グロブリンまたはその機能的断片として直接作製される。本発明の方法は、1価の免疫グロブリンを生産するために2価または多価の免疫グロブリンを切断する工程を含まないことが好ましい。このような手法は通常、直接作製された1価の免疫グロブリンよりもリガンドに対する親和性が低い1価の免疫グロブリンを生じるであろう。
【0068】
1価の免疫グロブリンは、ヒトの体内におけるin vivoの寿命が比較的短いことが好ましく、例えば、好ましくは2カ月未満、より好ましくは1カ月未満、なおより好ましくは2週間未満、最も好ましくは48時間未満である。免疫グロブリンは、例えば、手術後に患者が血栓症に罹患する危険性を低下させるために、手術後に患者に投与することによって医学的に使用され得る。2価および多価の免疫グロブリンは、かなり長い寿命(例えば、約2カ月〜3カ月)を有する傾向があり、医学的な使用にとってあまり適切ではない。さらに、2価の免疫グロブリンは、患者に血栓症を引き起こす傾向がある。
【0069】
抗原はインテグリンを含んでなることが好ましい。
インテグリンは、好ましくは2つのファミリーに由来するα鎖およびβ鎖からなる。これらの鎖が組み換わることにより、免疫応答および凝固反応における異なる機能を有する種々のインテグリン分子を生じる。
【0070】
α鎖には、α1、α2、α3、α4、α5、α6、α7、α8、α9、α11、αIb、αIIb、αM、αV、αE、αL、αXが含まれる。
β鎖には、β1、β2、β3、β4、β5、β6、β7、β8が含まれる。
【0071】
このα鎖およびβ鎖は、特定の組合せを生じるように組み合わせることが可能であり、該組合せは、各々が例えば、αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1およびα6β4であるインテグリンを生じる。
【0072】
従って、約24種のインテグリン・ファミリー構成分子が存在する。
抗原は、αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1およびα6β4からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなることが好ましい。
【0073】
好ましくは、抗原はβ3インテグリンを含んでなる。好ましくは、抗原は、αVβ3、αIIbβ3およびαIbβ3からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなる。
【0074】
例えば、適切なインテグリンには、糖タンパク質IIb/IIIa(αIIbβ3)、LFA−1(αLβ2)、VLA−4(α4β1)、MAC−1(αMβ2)およびp150.95(αXβ2)が含まれる。上記インテグリンは、構造的、機能的および免疫化学的に互いに類似している。従って、上記のインテグリンに構造的、機能的および免疫化学的に類似している上に列挙した他のインテグリンもまた、特許請求の範囲に記載される
本発明の範囲内にある。
【0075】
好ましくかつ有利には、本発明の免疫グロブリンまたはその機能的断片は、インテグリン(例えば、ヒト糖タンパク質(GP)IIb/IIIa)が実質的に精製されている場合、該インテグリンに対する免疫特異性を有することが好ましい。好ましくかつ有利には、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、その外表面上にインテグリン(例えば、ヒト糖タンパク質IIb/IIIa)を有する血小板に結合するように適合している。
【0076】
本発明の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片は、好ましくは自己免疫性特発性血小板減少症(AITP)に罹患している個体から単離され得る。この疾患状態(AITP)は、患者の血小板濃度が健康な個体中の血小板濃度よりも低いことによって特徴付けられる。さらに、この疾患状態AITPは、血小板インテグリン(例えば、糖タンパク質(GP)IIb/IIIa)に対する免疫特異性を有する免疫グロブリンの存在によって特徴付けられる。他の血小板インテグリンに対する免疫特異性を有する免疫グロブリンもまた、AITP患者体内に存在し得る。
【0077】
好ましくかつ有利には、本発明の免疫グロブリンまたはその機能的断片は、アゴニストに応答したヒト血小板の凝集を実質的に阻害するように適合している。好ましくかつ有利には、この免疫グロブリンまたはその機能的断片は、糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープに対するフィブリノゲンの結合(血小板凝集の開始における主な相互作用)を実質的に阻害するように適合している。
【0078】
興味深いことに、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、体細胞突然変異によって誘導される。好ましくは、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、生殖系列の進化とは対照的に、親和性成熟によって誘導される。
【0079】
AITPに罹患した個体では通常、機能を阻害する抗体が報告されているにもかかわらず、血小板が急速に除去されることが原因で血小板数が低い。しかし、驚くべきことに、GPIIb/IIIaとフィブリノゲンとの間の相互作用を特異的に阻害するモチーフを含む抗体が、体細胞突然変異を介して生じるようである。単離されたモノマー形態は血小板凝集を阻害する一方、in vivoで通常存在するダイマー形態は、血小板凝集を加速することによってこの疾患の通常の病態を阻害していることが予測され得る。
【0080】
本発明のCDRについて使用される名称を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
好ましくは、配列番号13の残基31〜33によって規定される抗原結合領域は、アミノ酸配列「RSD」を含む。好ましくは、配列番号13の残基30〜38として示されるアミノ酸配列によって規定される結合領域は、「ARSDGVSLM」のアミノ酸配列を含む。
【0083】
好ましくは、免疫グロブリンの機能的断片は、ヒト免疫グロブリンと実質的に同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する断片を含む。好ましくは、この機能的断片はインテグリン特異的である。好ましくは、この機能的断片には、結合領域配列のうち少なくとも1つが免疫グロブリン、より好ましくはインテグリン特異的ヒト免疫グロブリンの結合領域配列と実質的に同じアミノ酸配列である断片が含まれる。この機能的断片は、VH断片、VL断片、Fd断片、Fv断片、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片およびFc断片からなる群から独立に選択される断片のいずれかを含み得る。
【0084】
この機能的断片は、ヒト免疫グロブリンのVLの抗原結合領域配列のいずれか1つ、VHの抗原結合領域配列のいずれか1つ、またはVL抗原結合領域およびVH抗原結合領域の組合せを含み得る。VH抗原結合領域配列およびVL抗原結合領域配列の適切な数および組合せは、機能的断片の所望の親和性および特異性ならびに意図される用途によって、当業者が決定することができる。
【0085】
免疫グロブリンの機能的断片は、当業者に周知の方法を使用して容易に生産および単離可能である。このような方法には、例えば、タンパク質分解法、組換え法および化学合成が含まれる。
【0086】
機能的断片の単離のためのタンパク質分解法は、出発材料としてヒト免疫グロブリンを
使用する工程を含む。ヒト免疫グロブリンのタンパク質分解に適切な酵素には、例えば、パパインおよびペプシンが含まれる。適切な酵素は、例えば、1価の断片が必要か2価の断片が必要かによって、当業者が容易に選択することができる。例えば、パパイン切断では、抗原に結合する2つの1価のFab’断片およびFc断片を生じる。ペプシン切断では、例えば、2価のF(ab’)断片を生じる。本発明のF(ab’)2断片は、2つの1価のFab’断片を生成させるために、例えばDTTまたは2−メルカプトエタノールを使用してさらに還元されてもよい。
【0087】
タンパク質分解によって生成された機能的断片は、アフィニティ・クロマトグラフィー手法およびカラム・クロマトグラフィー手法によって精製され得る。例えば、未消化の抗体およびFc断片は、プロテインAへの結合によって除去され得る。さらに、機能的断片は、例えば、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過クロマトグラフィーを使用して、該断片の電荷およびサイズによって精製され得る。このような方法は当業者に周知である。
【0088】
ヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片は、組換え法によって生産することもできる。好ましくは、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の所望の領域をコードするポリヌクレオチドを最初に単離する。このような領域は、例えば、重鎖および軽鎖の可変領域の全体または一部を含み得る。好ましくは、このような領域は特に、重鎖および軽鎖の抗原結合領域、好ましくは抗原結合部位、最も好ましくはCDRを含み得る。
【0089】
本発明のヒト免疫グロブリンまたは機能的断片をコードするポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法を使用して生産することができる。免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドは、当該分野で公知のオリゴヌクレオチド合成の方法によって直接合成され得る。別例として、比較的小さい断片を合成し、当該分野で公知の組み換え方法を使用して連結してより大きい機能的断片を形成することも可能である。
【0090】
好ましくは、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、バクテリオファージ発現系によって生産される。好ましくは、このバクテリオファージ発現系は、ファージ・ディスプレイ・ライブラリーを含む。
【0091】
免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを単離するために有用な手順は、自己免疫性特発性血小板減少症(AITP)に罹患している個体から単離されたRNAから逆転写され得るcDNAの単離から開始する。この疾患状態(AITP)は、糖タンパク質(GP)IIb/IIIaを含む血小板インテグリンに対する免疫特異性を有する抗体の存在によって特徴付けられる。cDNA合成のための方法は当該分野で周知である。重鎖または軽鎖を含む免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするcDNAは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、好ましくは逆転写PCR(RT−PCR)を使用して増幅され得る。
【0092】
PCRのために適切なプライマーは、重鎖または軽鎖の特定の機能的断片に隣接する保存された配列を使用して、当業者によって決定され得る。例えば、適切なPCRプライマーは、配列番号1〜配列番号7および配列番号14〜配列番号20として実質的に示されるポリヌクレオチドのうちいずれかを含み得る。適切なPCR条件は、当業者によって決定され得る。
【0093】
好ましくは、PCRは、重鎖、より好ましくはVH CH−1断片、なおより好ましくは重鎖可変領域の断片(VH)を増幅するように適合されている。別例として、または追加として、PCRは、軽鎖、より好ましくはVL CL断片、なおより好ましくは軽鎖可変領域の断片(VL)を増幅するように適合されている。
【0094】
好ましくは、PCR反応は、例えば配列番号1〜7および14〜20からなるプライマー群から独立に選択され得る、適切なプライマーを使用して構成される。
好ましくは、PCR産物は、適切な発現ベクター、より好ましくはファージ発現ベクター(例えばpComb3HSS)中にクローニングされる。好ましくは、重鎖断片はXhoIおよび好ましくはSpeIによって消化されてからベクターへクローニングされる。好ましくは、軽鎖断片はSacIおよび好ましくはXbaIによって消化されてから発現ベクターへクローニングされる。
【0095】
好ましくは、該ベクターは、重鎖断片および好ましくは軽鎖断片が発現するように、適切な宿主(例えば、E.coli)中に導入される。適切なベクターと宿主細胞の系は、例えば、重鎖および軽鎖の機能的断片の同時発現および集合を可能にし得る。好ましくは、ベクターは、エレクトロポレーションによって宿主中に導入される。
【0096】
抗体断片の発現に適切な他の系は当業者であれば決定可能であり、該系には例えば、M13ファージ発現ベクターが含まれる。組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片は、当該分野で公知の方法を使用して実質的に精製可能であり、該方法は使用される特定のベクターおよび宿主の発現系によって決まる。
【0097】
好ましい実施形態において、本発明は、インテグリン特異的ヒト免疫グロブリンに関する。有利なことに、この免疫グロブリンはヒト起源であり、従って、非ヒト起源のエレメントを含む免疫グロブリンを使用する場合とは対照的に、ヒト患者への投与の際にあらゆる免疫応答をも最小限とする可能性が高い。さらに、免疫グロブリンまたはその機能的断片、ならびにこの免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、例えば抗炎症および血液凝固障害の疾患状態に応じた、組成物および診断薬の製造、ならびにそれらの使用のために有効に使用され得る。
【0098】
本発明の第14の態様によれば、第6の態様において規定されるポリヌクレオチドまたはその誘導体を含んでなる組換えDNA分子が提供される。
好ましくは、この組換えDNA分子は発現ベクターを含む。好ましくは、ポリヌクレオチド配列は、発現制御配列に作動可能な状態に連結される。適切な制御配列は、プロモーター、エンハンサーなどを含み得る。
【0099】
本発明の第15の態様によれば、第14の態様の組換えDNA分子を含む細胞が提供される。
この細胞は、適切な手段によって組換えDNA分子で形質転換または形質移入され得る。
【0100】
本発明の第16の態様によれば、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を調製する方法が提供され、この方法は、
(i)必要とされる免疫グロブリンまたはその機能的断片を発現し得る、第15の態様に規定される少なくとも1つの細胞を培養する工程、および
(ii)免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む。
【0101】
免疫グロブリンまたはその機能的断片は、インテグリン・ファミリーの他の構成分子に対する免疫特異性を示す免疫グロブリンの開発のためのフレームワークとなるように使用され得る。インテグリンは、2つのファミリー由来のα鎖およびβ鎖からなる。これらの鎖を組換えることにより、免疫応答および凝固反応において異なる機能を有する種々のインテグリン分子が生じる。インテグリンの例としては、
αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1、α6β4
が含まれる。
【0102】
これらの組合せの各々は、血小板凝集におけるその役割とは別の種々の機能、例えば免疫応答の活性化、白血球の遊走(これらはいずれも抗炎症治療の標的である)、精子と卵との間の相互作用、ならびに血管形成(主要な抗腫瘍治療の標的)などを有する。
【0103】
第17の態様によれば、標的のインテグリンに結合する能力を有する組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法が提供され、この方法は、
(i)第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を突然変異させて変異体を生成させる工程、および
(ii)標的のインテグリンに対する活性について変異体を選択する工程
を含む。
【0104】
第1の実施形態において、前記突然変異させる工程は、ランダム変異誘発、好ましくは縮重PCRの使用を含み得る。免疫グロブリンのcDNAがPCR反応中の鋳型として使用され、該反応に変異原を加えることが好ましい。PCR反応には、変異誘発性のヌクレオシド三リン酸(例えば、dPおよび8−オキソ−2’デオキシグアノシン)を加えることが好ましい。有利なことに、このことにより、高度に制御された様式でcDNA中の至る所に変異を導入して変異体ライブラリーを作製することが可能である。得られた変異体ライブラリーは、ファージの表面上に提示可能であり、所望のインテグリンに対する抗体が選択可能である。
【0105】
得られた変異体抗体のライブラリーは、バイオパニングを使用して所望のインテグリンに対して選択可能である。ELISAプレートを、所望のインテグリンで被覆すればよい。例えば、重炭酸塩緩衝液(pH8.6)中の所望のインテグリンの1μg/ml溶液100μlを、4℃で一晩インキュベートすることができる。
【0106】
好ましくは、TBSで2回洗浄した後、プレートをPBS中5%のBSAでブロッキングし、37℃で1時間インキュベートすればよい。さらに2回の洗浄後、100μlのファージ懸濁物を各ウェルに添加してプレートを37℃で2時間インキュベートすることができる。
【0107】
ファージを除去し、ウェルをTBS、0.05% Tween 20(TBST)で満たし、激しくピペット撹拌することができる。5分後にTBSTを除去すればよいが、第1回のパニングについては、プレートはこの方法で1回洗浄すればよい。第2回のパニングでは5回洗浄すればよく、第3回および以降の回においては10回洗浄した。次いで、1ウェル当たり50μlの溶出緩衝液でファージを溶出可能であり、室温で10分間インキュベートすればよい。激しくピペット撹拌した後、溶出したファージを取り出して、2M Trisベース3μlで中和することができる。
【0108】
第2の実施形態において、前記突然変異させる工程は、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片の少なくとも1つの抗原結合領域中に、標的インテグリンに対する免疫特異性を有する少なくとも1つのリガンドを導入する工程を含み得る。
【0109】
この少なくとも1つのリガンドは、RDG、RSG、RSD、HHLGGAKQAGDV、GPR、RPG、AEIDGIEL、ARSDGVSLM、QIDS、LDT、ID
APS、DLXXLおよびGFOGERからなる一群のリガンドから独立に選択され得る。GFOGERはヒドロキシプロリンである。
【0110】
この少なくとも1つの抗原結合領域は、重鎖および軽鎖のうち少なくともいずれかの可変断片中に存在し得る。好ましくは、この少なくとも1つのリガンドは、免疫グロブリンまたはその機能的断片の重鎖の抗原結合領域のいずれかの中に導入される。好ましくは、この少なくとも1つのリガンドは、第1の結合領域中に導入される。例えば表1を参照のこと。
【0111】
リガンドは、分子モデリングを含む種々の技術によって決定された適切な部位に、制限酵素消化によって挿入され得る。リガンドのペプチド配列をコードするポリヌクレオチド配列は、切断された制限酵素部位にライゲーションされ得る。これについての正確な詳細事項は、使用されるリガンドおよびCDRの性質によって変わる。
【0112】
第2の実施形態において、前記突然変異させる工程は、ランダム変異誘発をさらに含み得る。
第18の態様によれば、第17の態様において規定される方法を使用して生成された、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片のライブラリーまたはパネルが提供される。
【0113】
上に列挙した多数のインテグリンの組合せは、種々の疾患(特に腫瘍)において過剰発現される可能性があり、従って、免疫グロブリンまたは抗体を用いて腫瘍の場所を特定することが可能である。腫瘍、および場合によっては他の疾患の治療成績をインテグリンの発現によって予測可能であることもまた示唆される。
【0114】
本発明の第19の態様によれば、抗血小板作用を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法が提供され、この方法は、
(i)少なくとも1つの完全な血小板に対して少なくとも1種の免疫グロブリンまたはその機能的断片を接触させる工程、および
(ii)完全な血小板に対する結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む。
【0115】
用語「完全な血小板」によって、本発明者らは、血小板膜が本来の状態ではない可能性のある血小板の領域または部分ではなく、血小板膜が好ましくは本来の状態である完全な血小板または無傷の血小板を意味する。抗血小板作用を有する免疫グロブリン、という用語によって、本発明者らは、アゴニストに応答したヒト血小板の凝集を実質的に阻害するように適合している免疫グロブリンまたはその機能的断片を意味する。好ましくは、かつ有利なことに、本発明の抗血小板作用を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片は、糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープへのフィブリノゲンの結合(血小板凝集の開始における主な相互作用)を実質的に阻害するように適合している。
【0116】
上記少なくとも1種の免疫グロブリンは、バクテリオファージと結合していることが好ましい。バクテリオファージ・ライブラリーを、少なくとも1つの完全な血小板に対して接触させることが好ましい。複数の完全な血小板が使用されることが好ましい。前期接触工程は、完全な血小板に対してファージ・ライブラリーをパニングする工程を含む。
【0117】
有利なことに、この方法は、機能的に活性な免疫グロブリンの探索において特定の抗原(例えばGPIIb/IIIa)に対して免疫グロブリンをスクリーニングすることよりも、時間がはるかにかからない。なぜなら、インテグリンが血小板膜と共に本来の状態で存在すると思われるからである。
【0118】
本明細書中に記載される特徴の全ては、任意の組合せで、上記の態様のいずれとも組み合わされる。
本発明のある実施形態は、添付の図面および配列表を参照しながら、実施例としてここに記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0119】
本発明の1実施形態を、以下の実施例によってここに説明する。
【実施例】
【0120】
この検討課題の第1段階は、2人の自己免疫性特発性血小板減少症(AITP)の患者由来のコンビナトリアル抗体ライブラリーを構築することであった。この疾患状態(AITP)は、患者の血小板濃度が健康な個体と比較して低いことによって特徴付けられる。さらに、この疾患状態AITPは、血小板インテグリン糖タンパク質(GP)IIb/IIIaに対する免疫特異性を有する抗体の存在によって特徴付けられる。
【0121】
(ライブラリー構築)
全RNAを、Ultraspec(商標)RNA単離キット(英国所在のバイオテックス・ラボラトリーズ社(Biotex Laboratories))を使用してAITP患者由来のホモジナイズした脾臓組織から単離した。次いで、以下のように、脾臓組織から単離されたRNAに対する逆転写を実施することによってcDNAを生成した。
【0122】
10μg〜30μgの単離RNAを滅菌した1.5mlのEppendorf(商標)チューブに添加した。次いで、1μg(2μl)のオリゴdTを添加し、ヌクレアーゼを含まない水またはDEPC(ジエチルピロカーボネート)水を用いて体積を27μlとした。この反応物を70℃で10分間加熱し、次いで40℃まで冷却した。
【0123】
次いで、2μlのRNAse阻害剤を10μl(5×)RT緩衝液と共に添加した。続いて3μlのdNTPを添加した(各々2mMのdATP、dCTP、dGTP、dTTP)。次いで5μlの0.1M DTTを添加し、逆転写酵素の添加前にDEPC水を使用して体積を48μlとした。次いで、200ユニット(2μl)の逆転写酵素(SuperscriptII(商標)、英国所在のギブコ社(Gibco))を添加し、反応物を室温で10分間インキュベートした。この反応を、90℃で5分間インキュベートしてから4℃で10分間インキュベートすることによって終結させた。
【0124】
AITP患者のRNAを逆転写した後、cDNAの重鎖可変領域(VH)および軽鎖(κ鎖)可変領域を、定常(C)領域プライマーおよび可変領域(VHおよびVκ)の第1フレームワークに特異的なプライマー群、ならびに追加のVHおよびVκプライマーを使用するPCRによって増幅した。
【0125】
重鎖のCOOH末端で増幅を開始する重鎖可変領域プライマーは以下である。
【0126】
【化1】
【0127】
上記重鎖可変領域プライマーを、以下の重鎖IgG1特異的定常(CHζ)ドメイン・プライマーと共にPCR反応において使用した。
【0128】
【化2】
【0129】
κ軽鎖のCOOH末端で増幅を開始するκ軽鎖可変ドメイン・プライマーは以下である。
【0130】
【化3】
【0131】
上記軽鎖可変領域プライマーを、以下の軽鎖定常ドメイン・プライマーと共にPCR反応において使用した。
【0132】
【化4】
【0133】
使用可能な可変領域プライマーは多種多様であるため、全てのプライマーを全ての増幅において使用した。
上記RNAの逆転写反応から新たに調製されたRT−PCR混合物は、792μlのD
NAseを含まない水、100μlの(10×)Taq緩衝液および8μlのdNTP(各々25mMのdATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)から構成されるものとした。90μlのこのPCR混合物を新たなPCR反応用チューブに添加した。次いで、3μlの5’プライマーおよび3μlの3’プライマー(すなわち、60pmoleの各プライマー(各々20μM))を、各PCR反応チューブに添加した。
【0134】
次いで、5ユニット(0.5μl)のTaqポリメラーゼを各反応チューブに添加した。次いで、2μlのcDNA(本来2μlのRNAを含む)を添加した。次いで、2滴の鉱油を各反応チューブの上部に添加し、次いで25〜40サイクルのPCR増幅を実施した。PCR反応の詳細は以下のとおりであった:
(94℃で30秒間、52℃で50秒間および68℃で90秒間)×40サイクル。次いで、10μlのPCR反応産物を取り出して、2μlの6×ローディングバッファ液を添加した。
【0135】
得られた混合物を、2%のアガロース・ゲル(50:50の通常アガロース:低融点アガロース)で、φ174/Hae IIIマーカーと共に泳動した。約660bpの強いバンドから、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH1)をコードするDNA、または軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)をコードするDNAが首尾よくPCR増幅されたことが示された。
【0136】
重鎖および軽鎖のPCR産物をゲル精製し、抽出し(Wizard(登録商標)PCR
Preps DNA Purification System(商品名)、英国所在のプロメガ社(Promega))、制限酵素消化およびクローニングの効率を増大させるために、5’ポリ(GA)テイルを有する伸長プライマーを使用して再増幅した[ウイリアムソン(Williamson)、1993年、ウイリアムソン アールエイ(Williamson RA )、ブリオーニ アール(Burioni R )、サンナ ピーピー(Sanna PP)、パートリッジ
エルジェイ(Partridge LJ)、バーバス シーエフ3世(Barbas CF,3rd )、バートン
ディーアール(Burton DR )、「Human monoclonal antibodies against a plethora of viral pathogens from single combinatorial libraries 」、Proc Natl Acad Sci USA 第90巻、4141〜5ページ、1993年]。このPCR反応は以下のとおりであった:
(94℃で30秒間、52℃で50秒間および68℃で90秒間)×40サイクル。
【0137】
最初のファージ・ライブラリー構築には、スクリップス・リサーチ・インスティテュート社(Scripps Research Institute)[米国カリフォルニア州ラホヤ所在]提供の図1に示すpComB3HSSファージ・ディスプレイ・ベクターを使用した。制限酵素で消化するために、PCR増幅された重鎖および軽鎖のDNAの濃度を最初に決定した。次いで、軽鎖PCR断片(VLおよびCL)をSacI/XbaIで消化し、重鎖PCR断片(VHおよびCH−1)をSpeI/XhoI(ギブコビーアールエル社(GibcoBRL))で消化した。次いで、これらの消化物を、ライゲーションされるPCR断片について使用した酵素と同じ酵素で予め切断したpComB3HSSベクター中に順次ライゲーションした。すなわち、通常は軽鎖をベクター中に最初にクローニングし、その後重鎖をクローニングした。
【0138】
適切に消化した1400ngのベクターを反応チューブに添加し、450ngの適切に消化したPCR産物(すなわち、重鎖断片(VHおよびCH−1)または軽鎖断片(VLおよびCL)のいずれか)、40μlの5×リガーゼ緩衝液および10μlのリガーゼを含めて総体積200μlとした。このライゲーション反応物を室温で一晩インキュベートし、次いで70℃で10分間加熱して失活させた。DNAを沈殿させ、得られたDNAペレットの水分を切り、70%エタノールですすぎ、次いでペーパー・タオル上で乾燥させ
た。このペレットをSpeedvac(登録商標)でさらに乾燥させ、15μlの水に再懸濁した。このチューブを10分間氷上に配置した。ライゲーション反応が正常に行われたことを確認するために、陽性対照のライゲーション反応を実施した。
【0139】
次いで、大腸菌XL−1Blueのエレクトロコンピテント細胞(1回のライゲーション反応当たり300μl)を解凍し、ライゲーションされたベクターDNAを含むチューブに添加し、混合して1分間放置した。この細胞/DNA混合物をエレクトロポレーション・キュベットに移し、エレクトロポレーションを以下のように実施した。
【0140】
エレクトロポレーションを実施するために、細胞を、2.5kV、ギャップサイズ0.2cmのキュベット、25μFDおよび200Ωの条件でパルスした。エレクトロポレーション・キュベットを、最初に1mlで洗い、次いで2mlのSOC培地を室温にて即座に流し込み、その後すぐにこのSOC培地中でシェーカー(250rpm)中で37℃にて1時間インキュベートした。次いで、20μg/mlのカルベニシリンおよび10μg/mlのテトラサイクリンを含む予め温めた(37℃)スーパーブロス(Superbroth、SB)10mlを添加した。対照のライゲーション試料については100ml、10mlおよび1ml、ライブラリーのライゲーション試料については10ml、1mlおよび0.1mlを100μg/mlのカルベニシリンを含むLBプレート上に播種することによって、即座に形質転換体の力価を決定した。
【0141】
形質転換された大腸菌の10ml培養物を、シェーカー(300rpm)で37℃にて1時間インキュベートした。インキュベーション後、カルベニシリンを、50μg/mlの最終濃度まで添加し、37μCでさらに1時間インキュベートした。10mlの培養物を、50μg/mlのカルベニシリンおよび10μg/mlのテトラサイクリンを含む100mlのSBに添加し、シェーカーで37℃にて一晩インキュベートした。
【0142】
一晩増殖させた後、ファージ・プラスミドDNAをミニプレップ(小規模精製)することによって単離した。単離したベクターを第1鎖の挿入についてチェックし、次の鎖とのライゲーションのために準備した。通常、軽鎖をベクター中に最初にクローニングし、次いで重鎖をクローニングした。従って、得られたファージ・ライブラリーは、軽鎖および重鎖の両方がその中に挿入されたコンビナトリアル・ファージから構成された。
【0143】
(バイオパニング)
バイオパニングを以下のように実施して、抗血小板抗原特異的免疫グロブリンを発現したFabファージを単離した。
【0144】
60mlの抗凝固処理血液を室温にて200gで10分間遠心分離することによって血小板を調製した。次いで、ELISAプレートを、重炭酸塩緩衝液(pH8.6)中108個の血小板に相当する血小板懸濁物50μlでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。次の朝、TBS(Tris緩衝生理食塩水)で2回洗浄した後、このプレートを、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中5%のBSA(ウシ血清アルブミン)でブロッキングし、37℃で1時間インキュベートした。TBSでさらに2回洗浄した後、100μlのファージ懸濁物を各ウェルに添加し、このプレートを37℃で2時間インキュベートした。ファージの単離について以下に記載する。
【0145】
次いで、このファージを1ウェル当たり50μlの溶出緩衝液で溶出し、室温で10分間、TBS 0.05% Tween 20(TBST)と共にインキュベートした。激しくピペット撹拌した後、溶出したファージを取り出し、3μlの2M Trisベースを用いて中和することによって洗浄した。第1回のパニングについては、プレートをこの方法によって1回洗浄した。第2回のパニングでは、5回の洗浄を実施し、第3回および
その後の回においては、10回の洗浄を実施した。
【0146】
図2を参照すると、5回のバイオパニングを実施した結果が示されている。各回のパニングの後、溶出した抗血小板抗原特異的Fabファージの数を、カルベニシリン(100μg/ml)を含むルリア・ブロス(LB)上での力価測定によって決定し、コロニー形成単位の数を計数し(cfu/ml)、平均(±SE)として示した。
【0147】
図2から理解されるように、第1回のパニングの培養物は、わずか2つの抗血小板抗原特異的Fabファージ・クローンが109cfu/mlのファージ懸濁物から単離されたことを示したにすぎなかったが、第5回のパニング後には、約70個のクローンが109cfu/mlのファージ懸濁物から単離されたので、抗血小板抗原特異的Fabファージの富化がバイオパニングによって達成された。
【0148】
(血小板に対するファージの特異性の測定)
図2中に示した5回のパニング後に得られた抗血小板抗原特異的Fabファージを合わせたものをELISAによって分析して、このファージによって生成されたFab断片の抗血小板抗原特異性を測定した。60mlの抗凝固処理血液を室温にて200gで10分間遠心分離することによって血小板を調製した。
【0149】
マイクロタイター・プレートを、108個の血小板に相当する50μlの血小板濃縮物でコーティングし、次いで密封し、4℃で一晩インキュベートした。このプレートをPBSで2回洗浄し、PBS中5%のBSAでブロッキングし、37℃に1時間置いた。ブロッキング溶液を振り出した後、108pfuを含む100μlのファージを各ウェルに添加した。同じ濃度の100μlのM13ファージを、陰性対照として添加した。PBS/Tween 20で6回洗浄した後、100μlのウサギの抗ファージ抗体(7μg/ml、シグマカンパニー社(Sigma Co. ))を、ブランク以外全てのウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした。このプレートを、洗浄緩衝液(TBS中0.05%のTween 20)で6回洗浄した。100μlの特異的抗ウサギ抗体のセイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ複合物(PBS/1% BSA中に1:10,000希釈)を各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄緩衝液で6回洗浄した後、200μlの基質緩衝液(クエン酸塩緩衝液中10μg/mlのOPD)を添加し、このプレートを30分間暗所に放置した。この反応を、25μlの3M HCLを添加することによって停止させ、最後に490nmでELISAリーダーによって読み取った。
【0150】
図3を参照すると、5回のバイオパニングによって抗血小板抗原特異的Fabファージ・ライブラリーから選択された6つの代表クローン(S1〜S6)の血小板膜結合活性が、M13ファージ陰性対照(N)およびブランク・ウェル(B)を含めて示されている。このデータは、2回の実験からの平均吸光度±SEを示し、各実験において3つのウェルを各測定に使用した。
【0151】
図3は、コロニーの大きさが異なる無作為に選択したFabファージ・クローン6種のうち、4種のクローン(S1、S2、S3、S4)は完全な血小板の調製物と強力に反応したが、2種のクローン(S5、S6)は、血小板抗原と反応できなかったことを示す。陰性対照およびブランク対照では反応は見られなかった。
【0152】
(血小板溶解調製物に対する血小板反応性ファージの反応)
図3中に示されるような完全な血小板に対する陽性反応を示した4種のFab発現ファージ(S1〜S4)をELISAによって分析し、血小板溶解物に対する抗血小板抗原特異性を検出した。使用した方法は、50μlの血小板溶解物(200g/ml)をマイクロタイター・プレートに添加してからPBSで洗浄し100μlのファージを添加したこ
と以外は、上記の完全な血小板の調製物についての方法と全く同じであった。血小板溶解物は以下のように作製した。
【0153】
60mlの抗凝固処理血液を、室温にて200gで10分間遠心分離した。多血小板血漿(PRP)を取り出し、1200gで10分間再度遠心分離した(Mistral 3000(商品名)、英国所在のファイソンズリミテッド社(Fisons Ltd))。沈降させた血小板を等張緩衝液で4回洗浄した後、6mlの溶解緩衝液を添加し、4℃で1時間インキュベートし、その後、Avanti(商標)J−25遠心分離機(ベックマン社(Beckman ))で20,000gにて4℃で30分間遠心分離した。5mlの上清を、遠心濾過装置(カットオフ分子量10,000)を使用して4000gで40分間濃縮した。
【0154】
図4を参照すると、血小板溶解物に対するFab発現ファージの反応性が、M13ファージ陰性対照(N)およびブランク・ウェル(B)を含めて示されている。結果は、図3中に示されるような完全な血小板の懸濁物中の血小板表面の膜抗原と強力に反応した4種全ての選択クローン(S1〜S4)が、陰性対照およびブランクと比較した場合、血小板溶解物とも強力に反応したことを示している。
【0155】
(血小板膜タンパク質へのファージの結合の感度)
100μlの血小板溶解物を使用して、Maxisorp(商標)マイクロタイター・プレートの各ウェルをコーティングした。反応性を有する抗血小板抗原特異的Fabファージ106個を含む懸濁物を、1×10−1cfu〜1×10−6cfuの範囲にわたって希釈し、100μlの各希釈物を各ウェルに添加した。ファージの結合を、抗ファージ抗体複合物を用いて検出した。
【0156】
図5を参照すると、血小板溶解調製物に対するFab保有ファージの力価決定が示されている(平均±SE)。図5は、Fabファージの元の濃度(1×106cfu)が最も高い吸光度を与えたことを示している。吸光度の低下は、Fab保有ファージの濃度の低下と相関した。
【0157】
(精製された血小板糖タンパク質IIb/IIIaに対するファージ粒子の反応)
抗血小板抗原特異的Fabファージ粒子が糖タンパク質IIb/IIIaと特異的に反応することを実証するために、該ファージ粒子を、ELISAによって、精製タンパク質に対して試験した。従って、完全な血小板(図3を参照のこと)および血小板溶解物(図4を参照のこと)のいずれとも強力な反応を示したコロニーを分析して、精製糖タンパク質IIb/IIIaに対する反応性を決定した。
【0158】
ELISAを、完全な血小板について図3に、血小板溶解物について図4に示したように、以前と同様に実施した。ELISAマイクロプレートの各ウェルを、100μlの精製された糖タンパク質IIb/IIIaを2μg/mlの濃度で用いてコーティングした。この糖タンパク質IIb/IIIaは、スイス国所在のバーゼル大学のビート シュタイナー博士(Dr Beat Steiner )からの贈与物であった。PBSでの洗浄後、次いで100μlのファージを各ウェルに添加し、抗ファージ抗体を使用して、糖タンパク質IIb/IIIaに対するそれらの特異性を検出した。
【0159】
図6を参照すると、精製された血小板糖タンパク質IIb/IIIaに対するファージの反応性が示されている。これらの結果は、完全な血小板懸濁物および血小板溶解物中の血小板抗原と強力に反応した4つ全ての選択クローン(S1〜S4)が、M13陰性対照(N)およびブランク(B)と比較した場合、精製された糖タンパク質IIb/IIIa複合体とも強力に反応したことを示している。
【0160】
(抗血小板抗体Fabライブラリーを用いた血小板膜溶解物に対するウエスタン・ブロット分析)
以下のように、すでに記載したように単離したFab発現ファージ・クローン(S1〜S4)を用いてウエスタン・ブロット分析を実施した。
【0161】
血小板溶解物の試料を、3部の血小板溶解物(200g/ml)に対して1部の試料緩衝液で希釈し、2分間煮沸することによって調製した。8%分離ゲルを注いで固め、その後3%の濃縮ゲルを添加した。40μlの血小板溶解物試料および5μlの分子量(MW)マーカーを、このゲル中の別個のウェルに添加した。このゲルを、100Vの一定電圧で2時間泳動した。タンパク質を、ポリアクリルアミド・ゲルから0.45μmのニトロセルロース・メンブレンに転写し、100Vで90分間泳動した。分離された血小板タンパク質を含むニトロセルロース・メンブレン細片を、TBS中5%のBSAで室温にて2時間ブロッキング処理した。3mlの溶出ファージ(108cfu/ml)を、個々の試料細片上に配置した。3mlの同じ濃度のM13を陰性対照として使用し、3mlの抗GPIIb/IIIa抗体(2μg/ml)を陽性対照として使用した。全ての試料および対照物を、4℃で一晩インキュベートした。
【0162】
これらの細片を、TBS/0.05% Tween 20で2時間洗浄した。20分毎に洗浄緩衝液を交換した。1:1000に希釈した3mlのウサギの抗ファージ抗体を(陽性対照以外)全ての試料に添加し、室温で1時間インキュベートした。
【0163】
前と同様に洗浄した後、1:10,000に希釈した抗ウサギ抗体のセイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ複合物(3ml)を、全ての試料および陰性対照の細片に添加した。
陽性対照については、抗マウス抗体のセイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ複合物(3ml)を同じ希釈率で添加した。室温で1時間のインキュベーション後、これらの細片を以前と同様に洗浄した。このブロットを3mlのジアミノベンジジンで発色させた。
【0164】
図7を参照すると、4種の単離された抗血小板Fab保有ファージ・クローン(S1〜S4)と結合させた、非還元状態のヒト血小板膜溶解物のウエスタン・ブロット分析が示されている。レーンNはM13ファージ陰性対照であり、レーンPは、CD61(すなわち、IIa/IIIb複合体のβインテグリン成分)に対する抗体を用いて染色した陽性対照である。分子量マーカーは、MWレーン中を泳動させた。
【0165】
レーンS1〜S4は、4種の単離されたFabファージ(S1〜S4)が、それぞれ11KDaおよび92KDaの分子量を有する血小板タンパク質のバンドと結合することを示している。
【0166】
(抗血小板抗体Fabライブラリーを用いた、精製されたGPIIb/IIIaに対するウエスタン・ブロット分析)
Fab発現ファージ・ライブラリーの単離コロニーが血小板糖タンパク質GPIIb/IIIaと特異的に結合することを確認するために、40μlの精製された血小板糖タンパク質IIb/IIIaを8μg/mlの濃度でポリアクリルアミド・ゲルに装填し、電気泳動し、ニトロセルロース紙上に転写した。106個のFabライブラリー・ファージを各試料細片に添加した。次いで、ウサギの抗ファージ抗体のHRP複合物を添加し、このブロットを上記のように発色させた。
【0167】
図8を参照すると、4種の血小板反応性ファージ・クローンに対する、非還元状態のヒト血小板GPIIb/IIIa糖タンパク質のウエスタン・ブロット分析の結果が、M13ファージ陰性対照(N)およびCD61陽性対照(P)の結果と共に示されている。分子マーカーも、MWレーンに泳動した。
【0168】
レーンS1〜S4は、4つのFab抗血小板抗体全てが、92KDの分子量を有するGPIIb/IIIaと結合することを示している。
(ファージ・ディスプレイから可溶性FabへのPcomb3の変換)
すでに示されたデータは、Fab発現ファージが血小板抗原に結合することを実証するが、ファージによって発現されたFab分子がGPIIb/IIIbを特異的に認識して免疫反応することを正式に示すものではない。このことは、このFab分子が、発現されてファージの表面に配置されるファージのコートタンパク質とのキメラ・タンパク質として形成されることに起因する。
【0169】
これらのFabファージ・クローンがGP IIb/IIIaを特異的に認識して反応するか否かを決定するために、ファージのコートタンパク質を除去し、ファージに結合していない可溶性タンパク質としてFabを発現させた。可溶性Fab断片を、以下に記載するように、血小板抗原と強力に反応した4つのコロニーから調製した。
【0170】
重鎖および軽鎖の挿入断片を含むファージDNA5μg/mlを、2μgの制限酵素Spe1およびNhe1(10U/μl)で37℃にて3時間消化して、PIIIコートタンパク質をコードするDNAを除去した。次いで、この切断したDNAを0.6%の低融点アガロース・ゲルに装填し、4℃で電気泳動した。重鎖および軽鎖をコードするがPIIIコートタンパク質をコードするDNAを含まない、ファージの4.7Kbpのバンドをゲルから切り出し、Gene Cleanシステム(プロメガ社(Promega ))を使用して回収した。
【0171】
4.7Kbpの回収されたDNA200ngを、20μlの総体積のリガーゼ緩衝液中の2μlのリガーゼ(2U/μl)を用いて、室温で2時間ライゲーションした。1μlのライゲーション済みDNAを、40μlの大腸菌コンピテント細胞に添加し、2.5KV、25μFDおよび200Ωのエレクトロポレーションでパルス注入することによって形質導入した。
【0172】
エレクトロポレーションした細胞を、20μg/mlのカルベニシリンおよび10μg/mlのテトラサイクリンを含む10mlのスーパーブロスに移した。これらの細胞を直ぐに、100μg/mlのカルベニシリンを含むLBプレート上に接種した。24時間後、単一コロニーを、20mMのMgCl2および50μg/mlのカルベニシリンを含む10mlのスーパーブロス中に接種し、37℃で6時間インキュベートした。イソプロピルβ−Dチオガラクトピラノシドを1mMの最終濃度まで添加することによってタンパク質の発現を誘導した。これらの細胞を1500gで15分間の遠心分離によって回収し、可溶性Fabを細胞溶解物から回収した。
【0173】
細胞溶解物上清中における血小板と可溶性Fab断片との反応性を、ELISAによって決定した。図9を参照すると、4種の反応性ファージ・コロニーのうち3種(S1、S3、S4)についての結果が示されている。4番目のクローン(S2)は、可溶性ファージを発現しないようであった。3種全ての可溶性Fab分子は、血小板膜タンパク質に対する有意な反応性を示している。
【0174】
(DNA配列分析)
S4単離物のFab分子を、High Pure Plasmid Isolation Kit(商品名)を使用してプラスミドDNAを調製することによって配列決定した。核酸配列決定は、抗体の重鎖についてのプライマー:
5’−gaaatacctattgcctacgg−3’(配列番号8);
および抗体の軽鎖についてのプライマー:
5’−gcgattgcagtggcactgg−3’(配列番号9)
を使用して、ケンブリッジバイオサイエンシズ社(Cambridge Bio-sciences)によって実施された。
【0175】
使用した可変領域遺伝子を、
htt p://www.mrc-cpe.cam.ac.uk/vbase-ok.php?menu=901
において入手可能なV−Baseプログラムを使用することによって特徴付けた。
【0176】
免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)のDNA配列を配列番号10として示す。免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)のDNA配列を配列番号12として示す。
重鎖および軽鎖のDNA配列を、オンライン(www.expasy.org/tools/dna.html )で翻訳した。免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列を配列番号11として示す。免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列を配列番号13として示す。
【0177】
この重鎖および軽鎖のアミノ酸配列と、生殖系列(germline)の配列とのアラインメントを、DNAPLOTおよびVBASEを使用して実施した。
図10を参照すると、発現された抗体の重鎖のアミノ酸配列をこの抗体が由来する生殖系列遺伝子と比較する配列アラインメントが示されている。重鎖の3つの相補性決定領域(VH−CDR1、VH−CDR2およびVH−CDR3)は下線を付して示されている。V−baseプログラムは、可変領域遺伝子DP58、D−7−27およびJH4bによって重鎖が生成されていることを示した。ドットは、生殖系列遺伝子と配列が同一であることを意味している。
【0178】
図11を参照すると、発現された抗体の軽鎖のアミノ酸配列をこの抗体が由来する生殖系列遺伝子(DPK18/A17+)と比較する配列アラインメントが示されている。軽鎖の3つの相補性決定領域(VL−CDR1、VL−CDR2およびVL−CDR3)が示されている。V−baseプログラムは、軽鎖が可変領域遺伝子DPK18およびJK2を使用していることを示した。
【0179】
これらの結果は、ファージによって発現されるFab領域をコードするDNAとそれが由来する生殖系列遺伝子との間には約80%の相同性が存在することを示している。さらに、これらの結果から、変異がCDR中に生じたので、抗原による駆動がこの抗体の発生において重要な役割を果たしたことを示される。
【0180】
軽鎖のアミノ酸残基31位におけるチロシン(Y)からアルギニン(R)への変異により、主要なインテグリン・リガンドであるRGDモチーフとの類似性を示すRSDモチーフが生じる。RSDは、インテグリン・リガンドとしてはこれまで報告がなかった。
【0181】
多数のインテグリンについてのペプチド・リガンド部位は、プロウら(Plow et al. )の文献(J.Biol.Chem.第275(29)巻、p.21785〜21788)に記載されている。従って、抗体の配列内の推定リガンド・ミミトープ(mimitope、リガンドを模倣しているを思われる部位)を探索することが可能である。
【0182】
図12を参照すると、軽鎖のVL−CDR1中に見出された2つの潜在的なミミトープが示されている。1つは、多数のインテグリンに結合するとして報告されたRGDモチーフの模倣部と推定されるもの(すなわち、RSD)である。テネイシン結合モチーフAEIDGIELとのある程度の同一性もまた存在しており、変異によってこのモチーフを抗体の構造中に導入することは簡単である。さらに、GPR配列の逆配列も存在するが、これは免疫グロブリンの枠組構造領域内にあり、アクセスできない可能性がある。阻害モチーフはRGDのホモログを含んでいる必要はなく、多くの研究から、活性化すべきRGD
を含むペプチドが示されている(スミスら(Smith et al.))。従って、このモチーフの存在は機能を予言するものではなく、この配列中に見出されないはずの、スミスら(Smith et al.)によって報告された該領域の側面が存在する。
【0183】
(血小板抗原に対するFab発現ファージの結合の、フロー・サイトメトリーによる測定)
以下のように、洗浄した完全な血小板を、4種のファージ・コロニー(S1〜S4)と反応させ、結合を蛍光性の抗ファージ複合体によって測定した。
【0184】
107個の洗浄血小板を含む100μlを、107個のFabファージ100μlと共に37℃で1時間インキュベートした。陰性対照として、同じ濃度の血小板100μlを同じ濃度のM13と共にインキュベートした。これらのチューブを洗浄緩衝液で洗浄し、1200gで5分間遠心分離した。
【0185】
結合したファージを、200μlのウサギの抗ファージ抗体を用いて、35μg/mlを1:200希釈した濃度で37℃にて30分間検出した。洗浄緩衝液で2回洗浄した後、元の濃度20μg/mlを1:2000希釈した、200μlの抗ウサギ抗体FITC複合物をこれらの試料および陰性対照のチューブに添加した。5μlの抗GPIIb抗体FITC複合物を陽性対照のチューブに添加し、暗所で室温にて30分間インキュベートした。
【0186】
これらの試料および対照を、以下の閾値でフロー・サイトメーターによって分析した:前方散乱光(FSC):E01、側方散乱光(SSC):575および蛍光(FL1):400(ベクトンディッキンソン社(Becton Dickinson))。
【0187】
図13を参照すると、Fabファージ・ライブラリー由来の4種の代表クローン(S1〜S4)の血小板抗原結合活性に関するフロー・サイトメトリー分析の結果が示されている。データは、4回の実験の蛍光の割合の平均(%)±SEを示す。陽性対照(抗GPIIb)を使用して、血小板の蛍光を決定するために使用したゲートを検出した。さらに、図13は、陽性対照(Con)、陰性対照(M13ファージ)およびブランク対照(Neg)を示す。図13中に示されるように、4種全てのクローンが、血小板集団の40%〜60%に結合する。
【0188】
これらの結果は、ELISAおよびウエスタン・ブロット分析によってすでに示唆されたように、単離されたファージが血小板に結合するということをさらに支持するものである。
【0189】
(単離された抗血小板Fab抗体の存在下における、血小板に対するフィブリノゲンの結合のフロー・サイトメトリー分析)
以下に記載されるように、多血小板血漿(PRP)を4種の単離されたファージ・クローンと共にインキュベートして、これらの抗体が休止期の血小板および異なる濃度のADPによって活性化された血小板へのフィブリノゲンの結合を遮断するか否かを測定した。
【0190】
5μlの正常な多血小板血漿(PRP)を、10μlの単離されたFabファージミド(1.5×108cfu)と共に37℃で1時間インキュベートした。10μlの同じ濃度のM−13ファージおよび10μlのTBS緩衝液および10μlのTyrode緩衝液を対照として適切なチューブに添加し、さらに20μlのTyrode緩衝液を全てのチューブに添加した。
【0191】
2μlの抗フィブリノゲン抗体フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)を各
試料および各対照に添加し、次いで、5μlの異なる濃度(0.1mol/ml、1mol/ml、10mol/ml)のADPを適切なチューブに添加した。5μlの抗IIb・FITC複合物を、陽性血小板のゲートの決定のためにPRPに添加した。全ての試料の体積を、Tyrode緩衝液を添加することによって50μlに調整した。全ての試料を暗所に30分間放置した。
【0192】
これらの試料を、450μlの1%パラホルムアルデヒドで固定し、以下の閾値設定にてFACScan(商標)で試験した:前方散乱光(FSC):E01、側方散乱光(SSC):575および蛍光(FL1):400(ベクトンディッキンソン社)。
【0193】
図14を参照すると、4つのファージ調製物(S1〜S4)のいずれか1つ、陰性対照としてM13ファージ調製物、および緩衝液(Buf)と共にインキュベートし、各々異なる濃度のADP(0.1、1、10μmol/ml)に曝露させた血小板に対するフィブリノゲンの結合を反映する平均蛍光強度(MFI)の割合(%)の概要が示されている。
【0194】
対照はADPの濃度が増大するにつれて血小板へのフィブリノゲンの結合が増大することを示す一方、クローンS1〜S4と共にインキュベートした血小板においては増大は見られないことがわかる。これらの結果は、Fabを保有するファージが血小板GP IIb/IIIaとの反応性を有し、ADPによって活性化された血小板に対するフィブリノゲンの結合を阻害し得ることを示す。血小板GP IIb/IIIaに対するフィブリノゲンの結合は、血小板の凝集、従って、血餅の形成の開始における最初の重要な事象である。従って血小板GP IIb/IIIaに対するフィブリノゲンの結合は、血餅を予防するために設計される治療のための主な標的である。
【0195】
本願と関連して本明細書と同時またはその前に出願された全ての論文および文書、ならびに本明細書と共に公の閲覧に対して開かれた全ての論文および文書に対して注意が向けられるものであり、全てのこのような論文および文書の内容は、本明細書中に援用される。
【0196】
本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)中に開示された全ての特徴、および/または同様に開示された任意の方法の工程の全ては、このような特徴および/または工程のうち少なくともいくつかが互いに排除するような組合せ以外は、任意の組合せで組み合わせることが可能である。
【0197】
本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)中に開示される各特徴は、別途明記しない限り、同じ目的、等価な目的または類似の目的を果たす代替的な特徴によって置換してもよい。従って、別途明記しない限り、開示された各特徴は、等価な特徴または類似の特徴の一般的なものの1例に過ぎない。
【0198】
本発明は、上記の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)中に開示される特徴のうち、任意の新規な1つもしくは任意の新規な組合せ、または同様に開示された任意の方法の工程の任意の新規な1つもしくは任意の新規な組合せに及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】pComB3HSSファージ・ディスプレイ・ベクターの模式図。
【図2】5回の連続バイオパニングの間にファージが富化される様子を示す図。
【図3】完全な血小板に対するファージの反応性を示す図。
【図4】血小板溶解調製物に対する反応性ファージの反応性を示す図。
【図5】血小板溶解調製物に対するFab保有ファージの力価決定を示す図。
【図6】血小板糖タンパク質(GP)IIb/IIIaに対するファージの反応性を示す図。
【図7】4種の抗血小板Fabクローンに対して反応する非還元状態のヒト血小板膜溶解物のウエスタン・ブロット分析を、陽性対照(P)および陰性対照(N)とともに示す図。
【図8】4種の抗血小板Fabクローンに対する非還元状態のヒト血小板糖タンパク質IIb/IIIaのウエスタン・ブロット分析を、陽性対照(P)および陰性対照(N)と共に示す図。
【図9】洗浄された無傷の血小板に対する単離された可溶性の抗血小板Fab抗体の反応性を検出するためのELISAアッセイを示す図。
【図10】発現された抗体の重鎖のアミノ酸配列と、生殖系列(germline)遺伝子のアミノ酸配列とのアラインメントを示す図。
【図11】発現された抗体の軽鎖のアミノ酸配列と、生殖系列遺伝子のアミノ酸配列とのアラインメントを示す図。
【図12】発現された抗体の軽鎖のアミノ酸配列と、推定リガンド・ミミトープのアミノ酸配列とのアラインメントを示す図。
【図13】Fabライブラリーから単離された4種のクローンの血小板結合活性についてのフロー・サイトメトリー分析を示す図。
【図14】休止期の血小板および活性化された血小板に対するフィブリノゲンの結合を阻害する、血小板反応性Fab保有ファージの能力を決定するための、フロー・サイトメトリー分析を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫グロブリンに関し、より具体的には、全くそれだけというわけではないが、インテグリンに対する特異性を示す組換え免疫グロブリンに関する。本発明はさらに、免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチド配列およびペプチド配列ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インテグリンは、αサブユニット鎖およびβサブユニット鎖から構成される、構造的、免疫化学的および機能的に関連するヘテロダイマー分子のファミリーである。現在、限定された様式で非共有結合により相互作用して20種を超えるファミリー構成分子を形成する、少なくとも8種の既知のβ鎖および少なくとも17種の既知のα鎖が存在する。
【0003】
インテグリンは、細胞外マトリックスから細胞内の細胞骨格へと一体化(インテグレート)するのでそのように命名されたレセプターであり、細胞間相互作用(例えば、細胞接着、細胞移動および凝血反応)に関与する。従って、インテグリンは、血液凝固の間に血小板凝集を阻止するだけでなく抗炎症性の試薬としても作用する試薬の開発を可能にすることによって、治療的介入のための良好な候補をなす。このことは、フィブリノゲンに対するレセプター(すなわち、血小板インテグリン糖タンパク質(GP)IIb/IIIa)を標的とするAbicimaxのような免疫グロブリン試薬の存在によって実証されている。フィブリノゲンとGPIIb/IIIaとの間の相互作用は、血小板の最初の凝集(すなわち血液凝固)における重要な事象である。血小板の凝集および接着は、心臓発作および脳卒中による死亡の主要な原因であり続ける血栓症における基礎的な事象である。
【0004】
試薬Abicimaxは、インテグリン糖タンパク質IIb/IIIaと反応するだけでなく、インテグリンMAC−1、LFA−1、VLA−4およびp150.95とも反応することが示されており、従ってこれらのインテグリンは抗炎症の治療標的としての可能性も有する。
【0005】
しかし、Abicimaxの主な不利益は、これが「ヒト化」されたマウス・モノクローナル抗体に由来することである。マウス・モノクローナル抗体のヒト化は、このマウス抗体分子の、同抗体とその標的抗原との直接的な相互作用に関与しない部分(すなわち、この抗体の枠組構造領域)を、ヒトの相当物によって置換することを含む。これは面倒な手法であり、標的抗原との相互作用に関与する抗体分子の部分(すなわち、抗体の相補性決定領域(CDR))の親和性ひいては治療的潜在能力を有意に喪失させてしまう可能性がある。
【0006】
インテグリン間が類似しているということは、免疫グロブリン・ライブラリーから単離された少数の抗体を使用することにより、各々が異なるインテグリンと反応する様々な免疫グロブリンのパネルを作製するための鋳型が得られるということである。残念ながら、上記のようなマウス/ヒト・ハイブリッド免疫グロブリンを適切な鋳型として使用することは困難である。
【0007】
マウス・モノクローナル抗体の使用に代わる手法は、抗体の枠組構造領域の置換を必要としないと思われるヒト免疫グロブリンの生産である。次いで、当該抗体を、異なるインテグリンに反応性を示す抗体のパネルを開発するための鋳型として使用すればよい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ヒト糖タンパク質インテグリンに対するヒト免疫グロブリンの主な不利益は、潜在的に病原性の分子に対してヒト患者を免疫することをめぐる倫理的な問題に起因して、該ヒト免疫グロブリンを生産するのは容易ではないということである。従って、ヒト患者を最初に免疫することなく、ヒト・インテグリンとの結合親和性を有するヒト免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体を生産する必要がある。
【0009】
本発明の実施形態の目的は、上記の問題に取り組むことならびにインテグリンに対する親和性を有する免疫グロブリンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[定義]
本明細書中で使用される用語「免疫グロブリン」は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる少なくとも1つのポリペプチドから構成されるタンパク質を含み得る。既知の免疫グロブリン遺伝子には、κ定常遺伝子、λ定常遺伝子、μ定常遺伝子、γ定常遺伝子、ζ定常遺伝子、α定常遺伝子およびε定常遺伝子、ならびにさらには、多数存在する免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。免疫グロブリンは、抗体全体およびその生物学的に機能的な断片のいずれの抗体としても存在し得る。このような生物学的に機能的な断片は、対応する完全長の抗体のうち少なくとも1つの抗原結合領域を保持する(すなわち、インテグリンに対する免疫特異性を備えている)。免疫グロブリンは、モノクローナル抗体またはその機能的断片を含み得る。
【0011】
1価の免疫グロブリンは、ジスルフィド架橋によって軽鎖(L)と結合した重鎖(H)を含むダイマー(HL)である。2価の免疫グロブリンは、少なくとも1つのジスルフィド架橋によって結合した2つのダイマーを含むテトラマー(H2L2)である。多価の免疫グロブリンを、例えば、複数のダイマーを連結することによって生産することも可能である。
【0012】
免疫グロブリンまたは抗体分子の基本的構造は、非共有結合的に結合し、ジスルフィド結合によって連結され得る、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖から構成される。各重鎖および軽鎖は、約110アミノ酸のアミノ末端可変領域と、鎖の残りの部分の定常配列とを含む。この可変領域は、抗体分子の抗原結合部位を形成し、抗原に対する抗体分子の特異性を決定するいくつかの超可変領域(すなわち相補性決定領域(CDR))を含む。重鎖および軽鎖のCDRの両側が枠組構造領域であり、CDRを係留および配向する比較的保存されたアミノ酸配列である。この定常領域は、5つの重鎖配列(μ、γ、ζ、αまたはε)のうち1つおよび2つの軽鎖配列(κまたはλ)のうち1つから構成される。重鎖定常領域の配列は、抗体のアイソタイプおよび分子のエフェクター機能を決定する。
【0013】
本明細書中で使用する場合、用語「ヒト免疫グロブリン」または「ヒト・モノクローナル抗体」は、ある特定のヒト免疫グロブリン中に見出されるのと実質的に同じ重鎖および軽鎖のCDRアミノ酸配列を含むモノクローナル免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体を意味することを意図する。重鎖CDRまたは軽鎖CDRと実質的に同じアミノ酸配列は、基準となる配列と比較した場合に、かなりの量または程度の配列同一性を示す。このような同一性とは、特定のヒト免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体のアミノ酸配列を示すものとして明確に知られている、または特定のヒト免疫グロブリンまたはモノクローナル抗体のアミノ酸配列を示すものと認識することができる。実質的に同じ重鎖および軽鎖のCDRアミノ酸配列は、例えば、アミノ酸の軽微な修飾または保存的置換を有し得る。このようなヒト免疫グロブリンは、インテグリン抗原に選択的に結合するその機能を保持している。用語「ヒト・モノクローナル免疫グロブリン」は、ヒトCDRアミノ酸配
列を実質的に有するモノクローナル免疫グロブリンを含むことを意図し、該モノクローナル免疫グロブリンは、例えば、生産物がファージ・ライブラリーであるような組換え法により、リンパ球またはハイブリドーマ細胞により生産される。用語「組換えヒト免疫グロブリン」は、組換えDNA技術を使用して生産されたヒト免疫グロブリンを含むことを意図する。
【0014】
本明細書中で使用する場合、用語「抗原結合領域」は、抗原に対する特異的結合親和性を有する免疫グロブリンの領域を意味することを意図する。この結合領域は、超可変領域CDRでもよいし超可変領域CDRの機能的部分でもよい。CDRの「機能的部分」という用語により、CDR内の、抗原に対する特異的親和性を示す配列を意味することを意図する。CDRの機能的部分は、インテグリンに特異的に結合するリガンド(例えば、フィブロネクチン中に存在する「RGD」モチーフまたはテネイシン中に存在する「AEIDGIEL」)を含んでいてもよい。インテグリンを認識する他のリガンドまたはモチーフは、本明細書中に援用するプロウら(Plow et al. )の文献(J.Biol.Chem.第275巻第29号)中に記載されている。
【0015】
本明細書中で使用する場合、用語「CDR」は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域中の超可変領域を意味することを意図する。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の各々の中には、1つ、2つ、3つまたはそれ以上のCDRが存在し得る。通常、各鎖上に少なくとも3つのCDRが存在し、該CDRは、合わせて構成されると抗原結合部位(すなわち、抗原が結合または特異的に反応する3次元結合部位)を形成する。重鎖中に4つのCDRが存在し得ると仮定されている抗体もある。
【0016】
CDRの定義はまた、互いに比較した場合、アミノ酸残基の重複またはサブセットを含む。特定のCDRまたはその機能的部分を包含する正確な残基数は、CDRの配列およびサイズに依存して変動する。当業者は、抗体の可変領域のアミノ酸がわかれば、どの残基が特定のCDRを構成するかをごく普通に決定することができる。
【0017】
本明細書中で使用する場合、用語「機能的断片」は、ヒト免疫グロブリンに関して使用される場合、機能的活性を保持している免疫グロブリンの一部分を指すことを意図する。機能的活性とは、例えば、抗原結合活性でも抗原特異性でもよい。機能的活性はまた、例えば、抗体の定常領域によって提供されるエフェクター機能であってもよい。ヒト・モノクローナル免疫グロブリンの機能的断片には、例えば、個々の重鎖または軽鎖およびそれらの断片(例えば、VL、VHおよびFd);1価の断片(例えば、Fv、FabおよびFab’);2価の断片(例えば、F(ab’)2);単鎖のFv(scFv);ならびにFc断片が含まれる。このような用語は、例えば、本明細書中に援用する、ハーロウ(Harlow)およびレーン(Lane)、「Antibodies: A Laboratory Manual 」、ニューヨーク所在のコールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory )、1989年;「Molec. Biology and Biotechnology: A Comprehensive Desk Reference」、マイヤーズ アール.エイ.(Myers, R.A. )編、ニューヨーク所在のブイシーエイチパブリッシャーインコーポレイテッド(VCH Publisher, Inc. ));ヒューストンら(Huston et al. )、Cell Biophysics、第22巻、p.189〜224、1993年;プラックサム(Pluckthun )およびスケッラ(Skerra)、Meth.Enzymol.、第178巻、p.497〜515、1989年、ならびにデイ,イー.ディー.(Day, E.D. )、「Advanced Immunochemistry 第2版」、米国ニューヨーク州ニューヨーク所在のワイリー−リスインコーポレイテッド(Wiley-Liss, Inc.)、1990年の中に記載されている。
【0018】
用語「機能的断片」は、例えば、ヒト・モノクローナル抗体のプロテアーゼによる消化または縮減によって、および当業者に公知の組換えDNA法によって生産される断片を含
むことを意図する。
【0019】
用語「VL断片」とは、本明細書中で使用する場合、ヒト・モノクローナル抗体の軽鎖の断片を指し、この断片は、CDRなど、軽鎖可変領域の全てまたは一部を含む。VL断片は、軽鎖定常領域配列をさらに含み得る。
【0020】
用語「VH断片」とは、本明細書中で使用する場合、ヒト・モノクローナル抗体の重鎖の断片を指し、この断片は、CDRなど、重鎖可変領域の全てまたは一部を含む。
用語「Fd断片」とは、本明細書中で使用する場合、重鎖の可変領域および定常領域に連結された軽鎖の可変領域および定常領域をいう(すなわち、VL CLおよびVH CH−1)。
【0021】
用語「Fv断片」とは、本明細書中で使用する場合、重鎖および軽鎖の可変領域の全てまたは一部を含み、重鎖および軽鎖の定常領域を含まない、ヒト・モノクローナル抗体の1価の抗原結合断片をいう。重鎖および軽鎖の可変領域は、例えばCDRを含む。例えば、Fv断片は、重鎖および軽鎖の両方の約110アミノ酸のアミノ末端可変領域の全てまたは一部を含む。
【0022】
用語「Fab断片」とは、本明細書中で使用する場合、Fv断片よりも大きいヒト・モノクローナル抗体の1価の抗原結合断片をいう。例えば、Fab断片は、重鎖および軽鎖の可変領域および第1の定常ドメインの全てまたは一部を含む。従って、Fab断片は、例えば重鎖および軽鎖の約110〜約220アミノ酸残基をさらに含む。
【0023】
用語「Fab’断片」とは、本明細書中で使用する場合、Fab断片よりも大きいヒト・モノクローナル抗体の1価の抗原結合断片をいう。例えば、Fab’断片は、軽鎖全体と、重鎖の可変領域全体と、重鎖の第1および第2の定常ドメインの全てまたは一部を含む。例えば、Fab’断片は、重鎖のアミノ酸残基220〜330の一部または全てをさらに含み得る。
【0024】
用語「F(ab’)2断片」とは、本明細書中で使用する場合、ヒト・モノクローナル抗体の2価の抗原結合断片をいう。F(ab’)2断片は、例えば、2つの重鎖および2つの軽鎖の可変領域の全てまたは一部を含み、2つの重鎖および2つの軽鎖の第1の定常ドメインの全てまたは一部をさらに含み得る。
【0025】
当業者には、ヒト・モノクローナル抗体の断片が機能的活性を維持している限り、同断片の正確な境界は重要でないことが知られている。周知の組換え法を使用して、当業者は、特定の適用のために所望される任意の終端を有する機能的断片を発現するようにポリヌクレオチド配列を操作し得る。
【0026】
本明細書中で使用する場合、用語「血液凝固障害」とは、血栓塞栓性の障害の疾患状態(すなわち、血栓塞栓症に罹患しているかまたは過剰な血液凝固(血栓)状態にある個体)および血液凝固障害の疾患状態(すなわち、極度の血液凝固不足(例えば特発性血小板減少症)に罹患している個体)を含むことを意図する。
【0027】
本明細書中で使用する場合、用語「炎症」は、感染に対する血液の任意の応答反応を包含することを意図し、該応答反応は、通常は白血球による感染に対する化学物質による反応である。
【0028】
本明細書中で使用する場合、用語「標識」は、ヒト免疫グロブリンまたは本発明の他の分子に結合され得る部分構造(moiety)を意味することを意図する。該部分構造は、例え
ば、治療手順または診断手順のために使用され得る。治療的標識には、例えば、本発明の免疫グロブリンに結合可能であり該免疫グロブリンのインテグリンへの結合をモニタリングするために使用可能な部分構造が含まれる。診断的標識には、例えば、分析方法によって検出可能な部分構造が含まれる。
【0029】
分析方法には、例えば、定性的手法および定量的手法が含まれる。定性的な分析方法には、例えば、免疫組織化学法および間接的免疫蛍光法が含まれる。定量的な分析方法には、例えば、イムノアフィニティ手法(例えば、ラジオイムノアッセイ、ELISAまたはFACS分析)が含まれる。分析方法にはまた、in vitroおよびin vivoの両方の画像化手法が含まれる。分析手段によって検出され得る診断的標識の具体的な例には、酵素、放射性同位体、蛍光色素、化学発光マーカーおよびビオチンが含まれる。
【0030】
標識は、本発明の免疫グロブリンに直接結合されてもよいし、または本発明の分子に特異的に結合する2次結合因子に結合されてもよい。このような2次結合因子は、例えば2次抗体であってもよい。2次抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルのいずれでもよく、ヒト抗体、げっ歯類の抗体またはキメラ起源の抗体のいずれでもよい。
【0031】
本明細書中で使用する場合、用語「免疫特異性」とは、その結合領域が、インテグリンと特異的に結合することによってインテグリンと免疫反応をし得ることを意味する。免疫グロブリンまたはその機能的断片は、約10−5M−1〜10−13M−1、好ましくは10−6M−1〜10−1M−1、なおより好ましくは10−7M−1〜10−9M−1の親和性定数で抗原(インテグリン分子)と選択的に相互作用し得る。用語「免疫反応」は、その結合領域が、インテグリンまたはそのエピトープと結合すると免疫応答を惹起し得ることを意味する。
【0032】
本明細書中で使用する場合、用語「エピトープ」とは、免疫グロブリンの結合領域を導き出し、該領域と結合する能力を有する抗原の任意の領域を意味する。
本明細書中で使用する場合、用語「有効量」は、特定の疾患状態(すなわち、血液凝固障害)を軽減させ得る本発明の分子の量を意味することを意図する。特定の適用についての有効量であるとみなされる実際の量は、例えば、本発明の分子の親和性、反応性、安定性、バイオアベイラビリティまたは選択性、該分子に結合した部分構造、薬学的担体および投与経路のような要因によって変化しうる。有効量は、当業者に公知の方法を使用して決定または推定可能である。このような方法には、例えば、培養細胞または組織生検試料を用いたin vitroアッセイおよび信頼性のある動物モデルが挙げられる。
【0033】
用語「実質的に該アミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列」により、本発明者らは、その配列が、参照された配列のいずれか1つのアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列と少なくとも60%の配列同一性を有することを意味する。異なるタンパク質配列間およびDNA配列間の同一性の割合(%)の計算は、Clustalプログラムによる多重アラインメントの作成によって実施され得る。参照された配列のいずれかに対して65%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。参照された配列のいずれかに対して70%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。参照された配列のいずれかに対して75%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。参照された配列のいずれかに対して80%より高い同一性を有するアミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列もまた想定される。好ましくは、アミノ酸配列/ポリヌクレオチド配列/ペプチド配列は、参照される配列のいずれかに対して85%の同一性、より好ましくは90%の同一性、なおより好ましくは92%の同一性、なおより好ましくは95%の同一性、なおより好ましくは97%の同一性、なおより好ましくは98%の同一性を有し、最も好ましくは参照配列のいずれか
に対して99%の同一性を有する。
【0034】
実質的に類似するヌクレオチド配列は、配列番号1〜10、12および14〜20に示される配列またはそれらの相補体と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列によってコードされることになる。ストリンジェントな条件については、本発明者らは、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中、約45℃で該ヌクレオチドをフィルタに結合したDNAにハイブリダイズさせた後、0.2×SSC/0.1% SDS中で約5℃〜65℃で少なくとも1回洗浄することを意味している。あるいは、実質的に類似するポリペプチドは、配列番号11および13に示される配列と、少なくとも1アミノ酸、しかし好ましくは100未満、50未満、20未満、10未満または5未満のアミノ酸が異なるものでよい。
【0035】
遺伝子コードの縮重に起因して、当然のことであるが、いかなる核酸配列も、同核酸配列によってコードされるタンパク質の配列に実質的に影響を与えることなく変更または変化させて、同核酸配列の機能的改変体を提供し得る。適切なヌクレオチド改変体は、その配列内に、同じアミノ酸をコードする異なるコドンで置換することによって変更された配列を有し、従ってサイレントな変化を生じる改変体である。
【0036】
他の適切な改変体は、相同なヌクレオチド配列を有するが、全配列または配列の一部分が異なるコドンで置換することによって変更されている改変体であり、該コドンは置換されるアミノ酸と類似した生物物理学的特性の側鎖を有するアミノ酸をコードしているので保存的変化を生じる。例えば、小さい非極性の疎水性アミノ酸には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリンおよびメチオニンが含まれる。大きい非極性の疎水性アミノ酸には、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンが含まれる。極性の中性アミノ酸には、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギンおよびグルタミンが含まれる。正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、リジン、アルギニンおよびヒスチジンが含まれる。負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。
【0037】
タンパク質配列またはDNA配列の正確なアラインメントは、多数の研究者によって詳細に研究されてきた複雑な方法である。配列の最適なマッチングとこのようなマッチングを得るためのギャップの導入との間の妥協が特に重要である。タンパク質の場合、マッチングをスコア化する手段もまた重要である。PAMマトリックス(例えば、デイホフ,エム.ら(Dayhoff, M. et al.)、1978年、「Atlas of protein sequence and structure 」、Natl.Biomed.Res.Found.)およびBLOSUMマトリックスのファミリーは、保存的置換の性質および見込みを定量し、多重アラインメント・アルゴリズムにおいて使用されるが、他の等しく適用可能なマトリックスも当業者には公知であろう。一般的な多重アラインメントのプログラムであるClustalWおよびそのウインドウズ・バージョンのClustalX(トンプソンら(Thompson et al. )、1994年、Nucleic Acids Research、第22巻、p.4673〜4680;トンプソンら(Thomson et al.)、1997年、Nucleic Acids
Research、第24巻、p.4876〜4882)は、タンパク質およびDNAの多重アラインメントを作成するのに有効な方法である。
【0038】
自動的に作成されたアラインメントは手動のアラインメントを必要とすることが多く、この手動のアラインメントには研究対象のタンパク質ファミリーに関する熟練した使用者の知識(例えば、保存性の高い重要な部位についての生物学的知識)が利用される。このようなアラインメント・エディタ・プログラムの1つはAlign(http://www.gwdg.de/~dhepper/download/ ;ヘッパール,ディー.(Hepperle, D.)、2001年、「Multicolor Sequence Alignment Editor. 」、ドイツ連邦共和国、16775、シュテヒリン(
Stechlin)所在の淡水生態学および内陸漁業研究所(Institute of Freshwater Ecology and Inland Fisheries)であるが、JalViewまたはCinemaのような他のプログラムもまた適切である。
【0039】
タンパク質間の同一性(%)は、Clustalによる多重アラインメントの作成の間に計算される。しかし、同一性の値は、そのアラインメントが手動で改善された場合、または2つの配列を慎重に比較するために、再計算される必要がある。同一性(%)は、(N/T)×100と規定することができるが、ここで、Nは、2つの配列が同一の残基を共有する部位の数であり、Tは比較される部位の総数である。一方の配列または両方の配列がギャップを有するアラインメント中の残基は、この計算に含めない。アラインメント内の対についてこの値を計算する多数のプログラムが存在する。タンパク質についての1例は、アミノ酸置換についてのモデルとして「Similarity Table」オプション(P)を使用した、PHYLIP系統発生学パッケージ中のPROTDIST(フェルゼンシュタイン(Felsenstein );http://evolution.gs.washington.edu/phylip.html)である。DNA/RNAについては、PHYLIPのDNADISTプログラム内に同一のオプションが存在する。別例として、同一性(%)を、(N/S)×100と規定することもでき、ここで、Sは比較されている配列の短い方の長さである。
【0040】
タンパク質配列における他の修飾(すなわち、例えばアセチル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化、タンパク質分解による切断またはリガンドへの連結によって、翻訳中または翻訳後に生じる修飾)もまた想定され、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内にある。
【0041】
本発明の第1の態様によれば、
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を有する抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片が提供される。
【0042】
この抗原結合領域は、免疫グロブリンの相補性決定領域(CDR)、またはその機能的断片を含み得る。免疫グロブリンまたはその機能的断片のCDR間で枠組構造領域に変異が存在してもよい。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号12の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたは
その機能的断片が提供される。
【0044】
本発明の第3の態様によれば、軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片が提供され、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号13に定められたアミノ酸配列を有し、該重鎖可変領域は実質的に配列番号11に定められたアミノ酸配列を有する。
【0045】
本発明の第4の態様によれば、軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片が提供され、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号12に定められたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ、該重鎖可変領域は実質的に配列番号10に定められたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる。
【0046】
第5の態様によれば、
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を含んでなる単離されたペプチドが提供される。
【0047】
このペプチドはポリペプチドを含み得る。好ましくは、このペプチドはインテグリンに結合するように適合している。
本発明の第6の態様によれば、
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号10の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0048】
好ましくは、このポリヌクレオチドは、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードする。好ましくは、このポリヌクレオチドは、組換えヒト免疫グロブリンの少なくとも1つの抗原結合領域のアミノ酸配列を実質的にコードするヌクレオチド配列、またはその機能的断片を含む。
【0049】
有利なことに、この免疫グロブリンまたはその機能的断片は、それ自体で潜在的な治療的相互作用を有し、非ヒト領域(例えばマウス)、Fc断片(枠組構造領域)または少なくとも1つのマウス抗原結合領域(すなわち、相補性決定領域(CDR))を含む免疫グロブリンを使用する現在の治療に対する改善である。
【0050】
第7の態様によれば、医薬としての使用または診断における使用のための、各々任意選
択で誘導体化された、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドが提供される。
【0051】
第1〜第4の態様のいずれかに規定される免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドは、誘導体化されなくてもよい。
【0052】
好ましくは、前記医薬は、血液凝固障害を抑制または予防するように適合している。
第8の態様によれば、血液凝固障害を治療するための医薬の調製のための、任意選択で誘導体化済みの、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドの使用が提供される。
【0053】
従って、免疫グロブリンもしくはその機能的断片、ペプチドまたはポリヌクレオチドは、好ましくはその誘導体または改変体を作製するために、使用前に改変されてもよい。第1〜第4の態様のいずれかに規定される免疫グロブリンもしくはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、または第6の態様に規定されるポリヌクレオチドは、誘導体化されなくてもよい。
【0054】
好ましくは、前記医薬は、血栓塞栓性の障害および炎症のうち少なくともいずれかを抑制または予防するように適合している。
第9の態様によれば、血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかを治療する方法が提供され、この方法は、各々任意選択で誘導体化された、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドを患者に投与する工程を含む。
【0055】
治療する方法は、抗炎症治療法および抗血栓塞栓治療法のうち少なくともいずれかを含み得る。
第10の態様によれば、各々任意選択で誘導体化された、本発明の第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたは機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチド、ならびに薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤または安定剤を含む医薬組成物が提供される。
【0056】
第1〜第4の態様のいずれかに規定される免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドは、誘導体化されなくてもよい。
【0057】
適切な医薬品賦形剤には、例えば、生理学的に緩衝化された生理食塩水のような水溶液、および、グリコール、グリセロール、油または注射可能な有機エステルのような他の溶媒または媒体が含まれる。医薬品担体は、例えば、医薬組成物を安定化させるように、または医薬組成物の溶解性を増大させるように作用する生理学的に許容可能な化合物を含み得る。このような生理学的に許容可能な化合物は、例えば、炭水化物(例えば、グルコース、スクロースまたはデキストロース);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸またはグルタチオン);キレート剤;低分子量タンパク質;または別の安定剤もしくは賦形剤であってもよい。当業者には周知のことであるが、医薬品媒体の選択および組成物の適切な調製は、意図される用途および投与様式に依存する。
【0058】
好ましくは、この組成物は、患者において血液凝固障害および炎症のうち少なくともい
ずれかを予防または軽減させるために前記患者に投与されるように適合している。好ましくは、この血液凝固障害は、患者における血栓塞栓性の障害を含む。好ましくは、この組成物は、患者において血液凝固障害を、より好ましくは血栓塞栓性の障害および炎症のうち少なくともいずれかを検出するためにも使用され得る。
【0059】
第11の態様によれば、血液凝固障害を有する個体を治療または診断するためのキットが提供され、このキットは、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドを含む。
【0060】
好ましくは、このキットは検出手段をさらに含み、該検出手段は、前記免疫グロブリンもしくはその機能的断片、ペプチドまたはポリヌクレオチドに特異的な抗原の有無を検出するように適したアッセイを含むことが好ましい。キットは、該検出手段によって検出され得る標識を含み得る。
【0061】
第12の態様によれば、血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかに対する個体の感受性を決定するための方法が提供され、この方法は、
(i)個体から試料を得る工程、および
(ii)第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその断片、第5の態様に規定されるペプチド、あるいは第6の態様に規定されるポリヌクレオチドを使用して、試料中の抗原のレベルを決定する工程
を含む。
【0062】
抗原はインテグリンを含んでなることが好ましく、GPIIb/IIIaを含んでなることがより好ましい。試料は、血液、尿、組織などを含み得る。
この組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片は、第1および第2の態様に規定される抗原結合領域を、少なくとも2つ、適切には少なくとも3つ、より適切には少なくとも4つ含んでなるとよい。好ましくは、この組換え免疫グロブリンまたは機能的断片は、少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも6つ、なおより好ましくは少なくとも7つの抗原結合領域を含んでなる。好ましい実施形態において、この組換え免疫グロブリンまたは機能的断片は、8つ全ての抗原結合領域を含んでなる。
【0063】
この組換え免疫グロブリンは、抗原結合領域のうちいずれか、または全ての抗原結合領域を含み得る。この組換え免疫グロブリンは抗原結合部位を含み得るが、この抗原結合部位に抗原が結合し、好ましくは免疫学的応答を惹起する。好ましくは、少なくとも1つの抗原結合領域が抗原結合部位の少なくとも一部を形成する。
【0064】
好ましくは、この免疫グロブリンまたはその機能的断片は1価である。しかし、この免疫グロブリンは2価であっても多価であってもよい。
不都合なことに、2価または多価の免疫グロブリンは、フィブリノゲン代替物として作用して血小板凝集を促進する傾向を有する可能性がある。これは、2価免疫グロブリンが、第1の血小板細胞上の第1のフィブリノゲン・レセプターに結合し、かつ第2の血小板細胞上の第2のフィブリノゲン・レセプターにも結合し得るからである。従って、2価免疫グロブリンによって2つの血小板細胞間に架橋が形成され、その結果血小板の凝集が生じる。これは危険性があろう。
【0065】
有利なことに、上で議論した2価および多価の免疫グロブリンとは対照的に、1価の免疫グロブリンは、単一の血小板上の1つのフィブリノゲン・レセプターだけに結合し得るので、血小板にフィブリノゲンが結合するのを防止し、従って、血小板凝集を防止する。1価の免疫グロブリンは、血小板細胞間に架橋を形成し得ない。
【0066】
従って、本発明は、第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を作製する方法まで及び得るが、該方法において、免疫グロブリンまたはその機能的断片は1価である。
【0067】
好ましくは、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、1価の免疫グロブリンまたはその機能的断片として直接作製される。本発明の方法は、1価の免疫グロブリンを生産するために2価または多価の免疫グロブリンを切断する工程を含まないことが好ましい。このような手法は通常、直接作製された1価の免疫グロブリンよりもリガンドに対する親和性が低い1価の免疫グロブリンを生じるであろう。
【0068】
1価の免疫グロブリンは、ヒトの体内におけるin vivoの寿命が比較的短いことが好ましく、例えば、好ましくは2カ月未満、より好ましくは1カ月未満、なおより好ましくは2週間未満、最も好ましくは48時間未満である。免疫グロブリンは、例えば、手術後に患者が血栓症に罹患する危険性を低下させるために、手術後に患者に投与することによって医学的に使用され得る。2価および多価の免疫グロブリンは、かなり長い寿命(例えば、約2カ月〜3カ月)を有する傾向があり、医学的な使用にとってあまり適切ではない。さらに、2価の免疫グロブリンは、患者に血栓症を引き起こす傾向がある。
【0069】
抗原はインテグリンを含んでなることが好ましい。
インテグリンは、好ましくは2つのファミリーに由来するα鎖およびβ鎖からなる。これらの鎖が組み換わることにより、免疫応答および凝固反応における異なる機能を有する種々のインテグリン分子を生じる。
【0070】
α鎖には、α1、α2、α3、α4、α5、α6、α7、α8、α9、α11、αIb、αIIb、αM、αV、αE、αL、αXが含まれる。
β鎖には、β1、β2、β3、β4、β5、β6、β7、β8が含まれる。
【0071】
このα鎖およびβ鎖は、特定の組合せを生じるように組み合わせることが可能であり、該組合せは、各々が例えば、αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1およびα6β4であるインテグリンを生じる。
【0072】
従って、約24種のインテグリン・ファミリー構成分子が存在する。
抗原は、αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1およびα6β4からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなることが好ましい。
【0073】
好ましくは、抗原はβ3インテグリンを含んでなる。好ましくは、抗原は、αVβ3、αIIbβ3およびαIbβ3からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなる。
【0074】
例えば、適切なインテグリンには、糖タンパク質IIb/IIIa(αIIbβ3)、LFA−1(αLβ2)、VLA−4(α4β1)、MAC−1(αMβ2)およびp150.95(αXβ2)が含まれる。上記インテグリンは、構造的、機能的および免疫化学的に互いに類似している。従って、上記のインテグリンに構造的、機能的および免疫化学的に類似している上に列挙した他のインテグリンもまた、特許請求の範囲に記載される
本発明の範囲内にある。
【0075】
好ましくかつ有利には、本発明の免疫グロブリンまたはその機能的断片は、インテグリン(例えば、ヒト糖タンパク質(GP)IIb/IIIa)が実質的に精製されている場合、該インテグリンに対する免疫特異性を有することが好ましい。好ましくかつ有利には、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、その外表面上にインテグリン(例えば、ヒト糖タンパク質IIb/IIIa)を有する血小板に結合するように適合している。
【0076】
本発明の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片は、好ましくは自己免疫性特発性血小板減少症(AITP)に罹患している個体から単離され得る。この疾患状態(AITP)は、患者の血小板濃度が健康な個体中の血小板濃度よりも低いことによって特徴付けられる。さらに、この疾患状態AITPは、血小板インテグリン(例えば、糖タンパク質(GP)IIb/IIIa)に対する免疫特異性を有する免疫グロブリンの存在によって特徴付けられる。他の血小板インテグリンに対する免疫特異性を有する免疫グロブリンもまた、AITP患者体内に存在し得る。
【0077】
好ましくかつ有利には、本発明の免疫グロブリンまたはその機能的断片は、アゴニストに応答したヒト血小板の凝集を実質的に阻害するように適合している。好ましくかつ有利には、この免疫グロブリンまたはその機能的断片は、糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープに対するフィブリノゲンの結合(血小板凝集の開始における主な相互作用)を実質的に阻害するように適合している。
【0078】
興味深いことに、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、体細胞突然変異によって誘導される。好ましくは、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、生殖系列の進化とは対照的に、親和性成熟によって誘導される。
【0079】
AITPに罹患した個体では通常、機能を阻害する抗体が報告されているにもかかわらず、血小板が急速に除去されることが原因で血小板数が低い。しかし、驚くべきことに、GPIIb/IIIaとフィブリノゲンとの間の相互作用を特異的に阻害するモチーフを含む抗体が、体細胞突然変異を介して生じるようである。単離されたモノマー形態は血小板凝集を阻害する一方、in vivoで通常存在するダイマー形態は、血小板凝集を加速することによってこの疾患の通常の病態を阻害していることが予測され得る。
【0080】
本発明のCDRについて使用される名称を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
好ましくは、配列番号13の残基31〜33によって規定される抗原結合領域は、アミノ酸配列「RSD」を含む。好ましくは、配列番号13の残基30〜38として示されるアミノ酸配列によって規定される結合領域は、「ARSDGVSLM」のアミノ酸配列を含む。
【0083】
好ましくは、免疫グロブリンの機能的断片は、ヒト免疫グロブリンと実質的に同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する断片を含む。好ましくは、この機能的断片はインテグリン特異的である。好ましくは、この機能的断片には、結合領域配列のうち少なくとも1つが免疫グロブリン、より好ましくはインテグリン特異的ヒト免疫グロブリンの結合領域配列と実質的に同じアミノ酸配列である断片が含まれる。この機能的断片は、VH断片、VL断片、Fd断片、Fv断片、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片およびFc断片からなる群から独立に選択される断片のいずれかを含み得る。
【0084】
この機能的断片は、ヒト免疫グロブリンのVLの抗原結合領域配列のいずれか1つ、VHの抗原結合領域配列のいずれか1つ、またはVL抗原結合領域およびVH抗原結合領域の組合せを含み得る。VH抗原結合領域配列およびVL抗原結合領域配列の適切な数および組合せは、機能的断片の所望の親和性および特異性ならびに意図される用途によって、当業者が決定することができる。
【0085】
免疫グロブリンの機能的断片は、当業者に周知の方法を使用して容易に生産および単離可能である。このような方法には、例えば、タンパク質分解法、組換え法および化学合成が含まれる。
【0086】
機能的断片の単離のためのタンパク質分解法は、出発材料としてヒト免疫グロブリンを
使用する工程を含む。ヒト免疫グロブリンのタンパク質分解に適切な酵素には、例えば、パパインおよびペプシンが含まれる。適切な酵素は、例えば、1価の断片が必要か2価の断片が必要かによって、当業者が容易に選択することができる。例えば、パパイン切断では、抗原に結合する2つの1価のFab’断片およびFc断片を生じる。ペプシン切断では、例えば、2価のF(ab’)断片を生じる。本発明のF(ab’)2断片は、2つの1価のFab’断片を生成させるために、例えばDTTまたは2−メルカプトエタノールを使用してさらに還元されてもよい。
【0087】
タンパク質分解によって生成された機能的断片は、アフィニティ・クロマトグラフィー手法およびカラム・クロマトグラフィー手法によって精製され得る。例えば、未消化の抗体およびFc断片は、プロテインAへの結合によって除去され得る。さらに、機能的断片は、例えば、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過クロマトグラフィーを使用して、該断片の電荷およびサイズによって精製され得る。このような方法は当業者に周知である。
【0088】
ヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片は、組換え法によって生産することもできる。好ましくは、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の所望の領域をコードするポリヌクレオチドを最初に単離する。このような領域は、例えば、重鎖および軽鎖の可変領域の全体または一部を含み得る。好ましくは、このような領域は特に、重鎖および軽鎖の抗原結合領域、好ましくは抗原結合部位、最も好ましくはCDRを含み得る。
【0089】
本発明のヒト免疫グロブリンまたは機能的断片をコードするポリヌクレオチドは、当業者に公知の方法を使用して生産することができる。免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドは、当該分野で公知のオリゴヌクレオチド合成の方法によって直接合成され得る。別例として、比較的小さい断片を合成し、当該分野で公知の組み換え方法を使用して連結してより大きい機能的断片を形成することも可能である。
【0090】
好ましくは、免疫グロブリンまたはその機能的断片は、バクテリオファージ発現系によって生産される。好ましくは、このバクテリオファージ発現系は、ファージ・ディスプレイ・ライブラリーを含む。
【0091】
免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを単離するために有用な手順は、自己免疫性特発性血小板減少症(AITP)に罹患している個体から単離されたRNAから逆転写され得るcDNAの単離から開始する。この疾患状態(AITP)は、糖タンパク質(GP)IIb/IIIaを含む血小板インテグリンに対する免疫特異性を有する抗体の存在によって特徴付けられる。cDNA合成のための方法は当該分野で周知である。重鎖または軽鎖を含む免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするcDNAは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、好ましくは逆転写PCR(RT−PCR)を使用して増幅され得る。
【0092】
PCRのために適切なプライマーは、重鎖または軽鎖の特定の機能的断片に隣接する保存された配列を使用して、当業者によって決定され得る。例えば、適切なPCRプライマーは、配列番号1〜配列番号7および配列番号14〜配列番号20として実質的に示されるポリヌクレオチドのうちいずれかを含み得る。適切なPCR条件は、当業者によって決定され得る。
【0093】
好ましくは、PCRは、重鎖、より好ましくはVH CH−1断片、なおより好ましくは重鎖可変領域の断片(VH)を増幅するように適合されている。別例として、または追加として、PCRは、軽鎖、より好ましくはVL CL断片、なおより好ましくは軽鎖可変領域の断片(VL)を増幅するように適合されている。
【0094】
好ましくは、PCR反応は、例えば配列番号1〜7および14〜20からなるプライマー群から独立に選択され得る、適切なプライマーを使用して構成される。
好ましくは、PCR産物は、適切な発現ベクター、より好ましくはファージ発現ベクター(例えばpComb3HSS)中にクローニングされる。好ましくは、重鎖断片はXhoIおよび好ましくはSpeIによって消化されてからベクターへクローニングされる。好ましくは、軽鎖断片はSacIおよび好ましくはXbaIによって消化されてから発現ベクターへクローニングされる。
【0095】
好ましくは、該ベクターは、重鎖断片および好ましくは軽鎖断片が発現するように、適切な宿主(例えば、E.coli)中に導入される。適切なベクターと宿主細胞の系は、例えば、重鎖および軽鎖の機能的断片の同時発現および集合を可能にし得る。好ましくは、ベクターは、エレクトロポレーションによって宿主中に導入される。
【0096】
抗体断片の発現に適切な他の系は当業者であれば決定可能であり、該系には例えば、M13ファージ発現ベクターが含まれる。組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片は、当該分野で公知の方法を使用して実質的に精製可能であり、該方法は使用される特定のベクターおよび宿主の発現系によって決まる。
【0097】
好ましい実施形態において、本発明は、インテグリン特異的ヒト免疫グロブリンに関する。有利なことに、この免疫グロブリンはヒト起源であり、従って、非ヒト起源のエレメントを含む免疫グロブリンを使用する場合とは対照的に、ヒト患者への投与の際にあらゆる免疫応答をも最小限とする可能性が高い。さらに、免疫グロブリンまたはその機能的断片、ならびにこの免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードするポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、例えば抗炎症および血液凝固障害の疾患状態に応じた、組成物および診断薬の製造、ならびにそれらの使用のために有効に使用され得る。
【0098】
本発明の第14の態様によれば、第6の態様において規定されるポリヌクレオチドまたはその誘導体を含んでなる組換えDNA分子が提供される。
好ましくは、この組換えDNA分子は発現ベクターを含む。好ましくは、ポリヌクレオチド配列は、発現制御配列に作動可能な状態に連結される。適切な制御配列は、プロモーター、エンハンサーなどを含み得る。
【0099】
本発明の第15の態様によれば、第14の態様の組換えDNA分子を含む細胞が提供される。
この細胞は、適切な手段によって組換えDNA分子で形質転換または形質移入され得る。
【0100】
本発明の第16の態様によれば、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を調製する方法が提供され、この方法は、
(i)必要とされる免疫グロブリンまたはその機能的断片を発現し得る、第15の態様に規定される少なくとも1つの細胞を培養する工程、および
(ii)免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む。
【0101】
免疫グロブリンまたはその機能的断片は、インテグリン・ファミリーの他の構成分子に対する免疫特異性を示す免疫グロブリンの開発のためのフレームワークとなるように使用され得る。インテグリンは、2つのファミリー由来のα鎖およびβ鎖からなる。これらの鎖を組換えることにより、免疫応答および凝固反応において異なる機能を有する種々のインテグリン分子が生じる。インテグリンの例としては、
αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1、α6β4
が含まれる。
【0102】
これらの組合せの各々は、血小板凝集におけるその役割とは別の種々の機能、例えば免疫応答の活性化、白血球の遊走(これらはいずれも抗炎症治療の標的である)、精子と卵との間の相互作用、ならびに血管形成(主要な抗腫瘍治療の標的)などを有する。
【0103】
第17の態様によれば、標的のインテグリンに結合する能力を有する組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法が提供され、この方法は、
(i)第1〜第4の態様のいずれかに規定される組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を突然変異させて変異体を生成させる工程、および
(ii)標的のインテグリンに対する活性について変異体を選択する工程
を含む。
【0104】
第1の実施形態において、前記突然変異させる工程は、ランダム変異誘発、好ましくは縮重PCRの使用を含み得る。免疫グロブリンのcDNAがPCR反応中の鋳型として使用され、該反応に変異原を加えることが好ましい。PCR反応には、変異誘発性のヌクレオシド三リン酸(例えば、dPおよび8−オキソ−2’デオキシグアノシン)を加えることが好ましい。有利なことに、このことにより、高度に制御された様式でcDNA中の至る所に変異を導入して変異体ライブラリーを作製することが可能である。得られた変異体ライブラリーは、ファージの表面上に提示可能であり、所望のインテグリンに対する抗体が選択可能である。
【0105】
得られた変異体抗体のライブラリーは、バイオパニングを使用して所望のインテグリンに対して選択可能である。ELISAプレートを、所望のインテグリンで被覆すればよい。例えば、重炭酸塩緩衝液(pH8.6)中の所望のインテグリンの1μg/ml溶液100μlを、4℃で一晩インキュベートすることができる。
【0106】
好ましくは、TBSで2回洗浄した後、プレートをPBS中5%のBSAでブロッキングし、37℃で1時間インキュベートすればよい。さらに2回の洗浄後、100μlのファージ懸濁物を各ウェルに添加してプレートを37℃で2時間インキュベートすることができる。
【0107】
ファージを除去し、ウェルをTBS、0.05% Tween 20(TBST)で満たし、激しくピペット撹拌することができる。5分後にTBSTを除去すればよいが、第1回のパニングについては、プレートはこの方法で1回洗浄すればよい。第2回のパニングでは5回洗浄すればよく、第3回および以降の回においては10回洗浄した。次いで、1ウェル当たり50μlの溶出緩衝液でファージを溶出可能であり、室温で10分間インキュベートすればよい。激しくピペット撹拌した後、溶出したファージを取り出して、2M Trisベース3μlで中和することができる。
【0108】
第2の実施形態において、前記突然変異させる工程は、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片の少なくとも1つの抗原結合領域中に、標的インテグリンに対する免疫特異性を有する少なくとも1つのリガンドを導入する工程を含み得る。
【0109】
この少なくとも1つのリガンドは、RDG、RSG、RSD、HHLGGAKQAGDV、GPR、RPG、AEIDGIEL、ARSDGVSLM、QIDS、LDT、ID
APS、DLXXLおよびGFOGERからなる一群のリガンドから独立に選択され得る。GFOGERはヒドロキシプロリンである。
【0110】
この少なくとも1つの抗原結合領域は、重鎖および軽鎖のうち少なくともいずれかの可変断片中に存在し得る。好ましくは、この少なくとも1つのリガンドは、免疫グロブリンまたはその機能的断片の重鎖の抗原結合領域のいずれかの中に導入される。好ましくは、この少なくとも1つのリガンドは、第1の結合領域中に導入される。例えば表1を参照のこと。
【0111】
リガンドは、分子モデリングを含む種々の技術によって決定された適切な部位に、制限酵素消化によって挿入され得る。リガンドのペプチド配列をコードするポリヌクレオチド配列は、切断された制限酵素部位にライゲーションされ得る。これについての正確な詳細事項は、使用されるリガンドおよびCDRの性質によって変わる。
【0112】
第2の実施形態において、前記突然変異させる工程は、ランダム変異誘発をさらに含み得る。
第18の態様によれば、第17の態様において規定される方法を使用して生成された、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片のライブラリーまたはパネルが提供される。
【0113】
上に列挙した多数のインテグリンの組合せは、種々の疾患(特に腫瘍)において過剰発現される可能性があり、従って、免疫グロブリンまたは抗体を用いて腫瘍の場所を特定することが可能である。腫瘍、および場合によっては他の疾患の治療成績をインテグリンの発現によって予測可能であることもまた示唆される。
【0114】
本発明の第19の態様によれば、抗血小板作用を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法が提供され、この方法は、
(i)少なくとも1つの完全な血小板に対して少なくとも1種の免疫グロブリンまたはその機能的断片を接触させる工程、および
(ii)完全な血小板に対する結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む。
【0115】
用語「完全な血小板」によって、本発明者らは、血小板膜が本来の状態ではない可能性のある血小板の領域または部分ではなく、血小板膜が好ましくは本来の状態である完全な血小板または無傷の血小板を意味する。抗血小板作用を有する免疫グロブリン、という用語によって、本発明者らは、アゴニストに応答したヒト血小板の凝集を実質的に阻害するように適合している免疫グロブリンまたはその機能的断片を意味する。好ましくは、かつ有利なことに、本発明の抗血小板作用を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片は、糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープへのフィブリノゲンの結合(血小板凝集の開始における主な相互作用)を実質的に阻害するように適合している。
【0116】
上記少なくとも1種の免疫グロブリンは、バクテリオファージと結合していることが好ましい。バクテリオファージ・ライブラリーを、少なくとも1つの完全な血小板に対して接触させることが好ましい。複数の完全な血小板が使用されることが好ましい。前期接触工程は、完全な血小板に対してファージ・ライブラリーをパニングする工程を含む。
【0117】
有利なことに、この方法は、機能的に活性な免疫グロブリンの探索において特定の抗原(例えばGPIIb/IIIa)に対して免疫グロブリンをスクリーニングすることよりも、時間がはるかにかからない。なぜなら、インテグリンが血小板膜と共に本来の状態で存在すると思われるからである。
【0118】
本明細書中に記載される特徴の全ては、任意の組合せで、上記の態様のいずれとも組み合わされる。
本発明のある実施形態は、添付の図面および配列表を参照しながら、実施例としてここに記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0119】
本発明の1実施形態を、以下の実施例によってここに説明する。
【実施例】
【0120】
この検討課題の第1段階は、2人の自己免疫性特発性血小板減少症(AITP)の患者由来のコンビナトリアル抗体ライブラリーを構築することであった。この疾患状態(AITP)は、患者の血小板濃度が健康な個体と比較して低いことによって特徴付けられる。さらに、この疾患状態AITPは、血小板インテグリン糖タンパク質(GP)IIb/IIIaに対する免疫特異性を有する抗体の存在によって特徴付けられる。
【0121】
(ライブラリー構築)
全RNAを、Ultraspec(商標)RNA単離キット(英国所在のバイオテックス・ラボラトリーズ社(Biotex Laboratories))を使用してAITP患者由来のホモジナイズした脾臓組織から単離した。次いで、以下のように、脾臓組織から単離されたRNAに対する逆転写を実施することによってcDNAを生成した。
【0122】
10μg〜30μgの単離RNAを滅菌した1.5mlのEppendorf(商標)チューブに添加した。次いで、1μg(2μl)のオリゴdTを添加し、ヌクレアーゼを含まない水またはDEPC(ジエチルピロカーボネート)水を用いて体積を27μlとした。この反応物を70℃で10分間加熱し、次いで40℃まで冷却した。
【0123】
次いで、2μlのRNAse阻害剤を10μl(5×)RT緩衝液と共に添加した。続いて3μlのdNTPを添加した(各々2mMのdATP、dCTP、dGTP、dTTP)。次いで5μlの0.1M DTTを添加し、逆転写酵素の添加前にDEPC水を使用して体積を48μlとした。次いで、200ユニット(2μl)の逆転写酵素(SuperscriptII(商標)、英国所在のギブコ社(Gibco))を添加し、反応物を室温で10分間インキュベートした。この反応を、90℃で5分間インキュベートしてから4℃で10分間インキュベートすることによって終結させた。
【0124】
AITP患者のRNAを逆転写した後、cDNAの重鎖可変領域(VH)および軽鎖(κ鎖)可変領域を、定常(C)領域プライマーおよび可変領域(VHおよびVκ)の第1フレームワークに特異的なプライマー群、ならびに追加のVHおよびVκプライマーを使用するPCRによって増幅した。
【0125】
重鎖のCOOH末端で増幅を開始する重鎖可変領域プライマーは以下である。
【0126】
【化1】
【0127】
上記重鎖可変領域プライマーを、以下の重鎖IgG1特異的定常(CHζ)ドメイン・プライマーと共にPCR反応において使用した。
【0128】
【化2】
【0129】
κ軽鎖のCOOH末端で増幅を開始するκ軽鎖可変ドメイン・プライマーは以下である。
【0130】
【化3】
【0131】
上記軽鎖可変領域プライマーを、以下の軽鎖定常ドメイン・プライマーと共にPCR反応において使用した。
【0132】
【化4】
【0133】
使用可能な可変領域プライマーは多種多様であるため、全てのプライマーを全ての増幅において使用した。
上記RNAの逆転写反応から新たに調製されたRT−PCR混合物は、792μlのD
NAseを含まない水、100μlの(10×)Taq緩衝液および8μlのdNTP(各々25mMのdATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)から構成されるものとした。90μlのこのPCR混合物を新たなPCR反応用チューブに添加した。次いで、3μlの5’プライマーおよび3μlの3’プライマー(すなわち、60pmoleの各プライマー(各々20μM))を、各PCR反応チューブに添加した。
【0134】
次いで、5ユニット(0.5μl)のTaqポリメラーゼを各反応チューブに添加した。次いで、2μlのcDNA(本来2μlのRNAを含む)を添加した。次いで、2滴の鉱油を各反応チューブの上部に添加し、次いで25〜40サイクルのPCR増幅を実施した。PCR反応の詳細は以下のとおりであった:
(94℃で30秒間、52℃で50秒間および68℃で90秒間)×40サイクル。次いで、10μlのPCR反応産物を取り出して、2μlの6×ローディングバッファ液を添加した。
【0135】
得られた混合物を、2%のアガロース・ゲル(50:50の通常アガロース:低融点アガロース)で、φ174/Hae IIIマーカーと共に泳動した。約660bpの強いバンドから、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH1)をコードするDNA、または軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)をコードするDNAが首尾よくPCR増幅されたことが示された。
【0136】
重鎖および軽鎖のPCR産物をゲル精製し、抽出し(Wizard(登録商標)PCR
Preps DNA Purification System(商品名)、英国所在のプロメガ社(Promega))、制限酵素消化およびクローニングの効率を増大させるために、5’ポリ(GA)テイルを有する伸長プライマーを使用して再増幅した[ウイリアムソン(Williamson)、1993年、ウイリアムソン アールエイ(Williamson RA )、ブリオーニ アール(Burioni R )、サンナ ピーピー(Sanna PP)、パートリッジ
エルジェイ(Partridge LJ)、バーバス シーエフ3世(Barbas CF,3rd )、バートン
ディーアール(Burton DR )、「Human monoclonal antibodies against a plethora of viral pathogens from single combinatorial libraries 」、Proc Natl Acad Sci USA 第90巻、4141〜5ページ、1993年]。このPCR反応は以下のとおりであった:
(94℃で30秒間、52℃で50秒間および68℃で90秒間)×40サイクル。
【0137】
最初のファージ・ライブラリー構築には、スクリップス・リサーチ・インスティテュート社(Scripps Research Institute)[米国カリフォルニア州ラホヤ所在]提供の図1に示すpComB3HSSファージ・ディスプレイ・ベクターを使用した。制限酵素で消化するために、PCR増幅された重鎖および軽鎖のDNAの濃度を最初に決定した。次いで、軽鎖PCR断片(VLおよびCL)をSacI/XbaIで消化し、重鎖PCR断片(VHおよびCH−1)をSpeI/XhoI(ギブコビーアールエル社(GibcoBRL))で消化した。次いで、これらの消化物を、ライゲーションされるPCR断片について使用した酵素と同じ酵素で予め切断したpComB3HSSベクター中に順次ライゲーションした。すなわち、通常は軽鎖をベクター中に最初にクローニングし、その後重鎖をクローニングした。
【0138】
適切に消化した1400ngのベクターを反応チューブに添加し、450ngの適切に消化したPCR産物(すなわち、重鎖断片(VHおよびCH−1)または軽鎖断片(VLおよびCL)のいずれか)、40μlの5×リガーゼ緩衝液および10μlのリガーゼを含めて総体積200μlとした。このライゲーション反応物を室温で一晩インキュベートし、次いで70℃で10分間加熱して失活させた。DNAを沈殿させ、得られたDNAペレットの水分を切り、70%エタノールですすぎ、次いでペーパー・タオル上で乾燥させ
た。このペレットをSpeedvac(登録商標)でさらに乾燥させ、15μlの水に再懸濁した。このチューブを10分間氷上に配置した。ライゲーション反応が正常に行われたことを確認するために、陽性対照のライゲーション反応を実施した。
【0139】
次いで、大腸菌XL−1Blueのエレクトロコンピテント細胞(1回のライゲーション反応当たり300μl)を解凍し、ライゲーションされたベクターDNAを含むチューブに添加し、混合して1分間放置した。この細胞/DNA混合物をエレクトロポレーション・キュベットに移し、エレクトロポレーションを以下のように実施した。
【0140】
エレクトロポレーションを実施するために、細胞を、2.5kV、ギャップサイズ0.2cmのキュベット、25μFDおよび200Ωの条件でパルスした。エレクトロポレーション・キュベットを、最初に1mlで洗い、次いで2mlのSOC培地を室温にて即座に流し込み、その後すぐにこのSOC培地中でシェーカー(250rpm)中で37℃にて1時間インキュベートした。次いで、20μg/mlのカルベニシリンおよび10μg/mlのテトラサイクリンを含む予め温めた(37℃)スーパーブロス(Superbroth、SB)10mlを添加した。対照のライゲーション試料については100ml、10mlおよび1ml、ライブラリーのライゲーション試料については10ml、1mlおよび0.1mlを100μg/mlのカルベニシリンを含むLBプレート上に播種することによって、即座に形質転換体の力価を決定した。
【0141】
形質転換された大腸菌の10ml培養物を、シェーカー(300rpm)で37℃にて1時間インキュベートした。インキュベーション後、カルベニシリンを、50μg/mlの最終濃度まで添加し、37μCでさらに1時間インキュベートした。10mlの培養物を、50μg/mlのカルベニシリンおよび10μg/mlのテトラサイクリンを含む100mlのSBに添加し、シェーカーで37℃にて一晩インキュベートした。
【0142】
一晩増殖させた後、ファージ・プラスミドDNAをミニプレップ(小規模精製)することによって単離した。単離したベクターを第1鎖の挿入についてチェックし、次の鎖とのライゲーションのために準備した。通常、軽鎖をベクター中に最初にクローニングし、次いで重鎖をクローニングした。従って、得られたファージ・ライブラリーは、軽鎖および重鎖の両方がその中に挿入されたコンビナトリアル・ファージから構成された。
【0143】
(バイオパニング)
バイオパニングを以下のように実施して、抗血小板抗原特異的免疫グロブリンを発現したFabファージを単離した。
【0144】
60mlの抗凝固処理血液を室温にて200gで10分間遠心分離することによって血小板を調製した。次いで、ELISAプレートを、重炭酸塩緩衝液(pH8.6)中108個の血小板に相当する血小板懸濁物50μlでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。次の朝、TBS(Tris緩衝生理食塩水)で2回洗浄した後、このプレートを、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)中5%のBSA(ウシ血清アルブミン)でブロッキングし、37℃で1時間インキュベートした。TBSでさらに2回洗浄した後、100μlのファージ懸濁物を各ウェルに添加し、このプレートを37℃で2時間インキュベートした。ファージの単離について以下に記載する。
【0145】
次いで、このファージを1ウェル当たり50μlの溶出緩衝液で溶出し、室温で10分間、TBS 0.05% Tween 20(TBST)と共にインキュベートした。激しくピペット撹拌した後、溶出したファージを取り出し、3μlの2M Trisベースを用いて中和することによって洗浄した。第1回のパニングについては、プレートをこの方法によって1回洗浄した。第2回のパニングでは、5回の洗浄を実施し、第3回および
その後の回においては、10回の洗浄を実施した。
【0146】
図2を参照すると、5回のバイオパニングを実施した結果が示されている。各回のパニングの後、溶出した抗血小板抗原特異的Fabファージの数を、カルベニシリン(100μg/ml)を含むルリア・ブロス(LB)上での力価測定によって決定し、コロニー形成単位の数を計数し(cfu/ml)、平均(±SE)として示した。
【0147】
図2から理解されるように、第1回のパニングの培養物は、わずか2つの抗血小板抗原特異的Fabファージ・クローンが109cfu/mlのファージ懸濁物から単離されたことを示したにすぎなかったが、第5回のパニング後には、約70個のクローンが109cfu/mlのファージ懸濁物から単離されたので、抗血小板抗原特異的Fabファージの富化がバイオパニングによって達成された。
【0148】
(血小板に対するファージの特異性の測定)
図2中に示した5回のパニング後に得られた抗血小板抗原特異的Fabファージを合わせたものをELISAによって分析して、このファージによって生成されたFab断片の抗血小板抗原特異性を測定した。60mlの抗凝固処理血液を室温にて200gで10分間遠心分離することによって血小板を調製した。
【0149】
マイクロタイター・プレートを、108個の血小板に相当する50μlの血小板濃縮物でコーティングし、次いで密封し、4℃で一晩インキュベートした。このプレートをPBSで2回洗浄し、PBS中5%のBSAでブロッキングし、37℃に1時間置いた。ブロッキング溶液を振り出した後、108pfuを含む100μlのファージを各ウェルに添加した。同じ濃度の100μlのM13ファージを、陰性対照として添加した。PBS/Tween 20で6回洗浄した後、100μlのウサギの抗ファージ抗体(7μg/ml、シグマカンパニー社(Sigma Co. ))を、ブランク以外全てのウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした。このプレートを、洗浄緩衝液(TBS中0.05%のTween 20)で6回洗浄した。100μlの特異的抗ウサギ抗体のセイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ複合物(PBS/1% BSA中に1:10,000希釈)を各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートした。洗浄緩衝液で6回洗浄した後、200μlの基質緩衝液(クエン酸塩緩衝液中10μg/mlのOPD)を添加し、このプレートを30分間暗所に放置した。この反応を、25μlの3M HCLを添加することによって停止させ、最後に490nmでELISAリーダーによって読み取った。
【0150】
図3を参照すると、5回のバイオパニングによって抗血小板抗原特異的Fabファージ・ライブラリーから選択された6つの代表クローン(S1〜S6)の血小板膜結合活性が、M13ファージ陰性対照(N)およびブランク・ウェル(B)を含めて示されている。このデータは、2回の実験からの平均吸光度±SEを示し、各実験において3つのウェルを各測定に使用した。
【0151】
図3は、コロニーの大きさが異なる無作為に選択したFabファージ・クローン6種のうち、4種のクローン(S1、S2、S3、S4)は完全な血小板の調製物と強力に反応したが、2種のクローン(S5、S6)は、血小板抗原と反応できなかったことを示す。陰性対照およびブランク対照では反応は見られなかった。
【0152】
(血小板溶解調製物に対する血小板反応性ファージの反応)
図3中に示されるような完全な血小板に対する陽性反応を示した4種のFab発現ファージ(S1〜S4)をELISAによって分析し、血小板溶解物に対する抗血小板抗原特異性を検出した。使用した方法は、50μlの血小板溶解物(200g/ml)をマイクロタイター・プレートに添加してからPBSで洗浄し100μlのファージを添加したこ
と以外は、上記の完全な血小板の調製物についての方法と全く同じであった。血小板溶解物は以下のように作製した。
【0153】
60mlの抗凝固処理血液を、室温にて200gで10分間遠心分離した。多血小板血漿(PRP)を取り出し、1200gで10分間再度遠心分離した(Mistral 3000(商品名)、英国所在のファイソンズリミテッド社(Fisons Ltd))。沈降させた血小板を等張緩衝液で4回洗浄した後、6mlの溶解緩衝液を添加し、4℃で1時間インキュベートし、その後、Avanti(商標)J−25遠心分離機(ベックマン社(Beckman ))で20,000gにて4℃で30分間遠心分離した。5mlの上清を、遠心濾過装置(カットオフ分子量10,000)を使用して4000gで40分間濃縮した。
【0154】
図4を参照すると、血小板溶解物に対するFab発現ファージの反応性が、M13ファージ陰性対照(N)およびブランク・ウェル(B)を含めて示されている。結果は、図3中に示されるような完全な血小板の懸濁物中の血小板表面の膜抗原と強力に反応した4種全ての選択クローン(S1〜S4)が、陰性対照およびブランクと比較した場合、血小板溶解物とも強力に反応したことを示している。
【0155】
(血小板膜タンパク質へのファージの結合の感度)
100μlの血小板溶解物を使用して、Maxisorp(商標)マイクロタイター・プレートの各ウェルをコーティングした。反応性を有する抗血小板抗原特異的Fabファージ106個を含む懸濁物を、1×10−1cfu〜1×10−6cfuの範囲にわたって希釈し、100μlの各希釈物を各ウェルに添加した。ファージの結合を、抗ファージ抗体複合物を用いて検出した。
【0156】
図5を参照すると、血小板溶解調製物に対するFab保有ファージの力価決定が示されている(平均±SE)。図5は、Fabファージの元の濃度(1×106cfu)が最も高い吸光度を与えたことを示している。吸光度の低下は、Fab保有ファージの濃度の低下と相関した。
【0157】
(精製された血小板糖タンパク質IIb/IIIaに対するファージ粒子の反応)
抗血小板抗原特異的Fabファージ粒子が糖タンパク質IIb/IIIaと特異的に反応することを実証するために、該ファージ粒子を、ELISAによって、精製タンパク質に対して試験した。従って、完全な血小板(図3を参照のこと)および血小板溶解物(図4を参照のこと)のいずれとも強力な反応を示したコロニーを分析して、精製糖タンパク質IIb/IIIaに対する反応性を決定した。
【0158】
ELISAを、完全な血小板について図3に、血小板溶解物について図4に示したように、以前と同様に実施した。ELISAマイクロプレートの各ウェルを、100μlの精製された糖タンパク質IIb/IIIaを2μg/mlの濃度で用いてコーティングした。この糖タンパク質IIb/IIIaは、スイス国所在のバーゼル大学のビート シュタイナー博士(Dr Beat Steiner )からの贈与物であった。PBSでの洗浄後、次いで100μlのファージを各ウェルに添加し、抗ファージ抗体を使用して、糖タンパク質IIb/IIIaに対するそれらの特異性を検出した。
【0159】
図6を参照すると、精製された血小板糖タンパク質IIb/IIIaに対するファージの反応性が示されている。これらの結果は、完全な血小板懸濁物および血小板溶解物中の血小板抗原と強力に反応した4つ全ての選択クローン(S1〜S4)が、M13陰性対照(N)およびブランク(B)と比較した場合、精製された糖タンパク質IIb/IIIa複合体とも強力に反応したことを示している。
【0160】
(抗血小板抗体Fabライブラリーを用いた血小板膜溶解物に対するウエスタン・ブロット分析)
以下のように、すでに記載したように単離したFab発現ファージ・クローン(S1〜S4)を用いてウエスタン・ブロット分析を実施した。
【0161】
血小板溶解物の試料を、3部の血小板溶解物(200g/ml)に対して1部の試料緩衝液で希釈し、2分間煮沸することによって調製した。8%分離ゲルを注いで固め、その後3%の濃縮ゲルを添加した。40μlの血小板溶解物試料および5μlの分子量(MW)マーカーを、このゲル中の別個のウェルに添加した。このゲルを、100Vの一定電圧で2時間泳動した。タンパク質を、ポリアクリルアミド・ゲルから0.45μmのニトロセルロース・メンブレンに転写し、100Vで90分間泳動した。分離された血小板タンパク質を含むニトロセルロース・メンブレン細片を、TBS中5%のBSAで室温にて2時間ブロッキング処理した。3mlの溶出ファージ(108cfu/ml)を、個々の試料細片上に配置した。3mlの同じ濃度のM13を陰性対照として使用し、3mlの抗GPIIb/IIIa抗体(2μg/ml)を陽性対照として使用した。全ての試料および対照物を、4℃で一晩インキュベートした。
【0162】
これらの細片を、TBS/0.05% Tween 20で2時間洗浄した。20分毎に洗浄緩衝液を交換した。1:1000に希釈した3mlのウサギの抗ファージ抗体を(陽性対照以外)全ての試料に添加し、室温で1時間インキュベートした。
【0163】
前と同様に洗浄した後、1:10,000に希釈した抗ウサギ抗体のセイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ複合物(3ml)を、全ての試料および陰性対照の細片に添加した。
陽性対照については、抗マウス抗体のセイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ複合物(3ml)を同じ希釈率で添加した。室温で1時間のインキュベーション後、これらの細片を以前と同様に洗浄した。このブロットを3mlのジアミノベンジジンで発色させた。
【0164】
図7を参照すると、4種の単離された抗血小板Fab保有ファージ・クローン(S1〜S4)と結合させた、非還元状態のヒト血小板膜溶解物のウエスタン・ブロット分析が示されている。レーンNはM13ファージ陰性対照であり、レーンPは、CD61(すなわち、IIa/IIIb複合体のβインテグリン成分)に対する抗体を用いて染色した陽性対照である。分子量マーカーは、MWレーン中を泳動させた。
【0165】
レーンS1〜S4は、4種の単離されたFabファージ(S1〜S4)が、それぞれ11KDaおよび92KDaの分子量を有する血小板タンパク質のバンドと結合することを示している。
【0166】
(抗血小板抗体Fabライブラリーを用いた、精製されたGPIIb/IIIaに対するウエスタン・ブロット分析)
Fab発現ファージ・ライブラリーの単離コロニーが血小板糖タンパク質GPIIb/IIIaと特異的に結合することを確認するために、40μlの精製された血小板糖タンパク質IIb/IIIaを8μg/mlの濃度でポリアクリルアミド・ゲルに装填し、電気泳動し、ニトロセルロース紙上に転写した。106個のFabライブラリー・ファージを各試料細片に添加した。次いで、ウサギの抗ファージ抗体のHRP複合物を添加し、このブロットを上記のように発色させた。
【0167】
図8を参照すると、4種の血小板反応性ファージ・クローンに対する、非還元状態のヒト血小板GPIIb/IIIa糖タンパク質のウエスタン・ブロット分析の結果が、M13ファージ陰性対照(N)およびCD61陽性対照(P)の結果と共に示されている。分子マーカーも、MWレーンに泳動した。
【0168】
レーンS1〜S4は、4つのFab抗血小板抗体全てが、92KDの分子量を有するGPIIb/IIIaと結合することを示している。
(ファージ・ディスプレイから可溶性FabへのPcomb3の変換)
すでに示されたデータは、Fab発現ファージが血小板抗原に結合することを実証するが、ファージによって発現されたFab分子がGPIIb/IIIbを特異的に認識して免疫反応することを正式に示すものではない。このことは、このFab分子が、発現されてファージの表面に配置されるファージのコートタンパク質とのキメラ・タンパク質として形成されることに起因する。
【0169】
これらのFabファージ・クローンがGP IIb/IIIaを特異的に認識して反応するか否かを決定するために、ファージのコートタンパク質を除去し、ファージに結合していない可溶性タンパク質としてFabを発現させた。可溶性Fab断片を、以下に記載するように、血小板抗原と強力に反応した4つのコロニーから調製した。
【0170】
重鎖および軽鎖の挿入断片を含むファージDNA5μg/mlを、2μgの制限酵素Spe1およびNhe1(10U/μl)で37℃にて3時間消化して、PIIIコートタンパク質をコードするDNAを除去した。次いで、この切断したDNAを0.6%の低融点アガロース・ゲルに装填し、4℃で電気泳動した。重鎖および軽鎖をコードするがPIIIコートタンパク質をコードするDNAを含まない、ファージの4.7Kbpのバンドをゲルから切り出し、Gene Cleanシステム(プロメガ社(Promega ))を使用して回収した。
【0171】
4.7Kbpの回収されたDNA200ngを、20μlの総体積のリガーゼ緩衝液中の2μlのリガーゼ(2U/μl)を用いて、室温で2時間ライゲーションした。1μlのライゲーション済みDNAを、40μlの大腸菌コンピテント細胞に添加し、2.5KV、25μFDおよび200Ωのエレクトロポレーションでパルス注入することによって形質導入した。
【0172】
エレクトロポレーションした細胞を、20μg/mlのカルベニシリンおよび10μg/mlのテトラサイクリンを含む10mlのスーパーブロスに移した。これらの細胞を直ぐに、100μg/mlのカルベニシリンを含むLBプレート上に接種した。24時間後、単一コロニーを、20mMのMgCl2および50μg/mlのカルベニシリンを含む10mlのスーパーブロス中に接種し、37℃で6時間インキュベートした。イソプロピルβ−Dチオガラクトピラノシドを1mMの最終濃度まで添加することによってタンパク質の発現を誘導した。これらの細胞を1500gで15分間の遠心分離によって回収し、可溶性Fabを細胞溶解物から回収した。
【0173】
細胞溶解物上清中における血小板と可溶性Fab断片との反応性を、ELISAによって決定した。図9を参照すると、4種の反応性ファージ・コロニーのうち3種(S1、S3、S4)についての結果が示されている。4番目のクローン(S2)は、可溶性ファージを発現しないようであった。3種全ての可溶性Fab分子は、血小板膜タンパク質に対する有意な反応性を示している。
【0174】
(DNA配列分析)
S4単離物のFab分子を、High Pure Plasmid Isolation Kit(商品名)を使用してプラスミドDNAを調製することによって配列決定した。核酸配列決定は、抗体の重鎖についてのプライマー:
5’−gaaatacctattgcctacgg−3’(配列番号8);
および抗体の軽鎖についてのプライマー:
5’−gcgattgcagtggcactgg−3’(配列番号9)
を使用して、ケンブリッジバイオサイエンシズ社(Cambridge Bio-sciences)によって実施された。
【0175】
使用した可変領域遺伝子を、
htt p://www.mrc-cpe.cam.ac.uk/vbase-ok.php?menu=901
において入手可能なV−Baseプログラムを使用することによって特徴付けた。
【0176】
免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)のDNA配列を配列番号10として示す。免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)のDNA配列を配列番号12として示す。
重鎖および軽鎖のDNA配列を、オンライン(www.expasy.org/tools/dna.html )で翻訳した。免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列を配列番号11として示す。免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列を配列番号13として示す。
【0177】
この重鎖および軽鎖のアミノ酸配列と、生殖系列(germline)の配列とのアラインメントを、DNAPLOTおよびVBASEを使用して実施した。
図10を参照すると、発現された抗体の重鎖のアミノ酸配列をこの抗体が由来する生殖系列遺伝子と比較する配列アラインメントが示されている。重鎖の3つの相補性決定領域(VH−CDR1、VH−CDR2およびVH−CDR3)は下線を付して示されている。V−baseプログラムは、可変領域遺伝子DP58、D−7−27およびJH4bによって重鎖が生成されていることを示した。ドットは、生殖系列遺伝子と配列が同一であることを意味している。
【0178】
図11を参照すると、発現された抗体の軽鎖のアミノ酸配列をこの抗体が由来する生殖系列遺伝子(DPK18/A17+)と比較する配列アラインメントが示されている。軽鎖の3つの相補性決定領域(VL−CDR1、VL−CDR2およびVL−CDR3)が示されている。V−baseプログラムは、軽鎖が可変領域遺伝子DPK18およびJK2を使用していることを示した。
【0179】
これらの結果は、ファージによって発現されるFab領域をコードするDNAとそれが由来する生殖系列遺伝子との間には約80%の相同性が存在することを示している。さらに、これらの結果から、変異がCDR中に生じたので、抗原による駆動がこの抗体の発生において重要な役割を果たしたことを示される。
【0180】
軽鎖のアミノ酸残基31位におけるチロシン(Y)からアルギニン(R)への変異により、主要なインテグリン・リガンドであるRGDモチーフとの類似性を示すRSDモチーフが生じる。RSDは、インテグリン・リガンドとしてはこれまで報告がなかった。
【0181】
多数のインテグリンについてのペプチド・リガンド部位は、プロウら(Plow et al. )の文献(J.Biol.Chem.第275(29)巻、p.21785〜21788)に記載されている。従って、抗体の配列内の推定リガンド・ミミトープ(mimitope、リガンドを模倣しているを思われる部位)を探索することが可能である。
【0182】
図12を参照すると、軽鎖のVL−CDR1中に見出された2つの潜在的なミミトープが示されている。1つは、多数のインテグリンに結合するとして報告されたRGDモチーフの模倣部と推定されるもの(すなわち、RSD)である。テネイシン結合モチーフAEIDGIELとのある程度の同一性もまた存在しており、変異によってこのモチーフを抗体の構造中に導入することは簡単である。さらに、GPR配列の逆配列も存在するが、これは免疫グロブリンの枠組構造領域内にあり、アクセスできない可能性がある。阻害モチーフはRGDのホモログを含んでいる必要はなく、多くの研究から、活性化すべきRGD
を含むペプチドが示されている(スミスら(Smith et al.))。従って、このモチーフの存在は機能を予言するものではなく、この配列中に見出されないはずの、スミスら(Smith et al.)によって報告された該領域の側面が存在する。
【0183】
(血小板抗原に対するFab発現ファージの結合の、フロー・サイトメトリーによる測定)
以下のように、洗浄した完全な血小板を、4種のファージ・コロニー(S1〜S4)と反応させ、結合を蛍光性の抗ファージ複合体によって測定した。
【0184】
107個の洗浄血小板を含む100μlを、107個のFabファージ100μlと共に37℃で1時間インキュベートした。陰性対照として、同じ濃度の血小板100μlを同じ濃度のM13と共にインキュベートした。これらのチューブを洗浄緩衝液で洗浄し、1200gで5分間遠心分離した。
【0185】
結合したファージを、200μlのウサギの抗ファージ抗体を用いて、35μg/mlを1:200希釈した濃度で37℃にて30分間検出した。洗浄緩衝液で2回洗浄した後、元の濃度20μg/mlを1:2000希釈した、200μlの抗ウサギ抗体FITC複合物をこれらの試料および陰性対照のチューブに添加した。5μlの抗GPIIb抗体FITC複合物を陽性対照のチューブに添加し、暗所で室温にて30分間インキュベートした。
【0186】
これらの試料および対照を、以下の閾値でフロー・サイトメーターによって分析した:前方散乱光(FSC):E01、側方散乱光(SSC):575および蛍光(FL1):400(ベクトンディッキンソン社(Becton Dickinson))。
【0187】
図13を参照すると、Fabファージ・ライブラリー由来の4種の代表クローン(S1〜S4)の血小板抗原結合活性に関するフロー・サイトメトリー分析の結果が示されている。データは、4回の実験の蛍光の割合の平均(%)±SEを示す。陽性対照(抗GPIIb)を使用して、血小板の蛍光を決定するために使用したゲートを検出した。さらに、図13は、陽性対照(Con)、陰性対照(M13ファージ)およびブランク対照(Neg)を示す。図13中に示されるように、4種全てのクローンが、血小板集団の40%〜60%に結合する。
【0188】
これらの結果は、ELISAおよびウエスタン・ブロット分析によってすでに示唆されたように、単離されたファージが血小板に結合するということをさらに支持するものである。
【0189】
(単離された抗血小板Fab抗体の存在下における、血小板に対するフィブリノゲンの結合のフロー・サイトメトリー分析)
以下に記載されるように、多血小板血漿(PRP)を4種の単離されたファージ・クローンと共にインキュベートして、これらの抗体が休止期の血小板および異なる濃度のADPによって活性化された血小板へのフィブリノゲンの結合を遮断するか否かを測定した。
【0190】
5μlの正常な多血小板血漿(PRP)を、10μlの単離されたFabファージミド(1.5×108cfu)と共に37℃で1時間インキュベートした。10μlの同じ濃度のM−13ファージおよび10μlのTBS緩衝液および10μlのTyrode緩衝液を対照として適切なチューブに添加し、さらに20μlのTyrode緩衝液を全てのチューブに添加した。
【0191】
2μlの抗フィブリノゲン抗体フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)を各
試料および各対照に添加し、次いで、5μlの異なる濃度(0.1mol/ml、1mol/ml、10mol/ml)のADPを適切なチューブに添加した。5μlの抗IIb・FITC複合物を、陽性血小板のゲートの決定のためにPRPに添加した。全ての試料の体積を、Tyrode緩衝液を添加することによって50μlに調整した。全ての試料を暗所に30分間放置した。
【0192】
これらの試料を、450μlの1%パラホルムアルデヒドで固定し、以下の閾値設定にてFACScan(商標)で試験した:前方散乱光(FSC):E01、側方散乱光(SSC):575および蛍光(FL1):400(ベクトンディッキンソン社)。
【0193】
図14を参照すると、4つのファージ調製物(S1〜S4)のいずれか1つ、陰性対照としてM13ファージ調製物、および緩衝液(Buf)と共にインキュベートし、各々異なる濃度のADP(0.1、1、10μmol/ml)に曝露させた血小板に対するフィブリノゲンの結合を反映する平均蛍光強度(MFI)の割合(%)の概要が示されている。
【0194】
対照はADPの濃度が増大するにつれて血小板へのフィブリノゲンの結合が増大することを示す一方、クローンS1〜S4と共にインキュベートした血小板においては増大は見られないことがわかる。これらの結果は、Fabを保有するファージが血小板GP IIb/IIIaとの反応性を有し、ADPによって活性化された血小板に対するフィブリノゲンの結合を阻害し得ることを示す。血小板GP IIb/IIIaに対するフィブリノゲンの結合は、血小板の凝集、従って、血餅の形成の開始における最初の重要な事象である。従って血小板GP IIb/IIIaに対するフィブリノゲンの結合は、血餅を予防するために設計される治療のための主な標的である。
【0195】
本願と関連して本明細書と同時またはその前に出願された全ての論文および文書、ならびに本明細書と共に公の閲覧に対して開かれた全ての論文および文書に対して注意が向けられるものであり、全てのこのような論文および文書の内容は、本明細書中に援用される。
【0196】
本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)中に開示された全ての特徴、および/または同様に開示された任意の方法の工程の全ては、このような特徴および/または工程のうち少なくともいくつかが互いに排除するような組合せ以外は、任意の組合せで組み合わせることが可能である。
【0197】
本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)中に開示される各特徴は、別途明記しない限り、同じ目的、等価な目的または類似の目的を果たす代替的な特徴によって置換してもよい。従って、別途明記しない限り、開示された各特徴は、等価な特徴または類似の特徴の一般的なものの1例に過ぎない。
【0198】
本発明は、上記の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)中に開示される特徴のうち、任意の新規な1つもしくは任意の新規な組合せ、または同様に開示された任意の方法の工程の任意の新規な1つもしくは任意の新規な組合せに及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】pComB3HSSファージ・ディスプレイ・ベクターの模式図。
【図2】5回の連続バイオパニングの間にファージが富化される様子を示す図。
【図3】完全な血小板に対するファージの反応性を示す図。
【図4】血小板溶解調製物に対する反応性ファージの反応性を示す図。
【図5】血小板溶解調製物に対するFab保有ファージの力価決定を示す図。
【図6】血小板糖タンパク質(GP)IIb/IIIaに対するファージの反応性を示す図。
【図7】4種の抗血小板Fabクローンに対して反応する非還元状態のヒト血小板膜溶解物のウエスタン・ブロット分析を、陽性対照(P)および陰性対照(N)とともに示す図。
【図8】4種の抗血小板Fabクローンに対する非還元状態のヒト血小板糖タンパク質IIb/IIIaのウエスタン・ブロット分析を、陽性対照(P)および陰性対照(N)と共に示す図。
【図9】洗浄された無傷の血小板に対する単離された可溶性の抗血小板Fab抗体の反応性を検出するためのELISAアッセイを示す図。
【図10】発現された抗体の重鎖のアミノ酸配列と、生殖系列(germline)遺伝子のアミノ酸配列とのアラインメントを示す図。
【図11】発現された抗体の軽鎖のアミノ酸配列と、生殖系列遺伝子のアミノ酸配列とのアラインメントを示す図。
【図12】発現された抗体の軽鎖のアミノ酸配列と、推定リガンド・ミミトープのアミノ酸配列とのアラインメントを示す図。
【図13】Fabライブラリーから単離された4種のクローンの血小板結合活性についてのフロー・サイトメトリー分析を示す図。
【図14】休止期の血小板および活性化された血小板に対するフィブリノゲンの結合を阻害する、血小板反応性Fab保有ファージの能力を決定するための、フロー・サイトメトリー分析を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を有する抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項2】
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号12の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項3】
軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片であって、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号13に示されるとおりのアミノ酸配列を有し、該重鎖可変領域は実質的に配列番号11に示されるとおりのアミノ酸配列を有する、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項4】
軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片であって、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号12に示されるとおりのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ、該重鎖可変領域は実質的に配列番号10に示されるとおりのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項5】
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を含んでなる単離ペプチド。
【請求項6】
インテグリンに結合するように適合している、請求項5に記載の単離ペプチド。
【請求項7】
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号10の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を含んでなる単離ポリヌクレオチド。
【請求項8】
組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードする、請求項7に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項9】
医薬としての使用または診断における使用のための、各々任意選択で誘導体化された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記医薬が血液凝固障害を抑制または予防するように適合している、請求項9に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項11】
血液凝固障害を治療するための医薬の調製のための、任意選択で誘導体化済みの、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項12】
前記医薬が、血栓塞栓性の障害および炎症のうち少なくともいずれかを抑制または予防するように適合している、請求項9〜11のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片の使用。
【請求項13】
血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかを治療する方法であって、各々任意選択で誘導体化された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれかに記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれかに記載のポリヌクレオチドを患者に投与する工程を含む方法。
【請求項14】
各々任意選択で誘導体化された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたは機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、ならびに薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤または安定剤を含んでなる医薬組成物。
【請求項15】
血液凝固障害を有する個体を治療または診断するためのキットであって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むキット。
【請求項16】
前記免疫グロブリンもしくはその機能的断片、ペプチド、またはポリヌクレオチドに特異的な抗原の有無を検出するように適した検出手段をさらに含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかに対する個体の感受性を決定するための方法であって、
(i)個体から試料を得る工程、および
(ii)請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを使用して、該試料中の抗原のレベルを検出する工程
を含む方法。
【請求項18】
特定されたアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の各々を含んでなる、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項19】
1価であることを特徴とする、請求項1〜4または請求項18のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項20】
1価の免疫グロブリンまたはその機能的断片として直接作製されることを特徴とする、請求項1〜4、18または19のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項21】
抗原がインテグリンを含んでなることを特徴とする、請求項1、2および18〜20のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項22】
前記抗原が、αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1およびα6β4からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなる、請求項1、2および18〜21のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項23】
前記抗原がβ3インテグリンを含んでなる、請求項1、2および18〜22のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項24】
前記抗原が、αVβ3、αIIbβ3およびαIbβ3からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなる、請求項1、2および18〜23のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項25】
前記抗原がGPIIβ/IIIαを含んでなる、請求項1、2および18〜24のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項26】
アゴニストに応答したヒト血小板の凝集を実質的に阻害するように適合している、請求項1〜4および18〜25のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項27】
糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープに対するフィブリノゲンの結合を実質的に阻害するように適合している、請求項1〜4および18〜26のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項28】
体細胞変異によって誘導されることを特徴とする、請求項1〜4および18〜27のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項29】
親和性成熟によって誘導されることを特徴とする、請求項1〜4および18〜28のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項30】
配列番号13の残基31〜33によって規定される抗原結合領域がアミノ酸配列「RSD」からなる、請求項1、3および18〜29のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項31】
配列番号13の残基30〜38によって規定される前記結合領域が「ARSDGVSLM」のアミノ酸配列からなる、請求項1、3および18〜30のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項32】
免疫グロブリンの機能的断片が、該ヒト免疫グロブリンと実質的に同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する断片を含む、請求項1〜4および18〜31のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項33】
機能的断片がインテグリン特異的である、請求項1〜4および18〜32のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項34】
請求項1〜4および18〜33のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片であって、機能的断片は、結合領域配列のうち少なくとも1つが前記免疫グロブリンの結合領域配列と実質的に同じアミノ酸配列である断片を含む、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項35】
機能的断片が、VH断片、VL断片、Fd断片、Fv断片、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片およびFc断片からなる群から独立に選択される断片のうちいずれかを含む、請求項1〜4および18〜34のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項36】
請求項7もしくは請求項8に記載のポリヌクレオチドまたはその誘導体を含んでなる組換えDNA分子。
【請求項37】
請求項36に記載の組換えDNA分子を含む細胞。
【請求項38】
組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を調製する方法であって、
(i)免疫グロブリンまたはその機能的断片を発現し得る、請求項37に記載の細胞を少なくとも1つ培養する工程、および
(ii)免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む方法。
【請求項39】
標的インテグリンに結合する能力を有する組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法であって、
(i)請求項1〜4および18〜35のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を突然変異させて変異体を生成する工程、および
(ii)標的インテグリンに対する活性について変異体を選択する工程
を含む方法。
【請求項40】
前記突然変異させる工程がランダム変異誘発を含む、請求項39に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項41】
前記突然変異させる工程が、前記組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片の少なく
とも1つの抗原結合領域中に、標的インテグリンに対する免疫特異性を有する少なくとも1つのリガンドを導入する工程を含む、請求項39または請求項40に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つのリガンドが、RDG、RSG、RSD、HHLGGAKQAGDV、GPR、RPG、AEIDGIEL、ARSDGVSLM、QIDS、LDT、IDAPS、DLXXLおよびGFOGERからなる一群のリガンドから独立に選択される、請求項41に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つのリガンドが、前記免疫グロブリンまたはその機能的断片の重鎖の抗原結合領域のうちいずれかの中に導入される、請求項41または請求項42に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項44】
前記少なくとも1つのリガンドが、前記免疫グロブリンまたはその機能的断片の第1の結合領域中に導入される、請求項41〜43のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項45】
請求項39〜44のいずれか1項に記載の方法を使用して作製される、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片のライブラリーまたはパネル。
【請求項46】
抗血小板免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法であって、
(i)少なくとも1つの完全な血小板に対して少なくとも1種の免疫グロブリンまたはその機能的断片を接触させる工程、および
(ii)該完全な血小板に対する結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む方法。
【請求項47】
抗血小板免疫グロブリンまたはその機能的断片が、糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープに対するフィブリノゲンの結合を実質的に阻害するように適合している、請求項46に記載の抗血小板免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項1】
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を有する抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項2】
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号12の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる抗原結合領域を少なくとも1つ含んでなる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項3】
軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片であって、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号13に示されるとおりのアミノ酸配列を有し、該重鎖可変領域は実質的に配列番号11に示されるとおりのアミノ酸配列を有する、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項4】
軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)のうち少なくともいずれかを含んでなる組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片であって、該軽鎖可変領域は実質的に配列番号12に示されるとおりのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされ、該重鎖可変領域は実質的に配列番号10に示されるとおりのヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項5】
(i)配列番号11の残基31〜35;
(ii)配列番号11の残基50〜66;
(iii)配列番号11の残基100〜110;
(iv)配列番号13の残基31〜33;
(v)配列番号13の残基30〜38;
(vi)配列番号13の残基24〜40;
(vii)配列番号13の残基56〜61;および
(viii)配列番号13の残基95〜102
からなる群から独立に選択されるアミノ酸配列を含んでなる単離ペプチド。
【請求項6】
インテグリンに結合するように適合している、請求項5に記載の単離ペプチド。
【請求項7】
(i)配列番号10の残基91〜105;
(ii)配列番号10の残基148〜198;
(iii)配列番号10の残基298〜330;
(iv)配列番号12の残基91〜99;
(v)配列番号10の残基88〜114;
(vi)配列番号12の残基70〜120;
(vii)配列番号12の残基166〜183;および
(viii)配列番号12の残基283〜306
からなる群から独立に選択されるヌクレオチド配列を含んでなる単離ポリヌクレオチド。
【請求項8】
組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片をコードする、請求項7に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項9】
医薬としての使用または診断における使用のための、各々任意選択で誘導体化された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記医薬が血液凝固障害を抑制または予防するように適合している、請求項9に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項11】
血液凝固障害を治療するための医薬の調製のための、任意選択で誘導体化済みの、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項12】
前記医薬が、血栓塞栓性の障害および炎症のうち少なくともいずれかを抑制または予防するように適合している、請求項9〜11のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片の使用。
【請求項13】
血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかを治療する方法であって、各々任意選択で誘導体化された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれかに記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれかに記載のポリヌクレオチドを患者に投与する工程を含む方法。
【請求項14】
各々任意選択で誘導体化された、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたは機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、ならびに薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤または安定剤を含んでなる医薬組成物。
【請求項15】
血液凝固障害を有する個体を治療または診断するためのキットであって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むキット。
【請求項16】
前記免疫グロブリンもしくはその機能的断片、ペプチド、またはポリヌクレオチドに特異的な抗原の有無を検出するように適した検出手段をさらに含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
血液凝固障害および炎症のうち少なくともいずれかに対する個体の感受性を決定するための方法であって、
(i)個体から試料を得る工程、および
(ii)請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその断片、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載のペプチド、あるいは請求項7または請求項8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを使用して、該試料中の抗原のレベルを検出する工程
を含む方法。
【請求項18】
特定されたアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の各々を含んでなる、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項19】
1価であることを特徴とする、請求項1〜4または請求項18のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項20】
1価の免疫グロブリンまたはその機能的断片として直接作製されることを特徴とする、請求項1〜4、18または19のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項21】
抗原がインテグリンを含んでなることを特徴とする、請求項1、2および18〜20のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項22】
前記抗原が、αVβ3、αVβ5、αIIbβ3、αMβ2、α1β1、α2β1、αIbβ3、α5β1、α8β1、α9β1、αVβ6、αEβ7、α3β1、α4β1、α4β7、α5β1、α8β1、αVβ1、αVβ8、αXβ2、αLβ2、α6β1、α7β1およびα6β4からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなる、請求項1、2および18〜21のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項23】
前記抗原がβ3インテグリンを含んでなる、請求項1、2および18〜22のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項24】
前記抗原が、αVβ3、αIIbβ3およびαIbβ3からなる群から独立に選択されるインテグリンを含んでなる、請求項1、2および18〜23のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項25】
前記抗原がGPIIβ/IIIαを含んでなる、請求項1、2および18〜24のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項26】
アゴニストに応答したヒト血小板の凝集を実質的に阻害するように適合している、請求項1〜4および18〜25のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項27】
糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープに対するフィブリノゲンの結合を実質的に阻害するように適合している、請求項1〜4および18〜26のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項28】
体細胞変異によって誘導されることを特徴とする、請求項1〜4および18〜27のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項29】
親和性成熟によって誘導されることを特徴とする、請求項1〜4および18〜28のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項30】
配列番号13の残基31〜33によって規定される抗原結合領域がアミノ酸配列「RSD」からなる、請求項1、3および18〜29のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項31】
配列番号13の残基30〜38によって規定される前記結合領域が「ARSDGVSLM」のアミノ酸配列からなる、請求項1、3および18〜30のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項32】
免疫グロブリンの機能的断片が、該ヒト免疫グロブリンと実質的に同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する断片を含む、請求項1〜4および18〜31のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項33】
機能的断片がインテグリン特異的である、請求項1〜4および18〜32のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項34】
請求項1〜4および18〜33のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片であって、機能的断片は、結合領域配列のうち少なくとも1つが前記免疫グロブリンの結合領域配列と実質的に同じアミノ酸配列である断片を含む、組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項35】
機能的断片が、VH断片、VL断片、Fd断片、Fv断片、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片およびFc断片からなる群から独立に選択される断片のうちいずれかを含む、請求項1〜4および18〜34のいずれか1項に記載の組換えヒト免疫グロブリンまたはその機能的断片。
【請求項36】
請求項7もしくは請求項8に記載のポリヌクレオチドまたはその誘導体を含んでなる組換えDNA分子。
【請求項37】
請求項36に記載の組換えDNA分子を含む細胞。
【請求項38】
組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を調製する方法であって、
(i)免疫グロブリンまたはその機能的断片を発現し得る、請求項37に記載の細胞を少なくとも1つ培養する工程、および
(ii)免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む方法。
【請求項39】
標的インテグリンに結合する能力を有する組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法であって、
(i)請求項1〜4および18〜35のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を突然変異させて変異体を生成する工程、および
(ii)標的インテグリンに対する活性について変異体を選択する工程
を含む方法。
【請求項40】
前記突然変異させる工程がランダム変異誘発を含む、請求項39に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項41】
前記突然変異させる工程が、前記組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片の少なく
とも1つの抗原結合領域中に、標的インテグリンに対する免疫特異性を有する少なくとも1つのリガンドを導入する工程を含む、請求項39または請求項40に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つのリガンドが、RDG、RSG、RSD、HHLGGAKQAGDV、GPR、RPG、AEIDGIEL、ARSDGVSLM、QIDS、LDT、IDAPS、DLXXLおよびGFOGERからなる一群のリガンドから独立に選択される、請求項41に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つのリガンドが、前記免疫グロブリンまたはその機能的断片の重鎖の抗原結合領域のうちいずれかの中に導入される、請求項41または請求項42に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項44】
前記少なくとも1つのリガンドが、前記免疫グロブリンまたはその機能的断片の第1の結合領域中に導入される、請求項41〜43のいずれか1項に記載の組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【請求項45】
請求項39〜44のいずれか1項に記載の方法を使用して作製される、組換え免疫グロブリンまたはその機能的断片のライブラリーまたはパネル。
【請求項46】
抗血小板免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法であって、
(i)少なくとも1つの完全な血小板に対して少なくとも1種の免疫グロブリンまたはその機能的断片を接触させる工程、および
(ii)該完全な血小板に対する結合特異性を有する免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する工程
を含む方法。
【請求項47】
抗血小板免疫グロブリンまたはその機能的断片が、糖タンパク質IIb/IIIaまたはそのエピトープに対するフィブリノゲンの結合を実質的に阻害するように適合している、請求項46に記載の抗血小板免疫グロブリンまたはその機能的断片を単離する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−527201(P2007−527201A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502236(P2006−502236)
【出願日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000444
【国際公開番号】WO2004/069875
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(399016835)ユニバーシティ・オブ・ブラッドフォード (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF BRADFORD
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年2月5日(2004.2.5)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000444
【国際公開番号】WO2004/069875
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(399016835)ユニバーシティ・オブ・ブラッドフォード (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF BRADFORD
【Fターム(参考)】
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