説明

抗ウィルス剤

【課題】
間伐される樹木を利用した、抗ウイルス剤、特にインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物を有効成分とする抗ウイルス剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス剤に関し、より詳細には、インフルエンザウイルス、特に新型インフルエンザウイルスの感染を抑制することができ、インフルエンザの予防・治療に有効な抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザはインフルエンザウイルスの感染によって生じるウイルス感染性疾患の一つである。特にA型インフルエンザウイルスは、亜型がいくつもあるうえにこれらは遺伝子交雑や点変異等による抗原性の変化に伴って種々変化するという特徴を有するため、有効な予防・治療薬がなく、世界的規模で周期的に大流行を繰り返しているのが実情である。
【0003】
特に近年確認された新型インフルエンザウイルスA型(H1N1型)は、ほとんどの人が免疫を持っていないため、世界的に大流行し大きな問題となっている。
【0004】
従来、インフルエンザの治療には、塩酸アマンタジン、塩酸リマンタジン、インターフェロン、またはリバビリンなどの化学療法剤が使用されている。しかし、これらの化学療法剤については、副作用、耐性ウイルスの出現の危険性、血清型相違による効果の喪失といった問題が指摘されている。このため、副作用がなく人体に安全でしかも効果の高い抗インフルエンザウイルス剤の開発が求められている。
【0005】
このような観点から今まで検討提案されている抗インフルエンザウイルス剤としては、茶ポリフェノールを有効成分とするもの(特許文献1)、茶サポニンを有効成分とするもの(特許文献2)、桂枝二越婢一湯などの特定の生薬を有効成分とするもの(特許文献3)、ヤマモモの溶媒抽出物を有効成分とするもの(特許文献4)を挙げることができる。
【0006】
ところで、後継者不足や、木材価格の下落により、山林を手入れが行き届かなくなり、その荒廃が大きな問題とされている。この山林の手入れは、主に間伐と枝打ちであるが、間伐材や、枝打ちで落とされた枝葉に何の経済的価値もなく、逆に経費がかかるのみであれば、このような手入れがおろそかになるのは当然のことである。そこで、山林の手入れが促されるよう、間伐や枝打ちされる樹木について、有効資源化するための加工方法や新規用途の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−101623号公報
【特許文献2】特開平11−193242号公報
【特許文献3】特開平6−199680号公報
【特許文献4】特開2004−331608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、間伐・枝打ちされる樹木を利用した、抗ウイルス剤、特にインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、鋭意研究を重ねていたところ、マツ科モミ属の樹木から得られる抽出物や蒸留物等が、優れたインフルエンザウイルス感染抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物を有効成分とする抗ウイルス剤である。
【0011】
また本発明は、上記抗ウイルス剤を含有する食品、飼料、医薬品、医薬部外品または日用品である。
【0012】
さらに本発明は、上記抗ウイルス剤を空中または対象表面に適用することを特徴とするウイルス不活化方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗ウィルス剤は、インフルエンザウィルス、特に新型インフルエンザウィルスに対して優れた感染抑制作用等を有するため、インフルエンザの発症を有効に予防し、またその症状を緩和、改善することができる。また本発明の抗ウィルス剤は、極めて安全性の高いものであるため、日常的に、生活空間や物品の表面などに適用し、空気感染や接触感染を効果的に抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の抗ウィルス剤の有効成分として用いるマツ科モミ属に属する植物の蒸留物を得るために使用するマイクロ波蒸留装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の抗ウイルス剤は、マツ科モミ属に属する植物の搾汁液、抽出物または蒸留物を有効成分とするものである。
【0016】
マツ科モミ属に属する植物としては、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等を挙げることができるが、これらのうちトドマツが好ましく用いられる。
【0017】
本発明の抗ウイルス剤の原料としては、上記マツ科モミ属に属する植物の植物体全てまたはその一部(例えば、果実、種子、葉、樹皮、根茎、花など)が用いられる。これらのうち、間伐・枝打ちされる樹木の有効利用の観点や、抗ウイルス効果が高いことから、葉の部分が好適に用いられる。葉の部分は、そのまま用いても良いが、好ましくは、粉砕機や圧砕機等により粉砕・圧砕して使用される。
【0018】
上記マツ科モミ属に属する植物の植物体全体またはその一部から、搾汁液、抽出物または蒸留物を得る。搾汁液の製造は、公知の圧搾機を用いて行うことができる。抽出物の製造も常法に従って行うことができるが、抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、具体的には、水、エタノール、メタノール、ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、酢酸エチル等のカルボニル系溶媒、およびこれらの混液等が例示できる。蒸留物は、常圧蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留等によって得ることができる。
【0019】
これらのうち、蒸留物が好ましく、特に減圧下で加熱して蒸留を行うことによって得られたものが好ましい。また、加熱はヒーターによる加熱でもかまわないが、マイクロ波による加熱が好ましく、特に水を加えずにマイクロ波を照射することが好ましい。マイクロ波を照射することにより、植物中に含まれる水分子が直接加熱されて水蒸気が生じ、これが移動相として作用して植物中の揮発性成分が蒸留されるため、この蒸留方法は、揮発性成分の沸点による減圧蒸留的な要素と、水蒸気蒸留的な要素とを包含するものと考えられる。このような蒸留物は、例えば図1に示す装置を使用することにより得ることができる。図中、1はマイクロ波蒸留装置、2は蒸留槽、3はマイクロ波加熱装置、4は撹拌はね、5は気流流入管、6は蒸留物流出管、7は冷却装置、8は加熱制御装置、9は減圧ポンプ、10は圧力調整弁、11は圧力制御装置、12は蒸留対象物、13は蒸留物をそれぞれ示す。
【0020】
この装置1では、蒸留対象物12となる原料のマツ科モミ属に属する植物を蒸留槽2中に入れ、撹拌はね4で撹拌しながら、蒸留槽2の上面に設けられたマイクロ波加熱装置3からマイクロ波を放射し、原料を加熱する。この蒸留槽2は、気流流入口5および蒸留物流出管6と連通されている。気流流入管5は、空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスを反応槽2中に導入するものであり、この気流は、反応槽2の下部から導入される。また、蒸留物流出管6は、原料からの蒸留物を、反応槽2の上部から外に導出するものである。
【0021】
上記反応槽2内部は、これに取り付けられた温度センサおよび圧力センサ(共に図示せず)により温度および圧力が測定されるようになっており、加熱制御装置8および圧力制御装置11、圧力調整弁10を介してそれぞれ調整されるようになっている。
【0022】
また、蒸留物流出管6を介して蒸留槽2から流出した気体状の蒸留物は、冷却装置7により液体に代えられ、蒸留物13として得られる。この蒸留物13には、油性画分13aと水性画分13bが含まれるが、このうち水性画分13bが好適に用いられる。
【0023】
蒸留にあたっては、上記蒸留槽2内の圧力を、10ないし95キロパスカル、好ましくは、15ないし60キロパスカル、さらに好ましくは20ないし40キロパスカル程度として行なえば良く、その際の蒸気温度は40℃から100℃になる。圧力が10キロパスカル以下では植物中の揮散性成分の蒸気圧上昇が抑制され、また、水蒸気蒸留的要素より、各成分の沸点による減圧蒸留的要素が主となり、沸点の低いものから順に流出してしまうため、水よりも沸点の高い成分の抽出が効率的に行われないという点で好ましくない。また、95キロパスカル以上では、原料の温度が高くなるため、エネルギーロスが大きく、原料の酸化も促進されてしまうという点で好ましくない。また、蒸留時間は、0.2ないし8時間程度、好ましくは、0.4ないし6時間程度とすれば良い。0.2時間以下では植物中の未抽出成分が多く残存してしまい、8時間以上では原料が乾固に近い状態となってしまうため、抽出効率が低下するという点で好ましくない。
【0024】
更に、蒸留槽2内に導入する気体としては、空気でもかまわないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、その流量としては、1分当たりの流量が、蒸留槽2の0.001ないし0.1容量倍程度とすれば良い。
【0025】
以上のようにして、マツ科モミ属に属する植物を減圧下で加熱して蒸留を行うことによって得られた蒸留物の水性画分中には、3−ヘキセン−1−オール、1−ヘキサノール、マルトール、ボルネオール、ボルニルアセテート等が含有され得る。
【0026】
本発明の抗ウィルス剤の有効成分として、以上のようにして得られたマツ科モミ属に属する植物の搾汁液、抽出物または蒸留物はそのまま用いることもできるが、必要に応じて、常法により、更に濃縮したり、精製してもよい。また、これらのマツ科モミ属に属する植物の搾汁液、抽出物または蒸留物やその濃縮物等をそのまま本発明の抗ウィルス剤としてもよいが、さらに適当な溶剤と組み合わせてもよく、例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコール、エチレングリコール等のグリコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンアルコールモノエチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶剤等の溶剤中に、上記有効成分を、0.01質量%ないし99質量%程度の濃度で溶解させることにより、本発明の抗ウィルス剤を調製することができる。
【0027】
かくして得られた本発明の抗ウイルス剤は、ウイルスに対して優れた感染抑制作用等を有し、特にインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤として、食品、飼料、医薬部外品、医薬品および日用品などの成分として用いることができ、これによりインフルエンザの発症を予防したり、またその症状を緩和、改善することができる。また、生活空間や物品に適用することにより、ウィルスが付着した物品への接触や空気中に浮遊するウィルスを吸引することによる感染を有効に防止することが可能である。特に、新型インフルエンザウイルスA型(H1N1型)に対しても優れた感染抑制作用等を発揮するため、新型インフルエンザの感染拡大や予防・治療に有効である。
【0028】
本発明の食品は、一般的な食品素材に上記抗ウィルス剤を配合することによって得ることができ、本発明の飼料も、飼料の組成中に上記抗ウィルス剤を添加して調製される。また、本発明の医薬品または医薬部外品は、上記抗ウィルス剤を有効成分とし、薬学的に許容され得る担体等を用い、常法に従って、錠剤、粉末剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、舌下錠、トローチ、うがい薬、点鼻薬、噴霧剤または散布剤などの形態に製剤化することによって得られる。
【0029】
上記抗ウィルス剤を用いた本発明の食品、飼料、医薬部外品又は医薬品の形態または種類としては、特に制限されず、任意の形態または種類をとることができるが、口や鼻孔から侵入してくるインフルエンザウイルスによる感染を抑制する目的で使用する場合は、有効成分として使用するマツ科モミ属に属する植物の搾汁液、抽出物または蒸留物が、口内や喉粘膜に接触するような態様で使用されることが好ましい。かかる観点から、食品としてはドリンクなどの飲料形態、キャンディー、トローチまたはチューインガムなどのように口腔内で長く留まる態様の食品が好ましく、また医薬品または医薬部外品等としてはシロップ剤、舌下錠、トローチ、洗口液、口内清涼剤、うがい液、うがい薬、点鼻薬、喉噴霧剤、歯磨剤、散布剤等といった形態のものが好ましい。医薬品の投与量は、投与目的、患者の年齢や症状に応じて適宜設定することができるが、経口剤の場合、有効成分の量を、例えば、成人1日当り、原料のマツ科モミ属に属する植物1〜1000g(固形物換算)から得られる量とすればよい。また点鼻薬や喉噴霧剤の場合は、1回あたり、原料のマツ科モミ属に属する植物0.01〜10g(固形物換算)から得られる量を鼻や喉に適用すればよい。
【0030】
また、上記抗ウィルス剤を用いた本発明の日用品の形態または種類としては、特に制限されず、任意の形態または種類をとることができるが、具体的には、上記抗ウィルス剤を添加した散布剤、芳香剤、消臭剤、芳香消臭剤、加湿器の水への添加液、せっけん、シャンプー、入浴剤等や抗ウィルス剤を含浸させたマスク、ガーゼ、包帯、タオル、ハンカチ、おしぼり、ティッシュ、ウエットティッシュ、手袋、下着、白衣、手術着、オムツ、寝装用品(布団、枕、シーツ、枕カバー、寝間着)などが例示できる。
【0031】
これらの中でも、散布剤、芳香剤、消臭剤、芳香消臭剤等が好ましく、これらを空中に揮散ないしは散布することにより、空間中に浮遊するウイルスを除去することができる。空中に揮散ないしは散布する方法としては、特に限定されないが、本発明の抗ウイルス剤をそのままあるいは適当な揮散装置を用いて揮散させる方法や、ポンプスプレー、エアゾール、超音波振動子、加圧液噴霧スプレーまたは加圧空気霧化噴霧装置等の霧化装置を用い、霧化させた状態で揮散ないし散布させる方法等が挙げられ、これらの方法により、通常の生活空間中からウイルスを除去することが可能である。
【0032】
また、上記散布剤等を、ドアノブ、食器、吊り革、繊維製品等の物品の表面に塗布あるいは散布、噴霧等の方法で適用することによって、対象表面に付着したウイルスを除去することができる。
【0033】
このように空間中に浮遊するウィルスや物品の対象表面に付着したウィルスの除去を目的とした、散布剤、芳香剤、消臭剤等の形態とする場合には、マツ科モミ属に属する植物を減圧下で加熱して蒸留を行うことによって得られた蒸留物の水性画分をそのまま散布剤等として利用することが好適である。すなわち、この画分は、界面活性剤等の不揮発成分を含まない水性のものであるため、硬質表面に噴霧しても、表面がべたついたり、風合いを損ねることなく、抗ウイルス効果を発揮することができ、また空間に散布ないし揮散させても、不揮発成分の蓄積による健康被害のおそれがないため安全性も高い。さらに、吸い上げ揮散タイプやメッシュタイプの超音波噴霧器を用いた形態としても、吸い上げ芯やメッシュに目詰まりが生じないため、揮散・噴霧性能を安定して維持することが可能である。
【0034】
なお、マツ科モミ属に属する植物の搾汁液、抽出物または蒸留物は、香気成分を含んでいるため、これらをそのまま芳香剤や消臭剤として利用することもできるが、他の香料成分を配合してもよい。他の香料成分としては、例えば、ピネン、リモネン等の炭化水素系香料、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、β−フェネチルアルコール等のアルコール系香料、アネトール、オイゲノール等のフェノール系香料、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド等のアルデヒド系香料、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、イオノン等のケトン系香料、γ―ブチルラクトン、クマリン、シネオール等のラクトン系香料、オクチルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、プロピオン酸ブチル、安息香酸メチル等のエステル系香料等が挙げられる。また、必要により、界面活性剤、ハイドロトロープ剤等を使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は当該実施例によって何ら制限されるものではない。
【0036】
実 施 例 1
トドマツ蒸留物の調製:
原料として、トドマツの葉を用い、以下のようにしてトドマツ葉蒸留物を得た。すなわち、トドマツ葉を圧砕式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕したもの約50kgを、図1に示すマイクロ波蒸留装置の蒸留槽に投入し、攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20キロパスカルの減圧条件下に保持し(蒸気温度は約67℃)、1時間マイクロ波照射し蒸留した。得られた蒸留物から約5kg(約5リットル)の水性画分を採取した。
この水性画分に含まれる成分をジエチルエーテルにより液液抽出し、ガスクロマトグラフ/質量分析計を用いて測定したところ、下記表1に示す5種類の成分が検出された。
【0037】
【表1】

【0038】
実 施 例 2
トドマツ葉蒸留物水性画分のインフルエンザウイルスに対する感染抑制作用:
実施例1で調製したトドマツの葉蒸留物の水性画分を0.9ml取り、これにウイルス液(評価ウィルス:A型(H1N1型)インフルエンザウイルス)0.1mlを加え、30分間放置した。その後同液から0.1mlを採り10mlに希釈して、水性画分のウイルスに対する作用を停止させた。この液のウイルス感染性価を下記に示すTCID50法(50%培養組織感染容量:50% Tissue culture infective dose)により求めた。結果を表2に示す。
(TCID50法)
ウイルスを含む液を一定濃度に希釈し、各希釈液1mlをマイクロプレートに入れる。これにイヌ腎臓細胞液を分注し、37℃、5%二酸化炭素濃度で24時間培養する。後に、顕微鏡下にて感染細胞の変性を観察し、感染細胞が出現しない希釈濃度から、ウイルス感染価を求めた。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示すとおり、トドマツ蒸留物水性画分はウイルス感染価を1/10000以下に低下させた。
【0041】
実 施 例 3
実施例1で得られたトドマツ葉蒸留物水性画分を、超音波霧化装置(エコーテック株式会社製)を用いて空間に噴霧することにより、空間のウイルスを不活化し、また空間を消臭するとともに、さわやかな芳香を付与することができる。
【0042】
実 施 例 4
実施例1で得られたトドマツ葉蒸留物水性画分を、ポンプスプレー容器(容量100ml、一回のストロークで0.3g噴射、ボトル部はポリエステル製)に入れ、空間に噴霧することにより、空間のウイルスを不活化し、また空間を消臭するとともに、さわやかな芳香を付与することができる。
【0043】
実 施 例 5
カラギーナン3.0gをプロピレングリコール5.0gに分散させたものを実施例1のトドマツ葉蒸留物水性画分92.0gに分散させ、約60℃に加熱分散後、上面開放のカップ型容器に充填し、冷却固化してゲル状の芳香消臭剤を得た。このものは、約1ヶ月間、空間を消臭し、さわやかな芳香を付与するとともに、空間のウイルスの感染価を低下させることができる。
【0044】
実 施 例 6
架橋ポリアクリルアミドのブロックポリマー5gと実施例1のトドマツ葉蒸留物水性画分50mlを混合し、架橋ポリアクリルアミドのブロックポリマーを膨潤させてゲル状の芳香消臭剤を作成した。このものは、約1ヶ月間、空間を消臭し、さわやかな芳香を付与するとともに、空間のウイルスの感染価を低下させることができる。
【0045】
実 施 例 7
実施例1のトドマツ葉蒸留物水性画分をポンプスプレー容器(容量100ml、一回のストロークで0.3g噴射、ボトル部はポリエステル製)に入れ、布製ソファーに10ストローク噴霧した後、10分放置した。これを1サイクルとして10回繰り返した後、噴霧したソファー面の質感を評価した。その結果、いずれもごわごわ感、べとつき感といった成分残渣が確認できずソファーの散布前の風合いを維持していた。またソファ表面のウイルスを不活化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の抗ウィルス剤は、マツ科モミ属の植物由来のものであるため、動物や人体に対して安全性が高く、副作用の心配なく使用することができる。このため、インフルエンザの感染及び発症の予防または治療・改善を目的として、広く食品、飼料、医薬品、医薬部外品、日用品等に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 … … マイクロ波蒸留装置
2 … … 蒸留槽
3 … … マイクロ波加熱装置
4 … … 撹拌はね
5 … … 気流流入管
6 … … 蒸留物流出管
7 … … 冷却装置
8 … … 加熱制御装置
9 … … 減圧ポンプ
10 … … 圧力調整弁
11 … … 圧力制御装置
12 … … 蒸留対象物
13 … … 蒸留物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物を有効成分とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
マツ科モミ属に属する植物の圧搾液、抽出物または蒸留物が、マツ科モミ属に属する植物の葉の圧搾液、抽出物または蒸留物である請求項1記載の抗ウィルス剤。
【請求項3】
マツ科モミ属に属する植物の抽出物が、極性溶媒による抽出物である請求項1記載の抗ウィルス剤。
【請求項4】
マツ科モミ属に属する植物の蒸留物が、マツ科モミ属の植物を減圧下で加熱して蒸留を行うことによって得られる蒸留物である請求項1記載の抗ウィルス剤。
【請求項5】
マツ科モミ属に属する植物の蒸留物が、マツ科モミ属の植物を減圧下で加熱して蒸留を行うことによって得られる蒸留物の水性画分である請求項4記載の抗ウィルス剤。
【請求項6】
加熱がマイクロ波加熱である請求項4または5記載の抗ウィルス剤。
【請求項7】
マツ科モミ属に属する植物が、トドマツである請求項1ないし6のいずれかの項記載の抗ウイルス剤。
【請求項8】
インフルエンザウィルスに対し抗ウィルス作用を有するものである請求項1ないし7のいずれかの項記載の抗ウィルス剤。
【請求項9】
インフルエンザウィルスが、A型(H1N1型)である請求項8記載の抗ウィルス剤。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかの項に記載の抗ウイルス剤を含有する食品、飼料、医薬品、医薬部外品または日用品。
【請求項11】
散布剤、芳香剤または消臭剤である請求項10記載の日用品。
【請求項12】
請求項1ないし9のいずれかの項に記載の抗ウイルス剤を空中に適用することを特徴とするウイルス不活化方法。
【請求項13】
請求項1ないし9のいずれかの項に記載の抗ウイルス剤を対象表面に適用することを特徴とするウイルス不活化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−173805(P2011−173805A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37224(P2010−37224)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構 平成19年度 独創的シーズ展開事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(509057132)日本かおり研究所株式会社 (5)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【Fターム(参考)】