説明

抗ウイルス剤およびそれを用いた抗ウイルス剤機能製品

【課題】
可視光照射下でも高い抗ウイルス活性を発現し、ウイルスを無害化することのできる抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】
本願に係る抗ウイルス剤は、光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.01質量部〜1質量部含有する貴金属担持光触媒体粒子分散液で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属担持光触媒体分散液からなる抗ウイルス剤、およびそれを用いた抗ウイルス剤機能製品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が生成される。このようにして生成された正孔は強い酸化力を有し、励起された電子は強い還元力を有することから、半導体に接触した物質に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用によりOHラジカルをはじめとする活性酸素種が生成され、当該活性酸素種によりウイルスを無害化することができる。このような作用を示し得る半導体は光触媒体と呼ばれている。
【0003】
鑓型形状の結晶粒子の光触媒体と球型形状の結晶粒子の光触媒体とがOH基を通じて結合した抗ウイルス剤が、蛍光灯の照射下で鳥インフルエンザウイルスを無害化することが知られている。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−44869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる従来の光触媒体を含む抗ウイルス剤では、可視光照射下でのOHラジカルの生成量が少ない為、抗ウイルス性を発現するには、少なくとも24時間以上光照射を行う必要があった。しかも屋内では、蛍光灯に紫外線吸収剤を含むアクリルカバー等を装着して用いることが多く、そのような環境下では抗ウイルス性能はさらに低下した。
【0006】
このため、紫外線をカットした蛍光灯の光照射でも、高い抗ウイルス性を示す抗ウイルス剤が求められていた。
本発明は、可視光照射下でも高い抗ウイルス性を発現しウイルスを無害化することのできる抗ウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、高い活性を示す抗ウイルス剤を開発すべく鋭意検討した結果、光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.01質量部〜1質量部含有する貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる抗ウイルス剤が、高い抗ウイルス性を示すことを見出し、本発明に至った。
したがって、本発明に係る抗ウイルス剤は、光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.01質量部〜1質量部含有する貴金属担持光触媒体粒子分散液からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗ウイルス剤は、貴金属担持光触媒体粒子を高く安定に分散させた貴金属担持光触媒体粒子分散液からなり、基材への塗布が容易である。そのため、基材上に均一な膜質の光触媒体層を形成することができ、しかもこの光触媒体層は、蛍光灯に含まれる可視光等の実用光源下で、高い抗ウイルス性を示す。
よって、本発明によれば、可視光照射下でも高い抗ウイルス性を発現しウイルスを無害化することのできる抗ウイルス剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の抗ウイルス剤は、貴金属担持光触媒体粒子が溶媒に分散した貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる。
(光触媒体粒子)
本発明の抗ウイルス剤で用いる光触媒体粒子とは、粒子状の光触媒体をいう。光触媒体としては、金属元素と酸素、窒素、硫黄および弗素との化合物が挙げられる。金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pd、Bi、La、Ceが挙げられる。その化合物としては、これら金属元素の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。なかでも、酸化タングステンは、可視光線(波長約400nm〜約800nm)を照射したとき、高い抗ウイルス活性を示すことから、本発明に好適である。
【0010】
この光触媒体粒子の大きさは通常、平均分散粒子径が40nm〜250nmである。粒子径は小さいほど分散媒中での分散性は向上し、沈降を抑制することが出来るので好ましく、例えば150nm以下が好ましい。
【0011】
かかる光触媒体粒子のうちで、酸化タングステン粒子は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、このタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、(iii)金属状のタングステン粒子を焼成する方法、などによって得ることができる。
【0012】
(貴金属の前駆体)
本発明で使用する貴金属の前駆体としては、分散媒中に溶解し得るものが使用される。かかる前駆体が溶解すると、これを構成する貴金属元素は通常、プラスの電荷を帯びた貴金属イオンとなって、分散媒中に存在する。そして、この貴金属イオンが、光の照射により0価の貴金属に還元されて、光触媒体粒子の表面に担持される。貴金属としては、例えばCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、IrおよびRhが挙げられる。その前駆体としては、これら貴金属の水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩などが挙げられる。これらの中でも高い抗ウイルス活性を得る点から、貴金属は、Cu、Pt、Au、Pdが好ましく、これらの中でも特にPtが好ましい。
【0013】
Cuの前駆体として、例えば硝酸銅(Cu(NO))、硫酸銅(CuSO)、塩化銅(CuCl、CuCl)、臭化銅(CuBr,CuBr)、沃化銅(CuI)、沃素酸銅(CuI)、塩化アンモニウム銅(Cu(NH)Cl)、オキシ塩化銅(CuCl(OH))、酢酸銅(CHCOOCu、(CHCOO)Cu)、蟻酸銅((HCOO)Cu)、炭酸銅(CuCO)、蓚酸銅(CuC)、クエン酸銅(Cu)、リン酸銅(CuPO)が挙げられる。
【0014】
Ptの前駆体として、例えば塩化白金(PtCl、PtCl)、臭化白金(PtBr、PtBr)、沃化白金(PtI、PtI)、テトラクロロ白金酸カリウム(KPtCl)、ヘキサクロロ白金酸カリウム(KPtCl)、ヘキサクロロ白金酸(HPtCl)、亜硫酸白金(HPt(SO)OH)、塩化テトラアンミン白金(Pt(NH)Cl)、炭酸水素テトラアンミン白金(C14Pt)、テトラアンミン白金リン酸水素(Pt(NH)HPO)、水酸化テトラアンミン白金(Pt(NH)(OH))、硝酸テトラアンミン白金(Pt(NO)(NH))、テトラアンミン白金テトラクロロ白金((Pt(NH))(PtCl))、ジニトロジアミン白金(Pt(NO)(NH)が挙げられる。
【0015】
Auの前駆体として、例えば塩化金(AuCl)、臭化金(AuBr)、沃化金(AuI)、水酸化金(Au(OH))、テトラクロロ金酸(HAuCl)、テトラクロロ金酸カリウム(KAuCl)、テトラブロモ金酸カリウム(KAuBr)が挙げられる。
【0016】
Pdの前駆体として、例えば酢酸パラジウム((CHCOO)Pd)、塩化パラジウム(PdCl)、臭化パラジウム(PdBr)、沃化パラジウム(PdI)、水酸化パラジウム(Pd(OH))、硝酸パラジウム(Pd(NO))、硫酸パラジウム(PdSO)、テトラクロロパラジウム酸カリウム(K(PdCl))、テトラブロモパラジウム酸カリウム(K(PdBr))、テトラアンミンパラジウム塩化物(Pd(NHCl)、テトラアンミンパラジウム臭化物(Pd(NHBr)、テトラアンミンパラジウム硝酸塩(Pd(NH(NO)、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラジウム酸((Pd(NH)(PdCl))、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム((NHPdCl)等が挙げられる。
【0017】
貴金属の前駆体は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用される。その使用量は、貴金属原子に換算して、光触媒体粒子の使用量100質量部に対して、光触媒作用の向上効果が十分に得られる点で通常0.01質量部以上、コストに見合った効果が得られる点で通常1質量部以下であり、好ましくは0.05質量部〜0.6質量部であり、さらには、0.05〜0.2質量部使用するのが特に好ましい。
【0018】
(ラジカル生成量)
本発明で用いる貴金属担持光触媒体分散液は、可視光照射により、光触媒体粒子1g当たり4.0×1017個以上、好ましくは6.0×1017個以上、より好ましくは7.5×1017個以上のOHラジカルを生成する。OHラジカルの生成量が4.0×1017個未満の場合、可視光照射下で十分な抗ウイルス性が得られない。
【0019】
本発明において、ラジカル生成量は、ラジカル補足剤であるDMPO(5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide)存在で貴金属担持光触媒体分散液に可視光線を照射した後、ESRスペクトルを測定し、次いで、得られたスペクトルについてシグナルの面積値を求め、この面積値から算出する。
【0020】
ラジカル数の算出に際して、可視光線の照射は室温、大気下で、白色発光ダイオードを光源とし、照度20000ルクスにて20分間行われる。
【0021】
ESRスペクトルの測定は、可視光線を20分間照射した後、EMX-Plus(BRUKER製)を用い、照度500ルクス未満の蛍光灯の光が室内光として当たった状態で行われる。尚、ESRスペクトルの測定条件は、温度:室温、圧力:大気圧、Microwave Frequncy:9.86GHz、Microwave Power:3.99mW、Center Field:3515G、Sweep Width:100G、Conv. Time:20.00mSec、Time Const.:40.96ms、Resolution:6000、Mod.Amplitude:2G、Number of Scans:1、測定領域:2.5cm、温度:室温、圧力:大気圧、磁場公正:テスラメーター使用、である。
【0022】
ラジカル数の算出に際して、DMPOのOHラジカル付加体であるDMPO−OHのESRスペクトルとラジカル数が既知の物質のESRスペクトルとを対比して行う。
【0023】
具体的には、以下の(1)〜(7)の方法で行う。
【0024】
前記DMPO−OHの数を算出するため、まずESRスペクトルから求められる面積とラジカル種の数の関係式を以下の手順で求める。ラジカル数が既知の物質として、4-hydroxy-TEMPOを用いる。
(1)4-hydroxy-TEMPO(4-Hydroxy-2,2,6,6-tetramethyl-piperidine-1-oxyl)(純度98%)0.17621gを100mLの水に溶解する。得られた液をAとする。
(2)Aを1mL取り、そこに水を加えて100mLにする。得られた液をBとする。
(3)Bを1mL取り、そこに水を加えて100mLにする。得られた液をCとする。濃度は0.001mMである。
(4)Bを1mL取り、そこに水を加えて50mLにする。得られた液をDとする。濃度は0.002mMである。
(5)Bを3mL取り、そこに水を加えて100mLにする。得られた液をEとする。濃度は0.003mMである。
(6)C、D、Eの各液をフラットセルに充填し、ESRスペクトルの測定を行う。得られる3本のピーク(面積比1:1:1)の低磁場側の1本の面積を求め、これを3倍したものを4-hydroxy-TEMPOの各濃度における面積とする。尚、ピークの面積は、ESRスペクトル(微分形)を積分形に変換して求める。
(7)4-hydroxy-TEMPOは1分子当たりラジカルを1つ有することから、C〜Eに含まれる4-hydroxy-TEMPOのラジカル数を算出し、これと前記ESRスペクトルから求めた面積を用いて1次線形近似式を得ることができる。
【0025】
次に、DMPO−OHのESRスペクトルと、既知濃度の4-hydroxy-TEMPOを用いて算出した前記1次線形近似式から、白色発光ダイオード照射後のOHラジカルの数y1を算出する。さらに、光照射前の貴金属担持光触媒体分散液に含まれるOHラジカル数y2も同様に算出し、これらの差(y1-y2)が白色発光ダイオードの照射により生成したOHラジカルの数である。
【0026】
(原料分散液)
本発明では、分散媒中に前記光触媒体粒子が分散され、前記貴金属の前駆体が溶解した原料分散液を用いる。
【0027】
(分散媒)
分散媒としては、特に制限はなく、通常は、水を主成分とする水性溶媒が用いられる。具体的には、分散媒は、水単独であってもよいし、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、水の含有量が50質量%以上であることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチル、ジエチルエーテル、等が挙げられる。なお、分散媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。分散媒の使用量は、光触媒体粒子に対して、通常5質量倍〜200質量倍である。分散媒の使用量が5質量倍未満では光触媒体粒子が沈降し易くなり、200質量倍を超えると容積効率の点で不利である。
【0028】
(犠牲剤)
本発明では、犠牲剤を原料分散液に添加する。犠牲剤としては、例えばエタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトン、蓚酸等のカルボン酸が用いられる。犠牲剤が固体の場合、この犠牲剤を適当な溶媒に溶解して用いてもよいし、固体のまま用いてもよい。尚、犠牲剤は、原料分散液に一定時間光照射を行った後に添加し、さらに光照射を行う。犠牲剤の量は分散媒に対して、通常0.001質量倍〜0.3質量倍、好ましくは0.005質量倍〜0.1質量倍である。犠牲剤の使用量が0.001質量倍未満では光触媒体粒子への貴金属の担持が不十分となり、0.3質量倍を超えると犠牲剤の量が過剰量となりコストに見合う効果が得られない。
【0029】
(原料分散液の調製)
原料分散液は、分散媒中に光触媒体粒子を分散させて調製すればよい。光触媒体粒子を分散媒に分散させる際には湿式媒体撹拌ミルなどの公知の装置で分散処理を施すことが好ましい。
【0030】
(光の照射)
本発明では、かかる原料分散液に光を照射する。原料分散液への光の照射は、撹拌しながら行ってもよい。透明なガラスやプラスチック製の管内を通過させながら管の内外から照射してもよく、これを繰り返してもよい。光源としては光触媒体粒子のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射できるものであれば特に制限はなく、具体例としては、殺菌灯、水銀灯、発光ダイオード、蛍光灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、太陽光を用いることができる。照射する光の波長は通常、180nm〜500nmである。光照射を行う時間は、十分な量の貴金属を担持できることから、犠牲剤の添加前後において、通常20分以上、好ましくは1時間以上、通常24時間以下、好ましくは6時間以下である。24時間を越える場合、それまでに貴金属の前駆体の殆どは貴金属となって担持されてしまい、光照射にかかるコストに見合う効果が得られない。また、犠牲剤の添加前に光照射を行わない場合、貴金属の担持が不均一となり、高い抗ウイルス活性が得られない。
【0031】
(pH調整)
本発明では、原料分散液のpHを2.5〜4.5、好ましくは2.8〜4.0に維持しながら光照射を行う。通常、光照射により貴金属が光触媒体粒子の表面に担持される際には分散液のpHが酸性に除々に変化するので、pHを本発明で規定する範囲内に維持するため、通常塩基を添加すればよい。これにより分散性に優れる貴金属担持光触媒体分散液が得られる。塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン等の水溶液が挙げられるが、これらの中でもアンモニアおよび水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0032】
(溶存酸素量)
本発明では、原料分散液への光照射前もしくは光照射中に、必要に応じて原料分散液中の溶存酸素量を1.0mg/L以下、好ましくは0.7mg/L以下に調整する。溶存酸素量の調整は、例えば、原料分散液に酸素を含まないガスを吹き込むことにより行うことができ、前記ガスとしては、窒素、および希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等)があげられる。溶存酸素量が1.0mg/Lを越える場合、貴金属の前駆体の担持のほかに、溶存酸素の還元反応が起こり、貴金属の担持が不均一となり、高い抗ウイルス活性が得られない。
【0033】
(貴金属担持光触媒体)
かくしてpHを調整しながら、必要に応じて溶存酸素量を所定値以下にして光照射を行い、犠牲剤添加後、さらに光を照射することにより、貴金属前駆体が貴金属となって光触媒体粒子の表面に担持されて、目的の貴金属担持光触媒体粒子を得る。この貴金属担持光触媒体粒子は用いた分散媒中に、沈降することなく分散されている。
【0034】
(貴金属担持光触媒体粒子分散液)
この貴金属担持光触媒体粒子が分散された分散液は、貴金属担持光触媒体粒子の分散性に優れているため取り扱いやすく、しかも高い抗ウイルス活性を発現する。
【0035】
この貴金属担持光触媒体粒子分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、アルコキシシラン、オルガノポリシロキサンなどのケイ素化合物、非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、ゼオライト、カオリナイトなどのアルミノケイ酸塩、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Os、Ir、Ag、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceなどの金属元素の水酸化物や酸化物、蓚酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂が挙げられる。これらの添加剤を添加して用いる場合、それぞれ単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
前記添加剤は、光触媒体を用いて基材の表面に光触媒体層を形成する際に、光触媒体粒子をより強固に基材の表面に保持させるためのバインダー等に用いることもできる(例えば、特開平8−67835号公報、特開平9−25437号公報、特開平10―183061号公報、特開平10―183062号公報、特開平10―168349号公報、特開平10―225658号公報、特開平11―1620号公報、特開平11―1661号公報、特開2002−80829号公報、特開2004―059686号公報、特開2004―107381号公報、特開2004―256590号公報、特開2004―359902号公報、特開2005―113028号公報、特開2005―230661号公報、特開2007―161824号公報、国際公開第96/029375号、国際公開第97/000134号、国際公開第98/003607号など参照)。
【0037】
(抗ウイルス剤機能製品)
本発明の抗ウイルス剤機能製品は、前記貴金属担持光触媒体粒子分散液を用いて形成された光触媒体層を表面に備えるものである。ここで、光触媒体層は、例えば、本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液を基材(製品)の表面に塗布した後に、分散媒を揮発させるなど、従来公知の成膜方法によって形成することができる。光触媒体層の膜厚は、特に制限されるものではなく、通常、その用途等に応じて、数十nm〜数mmまで適宜設定すればよい。光触媒体層は、基材(製品)の内表面または外表面であれば、どの部分に形成されていてもよいが、例えば、光(可視光線)が照射される面であって、かつウイルスが存在する箇所と連続または断続して空間的につながる面に形成されていることが好ましい。なお、基材(製品)の材質は、形成される光触媒体層を実用に耐えうる強度で保持できる限り、特に制限されるものではなく、例えば、プラスチック、金属、セラミックス、木材、コンクリート、紙など、あらゆる材料からなる製品を対象にすることができる。
【0038】
本発明の抗ウイルス剤機能製品の具体例としては、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車内装材(自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材、自動車用ガラス)、冷蔵庫やエアコン等の家電製品、衣類やカーテン等の繊維製品、電車のつり革、エレベーターのボタン等、不特定多数の人が接触する基材表面などが挙げられる。
【0039】
本発明の抗ウイルス剤機能製品は、屋外においては勿論のこと、蛍光灯やナトリウムランプや発光ダイオードのような可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光照射によって高い抗ウイルス活性を示す。したがって、本発明の貴金属担持光触媒体粒子分散液を、例えば、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、フィルム、床等の建築資材、自動車内装材(自動車インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材)、冷蔵庫、エアコン、パソコン、プリンター、コピー機、ファックス、電話、ストーブ等の家電製品、机、椅子、テーブル、箪笥、収納棚等の家具、衣類やカーテン等の繊維製品などに塗布して乾燥させると、屋内照明による光照射によって、七面鳥ヘルペスウイルス、マレック病ウイルス、伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、伝染性気管支炎ウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、鶏脳脊髄炎ウイルス、鶏貧血ウイルス、鶏痘ウイルス、鳥類レオウイルス、鳥類白血病ウイルス、細網内皮症ウイルス、鳥類アデノウイルス及び出血性腸炎ウイルス、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、麻疹ウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、カリシウイルス、レトロウイルス、コロナウイルス、鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス、ノロウイルス、口蹄疫ウイルス及びその組換え体等を無害化することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
なお、各実施例における測定法は、以下の通りである。
【0041】
1.BET比表面積
光触媒体粒子のBET比表面積は、比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用い、窒素吸着法により測定した。
【0042】
2.平均分散粒子径(nm)
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)を用いて粒度分布を測定し、この装置に付属のソフトで自動的に単分散モード解析して得られた結果を平均分散粒子径とした。
【0043】
3.結晶型
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0044】
4.溶存酸素
原料分散液の溶存酸素は、溶存酸素計(堀場製作所製「OM−51」)を用いて測定した。
【0045】
5.OHラジカルの生成量の測定
サンプル管(容量:13.5mL,内径:2cm,高さ:6.5cm(内溶液充填可能部高さ:5.5cm))に、攪拌子と水で濃度0.1質量%に調整した貴金属担持光触媒体分散液2mL(貴金属担持光触媒体粒子2mg含有)を入れ、さらに濃度が100mMとなるようにDMPO(純度97%)23μLを入れた。その後、スターラーで攪拌後、上澄みをフラットセルに注入してESR測定を行った。これを光照射0分の試料とした。次に、前記サンプル管の上部から白色発光ダイオード(東芝ライテック製,LEDベッド灯、LEDA-21002W-LS1(白色相当、メイン波長:約450nm))で光照射を20分間行った。サンプル管内の液面での照度は20000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)であった。その後、上澄みをフラットセルに取り、生成したDMPO−OH付加体のESR測定を行った。光照射0分と20分のDMPO−OH付加体の数から可視光照射で生成されたOHラジカルの数を算出し、これと貴金属担持光触媒体粒子の重量(2mg)から、貴金属担持光触媒体粒子1g当たりのOHラジカルの生成量を求めた。
【0046】
6.抗ウイルス性の測定
抗ウイルス性は、蛍光灯の可視光の照射によるインフルエンザウイルス及びアデノウイルスのウイルス力価を測定することにより評価した。すなわち、ガラス板(5cm×5cm×2mm)に、得られた貴金属担持光触媒体粒子分散液を、単位面積あたりの固形分換算の塗布量が1g/mとなるように、スピンコーター(ミカサ製「1H−D7」)によりガラス板片面に均一に形成した。次いで、このガラス板を130℃の乾燥機内で大気中で10分間保持することにより乾燥させて、ガラス板の片面に光触媒体層を形成した。この光触媒体層に紫外線強度が2mW/cm(トプコン社製紫外線強度計「UVR−2」に同社製受光部「UD−36」を取り付けて測定)となるようにブラックライトからの紫外線を16時間照射して、これに抗ウイルス性活性測定用試料とした。
【0047】
次に、この抗ウイルス性活性測定用試料を用いて、日本工業規格JIS R1702:2006「ファインセラミックス―光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌試験方法・抗菌効果」の「10 フィルム密着法」に基づく方法で評価を行った。
【0048】
6−1 インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスにはA/Northern pintail/Miyagi/1472/08(H1N1)を用いた。すなわち、光触媒体層にウイルスを含む試験液を接種し、被覆フィルムをのせて密着させ、これを室温(25±5℃)、可視光照射下または遮光下で6時間保存し、試料検体1個当たりのウイルス力価を、MDCK細胞(Madin-Darby canine kidney cell,イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株)を用いた、50%組織培養感染量の対数値(LogTCID50/ml)で求めた。ウイルスを含む試験液やMDCK細胞は、下記に示す維持培地(MM)、あるいは増殖培地(GM)で調製した。
【0049】
ウイルス調製あるいは細胞培養用の培地は、Eagle's minimum essential medium(日水製薬株式会社、東京都)培地9.4g、Tryptose Phosphate Broth(TPB:Difco laboratories, Detroit, MI, USA)3.0gを蒸留水1,000mlに溶解し、高圧蒸気滅菌後、7%NaHCO、200mM L-glutamin、ペニシリンおよびストレプトマイシンを、最終濃度がそれぞれ2%、1%、100units/ml、100μg/mlとなるように加え、維持培地(以下MM)とし、MMにウシ胎児血清(Fetal Calf Serum:以下FCS)を5%加え増殖培地(以下GM)とした。MDCK細胞(1.0×10cells/ml)を96穴組織培養プレートに200μlずつ播種し、37℃、炭酸ガスふ卵器で培養した。
ウイルスを10日齢の発育鶏卵に尿膜腔内接種し、3日後に漿尿液を回収した。回収した感染漿尿液を25000rpmで90分間4℃で超遠心し、得られたペレットを初期の漿尿液の100分の1量の燐酸緩衝食塩水(PBS)に再浮遊した。このウイルスをPBSで100倍希釈し、光触媒加工製品に100μl滴下し、フィルム密着法により、抗ウイルス活性を測定した。一定時間経過後、ガラスプレートとフィルムとをビニール袋に入れ、MMを1ml加えて、ウイルスを回収した。マイクロチューブに回収ウイルス液を移し、遠心分離機にて15000rpmで3分間処理し、その上清について、残存ウイルスの力価を測定した。
ウイルス力価の測定は、MMで10倍階段希釈したウイルス液を各希釈について4ウェルずつ96穴組織培養プレートに接種した。なお、接種前に、MDCK細胞を200μlのPBSで3回洗浄し、2μg/mlになるようトリプシンをMMに添加して、各ウェルに100μlずつ加え、そこに希釈ウイルス液を100μl接種した。
【0050】
抗ウイルス性の評価は、3つの抗ウイルス性活性測定用試料を用いて同時に行い、これら3つのウイルス力価の対数値の平均値で評価を行った。可視光の照射は、市販の白色蛍光灯(20W,2本)を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業製「N113」)を通して、被覆フィルムを載せた光触媒体層の上から蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行った。このとき、塗膜近傍での照射が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにした。可視光照射2時間または6時間後のインフルエンザウイルスのウイルス力価が小さいものほど、インフルエンザウイルスの抗ウイルス性、すなわち光触媒活性が高いと言える。なお、ウイルス力価の対数値の測定限界は1.5であった。
【0051】
6−2 アデノウイルス
アデノウイルスにはトリアデノウイルスを用い、この標準株であるOte株は、独立行政法人・動物衛生研究所(茨城県)から分与された。トリアデノウイルスは、後述する鶏腎培養細胞(CK細胞)で継代し、感染培養液をウイルスとし、分注し、使用まで−80℃で保存した。
【0052】
光触媒体層にウイルスを含む試験液を接種し、被覆フィルムをのせて密着させ、これを室温(25±5℃)、可視光照射下または遮光下で6時間保存し、試料検体1個当たりのウイルス力価を、後述するCK細胞上でのプラック形成試験で求めた。尚、光触媒体層には、再蒸留水(以下、dW2)で1000倍希釈したウイルスを含む試験液を100μL滴下して評価を行い、その後、回収液の量が1000μLとなるように細胞維持培地(以下、MM)で行った。
【0053】
(鶏腎培養細胞)
初生鶏ひな(小岩井農場)を炭酸ガスで安楽殺後、腎臓を採取し、トリプシン液で消化することにより、鶏腎(以下、CK)細胞を得た。CK細胞(細胞濃度:0.3%)を細胞培養シャーレ(Tissue Culture Dishes,PS,60×15mm,with vents,sterile,Greiner bio‐one)に4mlずつ播種し、37℃、5%COインキュベーターにおいて培養した。なお使用培地はE‐MEM培地 9.4g、Tryptose Phosphate Broth (TPB) 3.0gをdW2 1000mlに溶解し、高圧蒸気滅菌後、7%NaHCOを2%、200mM L‐glutaminを1%、仔ウシ血清(Calf Serum:以下CS)を5%、ペニシリン 100units/ml ストレプトマイシン 100μg/ml、アムホテリシンB 0.5μg/mlになるように加えCK用増殖培地とした(CK用Growth Medium:以下CK用GM)。プラック形成試験用の重層寒天培地の基礎培地として、E‐MEM培地 9.4g、TPB 3.0gをdW2 500mlに溶解し、高圧蒸気滅菌後、7%NaHCOを2%、200mM L‐glutaminを1%、ペニシリン 100units/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アムホテリシンB 0.5μg/mlとなるように加え1次重層用MMとした。さらに0.5%ニュートラルレッドを10ml加え2次重層用MMとした。Bacto Agar (Difco laboratories,Detroit,MI,USA)1.6gをdW2 100mlに溶解し、高圧蒸気滅菌を行い、2×Bacto Agarとした。1次重層用 MMと電子レンジで溶かした2×Bacto Agarとを等量混合し、1次重層用寒天培地とした。また、2次重層用MMと電子レンジで溶かした2×Bacto Agarとを等量混合し、2次重層用寒天培地とした。
【0054】
(プラック形成試験)
トリアデノウイルスについては、階段希釈したウイルスをCK細胞に接種(100μl/dish, 2 dishes/sample)し、接種1時間後、接種液を除去し、1次重層用寒天培地を3ml重層、さらに5日後に2次重層用寒天培地を3ml重層し、接種7日後にプラックカウントを行い、プラック形成単位(plaque forming unit:以下PFU/ml)を算出した。トリアデノウイルスのウイルス力価の検出限界を10 PFU/mlとした。
【0055】
抗ウイルス性の評価は、2つの抗ウイルス性活性測定用試料を用いて同時に行い、これら2つのウイルス力価の対数値の平均値で評価を行った。可視光の照射は、市販の白色蛍光灯(20W,2本)を光源とし、アクリル樹脂板(日東樹脂工業製「N113」)を通して、被覆フィルムを載せた光触媒体層の上から蛍光灯に含まれる可視光が照射されるようにして行った。このとき、塗膜近傍での照射が1000ルクス(ミノルタ社製照度計「T−10」で測定)となるようにした。可視光照射6時間後のトリアデノエンザウイルスのウイルス力価が小さいものほど、トリアデノウイルスの抗ウイルス性、すなわち光触媒活性が高いと言える。なお、ウイルス力価の対数値の測定限界は5.2であった。
【0056】
(実施例1)
分散媒としてイオン交換水4kgに、酸化タングステン粒子(日本無機化学製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を湿式媒体撹拌ミルを用いて分散処理して酸化タングステン粒子分散液を得た。
【0057】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の平均分散粒子径は118nmであった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積40m/gであった。なお、分散処理前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、同じピーク形状であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。この時点で、得られた分散液を20℃で24時間保持したところ、保管中に固液分離は見られなかった。
【0058】
この酸化タングステン粒子分散液にヘキサクロロ白金酸(HPtCl)の水溶液をヘキサクロロ白金酸が白金原子換算で酸化タングステン粒子の使用量100質量部に対して0.12質量部になるように加え、原料分散液としてヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は、17.6質量部(固形分濃度17.6質量%)であった。その後この分散液のpHは2.0であった。
【0059】
次いで、pH電極と、このpH電極に接続され、0.1質量%のアンモニア水を供給してpHを一定に調節する制御機構を有するpHコントローラ(pH=3に設定)と、窒素吹込み菅を備え、水中殺菌灯(三共電気製、GLD15MQ)を設置したガラス管(内径37mm,高さ360mm)からなる光照射装置で、原料分散液1200gを、毎分1Lの速度で流通させながら、この分散液のpHを3.0にした。窒素の吹き込み量は毎分2Lの速度で行った。原料分散液中の溶存酸素量が0.5mg/Lになった後、引き続き窒素を吹き込み、原料分散液を流通させながら光照射(紫外線照射)を2時間行い、更にメタノールをその濃度が全溶媒の1質量%となるように加えて、窒素を吹き込み、原料分散液を流通させながら光照射を3時間行って白金担持酸化タングステン粒子分散液を得た。光照射前および光照射中に消費した0.1重量%アンモニア水の合計量は103gであった。光照射中、pHは3.0で一定であった。
【0060】
得られた白金担持酸化タングステン粒子分散液を20℃で24時間保管したところ、保管後に固液分離は見られなかった。またこの分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、白金担持酸化タングステン粒子1g当たり8.5×1017個であった。次に、この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の抗ウイルス性の評価を行った。
【0061】
本発明の光触媒体層では、光照射時間が0時間のときに6.8であったインフルエンザウイルスに対するウイルス力価が、光照射2時間で1.5未満(検出限界未満)となった。また、光照射を行わずに暗所で2時間放置するとウイルス力価は4.8となった。
【0062】
さらに、本発明の光触媒体層では、光照射時間が0時間のときに8.9であったトリアデノウイルスに対するウイルス力価が、光照射6時間で5.2未満(検出限界未満)となった。
【0063】
(比較例1)
光触媒体層を形成していない未加工のガラスを用いた以外は、実施例1と同様にして抗ウイルス性の評価を行うと、光照射時間が0時間のときに6.8であったインフルエンザウイルスに対するウイルス力価が、光照射2時間で6.8となり、光照射を行わずに暗所で2時間放置しても6.8であった。
【0064】
また、光照射時間が0時間のときに8.9であったトリアデノウイルスに対するウイルス力価が、光照射6時間で7.9となった。
【0065】
(比較例2)
白金担持酸化タングステン粒子分散液の代わりに酸化タングステン粒子分散液(白金無担持)の分散液の白色発光ダイオード照射下でのOHラジカル生成量を測定すると、酸化タングステン粒子1g当たり3.2×1017個であった。次に、この白金担持酸化タングステン粒子分散液を用いて形成した光触媒体層の抗ウイルス性の評価を行ったところ、光照射時間が0時間のときに7.5であったインフルエンザウイルスに対するウイルス力価が、光照射2時間で4.6となった。
【0066】
(参考例1)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、天井を構成する天井材の表面に塗布し乾燥させることにより、天井材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0067】
(参考例2)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、屋内の壁面に施工されたタイルに塗布し乾燥させることにより、タイル表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0068】
(参考例3)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、窓ガラスの屋内側表面に塗布し乾燥させることにより、ガラス表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0069】
(参考例4)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、壁紙に塗布し乾燥させることにより、壁紙の表面に光触媒体層を形成することができ、さらにこの壁紙を屋内の壁面に施工することによって、屋内照明による光照射により屋内空間における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0070】
(参考例5)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、屋内の床面に塗布し乾燥させることにより、床面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0071】
(参考例6)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、自動車用インストルメントパネル、自動車用シート、自動車の天井材、自動車用ガラスの車内側などの自動車内装材の表面に塗布し乾燥させることにより、これら自動車内装材の表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、車内照明による光照射により車内空間における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0072】
(参考例7)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、エアコンの表面に塗布し乾燥させることにより、エアコンの表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により屋内空間における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0073】
(参考例8)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、冷蔵庫の庫内に塗布し乾燥させることにより、冷蔵庫内に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明や冷蔵庫内の光源による光照射により冷蔵庫内における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0074】
(参考例9)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、電車のつり革、エレベーターのボタン等、不特定多数の人が接触する基材表面に塗布し乾燥させることにより、前記基材表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により前記基材表面における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0075】
(参考例10)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、テーブル、箪笥、収納棚、机等の家具の表面に塗布し乾燥させることにより、前記基材表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により前記基材表面における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0076】
(参考例11)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、パソコン、プリンター、スキャナー、コピー機、電話機、テレビ、ステレオ、洗濯機、ストーブ、ドライヤー、電子レンジ等、家電製品の表面に塗布し乾燥させることにより、前記基材表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により前記基材表面における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0077】
(参考例12)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、襖、畳、障子等の表面に塗布し乾燥させることにより、前記基材表面に光触媒体層を形成することができ、これによって、屋内照明による光照射により前記基材表面における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。
【0078】
(参考例13)
実施例1で得た抗ウイルス剤を、フィルムに塗布し乾燥させることにより、フィルムの表面に光触媒体層を形成することができ、さらにこのフィルムを建材、家具、壁、床、天井、タッチパネル、機器のボタン、ドア、ドアノブ、階段の手すり、航空機や列車の客室の内壁等に施工することによって、屋内照明による光照射により前記フィルム表面における鳥インフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス等のエンベロープを持つウイルスや、アデノウイルスや口蹄疫等のエンベロープを持たないウイルスを無害化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.01質量部〜1質量部含有する貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる抗ウイルス剤。
【請求項2】
光触媒体粒子100質量部に対して、貴金属原子を0.01質量部〜1質量部含有し、照度20000ルクスの白色発光ダイオードを光源とする可視光照射を20分間行うことにより、貴金属担持光触媒体粒子1g当たり4.0×1017個以上のOHラジカルを生成する貴金属担持光触媒体粒子分散液からなる請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記貴金属がCu、Pt、Au、Pd、Ag、Ru、Ir及びRhから選ばれる少なくとも1種類の貴金属である請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
光触媒体が酸化タングステンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
基材表面に光触媒体層を備える光触媒機能製品であって、前記光触媒体層が請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤を用いて形成されていることを特徴とする抗ウイルス剤機能製品。

【公開番号】特開2011−136984(P2011−136984A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266489(P2010−266489)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】