説明

抗ウイルス剤及びその製造方法

【課題】接触したウイルスを速やかに吸着・不活化することができる抗ウイルス剤を提供する。
【解決手段】無機微粒子からなる基体と、基体の表面に接合し、表面に接合界面周縁部を有する金ナノ微粒子とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々なウイルスを不活化することができる抗ウイルス剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。さらに現在、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面している。さらに新型インフルエンザが現れ、緊急の対策が急務である。このような事態に対応するために、ワクチンによる抗ウイルス剤の開発も急がれているが、ワクチンの場合、その特異性により感染を防ぐことができるのは特定のウイルスに限定される。さらに作成に時間がかかることから、必要量確保することが困難となっている。
【0003】
そこで、様々なウイルスに抗ウイルス効果を発揮することができる抗ウイルス剤の開発が多々行われ、実際に様々な部材に塗布されたり含浸されたりしているが、実際にウイルスが不活化される前に人が触れることで2次感染が起きるという問題が起きており、完全な感染防御には役立っていない。
【0004】
ここでウイルスは、脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウイルスと、エンベロープを持たないウイルスに分類できる。エンベロープはその大部分が脂質からなるため、エタノール、有機溶媒、石けんなど消毒剤で処理すると容易に破壊することができる。このため一般にエンベロープを持つウイルスはこれら消毒剤での不活化(ウイルスの感染力低下ないし失活)が容易である。これに対し、エンベロープをもたないウイルスは上記の消毒剤への抵抗性が強いと言われている。またこれらに有効とされている次亜塩素酸ナトリウムは消毒薬としては利用できるが、部材などへ応用はできない。なお、本明細書において、ウイルス不活化性と抗ウイルス性とは、同一の作用を称している。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、光触媒であるアナターゼ型チタニア微粒子と、帯電により空中の塵埃がマスク表面に付着するのを防止するためのカーボン微粒子とを、特殊ガンにて吹き付け、不織布の繊維構造内に含蓄させることで、マスク表面で細菌やウイルスを捕獲して分解するマスクが開発されている(特許文献1)。さらに貴金属を用いた抗ウイルス剤として、金水溶液を多孔質担体に含浸させ焼成し、金微粒子を担持させた抗ウイルス剤が開発されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−353109
【特許文献2】特開平9−323935
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すような光触媒によるウイルス分解については、紫外線などの光源のない所では効果がなく、また光触媒の分解能で基材が劣化するという欠点があり、長期間使用する部材などには使用できない。また、特許文献2に示すような含浸法による金の担持方法では、乾燥段階において金属塩が担体内部から表面や担体間隔に移動析出するため、最終的に生成した触媒体では金属酸化物粒子の塊が担体から球体状に独立して生成し、結果、担体との密着性が乏しくなるため、担体から金微粒子が遊離するという問題がある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するために、基体表面に金ナノ微粒子を析出させることで、光源の有無に左右されず、また高温での焼成工程を経なくても基体との密着性がよく、さらにエンベロープの有無に関係なく接触したウイルスを速やかに吸着し、不活化する抗ウイルス剤及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち第1の発明は、無機微粒子からなる基体と、基体の表面に接合し、表面に接合界面周縁部を有する金ナノ微粒子と、を有することを特徴とする抗ウイルス剤である。
【0010】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、前記無機微粒子が金属酸化物からなることを特徴とする抗ウイルス剤である。
【0011】
さらに第3の発明は、上記第1または第2に記載の抗ウイルス剤を担持させたことを特徴とする抗ウイルス性を有する繊維構造体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接触したウイルスを速やかに吸着・不活化することができる抗ウイルス剤及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の抗ウイルス剤の表面の一部を拡大した模式図である。
【図2】本発明の実施例の抗ウイルス剤のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図を用いて詳述する。
【0015】
図1は、本実施形態の抗ウイルス剤の表面の一部を拡大した模式図である。本実施形態の抗ウイルス剤100は、有効成分である金ナノ微粒子10が無機酸化物からなる基体20表面に接合界面周縁部を有したほぼ多面体の状態で、密着して接合している。
【0016】
金の粒子径をナノレベルとした場合には、金微粒子の形状が二十面体などのほぼ多面体状となることが知られている。ここで、本実施形態で用いる接合界面周縁部とは、金ナノ粒子10のコーナー部1とエッジ部2の両方を示す。コーナー部1とは、金ナノ微粒子10の3以上の面の結合部に生成されたコーナーを示し、エッジ部2とは金ナノ微粒子10の2つの面の結合部に生成されたエッジを示す。
【0017】
ウイルス不活化のメカニズムについては、現在のところ必ずしも明確ではないが、化学的に安定である金はナノ粒子にすると、図1のように配位不飽和なサイトであるコーナー部1やエッジ部2の部分の比率が大きくなり、非常に高い酸化触媒能を持つようになるため、接触したウイルスの細胞膜表面がダメージを受け、不活化すると推測される。
【0018】
本実施形態の基体20に用いられる無機酸化物としては、無機酸化物であれば特に限定されるものではないが、例えば、チタニアや、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などが好適に用いられる。さらに、本実施形態の無機酸化物には、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫などからなる金属酸化物も含まれる。
【0019】
本実施形態では、一例として無機微粒子と金ナノ微粒子とのゼータ電位の差を利用して無機微粒子に金を担持させている。また、基体20を用いずに金ナノ粒子を還元剤などで粒子化すると凝集してしまうため活性がなくなることが考えられるが、本実施形態では、金ナノ微粒子を無機微粒子からなる基体20の表面に担持させることにより、金ナノ微粒子の凝集を防ぐことを可能としている。
【0020】
基体20に担持される金ナノ微粒子10は、粒径が50nm以下のものが使用できる。この理由として、粒径が50nmより大きくなると金ナノ微粒子10が安定となるため酸化還元作用が起きにくくなるからである。さらに、好ましくは1nm以上10nm以下のものが使用できる。粒径が1nmより小さいものは物質として非常に不安定となり存在できないからである。また、粒径が10nmより大きい場合には接合界面の長さが短くなり、図1のような多面体構造をとりにくくなるが、粒径を10nm以下とすることにより、金ナノ粒子10の接合界面周縁部の比率が十分に大きくなるからである。
【0021】
このような粒径の金ナノ超微粒子10を基体20表面に担持する方法としては特に限定されるものではないが、具体的な例として、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等の方法が挙げられ、これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0022】
以下に析出沈殿法を例として、本願発明の抗ウイルス剤の調整法について具体的に説明する。析出沈殿法の具体的な方法としては、まず、金化合物を溶解させた水溶液を20〜90℃、好ましくは50〜70℃に加温、攪拌しながら、pH3〜10、好ましくはpH5〜8になるようにアルカリ溶液にて調整し、その後、基体20となる無機微粒子を添加したのち、100〜200℃にて加熱乾燥する。
【0023】
用いられる金化合物水溶液としては、例えば、HAuCl4・4H2Oや、NH4AuCl4や、KAuCl4・nH2Oや、KAu(CN)4や、Na2AuCl4や、KAuBr4・2H2Oや、NaAuBr4などが挙げられ、金化合物の濃度は1×10−2〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0024】
上記の金ナノ微粒子10の担持量としては、基体20に対して0.5〜20質量%とするのが好ましく、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、20質量%以上担持させると金ナノ微粒子10同士が凝集し、抗ウイルス性が減少するからである。
【0025】
本実施形態の抗ウイルス剤100は、無機微粒子からなる基体20表面に、マンガンやコバルトなどの酸化物微粒子をさらに担持させてもよい。これはこれらの酸化物微粒子が金ナノ微粒子10に有害物質が付着するのを抑制するので、長期に渡り、安定して抗ウイルス効果が持続できるからである。
【0026】
本実施形態の抗ウイルス剤100において不活性化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス・ポリオウイルス・口蹄疫ウイルス・ロタウイルス・ノロウイルス・エンテロウイルス・ヘパトウイルス・アストロウイルス・サポウイルス・E型肝炎ウイルス・A型、B型、C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)・麻疹ウイルス・ヒトメタニューモウイルス・RSウイルス・ニパウイルス・ヘンドラウイルス・黄熱ウイルス・デングウイルス・日本脳炎ウイルス・ウエストナイルウイルス・B型、C型肝炎ウイルス・東部および西部馬脳炎ウイルス・オニョンニョンウイルス・風疹ウイルス・ラッサウイルス・フニンウイルス・マチュポウイルウス・グアナリトウイルス・サビアウイルス・クリミアコンゴ出血熱ウイルス・スナバエ熱・ハンタウイルス・シンノンブレウイルス・狂犬病ウイルス・エボラウイルス・マーブルグウイルス・コウモリ・リッサウイルス・ヒトT細胞白血病ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス・ヒトコロナウイルス・SARSコロナウイルス・ヒトポルボウイルス・ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス・アデノウイルス・ヘルペスウイルス・水痘・帯状発疹ウイルス・EBウイルス・サイトメガロウイルス・天然痘ウイルス・サル痘ウイルス・牛痘ウイルス・モラシポックスウイルス・パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0027】
本実施形態の抗ウイルス剤100は、様々な態様で用いることができる。例えば、本実施形態の抗ウイルス剤100は、取り扱いの点から考えると粉体が最も好適に用いられるが、これに限られるものではない。使用目的により粉末状、顆粒状であっても良く、加圧形成により錠剤状に成形されても用いられる。また、粉末状の場合では、エアゾールの容器内に不活性ガスで加圧して当該抗ウイルス剤100の粉末を充填し、スプレーすることで衣服や手などに当該抗ウイルス剤100を付着させて用いられる。さらに、当該抗ウイルス剤100を水などの分散媒に分散させた状態で用いてもよい。ここで、本実施形態の抗ウイルス剤100を分散媒に分散させた場合、有効成分である金ナノ微粒子10が、分散液中において0.1質量%以上含有されることがより十分な抗ウイルス性を得る上で好ましい。なお、本実施形態では特に限定されず、当業者が適宜設定できるが、例えば60質量%以下とすることが、分散液の安定性や取扱性の点から好ましい。また、エタノールや次亜塩素酸など、公知の抗ウイルス剤と併用することでより効果を上げることも考えられる。さらに、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、触媒、反射防止材料、遮熱特性を持つ材料などと混合して使用してもよい。
【0028】
さらにまた、本実施形態の抗ウイルス剤100は、繊維構造体に含有される、または当該繊維構造体の外面に固定される構成とすることができる。
【0029】
含有、または固定させるときの具体的な処理については当業者が適宜選択することができ、特に限定されない。例えば高分子材料に本実施形態の抗ウイルス剤100を添加後、混練、紡糸することで、繊維構造体に含有されるようにしてもよい。また、織物や不織布などの繊維構造物へバインダーやカップリング剤などを用いて固定してもよい。さらに、ゼオライトなどの無機材料へ抗ウイルス剤100を固定した後、抗ウイルス剤100が固定された該無機材料を繊維構造物に固定して、抗ウイルス性繊維構造物を構成したり、繊維基材に無機酸化物から成る基体20を固定してから、金化合物を溶解させた水和物に浸漬して金微粒子を析出させることもできる。なお、本明細書において、抗ウイルス剤100の含有とは、当該抗ウイルス剤が外面に露出している場合も含む概念である。
【0030】
バインダー成分としては、繊維基材との密着性が良いものであれば特に限定はされないが、例えば合成樹脂では、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、水溶性樹脂、ビニル系樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、繊維素系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、天然樹脂としては、ひまし油、亜麻仁油、桐油などの乾性油などを用いることができる。
【0031】
繊維基材に基体20を固定する方法としては、上記バインダーなどで固定してもよいし、不飽和結合部を有するシランモノマーなどを還流処理などで化学結合したものを、メタノールなどの溶媒に分散し、繊維基剤に塗布や浸漬したのち、電子線などの放射線を照射し、グラフト重合により化学結合させてもよい。
【0032】
用いるシランモノマーの一例としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、特殊アミノシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、フロロアルキル基含有オリゴマー、メチルハイドロジェンシロキサン、シリコーン第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0033】
繊維構造体の製造方法としての具体例としては、例えば繊維を公絡させて製造される不織布や、パルプと結着剤を混抄して製造される混抄紙などを基材として製造する際に本実施形態の抗ウイルス剤100を混合することで、基材内部の空間内にて狭持させることができる。また熱可塑性樹脂や、反応性ホットメルト接着剤や、紫外線や電子線などの粒子線で反応硬化する樹脂をノズルより繊維状に吐出し、吐出して形成した繊維の表面が粘着性を有している間に、本実施形態の抗ウイルス剤100を接触させた後、ホットメルト接着剤では室温に戻して固着させたり、反応性ホットメルト接着剤では空気中の水分で反応硬化させたり、紫外線や電子線で架橋する樹脂などでは紫外線や電子線を照射して反応硬化させて行うことができる。
【0034】
このように用いられる樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−メチルメタクリレ−ト共重合体樹脂、エチレン・アクリル酸エチル共重合樹脂などの樹脂を主成分とするホットメルト接着剤や、ウレタンプレポリマーを主体とする反応性ホットメルト接着剤や、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート樹脂などを主成分とする紫外線や電子線で架橋する樹脂などが挙げられる。
【0035】
繊維構造物は、具体的には、マスク、エアコンフィルター、空気清浄機用フィルター、衣服、防虫網、鶏舎用ネットなどが挙げられる。また、繊維構造物を構成する高分子材料としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ポリテトラフロロエチレン、ポリビニルアルコール、ケブラー、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、レーヨン、キュプラ、テンセル、ポリノジック、アセテート、トリアセテート、綿、麻、羊毛、絹、竹、等が挙げられる。
【0036】
さらにまた本実施形態の抗ウイルス剤100は、成型体に含有、または該成型体の外面に固定される構成とすることもできる。本実施形態においては、繊維構造体の場合と同様に、抗ウイルス剤100を含有、または外面に固定させるときの具体的な処理については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、成型体が樹脂などの有機物からなるものについては、成型前に樹脂に混練してから当該成型体を成型することができる。また、成型体が金属などの無機物からなるものについては、バインダーを用いて外面に固定することができる。このように、本実施形態の抗ウイルス剤100を備えることで、成型体に接触したウイルスを不活化することができる。例えば、電話の受話機などにて本実施形態の抗ウイルス剤100を含有、または外面に固定されていることにより、ウイルス感染者が使用した後に該受話器を使用した健常者がウイルスに感染する、といった状況を防ぐことができる。
【0037】
さらにまた、本発明の抗ウイルス剤100は、前述の繊維構造体や成型体と同じく、混練やバインダーを用いた固定方法により、フィルムやシートに含有される、または外面に固定される構成とすることができる。フィルムまたはシートとして、具体的には、壁紙、包装袋、または包装用フィルムなどが挙げられる。これらの表面に付着したウイルスは、抗ウイルス剤100の作用により不活化される。したがって、当該壁紙を病院の壁に貼り付けたり、当該包装袋または包装用フィルムにより医療用具を包装することで、病院における院内感染や、医療用具のウイルス汚染を抑制することができる。
【0038】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
(抗ウイルス剤の作成)
(実施例1)
0.5mmolのHAuCl4・4H2Oを100mlの水に溶解(5mmol/l)させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH4.8に調製した。その水溶液に基体としてのジルコニア粉末を5g加えて1時間攪拌した。その後、混合物を固液分離し、減圧乾燥して、窒素雰囲気下、200℃で4時間乾燥、粉砕し金ナノ微粒子担持抗ウイルス剤を得た。得た抗ウイルス剤のTEM画像を図2に示す。画像解析で分析した結果、金ナノ微粒子の平均粒子径は4.4nmであった。
【0040】
(実施例2)
実施例1において、NaOH水溶液でpH4.8に調製する代わりに、pH5.5に調製し、ジルコニア粉末の代わりにチタニア粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手順でサンプルを調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は4.0nmであった。
【0041】
(実施例3)
実施例1において、NaOH水溶液でpH4.8に調製する代わりに、pH5.0に調製し、ジルコニア粉末の代わりにγ-アルミナ粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手順でサンプルを調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は3.6nmであった。
【0042】
(実施例4)
実施例1において、NaOH水溶液でpH6.0に調製する代わりに、pH4.0に調製し、ジルコニア粉末の代わりにセリア粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手順でサンプル調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は3.8nmであった。
【0043】
(実施例5)
実施例1において、NaOH水溶液でpH4.8に調製する代わりに、pH8.0に調製し、ジルコニア粉末の代わりに酸化コバルト(II,III)粉末を5g加えた以外は実施例1と同じ手段でサンプルを調製した。このときの金ナノ微粒子の平均粒径は4.5nmであった。
【0044】
(比較例1)
5mmolのHAuCl4・4H2Oを50mlの水に溶解させた水溶液(100mmol/l)にハイドロキシアパタイト(サンギ製SP-1)10gを加えて1時間攪拌した。その後、混合物を固液分離し、100℃で4時間乾燥、粉砕し金担持ハイドロキシアパタイトを得た。なお、本比較例1のような含浸法で形成された金粒子の形状は接合界面周縁部のない球体状になる。
【0045】
(赤血球凝集反応によるウイルス吸着性評価)
ウイルス吸着性を評価した。対象ウイルスとして、MDCK細胞を用いて培養し、精製したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を用いた。各物質と接触させたインフルエンザウイルスの赤血球凝集反応(HA)の力価(HA価)を定法により判定した。
【0046】
具体的には、まず、各実施例および比較例1における物質を、各々リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと記載)にて懸濁液濃度を1質量%、0.5質量%、および0.1質量%に希釈した試料を準備した。3種類の濃度の試料各100μLに、前記のHA価1024のウイルス液100μLをそれぞれ加え、マイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら、室温で60分間反応させた。コントロールは、PBS100μLに前記のHA価1024のウイルス液100μLを加え、各試料と同様に、マイクロチューブローテーターを用いて60分間攪拌したものとした。
【0047】
その後、超小型遠心機により固形分を沈殿させ、上清を回収しサンプル液とした。このサンプル液のPBSでの2倍希釈系列を各々50μL準備し、その各々に0.5%ニワトリ血球浮遊液を50μL混合し、4℃の環境下で60分静置後にHA価を測定した。測定結果を表1に示した。なお、各実施例における物質は、試料に等量のウイルス液を加えて反応していることから、反応液中における物質濃度は各々0.5質量%、0.25質量%、および0.05質量%となっている。
【0048】

【表1】



【0049】
上記結果より、本発明の抗ウイルス剤は、どの実施例においても1.0質量%で検出限界値である99.61%以上のウイルスを吸着、捕集することが確認できた。また0.10質量%という低濃度でも、実施例5では75.0%以上、実施例1〜4では87.5%以上のウイルスを吸着、捕集することが確認できた。
【0050】
(インフルエンザウイルスに対する不活化効果による抗ウイルス性評価)
次に、上記のウイルスを用いて、各物質と接触させたインフルエンザウイルスに対する不活化効果を定法により判定した。
【0051】
具体的には、まず各実施例および比較例1を、懸濁液濃度が1.0質量%、10.0質量%になるように各々PBSにて希釈した試料を用意した。2種類の濃度の試料各100μLに、前記のウイルス液100μLをそれぞれ加え、マイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら室温にて10分間または60分間反応させた。コントロールは、PBS100μLに前記のウイルス液100μLを加え、各試料と同様に、マイクロチューブローテーターを用いて10分間または60分間攪拌したものとした。所定時間攪拌後、ウイルスと各サンプル中の化合物との反応を停止させるために20mg/mLのブイヨン蛋白を1800μl加えた。その後、超小型遠心機により固形分を沈殿させ、上清を回収しサンプル液とした。
【0052】
各反応サンプルが10-2〜10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行い(10段階希釈)、MDCK細胞に100μl、反応後のサンプル液を接種した。90分間のウイルス吸着後、0.7%寒天培地を重層し、インフルエンザウイルスは72時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1 mL,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出することで、抗ウイルス性を評価し、表2に結果を示した。
【0053】

【表2】

【0054】
上記の結果より、粉末濃度10.0質量%の場合、実施例4、5において、10分という短時間で検出限界値以下(不活化率99.997%以上)となり、残りの実施例においても不活化率99.97%以上となった。粉末濃度1.0質量%の低濃度でも、実施例1では60分間で検出限界値以下(不活化率99.95%以上)となり、他の実施例においても不活化率99.75%以上いう結果と、本発明の抗ウイルス剤の効果の高さが確認できた。なお、ここでいう不活化率は下記の式で定義された値を言う。なおブランクのウイルス感染価には、コントロールのウイルス感染価を用いて計算した。
【0055】
【数1】

【0056】
(本発明の抗ウイルス剤を担持した繊維構造体の作成)
さらに、別の実施例として、抗ウイルス剤を担持した繊維構造体の実施例および比較例を作成し、ウイルスに対する不活化効果を調べた。
【0057】
(実施例6)
反応性ホットメルト接着剤として積水フーラー株式会社製のTL-0511を、ノードソン株式会社製ALTA400シグレチャースプレーガンより糸状に吐出させ、粘着性を有する繊維構造体を作製した。次に、実施例1の抗ウイルス剤を接触させて、粘着性を有する反応性ホットメルト接着剤からなる繊維構造体の繊維表面に付着させ、湿度60%、50℃の環境で4時間反応させて反応性ホットメルト接着剤を硬化させ、抗ウイルス性を有する繊維構造体を得た。
【0058】
(実施例7)
無機微粒子として、チタニア微粒子をメタノールに対して10.0質量%、シランモノマーとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを無機微粒子に対して5.0質量%加えてpHを3.0に塩酸で調製した後、ビーズミルにより平均粒子径18nmに粉砕分散した。その後、凍結乾燥機により固液分離して120℃で加熱し、シランモノマーをチタニア微粒子の表面に脱水縮合反応により化学結合させて被覆を形成した。得られた表面処理されたチタニア微粒子をメタノールに10.0質量%に調製し、ビーズミルにより平均粒子径16nmに再度粉砕分散した。
【0059】
また、PET製不織布を、上記粉砕分散溶液に浸漬させ、エアーブロアーで余剰分を除去した後、120℃、3分間乾燥した。次に、チタニア微粒子分散液を塗布したPET製不織布に電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射することで、チタニア微粒子をシランモノマーのグラフト重合によりPET製不織布に結合させた前駆体を得た。
【0060】
続いて、0.5mmolのHAuCl4・4H2Oを100mlの水に溶解させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH5.5に調製し、上記前駆体を浸漬させ、1時間攪拌した。その後、水溶液からPET製不織布を取り出し、減圧乾燥して、窒素雰囲気下、100℃で4時間加熱し、PET製不織布に結合しているチタニア微粒子表面に接合界面周縁部を有する金ナノ微粒子を析出させ、抗ウイルス性繊維構造体を得た。
【0061】
(比較例2)
実施例1の抗ウイルス剤を混合しない以外は実施例6と同じ方法で作成したホットメルト不織布を比較例2とした。
【0062】
(比較例3)
表面に何も担持しないPET製不織布を比較例3とした。
【0063】
(抗ウイルス性繊維構造体の抗ウイルス性評価)
実施例6および実施例7の抗ウイルス性フィルター(抗ウイルス性繊維構造体)並びに比較例2、3を4cm×4cmにカットし、プラスチックシャーレにいれ、ウイルス液0.1 mlを滴下し、室温で60分間作用させた。このとき試験品の上面をPPフィルム(4cm×4cm)で覆うことで、ウイルス液と試験品の接触面積を一定にし、試験を行った。60分間作用させたのち、20mg/mlのブイヨン蛋白液を900μlを添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10-2〜10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞にサンプル液100μLを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。その測定結果を表3に示す。
【0064】

【表3】

【0065】
以上の結果より、本発明の抗ウイルス剤を担持した繊維構造体においても高いウイルス不活化作用が認められた。その効果は60分間で不活化率99.999%以上という非常に高い作用であり、これらの抗ウイルス性繊維構造体を用いることで、ウイルスへの感染リスクが低減された環境を提供することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 接合界面周縁部(コーナー部)
2 接合界面周縁部(エッジ部)
10 金ナノ微粒子
20 基体
100 本実施形態の抗ウイルス剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子からなる基体と、
前記基体の表面に接合し、表面に接合界面周縁部を有する金ナノ微粒子と、
を有することを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記無機微粒子が金属酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗ウイルス剤を担持させたことを特徴とする抗ウイルス性を有する繊維構造体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−213719(P2011−213719A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61283(P2011−61283)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】