説明

抗ウイルス剤及び抗ウイルス用組成物

【課題】医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維、塗料、樹脂等の分野への応用が可能な効果的かつ安全な抗ウイルス剤、及び抗ウイルス用組成物を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンからなる抗ウイルス剤及び抗ウイルス用組成物。該ポリグリセリンは、分岐型ポリグリセリンであることが好ましい。医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維製品、塗料、樹脂等の製剤としては、具体的には、うがい薬、点鼻薬、感冒薬等の医薬品、化粧用クリーム、洗顔剤、ボディソープ、ハンドソープ等の化粧品、シャンプー、リンス等の毛髪化粧料、キャンディー、グミ、飲料水等の食品、野菜、食器用洗剤、衣料用洗剤、柔軟剤等の洗浄剤、マスク、ティッシュ、手袋等の日用品、液を含浸させた身体又は物品用の拭き取り繊維製品等の繊維製品、ペンキ、ラッカー等の塗料や樹脂等を例示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウイルスの感染リスクを低減する抗ウイルス剤に関する。より詳しくは、医薬品、化粧品、食品をはじめとする生物、特にヒトの身体の皮膚、粘膜等に、直接又は繊維等を通じて間接的に触れる用途において安全な使用が可能なポリグリセリンを含有する抗ウイルス剤及び抗ウイルス用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルス性感染症に対してはワクチン接種による予防やタミフル等の医薬品による病状進行の抑制や治療の方法があるが、いずれも医療行為をともなうため、一般の生活環境では応用できないという不具合が存在した。さらにワクチンではウイルスへの適合性が合致しないと効果が得られず、タミフル等の医薬品では感染後一定の期間内に服用しないと十分な効果が得られないという問題があった。
【0003】
一方、感染予防の観点から飲食店や病院、さらには一般家庭の台所や洗面台等でアルコールや逆性石鹸等の消毒、殺菌剤が多用されている。特にインフルエンザやノロウイルスの流行にともない、チオセミカルバジドやピロリン酸誘導体等の有機系殺ウイルス剤も使用される場面が増えているが、これらの有機系の消毒、殺菌、殺ウイルス剤は引火の危険性、ならびに誤飲や洗浄不足による人体への副作用が懸念され、一般に安心して使用できる製剤とはいえなかった。
【0004】
殺ウイルス剤としては、多価アルコールの脂肪酸エステル、脂肪族エーテル、それらのアルコキシル化誘導体又はそれらの組み合わせの組成物が抗菌効果を示すことが開示されている(例えば、特許文献1:特表2007−505124号公報)。また、ミセル形態の蛋白質性薬剤とポリグリセリンを含むミセル生成化合物からなる混合ミセルエアロゾル薬剤調製物が検討され、口腔内の薬剤吸収を高めることが開示されている(例えば、特許文献2:特表2002−532536号公報参照)。さらに、アジュバンドとしてポリグリセリン脂肪酸エステルやポリオールのエステルのアルコキシル化された誘導体を含むワクチン製剤が検討され(例えば、特許文献3:特開平11−269093号公報、特許文献4:特開2002−121151号公報参照)、特許文献3ではワクチン製剤の安全性を高める効果、特許文献4ではワクチンを冷凍保存可能とする効果が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特表2007−505124号公報
【特許文献2】特表2002−532536号公報
【特許文献3】特開平11−269093号公報
【特許文献4】特開2002−121151号公報
【特許文献5】特開2007−145777号公報
【非特許文献1】「J.Am.Chem.Soc.」、Vol.124、p9698−9699(2002)
【非特許文献2】「Macromol.Chem.Phys.」、Vol.195、p139(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で開示された抗菌組成物は多価アルコールの脂肪酸エステル、脂肪族エーテルによる抗菌作用は示されているものの、抗ウイルス作用については実証データが示されておらず、実際には不十分であった。一方、特許文献2で開示された混合ミセルエアロゾル薬剤調製物は、ポリグリセリンを含む口腔用エアロゾルの技術であるが、ポリグリセリンによる抗ウイルス作用については何ら触れられているものではなかった。さらに、特許文献3,4はアジュバンドとしてポリグリセリン脂肪酸エステルやポリオールのエステルのアルコキシル化された誘導体を含むワクチン製剤に関する技術である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維、塗料、樹脂等の分野への応用が可能な、効果的かつ安全な抗ウイルス剤、及び抗ウイルス用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、重量平均分子量が1000〜7000の範囲であるポリグリセリンが極めて効果的にウイルス感染を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は下記抗ウイルス剤及び抗ウイルス用組成物を提供する。
[1].重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンからなる抗ウイルス剤。
[2].ポリグリセリンが分岐型ポリグリセリンであることを特徴とする[1]記載の抗ウイルス剤。
[3].重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンを有効成分として含有する抗ウイルス用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ごく少量の添加量でもウイルス感染を効果的に抑制することができる抗ウイルス剤及び抗ウイルス用組成物が提供される。本発明の抗ウイルス剤は安全性が高いため、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維製品、塗料、樹脂等の各分野において広く利用することができ、抗ウイルス用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上述したように、これまで重量平均分子量が1000〜7000の範囲であるポリグリセリンが抗ウイルス効果を有するという知見はなく、この特定のポリグリセリンが抗ウイルス剤として有効であることは、本発明者らの新知見である。
【0012】
本発明は重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンからなる抗ウイルス剤であり、重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンを抗ウイルス用途に用いるものである。なお、ポリグリセリンは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0013】
ポリグリセリンとはグリセリンを基本単位とした重合物をいう。外観は白濁、又は透明な粘性液状物質であり、直鎖型と分岐型に大別されるがいずれの種類のものも使用が可能であり、本発明においては分岐型が好ましい。なお、直鎖型、分岐型の区別は化合物の構造中に分岐鎖を有するかどうかで行い、赤外吸収スペクトルや核磁気共鳴スペクトル等を用いた構造分析により判断する。ポリグリセリンは合成反応、例えば、グリシドール等ポキシ基を有する物質の重合反応で調製することもできるが、坂本薬品工業(商品例:ポリグリセリン#750)やハイパーポリマー社(商品例:PG−2、PG−6)等から市販品として容易に入手が可能である。
【0014】
なお、本発明のポリグリセリンは多数の水酸基を含むが、その水酸基の一部又は全部が脂肪酸等の有機酸とエステルを形成した形態を取ることもできるが、脂肪酸等の有機酸とエステルを形成したものを除くポリグリセリンが好ましい。
【0015】
本発明のポリグリセリンの重量平均分子量は1000〜7000であり、この範囲内であれば良好な抗ウイルス活性や分散性、安定性が得られる。また、より良好な抗ウイルス活性と分散性を得るための重量平均分子量範囲は1500〜6000である。分子量が7000を超えると抗ウイルス活性が低下するとともに粘性が増加するため、品質上良好な抗ウイルス剤を得ることができず、調製に関して技術的な難易度も高いためコスト的な不具合が生じるといった問題点を有する。一方、分子量が1000未満だと抗ウイルス活性が低下するという不具合に加え、ポリマーの範疇を逸脱してしまうおそれが生じる。
【0016】
上記の分岐型、直鎖型ポリグリセリンの重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーにより確認する。具体的な条件としては、K−802又はKD−801(Shodex製)を分離カラムとし、移動相に10mMの臭化リチウムを含有したジメチルホルムアミド溶液を用い、カラム温度50℃、流速1.0mL/min、RI検出器、標準ポリエチレングリコール換算により算出する。
【0017】
一般に、ウイルスは他の生物の細胞を利用して自己を複製させることのできる微小な構造体で、タンパク質の殻とその内部に詰め込まれた核酸からなる。本発明の抗ウイルス剤は、前記ウイルスの細胞への感染、自己複製、そしてその結果としての細胞障害を抑制する。
【0018】
本発明のポリグリセリンの抗ウイルス活性は、例えば、感染性ウイルスの一種であるインフルエンザウイルスH1N1型やH3N2型を用いた感染系で、その50%阻害濃度(IC50)が数百ppm〜数十%と極めて低濃度である。本発明のポリグリセリンがいかなる作用機序で抗ウイルス活性を示すかは明確ではないが、本発明の抗ウイルス剤は極めて高度なウイルス感染抑制効果を有する。なお、上記ppm、%は質量比率である。
【0019】
上記インフルエンザウイルスH1N1型やH3N2型を用いた感染系とは、後述の試験例1において示すように、所定濃度のインフルエンザウイルスと犬腎臓由来のMDCK細胞とを37℃で30分接触させ、2〜3日培養後に得られるプラーク(ウイルス感染によって細胞がはがれ落ちた穴)の数をもって感染細胞数を調べる系のことをいう。上記ポリグリセリンは、この感染系において数百ppm〜数十質量%と極めて低濃度のIC50を示す。
【0020】
また、本発明は上記重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンを有効成分として含有する抗ウイルス用組成物を提供する。例えば、本発明の抗ウイルス剤を溶媒中に溶解又は分散させた状態に調製することができる。用いる溶媒は一般的に用いられているものであればいずれのものでも用いることができ、特に限定されるものではない。具体例としては水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、キシレン、ブタノール、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、これらの溶媒を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、水を含む溶媒のpHは特に限定されず、適当な酸、アルカリ、重金属を除く金属イオンを用いて任意のpHに調整することができるが、2〜12のpHが安定性の上で好ましい。該本溶解液又は分散液中のポリグリセリンの濃度は任意の濃度で調製することができるが、製剤への配合性の面から下限は1質量%以上であることが好ましく、粘性や安定性の面から上限は50質量%以下であることが好ましい。
【0021】
さらに、重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンを有効成分として含有する抗ウイルス用組成物としては、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維製品、塗料、樹脂等の製剤が挙げられ、具体的には、うがい薬、点鼻薬、感冒薬等の医薬品、化粧用クリーム、洗顔剤、ボディソープ、ハンドソープ等の化粧品、シャンプー、リンス等の毛髪化粧料、キャンディー、グミ、飲料水等の食品、野菜、食器用洗剤、衣料用洗剤、柔軟剤等の洗浄剤、マスク、ティッシュ、手袋等の日用品、液を含浸させた身体又は物品用の拭き取り繊維製品等の繊維製品、ペンキ、ラッカー等の塗料や樹脂等を例示することができる。
【0022】
重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンの抗ウイルス用組成物中の配合量は特に限定されるものではなく、製剤の設計に影響がなければ任意の量の配合が可能であるが、ポリグリセリン換算で0.05〜20質量%であることが好ましく、0.1〜18質量%がより好ましく、0.15〜15質量%がさらに好ましい。ポリグリセリン換算で0.05質量%未満の配合量の場合、十分な抗ウイルス活性が得られないおそれがあり、20質量%を超えると、製剤組成上の不具合やコスト的な不具合が生じるといった問題が考えられる。特に、うがい薬、点鼻薬については、0.1〜2質量%が好ましい。
【0023】
本発明の抗ウイルス用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、本発明の抗ウイルス剤以外の既知の薬効成分や通常製剤に配合される任意成分を必要に応じて適宜配合することができ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの成分としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、油分、アルコール類、殺菌剤、抗炎症剤、鎮咳去痰薬、鎮痛剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、糖類、ビタミン類、アミノ酸類、生薬類、水等が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、調製例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記のppm、%は質量比率である。
【0025】
[調製例1]
分岐型ポリグリセリン:J.Am.Chem.Soc.Vol.124、p9698−9699(2002)に記載されたFreyらの方法に準じてポリグリセリンサンプルを調製した。
トリメチロールプロパン(関東化学製)8.05gにカリウムメトキシド(関東化学製)1.4gを加え60〜80℃減圧下でメタノールを留去させた。攪拌翼を供えた三口フラスコに移し、窒素雰囲気下95℃に加温した状態でグリシドール(関東化学製)56.9gを4.17mL/minの速度で添加し、さらに、4時間95℃で攪拌して反応を終了した。後処理として反応物に少量のメタノールを加え、反応物を溶解したのち、アセトンを加え静置後上層を廃棄した。この操作を2回繰り返し、下層を80℃真空下で溶媒を留去しPG1(重量平均分子量1000)43.9gを得た。同様にトリメチロールプロパンとカリウムメトキシドを反応させたものを、攪拌翼を供えた三口フラスコに移し、エチレングリコールジエチルエーテル1000gを添加後、窒素雰囲気下95℃に加温した状態でグリシドール456gを4.17mL/minの速度で添加し、さらに4時間95℃で攪拌して反応を終了した。同様に後処理を行いPG8(重量平均分子量8000)78gを得た。
【0026】
[調製例2]
直鎖型ポリグリセリン:Macromol.Chem.Phys.Vol.195、p139(1994)に記載されたTatonらの方法に準じてグリシドールとエチルビニルエーテルをp−トルエンスルホン酸を触媒としエトキシエチルグリシジルエーテルを合成した。
エトキシエチルグリシジルエーテル8.8gにカリウムtert−ブトキシド(関東化学製)0.7gを加え、120℃減圧下でブタノールを留去させた。攪拌翼を供えた三口フラスコに移し、窒素雰囲気下95℃に加温した状態でエトキシエチルグリシジルエーテル228.2gを4.17mL/minの速度で添加、さらに4時間95℃で攪拌して反応を終了した。反応混合物にTHF100g、塩酸5gを加え、80℃減圧下、THF完全に蒸発除去し、後処理として反応物に少量のメタノールを加え、反応物を溶解したのち、アセトンを加え静置後上層を廃棄する。この操作を2回繰り返し、下層を80℃真空下で溶媒を留去しPG2.5(重量平均分子量2500)7.8gを得た。
【0027】
また、これらに加えて下記のサンプルを実施例、比較例で使用した。
グリセリン:関東化学製、試薬1級
PG0.75:坂本薬品製直鎖型ポリグリセリン(商品名:ポリグリセリン#750)、重量平均分子量750
PG2:ハイパーポリマー社製分岐型ポリグリセリン(商品名:PG−2)、重量平均分量2000
PG6:ハイパーポリマー社製分岐型ポリグリセリン(商品名:PG−6)、重量平均分子量6000
【0028】
[試験例1:H1N1型インフルエンザ感染抑制試験]
特開2007−145777号公報に記載された測定法に準じて各サンプルのH1N1型インフルエンザウイルスに対する感染抑制作用を測定した。
H1N1型インフルエンザウイルス溶液(A型インフルエンザウイルス/PR/8/34を100個前後のプラークを形成する濃度に希釈した溶液)310μLと、表1に示す各サンプル溶液をそれぞれ310μLずつ混合し、合計620μLの検体を作製した。なお後述するようにサンプルの活性をIC50で評価するべく、各サンプルは10ppmから10%の濃度範囲で10倍ずつの希釈系列にて調製を行った。
【0029】
次に、6ウェルマイクロプレート中の培地を除去し、PBS(−)を1〜2mL/ウェル入れて細胞(MDCK細胞)表面を洗浄した。PBS(−)を除去後、上記の方法によって作製した検体620μLを、200μL/ウェルずつ入れ、37℃、5%CO2のインキュベーターで30分間インキュベートした。
【0030】
30分後、検体溶液を除去し、PBS(−)を1〜2mL/ウェル入れて細胞を洗浄した。次に、予め50℃に加温しておいた2%の寒天0.625mL/ウェル(Oxoid,LTD.、製品番号:L28)と1.475mL/ウェルの重層培地(6ウェル分では、2×MEM+BAを6.25mL、精製水を2.25mL、1%DEAEデキストランを0.125mL、7.5% NaHCO3を0.167mL、アセチルトリプシン(1mg/mL(PBS))を0.125mL)(2×MEM+BAとは、9.4g MEMを474mL MiliQ水に加え、高圧滅菌し、濾過滅菌した10mLのL−グルタミン溶液(×100、30mg/mL)及び10mLの1M Hepes(2.4g/10mL)、6mL 35%ウシ アルブミン(A−7409,Sigma)を加えた。)を混合し、これを2mL/ウェルずつ分注入した。室温で30分間静置し、寒天が固まったら反転して、37℃、5%CO2のインキュベーターで2日間インキュベートした。
【0031】
インフルエンザウイルスを感染させてから2日後、重層培地をはずし、プレートを乾燥させた。次に、クリスタルバイオレット染色液(50mg Crystal Violet/50mL 20%エタノール)を500μL/ウェル入れて、5分程度染色を行った後、5回精製水で洗い、風乾させた。最後に、プラークの数をカウントし、サンプルの活性は以下に記載したIC50にて評価した。
【0032】
IC50解析:同一サンプルで10倍ずつ濃度が異なるサンプルのプラーク数を3濃度分以上カウントした。サンプル無添加を対照としてサンプルのプラーク形成比(y)を求めた。サンプル濃度(x)に関してはLog変換(Log(x))を行い、プラーク形成比に関してはLogit変換(Log((y)/(1−y))を行った。両変数の回帰式を求め、Log((y)/(1−y))が0となるときの濃度をIC50として計算した。サンプルの活性が低くIC50が試験範囲内に収まらない場合は上記式の計算値をもってIC50とした。各サンプルについて計算したIC50の値を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
上記表1に示すとおり、重量平均分子量が1000未満や7000を超えるポリグリセリンのサンプルはIC50が非常に高かったが、本発明の重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンのサンプルは、充分に低いIC50を示し、特に分岐型ポリグリセリンは非常に低いIC50を示した。本発明の重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンには、H1N1型インフルエンザウイルスの感染を抑制する効果が認められた。
【0035】
[試験例2:H3N2型インフルエンザ感染抑制試験]
試験例1と同様に、特開2007−145777号公報に記載された測定法に準じて、H1N1型インフルエンザウイルスをH3N2型インフルエンザウイルスに変更し、各サンプルのH3N2型インフルエンザウイルスの感染抑制活性を測定し、抑制活性をIC50にて評価した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
上記表2に示すとおり、重量平均分子量が1000未満や7000を超えるポリグリセリンのサンプルはIC50が非常に高かったが、本発明の重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンのサンプルは、充分に低いIC50を示し、特に分岐型ポリグリセリンのサンプルは非常に低いIC50を示した。本発明の抗ウイルス剤にはH3N2型インフルエンザウイルスの感染を抑制する効果が認められた。
【0038】
以下に、本発明の抗ウイルス剤を配合した点鼻薬、うがい薬、ボディーソープ、リンス、ハンドソープ、柔軟剤、繊維製品、及び健康食品の配合例1〜8を示す。なお組成物中に記した香料は、特開2003−300811号公報に記載の香料に、ジブチルヒドロキシトルエンを0.001%添加したものである。下記の配合例1〜8は、いずれも抗ウイルス作用に優れており、安全性も良好なものであった。
【0039】
【表3】

※1 ハイパーポリマー社製(PG−2)
※2 坂本薬品株式会社製 日本薬局方グリセリン
【0040】
【表4】

※1 ハイパーポリマー社製(PG−2)
【0041】
【表5】

※1 ハイパーポリマー社製(PG−6)
※2 味の素株式会社 アミソフトLK−12
※3 ライオン化学株式会社 ホームリードCD
※4 ライオン化学株式会社 アロモックスDM12DW(C)
※5 東邦化学株式会社 オバゾリンLB−SF
※6 日本エマルジョン株式会社 エマレックス603
※7 信越化学工業株式会社 メトロースHPMC 65SH−1500
※8 ライオン化学株式会社 レオガードGP
※9 サイデン化学株式会社 サイビノールPE−2
【0042】
【表6】

※1 ハイパーポリマー社製(PG−6)
※2 ライオン化学株式会社製 XM−503LN、レオガードGP又はユニオン・カーバイド社製ポリマーJR400
【0043】
【表7】

※1 調製例2
※2 味の素株式会社 アミソフトLK−12
※3 ライオン化学株式会社 ホームリードCD
※4 ライオン化学株式会社 アロモックスDM12DW(C)
※5 ライオン化学株式会社製 XM−503LN、レオガードGP又はユニオン・カーバイド社製ポリマーJR400
【0044】
【表8】

※1 ハイパーポリマー社製(PG−2)
【0045】
【表9】

※1 調製例1
親水性不織布に上記調整液を含浸させて繊維製品を作製した(配合例7)。本繊維製品は任意に裁断、縫合して加工することが可能であり、また必要に応じて周囲を疎水性不織布で覆う加工を施すことも可能である。
【0046】
【表10】

※1 ダイセル化学工業株式会社製(分岐型、重量平均分子量3000)
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の抗ウイルス剤は、重金属成分等身体に毒性を有する成分を含有せずともウイルス感染を極めて効果に抑制できるので、優れた安全性を有し、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維製品、塗料、樹脂等の広範囲な分野に対し応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンからなる抗ウイルス剤。
【請求項2】
ポリグリセリンが分岐型ポリグリセリンであることを特徴とする請求項1記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
重量平均分子量が1000〜7000のポリグリセリンを有効成分として含有する抗ウイルス用組成物。

【公開番号】特開2010−18591(P2010−18591A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182604(P2008−182604)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】