説明

抗ウイルス剤

【課題】新たな抗ウイルス剤を提供すること。
【解決手段】緑茶成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤に関する。具体的には、本発明は、緑茶成分を有効成分とする抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新興ウイルス等がパンデミックに蔓延することもあり、ウイルス感染症が世界的な問題となっている。
中でも、インフルエンザウイルスによるインフルエンザは、世界で最も広く存在する人獣共通感染症の一つであり、新型インフルエンザウイルスがひとたび出現すると、短期間で人命が失われるだけでなく社会機能に甚大な影響を与える。
加えて、近年、ブタインフルエンザの国内発症、死者が認められ、更なる感染拡大が予想されている。
【0003】
インフルエンザの予防としては、ワクチン接種が主なものであり、インフルエンザの治療としては、ノイラミニダーゼ阻害薬やアマンタジン等が用いられている。
また、特許文献1には、抗ウイルス活性を持つ、カテキン等のフラボノイド単位を含む構造を持つプロアントシアニジンポリマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3448052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インフルエンザワクチン等のウイルスに対するワクチンは、抗原の絶えざる変異に対応する必要があり、その開発に時間と手間がかかるのが現状である。
また、従来の抗ウイルス剤に対しては、耐性を持つウイルスが出現している。
【0006】
そこで、抗原性に依存せずウイルスの感染を防ぎ、さらに人体に対し、有害な副作用を持たず安定して使用できる薬剤の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、緑茶成分を有効成分とする新規な抗ウイルス剤を見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
緑茶成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤。
[2]
前記緑茶成分が、エラジタンニン、エピガロカテキンガレート、及びそれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、[1]に記載の抗ウイルス剤。
[3]
前記エラジタンニンがストリクチニンである、[2]に記載の抗ウイルス剤。
[4]
前記ウイルスがインフルエンザウイルスである、[1]〜[3]のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[5]
前記インフルエンザウイルスがH1N1型である、[4]に記載の抗ウイルス剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新たな抗ウイルス剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ストリクチニンの構造式を示す。
【図2】ストリクチニンの抗インフルエンザウイルス活性の測定方法のプロトコールを示す。図中、プロトコール1〜4については、ストリクチニンを加えて反応を行った部分のみを示しており、ストリクチニンを加えていない部分は、全てcontrolと同条件で反応を行った。
【図3】図3Aは、プロトコール1(Attachment)及びプロトコール2(Entry)により反応した際の、抗インフルエンザウイルス活性の測定結果を示す。縦軸は、ウイルス価を、横軸はストリクチニンの濃度を示す。 図3Bは、プロトコール3により反応した際の、抗インフルエンザウイルス活性の測定結果を示す。縦軸は、ウイルス価を、横軸はストリクチニンの濃度を示す。
【図4】プロトコール1により反応した際の、ストリクチニン、エピガロカテキンガレート(EGCG)の抗インフルエンザウイルス活性の測定結果を示す。縦軸は、阻害率を、横軸は各化合物の濃度を示す。
【図5】vero細胞に感染させた場合の抗インフルエンザウイルス活性の測定結果を示す。縦軸は、ウイルス価を、横軸はストリクチニンの濃度を示す。
【図6】B型株(B/Lee/40)に対する抗インフルエンザ活性の測定結果を示す。縦軸は、感染率を、横軸は、ストリクチニンの濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明の抗ウイルス剤は、緑茶成分を有効成分として含有するものである。
本発明において、緑茶成分とは、緑茶に含まれる成分をいい、緑茶原料(例えば、茶葉)から抽出して得られた成分である。
緑茶成分として、エピガロカテキンガレートやストリクチニンのように緑茶に含まれる成分としての化合物であってもよく、緑茶原料から従来公知の方法により抽出して得られた緑茶抽出物であってもよい。緑茶自体を本発明の抗ウイルス剤として用いることもできる。また、緑茶成分として、エピガロカテキンガレートやストリクチニン以外のフラボノイド等の緑茶含有成分を含んでいてもよい。
【0013】
本発明において、「エピガロカテキンガレート」とは、エピガロカテキンと、没食子酸とのエステルであり、エピガロカテキンガレートの薬学的に許容可能な塩とは、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属とエピガロカテキンガレートとの塩、エピガロカテキンガレートのアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩などが挙げられる。
エピガロカテキンガレートとしては、生体内においてエピガロカテキンガレートを放出するプロドラッグであってもよい。
【0014】
本発明において、「エラジタンニン」とは、糖類と、没食子酸の二量体であるエラグ酸とを加水分解産物として分子内に有する化合物を意味し、加水分解性タンニンとも呼ばれる。
エラジタンニンとしては、例えば、ストリクチニン、ゲラニイン、ケブリン酸、エラエオカルプシン、ケブラグ酸、コリラギン、エンブリカニン、プニグルコニン、ペデュンキュラギン、コルヌシイン A、アグリモニイン、テリマグランジン、カスアリクチン、ルゴシン C、カスアリニン等が挙げられる。
エラジタンニンの薬学的に許容可能な塩とは、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属とエラジタンニンとの塩、エラジタンニンのアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩などが挙げられる。
エラジタンニンとしては、生体内においてエラジタンニンを放出するプロドラッグであってもよい。
【0015】
エピガロカテキンガレートやエラジタンニンは、緑茶等に広く含まれている成分であり、安全性が高い。
本発明で用いられるエピガロカテキンガレートやエラジタンニンとしては、安全性の観点から、緑茶葉の抽出物としてのエピガロカテキンガレートやエラジタンニンであってもよい。エピガロカテキンガレートやエラジタンニンは、市販品を用いてもよく、従来公知の方法により緑茶原料から抽出したものを用いてもよい。また、エピガロカテキンガレートやエラジタンニンを含む緑茶葉抽出物として用いてもよい。さらに、エピガロカテキンガレートやエラジタンニンは、緑茶葉以外の他の植物体などから得られたものであってもよい。
【0016】
本発明の抗ウイルス剤は、飲食品又は医薬品として用いることができる。
【0017】
エラジタンニンやエピガロカテキンガレートなどの緑茶成分は、飲食品として、特定保健用食品、栄養機能性食品、健康食品、機能性食品、健康補助食品等として利用できる他、清涼飲料水や食品の配合剤などとして利用することができる。また、既存の食品に緑茶成分を添加した強化食品であってもよい。
飲食品は、抗ウイルス作用を有する旨の表示を付した飲食品であってもよい。
エピガロカテキンガレートやエラジタンニンは、緑茶に多く含まれており、安全性の高い抗ウイルス剤として用いることができ、中でも、インフルエンザウイルスの型、亜型に依存せずに抗インフルエンザウイルス剤として、幅広く用いることができる。緑茶中のエピガロカテキンガレートやエラジタンニンは、新型インフルエンザ(H1N1型)を含めた種々の型のウイルスに対し、感染予防作用を示し、型に関係なくウイルス感染に有効であることから、緑茶がインフルエンザの予防に有効であることが示唆される。
【0018】
飲食品として好ましい形態は、飴、ゼリー、錠菓、飲料、スープ、麺、煎餅、和菓子、冷菓、焼き菓子等の食品や飲料であり、好ましくは、果汁飲料、野菜ジュース、果物野菜ジュース、茶飲料(緑茶飲料を含む)、コーヒー飲料、スポーツドリンク等の容器詰飲料である。
【0019】
エピガロカテキンガレートやエラジタンニンを含め緑茶成分は、飲食品として、液状又は固形形態で経口投与により摂取することが可能であり、それ自体又は適宜製剤上の都合で賦形剤等と混合して粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤等の形態で投与することができる。
【0020】
該緑茶成分を飲料に含有させる場合は、緑茶成分を添加した飲料であってもよく、緑茶抽出物として、緑茶葉から抽出した液を飲料として用いてもよい。該緑茶成分の含有量としては、特に限定されるものではないが、有効成分含量として、例えば、5ppm〜600ppmであることが好適であるが、好ましくは5ppm〜50000ppm、より好ましくは20ppm〜5000ppmである。
緑茶成分の植物体からの抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、植物体が茶である場合を例示すると、熱水等に茶葉を浸すことにより抽出する方法や、植物体の乾燥粉末を熱水等に懸濁させることにより抽出する方法が挙げられる。抽出液自体をそのまま茶飲料として抗ウイルス剤として用いてもよく、また、抽出液からエピガロカテキンガレートやエラジタンニンなどの緑茶成分を分離・精製して抗ウイルス剤として用いてもよい。
【0021】
緑茶成分は、医薬品として、薬学的に許容可能な賦形剤を添加して、医薬製剤として用いることができる。
医薬製剤としては、粉末、顆粒、錠剤等の公知の剤型に製剤化して用いることができ、液体、ペースト等の液剤として用いることもできる。
【0022】
医薬製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、チュアブル、トローチ等の経口剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、貼付剤等の外用剤、注射剤、舌下剤、吸入剤、点眼剤、坐剤などの剤型として用いることができる。
【0023】
医薬製剤は、動物、中でも哺乳類において、抗ウイルス剤として有用であり、動物、中でも哺乳類に投与することができる。
哺乳類としては、ヒトや、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ等の家畜動物などが挙げられ、ヒトであることが好ましい。
【0024】
本発明の緑茶成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤は、緑茶成分の下記摂取量又は投与量を達成できるように、飲食品として又は医薬品として、他の添加物と適宜混合した抗ウイルス組成物とすることができる。
エピガロカテキンガレートやエラジタンニンを含め、緑茶成分の摂取量又は投与量は、用途に応じて適宜調整することができるが、好ましくは1回1mg〜10000mgであり、より好ましくは1回5mg〜1000mg、さらに好ましくは1回10mg〜500mgである。
摂取回数又は投与回数は、特に限定されないが、好ましくは1日1〜3回であり、必要に応じて摂取回数を増減してもよい。
【0025】
緑茶成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤は、ウイルス性疾患の予防又は治療に用いることができる。
ウイルスとしては、ヒトパラインフルエンザウイルスや、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス等のエンベロープを持つウイルスなどが挙げられる。
中でも、本発明の抗ウイルス剤は、抗インフルエンザウイルス剤としてインフルエンザの予防又は治療に用いることができる。緑茶成分は、茶に含まれる成分でもあるので、インフルエンザの予防作用を有する安全性が高い抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として用いることができる。また、本発明における緑茶成分を含有する飲食品、例えば、緑茶等を、日常的に摂取することにより、インフルエンザの予防に有効である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
以下の実験で用いたインフルエンザウイルスは、以下のように調製した。
10日目の発育鶏卵の漿尿腔にウイルスを接種し、34℃で2日間培養し、さらに4℃で一晩放置後、ウイルスを含む漿尿液を得た。この漿尿液を4℃、3000rpm(日立SCR20B遠心機,RPR9ローター)で細胞片を除去後、上清を4℃、8500rpm(日立SCR20B遠心機,RPR9ローター)で3時間遠心分離した。上清を除去して得られたペレットをリン酸緩衝液(131mM NaCl,14mM Na2HPO4,1.5mM KH2PO4,2.7mM KClをpH7.2で含む。以下、該リン酸緩衝液を「PBS」と記載する場合がある。)で懸濁して濃縮ウイルスを得た。この濃縮ウイルスを50%(v/v)グリセロール−PBS溶液に重層したショ糖密度勾配遠心法により、4℃、38000rpm(日立CP65B超遠心機,P40STローター)で2時間遠心して、ウイルスのバンドを分離した。分離して得られた精製ウイルスを以下の実験で用いた。
精製濃縮したウイルスは、HSFM(場合により、ストリクチニン等を含んでもよい)に懸濁させて以下用いた。
ヒトインフルエンザウイルス株として、A/Memphis/1/71(H3N2)、A/Aichi/2/68(H3N2)、A/Shizuoka/838/2009(H1N1)、A/Puerto Rico/8/34(H1N1)(以下、「A/PR/8/34」と記載する場合がある。)を使用した。トリインフルエンザウイルス株として、A/duck/313/4/78(H5N3)を、豚インフルエンザウイルス株として、A/swine/Hokkaido/10/85を使用した。
【0028】
赤血球凝集活性(HAU)の測定は以下のとおりに行った。
マイクロプレート(Falcon 3911 Test3TM Flexible Assay Plate)にPBS(50μL)を加え精製ウイルスを倍々希釈した。0.5%(v/v)モルモット赤血球−PBS懸濁液(50μL)を加え、30秒間振とう後、4℃で2時間静置して凝集像を観察した。赤血球凝集活性(HAU)は赤血球の凝集が認められた最高希釈倍数で表した。
【0029】
(1−1.抗インフルエンザウイルス活性)
ストリクチニンのA型インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザウイルス活性を、以下のプロトコール1〜4の方法に従って反応させて、感染細胞からの上清中のウイルス感染価をfocus−formingアッセイにより測定した。プロトコール1〜4の詳細を、図2及び以下に示す。
Madin−Darby canine kidney(MDCK)細胞(国立遺伝学研究所より分与されたものを用いた。)を5%(v/v)の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS:Fetal bovine serum)(バイオロジカルインダストリー)及び50μg/mLのゲンタマイシン(Gibco)を添加した最小必須培地(MEM:ニッスイ製薬)で培養した。
【0030】
プロトコール1では、96wellマイクロプレートに、培養したMDCK細胞を約1.5×104細胞/wellで加え、37℃で、12時間培養して、該細胞をプレートに接着させた。PBSを加え、上清を除去することにより3回洗浄を行った。洗浄後、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
様々な濃度(0−50μM)のストリクチニン(長良サイエンス)を含有するHSFM(Hybridoma−SFM complete DPM,インビトロジェン)とウイルスの混合液(100μL/well)を、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、0−50μMの同濃度のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)を加え、37℃で1時間反応させた。その後、MDCK細胞は、HSFMで同様に洗浄し、次いで、0−50μMの同濃度のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)と37℃で12時間反応させた。
【0031】
プロトコール2では、96wellマイクロプレートに培養したMDCK細胞を約1.5×104細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFMとウイルスの混合液を加え、ウイルス吸着のために、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、プロトコール1での0μMのストリクチニンの場合と同様に(ストリクチンンを含有しない、HSFMで)、37℃で1時間、次いで、洗浄後、37℃で12時間反応させた。
【0032】
プロトコール3では、96wellマイクロプレートに培養したMDCK細胞を約1.5×104細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
ストリクチンンを含有しない、HSFMとウイルスの混合液(100μL)を、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)を加え、ウイルス取り込みのために、37℃で1時間反応させた。その後、MDCK細胞は、HSFM(100μL/well)で同様に洗浄し、次いで、ストリクチンンを含有しない、HSFM(100μL/well)と37℃で12時間反応させた。
【0033】
プロトコール4では、12wellプレートに培養したMDCK細胞を約1.5×104細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
ストリクチニンを含有しない、HSFMとウイルスの混合液(100μL/well)を、氷浴で1時間、MDCK細胞と反応させた。未吸着のウイルスを除くために、HSFM(100μL/well)でMDCK細胞を3回以上洗浄した。そして、ストリクチンンを含有しない、HSFM(100μL/well)と37℃で1時間、反応させた。その後、MDCK細胞は、HSFM(100μL/well)で同様に洗浄し、次いで、様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFM(100μL/well)を加え、ウイルス複製のために、37℃で12時間反応させた。
【0034】
focus−formingアッセイは、Biol.Pharm.Bull.,2009,32,1188−1192の方法により、.以下のように行った。
ウイルスと反応させたMDCK細胞を30秒間、氷冷メタノールで固定化し、メタノールを除去後、PBSで4倍に希釈した抗NPモノクローナル抗体溶液(MAb J.Virol.,2008,82,5940−5950に記載の方法により、マウスにインフルエンザウイルスを免疫し、脾臓細胞を採取し、一般的な方法でハイブリドーマを作製し、MAbを得た。)と30分間反応した。次いで、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギIgG(ジャクソン・イムノ・リサーチ、PBSで3000倍希釈した。)を加え、室温で30分間培養した。ウイルス感染した細胞を、DEPDA発色液(1.2mM N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン二塩酸塩、0.003% 過酸化水素、2mM 4−クロロ−1−ナフトールを含む100mM クエン酸緩衝液(pH6.0))を50μL添加して検出した。全ての画像は、OLYMPUS SZX7を用いて、拡大倍率12倍で、フォトショップソフトウェアを用いてウイルス感染細胞をカウントした。
【0035】
プロトコール1−3でのウイルス価の測定結果(n数=3)を、図3に示す。
【0036】
EGCG(長良サイエンス)とストリクチニンを用いてプロトコール1の方法と同様に培養を行って、抗インフルエンザウイスル活性を測定した。
プロトコール1での、ストリクチニン、EGCGの測定結果(n数=3)を図4に示す。
【0037】
プロトコール1に従い、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)に代えて他のインフルエンザウイルスを用いて測定したストリクチニンの阻害活性を表1に示す。また、ストリクチニンに代えて、EGCG、アマンタジンについても同様にの抗インフルエンザウイルス活性を測定した。その結果を表1に示す。測定はそれぞれ3回行った。
【0038】
【表1】

【0039】
(1−2.抗インフルエンザウイルス活性)
ストリクチニンのA型インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザウイルス活性をvero細胞を用いて、focus−formingアッセイにより測定した。
vero細胞(理化学研究所バイオリソースセンターから入手したものを用いた)を5%(v/v)の熱不活化ウシ胎仔血清(FBS:Fetal bovine serum)(バイオロジカルインダストリー)及び50μg/mLのゲンタマイシン(Gibco)を添加したMEM培地(ニッスイ製薬)で培養した。
12wellプレートに、培養したvero細胞を約1.5×105細胞/wellで加え、A型H3N2株(A/Memphis/1/71)を1FFU/細胞で反応させた。
vero細胞は、ウイルスと共に、様々な濃度(0−50μM)のストリクチニンを含有するHSFMと37℃で48時間反応させた。
ウイルス感染した細胞を、focus−formingアッセイにより測定した。測定結果を図5に示す。測定はそれぞれ2回行った。
【0040】
(1−3.抗インフルエンザウイルス活性)
ストリクチニンのB型インフルエンザウイルスに対する抗インフルエンザウイルス活性をfocus−formingアッセイにより測定した。
12wellプレートに培養したMDCK細胞を約1.0×105細胞/wellで加え、B型株(B/Lee/40)を0.001FFU/細胞で反応させた。
MDCK細胞は、ウイルスを含むプレ培養混合物と共に、様々な濃度(0−30μM)のストリクチニンと34℃で1時間反応させた。HSFMでMDCK細胞を洗浄した。そして、0−30μMの同濃度のストリクチニン、1.2%のアビセル(FMC Corporation,USA)、2μg/mLのアセチル化トリプシンを含有するHSFMで34℃で48時間培養した。
ウイルス感染した細胞を、focus−formingアッセイにより測定した。測定結果(n数=3)を図6に示す。
【0041】
ストリクチニンのMDCK細胞に対する細胞障害性は、死細胞から放出されるラクトースデヒドロゲナーゼ活性を測定することにより測定した。
ストリクチニンは、0−200μMの用量範囲でMDCK細胞に対して、細胞障害性を示さなかった。
【0042】
上記実験により、緑茶成分である、エピガロカテキンガレートや、エラジタンニンの1種であるストリクチニンが抗インフルエンザウイルス阻害活性を有することが分かった。また、ストリクチニンは、細胞へのウイルス感染時に添加することにより、A型インフルエンザウイルスの複製を用量依存的に阻害することが分かった。また、ストリクチニンは、インフルエンザウイルス細胞への付着・侵入時の感染初期の段階を阻害すると考えられ、斯かる阻害作用によりストリクチニンは従来にない強力な阻害活性を有するものである。また、ストリクチニンを用いて該作用を利用した抗インフルエンザウイルス阻害作用を有する化合物のスクリーニングにおいても用いることができる。また、ストリクチニンは、B型インフルエンザウイルスに対しても阻害活性を有することが確認された。ストリクチニン及びエピガロカテキンガレートなどの緑茶成分は、表1に示されているように、広範な亜型のインフルエンザウイルスに対しても阻害活性を有するので、高病原性トリインフルエンザのH5N1型ウイルスや、ブタインフルエンザのH1N1型ウイルス等に対しても阻害活性を有すると考えられる。また、A型、B型、C型のいずれの型に対してもインフルエンザの阻害活性を有するものであり、かつ、感染初期の段階を阻害する作用メカニズムから、インフルエンザ予防剤として有効である。
また、本実施例により、緑茶がインフルエンザの予防に有効であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明において、緑茶成分は抗ウイルス作用を有する。中でも、エピガロカテキンガレートやエラジタンニンは、医薬品及び食品用の抗インフルエンザ予防・治療剤として産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑茶成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記緑茶成分が、エラジタンニン、エピガロカテキンガレート、及びそれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記エラジタンニンがストリクチニンである、請求項2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
前記インフルエンザウイルスがH1N1型である、請求項4に記載の抗ウイルス剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−126834(P2011−126834A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288431(P2009−288431)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】