説明

抗ウイルス剤

【課題】 水酸基を1つ有するヒドロキシ脂肪酸とグリセリンとのモノエステルの抗ウイルス活性を明らかにし、新規な抗ウイルス剤を提供すること。
【解決手段】 グリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とすることを特徴とする。本発明の抗ウイルス剤は、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗ウイルス対象物の配合成分として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス剤に関し、特にグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗ウイルス剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウイルス疾患に対する対策は、ワクチンによる予防が最大の策であるが、ワクチン開発の困難なウイルス性疾患も多く、また、発病後に有効な抗ウイルス剤は非常に限られている。昨今、社会的な問題となっている新型鳥インフルエンザウイルスの治療薬タミフルに対する耐性ウイルスの出現など、新興、再興するウイルス疾患に対する予防、治療対策が急務とされている。
【0003】
従来からの技術として、薬理作用のない基剤と、脂肪酸及びそのモノグリセリドから成るグループから選んだ有効量の1種類または複数種類の化合物と、を本質的成分とする抗ウイルス性調合薬がある(特許文献1参照)。特許文献1には、脂肪酸モノグリセリドの構成脂肪酸として、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライデン酸、リノール酸、リノレイン酸等の飽和または不飽和脂肪酸が開示されている。
【0004】
しかし、上記脂肪酸モノグリセリドの構成脂肪酸は、飽和または不飽和脂肪酸であり、水酸基を1つ有するヒドロキシ脂肪酸とグリセリンとのモノエステルを有効成分とする抗ウイルス剤については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平02−502915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、水酸基を1つ有するヒドロキシ脂肪酸とグリセリンとのモノエステルの抗ウイルス活性を明らかにし、新規な抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、グリセリンリシノール酸モノエステルがインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス作用を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 グリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗ウイルス剤。
〔2〕 前記〔1〕記載の抗ウイルス剤を含有する皮膚外用剤。
〔3〕 グリセリンリシノール酸モノエステルを食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗ウイルス対象物に配合して、該抗ウイルス対象物の抗ウイルス力を高める方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、インフルエンザウイルスに対して優れた抗ウイルス活性を有する抗ウイルス剤が提供される。本発明の抗ウイルス剤は、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明品の抗ウイルス活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗ウイルス剤は、上述したとおり、グリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする点に特徴がある。グリセリンリシノール酸モノエステルとは、リシノール酸1分子とグリセリン1分子とがエステル結合した化合物である。
【0012】
本発明の抗ウイルス剤は、主にエンベロープを有するウイルスに対して優れた抗ウイルス活性を示す。エンベロープを有するウイルスとしては、例えば、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、SARS関連コロナウイルス、トガウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、ラブドウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルスなどが挙げられる。
【0013】
グリセリンリシノール酸モノエステルは公知の方法で製造することができ、例えば、化学触媒または酵素(リパーゼ)を用いてリシノール酸とグリセリンとをエステル化する方法を挙げることができる。本発明では、上記の方法のうち、温和な条件で製造できる点で、リパーゼを用いる方法が好適である。
【0014】
触媒として使用されるリパーゼは、グリセリド類を基質として認識するものであれば特に限定されない。例えば、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ、トリグリセリドリパーゼ、クチナーゼ、エステラーゼなどが挙げられる。これらの中でもリパーゼが好ましく、特に脂肪酸トリグリセリドを基質としてほとんど認識せず、脂肪酸モノグリセリドを基質として認識するリパーゼが好ましい。このようなリパーゼとして、モノグリセリドリパーゼが挙げられる。
【0015】
上記の性質を有するリパーゼとしては、例えば、ペニシリウム(Penicillium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、バシラス(Bacillus)属、キャンディダ(Candida)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、シュードチマ(Pseudozyme)属などの微生物由来のリパーゼが用いられる。より好ましくはペニシリウム(Penicillium)属、バシラス(Bacillus)属由来のリパーゼである。これらのリパーゼは一般に市販されており、容易に入手可能である。
【0016】
リパーゼは精製(粗精製および部分精製を含む)されたものを用いてもよい。さらに、遊離型のまま使用してもよく、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウムなどの担体に固定化して使用してもよい。
【0017】
エステル化反応に使用されるリパーゼの量は、反応温度、反応時間、圧力(減圧度)などにより適宜決定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは反応混合液1g当たり1単位(U)〜10000Uである。酵素活性の1Uとは、リパーゼの場合、オリーブ油の加水分解において1分間に1μモルの脂肪酸を遊離する酵素量をいう。モノグリセリドリパーゼの場合は、オレイン酸モノグリセリドの加水分解において、1分間に1μモルのオレイン酸を遊離する酵素量である。
【0018】
エステル化反応に使用されるリシノール酸は、遊離型、金属塩型、およびエステル型のいずれの形態でもよい。本発明においては、エステル化反応が進行しやすい点で、遊離型が好ましい。
【0019】
エステル化反応に使用されるグリセリン量は特に限定されない。通常、遊離型のリシノール酸1モル量に対して、好ましくは1〜10倍モル量、より好ましくは1.5〜5倍モル量である。
【0020】
本発明では、エステル化反応において反応温度、反応時間、圧力(減圧度)などを適宜調整することにより、グリセリンリシノール酸モノエステルを純度よく製造することができる。反応温度は好ましくは30〜60℃であり、反応時間は好ましくは30〜60時間であり、圧力は好ましくは2〜30mmHgである。また、リパーゼの活性を維持するため、リシノール酸とグリセリンの合計量に対して0.3〜3重量%の水を添加することが好ましい。
【0021】
エステル化反応は静置反応でもよいし、各種の撹拌法、振盪法、超音波法、窒素などの吹き込み法、ポンプなどによる循環混合法、弁またはピストンを用いる混合法などにより、あるいはこれらの組み合わせにより、反応液を混合しながら行ってもよい。
【0022】
反応混合液から、グリセリンリシノール酸モノエステルを単離・精製する方法としては、任意の単離・精製法を採用し得る。単離・精製方法としては、例えば、脱酸、水洗、蒸留、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、膜分離など、およびこれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0023】
本発明の抗ウイルス剤は、上記種々のウイルスに対して優れた抗ウイルス活性を示す。このため、例えば、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材などを抗ウイルス対象物として本発明の抗ウイルス剤を配合すれば、該抗ウイルス対象物の抗ウイルス効果を高めることができる。その実施態様としては、例えば、本発明の抗ウイルス剤を抗ウイルス対象物に配合し、該抗ウイルス剤が抗ウイルス作用促進のために用いられるものである旨の表示を付して抗ウイルス対象物を販売等する態様を例示することができる。
【0024】
本発明の抗ウイルス剤は、上述したグリセリンリシノール酸モノエステルのみからなるものであってもよく、それ以外に、水、エタノール、プロパノール等の分散媒;澱粉等の分散促進剤等を含有させることができる。抗ウイルス対象物中における本発明の抗ウイルス剤の含量は、有効成分であるグリセリンリシノール酸モノエステルが通常0.0001〜50重量%、好ましくは0.001〜10重量%の範囲で含有されるように設定すればよい。
【0025】
本発明の抗ウイルス剤には、任意成分として抗菌剤の1種または2種以上を含有させることができる。使用し得る抗菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、オフロキサシン、ヨウ素、フッ化ナトリウム、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ベンズイミダゾール系の殺菌剤、銀、銅などの金属イオン、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、エタノール、プロピレングリコール、ポリリジン、リゾチーム、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、桑白皮エキス、アシタバ抽出エキス、香辛料抽出物、ポリフェノールなどの植物抽出物エキスなどが挙げられる。
【0026】
本発明の抗ウイルス剤の形態は、上述した抗ウイルス対象物に応じて適宜変更可能であり、例えば、粒状、ペースト状、固形状、液体状などが採用できる。
【0027】
上述した抗ウイルス対象物に本発明の抗ウイルス剤を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗ウイルス剤は配合特性に優れるので、製造された種々の抗ウイルス対象物から該抗ウイルス剤が結晶として析出することはない。
【0028】
本発明の抗ウイルス剤は、皮膚外用剤の抗ウイルス成分としても配合することができ、このようにすることで、該皮膚外用剤の抗ウイルス力を高めることができる。皮膚外用剤中における本発明の抗ウイルス剤の含量は、有効成分であるグリセリンリシノール酸モノエステルが通常0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜1重量%の範囲で含有されるように設定すればよい。
【0029】
本発明の皮膚外用剤には、本発明の抗ウイルス剤の他、通常の皮膚外用剤に用いられる各種任意成分を配合することができる。各種任意成分としては、例えば、精製水、アルコール類、油性成分、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、保湿剤、粉体、香料、色素、乳化剤、pH調整剤、セラミド類、ステロール類、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗炎症剤、他の抗菌剤などが挙げられる。
【0030】
具体的には、油性成分としては、流動パラフィン、ワセリン、固形パラフィン、ラノリン、ラノリン脂肪酸誘導体、ジメチルポリシロキサン、高級アルコール高級脂肪酸エステル類、脂肪酸、長鎖アミドアミン類、動植物油脂などが挙げられ、界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、イソステアリルグリセリンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸塩、N−ステアリロイル−N−メチルタウリン塩、ラウリルリン酸、リン酸モノミリスチル、リン酸モノセチル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどが挙げられ、増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン、ゼラチンなどの水溶性高分子化合物が挙げられ、保湿剤としては、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどが挙げられ、粉体としては、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、シリカ、ベントナイト、亜鉛華、雲母などが挙げられる。
【0031】
皮膚外用剤の形態は特に限定されず、使用用途に応じて、クリーム状、ジェル状、乳液状、ローション状、軟膏状、パウダー状、ハップ剤、粉末剤、滴下剤、貼付剤、エアゾール剤などが採用できる。
【0032】
皮膚外用剤に本発明の抗ウイルス剤を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗ウイルス剤は配合特性に優れるので、製造された皮膚外用剤から該抗ウイルス剤が結晶として析出することはない。
【実施例】
【0033】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0034】
1.グリセリンリシノール酸モノエステルの合成例
1−1.リパーゼの固定化
担体(住化ケムテックス社製、弱塩基性陰イオン交換樹脂、商品名「Duolite A-568K」)を1/10N NaOH中で30分間撹拌し、担体をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、次いで200mMリン酸緩衝液(pH7)を加えてpHを平衡化した。pHが平衡化された担体を含むリン酸緩衝液に対してエタノール置換を10分間行い、次いで酵素活性を維持するため、リシノール酸/エタノール=1/10(重量比)の溶液を用いて20分間リシノール酸を担体に吸着させた。続いて、リシノール酸を吸着させた担体をろ過した後、該担体に200mMリン酸緩衝液(pH7)を加えて洗浄した。そして、洗浄後の担体をろ過して回収し、担体1gに対して5000U/mlのリパーゼ溶液(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)2mlを2時間接触させ、リパーゼを担体に固定化させた。最後に、リパーゼを固定化した担体をろ過して担体を回収し、イオン交換水で洗浄したものを固定化酵素として以後の反応に供した。
【0035】
1−2.合成反応
約30mlのバイアル瓶中に、10gのリシノール酸/グリセリン(1/3(モル比))の混液、0.1gの水、および「1.1リパーゼの固定化」で調製した0.5gの固定化酵素を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、50℃、15mmHgで48時間反応させた。反応終了後、油層のリシノール酸モノグリセリドの含量が80重量%の組成物を得た。得られた反応品を薄層クロマトグラフにて繰り返し抽出し、グリセリンリシノール酸モノエステルの含量が96%の精製物を得た。
【0036】
2.グリセリンリシノール酸モノエステルの抗インフルエンザウイルス活性の測定
2−1.試験材料
・試験ウイルス:インフルエンザウイルスA型(以下、「Flu−A」という)PR8株を用いた。
・使用細胞:MDCK細胞(イヌ腎細胞)(入手先:大日本製薬(株))を用いた。
・細胞増殖培地:ダルベッコの最小必須培地(DMEM)に10%ウシ胎児血清(FBS)を添加した培地を用いた。
・細胞維持培地:DMEMに0.1%ウシ血清アルブミン及び0.25%トリプシンを添加した培地を用いた。
・被検液:グリセリンリシノール酸モノエステルをDMEMに混合分散し、グリセリンリシノール酸モノエステル濃度を1111ppm、333ppm、111ppmとしたもの。
【0037】
2−2.ウイルス浮遊液(Flu−A原液)の調製
MDCK細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養し、フラスコから細胞増殖培地を除き、試験ウイルスを接種した。次に、細胞維持培地を加えて5%CO存在下において37℃で2〜7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を遠心分離(3,000 r/min、10分間)し、得られた上澄みをウイルス浮遊液(Flu−A原液)とした(2×10TCID50/ml)。
【0038】
2−3.試験操作
各被検液450μlにFlu−A原液50μl(2×10TCID50/ml)を加え、攪拌下、室温(25℃)で60秒間反応させた(以下、これを「反応液」という)。なお、前記反応液中のグリセリンリシノール酸モノエステルの濃度は、1000ppm,300ppm、100ppmとなる。反応終了後、1%ウシ血清アルブミンを含み、さらにMg2+,Ca2+を含まない450μlのリン酸緩衝液(以下、「PBS(−)」という)に上記各反応液50μlを加えて10−1希釈液とし、順次10−2〜10−6の10倍段階希釈液を作製した(4℃)。
なお、被検液に代えてDMEMを対照とし、上記と同様に試験操作を行なった。
【0039】
2−4.ウイルス感染価の測定
細胞増殖培地を用い、MDCK細胞を組織培養用24穴マイクロプレート内で単層培養した後、細胞増殖培地を除きDMEMで1回洗浄し、次いで細胞維持培地を1mlずつ加えた。続いて、各ウェルに上記で調製した各希釈液100μlを4穴ずつに接種し、5%CO存在下において37℃で5日間培養した。
培養後、細胞を2.5%クリスタルバイオレット/30%エタノール/1%シュウ酸アンモニウム溶液で固定/染色し、PBS(−)で2回洗浄、脱色後、紫外線下で殺菌乾燥した。
細胞変性効果(CPE)の有無を観察し、Reed-Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出し、反応液1ml当たりのウイルス感染価に換算した。表1に結果を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されるとおり、反応液中のグリセリンリシノール酸モノエステルの濃度が100ppmから300ppmに増えたときにTCID50が1/100に減少したことから、グリセリンリシノール酸モノエステルはインフルエンザウイルスA型に対して抗ウイルス活性を有することが分かった。
【0042】
3.グリセリンリシノール酸モノエステル入りハンドローションのウイルス不活性化試験
被検液として表2に示す被検液1(本発明品)と被検液2(比較品)を用いたこと、被検液1とFlu−A原液との反応時間を0,10,20,30,60秒とし、被検液2とFlu−A原液との反応時間を0,60秒としたこと以外は、上記「2.グリセリンリシノール酸モノエステルの抗インフルエンザウイルス活性の測定」と同様の方法で試験を行ない、反応液1ml当たりのウイルス感染価を求めた。図1に結果を示す。
【0043】
【表2】

【0044】
図1に示されるとおり、被検液2(比較品)のハンドローションにFlu−A原液を加えても、TCID50/mlの値は60秒後も変化しなかった。一方、グリセリンリシノール酸モノエステル入りの被検液1(本発明品)にFlu−A原液を加えた場合、20秒反応させるとTCID50/mlの値が被検液2と比べて1/20に減少し、60秒間反応させるとTCID50/mlの値が被検液2と比べて1/2000に減少した。本結果から、グリセリンリシノール酸モノエステルを含有する被検液1はインフルエンザウイルスA型に対して優れた抗ウイルス活性を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の抗ウイルス剤は、優れた抗ウイルス活性を有し、配合特性にも優れるので、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗ウイルス対象物の配合成分として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗ウイルス剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項3】
グリセリンリシノール酸モノエステルを食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗ウイルス対象物に配合して、該抗ウイルス対象物の抗ウイルス力を高める方法。



【図1】
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【公開番号】特開2012−229184(P2012−229184A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99392(P2011−99392)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】