説明

抗ウイルス性を有する部材

【課題】エンベロープの有無に関係なく、また、脂質やタンパク質の存在下でも付着したウイルスを不活化できる抗ウイルス性を有する部材を提供する。
【解決手段】抗ウイルス性を有する部材100は、付着したウイルスを不活化できる部材であって、少なくとも表面の一部が無機材料からなる基体1と、基体1の無機材料部分に固着した金微粒子2と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス性を有する部材に関し、特にエンベロープの有無に関わらず、また脂質やタンパクの存在下でも、付着した様々なウイルスを不活化することができる抗ウイルス性を有する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。さらに、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面し、特に2009年には口蹄疫などのウイルスによる大きな被害も出てきており、緊急の対策が急務である。このような事態に対応するために、ワクチンによる抗ウイルス剤の開発も急がれているが、ワクチンの場合、その特異性により、感染を防ぐことができるのは特定のウイルスに限定される。さらに、ノロウイルスにおいてはワクチンができていないなど課題がある。また、病院や診療所においては、保菌者あるいは感染者によって院内へ持ち込まれたMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や抗生剤投与によって黄色ブドウ球菌からMRSAへと変異した株が、患者から直接、あるいは医療従事者、または白衣やパジャマ、シーツなどの使用物品、壁やエアコンなどの設備を含む環境 を介して、患者・医療従事者に接触感染を生じる院内感染が社会的にも大きな問題になってきている。したがって、様々なウイルスやバクテリアに有効な、殺菌、抗ウイルス効果を発揮することができる抗ウイルス性を有する部材の開発が強く望まれている。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、銀イオン、銅イオンなどの抗菌性金属イオンが担持された無機多孔結晶を樹脂の内部に含有した複合体を用いたウイルス不活化シートがある(特許文献1)。また、ヨウ素−シクロデキストリン包接化物を溶解したウイルス不活化剤というものも報告されている(特許文献2、3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−291031号公報
【特許文献2】特開2006−328039号公報
【特許文献3】特開2007−39395号公報
【特許文献4】特開2007−39396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂の内部に無機多孔結晶を含有する方法では、繊維状の布帛には適用できるものの、繊維を用いないフィルムやシート、さらに無機材料については適用ができない。また、ヨウ素を用いたウイルス不活化剤は水溶性のため、含浸などで布帛やシートに適用しても、水に濡れると簡単に成分が溶け出してしまう。
【0006】
ここで、ウイルスは、ノロウイルスなどのエンベロープを持たないウイルスと、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを持つウイルスに分類でき、エンベロープを持つウイルスを不活化できる薬剤であっても、エンベロープを持たないウイルスには作用しない場合がある。さらに、不活化シートをマスクに貼着したり、手術用防護服や、枕カバーなどに用いたりするような場合は、感染者の口や鼻に接触して使用される物品であるため、血液や唾液などの体液に含まれる脂質やタンパク質が付着する場合もある。したがって、脂質やタンパク質の存在する環境下でもウイルスを不活化できることが好ましいが、上記文献ではそのような検証についてもなされていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、エンベロープの有無に関係なく、また、脂質やタンパク質の存在下でも付着したウイルスを不活化できる抗ウイルス性を有する部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち第1の発明は、付着したウイルスを不活化できる部材であって、少なくとも表面の一部が無機材料からなる基体と、該基体の無機材料部分に固着した金微粒子と、を含むことを特徴とした抗ウイルス性を有する部材である。
【0009】
なお、本明細書において、抗ウイルス性を有する部材とは、ウイルス不活化性(ウイルスの感染力低下ないし失活)を有する部材を意味する。したがって、ウイルスを不活化することを目的とするシート体のほか、例えば装飾等を目的とする壁紙やタイル等、建材も含む概念である。また、本明細書において、抗ウイルス性とウイルス不活化性とは同義で用いている。
【0010】
さらにまた第2の発明は、前記第1の発明において、前記基体が、繊維構造体からなることを特徴する抗ウイルス性を有する部材である。
【0011】
さらにまた第3の発明は、前記第1または第2の発明の抗ウイルス性を有する部材を用いたフィルターである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば飛沫や血液などのタンパク存在下においても、シート表面などに付着したウイルスを不活化することができる抗ウイルス性を有する部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態の抗ウイルス性を有する部材の断面の模式図である。
【図2】第2の実施形態の抗ウイルス性を有する部材の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態について、図1を用いて詳述する。
【0015】
図1は、本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の断面の一部を拡大した模式図である。本実施形態の抗ウイルス性を有する部材100は、少なくとも表面の一部が無機材料からなる基体1と、該基体1の無機材料部分に固着した抗ウイルス性を有する金微粒子2から、構成されている。
【0016】
ウイルス不活化のメカニズムについては、現在のところ必ずしも明確ではないが、遷移金属あるいは貴金属微粒子は、無機酸化物に担持することで非常に高い酸化触媒能を持つようになるため、接触したウイルスの細胞膜表面がダメージを受け、不活化すると推測される。
【0017】
第1実施形態の基体1の材料については、少なくとも金微粒子2が固着する部分が無機材料であればよく、特に限定されるものではないが、表面に酸化物が形成されていることがより好ましい。このような物質としては合成樹脂、天然樹脂などの表面にめっきやスパッタなどで無機層を形成したものや、タイル、ガラス、セラミック、ファインセラミック、金属、無機酸化物、およびこれらの合金や複合体が用いられる。本発明の抗ウイルス性を有する部材100をフィルターとして用いる場合、使用環境に制限は無いが、特に高温下で使用する場合には、無機材料のほか耐熱性のある耐熱性樹脂に無機層を形成したものが好適に用いられる。
【0018】
具体的な合成樹脂、天然樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFE(polytetrafluoroethylene)などの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆などが挙げられる。
【0019】
また具体的な耐熱性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネートポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、カーボンファイバー、超高分子ポリエチレンなどのエンジニアプラスチックや、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドポリアリレート、ポリアミドイミ ド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ETFEやPTFEなどのフッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックや、 ポリフェノール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの耐熱性熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0020】
さらに具体的なタイルとしては、陶器、せっ器、磁器の他、コンクリートやガラス、プラスチックなどが挙げられる。
【0021】
さらに具体的なガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、有機ガラス、ウランガラス、アクリルガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、及びサフィレットなどが挙げられる。
【0022】
さらに具体的なセラミックの組成としては、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系、あるいはそれらの複合物が用いられ、ファインセラミックスである場合には、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボン、ニューガラスなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのセラミックスを用いることが可能である。
【0023】
さらに具体的な金属としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM、W-Reなどの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金及びその合金、ステンレス鋼、亜鉛及びその合金、マグネシウム及びその合金、などの汎用金属、また、各種めっき及び真空蒸着や、CVD法や、スパッタ法などで処理した無機材料が用いられる。さらに、材料の表面に酸化物の薄膜が形成されていることが好ましく、公知の方法により化学的に酸化薄膜を形成したり、陽極酸化などの電気化学的な公知の方法により酸化薄膜を形成することが好ましい。
【0024】
さらに具体的な無機酸化物としてはチタニアや、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などが好適に用いられる。さらに、本実施形態の無機酸化物には、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫などからなる金属酸化物も含まれる。
【0025】
以上、基体1に用いられる材料について詳述したが、特に基体1の表面電位がプラスになるようなものが好ましい。これは、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなくウイルスの表面電位はマイナスであるため、基体1の表面電位がプラスであると、電気的にウイルスが基体1に引きつけられ、結果としてウイルスが抗ウイルス性を有する部材100の表面に吸着しやすくなり、抗ウイルス性を有する金微粒子2による抗ウイルス効果を効率よく発現することができるからである。
【0026】
第1実施形態の基体1の形態としては、板状や、フィルム状や、繊維状や、布状や、メッシュ状や、ハニカム状、パンチングシートなど、使用目的に合った種々の形状及びサイズ等のものが適用でき、特に制限されるものではなく、空気清浄機、温風器、ドライヤー、電気掃除機、扇風機、エアコン、換気扇などの各種電気製品用のフィルターや、車両用フィルターや、人工呼吸器用、人工鼻などの医療用フィルターに適用できる。さらにマスク、キャップ、シューズカバー、医療用ドレープ(医療用覆布、医療用シート)、インサイズドレープ、サージカルテープ、ガーゼ、人工呼吸器用マスク、人工呼吸器用部品などの医療用部材や、病院内などのビル用内装材、電車や自動車などの内装材、車両用シート、椅子やソファーのカバー、ウイルスを扱う設備、ドアや床板の防汚シート、網戸用ネット、鶏舎用ネット、蚊屋などのネット類のほか、食品用保存袋、食品用ラップフィルム、キーボードカバー、タッチパネル、タッチパネルカバー、ブラインド、デスクマット、インテリア材、壁紙、カーテン、衣類、寝具、裁断可能な多目的シートなどに用いることにより、住環境の向上も図ることができる。
【0027】
さらに、第1実施形態の基体1の形態としては、他の部材、例えばフィルムやシートが積層されるようにしてもよい。例として防水性を有するフィルムやシートを積層することで、ウイルス不活化シートに防水性を付与することができる。当該防水性を備える抗ウイルス性を有する部材を用いて、該部材を縫合することにより、ウイルスや血液が透過するのを防止できる高性能防護服や医療用手袋、また病院や介護用のシーツなどを構成することができる。
【0028】
さらに、積層するフィルムやシートとしては、使用者が快適に過ごせるように、水を遮蔽し、空気(湿気)を透過させる透湿性を備えたものが好適に用いられる。具体的には、一般に市販されているものを使用目的に合わせて選定し使用すればよい。
【0029】
さらにまた、第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の少なくとも一方の主面に接着剤などを積層し、使用者が任意にマスクや壁や床に簡単に接着できるようにすることもできる。具体的には、手持ちのマスクの表面に第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100を貼付けることで、ウイルス不活化マスクにすることができる。
【0030】
また、通気性を有する構造体に係らず、空気を透過させない、言い換えれば遮気性を備えていてもよい。具体的には基体1を、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン−エチレン共重合体などの樹脂、ポリカーボネート樹脂シート・フィルム、塩化ビニルシート、フッ素樹脂シート、ポリエチレンシート、シリコーン樹脂シート、ナイロンシート、ABSシート、ウレタンシートなどの高分子からなるシートやチタニウム、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、真鍮などの金属からフィルム状に構成してもよい。
【0031】
基体1にフィルムやシートを用いた抗ウイルス性を有する部材100は、様々な分野に利用できる。
【0032】
本実施形態の抗ウイルス性を有する部材100において不活性化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型・B型・C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型・C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘、帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0033】
本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する金微粒子2は、使用条件により使用者が自由に決定できるものではあるが、粒径が1nm以上1μm未満、好ましくは1nm以上50nm以下が好ましい。粒径が1nmより小さいものは物質として非常に不安定となり存在できない。一方、粒径が1μm以上になると、少量のバインダーで基体に金微粒子2を固着することが困難となり、他方、大量のバインダーで金微粒子2を固着すると、金微粒子2の表面が覆われてしまい抗ウイルス性が低下するためである。また、粒径が50nmより大きくなると金微粒子2が安定となるため酸化還元作用が起きにくくなるため、少量にて効率よくウイルスを不活化するには、金微粒子2の粒径は50nm以下であることがより好ましい。
【0034】
また、本発明の第1実施形態の金微粒子2は、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、マンガンなどの1種または2種以上の金属と金との合金微粒子や、これら金属微粒子の1種または2種以上と金微粒子との混合微粒子であっても良い。
【0035】
金微粒子2を基体1の表面に固着する方法としては特に限定されるものではないが、具体的な例として、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法、金イオンを含む水溶液に浸漬したり、または、金イオンを含む水溶液を塗布したりして、金イオンを吸着させ、その後、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、塩化スズ、水素化ホウ素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜りん酸ナトリウムなどの還元剤を含む水溶液に浸漬するか、或いは、水素還元雰囲気中で還元処理するか、或いは、耐熱性が高い樹脂であれば、大気中で加熱することで、金微粒子を担持する方法など、の方法が挙げられ、これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0036】
このほか本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100においては、金微粒子2のほか、所望される機能を、抗ウイルス性を有する部材100に付与するために、任意に用いられる機能性材料が、基体1表面に固定されていてもよい。当該機能性材料としては、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、および触媒などを挙げることができる。なお、これら機能性材料は、例えば、一般的なバインダーを介して基体1や金微粒子2に結合して固定されるようにしてもよいし、シランモノマーまたはそのオリゴマーなどとの化学結合などにより、基体1に固定されるようにしてもよい。また、これら金微粒子2以外の機能性材料が基体1に固定されるか否かに係らず、後述のシランモノマーやそのオリゴマーに加えて、他の補強剤(ハードコート剤)を用いてもよい。
【0037】
次に、本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の製造方法について、金微粒子2のコロイド溶液を用いた方法を一例として挙げて説明する。
【0038】
金微粒子2のコロイド溶液については、HAuCl・4HOのような金化合物水溶液にクエン酸ナトリウムのような還元剤を入れる、など、公知の方法で製造される。
【0039】
分散媒としては、水、アセトン、メタノール、エタノールなどが好適に用いられる。このように製造された金微粒子2のコロイド溶液を、基材にスプレーなどで塗布し、窒素雰囲気下にて100℃で乾燥させる。またコロイド溶液中の金微粒子2は、表面を界面活性剤などの保護剤で被覆されていてもよい。
【0040】
上記の金微粒子2の固着量としては、基体1に対して0.1〜20質量%とするのが好ましく、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、20質量%よりも多く担持させると金微粒子2が凝集し、抗ウイルス性が減少するからである。
【0041】
第1実施形態において、金微粒子2が基体1表面に固着される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、金微粒子2が基体1表面において散在していてもよい。また、金微粒子2が平面状または3次元状に並ぶ金微粒子集合体の形態で固着されるようにしてもよい。すなわち、点状、島状、薄膜状等の形状で固着することができる。
【0042】
(第2実施形態)
続いて本発明の第2実施形態のウイルス不活化シート200について図2を用いて詳述する。なお、第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
【0043】
図2は、本発明の第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200の断面の一部を拡大した模式図である。本実施形態の抗ウイルス性を有する部材200は、少なくとも表面の一部が無機材料からなる基体1の無機材料部分に抗ウイルス性を有する金微粒子2が固着されて構成されており、該金微粒子2が接合界面周縁部を有したほぼ多面体の状態で、基体1の無機材料部分に密着して接合していることが、第1実施形態と異なる点である。
【0044】
金微粒子は、粒子径をナノレベルとした場合には、金微粒子の形状が二十面体などのほぼ多面体状となることが知られている。ここで、本実施形態で用いる接合界面周縁部とは、金微粒子2のコーナー部とエッジ部の両方を示す。コーナー部とは、金微粒子2の3以上の面の結合部に生成されたコーナーを示し、エッジ部とは金微粒子2の2つの面の結合部に生成されたエッジを示す。
【0045】
第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200では、一例として、少なくとも表面の一部が無機材料からなる基体1と金微粒子2とのゼータ電位の差を利用して金微粒子2を接合させている。また、金微粒子2を還元剤などで粒子化すると凝集してしまうため活性がなくなることが考えられるが、本第2実施形態では、金微粒子2を基体1の無機材料部分に接合させることにより、金微粒子2の凝集を防ぐことを可能としている。
【0046】
基体1に接合される金微粒子2は、粒径が1nm以上50nm以下のものが使用できる。この理由として、粒径が50nmより大きくなると金微粒子2が安定となるため酸化還元作用が起きにくくなるからであり、粒径が1nmより小さいものは物質として非常に不安定となり存在できないからである。
【0047】
このような粒径の金微粒子2を基体1に担持させる方法としては、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法、吸着還元法、金コロイド溶液への浸漬法、金コロイド溶液の塗布法等の方法が挙げられ、これらの方法は担体の種類により適宜使い分けることができる。
【0048】
次に、析出沈殿法を例として金微粒子2を基体1表面に固着する方法を説明する。
【0049】
まず、金化合物を溶解させた水溶液を20〜90℃、好ましくは50〜70℃に加温、攪拌しながら、pH3〜10、好ましくはpH5〜8になるようにアルカリ溶液にて調整し、その後、シート本体1を、調整した液に含浸し、イオン交換水でよく洗浄する。さらに100〜200℃にて加熱乾燥する。
【0050】
用いられる金化合物水溶液としては、例えば、HAuCl・4HOや、NHAuClや、KAuCl・nHOや、KAu(CN)や、NaAuClや、KAuBr・2HOや、NaAuBrなどが挙げられ、金化合物の濃度は1×10−2〜1×10−5mol/lとするのが好ましい。
【0051】
上記の金微粒子2の担持量としては、基体1に対して0.3〜20質量%とするのが好ましく、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、20質量%よりも多く担持させると金微粒子2同士が凝集し、抗ウイルス性が減少するからである。
【0052】
本実施形態の抗ウイルス性を有する部材200は、少なくとも表面の一部が無機材料からなる基体1表面に、マンガンやコバルトなどの酸化物微粒子をさらに担持させてもよい。これらの酸化物微粒子は、金微粒子2に有害物質が付着するのを抑制するので、長期に渡り、安定して抗ウイルス効果が持続できるからである。
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(ウイルス不活化シートの作成)
(実施例1)
ステンレスメッシュ((株)NBCメッシュテック製、500メッシュ)を、0.5質量%にメタノールで希釈したビニルトリエトキシシランに浸漬し、乾燥した。続いて金コロイド水溶液((株)新光化学工業製、30nm)を、処理したステンレスメッシュの上にスプレーにて塗布した。この時の金の担持量をICP発光分光分析にて測定したところ、部材重量に対して、1.30質量%であった。
【0055】
(実施例2)
0.5mmolのHAuCl・4HOを100mlの水に溶解(5mmol/l)させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH4.8に調製した。その水溶液にシート本体としてチタニア不織布(宇部興産(株)製 アクアソリューション(登録商標))(10cm×10cm)を加えて1時間攪拌した。その後、蒸留水で洗浄し、窒素雰囲気下、100℃で4時間乾燥し、金微粒子を表面に担持した抗ウイルス性を有する部材を得た。本部材を電子顕微鏡で観察したところ、金微粒子の平均粒子径は4.4nmであった。また、金の担持量をICP発光分光分析にて測定したところ、部材重量に対して、0.40質量%であった。
【0056】
(実施例3)
アルミナ繊維クロス(ニチビ株式会社製、4018−D))の表面に、アルミナゾル(日産化学工業株式会社製、アルミナゾル100)をイオン交換水で固形分を10質量%に希釈して塗布し、900℃で加熱乾燥し、アルミナ繊維クロス表面に塗布したアルミナゾルをγ−アルミナに結晶転移させた。次に、実施例2と同様の条件で金微粒子を担持した抗ウイルス性を有する部材を得た。得られた部材の表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径3.8nmの金が担持されてあった。また、金の担持量をICP発光分光分析により測定したところ、部材重量に対して0.38質量%であった。
【0057】
(実施例4)
アルミニウム板(JISH1050材)を50℃に加温した5質量%水酸化ナトリウム水溶液に30秒間浸漬した後、流水中で水洗し、余剰分のアルカリを3質量%硝酸水溶液に浸漬して除去した。次に、炭酸ナトリウム200g/lとフッ化ナトリウム10g/lを含む20℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボン電極を用いて150Vの直流電圧を印加することでアルミニウム板表面にγ−アルミナ被膜を形成した。その後、10mmol/lのHAuCl・4HOの水溶液にγ−アルミナ被覆アルミニウム板を浸漬し、γ−アルミナ被膜にHAuClを吸着させた。次に、HAuClを吸着させたγ−アルミナ被膜形成アルミニウム板を水素化ホウ素ナトリウム3質量%含む水溶液に浸漬することで、金微粒子を担持した抗ウイルス性を有する部材を得た。得られた部材の表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径5.8nmの金が担持されてあった。また、金の担持量をICP発光分光分析により測定したところ、部材重量に対して0.58質量%であった。
【0058】
(実施例5)
工業用純チタン板(株式会社神戸製鋼所製、KS40S)を炭酸ナトリウム200g/l含む20℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボン電極を用いて170Vの直流電圧を印加することで、ルチル型とアナターゼ型の混晶体からなる白色の酸化被膜を形成した。次に、市販の金コロイド溶液(田中貴金属工業株式会社製、Auコロイド溶液SC)をスプレーにて酸化被膜を形成したチタニウム板に塗布し、120℃、30分間加熱乾燥することで、抗ウイルス性を有する部材を得た。得られた部材の表面を超分解能電界放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子径40.0nmの金が担持されてあった。また、金の担持量をICP発光分光分析により測定したところ、部材重量に対して0.83質量%であった。
【0059】
(比較例1)
実施例1で用いた金微粒子を担持しない以外は、実施例1と同様の条件で作成し、比較例1とした。
【0060】
(比較例2)
実施例2で用いた金微粒子を担持しない以外は、実施例2と同様の条件で作成し、比較例2とした。
【0061】
(本発明のウイルス不活化シートの抗ウイルス性評価方法)
ウイルス不活化シートのウイルス不活化性の測定は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))およびネコ腎臓継代細胞(CrFK 株)を用いて培養したネコカリシウイルス(F9株)を用いた。
【0062】
実施例1、2、比較例1、2の各サンプル16cm(2cm×2cm、4枚重ね)を滅菌済みのバイアル瓶に入れ、ウイルス液0.1mlを滴下し、室温で60分間作用させた。60分間作用させたのち、界面活性剤入りの20mg/mlのブイヨン蛋白液1900μlを添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10−2〜10−4になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞にサンプル液100μlを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%COインキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque−forming units)を算出した。その結果を表1に示す。

【0063】
【表1】

【0064】
以上の結果より、本発明の金微粒子を担持した繊維構造体において、高いウイルス不活化作用が認められた。その効果はすべての実施例において60分間で不活化率99.99%以上という非常に高い作用であり、本発明の抗ウイルス性を有する部材を用いることで、ウイルスへの感染リスクが低減された環境を提供することができた。
【符号の説明】
【0065】
1 基体
2 金微微粒子
100、200 抗ウイルス性を有する部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着したウイルスを不活化できる部材であって、
少なくとも表面の一部が無機材料からなる基体と、
前記基体の無機材料部分に固着した金微粒子と、
を含むことを特徴とする抗ウイルス性を有する部材。
【請求項2】
前記基体が繊維構造体からなることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性を有する部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗ウイルス性を有する部材を用いたフィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−67566(P2013−67566A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205208(P2011−205208)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】