説明

抗ウイルス性フィルター、および空気清浄器、空調装置、または空気加湿器におけるその使用

本発明は、正味の正電荷を有する陽イオン性ポリマーでコーティングされた、好ましくは負に帯電した繊維層、前記繊維層を含む抗ウイルス性フィルター、および抗ウイルス特性を有する前記繊維層の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康上のリスクおよび公衆衛生(特に空中浮遊ウイルスの存在に関連するもの)の分野に関する。本発明は、より詳細には、周辺空気に存在するウイルス、場合により細菌を捕捉する能力がある、抗ウイルス性であり、場合により抗菌性であるフィルターに関する。本発明は、前記フィルターを含む全ての製品、例えば、空調装置、空気清浄器、空気加湿器、または医療用デバイス(例えば、外科手術用マスク等)等にも関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、空中浮遊ウイルスを除去することは、重要な公衆衛生上の問題である。例えば、アジアにおける最近のウイルス性伝染病(鳥インフルエンザ、SARS)は、ウイルスの攻撃が起こった時の防御が実際に必要とされていることを示している。ウイルスの急速な変異、それらの突然の増殖、および伝播力の故に、免疫付与は、比較的非効率的な解決策である。既存の細菌用フィルター、例えば、従来の外科手術用マスクの中などに存在するHEPAフィルター等は、ウイルスに対しては効果的な防御障壁ではない。これらのフィルターは、実際には不織ポリプロピレンの層でできており、0.2μmの孔径を有している。ウイルスは、大きさがより小さい(80〜110nm)ので、この孔径は、ウイルスに対してはあまり有効ではない。従って、抗ウイルス性フィルターの製造は、この防御の必要性に応える興味深い解決策を提示し得る。
【0003】
抗ウイルス性フィルターの製造への幾つかの取り組みが記述されている。
【0004】
例えば、日本特許出願公開第2004-432430号には、Sasa veitchii草から抽出された化合物を含有するフィルターであって、抗菌特性および抗ウイルス特性を有し得るものが記述されている。
【0005】
米国特許第5,888,527号には、カテキンおよびテアフラビンを含有する茶ポリフェノールを含浸させた抗ウイルス性マスクであって、ウイルスの複製を阻害すること、およびウイルス膜の物理的特性を変化させることによって、ウイルスを不活性化することができるものを開示している。
【0006】
国際特許出願WO03/051460は、受動フィルターおよび殺菌能動フィルターを含むマスクに関する。受動フィルターが、塵埃粒子、細菌、および胞子を滞留させることができる一方で、能動フィルターは、受動フィルターでは小さ過ぎて阻止できない大きさの細菌、胞子、およびウイルスを殺すことができる。能動フィルターは、抗菌剤、抗生物質、または抗ウイルス剤(例えば、クロロヘキシジン、または、塩素もしくは防腐性のハロゲンを含有する他の防腐性化合物等)を含む。
【0007】
最後に、Kawabataらは、4-ビニルピリジンポリマーを特に取り上げて、不織布中で、これらのポリマーが抗菌活性を有すること(Kawabataら、Antibacterial activity of soluble pyridinium-type polymer、Applied and Environmental Microbiology、1988年、2532〜2535頁)、および、これらを1.7ミクロンの直径を有するビーズの形態で重合させると、抗ウイルス活性をも有すること(N. Kawabata et al.、1998年、Reactive & functional polymers、No.37、213〜218頁)を実証した。この刊行物では、1.7ミクロンの直径を有するビーズを得るために、ジビニルベンゼンの存在下、14μmの孔径を有する不織膜上で4-ビニルピリジンポリマーを重合させる。著者らによると、ジビニルベンゼンの存在は必須であり、それが欠けた場合には、重合により4-ビニルピリジンホモポリマーのフィルムがもたらされ、その結果、マイクロポーラスメンブレンを得るのが困難になる。したがって、マイクロポーラスメンブレンを得るために、4-ビニルピリジンをビーズの形態で重合させることが必須である。
【0008】
Kawabataらによれば、ウイルスの滞留についての有効性は、ウイルスに対するこの特殊なピリジン型ポリマー(ポリ塩化N-ベンジル-4-ビニルピリジニウム)の特異的な親和性に原因を求めることができる。この親和性の原因を説明できないまま、Kawabataは、(1)ポリマーの正電荷とウイルスの負電荷との間の静電気的相互作用、および(2)このポリマーとウイルスとの間の疎水的相互作用が、この特異的な親和性に重要な役割を演じている可能性があるという仮説を提案している。対照試験がないので、観察されたウイルス滞留が、実際に4-ビニルピリジンポリマーによるものかまたは試験条件によるウイルスの減損によるものかどうかを特定することは、この刊行物では不可能であることを強調しておく。
【0009】
最近、国際公開第2006/071191号には、前駆体ポリマーから改変されたポリマーでコーティングされた抗菌製品および/または抗ウイルス製品が記載されており、前記前駆体ポリマーは、以下の一般式I、II、またはIIIを有するポリマー、あるいは以下の一般式I、II、またはIIIのコポリマーの群から選択される。
【0010】
【化1】

【0011】
式中:
R1およびR2は、独立に、直鎖状または分岐状(C1〜C6)炭化水素鎖から選択され、
Xは、0〜1の範囲にあり、
R4は、直接結合、および直鎖状もしくは分岐状(C1〜C6)炭化水素鎖から選択され、
R5は、水素、または直鎖状もしくは分岐状(C1〜C6)炭化水素鎖から選択され、
R6は、直接結合、または直鎖状もしくは分岐状(C1〜C6)炭化水素鎖から選択され、
Ar7は、窒素原子を含む複素環芳香族基であり、式中で前記前駆体ポリマーは、以下のように改変される:
前記窒素原子の少なくとも幾つかが、直鎖状または分岐状のC1〜C20のアルキル基からなる群から選択される置換基で置換され、
前記前駆体ポリマー中の窒素原子の少なくとも幾つかが、四級化される。
【0012】
WO2006/071191に記載された発明の意義の範囲では、「四級化窒素原子を有するポリマー」という表現は、次の一般式の化合物を指す:
【0013】
【化2】

【0014】
式中、残基「A」、「B」、「C」、および「D」の少なくとも1つが、ポリマーの反復単位部分を形成し、式中、ポリマーの反復単位に含まれない「A」〜「D」の残基は、共有結合様式で形成された安定した陽イオン性第四級化合物を窒素と共に形成する任意の残基である。WO2006/071191の意義の範囲での非共有という用語は、水素結合等の非共有結合を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】日本特許出願公開第2004-432430号公報
【特許文献2】米国特許第5,888,527号
【特許文献3】国際公開第03/051460号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2006/071191号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Kawabataら、Antibacterial activity of soluble pyridinium-type polymer、Applied and Environmental Microbiology、1988年、2532〜2535頁
【非特許文献2】N. Kawabataら、1998年、Reactive & functional polymers、No.37、213〜218頁
【非特許文献3】F. Helfferich、Ion Exchange、McGraw-Hill Book Company Inc.編(1962)、第4章、72〜94頁
【非特許文献4】Eyler RW、Krug TS、Siephius S、Analytical Chemistry、1947年;19(1)、24-7
【非特許文献5】G Muller、C RipollおよびE Selegny、European Polymer Journal、第7巻(10)、1971年、1373〜1392頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
出願人は、抗ウイルス活性を有するフィルターを開発しようと努めてきた。前記フィルターは、好ましくは5μm未満、非常に好ましくは1μm未満、更により好ましくは0.2μm以下の小さな孔径を有する。本発明によるフィルターは、系内(in situ)での重合を必要としない単純な方法によって調製することが可能であり、前記フィルターは、非閉塞性の表面を有していて、このことは、繊維膜または繊維層が微細多孔性(microporous)のままであることを意味する。
【0018】
こうして、出願人は、ポリマーとウイルスとの間の親和性は、繊維層の全表面にわたって配置されたポリマーの網目構造の至る所に分配された正電荷の密度に起因し、前記電荷が、ポリマーの主鎖内および/または側鎖内に配置されたアミン官能基によって担持されることが好ましいことを立証した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
従って、本発明の1つの目標は、空中浮遊ウイルスに対する防御の必要性を満たすための既存の抗ウイルス性フィルターに対する代替解決策を提案することであり、本発明は、繊維層(好ましくは不織性の繊維層)上に堆積させることができる陽イオン性ポリマー(好ましくは単位当たり1個を上回るアミン官能基を有する陽イオン性ポリマー)のウイルストラップとしての使用に関するものである。
【0020】
本発明は、好ましくは1単位当たり1個を上回るアミン官能基を有する少なくとも1種の陽イオン性ポリマーでコーティングされている繊維層(好ましくは負に帯電した繊維層)にも関し、この陽イオン性ポリマーの窒素原子は、アルキル基によって置換されておらず、かつ、この陽イオン性ポリマーの窒素原子は、四級化されず且つ少なくとも20%のプロトン化レベルを有している。
【0021】
繊維層は、天然、人工、または合成ポリマーから作られる繊維〔例えば、セルロース繊維、または非セルロース性繊維(例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、もしくはポリアミドの繊維等)等〕からなる任意の製織または不織層を意味する。本発明の好ましい実施形態によると、この繊維層は微細多孔性であり、即ち、好ましくは5μm未満、非常に好ましくは1μm未満、更により好ましくは0.2μm以下の小さな孔径を有している。
【0022】
陽イオン性ポリマーは、好ましくはその主鎖上および/またはその1つまたは複数の側鎖上にアミン官能基を含み、かつ、一方では繊維層に結合することができ、他方ではウイルスに結合することができる程度のプロトン化レベルを有するタイプの任意のプロトン化可能なポリマーを意味する。陽イオン性ポリマーのプロトン化レベルは、少なくとも20%であることが好ましい。
【0023】
したがって、本発明の陽イオン性ポリマーは、国際公開第2006/071191号の意義の範囲内である、アルキル基によって置換された窒素原子も、四級化窒素原子も含まないという事実によって、国際公開第2006/071191号に記載された陽イオン性ポリマーとは異なっている。本発明の陽イオン性ポリマーは、その主鎖上および/またはその1つまたは複数の側鎖上にアミン官能基を含み、少なくとも20%のプロトン化レベルを有する。
【0024】
本発明の意義の範囲内で、「プロトン化アミン」または「プロトン化窒素」という用語は、次の一般式の化合物を指す:
【0025】
【化3】

【0026】
式中、残基「A」、「B」、「C」、および「D」の少なくとも1つが、ポリマーの反復単位部分を形成し、式中、ポリマーの反復単位に含まれない「A」〜「D」の残基は、非共有結合様式で形成された安定した陽イオン性第四級化合物を窒素と形成する水素原子である。
【0027】
「プロトン化レベル」は、プロトン化された窒素原子の割合を意味する。
【0028】
本発明の一実施形態では、上述のようにコーティングした前記繊維層が、繊維層1cm2当たり1×10-8〜1×10-6モル電荷(すなわち繊維層1cm2当たり1×10-5〜1×10-3ミリ当量(meq))の電荷密度を有し、好ましくは、前記繊維層が、層の1cm2当たり1×10-7モル電荷(すなわち繊維層1cm2当たり1×10-4ミリ当量)の電荷密度を有する。
【0029】
繊維層1cm2当たりの電荷密度の検定を、当業者には既知の方法、例えば、メンブレンまたはイオン交換樹脂の交換容量を定量することができる方法などによって行う(F. Helfferich、Ion Exchange、McGraw-Hill Book Company Inc.編(1962)、第4章、72〜94頁)。
【0030】
一実施形態では、ポリマーは、その主鎖上および/またはその1つまたは複数の側鎖上に陽イオン性基を含む。
【0031】
第一の実施形態では、前記陽イオン性ポリマーは、アミン基(第一級、第二級、第三級のアミン基)をその主鎖上に担持するポリマーを含み、少なくともアミン基の一部分がプロトン化されたアミン基であり、有利には少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、非常に好ましい少なくとも50%のアミン基がプロトン化されている。これらの陽イオン性ポリマーは、好ましくは、ポリジメチルアミン-co-エピクロルヒドリンまたはポリジメチルアミン-co-エピクロルヒドリン-co-エチレンジアミンである。プロトン化の割合の検定を、Eylerらによって記載されたもの(Eyler RW、Krug TS、Siephius S、Analytical Chemistry、1947年;19(1)、24-7)等の、当業者に周知の技術によって行う。プロトン化の割合の検定をすることができる他の技術は、Mullerらによって記載されている(G Muller、C RipollおよびE Selegny、European Polymer Journal、第7巻(10)、1971年、1373〜1392頁)。
【0032】
第二の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、アミン基(第一級、第二級、第三級)をその1つまたは複数の側鎖上に担持するポリマーを含み、少なくともこのアミン基の一部分がプロトン化されたアミン基であり、有利には少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、非常に好ましくは少なくとも50%のアミン基がプロトン化されている。好ましくは、これらの陽イオン性ポリマーは、ポリビニルアミン、改質ポリアクリルアミド、ポリビニルイミダゾール、ジエチルアミノエチルポリサッカライド、キトサン、ポリメタクリル酸エステルであり、ポリ2-ジメチルアミノエチルメタクリル酸エステルが好ましく、4-ビニルピリジンを含まないことが好ましい。
【0033】
非常に好ましい第三の実施形態では、陽イオン性ポリマーは、(第一級、第二級、第三級)アミン基をその主鎖上およびその1つまたは複数の側鎖上に担持するポリマーを含み、少なくともこのアミン基の一部分がプロトン化されたアミン基であり、有利には少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、非常に好ましくは少なくとも50%のアミン基がプロトン化されている。これらの陽イオン性ポリマーは、ポリエチレンイミンであることが好ましい。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によると、前記ポリマーはポリエチレンイミンである。
【0035】
本発明は、前述のように、少なくとも1種の陽イオン性ポリマーでコーティングされた少なくとも1種の繊維層を含む、抗ウイルス性であり、場合により抗菌性であるフィルターに関するものでもある。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明のフィルターは、抗ウイルス性かつ抗菌性のフィルターであり、前述した通り、陽イオン性ポリマーでコーティングされた少なくとも1種の繊維層を含み、前記繊維層は、0.2μm以下の孔径を有している。この0.2μm以下の孔径が、繊維層上での抗菌特性を与え、次に、この繊維層の表面が少なくとも1種の陽イオン性ポリマーによってコーティングされ、こうして繊維層は、抗菌特性に加えて抗ウイルス特性を獲得する。
【0037】
繊維層の抗ウイルス特性は、前記繊維層がウイルスを捕捉できる能力を意味する。
【0038】
空中浮遊ウイルスは、特にインフルエンザウイルス(インフルエンザウイルス属A、B、およびC)、またはコロナウイルス(例えば、SARSコロナウイルス(SARS-CoV))を意味する。本発明が同様に関心の対象とする他のウイルスは、特に天然痘ウイルス(variola virus)、バクテリオファージ(大腸菌(E. Coli))、肝炎ウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、タバコモザイクウイルス、エボラウイルス、および他の感染性ウイルスである。
【0039】
別の好ましい実施形態では、本発明のフィルターは、抗ウイルス性かつ抗菌性のフィルターであり、前述のように、陽イオン性ポリマーでコーティングされた少なくとも1種の繊維層と、0.2μm以下の孔径を有する少なくとも1種の繊維層とを含む。
【0040】
好都合なことに、本発明による繊維層は、少なくとも5時間、好ましくは少なくとも12時間、非常に好ましくは少なくとも18時間有効である。
【0041】
前述した、抗ウイルス性であり、場合により抗菌性である少なくとも1種のフィルターを含む、空気清浄器、空調装置、または空気加湿器も、本発明の一対象である。
【0042】
前述した、抗ウイルス性であり、場合により抗菌性である少なくとも1種のフィルターを含む医療用デバイス、特に、外科手術用マスク、包帯、オーバーオール等の防護衣も、本発明の一対象である。
【0043】
本発明は、抗ウイルス特性を有する繊維層の製造方法にも関し、この方法は、前述した通り、前記繊維層と陽イオン性ポリマーの溶液とを接触させる工程、およびその後の乾燥工程を含む。
陽イオン性ポリマーが繊維層と接触する間に、陽イオン性官能基、特に第四級アミンが繊維層と相互作用することができ、それによってポリマーが繊維層上に結合するに至る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の実施例において用いる、濾過試験を可能にするアセンブリの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
一実施形態では、陽イオン性ポリマーを、溶媒または溶媒混合物に溶解させる。好ましい実施形態では、溶媒は極性溶媒であり、好ましくは水である。陽イオン性ポリマーをイオン化塩、特にNaCl中で溶解させることが非常に好ましい。
【0046】
一実施形態では、前記陽イオン性ポリマー溶液中のポリマー濃度は、0.1〜200 g/l、好ましくは1〜100 g/l、より好ましくは20〜80 g/l、非常に好ましくは40〜50 g/lである。
【0047】
一実施形態では、ポリマー溶液のpHは、好ましくは酸性であり、好ましくは3〜6.5であり、ポリマー溶液のpHが6であれば非常に好ましい。
【0048】
一実施形態では、繊維層を周囲温度でポリマー溶液に浸漬させるか、またはポリマー溶液を周囲温度で繊維層上に噴霧する。
【0049】
一実施形態では、繊維層を、ポリマー溶液に1分〜3時間、好ましくは5分〜1時間、非常に好ましくは10〜30分間浸漬させる。
【0050】
一実施形態では、過剰なポリマー溶液を除去するために、乾燥工程の前に繊維層を水で洗浄する。
【0051】
一実施形態では、繊維層を、周囲温度での蒸発または換気によって乾燥させる。乾燥工程は、換気オーブンまたは真空オーブンを通過させることによって加速することができる。
【0052】
一実施形態では、繊維層の表面上に得られるポリマーフィルムの厚さは、0.5×10-3μm〜5μm、好ましくは0.001〜1μm、非常に好ましくは0.001〜0.01μmである。
【0053】
本発明は、乾燥工程後にポリマーを架橋させる工程を更に含む、前述した通りの抗ウイルス特性を有する繊維層の製造方法を含む。この任意選択の操作は、時には、ポリマーの繊維への結合を最適化することを可能にする。
【0054】
本発明は、抗ウイルス特性および抗菌特性を有する繊維層の製造方法も含み、この場合において、前述した抗ウイルス特性を有する繊維層の製造方法を、0.2μm以下の孔径を含む繊維層に適用する。
【0055】
抗ウイルス特性を有する本発明の繊維層を製造するための実施例に言及する以下の更なる記述の助けを借りれば、本発明はより良好に理解されるであろう。
【0056】
例証として示す以下の実施例では、濾過試験を可能にするアセンブリを図解する添付の図1を参照する。
【実施例】
【0057】
[1-材料および方法]
〔試薬および支持体〕
抗ウイルス特性を有する繊維層を得るためのこれらの試験用に、Aldrich Chemicalsから入手した高分子量の分岐ポリエチレンイミン(PEI) (照会番号40,872-7、バッチ番号05906DU-202)を選択した。
【0058】
これらの試験で使用する繊維層は、外科医用FFP1長方形マスクの第3層に由来する。ATRモードにおける赤外分析で、マスクの初めの2層(外側寄り)は、不織ポリプロピレンによって構成されていて細菌用フィルターとして役立つ一方で、同じく不織の第3層(顔寄り)は、ポリエステルセルロースすなわちエステル化セルロースの混合物によって構成されていることが明らかになっている。これらの層は、負に帯電している。
【0059】
〔プロトン化アミン基の検定〕
この計測は、pH計量検定によって行う。
0.2mol/lのNaClに溶かした0.44%PEI溶液(4.4 g/lまたは0.102mol・l-1) 25mlを、0.1mol/lのHCl溶液で検定する。
初期溶液(非プロトン化PEI)のpHは11である。
pH=6にするために、総体積18mlに対して0.1mol/lのHClを14ml加えた。
pH=6では、PEIのプロトン化レベルは、75%±5%(14ml/18ml)である。
【0060】
〔繊維層1cm2当たりの電荷密度の検定〕
正確な表面積(232cm2)の繊維層を、0.2mol/lのNaClに溶かした50mlの4.4%PEI溶液中に12時間浸漬させる。次に、全ての結合したPEIをプロトン化するために、この繊維層を0.1mol/lのHCl溶液中に置く。
次に、過剰のHClを除去するために、この繊維層を、一定のpHに達するまで水で洗浄する。
最後に、この繊維層を8mlの水の中に置く。この繊維層上に存在する正電荷量を0.01mol/lの炭酸ナトリウムで検定する。
【0061】
初期のpHは、8.56である。0.01mol/l 炭酸ナトリウムの当量体積は、2.5cm3であることが分かる。
これは、3.125×10-3mol/lの酸濃度、または8mlの水中の2.5×10-5モルの酸に相当する。
したがって、1モルの酸が、1モルのPEI反復単位(MPEI=43g/モル)と反応したことを考慮すると、1.075×10-3gのPEIが232cm2の繊維層に結合したことになり、これは繊維層1cm2当たり4.63×10-6gのPEIに相当する。
したがって、繊維層の電荷密度値は、繊維層1cm2当たり1.1×10-7モル電荷、すなわち繊維層1cm2当たり1.1×10-4ミリ当量である。
【0062】
〔層3の改質〕
官能基化は、マスクの層3に関する(以下、マスクの層3を繊維層と呼ぶ)。
不織層を、0.2M NaClに溶かした4.4質量%PEI溶液中に、pH=8またはpH=6にて1日間浸漬させる。
【0063】
塩は、結合したポリマーの量の増加を可能にする。8というpH値は、先に見出された結合のための最適pHに一致する。6というpH値により、プロトン化、好ましくはPEI(7<pKa<9)の四級化を増加させ、したがってその結合を向上させることができる。次に、この層から液体を排出させ、水でゆっくりと撹拌しながら10時間洗浄し、次いで、風乾する。濾過用セルに装着する前に、最後に、この層をUV下で殺菌する。
【0064】
〔ウイルスおよび菌株〕
大腸菌株の寄生体であるバクテリオファージT4を試験用ウイルスとして選択した。バクテリオファージT4および大腸菌株は、両者とも人間に対しても環境に対しても非病原性である。
【0065】
〔培養培地〕
培地1は、大腸菌にファージを感染させ、濾過試験を行うために用いる。その組成は、脱イオン水(Milliro(登録商標)) 1リットル、ペプトンおよび肉エキス13g、酵母エキス5g、NaCl 5g、KH2PO4 8g、pH7.6にするためのNaOHを含む。
【0066】
培地2は、最初のものよりも栄養に富み、ファージを検定するために用いる。その組成は、脱イオン水(Milliro(登録商標)) 1リットル、ペプトンおよび肉エキス10g、グルコース10g、NaCl 3g、KH2PO4 0.044g、CaCl2 0.011g、MgCl2 0.203g、pH7.6にするためのNaOHを含む。
【0067】
ペプトン、肉および酵母エキスは、細菌の成長に使用されるタンパク質、糖質、および水溶性ビタミンに富む基質である。グルコースは、同じ役割を有する糖質である。NaCl、CaCl2、MgCl2は、生体の生存に必須の塩である。KH2PO4は、一定のpHを維持することを可能にする緩衝剤である。
【0068】
培地1および2を、調製後すぐに、250cm3のエルレンマイヤーフラスコ中に分注する。これらを、液体形態、または3質量%の寒天(ゲル化用多糖類)を組込んだゲル化形態(培地2に対して)で使用する。寒天は、ペトリ皿に注入して、検定の間に計数を行うために使用する。これらの培地をオートクレーブによって殺菌し(120℃で20分間)、その後冷蔵保管する。グルコースは、培地と共にカラメル化するのを防ぐために、別にオートクレーブ殺菌する。
【0069】
〔アセンブリ〕
アセンブリを図1で図解する。アセンブリは、ネブライザー(噴霧器)(Atomisor NL 11)に接続された空気コンプレッサー/エアゾール発生器(Diffusion Technique Francaise;Saint-Etienne、フランス)によって構成されている。寄生性細菌汚染を防ぐために、0.22μmの孔径を有するガスフィルター(Gelman)を発生器とネブライザーとの間に置く。
【0070】
セルは、ガラス製の2つの部品の間のフィルター支持体であり、空気の吸気口および排気口を含む。メンブレンを、セルの擦りガラス接合部を覆う2つのゴムガスケットの間に無菌状態で挿入する。アセンブリをクランプによって1つに結合させる。
【0071】
バブリングによってメンブレンを通過したウイルスを溶解させるために、セル排気口を液体トラップ〔生理的食塩水(physiological serum)50cm3〕に接続する。通過した空気流は、溶解しなかった僅かのウイルスを無力化するために、ジャベル水(Javel water:次亜塩素酸塩水)をが入った第二の液体トラップを通過させる。
【0072】
バラバラに分解したアセンブリ全体を、オートクレーブ殺菌してから、UV下で予め殺菌した層流フード下の無菌状態で組み立てる。
【0073】
[濾過試験のための手順]
試験は、同一の手順に従う。
【0074】
〔ウイルス液の製造〕:
第一段階では、150cm3の培地1に、37℃にて、接種用ループを用いて大腸菌を接種する。この細菌の成長の進展を、紫外/可視光分光光度計によって観察する。580nmでのODが0.5 (即ち、2.1×108細胞/mlの細胞集団) に達したら、18μlのファージの基準液(1012ファージ/ml含有)を182μlの生理的食塩水(physiological serum)中に希釈する。次に、この溶液20μlを、大腸菌を含有する培地1の中に接種する。注入するファージの量は、常に細胞集団に対して比例させなければならない。一晩の培養後に、細菌を除去するために130mlの培地を3000rpmで10分間遠心分離する。上澄みを孔径0.45μmのMillex HA型(Millipore)で濾過する。噴霧用の貯蔵液として用いるために濾液を回収する。
【0075】
〔濾過試験:〕
5cm3のファージ貯蔵液を、およそ1時間噴霧する(空気流量:8L/時間)。先に記述したアセンブリは、次の試験を行うことを可能にした:
− アセンブリに起因するウイルス減損を定量するためのメンブレン無しの試験。
− マスクのウイルスの滞留を定量するための、3層外科手術用マスクを用いる試験。
− 未官能基化繊維層を用いる試験。
− 0.2M NaClに溶けた4.4%PEI(g/g)によってpH=8で官能基化させた繊維層を用いる試験。
− 0.2M NaClに溶けた4.4%PEI(g/g)によってpH=6で官能基化させた繊維層を用いる試験。
− 0.2M NaClに溶けた0.44%PEI(g/g)によってpH=6で官能基化させた繊維層を用いる試験。
【0076】
〔ウイルスの滴定〕
試験が終了した後、セルの排気口に置かれた溶液から0.4mlを取り出し、3.6cm3の生理的食塩水中に希釈する。引き続いて、この溶液を10-8の希釈液にまで希釈する。次に、0.25mlの各希釈液を無菌の空の試験管に移し、それに、150mlの培地2で予め培養された指数増殖段階にある大腸菌(基準OD580=0.8)の懸濁液0.4mlを加える。次に、ファージに大腸菌を汚染させるために、これらの試験管を37℃で30分間静置する。次に、40℃の軟寒天(0.6%の寒天を含有する培地2) 3mlを、それぞれの試験管に加える。各試験管の内容物を、培地2の固形寒天(3%の寒天)を含有するペトリ皿上に広げる。溶菌斑を計数する前に、このペトリ皿を37℃で24時間静置する。
【0077】
貯蔵液も同じ方法で滴定し(10-11までの希釈範囲で)、各試験のための基準として用いる。
【0078】
損失係数は、濾過後の受け入れ溶液1cm3当たりのファージ数で貯蔵液1cm3当たりのウイルス数を除したものに等しい。
【0079】
[2-結果および考察]
〔メンブレン無しのセルにおける濾過〕
メンブレン無しの濾過試験は、ファージがセルに入って通過する時および生理的食塩水溶液を通ってバブリングによって回収される間の、噴霧に起因するファージの減損を評価するために用いる。1cm3当たり1.18×1010個のウイルスを含有する噴霧貯蔵液に対して、1cm3当たり0.72×1010個のウイルスを検出した。したがって、アセンブリに対する損失係数は1.6である。
【0080】
〔市販のマスクを通す濾過〕
3層で構築されている外科手術用マスクのウイルス滞留についての有効性を試験した。1cm3当たり2.88×1010個のウイルスを含有する噴霧貯蔵液に対して、1cm3当たり0.56×1010個のウイルスを検出した。したがって、このマスクに対する損失係数は5.2である。したがって、アセンブリ単独の固有の損失係数を前提にすれば、この市販の外科手術用マスクは、総体的にウイルスに関して無効である。
【0081】
〔未官能基化繊維層を通す濾過〕
未処理の繊維層のウイルス滞留についての有効性を計測した。1cm3当たり1.22×1010個のウイルスを含有する噴霧貯蔵液に対して、1cm3当たり0.43×1010個のウイルスが、この未処理の繊維層を通して拡散された。したがって、未処理の繊維層(即ち、未処理の層3)に起因する損失係数は2.9である。細菌濾過を目的とする2つのポリプロピレン層もごく僅かにウイルスを濾別するので、この係数が3層外科手術用マスクのものより小さいのは当然である。
【0082】
〔0.2M NaClに溶かした4.4%PEI(g/g)によってpH=8で官能基化させた繊維層を通す濾過〕
PEIで処理された繊維層のウイルス滞留についての計測によると、1cm3当たり0.5×1010個のウイルスを含有する噴霧貯蔵液に対して、1cm3当たり1.44×103個のウイルスが拡散されたことが示されている。したがって、処理済層3に起因する損失係数は3.5×106である。したがって、0.2M NaCl溶液に溶かした4.4%PEI(g/g)を用いるpH=8での処理は、ウイルスの拡散を抑制するという点で非常に有効である。しかし、この処理によって、この層をウイルスに関して完全な障壁にすることはできない。
【0083】
〔0.2M NaClに溶かした4.4%PEI(g/g)によってpH=6で官能基化させた繊維層を通す濾過〕
1cm3当たり0.7×1010個のウイルスを含有する噴霧貯蔵液を、0.2M NaClに溶かした4.4%PEI(g/g)によってpH=6で官能基化させた繊維層を通して濾過する。この層によるウイルス滞留についての計測によると、濾過後に検出されたウイルスがないことが示されている。したがって、処理済層3によるウイルスの滞留は完全である。この層は、出願人らの処理の結果、ウイルスに関して完全な障壁になっている。したがって、このPEIは、濾過システムをウイルスに関する障壁にするための非常に効果的なポリマーである。
【0084】
TOC(全有機炭素)検定によって、このPEIは、5時間の使用後も、呼吸の間に支持体から脱落しなかったことが実証された。呼吸は、8L/分の空気拡散によってシミュレートした。
【0085】
〔0.2M NaClに溶かした0.44%PEI(g/g)によってpH=6で官能基化させた繊維層を通す濾過〕
より薄い溶液におけるPEIの有効性を実証するために、繊維層に結合したPEIの濃度を10倍に希釈した。ウイルス滞留についての計測によると、1cm3当たり5.5×107個のウイルスを含有する噴霧貯蔵液に対して、1cm3当たり5.5×105個のウイルスがフィルターを通過したことが示されている。したがって、損失係数は100である。したがって、0.44%PEI(g/g)での処理は、明らかに4.4%(g/g)での処理よりも効果が小さい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の陽イオン性ポリマーでコーティングされており、好ましくは負に帯電している繊維層であって、
前記陽イオン性ポリマーの窒素原子がアルキル基によって置換されておらず、かつ、
前記陽イオン性ポリマーの窒素原子が、四級化されておらず且つ少なくとも20%のプロトン化レベルを有する、繊維層。
【請求項2】
その表面のどちらか片面が、0.5×10-3μm〜5μm、好ましくは0.001μm〜1μm、非常に好ましくは0.001μm〜0.01μmの厚さを有する陽イオン性ポリマーのフィルムでコーティングされた、請求項1に記載の繊維層。
【請求項3】
正電荷密度が、繊維層1cm2当たり1×10-8〜1×10-6モル電荷(すなわち繊維層1cm2当たり1×10-5〜1×10-3ミリ当量(meq))、好ましくは層1cm2当たり1×10-7モル電荷(すなわち繊維層1cm2当たり1×10-4ミリ当量)である、請求項1または2に記載の繊維層。
【請求項4】
前記ポリマーが、その主鎖上および/またはその1つまたは複数の側鎖上に陽イオン性基を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維層。
【請求項5】
前記ポリマーがポリエチレンイミンであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の、抗ウイルス特性を有する繊維層。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の繊維層を少なくとも1種含む抗ウイルス性フィルター。
【請求項7】
0.2μm以下の孔径を有する繊維層を更に含む、請求項6に記載の抗ウイルス性フィルター。
【請求項8】
前記繊維層が、0.2μm以下の孔径を有することを特徴とする、請求項6に記載の抗ウイルス性フィルター。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか一項に記載のフィルターを少なくとも1種含む、空気清浄器、空調装置、または空気加湿器。
【請求項10】
請求項6から8のいずれか一項に記載のフィルターを少なくとも1種、または請求項1から5のいずれか一項に記載の繊維層を少なくとも1種含む、医療用デバイス。
【請求項11】
外科手術用マスク、包帯、またはオーバーオール等の防護衣である、請求項10に記載の医療用デバイス。
【請求項12】
前記繊維層を、請求項1から5のいずれか一項中に記載した陽イオン性ポリマーの溶液と接触させる工程と、その後の乾燥工程とを含む、抗ウイルス特性を有する繊維層の製造方法。
【請求項13】
前記溶液中の前記ポリマーの濃度が、0.1〜200 g/l、好ましくは1〜100 g/l、より好ましくは20〜80 g/l、非常に好ましくは40〜50 g/lであることを特徴とする、請求項12に記載の抗ウイルス特性を有する繊維層の製造方法。
【請求項14】
前記ポリマー溶液のpHが、好ましくは酸性であり、好ましくは3〜6.5であり、非常に好ましくは前記ポリマー溶液のpHが6であることを特徴とする、請求項12または13に記載の抗ウイルス特性を有する繊維層の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−543957(P2009−543957A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520024(P2009−520024)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051691
【国際公開番号】WO2008/009862
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509017435)ユニヴェルシテ・ドゥ・ルーアン (5)
【Fターム(参考)】