説明

抗ウイルス性繊維製品

【課題】ウイルスに対して確実に効果のある抗ウイルス性繊維製品を提供する。
【解決手段】ポリヘキサメチレンビグアナイドを天然繊維に含有させた、又は、ポリヘキサメチレンビグアナイドと展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物を合成繊維に含有させた、抗ウイルス性繊維製品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抗ウイルス性を有する繊維製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に、ウイルス性疾患の拡大が懸念されており、医療現場におけるウイルスへの二次感染のおそれは現実的なものとなっている。このようなウイルスへの二次感染を防ぐために、医療現場、食品工場、畜産現場などで用いる繊維製品として、ウイルスの媒介となったり、ウイルスを透過させたりすることを抑制するために抗ウイルス性を付加した抗ウイルス性繊維製品を用いることが求められている。このような繊維製品としては、衣料、マスク、カーテン、タオルや雑巾など、需要は多岐に亘る。
【0003】
例えば、特許文献1にはインフルエンザウイルスにも効果を有すると主張する抗菌性セルロースが記載されている。また、特許文献2や特許文献3にはn=4〜7のポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物を用いた抗菌性繊維が記載されており、特許文献2の[0004][0005]にはこれをカリシウイルス類の不活化に用いる旨が記載されている。また、特許文献4ではポリヘキサメチレンビグアナイドを用いた繊維素材の抗菌性及び防カビ性が詳しく記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−38293号公報
【特許文献2】特開2006−340949号公報
【特許文献3】特開平7−82665号公報
【特許文献4】特開昭61−63772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、抗インフルエンザウイルス特性を初めとする抗ウイルス効果を主張する繊維製品は多いが、それらの中には抗菌効果の延長として期待感で抗ウイルス効果を主張するものが多く、実際にはインフルエンザウイルスなどのウイルスに対する活性を検討していないものが多かった。実際にウイルスに対して抗ウイルス剤が効果を有するかどうかは、菌類に対する効果よりも検証が困難である。なぜなら、ウイルスと細菌ではその生体構造が全く異なり、細菌に対して効果を有する薬剤が直接に作用を及ぼす生体器官の多くがウイルスには存在しないので、細菌やカビに対して対抗効果を有する物質でも、ウイルスに対しては効果を発揮しない場合が多い。また、化合物の末端基や繰り返し単位が僅かに異なるだけでも、ウイルスに対する不活化効果を発揮するか否かが異なってくるからである。従って、抗菌性を有する抗菌剤や抗菌繊維製品があるからといって、当業者がそのまま抗ウイルス剤や抗ウイルス製品に転用できるわけではなく、厳密な検証が必要であり、当業者が容易に転用できるものではない。すなわち、単に抗菌性と並べて抗ウイルス性を主張する繊維製品やそれについての言及がされた文献の多くは、抗ウイルス性を発揮するか否かが実際には全く不明なものが大半である。このような文献が公知であっても、抗ウイルス性を発揮するか不確かであるため、そこから当業者が容易に抗ウイルス性繊維製品を想到できるとは言えない。
【0006】
特許文献1に記載の抗菌性セルロースも、インフルエンザウイルスに対する効果を主張しているものの、実際に効果があることを検証していない。
【0007】
特許文献2や特許文献3はn=4〜7のポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物を用いた例であるが、これも、ウイルスに対して実際の抗ウイルス効果を発揮するかについての検証が全くない。特許文献2では[0012]に好ましいpHを記載しており実施例が記載されているものの、実際にはどのようなウイルスを用いてどのような検証を行ったのかすら不明である。すなわち、抗菌性の延長として単に抗ウイルス性があると主張したに過ぎないものである。特許文献4の不織材料についても、実施例で検討されているのは緑膿菌や大腸菌などのバクテリア類が主であり、インフルエンザウイルスなどのウイルス類についての検証はされていなかった。
【0008】
そこでこの発明は、ウイルスに対して現実に効果を発揮しうることを検証し、確実にインフルエンザウイルス、ノロウイルスなどのウイルスに効果を発揮する繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、ポリヘキサメチレンビグアナイドを含有する抗ウイルス性付与剤、又は、ポリヘキサメチレンビグアナイドと展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物とを含有する抗ウイルス性付与剤を含ませた繊維製品が、インフルエンザウイルス等のウイルスに対して実際に効果を発揮することを検証して実証し、抗ウイルス性繊維製品として用いることが可能であることを示したのである。
【0010】
ポリヘキサメチレンビグアナイドだけでも、繊維製品が水酸基などの極性を有する官能基を多く有する天然繊維である場合には、水素結合により繊維分子とポリヘキサメチレンビグアナイドとが十分になじむが、ナイロンやポリエステルなどの極性官能基が比較的少ない合成繊維である場合には、展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物を用いて加熱処理することにより、繊維とポリヘキサメチレンビグアナイドとをなじませて効果の持続性を高めることが出来る。
【0011】
対象とする繊維製品の持つ官能基が綿などの天然繊維に比べて少なく、ポリヘキサメチレンビグアナイドが繊維製品になじみにくい場合には、展着剤やバインダーを併用してポリヘキサメチレンビグアナイドとの親和性を高める。このうち展着剤としては、非イオン界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、多価アルコール、多糖類などが挙げられる。またバインダーとしては、メラミン系化合物、グリオキサール系化合物、ウレタン系化合物、ブロック化イソシアネート系化合物、シリコン系化合物、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコンを有するアクリル系樹脂などが挙げられる。この中でも、ホルムアルデヒドを放出しないアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂、シリコンを有するアクリル系樹脂が特に好ましい。
【発明の効果】
【0012】
このポリヘキサメチレンビグアナイドを用いた抗ウイルス性繊維製品は、抗ウイルス性、特に、抗インフルエンザウイルス特性と抗カリシウイルス特性を確実に発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明を具体的に説明する。この発明は、ポリヘキサメチレンビグアナイドを含有する抗ウイルス性付与剤、又は、ポリヘキサメチレンビグアナイドと展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物とを含有する抗ウイルス性付与剤を繊維製品に含ませた抗ウイルス性繊維製品及びその製造方法である。
【0014】
上記ポリヘキサメチレンビグアナイドは、具体的には、下記の化学式(1)で表される化合物である。一般には塩酸塩等の塩として流通しており、その塩を用いてもよい。また、単一の重合度nであるポリヘキサメチレンビグアナイドを単独で用いるだけでなく、重合度nの異なるポリヘキサメチレンビグアナイドの混合物を用いてもよい。ただし、混合物の場合には、重合度nの数平均値が10〜13であり、その混合物の主成分は重合度nが8〜16のポリヘキサメチレンビグアナイドであるものであるとよい。なお、ここで主成分とは、構成するポリヘキサメチレンビグアナイドのうち50モル%以上がn=8〜16であることをいう。
【0015】
【化1】

【0016】
上記展着剤とは繊維への付着を容易にする展着効果を有する化合物をいい、上記バインダーとは接合効果を有する化合物をいう。これらの展着剤及びバインダーは、繊維製品とポリヘキサメチレンビグアナイドとをなじませて、得られる抗ウイルス性繊維製品へのポリヘキサメチレンビグアナイドの密着性、接合性を向上させるために用いる。このうち展着剤としては、非イオン界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、多価アルコール、多糖類などが挙げられる。またバインダーとしては、メラミン系化合物、グリオキサール系化合物、ウレタン系化合物、ブロック化イソシアネート系化合物、シリコン系化合物、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、オルガノシロキサンとしてシリコンを含有するアクリル系樹脂を用いることができ、これらを単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。これらの中でも特に、ブロック化イソシアネート系化合物、シリコン系化合物、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコンを含有するアクリル系樹脂を用いると、ホルムアルデヒドを発することがないので好ましい。以下、展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物をまとめて「展着剤等」という。
【0017】
上記非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン誘導体などが挙げられる。
【0018】
上記多価アルコールとしては、グリセリン、ポリグリセリン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0019】
上記多糖類系化合物としては、でんぷん、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0020】
上記メラミン系化合物としては、トリアジン環を含有し、かつ少なくとも2個の反応性官能基を有する化合物が好ましい。この反応性官能基としては、アミノ基及びアミド基が好ましく、中でもアミド基が特に好ましい。また、このようなメラミン系化合物の中でも、アミノ基及びアミド基の各窒素に結合している水素原子がメチロール基、エチロール基、及びN−メチロールアミド基のいずれかで置換された化合物が特に好ましく使用される。なお、これらメラミン系化合物の反応性官能基以外の基については、水素原子、水酸基、フェニル基、アルキル基、アルキルエステル基など、任意の官能基であってよい。
【0021】
上記グリオキサール系化合物としては、グリオキサールが挙げられる。
【0022】
上記ウレタン系化合物としては、例えば、イソシアネート基に対して反応性のある活性水素を2個以上有する化合物と、ポリイソシアネートとを反応させた化合物である。このうち、活性水素を2個以上有する化合物としては、多価アルコール、カルボキシル基と2個のヒドロキシル基を有する化合物、ポリアミン等が挙げられる。また、ポリイソシアネートとしては、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。また、このウレタン系化合物の末端にイソシアネート基を有する場合は、そのイソシアネート基の一部を重亜硫酸ナトリウムやメチルエチルケトオキシム等によりブロック化した化合物を使用することもできる。
【0023】
上記ブロック化イソシアネート系化合物としては、重亜硫酸ナトリウム、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ジエチルマロネート等、イソシアネート基と反応して一時的に安定な化合物を作り、後から熱処理することにより解離し、イソシアネート基を再生するブロック化イソシアネート基を分子中に少なくとも1個以上含有する化合物、又はこれらの化合物の少なくとも1種を、アクリル又はメタクリル化合物、及び、シリコン変性(メタ)アクリル系化合物又はフッ素変性(メタ)アクリル系化合物と反応させて得られた化合物が挙げられる。
【0024】
上記シリコン系化合物としては、シリコーンレジン又はシリコーンワニスに分類される縮合架橋型樹脂が好ましく使用できる。この縮合架橋型樹脂は、テトラエトキシシランやメチルトリメトキシシランなどのシラン化合物から選ばれる一種又は二種以上のシラン化合物を重縮合することによって得ることができる。
【0025】
上記アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレートなど、(メタ)アクリレート系モノマーの一種若しくは二種以上のモノマーの重合体、又はこれらと(メタ)アクリル系モノマーと他の共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体が好ましく使用できる。
【0026】
上記ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート共重縮合体等が挙げられる。
【0027】
上記シリコンを含有するアクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとオルガノポリシロキサン化合物の重縮合物などが挙げられる。
【0028】
なお、上記バインダーの中でも、メラミン系化合物やグリオキサール系化合物のように架橋反応を起こして繊維製品とポリヘキサメチレンビグアナイドとの間に化学的に結合を起こすものであると接合性を向上させる効果が特に高い。しかし、本発明で用いることができるバインダーとしては、必ずしも化学結合を起こす物質に限定されるものではなく、ポリヘキサメチレンビグアナイドと繊維基材との間の親和性を高めて、ポリヘキサメチレンビグアナイドを繊維製品の表面に保持させるものであれば架橋反応しないものであっても用いることができる。
【0029】
上記抗ウイルス性付与剤として上記展着剤等を含むものを用いるべきか否かは、対象とする繊維製品による。綿、絹、麻、ウールなどの天然繊維やレーヨン等のセルロース繊維、酢酸セルロース繊維などの半合成繊維、また官能基を付与したカチオンダイマーポリエステルのように全体的に極性を有する官能基の多い繊維に対しては、上記ポリヘキサメチレンビグアナイドは十分な親和性を発揮し、長期間に亘って抗ウイルス性繊維製品を保存したり、折り曲げを繰り返したりしてもポリヘキサメチレンビグアナイドが脱落しにくく、高い洗濯耐久性をも示し、抗ウイルス性を安定に保持する。しかし、ポリエステルやポリアミド、ポリアクリロニトリルなどの大半の合成繊維では、上記の天然繊維と比べて極性官能基が少なく、上記ポリヘキサメチレンビグアナイド単独では親和性が不十分となる。このため、極性官能基が比較的少ない繊維製品に対しては、抗ウイルス性付与剤に上記展着剤等を含有させることにより、繊維製品とポリヘキサメチレンビグアナイドをなじませて、ポリヘキサメチレンビグアナイドの効果の持続性を発揮させる。なお、上記展着剤等無しでもポリヘキサメチレンビグアナイドの効果の持続性を十分に発揮しうる天然繊維や半合成繊維に対しても、上記展着剤等を含有する抗ウイルス性付与剤を用いることを妨げられるものではなく、上記展着剤等を用いない抗ウイルス性付与剤を用いる場合よりもポリヘキサメチレンビグアナイドの効果の持続性を更に向上させることができる。
【0030】
ポリヘキサメチレンビグアナイドを含有する抗ウイルス性付与剤、又はポリヘキサメチレンビグアナイドと展着剤等とを含有する抗ウイルス性付与剤を繊維製品に含有させる際の好ましい方法としては、ポリヘキサメチレンビグアナイド濃度が0.1質量%以上2質量%以下の水溶液として上記繊維製品に接触させることが好ましい。ポリヘキサメチレンビグアナイドの濃度が0.1質量%未満では付着量が不十分となり、得られる抗ウイルス性繊維製品の抗ウイルス性が不十分となるおそれがある。一方で2質量%を超えると含浸させた繊維製品の変色の原因となることがある。なお、上記の濃度は、ポリヘキサメチレンビグアナイド自体の濃度であり、塩酸塩などの塩を用いる場合、それら酸などに由来する成分を除外した濃度である。なお、このような水溶液を繊維製品に付着させる方法としては、浸漬、噴霧、塗布などが挙げられる。
【0031】
また、上記抗ウイルス性付与剤が上記展着剤等を有する場合は、ポリヘキサメチレンビグアナイドに対する上記展着剤等の含有量が100質量%以上5000質量%以下となるようにすると好ましい。上記展着剤等の含有量が100質量%未満だと、繊維製品との親和性を向上させる上記バインダーによる密着性の向上効果が不十分で、得られる抗ウイルス性繊維製品からポリヘキサメチレンビグアナイドが剥離して抗ウイルス性が低下、又は消失する可能性が無視できなくなる。一方で、5000質量%を超えると、得られる抗ウイルス性繊維製品の風合いが低下するおそれがある。
【0032】
上記展着剤等の有無に関わらず、上記の抗ウイルス性付与剤を繊維製品に含ませることでこの発明にかかる抗ウイルス性繊維製品を得る。上記抗ウイルス性付与剤を上記繊維製品に含ませる方法は、上記抗ウイルス性付与剤を繊維類に含浸又は付着させ、次いで、90℃以上200℃以下で加熱処理又は乾燥処理することで、繊維製品にポリヘキサメチレンビグアナイドをなじませる方法が挙げられる。90℃未満ではバインダーが十分に固まらないためにポリヘキサメチレンビグアナイドのなじみが不十分となるばかりではなく、ポリヘキサメチレンビグアナイドの繊維への結合が薄く、作業効率が著しく低下する。一方で、200℃を超えると薬剤による繊維の変色、所謂繊維焼けの原因となってしまう。この温度範囲の中でも特に、100℃以上であると好ましく、180℃以下が好ましい。
【0033】
この発明にかかる抗ウイルス性繊維製品とすることができる上記繊維製品を構成する繊維類としては、上記の通り、紙、綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維、再生セルロースなどの半合成繊維、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維などがある。また、一般的に布帛や紙、フィルターに用いられる繊維であれば問題なく用いることができる。
【0034】
具体的な繊維製品としては、医療関係者が用いる白衣やエプロン、病院患者が着る病院服、畜産現場や食品工場等で用いられる作業着、帽子、靴やサンダル等の履物も含む衣料や、口や鼻を覆うマスク、カーテン、防鳥ネットなどのネット、マット、空気清浄機や冷暖房機器のフィルター、密閉した部屋から排出する空気に含まれるウイルスが外へ出ることを防ぐためのフィルター、雑巾やタオル、モップ、おしぼりなどが挙げられる。カーテンや衣料などの洗濯に曝されるものであっても、上記天然繊維や上記半合成繊維であればポリヘキサメチレンビグアナイドは単独でも脱落しにくく十分な洗濯耐久性を発揮して抗ウイルス性を保持する。また、上記の合成繊維であっても上記展着剤等と併用することで十分な耐久性を発揮する。なお、上記の天然繊維であっても上記展着剤等と併用することでより高い効果の持続性を発揮できる。
【0035】
この発明にかかる抗ウイルス性繊維製品は、抗ウイルス性の中でも特に、抗インフルエンザウイルス特性、抗ネコカリシウイルス特性を確実に発揮する。なお、ネコカリシウイルスは人工培養が不可能なノロウイルスの代替ウイルスであり、この発明にかかる抗ウイルス性繊維製品は、抗ノロウイルス特性を含む抗カリシウイルス特性を発揮すると考えられる。
【実施例】
【0036】
以下、この発明にかかる抗ウイルス性繊維製品を実際にウイルスに対して用いて抗ウイルス性を発揮させた実施例を示す。なお、実験分析は(財)日本食品分析センターに依頼して行った。
【0037】
<ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性評価試験>
ポリヘキサメチレンビグアナイドとして、大阪化成(株)製マルカサイドAV(上記式(1)における重合度nの平均値が12、主成分はn=8〜14、塩酸塩)を用い、人工培養できないノロウイルスの代替ウイルスであるネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を検証した。
【0038】
<洗濯方法>
JIS L0217−103に規定される40℃での家庭洗濯により行った。
【0039】
(実施例1a)
ポリヘキサメチレンビグアナイドの0.29質量%水溶液に100%綿布を浸漬し、含水率70%となるように絞った後、120℃で30秒間加熱処理し、ポリヘキサメチレンビグアナイドの0.20%owf加工綿布を得た。この加工綿布を10回洗濯した。
【0040】
(実施例1b)
実施例1aにおいてポリヘキサメチレンビグアナイドを0.14質量%の水溶液とした以外は同様の手順により加工綿布を得た。
【0041】
(比較例1)
実施例1a、1bで用いた綿布にポリヘキサメチレンビグアナイドを含浸せず、そのまま用いた。
【0042】
(ウイルス浮遊液の調製の使用剤)
試験ウイルスとして、Feline calicivirus vaccine strain(ネコカリシウイルス)を使用し、使用細胞として、大日本製薬(株)製CRFK細胞を使用した。細胞増殖培地としては、Eagle MEM(0.06mg/mlカナマイシン含有)に牛胎仔血清を10質量%加えたものを使用した。細胞維持培地としては、上記のEagle MEMに牛胎仔血清を2質量%添加したものを使用した。
【0043】
(ウイルス浮遊液の調製)
上記の細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養した。単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウイルスを接種した。次に細胞維持培地を加えて37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO濃度:5質量%)内で5日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を遠心分離(3000r/min、10分間)し、得られた上澄み液を精製水で10倍に希釈した。
【0044】
(試料の調製)
上記実施例1a、1b、比較例1のそれぞれの資料を3cm×3cmの大きさに切断し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分)した検体を試料とした。
【0045】
(試験操作)
上記の実施例、比較例の試料に、上記の調製したウイルス浮遊液0.2mlを滴下し、室温にして1時間保存した後、ウイルス感染価の測定を行った。また、これと並行して、実施例、比較例の試料を用いて同様に1時間保存した試料のウイルス浮遊液を、細胞維持培地2mlで洗い出し、洗い出し液を得た。
【0046】
ウイルス感染価の測定には、細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除き、細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。次に、試料洗い出し液及びその希釈液0.1mlを4穴ずつに接種し、37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(同上)で7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出して、洗い出し液1mlあたりのウイルス感染価に換算した。その対数値を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1a、1bのいずれも、比較例や対照体に比べて1000倍以上の明瞭なウイルス不活化効果を示した。また、洗濯10回後でも、実施例1aは良好な不活化効果を示した。なお、対照体は標準の綿布である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヘキサメチレンビグアナイドを含有する、又は、ポリヘキサメチレンビグアナイドと展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物とを含有する抗ウイルス性付与剤を繊維製品に含ませた抗ウイルス性繊維製品。
【請求項2】
上記のポリヘキサメチレンビグアナイドが、下記化学式(1)で示される化合物又はその塩である請求項1に記載の抗ウイルス性繊維製品。
【化1】

【請求項3】
上記展着剤が、非イオン界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル、多価アルコール類及び多糖類から選ばれる1種以上の化合物からなり、かつ、上記バインダーが、メラミン系化合物、グリオキサール系化合物、ウレタン系化合物、ブロック化イソシアネート系化合物、シリコン系化合物、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及び、シリコンを含有するアクリル系樹脂から選ばれる1種以上の化合物からなる請求項1又は2に記載の抗ウイルス性繊維製品。
【請求項4】
抗インフルエンザウイルス特性及び抗カリシウイルス特性を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の抗ウイルス性繊維製品。
【請求項5】
上記繊維製品が、衣料、寝装寝具、カーテン、フィルター、帽子、マット、ネット、モップ、及びマスクから選ばれるうちの一種類である請求項1乃至4のいずれかに記載の抗ウイルス性繊維製品。
【請求項6】
ポリヘキサメチレンビグアナイドを含有する、又は、ポリヘキサメチレンビグアナイドと展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物とを含有する抗ウイルス性付与剤を、繊維製品に含ませる抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
【請求項7】
ポリヘキサメチレンビグアナイド濃度が0.1質量%以上2質量%以下の抗ウイルス性付与剤の水溶液、又は、
ポリヘキサメチレンビグアナイド濃度が0.1質量%以上2質量%以下であり、かつ、ポリヘキサメチレンビグアナイドに対して100質量%以上5000質量%以下の展着剤及びバインダーから選ばれる1つ以上の化合物を含有する水溶液である抗ウイルス性付与剤の水溶液を、繊維製品に接触させ90℃以上200℃以下の温度で加熱処理することで、繊維製品にポリヘキサメチレンビグアナイドを付着させた、抗ウイルス性繊維製品の製造方法。
【請求項8】
ポリヘキサメチレンビグアナイド、又は、ポリヘキサメチレンビグアナイドとバインダーとを含有する、抗ウイルス性付与剤。
【請求項9】
抗インフルエンザウイルス特性及び抗カリシウイルス特性を有する請求項8に記載の抗ウイルス性付与剤。

【公開番号】特開2010−18915(P2010−18915A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181310(P2008−181310)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000205432)大阪化成株式会社 (21)
【Fターム(参考)】