説明

抗ウイルス物質、抗ウイルス繊維及び抗ウイルス繊維構造物

【課題】 ウイルスを不活化させるに有効な抗ウイルス物質、抗ウイルス物質を担持した繊維製品、並びに繊維構造物を提供する。
【解決手段】 抗ウイルス物質は、重合鎖中にスチレン類またはα−オレフィンと、(メタ)アクリル酸との共重合体成分を含む高分子であり、前記高分子が銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを担持しており、鳥インフルエンザウイルスに有効である。
また、前記抗ウイルス物質の高分子を紡糸または担持した抗ウイルス繊維は、ウイルスを不活化させるのに有効である。
前記抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含む抗ウイルス繊維製品は、例えば、衣類、布団、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シートに形づくられて使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスに有効な高分子からなる抗ウイルス物質、抗ウイルス機能を備えた繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザなどのウイルス病が世界的に猛威をふるい、特にインフルエンザウイルスは、次々と新種のものが発見され、人類にとって脅威となっている。本来、ウイルスの宿主域は限定され、哺乳類に感染するものは哺乳類だけ、鳥類に感染するものは鳥類だけというのが通常である。しかし、鳥インフルエンザウイルスは、鳥類のみならず哺乳類にも感染することができる広い宿主域をもつウイルスであるため、ヒトに対して感染する恐れがある。現在では、アジアやヨーロッパでもH5N1型インフルエンザが蔓延しており、それをベースにしたヒト新型インフルエンザの出現が危惧されている。
【0003】
また、鳥インフルエンザウイルスは、渡り鳥により遠隔地まで運搬されるため、食品のように疾病の発生した国からの輸入を停止し、検疫のみにより国内への侵入を阻止することができない。
【0004】
このようなインフルエンザウイルスを不活化する剤が特許文献1に開示されている。このインフルエンザウイルス不活化剤は、ヨウ素とβ−シクロデキストリンとを包含する溶液である。
【0005】
特許文献2には、架橋構造を有し、且つ分子中にカルボキシル基を有する繊維として、架橋アクリル繊維を用い、その繊維中に水に難溶性の金属および/または金属化合物の微粒子が分散している抗ウイルス性繊維が開示されている。しかし、繊維中に微分散している水に難溶性の金属及び/又は金属化合物の微粒子とウイルスが接触してウイルス不活化効果を得ているが、その方法では十分なウイルス不活化効果が得られず、また水分雰囲気化でないとその効果が低下するものと考えられる。
【0006】
また、特許文献3には、不織布をポリアクリル酸に浸した後に乾燥して形成した殺菌用フィルターを開示している。このフィルターは、ポリアクリル酸のCOO-とH+が電離し、この位置で細菌類やウイルス類の吸着活性を有するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−328039号公報
【特許文献2】国際公開2005/083171号再公表公報
【特許文献3】特開2005−125141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記したとおりインフルエンザの発生を全面的に取り除くことは極めて困難であることに鑑みて、ブドウ状球菌、グラム陰性菌のような細菌の大きさよりもはるかに小さいウイルスを不活化させるに有効な抗ウイルス物質、抗ウイルス物質を担持した繊維、繊維構造物、並びに繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の抗ウイルス物質は、重合鎖中に、スチレン類またはα−オレフィンと、(メタ)アクリル酸との共重合体成分を含む高分子であり、前記高分子が銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを担持していることを特徴とする。
【0010】
本発明の抗ウイルス繊維は、重合鎖中に、スチレン類またはα−オレフィンと、(メタ)アクリル酸との共重合体成分を含み、前記共重合体成分が銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを担持している高分子からなる抗ウイルス物質を有効成分として含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の抗ウイルス繊維構造物は、前記抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の抗ウイルス繊維製品は、前記抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含み、衣類、寝具、布団、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シートに形づくられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗ウイルス物質は、ウイルスを不活化させるのに有効である。また、本発明の抗ウイルス物質の高分子を紡糸または担持した本発明の抗ウイルス繊維は、ウイルスを不活化させるのに有効である。さらに、本発明の抗ウイルス繊維は繊維製品に加工され、本発明の繊維構造物を構成する。その抗ウイルス繊維構造物は、接触するウイルスに対して不活化効果が高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の抗ウイルス物質は、重合鎖中に、スチレン類またはα−オレフィンと、(メタ)アクリル酸との共重合体成分を含む高分子であり、前記高分子が銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを担持していることを特徴とする。本発明者は、この金属のイオンを担持した高分子にウイルスの不活化効果があることを見いだした。
【0015】
この抗ウイルス物質は、様々なウイルスに対して不活化効果を有する。本発明において不活化効果の対象となるウイルスは、ゲノム種類、及びエンベロープの有無等によらず、全てのウイルスが含まれる。例えば、ゲノムとしてDNAを有するウイルスとしては、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、水疱瘡ウイルス、アデノウイルス等が挙げられ、ゲノムとしてRNAを有するウイルスとしては、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキーウイルス、カリシウイルス(ノロウイルス属)、レトロウイルス(レンチウイルス属、例えばHIV(human immunodeficiency virus:ヒト免疫不全ウイルス)等)、コロナウイルス等が挙げられる。また、これらのウイルスのうち、エンベロープを有するウイルスとしては、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、水疱瘡ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス等が挙げられ、エンベロープを有さないウイルスとしては、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、ノロウイルス等が挙げられる。
【0016】
この抗ウイルス物質がウイルスに対して不活化効果を有する理由は、インフルエンザウイルスに対して、ウイルス表面にある突起HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミターゼ)の活性を阻害するためと推定される。また、他のウイルスにおいても、ウイルス表面の突起の活性を阻害するか、ウイルス粒子を直接破壊するためと推定される。
【0017】
抗ウイルス物質は、鳥インフルエンザウイルスに対する不活化効果が高く、特にH5、あるいはH7の亜型のような強毒性のある高病原性鳥インフルエンザウイルスに有効である。本発明では、鳥インフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株について抗ウイルス効果を証明しているが、H5N1型、H9N2型などの鳥インフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。また、ヒトインフルエンザウイルスやブタインフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。
【0018】
重合鎖中に、スチレン類またはα−オレフィンと、(メタ)アクリル酸との共重合体成分を含む高分子(以下、「(メタ)アクリル酸成分を含む高分子」ともいう)は、本来、紙に対してインクなど液体の浸透性を抑え、裏移りや滲みを防ぐ目的の製紙用サイズ剤として用いられるものである。この高分子に所定の金属のイオンを担持させると、蛋白質を変性させて、ウイルスに対して不活化効果があることが判った。前記(メタ)アクリル酸成分を含む高分子は、疎水性基と親水性基を持つものあり、疎水性基を持つモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類、または炭素数2〜22、好ましくは炭素数6〜22の直鎖または分岐鎖のα−オレフィンが挙げられ、これらモノマーが1又は2以上が共重合されて用いられる。この疎水性基を持つモノマーは、共重合体中に30〜90mol%であることが好ましい。より好ましくは、50〜90mol%である。
【0019】
前記(メタ)アクリル酸成分を含む高分子の親水性基として、(メタ)アクリル酸を含有する高分子化合物が挙げられる。なお、本明細書中の「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸及び/又はアクリル酸を意味する。具体的な親水性基を持つモノマーとしては、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチルエステル,(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルエステル,(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノプロピルエステル,(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノメチルエステル,(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチルエステル,(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノプロピルエステルなどの1種または2種以上で用いられる(メタ)アクリル酸N,N−ジアルキルアミノアルキルエステル,またはそのエピハリヒドリン変性物、エピハロヒドリン基を有しない(メタ)アクリル酸N,N−ジアルキルアミノアルキルエステルの非架橋型4級化物、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられ、これら(メタ)アクリル酸系モノマーが1又は2以上が共重合されて用いられる。この親水性基を持つモノマーは、共重合体中に70〜10mol%であることが好ましい。より好ましくは、50〜10mol%である。
【0020】
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸成分を含む高分子の好ましい形態として、スチレン−アクリル酸系高分子を一例として示す。
【0021】
【化1】

【0022】
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸成分を含む高分子は、疎水性基を持つモノマーと親水性基を持つモノマーの混合単量体を、溶液重合または塊状重合することにより容易に収得しうる。重合方法は、特に制限されず、従来公知の条件をそのまま採用することができる。溶液重合法における溶媒としては、イソプロピルアルコール、トルエン、ベンゼン、メチルイソブチルケトンなどを使用できる。ついで、得られた共重合体である高分子に水を所定量添加することにより高分子混合液とすることができる。高分子混合液の固形分濃度は特に制限はされないが、通常は20〜40%程度とされ、適宜使用に当たって希釈することができるのはもとよりである。なお、前記高分子は、本発明の機能を損なわない範囲で、上記したモノマー以外の第三成分を少量共重合してもよい。
【0023】
前記高分子混合液として、具体的には、荒川化学工業(株)製「ポリマロン」が好ましい。この高分子混合液は、淡褐色又は淡黄色の透明液、微濁液、エマルジョンの状態にあり、粘度が100〜5000mPa・sを用いることが好ましい。このような粘度であると、後述するビスコース中への混合、あるいは担体への付与が容易である。また、高分子混合液のpHは、7〜11であることが好ましく、8.5〜10.5であることがより好ましい。
【0024】
本発明の抗ウイルス物質は、(メタ)アクリル酸成分を含む高分子に、銅、銀、亜鉛、及びニッケルから選ばれる少なくとも一つの金属のイオンが担持されている。(メタ)アクリル酸成分を含む高分子のエマルジョンに、銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを含む溶液などを混合するか、(メタ)アクリル酸成分を含む高分子を有機物、無機物の担体に担持させた後、銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを含む溶液などに浸漬、コーティング等の加工を施して、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、及びニッケルイオンから選ばれる少なくとも一つの金属イオンを担持することができる。金属イオンとしては、銅イオンの抗ウイルス効果が高く、特に好ましい。
【0025】
前記(メタ)アクリル酸成分を含む高分子は、有機物、無機物の担体に担持または混合することができる。(メタ)アクリル酸成分を含む高分子が担体に対する含有量は、担体に担持または混合でき、且つ抗ウイルス効果を発揮し得る範囲であれば特に限定されないが、例えば、担体100質量部に対して(メタ)アクリル酸成分を含む高分子が0.1〜100質量部であることが好ましい。より好ましい(メタ)アクリル酸成分を含む高分子の含有量は、0.5〜60質量部である。
【0026】
本発明の抗ウイルス物質は、前記有機物の担体としてセルロース材料に担持していることが好ましい。セルロース材料は、吸水性が良いため、抗ウイルス効果を発揮しやすい傾向にある。特に、後述する銅、銀、亜鉛から選ばれる金属のイオンを担持させたときに、+イオンまたは−イオンの状態で担体に保持させておくことが重要であり、水分を保持できるセルロース材料の方が有利である。セルロース材料は、例えば、繊維、スポンジ等の形態に加工される。
【0027】
前記有機物の担体としては、繊維が特に好ましい。繊維は、嵩量があり大きな表面積を持つため、(メタ)アクリル酸成分を含む高分子が効率よく空気中のウイルスに接触する。
【0028】
前記繊維素材は、例えばセルロース系繊維(木綿、麻、レーヨン、パルプなど)、蛋白質系繊維(羊毛、絹など)、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などあらゆる天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維が使用される。なかでもセルロース系繊維は、上記セルロース材料が好ましい理由と同様に有利である。また、セルロース系繊維は、合成繊維のように静電気がおきて埃がたまることがないので、埃により反応サイトが塞がれることがなく、より抗ウイルス効果を発揮することができる。特にレーヨンは、吸水性が良く、繊度や繊維長を調整しやすいので、様々な繊維構造物および繊維製品に適用することができる。
【0029】
(メタ)アクリル酸成分を含む高分子溶液、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体溶液は、公知の方法により得られるセルロースのビスコース溶液、あるいはセルロースの銅アンモニア溶液などの含金属アルカリ溶液と溶解混合した混合液を、紡糸ノズルを通じて紡糸液に吐き出して、いわゆる湿式紡糸により、(メタ)アクリル酸成分を含む高分子が繊維中に混合されたレーヨン繊維を得ることができる。
【0030】
セルロースと(メタ)アクリル酸成分を含む高分子との混合割合は、前者が60〜99質量%、後者が40〜1質量%程度が好ましい。セルロースの使用割合が60質量%未満の場合には、得られるセルロース系組成物は表面にべとつき感が生じることがあり、引き続く紡織、複合化などの工程に際してブロッキングなどの不利が生じることがある。また99質量%を越える場合には前記(メタ)アクリル酸成分を含む高分子を使用することによる抗ウイルス効果が低くなることがある。
【0031】
本発明の抗ウイルス繊維は、(メタ)アクリル酸成分を含む高分子を担持した繊維に、銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを含む溶液などに浸漬、コーティング等の加工を施して、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、及びニッケルイオンから選ばれる少なくとも一つの金属イオンが担持される。
【0032】
例えば、(メタ)アクリル酸成分を含む高分子を担持した繊維に、銅イオンを担持させる方法としては、例えば硫酸銅(CuSO4)あるいは硝酸銅(Cu(NO32)などの溶液に浸漬して銅イオンを吸着することができる。亜鉛イオンを担持させる方法としては、例えば、塩化亜鉛(ZnCl2)溶液に浸漬して亜鉛イオンを吸着することができる。ニッケルイオンを担持させる方法としては、例えば、塩化ニッケル(NiCl2)溶液に浸漬してニッケルイオンを吸着することができる。
【0033】
前記抗ウイルス繊維は、例えば、シート状物、樹脂成型物、無機成型物などに添加して用いることもできる。また、バインダー等を併用して、シート状物、樹脂成型物、無機成型物などに接着することができる。
【0034】
前記抗ウイルス繊維の断面形状は特に限定されず、円形、異形、中空等のいずれであってもよい。また、抗ウイルス繊維の繊維長も特に限定されず、長繊維、短繊維、微細繊維等のいずれであってもよい。長繊維であれば、紡糸後そのままボビン等に繊維を巻き付けることにより得ることができる。短繊維であれば、カッターなどで所定の繊維長に切断するか、天然繊維であればそのまま用いることができる。微細繊維であれば、グラインドミルなどですり潰すようにして裁断し、任意のメッシュを有する篩にかけて分級することにより得ることができる。すり潰して裁断した微細繊維は適度に湾曲している。さらに、前記抗ウイルス繊維の繊度は特に限定されず、用途に応じて適宜選定するとよい。
【0035】
本発明の抗ウイルス繊維構造物は、前記抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含み、糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形して用いることができる。また、前記繊維構造物とフィルム等の他のシートと積層した積層シートとしてもよい。
【0036】
以下、具体的な抗ウイルス繊維構造物について説明する。本発明の抗ウイルス繊維構造物を糸で得る場合、(1)先に抗ウイルス物質として(メタ)アクリル酸成分に銅、銀、亜鉛等の金属のイオンを担持させた高分子を紡糸または担持した繊維を得て、抗ウイルス繊維とした後に、少なくとも一部に抗ウイルス繊維を含む糸を作製する方法、(2)抗ウイルス物質として(メタ)アクリル酸成分を含む高分子を紡糸または担持した繊維を得て、少なくとも一部に抗ウイルス繊維を含む糸を作製した後、(メタ)アクリル酸成分に銅、銀、亜鉛等の金属のイオンを担持させる方法、あるいは(3)公知の方法により糸を作製した後、(メタ)アクリル酸成分に銅、銀、亜鉛等の金属のイオンを担持させた高分子を繊維表面に担持させる方法、等を採ることができる。前記した糸は、公知の紡績糸、マルチフィラメント糸を製造する方法で得ることができる。
【0037】
本発明の抗ウイルス繊維構造物を織編物で得る場合、(1)先に抗ウイルス物質として(メタ)アクリル酸成分に銅、銀、亜鉛等の金属のイオンを担持させた高分子を紡糸または担持した繊維を得て、抗ウイルス繊維とした後、所定の抗ウイルス繊維を含有する糸を製織し、必要に応じて染色して、織編物を作製する方法、(2)抗ウイルス物質として(メタ)アクリル酸成分を含む高分子を紡糸または担持した繊維を得て、少なくとも一部に抗ウイルス繊維を含む糸を作製して製織した後、必要に応じて染色し、(メタ)アクリル酸成分に銅、銀、亜鉛等の金属のイオンを担持させる方法、(3)先に抗ウイルス繊維を5mm以下に切断した短繊維、または粉砕した微細繊維をバインダーにより織編物を構成する繊維表面に担持させる方法、等を採ることができる。前記した織編物は、公知の織編物を製造する方法で得ることができる。
【0038】
抗ウイルス繊維構造物をウェブ、不織布、紙、ネットで得る場合も上記織編物の加工と同様の方法で得ることができる。
【0039】
前記抗ウイルス繊維は、少なくとも一部に含み、例えば、衣類(帽子、手袋、ハンカチを含む)、布団、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品のごとき繊維製品にして日常の生活に供され、生活空間に飛散浮遊するウイルスを不活化させることができる。
【0040】
以下、本発明の抗ウイルス繊維構造物および抗ウイルス繊維製品について、具体的に例示する。本発明の抗ウイルス繊維構造物が不織布の場合、繊維ウェブの形成方法は、カード法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、静電紡糸法などを用いることができる。得られた繊維ウェブは、エアースルー不織布や熱圧着不織布などのサーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布などに加工される。
【0041】
例えば、予め抗ウイルス物質が混合または担持された抗ウイルス繊維を用いた場合、前記繊維ウェブは、抗ウイルス繊維100質量%であってもよいが、他の抗ウイルス繊維との混合、あるいは抗ウイルス効果が得られる範囲内で他の繊維と混合してもよい。他の繊維と混合する場合は、抗ウイルス繊維が少なくとも20質量%であることが好ましい。より好ましくは、少なくとも30質量%である。さらにより好ましくは、50質量%以上である。このようにして得られた繊維ウェブは、所定の加工が施されて不織布を得ることができる。また、得られた繊維ウェブまたは不織布に金属イオンを上述した方法で担持することもできる。
【0042】
例えば、担体となる繊維(以下、担体用繊維ともいう)を準備し、繊維ウェブを作製し、不織布に加工した後、抗ウイルス物質を担持させる場合、繊維ウェブは、担体用繊維100質量%であってもよいが、他の抗ウイルス繊維との混合、あるいは抗ウイルス効果が得られる範囲内で他の繊維と混合してもよい。他の繊維と混合する場合は、担体用繊維が少なくとも20質量%であることが好ましい。より好ましくは、少なくとも30質量%である。さらにより好ましくは、50質量%以上である。また、得られた繊維ウェブまたは不織布に金属イオンを上述した方法で担持することもできる。このように、後加工で繊維ウェブまたは不織布に抗ウイルス物質および/または金属イオンを担持させる場合、不織布に他のシートを積層し一体化すると、例えば、不織布強力を大きく生産速度を上げることができるなどの加工時の取り扱い性がよく、好ましい。他のシートとしては、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、フィラメントが1方向に配列され延伸された一方向延伸配列繊維不織布、フィラメントの配列方向が互いに直交するように積層されてなる経緯直交積層繊維不織布、湿式抄紙、ネット、フィルム、織編物などが挙げられる。特に、スパンボンド不織布、一方向延伸配列繊維不織布、および経緯直交積層繊維不織布は、積層した後の不織布強力を大きくすることができるので、補強層として好ましく用いられる。
【0043】
本発明の抗ウイルス繊維構造物として、サーマルボンド不織布の一例を示す。本発明の抗ウイルス繊維と、熱接着性繊維と、必要に応じて他の抗ウイルス繊維、他の繊維を混合して繊維ウェブを形成し、熱接着性繊維が熱接着する温度で熱処理されて、サーマルボンド不織布を得ることができる。熱接着性繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ナイロン6,ナイロン66等のポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等のポリオレフィン、などのポリマーまたは共重合ポリマーが少なくとも一部が繊維表面に露出した単一成分繊維または複合繊維を用いることができる。
【0044】
抗ウイルス繊維構造物として、ケミカルボンド不織布の一例を示す。まず、本発明の抗ウイルス繊維と、必要に応じて他の抗ウイルス繊維、他の繊維を混合して繊維ウェブを形成する。必要に応じて、繊維ウェブを不織布(例えば、ニードルパンチ不織布)に成形した後、バインダーを浸漬、噴霧(例えば、スプレーボンド)、コーティング(例えば、フォームボンド)等により付着させ、乾燥及び/またはキュアリングして、ケミカルボンド不織布を得ることができる。バインダーとしては、アクリルバインダー、ウレタンバインダーなどを用いることができる。バインダーの付着量は、不織布の形態を維持することができ、抗ウイルス効果を阻害しない範囲であれば、特に限定されない。例えば、不織布質量に対して、固形分で5〜50質量%であることが好ましい。
【0045】
抗ウイルス繊維構造物として、水流交絡不織布の一例を示す。まず、本発明の抗ウイルス繊維と、必要に応じて他の抗ウイルス繊維、他の繊維を混合して繊維ウェブを形成する。この繊維ウェブには、必要に応じて他のシートを積層することができる。他のシートとしては、例えば、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、一方向延伸配列繊維不織布、経緯直交積層繊維不織布、湿式抄紙、ネット、フィルム、織編物などが挙げられる。特に、スパンボンド不織布、一方向延伸配列繊維不織布、および経緯直交積層繊維不織布は、積層した後の不織布強力を大きくすることができるので、補強層として好ましく用いられる。繊維ウェブまたは積層シートには、例えば、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが、0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上10MPa以下の水流を、繊維ウェブの表裏面側からそれぞれ1〜4回ずつ噴射して繊維同士を交絡させて得ることができる。
【0046】
本発明の抗ウイルス繊維構造物において、防水性が必要な場合は、抗ウイルス繊維構造物の表面に防水性のフィルムを積層するか、押出ラミネート機等を用いて樹脂をラミネートして、防水性を有する抗ウイルス繊維構造物を得ることができる。また、透湿防水性が必要な場合は、メルトブローン不織布などの極細繊維不織布を積層するか、透湿性を有する樹脂をラミネートして、透湿防水性を有する抗ウイルス繊維構造物を得ることができる。
【0047】
このような防水性や透湿防水性を有する抗ウイルス繊維構造物は、例えば、病院用ベッドシーツ、病院用カーテン、手術用シーツ、実験シートなどの医療用シートに用いることができる。
【0048】
上記サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、及び水流交絡不織布は、例えば、エアフィルターに用いることができる。エアフィルターに用いる場合、中粗塵用フィルターであれば、構成する繊維の繊度は、2〜50dtexであることが好ましい。目付は10〜150g/m2であることが好ましい。このようにして得られたエアフィルターは、エアコン、空気清浄機、掃除機などの家電用フィルターとして用いることができる。例えば空気清浄機用フィルターであれば、ケミカルボンド不織布等の支持体と、抗ウイルス繊維構造物と、エレクトレット不織布やHEPA、ULPA等の高精度フィルター層の積層構造を有し、プリーツ(ひだ折り)加工されたシートが用いられる。
【0049】
本発明の抗ウイルス繊維構造物は、衛生マスク、サージカルマスク、防塵マスク(例えば、N95対応マスク(Particulate Respirator Type N95)、呼吸用保護具)等のマスクに用いることもできる。マスクに用いることができる抗ウイルス繊維構造物としては、前記サーマルボンド不織布や水流交絡不織布が挙げられる。マスクに用いることができる抗ウイルス繊維の繊度は、1〜10dtexであることが好ましい。より好ましくは、2〜8dtexである。目付は20〜60g/m2であることが好ましい。マスクの構成としては、例えば、外側から口側にかけて、補強不織布(例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布)/本発明の抗ウイルス不織布/極細繊維不織布(例えば、メルトブローン不織布)/補強または柔軟不織布(例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布)の積層構造にすると、抗ウイルス性能を効果的に発揮することができる。
【0050】
本発明の抗ウイルス繊維構造物の別の一例として、抗ウイルス繊維を5mm以下に切断した短繊維、または粉砕した微細繊維(以下、総称して繊維パウダーともいう)を他の繊維表面に担持させた不織布が挙げられる。このように繊維パウダーにした抗ウイルス繊維は、バインダーにより他の繊維表面に担持することができる。バインダーにより抗ウイルス繊維パウダーを担持する方法としては、例えば、抗ウイルス繊維パウダーと、バインダー(例えば、アクリルバインダー、ウレタンバインダーなど)を所定量添加してバインダー溶液を調製し、繊維基布に対してバインダー溶液を浸漬、噴霧(例えば、スプレーボンド)、コーティング(例えば、ナイフコーター、グラビアコーター)等により付着させ、乾燥及び/またはキュアリングして、抗ウイルス繊維パウダー担持不織布を得ることができる。また、別の方法としては、抗ウイルス繊維パウダーの水分散液を調整し、熱接着性繊維または湿熱接着性繊維を含む繊維構造物に水分散液を浸漬、噴霧、コーティング等により抗ウイルス繊維パウダーを付着させた後、熱処理して熱接着性繊維または湿熱接着性繊維によりパウダーを接着させて、抗ウイルス繊維パウダー担持不織布を得ることもできる。
【0051】
前記繊維基布としては、例えば、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、水流交絡不織布等の不織布、織編物などを用いることができる。
【0052】
前記抗ウイルス繊維パウダー担持不織布は、例えば、防護衣に用いることができる。不織布を所定の形状に裁断し、不織布端部同士を重ねてヒートシール、超音波シール、高周波シールをするか、縫製するか、などの方法で作製することができる。
【0053】
本発明の抗ウイルス繊維構造物を織編物である場合、具体的な一例を示す。まず、抗ウイルス物質として(メタ)アクリル酸成分を含む高分子を紡糸または担持した抗ウイルス繊維とした後、所定の抗ウイルス繊維を含有する糸を製織する。得られた織編物を、ジッカー染色機、高圧液流染色機、パドル染色機等の染色機を用い、繊維100質量部に対して0.05〜5質量部、すなわち0.05〜5%owf(on weight fiber)の金属イオン化合物を含む溶液(例えば、硫酸銅水溶液)に織編物を浸漬し、水洗処理、乾燥し、必要に応じてアクリル樹脂やウレタン樹脂等をディッピングして風合い加工等を行い、(メタ)アクリル酸成分に銅、銀、亜鉛等の金属のイオンを担持させた抗ウイルス織編物を得ることができる。
【0054】
このようにして得られる抗ウイルス織編物は、例えば、衣類、布団、カーテン、カーペット、マット、シーツ、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シート材などに用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[抗ウイルス繊維の作製]
(実施例1)
スチレン−アクリル酸共重合体混合液(荒川化学工業(株)製、商品名「ポリマロン 356−25」、淡褐色透明液)を、セルロースのビスコース溶液(セルロース濃度8.5%)に前記共重合体固形分がセルロース固形分100部に対して10部となるよう添加し、溶解した。各々の混合溶液を硫酸100g/l、硫酸亜鉛15g/l、硫酸ナトリウム350g/lの強酸性浴中に白金ノズルから押出して紡糸した。常法により脱硫、精練漂白することにより、スチレン−アクリル酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維の試料を得た。繊度は1.4dtex、繊維長は38mmであった。
【0057】
得られたビスコースレーヨン繊維を0.16%硫酸銅水溶液に浸漬して5分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、80℃で1時間乾燥し、抗ウイルス繊維の試料を得た。この抗ウイルス繊維の銅担持量は0.325質量%であった。
【0058】
(実施例2)
スチレン−アクリル酸共重合体混合液として、荒川化学工業(株)製、商品名「ポリマロン 1308」(淡黄色微濁液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、抗ウイルス繊維を得た。この抗ウイルス繊維の銅担持量は0.3質量%であった。
【0059】
(実施例3)
スチレン−アクリル酸共重合体混合液として、荒川化学工業(株)製、商品名「ポリマロン 326」を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、抗ウイルス繊維を得た。この抗ウイルス繊維の銅担持量は0.275質量%であった。
【0060】
[鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス繊維の性能評価]
被検ウイルスは、国立大学法人鳥取大学鳥インフルエンザ研究センターに保管されている鳥インフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株を使用した。この鳥インフルエンザウイルス株は、鳥インフルエンザウイルスA/コハクチョウ/島根/499/83(H5N3)とも称される(以下、H5N3株という)。
【0061】
上記各実施例で試作した抗ウイルス繊維を約1.5cm長さに切り揃え、ポリエチレン袋に0.2gを入れ、被検ウイルスを燐酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で100倍に希釈したウイルス液Aを各0.6mlずつポリエチレン袋に分注し、抗ウイルス繊維にウイルス液を染み込ませた。4℃で反応時間10分間静置した。そのウイルス液を採取しPBSでさらに10倍段階希釈し、10日齢発育鶏卵(SPF)に0.2mlずつ漿尿膜腔内に接種した。2日間培養後、尿膜腔液Bを回収し、鶏赤血球凝集反応によりウイルス増殖の有無を判定した。ウイルス力価はReed & Muench (1938)の方法によって算出した。
【0062】
比較例として、未加工のレーヨン繊維を用いた。
【0063】
各抗ウイルス繊維(実施例1〜3)のウイルス力価を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から、実施例1〜3の抗ウイルス繊維を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例1〜3の抗ウイルス繊維に鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。一方、同一条件で抗ウイルス繊維を使用しない比較例の尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が減少していたが十分なものではなかった。
【0066】
[抗ウイルスマスクの作製]
(実施例4)
抗ウイルスマスクを作製するために、実施例2の抗ウイルス繊維と、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンからなる繊度2.2dtex、繊維長51mmの鞘芯型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製、NBF(H))を用いた。本発明の抗ウイルス繊維が60質量%と鞘芯型複合繊維が40質量%となるように混合し、パラレルカード機を用いて開繊してカードウェブを作製した。目付は、40g/m2とした。
【0067】
得られたカードウェブは、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、ウェブの表面に、水圧4MPaの柱状水流を2回噴射し、同様にその反対の表面に、水圧4MPaの柱状水流を2回噴射して繊維を交絡された。その後、ボックス型真空吸引装置にて、脱水後、ドラム型乾燥機(設定温度140℃)にて鞘芯型複合繊維の鞘成分で融着し、乾燥させて、水流交絡により一体化された水流交絡不織布を得た。
【0068】
得られた積層不織布は、25℃、0.1%の硫酸銅水溶液に浸漬され、ニップロールで絞られた後、水洗槽で十分に水洗されて、80℃で乾燥して、抗ウイルス不織布の試料を得た。この抗ウイルス不織布の銅担持量は0.18質量%であった。
【0069】
このようにして得られた抗ウイルス不織布を、ポリプロピレンスパンボンド不織布の上に載置し、さらにポリプロピレンメルトブローン不織布とポリプロピレンスパンボンド不織布を重ね合わせて、縦15cm、横15cmに切断し、3段にプリーツ折りして、横方向の端の中央部に耳掛け紐を設け、シート端の四辺をヒートシール加工し、抗ウイルス不織布が外側から2層目を構成する抗ウイルスマスクを作製した。このマスクを装着したところ、息苦しさもなく、装着性も良好であった。
【0070】
(実施例5)
下記の第1〜第3繊維層から成る積層不織布を作製した。第1繊維層と第3繊維層は、目付を各層とも20g/m2とした以外は、実施例3と同様の方法でカードウェブを作製した。
【0071】
第2繊維層として、ポリエステル繊維からなる、目付が5g/m2の1方向延伸配列不織布(商品名ミライフT05、新日石プラスト(株)製)を用意した。
【0072】
第1繊維層と第3繊維層の間に第2繊維層が位置するように、3つの繊維層を積層して積層ウェブを作製した。次いで、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いて、ウェブの第1繊維層側の表面に、水圧4MPaの柱状水流を2回噴射し、同様に第3繊維層側の表面に、水圧4MPaの柱状水流を2回噴射することに、繊維を交絡させた。その後、ボックス型真空吸引装置にて、脱水後、ドラム型乾燥機(設定温度140℃)にて鞘芯型複合繊維の鞘成分で融着し、乾燥させて、水流交絡により一体化された積層不織布を得た。
【0073】
得られた積層不織布は、25℃、0.1%の硫酸銅水溶液に浸漬され、ニップロールで絞られた後、水洗槽で十分に水洗されて、80℃で乾燥して、抗ウイルス不織布の試料を得た。この抗ウイルス不織布の銅担持量は0.16質量%であった。
【0074】
このようにして得られた抗ウイルス不織布を、ポリプロピレンスパンボンド不織布の上に載置し、さらにポリプロピレンメルトブローン不織布とポリプロピレンスパンボンド不織布を重ね合わせて、縦15cm、横15cmに切断し、3段にプリーツ折りして、横方向の端の中央部に耳掛け紐を設け、シート端の四辺をヒートシール加工し、抗ウイルス不織布が外側から2層目を構成する抗ウイルスマスクを作製した。このマスクを装着したところ、息苦しさもなく、装着性も良好であった。
【0075】
[防水性抗ウイルス不織布の作製]
(実施例6)
前記抗ウイルス不織布の表面に、押出ラミネート機を用いて、融点が103℃の低密度ポリエチレンを厚み30μmとなるようにラミネートして、防水性の抗ウイルス不織布を作製した。この防水性不織布を医療用ベッドシーツや実験シートに用いたところ、防水性と抗ウイルス効果があることを確認できた。
【0076】
[エアフィルターの作製]
(実施例7)
抗ウイルス不織布として、実施例1と同様の方法で得られた繊度7.8dtex、繊維長76mmの抗ウイルス繊維を50質量%と、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンからなる繊度2.2dtex、繊維長51mmの鞘芯型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製、NBF(H))を50質量%用いた。これらの繊維を混合し、パラレルカード機を用いて開繊したカードウェブを作製した。次いで、一対のエンボスロール/フラットロールからなる熱ロール加工機を用いて140℃で熱処理して、鞘芯型複合繊維の鞘成分を溶融し部分的に圧着(エンボス面積率約18%)させて、目付30g/m2のサーマルボンド不織布(抗ウイルス不織布)を作製した。
【0077】
次いで、ポリエステル繊維とレーヨン繊維を混合したケミカルボンド不織布を支持体とし、その支持体の上にホットメルト剤を噴霧した後に、得られた抗ウイルス不織布を積層し、ホットメルト剤により一体化した。次いで、その抗ウイルス不織布の上にホットメルト剤を噴霧した後に、目付が150g/m2のエレクトレット不織布(精密フィルター層)を積層し、ホットメルト剤により一体化した。得られたシートは、プリーツ加工機によりプリーツ折りされて、プラスチック製ユニットにはめ込まれ、空気清浄機用フィルターを作製した。このフィルターを空気清浄機に装着したところ、十分なフィルター性能が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の抗ウイルス物質は、本発明の抗ウイルス繊維の原材料として使用できる。
【0079】
また、本発明の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含む抗ウイルス繊維構造物は、糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等に成形して、様々な繊維産業に使用できる。その抗ウイルス繊維構造物は、接触するウイルスに対して不活化効果が高く、医療に役立つ。
【0080】
さらに、前記抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含む抗ウイルス繊維製品は、例えば、衣類、布団、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シートに形づくられて使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合鎖中に、スチレン類またはα−オレフィンと、(メタ)アクリル酸との共重合体成分を含む高分子であり、前記高分子が銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを担持していることを特徴とする抗ウイルス物質。
【請求項2】
前記高分子が、銅イオンを担持したスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体である、請求項1に記載の抗ウイルス物質。
【請求項3】
前記高分子と、セルロースとが混合されている、請求項1または2に記載の抗ウイルス物質。
【請求項4】
前記高分子が、鳥インフルエンザウイルスに有効である、請求項1〜3のいずれかに記載の抗ウイルス物質。
【請求項5】
前記鳥インフルエンザウイルスが、A/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株である、請求項4に記載の抗ウイルス物質。
【請求項6】
重合鎖中に、スチレン類またはα−オレフィンと、(メタ)アクリル酸との共重合体成分を含み、前記共重合体成分が銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを担持している高分子からなる抗ウイルス物質を有効成分として含むことを特徴とする抗ウイルス繊維。
【請求項7】
請求項6に記載の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含むことを特徴とする抗ウイルス繊維構造物。
【請求項8】
請求項6に記載の抗ウイルス繊維を少なくとも一部に含み、衣類、寝具、布団、カーテン、壁紙、カーペット、マット、シーツ、フィルター、マスク、ワイパー、タオル、防護衣類、防護ネット、廃鶏袋、鶏舎用品、医療用シートに形づくられた抗ウイルス繊維製品。

【公開番号】特開2011−42615(P2011−42615A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191370(P2009−191370)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【出願人】(504322611)学校法人 京都産業大学 (27)
【Fターム(参考)】