説明

抗ウイルス膜材、防水布製品、及びテント

【課題】 ウイルスを不活化させるに有効な抗ウイルス材料を担持した膜材、防水布製品、及びテントを提供する。
【解決手段】 基材の少なくとも片面に、重合鎖中にモノマー単位としてのマレイン酸成分を含む高分子、−COOH基または−SO3H基を持つ金属フタロシアニン誘導体から選ばれる少なくとも1種である抗ウイルス材料を担持した樹脂層が積層されている膜材である。
また、繊維基布の少なくとも片面に樹脂層が積層されている膜材からなり、前記膜材の繊維基布及び/又は樹脂層が抗ウイルス材料を担持し、テントの内表面に配置されているテントである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスに有効な抗ウイルス材料を担持した抗ウイルス膜材、防水布製品、及びテントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザなどのウイルス病が世界的に猛威をふるい、特にインフルエンザウイルスは、次々と新種のものが発見され、人類にとって脅威となっている。本来、ウイルスの宿主域は限定され、哺乳類に感染するものは哺乳類だけ、鳥類に感染するものは鳥類だけというのが通常である。しかし、鳥インフルエンザウイルスは、鳥類のみならず哺乳類にも感染することができる広い宿主域をもつウイルスであるため、ヒトに対して感染する恐れがある。現在では、アジアやヨーロッパでもH5N1型インフルエンザが蔓延しており、それをベースにしたヒト新型インフルエンザの出現が危惧されている。
【0003】
また、鳥インフルエンザウイルスは、渡り鳥により遠隔地まで運搬されるため、食品のように疾病の発生した国からの輸入を停止し、検疫のみにより国内への侵入を阻止することができない。
【0004】
このようなインフルエンザウイルスを不活化する剤が特許文献1に開示されている。このインフルエンザウイルス不活化剤は、ヨウ素とβ−シクロデキストリンとを包含する溶液である。
【0005】
特許文献2には、架橋構造を有し、且つ分子中にカルボキシル基を有する繊維として、架橋アクリル繊維を用い、その繊維中に水に難溶性の金属および/または金属化合物の微粒子が分散している抗ウイルス性繊維が開示されている。しかし、繊維中に微分散している水に難溶性の金属及び/又は金属化合物の微粒子とウイルスが接触してウイルス不活化効果を得ているが、その方法では十分なウイルス不活化効果が得られず、また水分雰囲気化でないとその効果が低下するものと考えられる。
【0006】
特許文献3には、再生コラーゲン繊維または再生コラーゲン粉末を含む抗ウイルス性付与組成物をポリウレタン樹脂と混合して、軟質塩ビシートにコーティングしたシートが開示されている。
【0007】
一方、ヒト新型インフルエンザが出現すると、ウイルス感染対策として病院、保健所等の医療機関では、発熱外来やウイルス感染患者と、それ以外の患者と振り分けて患者との接触を最小限にする必要があるため、医療機関の屋内外に専用外来用のテントを設置する必要がある。このような発熱外来用、感染症用、または飛沫感染用のテントとして、例えば、特許文献4及び特許文献5のようなエアテントの医療施設が提案されている。しかし、このようなテントは、出入口からウイルスが外部へ拡散することを防止することはできるが、テント内での二次感染を抑制することはできないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−328039号公報
【特許文献2】国際公開2005/083171号再公表公報
【特許文献3】特開2009−127163号公報
【特許文献4】特開平4−125141号公報
【特許文献5】特開2005−2645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記したとおりインフルエンザの発生を全面的に取り除くことは極めて困難であることに鑑みて、ブドウ状球菌、グラム陰性菌のような細菌の大きさよりもはるかに小さいウイルスを不活化させるに有効な抗ウイルス材料を担持した繊維基布及び/又は樹脂層が積層される膜材、防水布製品、及びテントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の抗ウイルス膜材は、基材の少なくとも片面に樹脂層が積層されている膜材であって、
前記膜材の樹脂層は抗ウイルス材料を担持しており、
前記抗ウイルス材料は、重合鎖中にモノマー単位としてのマレイン酸成分を含む高分子、
及び下記(I)式
【化1】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる−COOH基または−SO3H基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0011】
本発明の防水布製品は、前記抗ウイルス膜材を少なくとも一部に含み、パーテーション、エアー遊具、ブロックマット、簡易プール、簡易風呂、フレキシブルコンテナ、ベッドシート、フロアシート、合成レザーに形づくられることを特徴とする。
【0012】
本発明のテントは、繊維基布の少なくとも片面に樹脂層が積層されている膜材からなるテントであって、
前記膜材の繊維基布及び/又は樹脂層は、抗ウイルス材料を担持しており、
前記抗ウイルス材料を担持した繊維基布又は樹脂層が、テントの内表面に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗ウイルス膜材は、抗ウイルス材料が接触する表面においてウイルスを不活化させるのに有効である。また、本発明の防水布製品は、人が直接接触する防水布製品において抗ウイルス性を付与することができる。さらに、本発明のテントは、テント内において抗ウイルス性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の抗ウイルス膜材は、基材の少なくとも片面に樹脂層が積層されている膜材であって、前記膜材の樹脂層は抗ウイルス材料を担持している。前記基材は、樹脂成型物、金属物など特に限定されないが、防水布製品やテントなどに用いる場合は、繊維基布が好ましい。以下、基材は主として繊維基布で説明する。前記抗ウイルス材料は、重合鎖中にモノマー単位としてのマレイン酸成分を含む高分子、
及び下記(I)式
【化2】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる−COOH基または−SO3H基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体(以下、金属フタロシアニン誘導体ともいう)から選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
前記マレイン酸を含む高分子としては、例えば、オレフィン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルエステル−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、または塩化ビニル−マレイン酸共重合体が挙げられる。
【0016】
前記マレイン酸を含む高分子からなる抗ウイルス材料(以下、抗ウイルス材料Mともいう)は、様々なウイルスに対して不活化効果を有する。本発明において不活化効果の対象となるウイルスは、ゲノム種類、及びエンベロープの有無等によらず、全てのウイルスが含まれる。例えば、ゲノムとしてDNAを有するウイルスとしては、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、水疱瘡ウイルス、アデノウイルス等が挙げられ、ゲノムとしてRNAを有するウイルスとしては、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキーウイルス、カリシウイルス(ノロウイルス属)、レトロウイルス(レンチウイルス属、例えばHIV(human immunodeficiency virus:ヒト免疫不全ウイルス)等)、コロナウイルス等が挙げられる。また、これらのウイルスのうち、エンベロープを有するウイルスとしては、ヘルペスウイルス、天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、水疱瘡ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス等が挙げられ、エンベロープを有さないウイルスとしては、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、ノロウイルス等が挙げられる。
【0017】
前記抗ウイルス材料Mがウイルスに対して不活化効果を有する理由は、インフルエンザウイルスに対して、ウイルス表面にある突起HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミターゼ)の活性を阻害するためと推定される。また、他のウイルスにおいても、ウイルス表面の突起の活性を阻害するか、ウイルス粒子を直接破壊するためと推定される。
【0018】
抗ウイルス材料Mは、鳥インフルエンザウイルスに対する不活化効果が高く、特にH5、あるいはH7の亜型のような強毒性のある高病原性鳥インフルエンザウイルスに有効である。本発明では、鳥インフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株、鳥インフルエンザウイルスA/Turkey/Wisconsin/1/66 (H9N2)株について抗ウイルス効果を証明しているが、H5N1型などの鳥インフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。
【0019】
また、前記抗ウイルス材料Mは、ヒトインフルエンザウイルスに対する不活化効果も高く、あらゆる種類のインフルエンザウイルスに有効である。ヒトインフルエンザウイルスA/Aichi/2/68 (H3N2)株について抗ウイルス効果を証明しているが、他のヒトインフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。
【0020】
さらに、この抗ウイルス材料Mは、ブタインフルエンザウイルスA/Swine/Iowa/15/30 (H1N1) 株について抗ウイルス効果を証明している。
【0021】
前記マレイン酸成分を含む高分子として代表的には、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体である。この共重合体は、酢酸ビニルと無水マレイン酸とを公知のラジカル重合開始剤を使用して、ベンゼン、トルエン、酢酸エステルのような有機溶媒の存在下に、溶液重合させることにより得ることができる。
【0022】
酢酸ビニルとマレイン酸は、ほぼ等モル共重合体であることが好ましい。分子量は用途に応じて広い範囲に亘り得るが通常1万〜200万、好ましくは10万〜50万の範囲である。
【0023】
酢酸ビニル及び無水マレイン酸は両者の等モル共重合体を得る場合、0.9:1.1〜1.1:0.9の割合で仕込めばよい。重合温度は、通常50〜120℃程度、重合時間は1〜6時間程度とするとよい。ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチルなどの過酸化物系重合開始剤、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤を例示でき、それらの使用量は、通常全単量体に対して0.05〜1.0質量%程度とされる。得られた共重合体溶液から溶剤を除去し、共重合体固形分の抗ウイルス材料Mとすることができる。
【0024】
前記マレイン酸成分を含む高分子は、水や溶剤等と混合し、必要に応じてバインダー樹脂を混合した高分子混合液として用いて、繊維基布及び/又は樹脂層に含浸、コーティング、噴霧等の公知の方法で付与して担持させることができる。
【0025】
また、前記マレイン酸成分を含む高分子は、一旦、別の有機物、無機物の担体に担持または混合した後、繊維基布及び/又は樹脂層に担持することができる。マレイン酸成分を含む高分子が担体に対する含有量は、担体に担持または混合でき、且つ抗ウイルス効果を発揮し得る範囲であれば特に限定されないが、例えば、担体100質量部に対してマレイン酸成分を含む高分子が1〜100質量部であることが好ましい。より好ましいマレイン酸成分を含む高分子の含有量は、5〜60質量部である。
【0026】
前記抗ウイルス材料Mは、前記有機物の担体としてセルロース材料に担持していることが好ましい。セルロース材料は、吸水性が良いため、抗ウイルス効果を発揮しやすい傾向にある。特に、後述する銅、銀、亜鉛から選ばれる金属のイオンを担持させたときに、+イオンまたは−イオンの状態で担体に保持させておくことが重要であり、水分を保持できるセルロース材料の方が有利である。セルロース材料は、例えば、繊維、スポンジ等の形態に加工される。
【0027】
前記有機物の担体としては、繊維が特に好ましい。繊維は、嵩量があり大きな表面積を持つため、マレイン酸成分を含む高分子が効率よく空気中のウイルスに接触する。
【0028】
繊維素材は、例えばセルロース系繊維(木綿、麻、レーヨン、パルプなど)、蛋白質系繊維(羊毛、絹など)、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などあらゆる天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維が使用される。なかでもセルロース系繊維は、上記セルロース材料が好ましい理由と同様に有利である。また、セルロース系繊維は、合成繊維のように静電気がおきて埃がたまることがないので、埃により反応サイトが塞がれることがなく、より抗ウイルス効果を発揮することができる。特にレーヨンは、吸水性が良く、繊度や繊維長を調整しやすいので、様々な繊維構造物に適用することができる。この抗ウイルス材料Mを担持した繊維を繊維基布の構成繊維としてもよい。
【0029】
例えば、この酢酸ビニル−マレイン酸共重合体溶液は、公知の方法により得られるセルロースのビスコース溶液、あるいはセルロースの銅アンモニア溶液などの含金属アルカリ溶液と溶解混合した混合液を、紡糸ノズルを通じて紡糸液に吐き出して、いわゆる湿式紡糸により抗ウイルス材料を含有するレーヨン繊維を得ることができる(例えば特公平8−13905号公報参照)。
【0030】
セルロースと共重合体との混合割合は、前者が60〜99質量%、後者が40〜1質量%程度が好ましい。セルロースの使用割合が60質量%未満の場合には、得られるセルロース系組成物は表面にべとつき感が生じることがあり、引き続く紡織、複合化などの工程に際してブロッキングなどの不利が生じることがある。また99質量%を越える場合には、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体を使用することによる抗ウイルス効果が低くなることがある。
【0031】
前記抗ウイルス材料Mまたはこれを担持した繊維(以下、抗ウイルス繊維Mともいう)には、さらに抗ウイルス作用を高めるために、銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを含む溶液などに浸漬、コーティング等の加工を施して、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、及びニッケルイオンから選ばれる少なくとも一つの金属イオンを担持することが好ましい。金属イオンとしては、銅イオンの抗ウイルス効果が高く、特に好ましい。
【0032】
前記抗ウイルス材料Mに、銅イオンを担持させる方法としては、例えば硫酸銅(CuSO4)あるいは硝酸銅(Cu(NO32)などの溶液に浸漬して銅イオンを吸着することができる。亜鉛イオンを担持させる方法としては、塩化亜鉛(ZnCl2)溶液に浸漬して亜鉛イオンを吸着することができる。ニッケルイオンを担持させる方法としては、例えば、塩化ニッケル(NiCl2)溶液に浸漬してニッケルイオンを吸着することができる。
【0033】
前記抗ウイルス繊維Mの断面形状は特に限定されず、円形、異形、中空等のいずれであってもよい。また、抗ウイルス繊維Mの繊維長も特に限定されず、長繊維、短繊維、微細繊維等のいずれであってもよい。長繊維であれば、紡糸後そのままボビン等に繊維を巻き付けることにより得ることができる。短繊維であれば、カッターなどで所定の繊維長に切断するか、天然繊維であればそのまま用いることができる。微細繊維であれば、刃で所定長に裁断するか、グラインドミルなどですり潰すようにして裁断し、任意のメッシュを有する篩にかけて分級することにより得ることができる。さらに、前記抗ウイルス繊維Mの繊度は特に限定されず、用途に応じて適宜選定するとよい。
【0034】
前記繊維基布に抗ウイルス材料を担持する方法としては、織物を例に挙げて説明すると、先に抗ウイルス材料を紡糸または担持した繊維を得て、抗ウイルス繊維とした後、所定の抗ウイルス繊維を含有する糸を製織し、必要に応じて染色して、織物を作製する方法、及び/又は所定の繊維または糸を用いて製織し織物とした後、抗ウイルス材料(繊維)を含む混合液に織物を含浸、コーティング、噴霧等の方法で付与する方法が用いられる。具体的な一例を示すと、まず、抗ウイルス材料Mを担持した抗ウイルス繊維Mとした後、所定の抗ウイルス繊維Mを含有する糸を製織する。得られた織物を、ジッカー染色機、高圧液流染色機、パドル染色機等の染色機を用い、繊維100質量部に対して0.05〜5質量部、すなわち0.05〜5%owf(on weight fiber)の金属イオン化合物を含む溶液(例えば、硫酸銅水溶液)に織編物を浸漬し、水洗処理、乾燥し、必要に応じてアクリル樹脂やウレタン樹脂等をディッピングして風合い加工等を行い、マレイン酸成分に銅、銀、亜鉛等の金属のイオンを担持させた抗ウイルス織物を得ることができる。
【0035】
次に、前記抗ウイルス材料としては、下記I式
【化3】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる−COOH基または−SO3H基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体からなる抗ウイルス材料(以下、抗ウイルス材料Pともいう)が用いられる。
【0036】
前記抗ウイルス材料Pは、上記I式中のMはFeであり、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる−COOH基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦4を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体であることが好ましい。また、上記I式中のMはCoであり、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる−SO3H基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜1で1≦n1+n2+n3+n4≦2を満たす正数で示される金属フタロシアニン誘導体が抗ウイルス効果を有している。
【0037】
前記抗ウイルス材料Pは、インフルエンザウイルスに対して効果があり、鳥インフルエンザウイルスを不活化することができる。特にH5、あるいはH7の亜型のような強毒性のある高病原性鳥インフルエンザウイルスに有効である。本発明では、鳥インフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株、鳥インフルエンザウイルスA/Turkey/Wisconsin/1/66 (H9N2)株について抗ウイルス効果を証明しているが、H5N1型などの鳥インフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。
【0038】
前記抗ウイルス材料Pは、ヒトインフルエンザウイルスに対する不活化効果も高く、あらゆる種類のインフルエンザウイルスに有効である。本発明では、ヒトインフルエンザウイルスA/Aichi/2/68 (H3N2)株について抗ウイルス効果を証明しているが、他のヒトインフルエンザウイルスにも効果があると考えられる。
【0039】
また、前記抗ウイルス材料Pは、ブタインフルエンザウイルスA/Swine/Iowa/15/30 (H1N1)株について抗ウイルス効果を証明している。
【0040】
前記抗ウイルス材料Pがインフルエンザウイルスに対して不活化効果を有する理由は、金属フタロシアニンに−COOH基または−SO3H基の官能基を導入した構造を有することにより、インフルエンザウイルスに対して、ウイルス表面にある突起HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミターゼ)の活性を阻害するためと推定される。フタロシアニンブルー(銅フタロシアニン)などのように、フタロシアニンの末端に−COOH基または−SO3H基の官能基を有しない化合物では、インフルエンザウイルスに対して十分に不活化する効果が得られないと考えられる。
【0041】
I式中、MがFe、R1、R2、R3およびR4がすべて−COOH基、n1、n2、n3およびn4が各々1であると、下記III式
【化4】

に示す構造となる。
【0042】
この鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、以下のようにして合成できる。ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得る。得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。
【0043】
同じくI式に示す金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがCo、R1およびR3が−COOH基である場合、下記IV式
【化5】

に示す構造となる。
【0044】
同じくI式に示す金属フタロシアニン誘導体は、I式中、MがCo、R1およびR3が−SO3H基である場合、下記V式
【化6】

に示す構造となる。
【0045】
I式中、MがFe、R1およびR3が−SO3H基であると、下記VI式
【化7】

に示す構造となる。
【0046】
I式中、MがFe、R1、R2、R3およびR4がすべて−COOH基、n1、n2、n3およびn4が各々2であると、下記VII式
【化8】

に示す構造となる。
【0047】
前記抗ウイルス材料となるこれらの金属フタロシアニン誘導体は、公知の方法により製造されるものであり、染料をはじめとし、酵素態様機能を有する機能性物質として上市もされている。例えば、「フタロシアニン −化学と機能−」(白井汪芳、小林長夫著、株式会社アイピーシー出版、平成9年2月28日発行)に記載の方法により、製造することができる。例えば、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得、得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。コバルトフタロシアニンオクタカルボン酸は、上記鉄フタロシアニンテトラカルボン酸の原料であるトリメリット酸無水物に代えてピロメリット酸無水物、塩化第二鉄無水物に代えて塩化第二コバルトを用いて同様の方法で製造可能である。
【0048】
前記金属フタロシアニン誘導体は、官能基の数、すなわちn1〜n4の合計が4以下であることが好ましい。より好ましい官能基の数は、1または2である。官能基の数が4以下であると、抗ウイルス効果が高い傾向にある。特に、MがFeの場合、官能基はCOOH基であることが好ましい。また、MがCoの場合、官能基はSO3H基であることが好ましい。特に、III式に示す構造を有する金属フタロシアニン誘導体(鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸、コバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸、及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸が抗ウイルス効果が高い。上記金属フタロシアニン誘導体の抗ウイルス効果が高い理由は定かではないが、金属フタロシアニンの立体構造の違いによるものと考えられる。
【0049】
前記金属フタロシアニン誘導体は、水や溶剤等と混合し、必要に応じてバインダー樹脂を混合した高分子混合液として用いて、繊維基布及び/又は樹脂層に含浸、コーティング、噴霧等の公知の方法で付与して担持させることができる。
【0050】
前記金属フタロシアニンの誘導体は、一旦、別の有機物、無機物の担体に担持または混合した後、繊維基布及び/又は樹脂層に担持することができる。金属フタロシアニン誘導体の担体に対する含有量は、担体に担持または混合でき、且つ抗ウイルス効果を発揮し得る範囲であれば特に限定されないが、例えば担体に対して金属フタロシアニン誘導体が0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましい金属フタロシアニン誘導体の含有量は、0.3〜5質量%であり、さらにより好ましくは0.5〜3質量%である。金属フタロシアニン誘導体の含有量が上記範囲を満たすと、十分な抗ウイルス効果を発揮することができる。
【0051】
有機物の担体としては、繊維が特に好ましい。繊維は、嵩量があり大きな表面積を持つため、金属フタロシアニン或いはその誘導体が効率よく空気中のウイルスに接触する。
【0052】
金属フタロシアニン誘導体を担持させる繊維素材は、例えばセルロース系繊維(木綿、麻、レーヨン、パルプなど)、蛋白質系繊維(羊毛、絹など)、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などあらゆる天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維が使用される。なかでもセルロース系繊維、特に木綿またはレーヨンは、吸水性が良いため、吸水した担体として酵素様機能を発現するための好条件をそなえている。
【0053】
前記担体用繊維に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させる方法としては、担体用繊維を金属フタロシアニン誘導体溶液へ浸漬させる方法、あるいは直接染色、イオン染色(コットンやレーヨンなどの繊維にカチオン基を結合させ、そのカチオン基と染料の持つカルボキシル基やスルホン基のアニオン基をイオン的に結合させて行う染色法)などの染色法、バインダー成分を含む金属フタロシアニン誘導体溶液を繊維または繊維基布へ印刷、噴霧またはコーターを用いて塗布する方法が挙げられる。
【0054】
前記金属フタロシアニン誘導体を担持した繊維は、前記抗ウイルス材料を繊維に担持しているため、細菌の大きさよりも小さい様々なウイルスに対して不活化効果を有する。
【0055】
抗ウイルス材料Pを担持した繊維は、あらかじめ前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維に前記金属フタロシアニンの誘導体からなる抗ウイルス材料Pを担持させて抗ウイルス繊維Pを構成してもよい。また、前記天然繊維、合成繊維、半合成繊維または再生繊維を用いて糸、織編物、ウェブ、不織布、紙、ネット等の繊維構造物を構成した後に前記金属フタロシアニンの誘導体からなる抗ウイルス材料Pを担持させてもよい。
【0056】
繊維基布に前記金属フタロシアニンの誘導体を担持させる方法としては、バインダー成分を含む金属フタロシアニン誘導体溶液を繊維基布へ印刷、噴霧またはコーターを用いて塗布する方法、繊維基布を前記溶液へ浸漬させる方法、あるいは直接染色、イオン染色などの染色法がある。イオン染色法とは、コットン、レーヨンなどの繊維にカチオン基を結合させ、そのカチオン基と染料の持つカルボキシル基やスルホン基のアニオン基をイオン的に結合させて行う染色法である。
【0057】
前記繊維素材に金属フタロシアニン誘導体を担持させるとき、繊維素材を予めカチオン化処理していることが好ましい。カチオン化処理することにより、金属フタロシアニン誘導体の担持効果が大きくなるとともに、金属フタロシアニン誘導体が高い活性状態を保つのでより一層の抗ウイルス効果を高めることができる。
【0058】
前記カチオン化処理におけるカチオン化剤は、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子、カチオン系高分子、クロスリンク型ポリアルキルイミン、ポリアミン系カチオン樹脂、グリオキザール系繊維素反応型樹脂等が挙げられ、これら単独または2種以上組み合わせたものが用いられる。特に、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体が好ましい。
【0059】
前記繊維基布及び/または樹脂層には、前記抗ウイルス材料Pまたは抗ウイルス繊維Pの単独、あるいは前記抗ウイルス材料(繊維)Mと抗ウイルス材料(繊維)Pを併用してもよい。前記抗ウイルス材料Pを樹脂層に担持させる場合、抗ウイルス材料Pを樹脂層を構成する樹脂成分に混合するか、抗ウイルス材料Pを含む混合液を樹脂層に塗布して用いるとよい。
【0060】
前記抗ウイルス材料Pを樹脂層に担持させる場合、抗ウイルス材料Pを担持させた繊維を微細断して、微細繊維として用いてもよい。
【0061】
前記微細繊維は、刃で裁断されたもの、またはグラインドミルなどですり潰すようにして裁断されたものが挙げられる。刃で裁断した微細繊維は直線状であり、すり潰して裁断した微細繊維は適度に湾曲している。すり潰すようにして裁断された微細繊維は、任意のメッシュを有する篩にかけて分級したものを用いるとよい。
【0062】
前記微細繊維は、繊度8.8dtex以下、微細断長0.5mm以下であることが好ましく、繊度2.5dtex以下、微細断長0.3mm以下であるとなお好ましい。微細繊維がこれより大きいと、樹脂と混合したときに分散性が悪くなることがある。
【0063】
前記微細繊維を樹脂層に含有させた場合、樹脂層に対する前記抗ウイルス材料の含有量は、繊維に対する抗ウイルス材料の担持量と、樹脂層中における微細繊維の含有量とから算出することができ、0.01〜10質量%となることがより好ましい。さらにより好ましくは、0.1〜5質量%である。例えば、繊維に対して3質量%の前記金属フタロシアニン誘導体を担持した微細繊維が、樹脂層に対して3質量%含有されていると、樹脂層に対する金属フタロシアニン誘導体の含有量は0.09質量%である。前記抗ウイルス材料の含有量が0.01質量%より少ないと、十分な機能を発揮することができない。
【0064】
前記微細繊維を樹脂層に含有させた場合、前記微細繊維の含有量は1〜30質量%であることがより好ましい。前記微細繊維の含有量が1質量%より少ないと、十分な機能を発揮することができない。また、その含有量が多いと、樹脂層の均一性が損なわれる場合がある。
【0065】
前記抗ウイルス材料を樹脂層に担持させる場合、抗ウイルス材料を担持させた無機物等の粒子を用いてもよい。
【0066】
前記抗ウイルス材料を担持させる粒子としては、無機物が好ましく、水分に対して親和性のある無機物であることがより好ましい。水分に対して親和性のある無機物であると、前記抗ウイルス材料が水溶液の場合、容易に無機物に担持することができるからである。このような無機物としては、例えば、タルク、カオリン、珪藻土、マイカ、シリカ、クレー、ベントナイト、ゼオライト、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、及びこれらの焼成物を使用することができる。また、前記担持体無機物は、粒径0.5mm以下であることが好ましい。担持体無機物がこれより大きいと、樹脂層の均一性が損なわれる場合がある。担持体無機物の粒径は、0.01〜100μmであることがより好ましい。
【0067】
前記無機物に対する前記抗ウイルス材料の担持量は、0.1〜10質量%であることが好ましい。前記無機物に抗ウイルス材料を担持する方法としては、例えば、抗ウイルス材料を含有する液体中に無機物を浸漬することにより得ることができる。
【0068】
前記担持体無機物を樹脂層に担持させた場合、その含有量は、1〜50質量%であることが好ましい。前記無機物の含有量が1質量%より少ないと、十分な機能を発揮することができない。また、その含有量が多いと、樹脂層の均一性が損なわれる場合がある。
【0069】
本発明の抗ウイルス膜材は、前記樹脂層に抗ウイルス材料が担持されるが、樹脂層の表面に担持されていることが好ましい。樹脂層表面に担持されることにより、ウイルスが接触しやすいからである。
【0070】
本発明の抗ウイルス膜材およびテントを構成する素材について、説明する。前記繊維基布としては、織編物、不織布、紙、ネット等の繊維構造物を用いることができる。特に、強度が必要とする用途においては、フィラメント、スパン糸を用いた織物が好適である。
【0071】
前記樹脂層としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム、合成ゴム系樹脂、スチレン系樹脂、及びこれらの共重合体等の少なくとも1種の樹脂が用いられる。樹脂層には、必要に応じて、難燃剤、可塑剤、撥水剤、着色剤、紫外線遮蔽剤、光触媒、紫外線吸収剤、制電剤、導電剤、防かび剤、熱安定剤、防汚剤、抗菌剤、消臭剤、充填剤などの添加剤を配合してもよい。
【0072】
本発明の膜材は、前記繊維基布の少なくとも片面に樹脂層が積層されている。繊維基布の少なくとも片面に樹脂層を積層するには、例えば、繊維基布に前記樹脂をラミネート、コーティング、パディング、カレンダー、押出ラミネート、及び樹脂フィルムを接着剤等で結合する方法の1または2種以上用いるとよい。このような方法により、樹脂が繊維基布の表面に皮膜を形成し、膜材となる。本発明では、繊維基布に樹脂をパディング(含浸)した場合も、繊維基布の表面には樹脂皮膜が形成されるので、その皮膜が樹脂層とみなす。膜材の目付、厚みは、その用途に応じて適宜設定される。例えば、膜材の厚みは、0.1〜2mmであることが好ましい。
【0073】
本発明の防水布製品は、前記抗ウイルス膜材を少なくとも一部に含み、パーテーション、エアー遊具、ブロックマット、簡易プール、簡易風呂、フレキシブルコンテナ等の包装材、病院用包装材、病院用のベッドシート、フロアシート、車いすや担架など合成レザーに形づくられる。このような防水布製品は、人が接触するか、くしゃみなど飛沫が付着したとき、製品表面に付着したウイルスを不活化することができる。
【0074】
本発明のテントは、繊維基布の少なくとも片面に樹脂層が積層されている膜材からなるテントであって、膜材を構成する繊維基布及び/又は樹脂層が抗ウイルス材料を担持しており、その繊維基布又は樹脂層が、テントの内表面に配置されている。テントの外表面に抗ウイルス材料が担持されていてもよい。テントの内表面に抗ウイルス材料を担持することにより、テント内部空間に飛散浮遊するウイルス、特にテントの内表面に付着したウイルスを不活化させることができる。
【0075】
前記テントに用いられる抗ウイルス材料は、繊維基布及び/又は樹脂層に担持したときにウイルスを不活化する効果を有するものであれば、特に限定されない。なかでも、上述した抗ウイルス材料M及び/又は抗ウイルス材料Pであれば、ウイルスを不活化する効果が高く、特に好ましい。
【0076】
前記テントの形態は、金属パイプや合成樹脂パイプを骨格としたテント、エアチューブを骨格としたテント、内部空間を陰圧または陽圧としたエアテントなどが挙げられる。本発明では、気密性を重視した感染症対策用(発熱外来用)の陰圧式または陽圧式エアテント、あるいは飛沫感染対策用開放テントに用いることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
[抗ウイルス繊維の作製]
(実施例1)
酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体水溶性塩を、セルロースのビスコース溶液(セルロース濃度9%)に前記共重合体固形分がセルロース固形分100部に対して20部となるよう添加し、溶解した。各々の混合溶液を硫酸130g/l、硫酸亜鉛10g/l、硫酸ナトリウム250g/lの強酸性浴中に白金ノズルから押出して紡糸した。常法により脱硫、精練漂白することにより、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維を得た。繊度は3.3dtex、繊維長は51mmであった。
【0079】
(実施例2)
得られた実施例1の繊維を4%硫酸銅水溶液に浸漬して10分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、70℃で3時間乾燥し、抗ウイルス繊維Mを得た。この抗ウイルス繊維の銅担持量は1質量%であった。
【0080】
(鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス繊維の性能評価)
被検ウイルスは、国立大学法人鳥取大学鳥インフルエンザ研究センターに保管されている鳥インフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83 (H5N3)株を使用した。この鳥インフルエンザウイルス株は、鳥インフルエンザウイルスA/コハクチョウ/島根/499/83(H5N3)とも称される(以下、H5N3株という)。
【0081】
この他、被検ウイルスとして、鳥インフルエンザウイルスA/Turkey/Wisconsin/1/66 (H9N2) 株(以下、H9N2株という)、ブタインフルエンザウイルスA/Swine/Iowa/15/30 (H1N1) 株(以下、H1N1株という)を使用した。
【0082】
上記各実施例で試作した抗ウイルス繊維を約1.5cm長さに切り揃え、ポリエチレン袋に0.2gを入れ、被検ウイルスを燐酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で100倍に希釈したウイルス液Aを各0.6mlずつポリエチレン袋に分注し、抗ウイルス繊維にウイルス液を染み込ませた。4℃で反応時間10分間(あるいは1分間)静置した。そのウイルス液を採取しPBSでさらに10倍段階希釈し、10日齢発育鶏卵(SPF)に0.2mlずつ漿尿膜腔内に接種した。2日間培養後、尿膜腔液Bを回収し、鶏赤血球凝集反応によりウイルス増殖の有無を判定した。ウイルス力価はReed & Muench (1938)の方法によって算出した。
【0083】
比較例1として、未加工のレーヨン繊維を用いた。
【0084】
各試作抗ウイルス繊維のウイルス力価を表1に示してある。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から、実施例1、2の抗ウイルス繊維を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例1、2の抗ウイルス繊維に鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。特に、実施例2の銅イオンを担持した酢酸ビニル−マレイン酸共重合高分子を含有するレーヨン繊維であったため、総てのウイルス株についてウイルス減少率が99.999%以上の抗ウイルス性を示した。一方、同一条件で抗ウイルス繊維を使用しない比較例1は十分な抗ウイルス性が得られなかった。
【0087】
(ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス繊維の性能評価)
被検ウイルスは、ヒトインフルエンザウイルスA/Aichi/2/68 (H3N2)株(以下、H3N2株という)を使用した。不織布の場合、約1.5cm長さに切り揃えて0.2gを取り出すか、繊維の場合、0.2gの綿を用意し、それぞれをポリエチレン袋に入れ、被検ウイルスを燐酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で100倍に希釈したウイルス液Aを各0.6mlずつポリエチレン袋に分注し、抗ウイルス繊維にウイルス液を染み込ませた。4℃で反応時間10分間(あるいは1分間)静置した。そのウイルス液を採取しPBSでさらに10倍段階希釈し、10日齢発育鶏卵(SPF)に0.2mlずつ漿尿膜腔内に接種した。2日間培養後、尿膜腔液Bを回収し、鶏赤血球凝集反応によりウイルス増殖の有無を判定した。ウイルス力価はReed & Muench (1938)の方法によって算出した。
実施例2の試料におけるヒトインフルエンザウイルスのウイルス力価を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2から、実施例2の試料を使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例2の抗ウイルス繊維にヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。
【0090】
(実施例3)
イオン染色法により抗ウイルスレーヨン繊維を作製した。カチオン化剤として、50g/LのカチオノンUK(一方社製の商品名)と、15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液との混合液10Lに、実施例1に用いたレーヨン繊維1kgを浴比1:10の条件で入れ、85℃で45分間反応させた。得られたカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、繊維100質量部に対してコバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸が1質量部(1%owf)混合した水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、レーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄して乾燥し、コバルト(II)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム及びコバルト(II)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された抗ウイルス繊維Pを得た。
【0091】
(実施例4)
実施例3のカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、濃度1%owfの鉄(III)フタロシアニンモノスルホン酸及び鉄(III)フタロシアニンジスルホン酸が混合した水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、レーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄して乾燥し、鉄(III)フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム及び鉄(III)フタロシアニンジスルホン酸ナトリウムが担持された抗ウイルス繊維Pを得た。
【0092】
(実施例5)
実施例3のカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、濃度1%owfの鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸の水酸化ナトリウム溶液(pH=12)10L中に浸し、80℃で30分間撹拌し、レーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄して乾燥し、鉄(III)フタロシアニンテトラカルボン酸が担持された抗ウイルス繊維Pを得た。
【0093】
(比較例2)
比較例2として、実施例3で作製したカチオン化レーヨン繊維について、同様の操作をしてウイルス増殖の有無を判定した。
【0094】
【表3】


表3中の*印を付したウイルス液Aが1000倍液である。
【0095】
表3から実施例3〜5の抗ウイルス繊維Pを使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率は99%以上であった。これは、実施例3〜5の抗ウイルス繊維Pに鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。比較例2は十分な抗ウイルス性が得られなかった。特に、実施例3、5は、鳥インフルエンザウイルスの抗ウイルス効果が高いことがわかる。
【0096】
被検ウイルスとして、以下のウイルスを使用した以外は、上記評価方法と同様の方法で実施例5の抗ウイルス繊維Pのウイルス力価を測定した。
(1)鳥インフルエンザウイルスA/Turkey/Wisconsin/1/66 (H9N2) 株
(2)ブタインフルエンザウイルスA/Swine/Iowa/15/30 (H1N1) 株
【0097】
【表4】

【0098】
表4から、実施例5の抗ウイルス繊維Pを使用した尿膜腔液Bは、ウイルス液Aよりもウイルス力価が大幅に減少しており、ウイルス減少率が99%以上であった。これは、実施例5の抗ウイルス繊維Pに別の種類のインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果があることを示している。
【0099】
(実施例6)
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部、可塑剤60質量部、安定剤4質量部、充填剤40質量部を混合したポリ塩化ビニル樹脂組成物を160℃に設定された2本ロールで溶融混合し、厚み0.2mmのフィルムを得た。厚み0.2mmのフィルムを155℃に設定された熱プレス機にて、ポリエステルスパン糸を使用した目付190g/m2の織物の片面に貼り合わせ、450g/m2の積層シートを得た。
【0100】
銅イオンを反応させた酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体水溶性塩(有効成分25%)と、固形分12%のアクリル系化合物の配合比率を25:75で混合した熱可塑性樹脂を、上記で得られた積層シートの片面にコーティングを実施し、120℃、30秒の熱処理を施し、これを固定化して付着量5g/m2の積層膜材を得た。この積層膜材の樹脂層には抗ウイルス材料が担持されており、その表面は抗ウイルス効果を有していた。
【0101】
(実施例7)
実施例3の金属フタロシアニン誘導体を担持したレーヨン繊維を、グラインドミルを用いて微細断し、80メッシュ篩にかけて、微細断長0.3mmの微細繊維を準備した。得られた微細繊維は不均一に湾曲した形状であった。
【0102】
この微細繊維と、固形分12%のアクリル系化合物の配合比率を10:90で混合した熱可塑性樹脂を、実施例6の積層シートの両面にコーティングを実施し、120℃、30秒の熱処理を施し、これを固定化して片面の付着量が5g/m2の積層膜材を得た。この積層膜材の樹脂層には抗ウイルス材料が担持されており、その表面は抗ウイルス効果を有していた。
【0103】
(実施例8)
実施例1と同様の方法で、繊度が3.3dtexの酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維を得た後、繊維長が0.1mmとなるようにカッターで切断し、微細繊維を作製した。得られた微細繊維は、4%硫酸銅水溶液に浸漬されて10分間放置したのち、蒸留水で洗浄し、70℃で3時間乾燥し、銅イオンが担持された抗ウイルス微細繊維を得た。この抗ウイルス微細繊維の銅担持量は1質量%であった。
【0104】
この微細繊維と、固形分12%のアクリル系化合物の配合比率を10:90で混合した熱可塑性樹脂を、実施例6の積層シートの両面にコーティングを実施し、120℃、30秒の熱処理を施し、これを固定化して片面の付着量が2g/m2の積層膜材を得た。この積層膜材の樹脂層には抗ウイルス材料が担持されており、その表面は抗ウイルス効果を有していた。
【0105】
(実施例9)
まず、実施例3で使用した金属フタロシアニン誘導体を担持させた焼成カオリン(かさ比重2.5)の粉末を60メッシュ篩にかけ、粒径0.4mmのカオリンの粉末を準備した。
【0106】
この粉末と、固形分12%のアクリル系化合物の配合比率を10:90で混合した熱可塑性樹脂を、実施例6の積層シートの両面にコーティングを実施し、120℃、30秒の熱処理を施し、これを固定化して片面の付着量が2g/m2の積層膜材を得た。この積層膜材の樹脂層には抗ウイルス材料が担持されており、その表面は抗ウイルス効果を有していた。
【0107】
(実施例10)
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部、可塑剤60質量部、安定剤4質量部、充填剤40質量部を混合したポリ塩化ビニル樹脂組成物を160℃に設定された2本ロールで溶融混合し、厚み0.2mmのフィルムを得た。厚み0.2mmのフィルムを155℃に設定された熱プレス機にて、ポリエステル繊維50質量%と実施例2の抗ウイルス繊維50質量%の混紡糸を使用した目付190g/m2の織物の片面に貼り合わせ、450g/m2の積層シートを得た。
【0108】
この積層シートのポリ塩化ビニル樹脂面に、ナイフコーターを用いてアクリル系樹脂を厚さ2μmとなるように塗布、乾燥して接着剤層を形成した。次いで、接着剤層の上に、フッ素系エラストマー樹脂70質量%とアクリル樹脂30質量%の樹脂成分に少量の紫外線吸収剤を加えた樹脂分をメチルエチルケトンに溶解した塗工液を、アプリケーターを用いて厚さ13μmとなるように塗布し、乾燥させて防汚樹脂層を形成した積層膜材を作製した。この積層膜材の繊維基布には抗ウイルス材料が担持されており、その表面は抗ウイルス効果を有していた。
【0109】
この積層膜材をテント用膜材として使用し、繊維基布がテントの内表面となるように配置させてテントを設営した。テントの内表面には抗ウイルス材料が担持されていた。
【0110】
(実施例11)
ポリ塩化ビニル樹脂100質量部、可塑剤60質量部、安定剤4質量部、充填剤40質量部を混合したポリ塩化ビニル樹脂組成物を160℃に設定された2本ロールで溶融混合し、厚み0.15mmの溶融フィルムを得た。厚み0.15mmのフィルムを155℃に設定された熱プレス機にて、ポリエステルスパン糸を使用した目付190g/m2の織物の両面に貼り合わせ、570g/m2の積層シートを得た。
【0111】
銅イオンを反応させた酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体水溶性塩(有効成分25%)と、固形分12%のアクリル系化合物の配合比率を25:75で混合した熱可塑性樹脂を、上記で得られた積層シートの両面にコーティングを実施し、120℃、30秒の熱処理を施し、これを固定化して片面の付着量が2g/m2の積層膜材を得た。この積層膜材の樹脂層には抗ウイルス材料が担持されており、その表面は抗ウイルス効果を有していた。
【0112】
この積層膜材のポリ塩化ビニル樹脂面に、ナイフコーターを用いてアクリル系樹脂を厚さ2μmとなるように塗布、乾燥して接着剤層を形成した。次いで、接着剤層の上に、フッ素系エラストマー樹脂70質量%とアクリル樹脂30質量%の樹脂成分に少量の紫外線吸収剤を加えた樹脂分をメチルエチルケトンに溶解した塗工液を、アプリケーターを用いて厚さ13μmとなるように塗布し、乾燥させて防汚樹脂層を形成したテント用積層膜材を作製した。このテント用膜材は、防汚樹脂層が形成されていないもう一方のポリ塩化ビニル樹脂面に抗ウイルス材料が担持されていた。このポリ塩化ビニル樹脂面がテントの内表面となるように配置させてテントを設営した。テントの内表面には抗ウイルス材料が担持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の抗ウイルス膜材は、繊維基布に樹脂層が積層された様々な用途の抗ウイルス素材として使用できる。
また、本発明の防水布製品は、前記抗ウイルス材料を少なくとも一部に含み、パーテーション、エアー遊具、ブロックマット、簡易プール、簡易風呂、フレキシブルコンテナ、ベッドシート、フロアシート、合成レザー等に成形され、様々な繊維産業に使用できる。
さらに、本発明のテントは、抗ウイルス効果を有することから、気密性を重視した感染症対策用(発熱外来用)の陰圧式または陽圧式エアテント、あるいは飛沫感染対策用開放テントなど様々なテントに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に樹脂層が積層されている膜材であって、
前記膜材の樹脂層は抗ウイルス材料を担持しており、
前記抗ウイルス材料は、重合鎖中にモノマー単位としてのマレイン酸成分を含む高分子、
及び下記(I)式
【化1】

(I式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる−COOH基または−SO3H基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体から選ばれる少なくとも1種である、抗ウイルス膜材。
【請求項2】
前記高分子がマレイン酸系共重合体であり、銅、銀、亜鉛、ニッケルから選ばれる金属のイオンを担持している、請求項1に記載の抗ウイルス膜材。
【請求項3】
前記抗ウイルス材料が、インフルエンザウイルスに有効である、請求項1または2に記載の抗ウイルス膜材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗ウイルス膜材を少なくとも一部に含み、パーテーション、エアー遊具、ブロックマット、簡易プール、簡易風呂、フレキシブルコンテナ、ベッドシート、フロアシート、合成レザーに形づくられる、防水布製品。
【請求項5】
繊維基布の少なくとも片面に樹脂層が積層されている膜材からなるテントであって、
前記膜材の繊維基布及び/又は樹脂層は、抗ウイルス材料を担持しており、
前記抗ウイルス材料を担持した繊維基布又は樹脂層が、テントの内表面に配置されているテント。
【請求項6】
前記抗ウイルス材料は、重合鎖中にモノマー単位としてのマレイン酸成分を含む高分子、及び下記(II)式
【化2】

(II式中、MはFe、Co、Mn、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Mo、W、Osから選択される金属、R1、R2、R3およびR4は同一または異なる−COOH基または−SO3H基であり、n1、n2、n3およびn4は0〜4で1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす正数)で示される金属フタロシアニン誘導体から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載のテント。

【公開番号】特開2011−42095(P2011−42095A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191419(P2009−191419)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(000104412)カンボウプラス株式会社 (15)
【Fターム(参考)】