抗ウイルス薬としての自己集合性の両親媒性高分子
疎水性成分としてペンダント脂肪族基を有する親水性主鎖を含む両親媒性生分解性共重合体を提供する。該ポリマーは、水性の環境において、不溶性有機化合物を可溶化し、ウイルス外被タンパク質を分離することができる疎水性内部を有するナノスケール分子会合体を形成する。該ポリマーは、抗体、リガンド、およびウイルス標的に会合体の結合を媒介するその他の標的部分に結合点を提供する反応性官能基を任意選択的に特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2006年1月19日に出願された国際特許出願PCT/US2006/01820号の優先権を主張するものであり、その内容は引用することによって本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、両親媒性高分子および特に生体適合性のミセル形成くし形ポリマーの分野に関する。本発明は、また、標的化薬物送達および抗ウイルス薬の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
疎水性ブロックおよび親水性ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体は、周囲の溶媒が変更されると、種々のナノ構造に自己集合するそれらの能力のため、近年よく研究されている。Cameron et al.,Can.J.Chem./Rev.Can.Chim.77:1311−1326(1999)を参照。水溶液中において、両親媒性高分子の疎水性区画は、水との接触を避け、そして、系の自由界面エネルギーを最小化するために、自己集合する傾向がある。同時に、該親水性ブロックは、水性の環境において、水和した「コロナ」を形成するため、該会合体は、熱力学的に安定な構造を保持する。その結果物は、疎水性コアおよび親水性コロナを有するポリマー会合体粒子の、安定した、ラテックスのようなコロイド懸濁液である。
【0004】
くし形両親媒性共重合体は、主鎖がほとんど疎水性または親水性であるという点で、ブロック共重合体とは異なり、それに組み込まれているというよりむしろ、主鎖とは反対の極性ペンダントのポリマー鎖を有する。くし形共重合体は、疎水性主鎖および親水性分岐(Mayes et al.,米国特許第6,399,700号明細書)、また、親水性主鎖および疎水性分岐(Watterson et al.,米国特許第6,521,736号明細書)で調製される。前者は、細胞表面受容体に対するリガンドの多価の授与を提供するために使用され、一方、後者は、薬物を可溶化し、細胞に送達するために使用される。
【0005】
両親媒性高分子会合体は、不溶性薬物を可溶化するためのキャリア、標的化薬物送達媒体および遺伝子送達システムとして、研究されている。それらは、鎖のもつれおよび/または内部疎水性領域の結晶化度のため、従来の低分子量のミセルよりもさらに安定した構造を有する。媒体のポリマーの特性は、臨界ミセル濃度以下に希釈する場合、普通のリポゾームが受ける分解に比較的に影響されない会合体にする。二重層膜の欠如は、それをより容易に細胞膜と融合させ、そして細胞にそれらの搭載量を直接送達することを可能とする。また、該会合体の両親媒性の特性は、界面活性剤のような活性をもたらし、そして、適切に標的化された会合体は、ウイルス外被タンパク質と融合し、それを崩壊させることが可能であることは明白である。
【0006】
卓越した生体適合性のあるポリ(エチレングリコール)(PEG)および細網内皮系を逃れるためのPEG−被覆「ステルス」粒子の見かけ上の能力のため、PEGを組み入れるミセル、リポゾーム、およびポリマーが、薬物送達システムのための物質として広範囲にわたって検討されている。PEG−脂質(リポゾームおよびミセルの形成)の親水性成分として、ポリ(エチレングリコール)(PEG)の使用についての多くの報告がある。例えば、Krishnadas et al.,Pharm.Res.20:297−302(2003)を参照。さらに強固な「ポリマーソーム」へ自己集合する自己集合両親媒性ブロック共重合体は、また、薬物可溶化および送達のための媒体として研究されている(Photos et al.,J.Controlled Release,90:323−334(2003))。また、Gref et al.,Int.Symp.Controlled Release Mater.20:131(1993)、Kwon et al.,Langmuir,9:945(1993)、Kabanov et al.,J.Controlled Release,22:141(1992)、Allen et al.,J.Controlled Release,63:275(2000)、Inoue et al.,J.Controlled Release,51:221(1998)、Yu and Eisenberg,Macrolecules,29:6359(1996)、Discher et al.,Science,284:113(1999)、Kim et al.,米国特許第6,322,805号明細書、Seo et al.,米国特許第6,616,941号明細書およびSeo et al.,欧州特許第0583955号明細書を参照。この能力におけるポリ(エチレンイミン)(PEI)の使用もまたオリゴヌクレオチドの送達を中心に報告されている(Nam et al.,米国特許第6,569,528号明細書、Wagner et al.,米国特許出願公開第2004/0248842号明細書)。同様な傾向で、Luoらは、Macromolecules 35:3456(2002)に、ポリヌクレオチドの送達に好適なPEG−接合ポリアミドアミン(「PAMAM」)デンドリマーを記載する。
【0007】
薬物の可溶化、分配、および送達の必要性に加えて、特に、標的組織、腫瘍、または臓器に誘導する標的化薬物送達システムの必要性がある。これは、通常、特定の親和力による標的側の細胞壁に対する抗体または別のリガンドの結合によって達成される。しかしながら、PEGは、ポリマー鎖の末端を除いて官能基が欠如し、そして、末端基の大部分は、別のブロック共重合体成分への結合により必然的に費やされる。この理由のため、抗体または細胞接着分子のような標的部分のPEGブロック共重合体への結合は、一般に非PEGブロックに限定され、それは、あいにく、自己集合した会合体のコロナの中で通常露出される共重合体の一部ではない。
【0008】
ポリマー会合体になるブロック共重合体の自己集合をもたらす相分離現象は容易に可逆し、そして、疎水性コアに架橋結合することによって会合体の安定性を増加させようとする試みがなされている(欧州特許第0552802号明細書を参照)。またブロック共重合体の疎水性成分への薬物の共有結合もまた試みられている(ParkとYoo,米国特許第6,623,729号明細書、欧州特許第0397307号明細書)。
【0009】
樹枝状ポリマーは、標的部分に容易に結合し、また、生体内の標的特定細胞(Singh et al.(1994)Clin.Chem.40:1845)ならびに、生物学的基体に対するウイルスのおよびバクテリアの病原菌のブロック付着に対する潜在力を有する。複数のシアル酸に結合されたくし形分枝ポリマーおよびデンドリグラフトポリマーは、ウイルス血球凝集を抑制し、生体外哺乳類細胞の感染を阻止する能力が評価されている(Reuter et al.(1999)Bioconjugate Chem.10:271)。最も効果的なウイルス抑制剤は、くし形分枝およびデンドリグラフト高分子であり、これらのウイルスに対して50,000倍に増加された活性を示した。
【0010】
最近、製薬会社のStarpharmaは、ウイルスの表面上で受容体を結合することによってHIV感染を予防するデンドリマーベースのバイオサイドについての成功した開発を報告した(VivaGelTM)(Halford (2005)Chem.& Eng.News 83(24):30)。Chenら(2000)(Biomacrolecules.1:473)は、第4アンモニウム機能化ポリ(プロピレンイミン)デンドリマーは、非常に強力なバイオサイドであることを報告している。
【0011】
安定しており、生体適合性があり、会合体の外部に対する標的部分の結合に敏感に反応し、そして望ましい細胞内標的に薬物を送達する場合に効率的である薬物送達システムを依然として必要とする。また、同様に安定した、生体適合性のある標的化抗ウイルス薬に対する必要性もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分枝点部分を有する親水性主鎖、およびこれらの分枝点部分で結合する疎水性分岐を含む、生体適合性のあるくし形ポリマー分子を提供する。本発明は、当該のポリマーから形成されたポリマー会合体の水性懸濁液を提供し、ポリマー会合体の疎水性コアに化合物を組み込むことにより、薬物、着色料、ビタミンなどの不溶性または難溶性有機化合物を可溶化する方法を提供する。水性溶媒中で不水溶性有機種を可溶化する方法は、基本的に不水溶性有機種を水性または混合水性溶媒中で本発明のポリマーと接触するステップを含む。
【0013】
本発明はまた、ウイルスによる前記動物の感染の治療または予防のための方法を提供し、以下の構造のみから実質的になるくし形ポリマーを前記動物に投与するステップを含む。
【化1】
【0014】
その構造は、交互の分枝点部分Bおよび親水性、水溶性ポリマーブロックAから形成される主鎖を含む。疎水性側鎖CおよびリガンドZは、分枝点部分に結合する。好ましくは、側鎖Cは、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換される直鎖もしくは分岐炭化水素、または1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されたC6−C30環式もしくは多環式炭化水素である。側鎖Cは、また、疎水性アミノ酸、ペプチド、またはポリマーであってよい。側鎖Cに対して好適な親水性置換基は、ヒドロキシル、カルボキシおよびアミノ基、ならびにアミド、スルホンアミド、スルホキシドおよびスルホン基である。好ましい親水性置換基は、第三アミド、スルホキシド、およびスルホンなどの非プロトン性極性基である。
【0015】
該リガンドZは、ウイルス表面に対して特異的結合親和力を有するリガンドである。「特異的結合親和力」とは、哺乳類の体内に認められる多くの細胞表面および高分子の存在下で、リガンドが生体内でのウイルス表面に結合できることを意味する。当該基sは結合またはスペーサー部分であり、そして、sがスペーサーである場合、各sは1〜4基のZを運ぶことができる。nの値は3〜約100の範囲であり、pの平均値は1〜2であり、rの平均値は1〜4である。
【0016】
分枝点部分Bは、2つのポリマーブロックAへの結合、1〜2の側鎖C(平均して)への結合、および1種もしくは2種以上のスペーサー「s」および/またはリガンドZへの結合を有する多価部分である。特定の態様において、Bおよびsおよび/またはZへの結合は、複数の反応官能基を介して構築され、結合点としての役割を果たすことができる。特定の好ましい態様において、リガンドまたは抗体などの標的部分は、本発明のポリマーの分枝点部分に共有結合し、薬物は、標的化薬物複合体を形成するために、会合体のコアに組み込まれる。
【0017】
本発明はまた、上記に記載の生体適合性のあるくし形ポリマー分子を提供し、小分子治療薬の不在下でさえ、そのくし形ポリマー分子は、固有の抗ウイルス特性を有する。本抗ウイルス活性は、ウイルス粒子の外部のコーティングを分離する、両親媒性高分子の界面活性剤のような能力のためであると考えられている。好ましい態様において、抗ウイルス活性は、標的ビリオンの表面に対して結合親和力を有する標的部分の結合により高められる。
【0018】
本発明は、本明細書に記載のくし形ポリマー、会合体および標的化ポリマー会合体の調製方法ならびに本明細書に記載された薬物複合体をさらに提供する。本発明のポリマーは、自己集合して、生体内で薬物を十分に可溶化し、分配させ、送達し、抗ウイルス活性を有し、非毒性であり、生体適合性があり、かつ安定しており、そして、外表面上に多数の細胞およびウイルスの標的部分を有することができるポリマー会合体になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、インフルエンザに感染したマウスの平均生存時間における本発明の組成物の投与効果を示す。
【図2】図2は、本発明の組成物で治療される場合、インフルエンザに感染したマウスの生存時間の増加を示す。
【図3】図3は、本発明の組成物で治療される場合、インフルエンザに感染したマウスの7日間にわたる体重の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「πポリマー」と本明細書に称される本発明のポリマーは、式1に示されるように、交互の分枝点部分Bおよび親水性、水溶性ポリマーブロックAが形成され、各分枝点部分に結合した複数の疎水性側鎖Cを有する主鎖を伴ったくし形構造を有する。側鎖Cは比較的短い疎水性部分であり、それは、脂肪酸分子、鎖またはオリゴマーであってよい。pの値は、理想的には2、3、または4のいずれかの整数である。実際には、ほとんどの場合、側鎖は、化学反応を介して完全には満たない効率で導入され、結果として、概して、意図した整数ではない、ポリマー調製に対するpの平均値となる。非整数平均値は、また、下記に記載されるように、意図的に取得することができる。従って、本発明のポリマーにおけるpの平均値は、1より大きく、そして4であってもよい(1<p≦4)。好ましい態様において、pは、約2〜4、そしてもっとも好ましくは、1.5≦p≦2である。
【0021】
主鎖ポリマーブロックAは、親水性および/または水溶性ポリマー鎖から選択され、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、多糖類などを含むがこれらに限定されるものではない。好ましくは、ポリマー単位Aは、式のポリ(エチレングリコール)鎖−(CH2CH2O)m−(式中、mは、1〜10,000であり、好ましくは3〜3,000である。)である。
【0022】
様々な等級のポリ(エチレングリコール)の製造において、2つのポリ(エチレングリコール)鎖と2価リンカー部分(例、ビスフェノールAジグリシジルエーテル)を連結して、分子量の範囲を比較的狭く維持しながら、ポリマーの分子量を実質的に2倍にするすることは、当業界では既知である。得られる「ポリ(エチレングリコール)」分子は、非グリコールリンカー部分(例えば、ポリ(エチレングリコール)−ビスフェノールAジグリシジルエーテル付加化合物、CAS登録番号37225−26−6を参照)により、ポリマー鎖の中点で必然的に中断される。高オリゴマー、すなわち、2つのビスフェノールAジグリシジルエーテル部分で分離される3つのPEG鎖を有するオリゴマーは、また、既知であり、例えば、国際特許出願第WO00/24008号明細書を参照のこと。従って、本明細書において使用されるように、用語「ポリ(エチレングリコール)」および「ポリ(プロピレングリコール)」は、非グリコールリンカー単位を組み込むポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングリコール)ポリマー鎖を包含し、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールBジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテルなどを含むがこれらに限定されるものではない。本明細書の目的のために、いかなる当該のリンカー部分も「モノマー単位」として数えない。
【0023】
ポリマーブロックAは、最も好ましくは、20〜50のモノマー単位の平均長さを有する。ポリエチレングリコール鎖は、1つまたは2つの末端で、別の部分へのリンカーとしての使用に好適な官能基で末端置換されてもよく、アミノ、メルカプト、アクリレート、アクリルアミド、マレイン酸エステル、マレイミド等を含むがこれらに限定されるものではない。nの値は、1〜1000であり、好ましくは、3〜100である。πポリマーの総分子量は、1000〜100,000ドルトンの範囲またはそれより大きく、好ましくは、2,000ドルトン以上、さらに好ましくは、7,000ドルトン以上である。
【0024】
疎水性部分Cは、同一または異なってもよく、例えば、(1種または2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換される)直鎖炭化水素、(1種または2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換される)多環式炭化水素、疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーであってよい。好適な親水性置換基は、ヒドロキシル、エーテル、シアノ、およびアミド官能基を含むがこれらに限定されるものではない。特に、ω−ヒドロキシ、ω−シアノ、ω−アミド、またはω−アルコキシ置換基を有するC8〜C20アルキル基が考えられる。これに関して、用語「置換基」とは、部分Cの炭化水素鎖または環系の炭素原子に対する、O、N、またはSなどのヘテロ原子の置換を含む。従って、エーテルおよびアミド連鎖、ならびに複素環をCに組み込んでもよい。
【0025】
疎水性部分Cは、好ましくは、相対的に短い(C8−C20)脂肪族基であるが、短鎖オリゴマーであってもよい。好適なオリゴマーは、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(L−乳酸)などのオリゴヒドロキシ酸、ならびにポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸)ヒドロキシ酸の共重合体、ならびにポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルソエステル)、ならびにポリ(ホスホエステル)、ポリアクトン(ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)およびポリ(β−ヒドロキシブチラート)など)を含む。C部分はまた、コレステロール、コール酸、リトコール酸、疎水性ペプチドなどの疎水性分子から選択してもよい。各部分Cの分子量は、40より大きく、好ましくは、50〜1,000であり、最も好ましくは、100〜500である。分子C−HのlogPの値(オクタノール−水)は、約1.4より大きく、好ましくは、約2.0よりも大きく、さらに好ましくは、約2.5より大きい。一般に、分子C−Hが、水中で実質的に不溶性である場合、いずれの部分Cは、本発明の使用に対して好適であると考えられる。「実質的に不溶性である」とは、水と混合する場合、液体C−Hは、分離相を形成することを意味する。
【0026】
側鎖Cは、ポリマー鎖に沿って規則的かつ均一に、分散されないが、クラスタ[C]pにむしろ生じることが、本発明のくし形ポリマーの際立った特徴である。これらのクラスタは、ポリマー鎖に沿ってほぼ規則的に配置され、これは、ポリマー単位Aの単分散の程度による。従って、共通の分枝部分Bに結合する2つの側鎖C間の距離は、異なる分枝部分に結合する2つの側鎖間の距離とは異なる。
【0027】
特に好適な本発明の態様において、分枝点部分Bは、式2に示される1種または2種以上の反応官能基Xをさらに含む。
【化2】
【0028】
式2において、個々の反応基Xは、同一、または互いに異なってよく、ポリマー2の集合中、必要に応じて、任意選択的に妨げたりまたは保護したりしてもよい。rの平均値は、0(X基なし)〜約4である場合がある。通常は、反応基は、分子種間の共有結合を形成するために有用であり、従来知られている官能基から選択される場合がある。該基Xは、薬物分子、組織もしくは細胞の標的部分、ウイルス標的部分、マトリクス結合部分に対する結合点としての役割を果たす(たとえば、ステントまたはその他の医療装置の表面にコーティングする目的のために)。ある態様において、単一結合点Xであってもよい。別の態様において、3種または4種の異なる型の反応基であってもよい。マトリクス結合部分は、共有結合、特異性非共有結合相互作用(例、抗体−抗原)、または非特異性相互作用(例、イオン対を経由または「疎水性」相互作用)を介してマトリクスに結合してもよい。好適な反応基Xは、−OH、−NH2、−SH、−CHO、−NHNH2、−COOH、−CONHNH2、ハロアシル、アセトアセチル、−CN、−OCN、−SCN、−NCO、−NCSなど、ビニル、アクリル、アリル、マレイン酸、桂皮酸などの反応2重結合、アセチレンカルボキシおよびアセチレンカルボキシアミド(Michael付加、Diels−Alder反応、および遊離基付加反応に適する)などの反応3重結合を伴った基を含むがこれらに限定されるものではない。
【0029】
例示される細胞標的部分は、受容体に特異的リガンド、抗体、およびアルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)アミノ酸配列またはチロシン−イソロイシン−セリン−アルギニン−グリシン(YISRG)モチーフを所有するペプチドなどの別の標的部分、上皮細胞増殖因子、血管内皮増殖因子および線維芽細胞増殖因子を含む増殖因子、シアル酸およびN−アセチルノイラミン酸誘導体などのウイルス表面リガンド、葉酸、メトトレキサート、プテロイン酸、エストラジオール、エストラトリオール、テストステロン、およびその他のホルモンなどの細胞受容体リガンド、マンノース−6−リン酸塩、糖類、ビタミン、トリプトファンなどを含むがこれらに限定されるものではない。抗体は、好ましくは、細胞特異的な表面抗原に対して向けられる単クローン抗体であり、好適な標的部分は、完全抗体だけでなく、Fab’2フラグメント、Fab’フラグメントなどの活性抗原−結合配列、または当該の抗体の活性抗原結合配列の短鎖ペプチドアナログを含む抗体フラグメントも含む。
【0030】
ウイルス標的部分の例は、アミノアルキルアダマンタン、FuzeonTM、PRO−542、BMS−488043、シアル酸、2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アセチルノイラミン酸、4−グアニジノ−Neu5Ac2en(ザナミビル)、オセルタミビル、RWJ−270201などのウイルス、オリゴペプチド、オリゴサッカライド、ウイルス表面、およびウイルス特異的な表面抗原に対して向けられる抗体および抗体フラグメントに結合するグリコペプチドに結合する、小分子リガンドを含む。好ましい態様において、本発明は、ウイルスノイラミニダーゼまたは血球凝集素に対するリガンドを有するπ−ポリマーを提供する。当該のポリマーは、自らの正当性において抗ウイルス特性を有することは既知であり、例えば、T.Masuda et al.,Chemical & Pharmaceutical Bulletin 51:1386−98(2003)、M.Itoh et al.,Virology 212:340−7(1995)、およびReece et al.,米国特許第6,680,054号明細書(2004)を参照のこと。本発明の抗ウイルスポリマーおよびポリマー会合体の疎水性コアは、1つ以上の従来の抗ウイルス剤で任意選択的に充填してもよく、それはウイルス粒子の周辺で都合よく放出される。
【0031】
医学的関連の別の結合基は、小化学物質、ペプチド、抗体もしくは抗体フラグメント、酵素または活性薬剤成分であってもよく、それらは、ホルモンもしくはホルモン作用薬または拮抗薬、ウイルス結合を妨害する物質、細胞内侵入後、細胞周期または細胞過程を妨害する物質など、生物過程に影響を及ぼす場合がある。細菌、菌類、高等動物、および植物を含む、単細胞および多細胞生物の細胞を標的にしてもよい。ビオチンは、π−ポリマーに結合し、アビジンおよびストレプトアビジン結合タンパク質、ペプチド、および抗体、成長ホルモン、画像剤などのその他の標的または薬学的活性剤のために結合点として使用される場合がある。
【0032】
「マトリクス」とは、有機物または無機物、ガラス、シリカ、または金属面などの表面、および沈着物、細胞外マトリクス、様々な種類のアミロイド斑などのタンパク質沈着、細胞表面、ウイルス表面、およびプリオンを含む、うまく特徴づけられる場合もある、一般の均質または不均質表面を意味する。
【0033】
ガラスまたはシリカマトリクス結合部分の例は、種々のハロシラン、アルコキシシラン、アシルシラン、ならびにポリマーを含む当該の官能基を示す化学物質を含む。特定のマトリクスの物理化学的特性に基づいて、別の結合基を考案することができる。例えば、ステントをコーティングするために使用される好適な結合部分は、当業者には既知である。
【0034】
本発明の第3の態様において、該分枝点部分Bは、架橋ヒドロゲルの構造を形成するために、ポリマー鎖の別の場所にある、別の分枝点部分に接続される。当該の架橋結合は、同種官能性または異種官能性を含む多官能部分とポリマーを反応することにより生じる場合があり、同種官能性または異種官能性のうちの少なくとも1種は、第1の分枝点部分上に位置するC上のXまたは反応基と反応し、そして、同種官能性または異種官能性のうちの少なくとも1つは、第2の分枝点部分でC上に存在するXまたは反応官能基と反応する。架橋結合はまた、ポリマー鎖Aの末端官能基に連結を通じて行われる場合もある。当該の架橋ポリマーは、薬物分子または標的部分の結合に適する反応官能基を任意選択的に含んでもよい。
【0035】
分枝点部分Bは、通常は、複数の反応基を有する多官能分子から生じ、反応基のうちの2つは、親水性ポリマー単位Aへの結合に適し、そして反応基のうちの2つは、疎水性部分Cへの結合に適する。部分Bは、上記に記載のように、追加の反応基Xを任意選択的に有する場合がある。
【0036】
特に好ましい分枝点部分は、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール(DTE)、またはマレイン酸の2つの分子を伴う2,3−ジアミノブタン−1,4−ジチオールの複合体である。部分Aとしての本分枝点部分のポリエチレングリコールとの結合は、式3および3aのポリマー主鎖を生成する。
【化3】
ここで、YおよびY’は、同一または異なってよく、好ましくは、OH、NH2、ONH2、NHOH、およびNHNH2から選択される。好ましい態様において、ジチオールのヒドロキシルまたはアミノ基は、反応基Xであり、標的または薬物部分の結合点としての役割を果たす。一方、官能基YおよびY’は、C部分の結合点としての役割を果たす。あるいは、基YおよびY’は、結合点としての役割を果たし、一方、ヒドロキシルまたはアミノ基は、C部分と結合するために使用される。
【0037】
式3および3aは、各硫黄原子は独立して、PEGエステルカルボニル基にαまたはβを結合することができることを伝えることを意図している。本発明は、単一異性組成物ならびに1つまたは双方のC−S結合で位置異性体の混合物を含む。さらに、式1にある4つの不斉炭素のため、本発明は、すべてのキラル、メソ、ジアステレオ異性体およびその混合物を含む。
【0038】
アセチレンジカルボキシル酸およびフランのDiels−Alder付加化合物はまた、好適な分枝点部分としての役割を果たしてもよい。例えば、PEGおよびアセチレンジカルボキシル酸から生じるポリエステル4は、フランとのDiels−Alder反応を行うことが知られている(M.Delerba et al.,Macromol.Rapid Commun.18(8):723−728(1997))。従って、3,4−2基置換フランとのDiels−Alder反応をしやすく、その結果、5などの化学種を生成し、ポリマー5は、反応基(例、スキーム1のXおよびX’)を提供するために、ヒドロキシル化またはエポキシ化により修飾することができる。
【化4】
【0039】
同様に、PEGのエチレンジアミン4酢酸2無水物との反応は、式6のポリエステルを提供する。
【化5】
【0040】
別の好適な分枝点部分は、酒石酸、アセチレンジカルボキシル酸、ニトリロ3酢酸、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボキシル酸2無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボキシル酸2無水物、ピロメリット酸2無水物、1,2−エタンジチオールおよび1,4−ブタンジチオールなどのアルカンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、2−メルカプトエチルスルフィド、ジメルカプトプロパノール、ジメルカプトプリン、ジメルカプトチアジアゾール、ジメルカプトコハク酸、ベンゼンジメタンチオール、ベンゼンジチオール、ジハロゲン化ベンゼンジメタンチオール、ジハロゲン化4,4’−チオビスベンゼンチオールなどから生じる場合がある。
【0041】
YおよびY’はOHである場合、疎水性基Cは、カルボキシル酸基のアミド化またはエステル化によりポリマーに結合することが可能である。疎水性基Cは、好ましくは、比較的小さい(C8−C20)および主に炭化水素部分であり、直鎖または分枝であってもよく、または1種または2種以上の環を含んでもよい。例は、C−H分子n−オクタノール、n−デカノール、n−ドデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、コレステロール、およびコール酸から生じる共有結合部分を含むがこれらに限定されるものではない。便宜上、せいぜい2つの異なる疎水性側鎖を有するとして、本発明のポリマーを示すが、2つ以上の疎水性化合物の混合物が、種々の疎水性側鎖を特定のポリマーに導入するために使用することができることを理解すべきである。
【0042】
一具体例として、X=OH、r=2である、式2のポリマーを、無水マレイン酸とポリエチレングリコールの反応により調製し、ポリエステル7を形成し、その後、ジチオスレイトールと反応させ、8を形成する。酸7は、その後、n−オクタデシルアミンでアミド化し、望ましいくし形ポリマー9を形成する(スキーム2)。式9に示されるDTT派生アミドくし形ポリマーは、本明細書に「π−ポリマーA」と称され、スキーム2の特定ポリマー9は、「C18−π−ポリマーA」と表す。
【化6】
【0043】
ジチオスレイトールに対する2,3−ビス(t−ブトキシカルボニルアミノ)ブタン−1,4−ジチオール(DuPriest et al.,米国特許第4,755,528号明細書の方法により調製)の置換は、脱保護後、対応するアミノ官能化されたπ−ポリマー9b(スキーム3)をもたらす。
【化7】
【0044】
同様に、ブタンジチオール10cの使用は、続いて起こる標的部分の結合の場所にスペーサー基Lを伴った一般構造9cのポリマーをもたらす(スキーム4)。スペーサー基Lは、基質分子へのリガンドまたはラベルの結合に使用するために、当技術分野において既知であるいずれかのスペーサー基であってもよく、C2〜C20アルキレンおよび1〜10の−CH2CH2O−単位を有するオリゴ(エチレングリコール)スペーサーを含むがこれらに限定されるものではない。
【化8】
【0045】
別の態様において、末端アミノ基を伴うPEGポリマーは、下記の構造10〜14に示されるように、AとBとの単位間のアミド結合を有する例を調製するために使用してもよい。これらの各ポリアミドは、PEGジアミンH2N−(CH2CH2O)mCH2CH2−NH2の適切な環状無水物との反応を通して生じる場合がある。
【化9】
【0046】
穏やかな状態下で、上記のアミド酸は、予想生成物である。加熱しながら、イミド形成を期待することができ、少数の反応基を有するポリマーをもたらすが、それでも疎水性C部分の結合に適している。あるいは、ペンダント側鎖CをポリマーAブロックの末端に付加することができ、重合時に、分枝点部分は発生する可能性がある(スキーム5)。
【化10】
【0047】
1,3−ジアミノプロパンなどの単一ジアミンに加えて、スキーム5に示されるように、(任意選択的にマスクされた)反応官能基Xを有するジアミンを使用してもよく、標的部分の結合に好適なポリマー15を生じる(スキーム6)。下記の式において、pは、0〜4の範囲であってもよく、各Xは独立して、存在する可能性のあるいずれかの他の基Xと同一または異なる。反応基Xは、ペンダントである必要はないが、例えば、モノマーH2N−(CH2)3−NH−(CH2)3−NH2などの場合、ジアミンを作製する原子の鎖内でNH基であってもよい。
【化11】
【0048】
上記のように調製されたあるπ−ポリマーのいくつかは、さらに誘導体化に好適な反応基Xを有し、小分子、ペプチド、ヌクレオチド、糖類、抗体などの標的部分を結合し、2官能性または多官能性架橋剤を通じてポリマー鎖の架橋結合に影響を及ぼす。特定の態様において、ポリマー鎖上の反応基の部分的な誘導体化は、種々の異なる反応基を有するπ−ポリマーを生成するために行われ、種々の標的および薬物部分の単一ポリマー鎖に対する結合を可能にする。従って、例1のπ−ポリマーへのアクリロイルクロリド(または無水マレイン酸)の不足当量の添加は、ポリマーにアクリロイル(またはマレイル)基および残余ヒドロキシル基の双方を提供するであろう。次の、メルカプト−カルボキシル酸、例えばHS−(CH2)3−COOHの不足当量のMichael付加は、ヒドロキシル、アクリロイル、およびカルボキシル基をポリマーに提供するだろう。試薬の不足当量により残されるいずれかの残余反応基に加えて、システインの添加は、アミノおよびカルボキシル基を導入する。
【0049】
多官能性π−ポリマーへの別の方法は、疎水性鎖Cの一部の意図的な削除を含む。例えば、例1のπ−ポリマーは、アミド化工程において、ペンダント形成のアルキルアミンの量を限定する簡単な方法により、未反応のカルボキシル酸基で調製することができる。さらに別の方法は、一部は反応基を含むアミンの混合によるアミド化である。また、適切な状態下で(ステップAの過剰無水マレイン酸およびステップBの過剰DTT)、遊離チオール基の望ましい集団を有するポリマー調製を生成する場合がある。
【0050】
例1のπ−ポリマーは、意図的に、主鎖内でDTT部分から生じるヒドロキシル基を含み、それは反応基Xとして役に立つ。炭酸塩/重炭酸塩緩衝液の存在下で、水媒体のアクリロイルクロリドまたはメタアクリロイルクロリドによるこれらの基のエステル化は、-OH基上にアクリロイル置換をもたらす。アクリレートポリマーは、ラジカル重合(アクリル酸化合物などのラジカルモノマーまたはビスアクリル酸化合物などの架橋の添加に関わらず)を容易に受けることができ、薬物送達(ポリマー貯蔵または蓄積として働く)を制御するのに、および局部用途(皮膚用パッチ剤または軟膏など)に好適なヒドロゲルを得る。アクリル基はまた、特に、タンパク質、酵素、ペプチド、抗体、Fab’2フラグメントもしくはFab’フラグメント、またはその他の標的部分内のシステイン残基のチオールなどのチオールとのMichael付加を受けることができる(スキーム7)。
【化12】
【0051】
乾燥後、反応ヒドロキシル基を有するπ−ポリマーは、マレイン酸エステル基、Michael受容体を結合するために無水マレイン酸でエステル化することもでき、同時に遊離カルボン酸基を生成する。得られるポリマーにおいて、マレイン2重結合は、特に、タンパク質、酵素、ペプチド、抗体、Fab’2フラグメントもしくはFab’フラグメント、またはその他の標的部分内のシステイン残基のチオールなどのチオールとのMichael付加に利用できる(スキーム8)。そして、カルボキシル基は、薬物もしくはリガンドのアミノ基、またはタンパク質およびペプチドのリジン残基に結合することに利用できる。
【0052】
別の部分を、アミド化によって新規に導入した(または従来利用可能な)カルボン酸基にさらに結合してもよい。従って、少なくとも2つの異なる標的部分は、飽和反応状態下でさえ、結合することができる(すなわち、結合部分は、化学量の過剰において存在する)。
【化13】
【0053】
ペンダントカルボキシレート基を有するポリマーは、典型的な結合状態下で、アミンとアミド化することができ、Curtius再配列によってイソシアネート基に変換することもでき、その後、尿素およびカルバメートをそれぞれ形成するために、アミンまたはアルコールと結合する。かかる反応は、疎水性基Cを導入、または標的部分を結合するために使用することができる。
【0054】
遊離アミンをジアミンと反応基の1つを少なくとも部分的に反応させることにより、ポリマー内に導入することができる。反応物の状態下で、アミン基の1つを保護するか反応しないように、ジアミンを選択しなければならない。2つのアミノ基のpKaが大幅に異なるため、後者は、多くの場合、約7.5のpHで、エチレンジアミンを使用して完了することができる。好ましくは、本アミド化は、疎水性ペンダント基の導入後、分離工程として実行される。カルボン酸基を有するペプチドまたは別の分子は、その後、本遊離アミンのアミド化により結合することができる。
【0055】
従って、飽和状態下でさえ、3つもの異なるペプチドまたはその他の標的部分を、1つはチオール、1つはアミンもしくはヒドロキシル、ならびに1つはカルボキシル酸基を介して、π−ポリマーに結合することができる。
【0056】
ヒドロキシルおよびチオール基はまた、アジリジンまたは(ブロモエチルアミンまたはクロロエチルアミンなどの)ハロアルキルアミンとの反応により、第一アミンに変換することができる。システアミンによるアミド化は、ペプチドまたは抗体を結合するために、ペプチドまたは抗体のシステインによって直接反応される、または、ペプチドまたは抗体との次の反応のために、例えば、アミノエタンチオールまたはDTTで最初に還元される、ジスルフィドに導入することになる。
【0057】
部分的な反応を行うことにより、本発明のポリマーにさらに付加反応官能基を導入することができ、(1)アクリルまたはマレイン酸誘導体などのチオール反応基、(2)アミノまたはヒドロキシルなどのカルボキシル酸反応基、(3)カルボキシルなどのアミン反応基、および(4)メルカプトなどのジスルフィド反応基を含むが、これらに限定されない。当該付加された官能基のポリマー分子あたりの数は、1/rからrの数倍までであってよく、使用した試薬および使用した量により異なる。
【0058】
あるいは、2つ以上の特異的リガンドは、例えばウイルスまたは細胞表面への結合の特異性を改善するために結合することができる。2つ以上の特異的リガンドはまた、異なる細胞内標的間で相互作用をもたらすために使用することもできる。例えば、あるリガンドがウイルス粒子を標的化し、別のリガンドが食細胞への結合を促進することができ、それによって、ウイルス粒子を食細胞と近接または接触させ、食作用を促進する。
【0059】
当該の誘導体化は、異なる官能基結合(アミン、カルボキル酸、およびチオールなど)を通して、3つ以上の別個の標的部分および/または治療的部分のポリマーへの結合を可能にする。従って、組織特異的標的化剤、画像剤、および治療剤を単一ポリマー鎖に結合し、次のポリマーの自己集合によって、分配および標的化の有効性を監視できる標的化された治療剤が生み出されるであろう。
【0060】
本発明のポリマーの繰り返し単位へのリガンド結合は、ポリマー鎖上およびナノ粒子表面上にリガンドの多価表示を提供する。多価表示は、多くの場合、標的の親和性の大幅な増加をもたらす。例えば、多価抗体は、通常の2価抗体よりも標的の除去にさらに効果的である。炭水化物結合タンパク質および炭水化物は、実際は多価であり、1価である場合、効果がないことは既知である。同様に、多価ペプチドおよび炭水化物標的部分は、モノマー単独よりもさらに効果的であろう。ポリマー結合によるMWの増加は、ペプチドおよびその他のリガンドの腎クリアランス率の低下をもたらす。さらに、PEG主鎖は、ペプチドに、免疫学的監視の回避を含む、PEG付加の有益性と同様の有益性を提供した。
【0061】
さらに、多価標的部分は、多価標的(例えば、ウイルス粒子)を装飾し、1価標的部分よりもさらに効果的に中和する。多価形式の複数の(異なる)ペプチドを表示する能力は、強化した特異性をもたらすことができる。例えば、真のHIV特異性(HIVウイルス結合)ポリマーを、CD4結合領域に対応するペプチド、ウイルスのCCR−5またはCXCR−4結合領域に対応する別のペプチド、あるいは、その他の受容体(CXCR−4またはCCR−5のそれぞれ)に対応する第3のペプチドに結合することにより構築することができる。当該のポリマーは、ウイルスの結合領域を完全に覆うことができ、ウイルスを細胞に結合できないようにし、それによって、非感染を可能にした。さらに、ポリマーの界面活性剤特性は、結合によりウイルス構成自体の不安定化をもたらす場合がある。ペプチドの代わりに、同一の結合形態を妨げる小分子(CD4、CCR−5、CXCR−4)、またはペプチドと小分子との混合物、好ましくは、相補的活性を伴う混合物を使用することができる。得られるポリマーは、いかなる遊離ウイルスを非感染とすることができ、それ故に、コンドームの潤滑油などの成分として使用することにより感染の拡散を阻止するのに適している。さらに、当該のポリマーをHIVの苦しみを低減するために患者に注射する場合がある。
【0062】
一般に、DTTなどの多官能性の試薬を使用する場合、DTTによるカルボキシル酸のエステル化、または類似の副反応を通して、ポリマー鎖の部分的な架橋結合が存在する場合がある。例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル残渣に関連する、PEG鎖の中心領域の第2ヒドロキシル基はまた、PEG出発物質に存在する場合、架橋結合の一因となる場合がある。得られる架橋結合のヒドロゲル構造はまた、有用な物質である。例えば、本架橋結合の範囲の好適な増加、または他の架橋剤(例えば、ビソキシラン(bisoxiranes)など)を使用する明示的架橋結合により、薬物のための持続性貯蔵庫としての役割を果たす適応性のあるヒドロゲルである物質を生成することができる。物質を適切に修飾することにより(例、PEGの長さをより短くし、カルボン酸基をさらに解放し、そして好適なアクリル基を組み込む)、直鎖または架橋結合したヒドロゲル物質を生成することができ、それは、持続可能な、ステントなどの装置に固定されるか、接着性パッチまたは皮下挿入パッチのためのパッドなどの装置に吸収される貯蔵としての役割を果たす。一般に、当該の架橋結合した物質は、強化した、標的放出よりむしろ制御した放出に適している場合がある。
【0063】
本発明のくし形ポリマーは、水性溶媒系において、難溶性物質の可溶化に有用である。水性溶媒中の物質を可溶化する方法は、物質およびポリマーの水溶性複合体を形成するために、水存在下で、本発明のくし形ポリマーと難溶性物質を接触するステップを含む。あるいは、水性有機エマルジョンと蒸発により除去した有機溶媒の2相において、ポリマーおよび可溶化される物質を混合することができる。例示される工程は、米国特許第6,838,089号明細書で記載され、参照により本明細書に組み込まれる。ほとんどの場合、ポリマーは、粒子のコアで合体する疎水性C鎖の中で溶解する難溶性物質を有するナノ粒子に自己集合することが考えられる。一方、Aブロックは、粒子の水性懸濁液を安定な状態に維持させるために界面の自由エネルギーを十分に低減する親水性コロナを形成する。
【0064】
場合によっては、難溶性物質は、コアの中で完全に溶解することができないが、粒子のコアで、C鎖で取り囲まれ、およびC鎖の中で懸濁されている固体ナノ粒子として存在することができる。本発明の実施は、C鎖の難溶性物質との混合のいかなる特定の程度にも依存しないので、本発明の目的で、これは程度の違いである。物質は、場合によっては、C鎖の中で分子レベルで溶解することができるが、その他の場合には、C鎖環境からの相分離のいずれかの程度を示すことができる。場合によっては、当該システムは、温度の関数として、ある状態から別の状態に移動することを予想することができる。
【0065】
疎水性C部分を修飾することにより、ポリマー粒子の疎水性コアの溶媒力を修正することができる。好適な修飾は、疎水性コアの極性率および/または分極率を増加するために、ヒドロキシル、エーテル、アミド、およびシアノ官能基などの1つ以上の親水性置換基の導入を含むがこれらに限定されるものではない。
【0066】
これらのポリマーにより溶解される難溶性物質は、脂溶性ビタミンおよび栄養素を含み、ビタミンA、D、EおよびK、カロチン、コレカルシフェロール、ならびにコエンザイムQ、ドセタキセル、アムホテリシンB、ナイスタチン、パクリタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、ルビテカン、テニポシド、エトポシド、ダウノマイシン、メトトレキサート、マイトマイシンC、シクロスポリン、イリノテカン代謝産物(SN−38)、スタチン、およびステロイドなどの不溶性薬剤、着色料、光力学剤、造影剤、ならびに核酸、核酸類似体および核酸複合体を含むがこれらに限定されるものではない。核酸類似体は、チオリン酸塩およびペプチド核酸などの種類を含み、核酸複合体は、陽イオンまたはポリカチオン性の種の実質的な電荷中和量を有するオリゴ核酸のイオン結合型錯体である。
【0067】
本開示のために、多くの場合、中性薬学的組成物の必要性があるため、中性pHで不溶性である薬剤は、「難溶性」であると見なされる。例えば、シプロフロキサシンは、pH4.5以下で、水中に無理なく溶解できるが、本pHは、薬物が眼球投与のために処方される場合、極めて刺激させる可能性がある。本発明のポリマーは、pH7で生理食塩水中にシプロフロキサシンを可溶化できる。また、本開示のために、「難溶性」は、溶解度の増加が、改良されたまたはさらに有用な組成物を生み出すような、水性媒体における溶解度のいかなる物質を意味することを理解するべきである。従って、例えば、静脈内投与用の単位用量が5gである場合、2g/リットル程度で中度に溶解される薬剤は、「難溶性」である。
【0068】
薬学的活性種を可溶化するための本発明のポリマーの能力の結果として、本発明はまた、薬学的組成物を提供し、それには、1つ以上の薬学的活性剤の治療有効量との併用で本発明の1つ以上のπ−ポリマーを含む。本発明のポリマーは、そうでなければ、薬学的活性剤の効果がない量であるものを効果的にする。従って、本開示の目的のために、「治療有効量」は、全ての組成物を効果的にする薬剤の量である。
【0069】
本明細書に記載のすべての特許、特許出願、および出版物は、参照することにより本明細書にすべて組み込まれる。
【0070】
実験
1.一般手順
本発明はまた、本発明のくし形ポリマーの調製のための工程を提供する。これらのポリマーの合成は、下記に記載の手順に従い、有機合成における技術の当業者によって、容易に実施される。主要な出発物質はポリエチレングリコールであり、好ましくは、使用前に乾燥させる。これは、気泡が形成を停止するまで、高温で、融解されたPEGを真空下で撹拌することにより、便宜的に実施される。これは、PEGの質により異なるが、8〜12時間かかる場合がある。一度乾燥すると、PEGは、アルゴン下で永久保存することができる。例えば、1430〜1570の分子量分布を有する商用の多分散系の「PEG1500」など、PEGにおける市販の産業用および研究用の等級を本発明のポリマーの生成において使用することができる。当該の物質は、PEG鎖の中央で第2ヒドロキシル基を導入する、ビスフェノールAジグリシジルエーテルに組み込むことができる。本発明のポリマーが最も再現性のある一定の特性を有することを保証するために、PEGは、好ましくは、ビスフェノールAを含まず、低分散度でない。アラバマ州ハンツビルのNektar Therapeutics(以前は、Shearwater Polymers)、およびノルウェーオスロのPolypure ASから市販されているような、95%より高い単分散のPEGポリマーが最も好ましい。特に好ましいPEGの例は、95%より高いHO(CH2CH2O)28H、分子量1252である「PEG−28」である。
【0071】
すべての反応は、磁気的または好ましくは機械的撹拌を使用して、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で実施される。
【0072】
ステップAにおいて、乾燥PEGを溶解し、無水マレイン酸(PEGモルあたり2モル)を撹拌しながら添加する。無水マレイン酸の量は、PEG末端のヒドロキシル基の数にできるだけ一致させるべきである。無水マレイン酸の不足は、ヒドロキシル末端ポリマー鎖をもたらす一方で、無水マレイン酸の過剰は、次のステップでチオール基を消費し、早期連鎖停止反応および末端カルボキシル基をもたらす。反応温度は、臨界ではなく、工程は、45℃〜100℃の温度で、便宜的に実施することができる。本反応の好ましい温度は、65℃〜90℃である。高温を使用する場合、無水マレイン酸は昇華する傾向があり、工程では、無水マレイン酸が溶液に残っていることを確認するべきである。ヘッドスペースを最小化し、油浴の反応槽に浸すことは、効果的な方法である。
【0073】
選択温度により異なるが、本反応は2時間以内に完了する、もしくは一晩実施することができる。本反応をシリカゲルプレート上のTLCで監視してもよく、本反応は、無水マレイン酸の消失後まで継続される。視覚コントラスト、UV、およびヨード染色はすべて、TLCプレートを試験するために使用することができる。
【0074】
ステップBにおいて、ステップAで生成された粗製PEGビス−マレイン酸エステルをジチオスレイトール(DTT)およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)(流動性が必要である場合、水添加を伴う)と混合し、混合物を70℃で撹拌する。本反応は、粘度の急増で示されるように、30分以内で完了する。DTTの最適量より多く、または少なく使用する場合、生成物の分子量は減少する。生成物の分子量はまた、必要であれば、TEMEDをTEAなどの効果の弱い第三アミン塩基で置換することにより、減少させることができる。
【0075】
ステップCにおいて、十分な水を反応混合物に添加し、粘度を低下させ、ポリマー中にカルボキシル酸基の1モルあたり0.1モルのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および1.05モルのヘキサデシルアミンを添加する。(NHSのこの量が、副反応の程度を最適に最小化するように思われる。)N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(EDC)の過剰(カルボキシル酸基の1モルあたり1.4molのEDC)をその後、撹拌を維持するために必要に応じて添加するように、追加の水とともに少しずつ添加する。本反応混合物のpHは、7以上に維持し、好ましくは、9〜11であり、アルキルアミンンの反応性を最適化する。ドデシルアミンとのこの反応は、約40〜45℃で実施され、一方、オクタデシルアミンとの反応での温度は、約55℃〜57℃である。残ったアルキルアミンンの一定レベルが観察されるまで、通常は一晩実施後、その反応はTCLによって監視される。
【0076】
本反応混合物を約3.0〜約4.5のpHに酸性化し、室温で約24時間撹拌し、未反応のEDCを壊し、その後、1N NaOHを使用して、pH7.0に滴定する。本最終反応混合物を約800xgで1〜3時間、遠心分離機で分離し、固体混入物質および副生成物を除去する。
【0077】
遠心分離後、本上澄みをGPCカラム(ToyopearlTM、SephadexTM、SephacrylTM、BiogelTMなど)で、クロマトグラフィー法で分離することができる。しかしながら、πポリマーは、両親媒性物質であり、大抵のGPCカラム包装に対する親和性を示し、それは混入物質の除去を複雑にする。あるいは、本ポリマーを大孔径の疎水性相互作用カラム(例えば、米国ペンシルバニア州モントゴメリビルのToshoh Biosciences製、TOYOPEARLTM Phenyl 650C)で、クロマトグラフィー法で分離でき、水中のメタノール勾配で溶離する。好ましくは、酸性水および中性水のいくつかの変化に対して、本反応混合物を透析し、低分子量の出発物質および反応副生成物を除去する。
【0078】
本反応混合物を、また、ブタノン、イソプロパノール、ブタノールまたはその他の極性有機溶媒で抽出し、有機不純物を除去してもよいが、両親媒性高分子のかなりの量が、抽出溶媒に失われる。好ましくは、本反応混合物は、使用するろ過膜の分画により異なるが、5kDa〜10kDa、10kDa〜30kDa、30kDa〜50kDaなどの分子量に生成物を分別するために好適な膜を使用して限外ろ過を行う。本ポリマーの水溶液は、ろ過膜または媒体の選択により異なるが、滅菌またはウイルスを含まない溶液を生成するために全量ろ過を行う場合がある。
【0079】
2.π−ポリマーの合成
例1:PEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテル中間分子量ポリマー(C16−π−ポリマーA)
ポリエチレングリコール(PEG−1500、Sigma Chemical Co.)を気泡の形成が停止するまで80℃で真空下で乾燥した。(PEGの質により異なるが、8〜12時間)。アルゴン下で永久に乾燥した状態にされた乾燥PEGを貯蔵することができる。
【0080】
乾燥PEGを油浴でアルゴン下溶解し、無水マレイン酸(1モルのPEGモルあたり2モル、不純物で補正)を撹拌しながら徐々に添加した。混合物を90℃、アルゴン下で撹拌した。無水マレイン酸は昇華する傾向があるため、ヘッドスペースを最小化し、全反応槽を反応温度で維持した。容器壁上のいかなる濃縮した無水マレイン酸を擦り取り、反応混合物に戻した。エタノールおよびヘキサンを別々に溶媒として使用し、UV可視化およびヨード染色を用いて、反応物の進行をシリカゲルプレート上のTLCで監視した。反応は、無水マレイン酸の消失後1時間継続した。
【0081】
粗製PEGジマレイン酸エステルを2容積の水で希釈した。その後、水(TEMEDの1体積あたり2体積の水)にジチオスレイトール(DTT、PEGの1当量あたり1.01当量)およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、1.02当量)が入った溶液を、反応混合物に撹拌しながら添加した。反応物をアルゴン下70℃で2.5時間撹拌し、室温で一晩放置し、その後、70℃で2時間再度撹拌した。反応物をTLCで監視し、DTTの完全消失で反応の完了を判断した。
【0082】
水を上記の反応混合物に添加し、混合物を撹拌できるまで(約25%の固体で)、粘度を低下させ、混合物をアルゴン下65℃で撹拌し、N−ヒドロキシスクシンイミド(PEG−ジマレイン酸エステル−DTTポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.1モル)を添加し、次に、ヘキサデシルアミン(ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり1.05モル)およびN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(EDC、ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.56モル)を添加した。混合物をアルゴン下で1時間撹拌し、EDCの第2部分(ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.56モル)を添加した。加水分解でのEDCの消失の理由のため、別の1時間後、EDCの第3部分(1モルのカルボキシル酸あたり総量の1.4モルのEDCに対して、ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.28モル)をさらに添加した。添加した固体が懸濁液の撹拌を困難にするので、流動性を維持する必要がある場合、さらに水を添加し、そして、必要に応じて1N NaOHを添加することにより、pHは8〜10に維持された。混合物をアルゴン下65℃で一晩撹拌し、アルキルアミンンが安定した濃度に達したことを示すまで、TLC(エタノールを伴ったシリカ)で監視し、その後、さらに4時間撹拌した。その後、約4.5のpHまで反応混合物を1N HClで酸性化し、未反応のEDCを破壊するために24時間撹拌し、追加の1N NaOHの滴下によりpH7.0まで調節した。ドデシルアミンとの反応は、約40〜45℃で実施され、一方、オクタデシルアミンとの反応での温度は、好ましくは、約55℃〜57℃である。
【0083】
混合物を遠心分離瓶に移し、約800xgで2時間卓上遠心分離機で回転させ、残留固体を分離した。遠心分離後、反応混合物をイソプロパノールで抽出し、有機不純物を除去した。イソプロパノール抽出の代替物として限外ろ過が好ましい。
【0084】
本方法により、以下のアミノ化合物をポリマーに共役する。
例1a:ウンデシルアミン
例1b:オクタデシルアミン
例1c:4−ノニルベンジルアミン
例1d:3−[(4−フェノキシ)フェニル]プロピルアミン
【0085】
例2:PEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテル高分子量ポリマー
無水マレイン酸の1モルのあたり、0.55モルのDTTおよび0.55モルのTEMEDを使用することを除いては、例1で概略を述べた手順に従った。粘度が急速に上昇したので、激しい撹拌を必要とした。反応物のほとんどが5〜10分以内に完了し、続いて、温度が55℃から80℃に上昇しながら、次の4時間にわたって、ゆっくりと完了したことを示した。
【0086】
例3:PEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテルポリマー
ポリマーにおいて、カルボキシル酸基の1モルあたりの1.5モルのドデシルアミンを使用することを除いては、例1で概略を述べた手順に従った。N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS、カルボキシル酸基の1モルあたりの1.0モル)および1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI、カルボキシル酸基の1モルあたりの3.0モル)を添加し、反応物を80℃で4時間撹拌し、上記のように仕上げた。
【0087】
本方法により、以下のアミノ化合物をポリマーに共役する:
例3a:ウンデシルアミン
例3b:テトラデシルアミン
例3c:オクタデシルアミン
例3d:デヒドロアビエチルアミン
例3e:コレステロール2−アミノエチルエーテル
例3f:10−フェノキシデシルアミン
例3g:セバシン酸ヒドラジド
例3h:オレイン酸ヒドラジド
例3i:デヒドロアビエチン酸ヒドラジド
例3j:コール酸ヒドラジド
例3k:パルミチン酸ヒドラジド
【0088】
例4:PEG−co−(アルキルアミドコハク酸エステル)ポリマー
乾燥ジエチルエーテル(10ml)のPEG(6.66mmol)およびトリエチルアミン(2.32ml、16.65mmol)の溶液をアルゴン下0℃で冷却し、塩化メタンスルホニル(1.03ml、13.32mmol)で滴下処理した。1時間、0℃で撹拌を継続し、その後、室温で2時間撹拌した。エーテルを蒸発し、トリエチルアミン塩酸塩を沈殿させるために乾燥アセトン(15ml)を残留物に添加し、それは溶液から濾過される。濾液を臭化リチウム(2.31g、26.64mmol)で処置し、還流するために20時間加熱した。その後、混合物をヘキサンで希釈し、CeliteTM(0.5cm)で覆われたシリカ(3cm)の短カラムでろ過し、ヘキサンで溶離した。ろ液を乾燥し、ろ過し、α,ω−ジブロモ−PEGを油に残すために蒸発させる。
【0089】
α,ω−ジブロモ−PEGをGodjoianらのTetrahedron Letters,37:433−6(1996)の方法により2,2−ジブチル−4,5−ビス(メトキシカルボニル)−1,3,2−ジオキサスタンノランの1当量と反応させる。得られるジメチル酒石酸塩−PEGポリエーテルをメタノール中のKOHで鹸化し、その後、上記の例1および3に記載のようにドデシルアミンもしくはヘキサデシルアミン、または例3a〜3kのアミンでアミド化する。
【0090】
例5:EDTA2無水物とのPEG共重合
例1に記載の方法で、乾燥PEGをエチレンジアミンテトラ酢酸2無水物と反応させ、その後、例1に記載のドデシルアミンと、または例3に記載のヘキサデシルと、または例3a〜3kに記載のアミンとアミンアミド化する。
【0091】
同様の方法で、以下の2無水物をPEGと共重合し、続いてアミド化する。
例5a:ナフタレンテトラカルボン酸2無水物
例5b:ペリレンテトラカルボン酸2無水物
例5c:ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物
例5d:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
例5e:ブタンテトラカルボキシル酸2無水物
例5f:ビシクロ(2,2,2)オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボキシル酸2無水物
例5g:ジエチレンテトラアミン5酢酸2無水物
例5h:3,4,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボキシル酸2無水物
例5i:3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボキシル酸2無水物
例5j:ピロメリット2無水物
【0092】
例6A:ペンダントチオエーテルとのPEG−ジアミン共重合体
例1に記載のように調製されたPEGジマレイン酸エステルを例1のDTTに使用される同様の手順を使用して、ドデカンチオール(PEGジマレイン酸エステルの1当量あたり2当量)と反応させる。重合が行われない場合、希釈する必要はなく、反応を溶解PEG−ジマレイン酸エステルにおいて行う。TEMED触媒を添加し、その後チオールを添加する。TLCを使用して出発物質の消滅後、反応を行った。蒸発によるアルキルチオールの損失が有意になる時点までの温度を使用することができる(約100℃まで)。わずかな過剰アルキルチオールを、マレイン基を完全飽和するために使用してもよい。においまたはTLCでなにも検出されなくなるまで、窒素もしくはアルゴンで散布および/または真空下で加熱することによって、反応の終わりで過剰アルキルチオールを除去する。
【0093】
本方法により、以下のチオールをPEGジマレイン酸エステルに共役することができる。
例6Aa:メルカプトコハク酸ジ−t−ブチルエステル
例6Ab:テトラデカンチオール
例6Ac:ヘキサデカンチオール
例6Ad:2−メルカプトエタンスルホン酸
例6Ae:3−メルカプトプロパンスルホン酸
例6Af:6−メルカプトヘキサン酸t−ブチルエステル
例6Ag:4−メルカプト安息香酸t−ブチルエステル
例6Ah:メルカプト酢酸t−ブチルエステル
例6Ai:4−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ブタンチオール
例6Aj:3−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ベンジルメルカプタン
例6Ak:4−デシルベンジルメルカプタン
【0094】
反応官能基を有するチオールは、C鎖の結合に好適であり、および/または反応官能基は、標的部分に対する結合点(X)としての役割を果たすことができる。
【0095】
例6B:ペンダントチオエーテルを有するPEG−ジアミン共重合体
【化14】
【0096】
例1のドデシルアミンに対して使用される同様の手順を使用して、反応混合物の流動性を維持するために必要な場合、水で希釈して、例6Aで得たチオール付加化合物を1,4−ジアミノブタン(2つのCOOH基あたりの1当量のジアミン)でアミド化する。完全な重合を確保するために必要な場合、EDCの追加の一定分量を添加する。本方法により、例6Aおよび6Aa〜6Akのチオール付加化合物をPEG−ジアミノブタンポリアミドに変換する。
【0097】
本方法により、以下のジアミンをPEGポリアミドに変換することができる(BOC=t−ブトキシカルボニル)。
例6Ba:2−(O−BOC)−1,3−ジアミノ−2−プロパノール
例6Bb:N’,N’’−ジ(BOC)ヘキサエチレンテトラアミン
例6Bc:N’,N’’−ジ(BOC)スペルミン
例6Bd:N’−BOCスペルミン
例6Be:N’,N’’,N’’’−トリ(BOC)ペンタエチレンヘキサミン
例6Bf:アグマチン
例6Bg:リシンt−ブチルエステル
例6Bh:1,6−ジアミノヘキサン
例6Bi:1,4−フェニレンジアミン
例6Bj:1,3−フェニレンジアミン
例6Bk:1,4−ジアミノブタン−2,3−ジオールアセトニド
【0098】
例7:PEG−ジ(アルキルコハク酸エステル)ジチオエーテル
【化15】
【0099】
DTT(meso−2,3−ビス(ヘキサデシルオキシ)ブタン−1,4−ジチオール)の2,3−ビス−O−ヘキサデシルエーテルをS.Sasaki et al.,Chem.Pharm.Bull.33(10):4247−4266(1985)の手順の修飾により調製する。これを例1の方法でPEG−ジマレイン酸エステルに添加する。
【0100】
本方法により、以下のエーテルジチオールをPEGポリマーに結合する。
例7a:meso−2,3−ビス(n−ブトキシ)ブタン−1,4−ジチオール
例7b:meso−2,3−ビス(4−ノニルフェニルメトキシ)ブタン−1,4−ジチオール
例7c:meso−2,3−ビス(ビフェニル−4−メトキシ)ブタン−1,4−ジチオール
例7d:4,6−ビス(デシロキシ)ベンゼン−1,3−ジメタンチオール
例7e:4,5−ビス(デシロキシ)ベンゼン−1,2−ジメタンチオール
例7f:3,4−ビス(デシロキシ)チオフェン−2,5−ジメタンチオール
【0101】
例8A:置換PEGコハク酸エステル
2−ドデセン−1−イル無水コハク酸を無水マレイン酸の代わりに使用することを除いては、例1の方法に従う。ドデセニル置換基は、最終ポリマーにおいてペンダントC鎖を提供する。
【0102】
本方法により、以下の置換無水コハク酸をPEGとエステル化する。
例8Aa:イソブテニル無水コハク酸
例8Ab:2−オクテン−1−イル無水コハク酸
例8Ac:オクタデセニル無水コハク酸
例8Ad:3−オキサビシクロ−ヘキサン−2,4−ジオン
例8Ae:シクロヘキサンジカルボン酸無水物
例8Af:フタル酸無水物
例8Ag:4−デシル無水フタル酸
例8Ah:ヘキサヒドロメチルフタル酸無水物
例8Ai:テトラヒドロフタル酸無水物
例8Aj:ノルボルネンジカルボン酸無水物
例8Ak:カンタリジン
例8Al:ビシクロオクテンジカルボン酸無水物
例8Am:exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物
例8An:S−アセチルメルカプト無水コハク酸
【0103】
例8B:ペンダントアルキル基を有するPEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテル
例1の方法により、例8Aおよび8Aa〜8Anに記載されるように取得した置換PEGコハク酸エステルをDTTと反応させる。
【0104】
本方法により、以下のジチオールを例8Aおよび8Aa〜8Anに記載されるように取得した置換PEGコハク酸エステルのいずれかと反応させる。
例8Ba:エタン−1,2−ジチオール
例8Bb:プロパン−1,3−ジチオール
例8Bc:ブタン−1,4−ジチオール
例8Bd:ペンタン−1,5−ジチオール
例8Be:ヘキサン−1,6−ジチオール
例8Bf:1,4−ベンゼンジチオール
例8Bg:1,3−ベンゼンジチオール
例8Bh:1,4−ベンゼンジメタンチオール
例8Bi:1,3−ベンゼンジメタンチオール
例8Bj:1,2−ベンゼンジメタンチオール
【0105】
例8C:ペンダントアルキル基を有するPEG−ジアミン共重合体
例6Bの方法により、例8Aに記載されるように取得した置換PEGコハク酸エステルを1,4−ジアミノブタンと共重合させる。
【0106】
本方法により、以下のジアミンを例8Aおよび8Aa〜8Anのうちの置換PEGコハク酸エステルのいずれかと共重合させる。
例8Ca:2O−BOC1,3−ジアミノ−2−プロパノール
例8Cb:N’,N’’−ジ(BOC)ヘキサエチレンテトラアミン
例8Cc:N’,N’’−ジ(BOC)スペルミン
例8Cd:N’−BOCスペルミン
例8Ce:N’,N’’,N’’’−トリ(BOC)ペンタエチレンヘキサミン
例8Cf:アグマチン
例8Cg:リシンt−ブチルエステル
例8Ch:1,6−ジアミノヘキサン
例8Ci:1,4−フェニレンジアミン
例8Cj:1,3−フェニレンジアミン
例8Ck:1,4−ジアミノブタン−2,3−ジオールアセトニド
【0107】
例9:置換酸を使用するPEG Transエステル化
PEG二トシル酸:1モルのPEG(DMFに溶解された、またはそのまま溶解した)に、アルゴン下で撹拌しながら、2.1モルのトシルクロリド(5%過剰モル)を添加した。本反応混合物に、2.2モルのテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を添加した。その後、反応物を45℃で2時間温置した。TLCを使用して、TLC溶媒として、エチルアセテート、トルエン、またはエタノールに生成物を溶解した。PEG二トシル酸を、トルエンを使用して反応混合物から抽出することができる。トルエンスルホニルクロリドの代わりに、メシルクロリド(例4を参照)、トリフリック酸無水物、またはトレシルクロリドなどのその他のスルホニル剤をまた使用することもできる(米国特許出願第10/397332号明細書、米国特許公開第2004/0006051号明細書を参照)。
【0108】
PEG二トシル酸のポリエステル重縮合:1モルの溶解PEG−二トシル酸に、アルゴン下で撹拌しながら、1モルのS,S’−ジデシル−meso−2,3−ジメルカプトコハク酸および2モルのTEMEDを添加する。流動性を維持する必要がある場合、DMFを添加する。反応混合物を80℃で加熱し、24時間またはTLCにより完了するまで撹拌する。
【0109】
例10:PEG−ジ(スクシニル)−ジ−(O−アシル化)チオエーテル中間分子量ポリマー(C16−π−ポリマーB)
【化16】
【0110】
例1に記載のように調製したPEG−ジマレイン酸エステル(10.24g、6.1mmol)を乾燥125mlフラスコに移し、アルゴン下で70℃まで加熱し、PEG−ジマレイン酸エステルを溶解した。本溶解物質に、撹拌しながら、水(10mL)、ならびにDTT(0.961g、6.168mmol)およびTEMED(0.723g、6.166mmol)を水(3mL)に加えた溶液を添加した。溶液を70℃で約4時間攪拌した。真空中で水の除去は、約90%収率で固体ポリマーを得た。
【0111】
乾燥ポリマー(5g、2.7mmol)をアルゴン下で70〜90℃で加熱し、溶解し、TEMED(0.635g、5.5mmol)を添加した。パルミトイルクロリド(1.689g、5.5mmol)を撹拌しながら添加し、混合物をアルゴン下で一晩撹拌した。(ポリマーとアシルクロリドの割合は、0〜100%の化学量論の置換度を取得するために変更することが可能である。)水を反応混合物に添加し、「C16−π−ポリマーB」を単離する。
【0112】
本方法により、以下の酸を、ジ(スクシニル)PEG−DTT共重合体のヒドロキシル基でエステル化する。
例10a:オレイン酸
例10b:コレステリルコハク酸エステル
例10c:ビフェニル−4−カルボキシル酸
例10d:4−オクチルフェニル酢酸
例10e:ヘキサデカ−6−イン酸
【0113】
また、酸ハロゲン化物の使用の代替として、π−ポリマーのDTT由来のヒドロキシル基を、1,3−ビス(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イルメチル)カルボジイミド(BDDC)を用いて活性化でき、カルボキシル酸と直接結合することもできる。Handbook of Reagents for Organic Synthesis,Reagents for Glycoside,Nucleotide,and Peptide synthesis,Ed.David Crich,Wiley,2005 p 107−108およびその参考文献を参照)。
【0114】
例11:C16−π−ポリマーAのカルボキシル置換エステル
標準ペプチド結合形成方法(例えば、カルボジイミド試薬を通じて)を使用して、カルボキシル酸置換ポリマーを反応アミノ基を有するリガンドを結合するために使用し、アミノ基をポリマーのカルボキシル酸官能性に結合する。これらの物質は、環状無水物を有するπポリマーヒドロキシル基のエステル化で容易に取得される。例えば、C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルを、無水マレイン酸をC16−π−ポリマーAヒドロキシル基と以下のように反応させることにより調製した。
【0115】
C16−π−ポリマーA(2g)および無水マレイン酸(0.85g)を乾式すり鉢内で磨り潰し、50mLの丸底フラスコに移した。フラスコをアルゴン下で、2〜3時間撹拌しながら90℃に加熱した。その後、固体反応混合物を磨り潰し、水でスラリーにし、混合物を透析袋(3.5kDa分画)に移した。過剰マレイン酸および低分子量の副生成物を除去するために、混合物を水に対して透析し、濃縮水を袋から取り除き、60℃で恒量になるまで乾燥し、C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル(1.79g)を得た。ポリマーAの無水マレイン酸に対する割合は、0〜100%の完全化学量論のエステル化と異なる置換を取得するために変更することが可能である。
【0116】
例11a:C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル
C16−π−ポリマーA(2g)およびジグリコール酸無水物(1.0g)を上記の例11の方法で反応させ、C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルを得た。無水マレイン酸と同様に、ポリマーAの無水物に対する割合は、0〜100%の完全化学量論のエステル化と異なる置換を取得するために変更することが可能である。
【0117】
例11b:C16−π−ポリマーAビス(アコニット酸エステル)
C16−π−ポリマーA(2g)およびアコニット酸無水物(1.35g)を上記の例11の方法で反応させ、C16−π−ポリマーAビス(アコニット酸エステル)を得た。
【0118】
同様の方法において、以下の無水物は、C16−π−ポリマーAに結合する。難溶解性の無水物を使用する場合、精製の補助として透析する前に、pHは、4.5〜6.5で調節される場合がある。0.1N HClに対して第2透析は、必要に応じて、ポリマーの酸性型を提供する。
例11c:無水コハク酸
例11d:グルタル酸無水物
例11e:無水フタル酸
無水マレイン酸またはcis−アコチニック酸無水物とエステル化することで導入した反応2重結合をまた、下記の例12に記載されるように、チオール含有のリガンドをポリマーに添加するために使用する場合がある。
【0119】
例12:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルのシステイン付加化合物:
粉末C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル(例11)(253mg)を水(5mL)に添加し、混合物を激しく撹拌した。システイン(24mg)およびTEMED(30.5μl)を反応混合物に添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。ニンヒドリンを用いた検出とともに、反応の進行をTLC(シリカゲルプレート、n−ブタノール−酢酸−水、3:1:1)で監視した。反応混合物は、ポリマーとともに移動するニンヒドリン陽性スポットを示した。システインもまた、ニンヒドリン陽性スポットを付与したが、一方、出発ポリマーは、ニンヒドリンでいずれの色も付与しなかった。
【0120】
上記に記載の方法は、結合点として使用するために追加のカルボキシル基を導入するために使用され、多数のカルボキシル置換基を有するチオールを使用する。例えば、メルカプトコハク酸を以下のC16−π−ポリマーAジエステルに添加した。
例12a:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル
例12b:C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル
例12c:C16−π−ポリマーA(ビス)アコニット酸エステル
【化17】
【0121】
同様な方法で、3メルカプトグルタル酸を以下のC16−π−ポリマーAジエステルに添加した。
例12d:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル
例12e:C16−π−ポリマーAジアクリル酸エステル
例12f:C16−π−ポリマーA(ビス)アコニット酸エステル
【0122】
3.不溶性または弱可溶性物質を可溶化するためのπポリマーの使用
例1:染料の可溶化
溶性物質を除去するために遠心分離にかけられたがその他の点では精製されていないPEG1500−コ−スクシニル−DTT−ビス−C16−アミドポリマー(C16−ポリマーA、例1)の50mg/ml水溶液の1.0mlアリコートに、別々の容器(FlexExcelTM透明ポリプロピレン舟形秤、WB2.5サイズ、West Haven,CTのAllExcel,Incの製品)中のエオシンY、ジクロロフルオレセイン、およびスーダンIVといった染料の超過量を添加し、成分を一緒に攪拌してペーストを形成した。その後、耐水性両面テープを使用して、容器の底を小型宝石超音波洗浄器槽の底に取り付けた。舟形秤を約3分の1の高さまで浸すのにちょうど十分な量の水を槽に加えた。超音波処理を5分のステップで15分間行った。液体を遠心分離管に移して、卓上遠心分離機中で30分間2度遠心分離にかけ、非溶解染料を沈殿させた。上澄みをきれいな管に移して再び遠心分離にかけ、混入固体を除去した。ポリマー溶液の量と同じ量の蒸留水中の同じ量の染料の懸濁液を、対照として同じ方法で処理する。液滴から円を形成するために、結果として生じた溶液をTLCプレートに染みをつけた(25ul)。染みの強度を、近似濃度を決定するためにエタノールまたはエタノール/水中で作られた染料溶液の標準から作られた染みと比較した。染みは図1に示す。水中の染料の溶解度は、室温で1l以上の脱イオン水(非緩衝化)に適切な量の染料を溶解させ、飽和溶液を得るために必要に応じてさらに水を添加する(つまり水で滴定して)ことによって、決定した。
【0123】
50mg/mlポリマー中のスーダンIVの濃度は、H2O中の0.000mg/mlとは対照的に、約0.2mg/mlであった(スーダンIVは中性pHで不溶性)。ジクロロフルオレセインの濃度は、H2O中の0.010mg/mlとは対照的に、50mg/mlポリマー中で約5mg/mlであった。50mg/mlポリマー中のエオシンYの濃度は、H2O中の0.007mg/mlとは対照的に、約5mg/mlであった。ペイロード比(1単位量のポリマーあたりの薬物の量、g/g)を計算したら、スーダンIVに対しては約1:250、ジクロロフルオレセインに対しては1:10、およびエオシンYに対しては1:10となった。
【0124】
物理化学的性質において薬学的活性物質に似ている極性化合物に対する1:10のペイロード比は、リポソーム、シクロデキストリン、CremophorTM、もしくは界面活性剤またはその他の可溶化システムと概して結合可能なものよりも高い。エオシンYは、能率が非常に高い光活性化可能な一重項酸素発生源であり、例1のポリマーで作られるようなエオシンYの濃縮液は、光活性化可能な細胞毒性薬として薬学的に活性であると予期することができる。
【0125】
水中のジクロロフルオレセインの蛍光スペクトル(緑がかかった黄色)について、ポリマー溶液中(赤みを帯びた黄色/オレンジ色)のジクロロフルオレセインの蛍光スペクトルの変化は、視覚的に顕著であり、染料が水性の環境中にないが、自己集合ポリマー粒子コアの有機的環境に封入されていることを示す。確かに、蛍光スペクトルの変化は、微小環境(例えば「脂質プローブ」)の極性の変化を決定する方法として使用されている。ポリマー中のスーダンIV溶液の色は、エタノール溶液中の赤色および水に懸濁した時の茶色の粒子とは対照的に、赤褐色であった。エオシンYは有意な視覚的変化を示さなかった(水中ではピンクに対しポリマー溶液中では赤みを帯びたピンク)。
【0126】
例2:医学関連物質の可溶化
プルプリン、アムホテリシンB、カンプトセシン、およびドキソルビシンを、代表的な難溶性活性薬剤成分(API)として選択した。アムホテリシンBは、抗菌薬注射剤としてリポソーム製剤の形で使用され、一方、カンプトセシンおよびドキソルビシンは抗癌剤である。プルプリンは、薬剤実用性の潜在的可能性があるDNA挿入染料であり、エオシンYは光線力学療法における利用の潜在的可能性がある感光性一重項酸素試薬である。各APIは、C16−π−ポリマーA、C18−π−ポリマーB、および/またはC16−π−ポリマーA−葉酸複合体(下記参照)とともに、水中で可溶化した。可溶化は、染料について上記に説明したように、可溶化APIおよび非可溶化対照をTLCプレートに染みをつけることによって実証した。
【0127】
乾燥ポリマーは、必要に応じて水、加熱、攪拌、および超音波処理でもとに戻した。溶液の粘性が高すぎる場合は、希釈した。C16−π−ポリマーAを10%w/vで、葉酸エステルC16−π−ポリマーAを5%w/vで、C18−π−ポリマーBを2%w/vで使用した。
【0128】
製剤原料(20mg)を1mlのポリマー溶液に直接添加し、ドキソルビシンを除いて、C16−π−ポリマーAに対しては5:1、葉酸エステルC16−π−ポリマーAに対しては2.5:1、C18−π−ポリマーBに対しては1:1というポリマー:API質量比を結果としてもたらした(下記参照)。混合物は低出力で1時間超音波処理し、その後、2000xgで2度遠心分離にかけて非溶解固体を除去した。沈殿固体の量は有意ではなかった。
【0129】
塩酸ドキソルビシンを、上記のように10:1のC16−π−ポリマーA対塩化ドキソルビシン質量比、または5:1の葉酸エステルC16−π−ポリマーA対塩化ドキソルビシン質量比でポリマーと混合し、続いて十分な3M酢酸ナトリウムを添加して塩化ドキソルビシンを中和した。混合物は24時間激しくに振り、その後、2000xgで2度遠心分離にかけて非溶解固体を除去した。沈殿固体の量は有意ではなかった。
【0130】
可溶化API対ポリマーの質量比を表1に示す。ポリマーの取り込みを最大限化しようという試行を行わなかった。それゆえ、これらの比は、ポリマーを溶液中に溶解することが可能であるAPIの量の下限値を表す。
【0131】
各溶液の10ulの試料をBakerflexTMシリカゲルTLCプレートに染みをつけて広げさせた。水溶液は円の外側境界、および封入物質を伴うポリマーの移動によって形成される内側円を形成する。あらゆる場合において、水性のみの区域の縁の周辺にはAPIが少ししかなく、可溶化の成功および封入物質の最小限の漏出を示す。
【0132】
【表1】
【0133】
4.πポリマーの生体適合性
例1:局所緩和薬、クリームまたはペーストに対する適合性
例1のポリマーの濃縮油性ワックスを、発明者が手首の内側の皮膚に擦り付け、取り込みについて観察した。該物質は、薬剤ワックス状クリームと同様に吸収され、該領域をやや柔らかくすると思われた。発赤、発疹、または痒みなどの即時または遅延型アレルギー反応は、この単回局所使用時に観察されなかった。
【0134】
これらのポリマーの多くは、室温で吸湿性ワックスであり、組成によって約45℃〜60℃またはそれを超える予想mpを有する。低分子量(MW)PEGでできたポリマーは、室温で液体になることさえできる。一部のポリマーは室温で固体となることができ、体温で融解する。よって、これらのπポリマーの特性は、πポリマーを、それら自体で、または活性医薬品を含む様々な物質との混合物として、ローション、クリーム、軟膏、皮膚軟化剤、およびその他の導入形態を作製するための優れた基質とする。
【0135】
例2:非経口投与に対する適合性
例1のポリマーの水溶液を、リン酸緩衝生理食塩水中で調製し、そして0.22umフィルタを通して無菌管内へろ過した。
【0136】
最大許容量プロトコルを採用した。この場合、CD−1マウスが、ポリマーの最大5%w/v水溶液の尾静脈注射で、体重1kgあたり10mlの投与を受けた。マウスは12時間継続的に、その後、群に応じて48〜72時間まで2時間ごとに観察した。血液試料を採取して分析した。一部のマウスを屠殺し、最初に肉眼的組織学について検査した。その後、顕微鏡的組織学を選択された部分に行った。
【0137】
対照マウスと処置マウスとの間に、血液化学の観察可能な差異は見出されなかった。心臓、肺、腎臓、脾臓、肝臓、腸、胃、膀胱、皮膚、筋肉、骨、脳、およびリンパ節を含む様々な臓器の肉眼的組織学では、対照動物と比較して観察可能な差異または病変は見出されなかった。異なる群の動物からの複数の試料を、観察されている同じ結果とともに検討した。検査した組織の細胞組織構造に観察可能な差異は見出されなかった。腎臓のうちのいくつかは、ポリマーへの暴露時間を短縮したなんらかの円柱を示した。このことは、該円柱が一時的状態であり、時間が進行するにつれて正常となることを暗示する。
【0138】
ポリマーは、注射製剤およびその他の非経口製剤中の医薬品としての医学的用途に安全であることが結論付けられる。ポリマーが、経口液剤、カプレット、およびタブレット、鼻腔用スプレー、経口/気管支エアロゾル、舌下、皮膚用クリーム/ローション/パッチ、点眼薬、その他の局所経路、ならびにその他の投与経路において安全であると期待することは合理的である。
【0139】
5.π−ポリマーへの標的部分の付着
例1:アミド結合形成を介したC−16π−ポリマーBへのガラクトサミンの付着
ガラクトサミン(GA)は、肝アシアロ糖タンパク受容体(ASGPR)を標的にし、共有結合したガラクトサミンを有するポリマーは、肝臓に運搬される。L.Seymour et al.,“Hepatic Drug Targeting:Phase I Evaluation of Polymer−Bound Doxorubicin”J.Clin.Oncology,20(6):1668−1676(2002)およびその中の参考文献を参照。
【0140】
C16−π−ポリマーB(上記の合成方法の部の例10)(461mg、繰り返し単位あたり0.2mmol当量COOH)を14mLの水中に分散し、この分散にEDC HCl(0.485mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(0.464mmol)を加えた。混合物は周辺温度で15分間攪拌し、1mlの水中のガラクトサミンHCl(0.386mmol)およびTEMED(0.387mmol)の溶液を添加した。溶液を攪拌し、反応に続いてシリカゲル上のTLCおよび1−ブタノール−酢酸−水(3:1:1)中の展開を行った。追加量のTEMED(0.079mmol)、NHS(0.078mmol)、およびEDC HCl(0.193mmol)を添加して、反応の完了を強制した。TLCがGAの消費に関して定常状態を示した時、反応混合物を3×1000mlの脱イオン水に対して透析し(3500Daの分画膜)、低分子量反応物質および副生成物を除去した。濃縮水を除去し、恒量(348mg)まで60℃で乾燥した。
【0141】
生成物のTLCは遊離GAを示さなかった(ニンヒドリン陰性)。結合GAを加水分解するために、生成物の試料を、100℃で6N HClにより加水分解した。TLC分析は、参照GAと同じRfでGAの存在を示した(ニンヒドリン陽性)。
【0142】
例2:C18−π−ポリマーAへの葉酸の付着
BDDC(2.44g、8.56mmol)を、アルゴンで洗い流した125mLの丸底フラスコ内で検量した(BDDCは蜜のような粘度で非常に粘性が高く、扱いが困難である)。C18−π−ポリマーA(10g、4.28mmol)をフラスコに添加し、混合物を70℃に加熱し、濃縮液を一緒に30分間攪拌した。葉酸(3g)を添加し、続いて十分なTHFを添加して攪拌を可能にした。反応物を40〜70℃で一晩攪拌し、湿気から保護した。その後、そしてTHFを蒸発させ、水(80mL)を添加し、混合物を50℃でさらに2時間攪拌した。室温まで冷却した後、3500ダルトン分画の透析管の一部分に混合物を移し、0.1N HCl(2×2000ml)、水(2000ml)、5%炭酸ナトリウム(2×2000ml)および水(4×2000ml)に対して透析し、未反応の試薬および副生成物を除去した。明るい黄色〜オレンジ色の濃縮水を除去した。一部は恒量まで蒸発して固体濃度を決定し、上記の可溶化実験に使用した。
【0143】
例3:π−ポリマーへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)および類似体の付着
ともにシアル酸に結合することが知られている血球凝集素およびノイラミニダーゼ外皮タンパク質のため、ノイラミン酸誘導体はインフルエンザウイルスに対する部分を標的にしている。NANAおよびその誘導体を本発明のπ−ポリマーに結合するためのいくつかの方法を開発した。
【0144】
例3a:エステル化を介したC16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)の付着
BDDC(2.44g、8.56mmol)およびC18−π−ポリマーA(10g、4.28mmol)を混合して70℃まで加熱し、アルゴン下で約30分間一緒に攪拌する。N−アセチルノイラミン酸(3g)を添加し、それに続いて流動性を維持するのに必要に応じてTHFを添加する。反応物を40〜70℃で一晩攪拌し、湿気から保護する。水(80mL)を添加し、混合物を50℃でさらに2時間攪拌する。室温まで冷却した後、混合物を、0.1N HCl、5%NaHCO3、水(それぞれ2×2000ml)に対して3.5kDa分画膜で透析する。シリカゲルTLCプレートに染みをつけ、130℃で70%硫酸中の0.2%オルシノールで視覚化すると、ポリマーへのノイラミン酸の取り込みを示す。
【0145】
例3b:C16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)モノマレイン酸エステルの付着
5−N−アセチルノイラミン酸(NANA)(0.86mmol)、無水マレイン酸(0.93mmol)、およびトリエチルアミン(1.77mmol)を、乾燥した丸底フラスコ内の1.5mLのDMSO中に溶解した。フラスコをアルゴンで洗い流し、油浴に入れた。混合物は65℃〜85℃で攪拌し、進行は、反応が完了するまで(NANAの欠如、オルシノール/H2SO4または尿素/HCl試薬による検出)、シリカプレート上のTLC(i−PrOH−EtOAc−水、4:3:2)によって確認した。反応混合物を室温まで冷却し、水を添加して過剰な無水マレイン酸を加水分解した。NANAモノマレイン酸エステルの結果として生じた溶液は、後の反応で直接使用した。
【0146】
C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル(「π−ポリマーの合成」、例11aを参照)(1.23mmol繰り返し単位、2.46mmol−COOH)の水溶液をpH4.5〜6.5に調整した。カルボジイミド(EDC HCl、3.86mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(2.6mmol)を添加し、混合物を周辺温度で約60分間攪拌した。上記のように調製したNANAモノマレイン酸エステル(2.49mmoles)の溶液を添加し、pHをTEMEDでpH6〜7に調整した。攪拌を周辺温度で最大26時間続けた。生成物は、最初にpH4.5の20mモル酢酸ナトリウムに対して、その後、水に対して、透析によって精製した。濃縮水は除去して使用のために保存した。
【0147】
例3c:スペーサーを介したC16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)の付着
システアミン(2−アミノエタンチオール)塩酸塩(水中で0.93mmol)を等モル量のNANAモノマレイン酸エステル(上記のように調製した溶液)に添加し、それに続いて等モル量のTEMEDを添加して2重結合へのチオールの付着を促進した。反応に続いて、反応が完了(O−マレオイル−NANAの欠如、オルシノール/H2SO4または尿素/HCl試薬による検出)して標的部分Dを生じるまで、シリカ上のTLC(i−PrOH−EtOAc−水、4:3:2)を行った。
【化18】
【0148】
同じ方法によって、5−N−アセチル−2,3−デヒドロ−2−デオキシノイラミン酸(DANA)を誘導体化し、標的部分Eを生じた。
【化19】
【0149】
同じ方法によって、システインおよびグルタチオンをNANAおよびDANAのマレイン酸モノエステルに添加する。
【0150】
上記の例3bに記載の方法によって、C16−π−ポリマーAビス(アコニット酸エステル)のメルカプトコハク酸エステル複合体を標的部分Dでアミド化した。このポリマーは、繰り返し単位あたり最大8つの−COOH基を含有する(「π−ポリマーの合成」、例12cを参照)。
【0151】
例3d:スペーサーを介したC16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)の付着
上記の方法によって、標的部分EをC16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル(「「π−ポリマーの合成」、例11aを参照」)ポリマーに共役した。
【0152】
例3e:C16−π−ポリマーへのノイラミン酸β−メチル配糖体(MNA)の付着
平均して繰り返し単位あたりの単一カルボキシル(0.396mmol)を有するものを水中に溶解し、NHS(0.4mmol)およびEDC−HCl(0.64mmol)と反応させた。ノイラミン酸−β−メチル配糖体(MNA)(0.42mmol)を添加した。反応混合物は周辺温度(25〜30℃)で18〜24時間攪拌し、そして透析によって精製した。
【0153】
例3f:繰り返し単位あたり2つのカルボキシ基を有するC16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルの第2の試料も、同じ方法でMNAと共役した。
【0154】
例3g:C16−π−ポリマーBへのβ−O−メチルノイラミン酸(MNA)の付着
1mlの水中の43ミクロモルCOOH基準である、C16−π−ポリマーB、および40ミクロモルのノイラミン酸β−メチル配糖体(Toronto Research Chemicals)を共に混合し、0.1mlの水中の40ミクロモルNHSを添加し、それに続いて0.1mlの水中の40ミクロモルEDC塩酸塩を添加した。反応混合物を周辺温度で48時間振り、イソプロパノール−酢酸エチル−水(4:3:2)を伴うシリカゲル上のTLCによって分析した。130℃の70%硫酸中の0.2%オルシノールによる検出は、開始ポリマーによる呈色反応を生成しないが、反応混合物のTLCにより、ポリマーによる紫斑点同時移動を生じた。
【0155】
上記の例(3a−3g)でのあらゆるポリマー複合体は、透析後に、TLC上のオルシノール/硫酸または尿素/HCL試薬で視覚化する場合のノイラミン酸の存在に対して、陽性反応を示す。
【0156】
例4:C16−π−ポリマーBへのザナミビルの付着
ザナミビル(GG167)は、ウイルスノイラミニダーゼの強力阻害剤であり、多価リガンドとしてこの分子を有するポリマーは、インフルエンザウイルス複製の阻害剤である。
【0157】
C16−π−ポリマーB(920mg)を30mLの水中に分散し、これにEDC HCl(1.2mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(1.1mmol)を加える。混合物を周辺温度で20分間攪拌し、1mlの水中の5−アセトアミド−7−(6’−アミノヘキシル)−カルバミルオキシ−4−グアニジノ−2,3,4,5−テトラデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−non−2−エノピラノソニック(enopyranosonic)酸(米国特許第6,242,582号明細書および同第6,680,054号明細書)(0.39g、0.67mmol)およびTEMED(0.67mmol)のトリフルオロ酢酸塩の溶液を添加する。溶液は室温で攪拌し、反応に続いてTLCを行う。反応混合物を3×1000mlの脱イオン水に対して透析し(3500kDaの分画膜)、低分子量反応物質および副生成物を除去する。濃縮水を除去し、恒量まで60℃で乾燥する。糖の取り込みのレベルは、グアニジン基に対する比色分析によって決定することができる(Can.J.Chem.,36:1541(1958))。ノイラミニダーゼ分析は、Potier et al.,Anal Biochem.,29 287(1979)の手順の後に行うことができる。
【0158】
例5:ミモシンの付着
4.5%w/v溶液(1mmolの繰り返し単位、COOH基において約2mmol)としてのC16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル(「π−ポリマーの合成」、例11aを参照)をNHS(2.27mmol)およびEDC−HCl(2.23mmol)と反応させ、結果として生じた混合物に、1−ミモシン(2.14mmol、5mlの水中で調製し、溶解度を増加させるためにpHをTEMEDで調整)の溶液を添加し、周辺温度および約6.8〜7のpHで約22〜24時間攪拌した。pHは6N HClで3〜4に調整し、混合物は15〜30分間攪拌し、pHはTEMEDの添加によって6.1まで上昇させた。その後、混合物は水に対して透析(3.5kD分画)し、不純物および低分子量生成物を除去した。
【0159】
例6:π−ポリマーAジマレイン酸エステルおよびジアクリル酸エステルへのペプチドおよびタンパク質の付着
Fabフラグメントに対する一般的な手順:抗体F(ab’)2フラグメントにおけるジスルフィド結合は、製造者のプロトコルを使用する固定化TCEP ジスルフィド還元ゲル(Pierce,製品番号0077712)により、または代わりに、溶液中のDTTもしくはTCEPにより還元し、使用済み試薬は、30kDフィルタを使用する限外ろ過によって除去される。その後、遊離スルフヒドリル基を含有する還元F(ab’)2フラグメントは、TEMEDの存在下でπ−ポリマーAジマレイン酸エステルまたはジアクリル酸エステルと反応させる。
【0160】
システインおよびシステイン含有ペプチドに対する一般的な手順:π−ポリマーAのアクリル酸エステルまたはマレイン酸エステルは、触媒としてトリエチルアミンを使用してシステイン残基と反応させる。水中のポリマージアクリル酸エステル(0.3mmol繰り返し単位、0.6mmolアクリル酸エステル)懸濁液に、システイン(0.66mmol)およびトリエチルアミン(1.32mmol)を添加した。フラスコをアルゴンで洗い流し、周辺温度で一晩攪拌した(約18時間)。シリカ上の反応混合物のTLC(i−PrOH−酢酸エチル−水、4:3:2)は、システインの欠如およびポリマーに対するニンヒドリン陽性の染みを示し、アクリレート2重結合へのシステインの付加を示した。
【0161】
例6a:C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルへの抗狂犬病抗体フラグメントの付着
分子量4500のPEGから始めて、C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルを調製した。BayRabTMヒト狂犬病免疫グロブリン(hIgG)を、酸性pH緩衝液中で通常の方法でペプシンによって処理し、50kDフィルタを使用した限外ろ過によって精製されたF(ab’)2フラグメントを生成した。F(ab’)2フラグメントは、上記の例5で説明したEDC方法によって、PEG4500 C−16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルに結合した。
【0162】
例6b:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルへの抗狂犬病抗体フラグメントの付着
BayRabTMhIgGのF(ab’)2フラグメント(例6aを参照)はDTT(または代わりにTCEP)で還元し、使用済み試薬は30kDフィルタを使用した限外ろ過によって除去した。Fab’−SHフラグメントは、pH7〜8.3(TEMED)でマレイン酸2重結合への遊離チオールのマイケル添加によって、PEG4500C−16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルに結合した。複合体は100kDフィルタを使用した限外ろ過によって精製し、低分子量汚染物質を除去した。
【0163】
例6c:PEG8500C−16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルを、上記のようにBayRabTMhIgGの還元したF(ab’)2フラグメントに共役した。
【0164】
例6d:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルへのペプチドの付着:
ペプチドKDYRGWKHWVYYTC(「Rab1」)は、狂犬病ウイルスに結合すると報告されている(T.L.Lentz,1990,J.Mol.Recognition,3(2):82−88)。このペプチドの末端Cysは、抗狂犬病ペプチド−π−ポリマーA複合体を合成するために使用した。PEG1500(0.157mmol)由来のC16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル(繰り返し単位あたり2つのマレイン酸部分)は、水(6mL)に溶解し、溶液のpHはTEMEDで約8に調整した。DMF(3.1ml)に溶解したペプチド(0.157mmol)を添加し、反応混合物をアルゴン下周辺温度で攪拌する一方で、反応pHを8〜8.3に維持した。反応の進行は、エルマン試薬で反応混合物を検査することによって確認した。約45時間後、エルマン試験はほぼ陰性であった。水を添加してDMF濃度を下げ、反応混合物を遠心分離にかけて少量の沈殿物を除去した。透明な上澄みは10kD遠心ろ過機(Arnicon Ultra 10kD、カタログ番号UFC901024)を通して限外ろ過し、残留物は繰り返し水で洗浄して、低分子量汚染物質を除去した。
【0165】
次の3つのペプチド(O=オルニチン、NH2はC末端アミドを指定する)を自動固相合成によって調製し、Rab1ペプチドと同じ方法でPEG1500π−ポリマーAジマレイン酸エステルに共役した。
例6d:KDYRGWKOWVYYTC(「Rab2」)
例6e:KGWKHWVYC(NH2)(「Rab3」)
例6f:KGWKOWVYC(NH2)(「Rab4」)
【0166】
6.π−ポリマーの抗ウイルス活性
例1:インフルエンザに対する有効性
ATCC VR−1520(H2N1)ヒトインフルエンザウイルスをマウス・プロテクション・アッセイ(mouse protection assay)で使用した。200ul/20gBWの単回尾静脈注射は、対照動物において99.5%の致命的感染を引き起こした(7日の未治療生存)。
【0167】
10匹のマウスが各群にいた。マウスに、上記の例3のπ−ポリマーB−MNA複合体の低用量(0.0375%)および高用量(0.15%)溶液の200ul/20g体重で尾静脈注射した。治療後の動物に感染後24時間投薬した一方で、治療前の動物に感染前6時間投薬した。陽性対照動物に1当量の遊離リガンドを注射した一方で、陰性対照に生理食塩水緩衝液注射をした。
【0168】
生存時間は、指標有効性評価項目として使用した。体重は研究パラメータとして追跡した。内臓の組織学は、肉眼的検査および顕微鏡的検査の両方で行った。結果を図2に示す。
【0169】
生存時間の増加は、陽性対照(図1および2)に対して2.94時間(+/−0.75時間SD)しかないのに比較して、高用量治療群に対して5.93時間(+/−0.48時間SD)であった。リガンドの質量に基づいて、高用量治療は、0.2w/wの最大ポリマー複合体置換比と仮定して、多くてもリガンドの0.03%に対応する。よって、ポリマー複合体は、非共役リガンド対照と比較して、有意に高いレベルの有効性を示した。
【0170】
高用量ポリマーB−MNA複合体治療群の一部のマウスの肉眼的組織学ならびに顕微鏡的検査は、治療マウスが、インフルエンザ感染の影響に起因する場合がある白血球のやや低下したレベルを骨髄部分で示したことを除いて、正常なパターンを示した。保護群(高用量−8.9%、低用量−6.2%)ならびに治療群(高用量−9.0%、低用量−9.4%)における体重減少は、陽性対照(−9.8%)におけるものよりも少なく、ポリマーよりもむしろリガンド自体との関連を示唆した(図3)。0.7%のわずかな体重増加は、未治療マウスで発生した。
【0171】
例2:狂犬病に対する有効性
雌雄を混ぜた、それぞれ約20gの10匹の白色スイスマウスの群を、生体内保護分析に採用した。マウスは、狂犬病ウイルスの3×LD50の注射を接種された。注射は、10-6(100LD50/ml)の希釈で、0.03mlのCVS(病原体接種ウイルス標準)狂犬病株であった。日々の生存、麻痺、および体重を監視した。25、48、および72時間での薬物の腹腔内投与と、25および48時間での薬物の脳内投与を調査した。結果を表1および2に表す。
【0172】
【表2】
【0173】
【表3】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2006年1月19日に出願された国際特許出願PCT/US2006/01820号の優先権を主張するものであり、その内容は引用することによって本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、両親媒性高分子および特に生体適合性のミセル形成くし形ポリマーの分野に関する。本発明は、また、標的化薬物送達および抗ウイルス薬の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
疎水性ブロックおよび親水性ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体は、周囲の溶媒が変更されると、種々のナノ構造に自己集合するそれらの能力のため、近年よく研究されている。Cameron et al.,Can.J.Chem./Rev.Can.Chim.77:1311−1326(1999)を参照。水溶液中において、両親媒性高分子の疎水性区画は、水との接触を避け、そして、系の自由界面エネルギーを最小化するために、自己集合する傾向がある。同時に、該親水性ブロックは、水性の環境において、水和した「コロナ」を形成するため、該会合体は、熱力学的に安定な構造を保持する。その結果物は、疎水性コアおよび親水性コロナを有するポリマー会合体粒子の、安定した、ラテックスのようなコロイド懸濁液である。
【0004】
くし形両親媒性共重合体は、主鎖がほとんど疎水性または親水性であるという点で、ブロック共重合体とは異なり、それに組み込まれているというよりむしろ、主鎖とは反対の極性ペンダントのポリマー鎖を有する。くし形共重合体は、疎水性主鎖および親水性分岐(Mayes et al.,米国特許第6,399,700号明細書)、また、親水性主鎖および疎水性分岐(Watterson et al.,米国特許第6,521,736号明細書)で調製される。前者は、細胞表面受容体に対するリガンドの多価の授与を提供するために使用され、一方、後者は、薬物を可溶化し、細胞に送達するために使用される。
【0005】
両親媒性高分子会合体は、不溶性薬物を可溶化するためのキャリア、標的化薬物送達媒体および遺伝子送達システムとして、研究されている。それらは、鎖のもつれおよび/または内部疎水性領域の結晶化度のため、従来の低分子量のミセルよりもさらに安定した構造を有する。媒体のポリマーの特性は、臨界ミセル濃度以下に希釈する場合、普通のリポゾームが受ける分解に比較的に影響されない会合体にする。二重層膜の欠如は、それをより容易に細胞膜と融合させ、そして細胞にそれらの搭載量を直接送達することを可能とする。また、該会合体の両親媒性の特性は、界面活性剤のような活性をもたらし、そして、適切に標的化された会合体は、ウイルス外被タンパク質と融合し、それを崩壊させることが可能であることは明白である。
【0006】
卓越した生体適合性のあるポリ(エチレングリコール)(PEG)および細網内皮系を逃れるためのPEG−被覆「ステルス」粒子の見かけ上の能力のため、PEGを組み入れるミセル、リポゾーム、およびポリマーが、薬物送達システムのための物質として広範囲にわたって検討されている。PEG−脂質(リポゾームおよびミセルの形成)の親水性成分として、ポリ(エチレングリコール)(PEG)の使用についての多くの報告がある。例えば、Krishnadas et al.,Pharm.Res.20:297−302(2003)を参照。さらに強固な「ポリマーソーム」へ自己集合する自己集合両親媒性ブロック共重合体は、また、薬物可溶化および送達のための媒体として研究されている(Photos et al.,J.Controlled Release,90:323−334(2003))。また、Gref et al.,Int.Symp.Controlled Release Mater.20:131(1993)、Kwon et al.,Langmuir,9:945(1993)、Kabanov et al.,J.Controlled Release,22:141(1992)、Allen et al.,J.Controlled Release,63:275(2000)、Inoue et al.,J.Controlled Release,51:221(1998)、Yu and Eisenberg,Macrolecules,29:6359(1996)、Discher et al.,Science,284:113(1999)、Kim et al.,米国特許第6,322,805号明細書、Seo et al.,米国特許第6,616,941号明細書およびSeo et al.,欧州特許第0583955号明細書を参照。この能力におけるポリ(エチレンイミン)(PEI)の使用もまたオリゴヌクレオチドの送達を中心に報告されている(Nam et al.,米国特許第6,569,528号明細書、Wagner et al.,米国特許出願公開第2004/0248842号明細書)。同様な傾向で、Luoらは、Macromolecules 35:3456(2002)に、ポリヌクレオチドの送達に好適なPEG−接合ポリアミドアミン(「PAMAM」)デンドリマーを記載する。
【0007】
薬物の可溶化、分配、および送達の必要性に加えて、特に、標的組織、腫瘍、または臓器に誘導する標的化薬物送達システムの必要性がある。これは、通常、特定の親和力による標的側の細胞壁に対する抗体または別のリガンドの結合によって達成される。しかしながら、PEGは、ポリマー鎖の末端を除いて官能基が欠如し、そして、末端基の大部分は、別のブロック共重合体成分への結合により必然的に費やされる。この理由のため、抗体または細胞接着分子のような標的部分のPEGブロック共重合体への結合は、一般に非PEGブロックに限定され、それは、あいにく、自己集合した会合体のコロナの中で通常露出される共重合体の一部ではない。
【0008】
ポリマー会合体になるブロック共重合体の自己集合をもたらす相分離現象は容易に可逆し、そして、疎水性コアに架橋結合することによって会合体の安定性を増加させようとする試みがなされている(欧州特許第0552802号明細書を参照)。またブロック共重合体の疎水性成分への薬物の共有結合もまた試みられている(ParkとYoo,米国特許第6,623,729号明細書、欧州特許第0397307号明細書)。
【0009】
樹枝状ポリマーは、標的部分に容易に結合し、また、生体内の標的特定細胞(Singh et al.(1994)Clin.Chem.40:1845)ならびに、生物学的基体に対するウイルスのおよびバクテリアの病原菌のブロック付着に対する潜在力を有する。複数のシアル酸に結合されたくし形分枝ポリマーおよびデンドリグラフトポリマーは、ウイルス血球凝集を抑制し、生体外哺乳類細胞の感染を阻止する能力が評価されている(Reuter et al.(1999)Bioconjugate Chem.10:271)。最も効果的なウイルス抑制剤は、くし形分枝およびデンドリグラフト高分子であり、これらのウイルスに対して50,000倍に増加された活性を示した。
【0010】
最近、製薬会社のStarpharmaは、ウイルスの表面上で受容体を結合することによってHIV感染を予防するデンドリマーベースのバイオサイドについての成功した開発を報告した(VivaGelTM)(Halford (2005)Chem.& Eng.News 83(24):30)。Chenら(2000)(Biomacrolecules.1:473)は、第4アンモニウム機能化ポリ(プロピレンイミン)デンドリマーは、非常に強力なバイオサイドであることを報告している。
【0011】
安定しており、生体適合性があり、会合体の外部に対する標的部分の結合に敏感に反応し、そして望ましい細胞内標的に薬物を送達する場合に効率的である薬物送達システムを依然として必要とする。また、同様に安定した、生体適合性のある標的化抗ウイルス薬に対する必要性もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分枝点部分を有する親水性主鎖、およびこれらの分枝点部分で結合する疎水性分岐を含む、生体適合性のあるくし形ポリマー分子を提供する。本発明は、当該のポリマーから形成されたポリマー会合体の水性懸濁液を提供し、ポリマー会合体の疎水性コアに化合物を組み込むことにより、薬物、着色料、ビタミンなどの不溶性または難溶性有機化合物を可溶化する方法を提供する。水性溶媒中で不水溶性有機種を可溶化する方法は、基本的に不水溶性有機種を水性または混合水性溶媒中で本発明のポリマーと接触するステップを含む。
【0013】
本発明はまた、ウイルスによる前記動物の感染の治療または予防のための方法を提供し、以下の構造のみから実質的になるくし形ポリマーを前記動物に投与するステップを含む。
【化1】
【0014】
その構造は、交互の分枝点部分Bおよび親水性、水溶性ポリマーブロックAから形成される主鎖を含む。疎水性側鎖CおよびリガンドZは、分枝点部分に結合する。好ましくは、側鎖Cは、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換される直鎖もしくは分岐炭化水素、または1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されたC6−C30環式もしくは多環式炭化水素である。側鎖Cは、また、疎水性アミノ酸、ペプチド、またはポリマーであってよい。側鎖Cに対して好適な親水性置換基は、ヒドロキシル、カルボキシおよびアミノ基、ならびにアミド、スルホンアミド、スルホキシドおよびスルホン基である。好ましい親水性置換基は、第三アミド、スルホキシド、およびスルホンなどの非プロトン性極性基である。
【0015】
該リガンドZは、ウイルス表面に対して特異的結合親和力を有するリガンドである。「特異的結合親和力」とは、哺乳類の体内に認められる多くの細胞表面および高分子の存在下で、リガンドが生体内でのウイルス表面に結合できることを意味する。当該基sは結合またはスペーサー部分であり、そして、sがスペーサーである場合、各sは1〜4基のZを運ぶことができる。nの値は3〜約100の範囲であり、pの平均値は1〜2であり、rの平均値は1〜4である。
【0016】
分枝点部分Bは、2つのポリマーブロックAへの結合、1〜2の側鎖C(平均して)への結合、および1種もしくは2種以上のスペーサー「s」および/またはリガンドZへの結合を有する多価部分である。特定の態様において、Bおよびsおよび/またはZへの結合は、複数の反応官能基を介して構築され、結合点としての役割を果たすことができる。特定の好ましい態様において、リガンドまたは抗体などの標的部分は、本発明のポリマーの分枝点部分に共有結合し、薬物は、標的化薬物複合体を形成するために、会合体のコアに組み込まれる。
【0017】
本発明はまた、上記に記載の生体適合性のあるくし形ポリマー分子を提供し、小分子治療薬の不在下でさえ、そのくし形ポリマー分子は、固有の抗ウイルス特性を有する。本抗ウイルス活性は、ウイルス粒子の外部のコーティングを分離する、両親媒性高分子の界面活性剤のような能力のためであると考えられている。好ましい態様において、抗ウイルス活性は、標的ビリオンの表面に対して結合親和力を有する標的部分の結合により高められる。
【0018】
本発明は、本明細書に記載のくし形ポリマー、会合体および標的化ポリマー会合体の調製方法ならびに本明細書に記載された薬物複合体をさらに提供する。本発明のポリマーは、自己集合して、生体内で薬物を十分に可溶化し、分配させ、送達し、抗ウイルス活性を有し、非毒性であり、生体適合性があり、かつ安定しており、そして、外表面上に多数の細胞およびウイルスの標的部分を有することができるポリマー会合体になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、インフルエンザに感染したマウスの平均生存時間における本発明の組成物の投与効果を示す。
【図2】図2は、本発明の組成物で治療される場合、インフルエンザに感染したマウスの生存時間の増加を示す。
【図3】図3は、本発明の組成物で治療される場合、インフルエンザに感染したマウスの7日間にわたる体重の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
「πポリマー」と本明細書に称される本発明のポリマーは、式1に示されるように、交互の分枝点部分Bおよび親水性、水溶性ポリマーブロックAが形成され、各分枝点部分に結合した複数の疎水性側鎖Cを有する主鎖を伴ったくし形構造を有する。側鎖Cは比較的短い疎水性部分であり、それは、脂肪酸分子、鎖またはオリゴマーであってよい。pの値は、理想的には2、3、または4のいずれかの整数である。実際には、ほとんどの場合、側鎖は、化学反応を介して完全には満たない効率で導入され、結果として、概して、意図した整数ではない、ポリマー調製に対するpの平均値となる。非整数平均値は、また、下記に記載されるように、意図的に取得することができる。従って、本発明のポリマーにおけるpの平均値は、1より大きく、そして4であってもよい(1<p≦4)。好ましい態様において、pは、約2〜4、そしてもっとも好ましくは、1.5≦p≦2である。
【0021】
主鎖ポリマーブロックAは、親水性および/または水溶性ポリマー鎖から選択され、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、多糖類などを含むがこれらに限定されるものではない。好ましくは、ポリマー単位Aは、式のポリ(エチレングリコール)鎖−(CH2CH2O)m−(式中、mは、1〜10,000であり、好ましくは3〜3,000である。)である。
【0022】
様々な等級のポリ(エチレングリコール)の製造において、2つのポリ(エチレングリコール)鎖と2価リンカー部分(例、ビスフェノールAジグリシジルエーテル)を連結して、分子量の範囲を比較的狭く維持しながら、ポリマーの分子量を実質的に2倍にするすることは、当業界では既知である。得られる「ポリ(エチレングリコール)」分子は、非グリコールリンカー部分(例えば、ポリ(エチレングリコール)−ビスフェノールAジグリシジルエーテル付加化合物、CAS登録番号37225−26−6を参照)により、ポリマー鎖の中点で必然的に中断される。高オリゴマー、すなわち、2つのビスフェノールAジグリシジルエーテル部分で分離される3つのPEG鎖を有するオリゴマーは、また、既知であり、例えば、国際特許出願第WO00/24008号明細書を参照のこと。従って、本明細書において使用されるように、用語「ポリ(エチレングリコール)」および「ポリ(プロピレングリコール)」は、非グリコールリンカー単位を組み込むポリ(エチレングリコール)およびポリ(プロピレングリコール)ポリマー鎖を包含し、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールBジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテルなどを含むがこれらに限定されるものではない。本明細書の目的のために、いかなる当該のリンカー部分も「モノマー単位」として数えない。
【0023】
ポリマーブロックAは、最も好ましくは、20〜50のモノマー単位の平均長さを有する。ポリエチレングリコール鎖は、1つまたは2つの末端で、別の部分へのリンカーとしての使用に好適な官能基で末端置換されてもよく、アミノ、メルカプト、アクリレート、アクリルアミド、マレイン酸エステル、マレイミド等を含むがこれらに限定されるものではない。nの値は、1〜1000であり、好ましくは、3〜100である。πポリマーの総分子量は、1000〜100,000ドルトンの範囲またはそれより大きく、好ましくは、2,000ドルトン以上、さらに好ましくは、7,000ドルトン以上である。
【0024】
疎水性部分Cは、同一または異なってもよく、例えば、(1種または2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換される)直鎖炭化水素、(1種または2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換される)多環式炭化水素、疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーであってよい。好適な親水性置換基は、ヒドロキシル、エーテル、シアノ、およびアミド官能基を含むがこれらに限定されるものではない。特に、ω−ヒドロキシ、ω−シアノ、ω−アミド、またはω−アルコキシ置換基を有するC8〜C20アルキル基が考えられる。これに関して、用語「置換基」とは、部分Cの炭化水素鎖または環系の炭素原子に対する、O、N、またはSなどのヘテロ原子の置換を含む。従って、エーテルおよびアミド連鎖、ならびに複素環をCに組み込んでもよい。
【0025】
疎水性部分Cは、好ましくは、相対的に短い(C8−C20)脂肪族基であるが、短鎖オリゴマーであってもよい。好適なオリゴマーは、ポリ(グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(L−乳酸)などのオリゴヒドロキシ酸、ならびにポリ(グリコール酸)およびポリ(乳酸)ヒドロキシ酸の共重合体、ならびにポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルソエステル)、ならびにポリ(ホスホエステル)、ポリアクトン(ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)およびポリ(β−ヒドロキシブチラート)など)を含む。C部分はまた、コレステロール、コール酸、リトコール酸、疎水性ペプチドなどの疎水性分子から選択してもよい。各部分Cの分子量は、40より大きく、好ましくは、50〜1,000であり、最も好ましくは、100〜500である。分子C−HのlogPの値(オクタノール−水)は、約1.4より大きく、好ましくは、約2.0よりも大きく、さらに好ましくは、約2.5より大きい。一般に、分子C−Hが、水中で実質的に不溶性である場合、いずれの部分Cは、本発明の使用に対して好適であると考えられる。「実質的に不溶性である」とは、水と混合する場合、液体C−Hは、分離相を形成することを意味する。
【0026】
側鎖Cは、ポリマー鎖に沿って規則的かつ均一に、分散されないが、クラスタ[C]pにむしろ生じることが、本発明のくし形ポリマーの際立った特徴である。これらのクラスタは、ポリマー鎖に沿ってほぼ規則的に配置され、これは、ポリマー単位Aの単分散の程度による。従って、共通の分枝部分Bに結合する2つの側鎖C間の距離は、異なる分枝部分に結合する2つの側鎖間の距離とは異なる。
【0027】
特に好適な本発明の態様において、分枝点部分Bは、式2に示される1種または2種以上の反応官能基Xをさらに含む。
【化2】
【0028】
式2において、個々の反応基Xは、同一、または互いに異なってよく、ポリマー2の集合中、必要に応じて、任意選択的に妨げたりまたは保護したりしてもよい。rの平均値は、0(X基なし)〜約4である場合がある。通常は、反応基は、分子種間の共有結合を形成するために有用であり、従来知られている官能基から選択される場合がある。該基Xは、薬物分子、組織もしくは細胞の標的部分、ウイルス標的部分、マトリクス結合部分に対する結合点としての役割を果たす(たとえば、ステントまたはその他の医療装置の表面にコーティングする目的のために)。ある態様において、単一結合点Xであってもよい。別の態様において、3種または4種の異なる型の反応基であってもよい。マトリクス結合部分は、共有結合、特異性非共有結合相互作用(例、抗体−抗原)、または非特異性相互作用(例、イオン対を経由または「疎水性」相互作用)を介してマトリクスに結合してもよい。好適な反応基Xは、−OH、−NH2、−SH、−CHO、−NHNH2、−COOH、−CONHNH2、ハロアシル、アセトアセチル、−CN、−OCN、−SCN、−NCO、−NCSなど、ビニル、アクリル、アリル、マレイン酸、桂皮酸などの反応2重結合、アセチレンカルボキシおよびアセチレンカルボキシアミド(Michael付加、Diels−Alder反応、および遊離基付加反応に適する)などの反応3重結合を伴った基を含むがこれらに限定されるものではない。
【0029】
例示される細胞標的部分は、受容体に特異的リガンド、抗体、およびアルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)アミノ酸配列またはチロシン−イソロイシン−セリン−アルギニン−グリシン(YISRG)モチーフを所有するペプチドなどの別の標的部分、上皮細胞増殖因子、血管内皮増殖因子および線維芽細胞増殖因子を含む増殖因子、シアル酸およびN−アセチルノイラミン酸誘導体などのウイルス表面リガンド、葉酸、メトトレキサート、プテロイン酸、エストラジオール、エストラトリオール、テストステロン、およびその他のホルモンなどの細胞受容体リガンド、マンノース−6−リン酸塩、糖類、ビタミン、トリプトファンなどを含むがこれらに限定されるものではない。抗体は、好ましくは、細胞特異的な表面抗原に対して向けられる単クローン抗体であり、好適な標的部分は、完全抗体だけでなく、Fab’2フラグメント、Fab’フラグメントなどの活性抗原−結合配列、または当該の抗体の活性抗原結合配列の短鎖ペプチドアナログを含む抗体フラグメントも含む。
【0030】
ウイルス標的部分の例は、アミノアルキルアダマンタン、FuzeonTM、PRO−542、BMS−488043、シアル酸、2−デオキシ−2,3−ジデヒドロ−N−アセチルノイラミン酸、4−グアニジノ−Neu5Ac2en(ザナミビル)、オセルタミビル、RWJ−270201などのウイルス、オリゴペプチド、オリゴサッカライド、ウイルス表面、およびウイルス特異的な表面抗原に対して向けられる抗体および抗体フラグメントに結合するグリコペプチドに結合する、小分子リガンドを含む。好ましい態様において、本発明は、ウイルスノイラミニダーゼまたは血球凝集素に対するリガンドを有するπ−ポリマーを提供する。当該のポリマーは、自らの正当性において抗ウイルス特性を有することは既知であり、例えば、T.Masuda et al.,Chemical & Pharmaceutical Bulletin 51:1386−98(2003)、M.Itoh et al.,Virology 212:340−7(1995)、およびReece et al.,米国特許第6,680,054号明細書(2004)を参照のこと。本発明の抗ウイルスポリマーおよびポリマー会合体の疎水性コアは、1つ以上の従来の抗ウイルス剤で任意選択的に充填してもよく、それはウイルス粒子の周辺で都合よく放出される。
【0031】
医学的関連の別の結合基は、小化学物質、ペプチド、抗体もしくは抗体フラグメント、酵素または活性薬剤成分であってもよく、それらは、ホルモンもしくはホルモン作用薬または拮抗薬、ウイルス結合を妨害する物質、細胞内侵入後、細胞周期または細胞過程を妨害する物質など、生物過程に影響を及ぼす場合がある。細菌、菌類、高等動物、および植物を含む、単細胞および多細胞生物の細胞を標的にしてもよい。ビオチンは、π−ポリマーに結合し、アビジンおよびストレプトアビジン結合タンパク質、ペプチド、および抗体、成長ホルモン、画像剤などのその他の標的または薬学的活性剤のために結合点として使用される場合がある。
【0032】
「マトリクス」とは、有機物または無機物、ガラス、シリカ、または金属面などの表面、および沈着物、細胞外マトリクス、様々な種類のアミロイド斑などのタンパク質沈着、細胞表面、ウイルス表面、およびプリオンを含む、うまく特徴づけられる場合もある、一般の均質または不均質表面を意味する。
【0033】
ガラスまたはシリカマトリクス結合部分の例は、種々のハロシラン、アルコキシシラン、アシルシラン、ならびにポリマーを含む当該の官能基を示す化学物質を含む。特定のマトリクスの物理化学的特性に基づいて、別の結合基を考案することができる。例えば、ステントをコーティングするために使用される好適な結合部分は、当業者には既知である。
【0034】
本発明の第3の態様において、該分枝点部分Bは、架橋ヒドロゲルの構造を形成するために、ポリマー鎖の別の場所にある、別の分枝点部分に接続される。当該の架橋結合は、同種官能性または異種官能性を含む多官能部分とポリマーを反応することにより生じる場合があり、同種官能性または異種官能性のうちの少なくとも1種は、第1の分枝点部分上に位置するC上のXまたは反応基と反応し、そして、同種官能性または異種官能性のうちの少なくとも1つは、第2の分枝点部分でC上に存在するXまたは反応官能基と反応する。架橋結合はまた、ポリマー鎖Aの末端官能基に連結を通じて行われる場合もある。当該の架橋ポリマーは、薬物分子または標的部分の結合に適する反応官能基を任意選択的に含んでもよい。
【0035】
分枝点部分Bは、通常は、複数の反応基を有する多官能分子から生じ、反応基のうちの2つは、親水性ポリマー単位Aへの結合に適し、そして反応基のうちの2つは、疎水性部分Cへの結合に適する。部分Bは、上記に記載のように、追加の反応基Xを任意選択的に有する場合がある。
【0036】
特に好ましい分枝点部分は、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリトリトール(DTE)、またはマレイン酸の2つの分子を伴う2,3−ジアミノブタン−1,4−ジチオールの複合体である。部分Aとしての本分枝点部分のポリエチレングリコールとの結合は、式3および3aのポリマー主鎖を生成する。
【化3】
ここで、YおよびY’は、同一または異なってよく、好ましくは、OH、NH2、ONH2、NHOH、およびNHNH2から選択される。好ましい態様において、ジチオールのヒドロキシルまたはアミノ基は、反応基Xであり、標的または薬物部分の結合点としての役割を果たす。一方、官能基YおよびY’は、C部分の結合点としての役割を果たす。あるいは、基YおよびY’は、結合点としての役割を果たし、一方、ヒドロキシルまたはアミノ基は、C部分と結合するために使用される。
【0037】
式3および3aは、各硫黄原子は独立して、PEGエステルカルボニル基にαまたはβを結合することができることを伝えることを意図している。本発明は、単一異性組成物ならびに1つまたは双方のC−S結合で位置異性体の混合物を含む。さらに、式1にある4つの不斉炭素のため、本発明は、すべてのキラル、メソ、ジアステレオ異性体およびその混合物を含む。
【0038】
アセチレンジカルボキシル酸およびフランのDiels−Alder付加化合物はまた、好適な分枝点部分としての役割を果たしてもよい。例えば、PEGおよびアセチレンジカルボキシル酸から生じるポリエステル4は、フランとのDiels−Alder反応を行うことが知られている(M.Delerba et al.,Macromol.Rapid Commun.18(8):723−728(1997))。従って、3,4−2基置換フランとのDiels−Alder反応をしやすく、その結果、5などの化学種を生成し、ポリマー5は、反応基(例、スキーム1のXおよびX’)を提供するために、ヒドロキシル化またはエポキシ化により修飾することができる。
【化4】
【0039】
同様に、PEGのエチレンジアミン4酢酸2無水物との反応は、式6のポリエステルを提供する。
【化5】
【0040】
別の好適な分枝点部分は、酒石酸、アセチレンジカルボキシル酸、ニトリロ3酢酸、3,4,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボキシル酸2無水物、3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボキシル酸2無水物、ピロメリット酸2無水物、1,2−エタンジチオールおよび1,4−ブタンジチオールなどのアルカンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、2−メルカプトエチルスルフィド、ジメルカプトプロパノール、ジメルカプトプリン、ジメルカプトチアジアゾール、ジメルカプトコハク酸、ベンゼンジメタンチオール、ベンゼンジチオール、ジハロゲン化ベンゼンジメタンチオール、ジハロゲン化4,4’−チオビスベンゼンチオールなどから生じる場合がある。
【0041】
YおよびY’はOHである場合、疎水性基Cは、カルボキシル酸基のアミド化またはエステル化によりポリマーに結合することが可能である。疎水性基Cは、好ましくは、比較的小さい(C8−C20)および主に炭化水素部分であり、直鎖または分枝であってもよく、または1種または2種以上の環を含んでもよい。例は、C−H分子n−オクタノール、n−デカノール、n−ドデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、コレステロール、およびコール酸から生じる共有結合部分を含むがこれらに限定されるものではない。便宜上、せいぜい2つの異なる疎水性側鎖を有するとして、本発明のポリマーを示すが、2つ以上の疎水性化合物の混合物が、種々の疎水性側鎖を特定のポリマーに導入するために使用することができることを理解すべきである。
【0042】
一具体例として、X=OH、r=2である、式2のポリマーを、無水マレイン酸とポリエチレングリコールの反応により調製し、ポリエステル7を形成し、その後、ジチオスレイトールと反応させ、8を形成する。酸7は、その後、n−オクタデシルアミンでアミド化し、望ましいくし形ポリマー9を形成する(スキーム2)。式9に示されるDTT派生アミドくし形ポリマーは、本明細書に「π−ポリマーA」と称され、スキーム2の特定ポリマー9は、「C18−π−ポリマーA」と表す。
【化6】
【0043】
ジチオスレイトールに対する2,3−ビス(t−ブトキシカルボニルアミノ)ブタン−1,4−ジチオール(DuPriest et al.,米国特許第4,755,528号明細書の方法により調製)の置換は、脱保護後、対応するアミノ官能化されたπ−ポリマー9b(スキーム3)をもたらす。
【化7】
【0044】
同様に、ブタンジチオール10cの使用は、続いて起こる標的部分の結合の場所にスペーサー基Lを伴った一般構造9cのポリマーをもたらす(スキーム4)。スペーサー基Lは、基質分子へのリガンドまたはラベルの結合に使用するために、当技術分野において既知であるいずれかのスペーサー基であってもよく、C2〜C20アルキレンおよび1〜10の−CH2CH2O−単位を有するオリゴ(エチレングリコール)スペーサーを含むがこれらに限定されるものではない。
【化8】
【0045】
別の態様において、末端アミノ基を伴うPEGポリマーは、下記の構造10〜14に示されるように、AとBとの単位間のアミド結合を有する例を調製するために使用してもよい。これらの各ポリアミドは、PEGジアミンH2N−(CH2CH2O)mCH2CH2−NH2の適切な環状無水物との反応を通して生じる場合がある。
【化9】
【0046】
穏やかな状態下で、上記のアミド酸は、予想生成物である。加熱しながら、イミド形成を期待することができ、少数の反応基を有するポリマーをもたらすが、それでも疎水性C部分の結合に適している。あるいは、ペンダント側鎖CをポリマーAブロックの末端に付加することができ、重合時に、分枝点部分は発生する可能性がある(スキーム5)。
【化10】
【0047】
1,3−ジアミノプロパンなどの単一ジアミンに加えて、スキーム5に示されるように、(任意選択的にマスクされた)反応官能基Xを有するジアミンを使用してもよく、標的部分の結合に好適なポリマー15を生じる(スキーム6)。下記の式において、pは、0〜4の範囲であってもよく、各Xは独立して、存在する可能性のあるいずれかの他の基Xと同一または異なる。反応基Xは、ペンダントである必要はないが、例えば、モノマーH2N−(CH2)3−NH−(CH2)3−NH2などの場合、ジアミンを作製する原子の鎖内でNH基であってもよい。
【化11】
【0048】
上記のように調製されたあるπ−ポリマーのいくつかは、さらに誘導体化に好適な反応基Xを有し、小分子、ペプチド、ヌクレオチド、糖類、抗体などの標的部分を結合し、2官能性または多官能性架橋剤を通じてポリマー鎖の架橋結合に影響を及ぼす。特定の態様において、ポリマー鎖上の反応基の部分的な誘導体化は、種々の異なる反応基を有するπ−ポリマーを生成するために行われ、種々の標的および薬物部分の単一ポリマー鎖に対する結合を可能にする。従って、例1のπ−ポリマーへのアクリロイルクロリド(または無水マレイン酸)の不足当量の添加は、ポリマーにアクリロイル(またはマレイル)基および残余ヒドロキシル基の双方を提供するであろう。次の、メルカプト−カルボキシル酸、例えばHS−(CH2)3−COOHの不足当量のMichael付加は、ヒドロキシル、アクリロイル、およびカルボキシル基をポリマーに提供するだろう。試薬の不足当量により残されるいずれかの残余反応基に加えて、システインの添加は、アミノおよびカルボキシル基を導入する。
【0049】
多官能性π−ポリマーへの別の方法は、疎水性鎖Cの一部の意図的な削除を含む。例えば、例1のπ−ポリマーは、アミド化工程において、ペンダント形成のアルキルアミンの量を限定する簡単な方法により、未反応のカルボキシル酸基で調製することができる。さらに別の方法は、一部は反応基を含むアミンの混合によるアミド化である。また、適切な状態下で(ステップAの過剰無水マレイン酸およびステップBの過剰DTT)、遊離チオール基の望ましい集団を有するポリマー調製を生成する場合がある。
【0050】
例1のπ−ポリマーは、意図的に、主鎖内でDTT部分から生じるヒドロキシル基を含み、それは反応基Xとして役に立つ。炭酸塩/重炭酸塩緩衝液の存在下で、水媒体のアクリロイルクロリドまたはメタアクリロイルクロリドによるこれらの基のエステル化は、-OH基上にアクリロイル置換をもたらす。アクリレートポリマーは、ラジカル重合(アクリル酸化合物などのラジカルモノマーまたはビスアクリル酸化合物などの架橋の添加に関わらず)を容易に受けることができ、薬物送達(ポリマー貯蔵または蓄積として働く)を制御するのに、および局部用途(皮膚用パッチ剤または軟膏など)に好適なヒドロゲルを得る。アクリル基はまた、特に、タンパク質、酵素、ペプチド、抗体、Fab’2フラグメントもしくはFab’フラグメント、またはその他の標的部分内のシステイン残基のチオールなどのチオールとのMichael付加を受けることができる(スキーム7)。
【化12】
【0051】
乾燥後、反応ヒドロキシル基を有するπ−ポリマーは、マレイン酸エステル基、Michael受容体を結合するために無水マレイン酸でエステル化することもでき、同時に遊離カルボン酸基を生成する。得られるポリマーにおいて、マレイン2重結合は、特に、タンパク質、酵素、ペプチド、抗体、Fab’2フラグメントもしくはFab’フラグメント、またはその他の標的部分内のシステイン残基のチオールなどのチオールとのMichael付加に利用できる(スキーム8)。そして、カルボキシル基は、薬物もしくはリガンドのアミノ基、またはタンパク質およびペプチドのリジン残基に結合することに利用できる。
【0052】
別の部分を、アミド化によって新規に導入した(または従来利用可能な)カルボン酸基にさらに結合してもよい。従って、少なくとも2つの異なる標的部分は、飽和反応状態下でさえ、結合することができる(すなわち、結合部分は、化学量の過剰において存在する)。
【化13】
【0053】
ペンダントカルボキシレート基を有するポリマーは、典型的な結合状態下で、アミンとアミド化することができ、Curtius再配列によってイソシアネート基に変換することもでき、その後、尿素およびカルバメートをそれぞれ形成するために、アミンまたはアルコールと結合する。かかる反応は、疎水性基Cを導入、または標的部分を結合するために使用することができる。
【0054】
遊離アミンをジアミンと反応基の1つを少なくとも部分的に反応させることにより、ポリマー内に導入することができる。反応物の状態下で、アミン基の1つを保護するか反応しないように、ジアミンを選択しなければならない。2つのアミノ基のpKaが大幅に異なるため、後者は、多くの場合、約7.5のpHで、エチレンジアミンを使用して完了することができる。好ましくは、本アミド化は、疎水性ペンダント基の導入後、分離工程として実行される。カルボン酸基を有するペプチドまたは別の分子は、その後、本遊離アミンのアミド化により結合することができる。
【0055】
従って、飽和状態下でさえ、3つもの異なるペプチドまたはその他の標的部分を、1つはチオール、1つはアミンもしくはヒドロキシル、ならびに1つはカルボキシル酸基を介して、π−ポリマーに結合することができる。
【0056】
ヒドロキシルおよびチオール基はまた、アジリジンまたは(ブロモエチルアミンまたはクロロエチルアミンなどの)ハロアルキルアミンとの反応により、第一アミンに変換することができる。システアミンによるアミド化は、ペプチドまたは抗体を結合するために、ペプチドまたは抗体のシステインによって直接反応される、または、ペプチドまたは抗体との次の反応のために、例えば、アミノエタンチオールまたはDTTで最初に還元される、ジスルフィドに導入することになる。
【0057】
部分的な反応を行うことにより、本発明のポリマーにさらに付加反応官能基を導入することができ、(1)アクリルまたはマレイン酸誘導体などのチオール反応基、(2)アミノまたはヒドロキシルなどのカルボキシル酸反応基、(3)カルボキシルなどのアミン反応基、および(4)メルカプトなどのジスルフィド反応基を含むが、これらに限定されない。当該付加された官能基のポリマー分子あたりの数は、1/rからrの数倍までであってよく、使用した試薬および使用した量により異なる。
【0058】
あるいは、2つ以上の特異的リガンドは、例えばウイルスまたは細胞表面への結合の特異性を改善するために結合することができる。2つ以上の特異的リガンドはまた、異なる細胞内標的間で相互作用をもたらすために使用することもできる。例えば、あるリガンドがウイルス粒子を標的化し、別のリガンドが食細胞への結合を促進することができ、それによって、ウイルス粒子を食細胞と近接または接触させ、食作用を促進する。
【0059】
当該の誘導体化は、異なる官能基結合(アミン、カルボキル酸、およびチオールなど)を通して、3つ以上の別個の標的部分および/または治療的部分のポリマーへの結合を可能にする。従って、組織特異的標的化剤、画像剤、および治療剤を単一ポリマー鎖に結合し、次のポリマーの自己集合によって、分配および標的化の有効性を監視できる標的化された治療剤が生み出されるであろう。
【0060】
本発明のポリマーの繰り返し単位へのリガンド結合は、ポリマー鎖上およびナノ粒子表面上にリガンドの多価表示を提供する。多価表示は、多くの場合、標的の親和性の大幅な増加をもたらす。例えば、多価抗体は、通常の2価抗体よりも標的の除去にさらに効果的である。炭水化物結合タンパク質および炭水化物は、実際は多価であり、1価である場合、効果がないことは既知である。同様に、多価ペプチドおよび炭水化物標的部分は、モノマー単独よりもさらに効果的であろう。ポリマー結合によるMWの増加は、ペプチドおよびその他のリガンドの腎クリアランス率の低下をもたらす。さらに、PEG主鎖は、ペプチドに、免疫学的監視の回避を含む、PEG付加の有益性と同様の有益性を提供した。
【0061】
さらに、多価標的部分は、多価標的(例えば、ウイルス粒子)を装飾し、1価標的部分よりもさらに効果的に中和する。多価形式の複数の(異なる)ペプチドを表示する能力は、強化した特異性をもたらすことができる。例えば、真のHIV特異性(HIVウイルス結合)ポリマーを、CD4結合領域に対応するペプチド、ウイルスのCCR−5またはCXCR−4結合領域に対応する別のペプチド、あるいは、その他の受容体(CXCR−4またはCCR−5のそれぞれ)に対応する第3のペプチドに結合することにより構築することができる。当該のポリマーは、ウイルスの結合領域を完全に覆うことができ、ウイルスを細胞に結合できないようにし、それによって、非感染を可能にした。さらに、ポリマーの界面活性剤特性は、結合によりウイルス構成自体の不安定化をもたらす場合がある。ペプチドの代わりに、同一の結合形態を妨げる小分子(CD4、CCR−5、CXCR−4)、またはペプチドと小分子との混合物、好ましくは、相補的活性を伴う混合物を使用することができる。得られるポリマーは、いかなる遊離ウイルスを非感染とすることができ、それ故に、コンドームの潤滑油などの成分として使用することにより感染の拡散を阻止するのに適している。さらに、当該のポリマーをHIVの苦しみを低減するために患者に注射する場合がある。
【0062】
一般に、DTTなどの多官能性の試薬を使用する場合、DTTによるカルボキシル酸のエステル化、または類似の副反応を通して、ポリマー鎖の部分的な架橋結合が存在する場合がある。例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル残渣に関連する、PEG鎖の中心領域の第2ヒドロキシル基はまた、PEG出発物質に存在する場合、架橋結合の一因となる場合がある。得られる架橋結合のヒドロゲル構造はまた、有用な物質である。例えば、本架橋結合の範囲の好適な増加、または他の架橋剤(例えば、ビソキシラン(bisoxiranes)など)を使用する明示的架橋結合により、薬物のための持続性貯蔵庫としての役割を果たす適応性のあるヒドロゲルである物質を生成することができる。物質を適切に修飾することにより(例、PEGの長さをより短くし、カルボン酸基をさらに解放し、そして好適なアクリル基を組み込む)、直鎖または架橋結合したヒドロゲル物質を生成することができ、それは、持続可能な、ステントなどの装置に固定されるか、接着性パッチまたは皮下挿入パッチのためのパッドなどの装置に吸収される貯蔵としての役割を果たす。一般に、当該の架橋結合した物質は、強化した、標的放出よりむしろ制御した放出に適している場合がある。
【0063】
本発明のくし形ポリマーは、水性溶媒系において、難溶性物質の可溶化に有用である。水性溶媒中の物質を可溶化する方法は、物質およびポリマーの水溶性複合体を形成するために、水存在下で、本発明のくし形ポリマーと難溶性物質を接触するステップを含む。あるいは、水性有機エマルジョンと蒸発により除去した有機溶媒の2相において、ポリマーおよび可溶化される物質を混合することができる。例示される工程は、米国特許第6,838,089号明細書で記載され、参照により本明細書に組み込まれる。ほとんどの場合、ポリマーは、粒子のコアで合体する疎水性C鎖の中で溶解する難溶性物質を有するナノ粒子に自己集合することが考えられる。一方、Aブロックは、粒子の水性懸濁液を安定な状態に維持させるために界面の自由エネルギーを十分に低減する親水性コロナを形成する。
【0064】
場合によっては、難溶性物質は、コアの中で完全に溶解することができないが、粒子のコアで、C鎖で取り囲まれ、およびC鎖の中で懸濁されている固体ナノ粒子として存在することができる。本発明の実施は、C鎖の難溶性物質との混合のいかなる特定の程度にも依存しないので、本発明の目的で、これは程度の違いである。物質は、場合によっては、C鎖の中で分子レベルで溶解することができるが、その他の場合には、C鎖環境からの相分離のいずれかの程度を示すことができる。場合によっては、当該システムは、温度の関数として、ある状態から別の状態に移動することを予想することができる。
【0065】
疎水性C部分を修飾することにより、ポリマー粒子の疎水性コアの溶媒力を修正することができる。好適な修飾は、疎水性コアの極性率および/または分極率を増加するために、ヒドロキシル、エーテル、アミド、およびシアノ官能基などの1つ以上の親水性置換基の導入を含むがこれらに限定されるものではない。
【0066】
これらのポリマーにより溶解される難溶性物質は、脂溶性ビタミンおよび栄養素を含み、ビタミンA、D、EおよびK、カロチン、コレカルシフェロール、ならびにコエンザイムQ、ドセタキセル、アムホテリシンB、ナイスタチン、パクリタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、ルビテカン、テニポシド、エトポシド、ダウノマイシン、メトトレキサート、マイトマイシンC、シクロスポリン、イリノテカン代謝産物(SN−38)、スタチン、およびステロイドなどの不溶性薬剤、着色料、光力学剤、造影剤、ならびに核酸、核酸類似体および核酸複合体を含むがこれらに限定されるものではない。核酸類似体は、チオリン酸塩およびペプチド核酸などの種類を含み、核酸複合体は、陽イオンまたはポリカチオン性の種の実質的な電荷中和量を有するオリゴ核酸のイオン結合型錯体である。
【0067】
本開示のために、多くの場合、中性薬学的組成物の必要性があるため、中性pHで不溶性である薬剤は、「難溶性」であると見なされる。例えば、シプロフロキサシンは、pH4.5以下で、水中に無理なく溶解できるが、本pHは、薬物が眼球投与のために処方される場合、極めて刺激させる可能性がある。本発明のポリマーは、pH7で生理食塩水中にシプロフロキサシンを可溶化できる。また、本開示のために、「難溶性」は、溶解度の増加が、改良されたまたはさらに有用な組成物を生み出すような、水性媒体における溶解度のいかなる物質を意味することを理解するべきである。従って、例えば、静脈内投与用の単位用量が5gである場合、2g/リットル程度で中度に溶解される薬剤は、「難溶性」である。
【0068】
薬学的活性種を可溶化するための本発明のポリマーの能力の結果として、本発明はまた、薬学的組成物を提供し、それには、1つ以上の薬学的活性剤の治療有効量との併用で本発明の1つ以上のπ−ポリマーを含む。本発明のポリマーは、そうでなければ、薬学的活性剤の効果がない量であるものを効果的にする。従って、本開示の目的のために、「治療有効量」は、全ての組成物を効果的にする薬剤の量である。
【0069】
本明細書に記載のすべての特許、特許出願、および出版物は、参照することにより本明細書にすべて組み込まれる。
【0070】
実験
1.一般手順
本発明はまた、本発明のくし形ポリマーの調製のための工程を提供する。これらのポリマーの合成は、下記に記載の手順に従い、有機合成における技術の当業者によって、容易に実施される。主要な出発物質はポリエチレングリコールであり、好ましくは、使用前に乾燥させる。これは、気泡が形成を停止するまで、高温で、融解されたPEGを真空下で撹拌することにより、便宜的に実施される。これは、PEGの質により異なるが、8〜12時間かかる場合がある。一度乾燥すると、PEGは、アルゴン下で永久保存することができる。例えば、1430〜1570の分子量分布を有する商用の多分散系の「PEG1500」など、PEGにおける市販の産業用および研究用の等級を本発明のポリマーの生成において使用することができる。当該の物質は、PEG鎖の中央で第2ヒドロキシル基を導入する、ビスフェノールAジグリシジルエーテルに組み込むことができる。本発明のポリマーが最も再現性のある一定の特性を有することを保証するために、PEGは、好ましくは、ビスフェノールAを含まず、低分散度でない。アラバマ州ハンツビルのNektar Therapeutics(以前は、Shearwater Polymers)、およびノルウェーオスロのPolypure ASから市販されているような、95%より高い単分散のPEGポリマーが最も好ましい。特に好ましいPEGの例は、95%より高いHO(CH2CH2O)28H、分子量1252である「PEG−28」である。
【0071】
すべての反応は、磁気的または好ましくは機械的撹拌を使用して、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で実施される。
【0072】
ステップAにおいて、乾燥PEGを溶解し、無水マレイン酸(PEGモルあたり2モル)を撹拌しながら添加する。無水マレイン酸の量は、PEG末端のヒドロキシル基の数にできるだけ一致させるべきである。無水マレイン酸の不足は、ヒドロキシル末端ポリマー鎖をもたらす一方で、無水マレイン酸の過剰は、次のステップでチオール基を消費し、早期連鎖停止反応および末端カルボキシル基をもたらす。反応温度は、臨界ではなく、工程は、45℃〜100℃の温度で、便宜的に実施することができる。本反応の好ましい温度は、65℃〜90℃である。高温を使用する場合、無水マレイン酸は昇華する傾向があり、工程では、無水マレイン酸が溶液に残っていることを確認するべきである。ヘッドスペースを最小化し、油浴の反応槽に浸すことは、効果的な方法である。
【0073】
選択温度により異なるが、本反応は2時間以内に完了する、もしくは一晩実施することができる。本反応をシリカゲルプレート上のTLCで監視してもよく、本反応は、無水マレイン酸の消失後まで継続される。視覚コントラスト、UV、およびヨード染色はすべて、TLCプレートを試験するために使用することができる。
【0074】
ステップBにおいて、ステップAで生成された粗製PEGビス−マレイン酸エステルをジチオスレイトール(DTT)およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)(流動性が必要である場合、水添加を伴う)と混合し、混合物を70℃で撹拌する。本反応は、粘度の急増で示されるように、30分以内で完了する。DTTの最適量より多く、または少なく使用する場合、生成物の分子量は減少する。生成物の分子量はまた、必要であれば、TEMEDをTEAなどの効果の弱い第三アミン塩基で置換することにより、減少させることができる。
【0075】
ステップCにおいて、十分な水を反応混合物に添加し、粘度を低下させ、ポリマー中にカルボキシル酸基の1モルあたり0.1モルのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)および1.05モルのヘキサデシルアミンを添加する。(NHSのこの量が、副反応の程度を最適に最小化するように思われる。)N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(EDC)の過剰(カルボキシル酸基の1モルあたり1.4molのEDC)をその後、撹拌を維持するために必要に応じて添加するように、追加の水とともに少しずつ添加する。本反応混合物のpHは、7以上に維持し、好ましくは、9〜11であり、アルキルアミンンの反応性を最適化する。ドデシルアミンとのこの反応は、約40〜45℃で実施され、一方、オクタデシルアミンとの反応での温度は、約55℃〜57℃である。残ったアルキルアミンンの一定レベルが観察されるまで、通常は一晩実施後、その反応はTCLによって監視される。
【0076】
本反応混合物を約3.0〜約4.5のpHに酸性化し、室温で約24時間撹拌し、未反応のEDCを壊し、その後、1N NaOHを使用して、pH7.0に滴定する。本最終反応混合物を約800xgで1〜3時間、遠心分離機で分離し、固体混入物質および副生成物を除去する。
【0077】
遠心分離後、本上澄みをGPCカラム(ToyopearlTM、SephadexTM、SephacrylTM、BiogelTMなど)で、クロマトグラフィー法で分離することができる。しかしながら、πポリマーは、両親媒性物質であり、大抵のGPCカラム包装に対する親和性を示し、それは混入物質の除去を複雑にする。あるいは、本ポリマーを大孔径の疎水性相互作用カラム(例えば、米国ペンシルバニア州モントゴメリビルのToshoh Biosciences製、TOYOPEARLTM Phenyl 650C)で、クロマトグラフィー法で分離でき、水中のメタノール勾配で溶離する。好ましくは、酸性水および中性水のいくつかの変化に対して、本反応混合物を透析し、低分子量の出発物質および反応副生成物を除去する。
【0078】
本反応混合物を、また、ブタノン、イソプロパノール、ブタノールまたはその他の極性有機溶媒で抽出し、有機不純物を除去してもよいが、両親媒性高分子のかなりの量が、抽出溶媒に失われる。好ましくは、本反応混合物は、使用するろ過膜の分画により異なるが、5kDa〜10kDa、10kDa〜30kDa、30kDa〜50kDaなどの分子量に生成物を分別するために好適な膜を使用して限外ろ過を行う。本ポリマーの水溶液は、ろ過膜または媒体の選択により異なるが、滅菌またはウイルスを含まない溶液を生成するために全量ろ過を行う場合がある。
【0079】
2.π−ポリマーの合成
例1:PEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテル中間分子量ポリマー(C16−π−ポリマーA)
ポリエチレングリコール(PEG−1500、Sigma Chemical Co.)を気泡の形成が停止するまで80℃で真空下で乾燥した。(PEGの質により異なるが、8〜12時間)。アルゴン下で永久に乾燥した状態にされた乾燥PEGを貯蔵することができる。
【0080】
乾燥PEGを油浴でアルゴン下溶解し、無水マレイン酸(1モルのPEGモルあたり2モル、不純物で補正)を撹拌しながら徐々に添加した。混合物を90℃、アルゴン下で撹拌した。無水マレイン酸は昇華する傾向があるため、ヘッドスペースを最小化し、全反応槽を反応温度で維持した。容器壁上のいかなる濃縮した無水マレイン酸を擦り取り、反応混合物に戻した。エタノールおよびヘキサンを別々に溶媒として使用し、UV可視化およびヨード染色を用いて、反応物の進行をシリカゲルプレート上のTLCで監視した。反応は、無水マレイン酸の消失後1時間継続した。
【0081】
粗製PEGジマレイン酸エステルを2容積の水で希釈した。その後、水(TEMEDの1体積あたり2体積の水)にジチオスレイトール(DTT、PEGの1当量あたり1.01当量)およびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、1.02当量)が入った溶液を、反応混合物に撹拌しながら添加した。反応物をアルゴン下70℃で2.5時間撹拌し、室温で一晩放置し、その後、70℃で2時間再度撹拌した。反応物をTLCで監視し、DTTの完全消失で反応の完了を判断した。
【0082】
水を上記の反応混合物に添加し、混合物を撹拌できるまで(約25%の固体で)、粘度を低下させ、混合物をアルゴン下65℃で撹拌し、N−ヒドロキシスクシンイミド(PEG−ジマレイン酸エステル−DTTポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.1モル)を添加し、次に、ヘキサデシルアミン(ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり1.05モル)およびN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(EDC、ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.56モル)を添加した。混合物をアルゴン下で1時間撹拌し、EDCの第2部分(ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.56モル)を添加した。加水分解でのEDCの消失の理由のため、別の1時間後、EDCの第3部分(1モルのカルボキシル酸あたり総量の1.4モルのEDCに対して、ポリマーにおいてカルボキシル酸基の1モルあたり0.28モル)をさらに添加した。添加した固体が懸濁液の撹拌を困難にするので、流動性を維持する必要がある場合、さらに水を添加し、そして、必要に応じて1N NaOHを添加することにより、pHは8〜10に維持された。混合物をアルゴン下65℃で一晩撹拌し、アルキルアミンンが安定した濃度に達したことを示すまで、TLC(エタノールを伴ったシリカ)で監視し、その後、さらに4時間撹拌した。その後、約4.5のpHまで反応混合物を1N HClで酸性化し、未反応のEDCを破壊するために24時間撹拌し、追加の1N NaOHの滴下によりpH7.0まで調節した。ドデシルアミンとの反応は、約40〜45℃で実施され、一方、オクタデシルアミンとの反応での温度は、好ましくは、約55℃〜57℃である。
【0083】
混合物を遠心分離瓶に移し、約800xgで2時間卓上遠心分離機で回転させ、残留固体を分離した。遠心分離後、反応混合物をイソプロパノールで抽出し、有機不純物を除去した。イソプロパノール抽出の代替物として限外ろ過が好ましい。
【0084】
本方法により、以下のアミノ化合物をポリマーに共役する。
例1a:ウンデシルアミン
例1b:オクタデシルアミン
例1c:4−ノニルベンジルアミン
例1d:3−[(4−フェノキシ)フェニル]プロピルアミン
【0085】
例2:PEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテル高分子量ポリマー
無水マレイン酸の1モルのあたり、0.55モルのDTTおよび0.55モルのTEMEDを使用することを除いては、例1で概略を述べた手順に従った。粘度が急速に上昇したので、激しい撹拌を必要とした。反応物のほとんどが5〜10分以内に完了し、続いて、温度が55℃から80℃に上昇しながら、次の4時間にわたって、ゆっくりと完了したことを示した。
【0086】
例3:PEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテルポリマー
ポリマーにおいて、カルボキシル酸基の1モルあたりの1.5モルのドデシルアミンを使用することを除いては、例1で概略を述べた手順に従った。N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS、カルボキシル酸基の1モルあたりの1.0モル)および1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI、カルボキシル酸基の1モルあたりの3.0モル)を添加し、反応物を80℃で4時間撹拌し、上記のように仕上げた。
【0087】
本方法により、以下のアミノ化合物をポリマーに共役する:
例3a:ウンデシルアミン
例3b:テトラデシルアミン
例3c:オクタデシルアミン
例3d:デヒドロアビエチルアミン
例3e:コレステロール2−アミノエチルエーテル
例3f:10−フェノキシデシルアミン
例3g:セバシン酸ヒドラジド
例3h:オレイン酸ヒドラジド
例3i:デヒドロアビエチン酸ヒドラジド
例3j:コール酸ヒドラジド
例3k:パルミチン酸ヒドラジド
【0088】
例4:PEG−co−(アルキルアミドコハク酸エステル)ポリマー
乾燥ジエチルエーテル(10ml)のPEG(6.66mmol)およびトリエチルアミン(2.32ml、16.65mmol)の溶液をアルゴン下0℃で冷却し、塩化メタンスルホニル(1.03ml、13.32mmol)で滴下処理した。1時間、0℃で撹拌を継続し、その後、室温で2時間撹拌した。エーテルを蒸発し、トリエチルアミン塩酸塩を沈殿させるために乾燥アセトン(15ml)を残留物に添加し、それは溶液から濾過される。濾液を臭化リチウム(2.31g、26.64mmol)で処置し、還流するために20時間加熱した。その後、混合物をヘキサンで希釈し、CeliteTM(0.5cm)で覆われたシリカ(3cm)の短カラムでろ過し、ヘキサンで溶離した。ろ液を乾燥し、ろ過し、α,ω−ジブロモ−PEGを油に残すために蒸発させる。
【0089】
α,ω−ジブロモ−PEGをGodjoianらのTetrahedron Letters,37:433−6(1996)の方法により2,2−ジブチル−4,5−ビス(メトキシカルボニル)−1,3,2−ジオキサスタンノランの1当量と反応させる。得られるジメチル酒石酸塩−PEGポリエーテルをメタノール中のKOHで鹸化し、その後、上記の例1および3に記載のようにドデシルアミンもしくはヘキサデシルアミン、または例3a〜3kのアミンでアミド化する。
【0090】
例5:EDTA2無水物とのPEG共重合
例1に記載の方法で、乾燥PEGをエチレンジアミンテトラ酢酸2無水物と反応させ、その後、例1に記載のドデシルアミンと、または例3に記載のヘキサデシルと、または例3a〜3kに記載のアミンとアミンアミド化する。
【0091】
同様の方法で、以下の2無水物をPEGと共重合し、続いてアミド化する。
例5a:ナフタレンテトラカルボン酸2無水物
例5b:ペリレンテトラカルボン酸2無水物
例5c:ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物
例5d:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
例5e:ブタンテトラカルボキシル酸2無水物
例5f:ビシクロ(2,2,2)オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボキシル酸2無水物
例5g:ジエチレンテトラアミン5酢酸2無水物
例5h:3,4,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボキシル酸2無水物
例5i:3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボキシル酸2無水物
例5j:ピロメリット2無水物
【0092】
例6A:ペンダントチオエーテルとのPEG−ジアミン共重合体
例1に記載のように調製されたPEGジマレイン酸エステルを例1のDTTに使用される同様の手順を使用して、ドデカンチオール(PEGジマレイン酸エステルの1当量あたり2当量)と反応させる。重合が行われない場合、希釈する必要はなく、反応を溶解PEG−ジマレイン酸エステルにおいて行う。TEMED触媒を添加し、その後チオールを添加する。TLCを使用して出発物質の消滅後、反応を行った。蒸発によるアルキルチオールの損失が有意になる時点までの温度を使用することができる(約100℃まで)。わずかな過剰アルキルチオールを、マレイン基を完全飽和するために使用してもよい。においまたはTLCでなにも検出されなくなるまで、窒素もしくはアルゴンで散布および/または真空下で加熱することによって、反応の終わりで過剰アルキルチオールを除去する。
【0093】
本方法により、以下のチオールをPEGジマレイン酸エステルに共役することができる。
例6Aa:メルカプトコハク酸ジ−t−ブチルエステル
例6Ab:テトラデカンチオール
例6Ac:ヘキサデカンチオール
例6Ad:2−メルカプトエタンスルホン酸
例6Ae:3−メルカプトプロパンスルホン酸
例6Af:6−メルカプトヘキサン酸t−ブチルエステル
例6Ag:4−メルカプト安息香酸t−ブチルエステル
例6Ah:メルカプト酢酸t−ブチルエステル
例6Ai:4−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ブタンチオール
例6Aj:3−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ベンジルメルカプタン
例6Ak:4−デシルベンジルメルカプタン
【0094】
反応官能基を有するチオールは、C鎖の結合に好適であり、および/または反応官能基は、標的部分に対する結合点(X)としての役割を果たすことができる。
【0095】
例6B:ペンダントチオエーテルを有するPEG−ジアミン共重合体
【化14】
【0096】
例1のドデシルアミンに対して使用される同様の手順を使用して、反応混合物の流動性を維持するために必要な場合、水で希釈して、例6Aで得たチオール付加化合物を1,4−ジアミノブタン(2つのCOOH基あたりの1当量のジアミン)でアミド化する。完全な重合を確保するために必要な場合、EDCの追加の一定分量を添加する。本方法により、例6Aおよび6Aa〜6Akのチオール付加化合物をPEG−ジアミノブタンポリアミドに変換する。
【0097】
本方法により、以下のジアミンをPEGポリアミドに変換することができる(BOC=t−ブトキシカルボニル)。
例6Ba:2−(O−BOC)−1,3−ジアミノ−2−プロパノール
例6Bb:N’,N’’−ジ(BOC)ヘキサエチレンテトラアミン
例6Bc:N’,N’’−ジ(BOC)スペルミン
例6Bd:N’−BOCスペルミン
例6Be:N’,N’’,N’’’−トリ(BOC)ペンタエチレンヘキサミン
例6Bf:アグマチン
例6Bg:リシンt−ブチルエステル
例6Bh:1,6−ジアミノヘキサン
例6Bi:1,4−フェニレンジアミン
例6Bj:1,3−フェニレンジアミン
例6Bk:1,4−ジアミノブタン−2,3−ジオールアセトニド
【0098】
例7:PEG−ジ(アルキルコハク酸エステル)ジチオエーテル
【化15】
【0099】
DTT(meso−2,3−ビス(ヘキサデシルオキシ)ブタン−1,4−ジチオール)の2,3−ビス−O−ヘキサデシルエーテルをS.Sasaki et al.,Chem.Pharm.Bull.33(10):4247−4266(1985)の手順の修飾により調製する。これを例1の方法でPEG−ジマレイン酸エステルに添加する。
【0100】
本方法により、以下のエーテルジチオールをPEGポリマーに結合する。
例7a:meso−2,3−ビス(n−ブトキシ)ブタン−1,4−ジチオール
例7b:meso−2,3−ビス(4−ノニルフェニルメトキシ)ブタン−1,4−ジチオール
例7c:meso−2,3−ビス(ビフェニル−4−メトキシ)ブタン−1,4−ジチオール
例7d:4,6−ビス(デシロキシ)ベンゼン−1,3−ジメタンチオール
例7e:4,5−ビス(デシロキシ)ベンゼン−1,2−ジメタンチオール
例7f:3,4−ビス(デシロキシ)チオフェン−2,5−ジメタンチオール
【0101】
例8A:置換PEGコハク酸エステル
2−ドデセン−1−イル無水コハク酸を無水マレイン酸の代わりに使用することを除いては、例1の方法に従う。ドデセニル置換基は、最終ポリマーにおいてペンダントC鎖を提供する。
【0102】
本方法により、以下の置換無水コハク酸をPEGとエステル化する。
例8Aa:イソブテニル無水コハク酸
例8Ab:2−オクテン−1−イル無水コハク酸
例8Ac:オクタデセニル無水コハク酸
例8Ad:3−オキサビシクロ−ヘキサン−2,4−ジオン
例8Ae:シクロヘキサンジカルボン酸無水物
例8Af:フタル酸無水物
例8Ag:4−デシル無水フタル酸
例8Ah:ヘキサヒドロメチルフタル酸無水物
例8Ai:テトラヒドロフタル酸無水物
例8Aj:ノルボルネンジカルボン酸無水物
例8Ak:カンタリジン
例8Al:ビシクロオクテンジカルボン酸無水物
例8Am:exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物
例8An:S−アセチルメルカプト無水コハク酸
【0103】
例8B:ペンダントアルキル基を有するPEG−ジ(アルキルアミドスクシニル)ジチオエーテル
例1の方法により、例8Aおよび8Aa〜8Anに記載されるように取得した置換PEGコハク酸エステルをDTTと反応させる。
【0104】
本方法により、以下のジチオールを例8Aおよび8Aa〜8Anに記載されるように取得した置換PEGコハク酸エステルのいずれかと反応させる。
例8Ba:エタン−1,2−ジチオール
例8Bb:プロパン−1,3−ジチオール
例8Bc:ブタン−1,4−ジチオール
例8Bd:ペンタン−1,5−ジチオール
例8Be:ヘキサン−1,6−ジチオール
例8Bf:1,4−ベンゼンジチオール
例8Bg:1,3−ベンゼンジチオール
例8Bh:1,4−ベンゼンジメタンチオール
例8Bi:1,3−ベンゼンジメタンチオール
例8Bj:1,2−ベンゼンジメタンチオール
【0105】
例8C:ペンダントアルキル基を有するPEG−ジアミン共重合体
例6Bの方法により、例8Aに記載されるように取得した置換PEGコハク酸エステルを1,4−ジアミノブタンと共重合させる。
【0106】
本方法により、以下のジアミンを例8Aおよび8Aa〜8Anのうちの置換PEGコハク酸エステルのいずれかと共重合させる。
例8Ca:2O−BOC1,3−ジアミノ−2−プロパノール
例8Cb:N’,N’’−ジ(BOC)ヘキサエチレンテトラアミン
例8Cc:N’,N’’−ジ(BOC)スペルミン
例8Cd:N’−BOCスペルミン
例8Ce:N’,N’’,N’’’−トリ(BOC)ペンタエチレンヘキサミン
例8Cf:アグマチン
例8Cg:リシンt−ブチルエステル
例8Ch:1,6−ジアミノヘキサン
例8Ci:1,4−フェニレンジアミン
例8Cj:1,3−フェニレンジアミン
例8Ck:1,4−ジアミノブタン−2,3−ジオールアセトニド
【0107】
例9:置換酸を使用するPEG Transエステル化
PEG二トシル酸:1モルのPEG(DMFに溶解された、またはそのまま溶解した)に、アルゴン下で撹拌しながら、2.1モルのトシルクロリド(5%過剰モル)を添加した。本反応混合物に、2.2モルのテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を添加した。その後、反応物を45℃で2時間温置した。TLCを使用して、TLC溶媒として、エチルアセテート、トルエン、またはエタノールに生成物を溶解した。PEG二トシル酸を、トルエンを使用して反応混合物から抽出することができる。トルエンスルホニルクロリドの代わりに、メシルクロリド(例4を参照)、トリフリック酸無水物、またはトレシルクロリドなどのその他のスルホニル剤をまた使用することもできる(米国特許出願第10/397332号明細書、米国特許公開第2004/0006051号明細書を参照)。
【0108】
PEG二トシル酸のポリエステル重縮合:1モルの溶解PEG−二トシル酸に、アルゴン下で撹拌しながら、1モルのS,S’−ジデシル−meso−2,3−ジメルカプトコハク酸および2モルのTEMEDを添加する。流動性を維持する必要がある場合、DMFを添加する。反応混合物を80℃で加熱し、24時間またはTLCにより完了するまで撹拌する。
【0109】
例10:PEG−ジ(スクシニル)−ジ−(O−アシル化)チオエーテル中間分子量ポリマー(C16−π−ポリマーB)
【化16】
【0110】
例1に記載のように調製したPEG−ジマレイン酸エステル(10.24g、6.1mmol)を乾燥125mlフラスコに移し、アルゴン下で70℃まで加熱し、PEG−ジマレイン酸エステルを溶解した。本溶解物質に、撹拌しながら、水(10mL)、ならびにDTT(0.961g、6.168mmol)およびTEMED(0.723g、6.166mmol)を水(3mL)に加えた溶液を添加した。溶液を70℃で約4時間攪拌した。真空中で水の除去は、約90%収率で固体ポリマーを得た。
【0111】
乾燥ポリマー(5g、2.7mmol)をアルゴン下で70〜90℃で加熱し、溶解し、TEMED(0.635g、5.5mmol)を添加した。パルミトイルクロリド(1.689g、5.5mmol)を撹拌しながら添加し、混合物をアルゴン下で一晩撹拌した。(ポリマーとアシルクロリドの割合は、0〜100%の化学量論の置換度を取得するために変更することが可能である。)水を反応混合物に添加し、「C16−π−ポリマーB」を単離する。
【0112】
本方法により、以下の酸を、ジ(スクシニル)PEG−DTT共重合体のヒドロキシル基でエステル化する。
例10a:オレイン酸
例10b:コレステリルコハク酸エステル
例10c:ビフェニル−4−カルボキシル酸
例10d:4−オクチルフェニル酢酸
例10e:ヘキサデカ−6−イン酸
【0113】
また、酸ハロゲン化物の使用の代替として、π−ポリマーのDTT由来のヒドロキシル基を、1,3−ビス(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イルメチル)カルボジイミド(BDDC)を用いて活性化でき、カルボキシル酸と直接結合することもできる。Handbook of Reagents for Organic Synthesis,Reagents for Glycoside,Nucleotide,and Peptide synthesis,Ed.David Crich,Wiley,2005 p 107−108およびその参考文献を参照)。
【0114】
例11:C16−π−ポリマーAのカルボキシル置換エステル
標準ペプチド結合形成方法(例えば、カルボジイミド試薬を通じて)を使用して、カルボキシル酸置換ポリマーを反応アミノ基を有するリガンドを結合するために使用し、アミノ基をポリマーのカルボキシル酸官能性に結合する。これらの物質は、環状無水物を有するπポリマーヒドロキシル基のエステル化で容易に取得される。例えば、C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルを、無水マレイン酸をC16−π−ポリマーAヒドロキシル基と以下のように反応させることにより調製した。
【0115】
C16−π−ポリマーA(2g)および無水マレイン酸(0.85g)を乾式すり鉢内で磨り潰し、50mLの丸底フラスコに移した。フラスコをアルゴン下で、2〜3時間撹拌しながら90℃に加熱した。その後、固体反応混合物を磨り潰し、水でスラリーにし、混合物を透析袋(3.5kDa分画)に移した。過剰マレイン酸および低分子量の副生成物を除去するために、混合物を水に対して透析し、濃縮水を袋から取り除き、60℃で恒量になるまで乾燥し、C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル(1.79g)を得た。ポリマーAの無水マレイン酸に対する割合は、0〜100%の完全化学量論のエステル化と異なる置換を取得するために変更することが可能である。
【0116】
例11a:C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル
C16−π−ポリマーA(2g)およびジグリコール酸無水物(1.0g)を上記の例11の方法で反応させ、C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルを得た。無水マレイン酸と同様に、ポリマーAの無水物に対する割合は、0〜100%の完全化学量論のエステル化と異なる置換を取得するために変更することが可能である。
【0117】
例11b:C16−π−ポリマーAビス(アコニット酸エステル)
C16−π−ポリマーA(2g)およびアコニット酸無水物(1.35g)を上記の例11の方法で反応させ、C16−π−ポリマーAビス(アコニット酸エステル)を得た。
【0118】
同様の方法において、以下の無水物は、C16−π−ポリマーAに結合する。難溶解性の無水物を使用する場合、精製の補助として透析する前に、pHは、4.5〜6.5で調節される場合がある。0.1N HClに対して第2透析は、必要に応じて、ポリマーの酸性型を提供する。
例11c:無水コハク酸
例11d:グルタル酸無水物
例11e:無水フタル酸
無水マレイン酸またはcis−アコチニック酸無水物とエステル化することで導入した反応2重結合をまた、下記の例12に記載されるように、チオール含有のリガンドをポリマーに添加するために使用する場合がある。
【0119】
例12:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルのシステイン付加化合物:
粉末C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル(例11)(253mg)を水(5mL)に添加し、混合物を激しく撹拌した。システイン(24mg)およびTEMED(30.5μl)を反応混合物に添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。ニンヒドリンを用いた検出とともに、反応の進行をTLC(シリカゲルプレート、n−ブタノール−酢酸−水、3:1:1)で監視した。反応混合物は、ポリマーとともに移動するニンヒドリン陽性スポットを示した。システインもまた、ニンヒドリン陽性スポットを付与したが、一方、出発ポリマーは、ニンヒドリンでいずれの色も付与しなかった。
【0120】
上記に記載の方法は、結合点として使用するために追加のカルボキシル基を導入するために使用され、多数のカルボキシル置換基を有するチオールを使用する。例えば、メルカプトコハク酸を以下のC16−π−ポリマーAジエステルに添加した。
例12a:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル
例12b:C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル
例12c:C16−π−ポリマーA(ビス)アコニット酸エステル
【化17】
【0121】
同様な方法で、3メルカプトグルタル酸を以下のC16−π−ポリマーAジエステルに添加した。
例12d:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル
例12e:C16−π−ポリマーAジアクリル酸エステル
例12f:C16−π−ポリマーA(ビス)アコニット酸エステル
【0122】
3.不溶性または弱可溶性物質を可溶化するためのπポリマーの使用
例1:染料の可溶化
溶性物質を除去するために遠心分離にかけられたがその他の点では精製されていないPEG1500−コ−スクシニル−DTT−ビス−C16−アミドポリマー(C16−ポリマーA、例1)の50mg/ml水溶液の1.0mlアリコートに、別々の容器(FlexExcelTM透明ポリプロピレン舟形秤、WB2.5サイズ、West Haven,CTのAllExcel,Incの製品)中のエオシンY、ジクロロフルオレセイン、およびスーダンIVといった染料の超過量を添加し、成分を一緒に攪拌してペーストを形成した。その後、耐水性両面テープを使用して、容器の底を小型宝石超音波洗浄器槽の底に取り付けた。舟形秤を約3分の1の高さまで浸すのにちょうど十分な量の水を槽に加えた。超音波処理を5分のステップで15分間行った。液体を遠心分離管に移して、卓上遠心分離機中で30分間2度遠心分離にかけ、非溶解染料を沈殿させた。上澄みをきれいな管に移して再び遠心分離にかけ、混入固体を除去した。ポリマー溶液の量と同じ量の蒸留水中の同じ量の染料の懸濁液を、対照として同じ方法で処理する。液滴から円を形成するために、結果として生じた溶液をTLCプレートに染みをつけた(25ul)。染みの強度を、近似濃度を決定するためにエタノールまたはエタノール/水中で作られた染料溶液の標準から作られた染みと比較した。染みは図1に示す。水中の染料の溶解度は、室温で1l以上の脱イオン水(非緩衝化)に適切な量の染料を溶解させ、飽和溶液を得るために必要に応じてさらに水を添加する(つまり水で滴定して)ことによって、決定した。
【0123】
50mg/mlポリマー中のスーダンIVの濃度は、H2O中の0.000mg/mlとは対照的に、約0.2mg/mlであった(スーダンIVは中性pHで不溶性)。ジクロロフルオレセインの濃度は、H2O中の0.010mg/mlとは対照的に、50mg/mlポリマー中で約5mg/mlであった。50mg/mlポリマー中のエオシンYの濃度は、H2O中の0.007mg/mlとは対照的に、約5mg/mlであった。ペイロード比(1単位量のポリマーあたりの薬物の量、g/g)を計算したら、スーダンIVに対しては約1:250、ジクロロフルオレセインに対しては1:10、およびエオシンYに対しては1:10となった。
【0124】
物理化学的性質において薬学的活性物質に似ている極性化合物に対する1:10のペイロード比は、リポソーム、シクロデキストリン、CremophorTM、もしくは界面活性剤またはその他の可溶化システムと概して結合可能なものよりも高い。エオシンYは、能率が非常に高い光活性化可能な一重項酸素発生源であり、例1のポリマーで作られるようなエオシンYの濃縮液は、光活性化可能な細胞毒性薬として薬学的に活性であると予期することができる。
【0125】
水中のジクロロフルオレセインの蛍光スペクトル(緑がかかった黄色)について、ポリマー溶液中(赤みを帯びた黄色/オレンジ色)のジクロロフルオレセインの蛍光スペクトルの変化は、視覚的に顕著であり、染料が水性の環境中にないが、自己集合ポリマー粒子コアの有機的環境に封入されていることを示す。確かに、蛍光スペクトルの変化は、微小環境(例えば「脂質プローブ」)の極性の変化を決定する方法として使用されている。ポリマー中のスーダンIV溶液の色は、エタノール溶液中の赤色および水に懸濁した時の茶色の粒子とは対照的に、赤褐色であった。エオシンYは有意な視覚的変化を示さなかった(水中ではピンクに対しポリマー溶液中では赤みを帯びたピンク)。
【0126】
例2:医学関連物質の可溶化
プルプリン、アムホテリシンB、カンプトセシン、およびドキソルビシンを、代表的な難溶性活性薬剤成分(API)として選択した。アムホテリシンBは、抗菌薬注射剤としてリポソーム製剤の形で使用され、一方、カンプトセシンおよびドキソルビシンは抗癌剤である。プルプリンは、薬剤実用性の潜在的可能性があるDNA挿入染料であり、エオシンYは光線力学療法における利用の潜在的可能性がある感光性一重項酸素試薬である。各APIは、C16−π−ポリマーA、C18−π−ポリマーB、および/またはC16−π−ポリマーA−葉酸複合体(下記参照)とともに、水中で可溶化した。可溶化は、染料について上記に説明したように、可溶化APIおよび非可溶化対照をTLCプレートに染みをつけることによって実証した。
【0127】
乾燥ポリマーは、必要に応じて水、加熱、攪拌、および超音波処理でもとに戻した。溶液の粘性が高すぎる場合は、希釈した。C16−π−ポリマーAを10%w/vで、葉酸エステルC16−π−ポリマーAを5%w/vで、C18−π−ポリマーBを2%w/vで使用した。
【0128】
製剤原料(20mg)を1mlのポリマー溶液に直接添加し、ドキソルビシンを除いて、C16−π−ポリマーAに対しては5:1、葉酸エステルC16−π−ポリマーAに対しては2.5:1、C18−π−ポリマーBに対しては1:1というポリマー:API質量比を結果としてもたらした(下記参照)。混合物は低出力で1時間超音波処理し、その後、2000xgで2度遠心分離にかけて非溶解固体を除去した。沈殿固体の量は有意ではなかった。
【0129】
塩酸ドキソルビシンを、上記のように10:1のC16−π−ポリマーA対塩化ドキソルビシン質量比、または5:1の葉酸エステルC16−π−ポリマーA対塩化ドキソルビシン質量比でポリマーと混合し、続いて十分な3M酢酸ナトリウムを添加して塩化ドキソルビシンを中和した。混合物は24時間激しくに振り、その後、2000xgで2度遠心分離にかけて非溶解固体を除去した。沈殿固体の量は有意ではなかった。
【0130】
可溶化API対ポリマーの質量比を表1に示す。ポリマーの取り込みを最大限化しようという試行を行わなかった。それゆえ、これらの比は、ポリマーを溶液中に溶解することが可能であるAPIの量の下限値を表す。
【0131】
各溶液の10ulの試料をBakerflexTMシリカゲルTLCプレートに染みをつけて広げさせた。水溶液は円の外側境界、および封入物質を伴うポリマーの移動によって形成される内側円を形成する。あらゆる場合において、水性のみの区域の縁の周辺にはAPIが少ししかなく、可溶化の成功および封入物質の最小限の漏出を示す。
【0132】
【表1】
【0133】
4.πポリマーの生体適合性
例1:局所緩和薬、クリームまたはペーストに対する適合性
例1のポリマーの濃縮油性ワックスを、発明者が手首の内側の皮膚に擦り付け、取り込みについて観察した。該物質は、薬剤ワックス状クリームと同様に吸収され、該領域をやや柔らかくすると思われた。発赤、発疹、または痒みなどの即時または遅延型アレルギー反応は、この単回局所使用時に観察されなかった。
【0134】
これらのポリマーの多くは、室温で吸湿性ワックスであり、組成によって約45℃〜60℃またはそれを超える予想mpを有する。低分子量(MW)PEGでできたポリマーは、室温で液体になることさえできる。一部のポリマーは室温で固体となることができ、体温で融解する。よって、これらのπポリマーの特性は、πポリマーを、それら自体で、または活性医薬品を含む様々な物質との混合物として、ローション、クリーム、軟膏、皮膚軟化剤、およびその他の導入形態を作製するための優れた基質とする。
【0135】
例2:非経口投与に対する適合性
例1のポリマーの水溶液を、リン酸緩衝生理食塩水中で調製し、そして0.22umフィルタを通して無菌管内へろ過した。
【0136】
最大許容量プロトコルを採用した。この場合、CD−1マウスが、ポリマーの最大5%w/v水溶液の尾静脈注射で、体重1kgあたり10mlの投与を受けた。マウスは12時間継続的に、その後、群に応じて48〜72時間まで2時間ごとに観察した。血液試料を採取して分析した。一部のマウスを屠殺し、最初に肉眼的組織学について検査した。その後、顕微鏡的組織学を選択された部分に行った。
【0137】
対照マウスと処置マウスとの間に、血液化学の観察可能な差異は見出されなかった。心臓、肺、腎臓、脾臓、肝臓、腸、胃、膀胱、皮膚、筋肉、骨、脳、およびリンパ節を含む様々な臓器の肉眼的組織学では、対照動物と比較して観察可能な差異または病変は見出されなかった。異なる群の動物からの複数の試料を、観察されている同じ結果とともに検討した。検査した組織の細胞組織構造に観察可能な差異は見出されなかった。腎臓のうちのいくつかは、ポリマーへの暴露時間を短縮したなんらかの円柱を示した。このことは、該円柱が一時的状態であり、時間が進行するにつれて正常となることを暗示する。
【0138】
ポリマーは、注射製剤およびその他の非経口製剤中の医薬品としての医学的用途に安全であることが結論付けられる。ポリマーが、経口液剤、カプレット、およびタブレット、鼻腔用スプレー、経口/気管支エアロゾル、舌下、皮膚用クリーム/ローション/パッチ、点眼薬、その他の局所経路、ならびにその他の投与経路において安全であると期待することは合理的である。
【0139】
5.π−ポリマーへの標的部分の付着
例1:アミド結合形成を介したC−16π−ポリマーBへのガラクトサミンの付着
ガラクトサミン(GA)は、肝アシアロ糖タンパク受容体(ASGPR)を標的にし、共有結合したガラクトサミンを有するポリマーは、肝臓に運搬される。L.Seymour et al.,“Hepatic Drug Targeting:Phase I Evaluation of Polymer−Bound Doxorubicin”J.Clin.Oncology,20(6):1668−1676(2002)およびその中の参考文献を参照。
【0140】
C16−π−ポリマーB(上記の合成方法の部の例10)(461mg、繰り返し単位あたり0.2mmol当量COOH)を14mLの水中に分散し、この分散にEDC HCl(0.485mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(0.464mmol)を加えた。混合物は周辺温度で15分間攪拌し、1mlの水中のガラクトサミンHCl(0.386mmol)およびTEMED(0.387mmol)の溶液を添加した。溶液を攪拌し、反応に続いてシリカゲル上のTLCおよび1−ブタノール−酢酸−水(3:1:1)中の展開を行った。追加量のTEMED(0.079mmol)、NHS(0.078mmol)、およびEDC HCl(0.193mmol)を添加して、反応の完了を強制した。TLCがGAの消費に関して定常状態を示した時、反応混合物を3×1000mlの脱イオン水に対して透析し(3500Daの分画膜)、低分子量反応物質および副生成物を除去した。濃縮水を除去し、恒量(348mg)まで60℃で乾燥した。
【0141】
生成物のTLCは遊離GAを示さなかった(ニンヒドリン陰性)。結合GAを加水分解するために、生成物の試料を、100℃で6N HClにより加水分解した。TLC分析は、参照GAと同じRfでGAの存在を示した(ニンヒドリン陽性)。
【0142】
例2:C18−π−ポリマーAへの葉酸の付着
BDDC(2.44g、8.56mmol)を、アルゴンで洗い流した125mLの丸底フラスコ内で検量した(BDDCは蜜のような粘度で非常に粘性が高く、扱いが困難である)。C18−π−ポリマーA(10g、4.28mmol)をフラスコに添加し、混合物を70℃に加熱し、濃縮液を一緒に30分間攪拌した。葉酸(3g)を添加し、続いて十分なTHFを添加して攪拌を可能にした。反応物を40〜70℃で一晩攪拌し、湿気から保護した。その後、そしてTHFを蒸発させ、水(80mL)を添加し、混合物を50℃でさらに2時間攪拌した。室温まで冷却した後、3500ダルトン分画の透析管の一部分に混合物を移し、0.1N HCl(2×2000ml)、水(2000ml)、5%炭酸ナトリウム(2×2000ml)および水(4×2000ml)に対して透析し、未反応の試薬および副生成物を除去した。明るい黄色〜オレンジ色の濃縮水を除去した。一部は恒量まで蒸発して固体濃度を決定し、上記の可溶化実験に使用した。
【0143】
例3:π−ポリマーへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)および類似体の付着
ともにシアル酸に結合することが知られている血球凝集素およびノイラミニダーゼ外皮タンパク質のため、ノイラミン酸誘導体はインフルエンザウイルスに対する部分を標的にしている。NANAおよびその誘導体を本発明のπ−ポリマーに結合するためのいくつかの方法を開発した。
【0144】
例3a:エステル化を介したC16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)の付着
BDDC(2.44g、8.56mmol)およびC18−π−ポリマーA(10g、4.28mmol)を混合して70℃まで加熱し、アルゴン下で約30分間一緒に攪拌する。N−アセチルノイラミン酸(3g)を添加し、それに続いて流動性を維持するのに必要に応じてTHFを添加する。反応物を40〜70℃で一晩攪拌し、湿気から保護する。水(80mL)を添加し、混合物を50℃でさらに2時間攪拌する。室温まで冷却した後、混合物を、0.1N HCl、5%NaHCO3、水(それぞれ2×2000ml)に対して3.5kDa分画膜で透析する。シリカゲルTLCプレートに染みをつけ、130℃で70%硫酸中の0.2%オルシノールで視覚化すると、ポリマーへのノイラミン酸の取り込みを示す。
【0145】
例3b:C16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)モノマレイン酸エステルの付着
5−N−アセチルノイラミン酸(NANA)(0.86mmol)、無水マレイン酸(0.93mmol)、およびトリエチルアミン(1.77mmol)を、乾燥した丸底フラスコ内の1.5mLのDMSO中に溶解した。フラスコをアルゴンで洗い流し、油浴に入れた。混合物は65℃〜85℃で攪拌し、進行は、反応が完了するまで(NANAの欠如、オルシノール/H2SO4または尿素/HCl試薬による検出)、シリカプレート上のTLC(i−PrOH−EtOAc−水、4:3:2)によって確認した。反応混合物を室温まで冷却し、水を添加して過剰な無水マレイン酸を加水分解した。NANAモノマレイン酸エステルの結果として生じた溶液は、後の反応で直接使用した。
【0146】
C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル(「π−ポリマーの合成」、例11aを参照)(1.23mmol繰り返し単位、2.46mmol−COOH)の水溶液をpH4.5〜6.5に調整した。カルボジイミド(EDC HCl、3.86mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(2.6mmol)を添加し、混合物を周辺温度で約60分間攪拌した。上記のように調製したNANAモノマレイン酸エステル(2.49mmoles)の溶液を添加し、pHをTEMEDでpH6〜7に調整した。攪拌を周辺温度で最大26時間続けた。生成物は、最初にpH4.5の20mモル酢酸ナトリウムに対して、その後、水に対して、透析によって精製した。濃縮水は除去して使用のために保存した。
【0147】
例3c:スペーサーを介したC16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)の付着
システアミン(2−アミノエタンチオール)塩酸塩(水中で0.93mmol)を等モル量のNANAモノマレイン酸エステル(上記のように調製した溶液)に添加し、それに続いて等モル量のTEMEDを添加して2重結合へのチオールの付着を促進した。反応に続いて、反応が完了(O−マレオイル−NANAの欠如、オルシノール/H2SO4または尿素/HCl試薬による検出)して標的部分Dを生じるまで、シリカ上のTLC(i−PrOH−EtOAc−水、4:3:2)を行った。
【化18】
【0148】
同じ方法によって、5−N−アセチル−2,3−デヒドロ−2−デオキシノイラミン酸(DANA)を誘導体化し、標的部分Eを生じた。
【化19】
【0149】
同じ方法によって、システインおよびグルタチオンをNANAおよびDANAのマレイン酸モノエステルに添加する。
【0150】
上記の例3bに記載の方法によって、C16−π−ポリマーAビス(アコニット酸エステル)のメルカプトコハク酸エステル複合体を標的部分Dでアミド化した。このポリマーは、繰り返し単位あたり最大8つの−COOH基を含有する(「π−ポリマーの合成」、例12cを参照)。
【0151】
例3d:スペーサーを介したC16−π−ポリマーAへのN−アセチルノイラミン酸(NANA)の付着
上記の方法によって、標的部分EをC16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル(「「π−ポリマーの合成」、例11aを参照」)ポリマーに共役した。
【0152】
例3e:C16−π−ポリマーへのノイラミン酸β−メチル配糖体(MNA)の付着
平均して繰り返し単位あたりの単一カルボキシル(0.396mmol)を有するものを水中に溶解し、NHS(0.4mmol)およびEDC−HCl(0.64mmol)と反応させた。ノイラミン酸−β−メチル配糖体(MNA)(0.42mmol)を添加した。反応混合物は周辺温度(25〜30℃)で18〜24時間攪拌し、そして透析によって精製した。
【0153】
例3f:繰り返し単位あたり2つのカルボキシ基を有するC16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルの第2の試料も、同じ方法でMNAと共役した。
【0154】
例3g:C16−π−ポリマーBへのβ−O−メチルノイラミン酸(MNA)の付着
1mlの水中の43ミクロモルCOOH基準である、C16−π−ポリマーB、および40ミクロモルのノイラミン酸β−メチル配糖体(Toronto Research Chemicals)を共に混合し、0.1mlの水中の40ミクロモルNHSを添加し、それに続いて0.1mlの水中の40ミクロモルEDC塩酸塩を添加した。反応混合物を周辺温度で48時間振り、イソプロパノール−酢酸エチル−水(4:3:2)を伴うシリカゲル上のTLCによって分析した。130℃の70%硫酸中の0.2%オルシノールによる検出は、開始ポリマーによる呈色反応を生成しないが、反応混合物のTLCにより、ポリマーによる紫斑点同時移動を生じた。
【0155】
上記の例(3a−3g)でのあらゆるポリマー複合体は、透析後に、TLC上のオルシノール/硫酸または尿素/HCL試薬で視覚化する場合のノイラミン酸の存在に対して、陽性反応を示す。
【0156】
例4:C16−π−ポリマーBへのザナミビルの付着
ザナミビル(GG167)は、ウイルスノイラミニダーゼの強力阻害剤であり、多価リガンドとしてこの分子を有するポリマーは、インフルエンザウイルス複製の阻害剤である。
【0157】
C16−π−ポリマーB(920mg)を30mLの水中に分散し、これにEDC HCl(1.2mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(1.1mmol)を加える。混合物を周辺温度で20分間攪拌し、1mlの水中の5−アセトアミド−7−(6’−アミノヘキシル)−カルバミルオキシ−4−グアニジノ−2,3,4,5−テトラデオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−non−2−エノピラノソニック(enopyranosonic)酸(米国特許第6,242,582号明細書および同第6,680,054号明細書)(0.39g、0.67mmol)およびTEMED(0.67mmol)のトリフルオロ酢酸塩の溶液を添加する。溶液は室温で攪拌し、反応に続いてTLCを行う。反応混合物を3×1000mlの脱イオン水に対して透析し(3500kDaの分画膜)、低分子量反応物質および副生成物を除去する。濃縮水を除去し、恒量まで60℃で乾燥する。糖の取り込みのレベルは、グアニジン基に対する比色分析によって決定することができる(Can.J.Chem.,36:1541(1958))。ノイラミニダーゼ分析は、Potier et al.,Anal Biochem.,29 287(1979)の手順の後に行うことができる。
【0158】
例5:ミモシンの付着
4.5%w/v溶液(1mmolの繰り返し単位、COOH基において約2mmol)としてのC16−π−ポリマーAジグリコール酸エステル(「π−ポリマーの合成」、例11aを参照)をNHS(2.27mmol)およびEDC−HCl(2.23mmol)と反応させ、結果として生じた混合物に、1−ミモシン(2.14mmol、5mlの水中で調製し、溶解度を増加させるためにpHをTEMEDで調整)の溶液を添加し、周辺温度および約6.8〜7のpHで約22〜24時間攪拌した。pHは6N HClで3〜4に調整し、混合物は15〜30分間攪拌し、pHはTEMEDの添加によって6.1まで上昇させた。その後、混合物は水に対して透析(3.5kD分画)し、不純物および低分子量生成物を除去した。
【0159】
例6:π−ポリマーAジマレイン酸エステルおよびジアクリル酸エステルへのペプチドおよびタンパク質の付着
Fabフラグメントに対する一般的な手順:抗体F(ab’)2フラグメントにおけるジスルフィド結合は、製造者のプロトコルを使用する固定化TCEP ジスルフィド還元ゲル(Pierce,製品番号0077712)により、または代わりに、溶液中のDTTもしくはTCEPにより還元し、使用済み試薬は、30kDフィルタを使用する限外ろ過によって除去される。その後、遊離スルフヒドリル基を含有する還元F(ab’)2フラグメントは、TEMEDの存在下でπ−ポリマーAジマレイン酸エステルまたはジアクリル酸エステルと反応させる。
【0160】
システインおよびシステイン含有ペプチドに対する一般的な手順:π−ポリマーAのアクリル酸エステルまたはマレイン酸エステルは、触媒としてトリエチルアミンを使用してシステイン残基と反応させる。水中のポリマージアクリル酸エステル(0.3mmol繰り返し単位、0.6mmolアクリル酸エステル)懸濁液に、システイン(0.66mmol)およびトリエチルアミン(1.32mmol)を添加した。フラスコをアルゴンで洗い流し、周辺温度で一晩攪拌した(約18時間)。シリカ上の反応混合物のTLC(i−PrOH−酢酸エチル−水、4:3:2)は、システインの欠如およびポリマーに対するニンヒドリン陽性の染みを示し、アクリレート2重結合へのシステインの付加を示した。
【0161】
例6a:C16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルへの抗狂犬病抗体フラグメントの付着
分子量4500のPEGから始めて、C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルを調製した。BayRabTMヒト狂犬病免疫グロブリン(hIgG)を、酸性pH緩衝液中で通常の方法でペプシンによって処理し、50kDフィルタを使用した限外ろ過によって精製されたF(ab’)2フラグメントを生成した。F(ab’)2フラグメントは、上記の例5で説明したEDC方法によって、PEG4500 C−16−π−ポリマーAジグリコール酸エステルに結合した。
【0162】
例6b:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルへの抗狂犬病抗体フラグメントの付着
BayRabTMhIgGのF(ab’)2フラグメント(例6aを参照)はDTT(または代わりにTCEP)で還元し、使用済み試薬は30kDフィルタを使用した限外ろ過によって除去した。Fab’−SHフラグメントは、pH7〜8.3(TEMED)でマレイン酸2重結合への遊離チオールのマイケル添加によって、PEG4500C−16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルに結合した。複合体は100kDフィルタを使用した限外ろ過によって精製し、低分子量汚染物質を除去した。
【0163】
例6c:PEG8500C−16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルを、上記のようにBayRabTMhIgGの還元したF(ab’)2フラグメントに共役した。
【0164】
例6d:C16−π−ポリマーAジマレイン酸エステルへのペプチドの付着:
ペプチドKDYRGWKHWVYYTC(「Rab1」)は、狂犬病ウイルスに結合すると報告されている(T.L.Lentz,1990,J.Mol.Recognition,3(2):82−88)。このペプチドの末端Cysは、抗狂犬病ペプチド−π−ポリマーA複合体を合成するために使用した。PEG1500(0.157mmol)由来のC16−π−ポリマーAジマレイン酸エステル(繰り返し単位あたり2つのマレイン酸部分)は、水(6mL)に溶解し、溶液のpHはTEMEDで約8に調整した。DMF(3.1ml)に溶解したペプチド(0.157mmol)を添加し、反応混合物をアルゴン下周辺温度で攪拌する一方で、反応pHを8〜8.3に維持した。反応の進行は、エルマン試薬で反応混合物を検査することによって確認した。約45時間後、エルマン試験はほぼ陰性であった。水を添加してDMF濃度を下げ、反応混合物を遠心分離にかけて少量の沈殿物を除去した。透明な上澄みは10kD遠心ろ過機(Arnicon Ultra 10kD、カタログ番号UFC901024)を通して限外ろ過し、残留物は繰り返し水で洗浄して、低分子量汚染物質を除去した。
【0165】
次の3つのペプチド(O=オルニチン、NH2はC末端アミドを指定する)を自動固相合成によって調製し、Rab1ペプチドと同じ方法でPEG1500π−ポリマーAジマレイン酸エステルに共役した。
例6d:KDYRGWKOWVYYTC(「Rab2」)
例6e:KGWKHWVYC(NH2)(「Rab3」)
例6f:KGWKOWVYC(NH2)(「Rab4」)
【0166】
6.π−ポリマーの抗ウイルス活性
例1:インフルエンザに対する有効性
ATCC VR−1520(H2N1)ヒトインフルエンザウイルスをマウス・プロテクション・アッセイ(mouse protection assay)で使用した。200ul/20gBWの単回尾静脈注射は、対照動物において99.5%の致命的感染を引き起こした(7日の未治療生存)。
【0167】
10匹のマウスが各群にいた。マウスに、上記の例3のπ−ポリマーB−MNA複合体の低用量(0.0375%)および高用量(0.15%)溶液の200ul/20g体重で尾静脈注射した。治療後の動物に感染後24時間投薬した一方で、治療前の動物に感染前6時間投薬した。陽性対照動物に1当量の遊離リガンドを注射した一方で、陰性対照に生理食塩水緩衝液注射をした。
【0168】
生存時間は、指標有効性評価項目として使用した。体重は研究パラメータとして追跡した。内臓の組織学は、肉眼的検査および顕微鏡的検査の両方で行った。結果を図2に示す。
【0169】
生存時間の増加は、陽性対照(図1および2)に対して2.94時間(+/−0.75時間SD)しかないのに比較して、高用量治療群に対して5.93時間(+/−0.48時間SD)であった。リガンドの質量に基づいて、高用量治療は、0.2w/wの最大ポリマー複合体置換比と仮定して、多くてもリガンドの0.03%に対応する。よって、ポリマー複合体は、非共役リガンド対照と比較して、有意に高いレベルの有効性を示した。
【0170】
高用量ポリマーB−MNA複合体治療群の一部のマウスの肉眼的組織学ならびに顕微鏡的検査は、治療マウスが、インフルエンザ感染の影響に起因する場合がある白血球のやや低下したレベルを骨髄部分で示したことを除いて、正常なパターンを示した。保護群(高用量−8.9%、低用量−6.2%)ならびに治療群(高用量−9.0%、低用量−9.4%)における体重減少は、陽性対照(−9.8%)におけるものよりも少なく、ポリマーよりもむしろリガンド自体との関連を示唆した(図3)。0.7%のわずかな体重増加は、未治療マウスで発生した。
【0171】
例2:狂犬病に対する有効性
雌雄を混ぜた、それぞれ約20gの10匹の白色スイスマウスの群を、生体内保護分析に採用した。マウスは、狂犬病ウイルスの3×LD50の注射を接種された。注射は、10-6(100LD50/ml)の希釈で、0.03mlのCVS(病原体接種ウイルス標準)狂犬病株であった。日々の生存、麻痺、および体重を監視した。25、48、および72時間での薬物の腹腔内投与と、25および48時間での薬物の脳内投与を調査した。結果を表1および2に表す。
【0172】
【表2】
【0173】
【表3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスによる動物への感染の治療または予防のための方法であって、本質的に以下の構造からなるくし形ポリマーを前記動物に投与する方法を含み、
【化1】
交互の分枝点部分Bおよび親水性、水溶性ポリマーブロックAから形成される主鎖を含み、前記分枝点部分に結合する疎水性側鎖CおよびリガンドZを有し、
各疎水性側鎖Cが、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30直鎖もしくは分岐炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から、独立に選択され、
各リガンドZが、独立して、前記ウイルスの表面に対する特異的結合親和力を有するリガンドであり、
sが結合またはスペーサー部分であり、
nの値が3から約100の範囲であり、
pの平均値が1より大きい値から4までの範囲であり、
rの平均値が1から8の範囲である、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのリガンドが、N−アセチルノイラミン酸またはその誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リガンドが、N−アセチルノイラミン酸、ノイラミン酸β−メチル配糖体、および4−グアニジノ−2,4−ジデオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのリガンドZが、前記ウイルスの表面に対して特異的結合親和力を有する抗体または抗体フラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リガンドが、ヒト抗狂犬病IgG免疫グロブリンから誘導されるF(ab’)2フラグメントである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのリガンドZが、KDYRGWKHWVYYTC、KDYRGWKOWVYYTC、KGWKHWVYC(NH2)、およびKGWKOWVYC(NH2)からなる群から選択されるペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性ポリマーブロックAが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、多糖類およびその共重合体からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーブロックAが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、およびその共重合体からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーブロックAが、ポリ(エチレングリコール)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーブロックAが、4〜700のモノマー単位の平均長さを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマーが、構造
【化2】
を有しており、式中、mが4〜700であり、YおよびY’が、独立して、R、OR、COOR、SR、NHR、NRR’、ONHR、NHOR、NRNH2、NHNHR、NRNHR’、およびNHNRR’からなる群から選択され、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが、構造
【化3】
を有しており、式中、mが4〜700であり、WがOもしくはNHであり、YおよびY’が、独立して、R、COR、COOR、CONHR、CONRR’、CONHOR、CONRNH2、CONHNHR、CONRNHR’、およびCONHNRR’からなる群から選択され、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーが、構造
【化4】
を有しており、式中、部分Dが、一般構造
【化5】
を有するジアミンによって得られ、式中、各Xが、独立して、反応性官能基であり、pが0〜4であり、mが4〜700であり、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーが、構造
【化6】
を有しており、式中、mが4〜700であり、WがOまたはNHであり、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーが、構造
【化7】
を有しており、式中、mが4〜700であり、Lが、フェニレン、C2−C6アルキレン、もしくはベンゼンジメチレンであり、WがOまたはNHであり、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルスである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記ウイルスは、狂犬病ウイルスである、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
KDYRGWKOWVYYTC、KGWKHWVYC(NH2)、およびKGWKOWVYC(NH2)からなる群から選択されるペプチド。
【請求項1】
ウイルスによる動物への感染の治療または予防のための方法であって、本質的に以下の構造からなるくし形ポリマーを前記動物に投与する方法を含み、
【化1】
交互の分枝点部分Bおよび親水性、水溶性ポリマーブロックAから形成される主鎖を含み、前記分枝点部分に結合する疎水性側鎖CおよびリガンドZを有し、
各疎水性側鎖Cが、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30直鎖もしくは分岐炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から、独立に選択され、
各リガンドZが、独立して、前記ウイルスの表面に対する特異的結合親和力を有するリガンドであり、
sが結合またはスペーサー部分であり、
nの値が3から約100の範囲であり、
pの平均値が1より大きい値から4までの範囲であり、
rの平均値が1から8の範囲である、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのリガンドが、N−アセチルノイラミン酸またはその誘導体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リガンドが、N−アセチルノイラミン酸、ノイラミン酸β−メチル配糖体、および4−グアニジノ−2,4−ジデオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのリガンドZが、前記ウイルスの表面に対して特異的結合親和力を有する抗体または抗体フラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リガンドが、ヒト抗狂犬病IgG免疫グロブリンから誘導されるF(ab’)2フラグメントである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのリガンドZが、KDYRGWKHWVYYTC、KDYRGWKOWVYYTC、KGWKHWVYC(NH2)、およびKGWKOWVYC(NH2)からなる群から選択されるペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性ポリマーブロックAが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、多糖類およびその共重合体からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーブロックAが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、およびその共重合体からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーブロックAが、ポリ(エチレングリコール)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーブロックAが、4〜700のモノマー単位の平均長さを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマーが、構造
【化2】
を有しており、式中、mが4〜700であり、YおよびY’が、独立して、R、OR、COOR、SR、NHR、NRR’、ONHR、NHOR、NRNH2、NHNHR、NRNHR’、およびNHNRR’からなる群から選択され、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが、構造
【化3】
を有しており、式中、mが4〜700であり、WがOもしくはNHであり、YおよびY’が、独立して、R、COR、COOR、CONHR、CONRR’、CONHOR、CONRNH2、CONHNHR、CONRNHR’、およびCONHNRR’からなる群から選択され、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーが、構造
【化4】
を有しており、式中、部分Dが、一般構造
【化5】
を有するジアミンによって得られ、式中、各Xが、独立して、反応性官能基であり、pが0〜4であり、mが4〜700であり、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーが、構造
【化6】
を有しており、式中、mが4〜700であり、WがOまたはNHであり、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーが、構造
【化7】
を有しており、式中、mが4〜700であり、Lが、フェニレン、C2−C6アルキレン、もしくはベンゼンジメチレンであり、WがOまたはNHであり、RおよびR’が、独立して、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30分岐もしくは直鎖炭化水素、1種もしくは2種以上の親水性置換基で任意選択的に置換されるC6−C30環式もしくは多環式炭化水素、ならびに疎水性アミノ酸、ペプチドおよびポリマーからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルスである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記ウイルスは、狂犬病ウイルスである、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
KDYRGWKOWVYYTC、KGWKHWVYC(NH2)、およびKGWKOWVYC(NH2)からなる群から選択されるペプチド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公表番号】特表2010−516673(P2010−516673A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546355(P2009−546355)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/001607
【国際公開番号】WO2008/091246
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(508215050)オールエクセル,インコーポレイティド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/001607
【国際公開番号】WO2008/091246
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(508215050)オールエクセル,インコーポレイティド (2)
【Fターム(参考)】
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