説明

抗カビ剤のスクリーニング方法

【課題】シグナル伝達系作動性抗真菌剤の高速かつ高効率なスクリーニング系評価系を提供すること。
【解決手段】真核糸状真菌におけるMAPキナーゼ経路の活性化作用又は阻害作用を有する試験物質のスクリーニング方法であって、真核糸状真菌をMAPキナーゼ経路が活性化される通常の条件下で試験物質に暴露させ、該暴露によるMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の変化を検出し、該MAPキナーゼ遺伝子の転写量の増加又は減少が該試験物質のMAPキナーゼ経路の活性化作用又は阻害作用を示すものである、前記方法、及び、該スクリーニング方法を実施するために使用する各種キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌、より好ましくは植物または動物への感染性真菌のシグナル伝達系に強い阻害活性を有する物質のスクリーニング方法、及び該スクリーニング方法を実施するために使用するキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物やヒトを含む動物に感染するカビ(真菌)は、近年、大きな脅威となっている。例えば、免疫不全の弱点を持つ患者、例えば後天性免疫不全症候群の患者あるいは免疫抑制的治療を受けている患者の数が増加する結果として、真菌症の発生数は増加傾向にある。特にカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)やアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)の感染によって引き起こされる深在性真菌症に対しては、現状はわずかの抗真菌剤、例えばアンフォテリシンB及びフルシトシン、またはアゾール誘導体のフルコナゾールやイトラコナゾール等の抗真菌剤が存在するのみである。
【0003】
植物感染菌としても、葉の病斑(Septoria tritici)、包頴の病斑(Septoria nodorum)、様々なコムギさび病(Puccinia recondita、Puccinia graminis)、ウドンコ病(様々な種)および茎/根茎(stem/stock)の腐敗病(Fusarium spp.)を引き起こすコムギ真菌病原体が挙げられる。その他の特に有害な植物病原体の例としては、ジャガイモ飢饉の原因微生物、Phytophthora infestans、オランダエルム病を引き起こす子嚢菌類、Ophiostoma ulmi、トウモロコシ黒穂病を引き起こす病原体、Ustilago maydis、およびイネいもち病を引き起こす病原体、Magnaporthe griseaが挙げられる。
【0004】
真菌は真核生物であり、高等植物や動物などの高等真核生物と類似の細胞システムを有しているために、真菌に選択毒性のある薬剤種は限定されている。また、既知の抗真菌剤への抵抗性菌の出現もあり、新規の抗真菌剤の開発需要は高い。発明者らを含む、近年の真菌のシグナル伝達経路の研究から、真菌のシグナル伝達系として、ヒスチジンキナーゼを中心とする二成分性情報伝達経路、G-タンパク質共役型受容体経路や、それらの下流カスケードを構成するマイトジェン依存性プロテインキナーゼ(MAPキナーゼ)経路の存在が明らかになりつつある(Appl. Environ. Microbiol. 68:5304-5310, 2002)。シグナル伝達系は、外部から入力される種々の環境刺激を感知し、シグナル伝達を通じて、最終的には核においての種々の遺伝子の転写制御を誘起し、外界刺激に対して細胞を適応させる(Microbiol. Mol Biol Rev. 66:300-372, 2002)。発明者らを含む研究の結果から、真菌は植物やヒト等の哺乳動物とは異なる多様性や制御機構を持ったシグナル伝達経路を有しており、シグナル伝達系が新たな抗真菌剤の標的として有望であることが明らかになってきた(Appl. Environ. Microbiol. 68:5304-5310, 2002; Eukaryotic Cell 3:1036-1048, 2004, Biosci Biotechnol Biochem. 2002 Oct;66(10):2209-15)。尚、哺乳動物MAPキナーゼ経路に影響を及ぼす阻害剤及び活性化剤のスクリーニング法が特許文献1に記載されている。又、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいてはMpkAのorthologであるMpk1pの標的転写制御因子Rlm1pが多くの遺伝子の転写を制御するcell integrity pathwayの主要な転写制御因子であることが知られている (Microbiol. Mol Biol Rev. 66:300-372, 2002)。
【特許文献1】特表平9−501302
【非特許文献1】Appl. Environ. Microbiol. 68:5304-5310, 2002
【非特許文献2】Eukaryotic Cell 3:1036-1048, 2004
【非特許文献3】Biosci Biotechnol Biochem. 2002 Oct;66(10):2209-15
【非特許文献4】Microbiol. Mol Biol Rev. 66:300-372, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シグナル伝達系作動性抗真菌剤の開発が望まれているが、シグナル伝達系へ作用する薬剤の簡便な評価系は確立されていない。シグナル伝達は細胞表層での受容体タンパク質の活性化やその後の細胞内の複雑なシグナル伝達系に関与するタンパク質群のリン酸化により行なわれており、非常に多くの化合物の経路への活性を評価することは困難であった。現在、薬剤の選択は、多数の化合物群から成る薬剤ライブラリーを評価することが一般的となっており、高速かつ高効率で膨大な数の薬剤を少量で評価する系の開発をする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、遺伝子工学的技術が適用可能な真核糸状菌を用いて上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、該菌における主要な下流シグナル伝達系の経路であるMAPキナーゼ経路において、MAPキナーゼ遺伝子等の転写が該シグナル伝達により自己制御されること、及び、MAPキナーゼ経路におけるMAPキナーゼのリン酸化によって活性化される転写制御因子により転写が制御される遺伝子群の転写量の変化によって、シグナル伝達系作動性の物質を効率よく選択することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、第一の態様として、真核糸状真菌におけるMAPキナーゼ経路の活性化作用又は阻害作用を有する試験物質のスクリーニング方法であって、真核糸状真菌をMAPキナーゼ経路が活性化される通常の条件下で試験物質に暴露させ、該暴露によるMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の変化を検出し、該MAPキナーゼ遺伝子の転写量の増加又は減少が該試験物質のMAPキナーゼ経路の活性化作用又は阻害作用を示すものである、前記方法に係る。
【0008】
第二の態様として、このようなスクリーニング方法を実施するために使用する各種キットに係る。尚、以下、本発明のスクリーニング方法及びスクリーニングキットを含めて、「スクリーニング系」と称することがある。
【0009】
本発明に於いて、「真核糸状真菌」とは上記に示した所謂「カビ」のことであるが、その非限定的な例として、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム (Penicillium)属、トリコデルマ (Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール (Mucor) 属、フミコーラ (Humicola) 属、マグナポルサ (Magnaporthe)属、メタリチウム (Metarhizium)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、モナスカス(Monascus)属、アクレモニウム(Acremonium)属、フザリウム (Fusarium) 属、ボトリティス(Botryts)属、及びウスチラーゴ(Ustilago)属を挙げることが出来る。アスペルギルス(Aspergillus)属には、アスペルギルス・オリゼ (Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ (Aspergillus sojae) 、及びアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans)等が包含される。
【0010】
MAPキナーゼ経路は真核生物に普遍的に存在し、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)→MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)→MAPキナーゼ(MAPK)のリン酸化カスケード(MAPキナーゼカスケード)を形成している。該経路は一般的に、細胞増殖、細胞周期、及び細胞分化・発生等の主要な下流シグナル伝達系であり、特に真菌においては、浸透圧調節(HogA経路、MpkC経路)、細胞統合(cell integrity:MpkA経路)、接合/窒素代謝(MpkB経路)等のシグナル伝達で重要な役割を果たしている。
【0011】
既に述べたように、シグナル伝達系は、外部から入力される種々の環境刺激を感知し、シグナル伝達を通じて、最終的には核においての種々の遺伝子の転写制御を誘起し、外界刺激に対して細胞を適応させる。従って、本発明に於いて、「MAPキナーゼ経路が活性化される通常の条件下」という用語は、MAPキナーゼ経路におけるシグナル伝達が活性化されて細胞がこのような外界刺激に対して適応している状態を意味する。
【0012】
本発明に於いて、「MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子」という用語には、MAPキナーゼ経路に直接含まれるMAPKKK、MAPKK及びMAPKのような各種の蛋白質リン酸化酵素をコードする遺伝子が含まれる。本発明においては、特に、このようなMAPキナーゼ経路に直接含まれる遺伝子の転写量の増加又は減少が、MAPキナーゼ経路におけるシグナル伝達により自己調節された結果であることを主な技術的特徴の一つとする。ここで、「自己調節」とは、一般的に、ある遺伝子産物が細胞内でその産物の存在量が適量になるように自身の遺伝子の発現を調節することであり、遺伝子の転写がそれ自身の転写産物により増殖・促進される「正の自己調節」とその逆である「負の自己調節」がある。
【0013】
更に本発明の「MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子」という用語には、該経路により活性化される転写制御因子により転写が調節(制御)される遺伝子、例えば、本明細書の実施例で示されている、グリセロール合成酵素をコードする遺伝子(gfdB)、gelA, gelB 及びfksA等の各種遺伝子も含まれる。尚、本明細書中の実施例3で示されるように、これら遺伝子の中でも、RlmAによる転写制御に実質的に依存していないものが好ましい。
【0014】
本発明のスクリーニング系において、真核糸状真菌に試験物質を暴露させる方法・手段に特に制限はなく、当業者に公知の任意の方法・手段で実施することが出来る。例えば、真核糸状真菌の培養培地に適当量の試験物質を添加した後、適当時間培養することによって、試験物質への暴露を行うことが出来る。試験物質の添加量及び添加後の培養時間・条件等は、真核糸状真菌、試験物質及びスクリーニング方法・キットの種類等に応じて当業者が適宜設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスクリーニング方法によって、真核糸状真菌におけるMAPキナーゼ経路、並びに、それに連なる経路(例えば、二成分性シグナル伝達経路及びG−蛋白質共役型受容体経路等のMAPキナーゼ経路上流に位置する経路)の活性化作用又は阻害作用を有する試験物質を、簡便、高感度、迅速、且つハイスループットにスクリーニングすることが可能となる。例えば、MAPキナーゼ経路の構成的活性化は一般に糸状菌に生育阻害をもたらすことから、レポーターシステムを用いることで、抗真菌剤となり得るリード化合物候補を高感度に選択することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明方法において、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の変化は、例えば、該遺伝子の5‘上流領域のプロモーターに機能的に結合されたレポーター遺伝子の蛋白質発現量の変化を測定し、それを指標として検出(レポーターアッセイ)することができる。
【0017】
この方法は、当業者に公知の方法、例えば、上記プロモーターに機能的に結合したレポーター遺伝子を含むプラスミドベクター又はウィルスベクター等の適当な組換えベクター(レポーター遺伝子ベクター)を作成し、該ベクターによって真核糸状真菌を形質転換することによって好適に実施することが出来る。「MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子5‘上流領域のプロモーターに機能的に結合したレポーター遺伝子」とは、該プロモーターの転写調節作用によって該レポーター遺伝子が発現することが出来るように、両者がベクター内で結合していることを意味する。更に、異なるプロモーター又はその中の転写制御に関与する特定のシスエレメントを夫々有する複数種類のこのような組換えベクターで形質転換することも可能である。形質転換の結果、このような組換えベクターは宿主ゲノム内に組み込まれるか、又は、プラスミド等としてゲノムとは独立して細胞内に存在することができる。従って、本発明は、こうして作成される、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーターに機能的に結合したレポーター遺伝子を含む組換えベクターによって形質転換された真核糸状真菌自体にも係るものである。尚、このような形質転換菌の宿主となる真核糸状真菌は、各種の栄養要求性株又はその復帰株であっても良い。
【0018】
本明細書において、「プロモーター」とは、真核細胞において一般に転写開始反応の効率に関与するDNA配列を意味し、転写開始位置の40塩基対程度にある転写開始反応自体に関与するDNA領域である狭義のプロモーターに加えて、転写開始反応の効率に影響を与える様々なDNA要素(プロモーター近位配列及び遠位配列(上流制御要素))も含む広義のプロモーターを意味する。このようなプロモーターの一例として、該遺伝子の翻訳開始コドンから上流1Kb内に位置するものを挙げることができる。この領域には、上記広義のプロモーターの各配列が殆ど含まれていると考えられる。但し、本発明で使用する5‘上流領域のプロモーターにこのような要素が全て含まれている必要はない。例えば、本明細書の実施例4に具体的に示されるように、例えば、上記遺伝子の5‘上流の-600〜-1、 -400〜-1、及び-200〜-1領域のような上流1Kb内の領域の一部が欠失した配列にも転写制御に関与する特定のシスエレメントが含まれていると考えられ、そのようなより短い5‘上流領域も本発明のプロモーターに含まれる。
【0019】
尚、このような組換えベクター(又は、プロモーターと機能的に結合したレポーター遺伝子)が複数コピーで宿主ゲノム内に組み込まれることによって、測定感度を更に向上させることが出来る。又は、プロモーター又は該プロモーター中の転写制御に関与する特定のシスエレメントがレポーター遺伝子ベクター中でタンデム化されることにより該レポーター系での検出感度を向上されることも可能である。
【0020】
本発明に於いて、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子のうち、MAPキナーゼ経路に直接含まれるMAPKKK、MAPKK及びMAPKのような各種の蛋白質リン酸化酵素をコードする遺伝子の具体的な例としては、hogA, hogB, mpkA, mpkB, 及びmpkC 等のMAPキナーゼ遺伝子を挙げることが出来る。以下の表1に示されるように、これら遺伝子には、アスペルギルス(Aspergillus)属(例えば、アスペルギルス・ニドランス、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・フミガタス)、ノイロスポラ(Neurospora)属、マグナポルサ (Magnaporthe)属、及び、フザリウム (Fusarium) 属等の本発明の真核糸状真菌において、夫々のオーソロガス遺伝子が存在し、それらの同等の機能を有する遺伝子も本発明におけるMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子に含まれる。
【0021】
【表1】

【0022】
更に、本発明において、5‘上流領域のプロモーターには、上記に挙げられた遺伝子の特定の5‘上流領域のプロモーター配列に限らず、レポーター遺伝子と機能的に結合した場合に、それらと実質的に同等の機能を示すことができる限り、そのような特定の5‘上流領域のプロモーター配列において、例えば、その配列末端等のプロモーターとしての機能に実質的な影響を与えないような部位において、その塩基配列の一部、例えば、数個の塩基が欠失、置換、又は挿入された各種の修飾プロモーター配列も含まれる。
【0023】
このような修飾プロモーター配列の例として、上記の特定の5‘上流領域のプロモーター配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNA配列を挙げることが出来る。ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、更に好ましくは約99%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900mM、pH 6〜8であるような条件を挙げることが出来る。
【0024】
尚、ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0025】
このようなMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーター又はそれらの修飾プロモーター配列は、当業者に公知の任意の方法で容易に調製することが出来る。例えば、寄託されている菌株から実施例で記載した方法によって容易にクローニングすることが出来る。或は、各種のデータベースに記載された真核糸状真菌のゲノム情報に基づき、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーター、例えば、該遺伝子の翻訳開始コドンから上流1Kbまでの塩基配列の一部を当業者に周知の化学合成、部位突然変異法、又は、本発明のプライマーを使用したPCRにより増幅して調製し、該プロモーターとすることが出来る。
【0026】
尚、本発明における組換えベクターには、当業者に公知の各要素、例えば、エンハンサー、マーカー遺伝子、ターミネーター、及び各種制限酵素部位等の当業者に公知の各要素を目的等に応じて適宜含むことが出来る。
【0027】
本発明におけるレポーター遺伝子としては、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色又は赤色蛍光蛋白質遺伝子、EGFP-LacI等の融合体遺伝子、薬剤耐性遺伝子、及び栄養要求遺伝子等の当業者に公知の任意の遺伝子をその目的等に応じて使用することが出来る。β−グルクロニダーゼ遺伝子又はβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を使用した場合には、該遺伝子がコードする蛋白質発現量の変化をその酵素活性量を基質の発色反応で測定することにより、それを指標として該遺伝子の発現量を検出することができる。ルシフェラーゼ遺伝子又は緑色蛍光蛋白質遺伝子を使用した場合には、それがコードする蛋白質が発する蛍光を測定することにより、該遺伝子の発現量の変化を検出することができる。或いは、該レポーター遺伝子がコードする蛋白質とそれに対する特異的抗体との反応を該遺伝子の発現量の変化の指標として検出することもできる。更に、CAT遺伝子をレポーター遺伝子として用いたCATアッセイ(放射能アッセイ)を行うことも出来る。
【0028】
尚、上記形質転換菌は、例えば、プロトプラスト−PEG法、エレクトロポレーション法、Ti−プラスミド法、及びパーティクルガン、並びに、例えば、本明細書の実施例中に記載されているような、それらの各種改良法等のような、当該技術分野において周知の様々な技術及び手段を用いた組換え法によって、本発明の真核糸状真菌を該組換えベクターにより形質転換することによって容易に調製することが出来る。
【0029】
更に、本発明のスクリーニング方法において、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子、特に、MAPキナーゼ経路により転写制御される遺伝子の転写量の変化を、該遺伝子のmRNA量の変化として検出することも可能である。より具体的には、PCRを利用する方法としては、例えば、競合的PCR又はリアルタイムPCR(定量RT-PCR)並びにそれらの各種改良方法等の当業者に公知の方法を挙げることが出来る。或いは、ハイブリダイゼーシンを利用したDNAチップ又はマイクロアレイ等によって、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子のmRNA量の変化を検出することも可能である。
【0030】
例えば、上記の方法におけるMAPキナーゼ経路により転写制御される遺伝子の例として、MAPキナーゼ経路であるhogA経路により制御される遺伝子である、Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノ ムデータベース (http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html)配列のうち、AN0045.2, AN0351.2, AN0379.2, AN3752.2, AN4406.2, AN6792.2, AN7727.2, AN888.2にコードされる遺伝子を挙げることが出来る。
【0031】
更に、同様の遺伝子の例として、MAPキナーゼ経路であるmpkA経路により転写制御される遺伝子である、Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノ ムデータベース(http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html)配列のうち、AN1555.2, AN4390.2, AN3914.2, AN0933.2, AN3053.2, AN6948.2, AN4515.2, AN1155.2, AN5666.2, AN2825.2, AN8421.2, AN0393.2, AN3049.2, AN0383.2, AN1246.2にコードされる遺伝子を挙げることができる。
【0032】
従って、本発明のスクリーニングキットに含まれるものは、その使用方法・目的などに応じて適宜変更する。例えば、本発明キットは、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーター及びレポーター遺伝子を含むプラスミドベクターによって形質転換された真核糸状真菌、及びレポーター遺伝子の発現蛋白質量の測定用試薬・器具を含むものである。このような測定用試薬・器具には、例えば、該蛋白質の酵素活性測定用の試薬、反応液、反応させるためのプレート又は試験管等が含まれる。更に、吸光度又は蛍光測定装置等の各光学測定装置を含むことも出来る。或いは、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子mRNAの測定を行うスクリーニング方法を実施するために使用するキットの測定用試薬・器具には、PCRにおいてそれらmRNAを増幅するためのプライマー及び該PCR反応装置、又はハイブリダーゼーションを利用するキットではDNA又はオリゴヌクレオチド等のプローブが固定された各種基板(ガラス又はシリコン等)等を含むことが出来る。
【0033】
以下、実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの記載によって何等制限されるものではない。尚、実施例における各種遺伝子操作は、Current protocols in molecular biology (edited by Fredrick M. Aausubel et al., 1987) に記載されている方法に従った。
【実施例1】
【0034】
mpkAレポーター
(1) MAPキナーゼ遺伝子 (mpkA) 5' 領域のクローニング
Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノムデータベース (http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html) から mpkA 遺伝子の 5’ 領域の塩基配列情報を取得し、その配列情報を参考に一組のオリゴヌクレオチドを設計した(5‘- TCTGCCTTTCACTATATCTACTAGGAGGCG-3’、 5‘- GCCGGGCGCGTGAGACTGAGATTC-3’)。アスペルギルス・ニドランス FGSC89 株 (Fungal Genetics Stock Center より購入) のゲノム DNA をテンプレートとして PCR 反応を行った。増幅反応は、98℃、 3 分間鋳型 DNA を変性し、96℃、 15 秒間、58℃、20 秒間、72℃, 2 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、 5 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。PCR 用装置は PCR Thermal Cycler PERSONAL (宝酒造) を用いた。この PCR による増幅断片をアガロース電気泳動にて確認を行ったところ約 995 塩基対の増幅が見られた。
【0035】
この増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。この挿入 DNA 断片 を pGEM-T Easy Vector System (Promega) を用いて pGEM-T Easy Vector に連結させ、連結 DNA 溶液を得た。連結 DNA 溶液 10 μl に 10 μl の 10×KCM(1 M KCl、0.3 M CaCl2、0.5 M MgCl2)、7 μl の30%ポリエチレングリコール(#6000)、73μl の滅菌水を加え、よく撹拌した。これを氷中でよく冷却した後、氷上解凍したコンピテントセルを100μl 加え穏やかに撹拌し、氷中で 20 分間、続いて室温で10分間放置した。これに、200 μl の LB液体培地を加え、100 μg / ml のアンピシリンを添加したLB平板培地にまき、37℃で一晩培養した。
【0036】
目的のプラスミドDNAを用いて形質転換した大腸菌の単一のコロニーを 3 ml の100 μg / ml のアンピシリンを添加したLB液体培地に植菌し、37℃で一晩振盪培養した。1.5 ml の培養液を 1.5 mlのエッペンドルフチューブに移して15,000×g で1分間遠心分離し、沈殿を 100 μl の氷冷した TEG (25 mM Tris-HCl、10 mM EDTA、50 mM Glucose、pH 8.0)で懸濁し、これに200 μl の0.2 N NaOH-1% SDS を加えて穏やかに撹拌した後、150 μl の3 M NaOAc pH 5.2 を加えて混合した。これを 15,000×g、4 ℃で5分間遠心分離し上清を回収し450 μl のフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を加えて激しく撹拌した後、15,000×g 、室温で5分間遠心分離し上層を回収した。この溶液に -20 ℃で氷冷した900 μlのエタノールを加えて -20 ℃で10分間放置後、15,000×g で4 ℃で5分間遠心分離した。沈殿を 500 μlの 70 %エタノールでリンスしたのち、乾燥させ、最後に RNase(100 μg / ml)を含む TE(10 mM Tris-HCl、1 mM EDTA、pH 8.0)50 μl に溶解した。得られたプラスミドを EcoR I で切断後、アガロース電気泳動により挿入断片の存在を確認し、このプラスミド中の挿入 DNA 断片を ABI PRISMTM 377 DNA sequencer Long Read (PE Biosystem) のプロトコールに従い、ABI PRISMTM 377 DNA sequencing system (PE Biosystem) にて解析した。こうして得られた、995 塩基対から成るMAPキナーゼ遺伝子 (mpkA)5‘上流領域のプロモーターの塩基配列を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
(2) レポーター遺伝子ベクターの作成
大腸菌 (Escherichia coli) の β-glucuronidase 遺伝子 (uidA) を含むpNGS1プラスミド (Ishida et al. Current Genetics (2000) 37: 373-379)を Pst I, Xba I で消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。 pUC142 プラスミド (Furukawa et al. 2005) 5 μg を Pst I, Xba I で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、TE に溶解したものをベクター DNA 溶液とした。次に、ベクター DNA 1 μg と挿入 DNA 断片 1.5 μg を T4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pUC(N)GUS を得た。
【0039】
pUC(N)GUS プラスミドを BamH I で消化し、大腸菌の uidA 遺伝子とアスペルギルス・オリゼ (Aspergillus oryzae) の α- glucosidase 遺伝子 (agdA) のターミネーターを含む消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。pAUR316 (宝酒造) プラスミド 5 μg を BamH I で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により 5’ 末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後 TE に溶解したものをベクター DNA 溶液とした。次に、ベクター DNA 1 μg と挿入 DNA 断片 1.5 μg を T4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pAURGUS を得た。
【0040】
(1)で作製したプラスミドを Not I で消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene)を用いて DNA を抽出し、これを挿入DNA 断片とした。次に塩基配列中に大腸菌 (Escherichia coli)のβ-glucuronidase 遺伝子 (uidA) とアスペルギルス・オリゼ (Aspergillus oryzae) の α- glucosidase 遺伝子 (agdA) のターミネーターを有するプラスミドpAURGUS DNA 5 μg をNot Iで消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により 5’ 末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後 TE に溶解したものをベクターDNA 溶液とした。次に、ベクター DNA 1μgと挿入DNA 断片1.5μgをT4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。
【0041】
この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミドを得た。得られたプラスミドをBamH I と EcoT22 I で切断後、アガロース電気泳動により挿入断片が目的の方向で挿入されていることを認め、レポーターアッセイプラスミドであるレポーター遺伝子ベクターpAURGUSmpkA の完成を確認した(図 1)。
【0042】
(3) Aspergillus nidulans mpkA 遺伝子破壊株 (mpkAΔ) の造成
Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノムデータベース (http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html) から mpkA 遺伝子を含む上下流域の塩基配列情報を取得し、その配列情報を参考に一組のオリゴヌクレオチドを設計した(5‘- TCTGCCTTTCACTATATCTACTAGGAGGCG-3’、 5‘- TCGGTAAGGACGGACGAAGGTTGAGG-3’)。アスペルギルス・ニドランス FGSC89 株 (Fungal Genetics Stock Center より購入) のゲノム DNA をテンプレートとして PCR 反応を行った。増幅反応は、98℃、 3 分間鋳型 DNA を変性し、96℃、 15 秒間、58℃、20 秒間、72℃, 3 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、 4 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。PCR 用装置は PCR Thermal Cycler PERSONAL (宝酒造) を用いた。この PCR による増幅断片をアガロース電気泳動にて確認を行ったところ約 2900 塩基対の増幅が見られた。
【0043】
この増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。この挿入 DNA 断片 を pGEM-T Easy Vector System (Promega) を用いて pGEM-T Easy Vector に連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pGEMmpkA を得た。
【0044】
次に pGEMmpkA プラスミドを鋳型として QuikChange site-directed mutagenesis 法を用いて Mfe I, Kpn I サイトを導入した。まず、Mfe I サイトを導入する QuikChange site-directed mutagenesis を行った。pGEMmpkA プラスミドを鋳型として以下のように設計したプライマーを用いて変異導入を行った 5‘-GTCTCACGCGCCCcaatTGTCTGACTTAC-3’、5‘-GTAAGTCAGACAattgGGGCGCGTGAGAC-3’。反応は、95℃、 30秒間鋳型 DNA を変性し、95℃、 30 秒間、59℃、1 分間、68℃, 13 分間保持するサイクルを 18 サイクルおこなった後、68℃、 13 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。反応装置は PCR Thermal Cycler PERSONAL (宝酒造) を用いた。その後反応液を Dpn I を加え、鋳型 DNA を消化し、反応液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pGEMmpkA(M) を得た。次に、Kpn I サイトを導入する QuikChange site-directed mutagenesis を行った。pGEMmpkA(M) プラスミドを鋳型として以下のように設計したプライマーを用いて変異導入を行った 5‘-GCTGTTTCGAACTggtACCAAGCTGACGTG-3’、5‘-CACGTCAGCTTGGTaccAGTTCGAAACAGC-3’。以下 Kpn I サイト導入時と同じ方法により pGEMmpkA(MK) プラスミドを得た。
【0045】
Aspergillus oryzaeの argB 遺伝子を含むpAORB プラスミド(pSLtcsB::argB[Furukawa et al. Appl Environ. Microbiol. 68:5304-5310, 2002]と同一 )をEcoR I, Kpn I で消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。pGEMmpkA (MK) プラスミドを Mfe I, Kpn I で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、TE に溶解したものをベクター DNA 溶液とした。次に、ベクター DNA 1 μg と挿入 DNA 断片 1.5 μg を T4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pGEMmpkA::argBを得た。
mpkA 遺伝子破壊のための形質転換はプロトプラスト-PEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミド DNA は上記で作製した pGEMmpkA::argB を Apa I で消化し、直鎖状にしたものを用いた。
【0046】
アスペルギルス・ニドランスFGSC89 株 (ビオチン (biA1), アルギニン (argB2) 要求性株) の分生子懸濁液を YPD 液体培地に添加し、30℃ 、20 時間振盪培養した。培養液よりガラスフィルターを用いて集菌した。菌体を 50 ml 容の遠心チューブに移し、20 ml のプロトプラスト化溶液 (0.8 M NaCl、 10 mM NaH2PO4、 pH 6.0、 10 mg/ml Lysing enzyme (Sigma Chemical Co.)、 5 mg/ml Cellujase Onozuka R-10 (Yakult Pharmaceutical Ind.Co.,Ltd.)、 2.5 mg/ml Yatalase (TaKaRa) )を加え懸濁し、30℃、90 rpm、 3 時間振盪しプロトプラスト化反応を行った。滅菌した MIRACLOTH (CALBIOCHEM) にて濾過し、濾液中のプロトプラストを 3,000 x g , 4℃ , 5 分間遠心分離することで沈澱として得た。0.8 M NaCl にて 1 回プロトプラストを洗浄し、3,000 x g、 4℃ , 5 分間遠心分離することで沈澱として得た。このプロトプラストを 5 x 108 個プロトプラスト/ml になるように Sol. I (0.8 M NaCl、 10 mM CaCl2、 10 mM Tris-HCl、 pH8.0) で懸濁した。プロトプラスト懸濁液を 200 μl ずつ 15 ml 容の遠心チューブに移し、それぞれに Sol. II (40% (w/v) PEG♯4000、50mM CaCl2、 50 mM Tris-HCl、 pH8.0) 40 μl と前述の形質転換用 DNA溶液各 10 μl を加えよく混合し、氷中で 30 分間放置した。1 ml の Sol. II を加え混合し、室温で 20分間放置した。5 ml の Sol. I で 2 回洗浄し、Sol. II をなるべく取り除いた。50℃ に温めておいた終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した Czapek-Dox 軟寒天培地にプロトプラスト懸濁液を加え混合し、終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した Czapek-Dox 寒天培地に重層した。その後、30℃ で分生子を形成するまで培養した。形質転換体からの mpkAΔ 株の選抜は以下のプライマー (5‘-CGTTTCGATTCGAATCTCAGTCTCACGCGC-3’、5‘-GACCACACATCGACTGCATCACGTCAGC-3’) を用いて形質転換体のゲノム DNA に対して PCR を行い、約 2800 bpの増幅断片のみが見られたものをmpkAΔ候補株し、最終的にサザンハイブリダイゼーションにより破壊を確認した。
【0047】
(4) pAURGUS プラスミドを用いたアスペルギルス・ニドランスの形質転換
アスペルギルス・ニドランスの形質転換はプロトプラスト-PEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミド DNA は上記で作製した pAURGUSmpkA、 pAURGUS を用いた。このプラスミド DNA 10μg をエタノール沈澱処理した後 10 μl の TE に溶解し形質転換用 DNA 溶液とした。
【0048】
宿主としてアスペルギルス・ニドランス A89+argB 株 (FGSC89 株 (ビオチン (biA1), アルギニン (argB2) 要求性変異株) に argB 遺伝子を復帰させた株, (3) の方法を用いて造成) と、(3) で造成した mpkAΔ 株を用い、選択培地は 2 μg/ml の Aureobasidin A を添加した potato dextrose 寒天培地 (Nissui) を使用した。分生子形成後、白金針にて分生子柄をかきとり 2 μg/ml の Aureobasidin A を添加した potato dextrose 培地に線引きし、その後、30℃ で分生子を形成するまで培養したものを形質転換株とした。
【0049】
尚、宿主としてアスペルギルス・ニドランス A89+argB 株を用いてpAURGUSmpkAで形質転換して得られた形質転換菌である、Aspergillus nidulans FGSC89+ argB (pAURGUSmpkA)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に2005年3月8日付けで寄託され、受領番号(NITE AP−85)が付されている。
【0050】
(5) レポーター作動の確認
レポーター作動の確認は、キチン合成酵素阻害剤であるカルコフラワーホワイト (ICN Biomedicals,Inc) で菌体を処理した時の β-glucuronidase 活性の増加を観察することによって行った。
A89+argB, mpkAΔ の形質転換株の分生子を2×106 個分生子/ml になるように、終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した 200 ml の Czapek-Dox 液体培地を入れた 500 ml 容坂口フラスコに接種し次の条件で培養した。
(条件 1) 30℃、48 時間培養
(条件 2) 30℃、48 時間培養した後、終濃度200 μg/ml となるようにカルコフラワーホワイト水溶液を添加し、さらに 30℃ で 60, 90 分間培養。
【0051】
菌体をミラクロス(CALBIOCHEM)で集菌し、この回収した菌を乳鉢中で液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで破砕した。800 μl の Lysis buffer (10 mM EDTA、 0.1% (w/v) Triton X-100、 10 mM 2-メルカプトエタノール、 50 mM NaH2PO4、 pH7.0) を入れた 1.5 ml のエッペンドルフチューブにパウダー状の菌体を移し懸濁した。氷上に 30 分間静置後 4 ℃ で 15,000×g, 10 分間遠心し、上清を菌体内粗酵素液とした。
【0052】
2×Reaction buffer (0.2% (w/v) Triton X-100、100 mM NaH2PO4、 pH7.0) 100 μl、20 mM p-Nitrophenyl-β-D-glucuronide (基質) 10 μl、滅菌水 70 μl を混合し、この溶液に菌体内粗酵素液 20 μl を加え 37℃、20 分間反応させた。1 N NaOH 80 μl を加え反応を停止し、415 nm の波長の吸光度を測定した。1 分間に 1 nmol の p-nitrophenol を遊離させる酵素量を 1 U とした。菌体内粗酵素液のタンパク質濃度の測定は BCA Protein Assay Reagent Kit (PIERCE) を用い、添付のマニュアルに従った。
【0053】
その結果、A89+argB 株、mpkAΔ株どちらにおいても pAURGUS を保持させた株では、条件 1, 2 どちらにおいてもほとんど β-glucronidase 活性を示さなかった。一方、A89+argB 株 に pAURGUSmpkA を保持させた株においては、カルコフラワーホワイトを加える前 (条件 1) の状態で高い β-glucronidase 活性を有し、さらに、カルコフラワーホワイトを加えると (条件 2) β-glucronidase 活性が 60分後で約 1.1 倍、90 分後で約 1.2 倍に増加した(図2)。なお、カルコフラワーホワイト処理時にはMpkAがcell integrityのシグナル伝達によりリン酸化されることを、抗p44/42 MAP kinase 抗体(Cell Signalling Technology, Inc., Beverly, Calif.)にて確認した。しかしながら、mpkAΔ 株 に pAURGUSmpkA を保持させた株においては、条件 1, 2 どちらにおいてもほとんど β-glucronidase 活性を示さなかった(図2)。この結果は mpkA 遺伝子の転写制御に MpkA を経由したシグナルが必須であることを意味する。
【0054】
以上より、本発明のレポーターアッセイ系がアスペルギルス・ニドランスの MAPキナーゼ経路である細胞統合経路(cell integrity pathway)の活性化状態を特異的にモニターできるレポーターアッセイ系として動作することが確認された。
【実施例2】
【0055】
hogA遺伝子のレポーター遺伝子としての評価
(1) アスペルギルス・ニドランスhogA 遺伝子破壊株 (hogAΔ) の造成
Broad Institute のアスペルギルス・ニドランスゲノムデータベース (http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html) から hogA 遺伝子を含む上下流域の塩基配列情報を取得し、その配列情報を参考にhogA 遺伝子破壊用プラスミドを以下のようにして作製した。アスペルギルス・ニドランス FGSC89 株 (Fungal Genetics Stock Center より購入) のゲノム DNA をテンプレートとして hogA 遺伝子の 3' 末端断片は、Mun I サイトを導入したプライマー (5'-GGAGAAATTCAATTGGTCTTTCAATGACG-3') 及び Sph I サイトを導入したプライマー (5'-GCCCATACATGCATGCCATAATATCCG-3') を用いて、hogA 遺伝子の 5' 末端断片は、Bln I サイトを導入したプライマー (5'-CCGAGACCCTAGGCAGCAGGTTATACCTCG-3') 及び Kpn I サイトを導入したプライマー (5'-GGGGTCAGAGCGGTACCAGACCAGTCC-3') を用いて PCR を行った。増幅反応は、96℃、 2 分間鋳型 DNA を変性し、96℃、 30 秒間、52℃、30 秒間、72℃, 4 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、 4 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。PCR 用装置は PCR Thermal Cycler PERSONAL (宝酒造) を用いた。この PCR による増幅断片をアガロース電気泳動にて確認を行ったところ、hogA 遺伝子の 3' 末端断片用プライマーでは約 1,300 塩基対、5' 末端断片用プライマーでは約 1,300 塩基対の増幅が見られた。
【0056】
これらの増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、hogA 遺伝子の 3' 末端断片を挿入 DNA 断片 (1)、5' 末端断片を挿入 DNA 断片 (2) とした。
【0057】
アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)の argB 遺伝子を含む pAORB プラスミドを EcoR I, Kpn I で消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片 (3) とした。pSL1180 (Amersham Bioscience) プラスミドを Bln I、 Sph I にて消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、TE に溶解したものをベクター DNA 溶液 (1) とした。ベクター DNA (1) 1 μg と挿入 DNA 断片 (1), (2), (3) 各 1.5 μg を T4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pSLhogA::argB を得た。pSL1180 (Amersham Bioscience) プラスミドに相同組換え選抜のための oliC31 遺伝子を導入したベクター DNA である pSOF31 (東北大学大学院農学研究科・古川健太郎博士より供与) プラスミドを Bln I、 Sph I にて消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、TE に溶解したものをベクター DNA 溶液 (2) とした。pSLhogA::argB プラスミドを Bln I、 Sph I にて消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて約5,000 塩基対の目的の DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片 (4) とした。ベクター DNA (2) 1 μg と挿入 DNA 断片 (4) 1.5 μg を T4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pSOFhogA::argB を得た。
【0058】
hogA 遺伝子破壊のための形質転換はプロトプラスト-PEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミド DNA は上記で作製した pSOFhogA::argB を Sph I で消化し、直鎖状にしたものを用いた。
【0059】
アスペルギルス・ニドランスFGSC89 株 (ビオチン (biA1), アルギニン (argB2) 要求性株) の分生子懸濁液を YPD 液体培地に添加し、30℃ 、20 時間振盪培養した。培養液よりガラスフィルターを用いて集菌した。菌体を 50 ml 容の遠心チューブに移し、20 ml のプロトプラスト化溶液 (0.8 M NaCl、 10 mM NaH2PO4、 pH 6.0、 10 mg/ml Lysing enzyme (Sigma Chemical Co.)、 5 mg/ml Cellujase Onozuka R-10 (Yakult Pharmaceutical Ind.Co.,Ltd.)、 2.5 mg/ml Yatalase (TaKaRa) )を加え懸濁し、30℃、90 rpm、 3 時間振盪しプロトプラスト化反応を行った。滅菌した MIRACLOTH (CALBIOCHEM) にて濾過し、濾液中のプロトプラストを 3,000 x g , 4℃ , 5 分間遠心分離することで沈澱として得た。0.8 M NaCl にて 1 回プロトプラストを洗浄し、3,000 x g、 4℃ , 5 分間遠心分離することで沈澱として得た。このプロトプラストを 5 x 108 個プロトプラスト/ml になるように Sol. I (0.8 M NaCl、 10 mM CaCl2、 10 mM Tris-HCl、 pH8.0) で懸濁した。プロトプラスト懸濁液を 200 μl ずつ 15 ml 容の遠心チューブに移し、それぞれに Sol. II (40% (w/v) PEG♯4000、50mM CaCl2、 50 mM Tris-HCl、 pH8.0) 40 μl と前述の形質転換用 DNA溶液各 10 μl を加えよく混合し、氷中で 30 分間放置した。1 ml の Sol. II を加え混合し、室温で 20分間放置した。5 ml の Sol. I で 2 回洗浄し、Sol. II をなるべく取り除いた。50℃ に温めておいた終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した Czapek-Dox 軟寒天培地にプロトプラスト懸濁液を加え混合し、終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した Czapek-Dox 寒天培地に重層した。その後、30℃ で分生子を形成するまで培養した。形質転換体からの hogAΔ 株の選抜は以下のプライマー (5‘-AAAATGGCGGAATTTGTACG-3’、5‘-ACAGAATGCAACCCACATCA-3’) を用いて形質転換体のゲノム DNA に対して PCR を行い、約 3,000 塩基対の増幅断片のみが見られたものをhogAΔ候補株とし、最終的にサザンハイブリダイゼーションにより破壊を確認した。
【0060】
(2)RNA抽出用菌体の培養
アスペルギルス・ニドランスFGSC89野生株およびhogA破壊株の分生子を1×108 個分生子/ml になるように、終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した 100 ml の Czapek-Dox 液体培地を入れた 500 ml 容三角フラスコに接種し次の条件で培養した。
(条件1) 30℃、24 時間培養した後、Czapek-Dox 液体培地を 25 ml 添加し、さらに 30℃ で 30, 60 分間培養、
(条件2) 30℃、24 時間培養した後、終濃度 0.8 M となるように4 M NaCl を含む Czapek-Dox 液体培地を添加し、さらに 30℃ で 30, 60 分間培養。
【0061】
菌体をミラクロス (CALBIOCHEM) で集菌し、この回収した菌を乳鉢中で液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで破砕した。10 ml の Sepasol-RNA I Super (ナカライテスク) を入れた 50 ml 容チューブにパウダー状の菌体を移し懸濁後、室温で 5 分間放置した。2 ml のクロロホルムを加え激しく撹拌後、室温で 3 分間放置した。7,500xg、4℃ で 15 分間遠心し、水層を 15 ml 容チューブに移し、等量の水飽和酸性フェノール:クロロホルム (1:1) を加え激しく撹拌した。7,500xg、4℃ で 10 分間遠心し、水層を別の 15 ml 容チューブに移し、等量のイソプロパノールを加え、室温で 10 分間放置した。7,500xg、4℃ で 10 分間遠心し、上清を捨て、70% エタノールでリンスした。風乾後、適量の DEPC (diethylpyrocarbonate) 水に溶解し、total RNA 溶液とした。
【0062】
(3)cDNAの合成
cDNA の合成には、total RNA を用いた。260 nm における吸光度からの計算値で 5 μg 量の total RNA を RNase free の 1.5 ml チューブに移し、さらに DEPC 処理水を加え 100 μl とした。これに RNase free DNase I を 5 unit 加え、37℃で 1 時間反応させ混在するゲノム DNA の分解を行った。フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール (25:24:1) を 100 μl 加えて激しく撹拌し、16,500xg、4℃ で 5 分間遠心した。上清を新しい RNase free の 1.5 ml チューブに移し、もう一度同様の操作を行った。再び上清を新しい RNase free の 1.5 ml チューブに移し、クロロホルム・イソアミルアルコール (24:1) を 100 μl 加えて激しく撹拌し、16,500xg、4℃ で 5 分間遠心した。上清を新しい RNase free の 1.5 ml チューブに移し、10 μl の RNase free 3 M 酢酸ナトリウム (pH5.2)、500 μl の 100% エタノールを加え、転倒混和し氷中に 20 分間静置した。その後、16,500xg、4℃ で 15 分間遠心し、上清を除いた。沈殿を 70% エタノールでリンスして十分に液を除いた後、10 μl の DEPC 処理水を加えよく懸濁して total RNA を溶解させた。1 μl の 10 mM dNTP mix と 1 μl の 100 μM Oligo (dT) primer (26 mer) 加え、65℃ で 5 分間加熱後氷中で急冷し、mRNA にプライマーをアニーリングさせた。次に、この反応液に以下のものを加えた。
【0063】
【表3】

【0064】
ピペッティング後、42℃で 2 分間保温し逆転写反応させた。これに、1 μl の SuperScript II RNase H- Reverse Transcriptase (200 unit/μl) を加え、42℃で 50-60 分間保温後、さらに 1 μl の SuperScript II RNase H- Reverse Transcriptase (200 unit/μl) を加え、42℃で 50-60 分間保温した。その後、70℃で15 分間保温することにより SuperScript II RNase H- Reverse Transcriptase を失活させた。1μl の RNase H (2 unit/μl) を加え、37℃で 30 分間保温して cDNA と結合している RNA を分解した。
【0065】
(4)定量 RT-PCR
合成した cDNA の蛍光色素によるラベリング反応には、DyNAmo SYBR Green qPCR Kit (Finnzymes 社製) を用いた。スキャナー解析は、DNA Engine OPTICON2 (MJ Research 社) をデータ解析には、解析ソフト Opticon Monitor2 ver.2.02 (MJ Research 社) を用いた。ラベリング反応操作は、DyNAmo SYBR Green qPCR Kit 添付マニュアルにしたがった。hogA 遺伝子の転写量の変化を高浸透圧ストレス後経時的に調べた。またグリセロール合成酵素 glycerol-3-phosphate dehydrogenase をコードしている GPD1 [Albertyn et al., 1994] のホモログである gfdB の転写量を調べた。コントロールを γ-actin とし、それぞれ以下の特異的プライマーを用いた。
【0066】

γ-actin FW 5'-TCCAGCCTCGAGAAGTCCTA-3'
γ-actin RV 5'-GTATTTGCGCTCAGGAGGAG-3'
hogA FW 5'-ATACCTAGCGCCATACCACG-3'
hogA RV 5'-ATTGGAAACCTTGCTGGTTG-3'
gfdB FW 5'-GGCACACGCTCCAACTTTAT-3'
gfdB RV 5'-GCCGAAAGACTATGCGAGAC-3'

【0067】
1.5 ml チューブに、5 μl の cDNA (cDNA 合成時に用いた total RNA 量で 100 ng 相当)、6 pmol の各標的遺伝子特異プライマー、10 μl の 2xMaster Mix、滅菌水を加え 20 μl とした。専用の PCR チューブ 8-Strip Low Profile Tubes に分注し、8-Strip Ultra Clear Caps (共にMJ Research 社) にてふたをし、DNA Engine OPTICON2 にセットした。反応条件は 95℃、10 分間のヒートショック後、熱変性 95℃、10 秒、アニーリング 60℃、30 秒、伸長反応 72℃、30 秒、プレートリードの反応を 40 サイクル行い、60-95℃のグラジェント (0.2℃おきに 1 秒間 hold) で Melting Curve の作成を行った。設定は γ-actin をスタンダード、hogA、gfdB をサンプルとして設定した。PCR は各 cDNA、各標的遺伝子につき三連で行った。PCR を行うにあたり、各標的遺伝子特異プライマー対と 2×Master Mix のみの反応系を組み、95℃、10 分間のヒートショック後、熱変性 95℃、10 秒、60-95℃のグラジェントで 50 秒、プレートリードの反応を 40 サイクル行い、50-95℃ のグラジェント (0.5℃おきに 2 秒間 hold) で Melting Curve の作成を行い、プライマー同士の非特異的な増幅が起きないことを確認した。
【0068】
PCR 終了後、専用の解析ソフト Opticon Monitor2 ver.2.02 (MJ Research 社) を用いて解析を行った。Quantitation 画面上で各遺伝子の PCR 産物が対数的に増幅し始めるサイクル数 (CT) を決定した。この値をもとに各 cDNA の標的遺伝子の相対発現量を以下の計算方法から求めた。
a) ΔCT 値の算出 (各 cDNA の標的遺伝子とγ-actin との差)
ΔCT = (y-x)
x : CT (γ-actin)、y : CT (Target gene)
b) ΔCT 値の算出 (ある cDNA のΔCT と基準とする cDNA の ΔCT との差)
ΔCT =ΔCT (C) -ΔCT (S)
C : Comparative cDNA、S : Standard cDNA
c) 相対発現量の算出
2-(ΔCT)
【0069】
また、 Melting Curve の波形から正しく増幅されていることを確認し、さらに PCR 産物をアガロースゲル電気泳動に供し、目的の大きさに増幅されていることを確認した。
【0070】
RT-PCR の結果をhogA 遺伝子については図3Aに、グリセロール合成酵素 glycerol-3-phosphate dehydrogenase をコードしている gfdB 遺伝子については 図3Bに γ-actin 当たりの発現量をグラフ化したものを示した。Wild-type を高浸透圧ストレスに曝すと、hogA の転写量は浸透圧刺激直後から増加しはじめ、30-60 分で最大に達した。これより HogA は自身によってその遺伝子発現量を制御している、すなわち、自己調節していると考えられる。一方、gfdB 遺伝子は wild-type でのみ発現量が劇的に上昇し、その変化は HogA に依存していると考えられた。よって、例えば、hogA及びgfdB遺伝子の5’-UTR(5‘上流領域のプロモーター)はレポーター遺伝子と機能的に結合させることによって、本発明のスクリーニング方法において、MAPキナーゼ経路の一つであるHOG経路におけるこれら遺伝子の転写量の変化を検出することによって、試験物質のMAPキナーゼ経路の活性化作用又は阻害作用を検出することができることが確認された。
【実施例3】
【0071】
Aspergillus nidulans rlmA 遺伝子破壊株 (rlmAΔ) の造成
Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノムデータベース (http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html) から rlmA 遺伝子を含む上下流域の塩基配列情報を取得し、その配列情報を参考に一組のオリゴヌクレオチドを設計した(5‘- GTCTCGGTCTTTATCGTTCCCAAGG-3’、 5‘- AGACGTCCTGAAGTAGAGTACCATACCC-3’)。アスペルギルス・ニドランス FGSC89 株 (Fungal Genetics Stock Center より購入) のゲノム DNA をテンプレートとして PCR 反応を行った。増幅反応は、95℃、3 分間鋳型 DNA を変性し、95℃、15 秒間、58℃、20 秒間、72℃, 3 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、4 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。PCR 用装置は PCR Thermal Cycler PERSONAL (宝酒造) を用いた。この PCR による増幅断片をアガロース電気泳動にて確認を行ったところ約 2600 塩基対の増幅が見られた。
【0072】
この増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。この挿入 DNA 断片 を pGEM-T Easy Vector System (Promega) を用いて pGEM-T Easy Vector に連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で上記と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pGEMrlmA を得た。
【0073】
次に pGEMrlmA プラスミドを鋳型として QuikChange site-directed mutagenesis 法を用いて Mfe I, Kpn I サイトを導入した。まず、Mfe I サイトを導入する QuikChange site-directed mutagenesis を行った。pGEMrlmA プラスミドを鋳型として以下のように設計したプライマーを用いて変異導入を行った 5‘-CCACGTCCTCCTCAATTgGCGCATTATGGG-3’、5‘-CCCATAATGCGCcAATTGAGGAGGACGTGG-3’。反応は、95℃、 30秒間鋳型 DNA を変性し、95℃、 30 秒間、61℃、1 分間、68℃, 12 分間保持するサイクルを 18 サイクルおこなった後、68℃、 12 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。反応装置は PCR Thermal Cycler PERSONAL (宝酒造) を用いた。その後反応液を Dpn I を加え、鋳型 DNA を消化し、反応液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pGEMrlmA(M) を得た。次に、Kpn I サイトを導入する QuikChange site-directed mutagenesis を行った。pGEMrlmA(M) プラスミドを鋳型として以下のように設計したプライマーを用いて変異導入を行った 5‘-CATCCACAACAGCggtACCCACAGCATCAC-3’、5‘-GTGATGCTGTGGGTaccGCTGTTGTGGATG-3’。以下 Kpn I サイト導入時と同じ方法により pGEMrlmA(MK) プラスミドを得た。
【0074】
Aspergillus oryzaeの argB 遺伝子を含む pAORB プラスミドをEcoR I, Kpn I で消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。pGEMrlmA (MK) プラスミドを Mfe I, Kpn I で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、TE に溶解したものをベクター DNA 溶液とした。次に、ベクター DNA 1 μg と挿入 DNA 断片 1.5 μg を T4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pGEMrlmA::argBを得た。
【0075】
pGEMrlmA::argB プラスミドを Pst I, Apa I で消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、これを挿入 DNA 断片とした。pSL1180 (Amersham Bioscience) プラスミドに相同組換え選抜のための oliC31 遺伝子を導入したベクター DNA である pSOF31 (東北大学大学院農学研究科・古川健太郎博士より供与) プラスミドを Pst I, Apa I で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、TE に溶解したものをベクター DNA 溶液とした。次に、ベクター DNA 1 μg と挿入 DNA 断片 1.5 μg を T4 DNA ライゲース (宝酒造)により連結させ、連結 DNA 溶液を得た。この連結 DNA 溶液で (1) と同様に大腸菌を形質転換しプラスミド pSOFrlmA::argBを得た。
【0076】
rlmA 遺伝子破壊のための形質転換はプロトプラスト-PEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミド DNA は上記で作製した pSOFrlmA::argB を Apa I で消化し、直鎖状にしたものを用いた。
【0077】
アスペルギルス・ニドランスFGSC89 株 (ビオチン (biA1), アルギニン (argB2) 要求性株) の分生子懸濁液を YPD 液体培地に添加し、30℃ 、20 時間振盪培養した。培養液よりガラスフィルターを用いて集菌した。菌体を 50 ml 容の遠心チューブに移し、20 ml のプロトプラスト化溶液 (0.8 M NaCl、 10 mM NaH2PO4、 pH 6.0、 10 mg/ml Lysing enzyme (Sigma Chemical Co.)、 5 mg/ml Cellujase Onozuka R-10 (Yakult Pharmaceutical Ind.Co.,Ltd.)、 2.5 mg/ml Yatalase (TaKaRa) )を加え懸濁し、30℃、90 rpm、 3 時間振盪しプロトプラスト化反応を行った。滅菌した MIRACLOTH (CALBIOCHEM) にて濾過し、濾液中のプロトプラストを 3,000 x g , 4℃ , 5 分間遠心分離することで沈澱として得た。0.8 M NaCl にて 1 回プロトプラストを洗浄し、3,000 x g、 4℃ , 5 分間遠心分離することで沈澱として得た。このプロトプラストを 5 x 108 個プロトプラスト/ml になるように Sol. I (0.8 M NaCl、 10 mM CaCl2、 10 mM Tris-HCl、 pH8.0) で懸濁した。プロトプラスト懸濁液を 200 μl ずつ 15 ml 容の遠心チューブに移し、それぞれに Sol. II (40% (w/v) PEG♯4000、50mM CaCl2、 50 mM Tris-HCl、 pH8.0) 40 μl と前述の形質転換用 DNA溶液各 10 μl を加えよく混合し、氷中で 30 分間放置した。1 ml の Sol. II を加え混合し、室温で 20分間放置した。5 ml の Sol. I で 2 回洗浄し、Sol. II をなるべく取り除いた。50℃ に温めておいた終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した Czapek-Dox 軟寒天培地にプロトプラスト懸濁液を加え混合し、終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した Czapek-Dox 寒天培地に重層した。その後、30℃ で分生子を形成するまで培養した。形質転換体からの rlmAΔ 株の選抜は以下のプライマー (5‘- CGTCATCGAGGAATCACCTACGTCGCG-3’、5‘- CTCGGTCTTGACGCTTGCATTGTCCCC-3’) を用いて形質転換体のゲノム DNA に対して PCR を行い、約 2800 bpの増幅断片のみが見られたものをrlmAΔ候補株とし、最終的にサザンハイブリダイゼーションにより破壊を確認した。
【0078】
rlmA Δ株における細胞壁関連遺伝子のノーザンブロット解析
アスペルギルス・ニドランスFGSC89株(野生株)およびrlmA破壊株の分生子を 2×106 個分生子/ml になるように、終濃度 0.02 μg/ml のビオチンを添加した 200 ml の Czapek-Dox 液体培地を入れた 500 ml 容三角フラスコに接種し次の条件で培養した。
(条件 1) 30℃、24 時間培養
(条件 2) 30℃、24 時間培養した後、終濃度 200 μg/ml となるようにカルコフラワーホワイト水溶液を添加し、さらに 30℃ で 30 分間培養。
【0079】
菌体をミラクロス (CALBIOCHEM) で集菌し、この回収した菌を乳鉢中で液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで破砕した。10 ml の Sepasol-RNA I Super (ナカライテスク) を入れた 50 ml 容チューブにパウダー状の菌体を移し懸濁後、室温で 5 分間放置した。2 ml のクロロホルムを加え激しく撹拌後、室温で 3 分間放置した。7,500 x g、4℃ で 15 分間遠心し、水層を 15 ml 容チューブに移し、等量の水飽和酸性フェノール:クロロホルム (1:1) を加え激しく撹拌した。7,500xg、4℃で 10 分間遠心し、水層を別の 15 ml 容チューブに移し、等量のイソプロパノールを加え、室温で 10 分間放置した。7,500 x g、4℃で 10 分間遠心し、上清を捨て、70% エタノールでリンスした。風乾後、適量の DEPC (diethylpyrocarbonate) 水に溶解し、total RNA 溶液とした。次に Oligotex-dT30〈Super〉mRNA Purification Kit (From Total RNA) (タカラバイオ (株)) を用い、添付のマニュアルに従い tatal RNA 溶液から mRNA を精製した。
【0080】
アガロースゲル電気泳動は変性ゲルにて行った。まず、アガロースゲルは濃度 1% となるように 1 x MOPS buffer にて溶解し、60℃にまで温度が下がったところで最終量の 5.5% となるようにホルムアルデヒドを加えゲルを作製した。野生株、rlmAΔ株それぞれ条件1, 2 の mRNAを1レーンあたり 500 ng になるようにサンプルを調製した (mRNA サンプル 7.8 μl, 20 x MOPS buffer 2 μl, ホルムアルデヒド 2.2 μl, ホルムアミド 20 μl)。これを 70℃ にて 10 分間加熱し、RNA を変性させ、氷上にて急冷、フラッシュした後 3 μl の 10 x ローディングダイを加え、変性ゲルにアプライし電気泳動を行った。泳動 buffer には 1 x MOPS buffer を用いた。アガロース電気泳動後、ナイロンメンブランへ 7.5 mM NaOH を用いたアルカリトランスファーを一晩行った後、2 x SSC にて軽く洗浄した。
【0081】
解析を行う遺伝子は、mpkA, gelA, gelB, fksA とし、コントロールとして Histone H2B 遺伝子を用いた。酵母S. serevisiaeにおいてはそれらの相同遺伝子MPK1, GEL1, GEL2, GFA1の転写がRlm1pにより制御を受けることが知られている(Mol. Microbiol. 46: 781-789, 2002)。mpkA, gelA, gelB, fksA遺伝子のプローブ作製のため、アスペルギルス・ニドランスFGSC89株のゲノム DNA を鋳型に以下のプライマーを用いて PCR を行った。mpkA; 5'- AGTCTCAAGCTTCCGGCATGTCTGACTTAC-3’ 5'- CCAACGCTCGAGTAATTACGCATCCATCC -3', 増幅反応は、95℃、 3 分間鋳型 DNA を変性し、95℃、 15 秒間、58℃、20 秒間、72℃, 2 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、 3 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。gelA; 5'- ATGAAGGGCTCCAGCATCGCGGC -3' 5'- TTAGAAAAAGACAACACCAGCGCCGACG -3', 増幅反応は、98℃、 3 分間鋳型 DNA を変性し、96℃、 15 秒間、61℃、20 秒間、72℃, 2 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、 3 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。gelB; 5'- CGCTCATCTACATACAAAATGATCCCC -3' 5'- CTATAGCATGACCAAACCAAAAAGGGTAGC -3', 増幅反応は、98℃、3 分間鋳型 DNA を変性し、96℃、 15 秒間、59℃、20 秒間、72℃, 2 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、 3 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。fksA; 5'- CATTTGGTTCTGGGTCTCTCTTCTCGCCC -3' 5'- GTTCAGATCCTGATTTCTGGCAATGAGGGG -3', 増幅反応は、98℃、 3 分間鋳型 DNA を変性し、96℃、 15 秒間、60℃、20 秒間、72℃, 1 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、2 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。Histone H2B; 5'- CTTTTAAAATGCCTCCCAAAGCTGCCG -3' 5'- CGAGAAAAGCCTATTTGGCAGATGAGG -3', 増幅反応は、98℃、 3 分間鋳型 DNA を変性し、96℃、 15 秒間、57℃、20 秒間、72℃, 1 分間保持するサイクルを 30 サイクルおこなった後、72℃、 2 分間で完全伸長させ、4℃ で保持した。PCR 用装置は PCR Thermal Cycler PERSONAL (宝酒造) を用いた。この PCR による増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中より GENECLEAN III キット (Qbiogene) を用いて DNA を抽出し、増幅断片をプローブの鋳型 DNAとした。これらプローブの鋳型 DNAを [32P] dCTP (Amersham Biosciences 社) で標識した。標識には rediprimeTMII random prime labeling system (Amersham Biosciences 社) を用いて添付のマニュアルに従って行った。
【0082】
Rapid-Hyb Buffer (Amersham Biosciences 社) をメンブランとともにハイブリバッグに入れ、60℃, 15 分プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブ溶液を 14 μl 加え、さらに 2 時間ゆっくりと振盪させハイブリダイゼーションを行った。反応後、メンブランをハイブリダイゼーションバッファーから取り出し、2×SSC/0.1% SDS で室温 15 分間、1×SSC/0.1% SDS で 65℃、15 分間の洗浄を 2 回繰り返した。洗浄の終了したメンブランは、シーラーを用いてポリエチレン袋に封入し、Imaging Plate (Type BAS-MS、FUJIFILM) に 3 時間あててバイオイメージングアナライザー (FLA-2000, FUJIFILM) でシグナルを確認した。その結果を表4に示した。その際、HistoneH2Bの発現量を校正用コントロールとして計算し、野生株(wild type)の各遺伝子の発現量を100%とした時のrlmAΔ株での発現量を%で示した。
【0083】
この結果、rlmAΔ株においてもこれら遺伝子発現は若干低下するものの十分な発現量が観察された。またカルコフラワーホワイト添加においては、野生株と同等の発現が認められ、これらの遺伝子の転写制御が殆どRlmAに依存しないことが示された。またrlmAΔ株は野生株と殆ど同じ表現型であった。以上、糸状菌においては酵母Rlm1pとは全く異なり、糸状菌RlmAはcell integrity経路の主要な転写制御因子ではないことが示され、cell integrity経路作動性薬剤のスクリーニングには、RlmAの標的遺伝子よりは、mpkA遺伝子の5’-UTRなどの遺伝子が適していることが明らかとなった。このように、gelA, gelB, fksA等のMAPキナーゼ経路により活性化される転写制御因子により転写が制御される一方で、RlmAによる転写制御には実質的に依存していない遺伝子は、本発明のスクリーニング方法におけるMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子として好適に使用し得ることが確認された。
【0084】
【表4】

【実施例4】
【0085】
(1)PgfdB-GUS レポーター(レポーター遺伝子ベクター)の作成
Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノ ムデータベース(http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html)の中のAN6792.2であるグリセロール3‐リン酸デヒドロゲナーゼ gfdB 遺伝子の 5’ 上流領域 1,000 bp を以下のプライマー5’-GGATGCCGTGGAATTCGCGAAGAAATGTACG-3’ と 5’-CTTTGTTGGGAATTCAGTGTGCGGGATGTC-3’ (下線部に EcoRI 含む)を用いて PCR で増幅した。PCR 産物を EcoRI で消化し、pGEM-T Easy の EcoRI サイトにサブクローニングしてpGEM-PgfdBを得た。次いでpGEM-PgfdB を NotI-NotI で消化し PgfdB(gfdBの5’ 上流領域 1,000 bp) を切り出し、pNA(N)GUS の NotI サイトへ導入しpNA(N)GUS/PgfdBを作製した。なおpNA(N)GUS は、pUC(N)GUS を BamHI-BamHI で消化した後に GUS-TagdA 断片を切り出し、pNA316 (pAUR316(TaKaRa製)をSacIIとBamHIで消化し、T4 DNA polymerase(TaKaRa)により突出末 端を平滑化した後、セルフライゲーションさせて作製) の BglII サイトへ導入して作製した。
【0086】
(2)PgfdB 欠失体及び欠失体発現プラスミド導入株の作製
1000 bp 長の PgfdB を deletion 0 (d0) とし、以下の 20 種類の欠失レポータープラスミド (d1〜d4) を作成した。即ち、pNA(N)GUS/PgfdB を鋳型とし、以下に記載のプライマーを用いて Stratagene社のQuikChange法 で変異導入した。尚、d1〜d4 は Aor51HI サイト (下線部) を変異導入し、ベクター上の Aor51HI サイトとセルフライゲーションすることで、欠失プラスミド(レポーター遺伝子ベクター)を作製した。
【0087】
d1 (-800〜-1)
5’-GAAATCACGGGTGAAAGCGCTGACCATTGCGAACCTTC-3’ と 5’-GAAGGTTCGCAATGGTCAGCGCTTTCACCCGTGATTTC-3’
d2 (-600〜-1)
5’-GGGGGTGAGGGGCGAGCGCTCATAGTGCCGATACAATAG-3’ と 5’-CTATTGTATCGGCACTATGAGCGCTCGCCCCTCACCCCC-3’
d3 (-400〜-1)
5’-GATGGGCAGCCGGGGAGCGCTGTTTCTTATCAGTTATC-3’ と 5’-GATAACTGATAAGAAACAGCGCTCCCCGGCTGCCCATC-3’
d4 (-200〜-1)
5’-CGCCAACACATCGAGAGCGCTTGCCGTAAGGGTTGC-3’ と 5’-GCAACCCTTACGGCAAGCGCTCTCGATGTGTTGGCG-3’
【0088】
上記プラスミドにおいて、オーレオバシジン耐性遺伝子 aurA 内に存在する BssHI サイトで直鎖状に切断した断片を用いて、A. nidulans A89+argB (正式には RB89) 株の形質転換を行った。オーレオバシジン耐性株を選抜し、PCR により遺伝子導入を確認した。
【0089】
(3)PgfdB-EGFP-LacIレポーター(レポーター遺伝子ベクター)の作製
pUC(N)GUS の SalI-XbaI サイトで GUS 遺伝子と EGFP-LacI (p3'SS d EGFP と大腸菌LacI融合体) を入れ替えたpUC(N)EGFPを作製した。次いでpUC(N)EGFP の EGFP 内の BamHI サイトをアミノ酸配列を変えないようにプライマー5’-GCAGCCCGGGGGCTCCATGGTGAAACと 5’-GTTTCACCATGGAGCCCCCGGGCTGC-3’を用いて QuikChange で欠失させた pUC(N)EGFP-Bamを作製した。さらにpUC(N)EGFP-Bam を BamHI-BamHI で消化し EGFP-LacI-TagdA 断片を切り出し、pNA316 の BglII サイトへ導入 してpNA(N)EGFPを作製した。pGEM-PgfdB を NotI-NotI で消化し PgfdB を切り出し、pNA(N)EGFP の NotI サイトへ導入 してpNA(N)EGFP/PgfdBを得た。pNA(N)EGFP/PgfdB を鋳型とし、以下のプライマーを用いて上記 d3 (-400〜-1) と同様に欠失プラスミドを作製した (pNA(N)EGFP/PgfdB-del3)。5’-GATGGGCAGCCGGGGAGCGCTGTTTCTTATCAGTTATC-3’ と 5’-GATAACTGATAAGAAACAGCGCTCCCCGGCTGCCCATC-3’
【0090】
上記プラスミドにおいて、オーレオバシジン耐性遺伝子 aurA 内に存在する NdeI サイトで直鎖状に切断した断片を用いて、A. nidulans A89+argB (正式には RB89) 株の形質転換を行った。オーレオバシジン耐性株を選抜し、PCR により遺伝子導入を確認した。
【0091】
(4)GUS アッセイ方法及び結果
GUS アッセイは、本明細書の実施例1(4)の「レポーター作動の確認」に記載した方法に準じて実施した。但し、レポーター活性化の手段として、カルコフラワーホワイトに代えて終濃度 20 μg/ml のフルジオキソニル又は 1.0 M NaCl を添加し、150 分後に菌体回収をした。また、活性測定は 37℃ で 2 時間反応させた。他の条件はすべて同じとした。その結果、PgfdB(d0)-GUS 形質転換体において、basal レベル(フルジオキソニル刺激無し)の GUS 活性はほとんど検出されなかった。(図4)。また、PgfdB(d0)-GUS 形質転換体において、フルジオキソニル処理で約 10 倍、1.0 M NaCl 処理で約 5 倍に GUS 活性が上昇した。一方で、hogA△ を宿主とした場合には、GUS 活性の上昇は全く見られなかった。以上の結果から、PgfdB-GUS レポーターは AnHOG 経路のシグナル作動性薬剤のスクリーニングに利用できることが確認された。
【0092】
更に、PgfdB(d3)-GUS 形質転換体は、PgfdB(d0)-GUS 形質転換体よりも刺激後の GUS 活性が約 3 倍高かった。この結果より、PgfdB(d3)-GUS 形質転換体は PgfdB(d0)-GUS 形質転換体よりも AnHOG 経路のシグナル作動性薬剤のスクリーニングに有効であると言える。
【0093】
(5)X-Gluc を基質に用いた青白判定 (タイタープレートの場合)
96 ウェルのタイタープレートに CD ビオチン液体培地 290 μl、X-Gluc 0.3 μl、形質転換体から調製した胞子懸濁液 10 μl (100,000 コ) の混合液を加え、30℃ で 24〜48 時間培養。フルジオキソニルを0/0.1/0.25/0.5/1/2.5/5/10/15/20μg/ml濃度で添加し、菌体が青色を呈するのを観察した。フルジオキソニル添加 24 時間後、PgfdB(d0)-GUS 形質転換体は青色を呈し、PgfdB(d3)-GUS ではこれよりも濃く青色を呈した。(図5)。hogA△ を宿主とした場合には、全く青色を呈さなかった。以上の結果から、PgfdB-GUS レポーターは AnHOG 経路のシグナル作動性薬剤のスクリーニングに利用できると言える。
【0094】
(6)EGFP-LacI 蛍光観察
8 ウェルのスライドガラスに CD ビオチン液体培地 150 μl、形質転換体から調製した胞子懸濁液 10 μl (250 コ) の混合液を加え、30℃ で 24 時間培養。終濃度 2 μg/ml のフルジオキソニルを添加し、経時的に EGFP-LacI 蛍光を観察した 。フルジオキソニル添加 3 時間後、PgfdB(d0)-EGFP 形質転換体において、核に局在した EGFP-LacI 蛍光が観察され、PgfdB(d3)-EGFP ではこれよりも強い蛍光が観察された。hogA△ を宿主とした場合には、全く蛍光が観察されなかった(図6)。以上の結果から、PgfdB-EGFP-LacIレポーターは AnHOG 経路のシグナル作動性薬剤のスクリーニングに利用できると言える。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のスクリーニング系はシグナル伝達系作動性抗真菌剤の高速かつ高効率な評価系を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】レポーターアッセイプラスミドであるレポーター遺伝子ベクター pAURGUSmpkA の構築の概略を示す図である。
【図2】カルコフラワーホワイト処理によるβ‐グロクロニダーゼ活性の変化を示すグラフである。
【図3】浸透圧刺激後のhogA及びgfdB遺伝子のRT−PCRの結果を示すグラフである。
【図4】PgfdB-GUSの欠失シリーズのGUSアッセイの結果を示す。
【図5】X-Gluc を基質に用いた青白判定 (タイタープレートの場合)によるレポーターアッセイの結果を示す写真である。
【図6】gfdBプロモーター及び核移行型EGFPを用いたレポーターアッセイの結果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核糸状真菌におけるMAPキナーゼ経路の活性化作用又は阻害作用を有する試験物質のスクリーニング方法であって、真核糸状真菌をMAPキナーゼ経路が活性化される通常の条件下で試験物質に暴露させ、該暴露によるMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の変化を検出し、該MAPキナーゼ遺伝子の転写量の増加又は減少が試験物質のMAPキナーゼ経路の活性化作用又は阻害作用を示すものである、前記方法。
【請求項2】
MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の増加又は減少がMAPキナーゼ経路におけるシグナル伝達により自己調節又は調節された結果である、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーターに機能的に結合されたレポーター遺伝子の発現蛋白質量の変化を測定し、それを指標としてMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の変化を検出する、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーター又はその中の転写制御に関与する特定のシスエレメントがタンデム化されている、請求項3記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
真核糸状真菌がMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーターに機能的に結合したレポーター遺伝子を含む組換えベクターによって形質転換されたものである、請求項3又は4記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
5‘上流領域のプロモーターがMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の翻訳開始コドンから上流1Kbまでの塩基配列の一部である、請求項3〜5の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
レポーター遺伝子が、β−グルクロニダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色又は赤色蛍光蛋白質遺伝子、薬剤耐性遺伝子、及び栄養要求遺伝子からなる群から選択されたものである、請求項3〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
β−グルクロニダーゼ遺伝子又はβ−ガラクトシダーゼ遺伝子の発現蛋白質量の変化を該蛋白質の酵素活性量により測定する、請求項7記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の変化を測定し、それを指標としてMAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の転写量の変化を検出する、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
mRNA量を定量RT-PCRで行う、請求項9記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子がMAPキナーゼ遺伝子である、請求項1〜10の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
MAPキナーゼ遺伝子が、hogA, hogB, mpkA, mpkB, 及びmpkC から成る群から選択される、請求項11記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子がMAPキナーゼ経路により転写制御される遺伝子である、請求項1〜10の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
MAPキナーゼ経路により転写制御される遺伝子が、Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノ ムデータベース (http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html)配列のうち、AN0045.2, AN0351.2, AN0379.2, AN3752.2, AN4406.2, AN6792.2, AN7727.2, AN888.2, にコードされる遺伝子である、請求項13記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
MAPキナーゼ経路により転写制御される遺伝子が、Broad Institute のアスペルギルス・ニドランス (Aspergillus nidulans) ゲノ ムデータベース(http://www.broad.mit.edu/annotation/fungi/aspergillus/index.html)配列のうち、AN1555.2, AN4390.2, AN3914.2, AN0933.2, AN3053.2, AN6948.2, AN4515.2, AN1155.2, AN5666.2, AN2825.2, AN8421.2, AN0393.2, AN3049.2, AN0383.2, AN1246.2にコードされる遺伝子である、請求項13記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のスクリーニング方法を実施するために使用するキットであって、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーター及びレポーター遺伝子を含むプラスミドベクターによって形質転換された真核糸状真菌、及びレポーター遺伝子の発現蛋白質量の測定用試薬・器具を含む該キット。
【請求項17】
請求項13〜15のいずれか一項に記載のスクリーニング方法を実施するために使用するキットであって、MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子のmRNA測定用試薬・器具を含む該キット。
【請求項18】
MAPキナーゼ経路に関連する遺伝子の5‘上流領域のプロモーターに機能的に結合したレポーター遺伝子を含む組換えベクターによって形質転換された真核糸状真菌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−280372(P2006−280372A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65281(P2006−65281)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】