説明

抗コリン作動薬を含む再発性多発軟骨炎を含む気管気管支軟化症の治療剤

【課題】 気管気管支軟化症及び再発性多発軟骨炎の治療剤を提供する。
【解決手段】 上記の課題は,抗コリン作動薬を有効成分として含む,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤により解決される。抗コリン作動薬の好ましい例は,チオトロピウム,臭化チオトロピウム,又はチオトロピウム臭化物水和物である。そして,治療剤の剤型の好ましい例は,吸引型の剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,抗コリン作動薬を有効成分として含む,再発性多発軟骨炎を含む気管気管支軟化症の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
気管気管支軟化症は様々な原因で引き起こされるが,典型的な疾患である再発性多発軟骨炎は気管気管支軟化症などの気道病変を惹起する原因不明の疾患である。再発性多発軟骨炎は,軟骨組織や結合組織に痛みとともに破壊的な炎症を起こす。
【0003】
再発性多発軟骨炎に由来する気道病変の例は,気管気管支壁肥厚及び狭窄,気管気管支軟化症による気道閉塞である。再発性多発軟骨炎に由来する気管気管支軟化症に罹患すると,気道軟骨とその周囲の気道粘膜に炎症を生じ,気道が狭窄し,軟化する。そして,症状が重篤化すると,気道が閉塞するため,生命を脅かす事態へと発展し得る。気管気管支軟化症に対しては,ステントを用いた治療方法が提案されている(下記非特許文献1)。しかし,再発性多発軟骨炎による気管気管支軟化症に対する治療剤を用いた治療体系は,確立していない。このため,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤が望まれた。
【0004】
特開2008−063319号公報(下記特許文献1)には,臭化チオトロピウムを有効成分とする抗喘息薬が開示されている。
【0005】
スピリーバ(登録商標)は,チオトロピウム臭化物水和物を有効成分とする慢性閉塞性肺疾患の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解のための剤である(非特許文献2)。スピリーバ(登録商標)のターゲットは,ムスカリン受容体M3アンタゴニストである。そして,スピリーバ(登録商標)のパスウェイは,カルシウムシグナル伝達経路,神経刺激性リガンドとレセプターの相互作用,アクチン細胞骨格の制御,唾液の分泌,胃酸の分泌及び膵液の分泌とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−063319号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】宮沢輝臣ら「気管気管支軟化症による機能的気道狭窄のステント留置」呼吸と循環 53(5), 517-522, 2005-05
【非特許文献2】スピリーバ(登録商標)の添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は,再発性多発軟骨炎による気道病変の治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,基本的には,抗コリン作動薬を有効量含む剤が,再発性多発軟骨炎,及び再発性多発軟骨炎による気管気管支軟化症を改善できたという実施例に基づくものである。
【0011】
本発明の第1の側面は,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤に関する。そして,これら本発明の治療剤は,抗コリン作動薬を有効成分として含む。
【0012】
抗コリン作動薬の例は,チオトロピウム,イプラトロピウム,オキシトロピウム,アトロピン・メチルナイトレート,グリコピロニウム,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,アトロピン,ホマトロピン,スコポラミン,ロートエキス,ダツラエキス,メチルベナクチジウム,プロパンテリン,その薬学的に許容される塩,又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物である。
【0013】
本発明の治療剤における,抗コリン作動薬の好ましい例は,チオトロピウム,チオトロピウム臭化物,又はチオトロピウム臭化物水和物である。チオトロピウム臭化物水和物は,スピリーバ(登録商標)として販売されている。チオトロピウム臭化物水和物は,生体内で,チオトロピウムを生じさせると考えられる。
【0014】
本発明の治療剤の好ましい態様は,再発性多発軟骨炎に起因する気道病変の治療剤である。この治療剤も,抗コリン作動薬を有効成分として含む。この態様は,再発性多発軟骨炎に起因する気管気管支軟化症,又は再発性多発軟骨炎に起因する気道病変の改善に特に有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤を提供できる。
【0016】
本発明によれば,再発性多発軟骨炎による気道病変の治療剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は,本発明の治療剤の投与前及び投与後の気管気管支壁の様子を示す図面に替わる写真である。
【図2】図2は,気管切開時の気管軟骨組織所見を示す気管壁切片のHE染色写真(図2(a))及びMasson染色写真(図2(b))である。
【図3】図3は,症例1における患者の臨床経過を示す。
【図4】図4は,治療前後の3D−CT所見を示す図である。図4(a)は,薬剤投与を開始する前の3D−CT所見を示し,図4(b)は薬剤投与から1ヶ月後の3D−CT所見を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の側面は,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤に関する。そして,これら本発明の治療剤は,抗コリン作動薬を有効成分として含む。
【0019】
気管気管支軟化症は,例えば,気管支軟骨の脆弱化,上部気道の脆弱化による気道狭窄,気管支の近くにある大動脈による圧迫,及び気管の発育異常により惹起される疾患である。気管気管支軟化症により,軟化した気管・気管支は,気道軟骨とその周囲の気道粘膜に炎症を生じ,気道が狭窄する。本発明の治療剤は,特に再発性多発軟骨炎により惹起された気管気管支軟化症の治療に特に有効である。
【0020】
再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis)は,再発性多発性軟骨炎ともよばれる疾患である。再発性多発軟骨炎は,軟骨の肥大をもたらす。本発明の治療剤は,再発性多発軟骨炎による軟骨の肥大防止に有効である。本発明の再発性多発軟骨炎の治療剤の好ましい態様は,再発性多発軟骨炎に起因する気道病変の治療剤である。本発明の治療剤は,再発性多発軟骨炎に起因する気管気管支軟化症,又は再発性多発軟骨炎に起因する気道病変の改善に特に有効である。再発性多発軟骨炎に起因する気道病変の例は,気管気管支壁肥厚,気管気管支壁,及び気道閉塞である。
【0021】
抗コリン作動薬の例は,チオトロピウム,イプラトロピウム,オキシトロピウム,アトロピン・メチルナイトレート,グリコピロニウム,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,アトロピン,ホマトロピン,スコポラミン,ロートエキス,ダツラエキス,メチルベナクチジウム,プロパンテリン,その薬学的に許容される塩,又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物である。
【0022】
その薬学的に許容される塩は,抗コリン作動薬の塩を意味する。抗コリン作動薬のプロドラッグも抗コリン作動薬の塩に含まれる。薬学的に許容される塩の例は,サルフェート,シトレート,アセテート,オキサレート,クロライド,ブロミド,ヨージド(iodide),ニトレート,ビサルフェート,ホスフェート,アシッドホスフェート,イソニコチネート,ラクテート,サリチレート,アシッドシトレート,タートレート(tartrate),オレエート,タンネート,パントテネート,ビタートレート,アスコルベート,スクシネート,マレエート,ゲンチシネート,フマレート,グルコネート,グルクロネート,サッカレート,ホルメート,ベンゾエート,グルタメート,メタンスルホネート,エタンスルホネート,ベンゼンスルホネート,p−トルエンスルホネート,およびパモエート(すなわち1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエート))塩を含む。薬学的に許容される塩の例は,アルカリ金属,アルカリ土類金属,その他の金属,アンモニア,有機アミン及びアミノ酸である。アルカリ金属の例は,ナトリウム,カリウム,およびリチウム又はこれらの水和物である。アルカリ土類金属の例は,カルシウム,マグネシウム及びこれらの水和物である。他の金属の例は,アルミニウム,亜鉛及びそれらの水和物である。アンモニアおよび有機アミンの例は,非置換またはヒドロキシ置換モノ−,ジ−,またはトリアルキルアミン;ジシクロヘキシルアミン;トリブチルアミン;ピリジン;N−メチル,N−エチルアミン;ジエチルアミン;トリエチルアミン;モノ−,ビス−,またはトリス−(2−ヒドロキシ−低級アルキルアミン),たとえばモノ−,ビス−,またはトリス−(2−ヒドロキシエチル)アミン,2−ヒドロキシ−tert−ブチルアミン,またはトリス−(ヒドロキシメチル)メチルアミン,N,N,−ジ−低級アルキル−N−(ヒドロキシ低級アルキル)−アミン,たとえばN,N,−ジメチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アミン,及びトリ−(2−ヒドロキシエチル)アミン;N−メチル−D−グルカミンである。アミノ酸の例は,アルギニン及びリジンである。
【0023】
それらの薬学的に許容される溶媒和物は,抗コリン作動薬の溶媒和物の他,抗コリン作動薬の塩の溶媒和物も含まれる。溶媒和物の例は,水和物である。水和物は,二水和物や三水和物のように複数の水分子が抗コリン作動薬又はその塩に溶媒和したものも含む。
【0024】
チオトロピウム臭化物水和物は,抗コリン作動薬の代表的な化合物である。実施例により,チオトロピウム臭化物水和物は,気管気管支軟化症及び再発性多発性軟骨炎の症状を改善することが示されたため,抗コリン作動薬は気管気管支軟化症及び再発性多発性軟骨炎の症状を改善する作用を有すると考えられる。
【0025】
本発明の治療剤における,抗コリン作動薬の好ましい例は,チオトロピウム,臭化チオトロピウム,又はチオトロピウム臭化物水和物である。チオトロピウム臭化物水和物は,スピリーバ(登録商標)として販売されている。チオトロピウム臭化物水和物は,生体内で,臭化チオトロピウム及びチオトロピウムを生じさせると考えられる。チオトロピウムは,化学名が(1α,2β,4β,5α,7β)−7−[(ヒドロキシ ジ−2−チエニルアセチル)オキシ]−9,9−ジメチル−3−オキサ−9−アゾニアトリシクロ[3.3.1.02,4]ノナンである化合物である。
【0026】
スピリーバ(登録商標)のターゲットは,ムスカリン受容体M3アンタゴニストである。そして,スピリーバ(登録商標)のパスウェイは,カルシウムシグナル伝達経路,神経刺激性リガンドとレセプターの相互作用,アクチン細胞骨格の制御,唾液の分泌,胃酸の分泌及び膵液の分泌とされている。本発明の治療剤は,たとえば,気管気管支軟化症及び再発性多発軟骨炎に起因する気道病変(例えば,気管気管支軟化症及び気管支閉塞)の改善に特に有効である。このため,本発明の治療剤の作用機序は,スピリーバ(登録商標)が慢性閉塞性肺疾患を改善するための作用機序と異なるものと考えられる。
【0027】
本発明の治療剤は,経口的に,あるいは静脈内,皮下,筋肉内,経皮,経鼻等の非経口的に,または吸入によって投与することができる。これらの中では,本発明の治療剤は,吸入によって投与される剤,経鼻投与される液剤又は粉末剤であることが好ましい。
【0028】
経口投与のための剤型の例は,錠剤,丸剤,散剤,顆粒剤,液剤,懸濁剤,シロップ剤,及びカプセル剤である
【0029】
錠剤を調製する際には常法に従って賦形剤;結合剤;崩壊剤;潤滑剤;吸収剤;及び滑沢剤のいずれか又は2つ以上が適宜添加されてもよい。賦形剤の例は,ラクトース,スターチ,炭酸カルシウム,結晶性セルロース,及びケイ酸である。結合剤の例は,カルボキシメチルセルロース,メチルセルロース,リン酸カルシウム,及びポリビニルピロリドンである。崩壊剤の例は,アルギン酸ナトリウム,重ソウ,ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸モノグリセライドである。潤滑剤の例は,グリセリンである。吸収剤の例は,カオリン,及びコロイド状シリカである。滑沢剤の例は,タルク,及び粒状ホウ酸である。
【0030】
丸剤,散剤または顆粒剤も上記と同様添加剤を用いて常法に従って製剤化される。
【0031】
液剤,懸濁剤,及びシロップ剤も常法に従って製剤化される。担体の例は,グリセロールエステル類,水,アルコール類,及び油性基剤である。グリセロールエステル類の例は,トリカプリリン,トリアセチン,及びヨード化ケシ油脂肪酸エステルである。アルコール類の例は,エタノールである。油性基剤の例は,流動パラフィン,ココナッツ油,大豆油,ゴマ油,及びトウモロコシ油である。
【0032】
カプセル剤は,散剤,顆粒剤,又は液体製剤をカプセルに充填することにより成型される。
【0033】
静脈内,皮下,又は筋肉内投与の剤型の例は,無菌の水性あるいは非水溶性溶液剤などの形態にある注射剤である。
【0034】
経皮投与用薬剤の剤形の例は,軟膏,クリーム,ローション,及び液剤である。
【0035】
吸入,経鼻による投与の製剤は,液状または粉末状の組成物として投与される。液状剤の基剤としては水,食塩水,リン酸緩衝液,酢酸緩衝液等が用いられ,さらに界面活性剤,酸化防止剤,安定剤,保存剤,粘性付与剤を含んでいてもよい。粉末状剤は,例えば,酸化防止剤,着色剤,保存剤,防腐剤,矯腐剤を添加してもよい。
【0036】
また治療剤を吸入するため投与装置を用いればよい。投与装置の例は,スプレー,ネブライザー,及びアトマイザーである。投与装置は,粉末状または液状の治療剤を疾患部位に投与するものでもよいし,エアロゾル用噴射剤に本発明の治療剤を懸濁することによって疾患部位に投与するものでもよい。
【0037】
本発明の有効成分である抗コリン作動薬の有効量は,投与経路,患者の年齢,性別,疾患の程度によって異なるが,通常0.1μg/日〜1g/日,より好適には1μg/日〜100μg/日であり,投与回数は通常1〜3回/日であり,このような条件を満足するように製剤を調製するのが好ましい。
【0038】
本発明は,有効成分としての抗コリン作動薬と,薬学的に許容される担体とを含有する気管気管支軟化症の治療用医薬組成物及び再発性多発軟骨炎の治療用医薬組成物をも提供する。
【0039】
本発明は,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤を製造するための,抗コリン作動薬の使用をも提供する。
【0040】
本発明は,有効成分としての抗コリン作動薬を,ヒト又はヒト以外の哺乳動物に投与する工程を含む,気管気管支軟化症の治療方法及び再発性多発軟骨炎の治療方法をも提供する。
【実施例1】
【0041】
以下の実施例においては,実臨床で喫煙歴がほとんどない3名の再発性多発軟骨炎により気管気管支軟化症を含む気道病変を有する患者に対し,チオトロピウム臭化物水和物を1μg〜50μg/日で投与した。その結果,チオトロピウム臭化物水和物を継続的に投与した結果,呼吸困難における自覚症状の改善と肺機能検査やCT,VRIなどの画像所見で有効性(気道拡張効果)が確認できた。
【0042】
症例1
症例1の患者は,39歳男性であった。6年前に再発性多発軟骨炎により気管気管支軟化症を発症し,気管を切開した。吸入によるチオトロピウム臭化物水和物の投薬を開始した。投薬を開始して,1ヶ月後に一秒量(FEV1)が390ml増量し,全肺気道抵抗(5Hzでの呼吸抵抗)が0.45kPa/(l/s)低下し,胸部CTで気管から右B1,B10の5次気管支までの気道内腔の拡張が確認でき,呼吸困難のスコア(MMRC)がIIからIへ改善し,その後気管切開孔を閉鎖することができた。CTの画像所見で中枢気道と末梢気道ともに拡張していた。
【0043】
図1は,本発明の治療剤の投与前及び投与後の気管気管支壁の様子を示す図面に替わる写真である。図1(a)は,チオトロピウム臭化物水和物を投与する前の患者の気管支を撮影した写真(確定診断時の気管支鏡所見)である。図1(b)は,チオトロピウム臭化物水和物を投与する前の患者の末梢気道の画像(確定診断時の超音波所見)である。図1(c)は,チオトロピウム臭化物水和物を投与した後の患者の気管を撮影した写真(薬剤投与後の気管支鏡所見)である。図1(d)は,チオトロピウム臭化物水和物を投与した後の患者の末梢気道の画像(薬剤投与後の超音波所見)である。図1(a)から,チオトロピウム臭化物水和物を投与する前は,気管支が閉塞していたことがわかる。一方,図1(c)から,チオトロピウム臭化物水和物を投与した後は,気管支が拡張したことがわかる。また,図1(b)及び図1(d)から,チオトロピウム臭化物水和物により末梢気道が拡張したことがわかる。図1(a)〜図1(d)より,薬剤を投与する前は気管気管支壁の発赤,腫脹及び狭窄がみられていたが,薬剤投与を開始した結果改善がみられた。
【0044】
図2は,気管切開時の気管軟骨組織所見を示す気管壁切片のHE染色写真(図2(a))及びMasson染色写真(図2(b))である。図2から気管切開時の気管軟骨組織所見として軟骨に炎症性細胞浸潤が認められた。
【0045】
図3は,症例1における患者の臨床経過を示す。図3中,F,Hugh−Jonesは,ヒュージョーンズの分類を示す。FVC(L)は,努力肺活量[リットル]を示す。FEV1(L)は,一秒量[リットル]を示す。PEF(L/s)は,ピークフロー値[リットル/秒]を示す。
【0046】
図3から,この患者は,6年前に再発性多発軟骨炎により気管気管支軟化症を発症しステロイド治療を行うも気道病変が進行し気管切開を要した。その後,生物学的製剤を使用するも改善せず夜間の非侵襲的人工呼吸器を使用しながら数年が経過し吸入量法などを併用しながら徐々に改善はみられたが,呼吸困難は完全には改善できなかった。本発明の治療剤を投与したところ,本発明の治療剤を吸入後約1週間で呼吸困難が消失し,その後2ヶ月間呼吸状態が安定していたため気管切開孔を閉じることにも成功した。
【0047】
図4は,治療前後の3D−CT所見を示す図である。図4(a)は,薬剤投与を開始する前の3D−CT所見を示し,図4(b)は薬剤投与から1ヶ月後の3D−CT所見を示す。3D−CT所見から,本発明の治療剤を投与することにより,気管支の狭窄が改善したことがわかる。
【0048】
症例2
症例2は,17歳男性を対象とした。再発性多発軟骨炎により気管気管支狭窄及び軟化症を発症し気管切開孔にT−tubeが留置されていた。本発明の治療剤を投与する前までは呼吸音のエネルギーで気流を評価できるVibration
Response Imaging (VRI)で不均等分布であった。本発明の治療剤を吸入後1ヶ月でVRIでの気流分布が均等になり呼吸困難などの自覚症状も改善した。CTの画像所見でも呼気時の空気とらえ込み所見(air-trapping)が改善していた。
【0049】
症例3
症例3の患者は28歳男性であった。この患者は,2年前に再発性多発軟骨炎により気管気管支狭窄及び軟化症を発症した。本発明の治療剤の投与を開始したところ吸入後1ヶ月に一秒量が340ml増量,全肺気道抵抗(5Hzでの呼吸抵抗)が0.10kPa/(l/s)低下し呼吸困難などの自覚症状も改善した。
【0050】
上記のいずれの患者も,気管気管支軟化症が改善するとともに,再発性多発軟骨炎の症状も改善していた。すなわち,本発明の治療剤により,再発性多発軟骨炎を含む気管気管支軟化症により惹起された気管支壁の腫れ,気管狭窄,気管閉鎖,及び呼吸困難が改善した。本発明の治療剤は,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤として有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は,気管気管支軟化症の治療剤及び再発性多発軟骨炎の治療剤に関するため,医薬産業にて利用され得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗コリン作動薬を有効成分として含む,気管気管支軟化症の治療剤。
【請求項2】
請求項1に記載の治療剤であって,
前記抗コリン作動薬が,チオトロピウム,イプラトロピウム,オキシトロピウム,アトロピン・メチルナイトレート,グリコピロニウム,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,アトロピン,ホマトロピン,スコポラミン,ロートエキス,ダツラエキス,メチルベナクチジウム,プロパンテリン,その薬学的に許容される塩,又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物である,治療剤。
【請求項3】
請求項1に記載の治療剤であって,
前記抗コリン作動薬が,チオトロピウム,臭化チオトロピウム,又はチオトロピウム臭化物水和物である,治療剤。
【請求項4】
請求項3に記載の治療剤であって,
前記気管気管支軟化症が再発性多発軟骨炎により惹起された気管気管支軟化症である,治療剤。
【請求項5】
抗コリン作動薬を有効成分として含む,再発性多発軟骨炎の治療剤。
【請求項6】
請求項5に記載の治療剤であって,
前記抗コリン作動薬が,チオトロピウム,イプラトロピウム,オキシトロピウム,アトロピン・メチルナイトレート,グリコピロニウム,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,アトロピン,ホマトロピン,スコポラミン,ロートエキス,ダツラエキス,メチルベナクチジウム,プロパンテリン,その薬学的に許容される塩,又はそれらの薬学的に許容される溶媒和物である,治療剤。
【請求項7】
請求項5の治療剤であって,
前記抗コリン作動薬が,チオトロピウム,臭化チオトロピウム,又はチオトロピウム臭化物水和物である,治療剤。
【請求項8】
請求項5の治療剤であって,
再発性多発軟骨炎による気道病変を改善するために用いられる治療剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−1677(P2013−1677A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134401(P2011−134401)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】