説明

抗ストレス物質とその利用法

【課題】本発明は、抗ストレス作用を持つ素材を提供する。
【解決手段】 既知の方法で調製したリゾリン脂質または、きのこから特定の溶媒を用いて得たリゾリン脂質を含んだ抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス物質を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリゾリン脂質を含有することを特徴とする抗ストレス物質に関し、さらに詳しくは、抽出溶剤として、エタノール、アセトン、ヘキサン、水あるいは含水でpHを酸性またはアルカリ性に調整したエタノールを用いた、リゾリン脂質を含んだきのこ抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス物質に関する。さらに、本発明の抗ストレス物質を有効成分とする医薬組成物や食用組成物を調製することができる。
【背景技術】
【0002】
これまで、鬱、ストレス、アルツハイマー病等の疾患の予防法として、クルクミン、コール酸、シムノール用いる技術(例えば特許文献1)、アラキドン酸や中鎖脂肪酸を用いる技術(例えば特許文献2)、ヨモギやクマザサを用いる技術(例えば特許文献3)、テアニンを用いる技術(例えば特許文献4)、L-カルニチンまたはアルカノイルを用いる技術(例えば特許文献5)、ドコサヘキサエン酸を用いる技術(例えば特許文献6,7)、イソフラボノイドを用いる技術(例えば特許文献8,9)が知られている。
【0003】
また、きのこまたはその成分を疾患の改善や予防に利用する技術としては、皮膚組成物(例えば特許文献10)、抗うつ病食品(例えば特許文献11)、抗炎症用食品(例えば特許文献12)、排泄促進剤(特許文献13)が知られている。一方、リゾリン脂質の抗ストレス作用に関する先行技術は知られていない。
【特許文献1】特開2003−113117
【特許文献2】特開2003−48831
【特許文献3】特開平10−276719
【特許文献4】特開平7−173059
【特許文献5】特表2002−527389
【特許文献6】特表2002−527387
【特許文献7】特表平8−511533
【特許文献8】特表2001−511117
【特許文献9】特表2001−500480
【特許文献10】特開2003−2813
【特許文献11】特開2002−58450
【特許文献12】特開平11−318387
【特許文献13】特開平9−169662
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、公知技術の鬱、ストレス、アルツハイマー病等の予防法は効果が不十分で、実用化が遅れていている。また、きのこまたはその成分あるいはリゾリン脂質を、抗ストレス物質として利用する先行技術は知られていない。
【0005】
そこで、本発明は、抗ストレス作用を持つ素材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、リゾリン脂質やきのこから特定の溶媒を用いて得たリゾリン脂質を含む抽出物がストレスを抑制することを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次の[1]〜[10]である。
[1]リゾリン脂質を含有することを特徴とする抗ストレス物質。
[2]リゾリン脂質を含むキノコの抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス物質。
[3]きのこがマイタケである[1]、[2]記載の抗ストレス物質。
[4]抽出溶剤として、エタノール、アセトン、ヘキサン、水を用いた[2]、[3]記載の抗ストレス物質。
[5]抽出溶剤として、含水でpHを酸性またはアルカリ性に調整したエタノールを用いた[2]、[3]記載の抗ストレス物質。
[6][1]〜[5]に記載の抗ストレス物質を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
[7][1]〜[5]に記載の抗ストレス物質を有効成分として配合してなる食用組成物。
【0007】
すなわち、本発明は、リゾリン脂質やきのこから特定の溶媒を用いて得たリゾリン脂質を含む抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス物質とその利用法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で使用するリゾリン脂質は、動植物の細胞中に存在し、特に卵黄や脳細胞に多く含有されている。リゾリン脂質は、細胞膜に存在するリン脂質の一種であるリン脂質から生合成される。卵黄や大豆レシチンに含まれるリン脂質は、2つの脂肪酸を分子内に含有している。生体内では、リン脂質がリン脂質加水分解酵素であるホスホリパーゼ(Phospholipase)A2作用を受けて、sn−2位置にある1つの脂肪酸が除去されることによって、リゾリン脂質に変換される。本発明に用いるリゾリン脂質は上記の天然物中に含まれるものを単独または適宜組み合わせたものである。
本発明でリゾリン脂質の供給源として用いられるきのことは種種雑多な菌類の作る大型子実体および菌糸体である。属としては、キツネタケ属 Laccaria spp. 、テングタケ属
Amanita spp. 、フウセンタケ属 Cortinarius spp. 、チチタケ属・ベニタケ属 Lactarius spp., Russula spp. 、ヌメリイグチ属・ショウロ属 Suillus spp., Rhizopogon spp. 、セイヨウショウロタケ属 Tuber spp. であり、このうち、マイタケ、松茸、シメジ、ヒラタケ、エノキタケ、なめこ、エリンギ、ツクリタケ等の食用のきのこのうちの1種類または複数を組み合わせて使用する。これらのうち、効果の面でマイタケが最も優れている。使用できる部位は、子実体、菌糸体等食用になるすべての部分である。また、栽培または天然のきのこを適宜組み合わせて用いることができる。
具体的には、きのこに溶剤を加えて、リゾリン脂質含んだ抽出物を調製して使用する。使用できるマイタケの部位は、子実体、菌糸体等食用になるすべての部分である。また、栽培または天然のきのこを適宜組み合わせて用いることができる。使用する有機溶媒としては、アルコール類、クロロフォルム、アセトン、アセトニトリル、ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられる。なかでも食品製造に使用できるグレードのエタノール、ヘキサン、アセトンが好ましく、より好ましくはエタノールを抽出溶媒として用いる。エタノールやアセトンは水分を含んでいても使用することができ、またこれらは互いに溶け合う組成の範囲内であれば、2種類以上を混合して使用することもできる。エタノールやアセトンは水を加えるとともに、pHを酸性またはアルカリ性に調整して抽出効率を上げることができる。本発明において、抽出原料と溶媒の比率は原料100重量部に対して溶媒を100から2000重量部、好ましくは200から700重量部である。抽出原料と溶媒の比率が原料100重量部に対して溶媒が100重量部未満では、原料全体に溶媒が行きわたらないため、効果的な抽出が行えない。また、抽出原料と溶媒の比率が原料100重量部に対して溶媒が2000重量部を越えても抽出物の収量が増えず、溶媒の消費が増える分コストアップ要因となる。
【0009】
本発明では、きのこ抽出物中のリゾリン脂質の含有量を上げる目的で、クロマト処理を行うことができる。また、得られた抽出物は、そのまま、あるいは凍結乾燥法、スプレードライなどの方法を用いて、固体化、粉末化して用いることが出来る。
【0010】
本発明の抗ストレス物質は、リゾリン脂質を0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。リゾリン脂質の含有量が0.01%未満では細胞死抑制作用が認められない。また。リゾリン脂質含有量が50%より多くしても、活性の顕著な増加は認められない。
【0011】
次に、本発明の抗ストレス物質を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。本発明の抗ストレス物質を配合してなる製剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜に選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤があげられる。
【0012】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の抗ストレス物質の配合量は0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。抗ストレス物質の含有量が0.01%未満では抗ストレス作用が認められない。また。抗ストレス物質の含有量が50%より多くしても、活性の顕著な増加は認められない。この種の製剤には本発明の抗ストレス物質の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0013】
上記の抗ストレス物質を含有する医薬用組成物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0014】
本発明の抗ストレス物質は食用組成物としても利用可能である。すなわち、前述のようにして得られるリゾリン脂質を有効成分としてなる抗ストレス物質は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0015】
これらの食品類あるいは食用組成物における本発明の抗ストレス物質の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定しがたいが、約0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%である。配合量が0.01重量%未満では経口摂取による所望の効果が小さく、50重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり当該食品を調製できなくなる場合がある。なお、本発明の抗ストレス物質は、原料が食品であれば、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
【0016】
本発明の医薬用組成物および食用組成物は、細胞死を予防あるいは治癒をねらいとして利用するものであれば、それを使用する上で何ら制限を受けることなく適用される。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
実験例1 粗抽出物の調製例
マイタケ子実体を市中で購入し、温風乾燥機で60℃で48時間乾燥し、乾燥マイタケとした。乾燥マイタケ1kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール2Lと水0.4Lを加え、常温で5時間撹拌した。その後、濾過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、茶褐色の粗抽出物250gを得た。粗抽出物中のリゾリン脂質含量は8%であった。
【0019】
実験例2 抗ストレス物質の調製例
上記の粗抽出物10gを、分取用高速液体クロマトグラフィー(ABI社、ビジョン)で分画した。カラムとしてデベロシル60−10 φ50mm×500mm(野村化学製)を用い、検出波長は210nm、溶媒はクロロホルム:メタノール=90:10、溶媒流量を50mL/分とした。分画に際し、5分ごとに溶離液を分取し、分取物に含まれる溶媒をロータリーエバポレーターで乾燥して、乾固した分画物を得た。画分各物中のリゾリン脂質含量を上記の方法で測定し、最も含量が高かった分画物すなわち95%品を抗ストレス物質とした。
【実施例2】
【0020】
抗ストレス作用を有する薬物は一般にマウスの運動活性を増加させる。そこで、実験例1で得られた抽出物の抗ストレス作用移所運動活性を測定した。試験動物としてICR系雄マウスを用いた。移所運動活性は群大式アンビュローメータを用いて測定した。本装置は振動かご法を原理としている(平林 他. 日薬理誌. 74, 629-639,
1978)。マウスを容器の中に1匹ずつ入れ、装置に慣らすために30分間置いた。次いでオリーブ油あるいは200,400あるいは800 mg/kgの抽出物を腹腔内に投与した。投与容積は1 ml/kgとした。投与後60分間移所運動活性を測定した。移所運動活性を10分毎に記録した。
【比較例1】
【0021】
ヨモギ抽出物(一丸ファルコス(株)製)、テアニン(太陽化学(株)製)、ドコサヘキサエン酸(日本油脂(株)製)に関して実施例1の方法で抗ストレス作用を測定した。結果を図2に示した。
【0022】
図1と2の比較から、本発明の抗ストレス物質には従来の物質に比べて優位な移所運動活性増加作用が認められた。このことは本発明が抗ストレス作用を有することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、リゾリン脂質またはリゾリン脂質を含んだきのこの抽出物を含有することを特徴とする、抗ストレス物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の抗ストレス物質の効果を示した説明図である(実施例1)。
【図2】従来品の抗ストレス物質の効果を示した説明図である(比較例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾリン脂質を含有することを特徴とする抗ストレス物質。
【請求項2】
リゾリン脂質を含むキノコの抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス物質。
【請求項3】
きのこがマイタケである請求項1及び2記載の抗ストレス物質。
【請求項4】
抽出溶剤として、エタノール、アセトン、ヘキサン、水を用いた請求項2及び3記載の抗ストレス物質。
【請求項5】
抽出溶剤として、含水でpHを酸性またはアルカリ性に調整したエタノールを用いた請求項2及び3記載の抗ストレス物質。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の抗ストレス物質を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の抗ストレス物質を有効成分として配合してなる食用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−8890(P2007−8890A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193619(P2005−193619)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【出願人】(500158410)雪国アグリ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】