説明

抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤

【課題】炎症性腸疾患患者に対する薬物療法において重篤な副作用を伴わず長期にわたりその炎症を抑える治療薬を提供すること。
【解決手段】蛋白質源および/または炭水化物源を含有することを特徴とする、炎症性腸疾患の治療における抗TNF−α抗体の反復投与における抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患の治療薬に関する。更に詳しくは抗ヒトTNF−α抗体の反復投与による炎症性腸疾患の治療における抗TNF−α抗体活性低下抑制剤または免疫低下抑制剤、抗ヒトTNF−α抗体及び当該蛋白質源並びに/または炭水化物源が収容されているキット製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel syndrome;IBD)は病因的に特異的疾患または非特異的疾患に分類される。特異的疾患としては、感染、薬物、化学物質若しくは放射線が原因で発症する炎症性腸疾患と虚血性大腸炎等が挙げられる。これに対して非特異的疾患は特発性炎症性腸疾患とも呼ばれ、大腸炎(colitis;特には、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis;UC))とクローン病(Crohn's disease;CD)に大別される。
潰瘍性大腸炎は、30歳以下の成人に多いが、小児や50歳以上の年齢層にも発症がみられ大腸粘膜の粘膜層あるいは粘膜下層にびらんや潰瘍を形成し、その臨床症状として下痢、血便、腹痛及び体重減少などの特徴的な所見を挙げることができる。潰瘍性大腸炎は、わが国においては従来比較的まれな疾患であったが、近年食生活の欧米化等に伴い患者数は年々急増している。その原因として、腸内細菌感染説、食餌アレルギー説、血管障害説、自律神経障害説及び免疫異常説など種々の要因が考えられているが、詳細は未だ不明であり、根本的治療法が確立されていないのが現状である。
【0003】
クローン病は、主として若い成人にみられ、繊維化や潰瘍を伴う肉芽腫性炎症性病変からなり、消化管のどの部位にもおこりうる慢性の炎症性疾患である。クローン病は病変部位によって、胃・十二指腸型、小腸型、小腸大腸型、大腸型、直腸型および特殊型に分類される。また、CDAI(crohn's disease activity index)分類(National Cooperative Crohn's Disease Study Groupによる)を指標にした活動度により、非活動期、活動期、非常に重症に分類される。臨床症状としては腹痛、下痢、発熱、痔のような肛門の異常、体重減少などの症状が現れる。組織学的には、リンパ球の強い浸潤と非乾酪性類上皮肉芽腫が見られる。クローン病も潰瘍性大腸炎同様にその詳細な原因は明らかにされていない。
炎症性腸疾患の薬物療法としては、例えばクローン病患者においては、寛解導入効果を期待してステロイドホルモンや合成ステロイドであるブデソニド等(budesonide)が投与されている。しかし、ステロイド類投与による骨量減少、耐糖能異常、高血圧、感染症、緑内障、白内障および胃潰瘍の副作用が生じるという問題があった。その他、サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)は大腸病変に対する効果を期待して投与されているが、悪心、頭痛、発熱、発疹、溶血性貧血、表皮剥離、顆粒球減少、線維性肺胞炎、頭痛、膵炎および男性不妊症などの副作用が報告されている。
【0004】
近年、炎症は生体内のさまざまな物質や細胞の相互作用によって起こっていることが明らかにされ、炎症部位に集簇した単球、リンパ球が粘膜障害に関係していると考えられており、これらの細胞から産生される炎症性メディエーター、特にサイトカインが注目されている。それらの中でTNF−α(Tumor Necrosis Factor−α)は、白血球から放出されるサイトカインの一種で、生体の防御機能上重要な役割をもつが、過剰に放出されると炎症を誘発し増悪させることが知られている物質である。炎症性腸疾患患者においてはTNF−αの産生が亢進していることから、これを抑制または中和する中でも抗ヒトTNF−α抗体のインフリキシマブ(遺伝子組み換え)(特許文献1)が、活動期のクローン患者とろう孔(外ろう)を有する患者に対してクローン病症状の改善や外ろうの閉鎖などの効果を示す薬剤として使用されている(製品名:レミケード(登録商標)点滴静注用100、田辺製薬株式会社)(非特許文献2)。
【0005】
ところで、抗ヒトTNF−α抗体は、免疫の働きを低下させるので、結核、敗血症、肺炎、日和見感染などの感染症、あるいはアレルギー反応や遅発性過敏症に留意しながら慎重に投与することが必要で、投与初期には、クローン病活動性指数CDAI(crohn's disease activity index)を減少させる効果が認められるものの、クローン病は長期に渡る継続的な治療が必要で、抗TNF−α抗体の反復投与が必要となるケースが多く、その効果は次第にうすれ、投与量を増加させるあるいはその他の薬物療法に切り替えるなどの処置が必要となる問題がある。また、インフリキシマブでは体重1Kgあたり5,10,20mgと投与量を変えても効果に変わりがないとの報告もあり、少ない投与量で長期間効果を持続させるための検討が必要である。さらに、急性期の炎症性疾患を短期に緩解導入しさらに長期間副作用発現を抑えながら、その効果を持続させることが必要である。
上記のように炎症性腸疾患患者に対する前述のステロイドホルモンを初めとする従来の薬物療法においては、副作用の発現状況に応じて投与時期、量及び期間等について慎重な投与が必要であった。また、炎症性腸疾患は重篤な副作用を伴わず長期にわたりその炎症を抑えることが困難で、再燃あるいは再発する臨床例が多数存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報WO92/16553号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Present, D.H. et al., N Engl J Med., 340(18): 1398-1405, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、炎症性腸疾患患者に対する薬物療法において重篤な副作用を伴わず長期にわたりその炎症を抑える治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述の抗ヒトTNF−α抗体投与における治療上の問題点を解決すべく鋭意検討した結果本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
〔1〕蛋白質源および/または炭水化物源を含有することを特徴とする、炎症性腸疾患の治療における抗TNF−α抗体の反復投与における抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
〔2〕炎症性腸疾患がクローン病である〔1〕記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
〔3〕クローン病が活動期および/または外ろうを伴うクローン病である〔1〕記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
〔4〕免疫低下抑制作用および/又は感染症予防作用を併せ持つ〔1〕記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
〔5〕経口・経腸投与される〔1〕記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
〔6〕中心静脈内に投与される〔1〕記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
〔7〕プラスチック容器に、凍結乾燥された抗ヒトTNF−α抗体と、上記抗TNF−α抗体の反復投与における抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤が連通可能に分離収容されていることを特徴とするキット製剤、及び
〔8〕抗ヒトTNF−α抗体による炎症性腸疾患の治療において、蛋白質源および/または炭水化物源を含有することを特徴とする、抗TNF−α抗体の反復投与における免疫低下抑制および/又は感染症予防剤、
に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗TNF−α抗体活性低下抑制剤の有効成分である蛋白質源としては、栄養供給のために有用な蛋白質であれば良く、動物性、植物性いずれの蛋白質でも良い。動物性蛋白質としては、乳蛋白質が好ましく、特に、低乳糖乳蛋白質、カゼインなどが好ましい。植物性蛋白質としては分離大豆蛋白質などが好ましい。2種類以上の蛋白質を配合しても良い。また蛋白質源は、加水分解された蛋白質のペプチドでもよい。蛋白アレルギーを考慮すると、アミノ酸であることがより好ましい。アミノ酸としては、通常輸液や経腸栄養剤等栄養供給の目的で用いられるアミノ酸であれば特に制限はないが、結晶アミノ酸であることが好ましい。
アミノ酸は、D体、L体、DL体のいずれでもよいが、L体が好ましい。具体的には、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−セリン、L−チロシン、グリシンなどを挙げることができる。これらのアミノ酸は1種類でも、複数種類組み合わせても使用(配合)することができるが、複数種類組み合わせるのが好ましく、中でも、L−トリプトファン、L−メチオニン、L−リジン、L−フェニルアラニン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−トレオニンの8種の必須アミノ酸を併用することが好ましく、更に好ましくは、8種の必須アミノ酸と非必須アミノ酸を組み合わせて使用することである。更に、保存安定性の面からはL−バリン、L−イソロイシン及びL−ロイシンの分岐鎖アミノ酸を配合することが特に好ましい。
【0011】
蛋白質源がアミノ酸の場合、乾燥重量で少なくとも以下の含量のアミノ酸を含むことが好ましい。
L-イソロイシン 2.0〜8.0W/W%
L-ロイシン 4.0〜15.0W/W%
L-リジン 4.0〜15.0W/W%
L-メチオニン 2.0〜6.0W/W%
L-フェニルアラニン 4.0〜12.0W/W%
L-トレオニン 1.0〜8.0W/W%
L-トリプトファン 0.5〜3.0W/W%
L-バリン 2.0〜6.0W/W%
L-ヒスチジン 1.0〜8.0W/W%
L-アルギニン 5.0〜9.0W/W%
L-アラニン 4.0〜8.0W/W%
L-アスパラギン酸 2.0〜15.0W/W%
L-グルタミン 0〜15.0W/W%
グリシン 1.0〜12.0W/W%
L-プロリン 2.0〜6.0W/W%
L-セリン 1.0〜10.0W/W%
L-チロシン 0.1〜3.0W/W%
L-システイン 0〜10.0W/W%
L-グルタミン酸 0〜10.0W/W%
【0012】
各アミノ酸は必ずしも遊離アミノ酸として用いられる必要はなく、無機酸塩、有機酸塩、生体内で加水分解可能なエステル体などの形態で用いてもよい。また、同種あるいは異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類の形態で用いてもよい。蛋白質源として少なくとも乳蛋白質、植物性蛋白質、アミノ酸のうちいずれか1種を含有することが好ましい。特に、アミノ酸を蛋白質源として含有することで好適に抗ヒトTNF−α抗体の反復投与における活性低下抑制効果を奏することができる。従って、蛋白質源としてアミノ酸のみを含有するのが好ましい。
本発明の抗TNF−α抗体活性低下抑制剤の有効成分である炭水化物源としては、糖類が好ましく、単糖、二糖及び多糖を挙げることができ、より具体的にはブドウ糖、果糖、マンノース、ガラクトース、ショ糖、砂糖(精製白糖でも良い)、麦芽糖、乳糖、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン、とうもろこしデンプン、大豆オリゴ糖、糖アルコール類などを挙げることができる。これら2種類以上の糖類を配合でも良い。炭水化物源として少なくともブドウ糖、果糖、マルトース、ソルビトール、キシリトール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の糖類を炭水化物源として含有させることで好適に抗ヒトTNF−α抗体の反復投与における活性低下抑制効果を奏する。
【0013】
本発明の抗TNF−α抗体活性低下抑制剤では、蛋白質源、炭水化物源を単独で含有することができるが、これらを組み合わせて含有してもよい。
本発明の抗TNF−α抗体活性低下抑制剤は、蛋白質源および/または炭水化物源に加え、さらに脂質源を含有することができる。脂質源は好適に活性低下抑制効果を発揮することができるので好ましい。この脂質源としては、特に制限はないが、植物性油・動物性油が好ましい。植物油としては、大豆油、シソ油、トウモロコシ油などがあげられるが、大豆油が好ましい。またω3系脂肪酸を多く含む油脂類として、エゴマ油を含有しても良い。動物油としては、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などのω3系脂肪酸を含有する魚油が好ましい。上記2種以上の脂質を配合してもよく、特にα−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸よりなる群から択される少なくとも1種のω3系脂肪酸を含む脂肪を含有することがより好ましい。
好ましい各成分の含量は、乾燥重量で、蛋白質源は5〜30W/W%(より好ましくは8〜20W/W%)、炭水化物源は40〜90W/W%(より好ましくは70〜85W/W%)、脂質源は0〜30W/W%(好ましくは0.01〜25W/W%、より好ましくは0.1〜1W/W%)である。
本発明の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤の好ましい第一の形態として、経口・経腸投与されるための栄養組成物がある。
【0014】
本組成物の各成分含量は、上記に示した範囲内であれば良く、また特に液状の組成物の場合は、蛋白質源は1〜10W/V%、炭水化物源は5〜30W/V%、脂質源は0.5〜20W/V%であることが好ましい。このような成分含量を有する栄養組成物は、経腸栄養剤・流動食などの形態でも良い。
更に蛋白質源が全てアミノ酸である場合は、組成物中の各アミノ酸の配合量としては、乾燥重量で以下のものが好ましい。
L-イソロイシン 0.2〜1.5W/W%
L-ロイシン 0.5〜2.0W/W%
L-リジン 0.5〜2.0W/W%
L-メチオニン 0.2〜1.5W/W%
L-フェニルアラニン 0.5〜2.0W/W%
L-トレオニン 0.2〜1.5W/W%
L-トリプトファン 0.05〜0.5W/W%
L-バリン 0.2〜1.5W/W%
L-ヒスチジン 0.5〜2.0W/W%
L-アルギニン 0.5〜2.5W/W%
L-アラニン 0.5〜2.0W/W%
L-アスパラギン酸 1.0〜4.0W/W%
L-グルタミン 1.0〜4.0W/W%
グリシン 0.2〜1.5W/W%
L-プロリン 0.2〜1.5W/W%
L-セリン 0.5〜2.5W/W%
L-チロシン 0.05〜0.5W/W%
この際、炭水化物源としてはデキストリン、脂質はダイズ油であることが好ましい。
より具体的には、表−1、表−2に示す組成を有し経腸栄養剤として市販されているエレンタール(登録商標)をあげることができる。
【0015】
表−1

【0016】
表−1(続き)

【0017】
表−2

【0018】
表−2(続き)

【0019】
また本発明の経口・経腸投与されるための組成物は、適宜の剤形でよく、例えば散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤等に調製される。投与時は液状であることが好ましいので、液剤又は使用時に適量の水等に溶解できる剤形であることが好ましい。前記各剤形のうち、老人や小児においても服用されやすいようにするには、矯味、矯臭処理された製剤に調製するのが好ましい。液状とするには、1cc当たり1kcal程度となるように水で希釈するのが好ましい。
散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等に加える添加剤としては、賦形剤(例えば、乳糖、ブドウ糖、D‐マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、軽質無水ケイ酸、トレハロースなど)、結合剤(例えば、デンプン糊液、ゼラチン溶液、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エタノールなど)、崩壊剤(例えば、デンプン、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩など)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクなど)、コーティング剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アセチルセルロース、白糖、酸化チタンなど)等があり、その他必要に応じて着色剤、矯味・矯臭剤等が加えられる。また、内用液剤に加えられる添加剤としては、保存剤(例えば、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、懸濁化剤または乳化剤(例えば、アラビアゴム、トラガント、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、メチルセルロース、卵黄、界面活性剤など)、甘味・酸味剤(例えば、トレハロース、クエン酸など)等があり、その他必要に応じて着色剤、安定剤等が加えられ、これらに使用される溶剤は、主として精製水であるが、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール等も使用することができる。
【0020】
これらの製剤は、各有効成分をそのままか、または各剤形に応じた薬学的、製剤学的に許容される添加剤と混合・造粒し、もしくは適当な溶剤中に溶解して乳化または懸濁し、さらには適当な基剤と混合する等して、常法により調製することができる。
投与量は、成人で1日80〜640g(300〜2400kcal)を投与することが好ましく、更には1200kcal前後であることが好ましいが、年令、体重、症状により適宜増減することが可能である。
投与方法としては、鼻腔ゾンデ、胃ろう、又は腸ろうから、十二指腸或いは空腸内に注入するか、経口投与する方法があげられる。
投与期間は、炎症性疾患に罹患している間であれば特に限定しないが、少なくとも抗ヒトTNF−α抗体治療期間中に投与することが好ましい。また抗ヒトTNF−α抗体治療開始前から投与してもよく、抗ヒトTNF−α抗体治療終了後投与し続けてもよい。より好ましくは抗ヒトTNF−α抗体の反復投与開始時から、抗ヒトTNF−α抗体投与期間中、毎日連続投与するのがよい。
【0021】
本発明の抗ヒトTNF−α抗体の反復投与における活性低下抑制剤を溶液となるよう調製した際、その溶液粘度は5mPa・s以下が好ましく、この粘度範囲であれば鼻腔ゾンデ、胃、腸で容易に経腸的に投与できる。一方、寝たきり患者の場合、前記低粘度の溶液を投与した場合、食道を逆流し嘔吐する、また逆流性肺炎の要因となるとの問題を抱えている。このような患者には本発明組成物に溶液粘度を増加させる増粘剤を添加することが好ましい。増粘剤としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、カラギーナン類を使用することが好ましい。また、増粘剤は溶液粘度を300mPa・s以上に調製できるように添加することが好ましい。
【0022】
本発明の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤には、食物繊維、例えば、水溶性食物繊維や不溶性食物繊維を添加することも可能である。食物繊維の添加量としては、一日当たりの投与量として1〜30gが好ましく、より好ましくは5〜15g、特に好ましくは3〜8gである。食物繊維としては、ペクチン、メトキシペクチン、ガラクトマンナン、アルギン酸及びその塩、テングザ、オゴノリ等のガラクタンを含む海藻より抽出された寒天、カルボキシメチルセルロース及びその塩を水溶性食物繊維として挙げることができる。不溶性繊維としては、リンゴファイバー、コーンファイバー、パインファイバーなどの植物から得られた繊維や、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ほうれん草などの野菜乾燥物、セルロース、ヘミセルロース、カラギーナン、リグニンなどを構成成分とする大豆や小麦のふすまなどを挙げることができる。
本発明の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤の好ましい第二の形態としては、中心静脈内に投与されるための製剤に調製されることである。各有効成分の含量は経口・経腸投与されるための製剤を参考に輸液成分として任意に調製することができる。また投与量についても同様である。
【0023】
より具体的には、下記表−3に示す組成を有し高カロリー輸液として市販されているピーエヌツイン(登録商標)をあげることができる。
表−3

【0024】
また使用上の便宜性から、本発明の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制を抗ヒトTNF−α抗体と一体包装化したキット製品としても良い。また抗ヒトTNF−α抗体が凍結乾燥物として調製された場合、投与の便宜性と無菌調製することができる有用性を発揮するため、プラスチック容器に、凍結乾燥された抗ヒトTNF−α抗体と、輸液が連通可能に分離収容されているキット製剤の形態でも良い。
本発明は、炎症性腸疾患のうちクローン病の患者に対して好適に抗ヒトTNF−α抗体の反復投与における活性の低下抑制効果を期待できる。さらに、クローン病が活動期および/または外ろうを伴う患者においてより好ましい効果を奏する。
本発明の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤は免疫低下抑制を併せ持ち抗体投与の副作用低減に効果を奏する。
本発明の抗ヒトTNF−α抗体としては、ヒト生体内のTNF−αに対し、高い親和性を有するとともにその活性を中和する作用を有する抗体を使用することができる。
ヒトTNF−αに対する親和性としては、Kaにして少なくとも108M-1、より好ましくは少なくとも109M-1の親和性を持つことが好ましい。また、強力な生体内ヒトTNF−α阻止能/又は中和能(例えば、ヒトTNF−αの細胞障害活性を中和する能力、TNF誘導性のIL-6分泌を遮断する能力、TNF誘導性凝血促進活性を遮断する能力等)を有することが好ましい。また、ヒトTNF−αに対する特異性の高いものが好ましい。
【0025】
本発明で使用する抗ヒトTNF−α抗体としては、モノクローナル抗体又はその一部が使用できる。このような抗体としては、キメラ型抗体、ヒト化抗体、ヒト型抗体、霊長類化抗体、表面再処理抗体、単鎖抗体、TNFレセプター-IgG-Fc融合型タンパク質などが挙げられる。これらの抗体は、生体内において免疫原性と毒性が低いものであることが望ましい。
キメラ型抗体とは、異なる動物種に由来する2以上の部分の結合によって特徴づけられる免疫グロブリン分子である。一般に、キメラ型抗体の可変領域は、ヒト以外の哺乳類抗体(例えばマウスモノクローナル抗体)に由来し、その免疫グロブリン定常領域とを組み合わせる。キメラ型抗体には、一価、二価又は他価免疫グロブリンが含まれる。キメラ型抗体及びその製造方法は、EP1714961、EP173494、WO86/01533、EP184187、WO87/02671、WO910996、WO92/11383などに記載されている。さらにインフリキシマブが好ましい薬剤として挙げることができる。インフリキシマブ(一般名:Infliximab、商品名:レミケード(登録商標))は、マウス抗ヒトTNF−αマウスIgG1抗体の抗原結合性可変領域と、ヒトIgG1カッパ免疫グロブリンの定常領域とからなるキメラ型のモノクローナル抗体である。インフリキシマブは国際公開公報WO92/16553に記載の製造方法で製造できる。
【0026】
抗体のヒト化及び表面処理に関しては、US5225539、EP239400、EP519596、EP592106に記載されている。
ヒト型抗体及び製造方法は、WO92/03918、WO91/10741、WO96/33735、WO96/33735、WO96/34096、WO97/29131などに記載されている。さらにアダリムマブ(Adalimumab)などがある。
TNFレセプター-IgG-Fc融合型タンパク質におけるTNFレセプターとしては、TNFRII(p75)などが好ましく、エタネルセプト(Etanercept)などがある。
本発明の抗TNF−α抗体は、より好ましくはインフリキシマブであるが、インフリキシマブと同様にリウマチ治療に使用されているアダリムマブ、エタレルセプトを炎症性腸疾患患者に使用する際にも、当然本発明の効果は認められるものである。
本発明の抗TNF−α抗体活性低下抑制剤により、炎症性腸疾患患者に対する薬物療法において優れた治療薬である抗ヒトTNF−α抗体を、炎症性腸疾患の治療において反復投与した時の抗ヒトTNF−α抗体の活性の低下を有効に抑制することができる。
また本発明の抗TNF−α抗体の反復投与における免疫低下抑制および/又は感染症予防剤により、炎症性腸疾患患者に対する薬物療法において優れた治療薬である抗ヒトTNF−α抗体を、炎症性腸疾患の治療において反復投与した時の免疫低下の抑制および/又は感染症を予防することができる。
抗TNF−α抗体の反復投与には高額の医療費が必要であり、本発明により反復投与の投与間隔を延長することで治療期間における投与回数を減じられ、医療費を削減できる。
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1
患者は31歳、男性で、25歳の時に発症した小腸・大腸型クローン病患者である。平成14年8月までに、クローン病の再発をくり返し3回の入院歴があった。
平成14年7月より腹痛、下痢、発熱で再発したため、エレンタール(登録商標)1200kcalを経腸投与下にインフリキシマブ(レミケード(登録商標)点滴静注用100)5mg/kgを投与した。投与前におけるクローン病の臨床的活動指数は186(150以上が活動期)であったが、投与2週後には67まで低下した。この間に横行結腸とS状結腸にみられた開放性縦走潰瘍は瘢痕化した。その後、在宅経腸栄養療法で治療していたが、平成15年2月に症状が再発し、CDAIは230まで上昇した。エレンタール(登録商標)の経腸投与を継続しながら、第2回目のインフリキシマブ(5mg/kg)を投与したところ、2週後には再びCDAIが63まで低下した。さらに、その2ヶ月後には同様にエレンタール(登録商標)投与下にCDAIが250まで上昇したため、第3回目のインフリキシマブ(5mg/kg)を投与し、2週後にはCDAIが80に低下した。第3回目の投与前後で、S状結腸の開放性潰瘍の瘢痕化が確認された。同様に初回投与から50週、68週、83週にCDAIの上昇がみられたが、インフリキシマブの第4回、第5回、第6回の投与で147〜275のCDAIが84週後には50〜80まで低下した。この間エレンタールの投与は継続していた。
【0028】
通常、インフリキシマブの反復投与は抗体の産生を促し、このため反復投与でその効果が減弱するが、上記症例においてはエレンタール(登録商標)の併用でインフリキシマブの効果が維持可能であったと推測される。
本実施例では第1回目から第6回目に至るインフリキシマブ投与の経過中、再発時には発熱を認めたものの、呼吸器、尿路等の感染症を示唆する所見はなく、抗菌剤投与は不要であった。また、インフリキシマブの重大な副作用の一つである結核菌感染症は認めなかった。このように、エレンタール(登録商標)を併用することでインフリキシマブ投与後の感染症併発が軽減され、免疫低下を抑制する作用が期待できる。
【0029】
次に、本発明の態様を示す。
1. 蛋白質源および/または炭水化物源を含有することを特徴とする、炎症性腸疾患の治療における抗TNF−α抗体の反復投与における抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
2. 蛋白質源が動物性蛋白質及び/又は植物性蛋白質である上記1記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
3. 蛋白質源が乳蛋白質及び/又は分離大豆蛋白質である上記1記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
4. 蛋白質源がアミノ酸を含有する上記1記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
5. 蛋白質源が、アミノ酸のみからなる上記1記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
6. 蛋白源が、乾燥重量で少なくとも以下のアミノ酸を含有する上記5記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
L-イソロイシン 2.0〜8.0W/W%
L-ロイシン 4.0〜15.0W/W%
L-リジン 4.0〜15.0W/W%
L-メチオニン 2.0〜6.0W/W%
L-フェニルアラニン 4.0〜12.0W/W%
L-トレオニン 1.0〜8.0W/W%
L-トリプトファン 0.5〜3.0W/W%
L-バリン 2.0〜6.0W/W%
L-ヒスチジン 1.0〜8.0W/W%
L-アルギニン 5.0〜9.0W/W%
L-アラニン 4.0〜8.0W/W%
L-アスパラギン酸 2.0〜15.0W/W%
L-グルタミン 0〜15.0W/W%
グリシン 1.0〜12.0W/W%
L-プロリン 2.0〜6.0W/W%
L-セリン 1.0〜10.0W/W%
L-チロシン 0.1〜3.0W/W%
L-システイン 0〜10.0W/W%
L-グルタミン酸 0〜10.0W/W%
【0030】
7. 炭水化物源がブドウ糖、果糖、マルトース、ソルビトール、キシリトール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の糖類として含有する上記1〜6何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
8. さらに脂質源を含有する上記1〜7何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
9. 脂質源がα−リノレン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種のω3系脂肪酸を含む脂肪を含有する上記8記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
10. 乾燥重量で、蛋白質源が5〜30W/W%、炭水化物源が40〜90W/W%、脂質源が0〜30W/W%である上記1〜9何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
11. 乾燥重量で、蛋白質源、炭水化物源、脂質源が以下の配合量である上記10記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
蛋白質源;
L-イソロイシン 0.2〜1.5W/W%
L-ロイシン 0.5〜2.0W/W%
L-リジン 0.5〜2.0W/W%
L-メチオニン 0.2〜1.5W/W%
L-フェニルアラニン 0.5〜2.0W/W%
L-トレオニン 0.2〜1.5W/W%
L-トリプトファン 0.05〜0.5W/W%
L-バリン 0.2〜1.5W/W%
L-ヒスチジン 0.5〜2.0W/W%
L-アルギニン 0.5〜2.5W/W%
L-アラニン 0.5〜2.0W/W%
L-アスパラギン酸 1.0〜4.0W/W%
L-グルタミン 1.0〜4.0W/W%
グリシン 0.2〜1.5W/W%
L-プロリン 0.2〜1.5W/W%
L-セリン 0.5〜2.5W/W%
L-チロシン 0.05〜0.5W/W%
炭水化物源;
デキストリン 70〜85W/W%
脂質源;
ダイズ油 0.1〜10W/W%
【0031】
12. 抗ヒトTNF−α抗体が、キメラ型抗体、ヒト化抗体及びヒト型抗体からなる群より選ばれたモノクローナル抗体又はその一部からなる抗体である上記1〜11何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
13. 抗ヒトTNF−α抗体が、少なくともインフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプトのいずれか1種である上記12記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
14. 抗ヒトTNF−α抗体が、インフリキシマブである上記13記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
15. 炎症性腸疾患がクローン病である上記1〜14何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
16. クローン病が活動期および/または外ろうを伴うクローン病である上記15記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
17. 免疫低下抑制作用および/又は感染症予防作用を併せ持つ上記1〜16何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
18. 経口・経腸投与される上記1〜17何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
【0032】
19. 中心静脈内に投与される上記1〜17何れか1項記載の抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。
20. プラスチック容器に、凍結乾燥された抗ヒトTNF−α抗体と、上記1〜19何れか1項記載の抗TNF−α抗体の反復投与における活性低下抑制剤が連通可能に分離収容されていることを特徴とするキット製剤。
21. 抗ヒトTNF−α抗体による炎症性腸疾患の治療において、蛋白質源および/または炭水化物源を含有することを特徴とする、抗TNF−α抗体の反復投与における免疫低下抑制および/又は感染症予防剤。
22. 抗ヒトTNF−α抗体が、少なくともインフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプトのいずれか1種である上記21記載の免疫低下抑制および/又は感染症予防剤。
23. 抗ヒトTNF−α抗体が、インフリキシマブである上記22記載の免疫低下抑制および/又は感染症予防剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質源および/または炭水化物源を含有することを特徴とする、炎症性腸疾患の治療における抗TNF−α抗体の反復投与における抗ヒトTNF−α抗体活性低下抑制剤。

【公開番号】特開2012−184249(P2012−184249A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115775(P2012−115775)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2006−510518(P2006−510518)の分割
【原出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】