説明

抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体、抗リン脂質抗体測定試薬、及び、抗リン脂質抗体の測定方法

【課題】反応性の高い抗リン脂質抗体測定試薬に用いられる不溶性担体を提供することを目的とする。
【解決手段】抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体であって、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満であり、かつ、乳化剤を含有しない抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性の高い抗リン脂質抗体測定試薬に用いられる不溶性担体に関する。また、本発明は、抗リン脂質抗体測定試薬、及び、抗リン脂質抗体の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、尿等に含まれる微量物質の測定方法として、免疫学的測定方法が採用されている。免疫学的測定方法は、抗原抗体反応の特異的な強い結合に基づき、様々な物質が混在する試料からでも、目的物質を特異的に感度よく測定することが可能である。
【0003】
しかし、近年、血液中の癌マーカー、ウイルス等の抗原、細菌やウイルスに対する抗体等の極微量成分を測定するニーズが高まってきており、免疫学的測定方法の更なる高感度化が強く求められている。
【0004】
免疫学的測定方法の高感度化を実現する試みとしては、例えば、一定の条件下で免疫学的測定方法に用いる不溶性担体のゼータ電位を測定し、−20mV以上0mV未満の範囲にある担体を選択して抗原又は抗体を効率よく大量に物理吸着させる方法(特許文献1)や、免疫学的測定方法に用いるラテックス粒子の表面のスルホン酸基量を0.005〜0.7μmol/mの範囲にコントロールされた担体を用いる方法(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−270423号公報
【特許文献2】国際公開第03/005031号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、反応性の高い抗リン脂質抗体測定試薬に用いられる不溶性担体を提供することを目的とする。また、本発明は、抗リン脂質抗体測定試薬、及び、抗リン脂質抗体の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、通常のタンパク質からなる抗原や抗体を不溶性担体に吸着させる場合と異なり、ゼータ電位が−20mV以上0mV未満の範囲にある不溶性担体にリン脂質を不溶性担体に吸着させる方法では、抗リン脂質抗体を充分に高感度に測定することができないという問題のあることを見出した。
本発明者らは、鋭意検討した結果、親水性部分の少ないリン脂質を不溶性担体に吸着させる場合、同じ粒子径でゼータ電位の異なる不溶性担体を比較すると、ゼータ電位の低い不溶性担体を用いた方が、より反応性の高い、即ち、高感度の抗リン脂質抗体測定試薬が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は、抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体であって、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満である抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体である。
また、本発明は、前記不溶性担体を用いた抗リン脂質抗体測定試薬、及び、前記不溶性担体を用いた抗リン脂質抗体の測定方法である。
【0008】
ゼータ電位の低い不溶性担体を用いることで反応性の高い抗リン脂質抗体測定試薬が得られる理由については明らかではない。一般的にゼータ電位が0に近づくほど、不溶性担体の反発性が低下し、凝集しやすくなるため、ゼータ電位が0に近い不溶性担体ほど、反応性が高いと言われている。しかし、全く電位がなくなる、すなわち0になると、自己凝集が起こるため、ある程度の電位は必要である。また、不溶性担体に吸着させる抗原(又は抗体)と反応する抗体(又は抗原)との間の距離が近すぎても、抗原抗体反応が起こりにくいため、ある程度の距離を保った方が安定した反応が起こると考えられる。
【0009】
不溶性担体にタンパク質由来の抗原又は抗体を吸着させる場合には、タンパク質中の親水性アミノ酸由来の電位が不溶性担体表面の電位に加わるため、ゼータ電位が0に近い不溶性担体を用いても、タンパク質由来の抗原又は抗体を吸着させた後では、ある程度の電位は存在すると考えられる。しかし、リン脂質を不溶性担体に吸着させる場合は、リン脂質自体に親水性部分が少ないため、電位がほとんどなく、ゼータ電位が0に近い不溶性担体を用いると、安定した反応が得られないと考えられる。また、ゼータ電位の絶対値が大きくなることで、担持されるリン脂質分子の向きが、抗リン脂質抗体との反応に適した向きになっている可能性も考えられる。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体は、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満の不溶性担体である。上記ゼータ電位が−45mV未満であることで、本発明の抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体を用いてなる抗リン脂質抗体測定試薬は、高い反応性を有する。上記ゼータ電位の下限は特に限定されないが、実質的には−100mV程度が下限である。上記ゼータ電位は−74mV以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体は特に限定されず、例えば、有機高分子粉末、微生物、血球、細胞膜片等が挙げられる。なかでも有機高分子粉末が好適である。
上記有機高分子粉末は、天然高分子粉末、合成高分子粉末が挙げられる。
【0012】
上記天然高分子粉末は特に限定されず、例えば、不溶性アガロース、セルロース、不溶性デキストラン等が挙げられる。
上記合成高分子粉末は特に限定されず、例えば、ポリスチレン、スチレン−スルホン酸(塩)共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0013】
本発明の抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体は、表面にスルホン酸基やカルボキシル基等を導入した不溶性担体であってもよい。
なかでも、合成高分子微粒子が水媒体中に均一に分散されたラテックス粒子であることが好適である。
【0014】
上記ラテックス粒子は、フェニル基を有する重合性単量体と、フェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体との共重合体からなる。上記フェニル基を有する重合性単量体は特に限定されず、例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、エチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。これらのフェニル基を有する重合性単量体は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、スチレンが好適である。
【0015】
上記フェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体は、重合後の担体粒子表面にスルホン酸基を含有させることができる単量体であれば特に限定されず、例えば、スチレンスルホン酸塩、ジビニルベンゼンスルホン酸塩、エチルスチレンスルホン酸塩、α−メチルスルホン酸塩等が挙げられる。また、この場合の塩は特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのフェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、スチレンスルホン酸塩が好適であり、スチレンスルホン酸ナトリウムがより好適である。
【0016】
上記ラテックス粒子は、上記フェニル基を有する重合性単量体と上記フェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体とを共重合させることにより得られる。
上記フェニル基を有する重合性単量体と上記フェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体とを共重合させる方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば、溶媒として水が仕込まれた反応容器内に上記フェニル基を有する重合性単量体、上記フェニル基とスルホン酸基を有する重合性単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて乳化剤を添加し、窒素雰囲気下で攪拌する方法等が挙げられる。
【0017】
上記フェニル基を有する重合性単量体と上記フェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体とを共重合させる際の重合温度は特に限定されないが、好ましい下限は50℃、好ましい上限は100℃である。上記重合温度が50℃未満であると、重合反応が充分に進行しないことがある。上記重合温度が100℃を超えると、重合速度が速くなりすぎ、粒子径を制御することが困難となることがある。上記重合温度のより好ましい下限は60℃、より好ましい上限は85℃である。また、重合時間は、重合性単量体の組成、濃度、及び、重合開始剤等の条件にもよるが、通常5〜50時間である。
【0018】
上記フェニル基を有する重合性単量体に対する上記フェニル基とスルホン酸基を有する重合性単量体の配合量は、共重合によって得られる粒子表面のスルホン酸基量、及び、粒子径を考慮して設定する必要がある。本発明の抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体には、通常のタンパク質由来の抗原又は抗体を吸着させるのではなく、電荷の少ないリン脂質を吸着させる。そのため、スルホン酸基量が少ないと、リン脂質を吸着させた後の粒子同士の電荷の反発が弱く、自然凝集する恐れがあり、安定な試薬が得られない。よって、ラテックス粒子表面のスルホン酸基量は0.1μmol/m以上であることが好ましい。従って、フェニル基を有する重合性単量体に対する上記フェニル基とスルホン酸基を有する重合性単量体の配合量は、共重合後の粒子表面のスルホン酸基量が0.1〜0.7μmol/mとなるように、0.02〜0.2重量%とすることが好ましい。
なお、上記ラテックス粒子表面のスルホン酸基量は、電気伝導度滴定法(Journal of Colloid and Interface Sciences.49(3)425,1974)により求めることができ、この値を、得られた粒子径から算出される粒子の総表面積で除することにより、単位面積当たりのスルホン酸基量を算出することができる。
【0019】
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、過硫酸塩類等が挙げられる。
上記過硫酸塩類は特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が好適である。
上記重合開始剤の配合量は特に限定されないが、通常は重合性単量体量に対して0.01〜1重量%の範囲である。
【0020】
上記乳化剤は、上記ラテックス粒子に乳化剤が含まれると測定精度を阻害する等の不都合があることから、通常は用いないことが好ましいが、上記ラテックス粒子表面のスルホン酸基量の調整に必要である場合等、必要に応じて用いることができる。
上記乳化剤の配合量は特に限定されないが、重合後の後処理工程により除去することを考慮すれば、フェニル基を有する重合性単量体に対して、好ましい上限は1重量%、より好ましい上限は0.5重量%、更に好ましい上限は0.02重量%である。上記乳化剤の配合量の好ましい下限は0.01重量%である。
【0021】
また、上記フェニル基を有する重合性単量体と上記フェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体とを共重合させる際に、更に重合性不飽和単量体を添加してもよい。上記重合性不飽和単量体は通常のラジカル重合に使用可能であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン誘導体、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アミド、ハロゲン化ビニル、ビニルエステル、(メタ)アクロレイン、マレイン酸誘導体、フマル酸誘導体等が挙げられる。
なお、本明細書において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0022】
更に、上記フェニル基を有する重合性単量体と上記フェニル基及びスルホン酸基を有する重合性単量体とを共重合させる際に、重合安定性を向上させる為、必要に応じて、種々の塩類を添加してもよい。上記塩類は通常のラジカル重合に使用可能であれば特に限定されず、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸二ナトリウム、硫酸二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。
【0023】
測定に使用するラテックス粒子の平均粒子径は、測定方法や、使用する測定機器により、適宜選択すればよいが、一般的に好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は1.5μmである。上記ラテックス粒子の平均粒子径が0.01μm未満であると、凝集による光学的変化量が小さすぎて測定に必要な感度が得られず、また、試薬調製時の遠心分離の際に多くの時間がかかり試薬コストが高くなることがある。上記ラテックス粒子の平均粒子径が1.5μmを超えると、被測定物質が高濃度であるときにラテックス粒子の凝集による光学的変化量が測定可能領域を越えてしまい、被測定物質の量に応じた光学的変化量が得られないことがある。汎用の自動分析装置を用いた場合の抗リン脂質抗体測定の感度を考慮すると、本発明に用いるラテックス粒子の平均粒子径の好ましい下限は0.2μm、好ましい上限は0.5μmであり、より好ましい下限は0.3μm、より好ましい上限は0.4μmである。なお、この平均粒子径は、透過型電子顕微鏡装置を用いた画像解析により求めることができる。
【0024】
上記ラテックス粒子の粒子径の変動係数(以下、CV値(%)ともいう)は特に限定されないが、好ましい上限は10%である。上記ラテックス粒子の粒子径のCV値(%)が10%を超えると、試薬調製時のロット再現性が悪く、測定試薬の再現性が低下することがある。上記ラテックス粒子の粒子径のCV値(%)のより好ましい上限は5%であり、更に好ましい上限は3%である。
なお、上記粒子径のCV値(%)は、下記式により算出することができる。
粒子径のCV値(%)=粒子径の標準偏差/平均粒子径×100
【0025】
上記ラテックス粒子は、1種類の粒子だけではなく、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満であれば、ゼータ電位が異なる2種類以上のラテックス粒子を用いてもよい。2種類以上のラテックス粒子を用いることにより、低濃度から高濃度までの広い濃度範囲にわたって高感度かつ高精度で抗原抗体反応を測定することができ、特に、分光光度計、濁度計、光散乱測定装置等の光学的測定装置用として好適な測定試薬を得ることができる。
【0026】
抗リン脂質抗体測定に用いる抗リン脂質抗体測定試薬であって、リン脂質抗原を担持した不溶性担体と緩衝液とを含有し、前記リン脂質抗原を担持する前の不溶性担体は、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満である抗リン脂質抗体測定試薬もまた、本発明の1つである。
【0027】
本発明の抗リン脂質抗体測定試薬は、リン脂質抗原を担持した不溶性担体を含有する。
上記リン脂質抗原は特に限定されないが、例えば、カルジオリピン、ホスファチジルコリン、及び、コレステロールからなるリン脂質抗原が好ましい。
上記カルジオリピンは、ウシの心臓から精製したものを用いることが好ましいが、化学的に合成されていてもよい。
上記ホスファチジルコリンは、ニワトリの卵黄から精製されたものを用いることが好ましいが、ホスファチジルコリンの含有量が60〜80%であるレシチンを用いてもよい。また、ウシ心臓や大豆等から抽出されたものや、化学的に合成されたものでもよい。
上記コレステロールは、動物由来であってもよいし、化学的に合成されていてもよい。
【0028】
上記カルジオリピン、ホスファチジルコリン、及び、コレステロールの混合比は特に限定されないが、カルジオリピン1mgに対して、ホスファチジルコリン8〜12mg、コレステロール1〜5mgであることが好ましい。
【0029】
上記不溶性担体に上記リン脂質抗原を担持する方法としては特に限定されず、従来公知の方法により、物理的及び/又は化学的結合により担持させる方法等が挙げられる。
【0030】
本発明の抗リン脂質抗体測定試薬は緩衝液を含有する。
上記緩衝液は、上記リン脂質抗原を担持したラテックス粒子を分散又は懸濁させる役割を有する。
上記緩衝液は特に限定されず、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。
上記緩衝液のpHは特に限定されないが、好ましい下限は5.5、好ましい上限は8.5であり、より好ましい下限は6.5である。
【0031】
本発明の抗リン脂質抗体測定試薬は、測定感度の向上及び抗原抗体反応の促進を目的として、水溶性高分子を含有してもよい。
上記水溶性高分子は特に限定されず、例えば、プルラン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0032】
リン脂質抗原を担持した不溶性担体と緩衝液とを含有する抗リン脂質抗体測定試薬と検体とを混合し、抗原抗体反応により凝集を生じさせる工程と、上記凝集の度合いを光学的に測定又は目視にて観察することにより、検体中の脂質抗体を測定する工程とを有する抗リン脂質抗体測定試薬を用いる抗リン脂質抗体の測定方法であって、前記リン脂質抗原を担持する前の不溶性担体は、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満である抗リン脂質抗体の測定方法もまた、本発明の1つである。
【0033】
上記凝集の度合いを光学的に測定する方法は特に限定されず、従来公知の方法が用いられ、例えば、用いる不溶性担体の粒子の大きさ、濃度の選択、反応時間の設定により、散乱光強度、吸光度、透過光強度の増減を測定する方法が挙げられる。また、これらの方法を併用することも可能である。
なお、上記測定を行う際の光の波長は、300〜900nmが好適である。
【0034】
上記吸光度の増減を測定する方法を用いる場合、正確な測定を行うためには、標準血清中の最高濃度である8.0R.U.(梅毒陽性抗体価の単位、1.0R.U.以上で梅毒陽性と診断する)における吸光度変化量が少なくとも250mAbsとなる反応性が必要である。8.0R.U.の吸光度変化量が250mAbsの場合、抗リン脂質抗体測定試薬の陰性であるか陽性であるかを判定する境界となる1.0R.U.の吸光度変化量は約30mAbsとなる。1.0R.U.の吸光度変化量が30mAbs以下となった場合、データの再現性が著しく低下し、陰性であるか陽性であるかの判定を正確に行うことができない。
【0035】
上記凝集の度合いを光学的に測定する方法に用いる装置は特に限定されず、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出できる光学機器が挙げられ、一般的に使用されている生化学自動分析機であればいずれのものであっても使用することができる。
【0036】
上記凝集の度合いを目視にて観察する方法は、通常、検体と本発明の抗リン脂質抗体測定試薬とを判定板上で混合し、混合液を揺り動かした後、凝集の有無を判定する方法等を用いることができる。
なお、凝集の度合いの観察には、目視による方法以外に、凝集状態をビデオカメラ等で撮影し、画像処理を施す方法を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、反応性の高い抗リン脂質抗体測定試薬に用いられる不溶性担体を提供することができる。また、本発明によれば、抗リン脂質抗体測定試薬、及び、抗リン脂質抗体の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1、実施例4、及び、比較例1におけるRPR標準血清8.0R.U.を使用した場合の吸光度変化量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0040】
(1)ラテックスLotA
(ラテックス粒子の作製)
攪拌機、還流用冷却器、温度検出器、窒素導入管及びジャケットを備えたガラス製反応容器(容量2L)に、蒸留水1100g、スチレン180g、スチレンスルホン酸ナトリウム0.04g、及び、蒸留水26gに過硫酸カリウム0.8gを溶解した水溶液を仕込み、容器内を窒素ガスで置換した後、70℃で攪拌しながら48時間重合した。
重合終了後、上記溶液をろ紙にてろ過処理し、ラテックス粒子を取り出した。得られたラテックス粒子の粒子径、表面のスルホン酸基量及びゼータ電位を下記の方法により測定した。
【0041】
(ラテックス粒子の平均粒子径)
透過型電子顕微鏡装置(日本電子社製、「JEM−1010型」)を用いて10000倍の倍率でラテックス粒子を撮影し、最低100個以上の粒子について画像解析することにより粒子径を測定した。得られた平均粒子径は0.4μmであった。
【0042】
(ラテックス粒子表面のスルホン酸基量)
ラテックス粒子をセロファンチューブ透析膜にて48時間、精製水で透析し残存単量体を除去した。この粒子を乾燥重量で10gになるように4ツ口ガラス容器に採取後、蒸留水で150mLになるように希釈しスターラーチップを用い攪拌した。これを溶液Aとした。
次に、電位差電気伝導度滴定処理装置(京都電子工業社製、「AT−310」)の付属装置ATB−310電動ビュレットに、0.01N水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製)をセットし、更に導電率電極を溶液Aに浸し、窒素導入管、脱気管及びpH電極を設定した。そして、0.01N水酸化ナトリウムを滴下(0.05mLを150秒〜500秒の範囲で測定するスルホン酸基量により調整)し、電位差電気伝導度滴定処理装置(京都電子工業社製、「AT−310」)を用いた伝導度の変化量から当量点を測定し、目的とするスルホン酸基量を算出した。得られたスルホン酸基量は0.28μmol/mであった。
【0043】
(ラテックス粒子のゼータ電位)
ラテックス粒子を20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように調整し、これをゼータ電位測定用サンプルとした。
次に、ゼータ電位測定装置(Malvern Instruments Ltd.社製、「Zetasizer Nano ZEN3600」)にて、ゼータ電位測定用キャピラリーセルに測定サンプル750μLを分注し、測定温度37℃でゼータ電位を測定した。得られたゼータ電位は−74mVであった。
【0044】
(2)ラテックスLotB
スチレンスルホン酸ナトリウムの配合量を0.08gとしたこと以外はLotAと同様にしてラテックス粒子を作製した。LotAと同様の方法で評価を行い、得られたラテックス粒子の平均粒子径は0.3μm、スルホン酸基量は0.23μmol/m、ゼータ電位は−77mVであった。
【0045】
(3)ラテックスLotC
蒸留水の配合量を1020g、スチレンスルホン酸ナトリウムの配合量を0.25gとし、蒸留水26gに過硫酸カリウム0.8gを溶解した水溶液の代わりに蒸留水13gに過硫酸カリウム0.4gを溶解した水溶液を用い、更に、0.1mol/Lリン酸水素二カリウム80gを添加したこと以外はLotAと同様にしてラテックス粒子を作製した。LotAと同様の方法で評価を行い、得られたラテックス粒子の平均粒子径は0.3μm、スルホン酸基量は0.16μmol/m、ゼータ電位は−88mVであった。
【0046】
(4)ラテックスLotD
蒸留水の配合量を1020g、スチレンスルホン酸ナトリウムの配合量を0.20gとし、蒸留水26gに過硫酸カリウム0.8gを溶解した水溶液の代わりに蒸留水16gに過硫酸カリウム0.6gを溶解した水溶液を用い、更に、0.1mol/Lリン酸水素二カリウム80gを添加したこと以外はLotAと同様にしてラテックス粒子を作製した。LotAと同様の方法で評価を行い、得られたラテックス粒子の平均粒子径は0.4μm、スルホン酸基量は0.18μmol/m、ゼータ電位は−86mVであった。
【0047】
(5)ラテックスLotE
スチレンスルホン酸ナトリウムの配合量を0.01gとし、蒸留水26gに過硫酸カリウム0.8gを溶解した水溶液の代わりに蒸留水4gに過硫酸カリウム0.1gを溶解した水溶液を用いたこと以外はLotAと同様にしてラテックス粒子を作製した。LotAと同様の方法で評価を行い、得られたラテックス粒子の平均粒子径は0.4μm、スルホン酸基量は0.06μmol/m、ゼータ電位は−29mVであった。
【0048】
(実施例1)
(1)緩衝液(第1試薬)の調製
1.2(W/V)%のプルラン(林原社製)、1.0(W/V)%のウシ血清アルブミン(BSA)を含有する25mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.5)100mLに、塩化ナトリウム0.9gとアジ化ナトリウム0.1gを添加し、緩衝液(第1試薬)とした。
【0049】
(2)リン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)の調製
カルジオリピンのエタノール溶液(5mg/mL、シグマ社製)2mL、精製レシチン(ナカライテスク社製)のエタノール溶液(10mg/mL)10mL及びコレステロール(ナカライテスク社製)のエタノール溶液(10mg/mL)3mLを混合し、リン脂質抗原液を得た。
ラテックス粒子(LotA)100μLに、得られたリン脂質抗原液250μLを添加し、そのまま37℃で緩やかに2時間攪拌した。次に5(W/V)%濃度でBSAを含む100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.5)3mLを添加し、更に37℃で1時間攪拌した。15000rpm、4℃で30分間遠心分離し、上澄みを除き、沈殿したラテックス粒子を1(W/V)%濃度でBSAを含む100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.5)2mLに再び懸濁した。この操作を2回繰り返し、ラテックス粒子を洗浄し、最後にEDTA・4Naを10mmol/L、及び、塩化コリンを500mmol/L含む100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.5)10mLに懸濁させてリン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)とした。
【0050】
(実施例2)
ラテックス粒子をLotBに変更したこと以外は実施例1と同様にして、緩衝液(第1試薬)、リン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)を調製した。
【0051】
(実施例3)
ラテックス粒子をLotCに変更したこと以外は実施例1と同様にして、緩衝液(第1試薬)、リン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)を調製した。
【0052】
(実施例4)
ラテックス粒子をLotDに変更したこと以外は実施例1と同様にして、緩衝液(第1試薬)、リン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)を調製した。
【0053】
(比較例1)
ラテックス粒子をLotEに変更したこと以外は実施例1と同様にして、緩衝液(第1試薬)、リン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)を調製した。
【0054】
<評価>
実施例及び比較例で得られた緩衝液(第1試薬)、リン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)について、以下の方法で評価した。
市販のRPR標準血清8.0R.U.(積水メディカル社製)20μLに、緩衝液(第1試薬)180μLを混合し、37℃で5分間保持した後、リン脂質抗原感作ラテックス試薬(第2試薬)60μLを添加攪拌し、測定波長700nmで添加後1分間及び5分間の吸光度変化を、日立7170形生化学自動分析機を用いて測定した。結果を表1及び図1に示す。
【0055】
図1より、−45mV以上のゼータ電位では、必要な吸光度変化量を満たさず、また、ゼータ電位が低くなればなるほど吸光度変化量が大きくなることがわかる。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、反応性の高い抗リン脂質抗体測定試薬に用いられる不溶性担体を提供することができる。また、本発明によれば、抗リン脂質抗体測定試薬、及び、抗リン脂質抗体の測定方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体であって、
20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満であり、かつ、乳化剤を含有しない
ことを特徴とする抗リン脂質抗体測定試薬に用いる不溶性担体。
【請求項2】
平均粒子径が、0.2μm〜0.5μmであることを特徴とする請求項1記載の不溶性担体。
【請求項3】
抗リン脂質抗体測定に用いる抗リン脂質抗体測定試薬であって、
リン脂質抗原を担持した不溶性担体と緩衝液とを含有し、
前記リン脂質抗原を担持する前の不溶性担体は、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満であり、かつ、乳化剤を含有しない
ことを特徴とする抗リン脂質抗体測定試薬。
【請求項4】
不溶性担体の平均粒子径が、0.2μm〜0.5μmであることを特徴とする請求項3記載の抗リン脂質抗体測定試薬。
【請求項5】
リン脂質抗原を担持した不溶性担体と緩衝液とを含有する抗リン脂質抗体測定試薬と検体とを混合し、抗原抗体反応により凝集を生じさせる工程と、前記凝集の度合いを光学的に測定又は目視にて観察することにより、検体中の脂質抗体を測定する工程とを有する抗リン脂質抗体の測定方法であって、
リン脂質抗原を担持させる前の不溶性担体は、20mmol/Lのリン酸ナトリウム水溶液(pH7.4)において固形分濃度が0.1%となるように懸濁した場合のゼータ電位が−45mV未満であり、かつ、乳化剤を含有しない
ことを特徴とする抗リン脂質抗体の測定方法。
【請求項6】
不溶性担体の平均粒子径が、0.2μm〜0.5μmであることを特徴とする請求項5記載の抗リン脂質抗体の測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−249846(P2010−249846A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178919(P2010−178919)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【分割の表示】特願2010−506751(P2010−506751)の分割
【原出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)