抗不整脈剤及び心房細動抑制剤
【課題】心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性の高い抗不整脈剤、心房細動抑制剤、該心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用できる持続性心房細動モデル及びその製造方法、スクリーニング方法の提供。
【解決手段】式(I)から(VI)いずれかの化合物又はその薬理学的に許容し得る塩。
式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【解決手段】式(I)から(VI)いずれかの化合物又はその薬理学的に許容し得る塩。
式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗不整脈剤、心房細動抑制剤、持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いた心房細動抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動は、洞結節と呼ばれる心臓のペースメーカが機能障害に陥り、正常な心房の電気興奮が開始されず、心房の筋肉が1分間に300回〜500回と正常の5倍以上の速さで不規則に細かく震え、心房の補助ポンプとしての収縮や拡張がなくなる不整脈の一つである。
心房細動は、臨床上最も遭遇しやすい不整脈であり、加齢に伴って発生しやすく、日本においては、60歳代では2%〜4%、70歳代では5%〜6%、80歳代では8%〜10%が発症しているといわれている。
【0003】
心房細動が生じると、心房収縮がなくなり拡張期に心室が十分血液で満たされないために心臓の働きは低下し、心臓から出る血液量が減少する。また、心房は、心室が収縮して小さくなる際に逆に大きくなり血液を一時的に蓄え、次の心室充満のときに役立てるリザーバー機能を有するが、心房細動ではこの働きが低下する。
更に、心房細動は、心房内鬱血により血液凝集塊(血栓)が生成しやすく、この血栓が心臓から流れ出し、脳梗塞をはじめとする全身臓器の血栓や塞栓症を引き起こす。
したがって、心房細動は、致死性の不整脈ではないものの、その合併症が問題である。
【0004】
心房細動の種類としては、何らかの原因で心房細動が生じても原因を除去するとそれ以上は心房細動を生じない一過性心房細動や、心房細動の自然停止が得られるが反復して心房細動が生じる発作性心房細動等の突発性心房細動と、心房細動が持続するが、薬物や電気的な刺激により除細動でき洞調律に復帰する持続性心房細動や、心房細動が持続し、薬物や電気的な刺激によっても除細動できない永続性心房細動等の慢性心房細動とに分類される。
一般に、心房細動は、一過性心房細動、発作性心房細動、持続性心房細動、永続性心房細動の順に進行し、永続性心房細動になると、現在のところその治療方法がないため、持続性心房細動の段階でその進行を止めることが望まれている。
【0005】
心房細動の治療方法としては、電気的治療法、薬物治療法などが挙げられる。
前記電気的治療法は、迅速で効果が高いものであるが、全身麻酔下で電気ショックをかけるものであり、患者に対する負担が大きく、また、特別な設備を必要とし、専門家によらなければ治療を施すことができない点で問題である。
【0006】
電気的治療法と比較して、薬物治療法は、患者自身の投薬により治療でき、簡便である点で有利である。
現在、心房細動に対する予防薬としては、抗血栓予防薬ワルファリンが使用されており、また、治療薬としては、Vaugahan Williamsの分類のIa群薬(ジソピラミド、シベンゾリンなど)及びIc群薬(フレニカイニド、ピルジカイニドなど)が主に使用され、肥大型心筋症に伴う心房細動にはIII群薬(アミオダロン、ソタロール、ニフェカラントなど)が使用されている。
しかし、これらの薬物には副作用がある点で問題である。例えば、Ia群薬であるジソピラミドには、陰性変力作用があり、心不全や左室機能障害の患者への使用には不向きであり、また、QRS及びQTの延長、催不整脈作用などが生じることがある点で問題である。Ic群薬であるフレニカイニドやピルジカイニドなどは、循環系への副作用が多い点で問題である。III群薬であるアミオダロンは、肺、甲状腺、眼などの心臓以外への副作用がある点で問題である。
これらの現在臨床で用いられている心房細動の予防薬又は治療薬は、経験則に基づいて投薬されているものであり、心房細動に関する何らかの評価試験に基づいて選択されたものではなく、また、その評価試験系もない点で問題である。
【0007】
既存の抗不整脈薬の心房細動に対する有効性の再評価に用いられる評価試験や、新たな心房細動抑制剤のスクリーニングには、臨床における心房細動に近い試験系を用いることが望ましく、そのような試験系としては、臨床における心房細動を反映した心房細動モデルを用いる方法が挙げられ、動物への負荷が少なく確実な評価を行うことができるモデルは非常に有用性が高い。
【0008】
心房細動モデルとしては、例えば、アコニチンを心耳に局所投与することによって局所起源の心房細動を起こしたアコニチンモデルが提案されている(非特許文献1参照)。
しかし、アコニチンモデルは、臨床における心房細動とは直接関係がないため、心房細動抑制剤のスクリーニングへの使用には不向きであるという問題がある。
また、心房筋表面にタルクパウダを無菌的に散布し、心膜炎を起こすことによって心房性不整脈を誘発し易くした無菌性心膜炎モデルが提案されており(非特許文献2参照)、心房細動の発生機序を検討するために用いられている。
しかし、無菌性心膜炎モデルは、心膜炎による心房細動であるため、心臓手術後に発生する臨床におけるごく限られた心房細動を反映した方法に過ぎず、慢性心房細動に対する心房細動抑制剤のスクリーニングへの使用には不向きであるという問題がある。
また、ヤギの心房細動の頻回刺激を加えて心房細動を誘発した頻回刺激誘発モデルが提案されている(非特許文献3参照)。
しかし、ヤギは、実験動物としてサイズが大きく、世界的にも使用できる施設が限られることや、ヤギを扱うことができる研究者も少ないことから、心房細動抑制剤のスクリーニングへの使用には不向きであるという問題がある。
【0009】
したがって、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性の高い抗不整脈剤、心房細動抑制剤、該心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用できる持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いて心房細動抑制剤を効率よく簡便にスクリーニングできる心房細動抑制剤のスクリーニング方法の提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Moe et al., 1959, Am.Heart.J. 58, 59−70
【非特許文献2】Page et al., 1986, J.Am Coll Cardiol., 8, 872−879
【非特許文献3】Maurits C.E.F. Wijffels et al., 1995, Circulation, 92, 1954−1968
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性の高い抗不整脈剤、心房細動抑制剤、該心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用できる持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いて心房細動抑制剤を効率よく簡便にスクリーニングできる心房細動抑制剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
即ち、下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し心房細動を抑制する心房細動抑制剤は、心房細動に対して優れた抑制作用を有し、副作用がなく安全性が高いことを知見し、本発明の完成に至った。
【化1】
【化2】
【化3】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化4】
【化5】
【化6】
【0013】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し心房細動を抑制することを特徴とする心房細動抑制剤である。
【化7】
【化8】
【化9】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化10】
【化11】
【化12】
<2> 心房細動が突発性心房細動及び慢性心房細動のいずれかである前記<1>に記載の心房細動抑制剤である。
<3> イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入し、前記電極カテーテルから前記房室結節領域に高周波を通電して前記房室結節を破壊し、房室伝導をブロックさせて心房を肥大拡大させる心房肥大拡大化工程と、肥大拡大化した前記心房をペーシングする心房ペーシング工程と、を含むことを特徴とする持続性心房細動モデルの製造方法である。
<4> 心房ペーシング工程が、500bpm〜700bpmで4週間以上ペーシングする前記<3>に記載の持続性心房細動モデルの製造方法である。
<5> 前記<3>から<4>のいずれかに記載の持続性心房細動モデルの製造方法により製造されたことを特徴とする持続性心房細動モデルである。
<6> 心房細動が少なくとも1週間持続する前記<5>に記載の持続性心房細動モデルである。
<7> 前記<5>から<6>のいずれかに記載の持続性心房細動モデルに被験物質を投与する投与工程と、前記投与工程後、前記持続性心房細動モデルの心房細動を抑制した前記被験物質を心房細動抑制剤としてスクリーニングするスクリーニング工程と、を含むことを特徴とする心房細動抑制剤のスクリーニング方法である。
<8> スクリーニング工程で心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングし、心房細動を再誘発する心房細動再誘発工程を更に含む前記<7>に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法である。
<9> 心房細動再誘発工程が、心房細動が抑制されてから1週間以内に持続性心房細動モデルの心房を500bpm〜700bpmで少なくとも1週間ペーシングする前記<8>に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法である。
<10> 下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し不整脈を抑制することを特徴とする抗不整脈剤である。
【化13】
【化14】
【化15】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化16】
【化17】
【化18】
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性の高い抗不整脈剤、心房細動抑制剤、該心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用できる持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いて心房細動抑制剤を効率よく簡便にスクリーニングできる心房細動抑制剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】図1Aは、正常なビーグル犬の心臓のMRI像の一例を示す図である。
【図1B】図1Bは、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬(慢性房室ブロックモデル)の心臓のMRI像の一例を示す図である。
【図2A】図2Aは、正常なビーグル犬の心エコー像の一例を示す図である。
【図2B】図2Bは、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬(慢性房室ブロックモデル)の心エコー像の一例を示す図である。
【図2C】図2Cは、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬(慢性房室ブロックモデル)の心エコー像の一例を示す図である。
【図3】図3は、製造例1におけるビーグル犬(持続性心房細動モデル)の心房ペーシング工程における心電図の一例を示す図である。
【図4】図4は、比較製造例1におけるビーグル犬の心房ペーシング工程における心電図の一例を示す図である。
【図5A】図5Aは、試験例1におけるオセルタミビル投与群のオセルタミビルの投与開始前−1分33秒の心電図である。
【図5B】図5Bは、試験例1におけるオセルタミビル投与群のオセルタミビルの投与開始後+2分49秒の心電図である。
【図5C】図5Cは、試験例1におけるオセルタミビル投与群のオセルタミビルの投与開始後+5分50秒の心電図である。
【図6A】図6Aは、試験例1におけるジソピラミド投与群のジソピラミド投与開始後+6分00秒〜+14分00秒の心電図である。
【図6B】図6Bは、試験例1におけるジソピラミド投与群のジソピラミドの投与開始前−22分54秒の心電図である。
【図6C】図6Cは、試験例1におけるジソピラミド投与群のジソピラミドの投与開始後+12分15秒の心電図である。
【図7】図7は、試験例3におけるオセルタミビル投与群の結果を示す図である。
【図8】図8は、試験例3におけるピルジカイニド投与群の結果を示す図である。
【図9】図9は、試験例3におけるジソピラミド投与群の結果を示す図である。
【図10】図10は、試験例3におけるメキシレチン投与群の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(心房細動抑制剤、抗不整脈剤)
本発明の心房細動抑制剤は、下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を少なくとも含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
本発明の抗不整脈剤は、下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を少なくとも含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
以下、本発明の前記心房細動抑制剤の説明と併せて、本発明の前記抗不整脈剤について説明する。
【0017】
これらの中でも、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、心房筋細胞に選択性の高いナトリウム(Na)イオンチャネルを阻害する化合物であることが好ましく、下記構造式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩が特に好ましい。なお、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤が心房筋Naチャネル阻害作用を有することは、該心房筋Naチャネル阻害作用を反映する指標である心電図P波幅で確認することができる。
【化19】
【化20】
【化21】
前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。また、前記構造式(III)で表される化合物は、前記構造式(I)で表される化合物のグルクロン酸抱合体を表す。
【化22】
【化23】
【化24】
【0018】
なお、前記構造式(I)で表される化合物は、抗インフルエンザウイルス活性を有する化合物として知られているオセルタミビルと呼ばれる化合物であり、市販品では、商品名:タミフル(登録商標)(中外製薬株式会社製)として販売されている。
【0019】
前記心房細動抑制剤中又は前記抗不整脈剤中の、前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の構造や含有量を確認する方法としては、特に制限はなく、各種の分析方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、元素分析法、質量分析法、プロトン核磁気共鳴分析法、炭素13核磁気共鳴分析法、赤外線吸収分析法などが挙げられる。
【0020】
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤における前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩そのものであってもよい。
【0021】
−構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の製造方法−
前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩は、市販品を用いてもよく、化学合成により得てもよい。
前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、特表2000−517306号公報の式116の化合物の合成方法を好適に用いることができる。
【0022】
具体的には、下記スキーム1及び2のプロセスAA、AB、AC、AD、AE、AF、AG、AH、AI、AJ、及びAKのうちのいずれか1つ、又はそれらの系列的な組み合わせ、下記スキーム3のプロセスAL、AM、AN、AO、及びAPのうちのいずれか1つ、又はそれらの系列的な組み合わせを含むことが好ましい。
本発明において、「系列的な組み合わせ」とは、1つより多いプロセスであって、個別のプロセスが所望の順序で順次行われるプロセスを意味する。
また、単離、分離、精製などが行われてもよく、単離、分離、精製などを行う段階としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、いずれの個別のプロセスの前に行われてもよく、後に行われてもよい。
なお、下記スキーム1〜3において、「Et」は、エチル基を表し、「Ms」は、メシル基を表し、「Ac」は、アセチル基を表す。
【0023】
【化25】
【0024】
【化26】
【0025】
より具体的には、式110の化合物をアジ化ナトリウムで処理して、式111の化合物を生成し、該式111の化合物を還元試薬で処理して式113の化合物を生成し、該式113の化合物をアジ化ナトリウムで処理して式114の化合物を生成し、該式114の化合物をアセチル化試薬で処理して式115の化合物を生成し、該式115の化合物を接触水素化に供して前記構造式(I)で表される化合物を合成することができる。
【0026】
下記スキーム3は、代替の窒素求核試薬(March,「Advanced Organic Chemistry,」第4版、第425頁〜第427頁)を用いてエポキシド201を開環することによる、前記構造式(I)で表される化合物206(R=H2)の合成を示す。アジドアルコール202の酸化によりケトン203が得られ(Larock,「Comprehensive Organic Transformations」、第604頁〜第614頁)、ここでβアキシャルNR基は、異性体化されてαエクアトリアル立体配置を有するケトン204となる。ケトン204の還元的アミノ化(Larock(前掲)、第421頁〜第425頁)により、βエクアトリアルアミン205が得られ、これをアセチル化して化合物206を得る。R部分の開裂(Greene、「Protective Groups in Organic Synthesis」、第218頁〜第287頁)によりR=H2の前記構造式(I)で表される化合物が得られる。
【化27】
【0027】
より具体的には、式201の化合物をアミン試薬で処理して式202の化合物を生成し、該式202の化合物を酸化試薬で処理して式203の化合物を生成し、該式203の化合物を塩基で処理して式204の化合物を生成し、該式204の化合物を還元的アミノ化試薬で処理して式205の化合物を生成し、該式205の化合物をアセチル化試薬で処理して前記構造式(I)で表される化合物を合成する方法などが挙げられる。
【0028】
前記スキーム1〜3の各々において、各工程又は一連の工程の所望の生成物又は出発物質を互いに分離及び/又は精製することが好ましい。
前記分離及び/又は精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多相抽出法、溶媒又は溶媒混合物からの結晶化、蒸留、昇華、クロマトグラフィー等を行う方法などが挙げられる。
【0029】
前記クロマトグラフィーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高圧クロマトグラフィー、中圧クロマトグラフィー、低圧液体クロマトグラフィー、小規模及び分取の薄層又は厚層クロマトグラフィー、小規模な薄層及びフラッシュクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0030】
前記分離及び/又は精製は、所望の生成物、未反応の出発物質、反応副生成物等に結合するように選択された試薬、あるいは他の方法で分離及び/又は精製し得る試薬で混合物を処理する方法であってもよい。
このような試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活性炭、モレキュラーシーブ、イオン交換媒体等の吸着剤又は吸収剤;分離及び/又は精製の対象が塩基性物質の場合に好ましく用いられる酸;分離及び/又は精製の対象が酸性物質の場合に好ましく用いられる塩基;抗体、結合タンパク質等の結合試薬;クラウンエーテル等の選択的錯形成剤;液/液イオン抽出試薬(LIX)などが挙げられる。
【0031】
前記スキーム1及び2についてより詳細に説明する。
前記式100の化合物(ラクトン)は、キニン酸(20kg、104mol;[α]D−43.7゜(c=1.12、水);「MerckIndex第11版」、8071:[α]D−42゜〜−44゜(水))、2,2−ジメトキシプロパン及びp−トルエンスルホン酸一水和物のアセトン中の溶液を2時間加熱還流し、次いでエタノール中のナトリウムエトキシドを加えて反応をクエンチし、そして溶媒の大部分を減圧蒸留する。得られた残渣を酢酸エチルと水との間で分配し、水層を酢酸エチルで逆抽出し、そして合わせた有機層を重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、酢酸エチルの大部分を減圧蒸留することにより、淡黄色の固体残渣として前記式100の化合物を得ることができる。
【0032】
前記式101の化合物(ヒドロキシエステル)は、前記式100の化合物の無水エタノール中の溶液をエタノール中のナトリウムエトキシドで処理し、室温で2時間後、酢酸を加え、そして溶媒を減圧蒸留する。ここに酢酸エチルを加え、ほぼ乾固するまで蒸留を続け、黄褐色の固体残渣を得、これを酢酸エチルに還流下溶解し、そしてヘキサンを加え、冷却すると、白色結晶性固体が形成され、これを濾過により単離することにより、前記式101の化合物と前記式100の化合物との混合物を得ることができる。
【0033】
前記式102の化合物(メシルエステル)は、前記式101の化合物及び前記式100の化合物の混合物をジクロロメタン中に懸濁した溶液を0℃〜10℃に冷却し、そして塩化メタンスルホニルで処理し、次にトリエチルアミンをゆっくりと加え、次いで塩化メタンスルホニルを追加する。1時間後、水及び塩酸を加え、層分離させ、そして有機層を水で洗浄し、次に減圧蒸留することにより、前記式102の化合物と前記式103の化合物(メシルラクトン)との混合物である半固体残渣を得ることができる。この残渣を酢酸エチルに溶解し、−10℃〜−20℃に2時間かけて冷却し、前記式103の化合物を結晶化させ、これを濾過により分離し、そして冷酢酸エチルで洗浄し、濾液を濃縮して、前記式102の化合物をオレンジ色の樹脂として得ることができる。
【0034】
前記式104の化合物(メシルアセトニド)は、前記式102の化合物及びピリジンのジクロロメタン中の溶液を−20℃〜−30℃に冷却し、そして塩化スルフリルで一滴ずつ処理し、発熱反応が鎮静した後、得られたスラリーをエタノールでクエンチし、0℃に加温し、そして硫酸、水、及び重炭酸ナトリウム水溶液で順次洗浄する。得られた有機層は、前記式104の化合物、前記式105の化合物(アリル性メシレート)、及び前記式106の化合物の混合物であり、これを減圧濃縮し、そして酢酸エチルを加え、前記式105の化合物を、ピロリジン及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)の酢酸エステル溶液で周囲温度にて5時間処理し、次に硫酸で洗浄することによって選択的に除去する。有機層をシリカゲルのパッドを通して濾過し、そして酢酸エチルで溶出し、濾液を減圧濃縮すると、前記式104の化合物及び前記式106の化合物の混合物からなる濃厚なオレンジ色の油状物が残る。この残渣を酢酸エチル中に還流下溶解し、そしてヘキサンを加え、冷却すると、前記式104の化合物が結晶化し、そしてこれを濾過により分離し、そしてヘキサン中の酢酸エチルで洗浄し、減圧乾燥の後、前記式104の化合物が淡黄色針状物として得られる。
【0035】
前記式107の化合物(ペンチルケタール)は、前記式104の化合物、3−ペンタノン、及び過塩素酸の溶液を18時間攪拌し、揮発性物質を周囲温度で減圧蒸留し、そして新しい3−ペンタノンを蒸留が進行するにつれ徐々に加え、次いで反応混合物を濾過し、トルエンを加え、そして得られた溶液を重炭酸ナトリウム水溶液、水、及び食塩水で順次洗浄する。次いで、有機層を減圧濃縮し、そしてトルエンを蒸留が進行するにつれ徐々に加え、蒸留がそれ以上できなくなった時点で、オレンジ色の油状物の残渣として式107の化合物が得られる。
【0036】
前記式108の化合物(ペンチルエーテル)は、前記式107の化合物のジクロロメタン中の溶液を−30℃〜−20℃に冷却し、そしてボラン−メチルスルフィド錯体、及びトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルで処理し、1時間後、重炭酸ナトリウム水溶液をゆっくりと加え、混合物を周囲温度まで加温し、そして12時間攪拌する。得られた有機層を濾過し、そして減圧濃縮すると、前記式108の化合物と前記式109の化合物との混合物が灰色のろう状固体として得られる。
【0037】
前記式110の化合物(エポキシド)は、前記式108の化合物及び前記式109の化合物の混合物のエタノール溶液を水中の炭酸水素カリウムの溶液で処理し、55℃〜65℃に2時間加熱した後、溶液を冷却し、そして2回ヘキサンで抽出すると、未反応の式109の化合物が水性エタノール層中に残留する。合わせたヘキサン抽出物を濾過し、そして減圧濃縮すると、式110の化合物が羊毛状の白色結晶固体として得られる。
【0038】
前記式111の化合物(ヒドロキシアジド)は、水及びエタノール中の式110の化合物、アジ化ナトリウム、及び塩化アンモニウムの混合物を70℃〜75℃に8時間加熱し、重炭酸ナトリウム水溶液を加え、そしてエタノールを減圧蒸留した。水性残渣を酢酸エチルで抽出し、そして抽出物を水で洗浄し、この水洗浄物を酢酸エチルで逆抽出する。合わせた有機抽出物を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過及び減圧濃縮すると、前記式111の化合物と前記式112の化合物との混合物が、暗褐色の油状物として得られる。
【0039】
前記式113の化合物(アジリジン)は、前記式111の化合物と前記式112の化合物との混合物を減圧下3回、無水アセトニトリルから共蒸発させ、次に無水アセトニトリル中に溶解し、無水テトラヒドロフラン及び無水アセトニトリル中の無水トリフェニルホスフィンの溶液を2時間かけて一滴ずつ加え、この混合物を6時間還流加熱し、次に減圧下濃縮すると、前記式113の化合物と、トリフェニルホスフィンオキシドと、微量のトリフェニルホスフィンからなる金色のペーストが得られる。このペーストをジエチルエーテルで粉末化し、不溶のトリフェニルホスフィンオキシドの大部分を濾過により除去し、そしてジエチルエーテルで洗浄する。濾液を減圧下濃縮すると、暗褐色の油状物が残り、これを水性メタノール水溶液に溶解し、そしてヘキサで3回抽出して、トリフェニルホスフィンを除去する。ヘキサン抽出物を水性メタノール水溶液で抽出し、そして合わせた水性メタノール層を減圧下濃縮する。残渣を無水アセトニトリルから減圧下2回共蒸発すると、暗褐色の油状物として前記式113の化合物及びトリフェニルホスフィンオキシドからなる混合物が得られる。
【0040】
前記式115の化合物(アセトアミドアジド)は、式113の化合物、トリフェニルホスフィンオキシド、アジ化ナトリウム、及び塩化アンモニウムのジメチルホルムアミド中の混合物を80℃〜85℃に5時間加熱する。ここに重炭酸ナトリウム及び水を加え、前記式114の化合物を反応混合物からヘキサンで6回抽出することによって単離する。合わせたヘキサン抽出物を減圧下濃縮し、そしてジクロロメタンを加え、次いで重炭酸ナトリウム水溶液を加え、更に無水酢酸を加える。周囲温度で1時間攪拌した後、水層を捨て、有機相を減圧下濃縮し、これを還流下酢酸エチルに溶解し、冷却すると、前記式115の化合物が結晶化し、これを濾過によって単離することができる。ヘキサン中の冷酢酸エチルで洗浄し、そして減圧下周囲温度で乾燥した後、純粋な前記式115の化合物をオフホワイト色の結晶として得ることができる。
【0041】
前記構造式(I)で表される化合物は、前記式115の化合物及びリンドラー触媒の無水エタノール中の混合物を18時間攪拌し、その間、水素(1気圧)を、前記混合物を通してバブリングし、次いでセライトを通して濾過し、そして濾液を減圧濃縮して、前記構造式(I)で表される化合物を泡状物として得ることができる。なお、この泡状物は、放置すると固化する。
【0042】
前記構造式(I)で表される化合物のリン酸塩は、前記構造式(I)で表される化合物のアセトン中の溶液を還流し、これを無水エタノール中のリン酸で処理すると、即時に結晶化が開始し、そして0℃で12時間冷却した後、沈殿を濾過により採取することにより、無色針状物として得ることができる。
【0043】
前記構造式(I)で表される化合物の塩酸塩は、前記構造式(I)で表される化合物のアセトン中の溶液の無水エタノール中の溶液を、エタノール中塩化水素で処理し、次いでエタノールの大部分を減圧下蒸発させ、そして油状残渣を酢酸エチルと共に固体が形成されるまで攪拌する。ヘキサンを攪拌した混合物に徐々に加える。周囲温度で1時間後、固体を濾過により採取し、ジエチルエーテルで洗浄し、そして減圧下乾燥する。これによりオフホワイト色の固体として構造式(I)で表される化合物の塩酸塩を得ることができる。
【0044】
前記構造式(II)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記構造式(II)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩は、前記構造式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の代謝産物であることが知られている(タミフル(登録商標)医薬品インタビューフォーム、2005年12月(改定第16版)参照)。
【0045】
<その他の成分>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤における前記その他の成分としては、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の添加剤、補助剤、水などが挙げられる。
前記添加剤又は前記補助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、殺菌剤、保存剤、粘結剤、増粘剤、固着剤、結合剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、溶剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤、消泡剤、物性向上剤、防腐剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記殺菌剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0047】
前記保存剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、クレゾールなどが挙げられる。
【0048】
前記粘結剤、増粘剤、固着剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、澱粉、デキストリン、マルチトール、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、エチレン・プロピレンブロックポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0049】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0050】
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
【0051】
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
【0052】
前記pH調整剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0053】
前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
【0054】
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
<併用>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、1種単独で使用してもよく、他の成分を有効成分とする薬物と併用してもよい。また、他の成分を有効成分とする薬物に配合されていてもよい。
他の成分を有効成分とする薬物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、臨床で心房細動の予防薬又は治療薬として用いられている薬物などが挙げられ、具体例としては、ジソピラミド、アプリンジン、シベンゾリン、ピルジカイニドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよいが、心房細動を停止させた後、心房細動が再発しにくい点で、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤と前記その他の薬物とを併用することが好ましく、ピルジカイニドと併用することが特に好ましい。
【0056】
<剤形>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤の剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形剤、半固形剤、液剤などが挙げられる。
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、前記剤形などに応じて、公知の方法により製造することができる。
【0057】
−固形剤−
前記固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤、坐剤、パップ剤、プラスター剤などが挙げられる。
【0058】
−半固形剤−
前記半固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、舐剤、チューインガム剤、ホイップ剤、ゼリー剤、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、インヘラー剤、ナザールジェル剤などが挙げられる。
【0059】
−液剤−
前記液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤、シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、酒精剤、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤などが挙げられる。これらの中でも、注射剤が特に好ましい。
【0060】
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤の製造方法としては、特に制限はなく、剤形などに応じて、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0061】
<投与>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0062】
前記投与方法としては、例えば、経口投与法、非経口投与法、局所投与法、経腸投与などが挙げられる。これらの中でも、非経口投与法が好ましく、注射による投与法が特に好ましい。
【0063】
前記投与量としては、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする薬物の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができるが、有効成分としての前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の1日あたりの合計投与量が、3mg/kg以上が好ましく、10mg/kg以上がより好ましく、20mg/kg以上が更に好ましく、25mg/kg以上が更により好ましく、30mg/kg以上が特に好ましい。
また、前記投与量の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2,000mg/kg以下が好ましく、1,000mg/kg以下がより好ましく、100mg/kg以下が特に好ましい。
前記投与量の下限値と上限値としては、適宜組み合わせることができ、これらを組み合わせた投与量としては、3mg/kg〜2,000mg/kgが好ましく、10mg/kg〜1,000mg/kgがより好ましく、20mg/kg〜1,000mg/kgが更に好ましく、25mg/kg〜1,000mg/kgが更により好ましく、30mg/kg〜100mg/kgが特に好ましい。
前記投与回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1日1回の投与でもよく、複数回に分けて投与してもよい。
【0064】
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0065】
<用途>
本発明の前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、優れた不整脈抑制作用、特に心房細動に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性が高いものであるため、心房細動を含む不整脈の予防薬又は治療薬として好適に利用可能である。更に、前記心房細動抑制作用は、突発性心房細動(発作性心房細動)及び持続性心房細動のいずれの心房細動に対しても有効である点で有利である。ここで、本発明において、心房細動抑制作用とは、少なくとも心房細動を抑制する作用であればよく、除細動も含む。前記除細動とは、心房細動を停止させ、洞調律に復帰することを意味する。
前記心房細動抑制剤は、持続性心房細動に対して有効であるため、永続性心房細動への進行を防ぐことができ、更に脳梗塞をはじめとする全身臓器の血栓や塞栓症等の合併症の予防薬としても好適に利用可能である。
【0066】
(持続性心房細動モデル及びその製造方法)
本発明の持続性心房細動モデルの製造方法は、心房肥大拡大化工程と、心房ペーシング工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の持続性心房細動モデルは、本発明の前記持続性心房細動モデルの製造方法により製造されたモデルである。
以下、持続性心房細動モデルの製造方法の説明と併せて、持続性心房細動モデルについても詳細に説明する。
【0067】
<心房肥大拡大化工程>
前記心房肥大拡大化工程は、イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入し、前記電極カテーテルから前記房室結節領域に高周波を通電して前記房室結節を破壊し、房室伝導をブロックさせて心房を肥大拡大させる工程である。前記心房肥大拡大化工程は、特開2006−67950号公報に記載の方法を用いることもできる。
本発明において、心房の「肥大」とは、心房壁の厚みが厚くなることをいい、心房の「拡大」とは、心房壁で囲まれた内部の体積が大きくなることをいう。したがって、前記心房肥大拡大化工程を経たイヌは、心房壁の厚みが厚くなり、且つ心房の内部の体積が大きくなった状態となる。
【0068】
前記持続性心房細動モデルの製造方法の対象であるイヌの種類、大きさ、年齢、性別などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、実験動物としての実績があるビークル犬が取扱い易さの点で好ましく、体重10kg程度の1歳〜2歳のビーグル犬がより好ましい。
【0069】
前記イヌを用いて心房肥大拡大化工程を行う際は、イヌに麻酔をかけて行うことが好ましい。
麻酔薬の種類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペントバルビタール、ハロセンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記麻酔薬を投与する量としては、特に制限はなく、対象であるイヌの種類、大きさ、年齢、性別などに応じて適宜選択することができる。
【0070】
また、前記イヌを用いて心房肥大拡大化工程を行う際は、麻酔をかけた後、呼吸を安定させる目的で挿管して人工呼吸器等の酸素乃至大気供給手段から一定量の酸素乃至大気を供給することが好ましい。
前記酸素乃至大気の供給量としては、特に制限はなく、対象個体の体重などに応じて適宜選択することができるが、15mL/kg〜25mL/kgが好ましい。
【0071】
電極カテーテルの材質、形状、直径、長さなどとしては、特に制限はなく、公知の電極カテーテルの中から、目的に応じて適宜選択することができるが、電極が先端部に取り付けられたカテーテルであることが好ましい。前記電極が先端部に取り付けられたカテーテルは、市販品を用いることができ、例えば、カタログ番号:D7−DL−252(4mmチップ電極、コーディス・ウェブスター社製)などが挙げられる。
【0072】
イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電極カテーテルを大腿静脈から房室結節領域に挿入する方法が好ましく、電極カテーテルの先端部の電極を所定位置に固定することがより好ましい。
前記電極カテーテルの先端部の電極を固定する位置としては、ヒス束心電図(AV)が最大に記録できる部位を探した後、心房の電気興奮を表すA波と、心室の電気興奮を表すV波との比(A波:V波)が2:1以上となる領域で固定することが好ましい。このような部位としては、房室結節領域などが挙げられる。
【0073】
前記房室結節領域に通電する際の周波数としては、高周波であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、目的とする部位を焼灼できる周波数であることが好ましく、450kHz〜550kHzがより好ましく、500kHzが特に好ましい。前記周波数が、450kHz未満であると、房室結節を破壊できないことがあり、550kHzを超えると、房室結節を焼灼しすぎ、不要な部位まで破壊されてしまうことがある。
また、前記房室結節領域に通電する際の電力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、18W〜22Wが好ましく、20Wがより好ましい。前記周波数が、18W未満であると、房室結節を破壊できないことがあり、22Wを超えると、房室結節を焼灼しすぎ、不要な部位まで破壊されてしまうことがある。
通電時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0074】
前記房室結節を破壊した後のイヌは、心房を肥大拡大化させるために、4週間以上おくことが好ましく、4週間〜6週間おくことがより好ましい。
心房が肥大拡大化したことは、例えば、MRI(核磁気共鳴画像)、心エコー、X線写真、圧付加や容量負荷の測定などにより確認することができる。
【0075】
前記心房肥大拡大化工程により、房室伝導が完全にブロックされた慢性房室ブロックモデルが作製される。前記慢性房室ブロックモデルは、洞結節のペースメーカとしての機能が停止されるため、右心室及び左心室は、以後、ヒス束のリズムによって血液のポンプ機能を果たすことになる。そのため心臓から血液を送り出すポンプ機能が低下すると共に心拍数も大幅に減少して心臓に負担が掛かり、結果として心臓の重量が約2倍程度に増加する。
【0076】
<心房ペーシング工程>
前記心房肥大拡大化工程で肥大拡大化した心房をペーシングする工程である。
本発明において、「ペーシング」とは、電気刺激により人為的に心筋細胞の電気興奮を作り出し、この電気興奮の伝播により心収縮を引き起こす事象を意味する。
ペーシングする方法としては、前記肥大拡大化した心房をペーシングすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ペーシングリードを有するペースメーカを所定の位置に植え込みペーシングする方法などが挙げられる。
【0077】
前記ペーシングリード及びペースメーカの材質、形状、大きさなどとしては、特に制限はなく、公知のペースメーカの中から、目的に応じて適宜選択することができる。市販品のペーシングリードとしては、例えば、OSCOR社製のリードなどが挙げられる。市販品のペースメーカとしては、例えば、大正医科機械株式会社製のカタログ番号:TNT−002などが挙げられる。
【0078】
前記ペーシングリードを植え込む位置としては、前記肥大拡大化した心房をペーシングすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、左房中のバックマン(Bachmann)束領域が、持続性心房細動モデルの作製効率が高い点で好ましい。
前記ペースメーカを植え込む位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、臀部皮下などが挙げられる。
【0079】
ペースメーカの植え込み後、心房に振動を付与するまでは、動物への負荷を少なくする点で、4週間以上おくことが好ましく、4週間〜6週間おくことがより好ましい。
【0080】
ペーシングの速度としては、特に制限はなく、対象個体の特性などに応じて適宜選択することができるが、500bpm〜700bpmが好ましく、550bpm〜650bpmがより好ましく、600bpmが特に好ましい。前記ペーシングの速度が、500bpm未満であると、持続性心房細動モデルを作製することができないことがあり、700bpmを超えると、永続性心房細動が発生することがある。
【0081】
ペーシングの期間としては、特に制限はなく、対象個体の特性などに応じて適宜選択することができるが、4週間以上が好ましく、6週間以上がより好ましく、6週間〜12週間が特に好ましい。前記ペーシングの期間が、4週間未満であると、持続性心房細動モデルを作製できないことがあり、12週間を超えると、永続性心房細動が発生することがある。
【0082】
前記持続性心房細動モデルが作製できたこと、即ち、心房細動が持続しているか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、心電図で確認する方法などが挙げられる。
なお、本発明において、心房細動の持続とは、前記心房ペーシング工程終了後、即ちペーシングを止めた後においても、心房が300bpm以上で不規則に振動し続けてしていることを意味する。
【0083】
<持続性心房細動モデル>
本発明の前記持続性心房細動モデルは、心房が肥大拡大化しており、かつ心房細動が持続しており、これにより血栓も生じ易いモデルである。したがって、臨床においてヒトで生じる持続性心房細動に非常に近い状態にあるモデルである点で有利である。
前記持続性心房細動モデルにおける心房細動の持続時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、24時間以上が更に好ましく、1週間以上が特に好ましい。
なお、心房細動が抑制又は除細動された後の前記持続性心房細動モデルに対して、前記心房ペーシング工程を行うことで、再度、心房細動が生じ、持続性心房細動モデルを作製することができる。
【0084】
<用途>
本発明の持続性心房細動モデル及びその製造方法は、臨床における持続性心房細動に近いモデルであり、心房細動を持続することができ、更に心房細動を薬物等で心房細動を抑制又は除細動できるため、心房細動抑制剤のスクリーニングや、既存の抗不整脈薬の有効性の再評価などに好適に利用可能である。また、前記持続性心房細動モデルは、心房細動の発生機序等の病態の検討にも好適に利用可能である。
【0085】
(心房細動抑制剤のスクリーニング方法)
本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、投与工程と、スクリーニング工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更に心房細動再誘発工程などのその他の工程を含む。
【0086】
<投与工程>
前記投与工程は、本発明の前記持続性心房細動モデルに被験物質を投与する工程である。
前記被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化合物、核酸、タンパク質などが挙げられる。また、臨床で用いられている心房細動の予防薬又は治療薬、新たに開発した製薬、公知の医薬品、薬物などを用いることもできる。
【0087】
前記被験物質を投与する方法としては、特に制限はなく、前記被験物質の種類や状態などに応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与法、非経口投与法、局所投与法、経腸投与などが挙げられる。
前記被験物質の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、などに応じて適宜選択することができる。
【0088】
<スクリーニング工程>
前記スクリーニング工程は、前記投与工程後、前記持続性心房細動モデルの心房細動を抑制した被験物質を心房細動抑制剤としてスクリーニングする工程である。
【0089】
前記心房細動を抑制したか否かを判断する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記投与工程における前記被験物質の投与前と、前記被験物質の投与後との心電図の変化、特にP波により判断する方法が好ましく、前記被験物質の投与前、投与中、及び投与後にわたって継続してその変化を観察することがより好ましい。
前記心電図を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の装置(例えば、長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)を用いて測定することができる。
【0090】
前記持続性心房細動モデルは、心房細動が持続しているため、投与前の心電図は、P波が心房細動に応じた不規則な波形を示す。
これに対し、前記被験物質を投与後、心電図におけるP波が洞調律に近づく、あるいは洞調律に復帰した場合、心房細動の抑制作用を有する物質であると判断することができ、心房細動抑制剤としてスクリーニングされる。
一方、前記被験物質を投与後、P波に変化がない(心房細動に変化がない)、あるいはP波の波形が更に不規則に及び/又は細かくなる(心房細動が促進される)場合は、心房細動を抑制しない物質と判断することができる。
なお、心房細動抑制剤としてスクリーニングされた物質であっても、心室に不整脈が生じるなどの副作用を引き起こす物質は、臨床応用には不向きであるため、スクリーニング後、臨床応用のための試験において除外することが好ましい。
【0091】
<心房細動再誘発工程>
前記心房細動再誘発工程は、前記スクリーニング工程で心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングし、心房細動を再誘発する工程である。前記心房細動再誘発工程により、1個体の持続性心房細動モデルを、繰り返しスクリーニングに用いることができる点で好ましい。
また、前記持続性心房細動モデルの製造方法における前記心房肥大拡大化工程を行うことなく心房細動を再誘発できるため、操作が簡便である点で有利である。
【0092】
前記心房細動再誘発工程において、前記心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングする方法としては、前記心房ペーシング工程と同様の方法を用いることができる。
前記心房細動再誘発工程において、前記心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングする速度としては、特に制限はなく、対象個体の特性などに応じて適宜選択することができるが、500bpm〜700bpmが好ましく、550bpm〜650bpmがより好ましく、600bpmが特に好ましい。前記ペーシングの速度が、500bpm未満であると、心房細動を再誘発できないことがある。
【0093】
前記心房細動再誘発工程を行うタイミングとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、心房細動が抑制されてから(洞調律に復帰してから)1週間以内に行うことが好ましい。心房細動が抑制されてから1週間を超えると、心房細動を再誘発できないことがある。
【0094】
前記心房細動再誘発工程で心房細動が再誘発された個体は、再度、前記投与工程及び前記スクリーニング工程に供することができ、これにより、1個体の持続性心房細動モデルを、繰り返しスクリーニングに用いることができる点で有利である。
【0095】
なお、前記心房細動再誘発工程で心房細動を再誘発できなかった場合は、前記心房細動が抑制された持続性心房細動モデルを、前記持続性心房細動モデルの作製方法と同様の方法に供し、心房肥大拡大化工程及び心房ペーシング工程を経ることで、再度持続性心房細動モデルを作製することもできる。
【0096】
<用途>
本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、ヒトで生じる心房細動と同様のメカニズムを有しているイヌの持続性心房細動モデルを用いているため、心房細動のin vivo評価系として優れており、心房細動の予防や治療のために用いられる新たな心房細動抑制剤のスクリーニングや、ピルジカイニドやジソピラミド等の心房細動の治療薬として長年臨床で使用されている既存の薬物の再評価に有効かつ効率的に利用可能である。
なお、本発明の前記心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、抗不整脈剤のスクリーニング方法としても好適に利用可能である。
また、薬物による不整脈の増悪効果の評価モデル、薬物を投与した時の心拍数や血圧、心電図の変化等の観察にも好適に利用可能である。
【実施例】
【0097】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
(製造例1)
−心房肥大拡大化工程−
ビーグル犬(n=6、生後約1年、体重約10kg、雌、北山ラベス株式会社)にペントバルビタール(田辺三菱製薬株式会製)30mg/kgを静脈注射で投与し、同時に気管に人工呼吸器(SN−480−3、株式会社シナノ製作所製)を挿管して20mL/kgの酸素を供給して人工呼吸させた。
大腿部を剃毛し、アルコール綿で消毒してから、大腿静脈にガイドワイヤを挿入し、更にペーシング電極が先端部に取り付けられた電極カテーテル(カタログ番号:D7−DL−252、4mmチップ電極、コーディス・ウェブスター社製)を大腿静脈から右心室まで挿入した。次いで、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、標準四肢第II誘導法に基づいて装着し、ヒス束心電図(AV)が最大に記録できる部位を探した後、心房の電気興奮を表すA波と、心室の電気興奮を表すV波との比(A波:V波)が2:1以上となる領域に、先端の電極を逢着して固定した。次いで、電極カテーテルの先端電極から房室結節領域に500kHz、20Wで10秒間通電して房室結節を破壊して房室伝導をブロックした後、4週間飼育した。
【0099】
−−心房肥大拡大化の確認−−
4週間飼育後、心房が肥大拡大化したことは、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)及び心臓超音波(心エコー)により確認した。MRIは、シグナプロファイル(ゼネラルエレクトリック社製、Milwaukee, WI)で測定した。心エコーは、SSA−400(東芝メディカルシステムズ株式会社製)で測定した。
正常なビーグル犬の心臓のMRI像を図1Aに、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬の心臓のMRI像を図1Bに示す。また、正常なビーグル犬の心エコー像を図2Aに、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬の心エコー像を図2B及びCに示す。
図1A及びB、並びに、図2A〜Cにおいて、RAは、右心房、RVは、右心室、LAは、左心房、LVは、左心室、Aoは、大動脈、PVは、肺静脈、IVCは、下大動脈を表す。
図1A及びB、並びに、図2A〜Cより、心房肥大拡大化工程により左心房(LA)が肥大拡大化していることが確認され、更に、図2Cでは、僧帽弁逆流ジェット(MR jet)が観察された。これにより、慢性房室ブロックモデルが作製できたことが確認された。
【0100】
−心房ペーシング工程−
前記心房肥大拡大化工程を経たビーグル犬に、ペントバルビタール(田辺三菱製薬株式会製)30mg/kgを静脈注射で投与し、同時に気管に人工呼吸器を挿管して20mL/kgの酸素を供給して人工呼吸させた。
臀部を剃毛し、アルコール綿で消毒してから、ペーシングリード(OSCOR社製)を接続したペースメーカ(カタログ番号:TNT−002、大正医科機械株式会社製)を臀部に植え込んだ。ペーシングリードは、皮下トンネルを介して胸部まで走行させ、先端の電極を、開胸して左房のバックマン束領域に逢着して固定した。ペースメーカ及びペーシングリードの植え込み後、4週間飼育した。
次いで、ペースメーカを600bpmで動作させ、6週間心房に振動を付与した。このとき、ペースメーカを600bpmで動作させると、ペースメーカによる電気刺激(A)に対して、心房筋の収縮反応(B)は、A:B=1:1であった。この様子を、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、標準四肢第II誘導法に基づいて装着して測定した結果を図3に示す。なお、このときの心室の拍動は、31bpmであった。
【0101】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、製造例1におけるビーグル犬は、6個体中6個体に心房細動が確認され、持続性心房細動モデルが作製できたことが確認された。また、6個体中6個体とも1週間以上の心房細動の持続が確認された。
【0102】
(製造例2)
製造例1において、心房ペーシング工程で心房に振動を付与する期間を、6週間から4週間に変えたこと以外は、製造例1と同様の処理をビーグル犬(n=4)に施した。
【0103】
4週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、製造例2におけるビーグル犬は、4個体中4個体とも心房細動が確認され、持続性心房細動モデルが作製できたことが確認された。しかし、4個体中4個体とも、心房細動の持続時間は、24時間〜1週間であり、その後、心房細動は、自然停止して洞調律に復帰した。
【0104】
(比較製造例1)
製造例1において、心房ペーシング工程でペースメーカのペーシング速度を、600bpmから400bpmに変えたこと以外は、製造例1と同様の処理をビーグル犬(n=6)に施した。この様子をホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)で測定した結果を図4に示す。なお、このときの心室の拍動は、35bpmであった。
【0105】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、比較製造例1におけるビーグル犬は、6個体中6個体とも心房細動が確認されず、ペースメーカよる電気刺激を止めた後は、洞調律に復帰した。したがって、持続性心房細動モデルを作製することはできなかった。
【0106】
(比較製造例2)
製造例1において、心房ペーシング工程でペーシングリードの先端の電極の固定位置を、左房中のバックマン束領域から右房中のバックマン束領域に変えたこと以外は、製造例1と同様の処理をビーグル犬(n=4)に施した。なお、ペースメーカを600bpmで動作させると、ペースメーカによる電気刺激(A)に対して、心房筋の収縮反応(B)は、A:B=2:1であった。
【0107】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、比較製造例2におけるビーグル犬は、4個体中4個体とも心房細動が確認されず、ペースメーカよる電気刺激を止めた後は、洞調律に復帰した。したがって、持続性心房細動モデルを作製することはできなかった。
【0108】
(比較製造例3)
比較製造例2において、心房ペーシング工程でペースメーカのペーシング速度を、600bpmから400bpmに変えたこと以外は、比較製造例2と同様の処理をビーグル犬(n=4)に施した。なお、ペースメーカを400bpmで動作させると、ペースメーカによる電気刺激(A)に対して、心房筋の収縮反応(B)は、A:B=1:1であった。
【0109】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、比較製造例3におけるビーグル犬は、4個体中4個体とも心房細動が確認されず、ペースメーカよる電気刺激を止めた後は、洞調律に復帰した。したがって、持続性心房細動モデルを作製することはできなかった。
【0110】
(試験例1:心房細動抑制剤のスクリーニング)
製造例1で作製した持続性心房細動モデルに対し、生理食塩水を用いて表1に示す投与量となるように調製した、オセルタミビル(リン酸オセルタミビル、商品名:タミフル(登録商標)、中外製薬株式会社製;構造式(I)で表される化合物のリン酸塩)、ジソピラミド(商品名:リスモダン(登録商標)、サノフィ・アベンティスファーマ株式会社製)、アプリンジン(アプリンジン塩酸塩、商品名:アスペノン(登録商標)、バイエル薬品工業株式会社製)、シベンゾリン(シベンゾリンコハク酸塩、商品名:シベノール(登録商標)アステラス製薬株式会社製)、及びピルジカイニド(塩酸ピルジカイニド、商品名:サンリズム(登録商標)、第一三共株式会社製)のいずれかを下記表1に示す投与量で静脈注射により10分間かけて投与した。なお、下記表1に示す投与量は、有効成分の純分換算した量を示す。
投与前から投与後にかけて、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、持続性心房細動モデルに標準四肢第II誘導法に基づいて装着して測定し、投与後に心房細動停止頻度を求めた。ここで、心房細動停止頻度とは、下記式(1)で表される。また、前記心房細動停止頻度から、下記式(2)より除細動率を算出した。結果を併せて下記表1に示す。
心房細動停止頻度=X/Y ・・・式(1)
除細動率(%)=X/Y×100 ・・・式(2)
ただし、前記式(1)及び前記式(2)において、「X」は、薬物の投与後に心房細動が停止した持続性心房細動モデルの個体数を表し、「Y」は、試験に供した持続性心房細動モデルの個体数を表す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1の結果より、これまで臨床で心房細動に用いられてきた薬物を投与した群では、心房細動停止頻度及び除細動率が非常に低かったことに対して、オセルタミビル投与群は、非常に高い確立で除細動できることがわかった。
また、ジソピラミド投与群の6個体中1個体にTdP(torsades de pointes:非持続性多形性心室頻拍)が認められた(図6A参照)。
【0113】
また、図5A〜Cに、薬物の投与により心房細動が停止し、洞調律に復帰した一例として、オセルタミビル投与群のうちの1個体における心電図を、図6A〜Cに、薬物の投与により心房細動が停止しなかった一例として、ジソピラミド投与群のうちの1個体における心電図を示す。図5A〜Cにおいて、各薬物の投与開始時の時間を0分とし、この0分を基準として、投与開始前の時間を「−」、投与開始後の時間を「+」で表す。
【0114】
図5Aは、オセルタミビルの投与開始前−1分33秒の心電図であり、図5Bは、オセルタミビルの投与開始後+2分49秒の心電図であり、図5Cは、オセルタミビルの投与開始後+5分50秒の心電図である。この結果より、オセルタミビルの投与開始後+5分50秒で心房細動が停止したことが確認された。
【0115】
また、図6Aは、ジソピラミドの投与開始後+6分〜+14分の心電図であり、図6Bは、ジソピラミドの投与開始前−22分54秒の心電図である。図6Cは、ジソピラミドの投与開始後+12分15秒の心電図であり、図6Aの四角で囲んだ部分を拡大した図である。この結果より、ジソピラミドは心房細動を停止することができなかった。更に、図6Aより、心室細動が発生し、ジソピラミドを投与した持続性心房細動モデルの死亡が確認された。
【0116】
試験例1の結果より、オセルタミビルは、除細動に優れる薬物であり、かつ心室にも影響がなく、安全性が高いため、心房細動抑制剤として好適に利用できることがわかった。
また、本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、新たな心房細動の治療薬を、簡便かつ正確にスクリーニングでき、更に臨床で使用される心房細動の治療薬の再評価にも好適に利用できることがわかった。
【0117】
(試験例2:オセルタミビルの投与量及び併用の検討)
次に、心房細動抑制剤としてのオセルタミビルの投与量について検討を行った。
製造例1で作製した持続性心房細動モデルに対し、生理食塩水を用いて表2に示す投与量となるように調製したオセルタミビル(リン酸オセルタミビル、商品名:タミフル(登録商標)、中外製薬株式会社製;構造式(I)で表される化合物のリン酸塩)及び/又はピルジカイニド(塩酸ピルジカイニド、商品名:サンリズム(登録商標)、第一三共株式会社製)を下記表2に示す投与量で静脈注射により10分間かけて投与した。また、生理食塩水のみを投与した個体を対照とした。なお、下記表2に示す投与量は、有効成分の純分換算した量を示す。
【0118】
投与前から投与後にかけて、試験例1と同様の方法で心電図を測定し、試験例1と同様の方法で心房細動停止頻度及び除細動率を算出した。また、心房細動が停止した個体について、心房細動が停止してから24時間、心電図の経過観察を行い、心房細動が再発するか否かについて観察した。結果を併せて下記表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
表2の結果より、オセルタミビルは、30mg/kg以上投与することが好ましいことがわかった。また、オセルタミビル高用量+ピルジカイニド投与群の結果より、オセルタミビルとピルジカイニドとの併用も心房細動を抑制することが確認された。
更に、オセルタミビル高用量+ピルジカイニド投与群は、オセルタミビル高用量投与群に比べて心房細動再発頻度が低いことが確認された。
【0121】
(試験例3:オセルタミビルのQT延長への影響の検討)
試験例3は、Hiroshi Yoshida, MD et al., Circ J 2002, Vol.66, 857−862、A.Sugiyama et al., European Journal of Pharmacology, 2003, Vol.466, 137−146などに記載の方法で行われた。具体的な方法を以下に示す。
正常なビーグル犬(生後約1年、体重約10kg、雌、北山ラベス株式会社)にペントバルビタール(田辺三菱製薬株式会製)30mg/kgを静脈注射で投与し、同時に気管に人工呼吸器(SN−480−3、株式会社シナノ製作所製)を挿管して20mL/kgの酸素を供給して人工呼吸させた。次いで、ページング用のカテーテル電極(カタログ番号:1675P、EPテクノロジー社製)を大腿静脈から右心室内に挿入し右心室内の心室内中隔の心内膜にカテーテル先端の電極を逢着して固定した。
【0122】
このビーグル犬に対し、生理食塩水を用いて表3に示す投与量となるように調製したオセルタミビル(リン酸オセルタミビル、商品名:タミフル(登録商標)、中外製薬株式会社製;構造式(I)で表される化合物のリン酸塩)、ピルジカイニド(塩酸ピルジカイニド、商品名:サンリズム(登録商標)、第一三共株式会社製)、ジソピラミド(商品名:リスモダン(登録商標)、サノフィ・アベンティスファーマ株式会社製)、及びメキシレチン(メキシレチン塩酸塩、商品名:メキシチール(登録商標)、日本べーリンガーインゲルハイム社製)のいずれかを下記表3に示す投与量及び投与時間で静脈注射により投与した。なお、各薬物は、下記表3に示す投与スケジュールで投与した。即ち、各個体について最初に下記表3中の最も低濃度で投与し、その後30分間経過ごとに下記表3に示す濃度に上げて投与した。なお、下記表3に示す投与量は、有効成分の純分換算した量を示す。
また、各薬物投与群に対する対照群として、各薬物の投与時間及び投与スケジュールと同様の方法で生理食塩水を投与した群を用いた。
【0123】
【表3】
【0124】
前記ビーグル犬に、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、持続性心房細動モデルに標準四肢第II誘導法に基づいて装着し、投与前から投与後にかけて、洞調律時におけるQT間隔(ms)、PR間隔(ms)、P波(ms)、QRS波(ms)、MAP90(sinus)、AH間隔、及びHV間隔を測定した。
なお、P波(P duration)は、心房の電気興奮を表し、QRS波は、心室の電気興奮を表し、AHは、心房性ヒス束間隔を表し、HVは、房室結節伝導時間を表し、MAP90(sinus)は、洞調律下で活動電位振幅が最大値の90%まで再分極する時間を表す。
【0125】
また、MAP(Monophasic action potential:単相性活動電位)をDCプレアンプ(カタログ番号:300、EPテクノロジー社製)で増幅して測定した。心臓のペーシングは、カーディアックスティムレータ(カタログ番号:SEC−3102、日本光電株式会社製)を用い、刺激閾値の約2倍に相当する1V〜2Vで心室を刺激した。
周期長300msecで心室をペーシングし、MAP90(CL300)を測定し、周期長400msecで心室をペーシングし、MAP90(CL400)を測定した。
また、心室を、周期長400msecで8回ペーシングした後、9回目に早期刺激を加え、この早期刺激の連結期を5ms〜10msずつ短縮していき、ERP(Effective refractory period:有効不応期)(CL400)を測定した。ここで、「早期刺激」とは、周期長400msecより早い周期長を意味する。また、「早期刺激の連結期」とは、ペーシングの8回目(周期長400msecでの最後の刺激)と、9回目(早期刺激)との間の時間を意味する。
なお、周期長300msecで心室をペーシングした場合の心室の心拍数は、200bpmであり、周期長400msecで心室をペーシングした場合の心室の心拍数は、150bpmであった。
【0126】
また、QTc(補正QT間隔)(ms)を下記に示すBazettの公式(1920)により算出し、TRP(Torsades de Points:活動電位終末期)(ms)を下記式より算出した。
QTc=QT/√RR ・・・Bazettの公式
TRP=MAP90(CL400)−ERP
【0127】
オセルタミビル投与群の結果を図7に、ピルジカイニド投与群の結果を図8に、ジソピラミド投与群の結果を図9に、メキシレチン投与群の結果を図10に示す。図7〜10において、黒塗りで示すプロット(●、■、又は▲)は、統計によりp<0.05の有意差が認められたことを示す。
図7〜10の結果より、オセルタミビル投与群では、QT及びQTcの延長は小さく、安全なQT延長パターンを示していた。これより、オセルタミビルは、大量投与できることが示唆された。一方、ピルジカイニド投与群、ジソピラミド投与群、及びメキシレチン投与群は、オセルタミビル投与群と比較して、QT及びQTcの延長が大きく、危険なQT延長パターンを示していた。QT間隔は、心筋細胞の活動電位持続時間を推定する指標であり、過度のQT間隔の延長は、致死性心室不整脈であるTdP(Torsades de Pointes)を誘発することが知られており、QT間隔の延長が大きいほどTdPの発生リスクが増大する。
また、オセルタミビル投与群では、MAP90(CL300)、即ち心拍数が200bpmのときの延長が、MAP90(CL400)、即ち心拍数が150bpmのときの延長に比べて大きく、安全なMAP延長パターンを示していた。一方、ピルジカイニド投与群及びジソピラミド投与群は、MAP90(CL400)、即ち心拍数が150bpmのときの延長が、MAP90(CL300)、即ち心拍数が200bpmのときの延長に比べて大きく、危険なMAP延長パターンを示していた。
更に、オセルタミビル投与群では、P波の延長が大きく、心房に対する選択性が高いことが示唆された。また、オセルタミビル投与群では、心房筋Naチャネル阻害作用を反映する指標である心電図P波幅を他のイオンチャネルの指標より延長させた(図7左上段)。
【0128】
これらの結果より、オセルタミビルは、これまで臨床で心房細動を含む不整脈の予防薬又は治療薬として使用されてきた薬物と比較して、心房細動の抑制作用あるいは除細動に非常に優れ、更に副作用が少なく安全性が高いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の心房細動抑制剤及び抗不整脈剤は、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性が高いため、心房細動を含む不整脈の予防薬や治療薬として好適に利用可能である。また、前記心房細動抑制剤及び前記抗不整脈剤は、持続性心房細動に対して有効であるため、永続性心房細動への進行を防ぐことができ、更に脳梗塞をはじめとする全身臓器の血栓や塞栓症等の合併症の予防薬としても好適に利用可能である。
本発明の持続性心房細動モデル及びその製造方法は、臨床における持続性心房細動に近いモデルであり、心房細動を持続することができ、更に該心房細動を薬物等で心房細動を抑制又は除細動できるため、心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用可能である。
本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、ヒトで生じる心房細動と同様のメカニズムを有しているイヌの持続性心房細動モデルを用いているため、心房細動のin vivo評価系として優れており、心房細動の予防又は治療に用いられる新たな心房細動抑制剤のスクリーニングや、既存の心房細動の治療薬の再評価に有効かつ効率的に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗不整脈剤、心房細動抑制剤、持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いた心房細動抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動は、洞結節と呼ばれる心臓のペースメーカが機能障害に陥り、正常な心房の電気興奮が開始されず、心房の筋肉が1分間に300回〜500回と正常の5倍以上の速さで不規則に細かく震え、心房の補助ポンプとしての収縮や拡張がなくなる不整脈の一つである。
心房細動は、臨床上最も遭遇しやすい不整脈であり、加齢に伴って発生しやすく、日本においては、60歳代では2%〜4%、70歳代では5%〜6%、80歳代では8%〜10%が発症しているといわれている。
【0003】
心房細動が生じると、心房収縮がなくなり拡張期に心室が十分血液で満たされないために心臓の働きは低下し、心臓から出る血液量が減少する。また、心房は、心室が収縮して小さくなる際に逆に大きくなり血液を一時的に蓄え、次の心室充満のときに役立てるリザーバー機能を有するが、心房細動ではこの働きが低下する。
更に、心房細動は、心房内鬱血により血液凝集塊(血栓)が生成しやすく、この血栓が心臓から流れ出し、脳梗塞をはじめとする全身臓器の血栓や塞栓症を引き起こす。
したがって、心房細動は、致死性の不整脈ではないものの、その合併症が問題である。
【0004】
心房細動の種類としては、何らかの原因で心房細動が生じても原因を除去するとそれ以上は心房細動を生じない一過性心房細動や、心房細動の自然停止が得られるが反復して心房細動が生じる発作性心房細動等の突発性心房細動と、心房細動が持続するが、薬物や電気的な刺激により除細動でき洞調律に復帰する持続性心房細動や、心房細動が持続し、薬物や電気的な刺激によっても除細動できない永続性心房細動等の慢性心房細動とに分類される。
一般に、心房細動は、一過性心房細動、発作性心房細動、持続性心房細動、永続性心房細動の順に進行し、永続性心房細動になると、現在のところその治療方法がないため、持続性心房細動の段階でその進行を止めることが望まれている。
【0005】
心房細動の治療方法としては、電気的治療法、薬物治療法などが挙げられる。
前記電気的治療法は、迅速で効果が高いものであるが、全身麻酔下で電気ショックをかけるものであり、患者に対する負担が大きく、また、特別な設備を必要とし、専門家によらなければ治療を施すことができない点で問題である。
【0006】
電気的治療法と比較して、薬物治療法は、患者自身の投薬により治療でき、簡便である点で有利である。
現在、心房細動に対する予防薬としては、抗血栓予防薬ワルファリンが使用されており、また、治療薬としては、Vaugahan Williamsの分類のIa群薬(ジソピラミド、シベンゾリンなど)及びIc群薬(フレニカイニド、ピルジカイニドなど)が主に使用され、肥大型心筋症に伴う心房細動にはIII群薬(アミオダロン、ソタロール、ニフェカラントなど)が使用されている。
しかし、これらの薬物には副作用がある点で問題である。例えば、Ia群薬であるジソピラミドには、陰性変力作用があり、心不全や左室機能障害の患者への使用には不向きであり、また、QRS及びQTの延長、催不整脈作用などが生じることがある点で問題である。Ic群薬であるフレニカイニドやピルジカイニドなどは、循環系への副作用が多い点で問題である。III群薬であるアミオダロンは、肺、甲状腺、眼などの心臓以外への副作用がある点で問題である。
これらの現在臨床で用いられている心房細動の予防薬又は治療薬は、経験則に基づいて投薬されているものであり、心房細動に関する何らかの評価試験に基づいて選択されたものではなく、また、その評価試験系もない点で問題である。
【0007】
既存の抗不整脈薬の心房細動に対する有効性の再評価に用いられる評価試験や、新たな心房細動抑制剤のスクリーニングには、臨床における心房細動に近い試験系を用いることが望ましく、そのような試験系としては、臨床における心房細動を反映した心房細動モデルを用いる方法が挙げられ、動物への負荷が少なく確実な評価を行うことができるモデルは非常に有用性が高い。
【0008】
心房細動モデルとしては、例えば、アコニチンを心耳に局所投与することによって局所起源の心房細動を起こしたアコニチンモデルが提案されている(非特許文献1参照)。
しかし、アコニチンモデルは、臨床における心房細動とは直接関係がないため、心房細動抑制剤のスクリーニングへの使用には不向きであるという問題がある。
また、心房筋表面にタルクパウダを無菌的に散布し、心膜炎を起こすことによって心房性不整脈を誘発し易くした無菌性心膜炎モデルが提案されており(非特許文献2参照)、心房細動の発生機序を検討するために用いられている。
しかし、無菌性心膜炎モデルは、心膜炎による心房細動であるため、心臓手術後に発生する臨床におけるごく限られた心房細動を反映した方法に過ぎず、慢性心房細動に対する心房細動抑制剤のスクリーニングへの使用には不向きであるという問題がある。
また、ヤギの心房細動の頻回刺激を加えて心房細動を誘発した頻回刺激誘発モデルが提案されている(非特許文献3参照)。
しかし、ヤギは、実験動物としてサイズが大きく、世界的にも使用できる施設が限られることや、ヤギを扱うことができる研究者も少ないことから、心房細動抑制剤のスクリーニングへの使用には不向きであるという問題がある。
【0009】
したがって、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性の高い抗不整脈剤、心房細動抑制剤、該心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用できる持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いて心房細動抑制剤を効率よく簡便にスクリーニングできる心房細動抑制剤のスクリーニング方法の提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Moe et al., 1959, Am.Heart.J. 58, 59−70
【非特許文献2】Page et al., 1986, J.Am Coll Cardiol., 8, 872−879
【非特許文献3】Maurits C.E.F. Wijffels et al., 1995, Circulation, 92, 1954−1968
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性の高い抗不整脈剤、心房細動抑制剤、該心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用できる持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いて心房細動抑制剤を効率よく簡便にスクリーニングできる心房細動抑制剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
即ち、下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し心房細動を抑制する心房細動抑制剤は、心房細動に対して優れた抑制作用を有し、副作用がなく安全性が高いことを知見し、本発明の完成に至った。
【化1】
【化2】
【化3】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化4】
【化5】
【化6】
【0013】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し心房細動を抑制することを特徴とする心房細動抑制剤である。
【化7】
【化8】
【化9】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化10】
【化11】
【化12】
<2> 心房細動が突発性心房細動及び慢性心房細動のいずれかである前記<1>に記載の心房細動抑制剤である。
<3> イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入し、前記電極カテーテルから前記房室結節領域に高周波を通電して前記房室結節を破壊し、房室伝導をブロックさせて心房を肥大拡大させる心房肥大拡大化工程と、肥大拡大化した前記心房をペーシングする心房ペーシング工程と、を含むことを特徴とする持続性心房細動モデルの製造方法である。
<4> 心房ペーシング工程が、500bpm〜700bpmで4週間以上ペーシングする前記<3>に記載の持続性心房細動モデルの製造方法である。
<5> 前記<3>から<4>のいずれかに記載の持続性心房細動モデルの製造方法により製造されたことを特徴とする持続性心房細動モデルである。
<6> 心房細動が少なくとも1週間持続する前記<5>に記載の持続性心房細動モデルである。
<7> 前記<5>から<6>のいずれかに記載の持続性心房細動モデルに被験物質を投与する投与工程と、前記投与工程後、前記持続性心房細動モデルの心房細動を抑制した前記被験物質を心房細動抑制剤としてスクリーニングするスクリーニング工程と、を含むことを特徴とする心房細動抑制剤のスクリーニング方法である。
<8> スクリーニング工程で心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングし、心房細動を再誘発する心房細動再誘発工程を更に含む前記<7>に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法である。
<9> 心房細動再誘発工程が、心房細動が抑制されてから1週間以内に持続性心房細動モデルの心房を500bpm〜700bpmで少なくとも1週間ペーシングする前記<8>に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法である。
<10> 下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し不整脈を抑制することを特徴とする抗不整脈剤である。
【化13】
【化14】
【化15】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化16】
【化17】
【化18】
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性の高い抗不整脈剤、心房細動抑制剤、該心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用できる持続性心房細動モデル及びその製造方法、並びに、前記持続性心房細動モデルを用いて心房細動抑制剤を効率よく簡便にスクリーニングできる心房細動抑制剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】図1Aは、正常なビーグル犬の心臓のMRI像の一例を示す図である。
【図1B】図1Bは、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬(慢性房室ブロックモデル)の心臓のMRI像の一例を示す図である。
【図2A】図2Aは、正常なビーグル犬の心エコー像の一例を示す図である。
【図2B】図2Bは、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬(慢性房室ブロックモデル)の心エコー像の一例を示す図である。
【図2C】図2Cは、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬(慢性房室ブロックモデル)の心エコー像の一例を示す図である。
【図3】図3は、製造例1におけるビーグル犬(持続性心房細動モデル)の心房ペーシング工程における心電図の一例を示す図である。
【図4】図4は、比較製造例1におけるビーグル犬の心房ペーシング工程における心電図の一例を示す図である。
【図5A】図5Aは、試験例1におけるオセルタミビル投与群のオセルタミビルの投与開始前−1分33秒の心電図である。
【図5B】図5Bは、試験例1におけるオセルタミビル投与群のオセルタミビルの投与開始後+2分49秒の心電図である。
【図5C】図5Cは、試験例1におけるオセルタミビル投与群のオセルタミビルの投与開始後+5分50秒の心電図である。
【図6A】図6Aは、試験例1におけるジソピラミド投与群のジソピラミド投与開始後+6分00秒〜+14分00秒の心電図である。
【図6B】図6Bは、試験例1におけるジソピラミド投与群のジソピラミドの投与開始前−22分54秒の心電図である。
【図6C】図6Cは、試験例1におけるジソピラミド投与群のジソピラミドの投与開始後+12分15秒の心電図である。
【図7】図7は、試験例3におけるオセルタミビル投与群の結果を示す図である。
【図8】図8は、試験例3におけるピルジカイニド投与群の結果を示す図である。
【図9】図9は、試験例3におけるジソピラミド投与群の結果を示す図である。
【図10】図10は、試験例3におけるメキシレチン投与群の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(心房細動抑制剤、抗不整脈剤)
本発明の心房細動抑制剤は、下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を少なくとも含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
本発明の抗不整脈剤は、下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を少なくとも含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
以下、本発明の前記心房細動抑制剤の説明と併せて、本発明の前記抗不整脈剤について説明する。
【0017】
これらの中でも、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、心房筋細胞に選択性の高いナトリウム(Na)イオンチャネルを阻害する化合物であることが好ましく、下記構造式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩が特に好ましい。なお、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤が心房筋Naチャネル阻害作用を有することは、該心房筋Naチャネル阻害作用を反映する指標である心電図P波幅で確認することができる。
【化19】
【化20】
【化21】
前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。また、前記構造式(III)で表される化合物は、前記構造式(I)で表される化合物のグルクロン酸抱合体を表す。
【化22】
【化23】
【化24】
【0018】
なお、前記構造式(I)で表される化合物は、抗インフルエンザウイルス活性を有する化合物として知られているオセルタミビルと呼ばれる化合物であり、市販品では、商品名:タミフル(登録商標)(中外製薬株式会社製)として販売されている。
【0019】
前記心房細動抑制剤中又は前記抗不整脈剤中の、前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の構造や含有量を確認する方法としては、特に制限はなく、各種の分析方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、元素分析法、質量分析法、プロトン核磁気共鳴分析法、炭素13核磁気共鳴分析法、赤外線吸収分析法などが挙げられる。
【0020】
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤における前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩そのものであってもよい。
【0021】
−構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の製造方法−
前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩は、市販品を用いてもよく、化学合成により得てもよい。
前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、特表2000−517306号公報の式116の化合物の合成方法を好適に用いることができる。
【0022】
具体的には、下記スキーム1及び2のプロセスAA、AB、AC、AD、AE、AF、AG、AH、AI、AJ、及びAKのうちのいずれか1つ、又はそれらの系列的な組み合わせ、下記スキーム3のプロセスAL、AM、AN、AO、及びAPのうちのいずれか1つ、又はそれらの系列的な組み合わせを含むことが好ましい。
本発明において、「系列的な組み合わせ」とは、1つより多いプロセスであって、個別のプロセスが所望の順序で順次行われるプロセスを意味する。
また、単離、分離、精製などが行われてもよく、単離、分離、精製などを行う段階としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、いずれの個別のプロセスの前に行われてもよく、後に行われてもよい。
なお、下記スキーム1〜3において、「Et」は、エチル基を表し、「Ms」は、メシル基を表し、「Ac」は、アセチル基を表す。
【0023】
【化25】
【0024】
【化26】
【0025】
より具体的には、式110の化合物をアジ化ナトリウムで処理して、式111の化合物を生成し、該式111の化合物を還元試薬で処理して式113の化合物を生成し、該式113の化合物をアジ化ナトリウムで処理して式114の化合物を生成し、該式114の化合物をアセチル化試薬で処理して式115の化合物を生成し、該式115の化合物を接触水素化に供して前記構造式(I)で表される化合物を合成することができる。
【0026】
下記スキーム3は、代替の窒素求核試薬(March,「Advanced Organic Chemistry,」第4版、第425頁〜第427頁)を用いてエポキシド201を開環することによる、前記構造式(I)で表される化合物206(R=H2)の合成を示す。アジドアルコール202の酸化によりケトン203が得られ(Larock,「Comprehensive Organic Transformations」、第604頁〜第614頁)、ここでβアキシャルNR基は、異性体化されてαエクアトリアル立体配置を有するケトン204となる。ケトン204の還元的アミノ化(Larock(前掲)、第421頁〜第425頁)により、βエクアトリアルアミン205が得られ、これをアセチル化して化合物206を得る。R部分の開裂(Greene、「Protective Groups in Organic Synthesis」、第218頁〜第287頁)によりR=H2の前記構造式(I)で表される化合物が得られる。
【化27】
【0027】
より具体的には、式201の化合物をアミン試薬で処理して式202の化合物を生成し、該式202の化合物を酸化試薬で処理して式203の化合物を生成し、該式203の化合物を塩基で処理して式204の化合物を生成し、該式204の化合物を還元的アミノ化試薬で処理して式205の化合物を生成し、該式205の化合物をアセチル化試薬で処理して前記構造式(I)で表される化合物を合成する方法などが挙げられる。
【0028】
前記スキーム1〜3の各々において、各工程又は一連の工程の所望の生成物又は出発物質を互いに分離及び/又は精製することが好ましい。
前記分離及び/又は精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多相抽出法、溶媒又は溶媒混合物からの結晶化、蒸留、昇華、クロマトグラフィー等を行う方法などが挙げられる。
【0029】
前記クロマトグラフィーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高圧クロマトグラフィー、中圧クロマトグラフィー、低圧液体クロマトグラフィー、小規模及び分取の薄層又は厚層クロマトグラフィー、小規模な薄層及びフラッシュクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0030】
前記分離及び/又は精製は、所望の生成物、未反応の出発物質、反応副生成物等に結合するように選択された試薬、あるいは他の方法で分離及び/又は精製し得る試薬で混合物を処理する方法であってもよい。
このような試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活性炭、モレキュラーシーブ、イオン交換媒体等の吸着剤又は吸収剤;分離及び/又は精製の対象が塩基性物質の場合に好ましく用いられる酸;分離及び/又は精製の対象が酸性物質の場合に好ましく用いられる塩基;抗体、結合タンパク質等の結合試薬;クラウンエーテル等の選択的錯形成剤;液/液イオン抽出試薬(LIX)などが挙げられる。
【0031】
前記スキーム1及び2についてより詳細に説明する。
前記式100の化合物(ラクトン)は、キニン酸(20kg、104mol;[α]D−43.7゜(c=1.12、水);「MerckIndex第11版」、8071:[α]D−42゜〜−44゜(水))、2,2−ジメトキシプロパン及びp−トルエンスルホン酸一水和物のアセトン中の溶液を2時間加熱還流し、次いでエタノール中のナトリウムエトキシドを加えて反応をクエンチし、そして溶媒の大部分を減圧蒸留する。得られた残渣を酢酸エチルと水との間で分配し、水層を酢酸エチルで逆抽出し、そして合わせた有機層を重炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、酢酸エチルの大部分を減圧蒸留することにより、淡黄色の固体残渣として前記式100の化合物を得ることができる。
【0032】
前記式101の化合物(ヒドロキシエステル)は、前記式100の化合物の無水エタノール中の溶液をエタノール中のナトリウムエトキシドで処理し、室温で2時間後、酢酸を加え、そして溶媒を減圧蒸留する。ここに酢酸エチルを加え、ほぼ乾固するまで蒸留を続け、黄褐色の固体残渣を得、これを酢酸エチルに還流下溶解し、そしてヘキサンを加え、冷却すると、白色結晶性固体が形成され、これを濾過により単離することにより、前記式101の化合物と前記式100の化合物との混合物を得ることができる。
【0033】
前記式102の化合物(メシルエステル)は、前記式101の化合物及び前記式100の化合物の混合物をジクロロメタン中に懸濁した溶液を0℃〜10℃に冷却し、そして塩化メタンスルホニルで処理し、次にトリエチルアミンをゆっくりと加え、次いで塩化メタンスルホニルを追加する。1時間後、水及び塩酸を加え、層分離させ、そして有機層を水で洗浄し、次に減圧蒸留することにより、前記式102の化合物と前記式103の化合物(メシルラクトン)との混合物である半固体残渣を得ることができる。この残渣を酢酸エチルに溶解し、−10℃〜−20℃に2時間かけて冷却し、前記式103の化合物を結晶化させ、これを濾過により分離し、そして冷酢酸エチルで洗浄し、濾液を濃縮して、前記式102の化合物をオレンジ色の樹脂として得ることができる。
【0034】
前記式104の化合物(メシルアセトニド)は、前記式102の化合物及びピリジンのジクロロメタン中の溶液を−20℃〜−30℃に冷却し、そして塩化スルフリルで一滴ずつ処理し、発熱反応が鎮静した後、得られたスラリーをエタノールでクエンチし、0℃に加温し、そして硫酸、水、及び重炭酸ナトリウム水溶液で順次洗浄する。得られた有機層は、前記式104の化合物、前記式105の化合物(アリル性メシレート)、及び前記式106の化合物の混合物であり、これを減圧濃縮し、そして酢酸エチルを加え、前記式105の化合物を、ピロリジン及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)の酢酸エステル溶液で周囲温度にて5時間処理し、次に硫酸で洗浄することによって選択的に除去する。有機層をシリカゲルのパッドを通して濾過し、そして酢酸エチルで溶出し、濾液を減圧濃縮すると、前記式104の化合物及び前記式106の化合物の混合物からなる濃厚なオレンジ色の油状物が残る。この残渣を酢酸エチル中に還流下溶解し、そしてヘキサンを加え、冷却すると、前記式104の化合物が結晶化し、そしてこれを濾過により分離し、そしてヘキサン中の酢酸エチルで洗浄し、減圧乾燥の後、前記式104の化合物が淡黄色針状物として得られる。
【0035】
前記式107の化合物(ペンチルケタール)は、前記式104の化合物、3−ペンタノン、及び過塩素酸の溶液を18時間攪拌し、揮発性物質を周囲温度で減圧蒸留し、そして新しい3−ペンタノンを蒸留が進行するにつれ徐々に加え、次いで反応混合物を濾過し、トルエンを加え、そして得られた溶液を重炭酸ナトリウム水溶液、水、及び食塩水で順次洗浄する。次いで、有機層を減圧濃縮し、そしてトルエンを蒸留が進行するにつれ徐々に加え、蒸留がそれ以上できなくなった時点で、オレンジ色の油状物の残渣として式107の化合物が得られる。
【0036】
前記式108の化合物(ペンチルエーテル)は、前記式107の化合物のジクロロメタン中の溶液を−30℃〜−20℃に冷却し、そしてボラン−メチルスルフィド錯体、及びトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルで処理し、1時間後、重炭酸ナトリウム水溶液をゆっくりと加え、混合物を周囲温度まで加温し、そして12時間攪拌する。得られた有機層を濾過し、そして減圧濃縮すると、前記式108の化合物と前記式109の化合物との混合物が灰色のろう状固体として得られる。
【0037】
前記式110の化合物(エポキシド)は、前記式108の化合物及び前記式109の化合物の混合物のエタノール溶液を水中の炭酸水素カリウムの溶液で処理し、55℃〜65℃に2時間加熱した後、溶液を冷却し、そして2回ヘキサンで抽出すると、未反応の式109の化合物が水性エタノール層中に残留する。合わせたヘキサン抽出物を濾過し、そして減圧濃縮すると、式110の化合物が羊毛状の白色結晶固体として得られる。
【0038】
前記式111の化合物(ヒドロキシアジド)は、水及びエタノール中の式110の化合物、アジ化ナトリウム、及び塩化アンモニウムの混合物を70℃〜75℃に8時間加熱し、重炭酸ナトリウム水溶液を加え、そしてエタノールを減圧蒸留した。水性残渣を酢酸エチルで抽出し、そして抽出物を水で洗浄し、この水洗浄物を酢酸エチルで逆抽出する。合わせた有機抽出物を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過及び減圧濃縮すると、前記式111の化合物と前記式112の化合物との混合物が、暗褐色の油状物として得られる。
【0039】
前記式113の化合物(アジリジン)は、前記式111の化合物と前記式112の化合物との混合物を減圧下3回、無水アセトニトリルから共蒸発させ、次に無水アセトニトリル中に溶解し、無水テトラヒドロフラン及び無水アセトニトリル中の無水トリフェニルホスフィンの溶液を2時間かけて一滴ずつ加え、この混合物を6時間還流加熱し、次に減圧下濃縮すると、前記式113の化合物と、トリフェニルホスフィンオキシドと、微量のトリフェニルホスフィンからなる金色のペーストが得られる。このペーストをジエチルエーテルで粉末化し、不溶のトリフェニルホスフィンオキシドの大部分を濾過により除去し、そしてジエチルエーテルで洗浄する。濾液を減圧下濃縮すると、暗褐色の油状物が残り、これを水性メタノール水溶液に溶解し、そしてヘキサで3回抽出して、トリフェニルホスフィンを除去する。ヘキサン抽出物を水性メタノール水溶液で抽出し、そして合わせた水性メタノール層を減圧下濃縮する。残渣を無水アセトニトリルから減圧下2回共蒸発すると、暗褐色の油状物として前記式113の化合物及びトリフェニルホスフィンオキシドからなる混合物が得られる。
【0040】
前記式115の化合物(アセトアミドアジド)は、式113の化合物、トリフェニルホスフィンオキシド、アジ化ナトリウム、及び塩化アンモニウムのジメチルホルムアミド中の混合物を80℃〜85℃に5時間加熱する。ここに重炭酸ナトリウム及び水を加え、前記式114の化合物を反応混合物からヘキサンで6回抽出することによって単離する。合わせたヘキサン抽出物を減圧下濃縮し、そしてジクロロメタンを加え、次いで重炭酸ナトリウム水溶液を加え、更に無水酢酸を加える。周囲温度で1時間攪拌した後、水層を捨て、有機相を減圧下濃縮し、これを還流下酢酸エチルに溶解し、冷却すると、前記式115の化合物が結晶化し、これを濾過によって単離することができる。ヘキサン中の冷酢酸エチルで洗浄し、そして減圧下周囲温度で乾燥した後、純粋な前記式115の化合物をオフホワイト色の結晶として得ることができる。
【0041】
前記構造式(I)で表される化合物は、前記式115の化合物及びリンドラー触媒の無水エタノール中の混合物を18時間攪拌し、その間、水素(1気圧)を、前記混合物を通してバブリングし、次いでセライトを通して濾過し、そして濾液を減圧濃縮して、前記構造式(I)で表される化合物を泡状物として得ることができる。なお、この泡状物は、放置すると固化する。
【0042】
前記構造式(I)で表される化合物のリン酸塩は、前記構造式(I)で表される化合物のアセトン中の溶液を還流し、これを無水エタノール中のリン酸で処理すると、即時に結晶化が開始し、そして0℃で12時間冷却した後、沈殿を濾過により採取することにより、無色針状物として得ることができる。
【0043】
前記構造式(I)で表される化合物の塩酸塩は、前記構造式(I)で表される化合物のアセトン中の溶液の無水エタノール中の溶液を、エタノール中塩化水素で処理し、次いでエタノールの大部分を減圧下蒸発させ、そして油状残渣を酢酸エチルと共に固体が形成されるまで攪拌する。ヘキサンを攪拌した混合物に徐々に加える。周囲温度で1時間後、固体を濾過により採取し、ジエチルエーテルで洗浄し、そして減圧下乾燥する。これによりオフホワイト色の固体として構造式(I)で表される化合物の塩酸塩を得ることができる。
【0044】
前記構造式(II)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記構造式(II)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩は、前記構造式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の代謝産物であることが知られている(タミフル(登録商標)医薬品インタビューフォーム、2005年12月(改定第16版)参照)。
【0045】
<その他の成分>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤における前記その他の成分としては、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の添加剤、補助剤、水などが挙げられる。
前記添加剤又は前記補助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、殺菌剤、保存剤、粘結剤、増粘剤、固着剤、結合剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、溶剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤、消泡剤、物性向上剤、防腐剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記殺菌剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0047】
前記保存剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、クレゾールなどが挙げられる。
【0048】
前記粘結剤、増粘剤、固着剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、澱粉、デキストリン、マルチトール、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、エチレン・プロピレンブロックポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0049】
前記結合剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0050】
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。
【0051】
前記安定化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。
【0052】
前記pH調整剤及び前記緩衝剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0053】
前記等張化剤としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。
【0054】
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
<併用>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、1種単独で使用してもよく、他の成分を有効成分とする薬物と併用してもよい。また、他の成分を有効成分とする薬物に配合されていてもよい。
他の成分を有効成分とする薬物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、臨床で心房細動の予防薬又は治療薬として用いられている薬物などが挙げられ、具体例としては、ジソピラミド、アプリンジン、シベンゾリン、ピルジカイニドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよいが、心房細動を停止させた後、心房細動が再発しにくい点で、前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤と前記その他の薬物とを併用することが好ましく、ピルジカイニドと併用することが特に好ましい。
【0056】
<剤形>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤の剤形としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形剤、半固形剤、液剤などが挙げられる。
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、前記剤形などに応じて、公知の方法により製造することができる。
【0057】
−固形剤−
前記固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、チュアブル錠、発泡錠、口腔内崩壊錠、トローチ剤、ドロップ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、ドライシロップ剤、浸剤、坐剤、パップ剤、プラスター剤などが挙げられる。
【0058】
−半固形剤−
前記半固形剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、舐剤、チューインガム剤、ホイップ剤、ゼリー剤、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、インヘラー剤、ナザールジェル剤などが挙げられる。
【0059】
−液剤−
前記液剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤、シロップ剤、ドリンク剤、懸濁剤、酒精剤、液剤、点眼剤、エアゾール剤、噴霧剤などが挙げられる。これらの中でも、注射剤が特に好ましい。
【0060】
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤の製造方法としては、特に制限はなく、剤形などに応じて、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0061】
<投与>
前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤の投与方法、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0062】
前記投与方法としては、例えば、経口投与法、非経口投与法、局所投与法、経腸投与などが挙げられる。これらの中でも、非経口投与法が好ましく、注射による投与法が特に好ましい。
【0063】
前記投与量としては、投与対象個体の年齢、体重、体質、症状、他の成分を有効成分とする薬物の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができるが、有効成分としての前記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩の1日あたりの合計投与量が、3mg/kg以上が好ましく、10mg/kg以上がより好ましく、20mg/kg以上が更に好ましく、25mg/kg以上が更により好ましく、30mg/kg以上が特に好ましい。
また、前記投与量の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2,000mg/kg以下が好ましく、1,000mg/kg以下がより好ましく、100mg/kg以下が特に好ましい。
前記投与量の下限値と上限値としては、適宜組み合わせることができ、これらを組み合わせた投与量としては、3mg/kg〜2,000mg/kgが好ましく、10mg/kg〜1,000mg/kgがより好ましく、20mg/kg〜1,000mg/kgが更に好ましく、25mg/kg〜1,000mg/kgが更により好ましく、30mg/kg〜100mg/kgが特に好ましい。
前記投与回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1日1回の投与でもよく、複数回に分けて投与してもよい。
【0064】
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いられる。
【0065】
<用途>
本発明の前記心房細動抑制剤又は前記抗不整脈剤は、優れた不整脈抑制作用、特に心房細動に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性が高いものであるため、心房細動を含む不整脈の予防薬又は治療薬として好適に利用可能である。更に、前記心房細動抑制作用は、突発性心房細動(発作性心房細動)及び持続性心房細動のいずれの心房細動に対しても有効である点で有利である。ここで、本発明において、心房細動抑制作用とは、少なくとも心房細動を抑制する作用であればよく、除細動も含む。前記除細動とは、心房細動を停止させ、洞調律に復帰することを意味する。
前記心房細動抑制剤は、持続性心房細動に対して有効であるため、永続性心房細動への進行を防ぐことができ、更に脳梗塞をはじめとする全身臓器の血栓や塞栓症等の合併症の予防薬としても好適に利用可能である。
【0066】
(持続性心房細動モデル及びその製造方法)
本発明の持続性心房細動モデルの製造方法は、心房肥大拡大化工程と、心房ペーシング工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
本発明の持続性心房細動モデルは、本発明の前記持続性心房細動モデルの製造方法により製造されたモデルである。
以下、持続性心房細動モデルの製造方法の説明と併せて、持続性心房細動モデルについても詳細に説明する。
【0067】
<心房肥大拡大化工程>
前記心房肥大拡大化工程は、イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入し、前記電極カテーテルから前記房室結節領域に高周波を通電して前記房室結節を破壊し、房室伝導をブロックさせて心房を肥大拡大させる工程である。前記心房肥大拡大化工程は、特開2006−67950号公報に記載の方法を用いることもできる。
本発明において、心房の「肥大」とは、心房壁の厚みが厚くなることをいい、心房の「拡大」とは、心房壁で囲まれた内部の体積が大きくなることをいう。したがって、前記心房肥大拡大化工程を経たイヌは、心房壁の厚みが厚くなり、且つ心房の内部の体積が大きくなった状態となる。
【0068】
前記持続性心房細動モデルの製造方法の対象であるイヌの種類、大きさ、年齢、性別などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、実験動物としての実績があるビークル犬が取扱い易さの点で好ましく、体重10kg程度の1歳〜2歳のビーグル犬がより好ましい。
【0069】
前記イヌを用いて心房肥大拡大化工程を行う際は、イヌに麻酔をかけて行うことが好ましい。
麻酔薬の種類としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペントバルビタール、ハロセンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記麻酔薬を投与する量としては、特に制限はなく、対象であるイヌの種類、大きさ、年齢、性別などに応じて適宜選択することができる。
【0070】
また、前記イヌを用いて心房肥大拡大化工程を行う際は、麻酔をかけた後、呼吸を安定させる目的で挿管して人工呼吸器等の酸素乃至大気供給手段から一定量の酸素乃至大気を供給することが好ましい。
前記酸素乃至大気の供給量としては、特に制限はなく、対象個体の体重などに応じて適宜選択することができるが、15mL/kg〜25mL/kgが好ましい。
【0071】
電極カテーテルの材質、形状、直径、長さなどとしては、特に制限はなく、公知の電極カテーテルの中から、目的に応じて適宜選択することができるが、電極が先端部に取り付けられたカテーテルであることが好ましい。前記電極が先端部に取り付けられたカテーテルは、市販品を用いることができ、例えば、カタログ番号:D7−DL−252(4mmチップ電極、コーディス・ウェブスター社製)などが挙げられる。
【0072】
イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電極カテーテルを大腿静脈から房室結節領域に挿入する方法が好ましく、電極カテーテルの先端部の電極を所定位置に固定することがより好ましい。
前記電極カテーテルの先端部の電極を固定する位置としては、ヒス束心電図(AV)が最大に記録できる部位を探した後、心房の電気興奮を表すA波と、心室の電気興奮を表すV波との比(A波:V波)が2:1以上となる領域で固定することが好ましい。このような部位としては、房室結節領域などが挙げられる。
【0073】
前記房室結節領域に通電する際の周波数としては、高周波であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、目的とする部位を焼灼できる周波数であることが好ましく、450kHz〜550kHzがより好ましく、500kHzが特に好ましい。前記周波数が、450kHz未満であると、房室結節を破壊できないことがあり、550kHzを超えると、房室結節を焼灼しすぎ、不要な部位まで破壊されてしまうことがある。
また、前記房室結節領域に通電する際の電力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、18W〜22Wが好ましく、20Wがより好ましい。前記周波数が、18W未満であると、房室結節を破壊できないことがあり、22Wを超えると、房室結節を焼灼しすぎ、不要な部位まで破壊されてしまうことがある。
通電時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0074】
前記房室結節を破壊した後のイヌは、心房を肥大拡大化させるために、4週間以上おくことが好ましく、4週間〜6週間おくことがより好ましい。
心房が肥大拡大化したことは、例えば、MRI(核磁気共鳴画像)、心エコー、X線写真、圧付加や容量負荷の測定などにより確認することができる。
【0075】
前記心房肥大拡大化工程により、房室伝導が完全にブロックされた慢性房室ブロックモデルが作製される。前記慢性房室ブロックモデルは、洞結節のペースメーカとしての機能が停止されるため、右心室及び左心室は、以後、ヒス束のリズムによって血液のポンプ機能を果たすことになる。そのため心臓から血液を送り出すポンプ機能が低下すると共に心拍数も大幅に減少して心臓に負担が掛かり、結果として心臓の重量が約2倍程度に増加する。
【0076】
<心房ペーシング工程>
前記心房肥大拡大化工程で肥大拡大化した心房をペーシングする工程である。
本発明において、「ペーシング」とは、電気刺激により人為的に心筋細胞の電気興奮を作り出し、この電気興奮の伝播により心収縮を引き起こす事象を意味する。
ペーシングする方法としては、前記肥大拡大化した心房をペーシングすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ペーシングリードを有するペースメーカを所定の位置に植え込みペーシングする方法などが挙げられる。
【0077】
前記ペーシングリード及びペースメーカの材質、形状、大きさなどとしては、特に制限はなく、公知のペースメーカの中から、目的に応じて適宜選択することができる。市販品のペーシングリードとしては、例えば、OSCOR社製のリードなどが挙げられる。市販品のペースメーカとしては、例えば、大正医科機械株式会社製のカタログ番号:TNT−002などが挙げられる。
【0078】
前記ペーシングリードを植え込む位置としては、前記肥大拡大化した心房をペーシングすることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、左房中のバックマン(Bachmann)束領域が、持続性心房細動モデルの作製効率が高い点で好ましい。
前記ペースメーカを植え込む位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、臀部皮下などが挙げられる。
【0079】
ペースメーカの植え込み後、心房に振動を付与するまでは、動物への負荷を少なくする点で、4週間以上おくことが好ましく、4週間〜6週間おくことがより好ましい。
【0080】
ペーシングの速度としては、特に制限はなく、対象個体の特性などに応じて適宜選択することができるが、500bpm〜700bpmが好ましく、550bpm〜650bpmがより好ましく、600bpmが特に好ましい。前記ペーシングの速度が、500bpm未満であると、持続性心房細動モデルを作製することができないことがあり、700bpmを超えると、永続性心房細動が発生することがある。
【0081】
ペーシングの期間としては、特に制限はなく、対象個体の特性などに応じて適宜選択することができるが、4週間以上が好ましく、6週間以上がより好ましく、6週間〜12週間が特に好ましい。前記ペーシングの期間が、4週間未満であると、持続性心房細動モデルを作製できないことがあり、12週間を超えると、永続性心房細動が発生することがある。
【0082】
前記持続性心房細動モデルが作製できたこと、即ち、心房細動が持続しているか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、心電図で確認する方法などが挙げられる。
なお、本発明において、心房細動の持続とは、前記心房ペーシング工程終了後、即ちペーシングを止めた後においても、心房が300bpm以上で不規則に振動し続けてしていることを意味する。
【0083】
<持続性心房細動モデル>
本発明の前記持続性心房細動モデルは、心房が肥大拡大化しており、かつ心房細動が持続しており、これにより血栓も生じ易いモデルである。したがって、臨床においてヒトで生じる持続性心房細動に非常に近い状態にあるモデルである点で有利である。
前記持続性心房細動モデルにおける心房細動の持続時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、24時間以上が更に好ましく、1週間以上が特に好ましい。
なお、心房細動が抑制又は除細動された後の前記持続性心房細動モデルに対して、前記心房ペーシング工程を行うことで、再度、心房細動が生じ、持続性心房細動モデルを作製することができる。
【0084】
<用途>
本発明の持続性心房細動モデル及びその製造方法は、臨床における持続性心房細動に近いモデルであり、心房細動を持続することができ、更に心房細動を薬物等で心房細動を抑制又は除細動できるため、心房細動抑制剤のスクリーニングや、既存の抗不整脈薬の有効性の再評価などに好適に利用可能である。また、前記持続性心房細動モデルは、心房細動の発生機序等の病態の検討にも好適に利用可能である。
【0085】
(心房細動抑制剤のスクリーニング方法)
本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、投与工程と、スクリーニング工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更に心房細動再誘発工程などのその他の工程を含む。
【0086】
<投与工程>
前記投与工程は、本発明の前記持続性心房細動モデルに被験物質を投与する工程である。
前記被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、化合物、核酸、タンパク質などが挙げられる。また、臨床で用いられている心房細動の予防薬又は治療薬、新たに開発した製薬、公知の医薬品、薬物などを用いることもできる。
【0087】
前記被験物質を投与する方法としては、特に制限はなく、前記被験物質の種類や状態などに応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与法、非経口投与法、局所投与法、経腸投与などが挙げられる。
前記被験物質の投与量としては、特に制限はなく、投与対象個体の年齢、体重、体質、などに応じて適宜選択することができる。
【0088】
<スクリーニング工程>
前記スクリーニング工程は、前記投与工程後、前記持続性心房細動モデルの心房細動を抑制した被験物質を心房細動抑制剤としてスクリーニングする工程である。
【0089】
前記心房細動を抑制したか否かを判断する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記投与工程における前記被験物質の投与前と、前記被験物質の投与後との心電図の変化、特にP波により判断する方法が好ましく、前記被験物質の投与前、投与中、及び投与後にわたって継続してその変化を観察することがより好ましい。
前記心電図を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の装置(例えば、長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)を用いて測定することができる。
【0090】
前記持続性心房細動モデルは、心房細動が持続しているため、投与前の心電図は、P波が心房細動に応じた不規則な波形を示す。
これに対し、前記被験物質を投与後、心電図におけるP波が洞調律に近づく、あるいは洞調律に復帰した場合、心房細動の抑制作用を有する物質であると判断することができ、心房細動抑制剤としてスクリーニングされる。
一方、前記被験物質を投与後、P波に変化がない(心房細動に変化がない)、あるいはP波の波形が更に不規則に及び/又は細かくなる(心房細動が促進される)場合は、心房細動を抑制しない物質と判断することができる。
なお、心房細動抑制剤としてスクリーニングされた物質であっても、心室に不整脈が生じるなどの副作用を引き起こす物質は、臨床応用には不向きであるため、スクリーニング後、臨床応用のための試験において除外することが好ましい。
【0091】
<心房細動再誘発工程>
前記心房細動再誘発工程は、前記スクリーニング工程で心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングし、心房細動を再誘発する工程である。前記心房細動再誘発工程により、1個体の持続性心房細動モデルを、繰り返しスクリーニングに用いることができる点で好ましい。
また、前記持続性心房細動モデルの製造方法における前記心房肥大拡大化工程を行うことなく心房細動を再誘発できるため、操作が簡便である点で有利である。
【0092】
前記心房細動再誘発工程において、前記心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングする方法としては、前記心房ペーシング工程と同様の方法を用いることができる。
前記心房細動再誘発工程において、前記心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングする速度としては、特に制限はなく、対象個体の特性などに応じて適宜選択することができるが、500bpm〜700bpmが好ましく、550bpm〜650bpmがより好ましく、600bpmが特に好ましい。前記ペーシングの速度が、500bpm未満であると、心房細動を再誘発できないことがある。
【0093】
前記心房細動再誘発工程を行うタイミングとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、心房細動が抑制されてから(洞調律に復帰してから)1週間以内に行うことが好ましい。心房細動が抑制されてから1週間を超えると、心房細動を再誘発できないことがある。
【0094】
前記心房細動再誘発工程で心房細動が再誘発された個体は、再度、前記投与工程及び前記スクリーニング工程に供することができ、これにより、1個体の持続性心房細動モデルを、繰り返しスクリーニングに用いることができる点で有利である。
【0095】
なお、前記心房細動再誘発工程で心房細動を再誘発できなかった場合は、前記心房細動が抑制された持続性心房細動モデルを、前記持続性心房細動モデルの作製方法と同様の方法に供し、心房肥大拡大化工程及び心房ペーシング工程を経ることで、再度持続性心房細動モデルを作製することもできる。
【0096】
<用途>
本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、ヒトで生じる心房細動と同様のメカニズムを有しているイヌの持続性心房細動モデルを用いているため、心房細動のin vivo評価系として優れており、心房細動の予防や治療のために用いられる新たな心房細動抑制剤のスクリーニングや、ピルジカイニドやジソピラミド等の心房細動の治療薬として長年臨床で使用されている既存の薬物の再評価に有効かつ効率的に利用可能である。
なお、本発明の前記心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、抗不整脈剤のスクリーニング方法としても好適に利用可能である。
また、薬物による不整脈の増悪効果の評価モデル、薬物を投与した時の心拍数や血圧、心電図の変化等の観察にも好適に利用可能である。
【実施例】
【0097】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
(製造例1)
−心房肥大拡大化工程−
ビーグル犬(n=6、生後約1年、体重約10kg、雌、北山ラベス株式会社)にペントバルビタール(田辺三菱製薬株式会製)30mg/kgを静脈注射で投与し、同時に気管に人工呼吸器(SN−480−3、株式会社シナノ製作所製)を挿管して20mL/kgの酸素を供給して人工呼吸させた。
大腿部を剃毛し、アルコール綿で消毒してから、大腿静脈にガイドワイヤを挿入し、更にペーシング電極が先端部に取り付けられた電極カテーテル(カタログ番号:D7−DL−252、4mmチップ電極、コーディス・ウェブスター社製)を大腿静脈から右心室まで挿入した。次いで、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、標準四肢第II誘導法に基づいて装着し、ヒス束心電図(AV)が最大に記録できる部位を探した後、心房の電気興奮を表すA波と、心室の電気興奮を表すV波との比(A波:V波)が2:1以上となる領域に、先端の電極を逢着して固定した。次いで、電極カテーテルの先端電極から房室結節領域に500kHz、20Wで10秒間通電して房室結節を破壊して房室伝導をブロックした後、4週間飼育した。
【0099】
−−心房肥大拡大化の確認−−
4週間飼育後、心房が肥大拡大化したことは、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)及び心臓超音波(心エコー)により確認した。MRIは、シグナプロファイル(ゼネラルエレクトリック社製、Milwaukee, WI)で測定した。心エコーは、SSA−400(東芝メディカルシステムズ株式会社製)で測定した。
正常なビーグル犬の心臓のMRI像を図1Aに、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬の心臓のMRI像を図1Bに示す。また、正常なビーグル犬の心エコー像を図2Aに、心房肥大拡大化工程後のビーグル犬の心エコー像を図2B及びCに示す。
図1A及びB、並びに、図2A〜Cにおいて、RAは、右心房、RVは、右心室、LAは、左心房、LVは、左心室、Aoは、大動脈、PVは、肺静脈、IVCは、下大動脈を表す。
図1A及びB、並びに、図2A〜Cより、心房肥大拡大化工程により左心房(LA)が肥大拡大化していることが確認され、更に、図2Cでは、僧帽弁逆流ジェット(MR jet)が観察された。これにより、慢性房室ブロックモデルが作製できたことが確認された。
【0100】
−心房ペーシング工程−
前記心房肥大拡大化工程を経たビーグル犬に、ペントバルビタール(田辺三菱製薬株式会製)30mg/kgを静脈注射で投与し、同時に気管に人工呼吸器を挿管して20mL/kgの酸素を供給して人工呼吸させた。
臀部を剃毛し、アルコール綿で消毒してから、ペーシングリード(OSCOR社製)を接続したペースメーカ(カタログ番号:TNT−002、大正医科機械株式会社製)を臀部に植え込んだ。ペーシングリードは、皮下トンネルを介して胸部まで走行させ、先端の電極を、開胸して左房のバックマン束領域に逢着して固定した。ペースメーカ及びペーシングリードの植え込み後、4週間飼育した。
次いで、ペースメーカを600bpmで動作させ、6週間心房に振動を付与した。このとき、ペースメーカを600bpmで動作させると、ペースメーカによる電気刺激(A)に対して、心房筋の収縮反応(B)は、A:B=1:1であった。この様子を、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、標準四肢第II誘導法に基づいて装着して測定した結果を図3に示す。なお、このときの心室の拍動は、31bpmであった。
【0101】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、製造例1におけるビーグル犬は、6個体中6個体に心房細動が確認され、持続性心房細動モデルが作製できたことが確認された。また、6個体中6個体とも1週間以上の心房細動の持続が確認された。
【0102】
(製造例2)
製造例1において、心房ペーシング工程で心房に振動を付与する期間を、6週間から4週間に変えたこと以外は、製造例1と同様の処理をビーグル犬(n=4)に施した。
【0103】
4週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、製造例2におけるビーグル犬は、4個体中4個体とも心房細動が確認され、持続性心房細動モデルが作製できたことが確認された。しかし、4個体中4個体とも、心房細動の持続時間は、24時間〜1週間であり、その後、心房細動は、自然停止して洞調律に復帰した。
【0104】
(比較製造例1)
製造例1において、心房ペーシング工程でペースメーカのペーシング速度を、600bpmから400bpmに変えたこと以外は、製造例1と同様の処理をビーグル犬(n=6)に施した。この様子をホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)で測定した結果を図4に示す。なお、このときの心室の拍動は、35bpmであった。
【0105】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、比較製造例1におけるビーグル犬は、6個体中6個体とも心房細動が確認されず、ペースメーカよる電気刺激を止めた後は、洞調律に復帰した。したがって、持続性心房細動モデルを作製することはできなかった。
【0106】
(比較製造例2)
製造例1において、心房ペーシング工程でペーシングリードの先端の電極の固定位置を、左房中のバックマン束領域から右房中のバックマン束領域に変えたこと以外は、製造例1と同様の処理をビーグル犬(n=4)に施した。なお、ペースメーカを600bpmで動作させると、ペースメーカによる電気刺激(A)に対して、心房筋の収縮反応(B)は、A:B=2:1であった。
【0107】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、比較製造例2におけるビーグル犬は、4個体中4個体とも心房細動が確認されず、ペースメーカよる電気刺激を止めた後は、洞調律に復帰した。したがって、持続性心房細動モデルを作製することはできなかった。
【0108】
(比較製造例3)
比較製造例2において、心房ペーシング工程でペースメーカのペーシング速度を、600bpmから400bpmに変えたこと以外は、比較製造例2と同様の処理をビーグル犬(n=4)に施した。なお、ペースメーカを400bpmで動作させると、ペースメーカによる電気刺激(A)に対して、心房筋の収縮反応(B)は、A:B=1:1であった。
【0109】
6週間後、ペースメーカによる電気刺激を止め、心電図を観察したところ、比較製造例3におけるビーグル犬は、4個体中4個体とも心房細動が確認されず、ペースメーカよる電気刺激を止めた後は、洞調律に復帰した。したがって、持続性心房細動モデルを作製することはできなかった。
【0110】
(試験例1:心房細動抑制剤のスクリーニング)
製造例1で作製した持続性心房細動モデルに対し、生理食塩水を用いて表1に示す投与量となるように調製した、オセルタミビル(リン酸オセルタミビル、商品名:タミフル(登録商標)、中外製薬株式会社製;構造式(I)で表される化合物のリン酸塩)、ジソピラミド(商品名:リスモダン(登録商標)、サノフィ・アベンティスファーマ株式会社製)、アプリンジン(アプリンジン塩酸塩、商品名:アスペノン(登録商標)、バイエル薬品工業株式会社製)、シベンゾリン(シベンゾリンコハク酸塩、商品名:シベノール(登録商標)アステラス製薬株式会社製)、及びピルジカイニド(塩酸ピルジカイニド、商品名:サンリズム(登録商標)、第一三共株式会社製)のいずれかを下記表1に示す投与量で静脈注射により10分間かけて投与した。なお、下記表1に示す投与量は、有効成分の純分換算した量を示す。
投与前から投与後にかけて、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、持続性心房細動モデルに標準四肢第II誘導法に基づいて装着して測定し、投与後に心房細動停止頻度を求めた。ここで、心房細動停止頻度とは、下記式(1)で表される。また、前記心房細動停止頻度から、下記式(2)より除細動率を算出した。結果を併せて下記表1に示す。
心房細動停止頻度=X/Y ・・・式(1)
除細動率(%)=X/Y×100 ・・・式(2)
ただし、前記式(1)及び前記式(2)において、「X」は、薬物の投与後に心房細動が停止した持続性心房細動モデルの個体数を表し、「Y」は、試験に供した持続性心房細動モデルの個体数を表す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1の結果より、これまで臨床で心房細動に用いられてきた薬物を投与した群では、心房細動停止頻度及び除細動率が非常に低かったことに対して、オセルタミビル投与群は、非常に高い確立で除細動できることがわかった。
また、ジソピラミド投与群の6個体中1個体にTdP(torsades de pointes:非持続性多形性心室頻拍)が認められた(図6A参照)。
【0113】
また、図5A〜Cに、薬物の投与により心房細動が停止し、洞調律に復帰した一例として、オセルタミビル投与群のうちの1個体における心電図を、図6A〜Cに、薬物の投与により心房細動が停止しなかった一例として、ジソピラミド投与群のうちの1個体における心電図を示す。図5A〜Cにおいて、各薬物の投与開始時の時間を0分とし、この0分を基準として、投与開始前の時間を「−」、投与開始後の時間を「+」で表す。
【0114】
図5Aは、オセルタミビルの投与開始前−1分33秒の心電図であり、図5Bは、オセルタミビルの投与開始後+2分49秒の心電図であり、図5Cは、オセルタミビルの投与開始後+5分50秒の心電図である。この結果より、オセルタミビルの投与開始後+5分50秒で心房細動が停止したことが確認された。
【0115】
また、図6Aは、ジソピラミドの投与開始後+6分〜+14分の心電図であり、図6Bは、ジソピラミドの投与開始前−22分54秒の心電図である。図6Cは、ジソピラミドの投与開始後+12分15秒の心電図であり、図6Aの四角で囲んだ部分を拡大した図である。この結果より、ジソピラミドは心房細動を停止することができなかった。更に、図6Aより、心室細動が発生し、ジソピラミドを投与した持続性心房細動モデルの死亡が確認された。
【0116】
試験例1の結果より、オセルタミビルは、除細動に優れる薬物であり、かつ心室にも影響がなく、安全性が高いため、心房細動抑制剤として好適に利用できることがわかった。
また、本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、新たな心房細動の治療薬を、簡便かつ正確にスクリーニングでき、更に臨床で使用される心房細動の治療薬の再評価にも好適に利用できることがわかった。
【0117】
(試験例2:オセルタミビルの投与量及び併用の検討)
次に、心房細動抑制剤としてのオセルタミビルの投与量について検討を行った。
製造例1で作製した持続性心房細動モデルに対し、生理食塩水を用いて表2に示す投与量となるように調製したオセルタミビル(リン酸オセルタミビル、商品名:タミフル(登録商標)、中外製薬株式会社製;構造式(I)で表される化合物のリン酸塩)及び/又はピルジカイニド(塩酸ピルジカイニド、商品名:サンリズム(登録商標)、第一三共株式会社製)を下記表2に示す投与量で静脈注射により10分間かけて投与した。また、生理食塩水のみを投与した個体を対照とした。なお、下記表2に示す投与量は、有効成分の純分換算した量を示す。
【0118】
投与前から投与後にかけて、試験例1と同様の方法で心電図を測定し、試験例1と同様の方法で心房細動停止頻度及び除細動率を算出した。また、心房細動が停止した個体について、心房細動が停止してから24時間、心電図の経過観察を行い、心房細動が再発するか否かについて観察した。結果を併せて下記表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
表2の結果より、オセルタミビルは、30mg/kg以上投与することが好ましいことがわかった。また、オセルタミビル高用量+ピルジカイニド投与群の結果より、オセルタミビルとピルジカイニドとの併用も心房細動を抑制することが確認された。
更に、オセルタミビル高用量+ピルジカイニド投与群は、オセルタミビル高用量投与群に比べて心房細動再発頻度が低いことが確認された。
【0121】
(試験例3:オセルタミビルのQT延長への影響の検討)
試験例3は、Hiroshi Yoshida, MD et al., Circ J 2002, Vol.66, 857−862、A.Sugiyama et al., European Journal of Pharmacology, 2003, Vol.466, 137−146などに記載の方法で行われた。具体的な方法を以下に示す。
正常なビーグル犬(生後約1年、体重約10kg、雌、北山ラベス株式会社)にペントバルビタール(田辺三菱製薬株式会製)30mg/kgを静脈注射で投与し、同時に気管に人工呼吸器(SN−480−3、株式会社シナノ製作所製)を挿管して20mL/kgの酸素を供給して人工呼吸させた。次いで、ページング用のカテーテル電極(カタログ番号:1675P、EPテクノロジー社製)を大腿静脈から右心室内に挿入し右心室内の心室内中隔の心内膜にカテーテル先端の電極を逢着して固定した。
【0122】
このビーグル犬に対し、生理食塩水を用いて表3に示す投与量となるように調製したオセルタミビル(リン酸オセルタミビル、商品名:タミフル(登録商標)、中外製薬株式会社製;構造式(I)で表される化合物のリン酸塩)、ピルジカイニド(塩酸ピルジカイニド、商品名:サンリズム(登録商標)、第一三共株式会社製)、ジソピラミド(商品名:リスモダン(登録商標)、サノフィ・アベンティスファーマ株式会社製)、及びメキシレチン(メキシレチン塩酸塩、商品名:メキシチール(登録商標)、日本べーリンガーインゲルハイム社製)のいずれかを下記表3に示す投与量及び投与時間で静脈注射により投与した。なお、各薬物は、下記表3に示す投与スケジュールで投与した。即ち、各個体について最初に下記表3中の最も低濃度で投与し、その後30分間経過ごとに下記表3に示す濃度に上げて投与した。なお、下記表3に示す投与量は、有効成分の純分換算した量を示す。
また、各薬物投与群に対する対照群として、各薬物の投与時間及び投与スケジュールと同様の方法で生理食塩水を投与した群を用いた。
【0123】
【表3】
【0124】
前記ビーグル犬に、ホルター心電図(長時間心電図記録解析装置、商品名:HS1000システム、フクダ エム・イー工業株式会社製)の電極を、持続性心房細動モデルに標準四肢第II誘導法に基づいて装着し、投与前から投与後にかけて、洞調律時におけるQT間隔(ms)、PR間隔(ms)、P波(ms)、QRS波(ms)、MAP90(sinus)、AH間隔、及びHV間隔を測定した。
なお、P波(P duration)は、心房の電気興奮を表し、QRS波は、心室の電気興奮を表し、AHは、心房性ヒス束間隔を表し、HVは、房室結節伝導時間を表し、MAP90(sinus)は、洞調律下で活動電位振幅が最大値の90%まで再分極する時間を表す。
【0125】
また、MAP(Monophasic action potential:単相性活動電位)をDCプレアンプ(カタログ番号:300、EPテクノロジー社製)で増幅して測定した。心臓のペーシングは、カーディアックスティムレータ(カタログ番号:SEC−3102、日本光電株式会社製)を用い、刺激閾値の約2倍に相当する1V〜2Vで心室を刺激した。
周期長300msecで心室をペーシングし、MAP90(CL300)を測定し、周期長400msecで心室をペーシングし、MAP90(CL400)を測定した。
また、心室を、周期長400msecで8回ペーシングした後、9回目に早期刺激を加え、この早期刺激の連結期を5ms〜10msずつ短縮していき、ERP(Effective refractory period:有効不応期)(CL400)を測定した。ここで、「早期刺激」とは、周期長400msecより早い周期長を意味する。また、「早期刺激の連結期」とは、ペーシングの8回目(周期長400msecでの最後の刺激)と、9回目(早期刺激)との間の時間を意味する。
なお、周期長300msecで心室をペーシングした場合の心室の心拍数は、200bpmであり、周期長400msecで心室をペーシングした場合の心室の心拍数は、150bpmであった。
【0126】
また、QTc(補正QT間隔)(ms)を下記に示すBazettの公式(1920)により算出し、TRP(Torsades de Points:活動電位終末期)(ms)を下記式より算出した。
QTc=QT/√RR ・・・Bazettの公式
TRP=MAP90(CL400)−ERP
【0127】
オセルタミビル投与群の結果を図7に、ピルジカイニド投与群の結果を図8に、ジソピラミド投与群の結果を図9に、メキシレチン投与群の結果を図10に示す。図7〜10において、黒塗りで示すプロット(●、■、又は▲)は、統計によりp<0.05の有意差が認められたことを示す。
図7〜10の結果より、オセルタミビル投与群では、QT及びQTcの延長は小さく、安全なQT延長パターンを示していた。これより、オセルタミビルは、大量投与できることが示唆された。一方、ピルジカイニド投与群、ジソピラミド投与群、及びメキシレチン投与群は、オセルタミビル投与群と比較して、QT及びQTcの延長が大きく、危険なQT延長パターンを示していた。QT間隔は、心筋細胞の活動電位持続時間を推定する指標であり、過度のQT間隔の延長は、致死性心室不整脈であるTdP(Torsades de Pointes)を誘発することが知られており、QT間隔の延長が大きいほどTdPの発生リスクが増大する。
また、オセルタミビル投与群では、MAP90(CL300)、即ち心拍数が200bpmのときの延長が、MAP90(CL400)、即ち心拍数が150bpmのときの延長に比べて大きく、安全なMAP延長パターンを示していた。一方、ピルジカイニド投与群及びジソピラミド投与群は、MAP90(CL400)、即ち心拍数が150bpmのときの延長が、MAP90(CL300)、即ち心拍数が200bpmのときの延長に比べて大きく、危険なMAP延長パターンを示していた。
更に、オセルタミビル投与群では、P波の延長が大きく、心房に対する選択性が高いことが示唆された。また、オセルタミビル投与群では、心房筋Naチャネル阻害作用を反映する指標である心電図P波幅を他のイオンチャネルの指標より延長させた(図7左上段)。
【0128】
これらの結果より、オセルタミビルは、これまで臨床で心房細動を含む不整脈の予防薬又は治療薬として使用されてきた薬物と比較して、心房細動の抑制作用あるいは除細動に非常に優れ、更に副作用が少なく安全性が高いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の心房細動抑制剤及び抗不整脈剤は、心房細動を含む不整脈に対して優れた抑制作用を有し、副作用が少なく安全性が高いため、心房細動を含む不整脈の予防薬や治療薬として好適に利用可能である。また、前記心房細動抑制剤及び前記抗不整脈剤は、持続性心房細動に対して有効であるため、永続性心房細動への進行を防ぐことができ、更に脳梗塞をはじめとする全身臓器の血栓や塞栓症等の合併症の予防薬としても好適に利用可能である。
本発明の持続性心房細動モデル及びその製造方法は、臨床における持続性心房細動に近いモデルであり、心房細動を持続することができ、更に該心房細動を薬物等で心房細動を抑制又は除細動できるため、心房細動抑制剤のスクリーニングに好適に利用可能である。
本発明の心房細動抑制剤のスクリーニング方法は、ヒトで生じる心房細動と同様のメカニズムを有しているイヌの持続性心房細動モデルを用いているため、心房細動のin vivo評価系として優れており、心房細動の予防又は治療に用いられる新たな心房細動抑制剤のスクリーニングや、既存の心房細動の治療薬の再評価に有効かつ効率的に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し心房細動を抑制することを特徴とする心房細動抑制剤。
【化1】
【化2】
【化3】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項2】
心房細動が突発性心房細動及び慢性心房細動のいずれかである請求項1に記載の心房細動抑制剤。
【請求項3】
イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入し、前記電極カテーテルから前記房室結節領域に高周波を通電して前記房室結節を破壊し、房室伝導をブロックさせて心房を肥大拡大させる心房肥大拡大化工程と、
肥大拡大化した前記心房をペーシングする心房ペーシング工程と、
を含むことを特徴とする持続性心房細動モデルの製造方法。
【請求項4】
心房ペーシング工程が、500bpm〜700bpmで4週間以上ペーシングする請求項3に記載の持続性心房細動モデルの製造方法。
【請求項5】
請求項3から4のいずれかに記載の持続性心房細動モデルの製造方法により製造されたことを特徴とする持続性心房細動モデル。
【請求項6】
心房細動が少なくとも1週間持続する請求項5に記載の持続性心房細動モデル。
【請求項7】
請求項5から6のいずれかに記載の持続性心房細動モデルに被験物質を投与する投与工程と、
前記投与工程後、前記持続性心房細動モデルの心房細動を抑制した前記被験物質を心房細動抑制剤としてスクリーニングするスクリーニング工程と、
を含むことを特徴とする心房細動抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
スクリーニング工程で心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングし、心房細動を再誘発する心房細動再誘発工程を更に含む請求項7に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
心房細動再誘発工程が、心房細動が抑制されてから1週間以内に持続性心房細動モデルの心房を500bpm〜700bpmで少なくとも1週間ペーシングする請求項8に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し不整脈を抑制することを特徴とする抗不整脈剤。
【化7】
【化8】
【化9】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化10】
【化11】
【化12】
【請求項1】
下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し心房細動を抑制することを特徴とする心房細動抑制剤。
【化1】
【化2】
【化3】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項2】
心房細動が突発性心房細動及び慢性心房細動のいずれかである請求項1に記載の心房細動抑制剤。
【請求項3】
イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入し、前記電極カテーテルから前記房室結節領域に高周波を通電して前記房室結節を破壊し、房室伝導をブロックさせて心房を肥大拡大させる心房肥大拡大化工程と、
肥大拡大化した前記心房をペーシングする心房ペーシング工程と、
を含むことを特徴とする持続性心房細動モデルの製造方法。
【請求項4】
心房ペーシング工程が、500bpm〜700bpmで4週間以上ペーシングする請求項3に記載の持続性心房細動モデルの製造方法。
【請求項5】
請求項3から4のいずれかに記載の持続性心房細動モデルの製造方法により製造されたことを特徴とする持続性心房細動モデル。
【請求項6】
心房細動が少なくとも1週間持続する請求項5に記載の持続性心房細動モデル。
【請求項7】
請求項5から6のいずれかに記載の持続性心房細動モデルに被験物質を投与する投与工程と、
前記投与工程後、前記持続性心房細動モデルの心房細動を抑制した前記被験物質を心房細動抑制剤としてスクリーニングするスクリーニング工程と、
を含むことを特徴とする心房細動抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
スクリーニング工程で心房細動が抑制された持続性心房細動モデルの心房をペーシングし、心房細動を再誘発する心房細動再誘発工程を更に含む請求項7に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
心房細動再誘発工程が、心房細動が抑制されてから1週間以内に持続性心房細動モデルの心房を500bpm〜700bpmで少なくとも1週間ペーシングする請求項8に記載の心房細動抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
下記構造式(I)から(VI)のいずれかで表される化合物又はその薬理学的に許容し得る塩を含有し不整脈を抑制することを特徴とする抗不整脈剤。
【化7】
【化8】
【化9】
ただし、前記構造式(III)において、Glucは、グルクロン酸を表す。
【化10】
【化11】
【化12】
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−236814(P2012−236814A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−18977(P2012−18977)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【特許番号】特許第5039236号(P5039236)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(599055382)学校法人東邦大学 (18)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【特許番号】特許第5039236号(P5039236)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(599055382)学校法人東邦大学 (18)
【Fターム(参考)】
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