説明

抗体および高親和性を有する遺伝的に改変された抗体の生成法

ヒトミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、高頻度変異性細胞および生物を作出するために使用することができる。これらの遺伝子を細胞およびトランスジェニック動物に導入することにより、新規かつ有用な特性を持つ新規細胞株および動物変種を、突然変異の自然な発生率に頼るよりも効率的に調製することができる。これらの方法は、強化された生化学的活性を持つ改変された抗体を生産するために、目的の抗原に対する免疫グロブリン遺伝子内に遺伝的多様性を作成するために有用である。さらにこれらの方法は上昇したレベルの抗体生産を有する抗体生産細胞を生成するためにも有用である。また本発明は、モノクローナル抗体の親和性を上げる方法および上昇した親和性を有するモノクローナル抗体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、2000年11月7日に出願された特許文献1の一部継続出願である2002年9月13日に出願された特許文献2の優先権を主張し、それらの内容は全部、引用により本明細書に編入する。
発明の技術分野
本発明は抗体の成熟および細胞生産の分野に関する。特に本発明は突然変異誘発法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
外来および/または内因性ポリペプチドの活性を遮断するために抗体を使用することは、疾患の基にある原因を処置するために効果的かつ選択的な方法を提供する。特にFDAが認めたReoPro(非特許文献1、ReoProは質が低下したモノクローナル治療薬を再生できるか(Can ReoPro repolish tarnished monoclonal therapeutics?))、セントコア(Centocor)からの抗−血小板MAb;Herceptin(非特許文献2、ガンのモノクローナル抗体治療(Monoclonal antibody therapy of cancer)、ジェネンテェック(Genentech))からの抗−Her2/neu MAb;およびSynagis(非特許文献3、未成熟幼児および気管支肺形成異常の幼児におけるRSウイルスに対する筋肉内ヒト化モノクローナル抗体の安全性および薬物動態学(Safety and pharmacokinetics of an intramuscular humanized monoclonal antibody to respiratory syncytial virus in premature infants and infants with bronchopulmonary dysplasia)、メディミューン(Medimmune)により生産された抗RSウイルスMAb)のような効果的な治療薬としてモノクローナル抗体(MAb)の使用がある。
【0003】
候補タンパク質標的に対するMAbを生成するための標準的方法は、当業者には知られている。簡単に説明すると、マウスまたはラットのような齧歯類に、アジュバントの存在下で精製した抗原を注射して免疫応答を生じる(非特許文献4、死体の腎臓移植におけるOKT3誘導治療の経済的分析(A cost−effective analysis of OKT3 induction therapy in cadaveric kidney transplantation))。陽性の免疫血清を有する齧歯類を屠殺し、そして脾細胞を単離する。単離した脾細胞をメラノーマと融合して不死化細胞株を生産させ、次いで抗体生産についてスクリーニングする。陽性の株を単離し、そして抗体生産について特性を決定する。ヒトの治療薬として齧歯類のMAbを直接使用することは、齧歯類に由来する抗体で処置した有意な数の患者で、ヒト抗−齧歯類抗体(HARA)応答が生じるという事実から失敗した(非特許文献5、モノクローナル抗体に対するヒトの免疫応答(Human immune response to monoclonal antibodies))。HARAの問題を回避するために、相補性決定領域(CDR)(これは抗原結合ドメインを作成する免疫グロブリン(Ig)サブユニットの重および軽鎖可変領域内に見いだされる重要なモチーフである)の、ヒト抗体骨格への移植により、これらのキメラ分子はHARA応答を欠くが抗原に対するそれらの結合活性を保持することができることが分かった(非特許文献6、「抗体をヒト化する方法(Strategies for humanizing antibodies)」)。齧歯類に由来するMAbの「ヒト化」(本明細書ではHAbと呼ぶ)中に存在する共通の問題は、ヒト化Ig骨格への移植でCDRドメインの3次元的構造における立体配座的変化による結合親和性の損失である(Queen et alへの特許文献1)。この問題を克服するために、さらなるHAbベクターは高親和性HAbを再生するために、骨格領域および/またはCDRコード領域自体の骨格内にさらなるアミノ酸残基を工学的に挿入または削除することが通常、必要となる(特許文献1)。この工程は、高親和性HAbを導くことができる変化を予測するためのプログラムの高額なコンピューターモデリングが関与する大変時間がかかる手順である。場合によってはHAbの親和性はそのMAbの親和性までに回復されず、それらの治療的用途を無くする。
【0004】
抗体操作に存在する別の問題は、臨床用材料として分子を製造するために必要な安定で高収量の生産細胞株の生成である。この問題を回避するために、当業者により幾つかの方法が標準的な実践に適合させられた。1つの方法は、移植したヒト軽および重鎖を含む外因性のIg融合遺伝子でトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用して全抗体または単鎖抗体を生産することであり、これらは抗原結合ポリペプチドを形成する軽および重鎖の両方を含有するキメラ分子である(非特許文献7、哺乳動物細胞での組換え免疫グロブリンの高レベル生産(High−level production of recombinant immunoglobulins in mammalian cells))。別の方法は、ヒトの移植した免疫系を含むトランスジェニックマウスまたはヒトIg遺伝子のレパートリーを含有するトランスジェニックマウスに由来するヒトのリンパ球の使用を採用する。さらに別の方法は、ヒト抗−サルの応答を欠くと報告された霊長類のMAbを生産するサルの使用を採用する(非特許文献8、モノクローナル抗体。マウスはヒトのレパートリーを生じる(Monoclonal antibodies.Mice perform a human repertoire))。すべての場合で、十分な量の高親和性抗体を生成することができる細胞株の生成は、臨床試験用に十分な量の生産するには大きな限界を生じる。これらの限界により、植物のような他の組換え系の使用が、ヒト化抗体の安全で高レベルの生産を導く系として現在、調査されている(非特許文献9、トランスジェニックタバコ種子中で操作した抗体の高レベル生産および長期保存(High−level production and long term storage of engineered antibodies in transgenic tobacco seeds)。)
抗原に対して高い結合親和性を持つHAbおよびMAbを生じる多様な抗体配列を可変ドメイン内に生成するための方法は、それぞれより有力な治療および診断試薬を作成するために有用となるだろう。さらに全抗体分子にわたり無作為に改変されたヌクレオチドおよびポリペプチド残基の生成は、抗原性がより低く、かつ/または有益な薬理学的特性の新規試薬を生じるだろう。本明細書に記載する発明は、生化学的に活性な抗体をコードする免疫グロブリンを生産する宿主細胞の内因性ミスマッチ修復(MMR)活性を遮断することにより、インビボで抗体構造全体の無作為な遺伝的突然変異を使用することを対象とする。また本発明は強化された結合および薬理学的プロフィールを持つ抗体に関する反復されたインビボ遺伝的改変および選択法に関する。
【0005】
加えて、増加した量の抗体を分泌することができる遺伝的に改変された宿主細胞を開発する能力は、製品開発のための細胞宿主を作成する価値ある方法も提供するだろう。本明細書に記載する方法は、MMRの封鎖を介して増加した抗体生産を生じる遺伝的に改変された細胞宿主の作成を対象とする。
【0006】
本発明は高親和性抗体の生成および増加したレベルの抗体生産を持つ細胞株の生産を促進する。本発明の他の利点は、本明細書に記載する実施例および図面に説明する。
【参考文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,330,101号明細書
【特許文献2】米国特許仮出願第10/243,130号明細書
【非特許文献1】Glaser,V.,Nat.Biotechnol.14:1216−1217,1996
【非特許文献2】Weiner,L.M.Semin.Oncol.26:43−51,1999
【非特許文献3】Saez−Llorens,X.E.,,et al.Pediat.Infect.Dis.J.17:787−791,1998
【非特許文献4】Shield,C.F.,et al.,Am.J.Kidney Dis.27:855−864,1996
【非特許文献5】Khazaeli,M.B.,et al.,J.Immunother.15:42−52,1994
【非特許文献6】Emery,S.C.and Harris,W.J.,ANTIBODY ENGINEERING C.A.K.Borrebaeck(編集)、オックスフォード大学出版、ニューヨーク、第159−183頁、1995
【非特許文献7】Reff,M.E.,Curr.Opin.Biotechnol.4:573−576,1993
【非特許文献8】Neuberger,M.,and Gruggermann,M.,Nature 386:25−26,1997
【非特許文献9】Fiedler,U.,and Conrad,U.,Bio/Technology 13:1090−1093,1995
【発明の開示】
【0008】
発明の要約
本発明は、遺伝的に改変された抗体(単鎖分子を含む)を生成する方法およびインビトロおよびインビボで抗体を生産する細胞宿主を提供し、これにより宿主細胞により限定するわけではないが上昇した抗原結合、細胞宿主による上昇した遺伝子発現および/または強化された細胞外分泌のような所望する生化学的特性(1つまたは複数)を有する抗体を提供する。上昇した結合活性を持つ抗体または上昇した抗体生産を生じる細胞の同定法は、強化された結合特性を持つ分子を生産するMMR欠損抗体生産細胞クローン、または遺伝的に改変されて強化された量の抗体産物を生産するクローンのスクリーニングを介する。
【0009】
本発明の使用に適する抗体生産細胞には、限定するわけではないが齧歯類、霊長類、またはヒトハイブリドーマまたはリンパ芽球;トランスフェクトされ、そして外因性Igサブユニットまたはキメラ単鎖分子を発現する哺乳動物細胞;トランスフェクトされ、そして外因性Igサブユニットまたはキメラ単鎖分子を発現する植物細胞、酵母または細菌を含む。
【0010】
すなわち本発明は、抗体を生産できる細胞にミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドを導入することにより、高頻度変異可能(hypermutable)な抗体生産細胞を作成する方法を提供する。抗体を生産できる細胞には、自然に抗体を生産する細胞、および免疫グロブリンをコードする配列の導入を介して抗体を生産するように工作された細胞を含む。細胞へのポリヌクレオチド配列の導入は、トランスフェクションにより都合よく行われる。
【0011】
また本発明は、抗体を生産できる細胞にPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1PMS1MSH2またはMSH2のようなドミナントネガティブミスマッチ修復(MMR)遺伝子を導入することにより、高頻度変異可能な抗体生産細胞を作成する方法も提供する。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ミスマッチ修復遺伝子の短縮突然変異であることができる(好ましくはコドン134、または野生型PMS2のヌクレオチド424のチミジンでの短縮突然変異)。本発明はミスマッチ修復遺伝子活性が抑制される方法も提供する。これは例えば、ミスマッチ修復遺伝子または転写産物に対するアンチセンス分子を使用して達成される。
【0012】
本発明の他の態様は、動物の受精卵にミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含んでなるポリヌクレオチドを導入することにより、高頻度変異可能な抗体生産細胞の作成法を提供する。これらの方法には、引き続き卵を偽妊娠のメスに移植し、これにより受精卵が成熟したトランスジェニック動物に発生することを含むことができる。ミスマッチ修復遺伝子は例えばPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1PMS1MSH2またはMSH2を含むことができる。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ミスマッチ修復遺伝子の短縮化突然変異であることができる(好ましくは、コドン134、または野生型PMS2のヌクレオチド424のチミジンでの短縮突然変異)。
【0013】
さらに本発明は、抗体を製造することができ、そしてミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含む培養した高頻度変異可能な哺乳動物細胞の均一組成物を提供する。ミスマッチ修復遺伝子は例えばPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1PMS1MSH2またはMSH2を含むことができる。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ミスマッチ修復遺伝子の短縮化突然変異であることができる(好ましくは、コドン134、または野生型PMS2のヌクレオチド424のチミジンでの短縮突然変異)。カルチャー中の細胞はPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、またはPMS1を含むことができ;あるいはヒトmutL相同体、またはhPMS2の最初の133アミノ酸を発現することができる。
【0014】
さらに本発明は、目的の免疫グロブリンについて選択した免疫グロブリン生産細胞を培養することによる、目的の免疫グロブリン遺伝子に突然変異を生成する方法を提供し、ここで細胞はミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含む。細胞から生産された免疫グロブリンの特性は、免疫グロブリン遺伝子が突然変異を有するかどうか確認するためにアッセイすることができる。アッセイは免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチドを分析することを対象とすることができ、あるいは免疫グロブリンのポリペプチド自体を対象とすることができる。
【0015】
また本発明は、新規な生化学的特性(例えば免疫グロブリン産物の過剰発現および/または分泌)の生成するために、ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を発現する細胞を培養し、そして細胞が目的の遺伝子内に突然変異を有するかどうかを決定するために細胞を試験することにより、抗体生産細胞における抗体生産に影響を及ぼす遺伝子中に突然変異を生成する方法を提供する。この試験には目的の免疫グロブリン遺伝子の定常発現の分析、および/または目的の免疫グロブリン遺伝子によりコードされる分泌されたタンパク質の量の分析を含む。また本発明は、齧歯類、非ヒト霊長類およびヒトに由来する細胞を含め、この方法により作成された原核および真核トランスジェニック細胞も包含する。
【0016】
本発明の他の観点には、抗体生産細胞の高頻度変異性を可逆的に改変する方法を包含し、ここで誘導性プロモーターに操作可能に連結された、ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含有するベクターが抗体生産細胞に導入される。細胞は誘導剤で処理されて、ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子(これはPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、またはPMS1であることができる)を含むことができる。あるいは細胞は、ヒトmutL相同体またはhPMS2の最初の133アミノ酸を発現するように誘導することができる。別の態様では、細胞は目的の予め選択した免疫グロブリン遺伝子をコトランスフェクションすることにより抗体を生産できるようにすることができる。高頻度変異性細胞の免疫グロブリン遺伝子、またはこれらの方法により生産されたタンパク質は所望の特性について分析することができ、そして誘導は宿主細胞の遺伝的安定性が回復されるように止めることができる。
【0017】
また本発明は遺伝的に改変された抗体を生産する方法を包含し、この方法は変異体抗体がさらなる遺伝的改変無しで一定に生産されるように、免疫グロブリンタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子(天然であるか、またはドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子が細胞に導入されたいずれか)を含む細胞にトランスフェクトし、細胞を培養して免疫グロブリン遺伝子が突然変異となり、そして変異体免疫グロブリンを生産できるようにし、該変異体免疫グロブリンタンパク質の所望の特性についてスクリーニングし、所望の特性を有する選択した変異体免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチド分子を単離し、そして該変異体ポリヌクレオチドを遺伝的に安定な細胞にトランスフェクトすることによる。ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子は、PMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、またはPMS1であることができる。あるいは細胞はヒトmutL相同体またはhPMS2の最初の133アミノ酸を発現することができる。
【0018】
さらに本発明は、強化された量の抗原結合ポリペプチドを発現する遺伝的に改変された細胞株の生成法を提供する。これらの抗原に結合するポリペプチドは、例えば免疫グロブリンである。また本発明の方法は、強化された量の抗原結合ポリペプチドを分泌する遺伝的に改変された細胞株の生成法も含む。細胞株は、抗体のような抗原結合ポリペプチドを生産する細胞に強化された割合の遺伝子の高頻度変異性を提供するドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子により高頻度変異性とされる。そのような細胞は限定するわけではないがハイブリドーマを含む。強化された量の抗原結合ポリペプチドの発現は、例えば抗原結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの強化された転写または翻訳を介して、あるいは抗原結合ポリペプチドの強化された分泌を介することができる。
【0019】
また方法は、細胞宿主のMMR活性を遮断することにより、または免疫グロブリンをコードする遺伝子をMMR欠損細胞宿主にトランスフェクトすることにより、インビボで遺伝的に改変された抗体を作成することも提供する。
【0020】
可変ドメイン内の遺伝的変化により抗原に対して上昇した結合特性を持つ抗体は、細胞宿主の内因性MMRを遮断する本発明の方法により提供される。軽および/または重鎖内のCDR領域中の遺伝的変化により抗原に対して上昇した結合特異性を持つ抗体も、細胞宿主の内因性MMRを遮断する本発明の方法により提供される。
【0021】
本発明は、限定するわけではないが齧歯類、霊長類およびヒトを含む宿主生物中で強化された薬物動態学的特性を有する、MMR欠損Ab生産細胞株中で遺伝的に改変された抗体の作成法を提供する。
【0022】
本発明のこれらのおよび他の観点は、以下に記載する1以上の態様により提供される。本発明の1つの態様では、抗体生産細胞株を高頻度変異性にする方法が提供される。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、抗体生産細胞に導入される。細胞は遺伝子導入の結果として高頻度変異性となる。
【0023】
本発明の別の態様では、免疫グロブリンポリペプチドまたは単鎖抗体をコードする内因性遺伝子に突然変異を導入するための方法が提供される。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子をコードするポリヌクレオチドが細胞に導入される。細胞はMMR遺伝子の対立遺伝子の導入および発現の結果として高頻度変異性となる。細胞はさらに目的の免疫グロブリン遺伝子を含んでなる。細胞を成長させ、そして目的の免疫グロブリンまたは単鎖抗体をコードする遺伝子が突然変異を有するかどうかを決定するために試験される。本発明の別の観点では、突然変異した免疫グロブリンポリペプチドまたは単鎖抗体をコードする遺伝子を単離し、そして遺伝的に安定な細胞中で発現させることができる。好適な態様では、突然変異した抗体は限定するわけではないが強化された結合特性のような少なくとも1つの所望する特性についてスクリーニングされる。
【0024】
本発明の別の態様では、Ig軽および重鎖をコードする遺伝子または遺伝子組またはその中の組み合わせが、MMR欠損の哺乳動物の細胞宿主に導入される。細胞を成長させ、そしてクローンを強化された結合特性を持つ抗体について分析する。
【0025】
本発明の別の態様では、細胞の新規表現型を生成するための方法が提供される。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子をコードするポリヌクレオチドが細胞に導入される。細胞は遺伝子の導入の結果として高頻度変異性となる。細胞を成長させる。細胞は、新規表現型の発現に関して試験され、この場合、表現型はポリペプチドの強化された分泌である。
【0026】
また本発明は、置換が重および/または軽鎖の可変ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸について作成された免疫グロブリン分子を含んでなる、抗原に対して上昇した親和性を有する抗体を提供する。幾つかの態様では、置換はその位置の親のアミノ酸が非極性側鎖である位置での置換である。幾つかの態様では、親のアミノ酸が非極性側鎖を有する異なるアミノ酸に置換されている。別の態様では、親のアミノ酸はプロリンまたはヒドロキシプロリンに置き換えられる。幾つかの態様では、置換(1つまたは複数)が重および/または軽鎖可変ドメインの骨格領域に作成される。幾つかの態様では、置換(1つまたは複数)が重鎖の第1骨格領域内に作成される。幾つかの態様では、置換(1つまたは複数)が軽鎖の第2骨格領域内に作成される。幾つかの態様では、置換は重鎖の第1骨格領域および軽鎖の第2骨格領域内に作成される。幾つかの態様では、置換は配列番号18に示す重鎖の第1骨格領域の6位に作成される。幾つかの態様では、置換は配列番号21に示す軽鎖の第2骨格領域の22位に作成される。幾つかの態様における特異的位置の突然変異に関して、アミノ酸の置換はプロリンまたはヒドロキシプロリンである。
【0027】
また本発明は、主題の抗体の重または軽鎖の可変ドメイン内のアミノ酸を、非極性側鎖を有する別のアミノ酸に置換することを含んでなる、抗原に対する抗体の親和性を上げる方法も提供する。幾つかの態様では、その位置で元のアミノ酸の代わりにプロリンが使用される。幾つかの態様では、プロリンが非極性側鎖を有する別のアミノ酸の代わりに使用される。幾つかの態様ではアラニンおよび/またはロイシンがプロリンに置き換えられる。特定の態様では、配列番号18に示す抗体の重鎖の第1骨格領域の6位のアミノ酸がプロリンに置き換えられる。別の態様では、配列番号21に示す軽鎖可変ドメインの第2骨格領域の22位のアミノ酸がプロリンに置き換えられる。また本発明はこれらの方法により生産される抗体も提供する。
【0028】
本発明で生産される抗体は、本発明の方法を使用して作成することができ、この方法はミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子が抗体生産細胞に導入され、そして細胞は本明細書でさらに完全に記載されるように高頻度変異性となる。あるいは2002年7月18日に公開された国際公開第02/054856号パンフレット(これは引用により本明細書に編入する)に記載されているアントラセンおよび/またはその誘導体を使用するような、ミスマッチ修復の化学的インヒビターを使用してミスマッチ修復を破壊することができる。ミスマッチ修復を破壊する化学物質で処理されたか、またはドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子を発現する細胞は高頻度変異性となる。高頻度変異性細胞により生産された抗体は上昇した親和性についてスクリーニングされ、そして上記のアミノ酸置換を含んでなる抗体は、抗原に対して上昇した親和性を表す。上昇した親和性および本明細書に記載する分子特性を有する抗体を生産する細胞は、化学的インヒビターを離脱することにより、またはドミナントネガティブ対立遺伝子の発現の不活性化を介して細胞を遺伝的に安定とすることにより、再び遺伝的に安定とすることができる。例えば誘導性プロモーターの制御下にあるドミナントネガティブ対立遺伝子は、誘導物質を離脱することにより不活性化することができる。あるいはドミナントネガティブ対立遺伝子はノックアウトすることができ、またはCRE−LOX発現系を使用し、これによりいったん遺伝的に多様な免疫グロブリンを含む細胞が樹立されれば、ドミナントネガティブ対立遺伝子をゲノムからスプライスすることができる。
【0029】
別の態様では、当業者は突然変異をタンパク質に導入し、そして上記のアミノ酸置換を持つ、より高い親和性を有する抗体について選択する既知の方法を使用することができる。突然変異を導入する方法は、化学的突然変異誘発法のような無作為なものでよく、あるいは位置指定突然変異誘発法のような特異的なものでよい。無作為および特異的な突然変異誘発法は当該技術分野では周知であり、そして限定するわけではないが例えば、化学的突然変異誘発法(例えばメタンスルホネート、ジメチルスルホネート、O6−メチルベンザジン、メチルニトロソウレア(MNU)、およびエチルニトロソウレア(ENU)のような化学物質を使用する);オリゴヌクレオチドが媒介する位置指定突然変異誘発法;アラニンスキャンニング;およびPCR突然変異誘発法(例えばKunkel et al.(1991)Methods Enzymol.204:125−139、位置指定突然変異誘発法;Crameri et al.(1995)BioTechniques 18(2):194−196、カセット突然変異誘発法;およびHaught et al.(1994)BioTechniques 16(1):47−48、制限選択突然変異誘発法を参照にされたい)を含む。
【0030】
本発明のこれらのおよび他の態様は当該技術分野に、細胞および動物に強化された変異性を生成し得る方法を提供し、ならびに有利な薬物動態学的プロフィールを持つ高親和性抗体の大規模生産に潜在的に有用な突然変異を持つ細胞および動物を提供する。
【0031】
宿主細胞の保存されたミスマッチ修復(MMR)プロセスを利用することにより、高頻度変異性抗体生産細胞を開発する方法を開発した。そのような遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は細胞またはトランスジェニック動物に導入された時、DNA修復の効率を下げ、そしてこれにより細胞または動物を高頻度変異性にすることにより、自然な突然変異の割合を上げる。次いで高頻度変異性細胞または動物は、目的の遺伝子中に新規突然変異を発生させるために利用することができる。限定するわけではないがハイブリドーマ;Ig軽および重鎖をコードする遺伝子でトランスフェクトされた哺乳動物細胞;単鎖抗体をコードする遺伝子でトランスフェクトされた哺乳動物細胞;Ig遺伝子でトランスフェクトされた真核細胞のような抗体生産細胞でのMMRの遮断は、これらの細胞中で突然変異の割合を強化し、強化された抗体生産を有するクローンおよび/または上昇した抗原結合のような強化された生化学的特性を持つ遺伝的に改変された抗体を含む細胞を導くことができる。ミスマッチプルーフリーディングとも呼ばれるMMRのプロセスは、細菌から哺乳動物細胞にわたる細胞でタンパク質複合体により行われる。MMR遺伝子はそのようなミスマッチ修復複合体のタンパク質の1つをコードする遺伝子である。作用メカニズムの特定の理論に拘束されることは望まないが、MMR複合体はヌクレオチド塩基の非相補的対合から生じるDNAヘリックスのゆがみを検出すると考えられている。より新しいDNA鎖上の非相補的塩基が切り出され、そして切り出された塩基は古いDNA鎖に相補的な適切な塩基に置き換えられる。このように細胞はDNA修復における誤りの結果として起こる多くの突然変異を排除する。
【0032】
ドミナントネガティブ対立遺伝子は、同じ細胞に野生型の対立遺伝子が存在してもMMR欠損の表現型を引き起こす。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子の例は、ヒト遺伝子hPMS2−134であり、これはコドン134に短縮化された突然変異を持つ(配列番号15)。突然変異は、この遺伝子産物が134番目のアミノ酸の位置で異常に終結することを引き起こし、N−末端133アミノ酸を含む短縮化されたポリペプチドを生じる。そのような突然変異は突然変異の割合に上昇を引き起こし、これはDNA複製後の細胞に蓄積する。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子の発現は、野生型の対立遺伝子が存在してもミスマッチ修復活性の減損をもたらす。そのような効果を生成する任意の対立遺伝子を本発明に使用することができる。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ヒト、動物、酵母、細菌または他の生物の細胞から得ることができる。そのような対立遺伝子は、細胞を欠損MMR活性についてスクリーニングすることにより同定することができる。ガンを有する動物またはヒトに由来する細胞は、欠損ミスマッチ修復についてスクリーニングすることができる。結腸ガン患者に由来する細胞は特に有用である。任意の細胞に由来するMMRタンパク質をコードするゲノムDNA、cDNAまたはmRNAを、野生型配列からの変異について分析することができる。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、例えばhPMS2−134対立遺伝子または他のMMR遺伝子のバリアントを生成することにより人工的に作成することもできる。位置指定突然変異誘発法の種々の技術を使用することができる。天然または人工であっても、そのような対立遺伝子の高頻度変異性細胞または動物を作出するために使用する適性は、1以上の野生型対立遺伝子の存在下で対立遺伝子により引き起こされるミスマッチ修復活性を試験し、それがドミナントネガティブ対立遺伝子であるかどうかを決定することにより評価できる。
【0033】
ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子が導入された細胞または動物は高頻度変異性となる。これはそのような細胞または動物の自然発生的な突然変異率が、そのような対立遺伝子が無い細胞または動物に比べて上昇することを意味する。自然発生的な突然変異率の上昇の程度は、正常な細胞または動物の少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍または100倍であることができる。限定するわけではないがメタンスルホネート、ジメチルスルホネート、O6−メチルベンザジン、MNU、ENU等のような化学的な突然変異原の使用は、MMR欠損細胞で使用されて、MMR欠損自体のさらに10〜100倍に率を上げることができる。
【0034】
本発明の1つの観点では、MMRタンパク質のドミナントネガティブ形をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入する。遺伝子はMMR複合体の一部であるタンパク質をコードするドミナントネガティブ対立遺伝子、例えばPMS2PMS1MLH1またはMSH2であることができる。ドミナントネガティブ対立遺伝子は自然に生じるか、または研究室で作成することができる。ポリヌクレオチドはゲノムDNA、cDNA、RNAまたは化学的に合成されたポリヌクレオチドの状態であることができる。
【0035】
ポリヌクレオチドは、構成的に活性なプロモーターセグメント(限定するわけではないがCMV、SV40、延長因子またはLTR配列のような)を含む発現ベクターに、またはドミナントネガティブMMR遺伝子の発現を調節することができるステロイド誘導性pINDベクター(インビトロジェン:Invitrogen)のような誘導性プロモーター配列にクローン化することができる。ポリヌクレオチドはトランスフェクションにより細胞に導入することができる。
【0036】
本発明の別の観点に従い、免疫グロブリン(Ig)遺伝子、Ig遺伝子の組またはIg遺伝子の全部または一部を含有するキメラ遺伝子を、MMR欠損細胞宿主にトランスフェクトし、細胞を成長させ、そして新規な生化学的特性を持つ遺伝的に改変されたIg遺伝子を含有するクローンについてスクリーニングすることができる。MMR欠損細胞はヒト、霊長類、哺乳動物、齧歯類、植物、酵母または原核生物界の細胞であることができる。新規な生化学的特性を持つIgをコードする突然変異した遺伝子を個々のクローンから単離し、そして遺伝的に安定な細胞(すなわち正常MMRを持つ細胞)に導入して、新規な生化学的特性を持つIgを一定して生産するクローンを提供することができる。新規な生化学的特性を持つIgをコードするIg遺伝子の単離法は、当該技術分野で知られている任意の方法でよい。新規な生化学的特性を持つIgをコードする単離されたポリヌクレオチドの導入も、限定するわけではないが新規な生化学的特性を持つIgをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターのトランスフェクションを含め、当該技術分野で知られている任意の方法を使用して行うことができる。Ig遺伝子、1組のIg遺伝子またはIg遺伝子の全部または一部を含有するキメラ遺伝子のMMR欠損宿主細胞へのトランスフェクションに代えて、そのようなIg遺伝子はドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子をコードする遺伝子と同時に遺伝的に安定な細胞にトランスフェクトして、細胞を高頻度変異性にすることができる。
【0037】
トランスフェクションはポリヌクレオチドが細胞に導入される任意のプロセスである。トランスフェクションのプロセスは生きている動物で、例えば遺伝子治療用のベクターの使用して行うことができ、あるいはインビトロで例えばカルチャー中の1以上の単離された細胞の懸濁液を使用して行うことができる。細胞は、例えばヒトまたは他の霊長類、哺乳動物または他の脊椎動物、無脊椎動物から単離された細胞を含め任意の種類の真核細胞、および原生生物、酵母または細菌のような単細胞生物であることができる。
【0038】
一般に、トランスフェクションは細胞の懸濁液または1つの細胞を使用して行われるが、他の方法もトランスフェクトされた細胞を成長させ、そして利用できるように、処理された細胞または組織の十分な画分がポリヌクレオチドを包含する限り適用することができる。ポリヌクレオチドのタンパク質産物は、細胞中で一時的に、または安定に発現され得る。トランスフェクションの技術は周知である。ポリヌクレオチドを導入するために利用可能な技術には、限定するわけではないが電気穿孔、形質導入、細胞融合、塩化カルシウムの使用および目的の細胞との融合にポリヌクレオチドと一緒に脂質のパッケージングを含む。いったん細胞がMMR遺伝子でトランスフェクトされれば、細胞を培養で成長させ、そして再生させることができる。トランスフェクションが安定である場合、遺伝子が多くの細胞世代で一定レベルで発現されるので、細胞株を生じる。
【0039】
単離された細胞は、個々の細胞に機械的に分離し、そしてそれらを適当な細胞培養基(酵素、例えばコラゲナーゼまたはトリプシンでの組織の前処理を含むか、または含まない)に移すことにより、ヒトまたは動物の組織から得られる細胞である。そのような単離された細胞は典型的には他の種類の細胞の不存在下で培養される。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子の導入について選択された細胞は、初代細胞培養または不死化細胞株の状態で真核生物に由来することができ、あるいは単細胞生物の懸濁液に由来することができる。
【0040】
MMRタンパク質のドミナントネガティブ形をコードするポリヌクレオチドは、トランスジェニック動物を作出することにより動物のゲノムに導入することができる。トランスジェニック動物を作出するために、適切な技術を利用できる動物は任意の種でよい。例えばトランスジェニック動物は家畜、例えばウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ等から;組換えタンパク質の生産に使用される動物、例えば乳に組換えポリペプチドを発現するウシ、ブタまたはヤギから;あるいは調査または製品試験用の実験動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等から調製することができる。MMR欠損であると決定された細胞株は、次いで単鎖抗体をコードする全体の、完全な免疫グロブリン遺伝子および/またはキメラ遺伝子を、MMR欠損動物の任意の組織に由来するMMR欠損細胞に導入することにより、遺伝的に改変された免疫グロブリン遺伝子をインビトロで生産するための供給源として使用される。
【0041】
いったんトランスフェクトされた細胞株またはトランスジェニック動物のコロニーが生産されれば、これは1以上の目的遺伝子に新規な突然変異を作成するために使用することができる。目的の遺伝子は、細胞株またはトランスジェニック動物により自然に保有される任意の遺伝子であるか、あるいは細胞株またはトランスジェニック動物に導入することができる。突然変異を誘導するためにそのような細胞または動物を使用する利点は、暴露した物体および作業者の両方に2次的な有害効果を有し得る突然変異原性の化学物質または照射に細胞または動物を暴露する必要が無い点である。しかし化学的突然変異原はMMR欠損と組み合わせて使用することができ、これはそのような突然変異原の不明瞭なメカニズムによる毒性を低くする。次いで高頻度変異性動物を育種し、そして遺伝的に変異性(variable)の細胞を生産するために有用な新規細胞株を同定するために、単離し、そしてクローン化され得る遺伝的に変異性のB細胞を生産する細胞について選択することができる。いったん新たな形質が同定されれば、ドミナントネガティブMMR遺伝子の対立遺伝子は、当業者により使用されている技術により対立遺伝子を直接ノックアウトすることにより、または所望の形質および安定なゲノムを持つ子孫を選択するためにドミナントネガティブ対立遺伝子を欠く仲間(mate)に育種することにより除去することができる。別の選択は、CRE−LOX発現系を使用することであり、これによりいったん遺伝的に多様な免疫グロブリンのプロフィールが含まれる動物が樹立されれば、ドミナントネガティブ対立遺伝子は動物のゲノムからスプライスされる。さらに別の選択は、コルチコステロイドの存在下で外因性遺伝子を発現するステロイドで誘導するpIND(インビトロジェン)またはpMAM(クロンテック:Clonetech)ベクターのような誘導性ベクターの使用である。
【0042】
突然変異は細胞または動物の遺伝子型の改変を分析することにより、例えばゲノムDNA、cDNA、メッセンジャーRNAまたは目的の遺伝子に関連するアミノ酸の配列を調査することにより検出することができる。突然変異は抗体力価の生成をスクリーニングすることにより検出することができる。変異体ポリペプチドは、変異体遺伝子によりコードされるタンパク質の電気泳動的移動度、分光光学的特性または他の物理的もしくは構造的特性の変化を同定することにより検出することができる。またタンパク質の改変された機能をin situで、単離された状態で、またはモデル系でスクリーニングすることもできる。目的遺伝子の機能に関連する細胞または動物の任意の特性、限定するわけではないがIg分泌の変化についてスクリーニングすることができる。
【0043】
ミスマッチ修復タンパク質をコードする核酸配列の例には、限定するわけではないが以下を含む:マウスPMS2(配列番号6);ヒトPMS2(配列番号8);ヒトPMS1(配列番号10)ヒトMSH2(配列番号12);ヒトMLH1(配列番号14);およびヒトPMS2−134(配列番号16)。対応するアミノ酸配列は:マウスPMS2(配列番号5);ヒトPMS2(配列番号7);ヒトPMS1(配列番号9)ヒトMSH2(配列番号11);ヒトMLH1(配列番号13);およびヒトPMS2−134(配列番号15)。
【0044】
抗原に対して上昇した親和性を示す変異体抗体を配列決定し、そして野生型(WT)H36の親の抗体の配列と比較する。プロリンへのアミノ酸の改変は、免疫グロブリン分子の軽鎖または重鎖のいずれかの可変領域に導入された時、抗原に対する親和性を上げる効果を有することが見い出された。操作の特定の理論に拘束されることは望まないが、プロリンは局所化された剛性の領域を導入し、そして免疫グロブリン分子、特に抗原結合部位(combining site)の回りの領域に安定性を与えると考えられている。
【0045】
このように本発明は、可変ドメイン重および/または軽鎖のアミノ酸をプロリンまたはヒドロキシプロリン(集合的に「プロリン」と呼ぶ)に置き換えることを含んでなる、抗体の親和性を上げる方法を提供する。幾つかの態様では、プロリンの置換は重鎖可変ドメイン内にある。幾つかの態様では、プロリンの置換は軽鎖可変ドメイン内にある。他の態様では、プロリンの置換は免疫グロブリン分子の可変ドメインの重鎖および軽鎖の両方にある。幾つかの態様では、非極性側鎖を有する他のアミノ酸(例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンおよびシステイン)に代えてプロリンを使用する。幾つかの態様では、非極性側鎖を有するアミノ酸と非極性側鎖を有する別のアミノ酸とのさらなる交換も、抗原に対する抗体の上昇した親和性を付与することができる。幾つかの態様では、アミノ酸の置換は重鎖の骨格領域内にある。他の態様では、アミノ酸の置換は軽鎖の骨格領域内にある。別の態様では、アミノ酸の置換は重および軽鎖の両方の骨格領域内にある。幾つかの態様では、アミノ酸の置換は重鎖の第1骨格領域(FR1)内にある。別の態様では、アミノ酸の置換は重鎖の第2骨格領域(FR2)内にある。別の態様では、アミノ酸の置換は重鎖の第3骨格領域(FR3)内にある。別の態様では、アミノ酸の置換は重鎖の第4骨格領域(FR4)内にある。幾つかの態様では、アミノ酸の置換は軽鎖の第1骨格領域(FR1)内にある。別の態様では、アミノ酸の置換は軽鎖の第2骨格領域(FR2)内にある。別の態様では、アミノ酸の置換は軽鎖の第3骨格領域(FR3)内にある。別の態様では、アミノ酸の置換は軽鎖の第4骨格領域(FR4)内にある。
【0046】
本発明の特定の態様では、プロリンが配列番号18の6位でアラニンに換えて使用される。別の態様では、プロリンは配列番号18の6位でアラニンに換えて、および配列番号18の9位でグリシンに換えて使用され、かつ/または配列番号18の10位のリシンは非極性側鎖を有するアミノ酸(好ましくはそれぞれバリンおよびアルギニン)に置換される。別の態様では、プロリンが配列番号21の22位でロイシンに換えて使用される。本発明の背景に関するさらなる情報について、以下の参考文献を調べることができ、これらの各々は全部、引用により本明細書に編入する。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
上記開示は本発明を全般的に説明する。より完全な理解は、具体的説明のためにのみ提供され、そして本発明の範囲を限定するものではない以下の具体的実施例を参考にすることにより得ることができる。
【実施例1】
【0051】
ハイブリドーマ細胞中でのドミナントネガティブMMR遺伝子の安定な発現
Nicolaides et al.(Nicolaides et al.(1998)自然に発生するhPMS2突然変異はドミナントネガティブミューテーターの表現型を与えることができる(A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer Dominant Negative Mutator Phenotype)Mol.Cell.Biol.18:1635−1641)により、以前に別のMMRプロフィシェント細胞でのドミナントネガティブ対立遺伝子の発現がこれらの宿主細胞をMMR欠損にできることが示された。MMR欠損細胞の作成は、宿主生物の子孫の全ゲノムを通して遺伝的な改変の生成を導くことができ、改変された特性の生物化学物質を生産することができる遺伝的に改変された子孫または姉妹群を生じる。本出願は抗体生産細胞でのドミナントネガティブMMR遺伝子の使用を教示し、そのような細胞には限定するわけではないがヒトの免疫グロブリン遺伝子産物を生産する齧歯類ハイブリドーマ、ヒトハイブリドーマ、キメラ齧歯類細胞、免疫グロブリン遺伝子を発現するヒト細胞、単鎖抗体を生産する哺乳動物細胞、および哺乳動物の免疫グロブリン遺伝子または単鎖抗体内に含まれるようなキメラ免疫グロブリン分子を生産する原核細胞を含む。抗体を生産するために使用される上記の細胞発現系は、抗体治療薬の分野の当業者には周知である。
【0052】
MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を使用してMMR欠損ハイブリドーマを作成する能力を示すために、我々は最初にヒトIgEタンパク質に対する抗体を生産することが知られているマウスのハイブリドーマ細胞株を、ヒトPMS2(HBPMS2と呼ぶ細胞株)、本明細書でPMS134と呼ぶ以前に公開されたドミナントネガティブPMS2変異体(HB134と呼ぶ細胞株)を含むか、または挿入物が無い(HBvecと呼ぶ細胞株)発現ベクターでトランスフェクトした。結果はPMS134変異体が正に強固なドミナントネガティブ効果を発揮することができ、MMR欠損の生化学的および遺伝的発現(manifestation)をもたらすことを示した。予期しなかったことは、完全長のPMS2もより低いMMR活性を生じたが、空ベクターを含有する細胞には効果は無かったという知見であった。方法の簡単な説明を以下に提供する。
【0053】
MMR能力を有する(proficient)マウスH36ハイブリドーマ細胞株を、種々のhPMS2発現プラスミドに加えてMMR活性を評価するためのレポーター構築物でトランスフェクトした。MMR遺伝子をpEF発現ベクターにクローン化し、またこのベクターはクローニング部位の上流に延長因子プロモーターを、次いで哺乳動物のポリアデニル化シグナルを含む。このベクターは、このプラスミドを保持している細胞の選択を可能にするNEOr遺伝子も含む。簡単に説明すると、細胞は製造元のプロトコール(ライフテクノロジーズ:Life Technologies)に従い、ポリリポソームを使用して1μgの各ベクターでトランスフェクトした。次いで細胞を0.5mg/mlのG418中で10日間選択し、そしてG418耐性細胞を一緒にプールして遺伝子発現に関して分析した。pEF構築物はEF遺伝子のエキソン1をエキソン2から分けるイントロンを含み、これはポリリンカークローニング部位の5’末端に並置されている。これにより迅速な逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)で、スプライス生成物を発現している細胞のスクリーニングができるようになる。17日で100,000個の細胞が単離され、そしてそれらのRNAはすでに記載されたトリゾール法を使用して抽出された(Nicolaides N.C.,Kinzler,K.W.,and Vogelstein,B.(1995)PMS2の5’領域の分析により、異種性の転写産物および新規な重複遺伝子が明らかとなる(Analysis of the 5’region of PMS2 reveals heterogeneous transcripts and a novel overlapping gene)Genomics 29:329−334)。RNAはSuperscriptII(ライフテクノロジーズ)を使用して逆転写され、そしてEF遺伝子(5’−ttt cgc aac ggg ttt gcc g−3’)(配列番号23)のエキソン1に位置するセンスプライマー、および公開されたヒトPMS2のcDNAのnt283で中央に位置するアンチセンスプライマー(5’−gtt tca gag tta agc ctt cg−3’)(配列番号24)を使用してPCR増幅され、これは完全長ならびにPMS134遺伝子発現の両方を検出するだろう。反応は以前に記載されたバッファーおよび条件を使用して(Nicolaides N.C.,et al.,(1995)ヒトPMS2遺伝子ファミリーのゲノム組織化(Genomic organization of the human PMS2 gene family)Genomics 30:195−206)、以下の増幅パラメーターを使用して行った:94℃で30秒間、52℃で2分、72℃で2分間を30サイクル。反応はアガロースゲルで分析した。図1は安定に形質導入されたH36細胞におけるPMS発現の代表例を示す。
【0054】
これらの遺伝子によりコードされるタンパク質の発現は、タンパク質のN−末端に位置する最初の20個のアミノ酸に対するポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロットを介して、以前に記載された手順(Nicolaides,et al.,(1998)自然に発生するhPMS2突然変異は、ドミナントネガティブ変異体の表現型を与えることができる(A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer Dominant Negative Mutator Phenotype)Mol.Cell.Biol.18:1635−1641)(データは示さず)に従い確認された。
【実施例2】
【0055】
hPMS134はハイブリドーマ細胞にMMR活性の欠損および高頻度変異性を引き起こす
MMR欠損の証明は、宿主細胞のゲノム中の不安定なマイクロサテライト反復の生成である。この表現型はマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MI)と呼ばれる(Modrich,P.(1994)ミスマッチ修復、遺伝的安定性およびガン(Mismatch repair genetic stability and cancer)Science 266:1959−1960);Palombo,F.et al.,(1994)ミスマッチ修復およびガン(Mismatch repair and cancer)Nature 36:417)。MIは、宿主細胞の全ゲノムを通した反復的なモノ−、ジ−および/またはトリ−ヌクレオチド反復配列内の欠失および/または挿入からなる。真核細胞の徹底的な遺伝子の分析により、MIを生じることができる生化学的欠損は欠損MMRだけであることが見いだされた(Strand,M.,et al(1993)DNAミスマッチ修復に影響を及ぼす突然変異による酵母の単純な反復的DNA域の脱安定化(Destabilization of tracts of simple repetitive DNA in yeast by mutation affecting DNA mismatch repair)Nature 365:274−276;Perucho,M.(1996)マイクロサテライトミューテーター表現型のガン(Cancer of the microsatellite mutator phenotype)Biol.Chem.377:675−684;Eshleman J.R.,and Markowitz,S.D.(1996)ヒトの発癌現象におけるミスマッチ修復欠損(Mismatch repair defects in human carcinogenesis)Hum.Mol.Genet.5:1489−494)。欠損MMRがMIを促進させるという独自の観点から、これを宿主細胞中のMMR活性の損失を監視するための生化学マーカーとして使用する(Perucho,M.(1996)マイクロサテライトミューテーター表現型のガン(Cancer of the microsatellite mutator phenotype)Biol.Chem.377:675−684;Eshleman J.R.,and Markowitz,S.D.(1996)ヒトの発癌現象におけるミスマッチ修復欠損(Mismatch repair defects in human carcinogenesis)Hum.Mol.Genet.5:1489−494;Liu,T.,et al.(2000)家族性結腸直腸ガンにおけるDNAミスマッチ修復遺伝子中の突然変異の予測因子としてのマイクロサテライト不安定性(Microsatellite instability as a predictor of a mutation in a DNA mismatch repair gene in familial colorectal cancer)Genes Chromosomes Cancer 27:17−25)。
【0056】
真核細胞でMMR欠損を検出するために使用する方法は、フレームシフトによりそのリーディングフレームを破壊するコード領域中に挿入されたポリヌクレオチド反復を有するレポーター遺伝子を採用することである。MMRが欠損している場合、レポーター遺伝子はポリヌクレオチド反復内に無作為の突然変異(すなわち挿入および/または欠失)を獲得し、オープンリーディングフレームを持つレポーターを含むクローンを生じる。我々はHBvec、HBPMS2およびHBPMS134細胞でMMR活性について測定するために、MMR感受性レポーター遺伝子の使用を採用した。レポーター構築物はpCAR−OFを使用し、これはハイグロマイシン耐性(HYG)遺伝子に、そのコード領域の5’末端に29bpのフレーム外ポリ−CA域を含むβガラクトシダーゼ遺伝子を加えて含む。pCAR−OFレポーターはフレーム回復突然変異(すなわち挿入または欠失)がトランスフェクション後に生じなければ、β−ガラクトシダーゼ活性を生じないだろう。HBvec、HBPMS2およびHB134細胞はそれぞれ、実施例1に記載されたプロトコールに従いpCAR−OFベクターを用いて二連反応でトランスフェクトされた。細胞は0.5mg/mlのG418および0.5mg/mlのHYG中で選択され、MMRエフェクターおよびpCAR−OFレポータープラスミドの両方を保持している細胞について選択された。pCARベクターでトランスフェクトされたすべてのカルチャーは、類似した数のHYG/G418耐性細胞を生じた。次いでカルチャーを拡大し、そしてβ−ガラクトシダーゼ活性について、in situならびに細胞抽出物の生化学的分析により試験した。in situ分析について、100,000個の細胞を回収し、そして1%グルタルアルデヒドで固定化し、リン酸緩衝化生理食塩水で洗浄し、そして24ウェルプレート中の1mlのX−gal基質溶液[0.15M NaCl、1mM MgCl、3.3mM KFe(CN)、3.3mM KFe(CN)、0.2%X−Gal]中で37℃にて2時間インキュベーションした。反応は500mMの重炭酸ナトリウム溶液で止め、そして分析のために顕微鏡スライドに移した。MMR不活性化を評価するために、青(β−ガラクトシダーゼ陽性細胞)または白(β−ガラクトシダーゼ陰性細胞)について、各200細胞の3つの視野をカウントした。表1はこれらの実験結果を示す。HBvec細胞にはβ−ガラクトシダーゼ陽性細胞は観察されなかったが、HB134カルチャーでは視野あたり10%の細胞がβ−ガラクトシダーゼ陽性であり、そしてHBPMS2カルチャーでは視野あたり2%の細胞がβ−ガラクトシダーゼ陽性であった。
【0057】
細胞抽出物は上記のカルチャーから調製して、以前に記載されたような生化学アッセイ(Nicolaides et al.(1998)自然に発生するhPMS2突然変異は、ドミナントネガティブミューテーターの表現型を与えることができる(A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer Dominant Negative Mutator Phenotype)Mol.Cell.Biol.18:1635−1641;Nicolaides,N.C,et al.(1992)Junファミリーの員、c−JunおよびJUNDはAp1様要素を介してヒトc−mybプロモーターをトランス活性化する(The Jun family members,c−JUN and JUND,transactivate the human c−myb promoter via an Ap1 like element)J.Biol.Chem. 267:19665−19672)を使用してβ−ガラクトシダーゼを測定した。簡単に説明すると、100,000個の細胞を集め、遠心し、そして200μlの0.25M Tris、pH8.0に再懸濁した。細胞は3回の凍結/解凍により溶解し、そして細胞屑を除くために14,000rpmでのミクロ遠心後に上清を集めた。タンパク質含量はOD280での分光光度的分析により測定した。生化学的アッセイについては、20μgのタンパク質を45mM 2−メルカプトエタノール、1mM MgCl、0.1M NaPOおよび0.6mg/mlクロロフェノールレッド−β−D−ガラクトピラノシド(CPRG、ベーリンガーマンハイム(Boehringer Mannheim)を含有するバッファーに加えた。反応は1時間インキュベーションし、0.5M NaCOを加えることにより終了し、そして576nmで分光法により分析した。H36細胞溶解物はバックグラウンドを引くために使用した。図2は種々の細胞株に由来する抽出物中のβ−ガラクトシダーゼ活性を示す。示したように、HB134細胞が最高量のβ−ガラクトシダーゼを生産し、一方、pCAR−OFを含有するHBvec細胞には活性が見いだされなかった。これらのデータは、ドミナントネガティブMMR遺伝子の対立遺伝子を使用したMMR欠損ハイブリドーマ細胞を作成する能力を示す。
【0058】
表1。pCAR−OFレポーターベクターでトランスフェクトしたHBvec、HBPMS2およびHB134細胞のβ−ガラクトシダーゼ発現。細胞はpCAR−OFβ−ガラクトシダーゼレポータープラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞はハイグロマイシンおよびG418で選択し、拡大し、そしてX−gal溶液で染色してβ−ガラクトシダーゼ活性について測定した(青色に着色された細胞)。各200細胞の3視野を顕微鏡で分析した。以下の結果はこれらの実験の平均+/−標準偏差を表す。
【0059】
【表4】

【実施例3】
【0060】
より高い結合親和性を有する抗体を生産するハイブリドーマクローンおよび/または上昇した免疫グロブリン生産を同定するスクリーニング法
本明細書に提示する方法の応用は、改変された生化学的特性を持つ抗体を生じる免疫グロブリン遺伝子内の遺伝的改変を作成するために、MMR欠損ハイブリドーマまたは他の免疫グロブリン生産細胞の使用である。この応用の具体的説明はこの実施例内に示され、これにより抗−ヒト免疫グロブリン型E(hIgE)MAbを生産するMMR欠損細胞株であるHB134ハイブリドーマ(実施例1を参照にされたい)を20世代成長させ、そしてクローンを96ウェルプレートで単離し、そしてhIgE結合についてスクリーニングした。図3は、タンパク質の軽または重鎖可変領域内の改変によると予想される高親和性MAbを生産するクローンを同定するためのスクリーニング手順を概説する。アッセイにはプレート酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)の使用を採用して、高親和性MAbを生産するクローンをスクリーニングする。HBvecまたはHB134プールに由来する単一細胞を含有する96ウェルプレートを、成長培地(RPMI1640に10%のウシ胎児血清を加えた)に0.5mg/mlのG418を加えて9日間成長させ、クローンが発現ベクターを保持することを確実とする。9日後、プレートはhIgEプレートELISAを使用してスクリーニングし、これにより96ウェルプレートが50μlの1μg/ml hIgE溶液で4℃にて4時間コートされる。プレートはカルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝化生理食塩水(PBS−/−)で3回洗浄し、そして5%の乾燥ミルクを含む100μlのPBS−/−で室温にて1時間ブロックした。ウェルをすすぎ、そして各細胞クローンに由来するコンディショニングした培地の1:5希釈を含有する100μlのPBS溶液と2時間インキュベーションする。次いでプレートはPBS−/−で3回洗浄し、そしてヒツジ抗−マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合した2次抗体の1:3000希釈物を含有する50μlのPBS溶液と室温で1時間インキュベーションする。次いでプレートをPBS−/−で3回洗浄し、そして50μlのTMB−HRP基質(バイオラッド:BioRad)と室温で15分間インキュベーションして、各クローンにより生産された抗体の量を検出する。反応は50μlの500mM 重炭酸ナトリウムを加えることにより止め、そしてバイオラッドのプレートリーダーを使用して415nmでのODにより分析する。次いでバッグラウンドの細胞(H36対照細胞)よりも強いシグナルを現すクローンを単離し、そしてさらに特性決定し、そしてELISAのデータを3連で確認するために10mlのカルチャーに拡大する。ELISAも同じクローンのコンディショニングした培地(CM)で行い、各ウェル中のコンディショニングした培地内の総Ig生産を測定する。次いで上昇したELISAシグナルを生成し、そして上昇した抗体レべルを有するクローンを、さらに実施例4に記載するように抗体を過剰発現し、かつ/または過剰分泌するバリアントについて分析する。HBvecまたはHB134細胞から5枚の各96ウェルプレートの分析で、HBvec対照と比べてより高い光学密度(OD)値を有する有意な数のクローンがMMR欠損HB134細胞で観察されることが分かった。図4は、より高い親和性で特異的抗原(この場合IgE)に結合する抗体を生産するHB134クローンの代表例を示す。図4はHBvec(左のグラフ)またはHB134(右のグラフ)の96ウェルの分析からの生データを提供し、これはHB134プレートからの2つのクローンが、1)IgE抗原に対する上昇した結合を導く抗体可変ドメインの遺伝的改変、または2)抗体分子の過剰生産/分泌を導く細胞宿主の遺伝的改変により、より高いODの読みを有することを示す。抗−IgELISAでは、2つのクローン(図4に示す)がそれらのCM中に、低いOD値を現す周辺ウェルに類似するIgレベルを有することが見いだされた。これらのデータは抗体の抗原結合ドメイン内で起こった遺伝的改変が、次いで抗原に対するより高い結合を可能とすることを示唆している。
【0061】
ELISAにより測定された、より高いOD値を生成するクローンをさらに遺伝子レベルで分析して、より高い結合親和性を導き、故により強いELISAシグナルを生じる軽または重鎖可変領域内の突然変異を確認した。簡単に説明すると100,000個の細胞を回収し、そしてトリアゾール法を使用して上記のようにRNAを抽出する。RNAはSuperscriptIIを使用して製造元(ライフテクノロジーズ)により指示されるように逆転写し、そして可変軽および重鎖内に含まれる抗原結合部位についてPCRで増幅する。これらの遺伝子の不均一性から以下の縮重プライマーを使用して、親のH36株に由来する軽および重鎖対立遺伝子を増幅する。
【0062】
【表5】

【0063】
縮重オリゴヌクレオチドを使用したPCR反応は、94℃で30秒間、52℃で1分間、そして72℃で1分間を35サイクル行う。生成物をアガロースゲルで分析する。予想される分子量の生成物をゲルからGene Clean(Bio101)により精製し、T−テイル化ベクターにクローン化し、そして配列決定して可変軽鎖および重鎖の野生型配列を同定する。いったん野生型配列が決定されれば、非縮重プライマーを陽性HB134クローンのRT−PCR増幅用に作成した。軽および重鎖の両方を増幅し、ゲル精製し、そして対応するセンスおよびアンチセンスプライマーを使用して配列決定した。RT−PCR産物のシークエンシングにより、内因性の免疫グロブリン遺伝子であり、PCRが誘導した突然変異ではない代表的な配列データを与える。次いで配列比較のためにクローンに由来する配列を野生型の配列と比較した。免疫グロブリンの軽または重鎖内のインビボ突然変異を作成する能力の例は図5に示し、ここでHB134クローン92はELISAによりhIgEに対して上昇したシグナルを有することが同定された。軽鎖を特異的なセンスおよびアンチセンスプライマーを使用して増幅した。軽鎖はRT−PCR増幅し、そして生成した産物を精製し、そして自動化ABI377シークエンサーで分析した。クローンAで示されるように、1つの残基(CDR領域3から4上流)がACTからTCTへの遺伝的変化を有し、これはちょうどCRD#3に先行する骨格領域内のThrからSerへの変化をもたした。クローンBでは、1つの残基(CDR領域の6上流)にCCCからCTCへの遺伝的変化を有し、これはCDR#2に先行する骨格領域内にProからHisへの変化をもたらした。
【0064】
免疫グロブリン遺伝子またはキメラ免疫グロブリン遺伝子中に無作為な突然変異を作成する能力は、ハイブリドーマに限らない。Nicolaides et al.(A Nicolaides et al.(1998)自然に発生するhPMS2突然変異は、ドミナントネガティブミューテーターの表現型を与えることができる(A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer Dominant Negative Mutator Phenotype)Mol.Cell.Biol.18:1635−1641)は、以前に高頻度変異性ハムスター細胞を作成し、そして内因性遺伝子内に突然変異を生じる能力を示した。ヒト化抗体を生産する一般的方法は、MAb(齧歯類宿主の免疫感作により生成された)に由来するCDR配列をヒトのIg骨格に移植し、そしてキメラ遺伝子のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞へのトランスフェクションであり、これは次いでCHO細胞により分泌される機能的Abを生産する(Shields,R.L.et al.(1995)アレルゲンに特異的なヒスタミン放出を抑制する抗−IgEモノクローナル抗体(Anti−IgE monoclonal antibodies that inhibit allergen−specific histamine release)Int.Arch.Allergy Immunol.107:412−413)。また本出願に記載する方法は、齧歯類細胞株、植物、酵母および原核細胞のような宿主細胞内でトランスフェクトされたIg遺伝子またはキメラIg内に遺伝的改変を生成するために有用でもある(Frigerio L,et al.(2000)植物におけるハイブリッド免疫グロブリンの集成、分泌および液胞送達(Assembly,secretion,and vacuolar delivery of a hybrid immunoglobulin in plants)Plant Physiol.123:1483−1494)。
【0065】
これらのデータは、限定するわけではないが上昇した抗原結合親和性を含む強化された生化学的特性をもつ抗体を生じる構造的に改変された免疫グロブリンを同定するために成長させ、そして選択することができる高頻度変異性ハイブリドーマ、または他のIg生産宿主細胞を生成する能力を証明する。さらにアミノ酸の変化(1つまたは複数)をもたらす免疫グロブリン遺伝子内のミスセンス突然変異を含む高頻度変異性クローンは、次いでインビボの安定性、抗原の排除、抗原に対するオン−オフ結合等についてさらに特性設定することができる。またクローンは後のインビボ突然変異のためにさらに拡大することができ、そして上に列挙した方法を使用してスクリーニングすることができる。
【0066】
細胞または生物全体に遺伝的突然変異を生じる化学的突然変異原の使用は、これらの作用物質が「正常」な細胞に対して毒性効果を有するので制限されている。MMR欠損生物におけるMNUのような化学的突然変異原の使用はさらに一層耐溶性であり、MMR欠損単独よりも遺伝的突然変異に10〜100倍の上昇を生じる(Bignami M,(2000)キラーの正体を暴く:DNA O(6)−メチルグアニンおよびメチル化剤の細胞傷害性(Unmasking a killer:DNA O(6)−methylguanime and the cytotoxicity of methylating agents)Mutat.Res.462:71−82)。この方法は抗原に対する強化された結合親和性等のような改変された生化学的特性を持つ機能的Abを生じることができる免疫グロブリン遺伝子またはキメラ内にさらなる突然変異を増すための方法として、MMR欠損Ab生産細胞で使用すべき化学的な突然変異原としての使用を可能とする。
【実施例4】
【0067】
強化された抗体生産を有する抗体生産細胞の作成
上に列挙したスクリーニング法後のH36およびHB134に由来するクローンの分析により、強化された量の抗体を培地に生産する有意な数のクローンが同定された。これらクローンのサブセットは、可変領域中に含まれる抗原結合ドメイン内の突然変異の結果として、ELISAにより測定されるような、より高いIg結合データを与えたが、その他は「強化された」抗体生産を含むことが分かった。強化された量の分泌MAbを生産するクローンのまとめを表2に示し、ここでH134細胞に由来する有意な数のクローンがH36対照細胞と比べた時に、コンディショニングした培地内に強化されたAb生産を生じることが分かった。
表2.高レベルの抗体を生産するハイブリドーマの生成。HB134クローンは上昇したIgレベルについてELISAによりアッセイした。480個のクローンの分析により、有意な数のクローンがそれらのCM中に上昇したMAb生産レベルを有したことが示された。定量により、これらのクローンの幾つかは、H36細胞株に由来するクローンと比べて、強化された発現および/または分泌のいずれかにより500ng/mlより多いMAbを生産した。
【0068】
【表6】

【0069】
コンディショニングした培地(CM)内で、より高いMAbレベルを有するHB134クローンの細胞分析は、生産の増加が単に抗体を形成するポリペプチドの過剰発現を導くことができるIg座での遺伝的改変によるものか、または分泌経路のメカニズムに影響を及ぼす遺伝的改変による強化された分泌であるのかを決定するために分析した。この問題に取り組むために、我々はそれらのCM中に上昇したレベルの抗体を有する3個のHB134クローンを拡大した。10,000個の細胞をウエスタンブロット分析用に調製し、それらの細胞内の定常状態のIgタンパク質レベルをアッセイした(図6)。加えてH36細胞を標準参照として使用し(レーン2)、そして齧歯類繊維芽細胞(レーン1)をIg陰性対照として使用した。簡単に説明すると、細胞を遠心によりペレット化し、そして300μlのSDS溶解バッファー(60mM Tris、pH6.8、2%SDS、10%グリセロール、0.1M 2−メルカプトエタノール、0.001%ブロモフェノールブルー)中で直接溶解し、そして5分間煮沸した。ライセートのタンパク質は、Ig重鎖を分析するために4〜12%NuPAGEゲルでの電気泳動により分離した。ゲルは、48mM Tris塩基、40mM グリシン、0.0375%SDS、20%メタノール中でImmobilon−P(ミリポア:Millipore)上にエレクトロブロットし、そして室温で1時間、Tris緩衝化塩溶液(TBS)に0.05%Tween−20および5%コンデンスミルクを加えた中でブロッキングした。フィルターは1:10,000倍に希釈したヒツジ抗−マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ結合モノクローナル抗体でTBSバッファー中にて釣り上げ、そしてSupersignal基質(ピアス:Pierce)を使用して化学発光により検出した。実験は2連で繰り返して再現性を確保した。図6は、クローンのサブセットが増加したAb生産の原因である強化されたIg生産を有する一方(レーン5)、他は対照サンプルに類似する定常状態のレベルを有したが、それでもCM中のAbレベルは高かったことを示す代表的分析を表す。これらのデータは、HB134クローンのサブセットが遺伝的改変を含み、これが次いで上昇したレベルの抗体分泌を生じるメカニズムを示唆する。
【0070】
細胞または生物全体に遺伝的突然変異を生じるための化学的突然変異原の使用は、これらの作用物質が「正常」細胞に及ぼす毒性効果により制限されている。MMR欠損生物でのMNUのような化学的突然変異原の使用はさらに一層耐溶性であり、MMR欠損単独よりも遺伝的突然変異に10〜100倍の上昇を生じる(Bignami M,(2000)キラーの正体を暴く:DNA O(6)−メチルグアニンおよびメチル化試薬の細胞傷害性(Unmasking a killer:DNA O(6)−methylguanine and the cytotoxicity of methylating agents)Mutat.Res.462:71−82)。この方法は抗原に対する強化された結合親和性等のような改変された生化学的特性を持つ機能的Abを生じることができる免疫グロブリン遺伝子またはキメラ内にさらなる突然変異を増すための方法として、MMR欠損Ab生産細胞で使用すべき化学的な突然変異原としての使用を可能とする。
【実施例5】
【0071】
新規生産量の形質を持つハイブリドーマ細胞における遺伝的安定性の樹立
MMRの最初の段階はMutSαおよびMutLαと呼ばれる2つのタンパク質複合体に依存する(Nicolaides et al.(1998)自然に発生するhPMS2突然変異は、ドミナントネガティブミューテーターの表現型を与えることができる(Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer Dominant Negative Mutator Phenotype)Mol.Cell.Biol.18:1635−1641)。ドミナントネガティブMMR対立遺伝子は、ヌクレオチドの切り出しおよび「正しい」ヌクレオチドを含んでなる重合に関与する下流の生化学物質による、これら複合体の形成を乱すことができる。本出願からの実施例では、ハイブリドーマ細胞株で発現した時に、短縮化MMR対立遺伝子(PMS134)ならびに完全長のヒトPMS2がMMRを遮断することができ、細胞分裂毎にそのゲノム全体を通して遺伝的改変を獲得する高頻度変異性細胞株を生じる能力を示す。いったん抗体、単鎖抗体、免疫グロブリン遺伝子の過剰発現および/または抗体の強化された分泌をコードする遺伝子内に遺伝的改変を含む細胞株が生産されれば、細胞宿主のゲノムの完全性を保存することが望ましい。これは誘導性ベクターの使用により達成することができ、これによりドミナントネガティブMMR遺伝子がそのようなベクターにクローン化され、Ab生産細胞に導入され、そして細胞がインデューサー分子および/または条件の存在下で培養される。誘導性ベクターには限定するわけではないが、ステロイド誘導性MMTVのような化学物質で調節されるプロモーター、テトラサイクリンで調節されるプロモーター、温度感受性MMR遺伝子の対立遺伝子および温度感受性プロモーターを含む。
【0072】
上記の結果は幾つかの結論を導く。第1にhPMS2およびPMS134の発現は、ハイブリドーマ細胞のマイクロサテライト不安定性の上昇をもたらす。すなわちMMR欠損性によるこの上昇したマイクロサテライト不安定性は、安定に形質導入された細胞に由来する抽出物の評価により示された。PMS134の発現はMMRに極性の欠損(polar defect)をもたらし、これは5’方向からの修復を試験するために設計したヘテロ二重鎖を使用して観察されてだけであった(同じ抽出物中で3’方向からの修復に有意な欠損は観察されなかった)(Nicolaides et al.(1998)自然に発生するhPMS2突然変異は、ドミナントネガティブミューテーターの表現型を与えることができる(Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer Dominant Negative Mutator Phenotype)Mol.Cell.Biol.18:1635−1641)。興味深いことには、hMLH1が欠損している細胞もMMRに極性の欠損を有するが、しかしこの場合、3’方向からの修復に優先的に影響を及ぼす(Drummond,J.T,et al.(1996)シスプラチンおよびアドリアマイシン耐性は、卵巣腫瘍細胞株でのMutLaおよびミスマッチ修復欠損に関連する(Cisplatin and adriamycin resistance are associated with MutLa and mismatch repair deficiency in an ovarian tumor cell line)J.Biol.Chem.271:9645−19648)。以前の実験から原核および真核細胞の両方で、別個の酵素的成分が2つの異なる方向からの修復を媒介することが知られている。Drummond,et al.の結果(Shields,R.L.et al.(1995)アレルゲンに特異的なヒスタミン放出を抑制する抗−IgEモノクローナル抗体(Anti−IgE monoclonal antibodies that inhibit allergen−specific histamine release)Int.Arch.Allergy Immunol.107:412−413)と組み合わせた我々の結果は、5’修復は主にhPMS2に依存しているのに対し、3’修復は主にhMLH1に依存していることを強く示唆する。PMS2とMLH1との間の二量体複合体がこの方向性をどのように設定するのかは容易に構想される。また合わせた結果は、MMRにおける方向性の欠損がMMR欠損表現型を生成するに十分であることも示し、そして任意のMMR遺伝子の対立遺伝子が遺伝的に改変されたハイブリドーマ細胞、またはIg遺伝子産物を生産する細胞株を生成するために有用であることを示唆する。さらにそのようなMMR対立遺伝子の使用は、改変された生化学的特性を持つ遺伝的に改変されたIgポリペプチド、ならびに抗体分子の強化された量を生産する宿主細胞を作成するために有用となる。
【0073】
本出願で教示する別の方法は、MMRを遮断するために使用される任意の方法を、限定するわけではないが上昇した抗原結合、強化された薬物動態学的プロフィール等のような強化された生化学的特徴を持つ遺伝的に改変された抗体を導くことができる抗体生産細胞に、高頻度変異性を作成するために行うことができる。これらの方法はまた、図4、図6に示すような上昇したIg発現、かつ/または表2に示すような上昇した抗体分泌を有する抗体生産細胞を作成するためにも使用することができる。
【0074】
加えて、我々は限定するわけではないが上昇した抗原結合親和性のような改変された生化学的特徴を導くことができるIg遺伝子内の遺伝的改変を増すために、抗体生産細胞中のMMRを遮断する用途を証明する(図5Aおよび5B)。そのような細胞におけるMMRの遮断は、細菌、酵母、原生生物、昆虫、齧歯類、霊長類、哺乳動物細胞およびヒトを含む任意の種に由来するドミナントネガティブMMR遺伝子の対立遺伝子の使用を介することができる。またMMRの遮断は、MMRの生化学的経路に関与する任意の遺伝子に対するアンチセンスRNAまたはデオキシヌクレオチドの使用を介して生成することができる。またMMRの遮断は、限定するわけではないが抗体を含むMMR複合体のサブユニットを妨害するポリペプチドの使用を介することができる。最後に、MMRの遮断は限定するわけではないがMMRを遮断することが示された非加水分解性ATP類似体のような化学物質の使用を介してもよい(Galio,L.et al.(1999)MutSおよびMutLを用いた力学的な3個からなる核タンパク質複合体のATP加水分解依存的形成(ATP hydrolysis−dependent formation of a dynamic ternary nucleoprotein complex with MutS and MutL)Nucl.Acids Res.27:2325−23231)。
【実施例6】
【0075】
高親和性抗体を生産する変異体H36細胞株の遺伝子配列の分析
H36変異体細胞株により生産される抗体の軽および重鎖の核酸配列を、親のクローンと比べて抗体の上昇した親和性に貢献する免疫グロブリンコード配列内の突然変異について調査した。結果を表3に示す。このデータは重および軽鎖可変ドメインの両方で、プロリン置換が抗原に対する抗体の親和性を上げる一因であることを示す。特定のホットスポットは、HB91−47、HB134DRMA13およびHBDRMA55について、元のアラニンをプロリンへ変えるアミノ酸置換が起こった配列番号6のアミノ酸6位で現れる。これらの3つのクローンは9および10位にも突然変異を有した。9位では、親のバリンがグリシンまたはアルギニンに変わり、一方、配列番号6の10位では、親のアルギニンがリシンに両方の場合で変わった。
【0076】
【表7】

【0077】
遺伝的に改変された抗体は、以下の配列の差異およびコンセンサス配列を示す:
形態形成HB91−47重鎖(配列番号17)、親のH36重鎖(配列番号18)およびコンセンサス重鎖配列(配列番号19)のアミノ酸の整列
【0078】
【表8】

【0079】
形態形成HB91−37軽鎖(配列番号20)、親のH36軽鎖(配列番号21)およびコンセンサス軽鎖配列(配列番号22)のアミノ酸の整列
【0080】
【表9】

【0081】
軽鎖についてデータは、配列番号21の22位での軽鎖の第2骨格領域(FR2)中のプロリンへの置換が、抗体の結合親和性を上昇させたことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】PMS2およびPMS134MMR遺伝子を安定して発現するハイブリドーマ細胞。示すのは、マウスのハイブリドーマ細胞にトランスフェクトされたMMR遺伝子の定常状態のmRNA発現である。安定な発現は連続成長の3カ月後に見いだされた。(−)レーンは逆転写酵素が加えられなかった陰性対照を表し、そして(+)レーンは逆転写され、そしてMMR遺伝子についてPCR増幅されたサンプル、および対照として内部ハウスキーピング遺伝子を表す。
【図2】遺伝的に高頻度変異性のハイブリドーマ細胞の作成。ドミナントネガティブMMR遺伝子の対立遺伝子は、MMR感受性レポーター遺伝子を発現する細胞中に発現された。PMS134のようなドミナントネガティブ対立遺伝子および他の種に由来するMMR遺伝子の発現は、強化された生化学的特徴を持つ遺伝的に改変された免疫グロブリン遺伝子、ならびに上昇したIg発現および/または分泌を持つ株を生産するために使用することができる高頻度変異性の表現型をもつ抗体生産細胞をもたらす。示した値は、pCAR−OFレポーター遺伝子内の遺伝的改変から、細胞内に含まれる機能的なβ−ガラクトシダーゼの量を反映する転換されたCPRG基質の量を表す。より高量のβ−ガラクトシダーゼ活性は、欠損MMRによる、より高い突然変異の率を反映している。
【図3】上昇した結合活性および/または上昇した発現/分泌を有する抗体を含有する抗体生産細胞を同定するためのスクリーニング法。
【図4】上昇した結合活性を持つ遺伝的に改変された抗体の作成。示すのは、hIgEに特異的な抗体についてスクリーニングした96ウェルプレートからのELISAの値である。高い結合値を有する2つのクローンがHB134カルチャーで見いだされた。
【図5】抗体の可変鎖内の配列改変(MMR欠損HB134抗体生産細胞における軽鎖可変領域中の突然変異)。矢印は、突然変異がHB134細胞に由来するクローンからの細胞サブセットで発生したヌクレオチドを指す。図5Aでは、変化は軽鎖可変領域内のThrからSerへの変化をもたらす。コード配列はアンチセンス方向である。図5Bでは、変化は軽鎖可変領域内のProからHisへの変化をもたらす。
【図6】強化された定常状態のIgタンパク質レベルを持つMMR欠損クローンの生成。コンディシニングした培地中に高レベルのMAb(>500ng/ml)を含むHB134クローンからの重鎖免疫グロブリンのウエスタンブロットは、クローンのサブセットがより高い定常状態レベルの免疫グロブリン(Ig)を発現することを示す。H36細胞株は、親株における定常状態レベルを測定するために対照として使用した。レーン1:繊維芽細胞(陰性対照);レーン2:H36細胞;レーン3:上昇したMAbレベルを持つHB134クローン;レーン4:上昇したMAbレベルを持つHB134クローン;レーン5:上昇したMAbレベルを持つHB134クローン。
【配列表】






























【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクローナル抗体の重または軽鎖可変ドメイン内のアミノ酸を、非極性側鎖を有する第2のアミノ酸に置換し、これにより抗原に対する該モノクローナル抗体の親和性を上げることを含んでなる、抗原に対するモノクローナル抗体の親和性を上げる方法。
【請求項2】
上記の第2のアミノ酸がプロリンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記モノクローナル抗体の重または軽鎖可変ドメイン内の上記アミノ酸が非極性側鎖を有するアミノ酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記アミノ酸がアラニンまたはロイシンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記アミノ酸が上記モノクローナル抗体の重鎖の第1骨格領域にある、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
上記アミノ酸が上記モノクローナル抗体の軽鎖の第2骨格領域にある、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
上記アミノ酸が配列番号18に示す第1骨格領域の6位にある、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
上記アミノ酸が配列番号21に示す軽鎖可変ドメインの第2骨格領域の22位にある、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
モノクローナル抗体の重または軽鎖可変ドメイン内の非極性側鎖を含んでなるアミノ酸をプロリンに置換し、これにより抗原に対する該モノクローナル抗体の親和性を上げることを含んでなる、抗原に対するモノクローナル抗体の親和性を上げる方法。
【請求項10】
上記アミノ酸がアラニンまたはロイシンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記アミノ酸が上記モノクローナル抗体の重鎖の第1骨格領域にある、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
上記アミノ酸が上記モノクローナル抗体の軽鎖の第2骨格領域にある、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
上記アミノ酸が配列番号18に示す第1骨格領域の6位にある、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
上記アミノ酸が配列番号21に示す軽鎖可変ドメインの第2骨格領域の22位にある、請求項10に記載の方法。。
【請求項15】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14に記載の方法により生産されるモノクローナル抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−503035(P2006−503035A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−536226(P2004−536226)
【出願日】平成15年9月12日(2003.9.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/028722
【国際公開番号】WO2004/024871
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(503166643)モーフオテク・インコーポレーテツド (4)
【出願人】(505094065)
【出願人】(505094076)
【Fターム(参考)】