抗体依存性細胞障害活性を増強させた抗体、その調製法および使用法
本発明は、1つには、ADCC活性が増強された抗体に関する。そのような抗体の産生法についても記載する。本発明に従う抗体は、乳汁中に抗体を発現および分泌するように操作された、ヒト以外のトランスジェニック動物などの乳房上皮細胞内で産生される。抗体または抗体を含む組成物を用い、ADCC活性が効果を発揮するような疾病を治療できる。したがって、ひとつの実施形態では、抗体または抗体を含む組成物を用いて、癌、リンパ増殖性疾患もしくは自己免疫疾患を治療できる。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、米国特許法35U.S.C.§119に基づき、2005年10月21日に受理された米国特許仮出願第60/729054号の優先権を主張する。該出願のすべての内容を参照することにより本明細書に援用する。
【政府からの援助】
【0002】
本発明は、米国国立癌研究所(National Cancer Institute )のSBIR補助金番号5R43CA107608-02の資金援助によってなされたものである。従って、米国政府は本発明について相当の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、抗体依存性細胞障害(ADCC)活性を増強させた抗体、その産生法、さらに使用法に関する。
【背景技術】
【0004】
モノクローナル抗体は、疾病治療方法における重要な手段である。例えば、ADCCは、抗癌性抗体の有効性に関する主要因子である。ADCCを媒介する主レセプターはFcγIIIa(CD16)レセプターであり、これは、ナチュラルキラー(NK)細胞上に発現されるIgGに対する親和性の低いレセプターである。このレセプターを欠くマウスでは、リツキシマブに対する抗腫瘍応答が極端に低い(非特許文献1)。FcγIIIaレセプターは、マウスにおいて腫瘍細胞障害を媒介する作用を有する(非特許文献2)。FcγIIIaレセプターをコードしているFCG3A遺伝子の多型(該遺伝子は、158番の位置のフェニルアラニンの代わりにバリンを有する)は、より強固にIgGに結合し、NK細胞に対してより強力なADCC活性を付与する(非特許文献3)。FCGR3A遺伝子に関するこの遺伝子型FCGR3A-158V/Vは、非ホジキンリンパ腫(非特許文献4)、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(非特許文献5)、および自己免疫疾患全身性エリテマトーデス(SLE)(非特許文献6)において、リツキシマブに対する患者の応答を高める効果を有する。該多型は、クローン病において、別の抗体であるインフリキシマブに対する生物学的応答が向上することにも関連している(非特許文献7)。これらの知見は、ヒトにおけるモノクローナル抗体の治療効果に対して、ADCCが重要な役割を果たしていることを示すものである。故に、治療抗体の能力を向上させてADCC活性を促進することは、潜在的な治療価値を高めることになる。
【0005】
ヒト抗体は2つのグリコシル化部位を有し、同一重鎖のぞれぞれにひとつ存在する。グリコシル化および糖質処理に対する阻害剤を用いた初期の実験では、阻害を受けたハイブリドーマクローン内で産生された抗体において、ADCC活性が増強されることが見出された(ロスマン(Rothman)、1989)。更なる研究により、抗体のグリコシル化の状態および抗体のADCC活性は、抗体が産生される細胞系によって影響を受けることが示された(ライフリー(Lifely)、1995)。いくつかの研究グループは、重鎖グリコシル化上の1,6−フコースを欠く抗体は、FcγRIIIレセプターへの結合親和性が増強され、ADCC活性が増していることを示している(シールズ(Shields)ら、2002;シンカワ(Shinkawa)ら、2002)。さらに、FcγRIIIレセプターへの結合親和性とADCC活性との間には相関関係が確立されている(オカザキ(Okazaki)ら、2004;ダロッツォ(Dall'Ozzo)、2004)。
【0006】
α−1,6−フコースの転位を触媒する「FUT8」(α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ)が欠損した細胞系が生成されている。これらのノックアウト細胞を用い、ADCC活性がより高い抗体を産生できる。例えば、FUT8欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が確立されている(ヤマネ−オオヌキ(Yamane-Ohnuki)ら、2004)。低分子干渉RNA(siRNA)を用いてFUT8遺伝子の発現を阻止することもできる(モリ(Mori)ら、2004)。ラットの細胞系を用いてADCC活性を向上させた抗体が作出されている(ニワ(Niwa)ら、2004, 2005)。活性が高いことに加え、フコース含量が少ないIgG1はFcγRIII多型とは無関係であることから、野生型細胞においてトラスツズマブまたはリツキシマブに対して観察されたような差異は存在しない(ニワ(Niwa)ら、2004b,Vol.10,Clin..Canc.Res.)。
【非特許文献1】クリネス(Clynes)ら、2000,Nat.Med.,6:443-446
【非特許文献2】クリネス(Clynes)ら、1998,PNAS,95:652-656
【非特許文献3】ヴ(Wu)ら、1997,J.Clin.Invest.,100:1059-1070
【非特許文献4】カートロン(Cartron)ら、2002,Blood,99:754-758
【非特許文献5】トレオン(Treon)ら、2005,J.Clin.Oncol.,23:474-481
【非特許文献6】アノリック(Anolik)ら、2003,Arthritis Rheum.,48,455-459
【非特許文献7】ルイス(Louis)ら、2004,A.Phar.Ther.,19:511-519
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗体は多様な発現系の中で予め産生されているにもかかわらず、ほ乳類乳房上皮細胞内(例えば、乳汁中に抗体を分泌するように操作されたトランスジェニック動物のほ乳類乳房上皮細胞内など)で産生されたADCC活性が増強された抗体はこれまで認識されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ほ乳類の乳房上皮細胞内で産生された抗体は、細胞培養由来の材料と比較して、ADCC活性が増強されており、CD16への結合が高められていることが見出されている。このとき、該乳房上皮細胞は、乳汁中に抗体を分泌するように操作されたトランスジェニック動物のそれなどである。乳汁由来の抗体のグリコシル化の研究により、乳汁由来の抗体はフコースの含量が低いことが明らかになった。故に、本発明は、抗体およびそれらの組成物を提供する。提供された抗体は、ほ乳類乳房上皮細胞内で産生されたものである。本発明は、抗体の産生法ならびにそれらの使用法も提供する。
【0009】
ADCC活性が増強された抗体は、ほ乳類乳房上皮細胞内で発現させることによって産生される。ひとつの実施形態においては、ほ乳類乳房上皮細胞は、乳汁中に抗体を分泌するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類のそれである。別の実施形態においては、ほ乳類乳房上皮細胞は、抗体に対する配列をコードしており、かつ、乳房上皮細胞内で抗体の発現を起こさせることができる核酸(例えば、DNAなど)コンストラクトをトランスフェクトした培養細胞である。
【0010】
故に、本発明の1つの態様では、抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強されている、乳房上皮細胞由来の抗体を含む組成物を提供する。本発明の別の態様では、乳汁由来の抗体を含む組成物が提供され、このとき、該乳汁由来の抗体は、抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強されている。1つの実施形態においては、抗体のADCC活性は、細胞培養由来の抗体のADCC活性の少なくとも2倍である。別の実施形態では、抗体のADCC活性は、細胞培養由来の抗体のADCC活性の少なくとも3倍、4倍、5倍、7倍または10倍である。1つの実施形態では、乳汁由来の抗体が得られる乳汁は、抗体を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類由来である。
【0011】
本発明の1つの態様に従えば、IgG1抗体のFc領域の結合は、Fc領域内のAsn297グリコシル化部位への結合が観察されているコアフコースが抗体に欠如している場合に増強される(例えば、二本アンテナ(biannetennary)構造の基部に結合したフコースなど)。いくつかの態様において、本発明に従う抗体には、このコアフコースが欠けている。別の態様においては、乳汁中に産生されたモノクローナル抗体は、高マンノース型かつハイブリッド構造を有するものが多数を占める。一般的に、本発明に従う抗体は、FcRIIIレセプターへより強固に結合でき、その結果、ADCC活性を増強することができる。
【0012】
本発明の別の態様においては、抗体は、本明細書に示されるグリコシル化パターンを有するように修飾され、その結果、ADCC活性が増強される。修飾の結果、抗体が産生され、本明細書に示しているように、ほ乳類乳房上皮細胞内に抗体が発現される。
【0013】
提供される組成物中の抗体は、グリコシル化に関して、均一でも不均一でもよい。
【0014】
ひとつの実施形態では、抗体の少なくともひとつの鎖は、フコースを含まないように修飾されている。別の実施形態では、抗体のひとつの鎖がフコースを含まないように修飾されている。さらに別の実施形態では、抗体の少なくともひとつの鎖のフコースが1,6−フコースを含んでいない。別の実施形態では、抗体のひとつもしくは少なくともひとつの鎖はフコースを含まないように修飾されているが、該抗体は、オリゴマンノースまたはさらにオリゴマンノースを含むように修飾されている。オリゴマンノースを含む鎖は、フコースを含まない鎖と同一でありうるが、必ずしも同一である必要はない。別の実施形態では、抗体のアミノ酸配列が修飾されており、ほ乳類乳房上皮細胞内で発現される。ひとつの実施形態では、抗体のアミノ酸配列が修飾されている。別の実施形態では、抗CD-137抗体などの抗体のアミノ酸配列は、Asn297のアミノ酸が置換されている。更なる実施形態では、該置換は、フコシル化されないであろうアミノ酸との間で行われる。別の実施形態では、Asn297はGlnと置換される。
【0015】
別の実施形態では、提供される抗体は、1つのオリゴマンノースを含むように、または更なるオリゴマンノースを含むように修飾されている。別の実施形態では、抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体が修飾されている。別の実施形態では、抗体の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体が修飾されている。更なる実施形態では、抗体のひとつまたは少なくともひとつの鎖上において、50%、40%、30%、20%、10%またはそれ未満の抗体しかフコースを含有しないように修飾されている。また更なる実施形態では、抗体の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように、かつ、抗体のひとつまたは少なくともひとつの鎖上において、50%、40%、30%、20%、10%またはそれ未満の抗体しかフコースを含有しないように修飾されている。
別の実施形態では、抗体の糖質が修飾され、高マンノース型グリコシル化パターンを示す。さらに別の実施形態では、抗体の少なくともひとつの鎖がオリゴマンノースを含有し、かつ、フコシル化されないように抗体が修飾されている。また別の実施形態では、抗体の主要糖質がフコシル化されていないように抗体が修飾されている。ひとつの実施形態では、抗体の主要な糖質は、非フコシル化オリゴマンノースである。別の実施形態では、主要糖質は、フコシル化されていないMan5である。また別の実施形態では、抗体の糖質のうちでフコースを含むものは40%未満であるように修飾されている。さらに別の実施形態では、抗体の糖質のうちでフコースを含むものは30%、20%、10%またはそれ未満であるように修飾されている。 ひとつの実施形態では、フコースは1,6−フコースである。別の実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも60%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、かつ、抗体の糖質のうちでフコースを含むものが40%未満であるように抗体が修飾されている。更なる実施形態では、抗体の糖質のうちの63%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、抗体の糖質のうちの16%がコアフコース含有G1Fであり、さらに、抗体の糖質のうちの21%がコアフコース含有G2Fであるように抗体が修飾されている。
【0016】
本発明の別の態様においては、ADCC活性が増強された抗体は、事実上、本明細書に従う方法によって修飾されたのではないが、上記グリコシル化パターンの用途で選択された抗体である。
【0017】
ひとつの実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。別の実施形態では、抗体はポリクローナル抗体である。更なる実施形態では、抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体である。また別の実施形態では、抗体は全長抗体である。さらに別の実施形態では、全長抗体は重鎖および軽鎖を有する。更なる実施形態では、抗体は抗体フラグメントである。また更なる実施形態では、抗体フラグメントはFc融合ポリペプチドの一部である。
【0018】
本発明の別の態様においては、抗体は、N−結合オリゴ糖類を有するFc領域を含む、導入遺伝子のDNAコンストラクトによってコードされている。ひとつの実施形態では、抗体は、ヒト以外のトランスジェニック動物の乳汁中に産生される。さらに別の実施形態では、抗体は、本明細書に記載しているようなグリコシル化パターンを有する。
【0019】
ひとつの実施形態では、抗体はアイソタイプIgG、IgAまたはIgDからなる。更なる実施形態では、抗体はアイソタイプIgGである。別の実施形態では、抗体は、アイソタイプIgG1またはIgG2からなる。更なる実施形態では、抗体は抗体フラグメントである。本発明の別の態様では、特性(例えば、ADCC特性など)が改良された本発明にかかるヒト化型抗体が提供される。
【0020】
抗体は任意の抗原に対するものを使用できる。ひとつの実施形態では、抗体は、CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137、またはGPIIbIIIaに対するものである。別の実施形態では、抗体は、HM1.24、HLA-DR、MUC1、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2に対するものである。ひとつの実施形態では、抗体は抗CD137抗体である。
【0021】
本明細書に記載されている任意の組成物および方法においては、抗体は抗CD137抗体である。
【0022】
ひとつの実施形態では、提供される抗体を含む組成物は、さらに、医薬品として許容される担体を含むことができる。別の実施形態では、提供される組成物は、さらに治療薬を含むことができる。ひとつの実施形態では、追加の治療薬は抗癌剤または免疫調節剤である。
【0023】
本発明に従ういくつかの実施形態には、医薬品組成物が含まれ、そのような組成物には、目的のトランスジェニックタンパク質、それらのプロドラッグ、または、そのような化合物もしくはそれらのプロドラッグの医薬品として許容される塩類、ならびに、医薬品として許容されるビヒクル、希釈剤もしくは担体が含まれることは、注目すべきである。
【0024】
提供された組成物は、多数の治療法に使用できる。本発明の1つの態様では、治療法が提供され、この方法には、本発明によって提供される組成物を必要とする対象に、本課題となるADCCを増強させるのに有効な量の該組成物を投与することを含む。本発明の別の態様においては、治療法が提供され、この方法には、対象が罹病している、または発症の危険性がある疾病の治療に有効な量の組成物を対象に投与することを含む。ひとつの実施形態では、疾病は癌である。本発明に従う抗体が提供する有益な治療効果についての特異的な指標としては、いくつかの実施形態における、充実性腫瘍、メラノーマ、ならびに、胸部、結腸、卵巣、腎臓、前立腺および肺の悪性腫瘍の治療が挙げられる。抗体が効果的な免疫調節治療を提供することから、限定はされていないが、治療は有効であろうと考えられる。
【0025】
故に、特異的な標的としては、抗CD3抗体(例えば、非ホジキン病リンパ腫;自己免疫疾患−SLEなど)、抗CD6抗体(例えば、FcRIIIなど)、抗CD19抗体(例えば、非ホジキン病リンパ腫など)、抗CD20抗体、抗CD32B抗体(例えば、FcRIIBおよびアレルギーなど)、抗CD30抗体(例えば、ホジキン病など)、抗GPIIbIIIa(例えば、血栓症など)、抗TNF-α(例えば、リウマチ性関節炎およびクローン病に対するものなど)、腫瘍内皮マーカーに対する抗TEM抗体(例えば、血管形成の制御に対するもの、抗癌剤など)などが挙げられる。
【0026】
別の実施形態では、疾病は、リンパ増殖性疾患である。更なる実施形態では、疾病は自己免疫疾患である。別の実施形態では、本発明に従うADCC抗体は、自己免疫疾患性の脳脊髄炎、全身性エリテマトーデス、ならびに抗CD137抗体の投与によって症状が改善されるようなその他の疾病状態に対して有効である。
【0027】
ひとつの実施形態では、対象に投与する抗体量は、約0.01mg/kg/日〜約50mg/kg/日である。
【0028】
別の実施形態では、対象に、さらに追加の治療薬を投与する。ひとつの実施形態では、追加の治療薬は抗癌剤である。別の実施形態では、追加の治療薬は免疫調節剤である。ひとつの実施形態では、該免疫調節剤は、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-α、またはそれらの組み合わせである。別の実施形態では、対象にさらにIL-2を投与する。別の実施形態では、対象にさらにIL-12を投与する。更なる実施形態では、対象にさらに抗癌剤および免疫調節剤を投与する。ひとつの実施形態では、対象にさらに免疫調節剤およびトラスツズマブを投与する。さらに別の実施形態では、対象に、さらに、IL-21およびトラスツズマブを投与する。ひとつの実施形態では、乳房上皮細胞由来の抗CD137抗体は、IL-21およびトラスツズマブと組み合わせて使用する。別の実施形態では、抗CD137抗体は、コアフコースを欠いた、高マンノース型抗体である。故に、いくつかの実施形態では、抗体は、充実性腫瘍の収縮およびそれらの再発阻止に効果的な免疫調節剤と併用する。別の実施形態では、抗体は、IL-21、IL-12および/またはトラスツズマブと併用する。
【0029】
対象は、ADCC活性が所望される任意の対象である。ひとつの実施形態では、対象はヒトである。別の実施形態では、対象は、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギまたは霊長類である。
【0030】
本発明は、抗体を修飾することにより、ADCC活性が増強された抗体を産生する方法についても提供する。これらの方法は、ほ乳類乳房上皮細胞内で抗体を産生させることにより、抗体のグリコシル化を修飾することを含む。ひとつの実施形態では、ほ乳類乳房上皮細胞は、ヒト以外のほ乳類由来であって、乳汁中に抗体を発現するように操作された細胞である。さらに別の実施形態では、ほ乳類乳房上皮細胞は、培養液中のほ乳類乳房上皮細胞である。
【0031】
本発明の1つの態様では、トランスジェニック抗体、ならびにそれらの変異体およびフラグメントの産生法を提供し、その工程は、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中にトランスジェニック抗体を発現させることを含み、このとき、該抗体は、核酸コンストラクトによってコードされている。ひとつの実施形態では、本発明に従う抗体の産生法は、
(a)所望するトランスジェニック抗体をコードしている導入遺伝子DNAコンストラクトを用い、ヒト以外のほ乳類細胞にトランスフェクトし;
(b)前記導入遺伝子DNAコンストラクトがゲノム内に挿入されている細胞を選択し;さらに、
(c)1回目の核転移操作を行い、所望するトランスジェニック抗体のヘテロ接合体を作出し、それが乳汁中に発現できる、
各工程を含む。
【0032】
別の実施形態では、本方法は、
(a)抗体を発現するように操作されたヒト以外のトランスジェニックほ乳類を提供し、
(b)ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中に前記抗体を発現させ;さらに、
(c)前記乳汁中に発現された前記抗体を単離する、
各工程を含む。
【0033】
別の実施形態では、本方法は、さらに、乳汁分泌を誘導する工程、および/または、得られた抗体のADCC活性を測定するする工程を含む。さらに別の実施形態では、本方法は、追加の単離および/または精製工程をも含む。また別の実施形態では、本方法は、さらに、得られた抗体のADCC活性を、細胞培養において産生された抗体と比較する工程を含む。更なる実施形態では、本方法は、得られた抗体のADCC活性を、乳房以外の上皮細胞によって産生された抗体と比較する工程を含む。こういった細胞は、細胞培養による細胞であってよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、抗体は、本明細書に従って作出されたトランスジェニック動物の乳汁、またはそのようなトランスジェニック動物の子孫から、抗体を回収することによって得られる。
【0035】
いくつかの実施形態では、所望する抗体(または抗体融合ポリペプチド)をコードしているコンストラクトは、少なくとも1つのβ−カゼインプロモーターによって稼働する。別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類は有蹄類である。さらに別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類はヤギである。
【0036】
いくつかの実施形態では、トランスジェニックほ乳類によって産生された抗体の濃度は、乳汁1Lあたり少なくとも1gである。
【0037】
別の態様においては、本明細書が提供する方法による抗体のグリコシル化の修飾を含めた、抗体のADCC活性の増強法を提供する。ひとつの実施形態では、抗体は、少なくとも1本の鎖がフコースを含まないように修飾される。別の実施形態では、抗体は、1本の鎖がフコースを含まないように修飾される。さらに別の実施形態では、抗体は、オリゴマンノースもしくは追加のオリゴマンノースを含むように修飾される。
【0038】
さらに別の実施形態では、抗体の糖質が高マンノース型グリコシル化パターンを示すように抗体が修飾される。ひとつの実施形態では、抗体は、少なくとも1本の鎖がオリゴマンノースを含有し、かつ、フコシル化されていないように修飾される。別の実施形態では、抗体は、1本の鎖がオリゴマンノースを含有し、かつ、フコシル化されていないように修飾される。更なる実施形態では、抗体は、その主要糖質がフコシル化されていないように修飾される。ひとつの実施形態では、主要糖質は、フコシル化されていないオリゴマンノースである。別の実施形態では、主要糖質は、フコシル化されていないMan5である。また更なる実施形態では、抗体は、フコースを含有する糖質が40%未満になるように修飾する。ひとつの実施形態では、抗体は、フコースを含有する糖質が30%、20%、10%もしくはそれ以下になるように修飾する。さらに別の実施形態では、抗体のうちの少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体を修飾する。ひとつの実施形態では、抗体のうちの少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が、少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体を修飾する。さらに別の実施形態では、抗体のうちの少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有し、かつ、抗体の1本もしくは少なくとも1本の鎖上にフコースを含むものが50%、40%、30%、20%、10%もしくはそれ未満であるように抗体を修飾する。別の実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも60%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、フコースを含有している糖質が40%未満であるように抗体を修飾する。さらなる実施形態では、抗体の糖質のうちの63%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、抗体の糖質のうちの16%がコアフコース含有G1Fであり、さらに、抗体の糖質のうちの21%がコアフコース含有G2Fであるように抗体が修飾される。
【0039】
本発明のさらに別の態様においては、抗体の産生法を提供し、その方法は、乳汁中に抗体を発現するように操作されたヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁から抗体を回収し、該抗体のADCC活性を測定する工程を含む。ひとつの実施形態では、本方法は、回収された抗体のADCC活性を細胞培養において発現された抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含む。別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類は、ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、リャマである。
本発明の別の態様においては、抗体の産生法が提供され、これは、抗体を発現するように操作された乳房上皮細胞から抗体を回収し、該抗体のADCC活性を測定する工程を含む。ひとつの実施形態では、回収抗体のADCC活性を、乳房以外の上皮細胞内で発現させた抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含む。
【0040】
本発明の更なる態様では、本発明が提供する方法に従って抗体を得、さらに、該抗体のADCC活性を別の抗体群のそれと比較する工程を有してなる方法を提供する。ひとつの実施形態では、別の抗体群とは、細胞培養によって得られた抗体である。別の実施形態では、別の抗体群とは、乳房以外の上皮細胞の培養によって得られた抗体である。さらなる実施形態では、別の抗体群とは、乳房上皮細胞の培養によって得られた抗体である。さらに別の実施形態では、別の抗体群とは、体液もしくは組織から得られた抗体である。また更なる実施形態では、別の抗体群とは、ほ乳類の乳汁から得られた抗体である。ひとつの実施形態では、ほ乳類は、乳汁中に別の抗体群を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類である。
【0041】
本発明の範囲のそれぞれには、本発明に従う多様な実施の形態が含まれる。故に、任意のひとつの要素もしくは要素の組み合わせを含む本発明の範囲のそれぞれは、本発明の各態様に包含されることが予定されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
トランスジェニック動物の乳汁中に産生された抗体は、インビトロでの細胞培養を介して産生された組換え抗体と比較して、ADCC活性が増強されていることがわかっている。ADCC活性が増強された抗体のグリコシル化パターンも評価されている。本発明は、乳房上皮細胞内で産生された抗体を含む組成物、ならびにそれらの調製法および使用法を提供する。
【0043】
本発明の1つの態様においては、抗体はADCC活性が増強されている。本明細書において使用している「増強されたADCC活性」とは、グリコシル化パターンを改変する方法によって産生された場合に、グリコシル化パターンを改変しない方法によって産生された場合よりも、または、本発明に従ってグリコシル化パターンの改変が行われる前に保持していたADCC活性のレベルよりも高いADCC活性を示すような抗体またはそれらの組成物をさす。ADCC活性が増強された抗体には、改変前にはADCC活性を全く示さなかったものも含まれる。本明細書において使用している「グリコシル化パターン」とは、個々の抗体上もしくは抗体群上に存在する糖質群をさす。グリコシル化パターンの変化は、1つの抗体もしくは抗体群のグリコシル化を改変することによって実施できる。抗体組成物のグリコシル化パターンの変化には、個々の抗体、組成物中の抗体のサブセット、または、組成物中のすべての抗体のグリコシル化を変化させる事例を包含することが意図されている。グリコシル化パターンは、当分野において既知の多数の方法によって確認できる。例えば、タンパク質上の糖質の分析法については、米国特許出願第11/107982号および同第11/244826号の各明細書に記載されている。タンパク質上の糖質の分析法を、参照することにより本明細書中に援用する。
【0044】
グリコシル化は、正しい折りたたみ、標的化、生物活性および治療用糖タンパク質のクリアランスにとって重要である。例えば、発現系としてトランスジェニック動物を開発する場合、当然ながら、遺伝的背景が異なることにより、産生されたタンパク質の発現およびグリコシル化濃度が異なったものが得られる。ヤギ乳汁から単離された導入遺伝子に由来するタンパク質のグリコシル化は、細胞培養から得られたタンパク質のそれとは異なっている(デンマン(Denman)ら、1991)。導入遺伝子によって産生されたヒトアンチトロンビンでは、グリコシル化パターンは部位依存的である。フコシル化、シアリル化オリゴ糖はAsn96およびAsn192に見出されるが、Asn155はオリゴマンノースオリゴ糖を有する(エドムンズ(Edmunds)ら、1998)。部位依存的グリコシル化は、マウス乳汁中に産生されるγ−インターフェロンにおいても見出されている(ジェームス(James)ら、1995)。
【0045】
グリコシル化は翻訳後修飾であり、天然においては、タンパク質に多様な最終形態をもたらすことができる。IgG分子は、Fc領域内のCH2ドメインのAsn297残基がグリコシル化されている。糖質構造内におけるある種の改変によっても抗体の作用または治療効果に影響を与えることができる。例えば、リウマチ性関節炎などの疾病においては、非ガラクトシル化構造の存在頻度が正常よりも高い(これは、IgGのFc関連糖質に特異的である)ことが報告されている(パレカー(Parekh)ら、1985;ラデマッハー(Rademacher)ら、1988a)。この非グリコシル化構造は、この領域内に通常存在する構造よりも可動性であり、従って、抗体の免疫原性に関与している糖タンパク質の四次構造に変化をもたらすことができ、あるいは、それ自身が抗体の異常作用に関与する(ラデマッハー(Rademachaer)ら、1988b;アックスフォード(Axford)ら、1992)。しかしながら、疾病状態においては、この構造は、観察される多数の糖型のひとつに過ぎない。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明に従う抗体は、乳房以外の上皮細胞培養由来の抗体よりもADCC活性が少なくとも2倍以上高い。別の実施形態では、抗体のグリコシル化は本発明に従う方法によって修飾され、その修飾された抗体のADCC活性は、修飾されていない同一の抗体よりも少なくとも2倍以上高い。いくつかの実施形態では、抗体は、少なくとも、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、25倍、または30倍以上高いADCC活性を有する。抗体は、ほ乳類の乳房上皮細胞内での発現によって得られたものである。こういった抗体もまた、本明細書では乳房上皮細胞に由来する抗体と称する。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト以外のトランスジェニック動物の乳汁中へ発現されることによって得られたものである。本明細書においては、こういった抗体もまた、「乳汁由来の抗体」と称する。本明細書において使用している「トランスジェニック」とは、ある細胞もしくはその前世代に技術的に挿入され、かつ、該細胞から発達した動物のゲノムの一部となっているような核酸分子を有する細胞をさす。また、細胞もしくはゲノム内に技術的に挿入された核酸分子を有する動物に対しても用いられる。
【0047】
一般的に、いくつかの実施形態では、グリコシル化は高マンノース型グリコシル化パターンを示す。本明細書において使用している「高マンノース型グリコシル化パターン」とは、少なくとも1つのオリゴマンノースを含む抗体または抗体組成物をさし、このとき、抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含む。いくつかの実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上がオリゴマンノースである。いくつかの実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が非フコシル化オリゴマンノースである。別の実施形態では、抗体の糖質のうち、フコースの含有率は50%、40%、30%、20%、10%、5%もしくはそれ未満である。さらに別の実施形態では、抗体はフコースが少量であり、かつ、オリゴマンノースを多量に含む。故に、更なる実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上がオリゴマンノースであり、かつ、フコースの含有率は50%、40%、30%、20%、10%、5%もしくはそれ未満である。故に、さらに別の実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が非フコシル化オリゴマンノースであり、かつ、フコースの含有率は50%、40%、30%、20%、10%、5%もしくはそれ未満である。本発明ひとつの実施形態は、重鎖上に1,6-フコース糖を有さない、ADCC活性が増強された抗体に関する。ひとつの実施形態では、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞上に見出されるFcγRIIIレセプターへの抗体Fc領域の結合は、抗体のFc領域のAsn297グリコシル化部位に結合するコアフコース(例えば、二本アンテナ構造の基部に結合するフコースなど)が欠如している場合に増強される。
【0048】
特異的なグリコシル化パターンを有するその他の抗体については、実施例中に記載している。本明細書においては、抗体を含む組成物について論じる場合には、該組成物は、グリコシル化パターンについて均一でも不均一でもよい。
【0049】
抗体は、例えば、疾病の進行過程および/またはADCCに関与しているレセプターまたはタンパク質への結合能に関して選択して差し支えない。抗体は、任意の細胞マーカーを対象とすることができ、該細胞マーカーは、抗体を導き、かつ、ADCC活性を有していることから、治療に有益であろう。抗体としては、腫瘍細胞マーカーなどの標的抗原に結合可能なものが含まれる。細胞マーカーおよび本明細書に含まれる疾病の例としては次のようなものが挙げられる:CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137またはGPIIbIIIaなど。いくつかの実施形態では、抗体はHM1.24、HLA-DR、MUCI、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2などを対象とする。その他の標的としては次のようなものが挙げられる:抗CD3抗体(例えば、非ホジキンリンパ腫、自己免疫疾患−SLEなど)、抗CD16抗体(例えば、FcRIIIなど)、抗CD19(例えば、非ホジキンリンパ腫)、抗CD20、抗CD32B抗体(例えば、FcRIIBおよびアレルギーなど)、抗CD30(例えば、ホジキン病など)、抗GPIIbIIIa(例えば、血栓症など)、抗TNF-α(例えば、リウマチ性関節炎およびクローン病に対するものなど)、腫瘍内皮マーカーに対する抗TEM抗体(例えば、脈管形成の制御−抗癌に対するものなど)など。本発明に従う抗体は、一度腫瘍細胞マーカーに結合すると、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞を利用して腫瘍細胞を攻撃できる。故に、ADCC活性が増強された抗体は、充実性腫瘍の縮小およびそれらの再発防止に効果的な免疫調節剤であると考えることができる。
【0050】
より広範な研究においては、天然のリガンドまたはアゴニスト抗体を用いてCD137を刺激することにより、抗腫瘍効果が増強され、その結果、多数のモデルにおいて、確立されたマウス腫瘍が退縮したことが示されている。CD137(4-1BBとも称される)は、膜糖タンパク質であり、数種のリンパ性細胞で発現される。マウスCD137に対するアゴニスト性モノクローナル抗体は、インビボでマウス腫瘍を退縮させ、その再発を防止することが報告されている。天然のリガンドまたはアゴニスト抗体を用いてCD137を刺激することにより、腫瘍反応性エフェクターT細胞の刺激および調節NK活性の増強を介し、インビボでの抗腫瘍免疫応答が強化される。抗マウスCD137モノクローナル抗体を全身投与することにより、それ単独もしくはその他の治療手段と組み合わせることによってマウスの大きな腫瘍を完全に抑制することができ、そのような腫瘍としては、免疫原性に乏しいAGF104A肉腫および高腫瘍形成性P815肥満細胞腫、ならびに、EL4胸腺腫、K1735メラノーマ、B10.2および87肉腫、RENCA腎腫、J558プラズマ細胞腫、MCA205肉腫、JC乳癌、MCA26結腸癌およびGL261グリオーマなどが挙げられる。
【0051】
本発明のひとつの実施形態では、抗CD137抗体は、ゲノム性「ミニ遺伝子」として、トランスジェニックマウスおよびヤギの数種の系統の乳汁中でクローニングおよび発現させることができる。この遺伝子の発現は、ヤギβ−カゼイン調節要素の調節下で行われる。マウスおよびヤギにおいて、抗体変異体が実質的に発現されることが確立されている。ひとつの実施形態では、本発明は、ADCC活性が増強され、従って治療特性が高められている抗CD137抗体を提供する。本発明に従い、また、本発明の実施例に従うトランスジェニック動物によって産生された抗CD137抗体を使用することにより、非ヒト:ヒトキメラモノクローナル抗体(すなわち、マウス:ヒト)アゴニスト抗CD137が開発された。抗CD137抗体をヒト化することにより、免疫治療を受けている患者、またはその他の指標としての用途が広がることが期待される。観察されたアミノ酸配列の同一性に基づき、VLおよびVH領域の相補性決定領域(CDRs)をヒト抗DNA関連イディオタイプ免疫グロブリンクローン上に移植した。本発明に従う組換えキメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体と比較した場合に、同様の生物活性特性を示すことが、拮抗ELISA法において観察された。アッセイを行った場合、抗CD137抗体は、抗体依存性細胞障害および補体を介した細胞毒性の媒介において効果的であった。本発明に従う抗体配列のヒト化により、所望しない任意のヒト抗マウス抗体応答が排除され、従って、ヒトへの繰り返しi.v.投与が可能になることが期待される。
【0052】
本明細書で使用している「抗体」とは、少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖がジスルフィド結合によって繋がっている糖タンパク質をさすが、これはすなわち、別異の遺伝子によってコードされている2本の同一のIgH鎖および2本の同一のL鎖を有する共有結合性ヘテロ四量体である。重鎖はそれぞれ、重鎖可変領域(本明細書においては、HCVRまたはVHと略する)および重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3からなる。軽鎖はそれぞれ、軽鎖可変領域(本明細書においては、LCVRまたはVLと略する)および軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、ひとつのドメインCLからなる。VHおよびVL領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された散在する領域に分けられる。VHおよびVLは、それぞれ、3つのCDRsおよび4つのFRsを有しており、それらは、アミノ末端からカルボキシ末端方向に次のような順番で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、宿主組織もしくは因子への免疫グロブリンの結合を媒介するが、そのような組織もしくは因子としては、免疫系の多様な細胞(例えば、エフェクター細胞など)および古典的な補体系の第1要素(C1q)などが挙げられる。成熟した機能性抗体分子の形成は、2つのタンパク質が、化学量論的量で、および適切な立体配置を有する自己組織で発現された場合に達成することができる。
【0053】
抗体という用語は、それらの抗原結合性フラグメントを包含することを意図している。本明細書で用いられるように、抗体の「抗原結合性フラグメント」とは、抗原への特異的結合能を保持しているひとつもしくはそれ以上の抗体の部分をさす。抗体の抗原結合性作用は、全長抗体のフラグメントによって行われうることが示されている。抗体の「抗原結合性フラグメント」に包含される結合性フラグメントの例としては次のようなものが挙げられる:(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインを含む一価のフラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド結合によって連結された2個のFabフラグメントを有する二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインを有するFdフラグメント;(iv)抗体のひとつの腕を構成しているVLおよびVHドメインを有するFvフラグメント;(v)VHドメインを有するdAbフラグメント(ワード(Ward)ら、(1989)Nature,341:544-546);および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVおよびVHドメインが別異の遺伝子によってコードされている場合であっても、合成リンカーを用い、組換え手法によってそれらを連結でき、ここで、そのような合成リンカーは、VLおよびVH領域を対にして一価の分子を形成することにより、それらを一本のタンパク質鎖にすることができる(一本鎖Fv(scFv)として知られている)(例えば、バード(Bird)ら、(1988) Science, 242:423-426;ヒューストン(Huston)ら、(1988) Proc.Natl. Acad.Sci.USA, 85:5879-5883などを参照)。そのような一本鎖抗体も抗体の「抗原結合性部分」に包含される。これらの抗体フラグメントは、タンパク質分解によるフラグメント化法(J.ゴーディング(Goding)、「モノクローナル抗体:原理および実際(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice)」、pp98-118(N.Y.アカデミック・プレス(N.Y. Academic Press)社、1983年):記載内容を参照として本明細書に取り入れておく)および当分野において既知のその他の技術などの従来から実施されている方法によって得ることができる。フラグメントは、インタクト抗体と同様の方法で用途に応じてスクリーニングされる。
【0054】
好ましい抗原結合性フラグメントとしては、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメントおよびFvフラグメントCDR3などが挙げられる。ひとつの実施形態では、抗体フラグメントはFc融合ポリペプチドの一部である。一例として、抗体フラグメントは、N−連結オリゴ糖を含むFc領域である。
【0055】
本明細書において使用している「単離された抗体」とは、抗原特異性の異なる別の抗体を実質的に含まない抗体をさす。しかしながら、抗原のエピトープ、アイソフォームまたは変異体に特異的に結合する単離された抗体は、別の種に由来するなどの他の関連抗原に対する交差反応性を有していて構わない。さらに、単離された抗体は、他の細胞性材料および/または化学物質を実質的に含まない。本明細書では、「特異的結合」とは、予め定められた抗原に結合する抗体をさす。一般的には、抗体は、予め定められた抗原または近縁の抗原以外の非特異的抗原への結合に対する親和性よりも少なくとも2倍以上強い親和性で結合する。故に、本明細書において提供される抗体は、いくつかの実施形態において、標的抗原に特異的に結合する。
【0056】
いくつかの実施形態では、抗体は、アイソタイプIgG、IgAまたはIgDである。更なる実施形態では、抗体は次からなる群より選択される:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、IgE、あるいは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgDもしくはIgEの免疫グロブリン定常および/または可変ドメインを有するもの。別の実施形態では、抗体は、二重特異性または多重特異性抗体である。さらに別の実施形態では、抗体は、組換え抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、またはそれらの混合物である。いくつかの実施形態では、キメラ抗体は、ヒト以外(例えば、マウス、ラット、ウサギなど)の抗体の一部にヒト抗体の一部を遺伝子操作によって融合させたものである。いくつかの実施形態では、キメラ抗体は、約33%の非ヒトタンパク質および67%のヒトタンパク質を含む。特にマウスキメラに関しては、マウス抗体の特異性にヒト抗体の効率的なヒト免疫系相互作用を組み合わせられることから、マウス抗体によって誘起されるHAMA応答を減弱させるように開発できる。
【0057】
別の実施形態では、抗体は組換え抗体である。本明細書において使用している「組換え抗体」とは、組換え手法によって調製され、発現され、作出され、または単離された抗体を含み、そのような抗体としては、例えば、別の種の免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物から単離された抗体;宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現された抗体;組み換え体、組換え抗体ライブラリーから単離された抗体;または、別のDNA配列に免疫グロブリン遺伝子配列をスプライシングすることを含む任意の別の手法によって調製、発現、作出もしくは単離された抗体などが挙げられる。
【0058】
また別の実施形態では、抗体は、キメラまたはヒト化抗体である。本明細書において使用している「キメラ抗体」とは、マウスの可変もしくは超可変領域に、ヒト定常領域、または定常および可変フレームワーク領域を組み合わせた抗体をさす。本明細書において使用している「ヒト化抗体」とは、ヒトフレームワーク領域と連結している親抗体由来の抗原結合性CDRsのみを保持している抗体である(ワルドマン(Waldmann)、1991, Science, 252:1657を参照)。マウス抗体の結合特異性を保持しているそのようなキメラまたはヒト化抗体は、本発明に従う診断、予防または治療用途のためにインビボで投与した場合に、免疫原性の低下が期待される。
【0059】
本発明の別の実施形態では、抗体は、ADCC活性が増強されたヒト化抗体である。ひとつの実施形態では、この抗体はCD137である。ヒト化(リシェイピング(reshaping)またはCDR移植とも称する)は、異種(例えば、マウスなど)を起源とするモノクローナル抗体の免疫原性を低減させるための確立された技術である。ヒト化抗体は、標準的な分子生物学の技術によって作出できる。ひとつの実施形態では、該方法は、齧歯類の相補性決定領域(CDRs)をヒトフレームワークに移植することを含む。しかしながら、この技術は大部分が繰り返し過程であり、ヒト化抗体を設計する場合には、CDRsの長さ、ヒトフレームワーク、および齧歯類mAbからヒトフレームワーク領域への残基の置換(復帰突然変異)など、多数の要素が絡んでくる。
【0060】
治療用マウスmAbsは、現時点ではヒトへの使用に関して理想的ではない。なぜならば、HAMA(ヒト抗マウス抗体)応答が抗体を中和し、かつ、循環からそれを迅速に除去し、最悪の事態においては、重篤なアレルギー性過敏症を誘起するからである。マウスIg配列の大部分をヒト配列に置換し、有効性を保持しながらほとんど副作用がない、いくつかの方法が開発されている。ヒト治療用のmAbの開発のためのひとつの方法は、マウスの重鎖(H)および軽鎖(L)定常領域(それぞれ、CHおよびCLと表す)もしくは遺伝子的にヒト以外の鎖をヒト領域と置換することにより、ヒト以外の部分として残るであろう抗原結合性ドメインを除く大部分がヒトIgGタンパク質配列を含むキメラ抗体を得ることである。この方法は、非ホジキンリンパ腫の治療用として、アメリカ合衆国において最初に承認されたモノクローナル抗体であるRituxan(登録商標)(リツキシマブ抗ヒトCD20、ジェネンテック(Genentech)社製)の開発に使用された。概算すると、ヒトCHおよびCL配列を有する治療用mAbを提供するためには、マウス抗体タンパク質の免疫原性の約90%を除去しなければならない。
【0061】
本発明の1つの態様に従えば、非ヒト:ヒトキメラモノクローナル抗体(すなわち、マウス:ヒト)抗CD137抗体が提供される。マウス抗体のVLおよびVH領域の相補性決定領域(CDRs)をヒト抗DNA関連イディオタイプ免疫グロブリンクローンに移植した。拮抗ELISA法により、本発明に従う組換えキメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体と比較した場合に、同等の生物活性を示した。抗CD137抗体は、抗体依存性細胞障害(ADCC)および補体を介した細胞毒性の媒介に有効であった。
【0062】
別の実施形態に従えば、本発明に従うモノクローナル抗体を修飾することにより、二重特異性抗体または多重特異性抗体を形成できる。「二重特異性抗体」とは、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質もしくはペプチドの複合体などの任意の物質を含み、それらは、(a)細胞表面抗原および(b)エフェクター細胞の表面上のFcレセプターに結合する、または相互作用するような、2つの別異の結合特異性を有する。「多重特異性抗体」とは、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質もしくはペプチドの複合体などの任意の薬剤を含み、それらは、(a)細胞表面抗原、(b)エフェクター細胞の表面上のFcレセプター、および(c)少なくともひとつの別の要素に結合する、または相互作用するような、2つ以上の別異の結合特異性を有する。従って、本発明は次のようなものを含むがこれらに限定されるわけではない:二重特異性、三重特異性、四重特異性およびその他の多特異性抗体であって、細胞表面抗原およびエフェクター細胞上のFcレセプターに結合するものなど。「二重特異性抗体」にはダイアボディも含まれる。ダイアボディは二価の二重特異性抗体であり、VHおよびVLドメインは一本のポリペプチド鎖上に発現されるが、リンカーは、同一鎖上の2つのドメインを対にするには短すぎるものを用い、それらのドメインを別の鎖上の相補的ドメインと対にすることにより、2つの抗原結合部位を創出しているものである(例えば、ホリガー(Holliger),P.ら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448;ポイヤック(Poijak),R.J.ら、(1994)Structure,2:1121-1123などを参照)。
【0063】
ある実施形態では、抗体はヒト抗体である。本明細書において使用している「ヒト抗体」とは、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体をさす。本発明に従うヒト抗体としては、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異、または、インビボでの体細胞性突然変異によって誘導された突然変異など)を含む。しかしながら、本明細書において使用している「ヒト抗体」には、マウスなどの別のほ乳類種の生殖細胞系由来のCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植された抗体(本明細書においては、「ヒト化抗体」と称する)は含まない。ヒト抗体は、マウス免疫系ではなく、ヒト免疫系の一部を有するトランスジェニックマウスを用いて作出する。
【0064】
完全なヒトモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖位の大部分に関してトランスジェニックであるマウスを免疫することによっても調製できる。例えば、米国特許第5,591,669号、同第5,598,369号、同第5,545,806号、同第5,545,807号、同第6,150,584号の各明細書およびそれらに引用されている参考文献などを参照。それらの内容を参照することにより本明細書中に援用する。これらの動物は、内因性(例えば、マウスなど)の抗体の産生が機能的に欠損しているように遺伝子が修飾されている。そのような動物は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子の部位のすべてもしくは一部を有するようにさらに修飾されており、その結果、これらの動物を免疫すると、目的の抗原に対する完全ヒト抗体が産生される。これらのマウス(例えば、XenoMouse(Abgenix)、HuMAbマウス(Medarex/ジェンファーム(GenPharm)社)など)を免疫した後、標準的なハイブリドーマ技術に従ってモノクローナル抗体を調製する。これらのモノクローナル抗体はヒト免疫グロブリンアミノ酸配列を有することから、ヒトに投与した場合に、ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を引き起こさない。本明細書において提供される任意の抗体と同様に、ヒト抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体との混合物である。
【0065】
いくつかの実施形態では、抗体は全長抗体である。いくつかの実施形態では、全長抗体は重鎖および軽鎖を有する。
【0066】
ポリクローナル抗体の調達方法は周知である。例えば、最初に、免疫前血清を得るために採血したニュージーランド白色ウサギに抗原を皮下注射することによって抗体を産生させる。抗原は、通常、1回もしくはそれ以上の調製をしながら、6カ所の別異の部位にそれぞれ総量として100μlを注射できる。初回投与の2週間後に採血を行い、その後6週間毎に3回にわたって同一抗原を周期的にブースター投与する。各ブースター投与の10日後に血清サンプルを採取する。好ましくは、抗体を捕獲する抗原を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、血清からポリクローナル抗体を回収する。ポリクローナル抗体を産生させるための本方法およびその他の方法については、E.ハーロウ(Harlow)ら編、「抗体:実験室マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual)」(1988)に開示されており、その内容を参照することにより本明細書中に援用する。
【0067】
モノクローナル抗体産生のためには、マウスに複数回の接種を行い(上記を参照)、脾臓を摘出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁する。脾臓はリンパ球の供給源であり、そのうちのいくらかは適切な特異性を有する抗体を産生する。次に、これらの細胞を永久に増殖するミエローマパートナー細胞と融合させ、融合生成物は、HATなどの選択剤の存在下、多数の組織培養ウェルに分けて入れる。次に、ELISA法によってウェルをスクリーニングし、有用な抗体を産生する細胞を含むウェルを確認する。これらの細胞を新たなプレートに移す。一定の増殖期間の後、これらのウェルをスクリーニングして抗体産性細胞を確認する。抗体産生に対して陽性である単一クローンを含むウェルが90%以上になるまで、クローニング過程を繰り返し行う。この過程により、抗体を産生するクローンの安定な系が確立される。その後、プロテインAセファローズ(Sepharose)を用いたアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ならびにこれらの技術のバリエーションおよび組合せを用いてモノクローナル抗体を精製できる(例えば、米国特許第6,998,467号明細書などを参照)。
【0068】
mAb生成物の開発のための別の方法としては、生来のマウスIg範囲のすべてをヒトIg遺伝子と置換したトランスジェニックマウス内で抗体を産生させる方法がある。そのようなマウスは完全なヒト抗体タンパク質を産生する。このようにしてキメラヒト化抗体または完全ヒト抗体が産生されるが、これらはいずれも本発明の実施形態である。これらの抗体はどちらもエフェクター作用を有し、癌および癌様損傷の治療に有用である。本発明のキメラ抗体の実施形態では、元のマウス可変(抗体結合性)配列が残っていることから、その結合および機能的特性が保持されているはずである。
【0069】
本明細書の別の部分で示しているように、抗体はグリコシル化パターンを有しており、それによって抗体のADCC活性が提供され、または増強される。本発明は、ADCC活性が増強された抗体を作出するためのすべての方法を包含する。ひとつの実施形態では、本方法は、完全ヒトモノクローナル抗体の作出を含む。別の実施形態では、本方法は、トランスジェニックマウスまたはヒト以外のその他の動物の使用を含み、そのような動物は、抗体遺伝子がヒト遺伝子に置換されており、目的の抗原を用いた免疫に応答して「ヒト化」抗体を産生する。さらに別の実施形態では、ファージディスプレイをバクテリオファージの操作に用いて、表面上に完全ヒトモノクローナル抗体を呈示させる。上記の任意の方法によって生成された抗体を用いてトランスジェニック動物を作出できる。ひとつの実施形態では、トランスジェニック動物のゲノム内に、抗体をコードしているDNAコンストラクトを組み込ませることによって行なわれる。
【0070】
本発明の1つの態様は、マウスおよびヤギを含むトランスジェニック動物内で産生される乳汁に関し、該乳汁は、大量のオリゴマンノース含有抗体を含む。これらのオリゴマンノース含有抗体は、ADCC特性が増強されており、かつ、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞の標的レセプターに対する格好の標的としての作用を有する。本明細書に記載されている抗体を組換えによって産生するための方法が提供され、このとき、該抗体はほ乳類の乳房上皮細胞内で産生される。この過程は細胞培養で実施できる。また、トランスジェニック動物の乳汁中に抗体を発現させることによっても実施できる。
【0071】
ひとつの実施形態では、ほ乳類の乳房上皮細胞を操作し、マウスもしくはヤギなどのトランスジェニック動物の乳汁中に抗体を発現させる。この遺伝子の発現は、例えば、ヤギβ−カゼイン調節要素の制御下などで行う。マウスおよびヤギにおける抗体の実質的な発現については確立されている。トランスジェニック動物は、HおよびL鎖を有する別異のコンストラクト、または、両鎖を有するひとつのコンストラクトを共導入することによって作出できる。ある実施形態では、2つの導入遺伝子が同一の染色体部位に組み込まれることにより、遺伝子が一緒に子孫に伝達され、タンパク質の発現が同時に制御される。いくつかの実施形態では、発現は、乳タンパク質を産生する乳管の上皮細胞のそれぞれに対して最適化されている。動物としては、例えば、ヤギおよびウシなどの酪農動物またはマウスなどを用いることができる。
【0072】
例えば、核移植によってトランスジェニックヤギを作出するために使用するコンストラクト(例えば、キメラ抗ヒトCD137をコードしているものなど)を含む一次細胞系を確立することを目的として、重鎖および軽鎖コンストラクトをヤギ皮膚上皮一次細胞にトランスフェクトするが、そのような細胞は、クローニングによって拡張され、さらに、十分に特性付けを行い、導入遺伝子のコピー数、導入遺伝子の構造的組み込み度合いおよび染色体への組み込み部位に関する評価がなされている。本明細書において使用している「核移植」とは、ドナー細胞由来の核を核除去卵母細胞に移植するクローニング法をさす。
【0073】
目的のタンパク質に対するコード配列は、選択した動物(ウシまたはマウスなど)由来のゲノム性材料もしくは逆翻訳メッセンジャーRNAのライブラリーをスクリーニングすることにより、NCBI、BenBankなどの配列データベースより、あるいは、抗体の配列を入手するなどによって得られる。配列は、適切なプラスミドベクターにクローニングし、適切な宿主生体(例えば、大腸菌(E.coli)など)内で増殖させることができる。ベクターの増殖後、DNAコンストラクトを切り出し、残存ベクターから精製し、さらに、トランスジェニック動物の作出に使用できる発現ベクター内に導入する。トランスジェニック動物は、 それらのゲノム内に組み込まれた所望のトランスジェニックタンパク質を有するであろう。
【0074】
ベクターの増殖後、DNAコンストラクトを適切な5'および3'制御配列と共に切り出し、残存ベクターから精製し、さらに、該コンストラクトを用いてトランスジェニック動物を作出するが、このとき、該トランスジェニック動物のゲノムには、所望する非グリコシル化に関連するトランスジェニックタンパク質が組み込まれている。逆に、酵母人工染色体(YACs)などのいくつかのベクターを用いた場合には、組織化されたコンストラクトをベクターから除去する必要はない。そのような場合には、増殖させたベクターを用いて直接トランスジェニック動物を作出できる。コード配列は、制御配列に機能発揮できるように連結されており、それによって、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中にコード配列が発現される。
【0075】
トランスジェニック動物の乳汁中への産生を行わせるのに適したDNA配列は、生来の乳タンパク質由来の5'−プロモーター領域を有する。このプロモーターは、同時に、ホルモンおよび組織特異的因子の制御下にあり、乳汁を分泌する乳房組織内で最も活性化する。いくつかの実施形態では、プロモーターはヤギβ−カゼインプロモーターである。このプロモーターは、タンパク質リーダー配列の産生を指示するDNA配列に機能発揮できるように連結されており、このとき、該タンパク質リーダー配列は、トランスジェニックタンパク質を乳房上皮細胞から乳汁中に分泌させる。いくつかの実施形態では、天然に分泌された乳タンパク質由来である3'−配列を加えて、mRNAの安定性を高めることができる。
【0076】
本明細書では、「リーダー配列」または「シグナル配列」は、タンパク質分泌シグナルをコードしている核酸配列であり、トランスジェニックタンパク質をコードしている下流の核酸分子に対して機能発揮できるように連結された場合に、分泌を促す。リーダー配列は、生来のヒトリーダー配列、人工的に作出したリーダー配列を用いることができ、あるいは、導入遺伝子がコードされている配列の転写開始に使用したプロモーターと同一の遺伝子から、または、ほ乳類の乳房上皮細胞などの細胞から通常分泌される別のタンパク質から得られる。
【0077】
いくつかの実施形態では、プロモーターは乳汁特異的プロモーターである。本明細書では、「乳汁特異的プロモーター」とは、乳汁中にタンパク質を分泌する細胞(例えば、乳房上皮細胞など)内の遺伝子の発現を促すプロモーターであり、例えば次のようなものが挙げられる:カゼインプロモーター類、例えば、α−カゼインプロモーター(例えば、αS-1カゼインプロモーターおよびαS-2カゼインプロモーターなど)、β−カゼインプロモーター(例えば、ヤギβ−カゼイン遺伝子プロモーター(ディ・テュリオ(Di Tullio)、BIOTECHNOLOGY,10:74-77,1992)など)、γ−カゼインプロモーター、κ−カゼインプロモーターなど;ホエイ酸性タンパク質(WAP)プロモーター(ゴートン(Gorton)ら、BIOTECHNOLOGY,5:1183-1187,1987);β−ラクトグロブリンプロモーター(クラーク(Clark)ら、BIOTECHNOLOGY,7:487-492,1989)およびα−ラクトアルブミンプロモーター(ソウリエール(Soulier)ら、FEBS LETTS.297:13,1992)など。この定義には、乳房組織内で特に活性化されるプロモーター、例えば、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)の長端末反復(LTR)プロモーターなども含まれる。
【0078】
本明細書において使用しているコード配列および制御配列は、制御配列の影響下もしくは制御下においてコード配列の発現もしくは転写を行わせるように両者を共有結合させた場合に、「機能発揮できるように連結された」と表現する。コード配列が機能性タンパク質に翻訳されるためには、コード配列は制御配列に機能発揮できるように連結する。2つのDNA配列は、5'制御配列内のプロモーターの誘導によってコード配列の転写が起こった場合、あるいは、2つのDNA配列間の連結の性質により、(1)フレームシフト突然変異の誘導が起こらない、(2)コード配列の転写を促すプロモーター領域の能力を干渉しない、または、(3)対応するRNA転写体をタンパク質に翻訳する能力を干渉しない場合に、機能発揮できるように連結されていると表現する。従って、プロモーター領域は、DNA配列の転写を促進でき、それによって得られた転写体が所望するタンパク質もしくはポリペプチドに翻訳される場合に、コード配列に対して機能発揮できるように連結されている。
【0079】
本明細書に使用している「ベクター」とは、別異の遺伝子環境間の輸送用または宿主細胞内での発現用に、制限および連結によって所望された配列が挿入されている多数の核酸のうちの任意のものである。一般的に、ベクターはDNAの構成物であるが、RNAベクターも可能である。ベクターとしては、プラスミドおよびファージミドなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。クローニングベクターは、宿主細胞内で複製できるものであり、さらに、ひとつもしくはそれ以上のエンドヌクレアーゼ制限部位によって特徴づけられる。制限酵素部位とは、ベクターを確定できる手法で切断する位置であり、生成する新規な組換えベクターが宿主細胞内での複製能を保持しているように、所望するDNA配列をその位置に連結する。プラスミドの場合には、所望する配列の複製は、宿主細菌内のプラスミドのコピー数が増加するたびに多数回行われるか、または、宿主が有糸核分裂によって再生するたびに、1宿主あたり1回行われる。ファージの場合には、溶菌期中は活発に、または、溶菌素発生期中は受動的に複製が行われる。発現ベクターとは、制御配列に対して機能発揮できるように連結されるように、所望するDNA配列が制限および連結によって挿入され、かつ、RNA転写体として発現されるものである。ベクターは、細胞の確認用に適したひとつもしくはそれ以上のマーカー配列をさらに含む場合があり、このとき、該細胞は、ベクターで形質転換またはトランスフェクトされている場合とされていない場合がある。マーカーとしては、例えば、抗生物質もしくは他の化合物に対する抵抗性または感受性が増強あるいは低下するようなタンパク質をコードしている遺伝子、当分野において既知の標準的な測定法によって活性が検出できるような酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼまたはアルカリホスファターゼなど)をコードしている遺伝子、ならびに、形質転換もしくはトランスフェクトされた細胞、宿主、コロニーまたはプラークの表現型に対して視覚的に影響を与えるような遺伝子などが挙げられる。好ましいベクターは、自己複製ができ、それらが機能発揮できるように連結されているDNAセグメント内に存在する構造遺伝子生成物を発現できるものである。
【0080】
本発明の1つの態様においては、トランスジェニック抗体、ならびにそれらの変異体およびフラグメントの生成法を提供し、その工程には、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中に、核酸コンストラクトによってコードされたトランスジェニック抗体を発現することを含む。ひとつの実施形態では、本発明に従う抗体の産生法は、
(a)所望するトランスジェニック抗体をコードしている導入遺伝子DNAコンストラクトを用いてヒト以外のほ乳類細胞にトランスフェクトし;
(b)細胞のゲノム内に前記導入遺伝子DNAコンストラクトが挿入されている細胞を選択し;さらに、
(c)第一の核移植工程を行い、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の所望のトランスジェニック抗体のヘテロ接合を作出し、それによって乳汁中に該抗体を発現できる、
各工程を含む。
【0081】
別の態様においては、本方法は、
(a)抗体を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類を作出し;
(b)ヒト以外の前記トランスジェニックほ乳類の乳汁中に抗体を発現させ;さらに、
(c)乳汁中に発現された抗体を単離する
各工程を含む。
【0082】
本方法に、乳汁分泌を誘導する工程および得られた抗体のADCC活性を測定する工程を追加することができる。本方法に、更なる単離および/または精製段階を含めることができる。本方法に、得られた抗体のADCC活性を細胞培養において産生された抗体のそれと比較する工程を含めることも可能である。いくつかの実施形態では、得られた抗体のADCC活性を乳房以外の上皮細胞によって産生された抗体のそれと比較することができる。こういった細胞は細胞培養された細胞である。抗体のADCC活性を評価するための技術の例としては、当業者において既知の任意の技術、または、以下の実施例中に示されているようなものが挙げられる。いくつかの実施形態では、抗体は、本明細書に従って産生されたトランスジェニック動物の乳汁から、または該トランスジェニック動物の子孫から抗体を回収することによって得られる。
【0083】
いくつかの実施形態では、所望の抗体(または抗体融合ポリペプチド)をコードしているコンストラクトは、少なくとも1つのβ−カゼインプロモーターによって稼働される。別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類は有蹄類である。さらに別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類はヤギである。
【0084】
いくつかの実施形態では、トランスジェニックほ乳類によって産生された抗体の濃度は、産生された乳汁1Lあたり少なくとも1gである。
【0085】
組換え抗体を発現可能なトランスジェニック動物は、さらに、当分野で既知の方法に従っても作出できる(例えば、米国特許第5,945,577号明細書などを参照)。トランスジェニック発現に適した動物としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、またはリャマなど。適切な動物には、ウシ、ヤギ、ヒツジおよびブタの多様な種に関する、ウシ類、ヤギ類、ヒツジ類、およびブタ類も含まれる。適切な動物には有蹄類も含まれる。本明細書では、「有蹄類」とは、蹄を持ち、一般的には草食性四足歩行のほ乳類またはそれに類するものであり、例えば、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシおよびウマなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ひとつの実施形態では、動物は、重鎖および軽鎖を含む別異のコンストラクトを用い、一次細胞に同時トランスフェクトすることによって作出する。次に、これらの細胞を核移植に使用する。あるいは、マイクロインジェクションを使用してトランスジェニック動物を作出する場合には、コンストラクトを同時注入する。ある実施形態においてグリコシル化濃度を変化させる必要がある場合には、部位特異的突然変異を使用できる。
【0086】
クローニングによって様々なトランスジェニック動物が得られる。各動物は、目的の抗体またはその他の遺伝子コンストラクトを産生できる。産生法には、クローン動物およびそれらの子孫の使用が含まれる。いくつかの実施形態では、クローン動物は、ヤギ類、ウシ類またはマウスである。クローニングには、胎仔の核移植、核移植、組織および臓器移植、ならびにキメラ子孫の作出も含まれる。
【0087】
クローニング方法の一工程には、脱核した卵母細胞に、目的の導入遺伝子を有する細胞のゲノムを移植することが含まれる。本明細書において使用している「導入遺伝子」とは、核酸分子の任意の一片であって、技術的に細胞もしくはそれらの祖先内に挿入され、さらに、該細胞から発達する動物のゲノムの一部となるものをさす。そのような導入遺伝子は、トランスジェニック動物に対して部分的もしくは全体的に外来性(すなわち、異種)の遺伝子を含んでいてもよく、あるいは、該動物の内在性遺伝子と同一性を有する遺伝子であって差し支えない。
卵母細胞の供給源として適切なほ乳類には、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウサギ、モルモット、マウス、ハムスター、ラット、ヒト以外の霊長類などが含まれる。卵母細胞は有蹄類から入手することが好ましく、ヤギまたはウシが最も好ましい。卵母細胞の単離法は当分野において周知である。基本的には、該方法は、ヤギなどのほ乳類の卵巣または生殖管から卵母細胞を単離することを含む。有蹄類卵母細胞を容易に入手できる供給源としては、ホルモン誘導した雌動物がある。遺伝子操作、核移植およびクローニングなどの技術を都合よく利用するためには、卵母細胞は、インビボで成熟していることが好ましく、その後、それらの細胞を核移植用のレシピエント細胞として利用し、精子による受精が行われて胚へと発達する。インビボで成熟した中期II相の卵母細胞が核移植技術における格好の材料として使用されている。基本的には、成熟中期II卵母細胞は、発情の開始、または、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)もしくは類似のホルモンの注射から数時間経過後の非過剰排卵個体または過剰排卵個体から外科的に採取する。
【0088】
乳腺中に発現された組換えタンパク質の量および質を予測するために使用する手法のひとつは、乳汁分泌の誘導である(エバート(Ebert),KM、1994)。乳汁分泌を誘導することにより、妊娠の結果として起こる自然な初乳の分泌(これは少なくとも約1年後のことである)に由来するタンパク質よりもむしろ、トランスジェニック産生の初期段階におけるタンパク質の発現および分析が可能となる。乳汁分泌の誘導は、ホルモンにより、または手によって行うことができる、多様な乳汁分泌法、特に、ホルモン誘導による乳汁分泌は、乳腺中のグリコシルトランスフェラーゼの転写制御に影響を及ぼす可能性がありうる。クローン動物の多様な乳汁分泌サンプルから得られたN−結合オリゴ糖は、NeuGcの含量以外は類似していた。自然な乳汁分泌由来のトランスジェニック抗体産生物中の糖質では、全体的なシアル酸含量は、別異の乳汁分泌法由来のサンプル中の値にほぼ匹敵したにもかかわらず、他の乳汁分泌法由来のものよりもNeuGcの含量が高かった。同様に、ヤギの乳汁中に産生されたトランスジェニックタンパク質には、独立したタンパク質種からなる複合体混合物も含まれると考えられる(ツォウ(Zhou)、2005)。
【0089】
各系統に由来するプールされた乳汁サンプルから単離されたプロテインA精製IgGフラクションをインビトロで分析し、抗体結合特異性および親和性、ならびに用量依存的なT細胞増殖促進に関する特性付けを行った。ひとつの実施形態では、乳汁由来のグリコシル化および非グリコシル化キメラ調製物を元のGW mAbと比較する。
【0090】
成長および生殖に関する特性が正常であり、正当なレベル(>1mg/ml)の生物活性を有する抗体を産生する健康なトランスジェニックマウスの作出が確立された。所定のコンストラクトを有するマウスの作出は、ヤギまたはウシなどの種の大量作出に関する先駆的な事例となりうる。キメラ抗CD137の作出および特性付けにより、マウスモデル中のひとつもしくはそれ以上のこれらの調製物について試験を行い、インビボでの抗腫瘍活性を明らかにした。その後、グリコシル化および非グリコシル化キメラ抗体コンストラクトを用い、乳汁中に抗CD137を発現するトランスジェニックヤギを作出した。
トランスジェニック技術によって動物ゲノムを修飾することにより、グリコシル化パターンが修飾された組換えタンパク質の製造に関する新たな方法が提供される。トランスジェニック家畜の乳汁中でヒト組換え薬剤を産生させることにより、微生物バイオリアクターまたは動物細胞バイオリアクターに関する問題点の多くが解決する。例えば、微生物バイオリアクターでは、翻訳後修飾が行われない、タンパク質の折りたたみが不適切である、精製コストがかかるなど、動物細胞バイオリアクターでは、元手がかかる、培養培地が高価、収率が低いなどの問題がある。本発明のいくつかの実施形態では、トランスジェニック動物の乳汁中において抗体をトランスジェニック産生することの利用を含むが、そのようなトランスジェニック動物は、該抗体分子のグリコシル化パターンを最適化するような所望する遺伝子のホモ接合である。
【0091】
本発明の別の実施形態に従えば、標的分子のグリコシル化パターンは、例えば、ヒト以外のほ乳類の飼料を改変することによって修飾することができる(カー(Kerr)ら、2003)。
【0092】
さらに本発明は、抗体産生法を提供し、該方法は、乳汁中に抗体を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニック動物の乳汁から抗体を回収し、さらに、該抗体のADCC活性を測定することを含む。いくつかの実施形態では、ADCC活性は、細胞培養中で発現された抗体のADCC活性と比較される。別の実施形態では、抗体を発現するように操作された培養された乳房上皮細胞から抗体を回収し、該抗体のADCC活性を測定する。いくつかの実施形態では、ADCC活性は、細胞培養中で発現された抗体のADCC活性と比較される。いくつかの実施形態では、細胞培養の細胞は、乳房以外の上皮細胞である。ADCC活性を評価するための測定法は以下の実施例に示しており、当分野においても既知である。
【0093】
本明細書において使用している「実質的に純粋」とは、タンパク質が、目的とする用途について実用的範囲であり、かつ適切と考えられる程度に、他の物質を基本的に含まないことを意味する。特に、タンパク質は、十分に純粋であり、かつ、その宿主細胞のその他の生物学的構成成分をほとんど含まないが、これは、タンパク質のシークエンシングまたは医薬品製剤の作成などにおいて有用なものとするためである、。故に、いくつかの実施形態では、抗体は実質的に純粋である。
【0094】
ポリペプチドに関して本明細書において使用している「単離された」とは、生来の環境から分離され、確認もしくは使用ができる程度に十分な量が存在していることを意味する。単離された、という語をタンパク質またはポリペプチドに関して使用する場合には、例えば、(i)発現クローニングによって選択的に産生された、または、(ii)クロマトグラフィーもしくは電気泳動によって精製されたものであることを意味する。単離されたタンパク質もしくはポリペプチドは、実質的に純粋であるが、必ずしもそうである必要はない。なぜならば、単離されたポリペプチドは、医薬品製剤中で医薬品として許容される担体と予め混合することから、ポリペプチドが、調製物に対する重量%でごく少量しか含まれていなくても構わない。それでも、ポリペプチドは、自身が生態系において関連しているであろう物質から分離される、すなわち、他のタンパク質から単離される。したがって、いくつかの実施形態では、抗体は単離される。
【0095】
抗体はADCC活性が増強されているが、このことは、治療においてモノクローナル抗体を有効に使用するための重要な因子である。本発明に従う抗体の定常もしくはFc領域が同時に結合することにより、生物学的応答が誘導される。これらの応答のうちのひとつは、標的細胞内の細胞性アポトーシスまたはADCC活性の誘導である。Fc γレセプターに対するFc領域の結合を介してADCCは機能する。Fc γレセプターは、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞の表面上に存在している。レセプターへの結合により、これらの細胞が活性化され、標的抗原を含む標的細胞を殺傷するサイトカイン類および酸化物不含ラジカル類を放出する。
【0096】
故に、1つの態様からみると、本発明は、ADCC活性が増強され、それによって治療特性が改善された抗体製剤に関する。組成物を用い、ADCC活性が少なくともいくつかの医療上の利点をもたらすような対象を治療することに使用できる。故に、提供された組成物を用いて疾病にかかっている対象を治療できる。いくつかの実施形態では、抗体を用いて対象を治療できるが、このとき、対象に抗体を投与することによってADCC活性を増強させる。
【0097】
本明細書において使用している「治療」、「治療する」または「処置」には、予防的処置(例えば、予防薬など)および緩和的処置が含まれる。
【0098】
提供された組成物が有効な治療効果を提供可能と考えられる特定の指標としては、癌(充実性腫瘍、メラノーマに対する効果的な免疫調節療法など)、ならびに、上皮性悪性腫瘍(例えば、乳房、結腸、卵巣、腎臓、前立腺および肺など)などが挙げられる。
【0099】
本明細書において使用している「癌」とは、体組織および器官の正常機能を妨げるような制御不能な細胞増殖をさす。元の位置から移動し、生命維持に必要な臓器に入り込んだ癌は、侵入した臓器の機能を消失させることによって死を招く場合がある。癌としては、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、菌状息肉腫/セザリー症候群、組織球増殖症X、慢性リンパ球性白血病、毛様細胞白血病、多発性骨髄腫、ワルデンシュトームマクログロブリン血症、クリオグロブリン血症およびH鎖病などが挙げられる。白血病などの造血性癌は、対象内の正常造血コンパートメントを打ち負かすことにより、造血機能を不全にし(例えば、貧血、血小板減少症および好中球減少症などを呈する)、死を招く。
【0100】
転移とは、最初の腫瘍から身体の別の部位へと癌細胞が伝播することにより、最初の腫瘍から離れた位置に存在する癌細胞の領域である。最初の腫瘍塊を診断するときに、転移の存在について対象をモニターする。ほとんどの場合、転移は、特定の症状のモニタリングに加え、磁気共鳴画像法(MRI)スキャン、コンピューター断層撮影(CT)スキャン、血液および血小板の計数、肝機能検査、胸部X線および骨スキャンを単独または組み合わせて使用することによって検出する。
【0101】
本明細書において使用している癌には次のような型のものが含まれる:乳癌、胆管癌;膀胱癌;グリア芽細胞腫および髄芽腫を含む脳の癌;子宮頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮内膜癌;食道癌;消化器癌;白血病;急性リンパ球性およびミエローマ性白血病を含む血液学的新生物;T細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫;毛様細胞白血病;慢性骨髄腫、多発性骨髄腫;AIDS関連白血病および成人T細胞白血病;ボーエン病およびパジェット病を含む上皮内新生物;肝臓癌;肺癌;ホジキン病およびリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽腫;扁平上皮癌を含む口腔癌;卵巣癌であって、上皮細胞、乾湿細胞、生殖細胞および間葉細胞から生じるものを含む;膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫および骨肉腫を含む肉腫;メラノーマ、カポジ肉腫、基底細胞癌(basocellular cancer)および扁平上皮癌を含む皮膚癌;精上皮腫、非精上皮腫(テラトーマ、絨毛癌)、ストロマ性腫瘍および生殖細胞腫瘍などの生殖系腫瘍を含む精巣癌;甲状腺腺癌および髄様癌を含む甲状腺癌;腺癌およびウィルムス腫瘍を含む腎臓癌など。その他の癌についても当業者においては既知であり、例えば、肥満細胞腫、胸腺腫、プラズマ細胞腫およびグリオーマなどが挙げられる。
【0102】
本発明に従う組成物は、免疫疾患の治療にも有用である。「免疫疾患」としては、成人呼吸促迫症候群、動脈硬化、喘息、アテローマ性動脈硬化症、胆嚢症、硬変症、クローン病、糖尿病、気腫、過好酸球増加症、炎症、過敏性腸管症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋もしくは心膜炎症、骨関節症、骨粗鬆症、膵炎、リウマチ性関節炎、強皮症および結腸炎などが挙げられる(例えば、米国特許出願公開第2003/0175754号明細書などを参照)。
【0103】
本発明に従う組成物は、自己免疫疾患の治療にも有用である。そのような疾病としては次のようなものが挙げられるが、それらに限定されるわけではない:全身性紅斑性狼瘡、ループス腎炎、糖尿病、炎症性腸疾患、小児脂肪便症、自己免疫性甲状腺疾患、アジソン病、シェーグレン病、シデナム舞踏病、高安病、ヴェゲナー肉芽腫症、自己免疫性胃炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性皮膚疾患、自己免疫性拡張型心筋症、多発性硬化症、心筋炎、重症筋無力症、悪性貧血、多発性筋痛、乾癬、急速進行性糸球体腎炎、リウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、脈管炎、筋肉の自己免疫疾患、精巣の自己免疫疾患、卵巣の自己免疫疾患および目の自己免疫疾患など。
【0104】
別の実施形態では、ADCC活性が増強された抗体は、自己免疫性の脳脊髄炎、全身性紅斑性狼瘡ならびにその他の疾病状態の治療に有効である。
【0105】
本発明に従う抗体は、他の治療薬と組み合わせることができる。抗体およびその他の治療薬は、同時に、または連続して投与できる。他の治療薬を同時投与する場合には、それらを同一の製剤もしくは別異の製剤として、同時に投与できる。その他の治療薬と抗体の投与を時間的を空けて行う場合には、該治療薬は、それらをひとつずつ連続的に、または抗体と連続的に投与する。これらの組成物を投与するにあたっての時間的間隔は、分単位もしくはそれ以上である。
【0106】
その他の治療薬としては、例えば、抗癌治療薬などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。抗癌治療薬としては、癌用薬物、放射線照射および外科的手段などが挙げられる。本明細書において使用している「癌用薬物」とは、癌治療の目的で対象に投与する物質をさす。本明細書において使用している「癌治療」としては、癌の発達を阻害する、癌の症状を軽減する、ならびに/または、確立された癌の増殖を阻止することを含む。別の態様では、癌用薬物は、癌の発達の危険性がある患者に対し、それを軽減する目的で投与する。癌治療用の多様な型の薬物について本明細書に記載している。本明細書の目的を遂行するためには、癌用薬物は、化学療法剤、免疫療法剤、癌ワクチン、ホルモン療法および生体応答修飾物質に分類される。
【0107】
化学療法剤としては次のようなものを含む群から選択できるが、これらに限定されるわけではない:メトトレキセート、ビンクリスチン、アドリアマイシン、シスプラチン、糖不含クロロエチルニトロソウレア類、5−フルオロウラシル、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ドクソルビシン、ダカルバジン、タクソール、フラジリン、メグラミンGLA、ヴァルルビシン、カルムスタインおよびポリファーポサン、MMI270、BAY12-9566、RASファメシルトランスフェラーゼ阻害剤、ファメシルトランスフェラーゼ阻害剤、MMP、MTA/LY231514、LY264618/ロメテクソール、グラモレック、CI-994、TNP-470、ヒカムチン/トポテカン、PKC412、ヴァスポダール/PSC833、ノヴァントロン/ミトロキサントロン、メタレット/スラミン、バティマスタット、E7070、BCH-4556、CS-682、9-AC、AG3340、AG3433、インセル/VX-710、VX-853、ZD0101、ISI641、ODN698、TA2516/マーミスタット、BB2516/マーミスタット、CDP845、D2163、PD183805、DX8951f、レモナールDP2202、FK317、ピシバニル/OK-432、AD32/ヴァルルビシン、メタストロン/ストロンチウム誘導体、テモダール/テモゾロミド、エヴァセット/リポソーム性ドクソルビシン、エウタキサン/パクリタクセル、タクソール/パクリタクセル、キセロード/カペシタビン、ファーツロン/ドキシフルリジン、シクロパックス/経口パクリタクセル、経口タクソイド、SPU-077/シスプラチン、HMR1275/フラボピリドール、CP-358(774)/EGFR、CP-609(754)/RAS癌遺伝子阻害剤、BMS-182751/経口プラチナ、UFT(テガファー/ウラシル)、エルガミソール/レヴァミソール、エニルウラシル/776C85/5FUエンハンサー、カンプト/レヴァミソール、カンプトサール/イリノテカン、ツモデックス/ラリトレキセド、ロイスタチン/クラドリビン、パクセックス/パクリタクセル、ドキシル/リポソーム性ドクソルビシン、セリックス/リポソーム性ドクソルビシン、フルダラ/フルダラビン、ファーマルビシン/エピルビシン、デポCyt、ZD1839、LU79553/ビスナフタリミド、LU103793/ドラスタイン、セティックス/リポソーム性ドクソルビシン、ジェムザール/ジェムシタビン、ZD0473/アノーメド、YM116、ロディン種子、CDK4およびCDK2阻害剤、PARP阻害剤、D4809/デキシフォサミド、イフェス/メスネックス/イフォサミド、ヴモン/テニポシド、パラプラチン/カルボプラチン、プランチノール/シスプラチン、ヴェペシド/エトポシド、ZD9331、タクソテレ/ドセタクセル、グアニンアラビノシドのプロドラッグ、タクサンアナログ、ニトロソウレア類、メルフェランおよびシクロホスホスファミドなどのアルキル化剤、アミノグルテチミド、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クロロンブシル、シタラビンHCl、ダクチノマイシン、ダウノルビシンHCl、エストラムスチンリン酸ナトリウム、エトポシド(VP16-213)、フロクスウリジン、フルオロウラシル(5-FU)、フルタミド、ヒドロキシウレア(ヒドロキシカルバミド)、イフォスファミド、インターフェロンα-2a、α-2b、酢酸リュープロリド(LHRH-放出因子アナログ)、ロムスチン(CCNU)、メクロレタミンHCl(ニトロジェンマスタード)、メルカプトプリン、メスナ、ミトタン(o.p'-DDD)、ミトキサントロンHCl、オクトレオチド、プリカマイシン、プロカルバジンHCl、ストレプトゾシン、クエン酸タモキシフェン、チオグアニン、チオテパ、硫酸ビンブラスチン、アムサクリン(m-AMSA)、アザシチジン、エリスロポエチン、ヘキサメチルメラミン(HMM)、インターロイキン2、ミトグアゾン(メチル−GAG;メチルグリオキサールビスグアニルヒドラゾン;MGBG)、ペントスタチン(2'−デオキシコホルマイシン)、セムスチン(メチル−CCNU)、テニポシド(VM-26)および硫酸ビンデシンなど。
【0108】
免疫療法剤としては、次のようなものを含む群から選択されるが、これらに限定されるわけではない:ルビタキシン、ハーセプチン、クアドラメト、パノレックス、IDEC-Y2B8、BEC2、C225、オンコリン、SMART M195、ATRAGEN、オヴァレクス、ベクサール、LDP-03、ior t6、MDX-210、MDX-11、MDX-22、OV103、3622W94、抗VEGF、ゼナパックス、MDX-220、MDX-447、MELIMMUNE-2、MELIMMUNE-1、CEACIDE、プレターゲット、ノヴォMAb-G2、TNT、グリオマブ−H、GNI-250、EMD-72000、リンフォシド、CMA 676、モノファーム−C、4B5、ior efg.r3、ior c5、BABS、抗FLK-2、MDX-260、ANA Ab、SMART 1D10 Ab、SMART ABL 364 AbおよびImmuRAIT-CEAなど。
【0109】
癌ワクチンとしては、次のようなものを含む群から選択されるが、これらに限定されるわけではない:EGF、抗イディオタイプ癌ワクチン、Gp75抗原、GMKメラノーマワクチン、MGVガングリオシドコンジュゲートワクチン、Her2/neu、オヴァレックス、M-Vax、O-Vax、L-Vax、STn-KHL、セラトープ、BLP25(MUC-1)、リポソーム性イディオタイプワクチン、メラシン、ペプチド抗原ワクチン類、毒素/抗原ワクチン類、MVAに基づくワクチン、PACIS、BCGワクチン、TA-HPV、TA-CIN、DISCウイルスおよびImmuCyst/TheraCysなど。
【0110】
追加の治療薬としては、免疫調節剤が挙げられる。投与可能な免疫調節剤の例としては、次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-α、またはそれらの組み合わせなど。本発明に従う抗体は、免疫調節剤および/または追加の抗癌剤(IL-21、IL-12、および/またはトラスツズマブなど)と組み合わせても投与できる。
【0111】
本発明に従う組成物は有効量を使用する。有効量とは、所望する生物学的効果を確認するために必要もしくは十分な量をさす。本明細書に示されている教示と併せ、多様な活性化合物の中から選択し、さらに、力価、相対的バイオアベイラビリティ、患者の体重、副作用の重篤度、および好ましい投与形態などの因子を勘案することにより、実質的に毒性が発揮されず、かつ特定の対象の治療に有効な、効果的な予防もしくは治療方針が計画できる。任意の特定の用途に対する有効量は、治療を要する疾病もしくは状態、投与される特定の組成物、対象の体格、疾病または状態の重篤度などの因子によって異なる。通常の技量を有する当業者であれば、不要な実験をすることなく、特定の組成物に関する有効量を経験的に定めることができる。一般的には、好ましくは、最大投与量を使用するが、これは、ある種の医療判断に従った安全域の最高投与量のことである。一日に複数回投与することにより、化合物の全身濃度を適量にすることができる。適切な全身濃度は、例えば、薬剤に関して患者のピークまたは持続血漿レベルを測定することによって求められる。本明細書においては、「投与量」および「投薬量」は互いに読み替えることができる。
【0112】
治療有効量の決定は、薬剤の毒性および有効性などの因子に特に影響される。毒性は、当分野で既知の方法を用いて測定できる。有効性は、同様な指針を用いて判断できる。故に、薬剤学的有効量は、毒性学的に許容できるが有効であると医師が考えた量である。例えば有効性は、標的組織におけるTリンパ球の誘導もしくは実質的な誘導、あるいは、標的組織塊の縮小によって測定できる。好ましい実施形態に従えば、適切な投与量は、約1mg/kg〜10mg/kgである。
【0113】
治療を必要としている対象に、本発明によって提供される抗体の治療有効量を投与することを含む実施形態に従えば、「治療有効量」とは、疾病状態を阻害する、または回復させる(例えば、癌の増殖を抑制する、または阻止するなど)のに必要な抗体量を意味する。いくつかの方法は、既知の抗癌剤または治療法、例えば、化学療法(好ましくは、本明細書に列記した種類の化合物を使用する)または放射線療法などと組み合わせた方法も包含する。患者は、ヒトまたはヒト以外のほ乳類である。一般的には、患者は、癌を患っている場合に治療を必要とするが、このとき、癌は、その維持または増殖を促進するレセプター濃度の上昇によって特徴づけられる。
【0114】
一般的に、活性化合物の一日あたりの経口投与量は、約0.01mg/kg〜1000mg/kgである。0.5〜50mg/kg/日の範囲の経口投与量を一日1回もしくは数回に分けて投与することによって所望する結果が得られるであろう。投与量は、投与形態に応じて、局所もしくは全身において所望する薬剤濃度に達するように適切に調節できる。例えば、静脈内投与を行うことにより、一日あたりの投与量を10分の1から10の数乗分の1まで減らすことが期待できる。患者の応答がそのような投与量では不十分である場合には、患者が許容できる程度のより高い投与量(または、別異の、局所への送達がより効率よく行える経路により、さらに高い投与量)を用いる。1日あたり複数回投与を行って抗体を適切な全身濃度に到達させることも包含する。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明に従う組成物をインビボに使用する。インビボでの投与形態に応じ、使用する組成物は、固体、半固体、液体、例えば、錠剤、丸薬、粉末、カプセル、ゲル、軟膏、液体、懸濁液などの形にする。好ましくは、組成物は、正確な投与量を1回で投与するのに適した単位投与剤形で投与する。所望する剤形に応じて、組成物は、医薬品として許容される担体もしくは希釈剤を含む場合があるが、そのような担体もしくは希釈剤は、動物もしくはヒトへの投与用の医薬品組成物の製剤化に通常使用される水性ビヒクルと定義される。希釈剤は、目的のヒト組換えタンパク質の生物活性に影響を与えないように選択する。そのような希釈剤の例としては、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液などが挙げられる。同じ希釈剤を用いて、目的の凍結乾燥ヒト組換えタンパク質を再構成できる。さらに、医薬品組成物には、その他の薬剤、調合剤、担体、アジュバント、非毒性、非治療性、非免疫原性の安定化剤なども含む。そのような希釈剤または担体の有効量は、組成物の溶解性、生物活性などに関して医薬品として許容される製剤を得るために有効な量である。いくつかの実施形態では、本発明に従う組成物は滅菌されている。
【0116】
本発明に従う組成物は、抗メラノーマ、抗リンパ腫、抗白血病および抗乳癌治療において、ヒト患者に対し、経口、非経口もしくは局所投与の剤型、あるいは全身性投与の剤型で投与する。本発明に従う組成物は、ある種の自己免疫疾患(例えば、リウマチ性関節炎、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化症など)に対しても治療薬として使用できる。
【0117】
インビボ治療中の投与は、非経口および経口を含む任意数の経路によって行えるが、好ましくは非経口経路である。嚢内、静脈内、鞘内および腹腔内投与経路が使用できるが、一般的には静脈内が好ましい。当業者であれば、投与経路は、治療すべき疾患に応じて異なることは承知しているはずである。
【0118】
治療用には、組成物の有効量は、所望する表面に該組成物を送達するのに適した任意の様式によって投与できる。本発明に従う医薬品組成物の投与は、当業者において既知の任意の手段によって遂行できる。好ましい投与経路としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:経口、非経口、筋肉内、鼻内、舌下、気管内、吸入、目、膣および肛門など。
【0119】
組成物を全身に送達することが好ましい場合には、注射(例えば、ボーラス注射または連続輸液など)による非経口投与用に調製する。注射用製剤は、保存剤を添加し、アンプルまたは複数回投与容器などに充填した単位投与剤型として提供できる。組成物は、懸濁液、溶液、または、油性もしくは水性ビヒクル中のエマルションなどの剤型にして差し支えなく、また、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化された薬剤を含んでもよい。
【0120】
非経口投与用の医薬品製剤としては、水溶性の形態の活性化合物水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁液を、適切な油性注射用懸濁液として調製してもよい。適切な親油性溶媒またはビヒクルとしては、ごま油などの脂油、または、オレイン酸エチル、トリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームなどが挙げられる。水性注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を高めるような物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、もしくはデキストランなどを含んでいてもよい。随意的に、懸濁液に適切な安定化剤または安定剤を含ませて化合物の溶解性を高め、高濃度溶液を調製しても構わない。
【0121】
あるいは、活性化合物は、使用前に、適切なビヒクル(例えば、発熱物質を含まない滅菌水など)で構成する粉末の形態であって差し支えない。
【0122】
経口投与用には、医薬品組成物は、医薬品として許容される賦形剤を用いた従来の手法によって調製される、例えば、錠剤またはカプセルなどの形態であって差し支えなく、そのような賦形剤としては、結合剤(例えば、糊化前のトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロース、またはリン酸水素カルシウムなど);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカなど);崩壊剤(例えば、バレイショデンプンまたはナトリウムデンプングリコレート(sodium starch glycolate);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)などが挙げられる。錠剤は、当分野で既知の方法によって被覆できる。経口投与用の液体製剤は、例えば、溶液、シロップもしくは懸濁液の形態であって差し支えなく、あるいは、使用前に水その他の適切なビヒクルで構成する乾燥製剤として存在していてもよい。そのような液体製剤は、医薬品として許容される添加剤を用いた従来の手法に従って調製して差し支えなく、そのような添加剤としては、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または食用硬化油など);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシアなど);非水性ビヒクル(例えば、扁桃油、油性エステル類、エチルアルコールまたは分別植物油など);保存料(例えば、メチルもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエート類またはソルビン酸など)などが挙げられる。製剤には、適切な緩衝塩、着香剤、着色剤および甘味料も含ませてよい。
【0123】
経口投与用調製物を適切に製剤化することによって活性化合物の放出を制御してもよい。頬投与用には、組成物を、従来の方法に従って、錠剤またはロゼンジ(舌下錠)の形態にしてもよい。
【0124】
経口投与用には、例えば、活性抗体を当分野で既知の医薬品として許容される担体と混合することにより、抗体を容易に調製できる。そのような担体を用いることにより、治療を要する対象が経口で服用するために、本発明に従う化合物を錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などに調製できる。経口用途の医薬品製剤は、固体賦形剤として得られ、場合によっては得られた混合物を粉砕し、必要に応じて適切な補助剤を添加した後に、混合物を顆粒に加工することにより、錠剤または糖衣錠の核を得る。特に適切な賦形剤としては、糖などの充填剤(ラクトース、ショ糖、マンニトールまたはソルビトールなどを含む);セルロース調製物(例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)など)などが挙げられる。必要に応じ、崩壊剤を加えてもよく、そのようなものとしては、交差結合ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはそれらの塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などが挙げられる。随意的に、生理食塩水または緩衝液(すなわち、内部の酸性状態を中和するためのEDTAなど)中で経口用製剤を調製してもよく、あるいは、担体無しで投与してもよい。
【0125】
また、抗体の経口投与形態も具体的に意図されている。構成成分については、抗体の経口送達が効率的に行われるように化学的に修飾して構わない。一般的に、意図されている化学修飾とは、抗体に少なくともひとつの部分が結合することであり、そのような部分が、(a)タンパク質分解の阻害;および(b)胃または腸からの血流への取り込みを可能にする。さらには、抗体の全体的な安定性を高め、血中循環時間を増長させることを目的とする。そのような部分の例としては、ポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマー類、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリプロリンなどが挙げられる。アブチョウスキ(Abuchowski)およびデイヴィス(Davis)編、1981年、「可溶性ポリマー酵素付加物(Soluble Polymer-Enzyme Adducts)」(「薬剤としての酵素(Enzymes as Drugs)」、ホッセンバーグ(Hocenberg)およびロバーツ(Roberts)編、ウィレー−インターサイエンス(Wiley-Interscience)社、ニューヨーク州ニューヨーク、pp.367-383;ニューマーク(Newmark)ら、1982、J.Appl.Biochem.,4:185-189。)使用可能なその他のポリマーとしては、ポリ−1,3−ジオキソランおよびポリ−1,3,6−チオクソカンがある。上記の医薬品用途として好ましいのは、ポリエチレングリコール部分である。
【0126】
組成物の放出位置は、胃、小腸(十二指腸、空腸または回腸)または大腸であって構わない。当業者は、胃では溶解しないが、十二指腸または腸内の別の位置で薬物が放出されるような市販の製剤を入手できる。好ましくは、放出は、抗体を保護することにより、または、胃内環境よりもさらに先(例えば、腸内など)で生物活性物質を放出させることにより、胃内環境の有害な影響を避ける。
【0127】
十分な消化管耐性を確立するためには、少なくともpH5.0において不透過性の被覆を行うことが必須である。腸溶コーティングとして使用される、より一般的な不活性材料の例としては、セルロースアセタートトリメリタート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート(HPMCP)、HPMCP50、HPMCP55、ポリビニルアセタートフタラート(PVAP)、ユードラジットL30D、アクアテリック、セルロースアタートフタラート(CAP)、ユードラジットL、ユードラジットS およびシェラックなどが挙げられる。これらのコーティングは混合フィルムとして使用して差し支えない。
【0128】
コーティングまたはコーティング混合物は錠剤にも使用できるが、胃内環境に対する保護を意図しているわけではない。このようなものとしては、糖衣、または錠剤の嚥下を容易にするためのコーティングが含まれる。カプセルは、乾燥治療薬(すなわち、粉末)の送達用はハードシェルで構成されて差し支えなく、液状形態の用途には柔らかいゼラチンシェルを用いてもよい。カシェのシェル材料は、濃厚デンプン液またはその他の食用紙を用いることができる。丸薬、舌下錠、成形錠剤もしくは湿性錠剤に関しては、湿潤練薬技術(moist massing techniques)を使用できる。
【0129】
治療薬は、粒子径が約1mmの顆粒またはペレットの形態の微細多粒子(fine multi-particulates)として製剤中に含めることができる。カプセル投与用の物質の製剤は、粉末、軽度圧縮プラグ、あるいは錠剤であってもよい。圧縮によって治療薬を調製してもよいであろう。
【0130】
着色剤および着香剤もすべて含めることができる。例えば、組成物を調製し(リポソームまたはマイクロスフェアの被包などによって)、次に、着色剤および着香剤を含む冷やした飲料といった食品内に含めることができる。
【0131】
不活性物質を用いて治療薬の容量をを希釈する、または増加させることもできる。これらの希釈剤としては、糖質、特に、マンニトール、α−ラクトース、無水ラクトース、セルロース、ショ糖、修飾デキストランおよびデンプンなどが挙げられる。ある種の無機塩も充填剤として使用でき、そのようなものとしては、三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウムおよび塩化ナトリウムなどが挙げられる。市販の希釈剤の例としては、Fast-Flo、Emdex、STA-Rx1500、EmcompressおよびAvicellが挙げられる。
【0132】
固体投与形態の治療薬の製剤中に、崩壊剤を含めてもよい。崩壊剤として使用される物質としては、デンプンを基本とする市販の崩壊剤であるExplotabを含めて、デンプンなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。デンプングリコール酸ナトリウム、Amberlite、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラミロペクチン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジピール、酸性カルボキシメチルセルロース、天然海綿およびベントナイトなどもすべて用いることができる。崩壊剤の別の形態は、不溶性の陽イオン性イオン交換樹脂である。粉末ガムは、崩壊剤および結合剤として用いることができ、それには、寒天、カラヤガムまたはトラガカントなどが含まれる。アルギン酸およびそのナトリウム塩も崩壊剤として有用である。
【0133】
結合剤を用いることにより、硬錠剤を形成するために治療薬を結合剤と共に用いてもよく、そのような材料としては、アカシア、トラガカント、デンプンおよびゼラチンなどのような天然産物由来の材料が挙げられる。その他として、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。ポリビニルピロリドン(PVP)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)はいずれも、治療薬を顆粒化するためにアルコール溶液中で用いて差し支えない。
【0134】
製剤工程中に治療薬が粘着することを防ぐために、減摩剤を治療薬の製剤に加えてもよい。潤滑剤は、治療薬と金型壁の間の層として使用してよく、それらとして、ステアリン酸(マグネシウム塩およびカルシウム塩を含む)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、流動パラフィン、植物油およびワックスなどが挙げられるが、これらに限定されない:。可溶性潤滑剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、様々な分子量のポリエチレングリコール、Carbowax4000および6000などを私用してもよい。
【0135】
製剤中の薬剤の流動特性を向上させ、圧縮中の再配列を補助する滑り剤(glidant)を添加してもよい。滑り剤としては、デンプン、タルク、発熱性シリカおよび水和シリコアルミネートなどが挙げられる。
【0136】
治療薬を水性環境へ溶解させるために、湿潤剤として界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよびスルホン酸ジオクチルナトリウムなどのような陰イオン性界面活性剤が挙げられる。陽イオン性界面活性剤も用いることができ、塩化ベンズアルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。界面活性剤として製剤中に含めることができる潜在的な非イオン性界面活性剤のリストには、ラウロマクロゴール400、ポリオキシル40ステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65および80、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で、または 様々な比率の混合物として製剤中に加えることができよう。
【0137】
経口用に使用できる医薬品製剤には、ゼラチンでできた押し出し型の(push-fit)カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑化剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)でできた柔らかい密封カプセルも含まれる。押し出し型のカプセルには、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/または、タルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、場合によっては安定化剤を活性成分と予め混合したものを封入できる。ソフトカプセルでは、活性化合物は、適切な液体(例えば、脂肪酸、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁して差し支えない。さらには、安定化剤を添加してもよい。経口投与用に製剤されたマイクロスフェアも用いることができる。そのようなマイクロスフェアは当分野では明らかである。経口投与用のすべての製剤は、そのような投与に適した投与量でなければならない。
【0138】
頬投与用には、組成物は、従来の方法で製剤された錠剤またはロゼンジの形態であって差し支えない。
【0139】
吸入による投与用には、本発明の用途の化合物は、加圧パックまたはネブライザーからエアロゾールスプレーの形態で、適切な推進剤(propellant)と共に、簡便に送達されて差し支えなく、こういった推進剤としては、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素またはその他の適切な気体が挙げられる。加圧エアロゾルの場合には、一定量を送達するためのバルブを取り付けることによって投与単位を定めてもよい。例えばゼラチンなどの吸入器用のカプセルおよびカートリッジは、化合物および適切な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含めて製剤して構わない。
【0140】
本発明は、肺送達も意図している。組成物は、吸入中にほ乳類の肺に送達され、肺上皮内膜を透過して血流に至る。吸入分子に関するその他の報告としては、次のようなものが挙げられる:アジェイ(Adjei)ら、1990,Pharmaceutical Research,7:565-569;アジェイ(Adjei)ら、1990,International Journal of Pharmaceutics,63:135-144(酢酸リュープロリド);ブラケット(Braquet)ら、1989,Journal of Cardiovascular Pharmacology,13(5):143-146(エンドセリン−1);フバード(Hubbard)ら、1989,Annals of Internal Medicine,Vol.III,pp.206-212(a1−抗トリプシン);スミス(Smith)ら、1989,J.Clin Invest.,84:1145-1146(a−1−プロテイナーゼ);オスウェイン(Oswein)ら、1990,「タンパク質のエアロゾル化(Aerosolization of Proteins)」、気管支薬物送達に関するシンポジウム(Symposium on Respiratory Drug Delivery)予稿集II、コロラド州キーストーン、3月(組換えヒト成長ホルモン); デブス(Debs)ら、1988,J.Immunol.,140:3482-3488(インターフェロン−γおよび腫瘍壊死因子α);プラッツ(Platz)ら、米国特許第5,284,656号明細書(顆粒球コロニー刺激因子)など。全身で効果を得るための薬物の肺送達に関する方法および組成物については、ワン(Wong)らに対して1995年9月19日に付与された米国特許第5,451,569号明細書に記載されている。
【0141】
本発明の実施の用途として意図されているのは、治療生成物の肺送達用に設計された広範な機械装置であり、そのようなものとしては、ネブライザー、定量吸入器、および粉末吸入器などが挙げられるが、これらに限定されるわけではなく、そのようなものはすべて、当業者には熟知されている。
【0142】
本発明の実施に適切な市販の装置のいくつかの具体的な例としては、マリンクロット(Mallinckrodt)社(米国ミズーリ州セントルイス)製のUltravent nebulizer、マークエスト・メディカル・プロダクツ(Marquest Medical Products)社(米国コロラド州イングルウッド)製のAcorn II nebulizer、グラクソ(Glaxo)社(米国ノースカロライナ州、リサーチ・トライアングル・パーク)製のVentolin metered dose inhaler、フィソンズ(Fisons)社(米国マサチューセッツ州ベッドフォード)製のSpinhaler powder inhalerなどが挙げられる。
【0143】
そのような装置すべてにおいて、投薬に適した製剤の使用が必要とされる。一般的には、各製剤は、使用する装置の型に対して特異的であり、治療に有用な通常の希釈剤、アジュバント、および/または担体に加えて、適切な推進剤を併せて使用すしてもよい。さらに、リポソーム、マイクロカプセルもしくはマイクロスフェア、封入複合体、またはその他の型の担体を使用することも含まれる。化学修飾または使用する装置に応じて、化学修飾された抗体を異なる剤型に調製してもよい。
【0144】
噴射式または超音波によるネブライザーを使用する場合に適した製剤は、一般的に、溶液1mlあたりの生物活性治療薬の量が約0.1〜25mgの濃度になるように、水に治療薬を溶解することを含む。該製剤は、緩衝液および単糖(例えば、抗体の安定化および浸透圧の制御用途として)を含んでもよい。ネブライザー製剤に、界面活性剤を含めて、エアロゾルの形成において溶液が微粒化することによって生じる治療薬の表面誘導性凝集を減少または阻止してもよい。
【0145】
定量吸入器用の製剤は、一般的に、界面活性剤の補助をする推進剤に懸濁させた治療薬を含む微粉末を含むであろう。推進剤は、本目的に用いられる従来の材料のいずれかであって差し支えなく、そのようなものとしては、クロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、炭化水素などがあり、例えば、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノールおよび1,1,1,2−テトラフルオロエタンなど、またはそれらの混合物などが挙げられる。適切な界面活性剤としては、トリオレイン酸ソルビタンおよびダイズレシチンなどが挙げられる。オレイン酸は界面活性剤としても有用である。
【0146】
粉末吸入器で投薬する製剤には、治療薬を含有する乾燥微粉末が含まれ、また、バルキング剤が含まれる場合もある。バルキング剤としては、ラクトース、ソルビトール、ショ糖またはマンニトールなどが挙げられ、吸入器から粉末の投薬が行いやすくなるような量(例えば、製剤の50〜90重量%など)を加える。治療薬は、末端の肺に最も効果的に送達されるように、平均粒子径が10mm(またはミクロン)未満、最も好ましくは、0.5〜5mmの粒子型に調製できる。
【0147】
本発明に従う医薬品組成物の鼻送達もまた意図されている。鼻送達を行うことにより、本発明に従う治療薬を鼻に投与した後、肺に沈着する必要なく、本発明に従う医薬品組成物は直接血流に入ることができる。鼻送達用の製剤としては、デキストランまたはシクロデキストランが挙げられる。
【0148】
鼻投与に有用な装置は、定量噴霧器が装着された小型の硬質びんである。ひとつの実施形態では、定容量の小室に本発明に従う医薬品組成物の溶液を流入させ、さらに、小室内の液体を加圧した場合に、スプレーを形成することによって定量を送達するが、そのような小室は、エアロゾル化するための開口部を有する。特定の実施形態では、小室はピストン構造である。そのような装置は市販されている。
【0149】
別の方法としては、プラスチックのスクイーズボトルを用いるが、そのようなボトルは、強く握った際にスプレーを形成することにより、エアロゾル製剤をエアロゾル化するための孔または開口部を有する。通常、開口部は容器の上部にあり、一般的に、該上部は、エアロゾル製剤を効率的に投与するために、鼻腔に適合するように先が細くなっている。一定量の薬物を投与するために、鼻吸入によって定量のエアロゾル製剤が提供されることが好ましい。
【0150】
化合物は、直腸または膣投与用組成物としても製剤化して差し支えなく、そのようなものとしては、例えば、カカオ脂またはその他のグリセリドなどの従来から使用されている坐剤基剤を含む、坐剤もしくは停留浣腸などが挙げられる。
【0151】
上述の製剤に加え、化合物は、持続性の製剤にすることもできる。そのような長時間作用性の製剤は、適切なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、許容される油中エマルションなど)、またはイオン交換樹脂、あるいは低溶解性誘導体(例えば、低溶解性塩など)を用いて調製されて構わない。
【0152】
医薬品組成物には、適切な固体またはゲル相の担体もしくは賦形剤も含めて差し支えない。そのような担体または賦形剤の例としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖類、デンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、ならびにポリエチレングリコールなどのポリマーなど。
【0153】
適切な液体または固体の医薬品製剤の形態としては、例えば、吸入用の水溶液もしくは生理食塩水、マイクロカプセル化された、蝸牛状の、微小金粒子上にコーティングされた、リポソーム内に封入された、霧状の各形態、エアロゾル、皮膚への移植用のペレット、または、皮膚を引っ掻くための先端が尖った物体上に乾燥させたものなどが挙げられる。この薬学的組成物はまた、活性化合物を長期放出する、顆粒、散剤、錠剤、コーティングした錠剤、(マイクロ)カプセル剤、坐剤、シロップ剤、エマルジョン、懸濁剤、クリーム、ドロップ、または調製物を含み、その調製物において、賦形剤および添加剤および/もしくは補助剤(例えば、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、甘味剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、甘味料、または可溶化剤が、上記のように慣用的に使用される。この薬学的組成物は、種々の薬物送達系における使用のために適切である。薬物送達のための方法の簡単な概説について、Langer R(1990)Science 249:1527−33(これは、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
【0154】
医薬品組成物には、顆粒、粉末、錠剤、コーティング錠、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、エマルション、懸濁液、クリーム、ドロップ、または活性化合物の持続性放出用の製剤などが挙げられ、これらの製剤中には、賦形剤および添加剤、および/または、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨張剤、潤滑剤、着香剤、甘味料または可溶化剤などの添加剤が、上記のように慣用的に使用されている。医薬品組成物は、様々な薬物送達系での使用に適している。薬物送達法に関する簡潔な概説としては、ランガー(Langer)、Science,249:1527-1533,1990を参照のこと。該文献は参照することにより本明細書に援用される。
【0155】
抗体および、随意的にその他の治療薬を、直接、または医薬品として許容される塩のかたちで投与してもよい。薬剤として使用する場合には、塩類は、医薬品として許容されるものでなければならないが、許容されない塩類を用いて、それらの許容される塩類を調製することができる。そのような塩類としては次のような酸から調製されるものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、葉酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸など。また、そのような塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類塩類、例えば、カルボン酸基のナトリウム塩、カリウム塩もしくはカルシウム塩などとして調製することもできる。
【0156】
好ましい緩衝剤としては次のようなものが挙げられる:酢酸および塩(1〜2%w/v)、クエン酸および塩(1〜3%w/v);ホウ酸および塩(0.5〜2.5%w/v)、およびリン酸および塩(0.8〜2%w/v)など。好ましい保存料としては、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%w/v)、クロロブタノール(0.3〜0.9%w/v)、パラベン類(0.01〜0.25%w/v)およびチメロサール(0.004〜0.02%w/v)などが挙げられる。
【0157】
本発明に従う医薬品組成物は、医薬品として許容される担体中に、有効量の抗体および追加の治療薬を含む。医薬品として許容される担体という語は、ひとつもしくはそれ以上の相溶性の固体もしくは液体の充填剤、希釈剤またはカプセル封入剤を意味し、それらは、ヒトまたはその他の脊椎動物への投与に適したものである。担体とは、有機性もしくは無機性の材料であり、天然もしくは合成のものがあり、活性物質を混合して投薬しやすくするものをさす。医薬品組成物の構成成分は、本発明に従う化合物と混合でき、かつ、所望する薬剤学的効果を実質的に損なうような相互作用を起こさないような方法で混合できる。
【0158】
抗体などを含む治療薬は粒子として提供することができる。本明細書において使用している粒子とは、ナノもしくはマイクロ粒子(または、場合によってはそれより大きい粒子)であって、抗体の全体または一部を含むものである。粒子は中心に治療薬を含み、その周囲を腸溶皮膜などでコーティングしたものである。治療薬は、粒子全体に分散することもできる。治療薬は粒子に吸着させることもできる。粒子は、任意の次数の放出動態を示し、例えば、ゼロ次放出、一次放出、二次放出、遅延放出、持続性放出、即時放出およびそれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。治療薬に加え、粒子は、薬剤学および医学において通常使用される任意の材料を含む場合があり、そのようなものとしては、浸食性、非浸食性、生体分解性、もしくは生体非分解性の材料、またはそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。粒子は、溶液または半固体状の抗体を含むマイクロカプセルにしてもよい。粒子は、事実上いずれの形態にしてもよい。
【0159】
治療薬送達用の粒子の製造には、生体非分解性および生体分解性のポリマー材料を使用して構わない。そのようなポリマーは、天然または合成のポリマーである。ポリマーは、放出が所望される時間に基づいて選択される。特に関心が高い生体吸着性ポリマーとしては、その文献の教示を本明細書中に援用する、H.S.ソウニー(Sawhney)、C.P.パサック(Pathak)およびJ.A.フベル(Hubell)によって記載された生体浸食性ヒドロゲル(Macromolecules,(1993)26:581-587)が挙げられ、そのようなポリマーとしては、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリアンヒドリド類、ポリアクリル酸、アルギナート、キトサン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)およびポリ(オクタデシルアクリレート)などが挙げられる。
【0160】
治療薬は、放出制御系に含めてもよい。「放出制御」という語は、製剤からの薬物放出の手法および特性が制御されている、任意の薬物含有製剤をさす。これは、即時放出製剤および非即時放出製剤をさし、非即時放出製剤としては、持続放出製剤および遅延放出製剤が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。「持続放出」(「長期放出」とも称する)という語は、従来からの感覚に基づいて使用される語であり、長時間にわたって薬物が段階的に放出されるような剤型をさし、好ましくは(必須ではないが)、長時間にわたって薬物の血中濃度が実質的に一定になる。「遅延放出」とは、従来からの感覚にもとづいて使用される語であり、製剤の投与とその製剤からの薬物の放出との間に時間差があるような剤型をさす。「遅延放出」は、長時間にわたる薬物の段階的放出を含む場合と含まない場合があり、従って、「持続放出」である場合とない場合がある。
【0161】
長期間持続放出性の移植物の使用は、慢性状態の治療には特に適している。本明細書において使用している「長期間」とは、少なくとも7日間、好ましくは30〜60日間にわたって、埋込み体が治療レベルの活性成分を送達するように構築され、調整されていることを意味する。長期間放出性の移植物は、当業者に周知であり、上述した放出系のうちのいくつかも含まれる。
【0162】
本発明においては、抗体を含むキットも提供される。図14は、そのようなキットの一例を示している。キット10は抗体12を含む。キット10は、ひとつもしくはそれ以上のバイアルまたは容器14も含む。そのようなキットは、本明細書に記載した癌などの疾病、または、そのような疾病の症状を有する対象に構成成分を投与するための指示書を含む。
【0163】
いくつかの実施形態では、キット10は、医薬品製剤バイアル、医薬品製剤の希釈剤バイアルおよび抗体を含む。医薬品製剤の希釈剤を含むバイアルは任意である。希釈剤バイアルには、抗体の濃縮液または凍結乾燥粉末を希釈するための生理食塩水などの希釈剤が含まれている。指示書には、特定量の希釈剤に特定量の濃縮された医薬品製剤を混合するための指示書を含み、それによって注射または輸液用の最終製剤を調製する。指示書には、シリンジまたはその他の投与装置の使用法が含まれている。指示書20は、有効量の抗体を用いて患者を治療するための指示を含む。製剤を含む容器は、該容器が、ビン、栓付きバイアル、栓付きアンプル、輸液バッグなどのいずれであっても、製剤をオートクレーブ処理またはその他の滅菌処理した場合に色が変化するような従来から使用されているマーキングなどの指示物を加えることができる。
【0164】
「対象」は、ヒト、または、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、霊長類(例えば、サルなど)を含む脊椎ほ乳類であるが、これらに限定されるわけではない。
【0165】
本明細書において特に定義していない限り、本発明に関連して使用している科学用語および技術用語は、当業者が一般的に理解している意味で用いている。さらに、文脈から要求されていない限り、単数事項は複数事項を含み、複数事項は単数事項を含む。一般的には、本発明に従う方法および技術は、当分野において既知の従来から行われている方法に従って実施される。一般的に、本明細書に記載されている生化学、酵素学、分子および細胞生物学、微生物学、遺伝子およびタンパク質および核酸化学、およびハイブリダイゼーションに関して使用される名称および技術は、周知のものであり、当分野で通常使用されている。一般的に、本発明に従う方法および技術は、当分野において周知の従来法に従って実施され、また、特に限定していない限りは、本明細書において引用および議論されている多様な一般的およびより具体的な参考文献中の記載に従って実施される。
【0166】
以下の実施例に従って本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するためのものではない。本明細書において引用しているすべての参考文献(文献、認可された特許、公開された特許出願および同時係属中の特許出願を含む)の全内容を参照することにより、明確に本明細書に援用する。
【実施例】
【0167】
材料および方法
ハイブリドーマ由来のmRNAのシークエンシング
RNAは、Qiagen RNeasy Mini Kit(カタログ番号#74104)を用いて調製した。4日目に培養物のうちの13mlを5分間遠心分離し、PBS中に懸濁した。これを再度5分間遠心分離した。ペレットは、6μlのμ−MEを含む600μlのRNeasy RLT中に再懸濁した。溶解物は、22gの針に5回通し、600μlの70%EtOHを加えて混合した。700μlのアリコートをRNeasyカラムに2回かけ、30秒間遠心分離し、700μlのRW1で洗浄した。これを500μlのPPEで2回洗浄し、1分間乾燥させ、さらに、50μlの水で2回溶出させた。
【0168】
2μlのRNAについて、オリゴdTプライマーを用い、Promega Reverse Transcription System(カタログ番号#A3500)で逆転写を行った。反応は、42℃で1時間インキュベートし、その後、95℃で5分間加熱して行った。次に、反応物を100μlの水で希釈した。PCRは、N末端もしくは5'末端に対するもの、および、C末端もしくは3'末端に対するものから選択したプライマーを用い、1μlのcDNAアリコートについて行った。PCRは、正の対照として、定常領域のみに由来するプライマーを用いて行った。
【0169】
PCR生成物は、Qiagen QiaQuick PCR Purification Kit(カタログ番号#28104)を用いて精製した。さらに溶出を行って最終容量を100μlにした。260nmにおける吸収を測定した。PCRに使用したN末端プライマーと一緒にシークエンシングを行うため、濃度は10〜26ng/μlおよび100ngにした。
【0170】
使用したアミノ末端プライマーは、抗体のアミノ末端のコード配列の一部であったことから、配列に突然変異を導入できた。得られた配列を用い、マウスゲノムから生殖系遺伝子を確認した。次に、cDNA由来の全コード配列のPCR用にこれらの遺伝子の末端までプライマーを合成した。このようにして、PCRプライマーに関連している如何なる配列をも含まない、抗体の全コード領域が得られた。コード配列は、各場合において、アミノ末端配列と一致していることから、発現された抗体の配列である。J領域は、配列内で注解されているように、既知のJ領域から確認した。
【0171】
抗ヒトCD137に対する重鎖および軽鎖遺伝子のクローニングおよびシークエンシング
IgGの4つの主要サブクラスに対するヒト定常領域配列を含む導入遺伝子発現ベクターを構築した。これらのベクターは、乳房特異的導入遺伝子発現を確実に行わせるためのヤギβ−カゼインプロモーター、ならびに、その他の5'および3'制御配列を有する。キメラ抗体変異体は、マウス抗ヒトCD137抗体の可変領域を挿入することによって構築した。マウスの抗CD137 H鎖およびL鎖は、対応する可変領域をシークエンシングすることによって確認した。マウス免疫グロブリンの多様なファミリーに属する5'コード領域由来の配列を表すオリゴヌクレオチドの集団を整理した。マウス免疫グロブリンの配列は、個々に、5'プライマーとして使用し、ハイブリドーマRNAから調製したcDNAを増幅させ、さらに、得られたPCR生成物をクローニングおよびシークエンシングした。3'PCRプライマーは、定常領域の既知の配列から調製した。PCRプライマーは制限エンドヌクレアーゼ部位を含んでいたことから、得られた増幅配列は、発現ベクターに挿入できた。これらの配列をコンストラクトに挿入し、キメラタンパク質をコードしている遺伝子を作成した。
【0172】
抗CD137抗体遺伝子の可変領域のクローニングおよびシークエンシングに使用した方法は、次の段階1)〜5)を含む:1)cDNAは、ハイブリドーマRNAから調製した。RNAは、標準的な方法によってハイブリドーマから調製し、cDNAは、市販の反応キット(Reverse Transcription System、プロメガ(Promega)社、ウィスコンシン州マディソン)を用いて逆転写することによって調製した。2)cDNAは、特性付けが十分に行われているいくつかのマウスモノクローナル抗体のVHおよびVL領域のアミノ末端由来の既知の配列に基づくプライマーを用いたPCRによって増幅した。3)可変領域配列は、PCRによって作成した配列を、ネオマイシン耐性(neoR)選択マーカーを有するクローニングベクター内に挿入することによって増幅させ、さらに、 neoRコロニーを単離した。4)約6個のコロニーから調製したHおよびL鎖cDNAをシークエンシングし、各可変領域に対するコンセンサス配列を決定した。PCRアーチファクト由来の配列内に突然変異が導入されていないことを確認することが重要である。DNAシークエンシングは、セクエジェン(SequeGen)社(マサチューセッツ州ウーセスター)において、出来高払いで行った。5)ハイブリドーマ上清から単離したHおよびLタンパク質をシークエンシングし、正確なタンパク質配列を遺伝子配列由来の推定タンパク質配列と比較した。この段階は、クローニングされた遺伝子が機能性抗体鎖をコードしていることを確認するためのものである。タンパク質シークエンシングは、カージナル・ヘルス(Cardinal Health)社(カリフォルニア州サンディエゴ)において、出来高払いで行った。
【0173】
キメラ抗体用の独立したキメラIgGの重鎖および軽鎖コンストラクトの作出
上述の方法に従って得られた可変領域を用い、ヒトIgG1抗体内のヒト可変領域を置換した。本発明のひとつの実施形態では、IgG1発現ベクター内のヒト可変領域配列をマウスの可変領域配列と一緒に使用することにより、キメラヒト化抗体を作出した。 抗体発現ベクターは、天然のグリコシル化可能な型のIgG1 H遺伝子を含んでいた。IgG1グリコシル化部位は、CH2ドメイン内の297番の位置にあるAsn残基である。IgG1 H鎖の非グリコシル化型は、遺伝子配列内の部位特異的突然変異によってAsn297をGln297に変えることによって作成した。これによって3つのコンストラクトが得られた:L鎖、グリコシル化H鎖および非グリコシル化H鎖である。各コンストラクトの2つの型を用いて試験を行った。各コンストラクトは、制限酵素マッピングおよびサザンブロット分析によって評価し、トランスジェニック動物の作出に使用した。さらに、コンストラクトを一過性トランスフェクション実験に使用し、遺伝子操作したキメラタンパク質の生物活性を調べた。
【0174】
トランスジェニック動物の作出に使用したコンストラクトは、ヤギβ−カゼインプロモーター、ならびにその他の5'および3'制限配列を有しており、これらを用いることにより、乳房特異的な導入遺伝子の高レベル発現が確実に行われる。プロモーターおよびその他の調節要素の交差種認識(cross-species recognition)により、同一のコンストラクトを用いてトランスジェニックマウスおよびヤギを作出した。子が生まれたら、ヤギおよび/またはマウスは、グリコシル化レベルおよびADCC特性の増強についてスクリーニングを行った。制限酵素マッピングにより、コンストラクトの構造集積性を確認した。コンストラクトを用い、一過性のトランスフェクト細胞およびトランスジェニック動物を作出した。
【0175】
重鎖キメラの構築および発現ベクターへの挿入
重鎖キメラの構築を目的として、マウスIgG2a定常領域をヒトIgG1定常領域で置換したが、このとき、マウスリーダー配列を伴ったヒト抗体配列を含むBC2083発現ベクターを使用した(プラスミド1)。スプライスドナーサイトは、GからAへのサイレント突然変異によって排除した。サイレント突然変異とは、C末端付近のグリシンに対するコードを変化させない突然変異である。可変領域付近にあるBC2083発現ベクターにユニーク部位を入れた。N末端にDraIIIおよびPmIIIを導入し、ApaIは、重鎖定常領域のアミノ部分中に存在している。これらの遺伝子は、プライマーを用い、CMV-Zeo由来のzeo遺伝子をPCRすることによってBC2083のXhoI部位にクローニングし、p80 BC2083 zeo(プラスミド2)を得た。制限酵素部位をプラスミドに速やかに挿入するこの方法は、zeo遺伝子によって供与されるゼオシン耐性を利用したものである。ゼオシン耐性については、NZYCM寒天中、25μg/mlのゼオシンを用いて選択した。
【0176】
ヒトIgG1定常部分は、BC2083から切り出すことによってユニークApaIおよびXhoI部位に戻し、さらに、それをp80にクローニングすることによってp83 BC2083 DraIII IgG1(プラスミド3)を得た。このプラスミドは、重鎖可変領域に接しているユニークDraIII/PmlI部位およびApaI部位を有しており、それによって、ヒトIgG1定常領域コード配列に任意の重鎖可変領域が結合できた。
【0177】
抗CD137抗体の重鎖可変領域は、PCR手法を用い、アミノ末端にDraIIIおよびPmlIを導入し、C末端にApa部位を導入することにより、挿入用に調製した。ApaI部位は、天然では、ヒトIgG1定常領域のアミノ末端付近に存在する。PCRは、MHEおよびMHECをプライマーとし、PfuTurbo(ストラタジーン(Stratagene)社、カタログ番号600153-81)およびcDNAを用いて行った。PCRフラグメントは、pCR-BluntII-TOPO(インビトロジェン(Invitrogen)社、カタログ番号K28602)にクローニングし、プライマーpcr2.1fおよびpcr2.1bを用いてシークエンシングした。これによってp96が得られ、これは、DraIII−PmlIおよびApaIに接している重鎖可変領域を有する(プラスミド4)。
【0178】
β−カゼイン発現ベクターであるp100BC2083ヘビー(BC2197)(プラスミド5)は、p96 pCR-BluntII-Mayo-heavy DraIII-ApaIフラグメントを単離し、それを連結することによって構築し、DraIII-ApaI切断p83 BC2082 DraIII IgG1(プラスミド3)を切断した。
【0179】
標的アスパラギンをグルタミンに変えることによってグリコシル化を阻止することを目的とし、PCRによって重鎖コード配列を調製したが、これは、重鎖定常領域Nおよび重鎖定常領域Cをプライマーとし、BC2083由来のPfuTurboと共にpCR-Zero-Bluntにサブクローニングして行った。これにより、p76およびp77pCR2.1-Blunt-IgG1-重鎖−定常領域を得た。これらのプラスミドをシークエンシングすることにより、PCR中に定常領域に突然変異が生じていないことを確認した。ひとつの実施形態に従えば、p77中の抗CD137抗体のサブクローニング定常領域において、QuickChange XL Mutagenesis(ストラタジーン(Stratagene)社)キットおよび突然変異誘発性オリゴ類を用いて突然変異を起こさせた。このオリゴは、アスパラギン297をグルタミンに変え、近隣のBsaAI部位を除去することにより、スレオニンコドンのサイレント突然変異による制限酵素分析を用いたスクリーニングを可能にする。これにより、p88、p89およびp90pCR2.1-Blunt-IgG1-heavy-mutというプラスミドが得られた。PCRは、プライマーを用いてこれらのプラスミド上で行い、シークエンシング用フラグメントを調製した。
【0180】
軽鎖キメラの構築および発現ベクターへの挿入
軽鎖用には、発現ベクターとしてBC1060(プラスミド6)を使用した。可変領域をヒトκ定常領域へ融合させることを目的として、マウスのJ領域に2つの制限酵素部位を順に作出した。KpnI部位は、グリシンに対するコドンをGGGもしくはGGCからGGTに変えることによって導入した。ロイシンに対するコード配列は、CTGからCTTに変えることによってHindIII部位を作出した(プラスミド8)。
【0181】
PfuTurbo(ストラタジーン(Stratagene)社)を用いたPCRにより、κ鎖のヒト定常領域のコード領域は、プライマーを用い、コード領域の末端近くから始まり、天然に存在するSacI部位において、KpnIおよびHindIII部位を利用してBC1060から単離した。PCR産物は、ZERO BluntTOPO PCR W EC(インビトロジェン(Invitrogen)社、カタログ番号K286020)にクローニングした。これらのプラスミドをシークエンシングした。これにより、p85 pcr-blunt-1060κ constantrev(プラスミド7)およびp68 pcr-blunt-1060κ constant(プラスミド8)が得られた。
【0182】
同様に、プライマーを用いたPCRにより、cDNAから可変領域を単離し、pCR2.1-blunt-TOPOにクローニングすることによってp92 pCR2.1-blunt-κvariable(プラスミド9)を作出した。ここで、該可変領域は、340番のヌクレオチドの位置においてXhoI部位に隣接しており、731番付近のヌクレオチドの位置においてKpnIおよびHindIII部位に隣接している。これらのプラスミドについてシークエンシングを行った。
【0183】
軽鎖キメラは、まず、3片のDNAを用いてpCR-Blunt内で構築した。XhoIからSacIに至る骨格は、p86 pcr-blunt-1060κconstant revから得た。κ定常領域は、p85-Blunt-1060 κ-constant rev由来のHindIII-SacI片である。可変領域は、XhoI-HindIII片を用い、p92 pCR-Blunt-κvariable revから得た。コロニーは、プライマーとしてpcr2.1fおよびpcr2.1bを用いたPCRにより、863bpフラグメントの産生を検出することによって確認した。これにより、p94 pCR-BluntII-Mayo-kap-chim(プラスミド10)が得られた。このプラスミドは、XhoIおよびSacIを用いた切断によって684bpのフラグメントが得られることから確認した。
【0184】
マウス重鎖リーダー配列を有するImmunogenヒト軽鎖を含むβ−カゼイン発現ベクターBC1060内に軽鎖キメラを入れた。p94は、XhoI-SacIを用いて切断し、小片を単離した。BC1060は、KpnI-SacIで切断し、5206bpの断片を単離した。BC1060をKpnI、XhoIおよびPacIで切断し、大きな骨格を単離した。これら3つの断片を結合し、必要なプライマーを用いてコロニーをスクリーニングした。陽性プラスミドはBglIIで確認し、PCR生成物をシークエンシングした。このプラスミドはp104 BC1060 LC chim(BC2198)(プラスミド11)である。
【0185】
細胞培養発現ベクターの構築
軽鎖用の一過性発現ベクターの構築を目的として、p104 BC1060 LC chim(プラスミド11)由来のXhoIフラグメントをpCEP4のXhoI部位に連結することにより、p106およびp107 pCEP4-Mayo-LC(#2203)(プラスミド12)を得た。陽性コロニーは、オリゴCEPFおよびKVCを用いたPCRによって検出した。
【0186】
重鎖用の一過性発現ベクターの構築を目的として、BamHIで切断したpCEP4内にp100 BC2083重鎖のBamHIフラグメントをクローニングした。コロニーは、HVC 09およびCEPFを用いたPCRによってスクリーニングした。これにより、プラスミドp110 pCEP4-BamHI-HC(#2202)(プラスミド13)を得た。
【0187】
可変領域を含むp110 pCEP4-BamHI-HC(#2202)のKpnI-AgeI小片を、KpnI-AgeI切断p88 pCR2.1-Blunt-IgG1-heavy-mutに連結することにより、抗CD137抗体の重鎖可変領域を有するキメラを調製した。これにより、プラスミドp111 pCR2.1-Mayo-IgG1-heavy-mut(プラスミド14)が得られた。このプラスミドは、BsaAI-PstIで確認した。
【0188】
一過性発現ベクターの構築を目的として、キメラ抗体コード領域を含むp111由来の小さいXhoIフラグメントを、pCEP4のXhoI部位に挿入した。コロニーは、HVC 09およびCEPFを用いたPCRによって確認した。これにより、p112 pCEP4-Xho-Mayo-IgG1-aglycos(BC2206)を得た。期待されたフラグメントは、EcoRV-HindIII切断(2479bp)およびBamHI切断(1454bp)によって得られた。β−カゼイン発現ベクターの構築を目的として、キメラ抗体コード領域を含むp111由来の小さいXhoIフラグメントをBC2083のXhoI部位に挿入した。コロニーは、オリゴHVC 09およびCA5を用いたPCRによって確認した。MluI-Eco47III-NotIを用いて切断することによって、期待された2479bpのフラグメントが得られ、一方、BamHIを用いて切断することによって、期待された1454bpのフラグメントが得られた。
【0189】
IgG1突然変異体のクローニング
使用した抗CD137抗体は、マウス乳汁中に発現された。マウスで発現させるために、BC2197(p100 BC2083 heavy)および(BC2198)p104 BC1060軽鎖に使用した構築技術を利用した。同様に、親プラスミドは、重鎖に対してはBC2083を、軽鎖用にはBC1060を使用した。基本的には、親プラスミドのリーダー配列を含む可変領域は、抗CD137抗体cDNAの重鎖および軽鎖の可変領域由来のcDNA配列よ交換した。発現ベクターの定常領域は、重鎖はIgG1に、および軽鎖はκ鎖に、クローニングした配列で置換した。
【0190】
IgG1配列のクローニング
使用した抗体の重鎖は、インビトロジェン(Invitrogen)社から購入したcDNAからクローニングした。PfuTurboを用いたPCRは、胎盤cDNAおよび以下に示すプライマーを用いて行った。C末端プライマー61960C11は、野生型配列と比較すると塩基が変化しており、スプライス供与部位が破壊されている。993pのフラグメントをZeroBluntにクローニングした。配列は、Glm(3)からなるひとつの配列であることを示していた。ヒト血清由来のγグロブリンに関しては、継承的な差異がある(グラブ(Grubb)、1956;グラブ(Grubb)およびローレル(Laurell)、1956)。Kmに関しても同様な系がある(κマーカー、以前はInvと称されており、eInhibitrice Virmiを表す)。これは、コーカサス系アロタイプGlm(f)またはGlm(3)であり、出発プラスミド中に見出されたようなアフリカ系アロタイプGlm(z)またはGlm(17)の代わりである。
【0191】
その他のアロタイプをクローニングすることを目的として、上述に従って脳cDNAからPCRを行い、プラスミドp116、p117、p118およびp119を得た。これらのプラスミドはいずれも配列が誤っていた。例えば、ほとんどのプラスミドは、配列末端のApaIおよび/またはXhoI部位を消失していたが、これは、PCRプライマーによってもたらされたと考えられる。鋳型としてp116または脳cDNAを用いて再度PCRを行った。
【0192】
p116のPCRにより、121、122および123が得られた。脳cDNAのPCRによって124が得られた。プラスミド121からの挿入体を用いてp133、p134、p135およびp136を作成し、これらは、BC2083 heavy Glm(17)であり、100c BC2083 heavyをApaIおよびXhoIで切断し、また、p121 ZeroBlunt-IgG1 Glm(17)をApaIおよびXhoIで切断し、これらを連結し、さらにカナマイシン上で選択したものである。p133を使用した。
【0193】
マウスでの発現に対しては、プラスミドBC2083内の可変領域のみを変換したが、該プラスミドは、マウスリーダー配列を有するヒト抗体配列を含む発現ベクターである。該プラスミドは、IgG1定常領域の末端にスプライスドナーサイトを有するが、この部位は、グリシンに対するコードを変化させないG→Aへのサイレント突然変異によって排除される。
【0194】
ヤギでの発現を増幅させることを目的として、定常領域をIgG1定常領域に変え、続いてクローニングを行った。p114由来のクローニングした定常領域を用い、p137およびp138を作出した。p100 BC2083 heavy(BC2197)をApaI-XhoIで切断し、114 ZeroBlunt-IgG1 Glm(3)をApaIおよびXhoIで切断し、これらを連結することによってp138(BC2228)を作出した。p121(Glm(17))由来のクローニングした定常領域を用いてp133、p134、p135および136 BC2083 heavy Glm(17)を作出した。κ定常領域についても、GTC Biotherapeuticsでクローニングしたものと置換した。SEQ.ID.NO.1:AGGGTACCAAGCTTGAAATCAAACGAAC−κ Constant Human H01;SEQ.ID.NO.2:5'AAGGGTCCGGATCCTCGAGGATCCTAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTC−Human κC#7734。
【0195】
皮膚線維芽細胞系の調製
ヤギ皮膚の新鮮な生検サンプル由来の線維芽細胞は、インビトロ一次培養で維持した。概説すると、Ca++不含およびMg++不含リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で皮膚サンプルを細かく刻み、EDTA中、希釈トリプシンを用いて採収して細胞1つずつの懸濁液にし、37℃で培養した。コンフルエント細胞をトリプシン処理し、継代培養した。細胞のアリコートは、将来的な使用に備えて液体窒素中で低温保存した。
【0196】
トランスフェクト細胞系の分析
トランスフェクトした細胞は、導入遺伝子(例えば、β−カゼイン、キメラ抗CD137HおよびL鎖のcDNAなど)に対する特異的プローブを用いたサザンブロット分析によって特性付けを行い、導入遺伝子のコピー数を確認し、再配列の可能性を判断した。各細胞系はFISH法による分析も行い、単一組込みを確認し、染色体の位置を決定した。細胞遺伝学的分析を行って細胞系の核型を確認した。
【0197】
FISH法
間期FISH法については、拡張した各コロニー由来の数百個の細胞をフィルター上に固定し、ハイブリダイゼーションを行って導入遺伝子特異的ジゴキシゲニンラベルプローブを増幅させた。中期FISH法については、細胞をLab Tek Chamber slides(ヌンク(Nunk)社、ニューヨーク州ロチェスター)上で培養し、5−ブロモ−2'−デオキシウリジン(BrdU)を用いて複製バンディングを行った。プローブの結合は、FITC−コンジュゲート抗ジゴキシゲニンで検出し、染色体は、4',6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いて交差染色した。画像は、Zeiss Axioskop microscope(ツァイス・イメージング(Zeiss Imaging)、米国ニューヨーク州ソーンウッド)、Hamamatsu digital camera(ハママツ(Hamamatsu)、米国ニューヨーク州ブリッジウォーター)、およびImage Pro-Plus software(メディア・サイバネティクス(Media Cybernetics)、米国メリーランド州シルバー・スプリングス)を用いて捉えた。大多数のプローブは比較的大きく、検出が容易であった。個々のIgG H鎖およびL鎖に対するプローブは、比較的短いcDNA配列によってコードされており、それ自身で良好な解析を得るには小さすぎた。これらの小さいプローブは、ヤギβ−カゼインに対する乳汁特異的プロモーター由来の配列と混合した。
【0198】
細胞遺伝学的分析
ドナートランスフェクト繊維芽細胞系について細胞遺伝学的分析を行った。導入遺伝子プローブは、ニック翻訳により、ジゴキシゲニン−dUTPを用いてラベルした。変性染色体に結合するプローブは、FITC−コンジュゲート抗ジゴキシゲニンまたはホースラディッシュパーオキシダーゼ−コンジュゲート抗ジゴキシゲニンを用い、次にFITC−コンジュゲートチラミドを使用することによって検出した。染色体結合パターンは、DAPIを用いて可視化した。ヤギには60個の染色体があり、それらはすべて端部動原体型(動原体が中心寄りではなく一方の末端に存在する)である。中期の展開に関して、染色体の消失、重複もしくは大量の再配列などの大きな異常の出現を調べた。トランスジェニックヤギの第一世代を作出するために使用した細胞系は、核型としては正常であり、β−カゼイン御プロモーターおよびその他の基本的調節要素と共に、構造的に完全な形のキメラ抗CD137H鎖およびL鎖遺伝子を有していた。
【0199】
キメラ抗ヒトCD137を乳汁中に発現するトランスジェニック動物の作出
キメラ抗ヒトCD137抗体のグリコシル化型および非グリコシル化型を作成した。生物活性の試験に十分な量の抗体を乳汁から精製した後、それらは基本的に同レベルで産生されたものの、2つの型の活性特性は異なっていることがわかった。
【0200】
キメラ抗体用の導入遺伝子コンストラクトを用いてトランスジェニックマウスおよびヤギを作出した。トランスジェニック動物は、H鎖およびL鎖コンストラクトの1:1混合物を導入することにより、成熟抗体を産生した。L鎖コンストラクトは、グリコシル化または非グリコシル化H鎖コンストラクトと混合した。特に、乳汁中の生物活性生成物の相対および絶対レベルについては、ウェスタンブロット分析およびインビトロにおける抗体結合測定によって測定した。
【0201】
トランスジェニックマウス
トランスジェニックマウス内で誘導可能な系の可能性を調べるための実際的な方法としては、第一世代(F1)マウスの乳汁中に発現されたトランスジェニックタンパク質を評価することが挙げられる。数種のトランスジェニック動物では、マイクロインジェクション後、元になる導入遺伝子コンストラクトが細胞分裂中に染色体部位に組み込まれることが確認されている。故に、始祖個体はキメラであり、導入遺伝子の発現レベルに影響を与えることができる。これらの染色体組み込み部位は、次世代で分離し、安定で均質なトランスジェニック動物系が形成される。故に、F1マウスは、導入遺伝子の発現、およびそれらが産生する生物学的生成物の安定性を決定するためにふさわしいモデルである。さらに、マウスに乳汁を分泌させるためには、それらを成熟させ(約2ヶ月を要する)、交尾させ、出産させねばならない。分析後、分泌レベルが安定しており、使用したコンストラクトが有効であったことを判断する。
【0202】
調製した各コンストラクト由来の直線DNAは、CsCl濃度勾配で精製後に電気溶出を行い、さらに、前核マイクロインジェクションによってトランスジェニックマウスを作出した。トランスジェニック始祖動物は、尾組織DNAのPCR分析によって確認し、相対コピー数はサザンブロット分析を用いて決定した。トランスジェニック第一世代導入遺伝子保有「始祖」(F0)雌は、各コンストラクト(グリコシル化型および非グリコシル化型)について多数作出した。これらのF0マウスを成熟時に交尾させ、乳汁分泌を開始させた。それらの乳汁について、ヤギ抗ヒトFc抗体を用いて展開したウェスタンブロットで分析し、ヒトCH領域を有する構造的に無傷なキメラ抗体を分泌するマウスを確認した。
【0203】
最良の始祖は、乳汁中に抗体を理論的に最大量発現する健康な個体と定義され、それらを繁殖させてF1雌を作出し、これらを用い、インビトロおよびインビボでの抗体試験に供するのに十分な量の乳汁を産生させた。
【0204】
トランスジェニックヤギ
予め規定した遺伝子を有するトランスジェニックヤギは、当分野で日常的に行われている核移植技術を用いて作出した。核移植では、最初の数世代でみられる導入遺伝子モザイク現象に伴う問題を排除できるが、これは、導入遺伝子細胞系由来のすべての動物が十分に遺伝子転換されていなければならないからである。導入遺伝子コンストラクトは、標準的なトランスフェクト法(例えば、リポフェクションまたはエレクトロポレーションなど)で一次細胞系に導入した。組換え一次細胞系については、導入遺伝子のコピー数、組込みおよび組込み部位などの重要な性質についてインビトロでスクリーニングを行った後、トランスジェニック動物の作出に使用した。雌のヤギ皮膚繊維芽細胞を用い、トランスフェクトされたトランスジェニック細胞を作り、これを核移植用の核ドナーとして使用し、すべて雌の子を得た。故に、組換えタンパク質を含む乳汁は、F0ヤギから直接得られた。乳汁中の生物活性生成物の相対および絶対レベルはウェスタンブロット分析によって測定した。
【0205】
結果
抗体の精製および特性付け
4つの別異のキメラ抗CD137抗体を作成した。ひとつの変異体は、Asn297をグルタミンに突然変異させることによって非グリコシル化した。この抗体変異体は、作用試験において負の対照としたが、これは、非グリコシル化IgGsはFcレセプターに結合しない、またはADCCにおいて不活性であることが知られているからである(ノーズ(Nose)ら、1983)。別の2つの変異体は乳汁から調製し、ひとつはマウス乳汁由来、もうひとつはヤギ乳汁由来であった。4番目の抗体変異体は、ヒト細胞系HEK 293細胞内で発現させた。
【0206】
抗体変異体のうちのひとつはヒト細胞内で発現された。ヒト胎生腎293細胞系(293)は、効率的にトランスフェクトされることから、一過性トランスフェクション技術に適している。EBV EBNA1タンパク質を安定して発現する遺伝子変異体(293E)は、ベクター骨格内にEBVのoriPが存在する場合には、タンパク質発現が極めて高いことから、これを使用した。
【0207】
oriP/EBNA1系で発現が高められたことは、一過性トランスフェクションを行った場合には、エピソームの複製とは無関係だと考えられるが、これは、EBNA1陽性細胞内のDNA複製開始を担っているoriPのDSドメインを除去しても導入遺伝子の発現は低下せず、一方、DSではなくFRを除去すると発現が大幅に低下するからである。従って、発現の増加は、oriPのEBNA1依存性エンハンサー活性の複合効果およびプラスミドの核移入の増加によるものと考えられ、これは、EBNA1内に核局在シグナルが存在するからである(ファーム(Pharm)ら、2003)。
【0208】
CMVプロモーターからの高レベル構成的発現用に設計されたベクターであるpCEP4(カタログ番号#V04450;インビトロジェン(Invitrogen)社、米国カリフォルニア州カールスバッド)を用いて抗体を発現させた。293EBNA/ebvベクター宿主システムは、COS7/SV4oriに基づく系よりも非常に進歩的であった(ヤランコ(Jalanko)ら、1988;シェン(Shen)ら、1995)。組換えタンパク質の高レベル発現に重要なことは、宿主細胞系内で活性が高いプロモーター(例えば、293細胞内で非常に強力であるCMVプロモーターなど)を有するベクターを使用することであり、これは、構成的に発現されたアデノウイルスE1タンパク質によってトランス活性化されるからである(デュロチャー(Durocher)ら、2002)。
【0209】
ヒトCD137に対して特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(GW)は、以前に記載された標準的な方法に従い(ウィルコックス(Wilcox)ら、2002,J.Clin.Inve.,109:651-659)、ヒトCD137の細胞外部位とマウスIgG2a Fc領域との融合タンパク質を用いて免疫したBALB/cマウスの脾臓B細胞をマウスプラズマ細胞腫に融合させることによって作出した。抗CD137抗体は、ヒトCD137に対するマウスモノクローナル抗体(mAb)のキメラ型であり、その定常領域は、重鎖がヒトIgG1定常領域で、軽鎖がヒトκ定常領域でそれぞれ置換されている。この抗体は、β−カゼインプロモーターを用いることによってマウスおよびヤギの乳汁中に(ポロック(Pollock)ら、J.Immunol.Meth.,231:147-157)、あるいは、一過性トランスフェクションにより、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを用いることによってHEK 293細胞内で発現された。ヤギ乳汁は、トランスジェニックヤギをホルモン誘導によって乳汁分泌させることによって得た(エバート(Ebert)ら、1994,Biotech.,12:699-702)。抗体は、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。ヤギ乳汁抗体は分泌から9日後に精製し、初期の搾乳由来の初乳に混入しているヤギ抗体を避けた。ヤギ乳汁由来キメラ抗CD137抗体の同様な製剤は、分子ふるいクロマトグラフィーにより、90%がモノマー、10%が凝集体であることがわかった。抗体濃度は、280nmにおける吸収によって測定し、転換係数として、1.4mg/mlを1ODとする値を用いた。
【0210】
糖の分析
アスパラギン結合オリゴ糖類は、1%のβ−メルカプトエタノール含有の50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中、PNGaseを用い、37℃で一晩かけて解離させた。サンプルは、Voyger-DE PRO Biospectrometory Workstation(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社、米国カリフォルニア州フォスターシティ)を用い、マトリックス補助レーザー着脱イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)マススペクトロメトリー(MS)分析によって分析した。MALDI-TOF MS分析は、陽イオン中、反射モードで2,5−ジヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−5−メトキシ安息香酸(9:1、v/v)マトリックスを用いて行った。マウス乳汁由来抗体中の主要糖質(63%)は、非フコシル化Man5であった。図1は、PNGase F分解によって酵素から解離されたN−グリカン類のMALDI-TOF MS分析を示している。マウス乳汁由来の抗体から得られた結果と細胞培養由来の抗体から得られたそれを比較すると、マウス乳汁由来の抗体の主要オリゴ糖はMan5であることが明かである。Man5は、5マンノース残基および2GlcNAc残基を有する。
【0211】
PNGaseを用いて37℃で一晩かけて解離させた2−アミノ安息香酸ラベルオリゴ糖について、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。80μgの抗体を、PNGaseを用いて37℃で一晩かけて処理した。サンプルは、10kDaフィルターを通して濾過し、Biodialyzer中、水に対して一晩透析した。サンプルを乾燥させ、2−アミノ安息香酸でラベルし、洗浄後、過剰なラベルを除去した。乾燥するまで水を蒸発させた後、500μlの水でサンプルを再構成し、アニュミュラ(Anumula)らの記載した方法(カムスコ(Cammusco)ら、2000,Anim.Biotech.,11:1-17)に従い、蛍光検出器(励起波長230nm、発光波長425nm)を配備したHP100システムを用いたAsahipak NH2P-50 4Dカラム(4.6×250mm、フェノメネックス(Phenomenex))に100μlのサンプルを注入した。Man5およびMan6の標準物質はプロザイム(Prozyme)から購入した。HPLC分析によって定量を行い、その結果を図2に示す。マウス乳汁由来の抗体から得られ、Man5標準物質と同時に溶出した分子種は、マンノースオリゴヌクレオチドであり、Endo H感受性を示すことが確認された(マレー(Maley)ら、1981;タレンティノ(Tarentino)ら、1974)。Endo Hで処理した後にはMan5ピークが消失したことから、マウス乳汁由来の抗体サンプル中で36.5分に出現したピークの同一性が確認された(図2および3)。コアフコース含有G1F(16%)およびG2F(21%)、ならびに少量の非フコシル化G1およびMan6などの微量分子種も存在している。オリゴマンノース構造を有するニワトリIgGは、Man8およびGlc1Man8に対応する2068および1906の分子種を有する(ラジュ(Raju)ら、)。Man6は1420の位置に検出されるが、1582、1744および1906の位置のより高マンノース型オリゴ糖類はきれいに消失している。対照的に、HEK 293細胞由来の材料中に存在する主要分子種は、フコシル化G0F(55%)およびG1F(37%)であり、微量種としてG2F(8%)も存在する。HEK 293細胞は、役に立たないシアリル化タンパク質を高レベルで産生する
ことが知られている(チトラル(Chitlaru)ら、2002;チトラル(Chitlaru)ら、1998)。
【0212】
図1(MSデータ)および図2は、乳汁由来抗体および細胞培養由来抗体の糖質組成が著しく異なっていることを示している。図2は、蛍光検出器を配備したHPLCによって得られたオリゴ糖マップの比較であり、マウス乳汁由来抗体中の主要糖質(63%)は非フコシル化Man5であり、一方、細胞培養由来抗体中の主要糖質はフコシル化されていることを示している。非グリコシル化抗体はピークを示さなかった。HPLCデータから、乳汁由来抗体の主要オリゴ糖はオリゴマンノースであり、一方、細胞培養由来抗体ではオリゴマンノースを欠いていることが示された。
【0213】
コンカナバリンA(Con A)は、末端マンノシル残基に結合するレクチンである(ゴールドステイン(Goldstein)ら、1965a,Biochim.Biophys.Acta.;ゴールドステイン(Goldstein)ら、1965b,Biochim.)。発明者らの知見と一致して、乳汁由来抗体はオリゴマンノースを有しており、コンカナバリンAに結合し、α−メチルマンノシドと共に溶出した(図4)。細胞培養由来抗体中の主要分子種はG0Fであり、これは、末端GlcNAcを有し、コンカナバリンAへ結合するとは考えられなかった。図4は、トランスジェニック動物の乳汁由来の抗体がオリゴマンノースを含有していることを示している。対照的に、使用した非グリコシル化抗体は、同じ実験において結合しなかった。
【0214】
HEK 293細胞由来の材料中に存在する主要分子種は、フコシル化G0F(55%)およびG1F(37%)であり、微量種としてG2F(8%)も存在する。このことは、細胞培養由来抗体は完全にフコシル化されていることを意味する。HEK 293細胞は、役に立たないシアリル化タンパク質を高レベルで産生することが知られている(チトラル(Chitlaru)ら、2002,Biochem.J.,363:619-631)ことから、細胞培養由来抗体はシアル酸修飾を欠いている。
【0215】
細胞培養由来抗体上のグリコシル化の大部分がフコシル化であることとは対照的に、マウス乳汁由来抗体の主要糖質(63%)は非フコシル化Man5である。マウス乳汁由来抗体の主要分子種はMan5標準物質と同時に溶出した。HPLC分析においては、G1FがMan5と接近して溶出したが、該ピークは、マンノースオリゴ糖であり、Endo H感受性の現れであったことが確認された(マレー(Maley)ら、1981,J.Biol.Chem.,256:1088-1090)。Endo Hで処理後は、マウス乳汁由来抗体サンプル中の36.5分のピークが消失した(図2D)。コアフコース含有G1F(16%)およびG2F(21%)、ならびに少量の非フコシル化G1およびMan6などの微量分子種も存在している。ヤギ乳汁由来材料中の糖類のMALDI-TOF分析から、マウス乳汁由来材料で見出されたよりも、マンノース含有糖類の分布範囲が広いことが明らかになり、最も注目すべきことは、マンノシダーゼプロセシング中の欠損を示唆するMan7およびMan8が存在することである。このことにより、HPLC分析の定量がより困難になったが、これは、非フコシル化糖類が広範囲にわたって広がったからである。HPLC分析から、Endo H感受性の多数のピークの存在が明らかになり、それらは、糖の総量の10〜20%を占めていた(図2)。
【0216】
フローサイトメトリー分析
キメラ抗体の別異の型の結合については、FACS分析によって評価した。5%FBS含有PBS中、1μg/mlの抗体を加えて2×105個の細胞をインキュベートした。抗体は、1:100希釈したFITCラベルヤギ抗ヒトFc(ジャクソン・イムノ・リサーチ・ラブス(Jackson Immuno Research Labs))を用いて検出し、FACSCalibur(ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson))によって分析した。図5に示すデータは、試験したすべての抗体は、起源によらず同様に抗原に結合したことを示している。抗DNP抗体の対照は、予想通り結合しなかった。
【0217】
表面プラスモン共鳴(surface plasmon resonance)
CD16aを用いたIgG1の相互作用の動態は、BIAcore 2000装置およびCM5センサーチップ(バイオコア(BIOCORE)、スウェーデン国ウプサラ)上での表面プラスモン共鳴によって測定した。NHS/EDCカップリング条件を用いてチップ上に抗HPC4抗体を固定した。抗体濃度をpH5.0において20〜50μg/mlにすることにより、11,000RUのチップが得られた。30μg/mlのタンパク質を3分間かけて注入し、0.15MのNaClおよび0.005%(v/v)のP20界面活性剤を含むpH7.4の10mM Hepes緩衝液(HBS-P緩衝液、BIA core AB)に1mMのCaCl2を添加した溶液を流速5μl/分で流すことにより、CD16a-HPC4がこの抗体表面に捕獲された。次に、被験抗体を上記の結合緩衝液で希釈して濃度を50μg/mlとし、流速を20μl/分として、捕獲されたCD16a上に1分間かけて注入した。解離は3分間モニターした。次に、HBS-P緩衝液中で調製した5mMのEDTAを3分間注入することによって該表面を変性させた後、次の捕獲−結合−変性のサイクルに移行した。図13は、乳汁由来の抗体が細胞由来の抗体よりも結合力が強いことを示している。この増強されたADCC活性は、NK細胞レセプターであるCD16に対する親和性の上昇を反映したものであるのかを確認するために、測定を行った。表面プラスモン共鳴測定を用い、固定されたCD16に対するの多様な抗体の結合を測定した。乳汁由来抗体は、細胞由来抗体よりも結合が強かった(図13)。
【0218】
細胞アッセイ
ヒト腎癌細胞786-Oおよびヒト胚生腎(HEK)293細胞はATCCから購入した。786-Oは、腎細胞腺癌由来の癒着性上皮細胞である(ウィリアムズ(Williams)ら、1978,In Vitro,14:779-786)。細胞は、1.5g/Lの炭酸ナトリウム、4.5g/L のグルコース、10mMのHEPESおよび10mMのピルビン酸ナトリウムを含有するように調製した2mMのL−グルタミン添加RPMI 1640培地(90%)+ウシ胎仔血清(FBS)(10%)中で増殖させた。
【0219】
CD137コード配列を発現するpCEP4ベクターを用いてCHO細胞をトランスフェクトした。クローンはヒグロマイシンを用いて選択することによって単離し、細胞表面発現に対するFACSによってスクリーニングし、単一のクローンを使用した。
【0220】
ADCCアッセイ
乳汁由来抗体および細胞培養由来抗体の相対ADCC活性を調べることを目的として、起源を異にする同一の抗体を調製した。4つの別異の型のキメラ抗CD137抗体を調製した。ひとつの変異体は、Asn297をグルタミンに突然変異させることによって非グリコシル化されていた。この抗体変異体は負の対照としたが、これは、非グリコシル化IgGsはFcレセプターに結合しない、またはADCCにおいて不活性であることが知られているからである(ノーズ(Nose)ら、1983,PNAS 80:6632-6636)。別の2つの変異体は乳汁から調製し、ひとつはマウス乳汁由来、もうひとつはヤギ乳汁由来であった。4番目の抗体変異体は、一過性にトランスフェクトしたヒト細胞系HEK 293細胞内で発現させた。
【0221】
786-O細胞は、1:50Versene(インビトロジェン(Invitrogen)社)を用いて回収し、増殖培地中に再懸濁し、Na251CrO4(1μC/μl)を用いて1.5時間かけてラベルし、その後、RPMIを用いて細胞を3回洗浄した。エフェクター細胞は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)であり、これは、ヴァン・エップス(van Epps)らによる記載(ヴァン・エップス(van Epps)ら、1999,J.Viol.,73:5301-5308)に従って調製した。エフェクター:標的の比率は200:1としたが、これは、解凍後のPBMCsの生存率がわずかに40〜60%にすぎないからである。細胞は37℃で12時間共培養し、計数用に25μlの上清を移した。標的細胞に、抗体を含む等容量の培地(PBMCs不含)を加えてインキュベートすることにより、自発的な放出が確認された。総放射活性は、標的細胞に、1%のTriton-X100(シグマ(Sigma)社)含有の等容量の培地を加えてインキュベートすることによって測定した。特異的溶解%は次の式に従って計算した:[(E−S)/(T−S)]*100。ここで、Tは総放射活性、Eは実験的放出量、Sは自発的放出量であって、19±3%であった。
【0222】
これらの製剤のADCC活性を調べることを目的として、CD137を発現する腫瘍細胞系を確認した。786-Oは腎細胞腫瘍細胞系であり、少量のCD137およびHER2を発現する。キメラ抗CD137抗体の別異の型の結合を比較することを目的として、FACSを使用した。この分類によれば、すべての抗体は同等に結合した(図5)。しかしながら、ADCCアッセイにおいて活性を測定したところ、抗体の効率は大きく異なっていた。乳汁由来の2つの抗体は活性であったが、細胞培養由来のものは同等に結合したものの、全く活性がなかった(図6)。細胞無しでは細胞毒性がなかった(すなわち、偶発的放出)ことから、抗体自身は殺傷性ではないことを示している。図6においては、トランスジェニック動物の乳汁中に産生された分子はADCC活性が増強されていることを示している。この特徴により、トランスジェニック乳汁由来抗体が標的細胞(例えば、腫瘍細胞など)を殺傷する能力が高められる。使用した対照は、標的細胞に結合しない抗DNP抗体およびFcレセプターに結合しない非グリコシル化抗CD137抗体であった。
【0223】
CD137に対する発現ベクターを用いてトランスフェクトしたCHO細胞に由来するこれらの多様な製剤のADCC活性についても調べた。ここでも、すべての抗体製剤はトランスフェクト細胞に同等に結合した(図11)。乳汁由来の抗体は、細胞培養由来の抗体の2倍の活性を有していた(図12)。
【0224】
いくつかの実施形態における増強されたADCC活性は、重鎖定常領域のグリコシル化上にフコースを欠いていたことによる。マウス乳汁中では、フコースではなく、グリコシル化は、ほとんどの場合前駆体Man5GlcNAc2である。しかしながら、高マンノース型分子種は存在しないことから、何らかのプロセシングが起こっている。乳汁由来の抗体Man6は1420の位置に検出できるが(図1)、1582(Man7)、1744(Man8)および1906(Man9)の位置の高マンノース型オリゴ糖類は完全に消失していることから、マンノシダーゼIを介した何らかのプロセシングが起こっていることが示唆される。
【0225】
N−アセチルグルコサミニミルトランスフェラーゼI(GnT-I)は、成長する糖質鎖のゴルジα−マンノシダーゼII感受性を導く重要な酵素である。この酵素は、機能が明らかにマウス乳房内に限定されているが、これは、グリコシル化が阻止されるとMan5GlcNAc2が蓄積するからである(リ(Li)ら、1978,J.Biol.Chem.,253:6426-6431)。この蓄積により、この酵素が局在している内側ゴルジコンパートメント内に抗体が長くは留まらないことになる。この鎖にGlcNAcが転移できないことから、ゴルジ−α−マンノシダーゼIIによる解裂が阻止される。ここで、ゴルジ−α−マンノシダーゼIIは、N−アセチルグルコサミニミルトランスフェラーゼII(GnT-II)およびガラクトシルトランスフェラーゼによる更なるプロセシングを可能にする酵素である。GnT-II修飾の後、1,6−フコースが付加されるが、このことは、オリゴマンノース構造がなぜフコシル化されていないのかを説明するものである(ロングモア(Longmore)ら、1982,Carbohy.Res.,100:365-392)。このIgGのオリゴマンノースグリコシル化型は、N−アセチルグルコサミニミルトランスフェラーゼI活性が欠損しているLec1細胞、CHO細胞で産生されていることがこれまでに確認されている(ライト(Wright)ら、1994,J.Exp.Med.,180:1087-1096)。補体を媒介とする溶血およびFcRI結合が欠損していることがわかっている。その他の抗体よりも、補体活性化に対する別の経路のC3に実質的によく結合した(ライト(Wright)ら、J.Immunol.,160:3393-3402)。
【0226】
ヤギ乳汁由来の抗体は、さらに異なったグリコシル化を示していた。材料は処理を受けたG1FおよびG2Fであったが、マンノース含有オリゴ糖類の範囲はMan5〜Man8であった(図1)。
【0227】
フコースの消失が少ないことは、ADCC活性の増強に大きな影響を及ぼす。抗体の重鎖はダイマーである。重鎖のグリコシル化がすべてに対して生じるか、または全く生じなかった場合には、抗体は、重鎖の両方すべてにおいてオリゴマンノースを有するか、または、重鎖の両方において処理を受けたマンノースであるMan3GlcNAcを有することになり、混合ダイマーは存在しないことになる。ADCCレベルが高いことから、各鎖はそれぞれ無関係にグリコシル化され、ひとつの鎖のみが活性増強のためにフコースが欠失している。抗体鎖は小胞体内で多量体化(multimerize)するが、グリコシル化はゴルジ体内で完了する。重鎖はそれぞれ独自にグリコシル化され、高マンノース型は20%であり、両方の鎖がオリゴマンノースを有する抗体分子はわずかに4%であり、64%は、両鎖とも処理を受けたマンノース有しており、残りの32%は、一本はオリゴマンノースを有する鎖であり、他方は処理を受けたマンノースを有する鎖である。これにより、抗体分子のうちの36%が少なくとも1本のオリゴマンノース鎖を有することになる。故に、ADCCの増強には、フコースを欠く1本の重鎖があれば十分だと考えられる。これは、免疫グロブリン分子へのFcレセプターの非対称結合を考えるときに、理に適っており、そのような結合においては、おおよそ、D1領域がひとつの鎖に結合し、D2領域が他方の鎖に結合する(ラデヴ(Radaev)ら、2002,Mol.Immun.,38:1073-1083)。故に、フコシル化はひとつのドメインへの結合に影響を及ぼすのみであり、親和性の増強に対してはこれで十分である。これまでの研究において、ADCCの同様な上昇は、フコシル化抗体が91%のフコースを有し、フコース消失抗体が72%のフコースを有している場合に観察されている(シンカワ(Shinkawa)ら、2003,J.Biol.Chem.,278:3466-3473)。
【0228】
このように抗体密度の低い細胞上で実験がこれほど順調に行われたことは驚くべきことであった。IgG1からフコースを除去することにより、ADCC活性(該活性はNK細胞の効果的な活性化の結果として表れる)に必要な抗原量を減らすことができることが示されている。おそらく、この効果は、CD137をほとんど発現しない細胞系を用いることによって優れた結果が得られたことについての説明を与えるものである。
【0229】
マウス乳汁中で産生された抗体は、ヤギ乳汁由来の抗体よりも、高濃度では活性が高かった。ヤギ乳汁からの抗体製剤は10%の凝集体を含んでおり、それらは、標的細胞に結合することなく、PBMCsに直接結合できる。この非生産的結合がPBMCsの活性を阻止していると考えられる(キップス(Kipps)ら、1985,J.Exp.Med.,161:1-17)。
【0230】
故に、トランスジェニック動物の乳汁はADCC活性が増強した抗体の良好な供給源である。昆虫細胞内で産生された抗体は、ほ乳類細胞において産生された同一抗体よりもより効果的だという報告がある(ラング(Lang)ら、2004)。その他の系についても試みられてはいるが、成功例は示されていない。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)で産生された抗体はADCC活性が増強されていなかったが、これは、非グリコシル化抗体およびグリコシル化抗体の混合物だったからだと考えられる(ワード(Ward)ら、2004)。酵母内で産生されたキメラ抗体は、細胞培養由来のものと同等のADCC活性を有していたことが報告されている(ホロヴィッツ(Horowitz)ら、1988)。FcγIIIbを活性化することによってもサイトカイン類の分泌が促される。
【0231】
いくつかの実施形態では、フコース含有抗体は、レクチンカラムに抗体混合物を通すことにより、非フコシル化抗体から分離できる。
【0232】
以上の記述は、本発明のすべての側面もしくは実施形態を示すものではなく、また、如何なる意味においても本発明を制限するものではない。付随する図は、本明細書に取り入れ、かつ、その一部を構成しており、本発明の実施形態を図示するものであり、発明の詳細な説明と共に、本発明の原理を説明するものである。
【0233】
本明細書において言及しているすべての出版物および特許出願は、これは、各出版物または特許出願が、特に参照として取り入れることを必要とされているかのように、参照として本明細書中に取り入れておく。
【0234】
本発明は、特定の実施形態と関連づけて記載しているが、更なる修飾が可能であることは自明であり、本出願は、本発明の任意の修飾、使用法および適用を網羅するものである。ここで、発明とは、一般的に、発明の原理、ならびに、本発明に関連する分野内の既知のもしくは通常の実験の範囲内であり、かつ、本明細書に説明されている基本的な特徴にあてはめることができるような本発明の開示の裾野部分を含む。
【0235】
本明細書の参考文献の引用は、該参考文献が、従来技術の基準であるという承認を意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1A】マウスの乳汁由来のグリコシル化抗CD137抗体のN-結合オリゴ糖のMALDI-TOFスペクトル。グリカンはPNGaseFによって放出された。
【図1B】細胞培養由来のグリコシル化抗CD137抗体のN-結合オリゴ糖のMALDI-TOFスペクトル。グリカンはPNGaseFによって放出された。
【図1C】ヤギの乳汁由来のグリコシル化抗CD137抗体のN-結合オリゴ糖のMALDI-TOFスペクトル。グリカンはPNGaseFによって放出された。
【図2A】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、マウス乳汁由来のグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2B】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、マウス乳汁由来のEndo Hで処理したグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2C】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、細胞培養由来のグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2D】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、細胞培養由来のEndo Hで処理したグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2E】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、ヤギ乳汁由来のグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2F】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、ヤギ乳汁由来のEndo Hで処理したグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図3A】マウス乳汁由来の抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受性。
【図3B】マウス乳汁由来の、Endo Hで処理した抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受性。図2で用いたサンプルをEndo Hで一晩処理した。
【図3C】細胞培養由来の抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受
【図3D】細胞培養由来の、Endo Hで処理した抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受性。図2で用いたサンプルをEndo Hで一晩処理した。
【図4A】Con Aカラム上のグリコシル化抗CD137抗体のコンカナバリンA(Con A)に対する結合性。プロテインA精製抗体をCon Aカラムに充填し、α−メチルマンノシダーゼ含有緩衝液を用いて溶出させた。画分は吸光度280nmでモニタした。図4Aは、Con Aカラム上のグリコシル化抗CD137抗体に関する結果を示す。図4Bは、Con Aカラム上の非グリコシル化抗CD137抗体に関する結果を示す。
【図4B】Con Aカラム上の非グリコシル化抗CD137抗体のコンカナバリンA(Con A)に対する結合性。プロテインA精製抗体をCon Aカラムに充填し、α−メチルマンノシダーゼ含有緩衝液を用いて溶出させた。画分は吸光度280nmでモニタした。
【図5】786-O細胞に対する抗体の結合性。各抗体の結合は、FACS分析によって測定し、負の対照抗体(抗2,4−ジニトロフェノール(DNP))および抗HER2に重ね合わせた。5Aはマウス乳汁由来の非グリコシル化(aglycosylated)抗体、5Bはマウス乳汁由来のグリコシル化抗体、5Cは細胞培養由来のグリコシル化抗体、5Dはヤギ乳汁由来のグリコシル化抗体に関する結果をそれぞれ示す。
【図6】ADCCアッセイにおいて、乳汁由来の抗体による786-O細胞の殺傷作用が増強されたことを示す。■:マウス乳汁由来;▼:ヤギ乳汁由来;◆:細胞培養由来;●:非グリコシル化、マウス乳汁由来;□:トラスツマブ;▲:抗DNP抗体。
【図7】抗体を乳汁中に発現させるための導入遺伝子コンストラクトの一般的な図式。目的の遺伝子は、乳汁特異的遺伝子であるヤギβ−カゼインのコード領域を置換する。6.2kbのプロモーター領域は、IgGのH鎖またはL鎖のいずれかのコード領域に連結し、その後に翻訳されていないヤギβ−カゼインの3'配列および下流要素が続く。黒塗り部:H鎖およびL鎖のエクソン;斜線部:ゲノム性イントロン;矢印:転写方向
【図8】トランスジェニック動物によって産生された抗体上に存在する、または欠如している糖質の分類。
【図9】調製法の例に関する一般的なスキーム。
【図10A】コアフコースの物理的位置を示す抗体の空間充填モデル。
【図10B】コアフコースの物理的位置を示す抗体の空間充填モデル。
【図11】CD137を発現するCHO細胞に対する抗体の結合性。11Aは、CD137を発現しないCHO細胞(負の対照)、11Bは、CD137を発現するCHO細胞についての結果を示す。各プロットにおける実線は、不可逆性抗DNP抗体を用いた染色に対するものである。
【図12】ADCC測定法における、乳汁由来の抗体のCD137発現性CHO細胞に対する殺傷作用の増強を示す。
【図13】バイオセンサー分析によって得られたIgG1−sFcgRIIIa結合性の結果。Aは、ヤギ乳汁由来の抗体、Bはマウス乳汁由来の抗体、Cは細胞培養由来の抗体、Dはマウス乳汁由来の非グリコシル化抗体に関する結果をそれぞれ示す。
【図14】ADCC活性が増強された抗体を含むキット。
【参考文献】
【0237】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、米国特許法35U.S.C.§119に基づき、2005年10月21日に受理された米国特許仮出願第60/729054号の優先権を主張する。該出願のすべての内容を参照することにより本明細書に援用する。
【政府からの援助】
【0002】
本発明は、米国国立癌研究所(National Cancer Institute )のSBIR補助金番号5R43CA107608-02の資金援助によってなされたものである。従って、米国政府は本発明について相当の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本発明は、抗体依存性細胞障害(ADCC)活性を増強させた抗体、その産生法、さらに使用法に関する。
【背景技術】
【0004】
モノクローナル抗体は、疾病治療方法における重要な手段である。例えば、ADCCは、抗癌性抗体の有効性に関する主要因子である。ADCCを媒介する主レセプターはFcγIIIa(CD16)レセプターであり、これは、ナチュラルキラー(NK)細胞上に発現されるIgGに対する親和性の低いレセプターである。このレセプターを欠くマウスでは、リツキシマブに対する抗腫瘍応答が極端に低い(非特許文献1)。FcγIIIaレセプターは、マウスにおいて腫瘍細胞障害を媒介する作用を有する(非特許文献2)。FcγIIIaレセプターをコードしているFCG3A遺伝子の多型(該遺伝子は、158番の位置のフェニルアラニンの代わりにバリンを有する)は、より強固にIgGに結合し、NK細胞に対してより強力なADCC活性を付与する(非特許文献3)。FCGR3A遺伝子に関するこの遺伝子型FCGR3A-158V/Vは、非ホジキンリンパ腫(非特許文献4)、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(非特許文献5)、および自己免疫疾患全身性エリテマトーデス(SLE)(非特許文献6)において、リツキシマブに対する患者の応答を高める効果を有する。該多型は、クローン病において、別の抗体であるインフリキシマブに対する生物学的応答が向上することにも関連している(非特許文献7)。これらの知見は、ヒトにおけるモノクローナル抗体の治療効果に対して、ADCCが重要な役割を果たしていることを示すものである。故に、治療抗体の能力を向上させてADCC活性を促進することは、潜在的な治療価値を高めることになる。
【0005】
ヒト抗体は2つのグリコシル化部位を有し、同一重鎖のぞれぞれにひとつ存在する。グリコシル化および糖質処理に対する阻害剤を用いた初期の実験では、阻害を受けたハイブリドーマクローン内で産生された抗体において、ADCC活性が増強されることが見出された(ロスマン(Rothman)、1989)。更なる研究により、抗体のグリコシル化の状態および抗体のADCC活性は、抗体が産生される細胞系によって影響を受けることが示された(ライフリー(Lifely)、1995)。いくつかの研究グループは、重鎖グリコシル化上の1,6−フコースを欠く抗体は、FcγRIIIレセプターへの結合親和性が増強され、ADCC活性が増していることを示している(シールズ(Shields)ら、2002;シンカワ(Shinkawa)ら、2002)。さらに、FcγRIIIレセプターへの結合親和性とADCC活性との間には相関関係が確立されている(オカザキ(Okazaki)ら、2004;ダロッツォ(Dall'Ozzo)、2004)。
【0006】
α−1,6−フコースの転位を触媒する「FUT8」(α−1,6−フコシルトランスフェラーゼ)が欠損した細胞系が生成されている。これらのノックアウト細胞を用い、ADCC活性がより高い抗体を産生できる。例えば、FUT8欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が確立されている(ヤマネ−オオヌキ(Yamane-Ohnuki)ら、2004)。低分子干渉RNA(siRNA)を用いてFUT8遺伝子の発現を阻止することもできる(モリ(Mori)ら、2004)。ラットの細胞系を用いてADCC活性を向上させた抗体が作出されている(ニワ(Niwa)ら、2004, 2005)。活性が高いことに加え、フコース含量が少ないIgG1はFcγRIII多型とは無関係であることから、野生型細胞においてトラスツズマブまたはリツキシマブに対して観察されたような差異は存在しない(ニワ(Niwa)ら、2004b,Vol.10,Clin..Canc.Res.)。
【非特許文献1】クリネス(Clynes)ら、2000,Nat.Med.,6:443-446
【非特許文献2】クリネス(Clynes)ら、1998,PNAS,95:652-656
【非特許文献3】ヴ(Wu)ら、1997,J.Clin.Invest.,100:1059-1070
【非特許文献4】カートロン(Cartron)ら、2002,Blood,99:754-758
【非特許文献5】トレオン(Treon)ら、2005,J.Clin.Oncol.,23:474-481
【非特許文献6】アノリック(Anolik)ら、2003,Arthritis Rheum.,48,455-459
【非特許文献7】ルイス(Louis)ら、2004,A.Phar.Ther.,19:511-519
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗体は多様な発現系の中で予め産生されているにもかかわらず、ほ乳類乳房上皮細胞内(例えば、乳汁中に抗体を分泌するように操作されたトランスジェニック動物のほ乳類乳房上皮細胞内など)で産生されたADCC活性が増強された抗体はこれまで認識されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ほ乳類の乳房上皮細胞内で産生された抗体は、細胞培養由来の材料と比較して、ADCC活性が増強されており、CD16への結合が高められていることが見出されている。このとき、該乳房上皮細胞は、乳汁中に抗体を分泌するように操作されたトランスジェニック動物のそれなどである。乳汁由来の抗体のグリコシル化の研究により、乳汁由来の抗体はフコースの含量が低いことが明らかになった。故に、本発明は、抗体およびそれらの組成物を提供する。提供された抗体は、ほ乳類乳房上皮細胞内で産生されたものである。本発明は、抗体の産生法ならびにそれらの使用法も提供する。
【0009】
ADCC活性が増強された抗体は、ほ乳類乳房上皮細胞内で発現させることによって産生される。ひとつの実施形態においては、ほ乳類乳房上皮細胞は、乳汁中に抗体を分泌するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類のそれである。別の実施形態においては、ほ乳類乳房上皮細胞は、抗体に対する配列をコードしており、かつ、乳房上皮細胞内で抗体の発現を起こさせることができる核酸(例えば、DNAなど)コンストラクトをトランスフェクトした培養細胞である。
【0010】
故に、本発明の1つの態様では、抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強されている、乳房上皮細胞由来の抗体を含む組成物を提供する。本発明の別の態様では、乳汁由来の抗体を含む組成物が提供され、このとき、該乳汁由来の抗体は、抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強されている。1つの実施形態においては、抗体のADCC活性は、細胞培養由来の抗体のADCC活性の少なくとも2倍である。別の実施形態では、抗体のADCC活性は、細胞培養由来の抗体のADCC活性の少なくとも3倍、4倍、5倍、7倍または10倍である。1つの実施形態では、乳汁由来の抗体が得られる乳汁は、抗体を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類由来である。
【0011】
本発明の1つの態様に従えば、IgG1抗体のFc領域の結合は、Fc領域内のAsn297グリコシル化部位への結合が観察されているコアフコースが抗体に欠如している場合に増強される(例えば、二本アンテナ(biannetennary)構造の基部に結合したフコースなど)。いくつかの態様において、本発明に従う抗体には、このコアフコースが欠けている。別の態様においては、乳汁中に産生されたモノクローナル抗体は、高マンノース型かつハイブリッド構造を有するものが多数を占める。一般的に、本発明に従う抗体は、FcRIIIレセプターへより強固に結合でき、その結果、ADCC活性を増強することができる。
【0012】
本発明の別の態様においては、抗体は、本明細書に示されるグリコシル化パターンを有するように修飾され、その結果、ADCC活性が増強される。修飾の結果、抗体が産生され、本明細書に示しているように、ほ乳類乳房上皮細胞内に抗体が発現される。
【0013】
提供される組成物中の抗体は、グリコシル化に関して、均一でも不均一でもよい。
【0014】
ひとつの実施形態では、抗体の少なくともひとつの鎖は、フコースを含まないように修飾されている。別の実施形態では、抗体のひとつの鎖がフコースを含まないように修飾されている。さらに別の実施形態では、抗体の少なくともひとつの鎖のフコースが1,6−フコースを含んでいない。別の実施形態では、抗体のひとつもしくは少なくともひとつの鎖はフコースを含まないように修飾されているが、該抗体は、オリゴマンノースまたはさらにオリゴマンノースを含むように修飾されている。オリゴマンノースを含む鎖は、フコースを含まない鎖と同一でありうるが、必ずしも同一である必要はない。別の実施形態では、抗体のアミノ酸配列が修飾されており、ほ乳類乳房上皮細胞内で発現される。ひとつの実施形態では、抗体のアミノ酸配列が修飾されている。別の実施形態では、抗CD-137抗体などの抗体のアミノ酸配列は、Asn297のアミノ酸が置換されている。更なる実施形態では、該置換は、フコシル化されないであろうアミノ酸との間で行われる。別の実施形態では、Asn297はGlnと置換される。
【0015】
別の実施形態では、提供される抗体は、1つのオリゴマンノースを含むように、または更なるオリゴマンノースを含むように修飾されている。別の実施形態では、抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体が修飾されている。別の実施形態では、抗体の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体が修飾されている。更なる実施形態では、抗体のひとつまたは少なくともひとつの鎖上において、50%、40%、30%、20%、10%またはそれ未満の抗体しかフコースを含有しないように修飾されている。また更なる実施形態では、抗体の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように、かつ、抗体のひとつまたは少なくともひとつの鎖上において、50%、40%、30%、20%、10%またはそれ未満の抗体しかフコースを含有しないように修飾されている。
別の実施形態では、抗体の糖質が修飾され、高マンノース型グリコシル化パターンを示す。さらに別の実施形態では、抗体の少なくともひとつの鎖がオリゴマンノースを含有し、かつ、フコシル化されないように抗体が修飾されている。また別の実施形態では、抗体の主要糖質がフコシル化されていないように抗体が修飾されている。ひとつの実施形態では、抗体の主要な糖質は、非フコシル化オリゴマンノースである。別の実施形態では、主要糖質は、フコシル化されていないMan5である。また別の実施形態では、抗体の糖質のうちでフコースを含むものは40%未満であるように修飾されている。さらに別の実施形態では、抗体の糖質のうちでフコースを含むものは30%、20%、10%またはそれ未満であるように修飾されている。 ひとつの実施形態では、フコースは1,6−フコースである。別の実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも60%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、かつ、抗体の糖質のうちでフコースを含むものが40%未満であるように抗体が修飾されている。更なる実施形態では、抗体の糖質のうちの63%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、抗体の糖質のうちの16%がコアフコース含有G1Fであり、さらに、抗体の糖質のうちの21%がコアフコース含有G2Fであるように抗体が修飾されている。
【0016】
本発明の別の態様においては、ADCC活性が増強された抗体は、事実上、本明細書に従う方法によって修飾されたのではないが、上記グリコシル化パターンの用途で選択された抗体である。
【0017】
ひとつの実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。別の実施形態では、抗体はポリクローナル抗体である。更なる実施形態では、抗体はキメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体である。また別の実施形態では、抗体は全長抗体である。さらに別の実施形態では、全長抗体は重鎖および軽鎖を有する。更なる実施形態では、抗体は抗体フラグメントである。また更なる実施形態では、抗体フラグメントはFc融合ポリペプチドの一部である。
【0018】
本発明の別の態様においては、抗体は、N−結合オリゴ糖類を有するFc領域を含む、導入遺伝子のDNAコンストラクトによってコードされている。ひとつの実施形態では、抗体は、ヒト以外のトランスジェニック動物の乳汁中に産生される。さらに別の実施形態では、抗体は、本明細書に記載しているようなグリコシル化パターンを有する。
【0019】
ひとつの実施形態では、抗体はアイソタイプIgG、IgAまたはIgDからなる。更なる実施形態では、抗体はアイソタイプIgGである。別の実施形態では、抗体は、アイソタイプIgG1またはIgG2からなる。更なる実施形態では、抗体は抗体フラグメントである。本発明の別の態様では、特性(例えば、ADCC特性など)が改良された本発明にかかるヒト化型抗体が提供される。
【0020】
抗体は任意の抗原に対するものを使用できる。ひとつの実施形態では、抗体は、CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137、またはGPIIbIIIaに対するものである。別の実施形態では、抗体は、HM1.24、HLA-DR、MUC1、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2に対するものである。ひとつの実施形態では、抗体は抗CD137抗体である。
【0021】
本明細書に記載されている任意の組成物および方法においては、抗体は抗CD137抗体である。
【0022】
ひとつの実施形態では、提供される抗体を含む組成物は、さらに、医薬品として許容される担体を含むことができる。別の実施形態では、提供される組成物は、さらに治療薬を含むことができる。ひとつの実施形態では、追加の治療薬は抗癌剤または免疫調節剤である。
【0023】
本発明に従ういくつかの実施形態には、医薬品組成物が含まれ、そのような組成物には、目的のトランスジェニックタンパク質、それらのプロドラッグ、または、そのような化合物もしくはそれらのプロドラッグの医薬品として許容される塩類、ならびに、医薬品として許容されるビヒクル、希釈剤もしくは担体が含まれることは、注目すべきである。
【0024】
提供された組成物は、多数の治療法に使用できる。本発明の1つの態様では、治療法が提供され、この方法には、本発明によって提供される組成物を必要とする対象に、本課題となるADCCを増強させるのに有効な量の該組成物を投与することを含む。本発明の別の態様においては、治療法が提供され、この方法には、対象が罹病している、または発症の危険性がある疾病の治療に有効な量の組成物を対象に投与することを含む。ひとつの実施形態では、疾病は癌である。本発明に従う抗体が提供する有益な治療効果についての特異的な指標としては、いくつかの実施形態における、充実性腫瘍、メラノーマ、ならびに、胸部、結腸、卵巣、腎臓、前立腺および肺の悪性腫瘍の治療が挙げられる。抗体が効果的な免疫調節治療を提供することから、限定はされていないが、治療は有効であろうと考えられる。
【0025】
故に、特異的な標的としては、抗CD3抗体(例えば、非ホジキン病リンパ腫;自己免疫疾患−SLEなど)、抗CD6抗体(例えば、FcRIIIなど)、抗CD19抗体(例えば、非ホジキン病リンパ腫など)、抗CD20抗体、抗CD32B抗体(例えば、FcRIIBおよびアレルギーなど)、抗CD30抗体(例えば、ホジキン病など)、抗GPIIbIIIa(例えば、血栓症など)、抗TNF-α(例えば、リウマチ性関節炎およびクローン病に対するものなど)、腫瘍内皮マーカーに対する抗TEM抗体(例えば、血管形成の制御に対するもの、抗癌剤など)などが挙げられる。
【0026】
別の実施形態では、疾病は、リンパ増殖性疾患である。更なる実施形態では、疾病は自己免疫疾患である。別の実施形態では、本発明に従うADCC抗体は、自己免疫疾患性の脳脊髄炎、全身性エリテマトーデス、ならびに抗CD137抗体の投与によって症状が改善されるようなその他の疾病状態に対して有効である。
【0027】
ひとつの実施形態では、対象に投与する抗体量は、約0.01mg/kg/日〜約50mg/kg/日である。
【0028】
別の実施形態では、対象に、さらに追加の治療薬を投与する。ひとつの実施形態では、追加の治療薬は抗癌剤である。別の実施形態では、追加の治療薬は免疫調節剤である。ひとつの実施形態では、該免疫調節剤は、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-α、またはそれらの組み合わせである。別の実施形態では、対象にさらにIL-2を投与する。別の実施形態では、対象にさらにIL-12を投与する。更なる実施形態では、対象にさらに抗癌剤および免疫調節剤を投与する。ひとつの実施形態では、対象にさらに免疫調節剤およびトラスツズマブを投与する。さらに別の実施形態では、対象に、さらに、IL-21およびトラスツズマブを投与する。ひとつの実施形態では、乳房上皮細胞由来の抗CD137抗体は、IL-21およびトラスツズマブと組み合わせて使用する。別の実施形態では、抗CD137抗体は、コアフコースを欠いた、高マンノース型抗体である。故に、いくつかの実施形態では、抗体は、充実性腫瘍の収縮およびそれらの再発阻止に効果的な免疫調節剤と併用する。別の実施形態では、抗体は、IL-21、IL-12および/またはトラスツズマブと併用する。
【0029】
対象は、ADCC活性が所望される任意の対象である。ひとつの実施形態では、対象はヒトである。別の実施形態では、対象は、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギまたは霊長類である。
【0030】
本発明は、抗体を修飾することにより、ADCC活性が増強された抗体を産生する方法についても提供する。これらの方法は、ほ乳類乳房上皮細胞内で抗体を産生させることにより、抗体のグリコシル化を修飾することを含む。ひとつの実施形態では、ほ乳類乳房上皮細胞は、ヒト以外のほ乳類由来であって、乳汁中に抗体を発現するように操作された細胞である。さらに別の実施形態では、ほ乳類乳房上皮細胞は、培養液中のほ乳類乳房上皮細胞である。
【0031】
本発明の1つの態様では、トランスジェニック抗体、ならびにそれらの変異体およびフラグメントの産生法を提供し、その工程は、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中にトランスジェニック抗体を発現させることを含み、このとき、該抗体は、核酸コンストラクトによってコードされている。ひとつの実施形態では、本発明に従う抗体の産生法は、
(a)所望するトランスジェニック抗体をコードしている導入遺伝子DNAコンストラクトを用い、ヒト以外のほ乳類細胞にトランスフェクトし;
(b)前記導入遺伝子DNAコンストラクトがゲノム内に挿入されている細胞を選択し;さらに、
(c)1回目の核転移操作を行い、所望するトランスジェニック抗体のヘテロ接合体を作出し、それが乳汁中に発現できる、
各工程を含む。
【0032】
別の実施形態では、本方法は、
(a)抗体を発現するように操作されたヒト以外のトランスジェニックほ乳類を提供し、
(b)ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中に前記抗体を発現させ;さらに、
(c)前記乳汁中に発現された前記抗体を単離する、
各工程を含む。
【0033】
別の実施形態では、本方法は、さらに、乳汁分泌を誘導する工程、および/または、得られた抗体のADCC活性を測定するする工程を含む。さらに別の実施形態では、本方法は、追加の単離および/または精製工程をも含む。また別の実施形態では、本方法は、さらに、得られた抗体のADCC活性を、細胞培養において産生された抗体と比較する工程を含む。更なる実施形態では、本方法は、得られた抗体のADCC活性を、乳房以外の上皮細胞によって産生された抗体と比較する工程を含む。こういった細胞は、細胞培養による細胞であってよい。
【0034】
いくつかの実施形態では、抗体は、本明細書に従って作出されたトランスジェニック動物の乳汁、またはそのようなトランスジェニック動物の子孫から、抗体を回収することによって得られる。
【0035】
いくつかの実施形態では、所望する抗体(または抗体融合ポリペプチド)をコードしているコンストラクトは、少なくとも1つのβ−カゼインプロモーターによって稼働する。別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類は有蹄類である。さらに別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類はヤギである。
【0036】
いくつかの実施形態では、トランスジェニックほ乳類によって産生された抗体の濃度は、乳汁1Lあたり少なくとも1gである。
【0037】
別の態様においては、本明細書が提供する方法による抗体のグリコシル化の修飾を含めた、抗体のADCC活性の増強法を提供する。ひとつの実施形態では、抗体は、少なくとも1本の鎖がフコースを含まないように修飾される。別の実施形態では、抗体は、1本の鎖がフコースを含まないように修飾される。さらに別の実施形態では、抗体は、オリゴマンノースもしくは追加のオリゴマンノースを含むように修飾される。
【0038】
さらに別の実施形態では、抗体の糖質が高マンノース型グリコシル化パターンを示すように抗体が修飾される。ひとつの実施形態では、抗体は、少なくとも1本の鎖がオリゴマンノースを含有し、かつ、フコシル化されていないように修飾される。別の実施形態では、抗体は、1本の鎖がオリゴマンノースを含有し、かつ、フコシル化されていないように修飾される。更なる実施形態では、抗体は、その主要糖質がフコシル化されていないように修飾される。ひとつの実施形態では、主要糖質は、フコシル化されていないオリゴマンノースである。別の実施形態では、主要糖質は、フコシル化されていないMan5である。また更なる実施形態では、抗体は、フコースを含有する糖質が40%未満になるように修飾する。ひとつの実施形態では、抗体は、フコースを含有する糖質が30%、20%、10%もしくはそれ以下になるように修飾する。さらに別の実施形態では、抗体のうちの少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体を修飾する。ひとつの実施形態では、抗体のうちの少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が、少なくとも1つのオリゴマンノースを含有するように抗体を修飾する。さらに別の実施形態では、抗体のうちの少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有し、かつ、抗体の1本もしくは少なくとも1本の鎖上にフコースを含むものが50%、40%、30%、20%、10%もしくはそれ未満であるように抗体を修飾する。別の実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも60%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、フコースを含有している糖質が40%未満であるように抗体を修飾する。さらなる実施形態では、抗体の糖質のうちの63%がフコシル化されていないオリゴマンノースであり、抗体の糖質のうちの16%がコアフコース含有G1Fであり、さらに、抗体の糖質のうちの21%がコアフコース含有G2Fであるように抗体が修飾される。
【0039】
本発明のさらに別の態様においては、抗体の産生法を提供し、その方法は、乳汁中に抗体を発現するように操作されたヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁から抗体を回収し、該抗体のADCC活性を測定する工程を含む。ひとつの実施形態では、本方法は、回収された抗体のADCC活性を細胞培養において発現された抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含む。別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類は、ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、リャマである。
本発明の別の態様においては、抗体の産生法が提供され、これは、抗体を発現するように操作された乳房上皮細胞から抗体を回収し、該抗体のADCC活性を測定する工程を含む。ひとつの実施形態では、回収抗体のADCC活性を、乳房以外の上皮細胞内で発現させた抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含む。
【0040】
本発明の更なる態様では、本発明が提供する方法に従って抗体を得、さらに、該抗体のADCC活性を別の抗体群のそれと比較する工程を有してなる方法を提供する。ひとつの実施形態では、別の抗体群とは、細胞培養によって得られた抗体である。別の実施形態では、別の抗体群とは、乳房以外の上皮細胞の培養によって得られた抗体である。さらなる実施形態では、別の抗体群とは、乳房上皮細胞の培養によって得られた抗体である。さらに別の実施形態では、別の抗体群とは、体液もしくは組織から得られた抗体である。また更なる実施形態では、別の抗体群とは、ほ乳類の乳汁から得られた抗体である。ひとつの実施形態では、ほ乳類は、乳汁中に別の抗体群を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類である。
【0041】
本発明の範囲のそれぞれには、本発明に従う多様な実施の形態が含まれる。故に、任意のひとつの要素もしくは要素の組み合わせを含む本発明の範囲のそれぞれは、本発明の各態様に包含されることが予定されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
トランスジェニック動物の乳汁中に産生された抗体は、インビトロでの細胞培養を介して産生された組換え抗体と比較して、ADCC活性が増強されていることがわかっている。ADCC活性が増強された抗体のグリコシル化パターンも評価されている。本発明は、乳房上皮細胞内で産生された抗体を含む組成物、ならびにそれらの調製法および使用法を提供する。
【0043】
本発明の1つの態様においては、抗体はADCC活性が増強されている。本明細書において使用している「増強されたADCC活性」とは、グリコシル化パターンを改変する方法によって産生された場合に、グリコシル化パターンを改変しない方法によって産生された場合よりも、または、本発明に従ってグリコシル化パターンの改変が行われる前に保持していたADCC活性のレベルよりも高いADCC活性を示すような抗体またはそれらの組成物をさす。ADCC活性が増強された抗体には、改変前にはADCC活性を全く示さなかったものも含まれる。本明細書において使用している「グリコシル化パターン」とは、個々の抗体上もしくは抗体群上に存在する糖質群をさす。グリコシル化パターンの変化は、1つの抗体もしくは抗体群のグリコシル化を改変することによって実施できる。抗体組成物のグリコシル化パターンの変化には、個々の抗体、組成物中の抗体のサブセット、または、組成物中のすべての抗体のグリコシル化を変化させる事例を包含することが意図されている。グリコシル化パターンは、当分野において既知の多数の方法によって確認できる。例えば、タンパク質上の糖質の分析法については、米国特許出願第11/107982号および同第11/244826号の各明細書に記載されている。タンパク質上の糖質の分析法を、参照することにより本明細書中に援用する。
【0044】
グリコシル化は、正しい折りたたみ、標的化、生物活性および治療用糖タンパク質のクリアランスにとって重要である。例えば、発現系としてトランスジェニック動物を開発する場合、当然ながら、遺伝的背景が異なることにより、産生されたタンパク質の発現およびグリコシル化濃度が異なったものが得られる。ヤギ乳汁から単離された導入遺伝子に由来するタンパク質のグリコシル化は、細胞培養から得られたタンパク質のそれとは異なっている(デンマン(Denman)ら、1991)。導入遺伝子によって産生されたヒトアンチトロンビンでは、グリコシル化パターンは部位依存的である。フコシル化、シアリル化オリゴ糖はAsn96およびAsn192に見出されるが、Asn155はオリゴマンノースオリゴ糖を有する(エドムンズ(Edmunds)ら、1998)。部位依存的グリコシル化は、マウス乳汁中に産生されるγ−インターフェロンにおいても見出されている(ジェームス(James)ら、1995)。
【0045】
グリコシル化は翻訳後修飾であり、天然においては、タンパク質に多様な最終形態をもたらすことができる。IgG分子は、Fc領域内のCH2ドメインのAsn297残基がグリコシル化されている。糖質構造内におけるある種の改変によっても抗体の作用または治療効果に影響を与えることができる。例えば、リウマチ性関節炎などの疾病においては、非ガラクトシル化構造の存在頻度が正常よりも高い(これは、IgGのFc関連糖質に特異的である)ことが報告されている(パレカー(Parekh)ら、1985;ラデマッハー(Rademacher)ら、1988a)。この非グリコシル化構造は、この領域内に通常存在する構造よりも可動性であり、従って、抗体の免疫原性に関与している糖タンパク質の四次構造に変化をもたらすことができ、あるいは、それ自身が抗体の異常作用に関与する(ラデマッハー(Rademachaer)ら、1988b;アックスフォード(Axford)ら、1992)。しかしながら、疾病状態においては、この構造は、観察される多数の糖型のひとつに過ぎない。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明に従う抗体は、乳房以外の上皮細胞培養由来の抗体よりもADCC活性が少なくとも2倍以上高い。別の実施形態では、抗体のグリコシル化は本発明に従う方法によって修飾され、その修飾された抗体のADCC活性は、修飾されていない同一の抗体よりも少なくとも2倍以上高い。いくつかの実施形態では、抗体は、少なくとも、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、25倍、または30倍以上高いADCC活性を有する。抗体は、ほ乳類の乳房上皮細胞内での発現によって得られたものである。こういった抗体もまた、本明細書では乳房上皮細胞に由来する抗体と称する。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト以外のトランスジェニック動物の乳汁中へ発現されることによって得られたものである。本明細書においては、こういった抗体もまた、「乳汁由来の抗体」と称する。本明細書において使用している「トランスジェニック」とは、ある細胞もしくはその前世代に技術的に挿入され、かつ、該細胞から発達した動物のゲノムの一部となっているような核酸分子を有する細胞をさす。また、細胞もしくはゲノム内に技術的に挿入された核酸分子を有する動物に対しても用いられる。
【0047】
一般的に、いくつかの実施形態では、グリコシル化は高マンノース型グリコシル化パターンを示す。本明細書において使用している「高マンノース型グリコシル化パターン」とは、少なくとも1つのオリゴマンノースを含む抗体または抗体組成物をさし、このとき、抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含む。いくつかの実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上がオリゴマンノースである。いくつかの実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が非フコシル化オリゴマンノースである。別の実施形態では、抗体の糖質のうち、フコースの含有率は50%、40%、30%、20%、10%、5%もしくはそれ未満である。さらに別の実施形態では、抗体はフコースが少量であり、かつ、オリゴマンノースを多量に含む。故に、更なる実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上がオリゴマンノースであり、かつ、フコースの含有率は50%、40%、30%、20%、10%、5%もしくはそれ未満である。故に、さらに別の実施形態では、抗体の糖質のうちの少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上が非フコシル化オリゴマンノースであり、かつ、フコースの含有率は50%、40%、30%、20%、10%、5%もしくはそれ未満である。本発明ひとつの実施形態は、重鎖上に1,6-フコース糖を有さない、ADCC活性が増強された抗体に関する。ひとつの実施形態では、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞上に見出されるFcγRIIIレセプターへの抗体Fc領域の結合は、抗体のFc領域のAsn297グリコシル化部位に結合するコアフコース(例えば、二本アンテナ構造の基部に結合するフコースなど)が欠如している場合に増強される。
【0048】
特異的なグリコシル化パターンを有するその他の抗体については、実施例中に記載している。本明細書においては、抗体を含む組成物について論じる場合には、該組成物は、グリコシル化パターンについて均一でも不均一でもよい。
【0049】
抗体は、例えば、疾病の進行過程および/またはADCCに関与しているレセプターまたはタンパク質への結合能に関して選択して差し支えない。抗体は、任意の細胞マーカーを対象とすることができ、該細胞マーカーは、抗体を導き、かつ、ADCC活性を有していることから、治療に有益であろう。抗体としては、腫瘍細胞マーカーなどの標的抗原に結合可能なものが含まれる。細胞マーカーおよび本明細書に含まれる疾病の例としては次のようなものが挙げられる:CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137またはGPIIbIIIaなど。いくつかの実施形態では、抗体はHM1.24、HLA-DR、MUCI、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2などを対象とする。その他の標的としては次のようなものが挙げられる:抗CD3抗体(例えば、非ホジキンリンパ腫、自己免疫疾患−SLEなど)、抗CD16抗体(例えば、FcRIIIなど)、抗CD19(例えば、非ホジキンリンパ腫)、抗CD20、抗CD32B抗体(例えば、FcRIIBおよびアレルギーなど)、抗CD30(例えば、ホジキン病など)、抗GPIIbIIIa(例えば、血栓症など)、抗TNF-α(例えば、リウマチ性関節炎およびクローン病に対するものなど)、腫瘍内皮マーカーに対する抗TEM抗体(例えば、脈管形成の制御−抗癌に対するものなど)など。本発明に従う抗体は、一度腫瘍細胞マーカーに結合すると、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞を利用して腫瘍細胞を攻撃できる。故に、ADCC活性が増強された抗体は、充実性腫瘍の縮小およびそれらの再発防止に効果的な免疫調節剤であると考えることができる。
【0050】
より広範な研究においては、天然のリガンドまたはアゴニスト抗体を用いてCD137を刺激することにより、抗腫瘍効果が増強され、その結果、多数のモデルにおいて、確立されたマウス腫瘍が退縮したことが示されている。CD137(4-1BBとも称される)は、膜糖タンパク質であり、数種のリンパ性細胞で発現される。マウスCD137に対するアゴニスト性モノクローナル抗体は、インビボでマウス腫瘍を退縮させ、その再発を防止することが報告されている。天然のリガンドまたはアゴニスト抗体を用いてCD137を刺激することにより、腫瘍反応性エフェクターT細胞の刺激および調節NK活性の増強を介し、インビボでの抗腫瘍免疫応答が強化される。抗マウスCD137モノクローナル抗体を全身投与することにより、それ単独もしくはその他の治療手段と組み合わせることによってマウスの大きな腫瘍を完全に抑制することができ、そのような腫瘍としては、免疫原性に乏しいAGF104A肉腫および高腫瘍形成性P815肥満細胞腫、ならびに、EL4胸腺腫、K1735メラノーマ、B10.2および87肉腫、RENCA腎腫、J558プラズマ細胞腫、MCA205肉腫、JC乳癌、MCA26結腸癌およびGL261グリオーマなどが挙げられる。
【0051】
本発明のひとつの実施形態では、抗CD137抗体は、ゲノム性「ミニ遺伝子」として、トランスジェニックマウスおよびヤギの数種の系統の乳汁中でクローニングおよび発現させることができる。この遺伝子の発現は、ヤギβ−カゼイン調節要素の調節下で行われる。マウスおよびヤギにおいて、抗体変異体が実質的に発現されることが確立されている。ひとつの実施形態では、本発明は、ADCC活性が増強され、従って治療特性が高められている抗CD137抗体を提供する。本発明に従い、また、本発明の実施例に従うトランスジェニック動物によって産生された抗CD137抗体を使用することにより、非ヒト:ヒトキメラモノクローナル抗体(すなわち、マウス:ヒト)アゴニスト抗CD137が開発された。抗CD137抗体をヒト化することにより、免疫治療を受けている患者、またはその他の指標としての用途が広がることが期待される。観察されたアミノ酸配列の同一性に基づき、VLおよびVH領域の相補性決定領域(CDRs)をヒト抗DNA関連イディオタイプ免疫グロブリンクローン上に移植した。本発明に従う組換えキメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体と比較した場合に、同様の生物活性特性を示すことが、拮抗ELISA法において観察された。アッセイを行った場合、抗CD137抗体は、抗体依存性細胞障害および補体を介した細胞毒性の媒介において効果的であった。本発明に従う抗体配列のヒト化により、所望しない任意のヒト抗マウス抗体応答が排除され、従って、ヒトへの繰り返しi.v.投与が可能になることが期待される。
【0052】
本明細書で使用している「抗体」とは、少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖がジスルフィド結合によって繋がっている糖タンパク質をさすが、これはすなわち、別異の遺伝子によってコードされている2本の同一のIgH鎖および2本の同一のL鎖を有する共有結合性ヘテロ四量体である。重鎖はそれぞれ、重鎖可変領域(本明細書においては、HCVRまたはVHと略する)および重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3からなる。軽鎖はそれぞれ、軽鎖可変領域(本明細書においては、LCVRまたはVLと略する)および軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、ひとつのドメインCLからなる。VHおよびVL領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された散在する領域に分けられる。VHおよびVLは、それぞれ、3つのCDRsおよび4つのFRsを有しており、それらは、アミノ末端からカルボキシ末端方向に次のような順番で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、宿主組織もしくは因子への免疫グロブリンの結合を媒介するが、そのような組織もしくは因子としては、免疫系の多様な細胞(例えば、エフェクター細胞など)および古典的な補体系の第1要素(C1q)などが挙げられる。成熟した機能性抗体分子の形成は、2つのタンパク質が、化学量論的量で、および適切な立体配置を有する自己組織で発現された場合に達成することができる。
【0053】
抗体という用語は、それらの抗原結合性フラグメントを包含することを意図している。本明細書で用いられるように、抗体の「抗原結合性フラグメント」とは、抗原への特異的結合能を保持しているひとつもしくはそれ以上の抗体の部分をさす。抗体の抗原結合性作用は、全長抗体のフラグメントによって行われうることが示されている。抗体の「抗原結合性フラグメント」に包含される結合性フラグメントの例としては次のようなものが挙げられる:(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインを含む一価のフラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド結合によって連結された2個のFabフラグメントを有する二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインを有するFdフラグメント;(iv)抗体のひとつの腕を構成しているVLおよびVHドメインを有するFvフラグメント;(v)VHドメインを有するdAbフラグメント(ワード(Ward)ら、(1989)Nature,341:544-546);および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVおよびVHドメインが別異の遺伝子によってコードされている場合であっても、合成リンカーを用い、組換え手法によってそれらを連結でき、ここで、そのような合成リンカーは、VLおよびVH領域を対にして一価の分子を形成することにより、それらを一本のタンパク質鎖にすることができる(一本鎖Fv(scFv)として知られている)(例えば、バード(Bird)ら、(1988) Science, 242:423-426;ヒューストン(Huston)ら、(1988) Proc.Natl. Acad.Sci.USA, 85:5879-5883などを参照)。そのような一本鎖抗体も抗体の「抗原結合性部分」に包含される。これらの抗体フラグメントは、タンパク質分解によるフラグメント化法(J.ゴーディング(Goding)、「モノクローナル抗体:原理および実際(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice)」、pp98-118(N.Y.アカデミック・プレス(N.Y. Academic Press)社、1983年):記載内容を参照として本明細書に取り入れておく)および当分野において既知のその他の技術などの従来から実施されている方法によって得ることができる。フラグメントは、インタクト抗体と同様の方法で用途に応じてスクリーニングされる。
【0054】
好ましい抗原結合性フラグメントとしては、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメントおよびFvフラグメントCDR3などが挙げられる。ひとつの実施形態では、抗体フラグメントはFc融合ポリペプチドの一部である。一例として、抗体フラグメントは、N−連結オリゴ糖を含むFc領域である。
【0055】
本明細書において使用している「単離された抗体」とは、抗原特異性の異なる別の抗体を実質的に含まない抗体をさす。しかしながら、抗原のエピトープ、アイソフォームまたは変異体に特異的に結合する単離された抗体は、別の種に由来するなどの他の関連抗原に対する交差反応性を有していて構わない。さらに、単離された抗体は、他の細胞性材料および/または化学物質を実質的に含まない。本明細書では、「特異的結合」とは、予め定められた抗原に結合する抗体をさす。一般的には、抗体は、予め定められた抗原または近縁の抗原以外の非特異的抗原への結合に対する親和性よりも少なくとも2倍以上強い親和性で結合する。故に、本明細書において提供される抗体は、いくつかの実施形態において、標的抗原に特異的に結合する。
【0056】
いくつかの実施形態では、抗体は、アイソタイプIgG、IgAまたはIgDである。更なる実施形態では、抗体は次からなる群より選択される:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、IgE、あるいは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgDもしくはIgEの免疫グロブリン定常および/または可変ドメインを有するもの。別の実施形態では、抗体は、二重特異性または多重特異性抗体である。さらに別の実施形態では、抗体は、組換え抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体、またはそれらの混合物である。いくつかの実施形態では、キメラ抗体は、ヒト以外(例えば、マウス、ラット、ウサギなど)の抗体の一部にヒト抗体の一部を遺伝子操作によって融合させたものである。いくつかの実施形態では、キメラ抗体は、約33%の非ヒトタンパク質および67%のヒトタンパク質を含む。特にマウスキメラに関しては、マウス抗体の特異性にヒト抗体の効率的なヒト免疫系相互作用を組み合わせられることから、マウス抗体によって誘起されるHAMA応答を減弱させるように開発できる。
【0057】
別の実施形態では、抗体は組換え抗体である。本明細書において使用している「組換え抗体」とは、組換え手法によって調製され、発現され、作出され、または単離された抗体を含み、そのような抗体としては、例えば、別の種の免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物から単離された抗体;宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現された抗体;組み換え体、組換え抗体ライブラリーから単離された抗体;または、別のDNA配列に免疫グロブリン遺伝子配列をスプライシングすることを含む任意の別の手法によって調製、発現、作出もしくは単離された抗体などが挙げられる。
【0058】
また別の実施形態では、抗体は、キメラまたはヒト化抗体である。本明細書において使用している「キメラ抗体」とは、マウスの可変もしくは超可変領域に、ヒト定常領域、または定常および可変フレームワーク領域を組み合わせた抗体をさす。本明細書において使用している「ヒト化抗体」とは、ヒトフレームワーク領域と連結している親抗体由来の抗原結合性CDRsのみを保持している抗体である(ワルドマン(Waldmann)、1991, Science, 252:1657を参照)。マウス抗体の結合特異性を保持しているそのようなキメラまたはヒト化抗体は、本発明に従う診断、予防または治療用途のためにインビボで投与した場合に、免疫原性の低下が期待される。
【0059】
本発明の別の実施形態では、抗体は、ADCC活性が増強されたヒト化抗体である。ひとつの実施形態では、この抗体はCD137である。ヒト化(リシェイピング(reshaping)またはCDR移植とも称する)は、異種(例えば、マウスなど)を起源とするモノクローナル抗体の免疫原性を低減させるための確立された技術である。ヒト化抗体は、標準的な分子生物学の技術によって作出できる。ひとつの実施形態では、該方法は、齧歯類の相補性決定領域(CDRs)をヒトフレームワークに移植することを含む。しかしながら、この技術は大部分が繰り返し過程であり、ヒト化抗体を設計する場合には、CDRsの長さ、ヒトフレームワーク、および齧歯類mAbからヒトフレームワーク領域への残基の置換(復帰突然変異)など、多数の要素が絡んでくる。
【0060】
治療用マウスmAbsは、現時点ではヒトへの使用に関して理想的ではない。なぜならば、HAMA(ヒト抗マウス抗体)応答が抗体を中和し、かつ、循環からそれを迅速に除去し、最悪の事態においては、重篤なアレルギー性過敏症を誘起するからである。マウスIg配列の大部分をヒト配列に置換し、有効性を保持しながらほとんど副作用がない、いくつかの方法が開発されている。ヒト治療用のmAbの開発のためのひとつの方法は、マウスの重鎖(H)および軽鎖(L)定常領域(それぞれ、CHおよびCLと表す)もしくは遺伝子的にヒト以外の鎖をヒト領域と置換することにより、ヒト以外の部分として残るであろう抗原結合性ドメインを除く大部分がヒトIgGタンパク質配列を含むキメラ抗体を得ることである。この方法は、非ホジキンリンパ腫の治療用として、アメリカ合衆国において最初に承認されたモノクローナル抗体であるRituxan(登録商標)(リツキシマブ抗ヒトCD20、ジェネンテック(Genentech)社製)の開発に使用された。概算すると、ヒトCHおよびCL配列を有する治療用mAbを提供するためには、マウス抗体タンパク質の免疫原性の約90%を除去しなければならない。
【0061】
本発明の1つの態様に従えば、非ヒト:ヒトキメラモノクローナル抗体(すなわち、マウス:ヒト)抗CD137抗体が提供される。マウス抗体のVLおよびVH領域の相補性決定領域(CDRs)をヒト抗DNA関連イディオタイプ免疫グロブリンクローンに移植した。拮抗ELISA法により、本発明に従う組換えキメラ抗体は、マウスモノクローナル抗体と比較した場合に、同等の生物活性を示した。抗CD137抗体は、抗体依存性細胞障害(ADCC)および補体を介した細胞毒性の媒介に有効であった。
【0062】
別の実施形態に従えば、本発明に従うモノクローナル抗体を修飾することにより、二重特異性抗体または多重特異性抗体を形成できる。「二重特異性抗体」とは、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質もしくはペプチドの複合体などの任意の物質を含み、それらは、(a)細胞表面抗原および(b)エフェクター細胞の表面上のFcレセプターに結合する、または相互作用するような、2つの別異の結合特異性を有する。「多重特異性抗体」とは、タンパク質、ペプチド、またはタンパク質もしくはペプチドの複合体などの任意の薬剤を含み、それらは、(a)細胞表面抗原、(b)エフェクター細胞の表面上のFcレセプター、および(c)少なくともひとつの別の要素に結合する、または相互作用するような、2つ以上の別異の結合特異性を有する。従って、本発明は次のようなものを含むがこれらに限定されるわけではない:二重特異性、三重特異性、四重特異性およびその他の多特異性抗体であって、細胞表面抗原およびエフェクター細胞上のFcレセプターに結合するものなど。「二重特異性抗体」にはダイアボディも含まれる。ダイアボディは二価の二重特異性抗体であり、VHおよびVLドメインは一本のポリペプチド鎖上に発現されるが、リンカーは、同一鎖上の2つのドメインを対にするには短すぎるものを用い、それらのドメインを別の鎖上の相補的ドメインと対にすることにより、2つの抗原結合部位を創出しているものである(例えば、ホリガー(Holliger),P.ら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448;ポイヤック(Poijak),R.J.ら、(1994)Structure,2:1121-1123などを参照)。
【0063】
ある実施形態では、抗体はヒト抗体である。本明細書において使用している「ヒト抗体」とは、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体をさす。本発明に従うヒト抗体としては、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異、または、インビボでの体細胞性突然変異によって誘導された突然変異など)を含む。しかしながら、本明細書において使用している「ヒト抗体」には、マウスなどの別のほ乳類種の生殖細胞系由来のCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植された抗体(本明細書においては、「ヒト化抗体」と称する)は含まない。ヒト抗体は、マウス免疫系ではなく、ヒト免疫系の一部を有するトランスジェニックマウスを用いて作出する。
【0064】
完全なヒトモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖位の大部分に関してトランスジェニックであるマウスを免疫することによっても調製できる。例えば、米国特許第5,591,669号、同第5,598,369号、同第5,545,806号、同第5,545,807号、同第6,150,584号の各明細書およびそれらに引用されている参考文献などを参照。それらの内容を参照することにより本明細書中に援用する。これらの動物は、内因性(例えば、マウスなど)の抗体の産生が機能的に欠損しているように遺伝子が修飾されている。そのような動物は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子の部位のすべてもしくは一部を有するようにさらに修飾されており、その結果、これらの動物を免疫すると、目的の抗原に対する完全ヒト抗体が産生される。これらのマウス(例えば、XenoMouse(Abgenix)、HuMAbマウス(Medarex/ジェンファーム(GenPharm)社)など)を免疫した後、標準的なハイブリドーマ技術に従ってモノクローナル抗体を調製する。これらのモノクローナル抗体はヒト免疫グロブリンアミノ酸配列を有することから、ヒトに投与した場合に、ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を引き起こさない。本明細書において提供される任意の抗体と同様に、ヒト抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、または、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体との混合物である。
【0065】
いくつかの実施形態では、抗体は全長抗体である。いくつかの実施形態では、全長抗体は重鎖および軽鎖を有する。
【0066】
ポリクローナル抗体の調達方法は周知である。例えば、最初に、免疫前血清を得るために採血したニュージーランド白色ウサギに抗原を皮下注射することによって抗体を産生させる。抗原は、通常、1回もしくはそれ以上の調製をしながら、6カ所の別異の部位にそれぞれ総量として100μlを注射できる。初回投与の2週間後に採血を行い、その後6週間毎に3回にわたって同一抗原を周期的にブースター投与する。各ブースター投与の10日後に血清サンプルを採取する。好ましくは、抗体を捕獲する抗原を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、血清からポリクローナル抗体を回収する。ポリクローナル抗体を産生させるための本方法およびその他の方法については、E.ハーロウ(Harlow)ら編、「抗体:実験室マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual)」(1988)に開示されており、その内容を参照することにより本明細書中に援用する。
【0067】
モノクローナル抗体産生のためには、マウスに複数回の接種を行い(上記を参照)、脾臓を摘出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁する。脾臓はリンパ球の供給源であり、そのうちのいくらかは適切な特異性を有する抗体を産生する。次に、これらの細胞を永久に増殖するミエローマパートナー細胞と融合させ、融合生成物は、HATなどの選択剤の存在下、多数の組織培養ウェルに分けて入れる。次に、ELISA法によってウェルをスクリーニングし、有用な抗体を産生する細胞を含むウェルを確認する。これらの細胞を新たなプレートに移す。一定の増殖期間の後、これらのウェルをスクリーニングして抗体産性細胞を確認する。抗体産生に対して陽性である単一クローンを含むウェルが90%以上になるまで、クローニング過程を繰り返し行う。この過程により、抗体を産生するクローンの安定な系が確立される。その後、プロテインAセファローズ(Sepharose)を用いたアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ならびにこれらの技術のバリエーションおよび組合せを用いてモノクローナル抗体を精製できる(例えば、米国特許第6,998,467号明細書などを参照)。
【0068】
mAb生成物の開発のための別の方法としては、生来のマウスIg範囲のすべてをヒトIg遺伝子と置換したトランスジェニックマウス内で抗体を産生させる方法がある。そのようなマウスは完全なヒト抗体タンパク質を産生する。このようにしてキメラヒト化抗体または完全ヒト抗体が産生されるが、これらはいずれも本発明の実施形態である。これらの抗体はどちらもエフェクター作用を有し、癌および癌様損傷の治療に有用である。本発明のキメラ抗体の実施形態では、元のマウス可変(抗体結合性)配列が残っていることから、その結合および機能的特性が保持されているはずである。
【0069】
本明細書の別の部分で示しているように、抗体はグリコシル化パターンを有しており、それによって抗体のADCC活性が提供され、または増強される。本発明は、ADCC活性が増強された抗体を作出するためのすべての方法を包含する。ひとつの実施形態では、本方法は、完全ヒトモノクローナル抗体の作出を含む。別の実施形態では、本方法は、トランスジェニックマウスまたはヒト以外のその他の動物の使用を含み、そのような動物は、抗体遺伝子がヒト遺伝子に置換されており、目的の抗原を用いた免疫に応答して「ヒト化」抗体を産生する。さらに別の実施形態では、ファージディスプレイをバクテリオファージの操作に用いて、表面上に完全ヒトモノクローナル抗体を呈示させる。上記の任意の方法によって生成された抗体を用いてトランスジェニック動物を作出できる。ひとつの実施形態では、トランスジェニック動物のゲノム内に、抗体をコードしているDNAコンストラクトを組み込ませることによって行なわれる。
【0070】
本発明の1つの態様は、マウスおよびヤギを含むトランスジェニック動物内で産生される乳汁に関し、該乳汁は、大量のオリゴマンノース含有抗体を含む。これらのオリゴマンノース含有抗体は、ADCC特性が増強されており、かつ、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞の標的レセプターに対する格好の標的としての作用を有する。本明細書に記載されている抗体を組換えによって産生するための方法が提供され、このとき、該抗体はほ乳類の乳房上皮細胞内で産生される。この過程は細胞培養で実施できる。また、トランスジェニック動物の乳汁中に抗体を発現させることによっても実施できる。
【0071】
ひとつの実施形態では、ほ乳類の乳房上皮細胞を操作し、マウスもしくはヤギなどのトランスジェニック動物の乳汁中に抗体を発現させる。この遺伝子の発現は、例えば、ヤギβ−カゼイン調節要素の制御下などで行う。マウスおよびヤギにおける抗体の実質的な発現については確立されている。トランスジェニック動物は、HおよびL鎖を有する別異のコンストラクト、または、両鎖を有するひとつのコンストラクトを共導入することによって作出できる。ある実施形態では、2つの導入遺伝子が同一の染色体部位に組み込まれることにより、遺伝子が一緒に子孫に伝達され、タンパク質の発現が同時に制御される。いくつかの実施形態では、発現は、乳タンパク質を産生する乳管の上皮細胞のそれぞれに対して最適化されている。動物としては、例えば、ヤギおよびウシなどの酪農動物またはマウスなどを用いることができる。
【0072】
例えば、核移植によってトランスジェニックヤギを作出するために使用するコンストラクト(例えば、キメラ抗ヒトCD137をコードしているものなど)を含む一次細胞系を確立することを目的として、重鎖および軽鎖コンストラクトをヤギ皮膚上皮一次細胞にトランスフェクトするが、そのような細胞は、クローニングによって拡張され、さらに、十分に特性付けを行い、導入遺伝子のコピー数、導入遺伝子の構造的組み込み度合いおよび染色体への組み込み部位に関する評価がなされている。本明細書において使用している「核移植」とは、ドナー細胞由来の核を核除去卵母細胞に移植するクローニング法をさす。
【0073】
目的のタンパク質に対するコード配列は、選択した動物(ウシまたはマウスなど)由来のゲノム性材料もしくは逆翻訳メッセンジャーRNAのライブラリーをスクリーニングすることにより、NCBI、BenBankなどの配列データベースより、あるいは、抗体の配列を入手するなどによって得られる。配列は、適切なプラスミドベクターにクローニングし、適切な宿主生体(例えば、大腸菌(E.coli)など)内で増殖させることができる。ベクターの増殖後、DNAコンストラクトを切り出し、残存ベクターから精製し、さらに、トランスジェニック動物の作出に使用できる発現ベクター内に導入する。トランスジェニック動物は、 それらのゲノム内に組み込まれた所望のトランスジェニックタンパク質を有するであろう。
【0074】
ベクターの増殖後、DNAコンストラクトを適切な5'および3'制御配列と共に切り出し、残存ベクターから精製し、さらに、該コンストラクトを用いてトランスジェニック動物を作出するが、このとき、該トランスジェニック動物のゲノムには、所望する非グリコシル化に関連するトランスジェニックタンパク質が組み込まれている。逆に、酵母人工染色体(YACs)などのいくつかのベクターを用いた場合には、組織化されたコンストラクトをベクターから除去する必要はない。そのような場合には、増殖させたベクターを用いて直接トランスジェニック動物を作出できる。コード配列は、制御配列に機能発揮できるように連結されており、それによって、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中にコード配列が発現される。
【0075】
トランスジェニック動物の乳汁中への産生を行わせるのに適したDNA配列は、生来の乳タンパク質由来の5'−プロモーター領域を有する。このプロモーターは、同時に、ホルモンおよび組織特異的因子の制御下にあり、乳汁を分泌する乳房組織内で最も活性化する。いくつかの実施形態では、プロモーターはヤギβ−カゼインプロモーターである。このプロモーターは、タンパク質リーダー配列の産生を指示するDNA配列に機能発揮できるように連結されており、このとき、該タンパク質リーダー配列は、トランスジェニックタンパク質を乳房上皮細胞から乳汁中に分泌させる。いくつかの実施形態では、天然に分泌された乳タンパク質由来である3'−配列を加えて、mRNAの安定性を高めることができる。
【0076】
本明細書では、「リーダー配列」または「シグナル配列」は、タンパク質分泌シグナルをコードしている核酸配列であり、トランスジェニックタンパク質をコードしている下流の核酸分子に対して機能発揮できるように連結された場合に、分泌を促す。リーダー配列は、生来のヒトリーダー配列、人工的に作出したリーダー配列を用いることができ、あるいは、導入遺伝子がコードされている配列の転写開始に使用したプロモーターと同一の遺伝子から、または、ほ乳類の乳房上皮細胞などの細胞から通常分泌される別のタンパク質から得られる。
【0077】
いくつかの実施形態では、プロモーターは乳汁特異的プロモーターである。本明細書では、「乳汁特異的プロモーター」とは、乳汁中にタンパク質を分泌する細胞(例えば、乳房上皮細胞など)内の遺伝子の発現を促すプロモーターであり、例えば次のようなものが挙げられる:カゼインプロモーター類、例えば、α−カゼインプロモーター(例えば、αS-1カゼインプロモーターおよびαS-2カゼインプロモーターなど)、β−カゼインプロモーター(例えば、ヤギβ−カゼイン遺伝子プロモーター(ディ・テュリオ(Di Tullio)、BIOTECHNOLOGY,10:74-77,1992)など)、γ−カゼインプロモーター、κ−カゼインプロモーターなど;ホエイ酸性タンパク質(WAP)プロモーター(ゴートン(Gorton)ら、BIOTECHNOLOGY,5:1183-1187,1987);β−ラクトグロブリンプロモーター(クラーク(Clark)ら、BIOTECHNOLOGY,7:487-492,1989)およびα−ラクトアルブミンプロモーター(ソウリエール(Soulier)ら、FEBS LETTS.297:13,1992)など。この定義には、乳房組織内で特に活性化されるプロモーター、例えば、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)の長端末反復(LTR)プロモーターなども含まれる。
【0078】
本明細書において使用しているコード配列および制御配列は、制御配列の影響下もしくは制御下においてコード配列の発現もしくは転写を行わせるように両者を共有結合させた場合に、「機能発揮できるように連結された」と表現する。コード配列が機能性タンパク質に翻訳されるためには、コード配列は制御配列に機能発揮できるように連結する。2つのDNA配列は、5'制御配列内のプロモーターの誘導によってコード配列の転写が起こった場合、あるいは、2つのDNA配列間の連結の性質により、(1)フレームシフト突然変異の誘導が起こらない、(2)コード配列の転写を促すプロモーター領域の能力を干渉しない、または、(3)対応するRNA転写体をタンパク質に翻訳する能力を干渉しない場合に、機能発揮できるように連結されていると表現する。従って、プロモーター領域は、DNA配列の転写を促進でき、それによって得られた転写体が所望するタンパク質もしくはポリペプチドに翻訳される場合に、コード配列に対して機能発揮できるように連結されている。
【0079】
本明細書に使用している「ベクター」とは、別異の遺伝子環境間の輸送用または宿主細胞内での発現用に、制限および連結によって所望された配列が挿入されている多数の核酸のうちの任意のものである。一般的に、ベクターはDNAの構成物であるが、RNAベクターも可能である。ベクターとしては、プラスミドおよびファージミドなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。クローニングベクターは、宿主細胞内で複製できるものであり、さらに、ひとつもしくはそれ以上のエンドヌクレアーゼ制限部位によって特徴づけられる。制限酵素部位とは、ベクターを確定できる手法で切断する位置であり、生成する新規な組換えベクターが宿主細胞内での複製能を保持しているように、所望するDNA配列をその位置に連結する。プラスミドの場合には、所望する配列の複製は、宿主細菌内のプラスミドのコピー数が増加するたびに多数回行われるか、または、宿主が有糸核分裂によって再生するたびに、1宿主あたり1回行われる。ファージの場合には、溶菌期中は活発に、または、溶菌素発生期中は受動的に複製が行われる。発現ベクターとは、制御配列に対して機能発揮できるように連結されるように、所望するDNA配列が制限および連結によって挿入され、かつ、RNA転写体として発現されるものである。ベクターは、細胞の確認用に適したひとつもしくはそれ以上のマーカー配列をさらに含む場合があり、このとき、該細胞は、ベクターで形質転換またはトランスフェクトされている場合とされていない場合がある。マーカーとしては、例えば、抗生物質もしくは他の化合物に対する抵抗性または感受性が増強あるいは低下するようなタンパク質をコードしている遺伝子、当分野において既知の標準的な測定法によって活性が検出できるような酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼまたはアルカリホスファターゼなど)をコードしている遺伝子、ならびに、形質転換もしくはトランスフェクトされた細胞、宿主、コロニーまたはプラークの表現型に対して視覚的に影響を与えるような遺伝子などが挙げられる。好ましいベクターは、自己複製ができ、それらが機能発揮できるように連結されているDNAセグメント内に存在する構造遺伝子生成物を発現できるものである。
【0080】
本発明の1つの態様においては、トランスジェニック抗体、ならびにそれらの変異体およびフラグメントの生成法を提供し、その工程には、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の乳汁中に、核酸コンストラクトによってコードされたトランスジェニック抗体を発現することを含む。ひとつの実施形態では、本発明に従う抗体の産生法は、
(a)所望するトランスジェニック抗体をコードしている導入遺伝子DNAコンストラクトを用いてヒト以外のほ乳類細胞にトランスフェクトし;
(b)細胞のゲノム内に前記導入遺伝子DNAコンストラクトが挿入されている細胞を選択し;さらに、
(c)第一の核移植工程を行い、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類の所望のトランスジェニック抗体のヘテロ接合を作出し、それによって乳汁中に該抗体を発現できる、
各工程を含む。
【0081】
別の態様においては、本方法は、
(a)抗体を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類を作出し;
(b)ヒト以外の前記トランスジェニックほ乳類の乳汁中に抗体を発現させ;さらに、
(c)乳汁中に発現された抗体を単離する
各工程を含む。
【0082】
本方法に、乳汁分泌を誘導する工程および得られた抗体のADCC活性を測定する工程を追加することができる。本方法に、更なる単離および/または精製段階を含めることができる。本方法に、得られた抗体のADCC活性を細胞培養において産生された抗体のそれと比較する工程を含めることも可能である。いくつかの実施形態では、得られた抗体のADCC活性を乳房以外の上皮細胞によって産生された抗体のそれと比較することができる。こういった細胞は細胞培養された細胞である。抗体のADCC活性を評価するための技術の例としては、当業者において既知の任意の技術、または、以下の実施例中に示されているようなものが挙げられる。いくつかの実施形態では、抗体は、本明細書に従って産生されたトランスジェニック動物の乳汁から、または該トランスジェニック動物の子孫から抗体を回収することによって得られる。
【0083】
いくつかの実施形態では、所望の抗体(または抗体融合ポリペプチド)をコードしているコンストラクトは、少なくとも1つのβ−カゼインプロモーターによって稼働される。別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類は有蹄類である。さらに別の実施形態では、ヒト以外のトランスジェニックほ乳類はヤギである。
【0084】
いくつかの実施形態では、トランスジェニックほ乳類によって産生された抗体の濃度は、産生された乳汁1Lあたり少なくとも1gである。
【0085】
組換え抗体を発現可能なトランスジェニック動物は、さらに、当分野で既知の方法に従っても作出できる(例えば、米国特許第5,945,577号明細書などを参照)。トランスジェニック発現に適した動物としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、またはリャマなど。適切な動物には、ウシ、ヤギ、ヒツジおよびブタの多様な種に関する、ウシ類、ヤギ類、ヒツジ類、およびブタ類も含まれる。適切な動物には有蹄類も含まれる。本明細書では、「有蹄類」とは、蹄を持ち、一般的には草食性四足歩行のほ乳類またはそれに類するものであり、例えば、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシおよびウマなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ひとつの実施形態では、動物は、重鎖および軽鎖を含む別異のコンストラクトを用い、一次細胞に同時トランスフェクトすることによって作出する。次に、これらの細胞を核移植に使用する。あるいは、マイクロインジェクションを使用してトランスジェニック動物を作出する場合には、コンストラクトを同時注入する。ある実施形態においてグリコシル化濃度を変化させる必要がある場合には、部位特異的突然変異を使用できる。
【0086】
クローニングによって様々なトランスジェニック動物が得られる。各動物は、目的の抗体またはその他の遺伝子コンストラクトを産生できる。産生法には、クローン動物およびそれらの子孫の使用が含まれる。いくつかの実施形態では、クローン動物は、ヤギ類、ウシ類またはマウスである。クローニングには、胎仔の核移植、核移植、組織および臓器移植、ならびにキメラ子孫の作出も含まれる。
【0087】
クローニング方法の一工程には、脱核した卵母細胞に、目的の導入遺伝子を有する細胞のゲノムを移植することが含まれる。本明細書において使用している「導入遺伝子」とは、核酸分子の任意の一片であって、技術的に細胞もしくはそれらの祖先内に挿入され、さらに、該細胞から発達する動物のゲノムの一部となるものをさす。そのような導入遺伝子は、トランスジェニック動物に対して部分的もしくは全体的に外来性(すなわち、異種)の遺伝子を含んでいてもよく、あるいは、該動物の内在性遺伝子と同一性を有する遺伝子であって差し支えない。
卵母細胞の供給源として適切なほ乳類には、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウサギ、モルモット、マウス、ハムスター、ラット、ヒト以外の霊長類などが含まれる。卵母細胞は有蹄類から入手することが好ましく、ヤギまたはウシが最も好ましい。卵母細胞の単離法は当分野において周知である。基本的には、該方法は、ヤギなどのほ乳類の卵巣または生殖管から卵母細胞を単離することを含む。有蹄類卵母細胞を容易に入手できる供給源としては、ホルモン誘導した雌動物がある。遺伝子操作、核移植およびクローニングなどの技術を都合よく利用するためには、卵母細胞は、インビボで成熟していることが好ましく、その後、それらの細胞を核移植用のレシピエント細胞として利用し、精子による受精が行われて胚へと発達する。インビボで成熟した中期II相の卵母細胞が核移植技術における格好の材料として使用されている。基本的には、成熟中期II卵母細胞は、発情の開始、または、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)もしくは類似のホルモンの注射から数時間経過後の非過剰排卵個体または過剰排卵個体から外科的に採取する。
【0088】
乳腺中に発現された組換えタンパク質の量および質を予測するために使用する手法のひとつは、乳汁分泌の誘導である(エバート(Ebert),KM、1994)。乳汁分泌を誘導することにより、妊娠の結果として起こる自然な初乳の分泌(これは少なくとも約1年後のことである)に由来するタンパク質よりもむしろ、トランスジェニック産生の初期段階におけるタンパク質の発現および分析が可能となる。乳汁分泌の誘導は、ホルモンにより、または手によって行うことができる、多様な乳汁分泌法、特に、ホルモン誘導による乳汁分泌は、乳腺中のグリコシルトランスフェラーゼの転写制御に影響を及ぼす可能性がありうる。クローン動物の多様な乳汁分泌サンプルから得られたN−結合オリゴ糖は、NeuGcの含量以外は類似していた。自然な乳汁分泌由来のトランスジェニック抗体産生物中の糖質では、全体的なシアル酸含量は、別異の乳汁分泌法由来のサンプル中の値にほぼ匹敵したにもかかわらず、他の乳汁分泌法由来のものよりもNeuGcの含量が高かった。同様に、ヤギの乳汁中に産生されたトランスジェニックタンパク質には、独立したタンパク質種からなる複合体混合物も含まれると考えられる(ツォウ(Zhou)、2005)。
【0089】
各系統に由来するプールされた乳汁サンプルから単離されたプロテインA精製IgGフラクションをインビトロで分析し、抗体結合特異性および親和性、ならびに用量依存的なT細胞増殖促進に関する特性付けを行った。ひとつの実施形態では、乳汁由来のグリコシル化および非グリコシル化キメラ調製物を元のGW mAbと比較する。
【0090】
成長および生殖に関する特性が正常であり、正当なレベル(>1mg/ml)の生物活性を有する抗体を産生する健康なトランスジェニックマウスの作出が確立された。所定のコンストラクトを有するマウスの作出は、ヤギまたはウシなどの種の大量作出に関する先駆的な事例となりうる。キメラ抗CD137の作出および特性付けにより、マウスモデル中のひとつもしくはそれ以上のこれらの調製物について試験を行い、インビボでの抗腫瘍活性を明らかにした。その後、グリコシル化および非グリコシル化キメラ抗体コンストラクトを用い、乳汁中に抗CD137を発現するトランスジェニックヤギを作出した。
トランスジェニック技術によって動物ゲノムを修飾することにより、グリコシル化パターンが修飾された組換えタンパク質の製造に関する新たな方法が提供される。トランスジェニック家畜の乳汁中でヒト組換え薬剤を産生させることにより、微生物バイオリアクターまたは動物細胞バイオリアクターに関する問題点の多くが解決する。例えば、微生物バイオリアクターでは、翻訳後修飾が行われない、タンパク質の折りたたみが不適切である、精製コストがかかるなど、動物細胞バイオリアクターでは、元手がかかる、培養培地が高価、収率が低いなどの問題がある。本発明のいくつかの実施形態では、トランスジェニック動物の乳汁中において抗体をトランスジェニック産生することの利用を含むが、そのようなトランスジェニック動物は、該抗体分子のグリコシル化パターンを最適化するような所望する遺伝子のホモ接合である。
【0091】
本発明の別の実施形態に従えば、標的分子のグリコシル化パターンは、例えば、ヒト以外のほ乳類の飼料を改変することによって修飾することができる(カー(Kerr)ら、2003)。
【0092】
さらに本発明は、抗体産生法を提供し、該方法は、乳汁中に抗体を発現するように操作された、ヒト以外のトランスジェニック動物の乳汁から抗体を回収し、さらに、該抗体のADCC活性を測定することを含む。いくつかの実施形態では、ADCC活性は、細胞培養中で発現された抗体のADCC活性と比較される。別の実施形態では、抗体を発現するように操作された培養された乳房上皮細胞から抗体を回収し、該抗体のADCC活性を測定する。いくつかの実施形態では、ADCC活性は、細胞培養中で発現された抗体のADCC活性と比較される。いくつかの実施形態では、細胞培養の細胞は、乳房以外の上皮細胞である。ADCC活性を評価するための測定法は以下の実施例に示しており、当分野においても既知である。
【0093】
本明細書において使用している「実質的に純粋」とは、タンパク質が、目的とする用途について実用的範囲であり、かつ適切と考えられる程度に、他の物質を基本的に含まないことを意味する。特に、タンパク質は、十分に純粋であり、かつ、その宿主細胞のその他の生物学的構成成分をほとんど含まないが、これは、タンパク質のシークエンシングまたは医薬品製剤の作成などにおいて有用なものとするためである、。故に、いくつかの実施形態では、抗体は実質的に純粋である。
【0094】
ポリペプチドに関して本明細書において使用している「単離された」とは、生来の環境から分離され、確認もしくは使用ができる程度に十分な量が存在していることを意味する。単離された、という語をタンパク質またはポリペプチドに関して使用する場合には、例えば、(i)発現クローニングによって選択的に産生された、または、(ii)クロマトグラフィーもしくは電気泳動によって精製されたものであることを意味する。単離されたタンパク質もしくはポリペプチドは、実質的に純粋であるが、必ずしもそうである必要はない。なぜならば、単離されたポリペプチドは、医薬品製剤中で医薬品として許容される担体と予め混合することから、ポリペプチドが、調製物に対する重量%でごく少量しか含まれていなくても構わない。それでも、ポリペプチドは、自身が生態系において関連しているであろう物質から分離される、すなわち、他のタンパク質から単離される。したがって、いくつかの実施形態では、抗体は単離される。
【0095】
抗体はADCC活性が増強されているが、このことは、治療においてモノクローナル抗体を有効に使用するための重要な因子である。本発明に従う抗体の定常もしくはFc領域が同時に結合することにより、生物学的応答が誘導される。これらの応答のうちのひとつは、標的細胞内の細胞性アポトーシスまたはADCC活性の誘導である。Fc γレセプターに対するFc領域の結合を介してADCCは機能する。Fc γレセプターは、単球、マクロファージおよびナチュラルキラー細胞の表面上に存在している。レセプターへの結合により、これらの細胞が活性化され、標的抗原を含む標的細胞を殺傷するサイトカイン類および酸化物不含ラジカル類を放出する。
【0096】
故に、1つの態様からみると、本発明は、ADCC活性が増強され、それによって治療特性が改善された抗体製剤に関する。組成物を用い、ADCC活性が少なくともいくつかの医療上の利点をもたらすような対象を治療することに使用できる。故に、提供された組成物を用いて疾病にかかっている対象を治療できる。いくつかの実施形態では、抗体を用いて対象を治療できるが、このとき、対象に抗体を投与することによってADCC活性を増強させる。
【0097】
本明細書において使用している「治療」、「治療する」または「処置」には、予防的処置(例えば、予防薬など)および緩和的処置が含まれる。
【0098】
提供された組成物が有効な治療効果を提供可能と考えられる特定の指標としては、癌(充実性腫瘍、メラノーマに対する効果的な免疫調節療法など)、ならびに、上皮性悪性腫瘍(例えば、乳房、結腸、卵巣、腎臓、前立腺および肺など)などが挙げられる。
【0099】
本明細書において使用している「癌」とは、体組織および器官の正常機能を妨げるような制御不能な細胞増殖をさす。元の位置から移動し、生命維持に必要な臓器に入り込んだ癌は、侵入した臓器の機能を消失させることによって死を招く場合がある。癌としては、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、菌状息肉腫/セザリー症候群、組織球増殖症X、慢性リンパ球性白血病、毛様細胞白血病、多発性骨髄腫、ワルデンシュトームマクログロブリン血症、クリオグロブリン血症およびH鎖病などが挙げられる。白血病などの造血性癌は、対象内の正常造血コンパートメントを打ち負かすことにより、造血機能を不全にし(例えば、貧血、血小板減少症および好中球減少症などを呈する)、死を招く。
【0100】
転移とは、最初の腫瘍から身体の別の部位へと癌細胞が伝播することにより、最初の腫瘍から離れた位置に存在する癌細胞の領域である。最初の腫瘍塊を診断するときに、転移の存在について対象をモニターする。ほとんどの場合、転移は、特定の症状のモニタリングに加え、磁気共鳴画像法(MRI)スキャン、コンピューター断層撮影(CT)スキャン、血液および血小板の計数、肝機能検査、胸部X線および骨スキャンを単独または組み合わせて使用することによって検出する。
【0101】
本明細書において使用している癌には次のような型のものが含まれる:乳癌、胆管癌;膀胱癌;グリア芽細胞腫および髄芽腫を含む脳の癌;子宮頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮内膜癌;食道癌;消化器癌;白血病;急性リンパ球性およびミエローマ性白血病を含む血液学的新生物;T細胞急性リンパ芽球性白血病/リンパ腫;毛様細胞白血病;慢性骨髄腫、多発性骨髄腫;AIDS関連白血病および成人T細胞白血病;ボーエン病およびパジェット病を含む上皮内新生物;肝臓癌;肺癌;ホジキン病およびリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽腫;扁平上皮癌を含む口腔癌;卵巣癌であって、上皮細胞、乾湿細胞、生殖細胞および間葉細胞から生じるものを含む;膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫および骨肉腫を含む肉腫;メラノーマ、カポジ肉腫、基底細胞癌(basocellular cancer)および扁平上皮癌を含む皮膚癌;精上皮腫、非精上皮腫(テラトーマ、絨毛癌)、ストロマ性腫瘍および生殖細胞腫瘍などの生殖系腫瘍を含む精巣癌;甲状腺腺癌および髄様癌を含む甲状腺癌;腺癌およびウィルムス腫瘍を含む腎臓癌など。その他の癌についても当業者においては既知であり、例えば、肥満細胞腫、胸腺腫、プラズマ細胞腫およびグリオーマなどが挙げられる。
【0102】
本発明に従う組成物は、免疫疾患の治療にも有用である。「免疫疾患」としては、成人呼吸促迫症候群、動脈硬化、喘息、アテローマ性動脈硬化症、胆嚢症、硬変症、クローン病、糖尿病、気腫、過好酸球増加症、炎症、過敏性腸管症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋もしくは心膜炎症、骨関節症、骨粗鬆症、膵炎、リウマチ性関節炎、強皮症および結腸炎などが挙げられる(例えば、米国特許出願公開第2003/0175754号明細書などを参照)。
【0103】
本発明に従う組成物は、自己免疫疾患の治療にも有用である。そのような疾病としては次のようなものが挙げられるが、それらに限定されるわけではない:全身性紅斑性狼瘡、ループス腎炎、糖尿病、炎症性腸疾患、小児脂肪便症、自己免疫性甲状腺疾患、アジソン病、シェーグレン病、シデナム舞踏病、高安病、ヴェゲナー肉芽腫症、自己免疫性胃炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性皮膚疾患、自己免疫性拡張型心筋症、多発性硬化症、心筋炎、重症筋無力症、悪性貧血、多発性筋痛、乾癬、急速進行性糸球体腎炎、リウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、脈管炎、筋肉の自己免疫疾患、精巣の自己免疫疾患、卵巣の自己免疫疾患および目の自己免疫疾患など。
【0104】
別の実施形態では、ADCC活性が増強された抗体は、自己免疫性の脳脊髄炎、全身性紅斑性狼瘡ならびにその他の疾病状態の治療に有効である。
【0105】
本発明に従う抗体は、他の治療薬と組み合わせることができる。抗体およびその他の治療薬は、同時に、または連続して投与できる。他の治療薬を同時投与する場合には、それらを同一の製剤もしくは別異の製剤として、同時に投与できる。その他の治療薬と抗体の投与を時間的を空けて行う場合には、該治療薬は、それらをひとつずつ連続的に、または抗体と連続的に投与する。これらの組成物を投与するにあたっての時間的間隔は、分単位もしくはそれ以上である。
【0106】
その他の治療薬としては、例えば、抗癌治療薬などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。抗癌治療薬としては、癌用薬物、放射線照射および外科的手段などが挙げられる。本明細書において使用している「癌用薬物」とは、癌治療の目的で対象に投与する物質をさす。本明細書において使用している「癌治療」としては、癌の発達を阻害する、癌の症状を軽減する、ならびに/または、確立された癌の増殖を阻止することを含む。別の態様では、癌用薬物は、癌の発達の危険性がある患者に対し、それを軽減する目的で投与する。癌治療用の多様な型の薬物について本明細書に記載している。本明細書の目的を遂行するためには、癌用薬物は、化学療法剤、免疫療法剤、癌ワクチン、ホルモン療法および生体応答修飾物質に分類される。
【0107】
化学療法剤としては次のようなものを含む群から選択できるが、これらに限定されるわけではない:メトトレキセート、ビンクリスチン、アドリアマイシン、シスプラチン、糖不含クロロエチルニトロソウレア類、5−フルオロウラシル、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ドクソルビシン、ダカルバジン、タクソール、フラジリン、メグラミンGLA、ヴァルルビシン、カルムスタインおよびポリファーポサン、MMI270、BAY12-9566、RASファメシルトランスフェラーゼ阻害剤、ファメシルトランスフェラーゼ阻害剤、MMP、MTA/LY231514、LY264618/ロメテクソール、グラモレック、CI-994、TNP-470、ヒカムチン/トポテカン、PKC412、ヴァスポダール/PSC833、ノヴァントロン/ミトロキサントロン、メタレット/スラミン、バティマスタット、E7070、BCH-4556、CS-682、9-AC、AG3340、AG3433、インセル/VX-710、VX-853、ZD0101、ISI641、ODN698、TA2516/マーミスタット、BB2516/マーミスタット、CDP845、D2163、PD183805、DX8951f、レモナールDP2202、FK317、ピシバニル/OK-432、AD32/ヴァルルビシン、メタストロン/ストロンチウム誘導体、テモダール/テモゾロミド、エヴァセット/リポソーム性ドクソルビシン、エウタキサン/パクリタクセル、タクソール/パクリタクセル、キセロード/カペシタビン、ファーツロン/ドキシフルリジン、シクロパックス/経口パクリタクセル、経口タクソイド、SPU-077/シスプラチン、HMR1275/フラボピリドール、CP-358(774)/EGFR、CP-609(754)/RAS癌遺伝子阻害剤、BMS-182751/経口プラチナ、UFT(テガファー/ウラシル)、エルガミソール/レヴァミソール、エニルウラシル/776C85/5FUエンハンサー、カンプト/レヴァミソール、カンプトサール/イリノテカン、ツモデックス/ラリトレキセド、ロイスタチン/クラドリビン、パクセックス/パクリタクセル、ドキシル/リポソーム性ドクソルビシン、セリックス/リポソーム性ドクソルビシン、フルダラ/フルダラビン、ファーマルビシン/エピルビシン、デポCyt、ZD1839、LU79553/ビスナフタリミド、LU103793/ドラスタイン、セティックス/リポソーム性ドクソルビシン、ジェムザール/ジェムシタビン、ZD0473/アノーメド、YM116、ロディン種子、CDK4およびCDK2阻害剤、PARP阻害剤、D4809/デキシフォサミド、イフェス/メスネックス/イフォサミド、ヴモン/テニポシド、パラプラチン/カルボプラチン、プランチノール/シスプラチン、ヴェペシド/エトポシド、ZD9331、タクソテレ/ドセタクセル、グアニンアラビノシドのプロドラッグ、タクサンアナログ、ニトロソウレア類、メルフェランおよびシクロホスホスファミドなどのアルキル化剤、アミノグルテチミド、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クロロンブシル、シタラビンHCl、ダクチノマイシン、ダウノルビシンHCl、エストラムスチンリン酸ナトリウム、エトポシド(VP16-213)、フロクスウリジン、フルオロウラシル(5-FU)、フルタミド、ヒドロキシウレア(ヒドロキシカルバミド)、イフォスファミド、インターフェロンα-2a、α-2b、酢酸リュープロリド(LHRH-放出因子アナログ)、ロムスチン(CCNU)、メクロレタミンHCl(ニトロジェンマスタード)、メルカプトプリン、メスナ、ミトタン(o.p'-DDD)、ミトキサントロンHCl、オクトレオチド、プリカマイシン、プロカルバジンHCl、ストレプトゾシン、クエン酸タモキシフェン、チオグアニン、チオテパ、硫酸ビンブラスチン、アムサクリン(m-AMSA)、アザシチジン、エリスロポエチン、ヘキサメチルメラミン(HMM)、インターロイキン2、ミトグアゾン(メチル−GAG;メチルグリオキサールビスグアニルヒドラゾン;MGBG)、ペントスタチン(2'−デオキシコホルマイシン)、セムスチン(メチル−CCNU)、テニポシド(VM-26)および硫酸ビンデシンなど。
【0108】
免疫療法剤としては、次のようなものを含む群から選択されるが、これらに限定されるわけではない:ルビタキシン、ハーセプチン、クアドラメト、パノレックス、IDEC-Y2B8、BEC2、C225、オンコリン、SMART M195、ATRAGEN、オヴァレクス、ベクサール、LDP-03、ior t6、MDX-210、MDX-11、MDX-22、OV103、3622W94、抗VEGF、ゼナパックス、MDX-220、MDX-447、MELIMMUNE-2、MELIMMUNE-1、CEACIDE、プレターゲット、ノヴォMAb-G2、TNT、グリオマブ−H、GNI-250、EMD-72000、リンフォシド、CMA 676、モノファーム−C、4B5、ior efg.r3、ior c5、BABS、抗FLK-2、MDX-260、ANA Ab、SMART 1D10 Ab、SMART ABL 364 AbおよびImmuRAIT-CEAなど。
【0109】
癌ワクチンとしては、次のようなものを含む群から選択されるが、これらに限定されるわけではない:EGF、抗イディオタイプ癌ワクチン、Gp75抗原、GMKメラノーマワクチン、MGVガングリオシドコンジュゲートワクチン、Her2/neu、オヴァレックス、M-Vax、O-Vax、L-Vax、STn-KHL、セラトープ、BLP25(MUC-1)、リポソーム性イディオタイプワクチン、メラシン、ペプチド抗原ワクチン類、毒素/抗原ワクチン類、MVAに基づくワクチン、PACIS、BCGワクチン、TA-HPV、TA-CIN、DISCウイルスおよびImmuCyst/TheraCysなど。
【0110】
追加の治療薬としては、免疫調節剤が挙げられる。投与可能な免疫調節剤の例としては、次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-α、またはそれらの組み合わせなど。本発明に従う抗体は、免疫調節剤および/または追加の抗癌剤(IL-21、IL-12、および/またはトラスツズマブなど)と組み合わせても投与できる。
【0111】
本発明に従う組成物は有効量を使用する。有効量とは、所望する生物学的効果を確認するために必要もしくは十分な量をさす。本明細書に示されている教示と併せ、多様な活性化合物の中から選択し、さらに、力価、相対的バイオアベイラビリティ、患者の体重、副作用の重篤度、および好ましい投与形態などの因子を勘案することにより、実質的に毒性が発揮されず、かつ特定の対象の治療に有効な、効果的な予防もしくは治療方針が計画できる。任意の特定の用途に対する有効量は、治療を要する疾病もしくは状態、投与される特定の組成物、対象の体格、疾病または状態の重篤度などの因子によって異なる。通常の技量を有する当業者であれば、不要な実験をすることなく、特定の組成物に関する有効量を経験的に定めることができる。一般的には、好ましくは、最大投与量を使用するが、これは、ある種の医療判断に従った安全域の最高投与量のことである。一日に複数回投与することにより、化合物の全身濃度を適量にすることができる。適切な全身濃度は、例えば、薬剤に関して患者のピークまたは持続血漿レベルを測定することによって求められる。本明細書においては、「投与量」および「投薬量」は互いに読み替えることができる。
【0112】
治療有効量の決定は、薬剤の毒性および有効性などの因子に特に影響される。毒性は、当分野で既知の方法を用いて測定できる。有効性は、同様な指針を用いて判断できる。故に、薬剤学的有効量は、毒性学的に許容できるが有効であると医師が考えた量である。例えば有効性は、標的組織におけるTリンパ球の誘導もしくは実質的な誘導、あるいは、標的組織塊の縮小によって測定できる。好ましい実施形態に従えば、適切な投与量は、約1mg/kg〜10mg/kgである。
【0113】
治療を必要としている対象に、本発明によって提供される抗体の治療有効量を投与することを含む実施形態に従えば、「治療有効量」とは、疾病状態を阻害する、または回復させる(例えば、癌の増殖を抑制する、または阻止するなど)のに必要な抗体量を意味する。いくつかの方法は、既知の抗癌剤または治療法、例えば、化学療法(好ましくは、本明細書に列記した種類の化合物を使用する)または放射線療法などと組み合わせた方法も包含する。患者は、ヒトまたはヒト以外のほ乳類である。一般的には、患者は、癌を患っている場合に治療を必要とするが、このとき、癌は、その維持または増殖を促進するレセプター濃度の上昇によって特徴づけられる。
【0114】
一般的に、活性化合物の一日あたりの経口投与量は、約0.01mg/kg〜1000mg/kgである。0.5〜50mg/kg/日の範囲の経口投与量を一日1回もしくは数回に分けて投与することによって所望する結果が得られるであろう。投与量は、投与形態に応じて、局所もしくは全身において所望する薬剤濃度に達するように適切に調節できる。例えば、静脈内投与を行うことにより、一日あたりの投与量を10分の1から10の数乗分の1まで減らすことが期待できる。患者の応答がそのような投与量では不十分である場合には、患者が許容できる程度のより高い投与量(または、別異の、局所への送達がより効率よく行える経路により、さらに高い投与量)を用いる。1日あたり複数回投与を行って抗体を適切な全身濃度に到達させることも包含する。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明に従う組成物をインビボに使用する。インビボでの投与形態に応じ、使用する組成物は、固体、半固体、液体、例えば、錠剤、丸薬、粉末、カプセル、ゲル、軟膏、液体、懸濁液などの形にする。好ましくは、組成物は、正確な投与量を1回で投与するのに適した単位投与剤形で投与する。所望する剤形に応じて、組成物は、医薬品として許容される担体もしくは希釈剤を含む場合があるが、そのような担体もしくは希釈剤は、動物もしくはヒトへの投与用の医薬品組成物の製剤化に通常使用される水性ビヒクルと定義される。希釈剤は、目的のヒト組換えタンパク質の生物活性に影響を与えないように選択する。そのような希釈剤の例としては、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液などが挙げられる。同じ希釈剤を用いて、目的の凍結乾燥ヒト組換えタンパク質を再構成できる。さらに、医薬品組成物には、その他の薬剤、調合剤、担体、アジュバント、非毒性、非治療性、非免疫原性の安定化剤なども含む。そのような希釈剤または担体の有効量は、組成物の溶解性、生物活性などに関して医薬品として許容される製剤を得るために有効な量である。いくつかの実施形態では、本発明に従う組成物は滅菌されている。
【0116】
本発明に従う組成物は、抗メラノーマ、抗リンパ腫、抗白血病および抗乳癌治療において、ヒト患者に対し、経口、非経口もしくは局所投与の剤型、あるいは全身性投与の剤型で投与する。本発明に従う組成物は、ある種の自己免疫疾患(例えば、リウマチ性関節炎、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化症など)に対しても治療薬として使用できる。
【0117】
インビボ治療中の投与は、非経口および経口を含む任意数の経路によって行えるが、好ましくは非経口経路である。嚢内、静脈内、鞘内および腹腔内投与経路が使用できるが、一般的には静脈内が好ましい。当業者であれば、投与経路は、治療すべき疾患に応じて異なることは承知しているはずである。
【0118】
治療用には、組成物の有効量は、所望する表面に該組成物を送達するのに適した任意の様式によって投与できる。本発明に従う医薬品組成物の投与は、当業者において既知の任意の手段によって遂行できる。好ましい投与経路としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:経口、非経口、筋肉内、鼻内、舌下、気管内、吸入、目、膣および肛門など。
【0119】
組成物を全身に送達することが好ましい場合には、注射(例えば、ボーラス注射または連続輸液など)による非経口投与用に調製する。注射用製剤は、保存剤を添加し、アンプルまたは複数回投与容器などに充填した単位投与剤型として提供できる。組成物は、懸濁液、溶液、または、油性もしくは水性ビヒクル中のエマルションなどの剤型にして差し支えなく、また、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化された薬剤を含んでもよい。
【0120】
非経口投与用の医薬品製剤としては、水溶性の形態の活性化合物水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁液を、適切な油性注射用懸濁液として調製してもよい。適切な親油性溶媒またはビヒクルとしては、ごま油などの脂油、または、オレイン酸エチル、トリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームなどが挙げられる。水性注射用懸濁液は、懸濁液の粘度を高めるような物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、もしくはデキストランなどを含んでいてもよい。随意的に、懸濁液に適切な安定化剤または安定剤を含ませて化合物の溶解性を高め、高濃度溶液を調製しても構わない。
【0121】
あるいは、活性化合物は、使用前に、適切なビヒクル(例えば、発熱物質を含まない滅菌水など)で構成する粉末の形態であって差し支えない。
【0122】
経口投与用には、医薬品組成物は、医薬品として許容される賦形剤を用いた従来の手法によって調製される、例えば、錠剤またはカプセルなどの形態であって差し支えなく、そのような賦形剤としては、結合剤(例えば、糊化前のトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロース、またはリン酸水素カルシウムなど);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカなど);崩壊剤(例えば、バレイショデンプンまたはナトリウムデンプングリコレート(sodium starch glycolate);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)などが挙げられる。錠剤は、当分野で既知の方法によって被覆できる。経口投与用の液体製剤は、例えば、溶液、シロップもしくは懸濁液の形態であって差し支えなく、あるいは、使用前に水その他の適切なビヒクルで構成する乾燥製剤として存在していてもよい。そのような液体製剤は、医薬品として許容される添加剤を用いた従来の手法に従って調製して差し支えなく、そのような添加剤としては、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または食用硬化油など);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシアなど);非水性ビヒクル(例えば、扁桃油、油性エステル類、エチルアルコールまたは分別植物油など);保存料(例えば、メチルもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエート類またはソルビン酸など)などが挙げられる。製剤には、適切な緩衝塩、着香剤、着色剤および甘味料も含ませてよい。
【0123】
経口投与用調製物を適切に製剤化することによって活性化合物の放出を制御してもよい。頬投与用には、組成物を、従来の方法に従って、錠剤またはロゼンジ(舌下錠)の形態にしてもよい。
【0124】
経口投与用には、例えば、活性抗体を当分野で既知の医薬品として許容される担体と混合することにより、抗体を容易に調製できる。そのような担体を用いることにより、治療を要する対象が経口で服用するために、本発明に従う化合物を錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などに調製できる。経口用途の医薬品製剤は、固体賦形剤として得られ、場合によっては得られた混合物を粉砕し、必要に応じて適切な補助剤を添加した後に、混合物を顆粒に加工することにより、錠剤または糖衣錠の核を得る。特に適切な賦形剤としては、糖などの充填剤(ラクトース、ショ糖、マンニトールまたはソルビトールなどを含む);セルロース調製物(例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)など)などが挙げられる。必要に応じ、崩壊剤を加えてもよく、そのようなものとしては、交差結合ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはそれらの塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などが挙げられる。随意的に、生理食塩水または緩衝液(すなわち、内部の酸性状態を中和するためのEDTAなど)中で経口用製剤を調製してもよく、あるいは、担体無しで投与してもよい。
【0125】
また、抗体の経口投与形態も具体的に意図されている。構成成分については、抗体の経口送達が効率的に行われるように化学的に修飾して構わない。一般的に、意図されている化学修飾とは、抗体に少なくともひとつの部分が結合することであり、そのような部分が、(a)タンパク質分解の阻害;および(b)胃または腸からの血流への取り込みを可能にする。さらには、抗体の全体的な安定性を高め、血中循環時間を増長させることを目的とする。そのような部分の例としては、ポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマー類、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリプロリンなどが挙げられる。アブチョウスキ(Abuchowski)およびデイヴィス(Davis)編、1981年、「可溶性ポリマー酵素付加物(Soluble Polymer-Enzyme Adducts)」(「薬剤としての酵素(Enzymes as Drugs)」、ホッセンバーグ(Hocenberg)およびロバーツ(Roberts)編、ウィレー−インターサイエンス(Wiley-Interscience)社、ニューヨーク州ニューヨーク、pp.367-383;ニューマーク(Newmark)ら、1982、J.Appl.Biochem.,4:185-189。)使用可能なその他のポリマーとしては、ポリ−1,3−ジオキソランおよびポリ−1,3,6−チオクソカンがある。上記の医薬品用途として好ましいのは、ポリエチレングリコール部分である。
【0126】
組成物の放出位置は、胃、小腸(十二指腸、空腸または回腸)または大腸であって構わない。当業者は、胃では溶解しないが、十二指腸または腸内の別の位置で薬物が放出されるような市販の製剤を入手できる。好ましくは、放出は、抗体を保護することにより、または、胃内環境よりもさらに先(例えば、腸内など)で生物活性物質を放出させることにより、胃内環境の有害な影響を避ける。
【0127】
十分な消化管耐性を確立するためには、少なくともpH5.0において不透過性の被覆を行うことが必須である。腸溶コーティングとして使用される、より一般的な不活性材料の例としては、セルロースアセタートトリメリタート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート(HPMCP)、HPMCP50、HPMCP55、ポリビニルアセタートフタラート(PVAP)、ユードラジットL30D、アクアテリック、セルロースアタートフタラート(CAP)、ユードラジットL、ユードラジットS およびシェラックなどが挙げられる。これらのコーティングは混合フィルムとして使用して差し支えない。
【0128】
コーティングまたはコーティング混合物は錠剤にも使用できるが、胃内環境に対する保護を意図しているわけではない。このようなものとしては、糖衣、または錠剤の嚥下を容易にするためのコーティングが含まれる。カプセルは、乾燥治療薬(すなわち、粉末)の送達用はハードシェルで構成されて差し支えなく、液状形態の用途には柔らかいゼラチンシェルを用いてもよい。カシェのシェル材料は、濃厚デンプン液またはその他の食用紙を用いることができる。丸薬、舌下錠、成形錠剤もしくは湿性錠剤に関しては、湿潤練薬技術(moist massing techniques)を使用できる。
【0129】
治療薬は、粒子径が約1mmの顆粒またはペレットの形態の微細多粒子(fine multi-particulates)として製剤中に含めることができる。カプセル投与用の物質の製剤は、粉末、軽度圧縮プラグ、あるいは錠剤であってもよい。圧縮によって治療薬を調製してもよいであろう。
【0130】
着色剤および着香剤もすべて含めることができる。例えば、組成物を調製し(リポソームまたはマイクロスフェアの被包などによって)、次に、着色剤および着香剤を含む冷やした飲料といった食品内に含めることができる。
【0131】
不活性物質を用いて治療薬の容量をを希釈する、または増加させることもできる。これらの希釈剤としては、糖質、特に、マンニトール、α−ラクトース、無水ラクトース、セルロース、ショ糖、修飾デキストランおよびデンプンなどが挙げられる。ある種の無機塩も充填剤として使用でき、そのようなものとしては、三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウムおよび塩化ナトリウムなどが挙げられる。市販の希釈剤の例としては、Fast-Flo、Emdex、STA-Rx1500、EmcompressおよびAvicellが挙げられる。
【0132】
固体投与形態の治療薬の製剤中に、崩壊剤を含めてもよい。崩壊剤として使用される物質としては、デンプンを基本とする市販の崩壊剤であるExplotabを含めて、デンプンなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。デンプングリコール酸ナトリウム、Amberlite、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラミロペクチン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジピール、酸性カルボキシメチルセルロース、天然海綿およびベントナイトなどもすべて用いることができる。崩壊剤の別の形態は、不溶性の陽イオン性イオン交換樹脂である。粉末ガムは、崩壊剤および結合剤として用いることができ、それには、寒天、カラヤガムまたはトラガカントなどが含まれる。アルギン酸およびそのナトリウム塩も崩壊剤として有用である。
【0133】
結合剤を用いることにより、硬錠剤を形成するために治療薬を結合剤と共に用いてもよく、そのような材料としては、アカシア、トラガカント、デンプンおよびゼラチンなどのような天然産物由来の材料が挙げられる。その他として、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。ポリビニルピロリドン(PVP)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)はいずれも、治療薬を顆粒化するためにアルコール溶液中で用いて差し支えない。
【0134】
製剤工程中に治療薬が粘着することを防ぐために、減摩剤を治療薬の製剤に加えてもよい。潤滑剤は、治療薬と金型壁の間の層として使用してよく、それらとして、ステアリン酸(マグネシウム塩およびカルシウム塩を含む)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、流動パラフィン、植物油およびワックスなどが挙げられるが、これらに限定されない:。可溶性潤滑剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、様々な分子量のポリエチレングリコール、Carbowax4000および6000などを私用してもよい。
【0135】
製剤中の薬剤の流動特性を向上させ、圧縮中の再配列を補助する滑り剤(glidant)を添加してもよい。滑り剤としては、デンプン、タルク、発熱性シリカおよび水和シリコアルミネートなどが挙げられる。
【0136】
治療薬を水性環境へ溶解させるために、湿潤剤として界面活性剤を加えてもよい。界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよびスルホン酸ジオクチルナトリウムなどのような陰イオン性界面活性剤が挙げられる。陽イオン性界面活性剤も用いることができ、塩化ベンズアルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。界面活性剤として製剤中に含めることができる潜在的な非イオン性界面活性剤のリストには、ラウロマクロゴール400、ポリオキシル40ステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65および80、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で、または 様々な比率の混合物として製剤中に加えることができよう。
【0137】
経口用に使用できる医薬品製剤には、ゼラチンでできた押し出し型の(push-fit)カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑化剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)でできた柔らかい密封カプセルも含まれる。押し出し型のカプセルには、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/または、タルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、場合によっては安定化剤を活性成分と予め混合したものを封入できる。ソフトカプセルでは、活性化合物は、適切な液体(例えば、脂肪酸、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁して差し支えない。さらには、安定化剤を添加してもよい。経口投与用に製剤されたマイクロスフェアも用いることができる。そのようなマイクロスフェアは当分野では明らかである。経口投与用のすべての製剤は、そのような投与に適した投与量でなければならない。
【0138】
頬投与用には、組成物は、従来の方法で製剤された錠剤またはロゼンジの形態であって差し支えない。
【0139】
吸入による投与用には、本発明の用途の化合物は、加圧パックまたはネブライザーからエアロゾールスプレーの形態で、適切な推進剤(propellant)と共に、簡便に送達されて差し支えなく、こういった推進剤としては、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素またはその他の適切な気体が挙げられる。加圧エアロゾルの場合には、一定量を送達するためのバルブを取り付けることによって投与単位を定めてもよい。例えばゼラチンなどの吸入器用のカプセルおよびカートリッジは、化合物および適切な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含めて製剤して構わない。
【0140】
本発明は、肺送達も意図している。組成物は、吸入中にほ乳類の肺に送達され、肺上皮内膜を透過して血流に至る。吸入分子に関するその他の報告としては、次のようなものが挙げられる:アジェイ(Adjei)ら、1990,Pharmaceutical Research,7:565-569;アジェイ(Adjei)ら、1990,International Journal of Pharmaceutics,63:135-144(酢酸リュープロリド);ブラケット(Braquet)ら、1989,Journal of Cardiovascular Pharmacology,13(5):143-146(エンドセリン−1);フバード(Hubbard)ら、1989,Annals of Internal Medicine,Vol.III,pp.206-212(a1−抗トリプシン);スミス(Smith)ら、1989,J.Clin Invest.,84:1145-1146(a−1−プロテイナーゼ);オスウェイン(Oswein)ら、1990,「タンパク質のエアロゾル化(Aerosolization of Proteins)」、気管支薬物送達に関するシンポジウム(Symposium on Respiratory Drug Delivery)予稿集II、コロラド州キーストーン、3月(組換えヒト成長ホルモン); デブス(Debs)ら、1988,J.Immunol.,140:3482-3488(インターフェロン−γおよび腫瘍壊死因子α);プラッツ(Platz)ら、米国特許第5,284,656号明細書(顆粒球コロニー刺激因子)など。全身で効果を得るための薬物の肺送達に関する方法および組成物については、ワン(Wong)らに対して1995年9月19日に付与された米国特許第5,451,569号明細書に記載されている。
【0141】
本発明の実施の用途として意図されているのは、治療生成物の肺送達用に設計された広範な機械装置であり、そのようなものとしては、ネブライザー、定量吸入器、および粉末吸入器などが挙げられるが、これらに限定されるわけではなく、そのようなものはすべて、当業者には熟知されている。
【0142】
本発明の実施に適切な市販の装置のいくつかの具体的な例としては、マリンクロット(Mallinckrodt)社(米国ミズーリ州セントルイス)製のUltravent nebulizer、マークエスト・メディカル・プロダクツ(Marquest Medical Products)社(米国コロラド州イングルウッド)製のAcorn II nebulizer、グラクソ(Glaxo)社(米国ノースカロライナ州、リサーチ・トライアングル・パーク)製のVentolin metered dose inhaler、フィソンズ(Fisons)社(米国マサチューセッツ州ベッドフォード)製のSpinhaler powder inhalerなどが挙げられる。
【0143】
そのような装置すべてにおいて、投薬に適した製剤の使用が必要とされる。一般的には、各製剤は、使用する装置の型に対して特異的であり、治療に有用な通常の希釈剤、アジュバント、および/または担体に加えて、適切な推進剤を併せて使用すしてもよい。さらに、リポソーム、マイクロカプセルもしくはマイクロスフェア、封入複合体、またはその他の型の担体を使用することも含まれる。化学修飾または使用する装置に応じて、化学修飾された抗体を異なる剤型に調製してもよい。
【0144】
噴射式または超音波によるネブライザーを使用する場合に適した製剤は、一般的に、溶液1mlあたりの生物活性治療薬の量が約0.1〜25mgの濃度になるように、水に治療薬を溶解することを含む。該製剤は、緩衝液および単糖(例えば、抗体の安定化および浸透圧の制御用途として)を含んでもよい。ネブライザー製剤に、界面活性剤を含めて、エアロゾルの形成において溶液が微粒化することによって生じる治療薬の表面誘導性凝集を減少または阻止してもよい。
【0145】
定量吸入器用の製剤は、一般的に、界面活性剤の補助をする推進剤に懸濁させた治療薬を含む微粉末を含むであろう。推進剤は、本目的に用いられる従来の材料のいずれかであって差し支えなく、そのようなものとしては、クロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、炭化水素などがあり、例えば、トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノールおよび1,1,1,2−テトラフルオロエタンなど、またはそれらの混合物などが挙げられる。適切な界面活性剤としては、トリオレイン酸ソルビタンおよびダイズレシチンなどが挙げられる。オレイン酸は界面活性剤としても有用である。
【0146】
粉末吸入器で投薬する製剤には、治療薬を含有する乾燥微粉末が含まれ、また、バルキング剤が含まれる場合もある。バルキング剤としては、ラクトース、ソルビトール、ショ糖またはマンニトールなどが挙げられ、吸入器から粉末の投薬が行いやすくなるような量(例えば、製剤の50〜90重量%など)を加える。治療薬は、末端の肺に最も効果的に送達されるように、平均粒子径が10mm(またはミクロン)未満、最も好ましくは、0.5〜5mmの粒子型に調製できる。
【0147】
本発明に従う医薬品組成物の鼻送達もまた意図されている。鼻送達を行うことにより、本発明に従う治療薬を鼻に投与した後、肺に沈着する必要なく、本発明に従う医薬品組成物は直接血流に入ることができる。鼻送達用の製剤としては、デキストランまたはシクロデキストランが挙げられる。
【0148】
鼻投与に有用な装置は、定量噴霧器が装着された小型の硬質びんである。ひとつの実施形態では、定容量の小室に本発明に従う医薬品組成物の溶液を流入させ、さらに、小室内の液体を加圧した場合に、スプレーを形成することによって定量を送達するが、そのような小室は、エアロゾル化するための開口部を有する。特定の実施形態では、小室はピストン構造である。そのような装置は市販されている。
【0149】
別の方法としては、プラスチックのスクイーズボトルを用いるが、そのようなボトルは、強く握った際にスプレーを形成することにより、エアロゾル製剤をエアロゾル化するための孔または開口部を有する。通常、開口部は容器の上部にあり、一般的に、該上部は、エアロゾル製剤を効率的に投与するために、鼻腔に適合するように先が細くなっている。一定量の薬物を投与するために、鼻吸入によって定量のエアロゾル製剤が提供されることが好ましい。
【0150】
化合物は、直腸または膣投与用組成物としても製剤化して差し支えなく、そのようなものとしては、例えば、カカオ脂またはその他のグリセリドなどの従来から使用されている坐剤基剤を含む、坐剤もしくは停留浣腸などが挙げられる。
【0151】
上述の製剤に加え、化合物は、持続性の製剤にすることもできる。そのような長時間作用性の製剤は、適切なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、許容される油中エマルションなど)、またはイオン交換樹脂、あるいは低溶解性誘導体(例えば、低溶解性塩など)を用いて調製されて構わない。
【0152】
医薬品組成物には、適切な固体またはゲル相の担体もしくは賦形剤も含めて差し支えない。そのような担体または賦形剤の例としては次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖類、デンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、ならびにポリエチレングリコールなどのポリマーなど。
【0153】
適切な液体または固体の医薬品製剤の形態としては、例えば、吸入用の水溶液もしくは生理食塩水、マイクロカプセル化された、蝸牛状の、微小金粒子上にコーティングされた、リポソーム内に封入された、霧状の各形態、エアロゾル、皮膚への移植用のペレット、または、皮膚を引っ掻くための先端が尖った物体上に乾燥させたものなどが挙げられる。この薬学的組成物はまた、活性化合物を長期放出する、顆粒、散剤、錠剤、コーティングした錠剤、(マイクロ)カプセル剤、坐剤、シロップ剤、エマルジョン、懸濁剤、クリーム、ドロップ、または調製物を含み、その調製物において、賦形剤および添加剤および/もしくは補助剤(例えば、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、甘味剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、甘味料、または可溶化剤が、上記のように慣用的に使用される。この薬学的組成物は、種々の薬物送達系における使用のために適切である。薬物送達のための方法の簡単な概説について、Langer R(1990)Science 249:1527−33(これは、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
【0154】
医薬品組成物には、顆粒、粉末、錠剤、コーティング錠、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、エマルション、懸濁液、クリーム、ドロップ、または活性化合物の持続性放出用の製剤などが挙げられ、これらの製剤中には、賦形剤および添加剤、および/または、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨張剤、潤滑剤、着香剤、甘味料または可溶化剤などの添加剤が、上記のように慣用的に使用されている。医薬品組成物は、様々な薬物送達系での使用に適している。薬物送達法に関する簡潔な概説としては、ランガー(Langer)、Science,249:1527-1533,1990を参照のこと。該文献は参照することにより本明細書に援用される。
【0155】
抗体および、随意的にその他の治療薬を、直接、または医薬品として許容される塩のかたちで投与してもよい。薬剤として使用する場合には、塩類は、医薬品として許容されるものでなければならないが、許容されない塩類を用いて、それらの許容される塩類を調製することができる。そのような塩類としては次のような酸から調製されるものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、葉酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸など。また、そのような塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類塩類、例えば、カルボン酸基のナトリウム塩、カリウム塩もしくはカルシウム塩などとして調製することもできる。
【0156】
好ましい緩衝剤としては次のようなものが挙げられる:酢酸および塩(1〜2%w/v)、クエン酸および塩(1〜3%w/v);ホウ酸および塩(0.5〜2.5%w/v)、およびリン酸および塩(0.8〜2%w/v)など。好ましい保存料としては、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%w/v)、クロロブタノール(0.3〜0.9%w/v)、パラベン類(0.01〜0.25%w/v)およびチメロサール(0.004〜0.02%w/v)などが挙げられる。
【0157】
本発明に従う医薬品組成物は、医薬品として許容される担体中に、有効量の抗体および追加の治療薬を含む。医薬品として許容される担体という語は、ひとつもしくはそれ以上の相溶性の固体もしくは液体の充填剤、希釈剤またはカプセル封入剤を意味し、それらは、ヒトまたはその他の脊椎動物への投与に適したものである。担体とは、有機性もしくは無機性の材料であり、天然もしくは合成のものがあり、活性物質を混合して投薬しやすくするものをさす。医薬品組成物の構成成分は、本発明に従う化合物と混合でき、かつ、所望する薬剤学的効果を実質的に損なうような相互作用を起こさないような方法で混合できる。
【0158】
抗体などを含む治療薬は粒子として提供することができる。本明細書において使用している粒子とは、ナノもしくはマイクロ粒子(または、場合によってはそれより大きい粒子)であって、抗体の全体または一部を含むものである。粒子は中心に治療薬を含み、その周囲を腸溶皮膜などでコーティングしたものである。治療薬は、粒子全体に分散することもできる。治療薬は粒子に吸着させることもできる。粒子は、任意の次数の放出動態を示し、例えば、ゼロ次放出、一次放出、二次放出、遅延放出、持続性放出、即時放出およびそれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。治療薬に加え、粒子は、薬剤学および医学において通常使用される任意の材料を含む場合があり、そのようなものとしては、浸食性、非浸食性、生体分解性、もしくは生体非分解性の材料、またはそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。粒子は、溶液または半固体状の抗体を含むマイクロカプセルにしてもよい。粒子は、事実上いずれの形態にしてもよい。
【0159】
治療薬送達用の粒子の製造には、生体非分解性および生体分解性のポリマー材料を使用して構わない。そのようなポリマーは、天然または合成のポリマーである。ポリマーは、放出が所望される時間に基づいて選択される。特に関心が高い生体吸着性ポリマーとしては、その文献の教示を本明細書中に援用する、H.S.ソウニー(Sawhney)、C.P.パサック(Pathak)およびJ.A.フベル(Hubell)によって記載された生体浸食性ヒドロゲル(Macromolecules,(1993)26:581-587)が挙げられ、そのようなポリマーとしては、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリアンヒドリド類、ポリアクリル酸、アルギナート、キトサン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)およびポリ(オクタデシルアクリレート)などが挙げられる。
【0160】
治療薬は、放出制御系に含めてもよい。「放出制御」という語は、製剤からの薬物放出の手法および特性が制御されている、任意の薬物含有製剤をさす。これは、即時放出製剤および非即時放出製剤をさし、非即時放出製剤としては、持続放出製剤および遅延放出製剤が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。「持続放出」(「長期放出」とも称する)という語は、従来からの感覚に基づいて使用される語であり、長時間にわたって薬物が段階的に放出されるような剤型をさし、好ましくは(必須ではないが)、長時間にわたって薬物の血中濃度が実質的に一定になる。「遅延放出」とは、従来からの感覚にもとづいて使用される語であり、製剤の投与とその製剤からの薬物の放出との間に時間差があるような剤型をさす。「遅延放出」は、長時間にわたる薬物の段階的放出を含む場合と含まない場合があり、従って、「持続放出」である場合とない場合がある。
【0161】
長期間持続放出性の移植物の使用は、慢性状態の治療には特に適している。本明細書において使用している「長期間」とは、少なくとも7日間、好ましくは30〜60日間にわたって、埋込み体が治療レベルの活性成分を送達するように構築され、調整されていることを意味する。長期間放出性の移植物は、当業者に周知であり、上述した放出系のうちのいくつかも含まれる。
【0162】
本発明においては、抗体を含むキットも提供される。図14は、そのようなキットの一例を示している。キット10は抗体12を含む。キット10は、ひとつもしくはそれ以上のバイアルまたは容器14も含む。そのようなキットは、本明細書に記載した癌などの疾病、または、そのような疾病の症状を有する対象に構成成分を投与するための指示書を含む。
【0163】
いくつかの実施形態では、キット10は、医薬品製剤バイアル、医薬品製剤の希釈剤バイアルおよび抗体を含む。医薬品製剤の希釈剤を含むバイアルは任意である。希釈剤バイアルには、抗体の濃縮液または凍結乾燥粉末を希釈するための生理食塩水などの希釈剤が含まれている。指示書には、特定量の希釈剤に特定量の濃縮された医薬品製剤を混合するための指示書を含み、それによって注射または輸液用の最終製剤を調製する。指示書には、シリンジまたはその他の投与装置の使用法が含まれている。指示書20は、有効量の抗体を用いて患者を治療するための指示を含む。製剤を含む容器は、該容器が、ビン、栓付きバイアル、栓付きアンプル、輸液バッグなどのいずれであっても、製剤をオートクレーブ処理またはその他の滅菌処理した場合に色が変化するような従来から使用されているマーキングなどの指示物を加えることができる。
【0164】
「対象」は、ヒト、または、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、霊長類(例えば、サルなど)を含む脊椎ほ乳類であるが、これらに限定されるわけではない。
【0165】
本明細書において特に定義していない限り、本発明に関連して使用している科学用語および技術用語は、当業者が一般的に理解している意味で用いている。さらに、文脈から要求されていない限り、単数事項は複数事項を含み、複数事項は単数事項を含む。一般的には、本発明に従う方法および技術は、当分野において既知の従来から行われている方法に従って実施される。一般的に、本明細書に記載されている生化学、酵素学、分子および細胞生物学、微生物学、遺伝子およびタンパク質および核酸化学、およびハイブリダイゼーションに関して使用される名称および技術は、周知のものであり、当分野で通常使用されている。一般的に、本発明に従う方法および技術は、当分野において周知の従来法に従って実施され、また、特に限定していない限りは、本明細書において引用および議論されている多様な一般的およびより具体的な参考文献中の記載に従って実施される。
【0166】
以下の実施例に従って本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するためのものではない。本明細書において引用しているすべての参考文献(文献、認可された特許、公開された特許出願および同時係属中の特許出願を含む)の全内容を参照することにより、明確に本明細書に援用する。
【実施例】
【0167】
材料および方法
ハイブリドーマ由来のmRNAのシークエンシング
RNAは、Qiagen RNeasy Mini Kit(カタログ番号#74104)を用いて調製した。4日目に培養物のうちの13mlを5分間遠心分離し、PBS中に懸濁した。これを再度5分間遠心分離した。ペレットは、6μlのμ−MEを含む600μlのRNeasy RLT中に再懸濁した。溶解物は、22gの針に5回通し、600μlの70%EtOHを加えて混合した。700μlのアリコートをRNeasyカラムに2回かけ、30秒間遠心分離し、700μlのRW1で洗浄した。これを500μlのPPEで2回洗浄し、1分間乾燥させ、さらに、50μlの水で2回溶出させた。
【0168】
2μlのRNAについて、オリゴdTプライマーを用い、Promega Reverse Transcription System(カタログ番号#A3500)で逆転写を行った。反応は、42℃で1時間インキュベートし、その後、95℃で5分間加熱して行った。次に、反応物を100μlの水で希釈した。PCRは、N末端もしくは5'末端に対するもの、および、C末端もしくは3'末端に対するものから選択したプライマーを用い、1μlのcDNAアリコートについて行った。PCRは、正の対照として、定常領域のみに由来するプライマーを用いて行った。
【0169】
PCR生成物は、Qiagen QiaQuick PCR Purification Kit(カタログ番号#28104)を用いて精製した。さらに溶出を行って最終容量を100μlにした。260nmにおける吸収を測定した。PCRに使用したN末端プライマーと一緒にシークエンシングを行うため、濃度は10〜26ng/μlおよび100ngにした。
【0170】
使用したアミノ末端プライマーは、抗体のアミノ末端のコード配列の一部であったことから、配列に突然変異を導入できた。得られた配列を用い、マウスゲノムから生殖系遺伝子を確認した。次に、cDNA由来の全コード配列のPCR用にこれらの遺伝子の末端までプライマーを合成した。このようにして、PCRプライマーに関連している如何なる配列をも含まない、抗体の全コード領域が得られた。コード配列は、各場合において、アミノ末端配列と一致していることから、発現された抗体の配列である。J領域は、配列内で注解されているように、既知のJ領域から確認した。
【0171】
抗ヒトCD137に対する重鎖および軽鎖遺伝子のクローニングおよびシークエンシング
IgGの4つの主要サブクラスに対するヒト定常領域配列を含む導入遺伝子発現ベクターを構築した。これらのベクターは、乳房特異的導入遺伝子発現を確実に行わせるためのヤギβ−カゼインプロモーター、ならびに、その他の5'および3'制御配列を有する。キメラ抗体変異体は、マウス抗ヒトCD137抗体の可変領域を挿入することによって構築した。マウスの抗CD137 H鎖およびL鎖は、対応する可変領域をシークエンシングすることによって確認した。マウス免疫グロブリンの多様なファミリーに属する5'コード領域由来の配列を表すオリゴヌクレオチドの集団を整理した。マウス免疫グロブリンの配列は、個々に、5'プライマーとして使用し、ハイブリドーマRNAから調製したcDNAを増幅させ、さらに、得られたPCR生成物をクローニングおよびシークエンシングした。3'PCRプライマーは、定常領域の既知の配列から調製した。PCRプライマーは制限エンドヌクレアーゼ部位を含んでいたことから、得られた増幅配列は、発現ベクターに挿入できた。これらの配列をコンストラクトに挿入し、キメラタンパク質をコードしている遺伝子を作成した。
【0172】
抗CD137抗体遺伝子の可変領域のクローニングおよびシークエンシングに使用した方法は、次の段階1)〜5)を含む:1)cDNAは、ハイブリドーマRNAから調製した。RNAは、標準的な方法によってハイブリドーマから調製し、cDNAは、市販の反応キット(Reverse Transcription System、プロメガ(Promega)社、ウィスコンシン州マディソン)を用いて逆転写することによって調製した。2)cDNAは、特性付けが十分に行われているいくつかのマウスモノクローナル抗体のVHおよびVL領域のアミノ末端由来の既知の配列に基づくプライマーを用いたPCRによって増幅した。3)可変領域配列は、PCRによって作成した配列を、ネオマイシン耐性(neoR)選択マーカーを有するクローニングベクター内に挿入することによって増幅させ、さらに、 neoRコロニーを単離した。4)約6個のコロニーから調製したHおよびL鎖cDNAをシークエンシングし、各可変領域に対するコンセンサス配列を決定した。PCRアーチファクト由来の配列内に突然変異が導入されていないことを確認することが重要である。DNAシークエンシングは、セクエジェン(SequeGen)社(マサチューセッツ州ウーセスター)において、出来高払いで行った。5)ハイブリドーマ上清から単離したHおよびLタンパク質をシークエンシングし、正確なタンパク質配列を遺伝子配列由来の推定タンパク質配列と比較した。この段階は、クローニングされた遺伝子が機能性抗体鎖をコードしていることを確認するためのものである。タンパク質シークエンシングは、カージナル・ヘルス(Cardinal Health)社(カリフォルニア州サンディエゴ)において、出来高払いで行った。
【0173】
キメラ抗体用の独立したキメラIgGの重鎖および軽鎖コンストラクトの作出
上述の方法に従って得られた可変領域を用い、ヒトIgG1抗体内のヒト可変領域を置換した。本発明のひとつの実施形態では、IgG1発現ベクター内のヒト可変領域配列をマウスの可変領域配列と一緒に使用することにより、キメラヒト化抗体を作出した。 抗体発現ベクターは、天然のグリコシル化可能な型のIgG1 H遺伝子を含んでいた。IgG1グリコシル化部位は、CH2ドメイン内の297番の位置にあるAsn残基である。IgG1 H鎖の非グリコシル化型は、遺伝子配列内の部位特異的突然変異によってAsn297をGln297に変えることによって作成した。これによって3つのコンストラクトが得られた:L鎖、グリコシル化H鎖および非グリコシル化H鎖である。各コンストラクトの2つの型を用いて試験を行った。各コンストラクトは、制限酵素マッピングおよびサザンブロット分析によって評価し、トランスジェニック動物の作出に使用した。さらに、コンストラクトを一過性トランスフェクション実験に使用し、遺伝子操作したキメラタンパク質の生物活性を調べた。
【0174】
トランスジェニック動物の作出に使用したコンストラクトは、ヤギβ−カゼインプロモーター、ならびにその他の5'および3'制限配列を有しており、これらを用いることにより、乳房特異的な導入遺伝子の高レベル発現が確実に行われる。プロモーターおよびその他の調節要素の交差種認識(cross-species recognition)により、同一のコンストラクトを用いてトランスジェニックマウスおよびヤギを作出した。子が生まれたら、ヤギおよび/またはマウスは、グリコシル化レベルおよびADCC特性の増強についてスクリーニングを行った。制限酵素マッピングにより、コンストラクトの構造集積性を確認した。コンストラクトを用い、一過性のトランスフェクト細胞およびトランスジェニック動物を作出した。
【0175】
重鎖キメラの構築および発現ベクターへの挿入
重鎖キメラの構築を目的として、マウスIgG2a定常領域をヒトIgG1定常領域で置換したが、このとき、マウスリーダー配列を伴ったヒト抗体配列を含むBC2083発現ベクターを使用した(プラスミド1)。スプライスドナーサイトは、GからAへのサイレント突然変異によって排除した。サイレント突然変異とは、C末端付近のグリシンに対するコードを変化させない突然変異である。可変領域付近にあるBC2083発現ベクターにユニーク部位を入れた。N末端にDraIIIおよびPmIIIを導入し、ApaIは、重鎖定常領域のアミノ部分中に存在している。これらの遺伝子は、プライマーを用い、CMV-Zeo由来のzeo遺伝子をPCRすることによってBC2083のXhoI部位にクローニングし、p80 BC2083 zeo(プラスミド2)を得た。制限酵素部位をプラスミドに速やかに挿入するこの方法は、zeo遺伝子によって供与されるゼオシン耐性を利用したものである。ゼオシン耐性については、NZYCM寒天中、25μg/mlのゼオシンを用いて選択した。
【0176】
ヒトIgG1定常部分は、BC2083から切り出すことによってユニークApaIおよびXhoI部位に戻し、さらに、それをp80にクローニングすることによってp83 BC2083 DraIII IgG1(プラスミド3)を得た。このプラスミドは、重鎖可変領域に接しているユニークDraIII/PmlI部位およびApaI部位を有しており、それによって、ヒトIgG1定常領域コード配列に任意の重鎖可変領域が結合できた。
【0177】
抗CD137抗体の重鎖可変領域は、PCR手法を用い、アミノ末端にDraIIIおよびPmlIを導入し、C末端にApa部位を導入することにより、挿入用に調製した。ApaI部位は、天然では、ヒトIgG1定常領域のアミノ末端付近に存在する。PCRは、MHEおよびMHECをプライマーとし、PfuTurbo(ストラタジーン(Stratagene)社、カタログ番号600153-81)およびcDNAを用いて行った。PCRフラグメントは、pCR-BluntII-TOPO(インビトロジェン(Invitrogen)社、カタログ番号K28602)にクローニングし、プライマーpcr2.1fおよびpcr2.1bを用いてシークエンシングした。これによってp96が得られ、これは、DraIII−PmlIおよびApaIに接している重鎖可変領域を有する(プラスミド4)。
【0178】
β−カゼイン発現ベクターであるp100BC2083ヘビー(BC2197)(プラスミド5)は、p96 pCR-BluntII-Mayo-heavy DraIII-ApaIフラグメントを単離し、それを連結することによって構築し、DraIII-ApaI切断p83 BC2082 DraIII IgG1(プラスミド3)を切断した。
【0179】
標的アスパラギンをグルタミンに変えることによってグリコシル化を阻止することを目的とし、PCRによって重鎖コード配列を調製したが、これは、重鎖定常領域Nおよび重鎖定常領域Cをプライマーとし、BC2083由来のPfuTurboと共にpCR-Zero-Bluntにサブクローニングして行った。これにより、p76およびp77pCR2.1-Blunt-IgG1-重鎖−定常領域を得た。これらのプラスミドをシークエンシングすることにより、PCR中に定常領域に突然変異が生じていないことを確認した。ひとつの実施形態に従えば、p77中の抗CD137抗体のサブクローニング定常領域において、QuickChange XL Mutagenesis(ストラタジーン(Stratagene)社)キットおよび突然変異誘発性オリゴ類を用いて突然変異を起こさせた。このオリゴは、アスパラギン297をグルタミンに変え、近隣のBsaAI部位を除去することにより、スレオニンコドンのサイレント突然変異による制限酵素分析を用いたスクリーニングを可能にする。これにより、p88、p89およびp90pCR2.1-Blunt-IgG1-heavy-mutというプラスミドが得られた。PCRは、プライマーを用いてこれらのプラスミド上で行い、シークエンシング用フラグメントを調製した。
【0180】
軽鎖キメラの構築および発現ベクターへの挿入
軽鎖用には、発現ベクターとしてBC1060(プラスミド6)を使用した。可変領域をヒトκ定常領域へ融合させることを目的として、マウスのJ領域に2つの制限酵素部位を順に作出した。KpnI部位は、グリシンに対するコドンをGGGもしくはGGCからGGTに変えることによって導入した。ロイシンに対するコード配列は、CTGからCTTに変えることによってHindIII部位を作出した(プラスミド8)。
【0181】
PfuTurbo(ストラタジーン(Stratagene)社)を用いたPCRにより、κ鎖のヒト定常領域のコード領域は、プライマーを用い、コード領域の末端近くから始まり、天然に存在するSacI部位において、KpnIおよびHindIII部位を利用してBC1060から単離した。PCR産物は、ZERO BluntTOPO PCR W EC(インビトロジェン(Invitrogen)社、カタログ番号K286020)にクローニングした。これらのプラスミドをシークエンシングした。これにより、p85 pcr-blunt-1060κ constantrev(プラスミド7)およびp68 pcr-blunt-1060κ constant(プラスミド8)が得られた。
【0182】
同様に、プライマーを用いたPCRにより、cDNAから可変領域を単離し、pCR2.1-blunt-TOPOにクローニングすることによってp92 pCR2.1-blunt-κvariable(プラスミド9)を作出した。ここで、該可変領域は、340番のヌクレオチドの位置においてXhoI部位に隣接しており、731番付近のヌクレオチドの位置においてKpnIおよびHindIII部位に隣接している。これらのプラスミドについてシークエンシングを行った。
【0183】
軽鎖キメラは、まず、3片のDNAを用いてpCR-Blunt内で構築した。XhoIからSacIに至る骨格は、p86 pcr-blunt-1060κconstant revから得た。κ定常領域は、p85-Blunt-1060 κ-constant rev由来のHindIII-SacI片である。可変領域は、XhoI-HindIII片を用い、p92 pCR-Blunt-κvariable revから得た。コロニーは、プライマーとしてpcr2.1fおよびpcr2.1bを用いたPCRにより、863bpフラグメントの産生を検出することによって確認した。これにより、p94 pCR-BluntII-Mayo-kap-chim(プラスミド10)が得られた。このプラスミドは、XhoIおよびSacIを用いた切断によって684bpのフラグメントが得られることから確認した。
【0184】
マウス重鎖リーダー配列を有するImmunogenヒト軽鎖を含むβ−カゼイン発現ベクターBC1060内に軽鎖キメラを入れた。p94は、XhoI-SacIを用いて切断し、小片を単離した。BC1060は、KpnI-SacIで切断し、5206bpの断片を単離した。BC1060をKpnI、XhoIおよびPacIで切断し、大きな骨格を単離した。これら3つの断片を結合し、必要なプライマーを用いてコロニーをスクリーニングした。陽性プラスミドはBglIIで確認し、PCR生成物をシークエンシングした。このプラスミドはp104 BC1060 LC chim(BC2198)(プラスミド11)である。
【0185】
細胞培養発現ベクターの構築
軽鎖用の一過性発現ベクターの構築を目的として、p104 BC1060 LC chim(プラスミド11)由来のXhoIフラグメントをpCEP4のXhoI部位に連結することにより、p106およびp107 pCEP4-Mayo-LC(#2203)(プラスミド12)を得た。陽性コロニーは、オリゴCEPFおよびKVCを用いたPCRによって検出した。
【0186】
重鎖用の一過性発現ベクターの構築を目的として、BamHIで切断したpCEP4内にp100 BC2083重鎖のBamHIフラグメントをクローニングした。コロニーは、HVC 09およびCEPFを用いたPCRによってスクリーニングした。これにより、プラスミドp110 pCEP4-BamHI-HC(#2202)(プラスミド13)を得た。
【0187】
可変領域を含むp110 pCEP4-BamHI-HC(#2202)のKpnI-AgeI小片を、KpnI-AgeI切断p88 pCR2.1-Blunt-IgG1-heavy-mutに連結することにより、抗CD137抗体の重鎖可変領域を有するキメラを調製した。これにより、プラスミドp111 pCR2.1-Mayo-IgG1-heavy-mut(プラスミド14)が得られた。このプラスミドは、BsaAI-PstIで確認した。
【0188】
一過性発現ベクターの構築を目的として、キメラ抗体コード領域を含むp111由来の小さいXhoIフラグメントを、pCEP4のXhoI部位に挿入した。コロニーは、HVC 09およびCEPFを用いたPCRによって確認した。これにより、p112 pCEP4-Xho-Mayo-IgG1-aglycos(BC2206)を得た。期待されたフラグメントは、EcoRV-HindIII切断(2479bp)およびBamHI切断(1454bp)によって得られた。β−カゼイン発現ベクターの構築を目的として、キメラ抗体コード領域を含むp111由来の小さいXhoIフラグメントをBC2083のXhoI部位に挿入した。コロニーは、オリゴHVC 09およびCA5を用いたPCRによって確認した。MluI-Eco47III-NotIを用いて切断することによって、期待された2479bpのフラグメントが得られ、一方、BamHIを用いて切断することによって、期待された1454bpのフラグメントが得られた。
【0189】
IgG1突然変異体のクローニング
使用した抗CD137抗体は、マウス乳汁中に発現された。マウスで発現させるために、BC2197(p100 BC2083 heavy)および(BC2198)p104 BC1060軽鎖に使用した構築技術を利用した。同様に、親プラスミドは、重鎖に対してはBC2083を、軽鎖用にはBC1060を使用した。基本的には、親プラスミドのリーダー配列を含む可変領域は、抗CD137抗体cDNAの重鎖および軽鎖の可変領域由来のcDNA配列よ交換した。発現ベクターの定常領域は、重鎖はIgG1に、および軽鎖はκ鎖に、クローニングした配列で置換した。
【0190】
IgG1配列のクローニング
使用した抗体の重鎖は、インビトロジェン(Invitrogen)社から購入したcDNAからクローニングした。PfuTurboを用いたPCRは、胎盤cDNAおよび以下に示すプライマーを用いて行った。C末端プライマー61960C11は、野生型配列と比較すると塩基が変化しており、スプライス供与部位が破壊されている。993pのフラグメントをZeroBluntにクローニングした。配列は、Glm(3)からなるひとつの配列であることを示していた。ヒト血清由来のγグロブリンに関しては、継承的な差異がある(グラブ(Grubb)、1956;グラブ(Grubb)およびローレル(Laurell)、1956)。Kmに関しても同様な系がある(κマーカー、以前はInvと称されており、eInhibitrice Virmiを表す)。これは、コーカサス系アロタイプGlm(f)またはGlm(3)であり、出発プラスミド中に見出されたようなアフリカ系アロタイプGlm(z)またはGlm(17)の代わりである。
【0191】
その他のアロタイプをクローニングすることを目的として、上述に従って脳cDNAからPCRを行い、プラスミドp116、p117、p118およびp119を得た。これらのプラスミドはいずれも配列が誤っていた。例えば、ほとんどのプラスミドは、配列末端のApaIおよび/またはXhoI部位を消失していたが、これは、PCRプライマーによってもたらされたと考えられる。鋳型としてp116または脳cDNAを用いて再度PCRを行った。
【0192】
p116のPCRにより、121、122および123が得られた。脳cDNAのPCRによって124が得られた。プラスミド121からの挿入体を用いてp133、p134、p135およびp136を作成し、これらは、BC2083 heavy Glm(17)であり、100c BC2083 heavyをApaIおよびXhoIで切断し、また、p121 ZeroBlunt-IgG1 Glm(17)をApaIおよびXhoIで切断し、これらを連結し、さらにカナマイシン上で選択したものである。p133を使用した。
【0193】
マウスでの発現に対しては、プラスミドBC2083内の可変領域のみを変換したが、該プラスミドは、マウスリーダー配列を有するヒト抗体配列を含む発現ベクターである。該プラスミドは、IgG1定常領域の末端にスプライスドナーサイトを有するが、この部位は、グリシンに対するコードを変化させないG→Aへのサイレント突然変異によって排除される。
【0194】
ヤギでの発現を増幅させることを目的として、定常領域をIgG1定常領域に変え、続いてクローニングを行った。p114由来のクローニングした定常領域を用い、p137およびp138を作出した。p100 BC2083 heavy(BC2197)をApaI-XhoIで切断し、114 ZeroBlunt-IgG1 Glm(3)をApaIおよびXhoIで切断し、これらを連結することによってp138(BC2228)を作出した。p121(Glm(17))由来のクローニングした定常領域を用いてp133、p134、p135および136 BC2083 heavy Glm(17)を作出した。κ定常領域についても、GTC Biotherapeuticsでクローニングしたものと置換した。SEQ.ID.NO.1:AGGGTACCAAGCTTGAAATCAAACGAAC−κ Constant Human H01;SEQ.ID.NO.2:5'AAGGGTCCGGATCCTCGAGGATCCTAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTC−Human κC#7734。
【0195】
皮膚線維芽細胞系の調製
ヤギ皮膚の新鮮な生検サンプル由来の線維芽細胞は、インビトロ一次培養で維持した。概説すると、Ca++不含およびMg++不含リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で皮膚サンプルを細かく刻み、EDTA中、希釈トリプシンを用いて採収して細胞1つずつの懸濁液にし、37℃で培養した。コンフルエント細胞をトリプシン処理し、継代培養した。細胞のアリコートは、将来的な使用に備えて液体窒素中で低温保存した。
【0196】
トランスフェクト細胞系の分析
トランスフェクトした細胞は、導入遺伝子(例えば、β−カゼイン、キメラ抗CD137HおよびL鎖のcDNAなど)に対する特異的プローブを用いたサザンブロット分析によって特性付けを行い、導入遺伝子のコピー数を確認し、再配列の可能性を判断した。各細胞系はFISH法による分析も行い、単一組込みを確認し、染色体の位置を決定した。細胞遺伝学的分析を行って細胞系の核型を確認した。
【0197】
FISH法
間期FISH法については、拡張した各コロニー由来の数百個の細胞をフィルター上に固定し、ハイブリダイゼーションを行って導入遺伝子特異的ジゴキシゲニンラベルプローブを増幅させた。中期FISH法については、細胞をLab Tek Chamber slides(ヌンク(Nunk)社、ニューヨーク州ロチェスター)上で培養し、5−ブロモ−2'−デオキシウリジン(BrdU)を用いて複製バンディングを行った。プローブの結合は、FITC−コンジュゲート抗ジゴキシゲニンで検出し、染色体は、4',6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いて交差染色した。画像は、Zeiss Axioskop microscope(ツァイス・イメージング(Zeiss Imaging)、米国ニューヨーク州ソーンウッド)、Hamamatsu digital camera(ハママツ(Hamamatsu)、米国ニューヨーク州ブリッジウォーター)、およびImage Pro-Plus software(メディア・サイバネティクス(Media Cybernetics)、米国メリーランド州シルバー・スプリングス)を用いて捉えた。大多数のプローブは比較的大きく、検出が容易であった。個々のIgG H鎖およびL鎖に対するプローブは、比較的短いcDNA配列によってコードされており、それ自身で良好な解析を得るには小さすぎた。これらの小さいプローブは、ヤギβ−カゼインに対する乳汁特異的プロモーター由来の配列と混合した。
【0198】
細胞遺伝学的分析
ドナートランスフェクト繊維芽細胞系について細胞遺伝学的分析を行った。導入遺伝子プローブは、ニック翻訳により、ジゴキシゲニン−dUTPを用いてラベルした。変性染色体に結合するプローブは、FITC−コンジュゲート抗ジゴキシゲニンまたはホースラディッシュパーオキシダーゼ−コンジュゲート抗ジゴキシゲニンを用い、次にFITC−コンジュゲートチラミドを使用することによって検出した。染色体結合パターンは、DAPIを用いて可視化した。ヤギには60個の染色体があり、それらはすべて端部動原体型(動原体が中心寄りではなく一方の末端に存在する)である。中期の展開に関して、染色体の消失、重複もしくは大量の再配列などの大きな異常の出現を調べた。トランスジェニックヤギの第一世代を作出するために使用した細胞系は、核型としては正常であり、β−カゼイン御プロモーターおよびその他の基本的調節要素と共に、構造的に完全な形のキメラ抗CD137H鎖およびL鎖遺伝子を有していた。
【0199】
キメラ抗ヒトCD137を乳汁中に発現するトランスジェニック動物の作出
キメラ抗ヒトCD137抗体のグリコシル化型および非グリコシル化型を作成した。生物活性の試験に十分な量の抗体を乳汁から精製した後、それらは基本的に同レベルで産生されたものの、2つの型の活性特性は異なっていることがわかった。
【0200】
キメラ抗体用の導入遺伝子コンストラクトを用いてトランスジェニックマウスおよびヤギを作出した。トランスジェニック動物は、H鎖およびL鎖コンストラクトの1:1混合物を導入することにより、成熟抗体を産生した。L鎖コンストラクトは、グリコシル化または非グリコシル化H鎖コンストラクトと混合した。特に、乳汁中の生物活性生成物の相対および絶対レベルについては、ウェスタンブロット分析およびインビトロにおける抗体結合測定によって測定した。
【0201】
トランスジェニックマウス
トランスジェニックマウス内で誘導可能な系の可能性を調べるための実際的な方法としては、第一世代(F1)マウスの乳汁中に発現されたトランスジェニックタンパク質を評価することが挙げられる。数種のトランスジェニック動物では、マイクロインジェクション後、元になる導入遺伝子コンストラクトが細胞分裂中に染色体部位に組み込まれることが確認されている。故に、始祖個体はキメラであり、導入遺伝子の発現レベルに影響を与えることができる。これらの染色体組み込み部位は、次世代で分離し、安定で均質なトランスジェニック動物系が形成される。故に、F1マウスは、導入遺伝子の発現、およびそれらが産生する生物学的生成物の安定性を決定するためにふさわしいモデルである。さらに、マウスに乳汁を分泌させるためには、それらを成熟させ(約2ヶ月を要する)、交尾させ、出産させねばならない。分析後、分泌レベルが安定しており、使用したコンストラクトが有効であったことを判断する。
【0202】
調製した各コンストラクト由来の直線DNAは、CsCl濃度勾配で精製後に電気溶出を行い、さらに、前核マイクロインジェクションによってトランスジェニックマウスを作出した。トランスジェニック始祖動物は、尾組織DNAのPCR分析によって確認し、相対コピー数はサザンブロット分析を用いて決定した。トランスジェニック第一世代導入遺伝子保有「始祖」(F0)雌は、各コンストラクト(グリコシル化型および非グリコシル化型)について多数作出した。これらのF0マウスを成熟時に交尾させ、乳汁分泌を開始させた。それらの乳汁について、ヤギ抗ヒトFc抗体を用いて展開したウェスタンブロットで分析し、ヒトCH領域を有する構造的に無傷なキメラ抗体を分泌するマウスを確認した。
【0203】
最良の始祖は、乳汁中に抗体を理論的に最大量発現する健康な個体と定義され、それらを繁殖させてF1雌を作出し、これらを用い、インビトロおよびインビボでの抗体試験に供するのに十分な量の乳汁を産生させた。
【0204】
トランスジェニックヤギ
予め規定した遺伝子を有するトランスジェニックヤギは、当分野で日常的に行われている核移植技術を用いて作出した。核移植では、最初の数世代でみられる導入遺伝子モザイク現象に伴う問題を排除できるが、これは、導入遺伝子細胞系由来のすべての動物が十分に遺伝子転換されていなければならないからである。導入遺伝子コンストラクトは、標準的なトランスフェクト法(例えば、リポフェクションまたはエレクトロポレーションなど)で一次細胞系に導入した。組換え一次細胞系については、導入遺伝子のコピー数、組込みおよび組込み部位などの重要な性質についてインビトロでスクリーニングを行った後、トランスジェニック動物の作出に使用した。雌のヤギ皮膚繊維芽細胞を用い、トランスフェクトされたトランスジェニック細胞を作り、これを核移植用の核ドナーとして使用し、すべて雌の子を得た。故に、組換えタンパク質を含む乳汁は、F0ヤギから直接得られた。乳汁中の生物活性生成物の相対および絶対レベルはウェスタンブロット分析によって測定した。
【0205】
結果
抗体の精製および特性付け
4つの別異のキメラ抗CD137抗体を作成した。ひとつの変異体は、Asn297をグルタミンに突然変異させることによって非グリコシル化した。この抗体変異体は、作用試験において負の対照としたが、これは、非グリコシル化IgGsはFcレセプターに結合しない、またはADCCにおいて不活性であることが知られているからである(ノーズ(Nose)ら、1983)。別の2つの変異体は乳汁から調製し、ひとつはマウス乳汁由来、もうひとつはヤギ乳汁由来であった。4番目の抗体変異体は、ヒト細胞系HEK 293細胞内で発現させた。
【0206】
抗体変異体のうちのひとつはヒト細胞内で発現された。ヒト胎生腎293細胞系(293)は、効率的にトランスフェクトされることから、一過性トランスフェクション技術に適している。EBV EBNA1タンパク質を安定して発現する遺伝子変異体(293E)は、ベクター骨格内にEBVのoriPが存在する場合には、タンパク質発現が極めて高いことから、これを使用した。
【0207】
oriP/EBNA1系で発現が高められたことは、一過性トランスフェクションを行った場合には、エピソームの複製とは無関係だと考えられるが、これは、EBNA1陽性細胞内のDNA複製開始を担っているoriPのDSドメインを除去しても導入遺伝子の発現は低下せず、一方、DSではなくFRを除去すると発現が大幅に低下するからである。従って、発現の増加は、oriPのEBNA1依存性エンハンサー活性の複合効果およびプラスミドの核移入の増加によるものと考えられ、これは、EBNA1内に核局在シグナルが存在するからである(ファーム(Pharm)ら、2003)。
【0208】
CMVプロモーターからの高レベル構成的発現用に設計されたベクターであるpCEP4(カタログ番号#V04450;インビトロジェン(Invitrogen)社、米国カリフォルニア州カールスバッド)を用いて抗体を発現させた。293EBNA/ebvベクター宿主システムは、COS7/SV4oriに基づく系よりも非常に進歩的であった(ヤランコ(Jalanko)ら、1988;シェン(Shen)ら、1995)。組換えタンパク質の高レベル発現に重要なことは、宿主細胞系内で活性が高いプロモーター(例えば、293細胞内で非常に強力であるCMVプロモーターなど)を有するベクターを使用することであり、これは、構成的に発現されたアデノウイルスE1タンパク質によってトランス活性化されるからである(デュロチャー(Durocher)ら、2002)。
【0209】
ヒトCD137に対して特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(GW)は、以前に記載された標準的な方法に従い(ウィルコックス(Wilcox)ら、2002,J.Clin.Inve.,109:651-659)、ヒトCD137の細胞外部位とマウスIgG2a Fc領域との融合タンパク質を用いて免疫したBALB/cマウスの脾臓B細胞をマウスプラズマ細胞腫に融合させることによって作出した。抗CD137抗体は、ヒトCD137に対するマウスモノクローナル抗体(mAb)のキメラ型であり、その定常領域は、重鎖がヒトIgG1定常領域で、軽鎖がヒトκ定常領域でそれぞれ置換されている。この抗体は、β−カゼインプロモーターを用いることによってマウスおよびヤギの乳汁中に(ポロック(Pollock)ら、J.Immunol.Meth.,231:147-157)、あるいは、一過性トランスフェクションにより、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを用いることによってHEK 293細胞内で発現された。ヤギ乳汁は、トランスジェニックヤギをホルモン誘導によって乳汁分泌させることによって得た(エバート(Ebert)ら、1994,Biotech.,12:699-702)。抗体は、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。ヤギ乳汁抗体は分泌から9日後に精製し、初期の搾乳由来の初乳に混入しているヤギ抗体を避けた。ヤギ乳汁由来キメラ抗CD137抗体の同様な製剤は、分子ふるいクロマトグラフィーにより、90%がモノマー、10%が凝集体であることがわかった。抗体濃度は、280nmにおける吸収によって測定し、転換係数として、1.4mg/mlを1ODとする値を用いた。
【0210】
糖の分析
アスパラギン結合オリゴ糖類は、1%のβ−メルカプトエタノール含有の50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中、PNGaseを用い、37℃で一晩かけて解離させた。サンプルは、Voyger-DE PRO Biospectrometory Workstation(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)社、米国カリフォルニア州フォスターシティ)を用い、マトリックス補助レーザー着脱イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)マススペクトロメトリー(MS)分析によって分析した。MALDI-TOF MS分析は、陽イオン中、反射モードで2,5−ジヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−5−メトキシ安息香酸(9:1、v/v)マトリックスを用いて行った。マウス乳汁由来抗体中の主要糖質(63%)は、非フコシル化Man5であった。図1は、PNGase F分解によって酵素から解離されたN−グリカン類のMALDI-TOF MS分析を示している。マウス乳汁由来の抗体から得られた結果と細胞培養由来の抗体から得られたそれを比較すると、マウス乳汁由来の抗体の主要オリゴ糖はMan5であることが明かである。Man5は、5マンノース残基および2GlcNAc残基を有する。
【0211】
PNGaseを用いて37℃で一晩かけて解離させた2−アミノ安息香酸ラベルオリゴ糖について、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。80μgの抗体を、PNGaseを用いて37℃で一晩かけて処理した。サンプルは、10kDaフィルターを通して濾過し、Biodialyzer中、水に対して一晩透析した。サンプルを乾燥させ、2−アミノ安息香酸でラベルし、洗浄後、過剰なラベルを除去した。乾燥するまで水を蒸発させた後、500μlの水でサンプルを再構成し、アニュミュラ(Anumula)らの記載した方法(カムスコ(Cammusco)ら、2000,Anim.Biotech.,11:1-17)に従い、蛍光検出器(励起波長230nm、発光波長425nm)を配備したHP100システムを用いたAsahipak NH2P-50 4Dカラム(4.6×250mm、フェノメネックス(Phenomenex))に100μlのサンプルを注入した。Man5およびMan6の標準物質はプロザイム(Prozyme)から購入した。HPLC分析によって定量を行い、その結果を図2に示す。マウス乳汁由来の抗体から得られ、Man5標準物質と同時に溶出した分子種は、マンノースオリゴヌクレオチドであり、Endo H感受性を示すことが確認された(マレー(Maley)ら、1981;タレンティノ(Tarentino)ら、1974)。Endo Hで処理した後にはMan5ピークが消失したことから、マウス乳汁由来の抗体サンプル中で36.5分に出現したピークの同一性が確認された(図2および3)。コアフコース含有G1F(16%)およびG2F(21%)、ならびに少量の非フコシル化G1およびMan6などの微量分子種も存在している。オリゴマンノース構造を有するニワトリIgGは、Man8およびGlc1Man8に対応する2068および1906の分子種を有する(ラジュ(Raju)ら、)。Man6は1420の位置に検出されるが、1582、1744および1906の位置のより高マンノース型オリゴ糖類はきれいに消失している。対照的に、HEK 293細胞由来の材料中に存在する主要分子種は、フコシル化G0F(55%)およびG1F(37%)であり、微量種としてG2F(8%)も存在する。HEK 293細胞は、役に立たないシアリル化タンパク質を高レベルで産生する
ことが知られている(チトラル(Chitlaru)ら、2002;チトラル(Chitlaru)ら、1998)。
【0212】
図1(MSデータ)および図2は、乳汁由来抗体および細胞培養由来抗体の糖質組成が著しく異なっていることを示している。図2は、蛍光検出器を配備したHPLCによって得られたオリゴ糖マップの比較であり、マウス乳汁由来抗体中の主要糖質(63%)は非フコシル化Man5であり、一方、細胞培養由来抗体中の主要糖質はフコシル化されていることを示している。非グリコシル化抗体はピークを示さなかった。HPLCデータから、乳汁由来抗体の主要オリゴ糖はオリゴマンノースであり、一方、細胞培養由来抗体ではオリゴマンノースを欠いていることが示された。
【0213】
コンカナバリンA(Con A)は、末端マンノシル残基に結合するレクチンである(ゴールドステイン(Goldstein)ら、1965a,Biochim.Biophys.Acta.;ゴールドステイン(Goldstein)ら、1965b,Biochim.)。発明者らの知見と一致して、乳汁由来抗体はオリゴマンノースを有しており、コンカナバリンAに結合し、α−メチルマンノシドと共に溶出した(図4)。細胞培養由来抗体中の主要分子種はG0Fであり、これは、末端GlcNAcを有し、コンカナバリンAへ結合するとは考えられなかった。図4は、トランスジェニック動物の乳汁由来の抗体がオリゴマンノースを含有していることを示している。対照的に、使用した非グリコシル化抗体は、同じ実験において結合しなかった。
【0214】
HEK 293細胞由来の材料中に存在する主要分子種は、フコシル化G0F(55%)およびG1F(37%)であり、微量種としてG2F(8%)も存在する。このことは、細胞培養由来抗体は完全にフコシル化されていることを意味する。HEK 293細胞は、役に立たないシアリル化タンパク質を高レベルで産生することが知られている(チトラル(Chitlaru)ら、2002,Biochem.J.,363:619-631)ことから、細胞培養由来抗体はシアル酸修飾を欠いている。
【0215】
細胞培養由来抗体上のグリコシル化の大部分がフコシル化であることとは対照的に、マウス乳汁由来抗体の主要糖質(63%)は非フコシル化Man5である。マウス乳汁由来抗体の主要分子種はMan5標準物質と同時に溶出した。HPLC分析においては、G1FがMan5と接近して溶出したが、該ピークは、マンノースオリゴ糖であり、Endo H感受性の現れであったことが確認された(マレー(Maley)ら、1981,J.Biol.Chem.,256:1088-1090)。Endo Hで処理後は、マウス乳汁由来抗体サンプル中の36.5分のピークが消失した(図2D)。コアフコース含有G1F(16%)およびG2F(21%)、ならびに少量の非フコシル化G1およびMan6などの微量分子種も存在している。ヤギ乳汁由来材料中の糖類のMALDI-TOF分析から、マウス乳汁由来材料で見出されたよりも、マンノース含有糖類の分布範囲が広いことが明らかになり、最も注目すべきことは、マンノシダーゼプロセシング中の欠損を示唆するMan7およびMan8が存在することである。このことにより、HPLC分析の定量がより困難になったが、これは、非フコシル化糖類が広範囲にわたって広がったからである。HPLC分析から、Endo H感受性の多数のピークの存在が明らかになり、それらは、糖の総量の10〜20%を占めていた(図2)。
【0216】
フローサイトメトリー分析
キメラ抗体の別異の型の結合については、FACS分析によって評価した。5%FBS含有PBS中、1μg/mlの抗体を加えて2×105個の細胞をインキュベートした。抗体は、1:100希釈したFITCラベルヤギ抗ヒトFc(ジャクソン・イムノ・リサーチ・ラブス(Jackson Immuno Research Labs))を用いて検出し、FACSCalibur(ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson))によって分析した。図5に示すデータは、試験したすべての抗体は、起源によらず同様に抗原に結合したことを示している。抗DNP抗体の対照は、予想通り結合しなかった。
【0217】
表面プラスモン共鳴(surface plasmon resonance)
CD16aを用いたIgG1の相互作用の動態は、BIAcore 2000装置およびCM5センサーチップ(バイオコア(BIOCORE)、スウェーデン国ウプサラ)上での表面プラスモン共鳴によって測定した。NHS/EDCカップリング条件を用いてチップ上に抗HPC4抗体を固定した。抗体濃度をpH5.0において20〜50μg/mlにすることにより、11,000RUのチップが得られた。30μg/mlのタンパク質を3分間かけて注入し、0.15MのNaClおよび0.005%(v/v)のP20界面活性剤を含むpH7.4の10mM Hepes緩衝液(HBS-P緩衝液、BIA core AB)に1mMのCaCl2を添加した溶液を流速5μl/分で流すことにより、CD16a-HPC4がこの抗体表面に捕獲された。次に、被験抗体を上記の結合緩衝液で希釈して濃度を50μg/mlとし、流速を20μl/分として、捕獲されたCD16a上に1分間かけて注入した。解離は3分間モニターした。次に、HBS-P緩衝液中で調製した5mMのEDTAを3分間注入することによって該表面を変性させた後、次の捕獲−結合−変性のサイクルに移行した。図13は、乳汁由来の抗体が細胞由来の抗体よりも結合力が強いことを示している。この増強されたADCC活性は、NK細胞レセプターであるCD16に対する親和性の上昇を反映したものであるのかを確認するために、測定を行った。表面プラスモン共鳴測定を用い、固定されたCD16に対するの多様な抗体の結合を測定した。乳汁由来抗体は、細胞由来抗体よりも結合が強かった(図13)。
【0218】
細胞アッセイ
ヒト腎癌細胞786-Oおよびヒト胚生腎(HEK)293細胞はATCCから購入した。786-Oは、腎細胞腺癌由来の癒着性上皮細胞である(ウィリアムズ(Williams)ら、1978,In Vitro,14:779-786)。細胞は、1.5g/Lの炭酸ナトリウム、4.5g/L のグルコース、10mMのHEPESおよび10mMのピルビン酸ナトリウムを含有するように調製した2mMのL−グルタミン添加RPMI 1640培地(90%)+ウシ胎仔血清(FBS)(10%)中で増殖させた。
【0219】
CD137コード配列を発現するpCEP4ベクターを用いてCHO細胞をトランスフェクトした。クローンはヒグロマイシンを用いて選択することによって単離し、細胞表面発現に対するFACSによってスクリーニングし、単一のクローンを使用した。
【0220】
ADCCアッセイ
乳汁由来抗体および細胞培養由来抗体の相対ADCC活性を調べることを目的として、起源を異にする同一の抗体を調製した。4つの別異の型のキメラ抗CD137抗体を調製した。ひとつの変異体は、Asn297をグルタミンに突然変異させることによって非グリコシル化されていた。この抗体変異体は負の対照としたが、これは、非グリコシル化IgGsはFcレセプターに結合しない、またはADCCにおいて不活性であることが知られているからである(ノーズ(Nose)ら、1983,PNAS 80:6632-6636)。別の2つの変異体は乳汁から調製し、ひとつはマウス乳汁由来、もうひとつはヤギ乳汁由来であった。4番目の抗体変異体は、一過性にトランスフェクトしたヒト細胞系HEK 293細胞内で発現させた。
【0221】
786-O細胞は、1:50Versene(インビトロジェン(Invitrogen)社)を用いて回収し、増殖培地中に再懸濁し、Na251CrO4(1μC/μl)を用いて1.5時間かけてラベルし、その後、RPMIを用いて細胞を3回洗浄した。エフェクター細胞は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)であり、これは、ヴァン・エップス(van Epps)らによる記載(ヴァン・エップス(van Epps)ら、1999,J.Viol.,73:5301-5308)に従って調製した。エフェクター:標的の比率は200:1としたが、これは、解凍後のPBMCsの生存率がわずかに40〜60%にすぎないからである。細胞は37℃で12時間共培養し、計数用に25μlの上清を移した。標的細胞に、抗体を含む等容量の培地(PBMCs不含)を加えてインキュベートすることにより、自発的な放出が確認された。総放射活性は、標的細胞に、1%のTriton-X100(シグマ(Sigma)社)含有の等容量の培地を加えてインキュベートすることによって測定した。特異的溶解%は次の式に従って計算した:[(E−S)/(T−S)]*100。ここで、Tは総放射活性、Eは実験的放出量、Sは自発的放出量であって、19±3%であった。
【0222】
これらの製剤のADCC活性を調べることを目的として、CD137を発現する腫瘍細胞系を確認した。786-Oは腎細胞腫瘍細胞系であり、少量のCD137およびHER2を発現する。キメラ抗CD137抗体の別異の型の結合を比較することを目的として、FACSを使用した。この分類によれば、すべての抗体は同等に結合した(図5)。しかしながら、ADCCアッセイにおいて活性を測定したところ、抗体の効率は大きく異なっていた。乳汁由来の2つの抗体は活性であったが、細胞培養由来のものは同等に結合したものの、全く活性がなかった(図6)。細胞無しでは細胞毒性がなかった(すなわち、偶発的放出)ことから、抗体自身は殺傷性ではないことを示している。図6においては、トランスジェニック動物の乳汁中に産生された分子はADCC活性が増強されていることを示している。この特徴により、トランスジェニック乳汁由来抗体が標的細胞(例えば、腫瘍細胞など)を殺傷する能力が高められる。使用した対照は、標的細胞に結合しない抗DNP抗体およびFcレセプターに結合しない非グリコシル化抗CD137抗体であった。
【0223】
CD137に対する発現ベクターを用いてトランスフェクトしたCHO細胞に由来するこれらの多様な製剤のADCC活性についても調べた。ここでも、すべての抗体製剤はトランスフェクト細胞に同等に結合した(図11)。乳汁由来の抗体は、細胞培養由来の抗体の2倍の活性を有していた(図12)。
【0224】
いくつかの実施形態における増強されたADCC活性は、重鎖定常領域のグリコシル化上にフコースを欠いていたことによる。マウス乳汁中では、フコースではなく、グリコシル化は、ほとんどの場合前駆体Man5GlcNAc2である。しかしながら、高マンノース型分子種は存在しないことから、何らかのプロセシングが起こっている。乳汁由来の抗体Man6は1420の位置に検出できるが(図1)、1582(Man7)、1744(Man8)および1906(Man9)の位置の高マンノース型オリゴ糖類は完全に消失していることから、マンノシダーゼIを介した何らかのプロセシングが起こっていることが示唆される。
【0225】
N−アセチルグルコサミニミルトランスフェラーゼI(GnT-I)は、成長する糖質鎖のゴルジα−マンノシダーゼII感受性を導く重要な酵素である。この酵素は、機能が明らかにマウス乳房内に限定されているが、これは、グリコシル化が阻止されるとMan5GlcNAc2が蓄積するからである(リ(Li)ら、1978,J.Biol.Chem.,253:6426-6431)。この蓄積により、この酵素が局在している内側ゴルジコンパートメント内に抗体が長くは留まらないことになる。この鎖にGlcNAcが転移できないことから、ゴルジ−α−マンノシダーゼIIによる解裂が阻止される。ここで、ゴルジ−α−マンノシダーゼIIは、N−アセチルグルコサミニミルトランスフェラーゼII(GnT-II)およびガラクトシルトランスフェラーゼによる更なるプロセシングを可能にする酵素である。GnT-II修飾の後、1,6−フコースが付加されるが、このことは、オリゴマンノース構造がなぜフコシル化されていないのかを説明するものである(ロングモア(Longmore)ら、1982,Carbohy.Res.,100:365-392)。このIgGのオリゴマンノースグリコシル化型は、N−アセチルグルコサミニミルトランスフェラーゼI活性が欠損しているLec1細胞、CHO細胞で産生されていることがこれまでに確認されている(ライト(Wright)ら、1994,J.Exp.Med.,180:1087-1096)。補体を媒介とする溶血およびFcRI結合が欠損していることがわかっている。その他の抗体よりも、補体活性化に対する別の経路のC3に実質的によく結合した(ライト(Wright)ら、J.Immunol.,160:3393-3402)。
【0226】
ヤギ乳汁由来の抗体は、さらに異なったグリコシル化を示していた。材料は処理を受けたG1FおよびG2Fであったが、マンノース含有オリゴ糖類の範囲はMan5〜Man8であった(図1)。
【0227】
フコースの消失が少ないことは、ADCC活性の増強に大きな影響を及ぼす。抗体の重鎖はダイマーである。重鎖のグリコシル化がすべてに対して生じるか、または全く生じなかった場合には、抗体は、重鎖の両方すべてにおいてオリゴマンノースを有するか、または、重鎖の両方において処理を受けたマンノースであるMan3GlcNAcを有することになり、混合ダイマーは存在しないことになる。ADCCレベルが高いことから、各鎖はそれぞれ無関係にグリコシル化され、ひとつの鎖のみが活性増強のためにフコースが欠失している。抗体鎖は小胞体内で多量体化(multimerize)するが、グリコシル化はゴルジ体内で完了する。重鎖はそれぞれ独自にグリコシル化され、高マンノース型は20%であり、両方の鎖がオリゴマンノースを有する抗体分子はわずかに4%であり、64%は、両鎖とも処理を受けたマンノース有しており、残りの32%は、一本はオリゴマンノースを有する鎖であり、他方は処理を受けたマンノースを有する鎖である。これにより、抗体分子のうちの36%が少なくとも1本のオリゴマンノース鎖を有することになる。故に、ADCCの増強には、フコースを欠く1本の重鎖があれば十分だと考えられる。これは、免疫グロブリン分子へのFcレセプターの非対称結合を考えるときに、理に適っており、そのような結合においては、おおよそ、D1領域がひとつの鎖に結合し、D2領域が他方の鎖に結合する(ラデヴ(Radaev)ら、2002,Mol.Immun.,38:1073-1083)。故に、フコシル化はひとつのドメインへの結合に影響を及ぼすのみであり、親和性の増強に対してはこれで十分である。これまでの研究において、ADCCの同様な上昇は、フコシル化抗体が91%のフコースを有し、フコース消失抗体が72%のフコースを有している場合に観察されている(シンカワ(Shinkawa)ら、2003,J.Biol.Chem.,278:3466-3473)。
【0228】
このように抗体密度の低い細胞上で実験がこれほど順調に行われたことは驚くべきことであった。IgG1からフコースを除去することにより、ADCC活性(該活性はNK細胞の効果的な活性化の結果として表れる)に必要な抗原量を減らすことができることが示されている。おそらく、この効果は、CD137をほとんど発現しない細胞系を用いることによって優れた結果が得られたことについての説明を与えるものである。
【0229】
マウス乳汁中で産生された抗体は、ヤギ乳汁由来の抗体よりも、高濃度では活性が高かった。ヤギ乳汁からの抗体製剤は10%の凝集体を含んでおり、それらは、標的細胞に結合することなく、PBMCsに直接結合できる。この非生産的結合がPBMCsの活性を阻止していると考えられる(キップス(Kipps)ら、1985,J.Exp.Med.,161:1-17)。
【0230】
故に、トランスジェニック動物の乳汁はADCC活性が増強した抗体の良好な供給源である。昆虫細胞内で産生された抗体は、ほ乳類細胞において産生された同一抗体よりもより効果的だという報告がある(ラング(Lang)ら、2004)。その他の系についても試みられてはいるが、成功例は示されていない。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)で産生された抗体はADCC活性が増強されていなかったが、これは、非グリコシル化抗体およびグリコシル化抗体の混合物だったからだと考えられる(ワード(Ward)ら、2004)。酵母内で産生されたキメラ抗体は、細胞培養由来のものと同等のADCC活性を有していたことが報告されている(ホロヴィッツ(Horowitz)ら、1988)。FcγIIIbを活性化することによってもサイトカイン類の分泌が促される。
【0231】
いくつかの実施形態では、フコース含有抗体は、レクチンカラムに抗体混合物を通すことにより、非フコシル化抗体から分離できる。
【0232】
以上の記述は、本発明のすべての側面もしくは実施形態を示すものではなく、また、如何なる意味においても本発明を制限するものではない。付随する図は、本明細書に取り入れ、かつ、その一部を構成しており、本発明の実施形態を図示するものであり、発明の詳細な説明と共に、本発明の原理を説明するものである。
【0233】
本明細書において言及しているすべての出版物および特許出願は、これは、各出版物または特許出願が、特に参照として取り入れることを必要とされているかのように、参照として本明細書中に取り入れておく。
【0234】
本発明は、特定の実施形態と関連づけて記載しているが、更なる修飾が可能であることは自明であり、本出願は、本発明の任意の修飾、使用法および適用を網羅するものである。ここで、発明とは、一般的に、発明の原理、ならびに、本発明に関連する分野内の既知のもしくは通常の実験の範囲内であり、かつ、本明細書に説明されている基本的な特徴にあてはめることができるような本発明の開示の裾野部分を含む。
【0235】
本明細書の参考文献の引用は、該参考文献が、従来技術の基準であるという承認を意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1A】マウスの乳汁由来のグリコシル化抗CD137抗体のN-結合オリゴ糖のMALDI-TOFスペクトル。グリカンはPNGaseFによって放出された。
【図1B】細胞培養由来のグリコシル化抗CD137抗体のN-結合オリゴ糖のMALDI-TOFスペクトル。グリカンはPNGaseFによって放出された。
【図1C】ヤギの乳汁由来のグリコシル化抗CD137抗体のN-結合オリゴ糖のMALDI-TOFスペクトル。グリカンはPNGaseFによって放出された。
【図2A】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、マウス乳汁由来のグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2B】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、マウス乳汁由来のEndo Hで処理したグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2C】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、細胞培養由来のグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2D】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、細胞培養由来のEndo Hで処理したグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2E】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、ヤギ乳汁由来のグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図2F】HPLCにより得られたオリゴ糖マップと、ヤギ乳汁由来のEndo Hで処理したグリコシル化抗体から放出されたオリゴ糖の蛍光検出(2-AAでラベルした)との比較。
【図3A】マウス乳汁由来の抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受性。
【図3B】マウス乳汁由来の、Endo Hで処理した抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受性。図2で用いたサンプルをEndo Hで一晩処理した。
【図3C】細胞培養由来の抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受
【図3D】細胞培養由来の、Endo Hで処理した抗CD137抗体から放出された主要オリゴ糖のEndo H感受性。図2で用いたサンプルをEndo Hで一晩処理した。
【図4A】Con Aカラム上のグリコシル化抗CD137抗体のコンカナバリンA(Con A)に対する結合性。プロテインA精製抗体をCon Aカラムに充填し、α−メチルマンノシダーゼ含有緩衝液を用いて溶出させた。画分は吸光度280nmでモニタした。図4Aは、Con Aカラム上のグリコシル化抗CD137抗体に関する結果を示す。図4Bは、Con Aカラム上の非グリコシル化抗CD137抗体に関する結果を示す。
【図4B】Con Aカラム上の非グリコシル化抗CD137抗体のコンカナバリンA(Con A)に対する結合性。プロテインA精製抗体をCon Aカラムに充填し、α−メチルマンノシダーゼ含有緩衝液を用いて溶出させた。画分は吸光度280nmでモニタした。
【図5】786-O細胞に対する抗体の結合性。各抗体の結合は、FACS分析によって測定し、負の対照抗体(抗2,4−ジニトロフェノール(DNP))および抗HER2に重ね合わせた。5Aはマウス乳汁由来の非グリコシル化(aglycosylated)抗体、5Bはマウス乳汁由来のグリコシル化抗体、5Cは細胞培養由来のグリコシル化抗体、5Dはヤギ乳汁由来のグリコシル化抗体に関する結果をそれぞれ示す。
【図6】ADCCアッセイにおいて、乳汁由来の抗体による786-O細胞の殺傷作用が増強されたことを示す。■:マウス乳汁由来;▼:ヤギ乳汁由来;◆:細胞培養由来;●:非グリコシル化、マウス乳汁由来;□:トラスツマブ;▲:抗DNP抗体。
【図7】抗体を乳汁中に発現させるための導入遺伝子コンストラクトの一般的な図式。目的の遺伝子は、乳汁特異的遺伝子であるヤギβ−カゼインのコード領域を置換する。6.2kbのプロモーター領域は、IgGのH鎖またはL鎖のいずれかのコード領域に連結し、その後に翻訳されていないヤギβ−カゼインの3'配列および下流要素が続く。黒塗り部:H鎖およびL鎖のエクソン;斜線部:ゲノム性イントロン;矢印:転写方向
【図8】トランスジェニック動物によって産生された抗体上に存在する、または欠如している糖質の分類。
【図9】調製法の例に関する一般的なスキーム。
【図10A】コアフコースの物理的位置を示す抗体の空間充填モデル。
【図10B】コアフコースの物理的位置を示す抗体の空間充填モデル。
【図11】CD137を発現するCHO細胞に対する抗体の結合性。11Aは、CD137を発現しないCHO細胞(負の対照)、11Bは、CD137を発現するCHO細胞についての結果を示す。各プロットにおける実線は、不可逆性抗DNP抗体を用いた染色に対するものである。
【図12】ADCC測定法における、乳汁由来の抗体のCD137発現性CHO細胞に対する殺傷作用の増強を示す。
【図13】バイオセンサー分析によって得られたIgG1−sFcgRIIIa結合性の結果。Aは、ヤギ乳汁由来の抗体、Bはマウス乳汁由来の抗体、Cは細胞培養由来の抗体、Dはマウス乳汁由来の非グリコシル化抗体に関する結果をそれぞれ示す。
【図14】ADCC活性が増強された抗体を含むキット。
【参考文献】
【0237】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳汁由来の抗体を含む組成物であって、前記乳汁由来の抗体の抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強されていることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記乳汁由来の抗体のADCC活性が、細胞培養由来の抗体のADCC活性の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍高いことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記乳汁由来の抗体鎖の少なくとも1本がフコースを含まないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記乳汁由来の抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記乳汁由来の抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記乳汁由来の抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含んでいることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記乳汁由来の抗体の糖質が高マンノース型グリコシル化パターンを示すことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記乳汁由来の抗体の鎖の少なくとも1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないことを特徴とする請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記乳汁由来の抗体の主要糖質がフコシル化されていないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記主要糖質が非フコシル化オリゴマンノースであることを特徴とする請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記主要糖質が非フコシル化Man5であることを特徴とする請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記乳汁由来の抗体の糖質の40%未満がフコースを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記乳汁由来の抗体が1,6−フコースを含まないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項14】
前記抗体の糖質の少なくとも60%が非フコシル化オリゴマンノースであり、かつ、該抗体の糖質の40%未満がフコースを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記抗体の糖質の63%が非フコシル化オリゴマンノースであり、該抗体の糖質の16%がコアフコース含有G1Fであり、該抗体の糖質の21%がコアフコース含有G2Fであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項16】
前記抗体が、CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137またはGPIIbIIIaを対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体がCD137を対象とすることを特徴とする請求項16記載の組成物。
【請求項18】
前記抗体が、HM1.24、HLA-DR、MUC1、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2を対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項19】
前記乳汁由来の抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項20】
前記乳汁由来の抗体が、全長抗体であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項21】
前記全長抗体が、全長の一本鎖抗体であることを特徴とする請求項20記載の組成物。
【請求項22】
前記全長抗体が、重鎖および軽鎖を含むことを特徴とする請求項20記載の組成物。
【請求項23】
前記乳汁由来の抗体が、抗体フラグメントであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項24】
前記乳汁由来の抗体が、アイソタイプIgG、IgAまたはIgDであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項25】
前記乳汁由来の抗体が、アイソタイプIgGであることを特徴とする請求項24記載の組成物。
【請求項26】
前記乳汁由来の抗体が、アイソタイプIgG1またはIgG2であることを特徴とする請求項25記載の組成物。
【請求項27】
医薬品として許容される担体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項記載の組成物。
【請求項28】
追加の治療薬を含むことを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項記載の組成物。
【請求項29】
請求項27または28記載の組成物を必要とする対象に、該対象におけるADCCを増強させるために有効な量の該組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項30】
疾病に罹病している対象に、該疾病を治療するために有効な量の請求項27または28記載の組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項31】
前記疾病が、癌、リンパ増殖性疾患または自己免疫疾患であることを特徴とする請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記対象に、追加の治療薬をさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記追加の治療薬が、免疫調節剤であることを特徴とする請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記免疫調節剤が、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-αまたはそれらの組合せであることを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記対象に、免疫調節剤およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
前記対象に、IL-21をさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
前記対象に、IL-12をさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
前記対象に、IL-21およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記対象がヒトであることを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記抗体のグリコシル化を修飾する工程を有してなる、抗体のADCC活性を増強させる方法であって、
ほ乳類の乳房上皮細胞内で抗体を産生させることによって、前記グリコシル化を修飾することを特徴とする方法。
【請求項41】
前記ほ乳類乳房上皮細胞が、乳汁中に抗体を発現するように操作された、ヒト以外のほ乳類に由来することを特徴とする請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記抗体が、抗体鎖の少なくとも1本がフコースを含まないように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項43】
前記抗体が、抗体鎖の1本がフコースを含まないように修飾されていることを特徴とする請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記抗体が、オリゴマンノースまたは追加のオリゴマンノースを含むように修飾されていることを特徴とする請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記抗体が、オリゴマンノースまたは追加のオリゴマンノースを含むように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項46】
前記抗体が、抗体の糖質が高マンノース型グリコシル化パターンを示すように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項47】
前記抗体が、抗体鎖の少なくとも1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないように修飾されていることを特徴とする請求項46記載の組成物。
【請求項48】
前記抗体が、抗体鎖の1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないように修飾されていることを特徴とする請求項47記載の組成物。
【請求項49】
前記抗体が、該抗体の主要糖質がフコシル化されていないように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項50】
前記主要糖質が、非フコシル化オリゴマンノースであることを特徴とする請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記主要糖質が、非フコシル化Man5であることを特徴とする請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記抗体が、抗体の糖質の40%未満がフコースを含むように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項53】
前記抗体が、抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを有するように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項54】
(a)乳汁中に抗体を発現するように操作されたヒト以外のトランスジェニックほ乳類の前記乳汁から抗体を回収し、
(b)前記抗体のADCC活性を測定する、
各工程を有してなる方法。
【請求項55】
(c)前記回収した抗体のADCC活性を、細胞培養中に発現された抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含むことを特徴とする請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記ヒト以外のトランスジェニックほ乳類が、ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウスまたはリャマであることを特徴とする請求項54記載の方法。
【請求項57】
(a)抗体を発現するように操作された乳房上皮細胞から抗体を回収し、
(b)前記抗体のADCC活性を測定する、
各工程を有してなる、抗体の産生法。
【請求項58】
(c)前記回収した抗体のADCC活性を、乳房以外の細胞内で発現された抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含むことを特徴とする請求項57記載の方法。
【請求項59】
抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強された、乳房上皮細胞由来の抗体を含む組成物。
【請求項60】
前記抗体のADCC活性が、乳房以外の上皮細胞の細胞培養に由来する抗体のADCC活性の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍高いことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項61】
前記抗体の鎖の少なくとも1本がフコースを含まないことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項62】
前記抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項61記載の組成物。
【請求項63】
前記抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項64】
前記抗体の少なくとも30%が、少なくとも1つのオリゴマンノースを含んでいることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項65】
前記抗体の糖質が、高マンノース型グリコシル化パターンを示すことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項66】
前記抗体の鎖の少なくとも1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないことを特徴とする請求項65記載の組成物。
【請求項67】
前記抗体の主要糖質がフコシル化されていないことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項68】
前記主要糖質が非フコシル化オリゴマンノースであることを特徴とする請求項67記載の組成物。
【請求項69】
前記主要糖質が非フコシル化Man5であることを特徴とする請求項68記載の組成物。
【請求項70】
前記抗体の糖質の40%未満がフコースを含むことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項71】
前記抗体が、1,6−フコースを含まないことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項72】
前記抗体の糖質の少なくとも60%が非フコシル化オリゴマンノースであり、また、該抗体の糖質の40%未満がフコースであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項73】
前記抗体の糖質の63%が非フコシル化オリゴマンノースであり、該抗体の糖質の16%がコアフコース含有G1Fであり、該抗体の糖質の21%がコアフコース含有G2Fであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項74】
前記抗体が、CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137またはGPIIbIIIaを対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項59〜73のいずれか1項記載の組成物。
【請求項75】
前記モノクローナル抗体が、CD137を対象とすることを特徴とする請求項74記載の組成物。
【請求項76】
前記抗体が、HM1.24、HLA-DR、MUC1、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2を対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項77】
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体であることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項78】
前記抗体が全長抗体であることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項79】
前記全長抗体が、全長の一本鎖抗体であることを特徴とする請求項78記載の組成物。
【請求項80】
前記全長抗体が、重鎖および軽鎖を含むことを特徴とする請求項78記載の組成物。
【請求項81】
前記抗体が抗体フラグメントであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項82】
前記抗体が、アイソタイプIgG、IgAまたはIgDであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項83】
前記抗体が、アイソタイプIgGであることを特徴とする請求項82記載の組成物。
【請求項84】
前記抗体が、アイソタイプIgG1またはIgG2であることを特徴とする請求項83記載の組成物。
【請求項85】
医薬品として許容される担体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜84のいずれか1項記載の組成物。
【請求項86】
追加の治療薬をさらに含むことを特徴とする請求項1〜84のいずれか1項記載の組成物。
【請求項87】
請求項85もしくは86記載の組成物を必要とする対象に、対象のADCCを増強させるために有効な量の該組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項88】
疾病に罹病している対象に、該疾病を治療するために有効な量の請求項85もしくは86記載の組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項89】
前記疾病が、癌、リンパ増殖性疾患または自己免疫疾患であることを特徴とする請求項88記載の方法。
【請求項90】
前記対象に、追加の治療薬をさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項91】
前記追加の治療薬が免疫調節剤であることを特徴とする請求項90記載の方法。
【請求項92】
前記免疫調節剤が、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-αまたはそれらの組合せであることを特徴とする請求項91記載の方法。
【請求項93】
前記対象に、免疫調節剤およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項94】
前記対象に、IL-21をさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項95】
前記対象に、IL-12をさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項96】
前記対象に、IL-21およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項97】
前記対象がヒトであることを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項1】
乳汁由来の抗体を含む組成物であって、前記乳汁由来の抗体の抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強されていることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記乳汁由来の抗体のADCC活性が、細胞培養由来の抗体のADCC活性の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍高いことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記乳汁由来の抗体鎖の少なくとも1本がフコースを含まないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記乳汁由来の抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記乳汁由来の抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記乳汁由来の抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを含んでいることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記乳汁由来の抗体の糖質が高マンノース型グリコシル化パターンを示すことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記乳汁由来の抗体の鎖の少なくとも1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないことを特徴とする請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記乳汁由来の抗体の主要糖質がフコシル化されていないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記主要糖質が非フコシル化オリゴマンノースであることを特徴とする請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記主要糖質が非フコシル化Man5であることを特徴とする請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記乳汁由来の抗体の糖質の40%未満がフコースを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記乳汁由来の抗体が1,6−フコースを含まないことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項14】
前記抗体の糖質の少なくとも60%が非フコシル化オリゴマンノースであり、かつ、該抗体の糖質の40%未満がフコースを含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記抗体の糖質の63%が非フコシル化オリゴマンノースであり、該抗体の糖質の16%がコアフコース含有G1Fであり、該抗体の糖質の21%がコアフコース含有G2Fであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項16】
前記抗体が、CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137またはGPIIbIIIaを対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体がCD137を対象とすることを特徴とする請求項16記載の組成物。
【請求項18】
前記抗体が、HM1.24、HLA-DR、MUC1、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2を対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項19】
前記乳汁由来の抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項20】
前記乳汁由来の抗体が、全長抗体であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項21】
前記全長抗体が、全長の一本鎖抗体であることを特徴とする請求項20記載の組成物。
【請求項22】
前記全長抗体が、重鎖および軽鎖を含むことを特徴とする請求項20記載の組成物。
【請求項23】
前記乳汁由来の抗体が、抗体フラグメントであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項24】
前記乳汁由来の抗体が、アイソタイプIgG、IgAまたはIgDであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項25】
前記乳汁由来の抗体が、アイソタイプIgGであることを特徴とする請求項24記載の組成物。
【請求項26】
前記乳汁由来の抗体が、アイソタイプIgG1またはIgG2であることを特徴とする請求項25記載の組成物。
【請求項27】
医薬品として許容される担体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項記載の組成物。
【請求項28】
追加の治療薬を含むことを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項記載の組成物。
【請求項29】
請求項27または28記載の組成物を必要とする対象に、該対象におけるADCCを増強させるために有効な量の該組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項30】
疾病に罹病している対象に、該疾病を治療するために有効な量の請求項27または28記載の組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項31】
前記疾病が、癌、リンパ増殖性疾患または自己免疫疾患であることを特徴とする請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記対象に、追加の治療薬をさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記追加の治療薬が、免疫調節剤であることを特徴とする請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記免疫調節剤が、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-αまたはそれらの組合せであることを特徴とする請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記対象に、免疫調節剤およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
前記対象に、IL-21をさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
前記対象に、IL-12をさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
前記対象に、IL-21およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記対象がヒトであることを特徴とする請求項29〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
前記抗体のグリコシル化を修飾する工程を有してなる、抗体のADCC活性を増強させる方法であって、
ほ乳類の乳房上皮細胞内で抗体を産生させることによって、前記グリコシル化を修飾することを特徴とする方法。
【請求項41】
前記ほ乳類乳房上皮細胞が、乳汁中に抗体を発現するように操作された、ヒト以外のほ乳類に由来することを特徴とする請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記抗体が、抗体鎖の少なくとも1本がフコースを含まないように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項43】
前記抗体が、抗体鎖の1本がフコースを含まないように修飾されていることを特徴とする請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記抗体が、オリゴマンノースまたは追加のオリゴマンノースを含むように修飾されていることを特徴とする請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記抗体が、オリゴマンノースまたは追加のオリゴマンノースを含むように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項46】
前記抗体が、抗体の糖質が高マンノース型グリコシル化パターンを示すように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項47】
前記抗体が、抗体鎖の少なくとも1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないように修飾されていることを特徴とする請求項46記載の組成物。
【請求項48】
前記抗体が、抗体鎖の1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないように修飾されていることを特徴とする請求項47記載の組成物。
【請求項49】
前記抗体が、該抗体の主要糖質がフコシル化されていないように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項50】
前記主要糖質が、非フコシル化オリゴマンノースであることを特徴とする請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記主要糖質が、非フコシル化Man5であることを特徴とする請求項50記載の方法。
【請求項52】
前記抗体が、抗体の糖質の40%未満がフコースを含むように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項53】
前記抗体が、抗体の少なくとも30%が少なくとも1つのオリゴマンノースを有するように修飾されていることを特徴とする請求項40または41記載の方法。
【請求項54】
(a)乳汁中に抗体を発現するように操作されたヒト以外のトランスジェニックほ乳類の前記乳汁から抗体を回収し、
(b)前記抗体のADCC活性を測定する、
各工程を有してなる方法。
【請求項55】
(c)前記回収した抗体のADCC活性を、細胞培養中に発現された抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含むことを特徴とする請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記ヒト以外のトランスジェニックほ乳類が、ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウスまたはリャマであることを特徴とする請求項54記載の方法。
【請求項57】
(a)抗体を発現するように操作された乳房上皮細胞から抗体を回収し、
(b)前記抗体のADCC活性を測定する、
各工程を有してなる、抗体の産生法。
【請求項58】
(c)前記回収した抗体のADCC活性を、乳房以外の細胞内で発現された抗体のADCC活性と比較する工程をさらに含むことを特徴とする請求項57記載の方法。
【請求項59】
抗体依存性細胞障害(ADCC)活性が増強された、乳房上皮細胞由来の抗体を含む組成物。
【請求項60】
前記抗体のADCC活性が、乳房以外の上皮細胞の細胞培養に由来する抗体のADCC活性の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍高いことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項61】
前記抗体の鎖の少なくとも1本がフコースを含まないことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項62】
前記抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項61記載の組成物。
【請求項63】
前記抗体がオリゴマンノースを含むことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項64】
前記抗体の少なくとも30%が、少なくとも1つのオリゴマンノースを含んでいることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項65】
前記抗体の糖質が、高マンノース型グリコシル化パターンを示すことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項66】
前記抗体の鎖の少なくとも1本がオリゴマンノースを含み、かつ、フコシル化されていないことを特徴とする請求項65記載の組成物。
【請求項67】
前記抗体の主要糖質がフコシル化されていないことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項68】
前記主要糖質が非フコシル化オリゴマンノースであることを特徴とする請求項67記載の組成物。
【請求項69】
前記主要糖質が非フコシル化Man5であることを特徴とする請求項68記載の組成物。
【請求項70】
前記抗体の糖質の40%未満がフコースを含むことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項71】
前記抗体が、1,6−フコースを含まないことを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項72】
前記抗体の糖質の少なくとも60%が非フコシル化オリゴマンノースであり、また、該抗体の糖質の40%未満がフコースであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項73】
前記抗体の糖質の63%が非フコシル化オリゴマンノースであり、該抗体の糖質の16%がコアフコース含有G1Fであり、該抗体の糖質の21%がコアフコース含有G2Fであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項74】
前記抗体が、CD3、CD4、CD5、CD8、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD32B、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD59、CD74、CD80、CD126、CD138、CD137またはGPIIbIIIaを対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項59〜73のいずれか1項記載の組成物。
【請求項75】
前記モノクローナル抗体が、CD137を対象とすることを特徴とする請求項74記載の組成物。
【請求項76】
前記抗体が、HM1.24、HLA-DR、MUC1、テネイシン、PIGF、VEGF、癌遺伝子、癌遺伝子産物、壊死抗原、17-A1抗原、IL-2、T101、TAC、IL-6、TRAIL-R1、GD3ガングリオシドまたはTRAIL-R2を対象とするモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項77】
前記抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体であることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項78】
前記抗体が全長抗体であることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項79】
前記全長抗体が、全長の一本鎖抗体であることを特徴とする請求項78記載の組成物。
【請求項80】
前記全長抗体が、重鎖および軽鎖を含むことを特徴とする請求項78記載の組成物。
【請求項81】
前記抗体が抗体フラグメントであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項82】
前記抗体が、アイソタイプIgG、IgAまたはIgDであることを特徴とする請求項59記載の組成物。
【請求項83】
前記抗体が、アイソタイプIgGであることを特徴とする請求項82記載の組成物。
【請求項84】
前記抗体が、アイソタイプIgG1またはIgG2であることを特徴とする請求項83記載の組成物。
【請求項85】
医薬品として許容される担体をさらに含むことを特徴とする請求項1〜84のいずれか1項記載の組成物。
【請求項86】
追加の治療薬をさらに含むことを特徴とする請求項1〜84のいずれか1項記載の組成物。
【請求項87】
請求項85もしくは86記載の組成物を必要とする対象に、対象のADCCを増強させるために有効な量の該組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項88】
疾病に罹病している対象に、該疾病を治療するために有効な量の請求項85もしくは86記載の組成物を投与する工程を有してなる、対象を治療する方法。
【請求項89】
前記疾病が、癌、リンパ増殖性疾患または自己免疫疾患であることを特徴とする請求項88記載の方法。
【請求項90】
前記対象に、追加の治療薬をさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項91】
前記追加の治療薬が免疫調節剤であることを特徴とする請求項90記載の方法。
【請求項92】
前記免疫調節剤が、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、インターフェロン、パクリタクセル、TNF-αまたはそれらの組合せであることを特徴とする請求項91記載の方法。
【請求項93】
前記対象に、免疫調節剤およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項94】
前記対象に、IL-21をさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項95】
前記対象に、IL-12をさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項96】
前記対象に、IL-21およびトラスツズマブをさらに投与することを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【請求項97】
前記対象がヒトであることを特徴とする請求項87〜89のいずれか1項記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−512694(P2009−512694A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536622(P2008−536622)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/041656
【国際公開番号】WO2007/048077
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(501400987)ジーティーシー バイオセラピューティックス インコーポレイテッド (5)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/041656
【国際公開番号】WO2007/048077
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(501400987)ジーティーシー バイオセラピューティックス インコーポレイテッド (5)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】
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