説明

抗体活性の転換のための方法及び組成物

本発明は、C3b様受容体に結合する抗体を、一つ以上の非中和抗原結合抗体又はそのフラグメントに連結して含む二重特異的分子をを提供するものである。更に、本発明は、非中和抗体を同定する方法、特に促進抗体を同定する方法も提供する。このような二重特異的分子を作製する方法や、それらの治療上及び/又は予防上の用途も、本発明により提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2003年3月28日に提出された米国仮特許出願60/458,468号、標題「抗体活性の転換のための方法及び組成物」の優先権を主張するものである。この出願の内容全体を、引用をもってここに援用することとする。
【0002】
発明の背景
霊長類の赤血球、即ち赤血球(RBC)は循環系からの抗原除去で重要な役割を果たしている。霊長類では、循環系で免疫複合体が形成されると補体因子C3bが活性化して、C3bがこの免疫複合体に結合する。その後、このC3b/免疫複合体が、赤血球表面上に発現した1型補体受容体(CR1)であるC3b受容体に、該免疫複合体に付着したC3b分子を介して結合する。次に、この免疫複合体が赤血球に付き添われて肝臓及び脾臓の細網内皮系(RES)に送られて中和される。このRES細胞は、特に肝臓内では、固定組織マクロファージであるクッパー細胞と呼ばれ、C3b/免疫複合体を認識して、C3b受容体とRBCとの接合部を切断することによりこの複合体をRBCから切り離すことで赤血球及びC3b/免疫複合体を解放する。すると、この複合体はクッパー細胞に飲み込まれ、クッパー細胞の細胞レベル下オルガネラ内で完全に破壊される。しかしながら、この病原体除去のプロセスは補体依存的であり、即ち、C3b受容体により認識される免疫複合体に限られており、C3b受容体によっては認識されない免疫複合体を除去する上では効果がない。
【0003】
Taylor らは、循環系から病原体を除去する補体独立的な方法を発見した。Taylor らは、霊長類C3b受容体に特異的な第一モノクローナル抗体(mAb)を病原性抗原性分子に特異的な第二モノクローナル抗体に化学的に架橋すると、補体を活性化することなく、病原性抗原性分子を霊長類のC3b受容体に結合させるための機序を提供する二重特異的ヘテロ重合抗体又は二重特異的ヘテロ重合体(HP)ができることを示した。(米国特許第5,487,890号;第5,470,570号;及び第5,879,679号)。バクテリオファージФX174に対するモノクローナル抗体である7B7が、その単量体型では中和活性を有さないにも係わらず、それを架橋してHPとして提供すると、バクテリオファージを部分的に中和することができたことも示された。Taylor et al., J. of Immunology,158:842-850 (1997)。Taylor はまた、循環中から病原性抗原特異的自己抗体を除去するために用いることのできるHPも報告した。このようなHPは、「抗原ベースのヘテロ重合体」(AHP)とも呼ばれ、抗原に架橋されたCR1特異的モノクローナル抗体を含有する(例えば米国特許第5,879,679号; Lindorfer et al., 2001, Immunol Rev. 183: 10-24; Lindorfer et al., 2001, J. Immunol Methods 248: 125-138; Ferguson et al., 1995, Arthritis Rheum 38: 190-200を参照されたい)。
【0004】
架橋により生ずるHP及びAHPに加え、補体受容体1(CR1)などのC3b様受容体に結合する第一抗原認識ドメインと抗原に結合する第二抗原認識ドメインとを有する二重特異的分子は、化学的架橋を含まない方法によっても、作製することができる(例えばPCT公報 WO 02/46208; 及びPCT公報 WO 01/80883を参照されたい)。PCT公報 WO 01/80833は、ハイブリドーマ細胞株の融合、組換え技術、及び適したモノクローナル抗体から得られる重鎖及び軽鎖のin vitro再構築を含む方法により作製される二重特異的抗体を解説している。PCT公報 WO 02/46208は、タンパク質trans-スプライシングにより作製される二重特異的分子を解説している。
【0005】
哺乳動物などの動物において、病原体又は日和見性生物の感染を減らすような、及び/又は、毒素を原因とする菌力を減らすような、組成物及び方法を開発することは大きな課題である。
【0006】
現在のワクチンは不純であり、また化学的に複合しているため、防御免疫も遅れてしか惹起されず、防御も不完全であり、大きな有害反応を起こす。更に、生物戦争又はバイオテロで感染性物質が用いられる可能性からも、炭疽病の優れた治療法及び/又は防止法が要求される。
【0007】
ここでの参考文献の引用又は議論は、このような参考文献が本発明にとっての従来技術であるとの承認として見なされてはならない。
【0008】
発明の概要
本発明は、C3b様受容体に結合する抗体を、病原性もしくは日和見性作用因子などの作用因子に結合する、又は、病原性作用因子のエピトープを含む分子を含む、しかしこれに限らず、このような作用因子により産生される毒素(例えばエキソトキシン、エンテロトキシン、又はエンドトキシン)に結合する、非中和抗原結合抗体に連結して含む二重特異的分子を提供するものである。更に本発明は、本発明の二重特異的分子を作製する方法や、本発明の二重特異的分子の治療的使用法も提供する。
【0009】
ある局面では、本発明は、抗CR1抗体を、動物の病原性作用因子に結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子に関する。
【0010】
一実施態様では、前記非中和抗体は促進抗体である。
【0011】
別の実施態様では、前記抗CR1抗体は、前記病原性作用因子に結合する非中和抗体に架橋されている。
【0012】
別の実施態様では、前記病原性作用因子は細菌である。別の実施態様では、前記病原性作用因子はウィルスである。別の実施態様では、前記病原性作用因子は微生物の毒素である。
【0013】
別の実施態様では、前記抗CR1抗体及び前記非中和抗体の少なくとも一方はモノクローナル抗体である。
【0014】
別の実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上は、その免疫原性を低下させるために改変されている。別の実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上はデイミュナイズ(原語:deimmunize)されている。
【0015】
ある実施態様では、前記第一及び第二抗体は架橋剤を用いて架橋されている。別の実施態様では、前記架橋剤はポリエチレングリコール(PEG)である。
【0016】
別の実施態様では、前記抗CR1抗体は7G9である。別の実施態様では、前記抗CR1抗体は19E9である。
【0017】
別の実施態様では、前記非中和抗体はバシラス-アンスラシス(原語: Bacillus anthracis )毒素の防御抗原(PA)に結合する。別の実施態様では、前記非中和抗体は3F3である。
【0018】
別の実施態様では、前記抗CR1抗体は、7G9及び19E9から成る群より選択される。
【0019】
ある実施態様では、前記非中和抗体はS.アウレウス(原語:S. aureus)に結合する。別の実施態様では、前記非中和抗体はプロテインAに結合する。
【0020】
別の局面では、本発明は、3F3、2F9、3F10、3D2、16E11、2C11、6C3から成る群より選択される抗体に連結された抗CR1抗体と、プロテインAを認識する抗体とを含む二重特異的分子に関する。別の局面では、本発明は、CR1受容体に結合する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素防御抗原成分の細胞への結合は阻害しないような第二抗体に結合させて含む二重特異的分子に関する。
【0021】
別の局面では、本発明は、動物の病原性作用因子が対象の循環中に存在することに関連する疾患を治療又は防止する方法に関する。当該方法は、抗CR1抗体を、前記病原性作用因子に結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子を、治療上又は予防上有効量、前記対象に投与するステップを含む。
【0022】
ある実施態様では、本発明は、前記非中和抗体が促進抗体であることに関する。
【0023】
ある実施態様では、前記第一及び第二抗体が架橋剤を用いて架橋されている。ある実施態様では、前記架橋剤はポリエチレングリコール(PEG)である。
【0024】
ある実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上がモノクローナル抗体である。
【0025】
ある実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上がその免疫原性を低下させるために改変されている。ある実施態様では、前記対象はヒトである。
【0026】
ある実施態様では、前記抗CR1抗体は7G9及び19E9から成る群より選択される。
【0027】
ある局面では、本発明は、対象における細菌感染を治療又は防止する方法に関し、当該方法は、抗CR1抗体を、細菌に結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子を、治療上又は予防上有効量、前記対象に投与するステップを含む。
【0028】
ある実施態様では、前記細菌はグラム陰性細菌である。
【0029】
ある実施態様では、前記細菌はグラム陽性細菌である。ある実施態様では、前記細菌はS.アウレウスである。
【0030】
ある実施態様では、前記非中和抗体は促進抗体である。
【0031】
ある実施態様では、前記抗CR1抗体は、前記細菌に結合する非中和抗体に架橋されている。
【0032】
ある実施態様では、前記抗CR1抗体及び前記非中和抗体はモノクローナル抗体である。
【0033】
ある実施態様では、前記対象はヒトである。
【0034】
ある実施態様では、前記抗CR1抗体は7G9及び19E9から成る群より選択される。
【0035】
ある実施態様では、前記非中和抗体は、プロテインAを認識する抗体である。
【0036】
ある実施態様では、前記抗CR1抗体は7G9及び19E9から成る群より選択される。
【0037】
ある局面では、本発明は、動物対象におけるウィルス感染を治療又は防止する方法に関し、当該方法は、抗CR1抗体を、前記ウィルスのエピトープに結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子を、治療上又は予防上有効量、前記対象に投与するステップを含む。
【0038】
ある実施態様では、前記抗体は、前記ウィルスのエンベロープ(E)タンパク質に結合する。
【0039】
ある実施態様では、前記非中和抗体は促進抗体である。
【0040】
ある実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上はモノクローナル抗体である。
【0041】
ある実施態様では、前記対象はヒトである。
【0042】
ある実施態様では、前記抗CR1抗体は7G9及び19E9から成る群より選択される。
【0043】
別の局面では、本発明は、炭疽菌胞子への曝露の症状を予防的に防止する又は減らす方法に関し、当該方法は、C3b受容体を認識する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素の前記防御抗原成分の細胞への結合は阻害しないような第二抗体に結合させて含む二重特異的分子を、炭疽菌胞子への曝露の危険性がある対象に投与することで、炭疽菌胞子への曝露の症状を防止する又は減らすステップを含む。
【0044】
ある実施態様では、前記C3b受容体はCR1である。
【0045】
ある実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上は、その免疫原性を低下させるために改変されている。
【0046】
ある実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上はモノクローナル抗体である。
【0047】
ある実施態様では、前記第一及び第二抗体は架橋剤を用いて架橋されている。ある実施態様では、前記架橋剤はポリエチレングリコール(PEG)である。
【0048】
ある実施態様では、前記炭疽菌毒素は、この毒素の防御抗原成分の細胞への結合を阻害する抗体には結合しない変異型である。ある実施態様では、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合する該抗体は、3F3、2F9、3F10、3D2、16E11、2C11 及び6C3から成る群より選択される。
【0049】
別の局面では、本発明は、ある集団中で、炭疽菌胞子への曝露の症状を減らす方法に関する。当該方法は、C3b受容体を認識する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素の防御抗原成分の細胞への結合は阻害しないような第二抗体に結合させて含む二重特異的分子を、炭疽菌胞子への曝露の危険性がある複数の対象に投与することで、炭疽菌胞子への曝露の症状を防止する又は減らすステップを含む。
【0050】
別の局面では、本発明は、炭疽菌胞子への曝露の症状を治療的に治療する方法に関する。当該方法は、C3b受容体を認識する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素の防御抗原成分の細胞への結合は阻害しないような第二抗体に結合させて含む二重特異的分子を、炭疽菌胞子に曝露した対象に投与することで、炭疽菌胞子への曝露の症状を防止する又は減らすステップを含む。
【0051】
ある実施態様では、前記C3b受容体はCR1である。
【0052】
ある実施態様では、前記抗体のうちの一つ以上は、その免疫原性を低下させるために改変されている。
【0053】
ある実施態様では、前記第一及び第二抗体は架橋剤を用いて架橋されている。ある実施態様では、前記架橋剤はポリエチレングリコール(PEG)である。
【0054】
ある実施態様では、前記炭疽菌毒素は、前記毒素の防御抗原成分の細胞への結合を阻害する抗体には結合しないような変異型である。ある実施態様では、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合する前記抗体は、3F3、2F9、3F10、3D2、16E11、2C11 及び6C3から成る群より選択される。
【0055】
発明の詳細な説明
本発明は、C3b様受容体に結合する抗体を、病原性もしくは日和見性作用因子などの作用因子に結合する、又は、このような作用因子が産生する毒素(例えばエキソトキシン、エンテロトキシン、又はエンドトキシン)に結合する、非中和抗原結合抗体に連結して含む二重特異的分子を提供するものである。このような非中和抗体は、病原性もしくは日和見性作用因子か、又は、病原性作用因子のエピトープを含む分子など、に結合することができる。更に本発明は、本発明の二重特異的分子を作製する方法や、本発明の二重特異的分子の治療的使用法も提供するものである。
【0056】
I. 定義
ここで用いられる用語「二重特異的分子」は、2つの異なる結合特異性を有する化合物を包含するものである。
【0057】
ここで用いられる用語「抗体」は、例えば天然で生じる抗体又は免疫グロブリン分子、あるいは、天然で生じる抗体分子に似た遺伝子操作された抗体分子などを包含するものである。用語「抗体」は、ここで用いられる場合、更に、例えばfabフラグメント、scfv分子、ミニボディ等、抗体分子の抗原結合フラグメントも包含する。
【0058】
ここで抗体に関して用いられる場合の用語「非中和」は、ある病原性作用因子の抗原に、その生理型(例えば動物中で存在する形)では結合するが、単独で用いられた場合には、該病原性作用因子の感染又は病原性効果を防止しないか、又は、最小限にしか防止しないような抗体分子又は抗原結合フラグメントを包含する。ある実施態様では、前記非中和抗体は、哺乳動物細胞などの細胞にとって感染性又は毒性である形の感染性作用因子又は毒素のエピトープに結合する。ある実施態様では、感染又は病原性効果の防止の失敗を、当該抗体の実地上検査可能な範囲の濃度にわたって、in vivo 又はin vitroで示すことができる。別の実施態様では、感染又は病原性効果が最小限にしか防止されなかったことを、当該抗体の実地上検査可能な範囲の濃度にわたって示すことができるか、あるいは、低濃度の抗体で示すことができる。
【0059】
非中和抗体は促進抗体であってよいが、必ずしもそうでなくともよい。ある動物の病原性作用因子の抗原に対する用語「促進」抗体又はそのフラグメントとは、ある動物(好ましくは霊長類などの哺乳動物)の病原性作用因子の抗原に、その生理型で結合する抗体又はそのフラグメントを言い、このような結合により、該病原性作用因子の病原性効果が、当該抗体又は病原性作用因子の少なくとも何らかの濃度で促進される場合を言う。
【0060】
ある実施態様では、非中和抗体は非中和抗PA抗体であり、この場合、前記抗体は、B.アンスラシス(原語:B. anthracis)の防御抗原(PA)(天然PA及び組換えにより作製されたPAを含む)に結合するが、この場合、このような結合によっては、PAの生理的機能、即ち、浮腫因子(EF)及び致死因子(LF)の細胞への進入を促し、病原性効果を起こすこと、は防止されない。増殖期のB.アンスラシス細菌は、3つのポリペプチド:防御抗原(PA、83 kDa)、致死因子(LF、90 kDa)及び浮腫因子(OF、89 kDa)から成る3部構成のエキソトキシンを放出する。該毒素の2つの成分(OF及びLF)は、哺乳動物細胞のサイトゾル内の基質を酵素修飾する。OFは、貪食を阻害する多種の機構を通じてホストの防御を損なうアデニル酸シクラーゼであり、そしてLFは、いくつかのマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)を開裂させてマクロファージの溶解を起こさせる亜鉛依存的プロテアーゼである。三番目の成分である毒素PAは、哺乳動物細胞を毒するために、広汎に発現する細胞受容体である腫瘍内皮細胞マーカ−8(TEM8)に結合する。別の実施態様では、非中和抗体はPA促進抗体であってもよく、この場合、前記抗体は、B.アンスラシスのPAに結合して、PAの機能を促進する。別の実施態様では、非中和抗体は非中和抗デング熱ウィルス抗体であり、この場合、前記抗体は、デング熱ウィルスのエンベロープ(E)タンパク質などの抗原性ペプチドに結合するが、そしてこのような結合によっては、デング熱ウィルスの感染性又は損傷効果は遮断されない。非中和抗体又は促進抗体は、ここで解説する通りのマクロファージ生死検定により同定することができる。
【0061】
ここで用いられる場合の用語「病原体」又は「病原性作用因子」は、正常なホスト(例えば(例えば哺乳動物、好ましくはヒトなどの霊長類)動物)に感染又は寄生することのできる微生物を包含する。ここで用いられる場合のこの用語には、更に、例えば治療計画の結果正常な生理的菌叢が乗っ取られたホストや、又は免疫無防備状態となったホストなど、異常なホストに感染又は寄生することのできる微生物など、日和見性作用因子も包含する。ここで用いられる場合のこの用語は、更に、対象におけるその複製が好ましくない微生物、又は、微生物により産生される毒性分子(例えば毒素)、を包含する。
【0062】
ここで用いられる場合の架橋剤という用語は、タンパク質の架橋に参与する物質を包含する。架橋剤は、タンパク質又は改変タンパク質上の部位と共有結合により反応することができる。
【0063】
II. 二重特異的分子
二重特異的分子とは、概ね、2つの異なる抗原結合特異性を有する分子を言う。本発明の二重特異的分子は、霊長類の1型補体受容体(CR1受容体)などのC3b様受容体に結合する抗CR1抗体部分と、病原体のエピトープなど、しかしこれに限定せず、病原性抗原性分子に結合する非中和抗原結合抗体部分とを含む。
【0064】
ここで用いられる場合の用語「C3b様受容体」とは、免疫複合体に関連する分子に結合した後に、血球に付き添われて貪食細胞などに向かって除去されるという点で、霊長類A3b受容体であるCR1と類似の機能を有する、哺乳動物の血球表面上に発現するあらゆる哺乳動物循環分子を言う。ここで用いられる「エピトープ」とは、抗原性決定基、即ち、ホストにおける免疫学的応答を惹起する、又は、抗体が結合する、一分子中の一領域を言う。この領域は、連続したアミノ酸であってもよいが、必ずしも連続したアミノ酸を含んでいなくともよい。エピトープという用語は、「抗原性決定基」としても当業で公知である。エピトープは、ホストの免疫系に固有の空間的コンホメーションで、3つという少ない数のアミノ酸を含むことがある。一般に、一個のエピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸、そしてより通常は少なくとも8乃至10個のこのようなアミノ酸から成る。このようなアミノ酸の空間的コンホメーションを決定する方法は当業で公知である。
【0065】
本発明においては、前記抗CR1抗体部分及び前記非中和抗原結合抗体部分を、限定はしないが、架橋、ハイブリドーマ細胞株の融合、組換え技術、タンパク質trans-スプライシング等を含む、当業で公知のいずれかの方法により、連結することができる。
【0066】
本発明においては、当該の二重特異的分子の抗CR1抗体部分は、CR1結合ドメイン及びエフェクタ・ドメインを含有するいずれの抗体であってもよい。ある好適な実施態様では、前記抗CR1抗体部分は、抗CR1モノクローナル抗体(mAb)である。ある好適な実施態様では、前記抗CR1モノクローナル抗体は7G9、HB8592、3D9、57F、又は1B4である(例えば引用をもってその全文をここに援用することとする Talyor et al., 米国特許第5,487,890号を参照されたい)。別の実施態様では、前記抗CR1抗体部分は、免疫グロブリンFcドメインのN末端に融合した、C3b様受容体に対する特異性を持つ一本鎖可変領域フラグメント(scFv)を含む、しかしこれに限らない、抗CR1ポリペプチド抗体である。前記抗CR1抗体部分は、また、相補性決定領域がマウスであり、そしてフレームワーク領域がヒトであるため、当該抗体で治療されたヒトの患者で免疫応答が生じる可能性が低いようなキメラ抗体であってもよい(引用をもってその各々の全文をここに援用することとする米国特許第4,816,567号、第4,816,397号、第5,693,762号;第5,585,089号;第5,565,332号及び第5,821,337号を参照されたい)。好ましくは、当該のキメラ抗体のFcドメインが、貪食細胞上のFC受容体により認識可能であることで、当該免疫複合体の輸送及びその後のタンパク質分解が促されるとよい。また前記抗CR1抗体部分は、ホストにおけるその免疫原性を低下させるために改変された(例えばヒト化又はデイミュナイズされた)、CR1受容体に結合する抗CR1抗体又は抗体フラグメントであってもよい。いくつかの実施態様では、前記のデイミュナイズされた抗CR1抗体は、デイミュナイズされた抗CR1モノクローナル抗体(mAb)である。いくつかの実施態様では、前記のデイミュナイズされた抗CR1抗体の定常領域はヒトである。好適な実施態様では、前記のデイミュナイズされた抗CR1抗体は、当該のデイミュナイズされた抗体が、各未改変の非ヒト配列に比較したときにヒトに対して非免疫原性又は低免疫原性であるように一つ以上のアミノ酸置換を含むように改変された一つ以上の非ヒトVH又はVL配列を含む(引用をもってその全文をここに援用することとする2003年3月28日出願の米国仮出願番号未定、弁理士整理番号9635-039-888を参照されたい)。ある好適な実施態様では、前記のデイミュナイズされた抗CR1抗体は19E9、12H10、15A12、44H1、又は31C11である。本開示では、平易となるように抗CR1抗体をしばしば参照するが、当業者であれば、本開示は、他のC3b様受容体に結合する抗体にも等しく応用可能であることは理解されよう。
【0067】
本発明において、当該の二重特異的分子の非中和抗原結合抗体部分は、病原体の抗原性分子を認識して結合はするが、単独では感染を防止しないいずれの抗原結合抗体であってもよい。ある具体的な実施態様では、前記非中和抗原結合抗体は促進抗原結合抗体であり、この場合、当該の抗体の抗原への結合により、病原体の病原性効果が促進される。前記非中和抗体は、当業で公知の非中和抗体であってもよい。前記非中和抗体は、実施例で解説されたマクロファージ生死検定など、in vitro又はin vivo検査法を用いて判断された非中和性の抗体であってよい。ある具体的な実施態様では、前記非中和抗体は非中和抗PA抗体である。ある具体的な実施態様では、前記非中和抗体は、3F3、2F9、3F10、3D2、16E11、2C11、及び6C3を含む、しかしこれらに限らない、促進PA結合抗体である(Little et al., Infection and Immunity 56:1807-1813 (1988)を参照されたい)。具体的な実施態様では、前記非中和抗体は、1A5D、4A5C、2B3A、9A4D、1B4Cを含む、しかしこれらに限らない、デング熱ウィルスに結合する非中和抗体である (Roehrig et al., Virology 246:317-328 (1998))。
【0068】
具体的な実施態様では、前記非中和抗体は抗原結合抗体フラグメントである。好ましくは、前記抗原結合抗体フラグメントはFcドメインを含まないとよい。ある好適な実施態様では、前記抗原結合抗体フラグメントは、免疫グロブリン分子のFab、Fab’、(Fab’)2、又はFv フラグメントである。このようなFab、Fab’ 又はFv フラグメントは、例えば酵素プロセッシングにより完全抗体から、又は、親和性スクリーニング及びその後の組換え発現によりファージ・ディスプレイ・ライブラリから、得ることができる(例えば、引用をもってその全文をここに援用することとするWatkins et al., Vox Sanguinis 78:72-79; 米国特許第 5,223,409号及び第5,514,548号;PCT公報 No. WO 92/18619; PCT公報 No. WO 91/17271; PCT公報 No. WO 92/20791; PCT公報 No. WO 92/15679; PCT公報 No. WO 93/01288; PCT公報 No. WO 92/01047; PCT公報 No. WO 92/09690; PCT公報 No. WO 90/02809; Fuchs et al., 1991, Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al., 1992, Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85; Huse et al., 1989, Science 246:1275-1281; Griffiths et al., 1993, EMBO J. 12:725-734; 及びMcCafferty et al., 1990, Nature 348:552 554を参照されたい)。別の好適な実施態様では、前記抗原結合抗体フラグメントは、例えば親和性スクリーニングと、その後の組換え発現により、ファージにディスプレイされた抗体フラグメントのライブラリなどから得ることができる一本鎖Fv (scFv) フラグメントである。更に別の実施態様では、当該の二重特異的分子の抗原結合抗体フラグメント部分は、一本鎖抗体(scAb)である。ここで用いられる場合、一本鎖抗体 (scAb) には、scFvを、免疫グロブリン分子の、例えば定常kドメインなどの定常ドメインに融合させて成る抗体フラグメントが含まれる。別の実施態様では、当該の二重特異的分子の前記抗原結合抗体フラグメント部分は、選ばれたアミノ酸配列を含む所望の長さのリンカ・ペプチドに融合したFab、Fab’、(Fab’)2、Fv、scFv、又はscAb フラグメントである。好適な実施態様では、前記リンカ・ペプチドは1、2、5、10、又は20個から成る。
【0069】
本発明は、抗CR1 mAbを一つ以上の非中和抗原結合抗体に連結して含む二重特異的分子を提供する。具体的な実施態様では、本発明は、抗CR1 mAbを一つ以上の非中和抗PA抗体に連結して含む二重特異的分子を提供する。具体的な実施態様では、本発明は、抗CR1 mAbを一つ以上の促進PA結合抗体に連結して含む二重特異的分子を提供する。具体的な実施態様では、本発明は、抗CR1 mAbを、デング熱ウィルスの抗原性ペプチドに結合する一つ以上の非中和抗体に連結して含む二重特異的分子を提供する。
【0070】
ある好適な実施態様では、当該の二重特異的分子は、抗CR1 mAbを一つ以上の非中和抗原結合抗体に架橋させて含む。本発明の具体的な実施態様では、当該の二重特異的分子は、抗CR1 mAb を、例えば、しかし限定はしないがFab、Fab’、(Fab’)2、 Fv、scFv、又はscAb フラグメントなどの一つ以上の非中和抗原結合抗体フラグメントに架橋させて含む。具体的な実施態様では、当該の二重特異的分子は、抗CR1 mAbを少なくとも1、2、3、4、5 又は6個の抗原結合抗体フラグメントに架橋させて含む。好ましくは、前記抗原結合抗体又はそのフラグメントが、それらの標的抗原への結合能が損なわれないような態様で抗CR1抗体に付着しているとよい。好適な実施態様では、本発明の二重特異的分子は、その標的抗原性分子に、前記非中和抗原結合抗体の活性(例えば親和性又は結合力)の少なくとも5%、15%、25%、50%、90% 又は99% のそれで結合するとよい。別の好適な実施態様では、本発明の二重特異的分子は、その標的抗原性分子に、C3b様受容体に結合する抗体に架橋されていない非中和抗原結合抗体の活性の少なくとも5%、15%、25%、50%、 90% 又は99%のそれで結合する。ある実施態様では、前記非中和抗原結合抗体は、所定の部位で前記抗CR1抗体に付着している。好ましくは、このような所定の部位は、前記非中和抗原結合抗体の抗原結合親和性が損なわれないように選択されるとよい。より好ましくは、このような所定の部位は、非中和抗原結合抗体の表面上の一部位であるとよい。ある好適な実施態様では、非中和抗原結合抗体が、抗CR1抗体に、非中和抗原結合抗体中のシステイン残基を介して付着しているとよい。別の好適な実施態様では、非中和抗原結合抗体が抗CR1抗体にそれを介して付着しているシステインは、非中和抗原結合抗体のC末端にある。
【0071】
2つ以上の非中和抗原結合抗体が、一個の抗CR1抗体に架橋している場合、当該の抗原結合抗体は同じであっても、又は異なっていてもよい。2つ以上の非中和抗原結合抗体が異なる実施態様では、このような非中和抗原結合抗体を同じ抗原性分子に結合させることができる。更に前記の異なる非中和抗原結合抗体を、異なる抗原性分子に結合させることもできる。
【0072】
前記の抗CR1 mAbなどの抗CR1抗体及び前記非中和抗原結合抗体は、好ましくは、架橋剤(架橋剤)による架橋により、結合させるとよい。タンパク質を結合させるための、当業で公知のいずれの架橋化学法も、本発明で用いることができる。本発明のある好適な実施態様では、前記の抗CR1 mAb及び前記非中和抗原結合抗体は、架橋剤スルホスクシンイミジル 4 (N マレイミドメチル)シクロヘキサン 1 カルボキシレート (sSMCC) 及びN-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート (SATA)を用いて作製される。本発明の別の好適な実施態様では、前記の抗CR1 mAb 及び前記非中和抗原結合抗体を、ポリ-(エチレングリコール)架橋剤(PEG)を介して結合させる。この実施態様では、前記PEG部分は、いずれの所望の長さとすることもできる。例えば、前記PEG成分は、200 乃至 20,000 ダルトンの範囲の分子量を有することができる。好ましくは、前記PEG成分は、500乃至1000 ダルトンの範囲、又は1000 乃至8000 ダルトンの範囲、より好ましくは3250 乃至5000 ダルトンの範囲、そして最も好ましくは約5000ダルトンの分子量を有するとよい。このような二重特異的分子は、架橋剤N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート (SATA) 及びポリ(エチレングリコール)-マレイミド、例えばモノメトキシポリ(エチレングリコール)-マレイミド (mPEG-MAL) 又は NHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド(PEG-MAL)を用いて作製することができる。PEGで連結された二重特異的分子を作成する方法は、引用をもってここに援用することとする、2002年9月16日に出願された米国仮出願No. 60/411,731に解説されている。
【0073】
更に別の好適な実施態様では、前記非中和抗原結合抗体は、遊離チオールで、適したホスト細胞(例えば、引用をもってその全文をここに援用することとするCarterの米国特許第 5,648,237号を参照されたい)で作製され、そして当該の二重特異的分子は、遊離チオール含有抗体フラグメントを、適切に誘導体化された、例えばsSMCC誘導体化された、抗CR1 mAbに反応させることにより、作製される。遊離チオール基を持つ抗CR1抗体はまた、直接、即ち、マレイミドなどの化学的架橋剤を用いずにも、作製することができる。このように、別の好適な実施態様では、当該の二重特異的分子は、モノクローナル抗CR1抗体を非中和抗原結合抗体にジスルフィド結合を介して結合させて含む。このような二重特異的分子は、遊離チオールを有する非中和抗原結合抗体を、遊離チオールのない抗CR1抗体に混合することにより、作製することができる。
【0074】
別の実施態様では、当該の二重特異的分子は、抗CR1成分及び非中和抗原結合成分を、化学的架橋を含まない方法(例えば、両者とも引用をもってその全文をここに援用することとするPCT公報 WO 02/46208; 及びPCT公報 WO 01/80883を参照されたい)により連結して含む。PCT公報 WO 01/80883は、ハイブリドーマ細胞株の融合、組換え技術、及び適したモノクローナル抗体から得られる重鎖及び軽鎖のin vitro再構築を含む方法により作製される二重特異的分子を解説している。PCT公報 WO 02/46208 は、タンパク質trans-スプライシングにより作製される二重特異的分子を解説している。
【0075】
具体的な実施態様では、本発明は、C3b様受容体に結合する抗体を、バシラス-アンスラシス(炭疽菌)の防御抗原(PA)に結合する非中和抗原結合抗体に連結して含む二重特異的分子を提供するものである。ある実施態様では、当該の二重特異的分子は、抗CR1抗体7G9を、非中和抗PA抗体3F3に架橋させて含む。該3F3抗体は、例えばLittle et al. 1988(Infection and Immunity 56:1807)に解説されている。別の実施態様では、当該の二重特異的分子は、デイミュナイズされた抗CR1抗体19E9を非中和抗PA抗体3F3に架橋させて含む。具体的な実施態様では、本発明は、C3b様受容体に結合する抗体を、デング熱ウィルスの抗原性ペプチド(例えばEタンパク質)に結合する非中和抗原結合抗体に連結して含む二重特異的分子を提供するものである。
【0076】
更に本発明は、それぞれが、C3b様受容体に結合する抗体を、抗原性分子に結合する異なる非中和抗原結合抗体に架橋させて含む、二重特異的分子のポリクローナル集団も提供する。本発明の二重特異的分子のポリクローナル集団とは、広い意味では、それぞれが、C3b様受容体に結合する抗体を、病原性抗原性分子に結合する異なる非中和抗原結合抗体に架橋させて含む、複数の異なる二重特異的分子を含むあらゆる集団を言う。このように、当該の集団は、複数の異なる抗原結合特異性を、異なる非中和抗体を介して有する、複数の異なる二重特異的分子を含む。前記複数の異なる非中和抗体は、ある一個の病原体上の同じエピトープを認識して結合することができる。更に、前記複数の異なる抗原結合特異性を、ある一個の病原体上の複数の異なるエピトープに指向させることもできる。また、前記複数の異なる抗原結合特異性を、ある一個の病原体の複数の変種に指向させることもできる。また更に、前記の複数の異なる抗原結合特異性を、複数の異なる病原体に指向させることもできる。更に、前記複数の異なる抗原認識の特異性を、複数の異なる病原体上の複数の異なるエピトープに指向させることもできる。当該ポリクローナル集団中の複数の二重特異的分子の中の各メンバー二重特異的分子の特徴及び機能は、既知であっても、又は未知であってもよい。当該ポリクローナル集団中の複数の二重特異的分子の中の各メンバー二重特異的分子の精確な比率も、既知であっても、又は未知であってもよい。好ましくは、当該ポリクローナル集団中の複数の二重特異的分子の中の少なくともいくつかのメンバー二重特異的分子の精確な比率を、必要に応じ、最適な治療上及び/又は予防上の効験をめざして調節できるように、このようなメンバの特徴及び比率が既知であるとよい。二重特異的分子のポリクローナル集団には、標的である一つ又は複数の病原性抗原性分子に結合しない二重特異的分子を含めることができる。例えば、二重特異的分子の集団は、標的病原体上にあるもの以外の抗原性分子に結合する抗体を含有する高度免疫血清から調製することができる。好ましくは、ポリクローナル集団中の複数の二重特異的分子が、その集団の少なくとも1%、5%、10%、20%、50%又は80% を構成するとよい。より好ましくは、ポリクローナル集団中の複数の二重特異的分子が、その集団の少なくとも90%を構成するとよい。ある実施態様では、二重特異的分子のポリクローナル集団中の当該複数の二重特異的分子は、好ましくは、この複数のうちの95%、80%、又は60%を越える比率を有するいずれか単一の二重特異的分子を含まないとよい。より好ましくは、二重特異的分子の前記ポリクローナル集団中の前記複数の二重特異的分子が、当該の複数のうちの50%を越える比率を有するいずれか単一の二重特異的分子を含まないとよい。ある実施態様では、ポリクローナル集団中の前記複数の二重特異的分子が、異なる抗原結合特異性を持つ少なくとも2つの異なる二重特異的分子を含む。好ましくは、ポリクローナル集団中の前記複数の二重特異的分子が、異なる抗原結合特異性を持つ少なくとも10の異なる二重特異的分子を含むとよい。より好ましくは、ポリクローナル集団中の前記複数の二重特異的分子が、異なる抗原結合特異性を持つ少なくとも100の異なる二重特異的分子を含むとよい。当該のポリクローナル集団は、例えば、しかし限定はしないが、ポリクローナル免疫グロブリン製剤など、抗原認識部分の適したポリクローナル集団から作製されるポリクローナル集団であってよい。
【0077】
A. 二重特異的分子の作製
1. 抗体の作製
ここで用いられる場合の用語「抗体」とは、免疫グロブリン分子又はその抗原結合部分を言う。免疫グロブリン分子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン及びmu定常領域や、無数の免疫グロブリン可変領域を含む遺伝子にコードされている。軽鎖はカッパ又はラムダのいずれかに分類される。軽鎖は、可変軽鎖(VL)及び定常軽鎖(CL)ドメインを含む。重鎖は、ガンマ、mu、アルファ、デルタ、又はイプシロンに分類され、これらがひいてはそれぞれ免疫グロブリン・クラス IgG、IgM、IgA、IgD 及びIgEを定義する。重鎖は可変重鎖(VH)、定常重鎖1(CH1)、ヒンジ、定常重鎖2(CH2)、及び定常重鎖3(CH3)ドメインを含む。IgG重鎖は更にそれらの配列のバリエーションに基づいて下位分類され、そのサブクラスはIgG1、IgG2、IgG3 及びIgG4と指定されている。
【0078】
抗体は、更に二対の軽鎖及び重鎖ドメインに分割することができる。対になったVL及びVHドメインは、抗体−抗原認識ドメインを構成するそれぞれ:フレームワーク領域 1 (FR1)、相補性決定領域 1 (CDR1)、フレームワーク領域 2 (FR2)、相補性決定領域 2 (CDR2)、フレームワーク領域 3 (FR3)、 相補性決定領域 3 (CDR3)、フレームワーク領域 4 (FR4) という一連の7個のサブドメインを含む。
【0079】
キメラ抗体は、適した抗原特異性を持つモノクローナル抗体由来の遺伝子を、適した対生物活性の第二ヒト抗体分子由来の遺伝子と一緒にスプライスすることにより、作製してもよい。より具体的には、キメラ抗体は、ある抗体の可変領域をコードする遺伝子を、第二抗体分子由来の定常領域遺伝子と一緒にスプライスすることにより、作製できよう。この方法は、ヒト化モノクローナル抗体の作製時に用いられており、この場合、当該の相補性決定領域はマウスであり、そしてフレームワーク領域はヒトであるため、本抗体で治療されたヒトの患者において免疫応答が起きる可能性が低い(そのそれぞれの全文を、引用をもってここに援用することとする米国特許第4,816,567号、第4,816,397号、第5,693,762号;第5,585,089号;第5,565,332号及び第5,821,337号)。
【0080】
本発明で用いるのに適した抗体は、天然源から得てもよく、あるいは、遺伝子操作技術による定常領域機能の改変を含め、ハイブリドーマ、組換え又は化学的合成法により作製してもよい(米国特許第5,624,821号)。本発明の抗体は、いずれのアイソタイプのものであってもよいが、好ましくはヒトIgG1であるとよい。
【0081】
抗体は、一般的には、軽鎖の可変ドメインをポリペプチド・リンカを介して重鎖の可変ドメインに融合させて成る融合ポリペプチドを含む一本鎖抗体(scFv)であってもよい。
【0082】
ヒトC3b受容体に結合する抗CR1 mAbは公知の方法により作製することができる。ある実施態様では、抗CR1 mAb、好ましくは抗CR1 IgGを、当業で公知の標準的なハイブリドーマ法を用いて調製することができる(例えばKohler and Milstein, 1975, Nature 256:495 497; Hogg et al., 1984, Eur. J. Immunol. 14:236-243; O’Shea et al., 1985, J. Immunol. 134:2580-2587; Schreiber, 米国特許第4,672,044号を参照されたい)。適したマウスを、ヒト赤血球から精製することのできるヒトCR1で免疫する。この免疫後のマウスから得られた脾細胞を不死のマウス骨髄腫細胞株に融合させると、抗CR1抗体を産生するハイブリドーマを含む、一集団のハイブリドーマ細胞ができる。次に、この抗CR1抗体を産生するハイブリドーマを、ハイブリドーマ集団から、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などの従来技術を用いて選抜又は「クローニング」する。また、抗CR1 mAbを発現しているハイブリドーマ細胞株は、多種の源から得ることができ、例えば米国特許第4,672,044号に解説されたヒトCR1に結合するマウス抗CR1 mAb は、ハイブリドーマ細胞株ATCC HB 8592としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション (ATCC)から得ることができる。得られたハイブリドーマ細胞は、当業で公知の標準的な方法を用いて成長させ、洗浄する。次に、抗CR1抗体を上清から回収する。
【0083】
他の実施態様では、抗CR1 mAb、好ましくは抗CR1 IgG、の重鎖及び軽鎖をコードする核酸を、ハイブリドーマ細胞株から、当業で公知の標準的方法により、調製する。非限定的な例としては、抗CR1 IgGの重鎖及び軽鎖をコードする cDNAを、適したプライマを用いてmRNAをプライミングした後、適した正方向及び逆方向プライマを用いてPCR増幅することにより、調製する。cDNA合成のためのいずれかの市販のキットも用いることができる。該核酸を、発現ベクタの構築に用いる。発現ベクタを適したホストにトランスフェクトする。非限定的な例には、E. coli 、酵母、昆虫細胞、及び哺乳動物系、例えばチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞株など、がある。抗体の産生は、当業で公知の標準的な方法により、誘導することができる。抗CR1抗体は、ヒト赤血球から精製することのできるヒトCR1で適した対象を免疫することにより、調製することができる。免疫後の対象の抗体価は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)など、標準的な技術により、固定したポリペプチドを用いて経時的に観察することができる。必要に応じ、抗体分子を哺乳動物から(例えば血液から)単離し、更に、プロテインAクロマトグラフィなどの公知の技術により精製して、IgG画分を得ることができる。
【0084】
例えば特定の抗体価が最高となったときなど、免疫から適当な時間後に、抗体産生細胞を対象から得、例えばKohler and Milstein (1975, Nature 256:495-497)が最初に解説したハイブリドーマ技術、Kozbor et al. (1983, Immunol. Today 4:72)によるヒトB細胞ハイブリドーマ技術、Cole et al. (1985, Monoclonal 抗体 and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)によるEBV-ハイブリドーマ技術又はトリオーマ技術など、標準的な技術によりモノクローナル抗体を調製するために用いることができる。ハイブリドーマを作製する技術は公知である(Current Protocols in Immunology, 1994, John Wiley & Sons, Inc., New York, NY)を参照されたい。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば標準的なELISA検定法を用いるなど、目的のポリペプチドに結合する抗体を探してハイブリドーマ培養上清をスクリーニングすることにより、検出される。
【0085】
モノクローナル抗体は実質的に均質な抗体の集団から得られ、即ち、該集団を含む個々の抗体は、少量存在するかも知れない天然で発生する変異を除き、同一である。このように、修飾成句「モノクローナル」は、当該抗体の特徴を、別個の抗体の混合物ではないと示すものである。例えば、当該のモノクローナル抗体を、Kohler et al., 1975, Nature, 256:495が最初に解説したハイブリドーマ法を用いて作製してもよく、あるいは組換えDNA法で作製してもよい(米国特許第4,816,567号)。ここで用いられる用語「モノクローナル抗体」は、更に、当該抗体が免疫グロブリンであることも指す。
【0086】
モノクローナル抗体を作製するハイブリドーマ法においては、マウス又は他の適したホスト動物、例えばハムスター、を上述したように免疫して、免疫処理に用いたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生する又は産生することのできるリンパ球を惹起する(例えば、引用をもってその全文をここに援用することとする米国特許第 5,914,112号を参照されたい)。
【0087】
代替的には、リンパ球をin vitroで免疫してもよい。次にリンパ球を骨髄腫細胞にポリエチレングリコール等の適した融合剤を用いて融合してハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal 抗体: Principles and Practice, pp. 59−103 (Academic Press, 1986)))。このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは未融合の親骨髄腫細胞の成長又は生存を阻害する一種以上の物質を含有する適した培地に接種及びこの培地で成長させる。例えば、親骨髄腫細胞が、酵素ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT 又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマ用の培地は、典型的には、HGPRT欠損細胞の成長を防ぐ物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(HAT培地)を含むであろう。
【0088】
好適な骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定な高レベルの抗体産生を支援し、そしてHAT培地などの培地に対して感受性あるものである。これらの中でも好適な骨髄腫細胞株は、例えば米国カリフォルニア州サンディエゴ、Salk インスティテュート・セル・ディストリビューション・センターから入手できるMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍由来のものや、米国メリーランド州ロックビル、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手可能なSP-2細胞由来のものなどのマウス骨髄腫細胞である。
【0089】
ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株も、ヒトモノクローナル抗体の産生について解説されている (Kozbor, 1984, J. Immunol., 133:3001; Brodeur et al., Monoclonal antibody Production Techniques and Applications, pp. 51−63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。中でハイブリドーマ細胞が成長中の培地を、当該抗原に対するモノクローナル抗体の産生について検定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降法や、又は、放射免疫検定法(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などのin vitro結合検定法により、判定する。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., 1980, Anal. Biochem., 107:220 のスカッチャード分析などにより、判定することができる。所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を特定したら、そのクローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法(Goding, Monoclonal 抗体: Principles and Practice, pp. 59−103 (Academic Press, 1986))で成長させてよい。この目的のための適した培地には、例えば、D−MEM 又はRPMI−1640 培地がある。加えて、ハイブリドーマ細胞を動物の腹水腫瘍としてin vivoで成長させてもよい。該サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体を、培地、腹水又は血清から、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイト・クロマトグラフィ、ゲル電気泳動法、透析、又はアフィニティ・クロマトグラフィなどの従来の免疫グロブリン精製法により、適宜分離する。
【0090】
モノクローナル抗体分泌性ハイブリドーマを調製する代わりに、ヒトCR1に対するモノクローナル抗体は、組換えコンビナトリアル免疫グロブリン・ライブラリ(例えば抗体ファージ・ディスプレイ・ライブラリ)をヒトCR1でスクリーニングすることにより、同定及び単離することができる。ファージ・ディスプレイ・ライブラリを作製及びスクリーニングするためのキットは市販されている(例えばファルマシア社リコンビナント・ファージ抗体システム、カタログ番号27-9400-01; 及びストラタジーン社抗原SurfZAPTMファージ・ディスプレイ・キット、カタログ番号240612)。加えて、抗体ディスプレイ・ライブラリの作製及びスクリーニングで用いるために特に適した方法及び試薬の例は、例えば米国特許第5,223,409号及び第5,514,548号; PCT公報 No. WO 92/18619; PCT公報 No. WO 91/17271; PCT公報 No. WO 92/20791; PCT公報 No. WO 92/15679; PCT公報 No. WO 93/01288; PCT公報 No. WO 92/01047; PCT公報 No. WO 92/09690; PCT公報 No. WO 90/02809; Fuchs et al., 1991, Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al., 1992, Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85; Huse et al., 1989, Science 246:1275-1281; Griffiths et al., 1993, EMBO J. 12:725-734に見ることができる。
【0091】
加えて、適した抗原特異性を持つマウス抗体分子由来の遺伝子を、適した対生物活性のヒト抗体分子由来の遺伝子と一緒にスプライシングすることによる「キメラ抗体」の作製のために開発された技術(Morrison, et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81, 6851-6855; Neuberger, et al., 1984, Nature 312, 604-608; Takeda, et al., 1985, Nature, 314, 452-454)を用いることができる。キメラ抗体とは、例えばマウスmAb由来の改変領域と、ヒト免疫グロブリン定常領域とを有するものなど、異なる部分が異なる動物種由来である分子である。(例えば引用をもってその全文をここに援用することとするCabilly et al., 米国特許第4,816,567号;及びBoss et al., 米国特許第 4,816,397号を参照されたい)。
【0092】
ヒト化抗体は、非ヒト種を由来とする一つ以上の相補性決定領域(CDR)と、ヒト免疫グロブリン分子を由来とするフレームワーク領域とを有する、非ヒト種由来の抗体分子である。(例えば引用をもってその全文をここに援用することとする米国特許第5,585,089号を参照されたい)このようなキメラ及びヒト化モノクローナル抗体は、当業で公知の組換えDNA技術により、PCT公報 No. WO 87/02671; ヨーロッパ特許出願 184,187; ヨーロッパ特許出願 171,496; ヨーロッパ特許出願 173,494; PCT公報 No. WO 86/01533; 米国特許第4,816,567号及び第5,225,539号; ヨーロッパ特許出願 125,023; Better et al., 1988, Science 240:1041-1043; Liu et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443; Liu et al., 1987, J. Immunol. 139:3521-3526; Sun et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218; Nishimura et al., 1987, Canc. Res. 47:999-1005; Wood et al., 1985, Nature 314:446-449; Shaw et al., 1988, J. Natl. Cancer Inst. 80:1553-1559; Morrison 1985, Science 229:1202-1207; Oi et al., 1986, Bio/Techniques 4:214; Jones et al., 1986, Nature 321:552-525; Verhoeyan et al., 1988, Science 239:1534; 及び Beidler et al., 1988, J. Immunol. 141:4053-4060に解説された方法を用いるなどして、作製することができる。
【0093】
相補性決定領域(CDR)グラフティングは、抗体をヒト化する別の方法である。それは完全な抗原特異性及び結合親和性をヒトフレームワークに移すためにマウス抗体を整形することを含む(Winter et al. 米国特許第5,225,539号)。CDRをグラフトされた抗体は、例えばQueen et al., 1989 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10029)に解説されたようなIL-2受容体に対する抗体;Riechmann et al. (1988, Nature, 332:323に解説されたような細胞表面受容体CAMPATHに対する抗体;Cole et al. (1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:2869)のB型肝炎に対する抗体;や、Tempest et al. (1991, Bio−Technology 9:267)のウィルス抗原-呼吸系発疹ウィルスに対する抗体など、多種の抗原に対して成功裡に構築されてきた。マウスモノクローナル抗体のCDRがヒト抗体にグラフトされた、CDRグラフト抗体が生じる。グラフティング後、大半の抗体は、フレームワーク領域に付加的なアミノ酸変更があることで親和性を維持するために有利である。これはおそらく、フレームワークの残基は、CDRのコンホメーションを維持するために必要であるからであり、そしていくつかのフレームワークの残基は、抗原結合部位の一部であることが実証されている。しかしながら、いずれの抗原性部位も導入しないようにフレームワーク領域を保存するために、当該配列を、確立された生殖細胞系配列に比較した後、コンピュータ・モデリングを行う。
【0094】
ヒトCR1受容体に結合するデイミュナイズされた抗体も、本発明で用いることができる。ここで用いられる用語「デイミュナイズされた抗体」とは、非ヒト起源のものであるが、開始物質の非ヒト抗体に比較して、それがヒトに対して非免疫原性又は低免疫原性であるように改変された、即ち一つ以上のアミノ酸置換を持つ、抗体を言う。好適な実施態様では、前記のデイミュナイズされた抗CR1抗体は、このデイミュナイズされた抗体が、それぞれ未改変の非ヒト配列に比較して、ヒトにとって非免疫原性又は低免疫原性であるように一つ以上のアミノ酸置換を含むように改変された一つ以上の非ヒトVH又はVL配列を含む(全て、引用をもってその全文をここに援用することとする WO 00/34317、WO 98/52976、及び米国仮出願No. 60/458,869を参照されたい)。ある好適な実施態様では、前記のデイミュナイズされた抗体は19E9である。
【0095】
完全ヒト抗体がヒト患者の治療的治療にとっては特に好ましい。ある実施態様では、完全ヒト抗体は、当業で公知の技術を用いて作製することができる。例えば、特定の抗原に対する完全ヒト抗体は、抗原刺激に応答してこのような抗体を産生するように改変されているが、その内因性遺伝子座が不能にされているようなトランスジェニック動物に当該抗原を投与することにより、調製することができる。抗体を作製するために用いることのできる技術の例が米国特許第6,150,584号;第6,458,592号;第6,420,140号に解説されている。
【0096】
トランスジェニック・マウスが持つヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化中に再編成した後、クラス・スイッチング及び体細胞変異を起こす。このように、このような技術を用いると、治療上有用なIgG、IgA及びIgE抗体を作製することができる。ヒト抗体を作製するこの技術の概観については、Lonberg and Huszar (1995, Int. Rev. Immunol. 13:65−93)を参照されたい。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を作製するこの技術の詳細な議論や、このような抗体を作製するためのプロトコルについては、例えば米国特許第5,625,126号;米国特許第5,633,425号;米国特許第5,569,825号;米国特許 第5,661,016号;及び米国特許第5,545,806号を参照されたい。加えて、アブジェニックス社(カリフォルニア州フレモント、例えば米国特許第5,985,615号を参照されたい)及びメダレックス社(ニュージャージー州プリンストン)などの会社は、ヒトCR1に対するヒト抗体を、上述したものと同様な技術を用いて提供しようと、取り組むことができる。
【0097】
選択されたエピトープを認識して結合する完全ヒト抗体は、「ガイデッド・セレクション(原語:guided selection)」と呼ばれる技術を用いて作製することもできる。このアプローチでは、マウス抗体などの選択された非ヒトモノクローナル抗体を用いて、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を案内する (Jespers et al., 1994, Bio/technology 12:899-903)。
【0098】
7G9、HB8592、3D9、57F、1B4 (例えば引用をもってその全文をここに援用することとするTalyor et al., 米国特許第 5,487,890号を参照されたい)を含む、しかしこれらに限らず、既存の抗CR1抗体も用いることができる。ある好適な実施態様では、7G9 (マウスIgG2a、カッパ)など、高親和抗CR1モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞株を用いて、マスター細胞バンク(MCB)を作製する。好ましくは、前記マスター細胞バンクを、マウス抗体産生、マイコプラズマ及び無菌性について検査するとよい。こうして、当該の抗CR1抗体を産生させ、腹水から精製する。別の好適な実施態様では、二重特異的分子の作製に用いられる抗CR1モノクローナル抗体をin vitro (中空繊維のバイオリアクタ)で生じさせ、cGMP下で精製する。他の技術は当業で公知である。
【0099】
2. 非中和抗原結合抗体の作製
本発明の二重特異的分子の非中和抗原結合抗体は、上述したものなど、当業で公知の多種の方法により、作製することができる。この非中和抗原結合抗体は、適した対象を免疫原としての抗原で免疫した後、当業で公知の方法によりスクリーニングするか、あるいは、ここで解説するマクロファージ生死検定により、スクリーニングすることで調製することができる。ある実施態様では、対する非中和抗体が欲しい生物に関連する生物を用いて非中和抗体を作製することができる。例えば、同じファミリの異なるウィルスを用いることができる。別の実施態様では、対する非中和抗体を欲しい同じ生物を用いることができる。別の実施態様では、非中和抗体を、対する非中和抗体を欲しい生物か、又は、対する非中和抗体を欲しいものに関連する生物に感染した対象から得ることができる。免疫後の対象における抗体価は、例えば酵素結合免疫吸着(ELISA)などの標準的な技術により、固定されたポリペプチドを用いて経時的に観察することができる。必要に応じ、抗体分子を哺乳動物から(例えば血液から)単離し、更にプロテインAクロマトグラフィなどの公知の技術により精製してIgG画分を得ることができる。例えば特定の抗体価が最高となったときなど、免疫から適当な時間後に、抗体産生細胞を対象から得、例えばKohler 及び Milstein (1975, Nature 256:495-497)が最初に解説したハイブリドーマ技術、Kozbor et al. (1983, Immunol. Today 4:72)によるヒトB細胞ハイブリドーマ技術、Cole et al. (1985, Monoclonal 抗体 and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)によるEBV-ハイブリドーマ技術又はトリオーマ技術など、標準的な技術によりモノクローナル抗体を調製するために用いることができる。ハイブリドーマを作製する技術は公知である(概略的にはCurrent Protocols in Immunology, 1994, John Wiley & Sons, Inc., New York, NY)を参照されたい。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば標準的なELISA検定法を用いるなど、目的のポリペプチドに結合する抗体を探してハイブリドーマ培養上清をスクリーニングすることにより、検出される。
【0100】
モノクローナル抗体は実質的に均質な抗体の集団から得られ、即ち、該集団を含む個々の抗体は、少量存在するかも知れない天然で発生する変異を除き、同一である。例えば、当該のモノクローナル抗体を、Kohler et al., 1975, Nature, 256:495が最初に解説したハイブリドーマ法を用いて作製してもよく、あるいは組換えDNA法で作製してもよい(米国特許第4,816,567号)。
【0101】
モノクローナル抗体を作製するハイブリドーマ法においては、マウス又は他の適したホスト動物、例えばハムスター、を上述したように免疫して、免疫処理に用いたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生する又は産生することのできるリンパ球を惹起する(引用をもってその全文をここに援用することとする米国特許第 5,914,112号を参照されたい)。
【0102】
代替的には、リンパ球をin vitroで免疫してもよい。次にリンパ球を骨髄腫細胞にポリエチレングリコール等の適した融合剤を用いて融合してハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal 抗体: Principles and Practice, pp. 59−103 (Academic Press, 1986)))。このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは未融合の親骨髄腫細胞の成長又は生存を阻害する一種以上の物質を含有する適した培地に接種及びこの培地で成長させる。例えば、親骨髄腫細胞が、酵素ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT 又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマ用の培地は、典型的には、HGPRT欠損細胞の成長を防ぐ物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(HAT培地)を含むであろう。
【0103】
好適な骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定な高レベルの抗体産生を支援し、そしてHAT培地などの培地に対して感受性あるものである。これらの中でも好適な骨髄腫細胞株は、例えば米国カリフォルニア州サンディエゴ、Salk インスティテュート・セル・ディストリビューション・センターから入手できるMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍由来のものや、米国メリーランド州ロックビル、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手可能なSP-2細胞由来のものなどのマウス骨髄腫株である。
【0104】
ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株も、ヒトモノクローナル抗体の産生について解説されている (Kozbor, 1984, J. Immunol., 133:3001; Brodeur et al., Monoclonal antibody Production Techniques and Applications, pp. 51−63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。中でハイブリドーマ細胞が成長中の培地を、当該抗原に対するモノクローナル抗体の産生について検定する。好ましくは、ハイブリドーマ細胞が産生するモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降法や、又は、放射免疫検定法(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)などのin vitro結合検定法により、判定する。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munson et al., 1980, Anal. Biochem., 107:220 のスカッチャード分析、などにより、判定することができる。
【0105】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を特定したら、そのクローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法(Goding, Monoclonal antibody: Principles and Practice, pp. 59−103 (Academic Press, 1986))で成長させてよい。この目的のための適した培地には、例えば、D−MEM 又はRPMI−1640 培地がある。加えて、ハイブリドーマ細胞を動物の腹水腫瘍としてin vivoで成長させてもよい。該サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体を、培地、腹水又は血清から、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイト・クロマトグラフィ、ゲル電気泳動法、透析、又はアフィニティ・クロマトグラフィなどの従来の免疫グロブリン精製法により、適宜分離する。
【0106】
モノクローナル抗体分泌性ハイブリドーマを調製する代わりに、病原体か、又は、本発明の病原性抗原性分子ポリペプチドに対するモノクローナル抗体は、組換えコンビナトリアル免疫グロブリン・ライブラリ(例えば抗体ファージ・ディスプレイ・ライブラリ)を目的の抗原でスクリーニングすることにより、同定及び単離することができる。ファージ・ディスプレイ・ライブラリを作製及びスクリーニングするためのキットは市販されている(例えばファルマシア社リコンビナント・ファージ抗体システム、カタログ番号27-9400-01; 及びストラタジーン社抗原SurfZAPTM ファージ・ディスプレイ・キット、カタログ番号240612)。加えて、抗体ディスプレイ・ライブラリの作製及びスクリーニングで用いるために特に適した方法及び試薬の例は、例えば米国特許第5,223,409号及び第5,514,548号; PCT公報 No. WO 92/18619; PCT公報 No. WO 91/17271; PCT公報 No. WO 92/20791; PCT公報 No. WO 92/15679; PCT公報 No. WO 93/01288; PCT公報 No. WO 92/01047; PCT公報 No. WO 92/09690; PCT公報 No. WO 90/02809; Fuchs et al., 1991, Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al., 1992, Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85; Huse et al., 1989, Science 246:1275-1281; Griffiths et al., 1993, EMBO J. 12:725-734に見ることができる。ファージ・ディスプレイ・ライブラリにより、一つ又は複数の所望の抗体を、大変大きなレパートリの特異性部分から選択することができる。ファージ・ディスプレイ・ライブラリの更なる利点は、選択された抗体をコードする核酸を都合良く得ることができるため、発現ベクタのその後の構築が容易な点である。
【0107】
加えて、適した抗原特異性のマウス抗体分子由来の遺伝子を、適した対生物活性のヒト抗体分子由来の遺伝子と一緒にスプライシングすることによる「キメラ抗体」を作製するために開発された技術(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81, 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature 312, 604-608; Takeda et al., 1985, Nature, 314, 452-454)を用いることができる。キメラ抗体とは、例えばマウスmAb由来の可変領域と、ヒト免疫グロブリン定常領域とを有するものなど、異なる部分が異なる動物種由来であるような分子である。(例えば 引用をもってその全文をここに援用することとするCabilly et al., 米国特許第4,816,567号;及びBoss et al., 米国特許第 4,816,397号を参照されたい)。
【0108】
ヒト化抗体は、非ヒト種を由来とする一つ以上の相補性決定領域(CDR)と、ヒト免疫グロブリン分子を由来とするフレームワーク領域とを有する、非ヒト種由来の抗体分子である。(例えば引用をもってその全文をここに援用することとする米国特許第5,585,089号を参照されたい)このようなキメラ及びヒト化モノクローナル抗体は、当業で公知の組換えDNA技術により、PCT公報 No. WO 87/02671; ヨーロッパ特許出願 184,187; ヨーロッパ特許出願 171,496; ヨーロッパ特許出願 173,494; PCT公報 No. WO 86/01533; 米国特許第4,816,567号及び第5,225,539号; ヨーロッパ特許出願 125,023; Better et al., 1988, Science 240:1041-1043; Liu et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:3439-3443; Liu et al., 1987, J. Immunol. 139:3521-3526; Sun et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:214-218; Nishimura et al., 1987, Canc. Res. 47:999-1005; Wood et al., 1985, Nature 314:446-449; Shaw et al., 1988, J. Natl. Cancer Inst. 80:1553-1559; Morrison 1985, Science 229:1202-1207; Oi et al., 1986, Bio/Techniques 4:214; Jones et al., 1986, Nature 321:552-525; Verhoeyan et al., 1988, Science 239:1534; 及び Beidler et al., 1988, J. Immunol. 141:4053-4060に解説された方法を用いるなどして、作製することができる。
【0109】
相補性決定領域(CDR)グラフティングは、抗体をヒト化する別の方法である。それは完全な抗原特異性及び結合親和性をヒトフレームワークに移すためにマウス抗体を整形することを含む(Winter et al. 米国特許第5,225,539号)。CDRをグラフトされた抗体は、例えばQueen et al., 1989 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10029)に解説されたようなIL-2受容体に対する抗体;Riechmann et al. (1988, Nature, 332:323に解説されたような細胞表面受容体-CAMPATHに対する抗体;Cole et al. (1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:2869)のB型肝炎に対する抗体;や、Tempest et al. (1991, Bio−Technology 9:267)のウィルス抗原-呼吸系発疹ウィルスに対する抗体など、多種の抗原に対して成功裡に構築されてきた。マウスモノクローナル抗体のCDRがヒト抗体にグラフトされた、CDRグラフト抗体が生じる。グラフティング後、大半の抗体は、フレームワーク領域に付加的なアミノ酸変更があることで親和性を維持するために有利である。これはおそらく、フレームワークの残基は、CDRのコンホメーションを維持するために必要であるからであり、そしていくつかのフレームワークの残基は、抗原結合部位の一部であることが実証されている。しかしながら、いずれの抗原性部位も導入しないようにフレームワーク領域を保存するために、当該配列を、確立された生殖細胞系配列に比較した後、コンピュータ・モデリングを行う。
【0110】
抗原に対するモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を用いて得ることができる。トランスジェニック・マウスが持つヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化中に再編成した後、クラス・スイッチング及び体細胞変異を起こす。このように、このような技術を用いると、IgG、IgA及びIgE抗体を作製することができる。ヒト抗体を作製するこの技術の概観については、Lonberg 及びHuszar (1995, Int. Rev. Immunol. 13:65−93)を参照されたい。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を作製するこの技術の詳細な議論や、このような抗体を作製するためのプロトコルについては、例えば米国特許第5,625,126号;米国特許第5,633,425号;米国特許第5,569,825号;米国特許 第5,661,016号;及び米国特許第5,545,806号を参照されたい。加えて、アブジェニックス社(カリフォルニア州フレモント、例えば米国特許第5,985,615号を参照されたい)及びメダレックス社(ニュージャージー州プリンストン)などの会社は、選択された抗原に対するヒト抗体を、上述したものと同様な技術を用いて提供しようと、取り組むことができる。
【0111】
選択されたエピトープを認識して結合する完全ヒト抗体は、「ガイデッド・セレクション(原語:guided selection)」と呼ばれる技術を用いて作製することもできる。このアプローチでは、マウス抗体などの選択された非ヒトモノクローナル抗体を用いて、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を案内する (Jespers et al., 1994, Bio/technology 12:899-903)。
【0112】
病原体に対する既存抗体を用いて、アフィニティ・クロマトグラフィ又は免疫沈降法などの標準的な技術により当該病原体の更なる抗原を単離することができ、免疫原としての使用に向けることができる。更に、このような抗体は、当該病原体の豊富度及び発現パターンを評価するために、当該タンパク質を(例えば細胞ライセート又は細胞上清中で)検出するためにも用いることができる。当該の抗体は、更に、例えばある特定の治療計画の効験を判定するためなど、組織中の病原体レベルを臨床検査法の一部として観察するために診断的に用いることもできる。本発明の二重特異的分子の非中和抗原結合抗体フラグメントは、当業で公知の様々な方法により、作製することができる。
【0113】
ある実施態様では、前記の抗原結合抗体フラグメントは、例えば病原性抗原性分子など、哺乳動物の循環中から除去しようとする分子に特異的に結合する結合ドメインを含有する免疫グロブリン分子の一フラグメントである。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性なフラグメントの例には、限定はしないが、抗体をペプシン又はパパインなどの酵素で処理することにより作製することのできるFab、Fab’ 及び(Fab’)2 フラグメントがある。ある好適な実施態様では、抗原結合抗体フラグメントを、所望の抗原結合特異性を有するモノクローナル抗体から作製する。このようなモノクローナル抗体は、当業で公知の標準的な方法のいずれかにより、標的決定された抗原を用いて、生じさせることができる。例えば、抗原性分子に対するモノクローナル抗体は、上述した方法のいずれか一つを用い、CR1の代わりに当該の抗原性分子を用いて、生じさせることができる。次にこの抗体をペプシン又はパパインで処理する。ペプシンは、抗体を、ヒンジ領域のジスルフィド結合の下方で消化するが、すると、軽鎖がVH-CH1にジスルフィド結合により接合したものから成るFabの二量体である抗体の(Fab’)2フラグメントが生ずる。(Fab’)2 フラグメントを、穏和条件下で還元することで、ヒンジ領域のジスルフィド架橋を還元して、(Fab’)2 二量体をFab’ 単量体に転化させてもよい。Fab’ 単量体は基本的には、ヒンジ領域の一部を持つFabである。エピトープ、抗体及び抗体フラグメントの詳細な解説についてはPaul, ed., 1993, Fundamental Immunology, Third Edition (ニューヨーク、レイブン・プレス刊)を参照されたい。当業者であれば、このようなFab’ フラグメントは、化学的か、又は組換えDNA技術を用いてde novoで合成できるであろうことは認識されよう。このように、ここで用いる場合の抗体フラグメントという用語には、全抗体の改変により生ずる抗体フラグメントや、又はde novo合成されたものが含まれる。
【0114】
別の実施態様では、引用をもってここにその全文を援用することとする米国特許第5,648,237号に解説された抗体の免疫学的に活性なフラグメントを作製し、発現させる方法を用いる。
【0115】
抗原結合抗体フラグメントを含む二重特異的分子の作製法の例は、引用をもってその全文をここに援用することとする、2002年9月16日に出願された米国仮出願第60/411,421号に開示されている。
【0116】
更に別の実施態様では、Fv、Fab、Fab’、又は (Fab’)2 などの抗原結合抗体フラグメントを、ファージ・ディスプレイ・ライブラリのアフィニティ・スクリーニングを含む方法により作製する(例えば、引用をもってその全文をここに援用することとするWatkins et al., Vox Sanguinis 78:72-79; 米国特許第5,223,409号及び第5,514,548号;PCT公報 No. WO 92/18619; PCT公報 No. WO 91/17271; PCT公報 No. WO 92/20791; PCT公報 No. WO 92/15679; PCT公報 No. WO 93/01288; PCT公報 No. WO 92/01047; PCT公報 No. WO 92/09690; PCT公報 No. WO 90/02809; Fuchs et al., 1991, Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al., 1992, Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85; Huse et al., 1989, Science 246:1275-1281; Griffiths et al., 1993, EMBO J. 12:725-734; 及びMcCafferty et al., 1990, Nature 348:552‑554を参照されたい)。 次に、ファージ・ディスプレイ・ライブラリから選択された一つ又は複数の抗体フラグメントをコードする核酸を、発現ベクタの構築のために得る。その後、この一つ又は複数の抗体フラグメントを、細菌、酵母、又は哺乳動物ホスト系などの適したホスト系で産生させることができる(例えばPlueckthun et al., Immunotechnology 3:83−105; Adair, Immunological Reviews 130:5−40; Cabilly et al, 米国特許第4,816,567号;及びCarter, 米国特許第 5,648,237号を参照されたい)。
【0117】
更に別の実施態様では、引用をもってそのそれぞれの全文をここに援用することとする一本鎖抗体の作製に関して解説された技術(米国特許第4,946,778号;Bird, 1988, Science 242:423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; and Ward et al., 1989, Nature 334:544-546)を、当該の抗原性分子に対する一本鎖抗体を作製するために適合させることができる。一本鎖抗体は、Fv領域の重鎖及び軽鎖フラグメントをアミノ酸架橋により連結して、一本鎖ポリペプチドとすることにより、形成される。
【0118】
ある好適な実施態様では、非中和抗原結合抗体を、それを所定の部位で抗CR1抗体に付着させることができるように改変することができる。好ましくは、このような所定の部位は、抗原結合親和性が、該フラグメントを抗CR1抗体に架橋させた後でも損なわれないように選択されるとよい。より好ましくは、このような所定の部位は、非中和抗原結合抗体の表面上の部位であるとよい。ある好適な実施態様では、システイン残基を非中和抗原結合抗体中の適した位置に操作により入れて、この非中和抗原結合抗体を抗CR1抗体に部位特異的に付着させられるようにする(例えば引用をもってその全文をここに援用することとするLyons et al., Protein Engineering 3:703-708を参照されたい)。当業者であれば、システイン残基を導入する位置や、このような操作されたフラグメントを作製するために用いることのできる方法を決定することができよう。ある好適な実施態様では、システインは、非中和抗原結合抗体のC末端に導入される。
【0119】
別の好適な実施態様では、システイン残基を含有する非中和抗原結合抗体を、システイニル遊離チオールが維持されるような態様でホスト細胞に産生させる(例えば、引用をもってその全文をここに援用することとするCarter, 米国特許第5,648,237号を参照されたい)。その後、このシステイニル遊離チオールを含有する非中和抗原結合抗体(ここでは「Ab-フラグメント-cys-SH」とも言及される)を用いて、適した抗CR1抗体で直接、又は、遊離チオールと反応して共有結合を形成することのできる適宜誘導体化した抗CR1抗体で、本発明の二重特異的分子を作製することができる。抗CR1抗体は、マレイミド誘導体化抗CR1モノクローナル抗体、例えばスルホスクシンイミジル-4-(N マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(sSMCC) 又はポリ(エチレングリコール)-マレイミドで誘導体化された抗CR1モノクローナル抗体、例えばモノメトキシポリ(エチレングリコール)-マレイミド (mPEG-MAL) 又は NHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド (PEG-MAL)で誘導体化された抗CR1モノクローナル抗体など、であってよい。代替的には、抗CR1抗体は、チオール化抗CR1抗体、例えばN-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート (SATA)、N-スクシンイミジル-3-(2 ピリジルジチオ)プロピオネート (SPDP)で誘導体化された抗CR1抗体など、であってよい。該Ab-フラグメント-cys-SH は、チオール化抗CR1抗体に、ジスルフィド結合を介して架橋させることができる。
【0120】
更に本発明では、二重特異的分子のポリクローナル集団の作製のために、非中和抗原結合抗体のポリクローナル集団も用いる。非中和抗原結合抗体のポリクローナル集団の作製のためには、当業で公知のいずれかの方法を、本発明と併せて用いることができる。好適な実施態様では、非中和抗原結合抗体の集団を、所望の結合特異性を有する、例えば抗体のポリクローナル集団などの抗体の集団から作製することができる(例えば、抗原結合抗体のポリクローナル集団の作製法に関しては、引用をもってそれぞれの全文をここに援用することとする2001年3月15日出願の米国仮出願60/276,200;PCT公報 WO 02/46208; 及びPCT公報 WO 01/80883を参照されたい)。ある実施態様では、抗体のポリクローナル集団は、限定はしないが、マウス、ウサギ、及びウマなどの適した動物を免疫することにより、作製することができる。
【0121】
ある実施態様では、典型的には、例えば対象から除去しようとする一つ又は複数の病原体に関連するなど、抗原性分子を含む免疫原性製剤を用いて、適した対象(例えばウサギ、ヤギ、マウス又は他の哺乳動物)を免疫することにより、抗体を調製する。適した免疫原性製剤には、例えば、細胞又は組織源から単離された抗原、組換えにより発現させた抗原、又は、例えば標準的なペプチド合成技術もしくは弱毒化した形の生物を用いるなどして化学合成された抗原、を含めることができる。免疫原性製剤には、更に、本発明で用いるための抗原の全部又は一部を異種ポリペプチドに作動的に連鎖させて含むキメラ又は融合抗原を含めることができる。該異種ポリペプチドには、限定はしないが、抗原がGST配列のC末端に融合されたようなGST融合抗原や、又は、抗原の全部又は一部が、免疫グロブリンタンパク質ファミリの一メンバを由来とする配列に融合されたような免疫グロブリン融合タンパク質、がある。キメラ及び融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術により作製することができる。該製剤には、更に、フロイント完全もしくは不完全アジュバントなどのアジュバント、又は同様の免疫刺激剤を含めることができる。は虫類又は蛇毒に含有されたものなど、毒性物質の混合物も、このような物質に対する抗体を生じさせるために用いることができる。
【0122】
次に、当該の免疫原を用いて適した動物を免疫する。好ましくは、動物は、ヒト抗体を分泌することのできる特化したトランスジェニック動物であるとよい。非限定的な例には、特定の病原体に対する抗体のポリクローナル集団を作製するために用いることのできるトランスジェニック・マウス株がある (Fishwild et al., 1996, Nature Biotechnology 14:845-851; Mendez et al., 1997, Nature Genetics 15:146-156)。本発明のある実施態様では、未変性のヒト免疫グロブリン遺伝子を持つトランスジェニック・マウスを標的免疫原で免疫する。この免疫原に対して強力な免疫応答がマウスで惹起された後で、該マウスの血液を採集し、ヒトIgG分子の精製済み製剤を、その血漿又は血清から作製することができる。ヒトIgG分子の精製済み製剤を得るには、限定はしないが、適したカラム・マトリックスに結合させた抗ヒトIgG抗体を用いたアフィニティ・カラム・クロマトグラフィを含め、当業で公知のいずれかの方法を用いることができる。抗ヒトIgG抗体は、DAKO社及びICNなどの市販の供給源など、当業で公知のいずれかの供給源から得ることができる。生じたIgG分子の製剤は、異なる程度の親和性で一つ又は複数の免疫原に結合するIgG分子のポリクローナル集団を含む。好ましくは、該製剤の大部分が、該一つ又は複数の免疫原に対して特異的なIgG分子であるとよい。IgG分子のポリクローナル製剤を解説したが、いずれか一種又は異なる種類の組合せになった免疫グロブリン分子を含むポリクローナル製剤も想到されると理解され、本発明の範囲内にあると意図されている。
【0123】
特定の一つ又は複数の病原体及び/又は一つ又は複数の病原性抗原性分子を狙った抗体のポリクローナル製剤又は高度免疫血清を、前記の一つ又は複数の病原体及び/又は一つ又は複数の病原性抗原性分子に感染したヒトの患者から、当業で公知のいずれかの方法を用いて作製することができる(例えばHarlow et al., Using Antibodies A Laboratory Manualを参照されたい)。非限定的な一例として、寄生生物、細菌、及びウィルスに対する高度免疫血清を、例えばShi et al., 1999, American J Tropical Med. Hyg. 60:135-141, Cryz et al., 1986, J. Lab. Clin. Med. 108:182-189, 及びCummins et al., 1991, Blood 77:1111-1117に解説された方法に従って調製することができる。ある好適な実施態様では、ポリクローナルヒトIgG製剤を、引用をもってその全文をここに援用することとするTanaka et al., 1998, Brazilian Journal of Medical and Biological Research 31:1375-81に解説された通りのクロマトグラフィ法を用いて作製する。具体的には、イオン交換、DEAE-セファロース FF 及びアルギニン・セファロース 4B アフィニティ・クロマトグラフィ、及びセファクリル S-300 HR ゲル濾過の組合せを用いて、精製済みIgG 分子を、ヒト血漿のガンマ・グロブリン画分から作製する。
【0124】
しかしながら、本発明は、IgG分子のポリクローナル製剤に限定されない。IgG、IgE、IgA、等を含む、しかしこれらに限らず、いずれか一種又は異なる種類の組合せになった免疫グロブリン分子を含むポリクローナル製剤も想到されると理解され、本発明の範囲内にあると意図されている。このようなポリクローナル製剤は当業で公知のいずれかの標準的な方法を用いて作製することができる。次に、その精製済みポリクローナル製剤を、抗原結合抗体フラグメントのポリクローナル集団の作製に用いる。特定の一つ又は複数の病原性抗原性分子を狙った抗原結合抗体の集団は、ファージ・ディスプレイ・ライブラリから作製することができる。ポリクローナル抗原結合抗体フラグメントは、目的の一つ又は複数の抗原に対して充分大きく、かつ多様な集団の特異性部分を有するファージ・ディスプレイ・ライブラリのアフィニティ・スクリーニングにより、得ることができる。抗体ディスプレイ・ライブラリを作製し、スクリーニングする際の使用に特に適した方法及び試薬の例は、例えば米国特許第5,223,409号及び第5,514,548号;PCT公報 No. WO 92/18619; PCT公報 No. WO 91/17271; PCT公報 No. WO 92/20791; PCT公報 No. WO 92/15679; PCT公報 No. WO 93/01288; PCT公報 No. WO 92/01047; PCT公報 No. WO 92/09690; PCT公報 No. WO 90/02809; Fuchs et al., 1991, Bio/Technology 9:1370-1372; Hay et al., 1992, Hum. Antibod. Hybridomas 3:81-85; Huse et al., 1989, Science 246:1275-1281; Griffiths et al., 1993, EMBO J. 12:725-734; 及びMcCafferty et al., 1990, Nature 348:552 554に見ることができる。
【0125】
ある好適な実施態様では、一つ又は複数の病原性抗原性分子を狙った非中和抗原結合抗体のポリクローナル集団を、Den et al., 1999, J. Immunol. Meth. 222:45-57; Sharon et al. Comb. Chem. High Throughput Screen. 2000 3:185 96; 及びBaecher-Allan et al., Comb. Chem. High Throughput Screen. 2000 2:319-325に従ってファージ・ディスプレイ・ライブラリから作製する。このファージ・ディスプレイ・ライブラリをアフィニティ・クロマトグラフィによりスクリーニングして、目的の一つ又は複数の抗原性分子を狙った結合特異性を有するポリクローナル・サブライブラリを選抜する (McCafferty et al., 1990, Nature 248:552; Breitling et al., 1991, Gene 104:147; 及びHawkins et al., 1992, J. Mol. Biol. 226:889)。次に、重鎖及び軽鎖可変領域をコードする核酸を、頭同士で連結して、二方向性のファージ・ディスプレイ・ベクタのライブラリを作製する。次に、前記の二方向性のファージ・ディスプレイ・ベクタを二方向性哺乳動物発現ベクタに物質移動させ(Sarantopoulos et al., 1994,J. Immunol. 152:5344) 、この二方向性哺乳動物発現ベクタを用いて、適したハイブリドーマ細胞株をトランスフェクトする。当業で公知のいずれかの方法を用い、トランスフェクトされたこのハイブリドーマ細胞を誘導して、抗原結合抗体フラグメントを産生させる。
【0126】
他の好適な実施態様では、一つ又は複数の病原性抗原性分子を狙った非中和抗原結合抗体の集団を、個々のメンバをクローン単離することなく、引用をもってその全文をここに援用することとする米国特許第6,057,098号に解説されたように、選抜され、ディスプレイされた抗体フラグメントの採集物全体を用いる方法により、作製する。ポリクローナル抗原結合抗体フラグメントは、複数のエピトープを有する抗原性分子などに対して充分大きなレパートリの特異性を有するファージ・ディスプレイ・ライブラリのアフィニティ・スクリーニングにより、好ましくは複数の抗体をディスプレイする、ディスプレイされたライブラリ・メンバの濃縮後に、得られる。選択されたディスプレイ抗体フラグメントをコードする核酸を切り出し、適したPCRプライマを用いて増幅する。この核酸は、完全長核酸が単離されるように、ゲル電気泳動法により精製することができる。次に、核酸のそれぞれを適した発現ベクタ内に、異なるインサートを有する発現ベクタの集団が得られるように挿入する。次に、発現ベクタのこの集団を適したホスト内で発現させる。
【0127】
3. 二重特異的分子の作製
本発明の二重特異的分子は、一つ以上の非中和抗原結合抗体の、米国特許第5,879,679号に解説された7G9抗体などの抗CR1モノクローナル抗体との共有結合体であってもよい。いずれの標準的な化学的架橋法を本発明で用いることもできる。好ましくは、二重官能性の架橋剤を用いた架橋法を用いるとよい。好ましくは、二重官能性のポリ(エチレングリコール)架橋剤を用いた架橋法を用いるとよい。例えば、限定はしないが、プロテインA、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、N-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテート (SATA)、N-スクシンイミジル-3-(2 ピリジルジチオ)プロピオネート (SPDP)、スルホスクシンイミジル4-(N マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート (sSMCC)、及びポリ(エチレングリコール)-マレイミド、例えばモノメトキシポリ(エチレングリコール)-マレイミド(mPEG-MAL)、NHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド(PEG-MAL)、スクシンイミジル6-ヒドラジノニコチネートアセトンヒドラゾン (SANH) 又はスクシンイミジル 4-ホルミルベンゾエート (SFB) を含む架橋剤を用いることができる。ある好適な実施態様では、SATAを用いて非中和抗原結合抗体を誘導体化する。当業者であれば、この抗原結合抗体及びSATAの濃度を決定することができよう。ある実施態様では、例として、しかし限定はしないが、以下のプロトコルを用いる。SATAのDMSO溶液を調製する。抗原結合抗体をPBSE緩衝液に対して透析する。この抗原結合抗体フラグメントとSATAを約1:6のモル比で配合することにより、カップリング反応を開始させる。倒置により反応物を混合し、混合しながら所望の時間、室温でインキュベートする。ヒドロキシルアミン及びEDTAをMESに加えることにより、ヒドロキシルアミンHCl 溶液を調製する。このヒドロキシルアミンHCl溶液を、SATAカップリング・ステップからの反応混合液に、適したモル比、例えば約2000:1のモル比などで加え、所望の時間、室温でアルゴン雰囲気下でインキュベートする。次に、この反応混合液をアマーシャムHi-Prep脱塩カラムをMES緩衝液に入れて用いたクロマトグラフィにより脱塩する。次に、SATAで誘導体化させた抗原結合抗体を、例えばマレイミド誘導体化抗CR1抗体などの適宜誘導体化した抗CR1抗体と一緒に用いて、本発明の二重特異的分子を作製することができる。
【0128】
別の好適な実施態様では、システイン残基を含有する非中和抗原結合抗体などの前記抗体の一つを、遊離チオールが維持されるような態様でホスト細胞に産生させる(例えば引用をもってその全文をここに援用することとするCarterの米国特許第5,648,237号を参照されたい)。好ましくは、遊離チオールを含有する抗原結合抗体がホスト細胞により分泌されるとよい。こうして、遊離チオールを含有する抗原結合抗体を回収し、適宜誘導体化された抗CR1抗体、例えばマレイミド誘導体化抗CR1抗体など、と一緒に用いて、本発明の二重特異的分子を作製することができる。
【0129】
ある実施態様では、抗CR1抗体などの前記抗体の一つを、当業で公知のいずれかの方法を用いてマレイミドで誘導体化する。当業者であれば、抗CR1抗体上の所望の数の架橋部位を達成するための抗CR1抗体及びマレイミドの濃度を決定できるであろう。ある好適な実施態様では、当該の抗体をマレイミドで以下の通りに誘導体化する:sSMCC 結合溶液の新鮮なストック溶液を、PBSE緩衝液で調製する;当該の抗体をPBSE 緩衝液で消耗的に透析する;該抗体及びsSMCCを約1:6のモル比で配合することにより、カップリング反応を開始させる;倒置により反応物を混合し、室温で60分間、混合しながらインキュベートする;そしてsSMCC-抗体を、FPLCを、つなげた二本のファルマシア社26/10 脱塩カラム(カタログ番号17-5087-01)と一緒に用いたサイズ排除クロマトグラフィにより、回収する。該カラムを、好ましくは、蒸留水で、次にPBSE緩衝液でメーカの指示に従って予め洗浄してから、反応混合液を充填するとよい。マレイミドで修飾された該抗体を、PBSE緩衝液で気孔体積で溶離させるが、15分以内に用いるべきである。次に、マレイミドで誘導体化した抗CR1抗体を、適宜、SATA誘導体化抗CR1抗体などの抗原結合抗体フラグメントと一緒に用いて、本発明の二重特異的分子を作製することができる。
【0130】
別の実施態様では、抗CR1抗体などの前記抗体の一つを、ポリ(エチレングリコール)-マレイミド、例えばNHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド(PEG-MAL)で、当業で公知のいずれかの方法を用いて誘導体化する。当業者であれば、該抗体及びPEG-MALの濃度を決定することができよう。この実施態様では、PEG成分はいずれの所望の長さであってもよい。例えば、PEG成分は、200乃至20,000ダルトンの範囲の分子量を有することができる。好ましくは、PEG成分が500乃至1000 ダルトン、又は1000 乃至8000 ダルトン、より好ましくは3250 乃至5000ダルトンの範囲、そして最も好ましくは約5000ダルトンの分子量を有するとよい。PEGで連結された二重特異的分子を作製する方法は、2002年9月16日に提出された米国仮出願60/411,731に解説されている。ある実施態様では、例として、しかし限定はしないが、以下のプロトコルを用いる。NHS-PEG-MALのMES溶液を調製する。このNHS-PEG-MAL 溶液を、7G9などの抗CR1抗体に、約6:1(PEG:抗体)のモル比で加える。倒置により反応物を混合し、室温で適した時間、混合しながらインキュベートする。次に、この反応混合液を、アマーシャムHi-Prep脱塩カラムをMES緩衝液に入れて用いたクロマトグラフィにより、脱塩する。その後、このPEG-マレイミド誘導体化抗CR1抗体を、例えばSATA誘導体化抗CR1抗体などの抗原結合抗体フラグメントと適宜、一緒に用いて、本発明の二重特異的分子を作製することができる。
【0131】
別の実施態様では、抗CR1抗体などの前記抗体の一つを、例えばN スクシンイミジルS アセチルチオアセテート (SATA)、N スクシンイミジル 3 (2 ピリジルジチオ)プロピオネート (SPDP)で誘導体化するなど、チオール化する。こうして、このチオール化した抗CR1抗体を、SATA誘導体化抗CR1抗体などの抗原結合抗体フラグメントと一緒に適宜、用いることで、本発明の二重特異的分子を作製することができる。
【0132】
次に、例えば抗体−マレイミド、抗体−PEG−マレイミド、又は抗体−SHなどの誘導体化した抗体と、Ab-SHとも呼ばれる遊離チオールを含有する非中和抗原結合抗体とを、 誘導体化−抗体:非中和抗体の所望のモル比で配合する。当業者であれば、所望の数の非中和抗原結合抗体、対、各抗CR1抗体を達成するための、誘導体化抗CR1抗体及び非中和抗体のモル比を決定することができよう。ある好適な実施態様では、マレイミド-抗体及びAb-SH を、約2:1(誘導体化-抗体:Ab-SH)のモル比で配合する。別の好適な実施態様では、誘導体化-抗体及び抗体-SHを、約1:1(誘導体化-抗体:Ab-SH)のモル比で配合する。好適な実施態様では、1、2、3、4、5 又は6 個の抗原結合抗体フラグメントを各抗CR1抗体に結合させる。
【0133】
加えて、抗原結合抗体が sSMCC 又はNHS-PEG-MALなどのマレイミドで誘導体化され、他方、抗CR1 抗体がSATA 又はSDPDなどを用いてされる実施態様も想到されている。
【0134】
ある具体的な実施態様では、本発明の方法を、C3b様受容体に結合する抗体を、バシラス-アンスラシス(炭疽菌)の防御抗原(PA)タンパク質に結合する非中和抗原結合抗体に架橋して含む二重特異的分子を作製するために用いる。非中和PA結合抗体は当業で公知の抗体(例えばLittle et al., 1991, Biochem Biophys Res Commun.180:531 7; Little et al., 1988, Infect Immun. 56:1807 13を参照されたい)か、又は、ここで解説された検定により判定される非中和性のPA結合抗体である。ある実施態様では、当該抗体はPAに結合する3F3である。ある好適な実施態様では、C3b様受容体に結合する前記抗体はマウス抗CR1 IgG 7G9である。ある好適な実施態様では、C3b様受容体に結合する前記抗体はデイミュナイズされた抗CR1 19E9である。ある好適な実施態様では、当該の二重特異的分子は、7G9などの抗CR1 mAbと、3F3などの非中和抗PA抗体とを、N-スクシンイミジル S-アセチルチオアセテート (SATA) 及びスルホスクシンイミジル 4-(N マレイミドメチル) シクロヘキサン-1-カルボキシレート (sSMCC) を架橋剤として用いて架橋することにより、作製される。別の好適な実施態様では、当該の二重特異的分子は、19E9などの抗CR1 mAbと、3F3などの抗PA抗体とをN-スクシンイミジル S-アセチルチオアセテート (SATA) 及びNHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド(PEG-MAL) を架橋剤として用いて架橋することにより、作製される。
【0135】
別の実施態様では、本発明の二重特異的分子のポリクローナル集団は、上記の抗CR1抗体と、上記の抗原結合抗体フラグメントのポリクローナル集団とを、この項で解説された方法により架橋することで、作製される。例えば PCT公報 WO 02/46208;及びPCT公報 WO 01/80883)を参照されたい。
【0136】
更に別の実施態様では、当該の二重特異的分子は、ハイブリドーマ細胞株の融合、組換え技術、適したモノクローナル抗体から得られる重鎖及び軽鎖のin vitro再構築、及びタンパク質trans-スプライシングに関係する方法を含め、しかしこれに限らず、化学的架橋以外の方法により、作製される。例えば、すべて引用をもってその全文をここに援用することとするPCT公報 WO 02/46208 及びPCT公報 WO 01/80883を参照されたい。
【0137】
4. 二重特異的分子の精製及び検査
その後、上記したものなどの方法により作製される二重特異的分子を精製することが好ましい。二重特異的分子は、当業者に公知のいずれかの方法により、分子サイズ又は特異的結合親和性又はこれらの組合せを用いて精製することができる。ある実施態様では、当該の二重特異的分子を、イオン交換クロマトグラフィにより、DEAE、ヒドロキシルアパタイト、リン酸カルシウムを含む、本発明の二重特異的分子の単離に適したカラムを用いて精製することができる (概略的には Current Protocols in Immunology, 1994, John Wiley & Sons, Inc., New York, NYを参照されたい)。
【0138】
別の実施態様では、二重特異的分子は、3段階連続アフィニティ・クロマトグラフィにより精製される(Corvalan and Smith, 1987, Cancer Immunol. Immunother., 24:127-132):一番目のカラムは固体のマトリックスに結合させたプロテインAから成り、この場合、抗体のFc部分はプロテインAに結合し、また当該抗体はカラムに結合する;続いて2番目のカラムでは、固体のマトリックスに結合させたC3b様受容体を利用して、二重特異的分子の抗CR1 mAb部分を介したC3b様受容体の結合を検定する;続いて3番目のカラムでは、二重特異的分子の抗原認識部分に結合する、目的の抗原性分子又は抗体の特異的結合を利用する。
【0139】
二重特異的分子はまた、サイズ排除HPLC及びアフィニティ・クロマトグラフィの組み合わせによっても、精製することができる。ある実施態様では、サイズ排除HPLCから溶離した適した画分を、当該の二重特異的分子の抗原認識部分に特異的な分子、例えば、当該二重特異的分子の抗原認識部分に結合可能な抗原性分子、又は、当該二重特異的分子の抗原認識部分に結合する抗体など、を含有するカラムを用いて更に精製する。
【0140】
ある二重特異的分子の活性、例えばそれがある病原体の病原性効果を阻害することができるかどうかなど、は、当業で公知の方法によって、あるいは、下記のマクロファージ生死検定によって、検査することができる。
【0141】
5. 二重特異的分子のカクテル
多様な精製済み二重特異的分子を配合して、二重特異的分子の「カクテル」にすることができる。二重特異的分子のこのようなカクテルには、それぞれが、抗CR1 mAbを、複数の所望の非中和抗原結合抗体のいずれか一つに結合させて有する二重特異的分子を含めることができる。例えば、当該の二重特異的分子カクテルが複数の異なる二重特異的分子を含み、この場合、この複数の中の各異なる二重特異的分子が、異なる病原体を標的とする異なる抗原結合抗体を含有する。このような二重特異的分子カクテルは、個々の患者のニーズに従ってテーラーメードされた個人向け医療として有用である。代替的には、二重特異的分子のカクテルには、それぞれが、CR1受容体上の異なる部位に結合する異なる抗CR1 mAbを所望の抗原結合抗体に結合させて有するような二重特異的分子を含めることができる。このような二重特異的分子カクテルは、異なるCR1結合部位を利用することにより、各赤血球に結合する病原体の数を増加させるために用いることができる。
【0142】
6. 二重特異的分子のex vivo調製
代替的な実施態様では、3F3に架橋させた7G9など、当該の二重特異的分子を、投与前に対象の造血細胞にex vivoで予め結合させる。例えば、造血細胞を、治療しようとする個体から採集し(又は、適合血液型の非自己由来ドナー由来の造血細胞を採集し)、適した用量の治療用二重特異的分子と一緒に、当該抗体が造血細胞表面上のC3b様受容体に結合するのに充分な時間、インキュベートする。次に、この造血細胞/二重特異的分子の混合物を、治療しようとする対象に、適した用量、投与する(例えばTaylor et al., 米国特許第5,487,890号を参照されたい)。造血細胞は好ましくは血球であり、最も好ましくは赤血球である。従って、ある具体的な実施態様では、本発明は、病原性抗原性分子の存在に関連する望ましくない状態を有する哺乳動物を治療する方法を提供するものであり、該方法は、造血細胞/二重特異的分子の複合体を、対象に、治療上有効量投与するステップを含み、この場合、前記複合体は、C3b様受容体を発現する造血細胞を一つ以上の二重特異的分子に結合させたものから基本的に成る。前記方法は、代替的には、病原性抗原性分子の存在に関連する望ましくない状態を有する哺乳動物を治療する方法であって、(a)二重特異的分子を、C3b様受容体を発現している造血細胞に接触させて、造血細胞/二重特異的分子の複合体を形成させるステップと、(b)該造血細胞/二重特異的分子の複合体を、前記哺乳動物に、治療上有効量、投与するステップと、を含む方法を包含する。
【0143】
更に本発明は、二重特異的分子を、C3b様受容体を発現する造血細胞に、結合を誘導して複合体が形成されるような条件下で接触させるステップであって、前記複合体が、造血細胞を一つ以上の二重特異的分子に結合させたものから基本的に成る、ステップを含む、造血細胞/二重特異的分子の複合体を作製する方法も提供する。
【0144】
Taylor ら(米国特許第5,879,679号、以降、「679号特許」)は、いくつかの場合で、血漿中の自己抗体(又は他の病原性抗原)の濃度が大変高く、そのために、二重特異的分子を最適に投入しても、自己抗体の全部が標準的条件下では造血細胞に結合できる訳ではないため、この系が飽和することを実証した。例えば、自己抗体血清の抗体価が大変高い場合、自己抗体の一部は、その高濃度のために造血細胞に結合しない。
【0145】
しかしながら、C3b様受容体上の異なる部位に結合するモノクローナル抗体を含有する二重特異的分子の組合せを用いることにより、飽和を解決することができる。例えば、モノクローナル抗体 7G9 及び1B4 は、霊長類C3b受容体上の別々の、かつ競合しない部位に結合する。従って、それぞれがC3b様受容体に対する異なるモノクローナル抗体で作製された2つの二重特異的分子の混合物を含有する「カクテル」では、二重特異的分子の赤血球への結合がより多量になるであろう。また本発明の二重特異的分子は、静脈内輸注に用いられるいくつかの流体と組み合わせて用いることもできる。
【0146】
更に別の実施態様では、二重特異的分子などの当該の二重特異的分子を、上述したようにin vitroの赤血球に、少なくとも2種の異なる二重特異的分子の混合物を用いて予め結合させる。この実施態様では、2つの異なる二重特異的分子が同じ抗原に結合するが、C3b様受容体上の別個かつ重複しない認識部位にも結合する。C3b様受容体への結合に、少なくとも2つの重複しない二重特異的分子を用いることにより、一個の赤血球に結合することのできる二重特異的分子−抗原の複合体の数が増す。このように、2個以上の二重特異的分子を一個のC3b様受容体に結合可能にすることで、抗原の除去が、特に当該抗原が大変高濃度で存在する場合に高められる(例えば「679号特許、コラム6、41乃至64行目を参照されたい)。
【0147】
III. 二重特異的分子の特徴付け
本発明の二重特異的分子は、当業で公知の多種の方法により特徴付けることができる。二重特異的分子の収量は、タンパク質濃度に基づいて特徴付けることができる。ある実施態様では、タンパク質濃度をローリー検定法を用いて判定する。好ましくは、本発明の方法により作製される二重特異的分子が、少なくとも0.100 mg/ml、より好ましくは少なくとも2.0 mg/ml、更により好ましくは少なくとも5.0 mg/ml、最も好ましくは少なくとも10.0 mg/mlのタンパク質濃度を有するとよい。別の実施態様では、当該の二重特異的分子の濃度を、UV吸光度を測定することにより、判定する。該濃度は、280nmでの吸光度として判定される。好ましくは、本発明の方法により作製される二重特異的分子が、280nmで少なくとも0.14の吸光度を有するとよい。
【0148】
本発明の二重特異的分子は、当業で公知のいずれか他の標準的方法を用いても特徴付けることができる。例えば、ある実施態様では、高速サイズ排除クロマトグラフィ(HPLC-SEC)検定法を用いて、遊離IgGタンパク質の混入含有量を判定する。好適な実施態様では、本発明の方法により作製される二重特異的分子組成物は、6.0 mg/ml未満、より好ましくは2.0 mg/ml未満、更により好ましくは0.5 mg/ml未満、最も好ましくは0.03 mg/ml未満の混入IgG濃度を有するとよい。ある実施態様では、当該の二重特異的分子をSDS-PAGE を用いて特徴付けして、当該二重特異的分子の分子量を判定することができる。
【0149】
更に当該の二重特異的分子を、当該二重特異的分子の機能上の活性に基づいて特徴付けることができ、例えば感染を防止又は治療する、及び/又は、感染及び/又は毒素への曝露に関連する症状を改善する、上での当該分子の有効性を、in vivo 又はin vitro モデルを用いて検査することができる。
【0150】
例えば、ある実施態様では、動物を微生物(例えばウィルス、細菌又は胞子)又は毒素などに曝露し、該微生物又は毒素とCR1とに対する結合特異性を持つHPで処理する。例えば生存率、症状、又は当該動物からの微生物数(又はコロニもしくは感染性粒子の計数)などの一つ以上のパラメータを評価し、HPで処理されていない動物であるコントロール動物で観察されるものと比較することができる。
【0151】
ある実施態様では、抗CR1結合活性を、(微量定量プレートなどの固相に付着させた)固定されたCR1受容体分子を用いたELISAにより判定する(引用をもってその全文をここに援用することとするPorter らの米国仮出願No. 60/380,211を参照されたい)。 この検定法はCR1/抗体検定法又はCAAとも呼ばれ、一般的には、いずれかの抗CR1抗体、又は抗CR1抗体を含有するHPもしくはAHPを測定するために用いることができる。ある好適な実施態様では、高結合平底ELISAプレート(Costar EIA/RIA ストリップ・プレート 2592)などのELISAプレートを、適量のCR1受容体の重炭酸溶液と一緒にインキュベートすることにより、ELISA/CR1 プレートを調製する。好ましくは、CR1受容体の重炭酸溶液の濃度は、5 mg/ml sCR1 受容体ストック(アヴァント・テクノロジー社)及び炭酸−重炭酸緩衝液(pH 9.6、シグマ C-3041)から調製された0.2 ug/ml であるとよい。ある好適な実施態様では、100 ul CR1-重炭酸溶液をELISAプレートの各ウェルに分注し、このプレートを、4℃で一晩、インキュベートする。その後、このプレートを、好ましくは洗浄緩衝液(PBS、0.1% Tween-20、0.05% 2-クロロアセトアミド)などを用いて洗浄するとよい。別の好適な実施態様では、この洗浄後、SuperBlock ブロッキング緩衝剤のPBS(ピアース社)溶液を該プレートに約30乃至60分間、室温で加える。次にこのプレートを乾燥し、4℃で保存することができる。抗CR1 Abs又は二重特異的分子の抗体価測定は、ヒト抗CR1 IgGなどのCR1結合タンパク質を校正物質として用いることで、行うことができる。ある好適な実施態様では、該校正物質は、300 又は600 mg/mlの濃度を有するヒト抗CR1 IgGである。ある実施態様では、本発明の二重特異的分子の精製済み組成物の抗体価測定を、PBS、0.25% BSA、0.1% Tween-20 を希釈緩衝液として、PBS、0.1% Tween-20、0.05% 2-クロロアセトアミドを洗浄緩衝液として、ELISA用TMB-液体基質システム(3,3’, 5.5’-テトラメチル-ベンジジン)及び2N H2SO4 を停止溶液として用いて行う。 好ましくは、本発明の方法により作製される二重特異的分子の組成物が、少なくとも0.10 mg/ml、より好ましくは少なくとも0.20 mg/ml、更により好ましくは少なくとも0.30 mg/ml、そして最も好ましくは少なくとも0.50 mg/mlのCAA抗体価を有するとよい。いくつかの実施態様では、特異的抗CR1活性を判定する。この特異的抗CR1活性は、ローリー又はいずれか他のタンパク質検定法で判定したときのCAA抗体価及びタンパク質濃度の比である。
【0152】
抗原結合活性は、固定した抗原分子を用いたELISAを用いて判定することができる。
【0153】
別の実施態様では、C3b様受容体に結合する抗体を、炭疽菌の防御抗原(PA)タンパク質に結合する非中和抗原結合抗体に架橋させて含む二重特異的分子の二重特異性、即ち、CR1及びPAに対する特異性、を、ELISA検定法を用いて判定する。該検定法はHPCA検定法とも呼ばれる。ある好適な実施態様では、ELISA/CR1 プレートをCAA検定法の場合と同様に調製する。校正物質は、二重特異的分子3F3 x 7G9(HC=1.0μg/ml、MC=0.5μg/ml、LC=0.25μg/ml)である。HPCA検定は、以下のプロトコルにより行うことができる。
【0154】
A. CR1プレートに二重特異的分子を結合させる:
1. 試料二重特異的分子をELISA 希釈液(1×PBS 緩衝液、0.25% BSA、0.1% Tween 20、0.05% 2-クロロアセトアミド)に 5μg/mlに希釈する。
2. 希釈プレートで、試料5μg/ml を列A乃至Hに充填し、1:3に連続希釈する(最高4種類の試料を一つのプレートで泳動させることができる)。校正物質を含む全ての試料を複式にして泳動させる。
3. 100μlの希釈試料を希釈プレートから、CR1で被覆されたプレート上の対応するウェルに移す。100μlの HC、MC、及びLC を複式にして、それぞれ列 A11 及びA12、B11 及びB12、C11 及びC12に加える。 盲検として100μlの希釈液を5つのウェル複式にして加える。
4. 接着性プレート・シーラでプレートを密封し、37℃で1時間、インキュベートする。
5. 溶液を廃棄し、プレートをELISA洗浄緩衝液(1X PBS、0.1% Tween-20、0.05% 2-クロロアセトアミド)で自動プレート洗浄機で5サイクルのプログラムで洗浄する。
B. ビオチン結合PA(b-PA)を二重特異的分子に結合させる
1. b-PA を5.0 ng/ml にELISA 希釈液で希釈する。
2. 100μlの希釈されたb-PAを全てのウェル(盲検のウェルを含む)に移す。
3. プレートを接着性プレート・シーラで密封し、37℃で1時間、インキュベートする。
4. 溶液を廃棄し、プレートを自動プレート洗浄機で5サイクル・プログラムで洗浄する。
C. 西洋わさびペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン(SA-HRP、0.5mg/ml) をb-PAに結合させる
1. SA-HRPをELISA希釈液に1:10,000に希釈する。
2. 100μlの希釈済みSA-HRPを(盲検ウェルを含む)全てのウェルに移す。
3. プレートを接着性プレート・シーラで密封し、37℃で30分間、インキュベートする。
4. 溶液を廃棄し、プレートを自動プレート洗浄機で5サイクル・プログラム、洗浄する。
D. シグナルの顕色
1. 100μlの予め温めておいたTMB(シグマ社、カタログ番号T-0440)をすべてのウェルに加える。
2. 室温で15分間、インキュベートする(光から保護)。
3. 100μlの停止溶液(2N H2SO4)を加え、室温で10分間、インキュベートする。
4. プレートを450nmでプレート・リーダを用いて読む。
【0155】
得られた最大吸光度値は、Max ODと言及され、当該の二重特異的分子の総活性の尺度として用いることができる。ある好適な実施態様では、Max ODを、光学密度データの4-パラメータのシグモイド・フィットから得る。別の実施態様では、C50 レベルも判定される。このC50 とは、max ODの50%を生ずる試料の濃度である。
【0156】
A.マクロファージ生死検定
本発明はマクロファージ生死検定系を提供するものであるが、この場合、マクロファージの生存率を、一つ以上の分子とのインキュベート後に測定する。いくつかの実施態様では、他の種類の細胞、例えば赤血球など、も、マクロファージに加えて検定系に加えることができる。当該の分子は、限定はしないが、病原性作用因子(限定はしないが病原性抗原又は毒素を含む)、抗原結合抗体、抗原に結合した抗体、二重特異的分子、可溶性CR1、又はこれらの組合せであってよい。ある実施態様では、マクロファージを病原性作用因子と一緒にインキュベートする。別の実施態様では、マクロファージを、病原性作用因子及び抗体の両方と一緒にインキュベートする。別の実施態様では、マクロファージを二重特異的分子及び病原性作用因子と一緒にインキュベートする。更に別の実施態様では、マクロファージを二重特異的分子、病原性作用因子、及び赤血球と一緒にインキュベートする。他にも多くの組合せが本発明により包含される。具体的な実施態様では、病原性作用因子は、B.アンスラシスの毒素である(例えば致死因子(LF)と組み合わされた、又は、浮腫因子(EF)と組み合わされた防御抗原など)。具体的な実施態様では、病原性作用因子はデング熱ウィルスである。具体的な実施態様では、当該の病原性抗原はB.アンスラシスの防御抗原(PA)である。具体的な実施態様では、当該の病原性作用因子はデング熱ウィルスの抗原性ペプチド(例えばエンベロープ・タンパク質)である。具体的な実施態様では、当該の抗体は抗PA抗体である。具体的な実施態様では、当該の抗体は抗デング熱ウィルス抗体である。より具体的には、当該の抗体は非中和抗原結合抗体である。より具体的には、当該の抗体は促進抗体である。具体的な実施態様では、当該の二重特異的分子は、抗CR1抗体を抗PA抗体に連結して含む。具体的な実施態様では、当該の二重特異的分子は、抗CR1抗体を抗デング熱ウィルス抗体に連結して含む。
【0157】
マクロファージ生死検定は多種の目的のために用いることができ、例えばそれを用いて、病原性作用因子や、又は、病原性作用因子に結合する抗体がマクロファージに及ぼす効果を判定したり、非中和抗原結合抗体をスクリーニングしたり、あるいは、当該の二重特異的分子(即ちHP)系を用いた非中和抗体の活性の転換を立証することができる。
【0158】
具体的な実施態様では、本発明は、ある抗体が、病原性作用因子の毒性効果を中和するか、又は促進するかを判定する方法を提供する。該方法は、(1)当該の抗体を病原性作用因子と一緒に選択された濃度でインキュベートするステップと、(2)既知の数のマクロファージを前記インキュベート混合液に加えて、ある時間、インキュベートするステップと、(3)死亡したマクロファージの数を計数し、促進のパーセンテージを計算するステップ(%促進= 100×[(%病原性作用因子+Abで死亡した細胞)−(%病原性作用因子のみで死亡した細胞)](%病原性作用因子のみで死亡した細胞))とを含む。ある好適な実施態様では、病原性作用因子の濃度を、当該の抗体の非存在下におけるマクロファージの生存率が少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%であるように選択する。促進抗体は、何らかの抗体濃度及び/又は病原性作用因子濃度のときに20%、50%、80%、100% を越える、促進率を生じることができる。ある具体的な実施態様では、当該の病原性作用因子は、B.アンスラシスの致死毒素(防御抗原(PA)及び致死因子 (LF)を含む)であり、そして当該の抗体は抗PA抗体である。
【0159】
具体的な実施態様では、本発明は、ある抗体が病原性作用因子の毒性効果を阻害するかどうかを判定する方法を提供する。該方法は、(1)当該の抗体を病原性作用因子と一緒に選択された濃度でインキュベートするステップと、(2)既知の数のマクロファージを該インキュベート混合液に加え、適した時間、インキュベートするステップと、(3)死亡したマクロファージの数を計数し、保護率を計算する(%保護=100×[(%病原性作用因子のみで死亡した細胞)−(%病原性作用因子+Abで死亡した細胞)](%病原性作用因子のみで死亡した細胞))ステップとを含む。ある好適な実施態様では、病原性作用因子の濃度を、当該の抗体の非存在下におけるマクロファージの生存率が10%、20%、30%、40%、50%、60%、又は70%を越えないように選択する。非中和抗体は、何らかの抗体及び/又は病原性作用因子濃度のときに、5%、10%、又は20%を越える保護を提供しない。抗体は、何らかの抗体及び/又は病原性作用因子の濃度のとき、防御率が0%、5%、10%、20%、50%、又は80% を越えるときに、病原体の毒性効果を阻害すると言える。ある具体的な実施態様では、当該の病原体は(B.アンスラシスの防御抗原(PA)及び致死因子(LF)を含有する致死毒素であり、そして当該の抗体は抗PA抗体である。
【0160】
具体的な実施態様では、本発明は、ある二重特異的分子が病原体の毒性効果を阻害するかどうかを判定する方法を提供するものである。該方法は、(1)当該の二重特異的分子を病原性作用因子と一緒にインキュベートするステップと、(2)赤血球又は可溶性CR1を該インキュベート混合液に加え、適した時間、インキュベートするステップと、(3)既知の数のマクロファージを、該赤血球を含む該インキュベート混合液に加え、適した時間、インキュベートするステップと、(4)死亡したマクロファージを計数し、保護率を計算する(%保護=100×[(%病原性作用因子のみで死亡した細胞)−(%病原性作用因子+二重特異的分子で死亡した細胞)](%病原性作用因子のみで死亡した細胞))ステップとを含む。二重特異的分子は、何らかの抗体及び/又は病原体濃度のとき、保護率が0%、5%、10%、又は20%を越えるときに病原体の毒性効果を阻害すると言える。ある具体的な実施態様では、当該の病原体は、B.アンスラシスの(防御抗原(PA)及び致死因子(LF)を含有する)致死毒素であり、そして二重特異的分子は、抗CR1抗体を抗PA抗体に連結して含む。抗PA抗体は、促進抗体などの非中和抗体であってよい。
【0161】
例として、しかし限定はしないが、マクロファージ生死検定の手法は以下の通りである:
1. 致死毒素(38.5-150 ng/ml)をMAb 又はHPに多様なHP 又はMAb 対PA のモル比(比は2倍乃至0.125 倍の間のMAb 又はHP 対PA)で加える。各試料について二重反復試験を行った。
2. 一組の試料に、2×108個の霊長類赤血球を加え、他方の組には培地のみを加える。
3. 37℃で1時間、インキュベートした後、4×105個のJ774A.1 細胞を上記の反応混合液に加える;
4. 細胞を反応混合液と一緒に4時間、37℃でインキュベートした後、試験管を一回、
0.5% BSA 及び0.1% アジ化ナトリウムを含有するPBSで洗浄する;
5. 細胞を抗CD45 FITC 及びヨウ化プロピジウム(PI)のカクテルで染色する。室温で20分間、インキュベートした後、余分な染料を洗い落とす;
6. 赤血球をBD溶解溶液を用いて溶解させ、細胞を2回、洗浄する。次に細胞をフローサイトメトリを用いて、BD FACS Caliburを用いて分析する;及び
7. CD45陽性集団はゲートが開いており、死亡細胞集団は、PI染色に関して陽性のものである。
死亡細胞率を各試験管で判定し、促進又は保護を以下の通りに計算する:
%促進=100×[(%LeTX+MAbで死亡した細胞)−(%LeTXのみで死亡した細胞)]/(%LeTXのみで死亡した細胞);又は
%保護=100×[(%LeTXのみで死亡した細胞)−(%LeTX+MAbで死亡した細胞)]/(%LeTXのみで死亡した細胞)。
%促進=−(%保護)。
【0162】
IV. 二重特異的分子の使用
本発明の二重特異的分子は、病原性抗原性分子の存在に関連する疾患又は異常または他の望ましくない状態を治療又は防止する上で有用である。
【0163】
本発明の二重特異的分子を、治療又は予防目的で投与するのに好適な対象は、限定はしないが、ヒト以外の動物(例えばウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット等)を含む哺乳動物であり、そしてある好適な実施態様では、ヒト、又は、ヒト以外の霊長類である。固定組織貪食細胞により除去される循環病原性抗原性分子には、対象にとって有害なあらゆる抗原性成分が含まれる。有害な病原性抗原性分子の例には、寄生生物、真菌、原虫、細菌、又はウィルスに関連するあらゆる病原性抗原性分子がある。更に、循環病原性抗原性分子には、循環中に存在すると共に、ホスト哺乳動物の健康にとって望ましくない又は有害な毒素、免疫複合体、又はいずれかのものも含まれよう。哺乳動物の循環から病原性抗原性分子を効果的に除去することに免疫系が失敗すると、外傷性及び血液量減少性ショックにつながることがある (Altura and Hershey, 1968, Am. J. Physiol. 215:1414-9)。
【0164】
具体的な実施態様では、微生物感染に関連する感染性疾患及び/又は症状を、感染性疾患作用因子の抗原とC3b様受容体の両方に結合する二重特異的分子の投与により、治療又は防止する。このように、このような実施態様では、当該の病原性抗原性分子は、感染性疾患作用因子の抗原である。
【0165】
このような抗原は、限定はしないが:インフルエンザ・ウィルス・ヘマグルチニン(Genbank 受託番号 JO2132; Air, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:7639-7643; Newton et al., 1983, Virology 128:495-501)、ヒト呼吸系発疹ウィルスG糖たんぱく(Genbank 受託番号 Z33429; Garcia et al., 1994, J. Virol.; Collins et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:7683)、はしかウィルス・ヘマグルチニン(Genbank 受託番号M81899; Rota et al., 1992, Virology 188:135-142)、単純疱疹ウィルス2型糖たんぱく gB (Genbank 受託番号M14923; Bzik et al., 1986, Virology 155:322-333)、ポリオウィルス I VP1 (Emini et al., 1983, Nature 304:699)、HIV Iのエンベロープ糖たんぱく(Putney et al., 1986, Science 234:1392-1395)、B型肝炎表面抗原(Itoh et al., 1986, Nature 308:19; Neurath et al., 1986, Vaccine 4:34)、ジフテリア毒素(Audibert et al., 1981, Nature 289:543)、ストレプトコッカス24M エピトープ(Beachey, 1985, Adv. Exp. Med. Biol. 185:193)、淋菌ピリン(Rothbard and Schoolnik, 1985, Adv. Exp. Med. Biol. 185:247)、偽狂犬病ウィルス g50 (gpD)、偽狂犬病ウィルス II (gpB)、偽狂犬病ウィルス gIII (gpC)、偽狂犬病ウィルス糖たんぱくH、偽狂犬病ウィルス糖たんぱく E、伝染性胃腸炎糖たんぱく195、伝染性胃腸炎マトリックスタンパク質、ブタ・ロタウィルス糖たんぱく 38、ブタ・パルボウィルス・カプシドタンパク質、セルプリナ-ヒドディセンタリエ(原語:Serpulina hydodysenteriae)防御抗原、ウシウィルス性下痢糖たんぱく 55、ニューカッスル病ウィルス・ヘマグルチニン・ノイラミニダーゼ、ブタ・インフルエンザ・ヘマグルチニン、ブタ・インフルエンザ・ノイラミニダーゼ、口蹄病ウィルス、ブタ・コレラ・ウィルス、ブタ・インフルエンザ・ウィルス、アフリカ・ブタ・コレラ・ウィルス、マイコプラズマ-ヒオニューモニエ、 感染性ウシ鼻気管炎ウィルス(例えば感染性ウシ鼻気管炎ウィルス糖たんぱくE 又は糖たんぱくG)、又は感染性喉頭気管炎ウィルス(例えば感染性喉頭気管炎ウィルス糖たんぱくG 又は糖たんぱく I)、ラクロス・ウィルスの糖たんぱく(Gonzales Scarano et al., 1982, Virology 120 :42)、新生仔ウシ下痢ウィルス(Matsuno and Inouye, 1983, Infection and Immunity 39:155)、ベネズエラウマ脳脊髄炎ウィルス (Mathews and Roehrig, 1982, J. Immunol. 129:2763)、プンタ・トロ(原語:punta toro)ウィルス(Dalrymple et al., 1981, Replication of Negative Strand Viruses, Bishop and Compans (eds.), Elsevier, NY, p. 167))、マウス白血病ウィルス (Steeves et al., 1974, J. Virol. 14:187)、マウス乳腺腫瘍ウィルス (Massey and Schochetman, 1981, Virology 115:20)、B型肝炎コアタンパク質及び/又はB型肝炎ウィルス表面抗原又はそのフラグメントもしくは誘導体(例えば1980年6月4日に公開された英国特許公報No. GB 2034323A ;Ganem and Varmus, 1987, Ann. Rev. Biochem. 56:651 693; Tiollais et al., 1985, Nature 317:489 495を参照されたい)、ウマインフルエンザウィルス又はウマ疱疹ウィルスのもの(例えばA型ウマインフルエンザウィルス/アラスカ91ノイラミニダーゼ、A型ウマインフルエンザウィルス/マイアミ63ノイラミニダーゼ、ウA型ウマインフルエンザウィルス/ケンタッキー81ノイラミニダーゼ1型ウマ疱疹ウィルス糖たんぱくB、及び1型ウマ疱疹ウィルス糖たんぱくD、ウシ呼吸系発疹ウィルス又はウシパラインフルエンザウィルスの抗原(例えばウシ呼吸系発疹ウィルス付着たんぱく (BRSV G)、ウシ呼吸系発疹ウィルス融合タンパク質 (BRSV F)、ウシ呼吸系発疹ウィルス核カプシドたんぱく (BRSV N)、3型ウシパラインフルエンザウィルス融合タンパク質、及び3型ウシパラインフルエンザウィルスヘマグルチニン・ノイラミニダーゼ)、ウシウィルス性下痢ウィルス糖たんぱく 48 又は糖たんぱく 53であってよい。ある好適な実施態様では、当該の抗原は、B.アンスラシスの防御抗原(PA)である。
【0166】
本発明の二重特異的分子の使用により治療又は防止することのできる更なる疾患又は異常には、限定はしないが、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、水痘、アデノウィルス、I型単純疱疹 (HSV I)、II型単純疱疹 (HSV II)、牛疫、ライノウィルス、エコーウィルス、ロタウィルス、呼吸系発疹ウィルス、パピローマウィルス、パポバウィルス、サイトメガロウィルス、エキノウィルス、アルボウィルス、ハンタウィルス、コクサッキーウィルス、流行性耳下腺炎ウィルス、麻疹ウィルス、風疹ウィルス、ポリオウィルス、I型ヒト免疫不全ウィルス (HIV I)、及びII型ヒト免疫不全ウィルス (HIV II)、いずれかのピコルナウィルス、エンテロウィルス、カリチウィルス、ノーウォーク群のウィルスのいずれか、トガウィルス、例えばアルファウィルス、フラビウィルス、コロナウィルス、狂犬病ウィルス、マーブルグウィルス、エボラウィルス、パラインフルエンザウィルス、オルトミキソウィルス、ブンヤウィルス、アレナウィルス、レオウィルス、ロタウィルス、オルビウィルス、I型ヒトT細胞白血病ウィルス、II型ヒトT細胞白血病ウィルス、シミアン免疫不全ウィルス、レンチウィルス、ポリオーマウィルス、パルボウィルス、エプスタイン-バーウィルス、ヒト疱疹ウィルス6、オナガザル疱疹ウィルス1 (B ウィルス)、及びポックスウィルス、がある。いくつかの実施態様では、当該のウィルスはデング熱ウィルスではない。
【0167】
本発明の二重特異的分子の使用により治療又は防止することのできる細菌性疾患又は異常には、限定はしないが、マイコバクテリア、リケッチア、マイコプラズマ、ネイセリア種(例えばネイセリア-メニンギティデス(原語:Neisseria meningitides)及びネイセリア-ゴノローエ(原語:Neisseria gonorrhoeae)、レジオネラ、ビブリオ-コレラ、連鎖球菌、例えば肺炎連鎖球菌、スタフィロコッカス-アウレウス(原語:Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス-エピデルミディス(原語:Staphylococcus epidermidis)、シュードモナス-アエルギノーサ(原語:Pseudomonas aeruginosa)、コリノバクテリア-ジフテリア(原語:Corynobacteria diptheriae)、クロストリジウム種、毒素原性大腸菌、及びバシラス-アンスラシス(炭疽菌)、等、がある。本発明の二重特異的分子の使用により治療又は防止することのできる原虫性疾患又は異常には、限定はしないが、プラスモディウム、エイメリア、リーシュマニア、及びトリパノゾーマ、がある。
【0168】
別の実施態様では、本発明の二重特異的分子は、微生物が産生する毒素を認識することができる。毒素の例には、例えば、バシラス-アンスラシス、バシラス-セレウス(原語:Bacillus cereus)、百日咳菌、クロストリジウム-ボツリヌム(原語:Clostridium botulinum)、クロストリジウム-ペルフリンゲンス(原語:Clostridium perfringens)、破傷風菌、ジフテリア菌、サルモネラ種、シゲラ種、スタフィロコッカス種、及びビブリオ-コレラが産生する毒素などがある。
【0169】
ある具体的な実施態様では、本発明は、炭疽菌感染を治療するための方法及び組成物を提供する。本方法は、C3b様受容体に結合する抗体を、炭疽菌の致死毒素及び浮腫毒素の共通成分であるバシラス-アンスラシス(炭疽菌)の防御抗原(PA)に結合する非中和抗原結合抗体に架橋させて含む二重特異的分子を、治療上充分な量、患者に投与するステップを含む(例えば Little et al., 1991, Biochem Biophys Res Commun.180:531 7; Little et al., 1988, Infect Immun. 56:1807 13を参照されたい)。炭疽菌の防御抗原タンパク質は、毒性に必要なことが示されている(Little et al., 1988, Infect Immun. 56:1807 13)。当該の二重特異的分子を用いて、PAを循環から除去し、ひいては炭疽菌の毒性効果を改善することができる。ある実施態様では、該非中和抗体は、PAに結合する3F3である(例えば Little et al., 1991, Biochem Biophys Res Commun.180:531 7; Little et al., 1988, Infect Immun. 56:1807 13を参照されたい)。ある好適な実施態様では、C3b様受容体に結合する抗体は、マウス抗CR1 IgG 7G9である。ある好適な実施態様では、C3b様受容体に結合する抗体は、デイミュナイズ(原語:deimmunize)された抗CR1抗体19E9である。ある好適な実施態様では、当該の二重特異的分子は、7G9などの抗CR1 mAb及び3F3などの抗PA Fab フラグメントを、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート (SATA) 及びスルホスクシンイミジル-4-(N マレイミドメチル) シクロヘキサン-1-カルボキシレート (sSMCC) を架橋剤として用いて架橋することにより、作製される。別の好適な実施態様では、当該の二重特異的分子は、7G9などの抗CR1 mAb及び3F3などの非中和抗PA抗体を、N-スクシンイミジルS-アセチルチオアセテート (SATA) 及びNHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド(PEG-MAL) を架橋剤として用いて架橋することにより、作製される。更に別の好適な実施態様では、当該の二重特異的分子は、19E9などの抗CR1 mAb及び3F3などの非中和抗PA抗体を、N-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート(SATA) 及びNHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド (PEG-MAL) を架橋剤として用いて架橋することにより、作製される。
【0170】
具体的な実施態様では、本発明は、ここで解説した通りのマクロファージ生死検定法を用いて、非中和抗体をスクリーニングする方法を提供する。具体的な実施態様では、本発明は、ここで解説した通りのマクロファージ生死検定法を用いて、促進抗体をスクリーニングする方法を提供する。このようなスクリーニングは、抗体を含有するワクチン又は他の治療的作用薬の調製において特に有用である、この場合、非中和抗体、特に促進抗体は、このようなワクチン又は治療的作用薬の治療効果又は予防効果を減じるか、又は妨げるであろう。
【0171】
具体的な実施態様では、本発明は、対象の循環から非中和抗体を除去する方法を提供し、該方法は、(1)マクロファージ生死検定法により非中和抗体を同定するステップと、(2)該非中和抗体に結合する第二抗体を生じさせるステップと、(3)前記第二抗体を抗CR1抗体に連結して、二重特異的分子を構築するステップと、(4)前記二重特異的分子を対象に投与するステップとを含む。好適な実施態様では、該非中和抗体は促進抗体である。具体的な実施態様では、該非中和抗体は、促進抗PA抗体又は促進抗デング熱ウィルス抗体である。
【0172】
V. 二重特異的分子の用量
ある実施態様では、本発明は、ある抗体の有益もしくは治療的活性を、該抗体をHPに導入することにより促進することを提案する。ある実施態様では、該HPの抗病原性作用因子抗体成分は、単独では何ら中和活性を有さない非中和抗体である。別の実施態様では、該HPの抗病原性作用因子抗体成分は、単独では、低い又は最低の中和活性を有する非中和抗体である。このような抗体のHPへの導入により、当該の抗体の有益又は治療的な効果を促進することができる。従って、ある実施態様では、投与される二重特異的分子の用量を、有益又は治療的利益を得るために必要な抗体単独の用量よりも遙かに低くともよい。
【0173】
用量は、慣例的な検査を行うことにより、医師が決定することができる。ヒトへの投与前に、効験を動物モデルで示すことが好ましい。当業で公知の血液由来疾患のいずれの動物モデルも用いることができる。
【0174】
より具体的には、二重特異的分子の用量は、造血細胞濃度と、造血細胞一個当たり抗C3b様受容体モノクローナル抗体が結合するC3b様受容体エピトープ部位数とに基づいて、決定することができる。当該の二重特異的分子を過剰に加えると、この二重特異的分子の一部は造血細胞に結合せずに、病原性抗原の造血細胞への結合を阻害することになるであろう。その理由は、遊離二重特異的分子が溶液中にあるとき、それは入手可能な病原性抗原をめぐって、造血細胞に結合した二重特異的分子と競合するからである。このように、二重特異的分子により媒介される、病原性抗原の造血細胞への結合は、結合を、投入された二重特異的分子の濃度の関数として調べたときに、ベル型の曲線を描く。
【0175】
ウィルス血症の結果、1mlの血液当たり最高で108乃至109のウィルス粒子となる場合がある(HIV は106/mlである;(Ho, 1997, J. Clin. Invest. 99:2565-2567));治療的二重特異的分子の用量は、好ましくは、最大で血中の抗原数のほぼ10倍であるべきである。
【0176】
概して、抗体の場合、好適な投薬量は0.01 mg/kg 乃至10 mg/体重1kg(一般的には0.1 mg/kg 乃至5 mg/kg)である。一般的には、部分的ヒト抗体及び完全ヒト抗体は、ヒト体内で他の抗体よりも長い半減期を有する。従って、投薬量を少なくし、投与回数を少なくすることがしばしば可能である。脂質化などの修飾を用いても抗体を安定化させ、(脳内などへの)取り込み及び組織透過を高めることができる。抗体を脂質化する方法はCruikshank et al., 1997, J. Acquired Immune Deficiency Syndromes and Human Retrovirology 14:193に解説されている。
【0177】
ここで定義する場合、二重特異的分子の治療上有効量(即ち、有効な投薬量)は、約0.001 乃至10 mg/体重1kgの範囲であり、好ましくは約0.01 乃至5 mg/体重1kg、より好ましくは約0.1 乃至2 mg/体重1kg、そして更により好ましくは約0.1 乃至1 mg/kg、0.2 乃至1 mg/kg、0.3 乃至1 mg/kg、0.4 乃至1 mg/kg、又は0.5 乃至1 mg/体重1kgの範囲であるとよい。
【0178】
当業者であれば、限定はしないが、疾患又は異常の重篤度、以前の治療暦、対象の全身の健康及び/又は年齢、並びに他の既往症を含む、いくつかの因子が、対象を効果的に治療するために必要な投薬量を左右する場合があることを理解されよう。更に、治療上有効量の二重特異的抗体による対象の治療には一回の治療を含めることができるが、あるいは好ましくは一連の治療を含めることができるとよい。ある好適な例では、対象を0.1 乃至5 mg/体重1kgの範囲の二重特異的抗体で、1週間当たり1回、約1週間乃至10週間の間、好ましくは2週間乃至8週間の間、より好ましくは約3週間乃至7週間の間、そして更により好ましくは約4、5、又は6週間、治療するとよい。 治療に用いられる、二重特異的抗体の有効な投薬量を、ある特定の治療の経過にわたって増減させてもよいことも理解されよう。投薬量の変更は、ここで解説する通りの診断検定の結果から行われ、またこのような結果から明白であろう。
【0179】
二重特異的分子薬剤の適した用量は、通常の技術のある医師、獣医、又は研究者の知見の範囲内にある数多くの因子に依存すると理解されている。二重特異的分子の用量は、例えば、処理しようとする対象又は試料の種類、大きさ、及び状態に応じて、更に、当該組成物を投与する経路、そして該当する場合には、病原性抗原性分子又は自己抗体に対して医師が当該の二重特異的分子に望む効果に応じて、様々であろう。
【0180】
二重特異的分子の適した用量は、除去しようとする抗原に対する当該の二重特異的分子の効力に左右されるとも、理解されている。このような適した用量を、ここで解説された検定法を用いて判定してもよい。一つ以上のこれらの二重特異的分子を動物(例えばヒト)に、抗原を除去するために投与する場合、医師、獣医、又は研究者は、例えば、まず比較的に低用量を処方し、その後この用量を、適した応答が得られるまで増加させていってもよい。加えて、いずれか特定の動物の対象にとっての具体的な用量レベルは、用いる二重特異的分子の活性、対象の年齢、体重、全身の健康、性別、及び食事や、投与の時間、投与経路、排出速度、いずれかの薬物の組合せ、及び除去しようとする抗原濃度を含む多種の因子に依存するであろうと理解されている。
【0181】
VI. 医薬の調合及び投与
本発明の二重特異的分子を、投与に適した医薬組成物中に取り入れることができる。このような組成物は、典型的には、二重特異的分子と、薬学的に許容可能な担体とを含む。ここで用いられる場合の言語「薬学的に許容可能な担体」には、薬学的投与に適した、例えば溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれる。薬学的に活性な物質のためのこのような媒質及び薬剤の使用は当業で公知である。従来の媒質及び薬剤が、当該の二重特異的分子にとって不適合である場合を除き、当該組成物中へのその使用は考察されたところである。補助的な二重特異的分子も組成物中に取り入れることができる。
【0182】
本発明の医薬組成物は、それに意図された投与経路に適合性があるように調合される。好適な投与経路は静脈内である。投与経路の他の例には、非経口、皮内、皮下、経皮(局所)、及び経粘膜がある。非経口、皮内、又は皮下適用に用いられる溶液又は分散液には、以下の成分を含めることができる:注射用の水、生理食塩水、非揮発性の油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒などの無菌の希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などの緩衝剤や、塩化ナトリウム又はデキストロースなど、張性の調節のための作用薬。pHは、例えば塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調節することができる。非経口用の製剤は、ガラス製もしくはプラスチック製のアンプル、使い捨て用シリンジ又は多人数用バイアル内に封入することができる。
【0183】
注射用に適した医薬組成物には、無菌の水溶液(水溶性の場合)又は分散液や、無菌の注射用溶液又は分散液の即時調製用の無菌粉末がある。静脈内投与の場合、適した担体には生理食塩水、静菌水、Cremophor EL TM(BASF社;ニュージャージー州パーシパニー)、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)がある。いずれの場合も、本組成物は無菌でなければならず、また粘性が低く、当該の二重特異的分子が注入可能である程度に流動性でなくてはならない。それは製造及び保管条件下で安定でなくてはならず、また細菌及びカビなどの微生物の汚染作用から保護されていなくてはならない。
【0184】
担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)及びこれらの適した混合物などを含有する溶媒又は分散媒であってよい。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングを用いたり、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持したり、そして界面活性剤を用いるなどにより、維持することができる。微生物の作用を防ぐには、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等の多種の抗菌剤及び抗カビ剤により、達成が可能である。多くの場合、例えば糖類、マンニトールなどの多価アルコール、ソルビトール、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含めることが好ましいであろう。注射用組成物の吸収を長引かせるには、本組成物中に、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる作用薬を含めることにより、可能である。
【0185】
無菌の注射用溶液は、必要量の当該の二重特異的分子(例えば一種以上の二重特異的分子)を、適した溶媒に、必要に応じて上に列挙した成分の1つ又は組合せと一緒に取り入れた後、濾過滅菌することにより、調製することができる。一般的には、分散液は、当該の二重特異的分子を、塩基性の分散媒と、上に列挙したものの中の必要な他の成分とを含有する無菌の賦形剤に取り入れることにより、調製される。無菌の注射用溶液の調製用の無菌粉末の場合、好適な調製法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、その結果、活性成分と、予め無菌濾過されたその溶液から出る付加的な所望の成分との粉末が生ずる。
【0186】
ある実施態様では、当該の二重特異的分子は、インプラント及びマイクロ封入送達系を含め、制御放出調合物など、身体から当該化合物が急速に消失しないように保護するであろう担体と一緒に調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性で生体適合性あるポリマを用いることができる。このような調合物の調製法は当業者に明白であろう。材料はまた、アルザ・コーポレーション及びノヴァ・ファーマシューティカルズ社から市販のものを得ることもできる。(ウィルス抗原に対するモノクローナル抗体で、感染細胞に標的決定されたリポソームを含む)リポソーム懸濁液も、薬学的に許容可能な担体として用いることができる。これらは、例えば引用をもってその全文をここに援用することとする米国特許第4,522,811号に解説されたように、 当業で公知の方法に従って調製することができる。
【0187】
投与を簡便にし、また投薬量を均一にするために、非経口用組成物を単位剤形で調合すると有利である。ここで用いる単位剤形とは、治療しようとする対象にとって単位型の投薬量として調整された物理的に別個の単位を言う。各単位は、必要な薬品用担体との関連から所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の二重特異的分子を含有する。本発明の単位剤形の詳細は、二重特異的分子の固有の特徴、及び、達成しようとする特定の治療効果、並びにこのような二重特異的分子を、個体の治療に向けて配合する技術に内在する限界、によって決定され、またこれらに直接依存する。
【0188】
当該の医薬組成物は、キット、容器、パック、又はディスペンサ内に、投与に関する指示と一緒に含めることができる。
【0189】
VII. キット
本発明は、本発明の二重特異的分子を含有する、又は該二重特異的分子を作製するために必要な成分を含有する、キットを提供するものである。また本発明は、マクロファージ生死検定法を行うための材料を含有するキットも提供する。更に本発明は、(促進を含む)非中和抗体をスクリーニングするために使用することのできる、このような抗体に対する抗体を含有するキットも提供する。本発明の医薬組成物を含有するキットも提供される。
【0190】
実施例
以下の実施例では、当該の二重特異的分子系(即ち、ヘテロ重合体系(HP))を用いると、それ自体では結合した先の物質の活性を中和しないMAbを、MAbが結合した先の物質の破壊を引き起こす試薬に転化させることができることを実証する。MAb 3F3 は、炭疽菌防御抗原(PA)に結合はするが、毒性活性を中和しないことが知られていた。CR1又は赤血球の存在下でHPに取り入れると、3F3はPAに結合し、PAが細胞死を引き起こすことができないような態様で、PAをマクロファージに送達することができた。従って、実施例では、循環中からPAを除去することにより、本発明の二重特異的分子(即ちHP)を炭疽菌感染の治療に用いることができることを実証した。実施例6.1ではマクロファージ生死検定法を用いた非中和抗PA抗体の同定を解説する。実施例6.2では、3F3 及び7G9を含む二重特異的分子のin vitro保護効果を解説する。実施例6.3では、3F3 及び19E9を含む二重特異的分子のin vitro保護効果を解説する。実施例6.4では、可溶性CR1の存在下における3F3 及び7G9を含む二重特異的分子のin vitro保護効果を解説する。全てのモル計算に関し、MAbの分子量は150 kDa と考えられ、HPの分子量は300 kDaと想定された。
【0191】
実施例1. 非中和抗PA抗体を同定する
マクロファージ生死検定を用いて、抗PA抗体が非中和性であるかどうかを判定した。
【0192】
材料及び試薬:
この検定では、MTTを検出薬として微量定量ウェル・プレートを用いた。細胞をDMEMに 106/mlになるように懸濁させた。マクロファージ:J774 A1 細胞、6回の継代、生存率は93%であり、3枚のプレートに移した。較正:細胞 # (x103): 100、80、75、60、45、30、15、0。ウェルの残り: 105 細胞/ウェル。
【0193】
手法:
1. PA/LF及び抗PA MAb を希釈プレートで希釈した;
2. 37℃でCO2インキュベータ内でインキュベートした;
3. 50μl/ウェルの混合液を100μl/ウェルのマクロファージ細胞に移した;
4. 37℃のCO2インキュベータ内でのインキュベートを4時間、継続した;
5. 25μl/ウェルのMTT溶液を加え、1時間、インキュベートした;及び
6. 100μl/ウェルの溶解/可溶化溶液を加え、37℃で一晩、インキュベートした。
【0194】
結果:
生き延びたマクロファージ細胞の率を抗体濃度に対して表にし、その結果を図1に示す。
【0195】
結論:
3つ全ての抗PA MAbは、PA/LFをマクロファージに送達する効率や、マクロファージ致死の効率の上昇を2F9 > 6C3 > 3F3の順で示した。この送達効率は、LeTx(PA及び致死因子(LF)を含有する致死毒素)の濃度につれて上昇し、LeTxが高いと、致死も多かった。この結果は、マクロファージの致死が、このマクロファージに加えられたLeTXの濃度に依存することを示した。防御陽性コントロールとしての14B7は、3つ全てのLeTx濃度で中性化を示した。陰性コントロールとしてのマウスIgG1は、いくらかのばらつきを示した。
【0196】
二重特異的分子 3F3/7G9
この実験は、非中和モノクローナル抗体3F3と、3F3/7G9 を含む二重特異的分子の、J774 マクロファージにおける能力を比較するようにデザインされている。
【0197】
材料及び試薬:
サル赤血球: 100%濃縮(洗浄)赤血球から40%まで希釈されたMacaca fascicularis の血液プールAlsevers PPI 1183。J774 マクロファージ細胞:継代#5、生存率は88.9%であり、2×106細胞/mlで継代させた。rPA (1.2 mg/ml、016-01) を1:100 (495μl DMEM プラス 5μl PA)に希釈した。致死因子(LF) (2.92 mg/ml) を1:100 (198μl DMEM プラス 2μl LF)に希釈した。致死毒素の最終濃度は 38.5 ng/mlである。振盪速度は2.1だった。
【0198】
試料:
MAb 3F3はロット番号104-44 (0.78 mg/ml) NMからだった。検定に用いられたMAb 3F3 の実際の濃度は425.3μg/mlだった。HP 3F3 (二重特異的分子)はロット番号159-45(970.9μg/ml)からだった。当該の二重特異的分子は3F3 SATA x 7G9 PEGを含んでいた。当該の二重特異的分子 3F3/7G9 は、抗CR1 MAb 7G9及び非中和抗PA抗体3F3を、N-スクシンイミジル S-アセチルチオアセテート (SATA) 及びNHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド (PEG-MAL) を架橋剤として用いて架橋することにより作製された。
【0199】
手法:
1. (PAのモル比に基づき)HP 及びMAb を以下の通りに希釈した:
【0200】
【表1】

【0201】
2. 致死毒素及びHP 又はMAb をEs又は培地を入れた試験管内で希釈した。
3. PA 作業ストック:細胞中の rPA (1.2mg/ml) の最終濃度は38.5 ng/mlであり、PA のストックは0.012 mg/ml (1:100 希釈度)だった。作業ストックは8×100ng/ml (800 ng/ml)であり、77μlのPA ストック (12μg/ml) を3 ml のcDMEMに加えた;
4. LF 作業ストック:細胞中のLF (2.92 mg/ml) の最終濃度は34.5 ng/mlであり、LF のストックは29.2μg/mlであり、作業ストックは8×100 ng/mlであり、31.5μlのLF ストック(29.2μg/ml) を3 ml cDMEMに加えた;
5. LeTx/HP 又はLeTx/Mab 混合液を4×105 個のJ774A.1 細胞に加える
6. 3時間のインキュベート後、細胞を振盪器から取り出し、5%BSA緩衝液を加えた冷PBSで1回、洗浄した。
7. 200μlの染色溶液(15μlのPI ストック、0.5μlの抗CD45-FITC 及び184.5μlの緩衝液を含有する)を加えた;
8. 4℃で20分間、インキュベートし、2回洗浄する;
9. 2 ml のBD FACS 溶解溶液を全ての試験管に加え、室温で10分間、インキュベートした。
10. 冷緩衝液で2回、洗浄し、最後のペレットを400μlの緩衝液中でインキュベートした;
11. 1時間以内にFACS calibur で分析した。
【0202】
結果:
MAb 3F3と、様々な条件下で3F3を7G9に架橋した二重特異的分子による促進率及び保護率を表2及び図2に示す。
【0203】
【表2】

【0204】
結論:
データは、Esの存在下で二重特異的分子3F3/7G9 (HP) はマクロファージを保護するが、3F3 それ単独ではマクロファージの致死を促進することを明確に示す。
【0205】
実施例2. 非中和モノクローナル抗体3F3と、3F3/19E9を含む二重特異的分子のJ774マクロファージ中での能力の比較
材料及び試薬:
サル赤血球: ランパイン・バイオ・ラブズ社、カタログ番号B1-180N-10、ロット番号102938800 (#4)からのヒヒ血。マクロファージ細胞:J774A1、継代#3、生存率は94.8%であり、2×106細胞/mlで継代させた。rPA (2.2 mg/ml)、ロット番号102-72(CFでアリクォート) NB199-20、1:100 に希釈(2μlアリクォート+198μl DMEM)。致死因子(LF) (1.45 mg/ml)、ロット番号199-38。それを1:100に希釈した(2μlのアリクォート+198μl DMEM)。振盪速度は2.1だった。HP 試料:H4-19E9×3F3 MAb (PEG)、ロット番号175-91A、濃度は309.4μg/mlだった。デイミュナイズされた抗CR1 MAb 19E9及び非中和抗PA抗体 3F3を、N-スクシンイミジル S-アセチルチオアセテート (SATA) 及び NHS-ポリ(エチレングリコール)-マレイミド (PEG-MAL)を架橋剤として用いて架橋することにより、二重特異的分子を作製した。
【0206】
手法:
1. (PAのモル比に基づき)HPを以下のように希釈した:50μlを赤血球有りの組に加える。赤血球のない二組には、25μlのみのHPを下の表に解説したように加え、次に25μlのDMEMを加える。
【0207】
【表3】

【0208】
2. 致死毒素及びHPを試験管内でEsと一緒又は培地と一緒に希釈した;
3. PA作業ストック濃度:細胞中のrPA (2.2mg/ml)の最終濃度は 150.0 ng/mlであり、PA のストックは0.022 mg/ml (1:100 希釈度)だった。作業ストック濃度は8×150ng/ml - 1.2μg/ml、であり、163.6μlのPA ストック(22μl/ml)を3 ml のcDMEMに加えた;
4. LF作業ストック濃度: 細胞中のLF (1.45 mg/ml) の最終濃度は150.0 ng/mlであり、LF のストックは14.5μg/mlであり、作業ストック濃度は8×150ng/ml - 1.2μg/mlであり、245.3μlのLF ストック(14.5μg//ml)を3 ml cDMEMに加える;
5. 赤血球有りの組をHPと一緒に45分間、37℃のインキュベータ内でインキュベートした。インキュベート後、1.5回、PBS/BSAで洗浄した;
6. その間、他方の組を調製した。赤血球有りの組を1.5回、洗浄した後、PA+LFを全ての試験管に同時に加えた;
7. 1時間、37℃のインキュベータ内で2.1の振盪速度でインキュベートした。
8. 200μlの細胞を2×106/mlの濃度で加え、37℃で3.5時間、2.1の振盪速度でインキュベートした。
9. 3.5時間のインキュベート後、細胞を振盪器から取り出した。0.5回、冷PBS/0.5% BSA緩衝液で洗浄した。
10. 200μlのBD FACS 溶解溶液を全ての試験管に加え、室温で10分間、インキュベートした;
11. 4℃で20分間インキュベートし、1.5回、洗浄した;
12. 2 ml のBD FACS 溶解溶液を全ての試験管に加え、室温で10分間、インキュベートした;
13. 1.5回、冷緩衝液で洗浄し、最後のペレットを400μlの緩衝液中でインキュベートした;
14. FACS calibur で1時間以内に分析した。
【0209】
結果:
19E9を3F3に架橋した二重特異的分子の様々な条件下での促進率及び保護率を表4及び図3に示す。
【0210】
【表4】

【0211】
結論:
該データは、二重特異的分子3F3/19E9 (HP)がEsの存在下でマクロファージを致死毒素から保護することを明確に示している。
【0212】
実施例3. 可溶性CR1を用いたマクロファージ生死検定
実施例1及び2は、予想通り、溶液中のHPがMAbと同様に挙動することを実証した。なぜならそれは、赤血球に結合せず、PAを除去することができなかったからである。しかしながら、HPを赤血球の存在下で用いた場合、マクロファージ細胞の保護があった。赤血球の存在下における、HPによるマクロファージの観察された保護にはおそらく2つの理由があるであろう:1)PA がHPを介して物理的に赤血球から遠ざけられて、PAが細胞表面上のその受容体に結合することが妨げられた。これに引き続き、LFの内部移行が少なくなり、従って致死も少なくなる;又は2)HP 7G9x3F3の7G9成分のCR1への結合により、 7G9のFcが活性化して、当該の免疫複合体をFc媒介性経路による破壊に向ける。
【0213】
これらの仮説を調べるために、可溶性CR1を赤血球の代わりに加えた。これにより、HPの7G9成分がその抗原に結合可能になり、ひいては7G9のFcを活性化するであろう。物理的な距離のみが、HP及び赤血球による観察された保護の理由であれば、可溶性CR1をHPに加えれば、何ら保護は起きないはずである。しかしながら、これは当てはまらない。なぜなら、致死毒素の存在下でHP 3F3 及び可溶性CR1と一緒にインキュベートされたマクロファージの大きな保護が観察され、仮説2が裏付けられたからである。
【0214】
材料及び試薬:
サル赤血球: ランパイン・バイオ・ラブズ社のイヌ血液のアルセバー溶液、ロット番号081537770、カタログ番号B1-160N-03 (#3)。 マクロファージ細胞:J774A1、継代#7、生存率は68.4%であり、2×106細胞/mlで継代させた。 rPA (1.18 mg/ml)、ロット番号#149-21 (CFでアリクォート)1:100 に希釈(2μlのアリクォート+198μl DMEM)。致死因子(LF) (2.92 mg/ml)、1:100 に希釈(2μlのアリクォート+198μl DMEM)。HP 試料:3F3/7G9、ロット番号159-45、濃度は970.9μg/mlだった。 CR1 (可溶性):ロット番号 013-03 (8/27/02に解凍)。CR1 ストック濃度は5 mg/mlだった。1:10に希釈した後、5μg/mlにした。振盪速度は2.1だった。
【0215】
手法:
1. (PAのモル比に基づき)HP を表5の通りに希釈した:3F3 HP (ロット番号159-45)、970.9μg/ml。
【0216】
【表5】

【0217】
2. 致死毒素及びHPを試験管内でEs 又は培地で希釈した;
3. PA作業ストック濃度:細胞中のrPA (1.2mg/ml) の最終濃度は43.0 ng/mlであり、PA のストックは0.012 mg/ml (1:100 希釈度)だった。 作業ストック濃度は8×43ng/ml=344 ng/mlであり、86μlのPA ストック(12μg/ml)を3 ml のcDMEMに加える;LF 作業ストック濃度:細胞中のLF (2.92 mg/ml) の最終濃度は43.0 ng/mlであり、LF のストックは28.2μg/mlであり、作業ストック濃度は 8×43ng/ml=344 ng/mlであり、35.3μlのLF ストック(29.2μg/ml) を3 ml cDMEMに加えた;
5. LeTx/HP 又はLeTx/Mab 混合液を4×105 J774A.1 細胞に加える
6. 3時間のインキュベート後、細胞を振盪器から取り出した。冷 PBS/0.5% BSA 緩衝液で1回、洗浄した;
7. 200μlの染色溶液(15μlのPI ストック、0.5μlの抗CD45-FITC 及び184.5μlの緩衝液を含有する)を加えた。
8. 4℃で20分間、インキュベートし、2回、洗浄した;
9. 2mlのBD FACS 溶解溶液を全ての試験管に加え、室温で10分間、インキュベートする;
10. 冷緩衝液で2回、洗浄し、最後のペレットを400μlの緩衝液中でインキュベートした;
11. FACS calibur で1時間以内に分析した。
【0218】
結果:
7G9を3F3に架橋した二重特異的分子の、赤血球の存在下、又は可溶性CR1の存在下での促進率及び保護率を表6、表7及び図4に示す。
【0219】
これらのデータに見られるように、致死毒素の存在下において二重特異的分子(HP 3F3)及び可溶性CR1と一緒にインキュベートされたマクロファージに大きな保護が観察された。
【0220】
【表6】

【0221】
【表7】

【0222】
実施例4. 変異型の炭疽菌毒素を不活性化させる際の、炭疽菌防御抗原に対する非中和モノクローナル抗体を用いて作製されたヘテロ重合体の使用
変異型の炭疽菌防御抗原(PA)が得られた。 置換変異をPAのアミノ酸配列中に作った。細胞致死の上で最も強力な2つの変異体はL685A 及びK684A だった(Rosovitz M. J., P. Schuck, M. Varughese, A. P. Chopra, V. Mehra, Y. Singh, L. M. McGinnis, S. H. Leppla. 2003. J Biol Chem. 278:30936)。これらの変異体は、細胞上のPA受容体への結合を保持しているが、モノクローナル抗体 (Mab) 14B7 又はH25 (14B7を由来とする親和性促進抗PA Mab)によって中和されることはない。その変異毒素は変異型PA及びLFの混合物である。
【0223】
方法:
致死毒素細胞毒性検定: 炭疽菌致死毒素(LeTx)及び変異毒素の細胞毒性を、いくつかの改変を加えつつ前に解説された(Little S. F., S. H. Leppla, A. M Friedlander. 1990. Infect Immun. 58:1606)通りに、測定した。96ウェル組織培養微量定量プレートのウェルに、105個のJ774A.1 細胞を接種した。毒素成分を1時間、37℃で希釈プレート内でインキュベートしてから、マクロファージに添加した。中和実験には、Mabを毒素成分に1時間、37℃で添加した。LeTx 反応混合液をマクロファージに添加し、細胞と一緒に37℃で4時間、インキュベートした後、MTT [3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド] を加え、細胞を1時間、37℃でインキュベートした。細胞を溶解させ、溶解/可溶化緩衝液を添加することで可溶化させた(Hansen M. B., S. E. Nielsen, K. Berg. 1989. J Immunol Meth. 119:203)。37℃で一晩、インキュベートした後、プレートを570 nm でプレート・リーダ(カリフォルニア州サニーベール、モラキュラー・ディバイセズ社、SpectraMax 340pc)で読み取り、データをSoftMaxPro(R) ソフトウェア(カリフォルニア州サニーベール、モラキュラー・ディバイセズ社)を用いて分析した。
【0224】
マクロファージ生死検定:
カニクイザル赤血球(Es)を洗浄し、5%ウシ胎児血清を加えたダルベッコの改良イーグル培地中に再懸濁させた。それぞれ濃度50 ng/ml のPA 又はL685A 又はK684A を同じ濃度のLFと混合した。様々な量のHP 又はMab をEs 又は培地に加え、1時間、37℃でインキュベートした。次に反応混合液をポリスチレン製試験管に入れたJ774A.1 マクロファージに加えた。これら試験管を CO2 インキュベータ内で37℃で4時間、一定に振盪しながらインキュベートし、続いてPBS/BSA 緩衝液で2回、洗浄した。次に、BD FACS 溶解溶液を全ての試験管に加え、10分間、室温でインキュベートしてEsを溶解させた。その細胞を2回洗浄し、CD45-FITC 及びヨウ化プロピジウム(PI)のカクテルで20分間、室温で染色した。次に細胞を2回、洗浄した後、すぐにフローサイトメータでデータを獲得した。CD45陽性集団(マクロファージ)は選択的にゲート開口していた。死んだ細胞の比率を各試料ごとに、PI染色が陽性の集団上のゲート開口により、判定した。
【0225】
結果:
図4は、PA、K684A、及びL685A を致死因子の存在下で用いたRAW 264.7マクロファージの細胞毒性を示す。図面に示すように、野生型PA 並びにK684A及びL685A変異型はマクロファージにとって毒性だった。図5は、Mab H25のみによる炭疽菌毒素(PA+LF)の中和を示す。図面に示すように、変異毒素(L685A+LF、K684A+LF)は抗PA Mab H25では中和されなかった。
【0226】
次に、HPを非中和抗体Mab 3F3を用いて作製した。図6は、この非中和抗体を用いて作製されたHPによる変異型炭疽菌毒素の不活性化を示す。HPはまた、(中和Mabである)Mab 14B7 を用いても作製され、変異毒素を不活性化させる上では効果がない。
【0227】
実施例5. 病原体の不活性化のためにスタフィロコッカス-アウレウスに対する非中和モノクローナル抗体を用いて作製されたヘテロ重合体の使用
S.アウレウスを用いた致死性の刺激の動物モデルが開発されるであろう。このモデルは、非中和Mabを用いて作製されたHPは、その標的病原体S.アウレウスを不活性化させることができるであろうという我々の仮説を検査するために用いられるであろう。用いられる抗S.アウレウスMabは抗プロテインA Mab である(カタログ番号P 2921、ミズーリ州セントルイス、シグマ・アルドリッチ社)。このMab は、非中和性である可能性が高い。なぜならプロテインAは、動物又はヒトにおいていずれの表面タンパク質への結合に関与しているとも判明していないからである。抗プロテインA Mabを1型抗補体受容体Mab 7G9(CR1)に架橋することにより作製されるヘテロ重合体(HP)は、S.アウレウスを赤血球(E)表面から隔てられるであろう。HPの作用の前述のモデルに基づくと、このE:HP:S.アウレウスの複合体は、肝臓内の固定組織マクロファージ(クッパー細胞)から隔てられ、ここでこの免疫複合体(CR1:HP:S.アウレウス)は破壊されるであろう。 他方、Mab 単独では、致死性のS.アウレウス刺激からマウスを保護する上では有効でないであろう。なぜなら(i)プロテインAは組織浸潤に関与しておらず、(ii)この生物の表面上のプロテインAの密度は比較的に高く、また該表面上の全てのプロテインがMabによって遮断される訳ではないであろうからである。Mab単独とは対照的に、HPが有効になるためには、プロテインAの全てが結合する必要はない。なぜなら、少数のHPがこの微生物をEに繋ぎ止め、病原体を不活性化することができるからである。
【0228】
方法:
この実験の目的は、S.アウレウスを注射されたCR1トランスジェニック・マウスにおいて、死を防ぐ上でのHP対Mabの効験を判定することである。CR1 マウスには、PBS、Mab 又はHP を静脈内注射してから、S.アウレウスを静脈内注射することになるであろう。群の大きさは10匹のマウス/1群であろう。
【0229】
S.アウレウスのストック培養株を調製し、アリクォートし、−80℃で凍結させることとなる。解凍後の細菌を前もって力価測定することになるであろう。注射当日に細菌を注射用に希釈し、再度、力価測定することとなる。動物(例えばマウス)に生理食塩水、HP又はMabを総体積100μl、静脈注射することになる。1時間後にS.アウレウスを総体積100μl、静脈内注射する。動物を注射後21日間又は死ぬまで、観察する。動物は1日に2回、死亡までの時間(TTD)について、21日間、観察されることとなる。瀕死の動物は安楽死させることになるであろう。実験デザインの要約を表8に示す。
【0230】
【表8】

【0231】
参考文献及び均等物

ここで引用された(例えば書籍、雑誌、発行済み特許、及び特許出願を含む)参考文献はすべて、各個々の発行物又は特許もしくは特許出願を、あらゆる目的のためにそれらの全文を引用をもって援用すると具体的かつ個別に示唆したのと同程度に、引用をもってそれらの全文をここに援用されたものである。
【0232】
当業者であれば明白であるように、本発明の数多くの改良及び変更を、その精神及び範囲から逸脱することなく行うことができる。ここに解説した具体的な実施態様では、例として挙げられたに過ぎず、本発明は、付属の請求の範囲の用語を、このような請求の範囲の権利が及ぶ全範囲の均等物と併せて考えたものによってのみ、限定を受けることとする。

【図面の簡単な説明】
【0233】
【図1】図1(A)−(C)は、マクロファージ生死検定を用いた、非中和抗PA(B.アンスラシスの防御抗原)抗体の同定を示す。3つの抗PAモノクローナル抗体3F3、6C3、 及び2F9は、B.アンスラシスのPA及び致死因子(LF)をマクロファージに送達する効率の向上、及び、特定の抗体及び/又は(PA及びLFを含有する)致死毒素濃度におけるマクロファージ致死の効率の向上を示した。14B7 は陽性コントロールとして用いられ、3つの致死毒素濃度すべてで、中和を示した。マウスIgG1 が陰性コントロールとして用いられた。
【図2】図2(A)−(B)は、3F3を7G9に架橋した二重特異的分子がマクロファージをB.アンスラシスの(PA及びLFを含有する)致死毒素から、赤血球の存在下で保護したが、3F3単独ではマクロファージの致死を促進したことを示す。
【図3】図3(A)−(B)は、3F3を19E9に架橋した二重特異的分子がマクロファージをB.アンスラシスの(PA及びLFを含有する)致死毒素から、赤血球の存在下で保護したことを示す。
【図4】図4(A)−(D)は、3F3を7G9に架橋した二重特異的分子がマクロファージをB.アンスラシスの(PA及びLFを含有する)致死毒素から、可溶性CR1の存在下で保護したことを示す。
【図5】図5は、PA、K684A、及びL685A を致死因子の存在下で用いたときのRAW 264.7マクロファージの細胞毒性を示す。
【図6】図6は、炭疽菌致死毒素(PA+LF)、変異毒素(L685A+LF、K684A+LF)の抗PA Mab H25による中和を示す。
【図7】図7は、非中和Mab 3F3を用いて作製されたHPによる変異型炭疽菌毒素の不活性化を示す。HPはまた、Mab 14B7 (中和Mabである)を用いても作製され、該変異型毒素を不活性化させる上では有効でない。












【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CR1抗体を、動物の病原性作用因子に結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子。
【請求項2】
前記非中和抗体が促進抗体である、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項3】
前記抗CR1抗体が、病原性作用因子に結合する前記非中和抗体に架橋されている、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項4】
前記病原性作用因子が細菌である、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項5】
前記病原性作用因子がウィルスである、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項6】
前記病原性作用因子が微生物毒素である、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項7】
前記抗CR1抗体及び前記非中和抗体の少なくとも一方がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項8】
前記抗体のうちの一つ以上が、その免疫原性を低下させるために改変されている、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項9】
前記抗体のうちの一つ以上がデイミュナイズされている、請求項8に記載の二重特異的分子。
【請求項10】
前記第一及び第二抗体が架橋剤を用いて架橋されている、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項11】
前記架橋剤がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項10に記載の二重特異的分子。
【請求項12】
前記抗CR1抗体が7G9である、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項13】
前記抗CR1抗体が19E9である、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項14】
前記非中和抗体が、バシラス−アンスラシス毒素の防御抗原(PA)に結合する、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項15】
前記非中和抗体が3F3である、請求項14に記載の二重特異的分子。
【請求項16】
前記抗CR1抗体が、7G9及び19E9から成る群より選択される、請求項15に記載の二重特異的分子。
【請求項17】
前記非中和抗体が、S.アウレウスに結合する、請求項1に記載の二重特異的分子。
【請求項18】
前記非中和抗体がプロテインAに結合する、請求項17に記載の二重特異的分子。
【請求項19】
抗CR1抗体を、3F3、2F9、3F10、3D2、16E11、2C11、6C3から成る群より選択される抗体と、プロテインAを認識する抗体とに連結して含む、二重特異的分子。
【請求項20】
CR1受容体に結合する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素の前記防御抗原成分の細胞への結合は阻害しない第二抗体に結合させて含む、二重特異的分子。
【請求項21】
動物の病原性作用因子が対象の循環中に存在することに関連する疾患を治療又は防止する方法であって、抗CR1抗体を、前記病原性作用因子に結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子を、治療上又は予防上有効量、前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項22】
前記非中和抗体が促進抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第一及び第二抗体が架橋剤を用いて架橋されている、請求項21に記載の二重特異的分子。
【請求項24】
前記架橋剤がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項23に記載の二重特異的分子。
【請求項25】
前記抗体のうちの一つ以上がモノクローナル抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体のうちの一つ以上が、その免疫原性を低下させるために改変されている、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記対象がヒトである、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記抗CR1抗体が7G9及び19E9から成る群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
対象において細菌感染を治療又は防止する方法であって、抗CR1抗体を、細菌に結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子を治療上又は予防上有効量、前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項30】
前記細菌がグラム陰性細菌である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細菌がグラム陽性細菌である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記細菌がS.アウレウスである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記非中和抗体が促進抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記抗CR1抗体が、細菌に結合する前記非中和抗体に架橋されている、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記抗CR1抗体及び前記非中和抗体がモノクローナル抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
前記対象がヒトである、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記抗CR1抗体が7G9及び19E9から成る群より選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
前記非中和抗体が、プロテインAを認識する抗体である、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記抗CR1抗体が、7G9及び19E9から成る群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
動物の対象におけるウィルス感染を治療又は防止する方法であって、抗CR1抗体を、ウィルスのエピトープに結合する非中和抗体に連結して含む二重特異的分子を、治療上又は予防上有効量、前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項41】
前記抗体が、ウィルスのエンベロープ(E)タンパク質に結合する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記非中和抗体が促進抗体である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記抗体のうちの一つ以上がモノクローナル抗体である、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記対象がヒトである、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記抗CR1抗体が7G9及び19E9から成る群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項46】
炭疽菌胞子への曝露の症状を予防的に防止する又は減らす方法であって、C3b受容体を認識する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素の前記防御抗原成分の細胞への結合は阻害しないような第二抗体に結合させて含む二重特異的分子を、炭疽菌胞子への曝露の危険性がある対象に投与することで、炭疽菌胞子への曝露の症状を防止する又は減らすステップを含む、方法。
【請求項47】
前記C3b受容体がCR1である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記抗体のうちの一つ以上が、その免疫原性を低下させるために改変されている、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記抗体のうちの一つ以上がモノクローナル抗体である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記第一及び第二抗体が、架橋剤を用いて架橋されている、請求項46に記載の二重特異的分子。
【請求項51】
前記架橋剤がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項46に記載の二重特異的分子。
【請求項52】
前記炭疽菌毒素が、前記毒素の防御抗原成分の細胞への結合を阻害する抗体には結合しない変異型である、請求項46に記載の方法。
【請求項53】
炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合する前記抗体が、3F3、2F9、3F10、3D2、16E11、2C11 及び6C3から成る群より選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項54】
ある集団中で炭疽菌胞子への曝露の症状を減らす方法であって、C3b受容体を認識する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素の前記防御抗原成分の細胞への結合は阻害しないような第二抗体に結合させて含む二重特異的分子を、炭疽菌胞子への曝露の危険性がある複数の対象に投与することで、炭疽菌胞子への曝露の症状を防ぐ又は減らすステップを含む、方法。
【請求項55】
炭疽菌胞子への曝露の症状を治療的に治療する方法であって、C3b受容体を認識する第一抗体を、炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合はするが、炭疽菌毒素の防御抗原成分の細胞への結合は阻害しないような第二抗体に結合させて含む二重特異的分子を、炭疽菌胞子に曝露した対象に投与することで、炭疽菌胞子への曝露の症状を防止する又は減らすステップを含む、方法。
【請求項56】
前記C3b受容体がCR1である、請求項54又は55に記載の方法。
【請求項57】
前記抗体のうちの一つ以上が、その免疫原性を低下させるために改変されている、請求項54又は55に記載の方法。
【請求項58】
前記第一及び第二抗体が架橋剤を用いて架橋されている、 請求項54又は55に記載の二重特異的分子。
【請求項59】
前記架橋剤がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項58に記載の二重特異的分子。
【請求項60】
前記炭疽菌毒素が、前記毒素の防御抗原成分の細胞への結合を阻害する抗体には結合しないような変異型である、請求項54又は55に記載の方法。
【請求項61】
炭疽菌毒素の防御抗原成分に結合する前記抗体が、3F3、2F9、3F10、3D2、16E11、2C11 及び6C3から成る群より選択される、請求項54又は55に記載の方法。
【請求項62】
動物の病原性作用因子に結合する非中和抗体の防御効果を促進する方法であって、前記抗体を、CR1に結合する第二抗体に連結するステップを含む、方法。




【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−525446(P2007−525446A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509449(P2006−509449)
【出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/009630
【国際公開番号】WO2004/087759
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505361462)エルシス セラピューティクス, インク. (2)
【氏名又は名称原語表記】ELUSYS THERAPEUTICS, INC.
【住所又は居所原語表記】10 Bloomfield Avenue, PineBrook, NJ 07058 (US).
【Fターム(参考)】