説明

抗体組成物を含有する医薬

本発明は抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを組み合わせてなる医薬を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを組み合わせてなる医薬に関する。
【背景技術】
抗体依存性細胞障害活性(以下、ADCC活性と略記する)は、NK細胞、単球・マクロファージ、顆粒球など、エフェクター細胞と呼ばれる細胞集団に発現するFcγ受容体に、抗体のFc領域が結合することにより起こる。NK細胞は細胞上のFcγ受容体の一種FcγRIIIaを介して強いADCC活性を誘導する。FcγRIIIa遺伝子は158番目のアミノ酸に機能的な遺伝子多型が存在し、158番目のアミノ酸がValine(以下Valと称する)のFcγRIIIaはPhenylalanine(以下Pheと称する)のFcγRIIIaよりも強いADCC活性を誘導する[ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(J.Clin.Invest.),100,1059−1070(1997)]。近年Val/Valの遺伝子型を有する患者において、その他の遺伝子型の患者よりもRituxanの臨床効果が有意に高いことが示されており[ブラッド(blood),99,754−758(2002)、アースライティス・アンド・リューマティズム(Arthritis Reum.),48,455−459(2003)]、ヒトIgG1サブクラスの抗体医薬の臨床効果にADCC活性が重要な役割を果たすことが示唆されている。
抗体などの糖タンパク質の糖鎖は、タンパク質部分との結合様式により、アスパラギンと結合する糖鎖(N−グリコシド結合糖鎖)とセリン、スレオニンなどと結合する糖鎖(O−グリコシル結合糖鎖)の2種類に大別される。N−グリコシド結合糖鎖は、以下の構造式(I)に示す基本となる共通のコア構造を有する[生物化学実験法23−糖蛋白質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989年)]。

上記構造式(I)において、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン、Manはマンノースを示す。またアスパラギンと結合する糖鎖の末端を還元末端、反対側を非還元末端という。
抗体分子は重鎖と軽鎖が2分子ずつ会合した4量体として構成される。IgG1型ヒト抗体は、重鎖のFc領域中に存在するN末端から297番目のアスパラギンに上記のコア構造を有する糖鎖が結合している。このコア構造にさらに非還元末端側にN−アセチルグルコサミン、ガラクトース、シアル酸、還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースがそれぞれ付加する可能性があるが、通常これらの成分は均一ではなく、抗体を生産する細胞によって変化する[トレンズ・イン・バイオテクノロジー(Trends Biotechnol.),15,26−32(l997)]。ヒトIgG1のADCC活性は、この糖鎖中のガラクトース[ヒューマン・アンティボディズ・アンド・ハイブリドーマズ(Hum Antibodies Hybridomas),5,143−151(1994)、ヒューマン・アンティボディズ・アンド・ハイブリドーマズ(Hum Antibodies Hybridomas),6,82−88(1995)]、N−アセチルグルコサミン[ネイチャー・バイオテクノロジー(Nat.Biotechnol.),17,176−180,(1999)、バイオテクノロジー・アンド・バイオエンジニアリング(Biotechnol.Bioeng.),74,288−294,(2001)]、フコース[ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),277,26733−26740(2002)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),278,3466−3473(2003)]の含有量に影響を受けることが報告されている。中でも最も影響が大きいのはフコースであり、還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースが付加した糖鎖の割合が少ないヒトIgG1型の抗体はADCC活性を顕著に増強する[ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),277,26733−26740(2002)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),278,3466−3473(2003)]。しかしこれらの報告はいずれも抗体単独でのADCC活性であり、他の薬剤によってフコースの量が少ないヒトIgG1型の抗体のADCC活性がさらに増強するかどうかは知られていない。
一方ADCC活性はエフェクター細胞を刺激するサイトカインによって上昇することが知られている。例えばインターロイキン(以下IL)−2[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),46,213(1998)、キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),51,171(2002)、ブラッド(Blood),93,3922(1999)、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・キャンサー・リサーチ(Jpn.J.Cancer Res.),87,497(1996)]、IL−12[ブラッド(Blood),93,3922(1999)、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・キャンサー・リサーチ(Jpn.J.Cancer Res.),87,497(1996)]、IL−15[ブラッド(Blood),93,3922(1999)、ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディスン(J.Exp.Med),180,1395(1994)]、インターフェロン(以下IFN)−α[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),46,213(1998)、キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),51,171(2002)]、IFN−γ[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),46,213(1998)、キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),51,171(2002)、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・キャンサー・リサーチ(Jpn.J.Cancer Res.),87,497(1996)]、マクロファージ−コロニー刺激因子(以下M−CSF)[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),46,213(1998)、ブラッド(Blood),93,3922(1999)、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・キャンサー・リサーチ(Jpn.J.Cancer Res.),87,497(1996)、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・キャンサー・リサーチ(Jpn.J.Cancer Res.),81,79(1990)]等、様々なサイトカインをエフェクター細胞にin vitroで加えて刺激することにより、ADCC活性を上昇させることが知られている。
化学療法剤のような低分子の薬剤がin vitroのADCC活性を増強することは知られていないが、化学療法と抗体との併用により優れた治療効果が得られることが知られている。抗HER2/neuヒト化抗体rhuMAb HER2(Herceptin、Roche社)はtaxane系抗癌剤との併用療法により乳癌に対して顕著な効果を示すことが知られている[Clinical Therapeutics,21,309(1999)]。また、抗CD20ヒト型キメラ抗体IDEC−C2B8(Rituxan、IDEC社)は多剤療法との併用療法によりB細胞リンパ腫に対して顕著な効果を示すことが知られている[J.Clin.Oncol.,17,268(1999)]。
【発明の開示】
本発明の目的は、高い治療効果を有する抗体組成物と少なくとも1種類の薬剤とを用いる医薬を提供することにある。
本発明は、以下の(1)〜(14)に関する。
(1) 抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを組み合わせてなる医薬。
(2) 抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを併用して投与するための医薬。
(3) 抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを同時に又は逐次的に投与するための医薬。
(4) 抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物を単独で投与した場合よりも、高い治療効果を示すことを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の医薬。
(5) 高い治療効果を示すことが、高い抗体依存性細胞障害活性を示すことである、上記(4)記載の医薬。
(6) 抗体組成物が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性を有する細胞から生産される抗体組成物である上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の医薬。
(7) 抗体組成物が、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖である抗体組成物である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の医薬。
(8) フコースが結合していない糖鎖が、該フコースの1位がN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にα結合していない糖鎖である、上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の医薬。
(9) 抗体組成物が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞から生産された抗体組成物である、上記(7)または(8)記載の医薬。
(10) N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が、α1,6−フコシルトランスフェラーゼである上記(9)記載の医薬。
(11) 薬剤が、蛋白質、低分子の薬剤および生物学的応答調節剤からなる群から選ばれる物質である上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の医薬。
(12) 蛋白質が、サイトカインまたは抗体である、上記(11)記載の医薬。
(13) サイトカインが、IFN−γ、IL−2およびIL−15から選ばれるサイトカインである上記(12)に記載の医薬。
(14) 医薬が、腫瘍を伴う疾患に対する治療薬である、上記(1)〜(13)のいずれか1項に記載の医薬。
本発明の医薬の形態としては、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを組み合わせてなる医薬、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを併用して投与するための医薬、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを同時に又は逐次的に投与するための医薬があげられる。
ここで、組み合わせてなる医薬とは、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを別々に調製し、これらの薬剤を組み合わせて同時にまたは逐次的に投与する医薬であってもよいし、それぞれの薬剤成分を混合させた合剤であってもよい。それぞれの薬剤成分を混合させた合剤には、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物に少なくとも1種類の薬剤を結合させた融合抗体なども包含する。
本発明において、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合とは、該組成物中に含まれるFc領域に結合する全てのN−グリコシド結合複合型糖鎖の合計数に対して、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の数が占める割合をいう。糖鎖の割合は、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合していない糖鎖の割合が好ましい。
本発明においで、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖とは、該フコースが、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにα結合していない糖鎖をいい、具体的には、該フコースの1位がN−グリコシド結合複合型糖鎖のN−アセチルグルコサミンの6位にα結合していない糖鎖があげられる。
本発明における抗体組成物としては、N−グリコシド結合複合型糖鎖をFc領域に有する抗体分子を含有してなる組成物であればいかなるものも包含される。
抗体分子とは、重鎖および軽鎖(以下、それぞれH鎖およびL鎖と表記する)の2種類のポリペプチド鎖がそれぞれ2分子ずつ会合した4量体である。H鎖のN末端側の約4分の1とL鎖のN末端側の約2分の1(それぞれ100余アミノ酸)はV領域と呼ばれ、多様性に富み、抗原との結合に直接関与する。V領域以外の部分の大半はC領域と呼ばれる。抗体分子はC領域の相同性によりIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの各クラスに分類される。
またIgGクラスはC領域の相同性により、さらにIgG1〜IgG4のサブクラスに分類される。
H鎖はN末端側よりVH、CH1、CH2、CH3の4つのイムノグロブリンドメインに分かれ、CH1とCH2の間にはヒンジ領域と呼ばれる可動性の高いペプチド領域があり、CH1とCH2とが区切られる。ヒンジ領域以降のCH2とCH3からなる構造単位はFc領域と呼ばれ、N−グリコシド結合型糖鎖が結合している。また、この領域は、Fcレセプター、補体などが結合する領域である(免疫学イラストレイテッド原書第5版、2000年2月10日発行、南江堂版、抗体工学入門、1994年1月25日初版、地人書館)。
抗体などの糖蛋白質の糖鎖は、蛋白質部分との結合様式により、アスパラギンと結合する糖鎖(N−グリコシド結合糖鎖)とセリン、スレオニンなどと結合する糖鎖(O−グリコシル結合糖鎖)の2種類に大別される。N−グリコシド結合糖鎖は、以下の構造式(I)に示す基本となる共通のコア構造を有する[生物化学実験法23−糖蛋白質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989年)]。

上記構造式(I)において、アスパラギンと結合する糖鎖の末端を還元末端、反対側を非還元末端という。
N−グリコシド結合糖鎖としては、上記構造式(I)のコア構造を有するものであればいかなるものでもよいが、コア構造の非還元末端にマンノースのみが結合するハイマンノース型、コア構造の非還元末端側にガラクトース−N−アセチルグルコサミン(以下、Gal−GlcNAcと表記する)の枝を並行して1ないしは複数本有し、更にGal−GlcNAcの非還元末端側にシアル酸、バイセクティングのN−アセチルグルコサミンなどの構造を有するコンプレックス型(複合型)、コア構造の非還元末端側にハイマンノース型とコンプレックス型の両方の枝を持つハイブリッド型などがあげられる。
抗体分子のFc領域には、N−グリコシド結合糖鎖が1カ所ずつ結合する領域を有しているので、抗体1分子あたり2本の糖鎖が結合している。抗体分子に結合するN−グルコシド結合糖鎖としては、前記構造式(I)で示されるコア構造を含むいかなる糖鎖も包含されるので、抗体に結合する2本のN−グルコシド結合糖鎖には多数の糖鎖の組み合わせが存在することになる。
したがって、本発明における抗体組成物は、本発明の効果が得られる範囲であれば、単一の糖鎖構造を有する抗体分子から構成されていてもよいし、複数の異なる糖鎖構造を有する抗体分子から構成されていてもよい。
抗体分子としては、抗体のFc領域を含む分子であればいかなる分子も包含される。具体的には、抗体、抗体の断片、Fc領域を含む融合蛋白質などがあげられる。
抗体としては、動物に抗原を免疫し、免疫動物の脾臓細胞より作製したハイブリドーマ細胞が分泌する抗体、遺伝子組換え技術により作製された抗体、すなわち、抗体遺伝子を挿入した抗体発現ベクターを、宿主細胞へ導入することにより取得された抗体などがあげられる。具体的には、ハイブリドーマが生産する抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体などをあげることができる。
ハイブリドーマは、ヒト以外の哺乳動物に抗原を免疫して取得されたB細胞と、マウス、ラット等に由来するミエローマ細胞とを細胞融合させて得られる、所望の抗原特異性を有したモノクローナル抗体を生産する細胞をいう。
ヒト化抗体としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体などがあげられる。
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体H鎖V領域(以下、HVまたはVHとも称す)および抗体L鎖V領域(以下、LVまたはVLとも称す)とヒト抗体のH鎖C領域(以下、CHとも称す)およびヒト抗体のL鎖C領域(以下、CLとも称す)とからなる抗体をいう。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ラビット等、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。
ヒト型キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、宿主細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、更にhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVHおよびVLの適切な位置に移植した抗体をいう。
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVHおよびVLのCDR配列を任意のヒト抗体のVHおよびVLのCDR配列に移植したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する宿主細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、該発現ベクターを宿主細胞へ導入することによりヒト型CDR移植抗体を発現させ、製造することができる。
ヒト型CDR移植抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、更にhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、ヒト型CDR移植抗体のCLとしては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーならびにヒト抗体トランスジェニック非ヒト動物あるいはヒト抗体トランスジェニック植物から得られる抗体等も含まれる。
ヒト体内に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルス等を感染させ不死化、クローニングすることにより、該抗体を生産するリンパ球を培養でき、培養物中より該抗体を精製することができる。
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、一本鎖抗体等の抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、更に遺伝子工学的手法により、2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
ヒト抗体トランスジェニック非ヒト動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物をいう。具体的には、マウス胚性幹細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該胚性幹細胞を他のマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体トランスジェニック非ヒト動物を作製することができる。また、動物の受精卵にヒト抗体遺伝子を導入し、該受精卵を発生させることにヒト抗体トランスジェニック非ヒト動物を作製することもできる。ヒト抗体トランスジェニック非ヒト動物からのヒト抗体の作製方法は、通常のヒト以外の哺乳動物で行われているハイブリドーマ作製方法によりヒト抗体ハイブリドーマを得、培養することで培養物中にヒト抗体を蓄積させることができる。
トランスジェニック非ヒト動物としては、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ニワトリ、サルまたはウサギ等があげられる。
抗体の断片は、上記抗体の少なくともFc領域の一部を含んだ断片をいう。Fc領域とは、抗体のH鎖のC末端側の領域、CH2領域およびCH3領域をいう。少なくともFc領域の一部とは、好ましくはCH2領域を含む断片、より好ましくはCH2領域内に存在する1番目のアスパラギン酸を含む領域をいう。IgGクラスのFc領域は、カバット(Kabat)らのEU Index[シーケンシズ・オブ・プロテインズ・オブ・イムノロジカル・インタレスト(Sequences of Proteins of Immunological Interest),5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)]のナンバリングで226番目のCysからC末端、あるいは230番目のProからC末端までをいう。抗体の断片としては、H鎖の単量体、H鎖の2量体などがあげられる。本発明におけるFc領域としては、天然型およびその変異型を包含する。
Fc領域の一部を有する融合蛋白質とは、抗体のFc領域の一部を含んだ抗体あるいは抗体の断片と、酵素、サイトカインなどの蛋白質とを融合させた物質(以下、Fc融合蛋白質と称す)をいう。
本発明の抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上であり、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全てのN−グリコシド結合複合型糖鎖が、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖であることが最も好ましい。
以上のように抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が高ければ高いほど、抗体組成物は、高い抗体依存性細胞障害活性を有する。
N−グリコシド結合複合型糖鎖をFc領域に有する抗体分子からなる組成物中に含まれる、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合は、抗体分子からヒドラジン分解や酵素消化などの公知の方法[生物化学実験法23−糖タンパク質糖鎖研究法(学会出版センター)高橋禮子編(1989)]を用い、糖鎖を遊離させ、遊離させた糖鎖を蛍光標識又は同位元素標識し、標識した糖鎖をクロマトグラフィー法にて分離することによって決定することができる。また、遊離させた糖鎖をHPAED−PAD法[ジャーナル・オブ・リキッド・クロマトグラフィー(J.Liq.Chromatogr.),6,1577(1983)]によって分析することによっても決定することができる。
本発明において、高い治療効果としては、例えば細胞障害活性が高いこと等があげられる。
抗体組成物の有する細胞障害活性としては抗体依存性細胞障害活性(以下、ADCCと略記する)、補体依存性細胞障害活性(モノクローナル・アンティボディズ)、抗原に結合することによる抗原発現細胞の増殖抑制活性などがあげられる。増殖抑制活性には標的細胞のアポトーシス誘導や分化誘導を促進するものも包含される[キャンサー・リサーチ(Cancer Research)60,7170(2000)、ネイチャー・メディスン(Nature Medicine),644(1995)、セル・グロース・ディファレンシエーション(Cell Growth Differ.),401(1992)]。
ADCC活性とは、生体内で、腫瘍細胞等の細胞表面抗原などに結合した抗体が、抗体Fc領域とエフェクター細胞表面上に存在するFc受容体との結合を介してエフェクター細胞を活性化し、腫瘍細胞等を障害する活性をいう[モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・アプリケーションズ(Monoclonal Antibodies:Principles and Applications),Wiley−Liss,Inc.,Capter2.1(1995)]。エフェクター細胞としては、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、顆粒球等の免疫細胞があげられる。またFc受容体はFcα受容体I、Fcε受容体I、Fcε受容体II、Fcγ受容体I、Fcγ受容体IIa、Fcγ受容体IIb、Fcγ受容体IIc、Fcγ受容体IIIa、Fcγ受容体IIIb、Fc受容体n等のタイプに分かれる。この内Fcγ受容体IIIaは主にナチュラルキラー細胞上に発現し、ADCC活性に重要なFc受容体の一つである[モノクローナル・アンティボディズ:プリンシプルズ・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies:principles and practice),ThirdEdition,Acad.Press,1996(以下、モノクローナル・アンティボディズと略す)]。
したがって、本発明において、抗体分子のFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物を単独で投与した場合よりも、高い治療効果を示すとは、抗体分子のFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と少なくとも1種類以上の薬剤とを組み合わせることにより、該抗体組成物単独で投与した場合に発揮される治療効果よりも高い治療効果を発揮する医薬をいう。
また、本発明の医薬は、抗体分子のFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%未満である抗体組成物と少なくとも1種類の薬剤とを組み合わせてなる医薬よりも、高い治療効果を示す。
本発明の医薬は、薬剤を単独で使用する場合よりも少ない薬剤の量にすることができ、薬剤を単独で高用量を患者に投与した場合に懸念された副作用を低減させることができる。
N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性を有する細胞(以下、α1,6−フコース/レクチン耐性細胞と称す)としては、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など抗体組成物を製造することができる細胞であって、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチン耐性を有する細胞であればいかなる細胞でもよい。
具体的には、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性を有する、ハイブリドーマ細胞、ヒト抗体およびヒト化抗体を製造するための宿主細胞、ヒト抗体を生産するためのトランスジェニック非ヒト動物を製造するための胚性幹細胞および受精卵細胞、ヒト抗体を生産するためのトランスジェニック植物を製造するための植物カルス細胞、ミエローマ細胞、トランスジェニック非ヒト動物由来の細胞などがあげられる。ミエローマ細胞はハイブリドーマ細胞を製造する際に融合細胞として用いることができる。また、トランスジェニック非ヒト動物に抗原を免疫し、該動物の脾臓細胞を取り出し、ハイブリドーマ細胞を製造するために用いることができる。
レクチンに耐性を有する細胞とは、培養培地にレクチンを有効濃度与えて細胞培養を行ったときにも、生育が阻害されない細胞をいう。
本発明において、生育が阻害されないレクチン有効濃度は、細胞株に応じて適宜定めればよいが、通常10μg/ml〜10.0mg/ml、好ましくは0.5〜2.0mg/mlである。親株細胞に変異を導入した場合のレクチンの有効濃度とは、該親株細胞が正常に生育できない濃度以上であり、好ましくは親株細胞が正常に生育できない濃度と同濃度、より好ましくは2〜5倍、さらに好ましくは10倍、最も好ましくは20倍以上の濃度をいう。
親株細胞とは、何らかの処理を施す前の細胞、すなわち本発明で用いるα1,6−フコース/レクチン耐性細胞を選択する工程を行う前の細胞、上述した酵素活性を低下または欠失するために遺伝子工学的な処理を行う前の細胞をいう。
親株細胞としては、特に限定はないが、種々の細胞株の親株細胞の具体例として、以下に示す細胞があげられる。
NS0細胞の親株細胞としては、バイオ/テクノロジー(BIO/TECHNOLOGY),10,169(1992)、バイオテクノロジー・バイオエンジニアリング(Biotechnol.Bioeng.),73,261,(2001)等の文献に記載されているNS0細胞があげられる。また、理化学研究所細胞開発銀行に登録されているNS0細胞株(RCB0213)、あるいはこれら株を生育可能な培地に馴化させた亜株などもあげられる。
SP2/0−Ag14細胞の親株細胞としては、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J.Immunol.),126,317(1981)、ネイチャー(Nature),276,269(1978)、ヒューマン・アンチィボディズ・アンド・ハイブリドーマズ(Human Antibodies and Hybridomas),,129(1992)等の文献に記載されているSP2/0−Ag14細胞があげられる。また、ATCCに登録されているSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL−1581)あるいはこれら株を生育可能な培地に馴化させた亜株(ATCC CRL−1581.1)などもあげられる。
チャイニーズハムスター卵巣組織由来CHO細胞の親株細胞としては、Journal of Experimental Medicine,108,945(1958)、Proc.Natl.Acad.Sei.USA,60,1275(1968)、Genetics,55,513(1968)、Chromosoma,41,129(1973)、Methods in Cell Science,18,115(1996)、Radiation Research,148,260(1997)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216(1980)、Proc.Natl.Acad.Sci.60,1275(1968)、Cell,,121(1975)、Molecular Cell Genetics,Appendix I,II(p883−900)等の文献に記載されているCHO細胞などがあげられる。また、ATCCに登録されているCHO−K1株(ATCC CCL−61)、DUXB11株(ATCCCRL−9096)、Pro−5株(ATCC CRL−1781)や、市販のCHO−S株(Lifetechnologies社 Cat#11619)、あるいはこれら株を生育可能な培地に馴化させた亜株などもあげられる。
ラットミエローマ細胞株YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞の親株細胞としては、Y3/Ag1.2.3細胞(ATCC CRL−1631)から樹立された株化細胞が包含される。その具体的な例としては、J.Cell.Biol.,93,576(1982)、Methods Enzymol.,73B,1(1981)等の文献に記載されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞があげられる。また、ATCCに登録されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC CRL−1662)あるいはこれら株を生育可能な培地に馴化させた亜株などもあげられる。
N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンとしては、該糖鎖構造を認識できるレクチンであれば、いずれのレクチンも包含される。その具体的な例としては、レンズマメレクチンLCA(Lens Culinaris由来のLentil Agglutinin)、エンドウマメレクチンPSA(Pisum sativum由来のPea Lectin)、ソラマメレクチンVFA(Vicia faba由来のAgglutinin)、ヒイロチャワンタケレクチンAAL(Aleuria aurantia由来のLectin)などがあげられる。
本発明において、α1,6−フコース/レクチン耐性細胞としては、一定の有効濃度のレクチン存在下で生育が阻害されない細胞であれば、いずれでもよいが、例えば、以下にあげる少なくとも1つの蛋白質の活性が親株細胞よりも低下または欠失した細胞などがあげられる。
(a)細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースの合成に関与する酵素蛋白質(以下、「GDP−フコース合成酵素」と表記する);
(b)N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素蛋白質(以下、「α1,6−フコース修飾酵素」と表記する);
(c)細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースのゴルジ体への輸送に関与する蛋白質(以下、「GDP−フコース輸送蛋白質」と表記する)。
GDP−フコース合成酵素としては、細胞内で糖鎖へのフコースの供給源である糖ヌクレオチドGDP−フコースの合成に関与する酵素であればいかなる酵素も包含し、細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースの合成に影響を与える酵素などがあげられる。
細胞内の糖ヌクレオチドGDP−フコースは、de novoの合成経路あるいはSalvage合成経路により供給されている。したがって、これら合成経路に関与する酵素はすべてGDP−フコース合成酵素に包含される。
de novoの合成経路に関与するGDP−フコース合成酵素としては、GDP−mannose 4−dehydratase(GDP−マンノース 4−デヒドラターゼ;以下、GMDと表記する)、GDP−keto−6−deoxymannose 3,5−epimerase,4−reductase(GDP−ケト−デオキシマンノース 3,5−エピメラーゼ,4−リダクターゼ;以下、Fxと表記する)などがあげられる。
Salvage合成経路に関与するGDP−フコース合成酵素としては、GDP−beta−L−fucose pyrophosphorylase(GDP−ベータ−L−フコース−ピロホスフォリラーゼ;以下、GFPPと表記する)、Fucokinase(フコキナーゼ)などがあげられる。GMDとしては、配列番号1、2または3で表されるアミノ酸配列を有するGMDがあげられる。
細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースの合成に影響を与える酵素としては、上述の細胞内の糖ヌクレオチドGDP−フコースの合成経路に関与する酵素の活性に影響を与えたり、該酵素の基質となる物質の構造に影響を与える酵素も包含される。
α1,6−フコース修飾酵素としては、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合する反応に関与する酵素であればいかなる酵素も包含される。N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合する反応に関与する酵素としては、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合する反応に影響を与える酵素であればいかなる酵素も包含される。具体的には、α1,6−フコシルトランスフェラーゼやα−L−フコシダーゼなどがあげられる。α1,6−フコシルトランスフェラーゼとしては、配列番号4または5で表されるアミノ酸配列を有するα1,6−フコシルトランスフェラーゼがあげられる。
また、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合する反応に影響を与える酵素としては、上述のN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する反応に関与する酵素の活性に影響を与えたり、該酵素の基質となる物質の構造に影響を与える酵素も包含される。
GDP−フコース輸送蛋白質としては、細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースのゴルジ体への輸送に関与する蛋白質であればいかなる蛋白質も包含され、具体的には、GDP−フコーストランスポーターなどがあげられる。
また、細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースをゴルジ体内へ輸送する反応に影響を与える蛋白質もGDP−フコース輸送蛋白質に包含され、具体的には上述の細胞内糖ヌクレオチドGDP−フコースのゴルジ体への輸送に関与する蛋白質の活性に影響を与えたり、発現に影響を与える蛋白質などがあげられる。
本発明の製造方法に用いられる細胞を取得する方法としては、α1,6−フコース/レクチン耐性細胞を選択することができる手法であればいかなる手法でも用いることができる。具体的には、上述した蛋白質の活性を低下または欠失させる手法などがあげられる。上述の蛋白質の活性を低下または欠失させる手法としては、
(a)蛋白質の遺伝子を標的した遺伝子破壊の手法;
(b)蛋白質の遺伝子のドミナントネガティブ体を導入する手法;
(c)蛋白質についての突然変異を導入する手法;
(d)蛋白質の遺伝子の転写または翻訳を抑制する手法;
などがあげられる(WO02/31140、WO03/085107、WO03/085118)。
本発明において、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞としては、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子の発現または機能を完全に抑制された細胞などがあげられる。したがって、本発明において、ゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞としては、以下に述べる手法を用いて、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子をノックアウトした細胞があげられる。
ゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞の具体的な例としては、標的となる遺伝子のすべてまたは一部がゲノムから削除された細胞があげられる。このような細胞を取得する方法としては、目的とするゲノムの改変を行うことができれば、いずれの手法でも用いることができるが、遺伝子工学的な手法が望ましい。その具体的な手法としては、上述した酵素の活性を低下または欠失させる手法があげられる。
また、上述した、N−グリコシド結合糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性な細胞株を選択する方法を用いることにより、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞を選択することができる。
本発明における抗体組成物としては、疾患に関連する細胞に発現する抗原、もしくは疾患に関連する細胞の増殖や転移など、病態形成に関わる抗原などに対する抗体組成物などがあげられる。具体的にはGD2、GD3、GM2、HER2、CD20、CD22、CD25、CD33、CD52、MAGE、HM1.24、CCケモカイン受容体4(CCR4)、副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)、塩基性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子8、塩基性繊維芽細胞増殖因子受容体、線維芽細胞増殖因子8受容体、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)、上皮性細胞接着分子(EpCam)、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子受容体、PMSA、血管内皮細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子受容体、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、IL−5受容体α鎖などに対する抗体組成物があげられる。
上記の抗体組成物の具体例としては、抗GD2抗体[アンチ・キャンサー・リサーチ(Anticancer Res.),13,331(1993)]、抗GD3抗体[キャンサー・イムノロジー・イムノセラピー(Cancer Immunol.Immunother.),36,260(1993)、WO01/23432、US6437098]、抗GM2抗体[キャンサー・リサーチ(Cancer Res.),54,1511(1994)、US6423511]、抗HER2抗体[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),89,4285(1992)]、抗CD20抗体[ブラッド(Blood),83,435(1994)、WO03/55993]、抗CD22抗体[セミナーズ・イン・オンコロジー(Semmin.Oncol.),30,253(2003)]、抗CD25抗体[ヒューマン・アンティボディズ(Human Antibodies),10,127−142(2001)]、抗CD33抗体[ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー(J.Clin.Oncol.),19,3244(2001)]、抗CD52抗体[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),89,4285(1992)]、抗MAGE抗体[ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー(British J.Cancer),83,493(2000)]、抗HM1.24抗体[モレキュラー・イムノロジー(Molecular Immunol.),36,387(1999)]、抗CCR4抗体[WO01/64754、WO03/18635、WO00/42074、WO99/15666、US6245332]、抗副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)抗体[キャンサー(Cancer),88,2909(2000)]、抗線維芽細胞増殖因子8抗体[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),86,9911(1989)、WO03/002608]、抗線維芽細胞増殖因子8受容体抗体[ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.),265,16455(1990)]、抗上皮細胞成長因子受容体抗体[キャンサー・リサーチ(Cancer Res.),59,1236(1999)]、抗上皮性細胞接着分子抗体[プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),76,1438(1979)]、抗インスリン様増殖因子抗体[ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス・リサーチ(J.Neurosci.Res.),40,647(1995)、WO03/93317]、抗インスリン様増殖因子受容体抗体[ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス・リサーチ(J.Neurosci.Res.),40,647(1995)]、抗PMSA抗体[ジャーナル・オブ・ウロロジー(J.Urology),160,2396(1998)]、抗血管内皮細胞増殖因子抗体[キャンサー・リサーチ(Cancer Res.),57,4593(1997)]、抗血管内皮細胞増殖因子受容体抗体[オンコジーン(Oncogene),19,2138(2000)]、抗RSV抗体[アンティバイラル・リサーチ(Antiviral Res.),47,57−77(2000)]、抗IL−5受容体α鎖抗体(US6018032、US6538111)などがあげられる。具体的な抗体名としては、ハーセプチン(Herceptin)、リツキサン(Rituxan)、キャンパス(Campath)、アバスチン(Avastin)、ベクサー(Bexxar)、リンフォサイド(LymphoCide)、マイロターグ(Mylotarg)、パノレックス(Panorex)、ゼバリン(Zevalin)[ネイチャー・レビューズ・キャンサー(Nat.Rev.Cancer),,118(2001)]、ゼナパックス(Zenapax)、シムレクト(Simulect)、レミケード(Remicade)、シナジス(Synagis)、レオプロ(ReoPro)[ヒューマン・アンティボディズ(Human Antibodies),10,127−142(2001)]、エンブレル(Enbrel)[エキスパート・オピニオン・オン・ファーマコセラピー(Expert Opinion on Pharmacotherapy),,1137−1148(2001)]、ゾレア(Zolair)[レスピラトリー・メディスン(Respiratory Medicine),97,123−129(2003)]などがあげられる。
本発明において、ADCC活性は、51Cr遊離法、lactate dehydrogenase(LDH)遊離法、フローサイトメトリー等によるin vitroの測定系、あるいは動物モデルを用いたin vivoの評価系等で測定することができる。
本発明において、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物とともに用いられる薬剤としては、サイトカイン、抗体などの蛋白質、低分子の薬剤、生物学的応答調節物質(以下BRMと称する)などがあげられる。
サイトカインとしては、インターロイキン(IL)類、コロニー刺激因子(CSF)類、インターフェロン(IFN)類、腫瘍壊死因子(TNF)類、ケモカイン類、あるいはこれらの組み合わせがあげられる。具体的には、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、TNF−α、TNF−β、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−6、IL−7、IL−9、IL−12、IL−15、IL−17、IL−18、IL−21、fractalkine、GM−CSF、G−CSF、M−CSF、SCF、あるいはこれらの組み合わせがあげられる。好ましくはIL−2、IL−15、IFN−α、IFN−γがあげられる。
低分子の薬剤としては、アミフォスチン(エチオール)[amifostine(ethyol)]、シスプラチン(cisplatin)、ダカルバジン(DTIC)[dacarbazine(DTIC)]、ダクチノマイシン(dactinomycin)、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)[mechlorethamine(nitrogenmustard)]、ストレプトゾシン(streptozocin)、シクロフォスファミド(cyclophosphamide)、カルムスチン(BCNU)[carmustine(BCNU)]、ロムスチン(CCNU)[lomustine(CCNU)]、ドキソルビシン(アドリアマイシン)[doxorubicin(adriamycin)]、ドキソルビシンリポ(ドキシル)[doxorubicinlipo(doxil)]、ゲムシタビン(ゲムザール)[gemcitabine(gemzar)]、ダウノルビシン(daunorubicin)、ダウノルビシンリポ(ダウノゾーム)[daunorubicinlipo(daunoxome)]、プロカルバジン(procarbazine)、マイトマイシン(mitomycin)、シタラビン(cytarabine)、エトポシド(etoposide)、メトトレキセート(methotrexate)、5−フルオロウラシル(5−fluorouracil)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビンクリスチン(vincristine)、ブレオマイシン(bleomycin)、パクリタキセル(タキソール)[paclitaxel(taxol)]、ドセタキセル(タキソテア)[docetaxel(taxotere)]、アルデスロイキン(aldesleukin)、アスパラギナーゼ(asparaginase)、ブスルファン(busulfan)、カルボプラチン(carboplatin)、クラドリビン(cladribine)、カンプトテシン(camptothecin)、CPT−11、10−ヒドロキシ−7−エチル−カンプトテシン(SN38)[10−hydroxy−7−ethyl−camptothecin(SN38)]、フロクスウリジン(floxuridine)、フルダラビン(fludarabine)、ヒドロキシウレア(hydroxyurea)、イホスファミド(ifosfamide)、イダルビシン(idarubicin)、メスナ(mesna)、イリノテカン(irinotecan)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、トポテカン(topotecan)、ロイプロリド(leuprolide)、メゲストロール(megestrol)、メルファラン(melpharan)、メルカプトプリン(mercaptopurine)、プリカマイシン(plicamycin)、ミトタン(mitotane)、ペガスパラガーゼ(pegaspargase)、ペントスタチン(pentostatin)、ピポブロマン(pipobroman)、ストレプトゾシン(streptozocin)、タモキシフェン(tamoxifen)、テニポシド(teniposide)、テストラクトン(testolactone)、チオグアニン(thioguanine)、チオテパ(thiotepa)、ウラシルマスタード(uracil mustard)、ビノレルビン(vinorelbine)、クロラムブシル(chlorambucil)、プレドニゾロン(prednisolone)、ビンデシン(vindesine)、ニムスチン(nimstine)、セムスチン(semustin)、カペシタビン(capecitabine)、トムデックス(tomudex)、アザシチジン(azacytidine)、UFT、オキザロプラチン(oxaloplatin)、ゲフィチニブ(イレッサ)[gefitinib(Iressa)]、イマチニブ(STI571)[imatinib(STI571)]、アムサクリン(amsacrine)、オール−トランスレチノイン酸(all−trans retinoic acid)、サリドマイド(thalidomide)、ベキサロテン(ターグレチン)[bexarotene(targretin)]、デキサメタゾン(dexamethasone)、アナストロゾール(アリミデックス)[anastrozole(Alimidex)]、ロイプリン(leuplin)あるいはこれらの組み合わせがあげられる。好ましくは、ビンクリスチン、シクロフォスファミド、エトポシド、メトトレキセートあるいはこれらの組み合わせがあげられる。
抗体としては、上述した抗体があげられる。
本発明におけるBRMとしては、BCG、嫌気性コリネバクテリア、ムラミルジペプチド、トレハロースジミコール酸等の細菌製剤、ピラン共重合体、MVE、ポリ I:C、ピリミジン、チモシン、チムリン、チモポエシン、ピシバニール、フコイダン、クレスチン等があげられる。
本発明の医薬の効果は、例えばin vitroの細胞障害活性測定系によって調べることができる。in vitroの細胞障害活性測定系の例としては、ADCC活性の測定系があげられる。ADCC活性は、抗体の存在下で、抗原を発現する標的細胞と、ヒトあるいはその他の動物より採取した末梢血単核球、単球、マクロファージ、顆粒球等のエフェクター細胞を接触させ、障害された標的細胞の度合いを検出し、これを定量することにより測定することができる。障害された標的細胞の度合いは、51Cr遊離法、標的細胞の酵素活性を検出する方法、フローサイトメーターによる検出法などによって検出することができる。ADCC活性測定系における本発明の免疫担当細胞を活性化させる物質または抗腫瘍活性を有する物質の効果は、ADCC活性測定系中にこれらの物質を添加するか、あるいは標的細胞、またはエフェクター細胞、またはその両者にあらかじめこれらの物質を一定期間曝露してADCC活性に与える影響を観察することにより、測定することができる。
また本発明の医薬の効果は、動物モデルを用いたin vivo抗腫瘍活性を測定することによっても調べることができる。
動物モデルとしては、ヌードマウス等の免疫不全マウスにヒト癌組織由来の培養細胞株を移植した異種移植モデル、培養マウス癌細胞株を正常な免疫系を有する野生型マウスへ移植した同系移植モデルなどがあげられる。
異種移植モデルはヌードマウス等の免疫不全マウスの皮下、皮内、腹腔内、静脈内等様々な部位にヒト癌細胞株を移植することにより作製することができる。
上記動物モデルを用いて抗体の単独投与、免疫担当細胞を活性化させる物質または抗腫瘍活性を有する物質の単独投与の効果と、本発明の医薬の効果とを比較することにより、本発明の医薬の抗腫瘍効果を評価することができる。
本発明の医薬は、単独で投与することも可能ではあるが、通常は薬理学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内等の非経口投与をあげることができ、蛋白質製剤の場合、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
投与形態としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等があげられる。
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。
乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。
カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製される。
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸等の担体を用いて調製される。
また、噴霧剤は該医薬そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該医薬を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製される。
担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該医薬および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1回当たり抗体量として0.1〜20mg/kgである。抗体と併用する薬剤は、単独で臨床に用いられる場合の投与量と同用量またはそれより少ない用量である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、KM2760−1とKM3060のADCC活性に対する各種サイトカインの増強効果を示す。縦軸は細胞障害活性(%)を表す。■はサイトカイン非添加、□はIL−2添加、斜線はIL−15添加時の細胞障害活性をそれぞれ表す。
第2図は、KM3065とRituxanのADCC活性に対する各種サイトカインの増強効果を示す。縦軸は細胞障害活性(%)を表す。図において■はサイトカイン非添加、□はIL−2添加、斜線はIL−15添加時の細胞障害活性をそれぞれ表す。
第3図は、KM3065とRituxanのADCC活性に対する各種サイトカインの増強効果を示す。縦軸は細胞障害活性(%)を表す。図において■はサイトカイン非添加、□はIFN−α添加、斜線はIFN−γ添加時の細胞障害活性をそれぞれ表す。
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2003年12月4日に出願された日本国特許出願2003−406589号の優先権を主張するものであり、当該特許出願の明細書及び/または図面に記載される内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
in vitro細胞障害活性における抗CCR4抗体とサイトカインの併用効果
in vitro細胞障害活性における抗CCR4ヒト型キメラ抗体KM2760−1およびKM3060(WO02/31140)とサイトカインの併用効果を以下の方法により測定した。
KM2760−1はラットミエローマ細胞株YB2/0細胞に抗CCR4キメラ抗体発現株を導入して得られた細胞株KM2760−1#58−35−16より生産された抗CCR4キメラ抗体である。KM2760−1#58−35−16株はレクチン耐性能を有し、KM2760−1の全糖鎖中のフコースが結合しない糖鎖含量は87%である。一方KM3060はCHO/DG44細胞株に抗CCR4キメラ抗体発現株を導入して得られた細胞株5−03より生産された抗CCR4キメラ抗体である。KM3060はレクチン耐性能を有さず、KM3060の全糖鎖中のフコースが結合しない糖鎖含量は8%である。KM2760−1とKM3060は同じアミノ酸配列を有し、抗原結合活性も同等である。
(a)エフェクター細胞溶液の調製
健常人静脈血50mLを採取し、ヘパリンナトリウム(清水製薬社製)0.5mLを加え穏やかに混ぜた。これをMONO−POLY分離溶液(大日本製薬株式会社製)を用いて使用説明書に従い、遠心分離(400g、20分間)して単核球層を分離した。RPMI1640−FCS(5)培地で3回遠心分離して洗浄後、同培地を用いて3×10細胞/mLの濃度で再懸濁し、エフェクター細胞溶液とした。
(b)エフェクター細胞のサイトカインによる刺激
上記(a)で得られたエフェクター細胞溶液を50μLずつ、96穴U底プレート(Falcon社製)に分注した。さらにRPMI1640−FCS(5)で希釈した以下の溶液を50μLずつ添加し、5%COインキュベーター内にて3日間静置した。
(1)RPMI1640−FCS(5)のみ(サイトカイン非添加コントロール)
(2)IL−2(ペプロテック社製)2ng/mL
(3)IL−15(ペプロテック社製)2ng/mL
(c)標的細胞溶液の調製
G418(ナカライテスク社製)を0.5mg/mLで含むRPMI1640−FCS(10)培地(FCSを10%含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製))で培養したCCR4/EL4細胞(CCR4遺伝子を導入したマウス胸腺腫細胞、WO01/64754)を遠心分離操作及び懸濁によりRPMI1640−FCS(5)培地(FCSを5%含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製))で洗浄した後、RPMI1640−FCS(5)培地によって、2×10細胞/mLに調製し、標的細胞溶液とした。
(d)細胞障害活性の測定
(b)で調製した96ウェルU字底プレートの各ウェルに(c)で調製した標的細胞溶液の50μL(1×10細胞/ウェル)を分注した。このときエフェクター細胞と標的細胞の比は15:1となる。更に、KM2760−1、あるいはKM3060を各最終濃度1ng/mLあるいは100ng/mLとなるように加えて全量を200μLとし、37℃で4時間反応させた。反応後、プレートを遠心分離し、上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を、CytoTox96 Non−Radioactive Cytotoxicity Assay(Promega社製)を用いて、添付の説明書にしたがって吸光度データを取得することで測定した。標的細胞自然遊離の吸光度データは、エフェクター細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて、また、エフェクター細胞自然遊離の吸光度データは、標的細胞溶液、抗体溶液の代わりに培地のみを用いて、上記と同様の操作を行うことで取得した。標的細胞全遊離の吸光度データは、抗体溶液、エフェクター細胞溶液の代わりに培地を用い、反応終了45分前に15μLの9%Triton X−100溶液を添加し、上記と同様の操作を行い、上清のLDH活性を測定することにより求めた。ADCC活性は次式により求めた。

第1図に結果を図示した。サイトカイン非添加時のKM2760−1のADCC活性はKM3060のADCC活性よりも高いが、サイトカインの添加によりさらに増強された。この結果は、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物の高いADCC活性は、サイトカインによってさらに上昇することを示す。
【実施例2】
in vitro細胞障害活性における抗CD20抗体とサイトカインの併用効果
in vitro細胞障害活性における抗CD20ヒト型キメラ抗体KM3065(WO03/55993)および市販の抗CD20ヒト型キメラ抗体Rituxan(Genentech社製)とサイトカインの併用効果を実施例1に記載の方法により測定した。
サイトカインはIL−2、IL−15(いずれもPeprotech社製、終濃度1ng/mL)、IFN−α(Peprotech社製、終濃度100ng/mL)、IFN−γ(R&D Systems社製、終濃度100ng/mL)を用いた。KM3065はラットミエローマ細胞株YB2/0細胞に抗CD20キメラ抗体発現株を導入して得られた細胞株KM3065より生産された抗CD20キメラ抗体である。KM3065株はレクチン耐性能を有し、KM3065の全糖鎖中のフコースが結合しない糖鎖含量は96%である。一方Rituxanの全糖鎖中のフコースが結合しない糖鎖含量は6%である。KM3065とRituxanは同じアミノ酸配列を有し、抗原結合活性も同等である。
第2図および第3図に結果を図示した。サイトカイン非添加時のKM3065のADCC活性はRituxanのADCC活性よりも高いが、サイトカインの添加によりさらに増強された。この結果は、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物の高いADCC活性は、サイトカインによってさらに上昇することを示す。
【産業上の利用可能性】
抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と少なくとも1種類の薬剤とを用いる医薬は、高い治療効果を有することが期待される。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを組み合わせてなる医薬。
【請求項2】
抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを併用して投与するための医薬。
【請求項3】
抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物と、少なくとも1種類の薬剤とを同時に又は逐次的に投与するための医薬。
【請求項4】
抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖の割合が50%以上である抗体組成物を単独で投与した場合よりも、高い治療効果を示すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項5】
高い治療効果を示すことが、高い抗体依存性細胞障害活性を示すことである、請求項4記載の医薬。
【請求項6】
抗体組成物が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位とフコースの1位がα結合した糖鎖構造を認識するレクチンに耐性を有する細胞から生産される抗体組成物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項7】
抗体組成物が、抗体組成物中に含まれるFc領域に結合する全N−グリコシド結合複合型糖鎖のうち、糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖である抗体組成物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
フコースが結合していない糖鎖が、該フコースの1位がN−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にα結合していない糖鎖である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項9】
抗体組成物が、N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素のゲノム遺伝子がノックアウトされた細胞から生産された抗体組成物である、請求項7または8記載の医薬。
【請求項10】
N−グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN−アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素が、α1,6−フコシルトランスフェラーゼである請求項9記載の医薬。
【請求項11】
薬剤が、蛋白質、低分子の薬剤および生物学的応答調節剤からなる群から選ばれる物質である請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項12】
蛋白質が、サイトカインまたは抗体である、請求項11記載の医薬。
【請求項13】
サイトカインが、IFN−γ、IL−2およびIL−15から選ばれるサイトカインである請求項12に記載の医薬。
【請求項14】
医薬が、腫瘍を伴う疾患に対する治療薬である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬。

【国際公開番号】WO2005/053742
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516043(P2005−516043)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018441
【国際出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】