説明

抗体結合タンパク質およびそれの製造方法

【課題】 ヒト抗体に対する結合親和性が向上したタンパク質、およびその製造方法を提供すること。
【解決の手段】 ヒトFcレセプターFcγRIのうち、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチド、または前記ポリペプチドを複数連結したポリペプチドのN末端側に、ヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加したタンパク質、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および前記ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体を用いることで、ヒト抗体に対する結合親和性が向上したタンパク質を製造することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト抗体に対する結合親和性の高いタンパク質、および遺伝子工学的手法を用いた前記タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcレセプターとは免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群のタンパク質分子である。個々の分子種は免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFc認識ドメインによって、単一の、あるいは同じグループの免疫グロブリンイソタイプをFcレセプター上の結合ドメインによって認識する。これによって一定の免疫応答においてどのアクセサリー細胞が動員されるかが決まってくる(非特許文献1)。Fcレセプターは、さらにサブタイプに分類することができ、IgG(免疫グロブリンG)に対するレセプターはFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIの存在が報告されている(非特許文献1)。なかでも、FcγRIとIgGの結合親和性は高く、その平衡解離定数(K)は10−8M以下である(非特許文献2)。FcγRIはIgG(免疫グロブリンG)に対するレセプターであり、単球とマクロファージ上に構成的に発現され、好中球および好酸球上においては誘導的に発現される。FcγRIは、細胞外領域、細胞膜貫通領域、細胞質内領域に区分され、IgGとの結合は、IgG分子Fc領域とFcγRIの細胞外領域で起こり、その後細胞質へとシグナルが伝達される。FcγRIはIgGとの結合に直接関わるα鎖と、γ鎖の2種類のサブユニットによって構成されており、γ鎖は細胞膜と細胞外領域の境界にあるアミノ酸システインを介した共有結合によりホモダイマーを形成している(非特許文献1)。
【0003】
近年になり、Fcレセプターの予想外の免疫抑制的な生物学的特性は、特に、自己免疫疾患または自己免疫症候群、移植物の拒絶および悪性リンパ増殖の領域において医薬として注目を浴びつつある(非特許文献2)。
【0004】
ヒトFcレセプターFcγRIα鎖のアミノ酸配列および遺伝子塩基配列は非特許文献3により明らかにされ、その後、遺伝子組換え技術により、大腸菌(特許文献1)あるいは動物細胞を利用した発現が報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−531086号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.V.Ravetch等,Annu.Rev.Immunol.,9,457,1991
【非特許文献2】Toshiyuki Takai,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318,2005
【非特許文献3】J.M.Allen等,Science,243,378,1989
【非特許文献4】A.Paetz等,Biochem.Biophys.Res.Commun.,338,1811,2005
【非特許文献5】Yasukawa K.等、J.Biochem.,108,673,1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した通り、ヒトFcレセプターFcγRIのIgG分子Fc領域に対する結合親和性は平衡解離定数(K)として10−8M以下と極めて高いものの、血液中に含まれるIgG分子を捕捉・定量するためには、分子あたりの抗体結合性をさらに向上させる必要があった。そこで本発明は、ヒトIgG抗体に対する結合親和性が向上したタンパク質、および前記タンパク質の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する:
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドのN末端側に、ヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加した、タンパク質。
【0009】
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドを複数連結したポリペプチドのN末端側に、ヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加した、タンパク質。
【0010】
(3)配列番号6または8に記載のアミノ酸配列からなる、タンパク質。
【0011】
(4)(1)から(3)のいずれかに記載のタンパク質をコードする、ポリヌクレオチド。
【0012】
(5)(4)に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【0013】
(6)(5)に記載のベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【0014】
(7)(6)に記載の形質転換体を用いた、タンパク質の製造方法。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
1.本発明のタンパク質
ヒトFcレセプターFcγRIタンパク質は図1に示すように、N末端側から15アミノ酸からなるシグナルペプチド領域(SS、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち−15番目から−1番目までの領域)、277アミノ酸の細胞外領域(EC、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち1番目から277番目までの領域)、21アミノ酸の細胞膜貫通領域(TM、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち278番目から298番目までの領域)、61アミノ酸の細胞内領域(C、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち299番目から359番目までの領域)からなる。このうち、IgG分子Fc領域と結合性を有する領域は細胞外領域、特にその中の抗体結合ドメイン(BR、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち80番目から179番目)であり、当該領域でIgG抗体を直接捕捉している。
【0017】
本発明のタンパク質における、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列からなるポリペプチドとは配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち80番目から179番目のアミノ酸(配列番号4に記載のアミノ酸配列)からなるポリペプチドのことをいい、細胞外領域の抗体結合ドメインの概ね全体配列からなるポリペプチドとは配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち80番目から179番目のアミノ酸からなるポリペプチドのうちN末端側および/またはC末端側の1から10アミノ酸を付加および/または削除したポリペプチドのことをいう。
【0018】
本発明のタンパク質における、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドの連結数は、抗体結合活性を損なわない限り連結することができるが、タンパク質の分子量が概ね10万を超えると取り扱いが困難となることから、2から10が好ましい。また、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドを連結する際には、直接前記ポリペプチド同士を直接連結させてもよいし、IgG分子Fc領域に対する抗体親和性、および菌体外に分泌可能なだけの可溶性を有する範囲で適宜リンカーペプチドを挿入してもよい。
【0019】
本発明のタンパク質の一態様として、N末端側から15アミノ酸のシグナルペプチド領域(配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち−15番目から−1番目までの領域)、連結領域(6アミノ酸)、細胞外領域の抗体結合ドメイン(配列番号4に記載のアミノ酸)からなる、配列番号6に記載のタンパク質をあげることができる。
【0020】
本発明のタンパク質の別の態様として、N末端側から15アミノ酸のシグナルペプチド領域(配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち−15番目から−1番目までの領域)、連結領域(6アミノ酸)、1つ目の細胞外領域の抗体結合ドメイン(配列番号4に記載のアミノ酸)、連結領域(2アミノ酸)、2つ目の細胞外領域の抗体結合ドメイン(配列番号4に記載のアミノ酸)からなる、配列番号8に記載のタンパク質をあげることができる。
【0021】
2.本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド
本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドのN末端側にヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加したタンパク質、または、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドを複数連結したポリペプチドのN末端側にヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加したタンパク質をコードするポリヌクレオチドのことをいう。なお、遺伝子組み換え技術を用いて本発明のタンパク質を製造する場合は、前記タンパク質のアミノ酸配列をヌクレオチド配列に変換する際に、組み換え対象宿主細胞におけるコドンの使用頻度を考慮のうえ変換するのが好ましい。一例としてBrevibacillus choshinensisを宿主とする場合は、セリン(Ser)ではTCA、ロイシン(Leu)ではCTA、アルギニン(Arg)ではCGG/AGA/AGG、イソロイシン(Ile)ではATAへの変換をそれぞれ避けて変換するのが好ましい(特願2008−046438号参照)。
【0022】
本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの一態様として、配列番号6に記載のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換した配列番号5に記載のポリヌクレオチド、配列番号8に記載のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換した配列番号7に記載のポリヌクレオチドをあげることができる。
【0023】
3.本発明のタンパク質製造方法
本発明のタンパク質の製造方法としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIから適当な試薬を用いて細胞外領域の抗体結合ドメインを含んだポリペプチドを調製し、前記ペプチド同士を直接またはリンカーを介したペプチド結合により製造する方法、および本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを設計し、前記ポリヌクレオチドから遺伝子工学的手法を用いて製造する方法があげられるが、後者の製造方法が、本発明のタンパク質を簡便かつ大量に生産できる点で好ましい。以下、後者の製造方法について詳細に説明する。
【0024】
本発明のタンパク質を遺伝子工学的手法により製造するために必要な、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの取得方法としては、
(1)目的とする本発明のタンパク質のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換し、前記ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを人工的に合成して取得する方法、
(2)ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメイン(配列番号3に記載のヌクレオチド配列)の全体配列または概ね全体配列からなるポリヌクレオチドを、直接人工的に、またはヒトFcγRIのcDNAなどからPCR法といったDNA増幅法を用いて調製し、調製した前記ポリヌクレオチドを適当な方法で連結し取得する方法、
が例示できる。
【0025】
(1)の方法で取得する場合において、アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際は、前述したように、組み換え対象宿主細胞におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。(2)の方法で取得する場合において、配列番号1に記載のヒトFcγRIのヌクレオチド配列から直接人工的にヒトFcγRI細胞外領域ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリヌクレオチドを調製する際は、組み換え対象宿主細胞におけるコドンの使用頻度を考慮のうえ、使用頻度が低いコドン、いわゆるレアコドン(rare codon)に該当する場合は、使用頻度の高いコドンにあらかじめ変換後、調製するのが好ましい(特願2008−046438号参照)。
【0026】
また、(1)、(2)いずれの方法で本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得する場合においても、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド同士を、または前記ポリヌクレオチドに発現ベクターを連結させるための制限酵素認識配列、もしくは発現したヒトFcγRIの抗体結合ドメインの簡便な精製・定量を可能にするためのタグ配列を付加してもよい。前記付加する制限酵素認識配列としては、ベクターおよび連結するDNA断片のポリヌクレオチド配列を考慮のうえ適切な配列を選択すればよい。前記付加するタグ配列としては、遺伝子工学で多用される、ポリヒスチジンタグやc−mycタグといったオリゴペプチドをコードするヌクレオチド配列が例示できる。また、タグ配列を付加する箇所は前記ポリヌクレオチドの5’末端側に付加してもよいし、3’末端側に付加してもよい。
【0027】
本発明のタンパク質を、遺伝子工学的手法を用いて製造するために使用する発現ベクターとしては、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを発現させるためのポリヌクレオチドおよび宿主中で発現ベクターを複製するための複製起点を有し、かつ、選定された宿主を形質転換できるものであれば、適宜選択し使用できるが、通常は取り扱いの容易な発現プラスミドを用いる。本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現させるためのポリヌクレオチドとしては、乳糖プロモータ系、トリプトファンプロモータ系、GAL4プロモータ系、SV40プロモータ系、アデノウイルスプロモータ系に由来するポリヌクレオチドが例示でき、宿主との関係において適宜選定すればよいが、宿主がCOS細胞やCHO細胞といった細胞の場合は、プロモーター系としてSV40プロモータ系に由来するポリヌクレオチドが好ましい。また、前記発現ベクターを用いて形質転換する操作にあたり、発現ベクターが導入されなかった宿主と導入された宿主との選別を可能にするために、発現ベクター中にアンピシリンといった薬剤に対する耐性を宿主に付与するためのポリヌクレオチド(薬剤耐性遺伝子)を含んでいるのが好ましい。
【0028】
本発明のタンパク質を、遺伝子工学的手法を用いて製造するために使用する宿主としては、安定的にタンパク質を発現可能なCOS細胞やCHO細胞(チャイニーズハムスターの卵巣細胞)を例示することができる。また、前記細胞に、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含んだ発現プラスミドを導入し、さらに特定の薬剤に対する耐性も付与した細胞について、薬剤に対する耐性の強さから前記細胞のスクリーニングを行なうことで、本発明のタンパク質を高発現する細胞を得ることができる。前記スクリーニングにおいて、薬剤としてはメソトレキセート(MTX)、耐性濃度としては数μM以上がそれぞれ好ましい。MTXに対する耐性の付与方法は、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドにジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(dhfr)が含まれていればよい。
【0029】
本発明のタンパク質は細胞外領域の抗体結合ドメインから構成されるため、生産に用いた培養液、または培養上清から、通常の生理活性タンパク質回収法によって分離精製することができる。分離精製方法としては、市販のHPLC、カラムクロマトグラフィーを例示することできる。また、培無血清培地を用いて培養液中の他のタンパク質を減少させることにより、前述したタンパク質の分離回収効率を高めることもできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドのN末端側に、ヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加していることを特徴としており、配列番号2に記載のヒトFcγRIと同様に抗体結合性を有している。このことは、個体発生および免疫機能の研究、およびこれらの研究成果に基づく治療診断薬等の開発に大きな意義を持つ。また、抗FcγRI抗体を作製するための免疫源、およびFcγRIの免疫化学測定方法の標準物質として用いることもできる。
【0031】
また、本発明のタンパク質を適当なクロマトグラフィー担体(例えば、His・Bind Resinゲル(Novagen社製)、HisTrap NHS−Activated HP(GEヘルスケアバイオサイエン社製)、トレシル基活性型ダイナビーズ(Dynal社製))に固定することで、ヒトモノクローナル抗体といった抗体を精製する吸着剤として用いることもできる。
【0032】
なお、本発明のタンパク質はIgG抗体に対する親和性を有したまま、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcγRIと比較し、分子量を低減させることができる。そのため、本発明のタンパク質の別の態様である、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドを複数連結したポリペプチドのN末端側に、ヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加したタンパク質において、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列もしくは概ね全体配列からなるポリペプチドの連結数を多くすることができ、IgG抗体に対する結合親和性をより向上させることが可能である。
【0033】
さらに、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを適切な発現ベクターに連結し、このベクターを宿主細胞に形質転換して得られる形質転換体を用いて、本発明のタンパク質を製造することで、IgG抗体に対する結合親和性の高いタンパク質を簡便かつ大量に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ヒトFcレセプターFcγRIの細胞外領域である可溶性FcγRIおよび抗体結合ドメインの構造を示す図である。SSはシグナルペプチド、ECは細胞外領域、TMは細胞膜貫通領域、Cは細胞質内領域をそれぞれコードする領域、BRは抗体結合ドメインを示す。図の上部の数字はそれぞれの領域のヌクレオチドをコードするアミノ酸数を示す。
【図2】プラスミドpECEFcB1dhfrの遺伝子地図を示す図である。
【図3】プラスミドpECEFcB2dhfrの遺伝子地図を示す図である。
【図4】プラスミドpECEFcB1dhfrにより形質転換されたCOS7細胞の培養上清より調製したヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを1つ含むタンパク質溶液のELISA測定結果を示す図である。
【図5】プラスミドpECEFcB1dhfrにより形質転換されたCOS7細胞の培養上清より調製したヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを1つ含むタンパク質溶液のELISA測定結果を示す図である。
【図6】プラスミドpECEFcB2dhfrにより形質転換されたCOS7細胞の培養上清より調製したヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを2つ連結したタンパク質溶液の抗体結合活性の測定結果を示す図である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例1 発現プラスミドの作製(その1)
ヒトFcレセプターFcγRI細胞外領域のうち抗体結合ドメインを含むタンパク質を発現可能なプラスミドの作製を、以下の方法で行なった。
(1)ヒトFcγRI細胞外領域のうち抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを以下の方法で調製した。
(1−1)Human cDNA clone SC119841プラスミド(Origene社製)をテンプレートとし、配列番号9(5’−CCCATACAGCTGGAAATCCACAGAGGC−3’、配列番号1の283から309番目の塩基に相当)と配列番号10(5’−GC[TCTAGA]TCAGTGGTGGTGGTGGTGGTG[ACTAGT]AGTGACAGATATTCCTGCTGATGTG−3’:角かっこ部分はそれぞれ制限酵素XbaI、SpeIの認識配列、36から60番目の塩基は配列番号1の528から552番目の塩基の相補鎖に相当)のオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして使用した。なお、ヒトFcγRIの調製および定量を行なうために、発現させるタンパク質のC末端側にポリヒスチジンタグが付加されるようにPCRプライマーを設計した。
(1−2)PCR反応を、94℃・5分の熱処理後、94℃・30秒間の第一ステップ、65℃・30秒間の第二ステップ、72℃・1分間の第三ステップを25サイクル行ない、最後に、72℃・7分の条件で行なった。反応液組成を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
(1−3)PCR反応終了後、2%のアガロース電気泳動にて、設計通りのサイズに相当するバンドを確認した。
(1−4)目的産物に相当するバンドをアガロースゲルから抽出(QIAquick Gel extraction kit(商品名):キアゲン社製)し、ヒトFcγRIの抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製した。
(2)(1)で調製したポリヌクレオチドにヒトFcγRIのシグナルペプチド領域をコードするポリヌクレオチドを、以下の方法で連結した。
(2−1)(1)で調製したポリヌクレオチドと、配列番号11(5’−GA[AGATCT]ATGTGGTTCTTGACAACTCTGCTCCTTTGGGTTCCAGTTGATGGGCAAGTGGACACCACAAAGCCCATACAGCTGGAAATCCACAGAGG−3’:角かっこ部分は制限酵素BglIIの認識配列、9から71番目の塩基は配列番号1の1から63番目の塩基に相当)のオリゴヌクレオチドとを等モル量で混合し、PCRを(1−2)に記載の条件のうちサイクル数を5回に変更した条件で行ない、両ヌクレオチドを連結した。なお、配列番号11のオリゴヌクレオチドは5’末端側にヒトFcγRIのシグナルペプチド領域をコードするポリヌクレオチドが付加され、3’末端側は抗体結合ドメインのN末端側をコードするポリヌクレオチドとなるよう設計した。
(2−2)(2−1)のPCR反応液をテンプレートとし、配列番号10と配列番号12(5’−GA[AGATCT]ATGTGGTTCTTGACAACTCTGCTCC−3’:角かっこ部分は制限酵素BglIIの認識配列、9から33番目の塩基は配列番号1の1から25番目の塩基に相当)のオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして使用した他は、(1−2)と同様に行なった。
(2−3)PCR終了後、(1−3)および(1−4)と同様の方法により、ヒトFcγRIのシグナルペプチド領域を連結した抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製した。
(3)(2)で調製したポリヌクレオチドを制限酵素BglIIとXbaIにより消化後、これらの制限酵素により事前に消化したプラスミドpECEdhfr(非特許文献5)とライゲーションし(Ligation Kit Ver.2:タカラバイオ社製)、50μg/mLの抗生物質カルベシニリンを添加したLB寒天培地を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。
(4)(3)の形質転換体を50μg/mLの抗生物質カルベシニリンを含むLB培地により培養(37℃、18時間)し、QIAprep Spin Miniprep Kit(商品名、キアゲン社製)によりプラスミドを抽出した。
(5)抽出プラスミドを制限酵素BglIIとXbaIにより消化し、2%のアガロース電気泳動に供した。
【0039】
結果、インサートサイズから設計通りであることを確認し、これをpECEFcB1dhfrとした。図2にpECEFcB1dhfrの構造概略を示す。
【0040】
実施例2 発現プラスミドの作製(その2)
ヒトFcレセプターFcγRI細胞外領域のうち抗体結合ドメインを2つ連結したタンパク質を発現可能なプラスミドの作製を、以下の方法で行なった。
(1)ヒトFcγRIの抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを以下の方法で調製した。
(1−1)Human cDNA clone SC119841プラスミド(Origene社製)をテンプレートとし、配列番号13(5’−CG[GCTAGC]CCCATACAGCTGGAAATCCACAGAGGC:角かっこ部分は制限酵素NheIの認識配列、9から35番目の塩基は配列番号1の283から309番目の塩基に相当)と配列番号14(5’−GG[ACTAGT]AGTGACAGATATTCCTGCTGATGTG−3’:角かっこ部分は制限酵素SpeIの認識配列、9から33番目の塩基は配列番号1の528から552番目の塩基の相補鎖に相当)のオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして使用した他は、実施例1の(1−2)と同様にPCR反応を行なった。
(1−2)実施例1の(1−3)および(1−4)と同様な方法で、目的産物を精製し、ヒトFcγRIの抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製した。
(2)(1)で調製したポリヌクレオチドを制限酵素NheIとSpeIにより消化し、制限酵素SpeIにより事前に消化した実施例1で作製したプラスミドpECEFcB1dhfr(図2)と実施例1の(3)から(5)と同様な方法でライゲーションし、形質転換およびプラスミド抽出を行なった。なお、制限酵素NheIとSpeIで消化した断片はライゲーション可能であるが、再消化することはできない。この性質を利用して、複数のポリペプチドを連結する際は制限酵素SpeIおよびBglII消化により挿入断片の挿入方向を確認することができる。
(3)抽出プラスミドを制限酵素BglIIとXbaIにより消化し、2%のアガロース電気泳動に供し、インサートサイズから設計通りであることを確認した。また、制限酵素BglIIとSpeIにより消化して同様に電気泳動に供し、消化断片が制限酵素BglIIとXbaIの消化断片と同じもの、すなわち、挿入した抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドがNheIとSpeIでライゲーションし、プラスミドpECEFcB1dhfr(図2)の抗体結合ドメインのDNA配列と同方向になっているものを選択した。
【0041】
結果、インサートサイズおよび制限酵素BglIIとSpeI消化断片長から設計通りであることを確認し、これをpECEFcB2dhfrとした。図3にpECEFcB2dhfrの構造概略を示す。
【0042】
実施例3 発現プラスミドの塩基配列の確認
実施例1および2で作製したプラスミドpECEFcB1dhfr(図2)、pECEFcB2dhfr(図3)に挿入されている、ヒトFcレセプターFcγRIの抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列をチェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit(商品名、PEアプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 310 DNA analyzer(PEアプライドバイオシステム社製)において解析した。なお、シークエンスは挿入配列を制限酵素BglIIとXbaIにより消化し、DNA Blunting Kit(タカラバイオ社製)を用いてDNA末端を平滑化し、事前にSmaI処理したプラスミドpUC19(タカラバイオ社製)に挿入して行なった。シークエンス用プライマーとして、配列番号15(5’−CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGAC−3’)と配列番号16(5’−GAGCGGATAACAATTTCACACAGG−3’)に示すオリゴヌクレオチドを使用した。
【0043】
解析の結果、プラスミドpECEFcB1dhfr、pECEFcB2dhfrに挿入されている、ヒトFcγRIの抗体結合ドメインからなるタンパク質をコードするDNAの塩基配列はいずれも設計通りであることを確認した。ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを含むタンパク質をコードするヌクレオチド配列を配列番号5に、前記ドメインを2つ連結したタンパク質をコードするヌクレオチド配列を配列番号7に、それぞれ示す。
【0044】
実施例4 COS細胞を用いたタンパク質の発現
ヒトFcレセプターFcγRI細胞外領域における抗体結合ドメインを1つまたは2つ連結したタンパク質を分離精製した。具体的には以下の通りである。
(1)実施例1および2で作製したプラスミドpECEFcB1dhfr(図2)、pECEFcB2dhfr(図3)を、リポフェクトアミン(インビトロジェン社製)を用いてCOS7細胞に導入し、10% FCSを含むD−MEM培地(GIBCO社製)で培養することで(37℃、3日間)、一過的に細胞外へタンパク質を発現させ、培養後、培養液を回収した。
(2)培養上清約1Lを、20mM酢酸緩衝液(pH5.2)で透析し脱塩処理を施した。
(3)20mM酢酸緩衝液(pH5.2)で平衡化した300mLのStreamline SPゲル(商品名、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を備えた吸着流動床システム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に添加し、同緩衝液で洗浄後、10%グリセロール、1M NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)により溶出し、ヒトIgG結合活性を含むタンパク質の濃縮画分を調製した。
(4)(3)で得られた濃縮画分を、20mM イミダゾール、500mM NaClを含む20mM リン酸緩衝液(pH7.4)に透析し、同緩衝液で平衡化したHisTrap HSカラム(商品名、GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に添加し、洗浄後、500mM イミダゾール、500mM NaClを含む20mM リン酸緩衝液(pH7.4)で溶出することで、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを含むポリペプチド(約30μg)または前記ペプチドを2つ連結したタンパク質(約50μg)精製標品を得た。なお、タンパク質濃度の定量は、ウシガンマグロブリンを標準タンパク質としてブラッドフォード法に基づくプロテインアッセイキット(Bio−Rad社製)を用いて行なった。
【0045】
実施例5 発現したタンパク質の抗体結合活性の評価
実施例4で調製したタンパク質を用いて、抗体結合活性を以下の方法でELISA法により評価した。
(1)96穴のELISAプレート(Nunc社製)に100μg/mLから段階的に希釈したガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)または10μg/mLのガンマグロブリン製剤を各ウェルに100μLずつ添加し、4℃で18時間静置することによりガンマグロブリンを固相に固定化した。
(2)TBS緩衝液(0.2%(w/v)Tween 20、150mM NaClを含むTris−HCl緩衝液(pH8.0))で洗浄後、Starting Block Blocking Buffers(PIERCE社製)によりブロッキング操作を行なった。
(3)TBS緩衝液で洗浄後、調製した培養上清の精製濃縮液を100μL添加し、(1)で固定化したヒトガンマグロブリンと反応させた(30℃、2時間)。
(4)(3)の反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、His−probe(H−15)HRP抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を添加した。
(5)(4)の反応終了後、TBS緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を添加し450nmの吸光度を測定した。
【0046】
評価結果を図4、5および6に示す。図4および5の通り、プラスミドpECEFcB1dhfrにより形質転換されたCOS7細胞の培養上清の精製濃縮液に抗体結合活性が検出された。すなわち、pECEFcB1dhfrに挿入された、ヒトFcレセプターFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを含むポリペプチドからなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドにより、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを含むポリペプチドからなるタンパク質を得ることができ、かつ、当該タンパク質がヒト抗体に結合活性を保持していることを示している。また、図6の通り、プラスミドpECEFcB2dhfrにより形質転換されたCOS7細胞の培養上清の精製濃縮液に抗体結合活性が検出された。すなわち、pECEFcB2dhfrに挿入された、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを含むポリペプチドが2つ連結したタンパク質をコードするポリヌクレオチドにより、ヒトFcγRI細胞外領域の抗体結合ドメインを含むポリペプチドが2つ連結したタンパク質を得ることができ、かつ、当該タンパク質がヒト抗体に結合活性を保持していることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドのN末端側に、ヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加した、タンパク質。
【請求項2】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcレセプターFcγRIのうち、細胞外領域の抗体結合ドメインの全体配列または概ね全体配列からなるポリペプチドを複数連結したポリペプチドのN末端側に、ヒトFcレセプターFcγRIのシグナルペプチドを付加した、タンパク質。
【請求項3】
配列番号6または8に記載のアミノ酸配列からなる、タンパク質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のタンパク質をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターで宿主を形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を用いた、タンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−115082(P2011−115082A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274352(P2009−274352)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)公益財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】