説明

抗体製剤

本発明は、場合によっては事前に凍結乾燥処理されていない治療的有効量の抗体、pHを約4.0から約6.0の範囲に維持するバッファー、及び任意界面活性物質を含んでなる安定した水性薬学的製剤、かかる製剤の作成方法、及びかかる製剤の使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本発明は、2009年12月21日に出願された米国仮出願第61/288,535号の優先権を主張するものであり、その内容は出典明記によりその全体を本明細書中に援用する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、抗体を含んでなる安定した水性薬学的製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ここ数年、バイオテクノロジーにおける進歩は、組換えDNA技術を使用し、薬学的使用のための様々なタンパク質の生産を可能にした。タンパク質は従来の有機及び無機薬剤と比べより大きくより複雑であるため(例えば複雑な三次元構造に加えて複数の官能基を有する)、このようなタンパク質の製剤は特別な問題を提示する。タンパク質が生物学的活性を保つためには、製剤は、タンパク質のアミノ酸の少なくともコア配列のコンフォメーション完全性を無傷なまま保持すると同時に、タンパク質の複数の官能基を分解から保護しなければならない。タンパク質の分解経路は化学的不安定性(例えば、新規な化学物質を生じる結合形成又は切断によるタンパク質の修飾を含む任意のプロセス)又は物理的不安定性(例えば、タンパク質の高次構造の変化)を含みうる。化学的不安定性は、アミド分解、ラセミ化、加水分解、酸化、ベータ脱離又はジスルフィド交換から生じうる。物理的不安定性は、例えば変性、凝集、沈殿又は吸着から生じうる。3つの最も一般的なタンパク質分解経路はタンパク質凝集、アミド分解及び酸化である。Cleland等 Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 10(4): 307-377 (1993)。
【0004】
薬学的応用のために使用されるタンパク質に含まれるものは抗体である。治療に有用である抗体の例は、抗VEGFに結合する抗体である。当分野において、治療的使用に適切である、抗VEGF抗体等の抗体を含んでなる安定した水性薬学的製剤に対する需要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、場合によっては事前に凍結乾燥処理されていない治療的有効量の抗体、pHを約4.0から約6.0の範囲に維持するバッファー、及び任意界面活性物質を含んでなる安定した水性薬学的製剤、該製剤の作成方法及び該製剤の使用方法を提供する。
【0006】
本発明の一実施態様は、安定した水性薬学的製剤において、pH4.0から6.0のアルギニンバッファー中に治療的有効量の抗体を含んでなる製剤を提供する。幾つかの実施態様では、バッファーはpH4.5から5.5のアルギニン酢酸バッファーである。幾つかの実施態様では、バッファーはpH4.8から5.4のアルギニン酢酸バッファーである。幾つかの実施態様では、バッファーはpH5.2のアルギニン酢酸バッファーである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約25mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約50mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約75mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約100mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約120mMから約240mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約150mMから約225mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約200mMである。幾つかの実施態様では、製剤は界面活性物質を更に含有する。幾つかの実施態様では、界面活性物質はポリソルベートである。幾つかの実施態様では、ポリソルベートはポリソルベート20である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.0001%から約1.0%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は約0.01%から約0.05%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.04%である。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから200mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約30mg/mlから175mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから約100mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体は事前に凍結乾燥処理されていない。幾つかの実施態様では、抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は完全長抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はIgG1抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は、抗原結合領域を含んでなる抗体断片である。幾つかの実施態様では、抗体断片はFab又はF(ab’)2断片である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はベバシズマブである。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は凝集に感受性である。幾つかの実施態様では、バッファーは200mMのpH5.2のアルギニン酢酸であり、界面活性物質は約0.01−0.1%v/vの量におけるポリソルベートであり、製剤は約40°Cの温度で少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は無菌である。幾つかの実施態様では、製剤は約40oCでの保管において少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は水性であり、被験体に投与される。幾つかの実施態様では、製剤は、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与である。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。
【0007】
本発明の別の実施態様では、治療的有効量の抗体、約pH4.5から約6.0のアルギニン酢酸バッファー、及び界面活性物質を含んでなる安定した水性薬学的製剤を収容する容器を含んでなる製造品を提供する。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから200mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約30mg/mlから175mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから約100mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体は事前に凍結乾燥処理されていない。幾つかの実施態様では、抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は完全長抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はIgG1抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は、抗原結合領域を含んでなる抗体断片である。幾つかの実施態様では、抗体断片はFab又はF(ab’)2断片である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はベバシズマブである。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は凝集に感受性である。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約25mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約50mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約75mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約100mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約120mMから約240mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約150mMから約225mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約200mMである。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.5から約5.5のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.8から約5.4のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約5.2のpHを有する。幾つかの実施態様では、界面活性物質はポリソルベートである。幾つかの実施態様では、ポリソルベートはポリソルベート20である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.0001%から約1.0%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は約0.01%から約0.05%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.04%である。幾つかの実施態様では、製剤は無菌である。幾つかの実施態様では、製剤は約40oCでの保管において少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は水性であり、被験体に投与される。幾つかの実施態様では、製剤は、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与である。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。
【0008】
本発明の更なる実施態様では、治療的有効量の抗体、pH約4.5から約6.0のアルギニン酢酸バッファー、及び界面活性物質を組み合わせることにより、水性薬学的製剤中における抗体を安定化させる方法を提供する。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから200mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約30mg/mlから175mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから約100mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体は事前に凍結乾燥処理されていない。幾つかの実施態様では、抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は完全長抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はIgG1抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は、抗原結合領域を含んでなる抗体断片である。幾つかの実施態様では、抗体断片はFab又はF(ab’)2断片である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はベバシズマブである。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は凝集に感受性である。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約25mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約50mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約75mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約100mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約120mMから約240mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約150mMから約225mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約200mMである。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.5から約5.5のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.8から約5.4のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約5.2のpHを有する。幾つかの実施態様では、界面活性物質はポリソルベートである。幾つかの実施態様では、ポリソルベートはポリソルベート20である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.0001%から約1.0%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は約0.01%から約0.05%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.04%である。幾つかの実施態様では、製剤は無菌である。幾つかの実施態様では、製剤は約40oCでの保管において少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は水性であり、被験体に投与される。幾つかの実施態様では、製剤は、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与である。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。
【0009】
本発明の更なる別の実施態様は、治療的有効量の抗体、200mMのpH5.2のアルギニン酢酸バッファー、及び界面活性物質を含んでなる安定した水性薬学的製剤を提供する。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから200mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約30mg/mlから175mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから約100mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体は事前に凍結乾燥処理されていない。幾つかの実施態様では、抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は完全長抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はIgG1抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は、抗原結合領域を含んでなる抗体断片である。幾つかの実施態様では、抗体断片はFab又はF(ab’)2断片である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はベバシズマブである。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は凝集に感受性である。幾つかの実施態様では、界面活性物質はポリソルベートである。幾つかの実施態様では、ポリソルベートはポリソルベート20である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.0001%から約1.0%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は約0.01%から約0.05%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.04%である。幾つかの実施態様では、製剤は無菌である。幾つかの実施態様では、製剤は約40oCでの保管において少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は水性であり、被験体に投与される。幾つかの実施態様では、製剤は、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与である。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。
【0010】
本発明の更なる実施態様は、(a)約10mg/mLから約250mg/mLの量において脱アミド又は凝集に感受性である完全長IgG1;(b)pH4.5から6.0のアルギニン酢酸バッファー;及び(c)約0.01%から約0.1%の量のポリソルベート20を含んでなる薬学的製剤を提供する。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから200mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約30mg/mlから175mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから約100mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体は事前に凍結乾燥処理されていない。幾つかの実施態様では、抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はベバシズマブである。幾つかの実施態様では、抗体はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約25mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約50mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約75mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約100mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約120mMから約240mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約150mMから約225mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約200mMである。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.5から約5.5のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.8から約5.4のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約5.2のpHを有する。幾つかの実施態様では、ポリソルベート20は約0.01%から約0.05%である。幾つかの実施態様では、ポリソルベート20は0.04%である。幾つかの実施態様では、製剤は無菌である。幾つかの実施態様では、製剤は約40oCでの保管において少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は水性であり、被験体に投与される。幾つかの実施態様では、製剤は、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与である。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。
【0011】
本発明の更なる別の実施態様では、pHが約4.5から約6.0であるアルギニン酢酸バッファー中においてVEGFに結合する抗体、及び界面活性物資を含んでなる薬学的製剤を提供する。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから200mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約30mg/mlから175mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから約100mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体は事前に凍結乾燥処理されていない。幾つかの実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は完全長抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はIgG1抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は、抗原結合領域を含んでなる抗体断片である。幾つかの実施態様では、抗体断片はFab又はF(ab’)2断片である。幾つかの実施態様では、抗体はベバシズマブである。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は凝集に感受性である。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約25mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約50mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約75mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約120mMから約240mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約150mMから約225mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約200mMである。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.5から約5.5のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.8から約5.4のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約5.2のpHを有する。幾つかの実施態様では、界面活性物質はポリソルベートである。幾つかの実施態様では、ポリソルベートはポリソルベート20である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.0001%から約1.0%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は約0.01%から約0.05%である。幾つかの実施態様では、界面活性物質濃度は0.04%である。幾つかの実施態様では、製剤は無菌である。幾つかの実施態様では、製剤は約40oCでの保管において少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は水性であり、被験体に投与される。幾つかの実施態様では、製剤は、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与である。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。
【0012】
本発明の別の実施態様は、治療用モノクローナル抗体の凝集を低減する方法において、pH4.5から6.0のアルギニン酢酸バッファー中において抗体を製剤することを含んでなる方法を提供する。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから200mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約30mg/mlから175mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体濃度は約25mg/mlから約100mg/mlである。幾つかの実施態様では、抗体は事前に凍結乾燥処理されていない。幾つかの実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は完全長抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はIgG1抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は、抗原結合領域を含んでなる抗体断片である。幾つかの実施態様では、抗体断片はFab又はF(ab’)2断片である。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体はVEGFに結合する。幾つかの実施態様では、抗体はベバシズマブである。幾つかの実施態様では、モノクローナル抗体は凝集に感受性である。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約25mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約50mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約75mMから約250mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約120mMから約240mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約150mMから約225mMである。幾つかの実施態様では、バッファー中のアルギニン酢酸濃度は約200mMである。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.5から約5.5のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約4.8から約5.4のpHを有する。幾つかの実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは約5.2のpHを有する。幾つかの実施態様では、製剤は無菌である。幾つかの実施態様では、製剤は約40oCでの保管において少なくとも28日間安定である。幾つかの実施態様では、製剤は水性であり、被験体に投与される。幾つかの実施態様では、製剤は、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与である。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIV投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約10mg/mlから約250mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約25mg/mlから約175mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はSQ投与のためであり、抗体濃度は約50mg/mlから約150mg/mlである。幾つかの実施態様では、製剤はIM投与のためであり、抗体濃度は約75mg/mlから約125mg/mlである。
【0013】
本発明のまた更なる実施態様は、ここに記載の何れか一つの製剤を収容する容器を含んでなる製造品を提供する。
【0014】
本発明のまた更なる実施態様は、ここに記載の何れか一つの製剤を含んでなる、シリンジにより貫通可能なストッパーを具備するバイアルを提供する。幾つかの実施態様では、バイアルは約2−8°Cで保管される。幾つかの実施態様では、バイアルは3cc、20cc又は50ccバイアルである。
【0015】
本発明の別の実施態様は、タンク内にここに記載の製剤の何れか一つを含んでなるステンレススチールタンクを提供する。幾つかの実施態様では、製剤は凍結されている。
【0016】
本発明の更なる実施態様は、(a)ここに記載の製剤の何れか一つを調製する工程、及び(b)製剤中における抗体の物理的安定性、化学的安定性、又は生物学的活性を評価する工程を含んでなる、薬学的製剤を作成する方法を提供する。
【0017】
本発明の更に別の実施態様では、被験体における疾患又は障害を治療する方法において、被験体に、該疾患又は障害を治療するのに有効な量のここに記載の製剤の何れか一つを投与することを含んでなる方法を提供する。幾つかの実施態様では、疾患は癌である。幾つかの実施態様では、癌は、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、腎癌、及び神経膠芽腫から選択される。
【0018】
本発明のこれらの及び他の実施態様は、以下の詳細な説明によって更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、40°Cで最高4週間まで保管した抗VEGF製剤(100mg/ml)において検出された全凝集レベルを示す。
【図2】図2は、抗VEGF製剤(0、50、100、及び150mg/ml)において検出された全凝集レベルを示す。
【図3】図3は、40°Cで最高4週間の保管した場合と比較した、抗VEGF製剤(100mg/ml)において検出された二量体レベルを示す。
【図4】図4は、抗VEGF濃度(25、50、100、125、150、又は175mg/ml)の関数として、20℃での抗VEGF製剤の粘度を示す。
【0020】
(発明の詳細な説明)
I.定義
【0021】
詳細に本発明を記述する前に、本発明は特定の組成物又は生物学的システムに限定されないことが理解されるべきであり、これらは当然異なってもよい。また、ここで使用される学術用語は、特定の実施態様のみを記述する目的のためであって、限定することを意図しない。本明細所及び添付の請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、明かな記載がない限り複数系を含む。従って、例えば「a molecule」への言及は、場合によっては2以上のこのような分子の組合せ等を含む。
【0022】
「薬学的製剤」なる用語は、活性成分の生物学的活性を許容する形態であり、その製剤が投与されるであろう被検体に許容できない程に毒性である更なる成分を含まない調製物を意味する。そのような製剤は無菌である。「薬学的に許容可能な」賦形剤(ビヒクル、添加物)とは、用いられる有効量の活性成分を与えるために、被験体哺乳動物に適度に投与されることが可能なものである。
【0023】
「無菌の」製剤は、無菌であるか、全ての生きている微生物及びそれらの胞子を全く含まないか又は本質的に含まない。
【0024】
ここでは、「凍結」製剤は、0℃未満の温度のものである。一般に、凍結製剤は、凍結乾燥されておらず、また事前又は後に凍結乾燥処理されない。ある実施態様では、凍結製剤は、保管のための凍結原薬(ステンレススチールタンク中)、又は凍結薬剤産物(最終バイアル形態中)を含む。
【0025】
「安定」製剤は、保存時にその中の全てのタンパク質が本質的にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を保持するものである。好ましくは、その製剤は、保存時に本質的にその物理的及び化学的安定性、並びにその生物学的活性を保持するのが望ましい。保存期間は一般にその製剤の意図された有効期間に基づき選択される。タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技法が当該技術分野で利用でき、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991) and Jones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)に概説されている。選択された温度で選択された期間、安定性を測定することができる。ある実施態様では、製剤は約40℃で少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、14、21、28日又はそれ以上安定である。ある実施態様では、製剤は約40℃で少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8週又はそれ以上安定である。ある実施態様では、製剤は約25℃で少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24ヶ月又はそれ以上安定である。ある実施態様では、製剤は約5℃で少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24ヶ月又はそれ以上安定である。ある実施態様では、製剤は約−20Cで少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48ヶ月又はそれ以上安定である。ある実施態様では、製剤は5C又は−20Cで少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48ヶ月又はそれ以上安定である。更に、製剤は好ましくは、製剤の凍結(例えば−20C又は−70Cへの)及び解凍の後に安定であり、例えば、1、2、3、4、又は5サイクルの凍結解凍後である。安定性は、(例えば、分子ふるいクロマトグラフィーを用いた、濁度を測定することによる、及び/又は視覚検査による)凝集体形成の評価;カチオン交換クロマトグラフィー、イメージキャピラリー等電点電気泳動(icIEF)又はキャピラリーゾーン電気泳動を用いて電荷不均一性を評定することによる;アミノ末端又はカルボキシ末端配列分析;質量分析;還元抗体とインタクトな抗体を比較するSDS-PAGE分析;ペプチドマップ(例えばトリプシン又はLYS-C)分析;抗体の生物学的活性又は抗原結合機能を評価することを含む多様な異なる方法で定性的及び/又は定量的に評価することができる。不安定性は、凝集、脱アミド(例えばAsn脱アミド)、酸化(例えばMet酸化)、異性化(例えばAsp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセシング、糖鎖付加変化等の何れか一又は複数を伴うことがある。ここでの「脱アミド」モノクローナル抗体は、その一又は複数のアスパラギン残基が、例えば翻訳後修飾によってアスパラギン酸又はイソアスパラギン酸に修飾されたものである。
【0026】
タンパク質は、それが、色及び/又は透明性の目視検査において、又はUV光散乱又はサイズ排除クロマトグラフィーによる測定により、凝集、沈殿及び/又は変性の徴候を示さないかほとんど示さない場合に、薬学的製剤中において「その物理的安定性を保っている」。
【0027】
任意の時点で、タンパク質が下記のようなその生物学的活性を依然保っていると考えられる場合に、タンパク質は「その化学的安定性を保っている」。化学的安定性は化学変化したタンパク質の形態を検出し定量化することによって評価されることが可能である。化学変化はサイズ変化(例えばクリッピング)を含み得、例えばサイズ排除クロマトグラフィー、SDS-PAGE及び/又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化法/飛行時間型質量分析計(MALDI/TOF MS)を使用して評価することが可能である。化学変化の他のタイプは、荷電変化(例えば脱アミドの結果として生じる)を含み、例えばイオン交換クロマトグラフィー又はicIEFによって評価されることが可能である。
【0028】
例えば抗原結合アッセイにおいて決定されるように、任意の時点での抗体の生物学的活性が、薬学的製剤が調製された時間に示した生物学的活性の約10%内(アッセイのエラーの範囲内)である場合、抗体は「その生物学的活性を保っている」。他の抗体の「生物学的活性」アッセイは、ここにおいて下に詳述される。
【0029】
ここでは、モノクローナル抗体の「生物学的活性」とは、抗原に結合する抗体の能力を意味する。それは、抗体が抗原に結合し、インビトロ又はインビボで測定できる測定可能な生物学的反応をもたらすことを更に含んでもよい。このような活性はアンタゴニスト性又はアゴニスト性でありうる。
【0030】
ここにおいて「脱アミド化」モノクローナル抗体は、その一又は複数のアスパラギン残基が、例えばアスパラギン酸又はイソ-アスパラギン酸に誘導体化されているものである。
【0031】
「脱アミドに感受性」である抗体は、脱アミド化し易いと発見されている一又は複数の残基を含んでなるものである。
【0032】
「凝集に感受性」である抗体は、特に凍結及び/又は撹拌の際に、他の抗体分子(一又は複数)と凝集することが発見されたものである。
【0033】
「断片化に感受性」である抗体は、例えばそのヒンジ領域で、2以上の断片に切断されることが発見されたものである。
【0034】
「脱アミド、凝集、又は断片化を低減する」とは、異なるpH又は異なるバッファーで製剤化されたモノクローナル抗体と比較し、脱アミド、凝集、又は断片化を防止する又はその量を低下すること意図する。
【0035】
製剤化された抗体は好ましくは、本質的に純粋であり、望ましくは本質的にホモジニアス(例えば混在タンパク質等を含まない)である。「本質的に純粋な」抗体とは、組成物の全重量に対して少なくとも約90重量%の抗体、好ましくは少なくとも約95重量%を含んでなる組成物を意味する。「本質的にホモジニアスな」抗体とは、組成物の全重量に対して少なくとも約99重量%を含んでなる組成物を意味する。
【0036】
「アイソトニック(等張性)」とは、興味の製剤が、ヒト血液と本質的に同じ浸透圧を有することを意味する。アイソトニック製剤は一般に、約250〜350mOsmの浸透圧を有する。等張性は、例えば蒸気圧又は氷結(ice-freezing)型浸透圧計を使用して測定可能である。
【0037】
ここで使用される場合、「バッファー」とは、酸-塩基コンジュゲート組成物の作用によってpHにおける変化に抵抗する緩衝液を意味する。本発明のバッファーは好ましくは、約4.5〜約7.0、好ましくは約4.5〜約6.5、例えば4.5〜6.0、4.5〜5.9、4.5〜5.8、4.5〜5.7、4.5〜5.6、4.5〜5.5、4.5〜5.6、4.5〜5.5、4.5〜5.4、4.5〜5.3、4.5〜5.2、4.5〜5.1、4.5〜5.0、4.5〜4.9、4.5〜4.8、4.5〜4.7、又は4.5〜4.6の範囲のpHである。ある実施態様では、バッファーは、pH4.5、4.6、4.7、4.8、4.8、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、又は6.0を有する。この範囲にpHを制御するバッファーの例は、酢酸、コハク酸、コハク酸、グルコン酸、ヒスチジン、クエン酸、グリシルグリシン及び多の有機酸バッファーを含む。
【0038】
「アルギニンバッファー」は、アルギニンイオンを含有するバッファーである。アルギニンバッファーの例は、アルギニン酢酸、アルギニンクロライド、アルギニンリン酸、硫酸アルギニン、アルギニンコハク酸等を含む。一実施態様では、アルギニンバッファーは、アルギニン酢酸である。一実施態様では、アルギニン酢酸バッファーは、L-アルギニン(遊離塩基、個体)を酢酸(液体)と共に滴定することにより調製される。ある実施態様では、アルギニンバッファーは、pH4.5〜6.0、4.5〜5.9、4.5〜5.8、4.5〜5.7、4.5〜5.6、4.5〜5.5、4.5〜5.6、4.5〜5.5、4.5〜5.4、4.5〜5.3、4.5〜5.2、4.5〜5.1、4.5〜5.0、4.5〜4.9、4.5〜4.8、4.5〜4.7、又は4.5〜4.6である。一実施態様では、バッファーはpH4.5、4.6、4.7、4.8、4.8、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、又は6.0を有する。
【0039】
ここで、「界面活性物質」とは界面活性剤を意味し、好ましくは非イオン性界面活性物質である。ここでの界面活性物質の例は、(例えば、ポリソルベート20及びポリソルベート80);ポロキサマー(例えばポロキサマー188);トリトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;ナトリウムオクチルグルコシド;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-,又はステアリル-スルホベタイン;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-又はステアリル-サルコシン;リノレイル-、ミリスチル-、又はセチル-ベタイン;ラウロアミドプロピル-,コカミドプロピル-、リノールアミドプロピル-、ミリスタミドプロピル-、パルミドプロピル-,又はイソステアラミドプロピル-ベタイン(例えばラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピル-、パルミドプロピル-、又はイソステアラミドプロピル-ジメチルアミン;ナトリウムメチルココイル-、又は二ナトリウムメチルオレイル-タウレート;及びMONAQU AT(商標)シリーズ(Mona Industries, Inc., Paterson, New Jersey);ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、及びエチレン・プロピレングリコール共重合体(例えばプルロニックス(Pluronics)、PF68等);等々を含む。一実施態様では、ここでの界面活性物質はポリソルベート20である。
【0040】
薬理学的意味において、本発明の文脈では、抗体の「治療的有効量」とは、抗体が有効である治療について、障害を防止又は治療するのに有効な量を意味する。「障害」とは、抗体を用いた治療から恩恵をうけるであろう何れかの状態である。これは、哺乳動物を問題の障害に罹らせる病態を含む、慢性及び急性障害を含む。
【0041】
「保存剤」は、細菌の作用を低減する薬剤であり、本明細書に記載の製剤に任意に添加してよい。保存剤の添加は、例えば、多回使用(多回投与)製剤の製造を容易にする。潜在的な保存剤の例としては、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサメトニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド(アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド(アルキル基は長鎖化合物である)の混合物)、およびベンゼトニウムクロライドが挙げられる。他のタイプの保存剤としては、フェノール、ブチルおよびベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾールが挙げられる。一実施態様では、ここでの保存料はベンジルアルコールである。
【0042】
「ポリオール」は、複数のヒドロキシル基を有する物質であり、糖(還元及び非還元糖)、糖アルコール及び糖酸を含む。ポリオールは場合によっては製剤に含まれうる。ある実施態様では、ここでのポリオールは約600kD未満(例えば約120から約400kDの範囲)の分子量を有する。「還元糖」はヘミアセタール基を持つものであり、金属イオンを還元又はリジン及びタンパク質中の他のアミノ基と共有結合性に反応することが可能であり、「非還元糖」とは、還元糖のこれらの特性を持たないものである。還元糖の例は、フルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、ラムノース、ガラクトース及びグルコースである。非還元糖は、スクロース、トレハロース、ソルボース、メレチトース及びラフィノースを含む。マンニトール、キシリトール、エリスリトール、トレイトール、ソルビトール及びグリセロールは、糖アルコールの例である。糖酸については、これらはL-グルコン酸及びその金属塩を含む。製剤が凍結解凍安定であることが所望される場合、ポリオールは好ましくは、製剤中の抗体を不安定化するような、凍結温度(例えば−20C)で結晶化させないものである。ある実施態様では、スクロース及びトレハロース等の非還元糖はポリオールの例であり、トレハロースが、トレハロースの溶液安定性によりスクロースより好ましい。
【0043】
本明細書中で用いる「VEGF」又は「VEGF-A」なる用語は、Leung等 Science, 246:1306 (1989)、及びHouck等 Mol. Endocrin., 5:1806 (1991)によって記載されているように、165アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子と、関連した121-、189-、及び206-アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子、並びにそれらの天然に生じる対立遺伝子型及びプロセシング型を意味する。また、「VEGF」は、マウス、ラット又は霊長類などの非ヒト動物腫由来のVEGFも意味する。特定の種由来のVEGFは、ヒトVEGFはhVEGF、マウスVEGFはmVEGFなどの用語で表されることが多い。また、「VEGF」なる用語は、165アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子のアミノ酸8〜109、又は1〜109を含むポリペプチドの切断型を意味するために用いられる。そのようなVEGF型を指すときは、本明細書では、例えば、「VEGF(8−109)」、「VEGF(1−109)」又は「VEGF165」と表す。「切断した(切断型の)」天然のVEGFのアミノ酸位置は、天然のVEGF配列に示される数で示す。例えば、切断型の天然VEGFのアミノ酸位置17(メチオニン)は、天然のVEGF中の位置17(メチオニン)でもある。切断型の天然VEGFは天然のVEGFに匹敵するKDR及びFlt-1レセプター結合親和性を有する。
【0044】
「VEGF生物学的活性」には、任意のVEGFレセプターへの結合又は任意のVEGFシグナル伝達活性、例えば正常および異常な血管形成および脈管形成の調節(Ferrara and Davis-Smyth (1997) Endocrine Rev. 18: 4-25;Ferrara (1999) J. Mol. Med. 77: 527-543)、胚性の脈管形成および血管形成の促進(Carmeliet等 (1996) Nature 380:435-439;Ferrara等 (1996) Nature 380:439-442)、および雌生殖管における、および骨の成長および軟骨形成のための周期的血管増殖の調節(Ferrara等 (1998) Nature Med. 4: 336-340;Gerber等 (1999) Nature Med. 5: 623-628)が含まれる。血管形成および脈管形成における血管新生因子であることに加えて、多面発現増殖因子としてのVEGFは、他の生理的過程、例えば内皮細胞生存、脈管透過性および血管拡張、単球走化性、およびカルシウム流入において複数の生物学的効果を示す(上掲のFerrara and Davis-Smyth (1997)、およびCebe-Suarez等 Cell. Mol. Life Sci. 63: 601-615 (2006))。さらに、近年の研究では、わずかな内皮性以外の細胞種、例えば網膜色素上皮細胞、膵管細胞およびシュワン細胞に対するVEGFの分裂促進効果が報告されている。Guerrin等 (1995) J. Cell Physiol. 164:385-394;Oberg-Welsh等 (1997) Mol. Cell. Endocrinol. 126:125-132;Sondell等 (1999) J. Neurosci. 19:5731-5740。
【0045】
「VEGFアンタゴニスト」又は「VEGF特異的アンタゴニスト」は、VEGFへ結合、VEGF発現レベルの低減、又は限定するものではないが一又は複数のVEGFレセプターへのVEGF結合及びVEGF媒介性の血管形成及び内皮細胞生存ないし増殖を含む、VEGF生物活性を中和、遮断、阻害、抑止、低減又は干渉することができる分子を指す。本発明の方法に有用なVEGF特異的アンタゴニストには、VEGFに特異的に結合するポリペプチド、抗VEGF抗体及びその抗原結合性断片、VEGFに特異的に結合することによって一又は複数のレセプターへの結合を隔離するレセプター分子及び誘導体、融合タンパク質(例として、VEGF-Trap(Regeneron))、及びVEGF121-ゲロニン(Peregine)が含まれる。また、VEGF特異的アンタゴニストには、VEGFポリペプチドのアンタゴニスト変異体、VEGFに対するアンチセンス核酸塩基オリゴマー、VEGFに対する小RNA分子、VEGFに対するRNAアプタマー、ペプチボディ、及びリボザイムを含む。また、VEGF特異的アンタゴニストには、VEGFに結合し、VEGF生物活性を遮断、阻害、抑止、低減又は干渉することができる非ペプチド小分子が含まれる。ゆえに、「VEGF活性」は具体的にはVEGFのVEGF媒介性の生物学的活性を含む。ある実施態様では、VEGFアンタゴニストは、VEGFの発現レベル又は生物学的活性を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれ以上低減するか、又は阻害する。
【0046】
「抗VEGF抗体」は、十分な親和性と特異性を有してVEGFに結合する抗体である。ある実施態様では、選択された抗体は通常、VEGFに対して十分に強い結合親和性を有しており、例えば該抗体は100nM〜1pMのKd値を有してhVEGFを結合しうる。抗体親和性は、例えば、表面プラスモン共鳴ベースのアッセイ(例えばPCT出願公開番号WO2005/012359に記載される、BIAcoreアッセイ)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、および競合アッセイ(例えばRIAのもの)で測定されてもよい。
ある実施態様では、抗VEGF抗体は、VEGF活性が伴う疾患又は症状を標的および干渉する際の治療用薬剤として用いられうる。また、抗体は、例えばその治療上の有効性を評価するために、他の生物学的活性アッセイの対象とされうる。このようなアッセイは従来技術において周知であり、標的抗原と抗体の使用目的に依存する。例として、HUVEC阻害アッセイ、腫瘍細胞増殖阻害アッセイ(例えば国際公開89/06692にて説明される)、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)および補体媒介性細胞障害活性(CDC)アッセイ(米国特許第5500362号)、およびアゴニスト活性又は造血アッセイ(国際公開95/27062を参照)などがある。抗VEGF抗体は通常、VEGF-B又はVEGF-Cなどの他のVEGFホモログにも、PIGF、PDGF又はbFGFなどの他の増殖因子にも結合しないであろう。一実施態様では、抗VEGF抗体は、ハイブリドーマATCC HB10709によって産生されるモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体である。他の実施態様では、抗VEGF抗体は、Presta等 (1997) Cancer Res. 57:4593-4599に従って産生される組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体であり、限定するものではないが、ベバシズマブ(BV;AVASTIN(登録商標))として知られる抗体を含む。
【0047】
「rhuMAb VEGF」又は「アバスチン(登録商標)」としても知られる抗VEGF抗体「ベバシズマブ(BV)」は、Presta等 (1997) Cancer Res. 57:4593-4599に従って産生される組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体である。これは、ヒトVEGFのそのレセプターへの結合をブロックするマウス抗hVEGFモノクローナル抗体A4.6.1由来の抗原結合相補性決定領域と変異したヒトIgG1フレームワーク領域を含有する。ほとんどのフレームワーク領域を含む、ベバシズマブのおよそ93%のアミノ酸配列はヒトIgG1由来のものであり、配列のおよそ7%はマウス抗体A4.6.1由来である。ベバシズマブは、およそ149000ダルトンの分子質量であり、グリコシル化される。ベバシズマブ及び他のヒト化抗VEGF抗体は2005年2月26日発行の米国特許第6884879号にさらに記載されており、その開示内容の全体は出典明記によって明示的に本明細書中に援用される。
【0048】
ここで使用される「B20シリーズポリペプチド」なる用語は、VEGFに結合する抗体を含むポリペプチドを意味する。B20シリーズポリペプチドには、限定するものではないが、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたB20抗体又はB20誘導抗体の配列に由来する抗体が含まれ、これらの特許出願の内容は出典明示により明示的にここに援用される。一実施態様では、B20シリーズポリペプチドは、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたB20-4.1である。他の実施態様では、B20シリーズポリペプチドは米国特許出願番号60/991,302に記載されたB20-4.1.1であり、この開示内容の全体は出典明示により明示的にここに援用される。
【0049】
ここで使用される「G6シリーズポリペプチド」は、VEGFに結合する抗体を含むポリペプチドを指す。G6シリーズポリペプチドには、限定するものではないが、米国特許公開第20060280747号、米国特許公開第20070141065号及び/又は米国特許公開第20070020267号に記載されたG6抗体又はG6由来の抗体の配列から由来する抗体が含まれる。米国特許公開第20060280747号、米国特許公開第20070141065号および/または米国特許公開第20070020267号に記載されたG6シリーズポリペプチドには、限定するものではないが、G6-8、G6-23及びG6-31が含まれる。
【0050】
更なる抗体については、米国特許第7060269号、同第6582959号、同第6703020号;同第6054297号;国際公開98/45332;国際公開96/30046;国際公開94/10202;欧州特許第0666868号B1;米国特許公開2006009360、20050186208、20030206899、20030190317、20030203409及び20050112126;及びPopkov等, Journal of Immunological Methods 288:149-164 (2004)を参照のこと。ある実施態様では、他の抗体には、残基F17、M18、D19、Y21、Y25、Q89、I91、K101、E103およびC104を含むか、あるいは残基F17、Y21、Q22、Y25、D63、I83およびQ89を含むヒトVEGF上の機能的エピトープに結合するものを含む。
【0051】
他の抗VEGF抗体も公知であり、例えばLiang等, J Biol Chem 281, 951-961 (2006)に記載されている。
【0052】
「治療」とは、療法的治療及び予防的又は防止的手段の双方を意味する。治療を必要とするものは、既に疾患を持つもの並びに疾患が防止されるものを含む。
【0053】
「障害(疾患)」とは治療から利益を受けうる何れかの状態であり、限定するものではないが、哺乳動物を問題の障害に罹らせる病態を含む、慢性及び急性障害又は疾患を含む。疾患は血管新生疾患を含む。「血管新生疾患」とは、ここで使用する場合、異常血管新生又は異常脈管透過性又は漏出を含む何れかの状態を意味する。ここで治療される血管新生障害の非限定的な例は、悪性及び良性腫瘍;非白血病及びリンパ系腫瘍;及び特に腫瘍(癌)転移を含む。
【0054】
「異常血管新生」は、新しい血管が、疾患状態又は疾患状態に導く状態において、過剰に又は他に不適切に(例えば、医学的観点から望まれない血管新生の位置、タイミング、度合い又は発生)成長する場合に生じる。幾つかの場合では、疾患状態の悪化又は疾患状態の原因に貢献する新しい血管の成長がある場合に、過剰な、非制御的な、又は他に不適切な血管新生が生じる。新しい血管は、疾患組織に栄養を与え、正常組織を破壊し、また癌の場合には新しい血管は、腫瘍細胞を循環に逃避させ他の臓器にとどまらさせる(腫瘍転移)ことが可能である。異常血管新生に関与する疾患の例は、限定するものではないが、癌、特に血管新生化固形腫瘍及び転移性腫瘍(結腸、肺癌(特に小細胞肺癌)、又は前立腺癌を含む)、眼の新生血管化により生じる疾患、特に糖尿病性失明、網膜症、一次性糖尿病性網膜症又は加齢黄斑変性、脈絡膜新生血管(CNV)、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、フォンヒッペル・リンダウ病、眼のヒストプラスマ症、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)、角膜血管新生、網膜血管新生及びルベオーシス;乾癬、乾癬性関節炎、血管芽腫、例えば血管腫;炎症性腎性疾患、例えば糸球体腎炎、特にメサンギウム増殖性糸球体腎炎、溶血性尿毒症症候群、糖尿病性腎症又は高血圧性腎硬化症;様々な炎症性疾患、例えば関節炎、特に関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬、サルコイドーシス、移植後に生じる動脈性硬化症及び疾患、子宮内膜症又は慢性ぜんそく及び他の状態を含む。
【0055】
「異常血管透過性」は、疾患状態又は疾患状態に導く状態において、血管と血管外区画との間の、液体、分子(例えば、イオン及び栄養素)及び細胞(例えばリンパ球)の流れが過剰又は他に不適切(例えば、医学的観点から望まれない血管透過性の位置、タイミング、度合い又は発生)である場合に生じる。異常な血管透過性は、血管を通した、イオン、水、栄養素、又は細胞の過剰な又は他に不適切な「漏出」を導きうる。幾つかの場合では、過剰な、非制御的な、又は他に不適切な血管透過性又は血管漏出は、例えば脳腫瘍を含む腫瘍を伴う浮腫;悪性腫瘍を伴う腹水症;メイグス症候群;肺炎症;ネフローゼ症候群;心膜液貯留;胸水;心筋梗塞及び脳卒中後の状態など心血管疾患を伴う透過性等を含む疾患状態を悪化又は誘発する。本発明は、異常血管透過性又は漏出に伴う疾患又は障害を発生した又は発生する危険性にあるそれらの患者を治療することを考える。
【0056】
「細胞増殖性疾患」および「増殖性疾患」なる用語は、ある程度の異常な細胞増殖と関係している疾患を指す。一実施態様では、細胞増殖性疾患は癌である。一実施態様では、細胞増殖性疾患は腫瘍である。
【0057】
本明細書中の「腫瘍」とは、悪性か良性かにかかわらず、すべての腫瘍性細胞成長及び増殖と、すべての前癌性及び癌性細胞及び組織を指す。「癌」、「癌性」「細胞増殖性疾患」、「増殖性疾患」及び「腫瘍」なる用語は、本明細書に参照されるように相互に限定的なものでない。
【0058】
「癌」及び「癌性」なる用語は、一般的に調節不可能な細胞成長に特徴がある哺乳動物の生理学的状態を指すか又は表す。癌の例には、上皮癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病又はリンパ系悪性腫瘍が含まれるが、これに限定されるものではない。このような癌のより具体的な例には、扁平細胞癌(例えば上皮性扁平細胞癌)、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、及び肺の扁平癌腫(squamous carcinoma)を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃(gastric)又は腹部(stomach)癌(消化器癌及び胃腸癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸管癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、肝癌、乳癌、大腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓(kidney)又は腎(renal)癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝臓癌、肛門部の癌腫、陰茎癌腫、メラノーマ、表在性伸展メラノーマ、黒色癌前駆症メラノーマ、末端性黒子性黒色腫、結節性メラノーマ、多発性骨髄腫
及びB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽細胞性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小非分割細胞NHL;バルキー疾患NHL;マントル細胞リンパ腫;エイズ関連リンパ腫;及びワルデンストロームのマクログロブリン病を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びに、母斑症と関係する異常な血管性増殖、浮腫(脳腫瘍と関係するものなど)、メイグス症候群、脳、並びに頭頸部癌および関連する転移が含まれる。ある実施態様では、本発明の抗体による治療に影響を受けやすい癌には、乳癌、結腸直腸癌、直腸癌、非小細胞肺癌、膠芽細胞種、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎臓細胞癌、前立腺癌、肝癌、膵癌、柔組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド癌腫、頭頸部癌、卵巣癌、中皮腫および多発性骨髄腫が含まれる。いくつかの実施態様では、癌は、小細胞肺癌、膠芽細胞種、神経芽細胞腫、メラノーマ、乳癌、胃癌、結腸直腸癌(CRC)および肝細胞癌から選択される。さらに、いくつかの実施態様では、癌は、それらの癌の転移型を含む、非小細胞肺癌、結腸直腸癌、神経膠芽腫および乳癌から選択される。
【0059】
「抗癌療法」なる用語は、癌を治療する際に有用な療法を指す。抗癌治療薬の例には、限定するものではないが、例えば、化学療法剤、増殖阻害剤、細胞障害剤、放射線療法に用いる薬剤、抗血管形成剤、アポトーシス剤、抗チューブリン薬剤、および癌を治療するための他の薬剤、例として、抗HER-2抗体、抗CD20抗体、上皮性増殖因子レセプター(EGFR)アンタゴニスト(例えばチロシンキナーゼインヒビター)、HER1/EGFRインヒビター(例えばエルロチニブ(TarcevaTM)、血小板由来増殖因子インヒビター(例えばGleevecTM(メシル酸イマチニブ))、COX-2インヒビター(例えばセレコキシブ)、インターフェロン、サイトカイン、以下の標的ErbB2、ErbB3、ErbB4、PDGFR-β、BlyS、APRIL、BCMA又はVEGFレセプター(一又は複数)、TRAIL/Apo2の一又は複数に結合するアンタゴニスト(例えば中和抗体)、および他の生理活性かつ有機化学的薬剤などが含まれる。また、その組合せが本発明に包含される。
【0060】
「血管形成因子又は薬剤」は、血管の発達を刺激するのに伴う、例えば脈管形成、血管内皮細胞増殖、血管の安定性および/または脈管形成などを促進する増殖因子又はそのレセプターである。例えば、血管形成因子には、例えば、VEGFおよびVEGFファミリのメンバー及びそのレセプター(VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGFR1、VEGFR2及びVEGFR3)、PlGF、PDGFファミリ、線維芽細胞増殖因子ファミリ(FGF)、TIEリガンド(アンギオポイエチン、ANGPT1、ANGPT2)、TIE1、TIE2、エフリン、Bv8、デルタ様リガンド4 (DLL4)、Del-1、線維芽細胞増殖因子:酸性(aFGF)及び塩基性(bFGF)、FGF4、FGF9、BMP9、BMP10、ホリスタチン、顆粒性コロニー刺激因子(G-CSF)、GM-CSF、肝細胞増殖因子(HGF)/スキャッター因子(SF)、インターロイキン-8(IL-8)、CXCL12、レプチン、ミドカイン、ニューロフィリン、NRP1、NRP2、胎盤増殖因子、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)、血小板由来増殖因子、特にPDGF-BB、PDGFR-α又はPDGFR-β、プレイオトロフィン(PTN)、Progranulin、Proliferin、形質転換増殖因子-α(TGF-α)、形質転換増殖因子-β(TGF-β)、腫瘍壊死因子-α(TNFα)、Alk1、CXCR4、Notch1、Notch4、Sema3A、Sema3C、Sema3F、Robo4などが含まれるが、これらに限定されるものではない。ESM1及びパールカン等の血管新生を促進する因子も更に含まれるだろう。また、成長ホルモン、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、VIGF、上皮細胞増殖因子(EGF)、EGF-様ドメイン、マルチプル7(EGFL7)、CTGF及びそのファミリのメンバー、およびTGF-αおよびTGF-βなどの、創傷治癒を促進する因子を含むであろう。例として、Klagsbrun and D'Amore (1991) Annu. Rev. Physiol. 53:217-39;Streit and Detmar (2003) Oncogene 22:3172-3179;Ferrara & Alitalo (1999) Nature Medicine 5(12): 1359-1364;Tonini等 (2003) Oncogene 22:6549-6556(例えば、公知の血管形成因子の一覧を示す表1);及びSato (2003) Int. J. Clin. Oncol. 8:200-206を参照のこと。
【0061】
「抗血管形成剤」又は「血管形成(血管新生)インヒビター」は、直接的又は間接的に、血管新生、脈管形成又は望ましくない血管透過を阻害する、小分子量の物質、ポリヌクレオチド(例えば阻害RNA(RNAi又はsiRNA)を含む)、ポリペプチド、単離したタンパク質、組換えタンパク質、抗体、又はそれらのコンジュゲート又は融合タンパク質を意味する。抗血管形成剤には、結合して血管形成因子又はそのレセプターの血管形成活性を遮断する薬剤が含まれることは理解されるであろう。例えば、抗血管形成剤は、上記に定義したように血管形成剤に対する抗体又は他のアンタゴニスト、例えば、VEGF-A又はVEGF-Aレセプター(例えばKDRレセプター又はFlt-1レセプター)に対する抗体、VEGF-Cに対する抗体、抗PDGFRインヒビター、VEGFレセプターシグナル伝達を遮断する小分子(例えば、PTK787/ZK2284、SU6668、SUTENT(登録商標)/SU11248(sunitinib malate)、AMG706、又は例えば国際公開2004/113304に記載されるもの)である。抗血管新生剤は、限定するものではないが、以下の薬剤を含む:VEGFインヒビター、例えばVEGF特異性アンタゴニスト、EGFインヒビター、EGFRインヒビター、アービタックス(登録商標)(セツキシマブ, ImClone Systems, Inc., Branchburg, N.J.)、ベクティビックス(登録商標)(パニツムマブ, Amgen, Thousand Oaks, CA)、TIE2インヒビター、IGF1Rインヒビター、COX-II(シクロオキシゲナーゼII)インヒビター、MMP-2(マトリックスメタロプロテアーゼ2)インヒビター、及びMMP-9(マトリックスメタロプロテアーゼ9)インヒビター、CP-547、632(Pfizer Inc., NY, USA)、アキシチニブ(Pfizer Inc.; AG-013736)、ZD-6474(AstraZeneca)、AEE788(Novartis)、AZD-2171)、VEGF Trap(Regeneron/Aventis)、バタラニブ(別称PTK-787、ZK-222584: Novartis & Schering A G)、マクジェン(pegaptanib octasodium, NX-1838、EYE-001、 Pfizer Inc./Gilead/Eyetech)、IM862(Cytran Inc. of Kirkland, Wash., USA);リボザイム(Boulder, Colo.)及びカイロン(Emeryville, Calif.)からの合成リボザイムであるアンギオザイム、及びこれらの組合せを含む。他の血管新生インヒビターには、トロンボスポンジン1、トロンボスポンジン2、コラーゲンIV及びコラーゲンXVIIIが含まれる。VEGFインヒビターは、米国特許第6534524号及び同第6235764号に開示されており、これは何れもあらゆる目的のために全体を援用する。また、抗血管形成剤には、天然の血管形成インヒビター、例えばアンジオスタチン、エンドスタチンなどが含まれる。例えば、Klagsbrun and D'Amore (1991) Annu. Rev. Physiol. 53:217-39;Streit and Detmar (2003) Oncogene 22:3172-3179(例えば、悪性メラノーマにおける抗血管形成療法の一覧を示す表3);Ferrara & Alitalo (1999) Nature Medicine 5(12): 1359-1364;Tonini等 (2003) Oncogene 22:6549-6556(例えば、公知の抗血管形成因子の一覧を示す表2);及び、Sato (2003) Int. J. Clin. Oncol. 8:200-206(例えば、臨床試験において使用される抗血管形成剤の一覧を示す表1)を参照のこと。
【0062】
「抗血管形成療法」なる用語は、抗血管形成剤の投与を含む血管形成を阻害するために有用な治療を指す。
【0063】
ここで用いられる「細胞障害性剤」という用語は、細胞の機能を阻害又は阻止し及び/又は細胞死又は破壊を生ずる物質を意味する。この用語は、放射性同位元素(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位元素)、化学治療薬、例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤、酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素、抗生物質、及び毒素、例えばその断片及び/又は変異体を含む小分子毒素又は細菌、糸状菌、植物又は動物起源の酵素的に活性な毒素、そして下記に開示する種々の抗腫瘍又は抗癌剤を含むように意図されている。他の細胞毒性剤を以下に記載する。殺腫瘍性剤は、腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
「毒素」は、細胞の成長又は増殖に対して有害な影響を有する任意の物質である。
【0064】
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化学的化合物である。化学療法剤の例には、チオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(商標登録))のようなアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンのようなスルホン酸アルキル類;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)のようなアジリジン類;アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethiylenethiophosphoramide)及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類及びメチラメラミン類;アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビロール、MARINOL(登録商標));β-ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログトポテカン(HYCAMTIN(登録商標)、CPT-11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレチン、及び9-アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;ドゥオカルマイシン(合成アナログ、KW-2189及びCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンジスタチン;クロランブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロスレアス(nitrosureas);抗生物質、例えばエネジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えばNicolaou等, Angew. Chem Intl. Ed. Engl., 33: 183-186 (1994)参照);CDP323、経口α-4インテグリンインヒビター;ダイネマイシン(dynemicin)Aを含むダイネマイシン;エスペラマイシン;並びにネオカルチノスタチン発色団及び関連する色素タンパクエネジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン類、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorbicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標)、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射(DOXIL(登録商標))、リポソームドキソルビシンTLC D-99(MYOCET(登録商標))、ペグ化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標))及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンCのようなマイトマイシン、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗剤、例えばメトトレキセート、ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、テガフール(UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(XELODA(登録商標))、エポチロン及び5-フルオロウラシル(5-FU);コンブレタスタチン;葉酸アナログ、例えばデノプテリン(denopterin)、メトトレキセート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate);プリンアナログ、例えばフルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジンアナログ、例えばアンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine);アンドロゲン類、例えばカルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone);抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸リプレニッシャー(replenisher)、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エポチロン(epothilone);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidainine);メイタンシノイド(maytansinoid)類、例えばメイタンシン(maytansine)及びアンサミトシン(ansamitocine);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン(razoxane);リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン類(特にT-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridine)A及びアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン(ELIDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)、パクリタキセルのアルブミン操作ナノ粒子製剤(ABRAXANETM)およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhome-Poulene Rorer, Antony, France);クロランブシル;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;プラチナ薬剤、例えばシスプラチン、オキサリプラチン(例えばELOXATIN(登録商標))及びカルボプラチン;チューブリン重合が微小管を形成するのを妨げるビンカ、例えばビンブラスチン(VELBAN(登録商標))、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))およびビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトキサントロン;ロイコボリン;ノバントロン(novantrone);エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロナート(ibandronate);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチロールニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド、例えばベキサロテン(TARGRETIN(登録商標));ビスホスホネート、例えばクロドロネート(例えばBONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、エチドロン酸(DIDROCAL(登録商標))、NE-58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロン酸(AREDIA(登録商標))、チルドロネート(SKELID(登録商標))、又はリセドロネート(ACTONEL(登録商標));トロキサシタビン(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖に関係するシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-α、Raf、H-Rasおよび上皮増殖因子レセプター(EGF-R)(例えばエルロチニブ(TarcevaTM));及び細胞増殖を低減するVEGF-A;ワクチン、例えばTHERATOPE(登録商標)ワクチンおよび遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチンおよびVAXID(登録商標)ワクチン;トポイソメラーゼ1インヒビター(例えばLURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えばABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU-11248(スニチニブ、SUTENT(登録商標)、Pfizer);ペリホシン、COX-2インヒビター(例えばセレコキシブ又はエトリコキシブ)、プロテオゾームインヒビター(例えばPS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI-779;ティピファニブ(R11577);オラフェニブ(orafenib)、ABT510;BCL-2インヒビター、例えばオブリメルセンナトリウム(GENASENSE(登録商標));ピクサントロン;EGFRインヒビター;チロシンキナーゼインヒビター;セリン-スレオニンキナーゼインヒビター、例えばラパマイシン(シロリムス、RAPAMUNE(登録商標));ファルネシルトランスフェラーゼインヒビター、例えばロナファーニブ(SCH6636、SARASARTM);及び上述したものの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体、並びに、上記のうちの2つ以上の組み合わせ、例えば、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾロンの併用療法の略称)、及びFOLFOX(5-FU及びロイコボリンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXATINTM)を用いる治療計画の略称)、及び上記何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体類;並びに上記の2以上の組合せが含まれる。
【0065】
本明細書中に定義される化学療法剤には、癌の成長を促しうるホルモンの作用を調節、低減、遮断又は阻害するように働く、「抗ホルモン剤」又は「内分泌治療剤」が含まれる。それらはそれ自体がホルモンであってよく、限定するものではないが、抗エストロゲン及び選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)を含み、例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、ラロキシフェン(raloxifene)、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストーン(onapristone)、及びFARESTON(登録商標)トレミフェン;副腎のエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤、例えば4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン、フォルメスタニー(formestanie)、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール、及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾール;及び抗アンドロゲン、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド、リュープロリド及びゴセレリン;並びにトロキサシタビン(troxacitabine)(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に接着細胞の増殖に結びつくシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-α、Raf、及びH-Ras;リボザイム、例えばVEGF発現インヒビター(例えばANGIOZYME(登録商標))及びHER2発現インヒビター;遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)、LEUVECTIN(登録商標)及びVAXID(登録商標)などのワクチン;PROLEUKIN(登録商標)rIL-2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1インヒビター;ABARELIX(登録商標)rmRH;ビノレルビン及びエスペラミシン(米国特許第4675187号参照)、及び上記何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類及び誘導体類;並びに上記の2以上の組合せを含む。
【0066】
ここで用いられる際の「増殖阻害剤」は、細胞の増殖をインビトロ又はインビボの何れかで阻害する化合物又は組成物を意味する。一実施態様では、増殖阻害剤は、抗体が結合する抗原を発現している細胞の増殖を予防するかまたは低減する増殖阻害抗体である。他の実施態様では、増殖阻害剤は、S期で細胞の割合を有意に減少させるものである。増殖阻害剤の例は、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)阻害する薬剤、例えばG1停止又はM期停止を誘発する薬剤を含む。古典的なM期ブロッカーは、ビンカス(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン類、及びトポイソメラーゼII阻害剤、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンを含む。またG1停止させるこれらの薬剤は、S期停止にも波及し、例えば、DNAアルキル化剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びアラ-Cである。更なる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn及びIsrael, 編, Chapter 1, 表題「Cell cycle regulation, oncogene, and antineoplastic drugs」, Murakami等, (WB Saunders: Philadelphia, 1995)、例えば13頁に見出すことができる。タキサン類(パクリタキセル及びドセタキセル)は、共にイチイに由来する抗癌剤である。ヨーロッパイチイに由来するドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、ローン・プーラン ローラー)は、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、ブリストル-マイヤー スクウィブ)の半合成類似体である。パクリタキセル及びドセタキセルは、チューブリン二量体から微小管の集合を促進し、細胞の有糸分裂を阻害する結果となる脱重合を防ぐことによって微小管を安定化にする。
【0067】
「放射線療法」とは、正常に機能する能力を制限するため又は完全に細胞を破壊するために、細胞に十分な損傷を誘導する有向性のγ線又はβ線の使用を意味する。治療の用量および治継続期間を決定するためには公知の多くの方法があることは明らかであろう。典型的な治療は、1回の投与として、1日当たり10〜200単位(グレイ)の典型的な用量として施される。
【0068】
治療の目的のための「哺乳動物」とは、哺乳動物として分類される何れかの動物を意味し、ヒト、家畜(domestic and farm)動物、及び動物園、スポーツ、又はペット動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ等を含む。好ましくは哺乳動物はヒトである。
【0069】
ここでの「抗体」なる用語は、最も広い意味で使用され、特にモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の生物学的活性を示す限り、抗体断片を包含する。
【0070】
「単離された」抗体は、同定されその自然環境の成分から分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、その抗体の研究、診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。ある実施態様では、抗体は、(1)例えばローリー法で測定した場合95重量%を越える抗体、ある実施態様では99重量%を越えるまで、(2)例えばスピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端あるいは内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、又は(3)例えばクーマシーブルー又は銀染色を用いた非還元又は還元条件下でのSDS-PAGEにより均一性まで精製される。単離された抗体には、抗体の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0071】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(V)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を、他端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
【0072】
「定常ドメイン」なる用語は、免疫グロブリンの他の部分、つまり抗原結合部位を含む可変ドメインに対してより保存されたアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の一部を意味する。定常ドメインは重鎖のC1、C2及びC3ドメイン(まとめて、CH)と軽鎖のCHL(又はCL)ドメインを含む。
【0073】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを意味する。重鎖の可変ドメインは「VH」と称されうる。軽鎖の可変ドメインは「VL」と称されうる。これらのドメインは一般に抗体の最も可変の部分であり、抗原結合部位を含む。
【0074】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、3つのHVRにより連結されたβシート配置を主にとる4つのFR領域をそれぞれ含んでいる。各鎖のHVRは、FRによって近接して結合され、他の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabatら, Sequence of Proteins ofImmunological Interest, 5th Ed. National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、種々のエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞毒性への抗体の関与を示す。
【0075】
任意の脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる二つの明らかに異なる型の一方に分類できる。
【0076】
ここで使用されるIgG「アイソタイプ」又は「サブクラス」なる用語は、その定常領域の化学的及び抗原性特徴によって定まる免疫グロブリンのサブクラスの何れかを意味する。
【0077】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、抗体(免疫グロブリン)は異なるクラスに分類できる。免疫グロブリンの五つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、それらの幾つかは更にサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG3,IgG、IgA及びIgAに分類される。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配位はよく知られており、一般に例えばAbbas等, Cellular and Mol. Immunology, 4版 (W.B. Saunders, Co., 2000)に記載されている。抗体は、一又は複数の他のタンパク質又はペプチドとの抗体の共有又は非共有結合によって形成される大きな融合分子の一部であってもよい。
【0078】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」という用語は、ここでは交換可能に使用され、その実質的にインタクトな形態の抗体を指し、以下に定義するような抗体断片は意味しない。この用語は、特にFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0079】
ここでの目的に対する「ネイキッド抗体」は、細胞障害性部分又は放射標識にコンジュゲートされない抗体である。
【0080】
「抗体断片」は、好ましくは抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')およびFv断片;ダイアボディ;線形抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多特異性抗体が含まれる。
【0081】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位を持ち、残りは容易に結晶化する能力を反映して「Fc」断片と命名される。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を持ち、抗原になお架橋できるF(ab')断片を生じる。
【0082】
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む最小抗体断片である。ある実施態様では、二本鎖Fv種は、堅固な非共有結合をなした一つの重鎖及び一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種では、柔軟なペプチドリンカーによって1の重鎖及び1の軽鎖可変ドメインは共有結合性に連鎖することができ、よって軽鎖及び重鎖は、二本鎖Fv種におけるものと類似の「二量体」構造に連結することができる。この配置において、各可変ドメインの3つのHVRは相互に作用してVH-VL二量体表面に抗原結合部位を形成する。集合的に、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に対して特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえ、全結合部位よりも親和性が低くなるが、抗原を認識して結合する能力を有している。
【0083】
Fab断片は、重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含み、また軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常領域(CH1)を有する。Fab'断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加している点でFab断片とは異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が一つの遊離チオール基を担持しているFab'に対するここでの命名である。F(ab')抗体断片は、間にヒンジシステインを有するFab'断片の対として生産された。また、抗体断片の他の化学結合も知られている。
【0084】
「一本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。一般には、sFvポリペプチドは、scFVが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にするポリペプチドリンカーをVH及びVLドメイン間に更に含む。scFvの概説については、例えばPluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, (Springer-Verlag, New York, 1994), pp. 269-315を参照のこと。
【0085】
「ダイアボディ」なる用語は、二つの抗原結合部位を持ち、その断片が同一のポリペプチド鎖(VH-VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗体断片を指す。非常に短いために同一鎖上で二つのドメイン間での対形成を可能にするリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、二つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディは二価又は二重特異的でありうる。ダイアボディは、例えば欧州特許出願公開第404097号;国際公開第93/11161号;及びHudson等, Nat. Med. 9:129-134 (2003);及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)に更に十分に記載されている。トリアボディ及びダイアボディはまたHudson等, Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。
【0086】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、例えば、集団に含まれる個々の抗体は、少量で存在しうる可能性がある突然変異、例えば自然に生じる突然変異を除いて同一である。従って、「モノクローナル」との形容は、個別の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。ある実施態様では、このようなモノクローナル抗体は、通常、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、この場合、標的に結合するポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列を選択することを含むプロセスにより得られる。例えば、この選択プロセスは、雑種細胞クローン、ファージクローン又は組換えDNAクローンのプールのような複数のクローンからの、唯一のクローンの選択とすることができる。重要なのは、選択された標的結合配列を更に変化させることにより、例えば標的への親和性の向上、標的結合配列のヒト化、細胞培養液中におけるその産生の向上、インビボでの免疫原性の低減、多選択性抗体の生成等が可能になること、並びに、変化させた標的結合配列を含む抗体も、本発明のモノクローナル抗体であることである。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、モノクローナル抗体の調製物の各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体の調製物は、それらが他の免疫グロブリンで通常汚染されていないという点で有利である。
「モノクローナル」との形容は、抗体の、実質的に均一な抗体の集団から得られたものであるという特性を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は様々な技術によって作製することができ、それらの技術には、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256:495-97 (1975);Hongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995);Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling等: Monoclonal Antibodies and T-Cell hybridomas 563-681 (Elsevier, N. Y., 1981))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号参照)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991);Marks等, J. Mol. Biol. 222:581-597 (1992);Sidhu等, J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee等, J. Mol. Biol. 340(5);1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);及びLee等, J. Immounol. Methods 284(1-2): 119-132 (2004))、並びに、ヒト免疫グロブリン座位の一部又は全部、或るいはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子を有する動物にヒト又はヒト様抗体を生成する技術(例えば、国際公開第98/24893号;国際公開第96/34096号;国際公開第96/33735号;国際公開第91/10741号;Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362: 255-258 (1993);Bruggemann等, Year in Immunol. 7:33 (1993);米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;同第5661016号; Marks等, Bio.Technology 10: 779-783 (1992);Lonberg等, Nature 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature 368: 812-813 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnol. 14: 845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826 (1996)及びLonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995)参照)が含まれる。
【0087】
ここでモノクローナル抗体は、特に「キメラ」抗体を含み、それは特定の種由来又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致する又は類似する重鎖及び/又は軽鎖の一部であり、残りの鎖は、所望の生物学的活性を表す限り、抗体断片のように他の種由来又は他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致するか又は類似するものである(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984))。キメラ抗体には、抗体の抗原結合領域が例えば対象の抗原をマカクザルに免疫投与することによって作製される抗体に由来している、PRIMATIZED(登録商標)抗体が含まれる。
【0088】
非ヒト(例えばマウス)の抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。一実施態様では、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び/又は能力を有する非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)からの高頻度可変領域の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。例として、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の特性をさらに洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは実質的に全てのFRが、ヒト免疫グロブリン配列のものである少なくとも一又は典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。また、ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、例えばJones等, Nature 321:522-525(1986);Riechmann等, Nature 332:323-329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596(1992)を参照のこと。また例としてVaswani及びHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998);Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995);Hurle及びGross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);米国特許第6982321号及び同第7087409号も参照のこと。
【0089】
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を製造するための何れかの技術を使用して製造されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含んでなるヒト化抗体を除く。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリを含む、当該分野で知られている様々な技術を使用して生産することが可能である。Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。また、Cole等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);Boerner等, J. Immunol., 147(1): 86-95 (1991)において記述される方法は、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用できる。van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001)も参照のこと。抗原刺激に応答して抗体を産生するように修飾されているが、その内在性遺伝子座が無効になっているトランスジェニック動物、例えば免疫化ゼノマウスに抗原を投与することによってヒト抗体を調製することができる(例として、XENOMOUSETM技術に関する米国特許第6075181号及び同第6150584号を参照)。また、例えば、ヒトのB細胞ハイブリドーマ技術によって生成されるヒト抗体に関するLi等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)も参照のこと。
【0090】
「種依存性抗体」は、二番目の哺乳動物種からの抗原の相同体に対して有している結合親和性よりも、一番目の哺乳動物種からの抗原に対してより強力な結合親和性を有するものである。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原(例えば、約1×10−7M以下、好ましくは約1×10−8以下、好ましくは約1×10−9M以下の結合親和性(Kd)値を有する)と「特異的に結合」するが、そのヒト抗原に対する結合親和性よりも、少なくとも約50倍、又は少なくとも約500倍、又は少なくとも約1000倍弱い、二番目の非ヒト哺乳動物種からの抗原の相同体に対する結合親和性を有する。種依存性抗体は、上で定義した様々な型の抗体の何れでもありうるが、好ましくはヒト化又はヒト抗体である。
【0091】
ここで使用される「高頻度可変領域」、「HVR」又は「HV」なる用語は、配列において高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を意味する。一般に、抗体は6つの高頻度可変領域を含み;VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)である。天然の抗体では、H3及びL3は6つの高頻度可変領域のうちで最も高い多様性を示す、特にH3は抗体に良好な特異性を与える際に特有の役割を果たすように思われる。例としてXu等 (2000) Immunity 13:37-45;Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ)のJohnson and Wu (2003)を参照。実際、重鎖のみからなる天然に生じるラクダ科の抗体は機能的であり、軽鎖が無い状態で安定である。例としてHamers-Casterman等 (1993) Nature 363:446-448;Sheriff等, Nature Struct. Biol. 3:733-736 (1996)を参照。
【0092】
多数のHVRの描写が使用され、ここに含まれる。カバット相補性決定領域(CDR)は配列変化に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。Chothiaは、代わりに構造的ループの位置に言及している(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM HVRは、カバットHVRとChothia構造的ループの間の妥協を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。「接触」HVRは、利用できる複合体結晶構造の分析に基づく。これらHVRのそれぞれからの残基を以下に示す。
ループ Kabat AbM Chothia 接触
---- ----- --- ------- -------
L1 L24-L34 L24-L34 L26-L32 L30-L36
L2 L50-L56 L50-L56 L50-L52 L46-L55
L3 L89-L97 L89-L97 L91-L96 L89-L96
H1 H31-H35B H26-H35B H26-H32 H30-H35B
(Kabat番号付け)
H1 H31-H35 H26-H35 H26-H32 H30-H35
(Chothia番号付け)
H2 H50-H65 H50-H58 H53-H55 H47-H58
H3 H95-H102 H95-H102 H96-H101 H93-H101
【0093】
HVRは、次のような「拡大HVR」を含むことができる、即ち、VLの24−36又は24−34(L1)、46−56又は50−56(L2)及び89−97又は89−96(L3)と、VHの26−35(H1)、50−65又は49−65(H2)及び93−102、94−102、又は95−102(H3)である。可変ドメイン残基には、これら各々を規定するために、上掲のKabat等に従って番号を付した。
【0094】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、ここで定義する高頻度可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0095】
「カバット(Kabat)による可変ドメイン残基番号付け」又は「カバットに記載のアミノ酸位番号付け」なる用語及びその異なる言い回しは、上掲のKabat 等の抗体の編集の軽鎖可変ドメイン又は重鎖可変ドメインに用いられる番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを用いると、実際の線形アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVR内の短縮又は挿入に相当する2、3のアミノ酸又は付加的なアミノ酸を含みうる。例えば、重鎖可変ドメインには、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えばカバットによる残基82a、82b及び82cなど)と、H2の残基52の後に単一アミノ酸の挿入(Kabatによる残基52a)を含んでもよい。残基のKabat番号は、「標準の」カバット番号付け配列によって抗体の配列の相同領域でアライメントすることによって与えられる抗体について決定してもよい。
【0096】
カバット番号付けシステムは一般に、可変ドメイン内の残基を指す場合に用いられる(軽鎖のおよそ残基1−107及び重鎖の残基1−113)(例えばKabat等, Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。「EU番号付けシステム」又は「EUインデックス」は一般に、イムノグロブリン重鎖定常領域を指す場合に用いられる(例えば上掲のKabat等において報告されたEUインデックス)。「カバットにおけるEUインデックス」はヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。
【0097】
「線状抗体」との表現は、Zapata等(1995 Protein Eng, 8(10):1057-1062)に記載の抗体を意味する。簡単に言えば、これらの抗体は、相補的な軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する一対の直列のFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。線状抗体は二重特異性又は単一特異性でありうる。
【0098】
ここで用いられる場合、「ライブラリー」は、複数の抗体もしくは抗体断片配列(例えば、本発明のポリペプチド)、又はこれらの配列をコードする核酸を意味し、該配列は本発明の方法によってこれら配列内に導入される変異型アミノ酸の組合せにおいて異なっている。
【0099】
「ファージディスプレイ」は、変異体ポリペプチドをファージ、例えば繊維状ファージの粒子の表面でコートタンパク質の少なくとも一部と融合したタンパク質として提示する手法である。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化タンパク質変異体の大きなライブラリーから対象抗原と高親和性で結合する配列を迅速かつ効率的に選別できることにある。ファージ上のペプチド及びタンパク質ライブラリーの提示は、何百万ものポリペプチドから特異的結合特性を持つものをスクリーニングするために利用されてきた。多価ファージディスプレイ方法は、繊維状ファージの遺伝子III又は遺伝子VIIIとの融合体を通して小さなランダムペプチド及び小タンパク質を提示するために利用されてきた。Wells及びLowman (1992) Curr. Opin. Struct. Biol., 3: 355-362とその中の引用文献。一価のファージディスプレイでは、タンパク質又はペプチドのライブラリーが遺伝子III又はその一部に融合され、ファージ粒子が融合タンパク質の1個又は0個のコピーを提示するように野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で低レベルで発現される。アビディティー効果は多価のファージと比較して低下しているので、選別は内在性のリガンド親和性に基づいており、ファージミドベクターが使われるが、このベクターはDNA操作を単純化する。Lowman及びWells (1991) Methods: A companion to Methods in Enzymology 3:205-0216。
【0100】
「ファージミド」は、細菌の複製起点、例えばCo1E1及びバクテリオファージの遺伝子間領域のコピーを有するプラスミドベクターである。ファージミドはいかなる既知のバクテリオファージ、例えば繊維状バクテリオファージ及びラムドイドバクテリオファージでも使用できる。プラスミドは、一般に、抗生物質耐性の選択マーカーも含む。これらのベクターにクローニングされたDNAセグメントは、プラスミドとして増殖することができる。これらのベクターを備える細胞がファージ粒子の生産のために必要なすべての遺伝子を備えているとき、プラスミドの複製様式はローリングサークル複製に変化し、プラスミドDNAの1つの鎖のコピーとパッケージファージ粒子を生成する。ファージミドは感染性又は非感染性ファージ粒子を形成しうる。この用語は、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面で提示されるように遺伝子融合体として異種ポリペプチド遺伝子と結合したファージコートタンパク質遺伝子又はその断片を含むファージミドを含む。
【0101】
II.本発明を実施するための方法
ここでの発明は、抗体を含んでなる安定した水性製剤に関する。製剤中における抗体は、抗体を生成するための当分野において入手可能な技術を使用して調製され、これの例示的方法は、以下のセクションにより詳細に記載される。
【0102】
抗体は興味の抗原に向けられる。好ましくは、抗原は生物学的に重要なポリペプチドであり、疾患に苦しんでいる哺乳動物への抗体の投与は、哺乳動物における治療的利益をもたらす。しかしながら、非ポリペプチドに対する抗体も考えられる。
【0103】
抗原がポリペプチドである場合、それは膜貫通分子(例えば受容体)又は増殖因子等のリガンドでありうる。例示的抗原は、血管内皮増殖因子(VEGF);ox-LDL;ox-ApoB100;レニン(renin);ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;甲状腺傍ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α-1-抗トリプシン;インシュリンA鎖;インシュリンB鎖;プロインシュリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;要因VIIIC、要因IX、組織因子及びフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrands factor)のような凝固因子;タンパク質Cのような抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性剤;ウロキナーゼかヒトの尿、あるいは組織タイプ・プラスミノゲン活性剤(t-PA)のようなプラスミノゲン活性剤;ボンベシン(bombesin);トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子-α及びβ;エンケファリナーゼ(enkephalinase);RANTES;( 通常、T細胞が発現あるいは分泌されることによる活性化に規制された);ヒトのマクロファージ炎症タンパク質(MIP-1-α);ヒト血清アルブミンのような血清アルブミン;Muellerian-阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;β-ラクタマーゼ(beta-lactamase)のような微生物のタンパク質;デオキシリボヌクレアーゼ(DNase);IgE;細胞毒素のT-リンパ球関連抗原(CTLA);インヒビン(inhibin);アクティビン(activin);ホルモン又は成長因子用受容体;プロテインA又はD;リューマチ因子;骨由来の神経栄養因子のような神経栄養因子(BDNF) 、neurotrophin-3、-4、-5、あるいは-6(NT-3、NT-4、NT-5あるいはNT-6)、NGF-βのような神経成長因子;血小板由来の成長因子(PDGF);aFGFとbFGFのような線維芽細胞増殖因子;上皮細胞増殖因子(EGF);TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4あるいはTGF-β5を含むTGFα及びTGFβのような形質転換成長因子(TGF);インスリン様増殖因子-I及びII(IGF-I及びIGF-II);インスリン様タンパク質結合成長因子のdes(1-3)-IGF-I(脳IGF-I);CD3、CD4、CD8(CD19及びCD20)のようなCDタンパク質;赤血球生成促進因子(erythropoietin);骨誘発因子(osteoinductive factors);抗毒素(immunotoxins);骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン-α、-β及び-γのようなインターフェロン;コロニー刺激因子(CSF) (例えばM-CSF、GM-CSF、G-CSF);インターロイキン(IL) (例えば、IL-1 からIL-10);スーパーオキシド・ジスムターゼ(superoxide dismutase);T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊加速因子(decay accelerating factor);例えば、AIDS膜の一部のようなウイルスの抗原;輸送タンパク;ホーミング受容体;アドレシン(addressins);調節タンパク質(regulatory proteins);CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4及びVCAMのようなインテグリン;HER2、HER3あるいはHER4受容体のような腫瘍関連抗原;及び上記のリストされたポリペプチドのうちのいずれかの断片等の分子を含む。
【0104】
本発明のある実施態様では、本発明により包含される抗体の分子標的はVEGFを含む。ある実施態様では、ここでの抗体は、ヒトVEGFに結合するものである。
【0105】
A.製剤の調製
興味の抗体の調製後(例えば、ここに開示されるように製剤化可能な抗体を生産するための技術は下に詳述され当分野において既知である)、それを含んでなる薬学的製剤が調製される。ある実施態様では、製剤化される抗体は、事前に凍結乾燥処理されておらず、ここでの興味の製剤は水性製剤である。ある実施態様では、抗体は完全長抗体である。ある実施態様では、製剤中の抗体はF(ab’)等の抗体断片であり、この場合、完全長抗体に対し生じないだろう問題(Fabにへの抗体のクリッピング等)が対処される必要がありうる。製剤中に存在する抗体の治療的有効量は、例えば投与の所望される投与量及び方法(一又は複数)を考慮することによって決定される。約0.1mg/mL〜約250mg/mL、又は約10mg/mL〜約200mg/mL、又は約50mg/mL〜約175mg/mLが、製剤中の例示的抗体濃度である。
【0106】
水性製剤は、pH緩衝液中に抗体を含んで調製される。本発明のバッファーは、約4.0〜約6.5の範囲のpHを有する。ある実施態様では、pHは、pH4.25〜6.25の範囲、又はpH4.5〜6.0の範囲、又はpH4.75〜5.75の範囲、又はpH5.0〜5.5の範囲、又はpH5.1〜5.4である。本発明のある実施態様では、製剤は5.2又は約5.2のpHを有する。この範囲内にpHを制御するバッファーの例は、酢酸(例えばアルギニン酢酸又は酢酸ナトリウム)、コハク酸(例えばアルギニンコハク酸又はコハク酸ナトリウム)、グルコン酸、クエン酸及び他の有機酸バッファー及びその組合せを含む。バッファー濃度は、例えばバッファー及び製剤の所望の等張性に依存し、約1mMから約600mMでありうる。ある実施態様では、バッファーは、50mM〜500mM、75mM〜400mM、100mM〜250mM、120mM〜240mM、150mM〜225mM、又は175mM〜210mMの濃度でアルギニンを含有する。本発明のある実施態様では、バッファーは、200mM又は約200mMの濃度でアルギニンを含有する。一実施態様では、バッファーはpH5.2のアルギニン酢酸である(例えば200mM又は約200mM)。
【0107】
場合によっては、界面活性剤が抗体製剤に加えられる。例示的界面活性剤は、ポリソルベート(例えばポリソルベート20、80等)又はポロキサマー(例えばポロキサマー188)等の非イオン性界面活性剤である。加えられる界面活性剤の量は、製剤化される抗体の凝集を低減する、及び/又は製剤中における微粒子の形成を最小化する、吸着を低減するような量である。例えば界面活性剤は、約0.001%〜約0.5%、約0.005%〜約0.2%、約0.01%〜約0.1%、又は約0.02%〜約0.06%、又は約0.03%〜約0.05%の量で製剤中に存在しうる。ある実施態様では、界面活性剤は、0.04%又は約0.04%の量で製剤中に存在する。一実施態様では、製剤は界面活性剤を含有しない。
【0108】
一実施態様では、製剤は上記薬剤(例えば抗体、バッファー、及び/又は界面活性剤)を含有し、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、クロロブタノール及び塩化ベンゼトニウム等の一又は複数の保存料を本質的に含まない。別の実施態様では、特に製剤が複数投与製剤の場合、保存料が製剤に含まれうる。保存料の濃度は、約0.1%から約2%、好ましくは約0.5%から約1%の範囲であるうる。製剤の所望される特徴に悪影響を及ぼさない場合、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に記載されるもの等、一又は複数の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤が製剤に含有されうる。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、用いられる用量及び濃度ではレシピエントに非毒性であり;更なる緩衝剤;共溶媒;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;EDTA等のキレート化剤;金属錯体(例えばZn-タンパク質複合体);ポリエステル等の生分解性ポリマー;及び/又は塩形成対イオンを含む。ここでの例示的な薬学的に許容可能な担体は、間質性薬剤分散剤、例えば可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えばヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えばrHuPH20 (HYLENEX(登録商標), Baxter International, Inc.)を更に含む。ある例示的なsHASEGP及び使用方法は、rHuPH20を含め、米国特許公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968号に記載されている。一態様では、sHASEGPは、コンドロイチナーゼ等の一又は複数の更なるグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0109】
ここでのキレート剤の様々な記述はしばしばEDTAに集中するが、他の金属イオンキレート剤も本発明に包含されることが理解されるだろう。金属イオンキレート剤は当業者によく知られ、限定するものではないが、アミノポリカルボキシレート、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、EDDS(エチレンジアミンジコハク酸)、PDTA(1,3-プロピレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミペンタアセテート酸)、ADA(β-アラニン二酢酸)、MGCA(メチルグリシン二酢酸)等を含む。更に、ここでの幾つかの実施態様はホスホネート/ホスホン酸キレート剤を含む。
【0110】
ここでの製剤はまた、治療される特定の適応症に必要な一以上のタンパク質を含み得、好ましくは、他のタンパク質に悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものである。例えば、抗体が抗VEGFである場合、これは他の薬剤と組合せられてもよい(例えば、化学療法剤、及び抗腫瘍性剤、及び抗など)
【0111】
インビボ投与に使用される製剤は無菌であるべきである。これは、製剤の調製の前又は後に、無菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成される。
【0112】
B.製剤の投与
製剤は、抗体を用いた治療を必要としている哺乳動物、好ましくはヒトに、例えばボーラス又はある期間にわたる連続的注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、腱鞘内、口内、局部的又は吸入経路による既知の方法に従い投与される。一実施態様では、製剤は、静脈内投与によって哺乳動物に投与される。このような目的に対し、製剤は、例えばシリンジ又は静脈ラインを使用して注入される。一実施態様では、製剤は皮下投与によって哺乳動物に投与される。
【0113】
抗体の適切な用量(「治療的有効量」)は、例えば、治療される状態、状態の重篤性及び経過、抗体が予防的目的のための投与か治療的目的のための投与か、治療歴、患者の病歴及び該抗体に対する反応性、使用される抗体のタイプ、主治医の判断に依存するであろう。抗体は、一時期に又は一連の治療にわたり適切に投与され、その後の診断による任意の時期に患者に投与される。抗体は、単一の治療として又は問題の状態を治療するのに有用な他の薬物又は療法と併せて投与してもよい。
【0114】
一般的な提案として、投与される治療的有効量の抗体は、母体体重について約0.1から約50mg/kgの範囲で、一又は複数の投与であり得、使用される抗体の典型的な範囲は例えば約0.3から約20mg/kg、好ましくは約0.3から約15mg/kg毎日投与される。しかしながら、他の投薬計画が有用でありうる。一実施態様では、アンタゴニストは抗VEGFであり、これが約100又は400mgの用量で毎1、2、3、又は4週投与されるか、又は約1、3、5、7.5、10、15、又は20mg/kgの用量を毎1、2、3、又は4週投与される。用量は単回投与として、又は点滴などの複数回投与(例えば2又は3投与)として投与されうる。この療法の経過は一般的な技術で容易にモニタされる。
【0115】
C.抗体調製
(i)抗原調製
場合によっては他の分子にコンジュゲートされた可溶性抗原又はその断片は、抗体を産生するための免疫原として使用されてもよい、受容体等の膜貫通分子に対しては、これらの断片(例えば受容体の細胞外ドメイン)が免疫原として使用されてもよい。あるいは、膜貫通分子を発現している細胞を免疫源として使用してもよい。このような細胞は、天然供給源(例えば癌細胞株)から得てもよく、又は膜貫通分子を発現するように組換え技術によって形質転換された細胞でありうる。抗体を調製するために有用な他の抗原及びその形態は当業者に明瞭であろう。
【0116】
(ii)ある抗体に基づく方法
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原とアジュバントを複数回皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することにより動物において産生される。免疫化される種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターに関連抗原を、二官能性又は誘導体形成剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基による結合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl、又はRとRが異なったアルキル基であるRN=C=NRにより結合させることが有用でありうる。
【0117】
動物を、例えばタンパク質又はコンジュゲート100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスの場合)を完全フロイントアジュバント3体積と併せ、この溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、又は誘導体に対して免疫化する。1ヶ月後、動物を、完全フロイントアジュバントに入れた元の量の1/5ないし1/10のペプチド又はコンジュゲートを用いて複数部位に皮下注射することにより、追加免疫する。7ないし14日後に動物を採血し、抗体価について血清を検定する。動物は、力価がプラトーに達するまで追加免疫する。好ましくは、動物は、同じ抗原のコンジュゲートであるが、異なったタンパク質にコンジュゲートさせた、及び/又は異なった架橋剤によってコンジュゲートさせたコンジュゲートで追加免疫する。コンジュゲートはまたタンパク融合体として組換え細胞培養中で作製することもできる。また、ミョウバンのような凝集化剤が、免疫反応の増強のために好適に使用される。
【0118】
本発明のモノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記述され、更に例えばHongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995), Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2版 1988); Hammerling等, Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681 (Elsevier, N.Y., 1981)、及びNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)でヒト-ヒトハイブリドーマに関するものた記載されたハイブリドーマ法を使用して作製することができる。更なる方法には、例えばハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒト天然IgM抗体の生産に関する米国特許第7189826号に記載されているものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はVollmers及びBrandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005)並びに Vollmers及びBrandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載されている。
【0119】
様々な他のハイブリドーマ技術については、例えば、米国特許出願公開第2006/258841号;米国特許出願公開第2006/183887号(完全なヒト抗体)、米国特許出願公開第2006/059575号;米国特許出願公開第2005/287149号;米国特許出願公開第2005/100546号;米国特許出願公開第2005/026229号、及び米国特許第7078492号及び第7153507号を参照のこと。 ハイブリドーマ法を使用するモノクローナル抗体を製造するための例示的プロトコルは次のように記載されている。一実施態様では、マウス又は他の適切な宿主動物、例えばハムスターを免疫して、免疫化に使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を製造するか又は製造できるリンパ球を誘発する。本発明のポリペプチド又はその断片とアジュバント、例えばモノホスホリル脂質A(MPL)/ジクリノミコール酸トレハロース(TDM)(Ribi Immunochem. Research, Inc., Hamilton, MT)の複数回の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射によって抗体を動物中に産生させる。本発明のポリペプチド(例えば抗原)又はその断片は、当該分野で知られている方法、例えばその幾らかがここに更に記載されている組換え法を使用して調製することができる。免疫化した動物からの血清を抗抗原C抗体についてアッセイし、追加免疫を場合によっては行う。抗抗原抗体を生産する動物からのリンパ球が単離される。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化してもよい。
【0120】
ついで、リンパ球は、ポリエチレングリコール等の適当な融合剤を使用してハイブリドーマ細胞と融合されてハイブリドーマ細胞が形成される。例えば、Goding,Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,pp.59-103 (Academic Press,1986)を参照のこと。効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高水準の抗体発現を支持し、かつHAT培地等の培地に感受性のミエローマ細胞を使用することができる。例示的なミエローマ細胞には、限定されないが、マウスミエローマ株、例えばソークインスティチュート細胞分譲センター(Salk Institute Cell Distribution Center)、San Diego,California,USAから入手可能なMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍から誘導されるもの、及びアメリカンタイプカルチャーコレクション、Rockville,Maryland USAから入手可能なSP-2又はX63-Ag8-65細胞等が含まれる。ヒトミエローマ及びマウス-ヒト異種ミエローマ細胞株もまたヒトモノクローナル抗体の産生に関して記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0121】
このようにして調製されたハイブリドーマは、例えば非融合の親ミエローマ細胞の成長又は生存を妨げる一又は複数の物質を含む培地のような適切な培地に播種され増殖される。例えば、親ミエローマ細胞が、酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く場合には、ハイブリドーマ用の培養培地は、典型的にはHGPRT欠損細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン(HAT培地)を含む。好ましくは、無血清ハイブリドーマ細胞培養法を用いて、例えばEven等, Trends in Biotechnology, 24(3), 105-108 (2006)に記載されているように、仔ウシ血清のような動物由来血清の使用を減じる。
【0122】
ハイブリドーマ細胞培養の生産性を改善するためのツールとしてオリゴペプチドがFranek, Trends in Monoclonal Antibody Research, 111-122 (2005)に記載されている。すなわち、標準培養培地にある種のアミノ酸(アラニン、セリン、アスパラギン、プロリン)を富ませ、又はタンパク加水分解産物画分を富ませ、3から6のアミノ酸残基からなる合成オリゴヌクレオチドによってアポトーシスを有意に抑制することができる。ペプチドはミリモル以上の濃度で存在する。
【0123】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養培地について、本発明の抗体に結合するモノクローナル抗体の生産をアッセイできる。ハイブリドーマ細胞によって生産されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降により、あるいはラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)等のインビトロ結合アッセイにより測定することができる。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばスキャッチャード分析により決定することができる。例えば、Munson等, Anal. Biochem., 107:220 (1980)を参照のこと。
【0124】
所望の特異性、親和性及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後に、クローンが制限希釈法によりサブクローニングされ、標準的方法で増殖されうる。例えば上掲のGodingを参照。この目的のために好適な培養培地は、例えばD-MEM又はRPMI-1640培地を含む。また、ハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍としてインビボで増殖されうる。サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、培養培地、腹水、又は血清から、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティクロマトグラフィー等の慣用の免疫グロブリン精製方法により好適に分離される。ハイブリドーマ細胞からのタンパク質の単離のための一手順は米国特許出願公開第2005/176122号及び米国特許第6919436号に記載されている。該方法は、結合法においてリオトロピックな塩のような最小の塩を用いること、また好ましくは溶離法において少量の有機溶媒を用いることを含む。
【0125】
(iii)ある種のライブラリースクリーニング方法
本発明の抗体は、所望の活性又は活性群を持つ抗体をスクリーニングするためにコンビナトリアルライブラリーを使用することによって作製されうる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、所望される結合特性を有する抗体のためにかかるライブラリーをスクリーニングするために様々な方法が知られている。かかる方法は一般にHoogenboom等 Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O’Brien等編, Human Press, Totowa, NJ, 2001)に記載されている。例えば、興味ある抗体を生産する一方法は、Lee等, J. Mol. Biol. (2004), 340(5):1073-93に記載されたファージ抗体ライブラリーを使用することによる。
【0126】
原理的には、合成クローンが、ファージコートタンパク質に融合した抗体可変領域(Fv)の様々な断片を表示するファージを含むファージライブラリーをスクリーニングすることによって選択される。かかるファージライブラリーは、所望の抗原に対するアフィニティクロマトグラフィーによってパニングされる。所望の抗原に結合可能なFv断片を発現するクローンを抗原に吸着させ、よってライブラリー中の非結合クローンから分離させる。ついで、結合クローンを抗原から溶離させ、抗原吸着/溶離の更なるサイクルによって更に濃縮されうる。本発明の抗体の何れも、興味あるファージクローンを選択するために適切な抗原スクリーニング手法を設計し、続いて、興味あるファージクローンからのFv配列、及びKabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), 1-3巻に記載の適切な定常領域(Fc)配列を用いての完全長抗体クローンの構築によって得ることができる。
【0127】
ある実施態様では、抗体の抗原結合ドメインは、各一が軽(VL)鎖及び重(VH)鎖由来で双方が3つの超可変ループ又は相補鎖決定領域(CDRs)を提示する約110アミノ酸の2つの可変(V)領域から形成される。可変ドメインは、Winter等,Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455(1994)に記載のように、VH及びVLが短く可動性のペプチドを介して共有結合している一本鎖Fv(scFv)断片として、又はそれぞれ定常ドメインと融合して非共有的に相互作用しているFab断片として、ファージ上に機能的にディスプレイされ得る。ここで使用される場合、scFvをコードするファージクローン及びFabをコードするファージクローンは、総称して「Fvファージクローン」又は「Fvクローン」と呼ぶ。
【0128】
VH及びVL遺伝子のレパートリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別個にクローニングし、ファージライブラリーにおいてランダムに組換えることができ、これを、Winter等,Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455(1994)に記載のように抗原結合クローンについて探索することができる。免疫化源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要がなく、免疫原に対して高親和性抗体を提供する。あるいは、ナイーブレパートリーをクローニングして、Griffiths等,EMBO J, 12: 725-734(1993)に記載のように如何なる免疫化もせずに、幅広い非自己抗原及び自己抗原に対するヒト抗体の単一源を提供することが可能である。最終的には、ナイーブライブラリーは、また、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227: 381-388(1992)に記載のように、幹細胞からの再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを利用して高度可変CDR3領域をコードせしめ、インビトロでの再配列を達成させることによって合成的に作製することができる。
【0129】
ある実施態様では、繊維状ファージは、マイナーコートタンパク質pIIIへの融合によって、抗体断片をディスプレイするのに用いられる。該抗体断片は、例えば、Marks等,J. Mol. Biol. 222: 581-597(1991)に記載のように、VH及びVLドメインが可動性ポリペプチドスペーサーによって同じポリペプチド鎖上に連結されている一本鎖Fv断片として、あるいは、例えば、Hoogenboom等,Nucl. Acids. Res., 19: 4133-4137(1991)に記載のように、一つの鎖がpIIIと融合し、他方の鎖が、幾つかの野生型コートタンパク質を置換することによってファージ表面上にFabコートタンパク質構造のアセンブリがディスプレイされるようになる細菌宿主細胞のペリプラズムへ分泌されるFab断片として、ディスプレイされうる。
【0130】
一般に、抗体遺伝子断片をコードする核酸は、ヒト又は動物から収集した免疫細胞から得られる。抗抗原クローンに有利になるように偏ったライブラリーが望ましい場合には、検体を抗原で免疫化して抗体応答を生じさせ、脾臓細胞及び/又は他の末梢血リンパ球(PBLs)である循環B細胞を、ライブラリー構築のために回収する。一実施態様では、抗原免疫化により、抗原に対するヒト抗体を産生するB細胞が生じるように、抗抗原クローンに好ましいヒト抗体遺伝子断片ライブラリーは、機能的ヒト免疫グロブリン遺伝子アレイを有する(及び機能的な内因性抗体産生系を欠く)トランスジェニックマウス中で抗ヒト抗原抗体応答を生じせしめることによって得られる。ヒト抗体産生トランスジェニックマウスの作製は以下に記載する。
【0131】
抗抗原反応性細胞集団の更なる濃縮は、適切なスクリーニング手法を使用して抗原特異的膜結合抗体を発現するB細胞を単離すること、例えば、抗原アフィニティクロマトグラフィーによる細胞分離、又は蛍光色素標識抗原への細胞の吸着とその後の蛍光標示式細胞分取器(FACS)によって得ることができる。
【0132】
あるいは、非免疫化ドナーからの脾臓細胞及び/又はB細胞又は他のPBLの利用によって可能な抗体レパートリーのより良い提示が得られ、また抗原が免疫原性ではない任意の動物(ヒト又は非ヒト)種を利用した抗体ライブラリーの構築が可能となる。インビトロの抗体遺伝子構築を取り込むライブラリーに関しては、幹細胞を被検体から収集して非再配列の抗体遺伝子セグメントをコードする核酸を提供する。興味ある免疫細胞は、様々な動物種、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ目、オオカミ、犬科、ネコ科、ブタ、ウシ、ウマ、及びトリ種等から得ることができる。
【0133】
抗体可変遺伝子セグメント(VH及びVLセグメントを含む)をコードする核酸を、興味ある細胞から回収して増幅する。再配列したVH及びVL遺伝子ライブラリーの場合、所望されるDNAは、Orlandi等,Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 86: 3833-3837 (1989)に記載されているように、リンパ球からのゲノムDNA又はmRNAを単離し、再配列したVH及びVL遺伝子の5’及び3’末端と一致するプライマーによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによって得ることが可能であり、これによって発現のための多様なV遺伝子レパートリーを作製することができる。該V遺伝子は、Orlandi等, (1989)及びWard等,Nature, 341: 544-546(1989)に記載のように、成熟Vドメインをコードするエクソンの5’末端のバックプライマーとJセグメントに基づいた順方向プライマーにより、cDNA及びゲノムDNAから増幅することが可能である。しかしながら、cDNAからの増幅のためには、バックプライマーは、また、Jones等,Biotechnol., 9:88-89(1991)に記載のようにリーダーエクソンに、順方向プライマーは、Sastry等,Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 86:5728-5732(1989)に記載のように定常領域内に基づくことが可能である。相補性を最大にするために、Orlandi等(1989)又はSastry等(1989)に記載のように、縮重をプライマーへ取り込むことが可能である。ある実施態様では、例えば、Marks等,J. Mol. Biol., 222: 581-597(1991)の方法に記載のように、又はOrum等,Nucleic Acids Res., 21: 4491-4498(1993)の方法に記載のように、免疫細胞の核酸試料に存在する全ての入手可能なVH及びVL配置を増幅するために、各V遺伝子ファミリーを標的にしたPCRプライマーを用いて、そのライブラリーの多様性を最大にする。発現ベクターへの増幅DNAのクローニングに関しては、希な制限部位を、Orlandi等(1989)に記載のようにPCRプライマー内の一端へタグとして導入することができ、又はClackson等,Nature, 352: 624-628(1991)に記載のようにタグプライマーを用いて更なるPCR増幅を行う。
【0134】
合成的に再配列したV遺伝子のレパートリーは、V遺伝子セグメントからインビボで誘導することができる。殆どのヒトVH遺伝子セグメントはクローニングされ配列決定され(Tomlinson等, J. Mol. Biol. 227: 776-798(1992)に報告されている)、マッピングがされている(Matsuda等,Nature Genet., 3: 88-94(1993));これらクローニングされたセグメント(H1及びH2ループの全ての主要なコンホメーションを含む)は、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227: 381-388(1992)に記載のように、多様な配列と長さのH3ループをコードするPCRプライマーによる多様なVH遺伝子レパートリーを作製するのに用いられる。VHレパートリーは、また、Barbas等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4457-4461(1992)に記載されているように、単一の長さの長いH3ループに焦点を合わせた全ての配列多様性をともなって作製することができる。ヒトVκ及びVλセグメントはクローニング及び配列決定がなされており(Williams及びWinter, Eur. J. Immunol., 23: 1456-1461(1993))、合成軽鎖レパートリーを作製するのに利用することができる。VH及びVLフォールドの範囲及びL3及びH3の長さに基づく合成的V遺伝子レパートリーは、かなりの構造的多様性を有する抗体をコードする。DNAをコードするV遺伝子の増幅に続いて、生殖系のV遺伝子セグメントを、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227: 381-388(1992)の方法に従ってインビトロで再配列することができる。
【0135】
抗体断片のレパートリーは、幾つかの方法でVH及びVL遺伝子レパートリーを共に組み合わせることによって構築することができる。各レパートリーを異なるベクターで作製し、そのベクターを、例えばHogrefe等, Gene, 128: 119-126(1993)に記載のようにインビトロで、又はコンビナトリアル・インフェクション、例えばWaterhouse等, Nucl. Acids Res., 21: 2265-2266(1993)に記載のloxP系によってインビボで作製することが可能である。このインビボの組換え手法では、大腸菌の形質転換効率によって強いられるライブラリーの大きさの限界を克服するために、二本鎖種のFabフラグメントが利用される。ナイーブVH及びVLレパートリーは、1つはファージミドへ、他方はファージベクターへと個別にクローニングされる。この2つのライブラリーは、その後、各細胞が異なる組み合わせを有し、そのライブラリーの大きさが、存在する細胞の数(約1012クローン)によってのみ限定されるように、ファージミド含有細菌のファージ感染によって組み合わせられる。双方のベクターは、VH及びVL遺伝子が単一のレプリコンへ組換えられ、ファージビリオンへ共にパッケージされるように、インビボの組換えシグナルを有する。これら巨大なライブラリーは、良好な親和性(約10−8MのK−1)の多くの多様な抗体を提供する。
【0136】
別法として、該レパートリーは、例えばBarbas等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7978-7982(1991)に記載のように同じベクターへ連続してクローニングし、又はClakson等, Nature, 352: 624-628(1991)に記載のようにPCRによってアセンブリした後にクローニングすることができる。PCRアセンブリは、また、可動ペプチドスペーサーをコードしているDNAとVH及びVL DNAを連結させて、単鎖のFv(scFv)レパートリーを形成することに利用することができる。更に他の技術では、「細胞内でのPCRアセンブリ」は、Embleton等, Nucl. Acids Res., 20: 3831-3837(1992)に記載のように、PCRによってリンパ球内のVH及びVL遺伝子を組み合わせて、その後、連結した遺伝子のレパートリーをクローニングするのに利用される。
【0137】
ナイーブライブラリー(天然又は合成のいずれか)によって産生された抗体は中程度の親和性(約10〜10−1のKd−1)である可能性があるが、上掲のWinter等(1994)に記載のように二次ライブラリーから構築して再選択することによって、親和性成熟をもインビトロで模倣することが可能である。例えば、Hawkins等, J. Mol. Biol. 226: 889-896(1992)の方法、又はGram等, Proc. Natl. Acad. Sci USA, 89: 3576-3580(1992)の方法においてエラー・プローンポリメラーゼ(Leung等, Technique, 1:11-15(1989)で報告されている)を利用することによって、突然変異をインビトロでランダムに導入することができる。更には、一又は複数のCDRをランダムに変異させることによって、例えば、選択した個々のFvクローンにおいて、対象のCDRまで及ぶランダム配列を有するプライマーによるPCRを利用して、より高い親和性クローンをスクリーニングすることで親和性成熟を行うことが可能である。国際公開第9607754号(1996年3月14日に公開)は、免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域へ突然変異生成を誘導して軽鎖遺伝子のライブラリーを作製する方法を記載している。その他の有効な手法は、Marks等, Biotechnol. 10: 779-783(1992)に記載のように、非免疫化ドナーから得られた天然に生じるVドメイン変異体のレパートリーによるファージディスプレイによって選択されたVH又はVLドメインを組換えること、及び数回のチェーン・リシャッフリングにおいてより高い親和性についてスクリーニングすることである。この技術は、約10−9M又はそれ未満の親和性の抗体及び抗体断片の産生を可能にする。
【0138】
ライブラリーのスクリーニングは当該分野で知られている様々な技術によって達成することができる。例えば、抗原を使用して吸着プレートのウェルをコーティングし、吸着プレートへ付着させた宿主細胞上で発現させるか又はセルソーティングで利用し、又はストレプトアビジンでコーティングしたビーズでの捕獲のためにビオチンにコンジュゲートさせ、又はファージディスプレイライブラリーをパニングするための任意の他の当該分野の方法において利用することが可能である。
【0139】
ファージ粒子の少なくとも一部分を吸着剤に結合させるのに適した条件下で、ファージライブラリーの試料を固定化抗原と接触させる。通常は、pH、イオン強度、温度等を含む条件を選択して、生理学的条件を模倣する。固相と結合したファージを洗浄し、その後、例えばBarbas等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 7978-7982(1991)に記載されているように酸で、又は例えばMarks等, J. Mol. Biol. 222: 581-597(1991)に記載にされているようにアルカリで、又は例えばClackson等, Nature, 352: 624-628(1991)の抗原競合法に類似の手法である抗原競合によって溶出させる。ファージは、1回目の選択で20〜1000倍に濃縮することが可能である。更に、この濃縮されたファージを細菌培養液で増殖させ、更なる回の選択に供することが可能である。
【0140】
選択の効率は、洗浄の間の解離の動力学、及び単一のファージ上の複数の抗体断片が同時に抗原と関われるかどうかを含む多くの要因に依存する。速い解離動態(及び弱い結合親和性)を有する抗体は、短い洗浄、多価ファージディスプレイ及び固相の抗原の高いコーティング密度の利用によって保持することが可能である。高い密度は、多価相互作用を介してファージを安定化するだけでなく、解離したファージの再結合に有利に作用する。遅い解離動態(及び良好な結合親和性)を有する抗体の選択は、Bass等, Proteins, 8: 309-314(1990)及び国際公開第92/09690号に記載されているような長い洗浄と一価ファージディスプレイの利用、及びMarks等, Biotechnol., 10: 779-783(1992)に記載されているような抗原の低コーティング密度によって促進することが可能である。
【0141】
親和性に僅かな違いがあったとしても、抗原に対する異なる親和性のファージ抗体の中で選択することは可能である。しかしながら、選択した抗体のランダム変異(例えば、幾つかの親和性成熟の技術で行われているような)は、多くの変異体を生じやすく、その殆どが抗原と結合し、僅かがより高い親和性である。抗原を限定すると、希な高い親和性のファージが競合して除かれることが可能である。全てのより高い親和性の変異体を保持するため、ファージを、過剰のビオチン化抗原とインキュベートすることが可能であるが、抗原の標的モル濃度親和定数よりも低いモル濃度のビオチン化抗原と共にインキュベーションできる。ついで、高親和性結合ファージをストレプトアビジンでコーティングした常磁性体ビーズによって捕獲することが可能である。そのような「平衡捕獲」は、結合の親和性に従い、親和性の低い大過剰のファージから、僅かに2倍高い親和性の変異体クローンの単離を可能にする感度で抗体を選択することを可能にする。固相と結合したファージを洗浄するのに用いる条件を操作して、解離定数に基づいて識別することも可能である。
【0142】
抗抗原クローンは活性に基づいて選択されうる。ある実施態様では、本発明は、抗原を天然に発現する生きている細胞に結合する、又は浮遊抗原又は他の細胞性構造に結合された抗原に結合する抗抗原抗体を提供する。このような抗抗原抗体に対応するFvクローンは、(1)上述のようなファージライブラリーから抗抗原クローンを単離して、場合によって、好適な細菌宿主中で集団を増殖させることによって、ファージクローンの単離した集団を増幅する;(2)ブロック活性及び非ブロック活性がそれぞれ望まれる第二タンパク質と抗原を選択する;(3)固定された抗原に抗抗原ファージクローンを吸着する;(4)過剰の第二タンパク質を用いて、第二タンパク質の結合決定基と共有するかオーバーラップする抗原-結合決定基を認識する任意の望ましくないクローンを溶出する;そして、(5)工程(4)の後に吸着されたまま残ったクローンを溶出する、ことによって、選別できる。場合によっては、所望のブロック/非ブロック特性を有するクローンを、ここに記載の選別手順を一又は複数回繰り返すことによって、更に濃縮できる。
【0143】
ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体をコードするDNA又は本発明のファージディスプレイFvクローンは、常法を用いて(例えば、ハイブリドーマの対象の領域をコードする重鎖及び軽鎖又はファージDNA鋳型を特異的に増幅するように設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いることにより)即座に分離されて、配列決定される。ひとたび分離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、この状況以外では抗体タンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はミエローマ細胞のような宿主細胞中に形質移入し、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体をコードするDNAの細菌での組換え発現に関する概説論文には、Skerra等, Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262(1993)及びPluckthun, Immunol. Revs. 130: 151-188(1992)が含まれる。
【0144】
本発明のFvクローンをコードするDNAは、重鎖及び/又は軽鎖定常領域をコードする既知のDNA配列(例えば好適なDNA配列は上掲のカバット等から得ることができる)と組み合わせて、完全長ないし部分長の重鎖及び/又は軽鎖をコードするクローンを形成できる。このために、何れかのアイソタイプの定常領域、例えばIgG、IgM、IgA、IgD及びIgE定常領域を用いることができ、このような定常領域は任意のヒト又は動物種から得ることができることが理解されるであろう。ある動物(例えばヒト)種の可変ドメインDNAから得て、ついで「ハイブリッド」である完全長重鎖及び/又は軽鎖のコード配列を形成するために他の動物種の定常領域DNAに融合したFvクローンは、ここで用いられる「キメラ」及び「ハイブリッド」抗体の定義に含まれる。ある実施態様では、ヒト可変DNAから得たFvクローンをヒト定常領域DNAに融合して、完全長又は部分長のヒト重鎖及び/又は軽鎖のコード配列を形成する。
【0145】
また、本発明のハイブリドーマ由来の抗抗原抗体をコードするDNAは、例えば、ハイブリドーマクローン由来の相同的マウス配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を置換すること(例えばMorrison等, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 81:6851(1984)の方法)によって修飾することができる。ハイブリドーマ又はFvクローン由来の抗体又は断片をコードするDNAは、免疫グロブリンコード化配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード化配列の全て又は一部を共有結合させることによってさらに修飾することができる。このようにして、本発明のFvクローン又はハイブリドーマクローン由来の抗体の結合特異性を有する「キメラ」又は「ハイブリッド」抗体が調製される。
【0146】
(iv)ヒト化及びヒト抗体
非ヒト抗体をヒト化する様々な方法が当分野で知られている。例えば、ヒト化抗体には非ヒト由来の一又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的にはヒト抗体の該当する配列に齧歯類CDRs又はCDR配列を置換することによりウィンターと共同研究者の方法(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986); Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988); Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536 (1988))を使用して実施することができる。従って、このような「ヒト化」抗体は、完全なヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には幾らかのCDR残基及び場合によっては幾らかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
【0147】
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を生成する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものと最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク(FR)として受け入れる(Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワークを使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carter等, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 89:4285 (1992); Presta等, J. Immnol., 151:2623 (1993))。
【0148】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、方法の一実施態様では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムが入手可能である。これら表示を調べることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基のありそうな役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、高頻度可変領域残基は、直接的かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0149】
本発明のヒト抗体は、上記のように、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択したFvクローン可変ドメイン配列を既知のヒト定常ドメイン配列と組み合わせることによって構築することができる。あるいは、本発明のヒトモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体の生産のためのヒトミエローマ及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株は、例えば、Kozbor, J. Immunol. 133, 3001(1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner 等, J. Immunol., 147: 86 (1991)に記載されている。
【0150】
免疫化することで、内因性免疫グロブリンの生産なしに、ヒト抗体の完全なレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を生産することが可能である。例えば、キメラ及び生殖細胞系変異体マウスでの抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合体欠失は、内因性抗体の生産の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖細胞系変異体マウスでのヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子配列の転移は、抗原の投与によってヒト抗体の生産を引き起こす。例えば、Jakobovits et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovits等, Nature, 362:255-258 (1993); Bruggermann等, Year in Immuno., 7:33 (1993); and Duchosal等 Nature 355:258 (1992)を参照のこと。
【0151】
また、遺伝子シャフリングは、ヒト抗体が開始非ヒト、例えば齧歯類の抗体と類似した親和性及び特性を有している場合、非ヒト、例えば齧歯類の抗体からヒト抗体を得るために使用することもできる。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法により、上記のファージディスプレイ技術により得られた非ヒト抗体断片の重鎖又は軽鎖可変領域の何れかをヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置換し、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvないしFabキメラの集団を作成する。抗原を選択することにより、ヒト鎖が初めのファージディスプレイクローンにおいて一致した非ヒト鎖の除去により破壊された抗原結合部位を回復する、非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvないしFabが単離される、つまり、エピトープがヒト鎖パートナーの選択をつかさどる(インプリントする)。残りの非ヒト鎖を置換するためにこの工程を繰り返すと、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日公開のPCT特許出願WO93/06213を参照)。伝統的なCDR移植による非ヒト抗体のヒト化と異なり、この技術により、非ヒト起源のFR又はCDR残基を全く持たない完全なヒト抗体が得られる。
【0152】
(v)抗体断片
抗体断片は、酵素消化等の従来の手段によって、又は組換え技術によって生成されうる。特定の状況において、完全な抗体ではなく抗体断片の使用が有利である。より小さいサイズの断片により迅速除去が可能となり、固形腫瘍へのアクセスが改善されうる。特定の抗体断片の概説についてはHudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134を参照のこと。
【0153】
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、インタクト抗体のタンパク質分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical及びBiophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。Fab、Fv及びScFv抗体断片は全て大腸菌で発現され、そこから分泌されるため、大量のこれらの断片を容易に生産することができる。抗体断片は上述において検討した抗体ファージライブラリから単離することができる。別法として、Fab’-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合してF(ab’)断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167 (1992))。他のアプローチ法では、F(ab’)断片を組換え宿主細胞培養から直接単離することができる。エピトープ残基に結合するサルベージレセプターを含むインビボでの半減期が延長したFab及びF(ab’)断片が米国特許第5869046号に記載されている。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。ある実施態様では、抗体は一本鎖Fv断片(scFV)である。例えば国際公開公報第1993/16185号;米国特許第5571894号;及び同第5587458号を参照のこと。Fv及びscFvは、定常領域を欠いたインタクトな結合部位を有する唯一の種であり;よってそれらはインビボでの使用中の低減された非特異的結合に適しうる。scFv融合タンパク質が、scFvのアミノ又はカルボキシ末端の何れかでエフェクタータンパク質の融合を産出するために構築されてよい。Antibody Engineering, ed. Borrebaeck, supraを参照のこと。また、抗体断片は、例えば米国特許第5641870号に記載されているような「直鎖状抗体」であってもよい。このような直線状の断片は単特異的又は二重特異的であってよい。
【0154】
(vi)多重特異性抗体
多重特異性抗体は少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を持ち、エピトープは通常異なる抗原からである。このような分子は通常2つの異なるエピトープにのみ結合するが(例えば二重特異性抗体、BsAb)、三重特異性抗体等の更なる特異性を有する抗体が、ここで使用される場合、この表現に包含される。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab’)二重特異性抗体)として調製されることができる。
【0155】
二重特異性抗体の作成方法は、当技術分野で周知である。完全長二重特異性抗体の伝統的な産生は2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現に基づき、ここで2つの鎖は異なる特異性を持っている(Millstein等, Nature, 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティクロマトグラフィ工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法がWO93/08829及びTraunecker等, EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0156】
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原-抗体連結部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は、少なくともヒンジの一部、C2及びC3領域を含むIg重鎖定常ドメインとの融合でありうる。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(C1)が、融合の少なくとも一つに存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖の融合、及び望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これにより、コンストラクトに使用される3つのポリペプチド鎖の等しくない比率が、最適な収率をもたらす態様において、3つのポリペプチド断片の相互の割合の調節により大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも2つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が所望の鎖の組み合わせの収率に有意な影響を及ぼさないときは、2又は3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を単一の発現ベクターに挿入することが可能である。
【0157】
このアプローチ法の一実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖/軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、WO94/04690に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0158】
WO96/27011に記載される別のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。ある界面は、抗体定常ドメインのC3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第一抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより、大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を第二の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0159】
二重特異性抗体とは架橋抗体や「ヘテロコンジュゲート(ヘテロ抱合体)」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの一方の抗体がアビジンとカップリングし、他方はビオチンとカップリングしていてもよい。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせること(米国特許第4676980号)及びHIV感染の治療(WO91/00360、WO92/200373、及びEP03089)等の用途が提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は適当な架橋方法によって生成できる。適切な架橋剤は当技術分野において周知であり、それらは複数の架橋法と共に米国特許第4676980号に記されている。
【0160】
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) はインタクト抗体をタンパク質分解的に切断してF(ab’)断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルヒド形成を防止する。産生されたFab’断片は次いでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab’-TNB誘導体の一つを次いでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab’-チオールに再転換し、等モル量の他のFab’-TNB誘導体と混合して二重特異性抗体を形成する。作られた二重特異性抗体は酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0161】
最近の進歩により、大腸菌からのFab’-SH断片の直接の回収が容易になり、これは化学的に結合して二重特異性抗体を形成することができる。Shalaby等, J.Exp.Med., 175:217-225 (1992)は完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)分子の製造を記述している。各Fab’断片は大腸菌から別々に分泌され、インビトロで定方向化学的カップリングを受けて二重特異性抗体を形成する。
【0162】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し単離する様々な方法もまた記述されている。例えば、ロイシンジッパーを使用して二重特異性抗体が生産されている。Kostelny等, J.Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドが、遺伝子融合により2つの異なった抗体のFab’部分に結合させられた。抗体ホモダイマーがヒンジ領域で還元されてモノマーを形成し、次いで再酸化されて抗体ヘテロダイマーを形成した。この方法はまた抗体ホモダイマーの生産に対して使用することができる。Hollinger等, Proc. Nati. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作成する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするのに十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(V)に重鎖可変ドメイン(V)を結合してなる。従って、一つの断片のV及びVドメインは別の断片の相補的V及びVドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。一本鎖Fv(sFv)ダイマーを使用する別の二重特異性抗体断片製造方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol., 152:5368 (1994)を参照されたい。
【0163】
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tuft等 J. Immunol. 147: 60 (1991)。
【0164】
(vii)単一ドメイン抗体
いくつかの実施態様では、本発明の抗体は単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部、もしくは軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む、単一のポリペプチド鎖である。ある実施態様では、単一ドメイン抗体はヒト単一ドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6248516B1号を参照)。一実施態様では、単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部からなる。
【0165】
(viii)抗体変異体
いくつかの実施態様では、ここに記載された抗体のアミノ酸配列の修飾を考える。例えば、抗体の結合親和性及び/又は生物学的特性を改善することが望ましい。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチドに適切な変化を導入して、又はペプチド合成により調製することができる。そのような修飾は、抗体のアミノ酸配列内の残基の、例えば、欠失型、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終構成物が所望する特徴を有していれば、欠失、挿入及び置換をどのように組合せてもよい。アミノ酸変化は、配列が作製されるときに、対象となる抗体アミノ酸配列に導入することができる。
【0166】
(ix)抗体誘導体
本発明の抗体は、当該分野で知られ、直ぐに利用できる付加的な非タンパク質部分を含むようにさらに修飾することができる。ある実施態様では、抗体の誘導体化に適切な部分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的例には、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸のコポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマー)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、プロリルプロピレンオキシド/エチレンオキシドのコポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール類(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物が含まれる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中におけるその安定性のために、製造においては有利でありうる。ポリマーは任意の分子量であってよく、分枝状又は非分枝状でありうる。抗体に結合するポリマーの数は変化し得、1を越えるポリマーが結合されるならば、それらは同じ又は異なる分子でありうる。一般的に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、限定されるものではないが、抗体誘導体が定められた条件下で治療に使用されるかどうか等に関わらず、改善される抗体の特定の特性又は機能を含む考慮に基づき、決定することができる。
【0167】
(x)ベクター、宿主細胞及び組換え方法
抗体はまた組換え法を使用して生産することができる。抗抗原抗体の組換え生産のために、抗体をコードする核酸が単離され、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター中に挿入される。抗体をコードするDNAは直ぐに単離され、常套的な手法を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドを使用することによって)配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分には、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列である。
【0168】
(a)シグナル配列成分
本発明の抗体は直接的に組換え手法によって生産されるだけではなく、シグナル配列あるいは成熟タンパク質あるいはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種性ポリペプチドとの融合ペプチドとしても生産される。好ましく選択された異種シグナル配列は宿主細胞によって認識され加工される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。天然抗体シグナル配列を認識せずプロセシングしない原核生物宿主細胞に対して、シグナル配列は、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppあるいは熱安定なエンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列により置換される。酵母での分泌に対して、天然シグナル配列は、例えば酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(酵母菌属(Saccharomyces)及びクルイベロマイシス(Kluyveromyces)α因子リーダーを含む)、又は酸ホスフォターゼリーダー、白体(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー、又は国際公開第90/13646号に記載されているシグナルにより置換されうる。哺乳動物細胞での発現においては、哺乳動物のシグナル配列並びにウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用できる。
【0169】
(b)複製起点成分
発現及びクローニングベクターは共に一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。一般に、クローニングベクターにおいて、この配列は宿主染色体DNAとは独立にベクターが複製することを可能にするものであり、複製開始点又は自律的複製配列を含む。そのような配列は多くの細菌、酵母及びウイルスに対してよく知られている。プラスミドpBR322に由来する複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド開始点は酵母に適しており、様々なウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般には、哺乳動物の発現ベクターには複製開始点成分は不要である(SV40開始点が典型的にはただ初期プロモーターを有しているために用いられる)。
【0170】
(c)選択遺伝子成分
発現及びクローニングベクターは、典型的には、選択可能マーカーとも称される選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートあるいはテトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)例えばバシリに対する遺伝子コードD-アラニンラセマーゼのような、複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0171】
選択方法の一例では、宿主細胞の成長を抑止する薬物が用いられる。異種性遺伝子で首尾よく形質転換した細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を生産し、よって選択工程を生存する。このような優性選択の例は、薬剤ネオマイシン、ミコフェノール酸及びハイグロマイシンを使用する。
【0172】
哺乳動物細胞に適切な選択可能なマーカーの他の例は、抗体核酸を捕捉することのできる細胞成分を同定することを可能にするもの、例えばDHFR、グルタミンシンテターゼ(GS)、チミジンキナーゼ、メタロチオネインI及びII、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等々である。
【0173】
例えば、DHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞は、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトリキセート(Mtx)を含む培地において形質転換物を培養することで同定される。これらの条件下で、DHFR遺伝子は任意の他の同時形質転換された核酸と共に増幅される。内因性DHFR活性が欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)株化細胞(例えばATCC CRL-9096)を使用することができる。
【0174】
あるいは、GS遺伝子で形質転換された細胞は、GSの阻害剤であるL-メチオニンスルホキシイミン(Msx)を含む培養培地中で形質転換体を培養することによって同定される。これらの条件下で、GS遺伝子は任意の他の同時形質転換された核酸と共に増幅される。GS選択/増幅系は、上述のDHFR選択/増幅系と組み合わせて使用することができる。
【0175】
あるいは、興味ある抗体をコードするDNA配列、野生型DHFR遺伝子、及びアミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ(APH)のような他の選択可能マーカーと共に形質転換あるいは同時形質転換した宿主細胞(特に、内在性DHFRを含む野生型宿主)は、カナマイシン、ネオマイシンあるいはG418のようなアミノグリコシド抗生物質のような選択可能マーカーの選択剤を含む培地中での細胞増殖により選択することができる。米国特許第4965199号を参照のこと。
【0176】
酵母中での使用に好適な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb等, Nature, 282:39(1979))。trp1遺伝子は、例えば、ATCC第44076号あるいはPEP4-1のようなトリプトファン内で増殖する能力に欠ける酵母の突然変異株に対する選択マーカーを提供する。Jones, Genetics, 85:12 (1977)。酵母宿主細胞ゲノムにtrp1破壊が存在することは、ついでトリプトファンの不存在下における増殖による形質転換を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠陥酵母株(ATCC20622あるいは38626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドによって補完される。
【0177】
また、1.6μmの円形プラスミドpKD1由来のベクターは、クルイヴェロマイシス(Kluyveromyces)酵母の形質転換に用いることができる。あるいは、組換え仔ウシのキモシンの大規模生産のための発現系がK.ラクティス(lactis)に対して報告されている。Van den Berg, Bio/Technology, 8:135 (1990)。クルイヴェロマイシスの工業的な菌株による、組換え体成熟ヒト血清アルブミンの分泌のための安定した複数コピー発現ベクターもまた開示されている。Fleer 等, Bio/Technology,9:968-975 (1991)。
【0178】
(d)プロモーター成分
発現及びクローニングベクターは一般に宿主生物体によって認識され抗体核酸に作用可能に結合しているプロモーターを含む。原核生物宿主での使用に好適なプロモーターは、phoAプロモーター、βラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、及びハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターを含む。しかし、他の既知の細菌プロモーターも好適である。細菌系で使用するプロモータもまた抗体をコードするDNAと作用可能に結合したシャイン・ダルガーノ(S.D.)配列を含むであろう。
【0179】
真核生物に対してもプロモーター配列が知られている。実質的に全ての真核生物の遺伝子が、転写開始部位からおよそ25から30塩基上流に見出されるATリッチ領域を有している。多数の遺伝子の転写開始位置から70から80塩基上流に見出される他の配列は、Nが任意のヌクレオチドであるCNCAAT領域である。大部分の真核生物遺伝子の3'末端には、コード配列の3'末端へのポリA尾部の付加に対するシグナルであるAATAAA配列がある。これらの配列は全て真核生物の発現ベクターに適切に挿入される。
【0180】
酵母宿主と共に用いて好適なプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセラートキナーゼ又は他の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
【0181】
他の酵母プロモーターは、増殖条件によって転写が制御される付加的効果を有する誘発的プロモーターであり、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用を支配する酵素のプロモーター領域である。酵母の発現に好適に用いられるベクターとプロモータは欧州特許出願公開第73657号に更に記載されている。また酵母エンハンサーも酵母プロモーターと共に好適に用いられる。
【0182】
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからの抗体の転写は、例えば、ポリオーマウィルス、伝染性上皮腫ウィルス、アデノウィルス(例えばアデノウィルス2)、ウシ乳頭腫ウィルス、トリ肉腫ウィルス、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、B型肝炎ウィルス、サルウィルス40(SV40)のようなウィルスのゲノムから得られるプロモーター、又は異種性哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターによって、このようなプロモーターが宿主細胞系に適合し得る限り、調節されうる。
【0183】
SV40ウィルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点を更に含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウィルスの最初期プロモーターは、HindIIIE制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシ乳頭腫ウィルスを用いて哺乳動物宿主中でDNAを発現させる系が、米国特許第4419446号に開示されている。この系の変形例は米国特許第4601978号に開示されている。また、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの調節下でのマウス細胞中でのヒトβインターフェロンcDNAの発現について、Reyes等, Nature, 297:598-601(1982)を参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウィルス長末端反復をプロモーターとして使用することができる。
【0184】
(e)エンハンサーエレメント成分
より高等の真核生物によるこの発明の抗体をコードしているDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによってしばしば増強される。哺乳動物遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、真核細胞ウィルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100−270塩基対)、サイトメガロウィルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウィルスエンハンサーが含まれる。真核生物プロモーターの活性化のための増強要素については、Yaniv, Nature, 297:17-18 (1982)もまた参照のこと。エンハンサーは、抗体コード配列の5'又は3'位でベクター中にスプライシングされうるが、好ましくはプロモーターから5'位に位置している。
【0185】
(f)転写終結成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)に用いられる発現ベクターは、また転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列を含む。このような配列は、真核生物又はウィルスのDNA又はcDNAの5'、時には3'の非翻訳領域から一般に取得できる。これらの領域は、抗体をコードしているmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。一つの有用な転写終結成分はウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号とそこに開示された発現ベクターを参照のこと。
【0186】
(g)宿主細胞の選択及び形質転換
ここに記載のベクター中のDNAをクローニングあるいは発現させるために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなく例示的なものである。
【0187】
完全長抗体、抗体融合タンパク質、及び抗体断片は、治療用の抗体が細胞傷害剤(例えば、毒素)と結合し、それ自身が腫瘍細胞の破壊において効果を示す場合など、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要ない場合に、細菌で産生させることができる。完全長抗体は、循環中でより長い半減期を有する。大腸菌での産生が、より迅速でより費用効率的である。細菌での抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5648237号(Carter等)、米国特許第5789199号(Joly等)、及び翻訳開始部位(TIR)及び発現と分泌を最適化するシグナル配列を記載している米国特許第5840523号(Simmons等)を参照のこと。また大腸菌中での抗体断片の発現について記載しているCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo編, Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254を参照のこと。発現の後、抗体は、大腸菌細胞ペーストから可溶性分画へ分離し、例えば、アイソタイプに応じてプロテインA又はGカラムを介して精製することができる。最終精製は、例えば、CHO細胞で発現させた抗体を精製するための工程と同じようにして行うことができる。
【0188】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用でき、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。治療用タンパク質の生産のための酵母及び糸状真菌の使用を検討している概説には、例えばGerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)を参照のこと。
【0189】
グリコシル化経路が「ヒト化」されており、部分的又は完全なヒトグリコシル化パターンを持つ抗体の生産を生じるある種の真菌及び酵母株を選択することができる。例えば、Li等., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006) (ピキア・パストリスにおけるグリコシル化経路のヒト化を記載);及び上掲のGerngross等を参照のこと。
【0190】
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞はまた多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。
【0191】
綿花、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、ウキクサ(Lemnaceae)、アルファルファ(M. truncatula)、及びタバコのような植物細胞培養を宿主として利用することもできる。例えば米国特許第5959177号、第6040498号、第6420548号、第7125978号及び第6417429号(トランスジェニック植物中で抗体を生産するためのPLANTIBODIESTMを記載)を参照のこと。
【0192】
脊椎動物細胞を宿主として使用することができ、培養(組織培養)中での脊椎動物細胞の増殖は常套的な手順になっている。有用な哺乳動物宿主株化細胞の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株 (COS-7, ATCC CRL1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol., 36:59 (1977));ハムスター乳児腎細胞(BHK, ATCC CCL10);マウスのセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));サルの腎細胞 (CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザルの腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞 (HELA, ATCC CCL2);イヌ腎細胞 (MDCK, ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞 (BRL3A, ATCC CRL1442);ヒト肺細胞 (W138, ATCC CCL75);ヒト肝細胞 (Hep G2, HB8065);マウス乳房腫瘍細胞 (MMT060562, ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等, Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(HepG2)である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFRCHO細胞(Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;及びNS0及びSp2/0のようなミエローマ細胞株が含まれる。抗体生産に適したある種の哺乳動物宿主細胞株については、例えば、Yazaki及びWu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo編, Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 255-268を参照のこと。
【0193】
宿主細胞を抗体生産のための上述の発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅させるために適切に変性された常套的な栄養培地中で培養する。
【0194】
(h)宿主細胞の培養
この発明の抗体を産生するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地((MEM),(シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM),シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された何れの培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地には何れもホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は表皮成長因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について過去に用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0195】
(xi)抗体の精製
組換え技術を用いる場合、抗体は細胞内、細胞膜周辺腔に生産され、又は培地内に直接分泌される。抗体が細胞内に生産された場合、第1の工程として、宿主細胞か溶解された断片の何れにしても、粒子状の細片が、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。Carter等, Bio/Technology 10: 163-167 (1992)は、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌された抗体の単離方法を記載している。簡単に述べると、細胞ペーストを、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分間解凍する。細胞細片は遠心分離で除去できる。抗体が培地に分泌された場合は、そのような発現系からの上清を、一般的には先ず市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はPelliconの限外濾過装置を用いて濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記の任意の工程に含めて、タンパク質分解を阻害してもよく、また抗生物質を含めて外来性の汚染物の増殖を防止してもよい。
【0196】
細胞から調製した抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製でき、アフィニティクロマトグラフィーが典型的には好ましい精製工程である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等, J. immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5: 16571575 (1986))。アフィニティーリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他の材料も使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流量及び短い処理時間を可能にする。抗体がC3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンでのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂上でのSEPHAROSETMクロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラム)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿法も、回収される抗体に応じて利用可能である。
【0197】
一般に、研究、試験及び臨床に使用される抗体を調製するための様々な方法は、当該分野で十分に確立されており、上述の方法と一致し、及び/又は対象の特定の抗体に対して当業者が適切と考えるものである。
【0198】
D.生物学的に活性な抗体の選択
上記のように生成される抗体は、治療的観点から有利な特性を有する抗体を選択するために、一又は複数の「生物学的活性」アッセイに課されうる。抗体は、産生された抗原に結合するその能力についてスクリーニングされうる。例えば抗VEGF抗体については、下の実施例に示すように、抗体の抗原結合特性は、VEGFに結合する能力を検出するアッセイにおいて評価されることができる。
【0199】
別の実施態様では、抗体の親和性は例えば、飽和結合;ELISA;及び/又は競合アッセイ(例えばRIA)によって測定されうる。
【0200】
また、抗体は、例えば治療剤としてのその効能を評価するために、他の生物学的活性アッセイにかけることができる。このようなアッセイは当該分野において既知であり、標的抗原と抗体の意図される用途に依存する。
【0201】
対象の抗原上の特定のエピトープに結合する抗体(例えば、VEGFに対する、実施例の抗VEGF抗体の結合をブロックするもの)をスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow及びDavid Lane (1988)に記載されたもののような常套的な交差ブロックアッセイを実施することができる。別法として、例えばChampe等, J. Biol. Chem. 270:1388-1394 (1995)に記載されているようなエピトープマッピングを実施して抗体が対象のエピトープに結合するかどうかを決定することができる。
【0202】
E.製造品
本発明の別の実施態様では、本発明の水性薬学的製剤を収容する容器を含んでなる製造品を提供し、場合によってはその使用のための指示を提供する。適切な容器は、例えばボトル、バイアル及びシリンジを含む。容器は、ガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成されうる。例示的容器は3−20ccの使い捨てガラスバイアルである。あるいは、多回投与製剤に対し、容器は3−100ccガラスバイアルでありうる。容器は製剤を収容し、容器上の又は容器に付随するラベルは使用の方法を示しうる。製造品は商業的又は使用者の立場から所望される他の材料を更に含み得、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用説明を有するパッケージ挿入物を含む。
【0203】
発明は、以下の実施例の参照により、より完全に理解されるだろう。しかしながら、それらは、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。全文献及び特許引用は参照により本明細書中に援用する。
【0204】
当業者が本発明を実施するために、明細書は十分であると考えられる。ここに示され記述されているものに加え本発明の様々な変更が、前述から当業者に明瞭であると考えられ、添付の請求の範囲に含まれる。ここに引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願を、全ての目的に対し、出典明記によりその全体を本明細書中に援用する。
【0205】
実施例
ここに記載する実施例及び実施態様は例示目的のためのみであり、それらを考慮した様々な変更又は変化が当業者に提案され、本出願の精神と範囲、また添付の請求の範囲に含まれる。
【0206】
実施例1:安定した抗VEGF抗体液体製剤
この実施例は、ヒスチジン、アルギニン、酢酸、塩化ナトリウムを含んでなる様々な液体製剤中において約20mg/mL−200mg/mLの範囲のタンパク質濃度で抗VEGF抗体を含んでなる安定した液体製剤の形成及び安定性試験を記載する。3ccグラスバイアル中の1ミリリットルの各製剤を40Cで保管し、その安定性を1、2、及び4週間で評価した。UV(濃度及び濁度について)、サイズ多様分析に対するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、電荷多様分析に対するイメージキャピラリー等電点電気泳動(icIEF)、サイズ分布に対するCE-SDS、また活性に対する結合アッセイを含む、幾つかのアッセイにより抗VEGFの安定性をモニタした。4週間の安定性試験の後、我々の結果は、抗VEGFが、200mMのアルギニン酢酸、150mMの塩化ナトリウム、0.04%のPS20、pH5.2において安定であることを示した。
【0207】
抗VEGFの安定性(例えば凝集形成、粘性等)を、ヒスチジン、塩化ナトリウム、アルギニン、及び酢酸を含んでなる様々な液体製剤において調査した。抗VEGFの安定性を、凝集形成分析について、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を含む幾つかのアッセイによってモニタした。我々の結果は、抗VEGFが、アルギニン含有バッファー中において、約pH5.2で安定であることを示した。
【0208】
表1に挙げる最終濃度を得るために、Slide-a-Lyzer(登録商標)カセットを使用する透析により、抗VEGFを異なるバッファーに製剤化した。各製剤を、0.22μmのSteriflip(登録商標)フィルターを用いて無菌濾過し、オートクレーブバイアルに無菌的に充填し、ストッパーをし、密封した。サンプルを2−8C、25C、及び40Cに置き、安定性実験を、選択した温度で実施した。
表1:製剤
製剤
A 51mMのリン酸ナトリウム、159mMのトレハロース、0.04% PS20、pH6.2
B 200mMのアルギニン酢酸、0.04% PS20、pH5.2
C 20mMの酢酸ナトリウム、240mMのスクロース、0.04% PS20、pH5.2
D 20mMのヒスチジンクロライド、200mMのアルギニンクロライド、0.04% PS20、pH5.2
【0209】
方法
pH:200μL体積の各サンプルを周囲温度で1.5mlのEppendorfチューブにいれ、それらのpHを、Ross(登録商標)semi-micro電極を具備するThermo OrionpHメーターを使用して測定した。pHメーターを、Thermo Orionバッファー規格pH4.0、5.0及び7.0を使用して較正した。
【0210】
粘性:せん断粘度を、0.049mmの高さで25mmのコーン(CP25−1)を用いAnton Paar Physica MCR300レオメータを使用して測定した。75μLの各サンプルを25°CでPeltierプレートに搭載し、10001/sの一定せん断速度で、100sあたり10回測定した。
【0211】
サイズ排除交換クロマトグラフィー(SEC):サイズ排除クロマトグラフィーを、(原注入を用い)全凝集レベル及び(希釈注入を用い)遅解離凝集レベルを定量化するために実施した。希釈注入を、移動相バッファー(0.20Mのリン酸カリウム、0.25Mの塩化カリウム、pH6.2)を用いて0.5mg/mLに希釈した。全サンプルを、解析の前に30°Cで24時間インキュベートした。10mLの各原サンプル及び100mLの各希釈サンプルを、Agilent 1100 HPLCシステムを使用し、TSK G3000SWXL、7.8X300mmカラム(TOSOHAAS,部品番号08541)上に注入した。オートサンプラーを30°Cに保ち、カラムを周囲温度に保った。流量は0.5mL/分であり、サンプル当たりの全実行時間は30分であった。データを、HP Chemstationを使用し、280nmのサンプル吸光度を用い解析した。
【0212】
イオン交換クロマトグラフィー(IEC):イオン交換クロマトグラフィーを実施し、カルボキシペプチダーゼB(CpB)消化サンプルにおける荷電バリアントを定量化した。サンプルを溶媒A(20mMのN-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)バッファー,pH6.5)を用いて1mg/mLに希釈し、1mg/mLCpBの1%w/wの添加で処理し、37°Cで20分間インキュベートした。次いで50mLの各サンプルを、Agilent 1100 HPLCを使用して、Dionex ProPac WCX-10、4.6X250mmカラム上に注入した。オートサンプラー温度を2−8°Cに保ち、カラムを40°Cに保った。試験手順に挙げるように、流量は0.5mL/分であり、溶媒A及び溶媒B(溶媒A中に200mMの塩化ナトリウム)の勾配を使用した。データを、HP Chemstationを使用し、280nmのサンプル吸光度を用いて解析した。
【0213】
濁度アッセイ:濁度をモニタするために、各製剤の光学密度を、Agilent 8453 UV-VIS分光光度計を使用して、350nmで測定した。全サンプルを、希釈せず、1cm光路長水晶キュベットを使用して解析した。
【0214】
−20°C及び凍解安定性研究:製剤A−Dを、316Lステンレススチール小カン(15mL/小カン)に無菌的に充填した。全サンプルを−20°Cで、様々な時間(例えば24、48、72時間又はそれ以上;4、5、6、7日又はそれ以上;2、3、4、5、6、7、8週又はそれ以上;3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24ヶ月又はそれ以上)保管し、ラミナーフローフード下で無菌的に連続的にサンプル採取した。更に、製剤A−Dを6ccガラスバイアルに充填し、−20°Cで保管した。各バイアルを5回の凍解サイクルに課し、SEC、IEC及び濁度アッセイを用いて解析した。凍解サイクルは、−20°Cで少なくとも24時間の保管、その後5°Cで少なくとも24時間の保管を伴った。
【0215】
結果及び考察
この研究は、アルギニンベース製剤における異なる濃度の抗VEGFの安定性(例えば、凝集形成、粘度、化学的安定性など)を調査した。SEC及びIECを使用し、ストレス及び加速貯蔵条件で抗VEGFの安定性をモニタした。抗VEGFの凝集及び粘度を測定し、下の表2に記載し、図2及び4に示す。

【0216】
40°Cでの全製剤の凝集:40°Cで0、1、2、及び4週間の保管後、各抗VEGF製剤において形成された全凝集及び二量体の量を測定し、下の表3、4、及び5に記載し、図1及び3に示す。



【0217】
25℃での製剤の凝集:25℃で0、1、2、4及び8週間の保管後、各抗VEGF製剤(100mg/ml)において形成された全凝集及び二量体の量を測定し、下の表6に記載する。

【0218】
2−8°Cでの製剤の凝集:2−8°Cで0及び4週間の保管後、各抗VEGF製剤(100mg/ml)において形成された凝集及び二量体の量を測定し、下の表7に記載する。

【0219】
40℃での様々なアルギニン濃度での凝集:様々なアルギニン酢酸濃度の各抗VEGF製剤において形成された全凝集の量を測定し、下の表8に記載する。

【0220】
賦形剤及びイオン強度の効果:抗VEGFの安定性に関し異なる賦形剤の効果を調査した。調査した賦形剤のリストは、リン酸ナトリウム、アルギニン酢酸、酢酸ナトリウム、及びヒスチジンクロライドを含む。我々の結果は、アルギニンクロライド及びヒスチジンクロライドを含有する製剤が、他の全ての製剤より速く凝集したことを示した。
【0221】
抗VEGFの安定性を様々なバッファー条件において評価した。研究から得られたデータは、抗VEGFがpH4.0及びpH6.0の間のアルギニン酢酸バッファーにおいてより安定であることを示した。製剤スクリーニング研究から得られたデータは、pH5.2、200mMのアルギニン酢酸、0.04% PS20中、100mg/mLのタンパク質濃度で、抗VEGFが安定であり、低減された凝集及び二量体を有することを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定した水性薬学的製剤において、pH4.0から6.0のアルギニンバッファー中に治療的有効量の抗体を含んでなる製剤。
【請求項2】
バッファーが、pH4.5から5.5のアルギニン酢酸バッファーである請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
バッファーが、pH4.8から5.4のアルギニン酢酸バッファーである請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
バッファーが、pH5.2のアルギニン酢酸バッファーである請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
バッファー中のアルギニン酢酸濃度が約25mMから約250mMである請求項2、3、又は4に記載の製剤。
【請求項6】
バッファー中のアルギニン酢酸濃度が約50mMから約250mMである請求項2、3、又は4に記載の製剤。
【請求項7】
バッファー中のアルギニン酢酸濃度が約75mMから約250mMである請求項2、3、又は4に記載の製剤。
【請求項8】
バッファー中のアルギニン酢酸濃度が約100mMから約250mMである請求項2、3、又は4に記載の製剤。
【請求項9】
バッファー中のアルギニン酢酸濃度が約120mMから約240mMである請求項2、3、又は4に記載の製剤。
【請求項10】
バッファー中のアルギニン酢酸濃度が約150mMから約225mMである請求項2、3、又は4に記載の製剤。
【請求項11】
バッファー中のアルギニン酢酸濃度が約200mMである請求項2、3、又は4に記載の製剤。
【請求項12】
界面活性物質を更に含んでなる請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
界面活性物質がポリソルベートである請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
ポリソルベートがポリソルベート20である請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
界面活性物質濃度が0.0001%から約1.0%である請求項12に記載の製剤。
【請求項16】
界面活性物質濃度が約0.01%から約0.05%である請求項12に記載の製剤。
【請求項17】
界面活性物質濃度が0.04%である請求項12に記載の製剤。
【請求項18】
抗体濃度が約10mg/mlから約250mg/mlである請求項1に記載の製剤。
【請求項19】
抗体濃度が約25mg/mlから200mg/mlである請求項1に記載の製剤。
【請求項20】
抗体濃度が約50mg/mlから約150mg/mlである請求項1に記載の製剤。
【請求項21】
抗体濃度が約75mg/mlから約125mg/mlである請求項1に記載の製剤。
【請求項22】
抗体が事前に凍結乾燥処理されていない請求項1に記載の製剤。
【請求項23】
抗体がVEGFに結合する請求項1に記載の製剤。
【請求項24】
抗体がモノクローナル抗体である請求項1に記載の製剤。
【請求項25】
モノクローナル抗体が完全長抗体である請求項24に記載の製剤。
【請求項26】
モノクローナル抗体がIgG1抗体である請求項24に記載の製剤。
【請求項27】
モノクローナル抗体がヒト化抗体である請求項24に記載の製剤。
【請求項28】
モノクローナル抗体が、抗原結合領域を含んでなる抗体断片である請求項24に記載の製剤。
【請求項29】
抗体断片がFab又はF(ab’)2断片である請求項28に記載の製剤。
【請求項30】
モノクローナル抗体がVEGFに結合する請求項24に記載の製剤。
【請求項31】
抗体がベバシズマブである請求項30に記載の製剤。
【請求項32】
モノクローナル抗体が凝集に感受性である請求項1に記載の製剤。
【請求項33】
バッファーが200mMのpH5.2のアルギニン酢酸であり、界面活性物質が約0.01−0.1%v/vの量におけるポリソルベートであり、製剤が約40°Cの温度で少なくとも28日間安定である請求項2に記載の製剤。
【請求項34】
治療的有効量の抗体、約pH4.5から約6.0のアルギニン酢酸バッファー、及び界面活性物質を含んでなる安定した水性薬学的製剤を収容する容器を含んでなる製造品。
【請求項35】
抗体がVEGFに結合する請求項34に記載の製造品。
【請求項36】
抗体がベバシズマブである請求項35に記載の製造品。
【請求項37】
治療的有効量の抗体、pH約4.5から約6.0のアルギニン酢酸バッファー、及び界面活性物質を組み合わせることにより、水性薬学的製剤中における抗体を安定化させる方法。
【請求項38】
抗体がVEGFに結合する請求項37に記載の方法。
【請求項39】
抗体がベバシズマブである請求項38に記載の方法。
【請求項40】
治療的有効量の抗体、200mMのpH5.2のアルギニン酢酸バッファー、及び界面活性物質を含んでなる安定した水性薬学的製剤。
【請求項41】
抗体がVEGFに結合する請求項40に記載の製剤。
【請求項42】
抗体がベバシズマブである請求項41に記載の製剤。
【請求項43】
請求項40−42の何れか一項に記載の製剤を収容する容器を含んでなる製造品。
【請求項44】
無菌である請求項1に記載の製剤。
【請求項45】
約40Cでの保管で少なくとも28日間安定である請求項1に記載の製剤。
【請求項46】
水性であり、被験体に投与される請求項1に記載の製剤。
【請求項47】
製剤が、静脈内(IV)、皮下(SQ)又は筋肉内(IM)投与のためである請求項46に記載の製剤。
【請求項48】
IV投与のためであり、抗体濃度が約10mg/mlから約250mg/mlである請求項46に記載の製剤。
【請求項49】
IV投与のためであり、抗体濃度が約50mg/mlから約100mg/mlである請求項46に記載の製剤。
【請求項50】
SQ投与のためであり、抗体濃度が約25mg/mlから約250mg/mlである請求項46に記載の製剤。
【請求項51】
SQ投与のためであり、抗体濃度が約50mg/mlから約100mg/mlである請求項46に記載の製剤。
【請求項52】
バイアル内に請求項1の製剤を含んでなる、シリンジにより貫通可能なストッパーを具備するバイアル。
【請求項53】
約2−8°Cで保管される請求項52に記載のバイアル。
【請求項54】
3cc、20cc又は50ccバイアルである請求項52に記載のバイアル。
【請求項55】
タンク内に請求項1の製剤を収容するステンレススチールタンク。
【請求項56】
製剤が凍結されている請求項55に記載のタンク。
【請求項57】
疾患又は障害を治療するのに有効な量において、請求項1の製剤を被験対に投与することを含んでなる、被験対における疾患又は障害を治療する方法。
【請求項58】
抗体がVEGFに結合する請求項57に記載の方法。
【請求項59】
抗体がベバシズマブである請求項58に記載の方法。
【請求項60】
(a)約10mg/mLから約250mg/mLの量において脱アミド又は凝集に感受性である完全長IgG1;(b)pH4.5から6.0のアルギニン酢酸バッファー;及び(c)約0.01%から約0.1%の量のポリソルベート20を含んでなる薬学的製剤。
【請求項61】
抗体がVEGFに結合する請求項60に記載の製剤。
【請求項62】
抗体がベバシズマブである請求項61に記載の製剤。
【請求項63】
pH4.5から6.0のアルギニン酢酸バッファー中において抗体を製剤化することを含んでなる、治療的モノクローナル抗体の凝集を低減する方法。
【請求項64】
抗体がVEGFに結合する請求項63に記載の方法。
【請求項65】
抗体がベバシズマブである請求項64に記載の方法。
【請求項66】
約4.5から約6.0のpHのアルギニン酢酸バッファー中においてVEGFに結合する抗体、及び界面活性物資を含んでなる薬学的製剤。
【請求項67】
抗体がベバシズマブである請求項66に記載の製剤。
【請求項68】
(a)請求項1の製剤を調製する工程、及び(b)製剤中の抗体の物理的安定性、化学的安定性、又は生物学的活性を評価する工程を含んでなる薬学的製剤の作成方法。
【請求項69】
抗体がVEGFに結合する請求項68に記載の方法。
【請求項70】
抗体がベバシズマブである請求項69に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−515071(P2013−515071A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546122(P2012−546122)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/061347
【国際公開番号】WO2011/084750
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】