説明

抗原に小胞体シャペロンポリペプチドを連結した分子ワクチン

【課題】小胞体シャペロンポリペプチドおよび抗原性ペプチドを含むキメラ分子を用いて、抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答などの免疫応答を誘導および増強するための組成物および方法を提供する。
【解決手段】キメラ分子をコードする裸のDNAもしくは発現ベクターなどの核酸を投与することによってin vivoで作製されるポリペプチドにより誘導される免疫応答を増強する。個体において腫瘍の増殖を阻害する。in vivoで作製されたキメラポリペプチドにより誘導される免疫応答を増強するための新規の自己複製RNAウイルス構築物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関しての陳述
本発明は、国立衛生研究所(RO1 CA72631);NCDDG(RFA CA-95-020)からの援助の下、連邦政府の支援によりなされた。米国政府は、本発明における特定の権利を有しうる。
【0002】
本発明は、免疫学と医学の分野に含まれ、小胞体シャペロンポリペプチド(例えば、カルレティキュリン(calreticulin))およびポリペプチドもしくはペプチド抗原をコードするキメラもしくはハイブリッド核酸分子を用いて、抗原特異的免疫応答、特に細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって媒介される応答の増強を誘導するための組成物および方法を提供する。裸の(naked)DNAおよび自己複製RNAレプリコンワクチンが提供される。
【背景技術】
【0003】
DNAワクチンは、抗原特異的免疫療法を誘導するための魅力的な方法となっている。DNAワクチンの形態としては、「裸の」DNA、例えば、プラスミドDNA(米国特許第5,580,859号;米国特許第5,589,466号;米国特許第5,703,055号)、ウイルスDNAなどが挙げられる。基本的には、所望の免疫原性タンパク質もしくはペプチドをコードするDNA分子が個体に投与され、タンパク質がin vivoで生成される。「裸の」DNAワクチンの使用は、安全であるという利点を有する。なぜならば、例えばプラスミド自体は免疫原性が低く、高純度で容易に調製することができ、そしてタンパク質または他の生物学的試薬と比較して、高度に安定しているからである。しかしながら、DNAワクチンは効力が限られる。幾つかのストラテジーが、DNAワクチンの効力を増大するために適用されている。そのようなストラテジーには、例えば、迅速な細胞内分解のための抗原のターゲティング;APC受容体に対するリガンドに融合することによる抗原提示細胞(APC)への抗原の指向;ケモカインもしくは抗原性の病原性配列への抗原の融合、サイトカインもしくは補助的刺激分子またはアジュバント組成物との同時注射が含まれる。
【0004】
癌ワクチンは、癌治療において魅力的な方法である。なぜならば、癌ワクチンは身体において複数の部位における全身性腫瘍を根絶する効力および新生物性細胞と非新生物性細胞とを識別する特異性を有しうるからである(Pardoll (1998) Nature Med. 4:525-531)。免疫系の抗腫瘍効果は、主に細胞性免疫によって媒介される。免疫系の細胞媒介性構成要素は、腫瘍を根絶することができる多数のエフェクター機構を備える、これらの抗腫瘍免疫応答のほとんどが、T細胞によって調節される。従って、腫瘍特異的T細胞応答の増強を目的とした癌ワクチン(特にDNAワクチンとして)を開発して、腫瘍を制御することが望まれる。
【0005】
HPV腫瘍形成タンパク質E6およびE7は、HPVに関連する子宮頸癌のほとんどで共発現されており、細胞トランスフォーメーションの誘導および維持に重要である。従って、E6もしくはE7タンパク質をターゲティングするワクチンは、HPV関連子宮頸部悪性腫瘍を予防および治療するための機会を提供しうる。HPV-16 E7は、よく特性付けられた細胞質/核タンパク質で、HPV関連癌細胞においてE6よりも保存されており、多くのHPVワクチンに利用されている。
【0006】
カルレティキュリン(CRT)は、細胞の小胞体(ER)の内腔に位置する豊富な46キロダルトン(kDa)タンパク質であり、レクチン活性を示し、そして初期の糖タンパク質の折畳みおよび組立て(assembly)に参加する。例えば、Nash (1994) Mol. Cell. Biochem. 135:71-78; Hebert (1997) J. Cell. Biol. 139:613-623; Vassilakos (1998) Biochemistry 37:3480-3490; Spiro (1996) J. Biol. Chem. 271:11588-11594を参照されたい。CRTは、抗原プロセシングに関連する輸送体、例えばTAP-1およびTAP-2によってERに輸送されたペプチドに会合する(Spee (1997) Eur. J. Immunol. 27:2441-2449)。またCRTは、in vitroでペプチドと複合体を形成する。マウスへの投与では、これらの複合体はペプチド特異的CD8+T細胞応答を引き出した(Basu (1999) J. Exp. Med. 189:797-802; Nair (1999) J. Immunol. 162:6426-6432)。マウスの腫瘍から精製されたCRTは、CRTが採取された腫瘍に特異的な免疫を引き出したが、抗原的に異なる腫瘍に対しては免疫を引き出さなかった(Basu, 前掲)。in vitroにおいてマウス樹状細胞(DC)にCRT-ペプチド複合体をパルスすること(pulsing)によって、ペプチドがDC上のMHCクラスI分子によって再提示され、ペプチド特異的CTL応答が刺激された(Nair,前掲)。
【0007】
またCRTは抗脈管形成効果を有する。CRTおよびアミノ酸残基1-180を含む断片(「バソスタチン(vasostatin)」と呼ばれている)は、腫瘍増殖を抑制することができる内皮細胞インヒビターである(Pike (1999) Blood. 94:2461-2468)。腫瘍増殖および転移は、十分な血液供給の存在に依存する。腫瘍がより大きく増殖するので、十分な血液供給は新しい血管形成(脈管形成とよばれるプロセス)によって確保されることが多い(Folkman (1982) Ann. NY Acad. Sci. 401:212-27; Hanahan (1996) Cell. 86:353-364)。腫瘍の脈管構造を標的とし、損傷を与える治療薬は、腫瘍増殖を防止または遅延させることができ、そして退行もしくは休止を促進することさえもできる。
【0008】
自己複製RNAワクチン(RNAレプリコン)は、核酸ワクチンの重要で、より強力な形態として現れた。RNAレプリコンワクチンは、アルファウイルスベクター、例えば、シンドビスウイルス(Xiong (1989) Science 243:1188-1191)、セムリキ森林ウイルス(Ying (1999) Nature Med. 5:823-827)またはべネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス(Pushko (1997) Virology 239:389-401)ベクターから誘導しうる。これらのワクチンは自己複製および自己制御し、そしてRNAまたはDNAのいずれかとして投与され、次いでトランスフェクトした細胞中でまたはin vivoでRNAレプリコンに転写されうる(Berglund (1998) Nature Biotechnol. 16:562-565)。自己複製RNAは、多様な範囲の細胞型に感染し、高レベルで目的の抗原の発現を可能にする(Huang (1996) Curr. Opin. Biotechnol. 7:531-535)。さらに、ウイルス複製は、感染宿主細胞にとって有毒なので、自己複製RNAは最終的にはトランスフェクトした細胞の溶解を引き起こす(Frolov (1996) J. Virol. 70:1182-1190)。従って、これらのベクターには、宿主ゲノムに組み込まれるという裸のDNAワクチンに関連する懸念が生じない。このことは、潜在的に腫瘍形成性であるタンパク質、例えばHPV E6およびE7タンパク質をターゲティングするワクチン開発にとって特に重要である。
【0009】
Chen ((2000) Cancer Research 60:1035-1042により、ヒトパピローマウイルス16型(HPV-16) E7抗原とマイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)熱ショックタンパク質70(HSP 70)との連結によりDNAワクチンの効力が増強されることが示された。他の研究では、腫瘍細胞もしくはウイルス感染細胞から単離された熱ショックタンパク質(HSP)複合体を用いた免疫感作は、強力な抗腫瘍(Janetzki (1998) J. Immunother. 21:269-276)または抗ウイルス免疫(Heikema (1997) Immunol. Lett. 57:69-74)を誘導することができることが示されている。また免疫原性HSP-ペプチド複合体は、in vitroでペプチドとHSPとを混合することで再構成することができる(Ciupitu (1998) J. Exp. Med. 187:685-691)。またHSPに基づくタンパク質ワクチンは、HSPに抗原を融合することによって投与することができる(Suzue (1996) J. Immunol. 156:873-879,「HSP 70融合タンパク質はHIV-1 p24に対する体液性および細胞性免疫応答を引き出した(HSP 70 fusion protein elicited humoral and cellular immune responses to HIV-1 p24)」)。これらの実験により、1)腫瘍細胞もしくはウイルス感染細胞から誘導されたHSP-ペプチド複合体は、腫瘍もしくはウイルス特異的免疫を刺激することができること;2)この免疫応答の特異性はHSPに結合した腫瘍に由来するペプチドによって引き起こされるのであって、HSP自体では引き起こされないこと;および3)免疫応答を、HSPドナーのMHCと同一または異なるMHCを有するマウスで誘導することができることが示されている(Przepiorka (1998) Mol. Med. Today 4:478-484; Srivastava (1998) Immunity 8:657-665)。これらの研究により、HSPを免疫療法において使用することがより魅力的になった一方、ここまで試験されたHSPワクチンは、タンパク質に基づくワクチンまたはDNAに基づくワクチンの形態のみである。
【特許文献1】米国特許第5,580,859号
【特許文献2】米国特許第5,589,466号
【特許文献3】米国特許第5,703,055号
【非特許文献1】Pardoll (1998) Nature Med. 4:525-531
【非特許文献2】Nash (1994) Mol. Cell. Biochem. 135:71-78
【非特許文献3】Hebert (1997) J. Cell. Biol. 139:613-623
【非特許文献4】Vassilakos (1998) Biochemistry 37:3480-3490
【非特許文献5】Spiro (1996) J. Biol. Chem. 271:11588-11594
【非特許文献6】Spee (1997) Eur. J. Immunol. 27:2441-2449
【非特許文献7】Basu (1999) J. Exp. Med. 189:797-802
【非特許文献8】Nair (1999) J. Immunol. 162:6426-6432)
【非特許文献9】Pike (1999) Blood. 94:2461-2468
【非特許文献10】Folkman (1982) Ann. NY Acad. Sci. 401:212-27
【非特許文献11】Hanahan (1996) Cell. 86:353-364
【非特許文献12】Xiong (1989) Science 243:1188-1191
【非特許文献13】Ying (1999) Nature Med. 5:823-827
【非特許文献14】Pushko (1997) Virology 239:389-401
【非特許文献15】Berglund (1998) Nature Biotechnol. 16:562-565
【非特許文献16】Huang (1996) Curr. Opin. Biotechnol. 7:531-535
【非特許文献17】Frolov (1996) J. Virol. 70:1182-1190
【非特許文献18】Chen ((2000) Cancer Research 60:1035-1042
【非特許文献19】Janetzki (1998) J. Immunother. 21:269-276
【非特許文献20】Heikema (1997) Immunol. Lett. 57:69-74
【非特許文献21】Ciupitu (1998) J. Exp. Med. 187:685-691
【非特許文献22】Suzue (1996) J. Immunol. 156:873-879
【非特許文献23】Przepiorka (1998) Mol. Med. Today 4:478-484
【非特許文献24】Srivastava (1998) Immunity 8:657-665
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと少なくとも1種の抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含むキメラタンパク質をコードする核酸を提供する。抗原性ペプチドは、MHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含むことができる。抗原性ペプチド、例えばMHCクラスI結合性ペプチドエピトープは、約8アミノ酸残基〜約11アミノ酸残基の長さである
ことができる。
【0011】
小胞体シャペロンポリペプチドには、典型的なシャペロンである、カルレティキュリン、カルネキシン(calnexin)、タパシン(tapasin)もしくはER60ポリペプチドに類似のシャペロン機能を有する任意のERポリペプチド;あるいはそれらの類似体もしくは擬似体(mimetic)、またはそれらの機能的断片が含まれる。そのような機能的断片は、例えば下記の実施例1および2に記載されるような、慣例のスクリーニング試験を用いてスクリーニングすることができる。従って、別の実施形態では、小胞体シャペロンポリペプチドは、カルネキシンポリペプチドまたはその等価物、ER60ポリペプチドまたはその等価物、GRP94/GP96もしくはGRP94ポリペプチドまたはその等価物、あるいはタパシンポリペプチドまたはその等価物を含むか、またはからなる。
【0012】
一実施形態において、カルレティキュリンポリペプチドは、ヒトカルレティキュリンポリペプチドを含む。別の実施形態において、ヒトカルレティキュリンポリペプチド配列は配列番号1を含むか、あるいは本質的に配列番号1の第1残基付近〜第180残基付近の配列からなるか、または本質的に配列番号1の第181残基付近〜第417残基付近の配列からなることができる。
【0013】
一実施形態において、抗原(例えば、MHCクラスI結合性ペプチドエピトープ)は、病原体から誘導される。例えば抗原は、病原体によって発現されるペプチドを含む。病原体は、例えばパピローマウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス(例えば、HIV-1などの免疫不全ウイルス)、アデノウイルスなどのウイルスであることができる。パピローマウイルスはヒトパピローマウイルスであってよく;例えば、抗原(例えば、クラスI結合性ペプチドエピトープ)をHPV-16 E7ポリペプチドから誘導することができる。一実施形態において、HPV-16 E7ポリペプチドは実質的に非腫瘍形成性である。すなわち、HPV-16 E7ポリペプチドは網膜芽細胞腫ポリペプチド(pRB)に結合しないか、あるいはin vivoで発現または送達された場合に、HPV-16 E7ポリペプチドが事実上、非腫瘍形成性である程度に低い
親和性でpRBに結合する。
【0014】
別の実施形態において、病原体は細菌、例えば、ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis);エーリキア・チャフェンシス(Ehrlichia chaffeensis);スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus);トキソプラズマ・ゴンジイ(Toxoplasma gondii);レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila);ブルセラ・スイス(Brucella suis);サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica);マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium); マイコバクテリウム・ツベルクローシス;リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes);クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis);クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae);リケッチシア・リケッチー(Rickettsia rickettsii);または例えばパラコクシジオイデス・ブラシリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis)などの真菌;あるいは、他の病原体、例えばプラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)である。
【0015】
別の実施形態において、MHCクラスI結合性ペプチドエピトープは腫瘍細胞から誘導される。腫瘍細胞に由来するペプチドエピトープは、腫瘍関連抗原、例えば、腫瘍特異的抗原(例えば、HER-2/neu抗原など)を含むことができる。
【0016】
一実施形態において、単離されたまたは組換え核酸分子は、例えば、構成的、誘導性または組織特異的プロモーターなどのプロモーターに機能的に連結される。プロモーターは、免疫系の細胞(例えば抗原提示細胞(APC)を含む)を含む任意の細胞において、例えば構成的、誘導性または組織特異的な方法で発現させることができる。
【0017】
別の実施形態において、APCは、樹状細胞、ケラチノサイト、星状細胞、単球、マクロファージ、Bリンパ球、小膠細胞または活性化内皮細胞などである。
【0018】
また本発明は、小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと少なくとも1種の抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含むキメラタンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセットを提供する。別の実施形態において、第1ドメインはカルレティキュリンポリペプチドを含み、そして第2ドメインはMHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含む。別の実施形態において、発現カセットは発現ベクター、組換えウイルス(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス)、プラスミドを含む。発現カセットは自己複製RNAレプリコンを含むことができる。自己複製RNAレプリコンは、シンドビスウイルス自己複製RNAベクター、例えばシンドビスウイルス自己複製RNAベクターSINrep5(米国特許第5,217,879号)などを含むことができる。本発明の適用可能な実施形態の全てと同様に、ERシャペロンポリペプチドは、典型的なシャペロンである、カルレティキュリン、1、タパシンもしくはER60ポリペプチドに類似のシャペロン機能を有する任意のERポリペプチド;あるいはそれらの類似体もしくは擬似体、またはそれらの機能的断片を含むことができる。
【0019】
また本発明は、小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと少なくとも1種の抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含むキメラタンパク質をコードする核酸を含む粒子を提供する。一実施形態においては、少なくとも2種のドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセットを含む単離された粒子であって、この場合、第1ドメインはカルレティキュリンポリペプチドを含み、そして第2ドメインはMHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含む。単離された粒子は、パーティクルボンバードメント(particle bombardment)に好適な任意の物質(例えば、金など)を含むことができる。ERシャペロンポリペプチドは、本明細書で論じたように、典型的なシャペロンである、カルレティキュリン、カルネキシン、タパシンもしくはER60ポリペプチドに類似のシャペロン機能を有する任意のERポリペプチドを含むことができる。
【0020】
また本発明は、小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと少なくとも1種の抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含むキメラタンパク質をコードする核酸配列を含む細胞を提供する。一実施形態において、細胞は、第1ドメインがカルレティキュリンポリペプチドを含み、そして第2ドメインがMHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含む、少なくとも2種のドメインを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセットを含む。細胞を、例えば本発明の核酸でトランスフェクト、感染、形質導入させることができ、あるいは本発明の組換えウイルスで感染させることができる。細胞は、本発明の発現カセットを含む細胞を含む非ヒトトランスジェニック動物から単離することができる。例えば免疫系の細胞または抗原提示細胞(APC)などのいずれの細胞も本発明の発現カセットを含むことができる。APCは、樹状細胞、ケラチノサイト、マクロファージ、単球、Bリンパ球、星状細胞、小膠細胞または活性化内皮細胞であってよい。
【0021】
また本発明は、小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと少なくとも1種の抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含むキメラポリペプチドを提供する。抗原性ペプチドは、MHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含むことができる。例えばin vivoまたはin vitroで合成的にまたは組換え的に生産することができる、例えば融合タンパク質のように(例えば、ペプチド結合)、ERシャペロンポリペプチドを抗原性ペプチドに化学的に連結することができる。ポリペプチドドメインを、柔軟性のある化学的リンカーによって連結することができる。
【0022】
別の実施形態において、キメラポリペプチドの第1ポリペプチドドメインが第2ポリペプチドドメインよりもアミノ末端に近くてもよく、または第2ポリペプチドドメインが第1ポリペプチドドメインよりもアミノ末端に近くてもよい。ERシャペロンポリペプチドは、本明細書で論じたように、典型的なシャペロンである、カルレティキュリン、カルネキシン、タパシンもしくはER60ポリペプチドに類似のシャペロン機能を有する任意のERポリペプチドを含むことができる。
【0023】
本発明は、抗原特異的免疫応答を誘導または増強することができる本発明の組成物と製薬上許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態において、組成物は、小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含むキメラポリペプチド;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸分子;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセット;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む粒子;または小胞体シャペロンポリペプチドコード配列を含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む細胞、を含む。ERシャペロンポリペプチドは、本明細書で論じたように、典型的なシャペロンである、カルレティキュリン、カルネキシン、タパシンもしくはER60ポリペプチドに類似のシャペロン機能を有する任意のERポリペプチドを含むことができる。
【0024】
本発明は、抗原特異的免疫応答を誘導または増強する方法であって、(a)抗原特異的免疫応答を誘導または増強することができる本発明の組成物(別の実施形態においては、該組成物は、小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含むキメラポリペプチド;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸分子;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセット;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む粒子;または小胞体シャペロンポリペプチドコード配列を含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む細胞、であることができる)を含む組成物を提供し、そして(b)抗原特異的免疫応答を誘導または増強するのに十分な量の組成物を投与することを含む、前記方法を提供する。抗原特異的免疫応答は、CD8+CTL応答のような細胞性応答を含みうる。また抗原特異的免疫応答は、抗体媒介応答または体液性応答および細胞性応答を含みうる。
【0025】
上記方法を実施する上で、組成物をex vivoで投与しても、または組成物をex vivoで抗原提示細胞(APC)に投与してもよい。別の実施形態において、APCは、樹状細胞、ケラチノサイト、マクロファージ、単球、Bリンパ球、星状細胞、小膠細胞または活性化内皮細胞である。APCは、ヒト細胞であってよい。APCは、in vivoもしくはin vitro供給源から単離することができる。さらに上記方法は、ex vivo処置されたAPCを、哺乳動物、ヒト、組織適合性の個体に、またはAPCを単離した同一の個体に投与することを含むことができる。あるいは、組成物は、哺乳動物、例えばヒトにin vivoで直接投与される。
【0026】
組成物を、筋内、皮内または皮下に投与することができる。組成物、例えば核酸、発現カセットまたは粒子は、バリスティックインジェクション(ballistic injection)によって投与することができる。組成物を、腫瘍内または腫瘍周辺に投与することができる。
【0027】
上記方法の別の実施形態において、抗原性ペプチドはヒトパピローマウイルスなどのウイルスから誘導することができる。抗原性ペプチドは、HPV-16 E7ペプチドであることができる。抗原性ペプチドは、HER-2/neuペプチドなどの腫瘍特異的もしくは腫瘍関連ペプチドであることができる。
【0028】
本発明は、個体において所望の抗原に特異的なCD8+CTLの数を増大する方法であって、(a)小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含むキメラポリペプチド;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸分子;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセット;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む粒子;または小胞体シャペロンポリペプチドコード配列を含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む細胞、を含む組成物(この場合、MHCクラスI結合性ペプチドエピトープは抗原から誘導される)を提供し、そして(b)抗原特異的CD8+CTLの数を増大するのに十分な量の組成物を投与することを含む、前記方法を提供する。
【0029】
本発明は、個体において腫瘍の増殖を阻害する方法であって、(a)小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含むキメラポリペプチド;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸分子;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む発現カセット;小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む粒子;または小胞体シャペロンポリペプチドコード配列を含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む融合タンパク質をコードする核酸配列を含む細胞、を含む組成物を提供し、そして(b)腫瘍の増殖を阻害するのに十分な量の組成物を投与することを含む、前記方法を提供する。本発明の一実施形態において、組成物は、腫瘍内にまたは腫瘍周辺に投与される。組成物を、抗脈管形成活性を含む第2組成物、例えばアンジオスタチン(angiostatin)、エンドスタチン(endostatin)もしくはTIMP-2またはそれらの等価物、あるいはそれらの混合物などとともに同時投与することができる。組成物を、放射線療法または化学療法組成物とともに同時投与することができる。
【0030】
また本発明は、例えばERシャペロンと抗原性ペプチド、熱ショックタンパク質と抗原性ペプチド、ならびにそれらの等価物およびそれらの混合物を含むキメラタンパク質を含めた、本発明の免疫応答増強融合タンパク質をコードする核酸を含む自己複製RNAウイルス構築物を提供する。一実施形態において、自己複製RNAウイルスは、下記の実施例2で論じるような、SINrep5などのシンドビスウイルス自己複製RNAベクターを含む。
【0031】
本発明の1以上の実施形態の詳細は、添付した図面と下記の記載で説明される。本発明の他の特徴、目的および利点は、記載および図面ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【0032】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許、特許出願、GenBank配列およびATCC寄託物は、全ての目的のために参照により本明細書に明らかに組み入れられるものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明は、小胞体シャペロンポリペプチドと少なくとも1種の抗原性ペプチドとを含むキメラポリペプチドのex vivoまたはin vivo投与によって誘導される、免疫応答、特に細胞傷害性T細胞免疫応答を増強するための組成物および方法を提供する。キメラポリペプチドは、キメラ分子をコードする核酸の投与によって「間接的に」投与することができ、核酸構築物、従って融合タンパク質がin vivoで発現される。一実施形態において、キメラ核酸またはポリペプチドは、DNAワクチンの形態で投与される。
【0034】
融合タンパク質は、少なくとも2種のドメインを含む。第1ドメインは小胞体シャペロンポリペプチドを含み、そして第2ドメインは、それに対する免疫応答を誘導することが望まれる抗原から誘導されたペプチドを含む。カルレティキュリン、タパシン、ER60もしくはカルネキシンポリペプチドなどの小胞体シャペロンポリペプチドまたはそれらの機能的断片もしくは変異体のいずれも本発明に用いることができる。
【0035】
キメラ分子の第2ドメインは、それに対する免疫応答の誘導、増強もしくは抑制が望まれる病原体、癌または任意の供給源から誘導することができる抗原性ペプチドを含む。一実施形態において、ペプチドはMHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含む。
【0036】
本発明の方法において、キメラポリペプチドまたはそれをコードする核酸が免疫応答を誘導または増強するために適用される。一実施形態において、本発明の組成物は、免疫学的機構および抗脈管形成機構の双方を介して免疫応答および抗腫瘍効果を相乗的に増強する。
【0037】
本明細書に記載の実験により、本発明の方法がヒト病原体のエピトープをコードするDNAワクチンによって誘導される、細胞性免疫応答、特にCTL反応性を増強できることが示されている。ヒトHPV-16 E7を用いた。ヒトパピローマウイルス(HPV)、特にHPV-16がヒト子宮頚癌のほとんどに関連するので、ワクチン開発にとってヒトHPV-16 E7はモデル抗原である。腫瘍形成性HPVタンパク質E7は、細胞トランスフォーメーションの誘導と維持に重要であり、HPV含有子宮頸癌およびそれらの前駆体病変のほとんどで共発現される。従って、E7を標的とする本発明の組成物のような癌ワクチンを用いて、HPV関連新生物を制御することができる(Wu (1994) Curr. Opin. Immunol. 6:746-754)。
【0038】
下記の実施例1に記載するように、これらの実験結果より、全長E7ポリペプチドに連結されたCRTを含む融合タンパク質をコードする核酸を含むDNAワクチンは、DNAワクチンの効力を増強できることが示されている。キメラCRT/E7融合遺伝子を含有する本発明のDNAワクチンを、バリスティック皮下方法によってマウスに投与した。それらは、E7特異的CD8+CTL前駆体の増大を誘導し、それによって腫瘍に対する免疫保護が改善された。E7特異的CD8+CTL前駆体のこの増大は、野生型E7もしくはCRT遺伝子を単独で含有するDNAワクチンと比較して有意なものであった。
【0039】
さらに、CRT DNAもしくはキメラCRT/E7 DNAのいずれかを用いたC57BL/6マウス(正常な免疫系を有する近交系統)もしくはヌードマウス(T細胞および機能的な免疫系を欠いた系統)を処置することで、肺転移結節が低減され、肺結節内での脈管形成が阻害された。従って、キメラCRT/E7をコードする本発明のDNAワクチンは、強力な抗腫瘍効果の発生のための免疫学的方法と抗腫瘍形成的方法とを組み合わせた特有の方法を示す。
【0040】
上記で論じたように、研究により熱ショックタンパク質(HSP)を免疫療法において使用することがより魅力的となった一方、ここまで試験されたHSPワクチンは、タンパク質に基づくワクチンまたはDNAに基づくワクチンの形態にすぎない。本発明により、初めて自己複製RNAワクチンの形態にあるHSPなどの抗原および本発明のキメラポリペプチドの投与が組み入れられ、そして示される。
【0041】
下記の実施例2に記載されるように、自己複製RNAワクチン中のHSP70-ヒトパピローマウイルス16型(HSP-16)E7融合タンパク質の発現は、in vivoで発現された場合にこの抗原性ポリペプチドの効力を大いに増強した。下記に記載する結果により、E7/HSP70融合遺伝子を含有するRNAレプリコンワクチンは、ワクチン接種したマウスにおいて野生型E7遺伝子を含有するワクチンよりもかなり高いE7特異的T細胞媒介免疫応答を誘導したことが示された。in vitro研究により、E7/HSP70 RNAレプリコンでトランスフェクトしたアポトーシス細胞に由来するE7抗原を、骨髄由来樹状細胞によって取り込ませ、野生型E7 RNAレプリコンでトランスフェクトしたアポトーシス細胞よりもMHCクラスI経路を介して効率的に呈示させることができることが示された。E7へのHSP70の融合は、あまり効果的でないワクチンをE7発現腫瘍に対する有意な効力を有するワクチンへと変えた。これらの結果より、自己複製RNAワクチンの使用は本発明の融合タンパク質の免疫原性を増強できることが示された。
【0042】
in vivoにおける抗原特異的CD8+T細胞免疫応答の増強に対する可能性のある機構は、抗原を発現する細胞からのアポトーシス小体(apoptotic body)の取り込みによるMHCクラスI経路を介した抗原提示であり、「クロスプライミング」とも呼ばれる。下記の実施例2で論じるように、CTLアッセイにより、SINrep5-E7/HSP70 RNAによってトランスフェクトしたアポトーシス細胞をパルスした骨髄由来樹状細胞におけるHPV E7ポリペプチドのMHCクラスI提示の増強が示された。
【0043】
定義
別段定義しない限り、本明細書で使用される全ての専門用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書で使用する場合、以下の用語は別段特記しない限りそれらに特有のものとされる意味を有する。
【0044】
本明細書で使用する「抗脈管形成活性」という用語は、血管増殖(例えば、毛細血管、細動脈など)阻害のいずれの形態をも意味する。従って、そのような活性には、血管またはその置換物の増殖の遅延が含まれ、例えば、内皮細胞の増殖の遅延または阻害が挙げられるだろう。
【0045】
本明細書で使用する「抗原」または「免疫原」という用語は、適切な量(「免疫原性上有効な量)」で投与した(または投与された核酸、例えばDNAワクチンによってin vivoで発現された)場合に「抗原性」または「免疫原性」である、すなわち単独で、あるいは別の物質と組み合わせてまたは連結もしくは融合して(1回でまたはいくらかの間隔にわたって投与することができる)、細胞性および/または体液性免疫応答を、引き出し、増大しまたは増進することができる、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を含む化合物または組成物を意味する。
【0046】
「カルネキシン」は、分子シャペロンとしておよびER品質管理機構の成分として機能する小胞体(ER)のよく特性付けられた膜タンパク質を示す。カルレティキュリンは、カルネキシンの可溶性類似体である。in vivoでカルレティキュリンおよびカルネキシンは、タンパク質合成、折畳みおよび翻訳後修飾中の品質管理に重要な役割を果たす。カルネキシンポリペプチドならびにそれらの等価物および類似体は、本明細書で記載されるようにERシャペロンポリペプチド属における種である(Wilson (2000) J. Biol. Chem. 275:21224-2132;Danilczyk (2000) J. Biol. Chem. 275:13089-13097;米国特許第6,071,743号および第5,691,306号)。
【0047】
「カルレティキュリン」または「CRT」は、レクチン活性を有し、そして初期の糖タンパク質の折畳みおよび組立てに参加する、よく特性付けられたER内腔の約46kDa内在タンパク質を示す。CRTは「シャペロン」ポリペプチドとして、およびMHCクラスI輸送体TAP複合体のメンバーとして働く。CRTは、TAP1およびTAP2輸送体、タパシン、MHCクラスI重鎖ポリペプチドならびにβ2ミクログロブリンと会合して初期のMHCクラスI分子上へのペプチドエピトープのローディングにおいて機能する(Jorgensen (2000) Eur. J. Biochem. 267:2945-2954)。「カルレティキュリン」または「CRT」という用語は、本明細書に記載する典型的なCRT配列に対して実質的な同一性(本明細書で規定する)を有するポリペプチドおよび核酸分子を意味する。CRTポリペプチドは、CRTのアミノ酸配列に同一な、または実質的に同一な(本明細書で規定する)配列を含むポリペプチドである。本発明の組成物および方法で使用するCRTの典型的なヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1および配列番号2である。「カルレティキュリン」または「CRT」という用語は、天然タンパク質、ならびにCTL応答を含む免疫応答を誘導する組換え的に産生した改変タンパク質を包含する。「カルレティキュリン」または「CRT」という用語は、CRTの相同体および対立遺伝子変異体を包含し、これらにはin vitro技法によって構築された天然タンパク質の変異体および天然供給源から単離されたタンパク質が含まれる。また本発明のCRTポリペプチドおよびそれらをコードする配列には、非CRT配列、特にMHCクラスI結合性ペプチドを含む融合タンパク質;またさらに他のドメイン、例えばエピトープタグ、酵素切断認識配列、シグナル配列、分泌シグナルなどを含む融合タンパク質が含まれる。
【0048】
本明細書で使用する「小胞体シャペロンポリペプチド」という用語は、典型的なシャペロンタンパク質である、CRT、タパシン、ER60もしくはカルネキシンと実質的に同じERシャペロン機能を有するいずれのポリペプチドをも意味する。従って、この用語には、それらの全ての機能的断片または変異体もしくは擬似体が含まれる。ポリペプチドもしくはペプチドを、実施例1で説明するような当技術分野で公知のアッセイを用いてERシャペロンとしてのその活性について慣例的にスクリーニングすることができる。本発明は特定の作用機構のいずれによっても限定されないが、in vivoでシャペロンは、MHCクラスIへテロ三量体分子(重(H)鎖、β2mおよびペプチド)の組立てを含めたERにおける多くの糖タンパク質の正確な折畳みおよびオリゴマー化を促進する。またそれらは、不完全に組立てられたMHCクラスIへテロ三量体複合体をERに保持する(Hauri (2000) FEBS Lett., 476:32-37)。
【0049】
本明細書で使用する「エピトープ」という用語は、抗体またはT細胞受容体(TCR)と相互作用する抗原決定基または抗原性部位、例えば本発明の方法に用いられるMHCクラスI結合性ペプチド組成物を意味する。「抗原」とは、免疫応答を誘導するか、あるいは抗体またはCTLなどの免疫応答の産物によって特異的に認識または結合される分子または化学構造である。抗体またはTCRが結合する特異的な配座もしくは立体化学的「ドメイン」が「抗原決定基」または「エピトープ」である。TCRは、第3の分子、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIもしくはクラスIIタンパク質と物理的に会合するペプチドエピトープに結合する。
【0050】
本明細書で使用する「ER60」または「GRP94」または「gp96」または「グルコース調節タンパク質94」という用語は、ストレス誘導タンパク質の熱ショックタンパク質-90(HSP90)ファミリーのER代表種である、よく特性付けられたERシャペロンポリペプチドを示す。これらは、恐らくは先進の折畳み中間体または不完全に組立てられたタンパク質を認識することによって、分泌経路において限定された数のタンパク質に結合する。ER60ポリペプチドならびにそれらの等価物および類似体は、本明細書で記載するように、ERシャペロンポリペプチド属における種である(Argon (1999) Semin. Cell Dev.. Biol. 10:495-505;Sastry (1999) J. Biol. Chem. 274:12023-12035;Nicchitta (1998) Curr. Opin. Immunol. 10:103-109;米国特許第5,981,706号)。
【0051】
本明細書で使用する「発現カセット」または「発現ベクター」という用語は、そのような配列と適合する宿主においてタンパク質コード配列の発現に影響を及ぼすことができるヌクレオチド配列を意味する。発現カセットには、ポリペプチドコード配列に;および場合によっては、他の配列、例えば転写終結シグナルに機能的に連結された少なくとも1つのプロモーターが含まれる。また、発現の達成に必要なまたは役立つさらなる因子、例えばエンハンサーを含むことができる。「機能的に連結された」とは、プロモーターがDNA配列の転写に介在するようなDNA配列の上流へのプロモーターの連結を意味する。従って、発現カセットには、プラスミド、組換えウイルス、「裸のDNA」組換えベクターの任意の形態などが含まれる。「ベクター」は、細胞に感染、トランスフェクト、一過的にもしくは永続的に形質導入することができる核酸を含む。ベクターは裸の核酸またはタンパク質もしくは脂質と複合体化した核酸であることができることは理解されよう。場合によっては、ベクターはウイルスもしくは細菌の核酸および/またはタンパク質、および/または膜(例えば、細胞膜、ウイルス脂質エンベロープなど)を含む。ベクターには、限定されるものではないが、DNA断片を備え、複製させることができるレプリコン(例えば、RNAレプリコン(下記の実施例2を参照されたい)、バクテリオファージ)が含まれる。従って、ベクターとしては、限定されるものではないが、RNA、自律自己複製環状もしくは線状DNAもしくはRNA、例えばプラスミド、ウイルスなどが挙げられ(米国特許第5,217,879号)が挙げられ、発現プラスミドおよび非発現プラスミドの双方が含まれる。組換え微生物または細胞培養物が発現ベクターの宿主として記載されている場合には、これには染色体外の環状および線状のDNAならびに宿主染色体に組み込まれたDNAの双方が含まれる。ベクターが宿主細胞によって維持されている場合には、ベクターは自律構造として有糸分裂の間に細胞によって安定して複製されるか、または宿主ゲノム内に組み込まれうる。
【0052】
「化学的に連結された」という用語は、2つの部分の化学結合のいずれをも意味し、例えば、本発明の一実施形態において、ERシャペロンポリペプチドが抗原性ペプチドに化学的に連結されることである。このような化学的連結としては、組換え的に、またはin vivoで生成された融合タンパク質のペプチド結合が挙げられる。
【0053】
「キメラ」もしくは「融合」ポリペプチドもしくはタンパク質という用語は、第2のポリペプチドもしくはペプチドドメインと会合した少なくとも1つのポリペプチドもしくはペプチド配列もしくはドメインを含む組成物を意味する。本発明の一実施形態は、第1ドメインが小胞体シャペロン、例えばCRTを含み、そして第2ドメインが抗原性エピトープ、例えばMHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含むものである、少なくとも2つのドメインを含む融合タンパク質をコードする単離されたまたは組換え核酸分子である。付加的ドメインは、ポリペプチド、ペプチド、多糖類などを含むことができる。「融合」は、ペプチド結合、化学的連結、電荷相互作用(例えば、塩橋、H-結合などの静電引力)などによって生じた会合であることができる。ポリペプチドが組換え体である場合、「融合タンパク質」は一般的なメッセージから翻訳することができる。あるいは、ドメインの組成物を任意の化学的もしくは静電的手段によって連結することができる。また本発明のキメラ分子(例えば、CRT-クラスI結合性ペプチド融合タンパク質)は、付加的配列、例えばリンカー、エピトープタグ、酵素切断認識配列、シグナル配列、分泌シグナルなどを含むことができる。あるいは、ペプチドを単純に担体に連結し、ペプチドの操作または同定/位置決定を容易にすることができる。
【0054】
「免疫原」または「免疫原性組成物」という用語は、「免疫原性」である、すなわち単独で、あるいは別の物質と組み合わせてまたは連結もしくは融合して、細胞性および/または体液性免疫応答を、引き出し、増大しまたは増進することができる、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を含む化合物または組成物を意味する。免疫原性組成物は、少なくとも約5アミノ酸の長さのペプチド、10アミノ酸の長さのペプチド、15アミノ酸の長さの断片、20アミノ酸の長さの断片またはそれより大きいものであってよく;より小さい免疫原は、例えば好ましくは免疫原に連結された(化学的にまたは別な方法で)融合タンパク質、凝集物(aggregate)、コンジュゲートまたは混合物のような「担体」ポリペプチドの存在が必要である場合がある。免疫原は、ワクチンベクター(プロモーターに機能的に連結された免疫原コード配列を含む裸のDNAであってよく、例えば、発現カセット)から組換え的に発現させることができる。免疫原は、約3〜約15アミノ酸のサイズで変化しうる1以上の抗原決定基もしくはエピトープを含む。
【0055】
例えばCRT核酸またはポリペプチドなどの分子または組成物に言及する場合には、本明細書で使用する「単離された」という用語は、分子または組成物がin vivoまたはその天然の状態で会合するタンパク質、他の核酸(例えばRNA)または他の混在物などの少なくとも1つの他の化合物から分離されたことを意味する。従って、CRT組成物は、細胞抽出物中のように、天然には会合する任意の他の成分(例えば細胞膜)から単離された場合に、単離されたとみなされる。しかしながら、また単離された組成物は実質的に純粋でありうる。単離された組成物は、均一状態にあってよく、そして乾燥していても、または水溶液中にあってもよい。純度および均一性は、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)または高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)などの分析化学技法を用いて測定することができる。従って、単離された本発明の組成物は、in situ環境でそれらと通常会合する物質を含まない。タンパク質を均一なもしくは主要なバンドで単離した場合でさえも、所望のタンパク質とともに同時精製する微量混在物が存在する。
【0056】
本明細書で使用する「HPV-16 E7ポリペプチドが非腫瘍形成性である」というフレーズは、網膜芽細胞腫ポリペプチド(pRB)に結合しないか、またはHPV-16 E7ポリペプチド変異体が実質的に非腫瘍形成性である程度に低い親和性でpRBに結合する、HPV-16 E7ポリペプチドの変異体(例えば、欠失、置換など)を意味する。HPV-16 E7ポリペプチドを含むHPVポリペプチドは、当技術分野で十分に記載されている。HPV-16 E7については、GenBank登録番号AF125673(1999年6月1日)が完全なHPV-16ゲノムおよび配列番号5の配列を有するHPV-16 E7タンパク質(下記を参照されたい)を示す。
【0057】
「ポリペプチド」、「タンパク質」および「ペプチド」という用語には、変異体を誘導したポリペプチドに実質的に対応する構造と活性を有する「類似体」もしくは「保存的変異体」および「擬似体」もしくは「ペプチド擬似体(peptidomimetic)」をも含む本発明の組成物が含まれ、例えば下記で詳細に論じるような、ヒトCRTまたはHPV-16 E7ポリペプチドなどのクラスI結合性ペプチドエピトープが挙げられる。
【0058】
「医薬組成物」という用語は、例えば被験者におけるワクチンとしての医薬的使用に好適な組成物を意味する。本発明の医薬組成物は、例えば本発明の核酸もしくはベクターもしくは細胞を含む組成物の薬理学上有効な量と製薬上許容される担体とを含む製剤である。
【0059】
「プロモーター」という用語は、核酸の転写を指令する一連の核酸制御配列である。本明細書で使用する場合、プロモーターは、転写開始部位近くの必要な核酸配列(例えばポリメラーゼII型プロモーターの場合にはTATAエレメント)を含む。また場合によっては、プロモーターは転写開始部位から数千塩基対ほどの位置に位置することができる遠位のエンハンサーまたはリプレッサーエレメントを含む。「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境および発生条件下で活性のあるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、環境または発生調節下にあるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、生物の特定の組織型中で活性であるが、同じ生物の他の組織型中では活性ではない。「機能的に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(プロモーターまたは一連の転写因子結合部位など)と第2核酸配列との間の機能的連結を意味し、この場合、発現制御配列は第2配列に対応する核酸の転写を指令する。
【0060】
「組換え」という用語は、(1)合成された、またはその他の方法でin vitroで操作されたポリヌクレオチド(例えば「組換えポリヌクレオチド」)、(2)細胞または他の生物系で遺伝子産物を産生するための組換えポリヌクレオチドの使用方法、あるいは(3)組換えポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチド(「組換えタンパク質」)を意味する。例えば、組換えCRTまたはMHCクラスI結合性ペプチドエピトープは、本発明を実施するために使用する場合には組換え体であってよい。また「組換え手段」は、異なる供給源に由来する様々なコード領域もしくはドメインもしくはプロモーター配列を有する核酸の発現カセットもしくは発現用ベクター(例えば、本発明を実施するために用いられるベクター中のポリペプチドコード配列の誘導性または構成的発現用)への連結を包含する。
【0061】
「自己複製RNAレプリコン」という用語は、異種RNAおよびタンパク質の発現を可能にするように遺伝子工学的に操作された、RNAウイルス、例えばアルファウイルスゲノムRNA(例えば、シンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルスなど)に基づく構築物を意味する。これらの組換えベクターは自己複製し、下記で詳細に説明するように、裸のRNAもしくはDNAとして細胞に導入することができる。一実施形態において、自己複製RNAレプリコンは、シンドビスウイルス自己複製RNAベクターSINrep5(米国特許第5,217,879号に詳細に記載されている)を含む。
【0062】
「全身投与」という用語は、被験者の循環系への組成物の導入をもたらす方法での、本明細書で記載する分子ワクチンまたはCRT-クラスI結合性ペプチドエピトープ融合タンパク質などの組成物もしくは薬剤の投与を意味する。「局所(regional)」投与という用語は、腹腔内、髄腔内、硬膜下などの特定の解剖学的空間への、または特定の器官などに対する組成物の投与を意味する。例えば、局所投与は肝動脈への組成物もしくは薬物の投与を含む。「局部(local)投与」という用語は、腫瘍塊への腫瘍内注射、皮下注射、筋内注射などの、限定されたまたは限局性の解剖学的空間への組成物もしくは薬物の投与を意味する。当業者であれば、また局部投与または局所投与は循環系への組成物もしくは薬物のエントリーをもたらしうることが理解されるだろう。
【0063】
「タパシン」は、上記で論じたように公知のERシャペロンポリペプチドである。特定の作用機構のいずれによっても限定されないが、in vivoでタパシンは、TAP(抗原プロセシングに関連する輸送体)複合体のサブユニットであり、TAP1およびMHCクラスIポリペプチドの双方に結合する。タパシンポリペプチドならびにそれらの等価物および類似体は、本明細書で記載されるようにERシャペロンポリペプチド属における種である(Barnden (2000) J. Immunol. 165:322-330;Li (2000) J. Biol. Chem. 275:1581-1586)。
【0064】
核酸の生成と操作
本発明の方法は、上記したように、CRT-クラスIエピトープ結合性ペプチド融合タンパク質をコードする核酸の投与を提供するものである。組換えCRT含有融合タンパク質は、in vitroまたはin vivoで合成することができる。これらの組成物をコードする核酸は、「裸のDNA」の形態であってよく、あるいはin vivoまたはex vivo投与のためにプラスミド、ベクター、組換えウイルス(例えば「レプリコン」)などに組み込むことができる。本発明の核酸およびベクターを作製し、in vitroまたはin vivoで発現させることができ、これらの遺伝子およびベクターを作製および発現する様々な手段を用いることができる。当業者であれば、所望の遺伝子活性を、本発明を実施するために用いるベクター内の遺伝子および核酸(例えば、プロモーター)の発現もしくは活性をモジュレートすることによって得ることができることは理解されよう。遺伝子の発現もしくは活性または組織特異性を増大または低減するために記載される公知の方法のいずれも本発明のために使用することができる。本発明は、科学文献および特許文献において十分に記載されている当技術分野で公知の任意の方法またはプロトコールと組み合わせて実施することができる。
【0065】
一般的技法
RNA、cDNA、ゲノムDNA、ベクター、組換えウイルスまたはそれらのハイブリッドのいずれであれ、本発明を実施するために用いる核酸配列は、様々な供給源から単離し、遺伝子工学的に操作し、増幅し、および/または組換え的に発現させることができる。細菌細胞に加えて、例えば哺乳動物、酵母、昆虫もしくは植物細胞発現系を含めた任意の組換え発現系を使用することができる。あるいは、例えばCarruthers (1982) Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 47:411-418;Adams (1983) J. Am. Chem. Soc. 105:661;Belousov (1997) Nucleic Acids Res. 25:3440-3444;Frenkel (1995) Free Radic. Biol. Med. 19:373-380;Blommers (1994) Biochemistry 33:7886-7896;Narang (1979) Meth. Enzymol. 68:90;Brown (1979) Meth. Enzymol. 68:109;Beaucage (1981) Tetra. Lett. 22:1859;米国特許第4,458,066号に記載されるような周知の化学合成技法によって、これらの核酸をin vitroで合成することができる。次いで二本鎖DNA断片を、相補鎖を合成し、適切な条件下で一緒にそれらの鎖をアニーリングさせることによって、または適切なプライマー配列とともにDNAポリメラーゼを用いて相補鎖を添加することによって得ることができる。
【0066】
ヒトCRTを含めたCRTの配列は、当技術分野で周知である(McCauliffe (1990) J. Clin. Invest. 86:332-335;Burns (1994) Nature 367:476-480;Coppolino (1998) Int. J. Biochem. Cell Biol. 30:553-558)。核酸配列は、GenBank登録番号NM004343として載っており、配列番号1である。
【0067】


【0068】
核酸の操作技法、例えば配列における突然変異生成、サブクローニング、プローブ標識、配列決定分析、ハイブリダイゼーションなどは、科学文献および特許文献に十分に記載されている。例えば、Sambrook編, MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL (第2版),第1-3巻, Cold Spring Harbor Laboratory, (1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Ausubel編, John Wiley & Sons, Inc., New York (1997);LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY:HYBRIDIZATION WITH NUCLEIC ACID PROBES, Part I. Tijssen編, Elsevier, N.Y. (1993)を参照されたい。
【0069】
核酸、ベクター、キャプシド、ポリペプチドなどを、当業者に周知の多数の一般的手段のうちいずれかによって分析し、定量化することができる。これらとしては、例えば、NMR、分光測光法、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)および超拡散(hyperdiffusion)クロマトグラフィーなどの生化学的分析方法、様々な免疫学的方法、例えば液体もしくはゲル沈降素反応、免疫拡散、免疫電気泳動、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、免疫蛍光アッセイ、サザン分析、ノーザン分析、ドットブロット分析、ゲル電気泳動(例えば、SDS-PAGE)、RT-PCR、定量PCR、他の核酸もしくは標的もしくはシグナル増幅方法、放射標識、シンチレーション計数法およびアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。
【0070】
核酸の増幅
オリゴヌクレオチドプライマーを用いて核酸を増幅して、本発明を実施するために用いる融合タンパク質コード配列を生成し、in vivo投与後のワクチンレベル(例えば、プラスミドもしくはウイルスレベル)をモニターし、活性化CTLの存在および表現型を確認することなどができる。当業者であれば、既知配列(例えば、配列番号1)を用いて好適なオリゴヌクレオチド増幅プライマーを選択し、設計することができる。また増幅方法は当技術分野で周知であり、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、PCR(PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Innis編, Academic Press, N.Y. (1990)およびPCR Strategies (1995), Innis編, Academic Press, Inc., N.Y.);リガーゼ連鎖反応(LCR) (Wu (1989) Genomics 4:560;Landegren (1988) Science 241:1077;Barringer (1990) Gene 89:117);転写増幅(Kwoh (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1173);および自立配列複製(Guatelli (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1874);Qβレプリカーゼ増幅(Smith (1997) J. Clin. Microbiol. 35:1477-1491;Burg (1996) Mol. Cell. Probes 10:257-271)ならびに他のRNAポリメラーゼ介在技法(NASBA, Cangene, Mississauga, Ontario;Berger (1987) Methods Enzymol. 152:307-316;米国特許第4,683,195号および第4,683,202号;Sooknanan (1995) Biotechnology 13:563-564)が挙げられる。
【0071】
発現カセットのクローニングおよび構築
本明細書に記載の融合タンパク質をコードする、プラスミド、組換えウイルス(例えば、下記に記載のレプリコンのようなRNAウイルス)および他のベクターを含めた発現カセットは、in vitroおよびin vivoでこれらのポリペプチドを発現するために用いられる。組換え核酸は、様々な従来技法(Roberts (1987) Nature 328:731;Schneider (1995) Protein Expr. Purif. 6435:10;Sambrook,前掲;Tijssen,前掲;Ausubel,前掲)によって発現される。プラスミド、ベクターなどは、天然供給源から単離するか、ATCCもしくはGenBankライブラリーなどの供給者から入手するか、または合成もしくは組換え方法によって調製することができる。
【0072】
本発明を実施するために用いる核酸を、エピソーム発現系などの細胞において安定してまたは一過的に発現させることができる。選択マーカーを組み込み、形質転換細胞に選択可能な表現型を供与することができる。例えば、選択マーカーは、宿主ゲノムへの組込みを必要としないようにエピソーム維持および複製をコードすることができる。例えば、マーカーが抗生物質耐性(例えば、クロラムフェニコール、カナマイシン、G418、ブレオマイシン、ハイグロマイシン)をコードすることで、所望のDNA配列で形質転換した細胞の選択を可能にすることができる(Blondelet-Rouault (1997) Gene 190:315-317;Aubrecht (1997) J. Pharmacol. Exp. Ther. 281:992-997)。
【0073】
in vivo核酸投与
一実施形態において、CRT-クラスI結合性ペプチドエピトープをコードする核酸は、in vitro、ex vivoおよび/またはin vivoで細胞にトランスフェクトまたは感染することができるプラスミドまたは他のベクター、ウイルスなどの発現カセットにクローニングされる。多数の送達手法が知られており、脂質もしくはリポソームに基づく遺伝子送達(Mannino (1988) BioTechniques 6:682-691;米国特許第5,279,833号)、レトロウイルスゲノムの一部として所望の外因性配列を有する複製欠陥レトロウイルスベクター(Miller (1990) Mol. Cell. Biol. 10:4239;Kolberg (1992) J. NIH Res. 4:43;Cornetta (1991) Hum. Gene Ther. 2:215;Zhang (1996) Cancer Metastasis Rev. 15:385-401;Anderson, Science (1992) 256:808-813;Nabel (1993) TIBTECH 11:211-217;Mitani (1993) TIBTECH 11:162-166;Mulligan (1993) Science, 926-932;Dillon (1993) TIBTECH 11:167-175;Miller (1992) Nature 357:455-460)が挙げられる。
【0074】
また発現カセットをウイルスゲノムから誘導することができる。用いることができるベクターには、組換えで改変したエンベロープもしくは非エンベロープDNAおよびRNAウイルスが含まれ、例えば、バキュロウイルス科、パルボウイルス科、ピコルナウイルス科(picornoviridae)、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、アデノウイルス科、ピコルナウイルス科(picornnaviridae)またはアルファウイルス科が挙げられる。また各親ベクターの特性の有利な長所を利用するキメラベクターを用いることができる(Feng (1997) Nature Biotechnology 15:866-870)。このようなウイルスベクターを組換えDNA技法によって改変することで目的の遺伝子を含ませることができ、そして遺伝子工学的に操作して、複製欠陥に、条件付きで複製する、または複製能力があるようにすることができる。ベクターは、アデノウイルスゲノム、アデノ随伴ウイルスゲノムまたはレトロウイルスゲノムから誘導することができる。レトロウイルスベクターは、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびそれらの組合せに基づくものを含むことができる(Buchscher (1992) J. Virol. 66 (5) 2731-2739;Johann (1992) J. Virol. 66 (5):1635-1640 (1992);Sommerfelt (1990) Virol. 176:58-59;Wilson (1989) J. Virol. 63:2374-2378;Miller (1991) J. Virol. 65:2220-2224)。アデノ随伴ウイルス(AAV)に基づくベクターは、核酸およびペプチドのin vitro産生のために細胞に形質導入することができ、in vivoおよびex vivo治療方法に用いることができる(Okada (1996) Gene Ther. 3:957-964;West (1987) Virology 160:38-47;Carter (1989) 米国特許第4,797,368号;Carterら WO93/24641 (1993);Kotin (1994) Human Gene Therapy 5:793-801;Muzyczka (1994) J. Clin. Invst. 94:1351)。
【0075】
自己複製RNAレプリコンを用いたin vivo投与
上記の発現ベクターおよび組換えウイルスに加えて、また自己複製RNAレプリコンを用いて細胞もしくは組織もしくは生物全体に感染させ、本発明の融合タンパク質発現核酸を供与することができる。従って、また本発明には、遺伝子工学的に操作して異種RNAおよびタンパク質の発現を可能にした、シンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルス、べネズエラウマ脳脊髄炎ウイルスなどに由来するアルファウイルスゲノムRNAを含むRNAウイルスが組み入れられる。ウイルス構造遺伝子が異種コード配列によって置換された場合、本発明の融合ポリペプチドなどの異種配列の高レベルの発現が達成される。
【0076】
これらの組換えRNAは自己複製し(「レプリコン」)、裸のRNAもしくはDNAとして細胞に導入することができる。しかしながら、これらは、感染性ウイルス粒子としてパッケージングされ、細胞から放出されるにはトランス補足性(trans complementation)を必要とする。欠陥ヘルパーRNAは、複製に必要なシス作用性配列ならびにオープンリーディングフレームの発現を駆動するRNAプロモーターを含有する。レプリコンおよび欠陥ヘルパーRNAの双方で同時トランスフェクトした細胞においては、レプリコンRNAから翻訳されるウイルス非構造タンパク質が欠陥ヘルパーRNAの複製と転写を可能にし、ウイルス粒子の構造タンパク質を産生する(Bredenbeek (1993) J. Virol. 67:6439-6446)。
【0077】
RNAレプリコンワクチンは、アルファウイルスベクター、例えば、シンドビスウイルス(トガウイルス科)(Xiong (1989) Science 243:1188-1191)、セムリキ森林ウイルス(Ying (1999) Nat. Med. 5:823-827)またはべネズエラウマ脳脊髄炎ウイルス(Pushko (1997) Virology 239:389-401)ベクターから誘導することができる。これらのワクチンは自己複製および自己制御し、そしてRNAまたはDNAのいずれかとして投与され、次いでトランスフェクトした細胞中でまたはin vivoでRNAレプリコンに転写されうる(Berglund (1998) Nat. Biotechnol. 16:562-565)。自己複製RNAは、多様な範囲の細胞型に感染し、高レベルで目的の抗原の発現を可能にする(Huang (1996) Curr. Opin. Biotechnol. 7:531-535)。さらに、ウイルス複製は感染宿主細胞にとって有毒なので、自己複製RNAは最終的にはトランスフェクトした細胞の溶解を引き起こす(Frolov (1996) J. Virol. 70:1182-1190)。従って、これらのベクターには、宿主ゲノムに組み込まれるという裸のDNAワクチンに関連する懸念が生じない。このことは、潜在的に腫瘍形成性であるタンパク質、例えばアデノウイルスE7タンパク質をターゲティングするワクチン開発にとって特に重要である。
【0078】
一実施形態において、Bredenbeek,前掲およびHerrmann (1998) Biochem. Biophys. Res. Commun. 253:524-531に詳細に記載されるように、自己複製RNAレプリコンはシンドビスウイルス自己複製RNAベクターSINrep5を含む。
【0079】
ポリペプチド
他の実施形態において、本発明は、第1ドメインがカルレティキュリン(CRT)ポリペプチドを含み;そして第2ドメインがMHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含む、少なくとも2種のドメインを含む単離されたまたは組換えポリペプチドに向けられている。上記で述べたように、本発明を実施するために用いる、CRT、ペプチドと結合するCRT断片およびMHCクラスI結合性ペプチドエピトープを含めたポリペプチドを意味する「ポリペプチド」、「タンパク質」および「ペプチド」という用語は、またCRTおよびMHCクラスI結合性ペプチドエピトープに実質的に対応する構造および活性を有する「類似体」もしくは「保存的変異体」および「擬似体」もしくは「ペプチド擬似体」を含めた本発明の組成物を含む。従って、また「保存的変異体」または「類似体」または「擬似体」という用語は、変化がポリペプチドの(保存的変異体の)構造および/または活性(「抗原性」ペプチドとの結合能力、免疫応答の刺激能力)を実質的に改変しないように改変されたアミノ酸配列を有するポリペプチドもしくはペプチドを意味する。これらとしては、アミノ酸配列の保存的な改変変異、すなわちタンパク質活性に重要ではない残基のアミノ酸置換、付加もしくは欠失、あるいはたとえ重要なアミノ酸の置換であっても構造および/または活性を実質的に改変しないような類似の特性(酸性、塩基性、正にもしくは負に荷電した、極性もしくは非極性など)を有する残基を用いたアミノ酸の置換が挙げられる。機能的な類似アミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野で周知である。例えば、保存的置換を選択するための1つの典型的なガイドラインとしては、(元の残基/置換):Ala/GlyもしくはSer;Arg/Lys;Asn/GlnもしくはHis;Asp/Glu;Cys/Ser;Gln/Asn;Gly/Asp;Gly/AlaもしくはPro;His/AsnもしくはGln;Ile/LeuもしくはVal;Leu/IleもしくはVal;Lys/ArgもしくはGlnもしくはGlu;Met/LeuもしくはTyrもしくはIle;Phe/MetもしくはLeuもしくはTyr;Ser/Thr;Thr/Ser;Trp/Tyr;Tyr/TrpもしくはPhe;Val/IleもしくはLeuが挙げられる。
【0080】
別の典型的なガイドラインは、以下の表に示す群を使用する。タンパク質化学および構造の詳細な説明については、Schulz, GEら, Principles of Protein Structure, Springer-Verlag, New York, 1978、およびCreighton, T.E., Proteins:Structure and Molecular Properties, W.H.Freeman & Co., San Francisco, 1983を参照されたい(これらは、参照により本明細書に組み入れられるものとする)。本発明のポリペプチドにおいて行うことができる置換のタイプは、以下の5群のうちの1群内での置換として本明細書で規定する、異なる種の相同タンパク質間のアミノ酸変化の頻度分析に基づくものとすることができる:

【0081】
上記で丸括弧中の3種のアミノ酸残基は、タンパク質構造において特別な役割を有する。Glyは、側鎖を欠く唯一の残基であり、従って鎖に対して柔軟性を付与する。Proは、その普通でない幾何学的配置のために鎖を厳密に拘束する。Cysは、タンパク質折畳みに重要なジスルフィド結合形成に参加できる。
【0082】
生化学的、機能的(または免疫学的)特性におけるより実質的な変化は、上記の5群内以外の間などのあまり保存的でない置換を選択することによって行う。そのような変化は、(a)置換領域におけるペプチド主鎖の構造(例えば、シートもしくはらせん配座)、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖のかさ(bulk)の維持に及ぼす影響においてより有意に異なるだろう。そのような置換の例としては、(i)別のアミノ酸によるGlyおよび/もしくはProの置換、またはGlyもしくはProの欠失もしくは挿入;(ii)疎水性残基(例えば、Leu、Ile、Phe、ValもしくはAla)に対する(または、による)親水性残基(例えば、SerもしくはThr)の置換;(iii)任意の他の残基に対する(または、による)Cys残基の置換;(iv)電気陰性電荷を有する残基(例えば、GluもしくはAsp)に対する(または、による)電気陽性側鎖を有する残基(例えば、Lys、ArgもしくはHis)の置換;あるいは(v)かさ高い(bulky)側鎖を有さない残基(例えば、Gly)に対する(または、による)かさ高い側鎖を有する残基(例えば、Phe)の置換が挙げられる。
【0083】
当業者であれば、上記で確認された置換のみが可能な保存的置換ではないことが理解されるだろう。例えば、ある目的で、全ての荷電アミノ酸を、それらが陽性または陰性であろうともお互いに保存的置換とみなすことができる。また、コード配列において単一のアミノ酸または少ない割合のアミノ酸を変える、付加するまたは欠失する個々の置換、欠失または付加により、「保存的な改変変異体」を得ることを考えることができる。
【0084】
「擬似体」および「ペプチド擬似体」という用語は、本発明の方法における使用が可能なペプチドの必要な構造的および/または機能的特性を有する合成化学化合物を意味し、例えば、ペプチドとMHCクラスIタンパク質との相互作用におけるCRTを模倣するものである。擬似体は、完全にアミノ酸の合成非天然類似体から構成されていても、または部分的には天然アミノ酸および部分的には非天然類似体の組合せであってもよい。また擬似体は、天然アミノ酸保存的置換が実質的に擬似体の構造および/または活性を変えない限り、そのような置換の任意の量を組込むことができる。保存的変異体と同様に、慣例の実験により、擬似体が本発明の範囲内にあるか否か、すなわち擬似体の立体化学的構造および/または機能が実施的に変化していないことが決定されるだろう。ペプチド擬似体は、典型的には以下の3群からの「非天然」構造的構成要素の任意の組合せを含むことができる:(a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)以外の残基連結基;(b)天然アミノ酸に置き換わる非天然残基;または(c)二次構造(例えば、βターン、γターン、βシートもしくはαへリックス配座)を誘導もしくは安定させる残基。ポリペプチドは、ポリペプチドの残基の全てもしくは幾つかがペプチド結合以外の化学結合で連結されている場合に擬似体として特性付けることができる。個々のペプチド擬似体残基を、ペプチド結合、他の化学結合またはカップリング手段、例えばグルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、二機能性マレイミド、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DDC)もしくはN,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)によって連結することができる。ペプチド結合に代わる連結基としては、ケトメチレン(-C(=O)-NH-に代わって-C(=O)-CH2-)、アミノメチレン(CH2-NH)、エチレン、オレフィン(CH=CH)、エーテル(CH2-O)、チオエーテル(CH2-S)、テトラゾール(CN4-)、チアゾール、レトロアミド、チオアミドまたはエステルが挙げられる(Spatola (1983) Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides and Proteins, 第7巻, pp267-357, Peptide Backbone Modifications, Marcell Dekker, NY)。
【0085】
本発明の擬似体を含めたポリペプチド、ペプチド、他の機能的誘導体の構造は、CRT、好ましくはヒトCRTの構造とアミノ酸配列に基づくものであることが好ましい(McCauliffe (1990) J. Clin. Invest. 86:332-335;Burns (1994) Nature 367:476-480;Coppolino (1998) Int. J. Biochem. Cell Biol. 30:553-558)。ヒトCRTタンパク質(GenBank 登録番号NM 004343)(配列番号2)を以下に示す:

【0086】
個々の合成残基および擬似体を組込むポリペプチドは、当技術分野で周知の種々の方法および方法論を用いて合成することができる(例えば、Organic Syntheses Collective Volumes, Gilmanら, (dds) John Wiley & Sons, Inc., NY)。また擬似体を組込むポリペプチドを、固相合成方法を用いて作製することもできる(例えば、米国特許第5,422,426号)。また本発明のペプチドおよびペプチド擬似体を、コンビナトリアル方法論を用いて合成することもできる。ペプチドおよびペプチド擬似体ライブラリーの生成に対する様々な技法が周知であり、例えばマルチピン、ティーバッグ(tea bag)およびスプリットカップルミックス(split-couple-mix)技法が挙げられる(al-Obeidi (1998) Mol. Biotechnol. 9:205-223;Hruby (1997) Curr. Opin. Chem. Biol. 1:114-119;Ostergaard (1997) Mol. Divers. 3:17-27;Ostresh (1996) Methods Enzymol. 267:220-234)。さらに改変ポリペプチドおよびペプチドは、化学修飾によって生産することができる(Belousov (1997) Nucleic Acids Res. 25:3440-3444;Frenkel (1995) Free Radic. Biol. Med. 19:373-380;Blommers (1994) Biochemistry 33:7886-7896)

【0087】
またペプチドを、従来の化学合成を完全にもしくは部分的に用いて合成することもできる(Caruthers (1980) Nucleic Acids Res. Symp. Ser. 215-223;Horn (1980) Nucleic Acids Res. Symp. Ser. 225-232;Banga, A.K., Therapeutic Peptides and Proteins, Formulation, Processing and Delivery Systems (1995) Technomic Publishing Co., Lancaster, PA)。例えば、ペプチド合成を様々な固相技法(Roberge (1995) Science 269:202;Merrifield (1997) Methods Enzymol. 289:3-13)および自動化合成(例えば、製造業者使用説明書に従いABI 431A ペプチド合成機を使用して)を用いて実施することができる。
【0088】
本発明の一実施形態において、ペプチド結合性断片またはCRTの「部分配列(sub-sequence)」を用いる。別の実施形態において、MHCタンパク質、好ましくはMHCクラスIタンパク質に結合する他のペプチドを用いる。そのようなペプチドは、任意のポリペプチド、特に公知の病原体から誘導することができ、または完全に合成であることができる。ペプチドがCRTもしくはCRT断片またはMHCタンパク質に結合するか否か、そしてどの程度結合するかを決定する方法は、当技術分野で慣例である(Jensen (1999) Immunol. Rev. 172:229-238;Zhang (1998) J. Mol. Biol. 281:929-947;Morgan (1997) Protein Sci 6:1771-1773;Fugger (1996) Mol. Med. 2:181-188;Sette (1994) Mol. Immunol. 31:813-822;Elvin (1993) J. Immunol. Methods 158:161-171;米国特許第6,048,530号;第6,037,135号;第6,033,669号;第6,007,820号)。
【0089】
医薬組成物の製剤化および投与
本発明の様々な実施形態において、ポリペプチド、核酸、発現カセット、細胞および粒子を薬理学的組成物として個体に、個体において抗原特異的免疫応答(例えばCTL応答、下記の実施例を参照されたい)を誘導するのに十分な量で投与する。
【0090】
核酸、ペプチドおよびポリペプチドのための製薬上許容される担体および製剤は、当業者には公知であり、科学文献および特許文献に詳細に記載されている。例えば、Remington's Pharmaceutical Science, Maack Publishing Company, Easton, PA(「Remington's」)の最新版;Banga;Putney (1998) Nat. Biotechnol. 16:153-157;Patton (1998) Biotechniques 16:141-143;Edwards (1997) Science 276:1868-1871;米国特許第5,780,431号;第5,770,700号;第5,770,201号を参照されたい。
【0091】
本発明の方法に使用する核酸およびポリペプチドを、単独で、または医薬組成物として、当技術分野で公知の任意の手段、例えば全身、局所または局部に;動脈内、髄腔内(IT)、静脈内(IV)、非経口、胸膜腔内、局所、経口または局部投与によって、皮下、気管内(例えば、エアロゾルによって)または経粘膜(transmucosal)(例えば、頬側粘膜、膀胱粘膜、膣粘膜、子宮粘膜、直腸粘膜、鼻粘膜)のように送達することができる。実際の組成物の送達方法は、当業者には公知であるかまたは明らかであろうし、科学文献および特許文献に詳細に記載されている。例えば、Remington'sを参照されたい。
【0092】
医薬組成物は、任意のプロトコールによって、そして投与の方法および経路および頻度、他の薬物を投与しているか否か、個体の応答などに応じて種々の単位剤形で投与することができる。典型的な核酸、ペプチドおよびポリペプチド医薬組成物の用量は、当業者には周知である。そのような用量は、種々の要因、例えば、初期応答(例えば、誘導されたCTLの数および活性、腫瘍縮小など)、特定の治療状況、患者の健康状態および耐性に応じて調節することができる。所望の応答を誘導するのに十分な医薬組成物量は、「治療上有効な用量」として規定される。投薬計画およびこの使用に有効な量、すなわち「投薬処方計画」は、種々の要因(例えば、免疫感作によって治療または予防される疾患または症状、患者の健康状態の一般的状態、患者の身体的状態、年齢、医薬製剤および医薬組成物の濃度などが挙げられる)に依存するだろう。また、投薬処方計画は、薬物動力学、すなわち医薬組成物の吸収速度、生物学的利用能、代謝、クリアランスなどを考慮する(Remington)。用量は、経験的に、例えば症状の寛解もしくは改善を評価することによって、または客観的な基準、例えば抗原特異的CTLレベルを測定することによって決定することができる。上記で述べたように、単一もしくは複数回の投与は、患者に必要であり、かつ許容される用量および頻度に応じて投与することができる。医薬組成物は、単独でまたは他の治療的処置と一緒に、あるいは予防的免疫感作として投与することができる。
【0093】
APCのex vivo処置および再投与
本発明の様々な実施形態において、本発明の核酸およびポリペプチドを個体に、抗原提示細胞(APC)をex vivoで処置した後、操作されたAPCを投与することによって導入する。一実施形態において、APCを本発明の融合タンパク質コード核酸で形質導入(トランスフェクト)するかまたは感染させ;その後、APCを個体に投与する。別の実施形態において、APCを本発明の融合タンパク質(精製したもの、またはトランスフェクトし、in vivoで組換え融合タンパク質を発現する細胞からの細胞溶解物として)で刺激する。この「パルス」後に、APCを個体に投与する。
【0094】
融合タンパク質は、例えば精製もしくは合成ポリペプチド、粗細胞溶解物(組換え融合タンパク質を作製するトランスフェクト細胞由来)などのようないずれの形態であってもよい。APCは、MHC適合(MHC-matched)細胞(組織タイピングした(tissue-typed)細胞)であってよい。APCは、組織培養細胞であっても、または治療しようとする個体から単離され、かつex vivo刺激後に再投与されるAPCであってもよい。上記のようにいずれのAPCも使用できる。APCの単離方法、培養におけるex vivo処置方法および再投与方法は、当技術分野で周知である(米国特許第5,192,537号;第5,665,350号;第5,728,388号;第5,888,705号;第5,962,320号;第6,017,527号;第6,027,488号)。
【0095】
キット
本発明は、本発明の方法を実施するための上記の本発明の医薬組成物を含むキットを提供する。別の実施形態において、キットは、ERシャペロンポリペプチドを含む第1ドメインと抗原性ペプチドを含む第2ドメインとを含む組換えもしくは合成キメラポリペプチド(例えば、CRT-クラスI結合性ペプチドエピトープ融合タンパク質);または例えば裸のDNA(例えばプラスミド)、ウイルス(例えばシンドビスウイルスレプリコンを含むアルファウイルスに由来する「レプリコン」)などの形態にある上記キメラポリペプチドをコードする核酸を含むことができる。キットは、方法論を教示する説明的な資料、例えば本発明を実施するために使用する組成物の投与手段、細胞または患者または動物に本発明の核酸もしくはポリペプチドを注射または感染させるための手段、得られた免疫応答をモニターし、組成物を投与した個体の応答を評価するための手段などを含むことができる。
【0096】
本明細書で説明する実施例および実施形態は、単に説明を目的にするものであり、その観点において様々な改変と変更は当業者には示唆されるだろうし、そしてこの出願の精神および権限ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであることは理解される。
【実施例】
【0097】
以下の実施例は、請求される発明を限定するのではなく、説明するために提供される。
【0098】
実施例1
CRT-クラスI結合性ペプチドエピトープの投与は抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の発生を増強する
以下の実施例は、本発明の組成物および方法が抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を増強することに有効であることを実証する研究を説明する。
【0099】
これらの研究は、カルレティキュリン(CRT)とクラスIポリペプチド結合性ペプチドエピトープの双方を含む融合タンパク質のコード配列を含むDNAワクチンを使用した。この場合、エピトープはモデル抗原、ヒトパピローマウイルス-16 E7ポリペプチド(HPV-16 E7)であった。E7特異的免疫応答によって媒介される抗腫瘍効果およびワクチン接種したマウスにおけるワクチン刺激抗脈管形成効果を評価した。キメラカルレティキュリン/E7(CRT/E7)融合遺伝子を含むDNAワクチンで皮内にワクチン接種したC57BL/6マウスは、野生型E7もしくはCRT遺伝子を単独で含むDNAワクチンと比較して、E7特異的CD8+T細胞(CTL)前駆体の劇的な増大、腫瘍防御および腫瘍処置を示した。さらに、CRT DNAまたはキメラCRT/E7 DNAのいずれかを用いたC57BL/6もしくはヌードマウスにより、肺転移性結節が低減され、そして肺結節内の脈管形成が阻害された。これらの結果は、抗原遺伝子へのCRT遺伝子の連結はDNAワクチンの効力を大いに増強し、抗原特異的CD8+T細胞(CTL)免疫応答と抗脈管形成効果の双方の有意な増強を介して抗腫瘍効果を引き出すことができることを示すものである。
【0100】
プラスミドDNA構築物および調製:
HPV-16 E7発現pcDNA3プラスミドの生成は、Chen (2000) Cancer Res. 60:1035-1042に記載のように行われた。また、Chen (2000) Vaccine 18:2015-2022;Ji (1999) Hum. Gene Ther. 10:2727-2740;Chen (1999) Gene Ther. 6:1972-1981;Ji (1998) Int. J. Cancer 78:41-45を参照されたい。また、例えばSeedorf (1987) EMBO J. 6:139-144;米国特許第5,629,161号;第5,501,947号;第5,547,846号;第5,180,806号;第4,777,239号を参照されたい。完全HPV-16ゲノムおよび以下の配列(配列番号5):

を有するHPV-16 E7タンパク質を示すGenBank登録番号AF125673(1999年6月1日)を参照されたい。
【0101】
ウサギカルレティキュリン(ウサギ、ヒト、マウスおよびラットカルレティキュリンの間には90%を上回る相同性がある)の全長をコードするプラスミド、pcDNA3-CRTの生成においては、まずこのタンパク質をコードするDNA断片を、Chen (2000) Cancer Res.,前掲に記載の条件を用いたPCRで、ウサギカルレティキュリンcDNA鋳型(Michalak (1999) Biochem J. 344 Pt2:281-292)(Marek Michalak博士(University of Alberta, Edmonton, Canada)によって提供された)ならびにプライマーセット:5'-ccggtctagaatgctgctccctgtgccgct-3'(配列番号6)および5'-ccggagatctcagctcgtccttggcctggc-3'(配列番号7)を用いて増幅した。次いで増幅産物を制限消化酵素XbaIおよびBamHIで消化し、さらにpcDNA3ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)のXbaIおよびBamHIクローニング部位にクローニングした。pcDNA3-CRT/E7の生成においては、E7 DNAを、DNA鋳型としてpcDNA3-E7ならびにプライマーセット:5'-ggggaattcatggagatacaccta-3'(配列番号7)および5'-ggtggatccttgagaacagatgg-3'(配列番号8)を用いたPCRによって増幅した。次いで増幅E7 DNA断片をBamHIで消化し、さらにpcDNA3-CRTベクターのBamHIクローニング部位にクローニングした。これらの構築物の配向と精度をDNA配列決定分析によって確認した。
【0102】
CRT、E7またはCRT/E7遺伝子インサートを有するプラスミドDNAおよび「空の」プラスミドベクターを、サブクローニング効率のよいDH5(商標)細胞(Life Technologies, USA)にトランスフェクトした。次いで、DNAを増幅し、二重CsCl精製(BioServe Biotechnologies, Laurel, MD)を用いて精製した。各調製物中のプラスミドDNAの完全性および大腸菌(Escherichia coli)DNAもしくはRNAの不在を、1%のアガロースゲル電気泳動を用いてチェックした。DNA濃度を、260nmで測定する光学密度で決定した。挿入されたE7断片の存在を、制限酵素消化およびゲル電気泳動によって確認した。
【0103】
細胞系:
TC-1細胞の生産と維持は、Lin (1996) Cancer Res. 56:21-26に記載のように行われた。腫瘍チャレンジ(challenge)の日に、TC-1細胞をトリプシン処理によって回収し、1X Hanks緩衝塩溶液(HBSS)で2回洗浄し、最後に1X HBSS中に再懸濁して、指定された注射用濃度にした。DbおよびKbを発現するヒト胎児腎293細胞系(293 Db,Kb)(Bloom (1997) J. Exp. Med. 185:453-459)は、JC Yang博士(NCI, NIH, Bethesda, MD)によって提供された。この細胞系は、10%の熱非働化ウシ胎児血清、0.3%のグルタミン、0.01M HEPES、100U/mlペニシリン、G418 100μgを含有するDMEM培地中で増殖した。
【0104】
マウス:
6〜8週齢のメスC57BL/6マウスをNational Cancer Institute(Frederick, MD)から購入し、Johns Hopkins Hospital(Baltimore, MD)の腫瘍学動物施設で飼育した。抗脈管形成効果を特性付けるために、免疫エフェクター不在におけるin vivo 腫瘍処置実験を、National Cancer Institute(Frederick, MD)からのBALB/c nu/nu 6週齢メスマウスを用いて実施した。全ての動物手順は、認可されたプロトコールおよび実験室動物の適切な使用と注意についての推奨に従って実施した。
【0105】
DNAワクチン接種:
DNAコーティング金粒子の調製および遺伝子銃粒子媒介DNAワクチン接種を、ヘリウム駆動遺伝子銃(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いてChen (2000) Cancer Res.,前掲の記載に従って実施した。簡単に言えば、DNAコーティング金粒子(DNA 1もしくは4μg/弾丸)を、約400p.s.i.の発射圧でヘリウム駆動遺伝子銃を用いてマウスの毛を剃り落とした腹部領域に送達した。
【0106】
細胞質内サイトカイン染色およびフローサイトメトリー分析:
無傷のマウス群またはワクチン接種したマウス群を、E7特異的CD8+T細胞前駆体を検出するためにMHCクラスIエピトープを含むE7ペプチド(アミノ酸(aa)49-57残基)(Feltkamp (1993) Eur. J. Immunol. 23:2242-2249)とともにインキュベートするか、またはE7特異的CD4+Tヘルパー細胞前駆体を検出するためにMHCクラスIIペプチドを含むE7ペプチド(aa30-67)(Tindle (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:5887-5891)とともにインキュベートした。E7ペプチドは、aa49-57については1μg/mlの濃度で、そしてaa30-67については10μg/mlの濃度で20時間添加された。Golgistop(商標)(Pharmigen, San Diego, CA)を培養物から細胞を回収する6時間前に添加した。次いで細胞をFACScan(商標)バッファー中で1回洗浄して、フィコエリトリン(PE)-コンジュゲートモノクローナルラット抗マウスCD8もしくはCD4抗体(PharMingen, San Diego, CA)で染色した。細胞を、製造業者の使用説明書(PharMingen)に従ってCytofix/Cytoperm(商標)キットを用いて細胞内サイトカイン染色に供した。FITC-コンジュゲート抗IFN-γおよび抗IL-4抗体ならびに免疫グロブリンアイソタイプ対照抗体(ラットIgG1)は、全てPharMingenから購入した。フローサイトメトリー分析は、CELLQuest(商標)ソフトウエアを用いるBecton Dickinson FACScan(商標)(Becton Dickinson Immunocytometry System, Mountain View, CA)において行った。
【0107】
抗E7抗体に対するELISA:
血清中の抗HPV 16 E7抗体を、Wu (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:11671-11675に記載のように直接的ELISAによって測定した。簡単に言えば、96マイクロウエルプレートを、10.5μg/mlの細菌に由来するHPV-16 E7タンパク質でコーティングし、40℃で一晩インキュベートした。次いで、ウエルを20%のウシ胎児血清を含有するPBSでブロッキングした。血清を、免疫感作後14日目にマウスから調製し、1X PBS中に連続希釈し、ELISAウエルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。0.05%のTween-20を含有する1X PBSで洗浄した後、プレートをペルオキシダーゼ-コンジュゲートウサギ抗マウスIgG抗体(Zymed, San Francisco, CA)の1/2000希釈物で室温(RT)で1時間インキュベートした。プレートを6回洗浄し、TMB(Pierce, Rockford, IL)で顕色し、1M H2SO4で停止させた。ELISAプレートを、標準的ELISAリーダーを用いて450nmで読み取った。
【0108】
in vivo腫瘍防御実験:
腫瘍防御実験において、マウス(1群あたり5匹)に2μgのCRT DNA、E7 DNA、CRT/E7 DNAを遺伝子銃を介してワクチン接種するか、またはワクチン接種しなかった。1週間後、マウスを最初のワクチン接種と同じ処方計画で追加免疫した。最後のワクチン接種の1週間後、マウスを、右脚中に5 x 104 TC-1細胞/マウスで皮下にチャレンジした。マウスを60日目に屠殺するまで、マウスを1週間に2回、触診と検査で腫瘍増殖の形跡についてモニターした。
【0109】
in vivo腫瘍処置実験:
C57BL/6マウス(各群5匹)を、0日目に尾静脈を介して1 x 104細胞/マウスのTC-1腫瘍細胞で静脈内にチャレンジした。TC-1腫瘍細胞を用いたチャレンジの3日後に、マウスに遺伝子銃を介して2μgのCRT DNA、E7 DNA、CRT/E7 DNAを与えるか、またはワクチン接種しなかった。1週間後、これらのマウスを最初のワクチン接種と同じ処方計画で追加免疫した。マウスを1週間に2回モニターし、21日目に屠殺した。各マウスの肺転移性結節数は、サンプルの正体が分からない実験者によって評価および計数された。
【0110】
ヌード(BALB/c nu/nu)マウス(各群5匹)を、0日目に尾静脈を介して1 x 104細胞/マウスのTC-1腫瘍細胞で静脈内にチャレンジした。TC-1腫瘍細胞を用いたチャレンジの2日(D2)後に、マウスに遺伝子銃を介して16μgのCRT DNA、E7 DNA、CRT/E7 DNAまたはインサートを含まない空のプラスミドを与えた。9日目と16日目に、これらのマウスを最初のワクチン接種と同じ処方計画で追加免疫した。マウスを21日目に屠殺した。各マウスの肺結節は、サンプルの正体が分からない実験者によって評価および計数された。
【0111】
in vivo抗体枯渇実験:
in vivo抗体枯渇は、Lin (1996) Cancer Res. 56:21-26に記載のように行われた。簡単に言えば、マウスを遺伝子銃を介してCRT/E7 DNA 2μgでワクチン接種し、1週間後に追加免疫し、5 x 104細胞/マウスのTC-1腫瘍細胞でチャレンジした。腫瘍チャレンジの1週間前に枯渇を開始させた。MAb GK1.5(Dialynas (1983) Immunol. Rev. 74:29-56)をCD4枯渇に使用し、MAb 2.43(Sarmiento (1980) J. Immunol. 125:2665)をCD8枯渇に使用し、そしてMAb PK136(Koo (1986) J. Immunol. 137:3742-3747)をNK1.1枯渇に使用した。フローサイトメトリー分析により、適切なリンパ球サブセットの>99%が枯渇され、一方、他のサブセットの正常レベルが維持されたことが明らかとなった。
【0112】
樹状細胞の生成:
樹状細胞(DC)を、Fernandez (1999) Nat. Med. 5:405-411に記載のようにGM-CSFの存在下で骨髄細胞を培養することによって生成した。簡単に言えば、骨髄をマウスの大腿骨および脛骨から回収した。赤血球を溶解し、残りの細胞をナイロンメッシュを通過させることで小片の骨およびデブリを除去した。細胞を回収し、そして1 X 106細胞/mlを、5%のFCS、2mM メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸、100U/mlペニシリンおよび100g/mlストレプトマイシン(Life Technologies, Rockville, MD)および100U/ml GM-CSF(PharMingen, San Diego, CA)を補足したRMPI 1640を含む24ウエルプレートに配置した。培地の3/2を2日ごとに入れ替え、非接着細胞を7日目に回収した。回収した細胞を、すでに記載したようにDCマーカーについてのフローサイトメトリー分析を用いて特性付けた(25)。
【0113】
E7特異的CD8+T細胞系の生成:
E7特異的CD8+細胞系を、ワクシニアE7発現ベクター(Ji (1999) Hum. Gene Ther. 10:2727-2740に論じられているように、リソソーム関連膜タンパク質1(LAMP-1)コード配列をHPV-E7コード配列に融合させてSig/E7/LAMP-1と呼ばれるキメラDNAを構築した)の腹腔内注射によってメスC57BL/6(H-2b)マウスを免疫感作することによって生成した。脾細胞を8日目に回収した。最初のin vitro刺激については、脾細胞を20U/ml濃度のIL-2および1 TM E7ペプチド(配列番号4のアミノ酸49-57)で6日間パルスした。E7特異的CTL細胞系の増殖を、E7特異的CTLを含む1 x 106脾細胞と3 x 106の放射線照射した(irradiated)脾細胞とを混合し(2ml/ウエル)、それらに20U/ml濃度のIL-2および1 TM E7ペプチド(アミノ酸49-57)をパルスすることによって、24ウエルプレート中で実施した。この方法を6日ごとに繰り返した。E7CTL系の特異性を、CTLアッセイによって特性付けた。フローサイトメトリーを実施して、CD8マーカーの発現を示した。
【0114】
トランスフェクトした293DbKb細胞を標的細胞として用いたCTLアッセイ: CTLアッセイを、Corr (1999) J. Immunol. 163:4721-4727に記載のように96ウエル丸底プレート中で実施した。細胞溶解を、乳酸脱水素酵素(LDH)の定量的測定によって測定した。トランスフェクトした293DbKb細胞を標的細胞として用い、一方、E7特異的CD8+T細胞はエフェクター細胞として機能した。5 x 106の293DbKb細胞を20TgのpcDNA3(空のプラスミド)、E7、CRTもしくはCRT/E7 DNAワクチンで、製造業者のプロトコールに従いリポフェクタミン2000(商標)(Life Technologies, Rockville, MD)を介してトランスフェクトした。293DbKb細胞をトランスフェクションの40〜44時間後に回収した。ELISAによって測定されるE7タンパク質発現のレベルは、E7およびCRT/E7でトランスフェクトした293DbKbにおいて類似していた。CTLアッセイを、様々な比率(1:1、3:1、9:1および27:1)で一緒に混合したエフェクター細胞と標的細胞(ウエルあたり1 x 104)を用いて最終容量200Tl中で実施した。37℃で5時間のインキュベーション後、培養培地を回収し、製造業者のプロトコールに従いCytoTox(商標)アッセイキット(Promega, Madison, WI)を用いて培養培地中のLDH量を評価した。溶解の割合を以下の等式から計算した:100 X (A-B)/(C-D)(式中、Aは実験のエフェクターシグナル値の読み取り値(reading)であり、Bはエフェクターの自発的なバックグラウンドシグナル値であり、Cは標的細胞からの最大シグナル値であり、Dは標的の自発的なバックグラウンドシグナル値である)。
【0115】
トランスフェクトした293細胞の溶解物をパルスしたDCを標的細胞として用いたCTLアッセイ:
細胞溶解物をパルスした樹状細胞(DC)を標的細胞として用いたCTLアッセイを、Uger (1998) J. Immunol. 160:1598-1605に記載のプロトコールに類似したプロトコールを用いて実施した。簡単に言えば、まず5 x 106の293DbKb細胞を20TgのpcDNA3(空のプラスミド)、E7、CRTもしくはCRT/E7 DNAワクチンで、製造業者のプロトコールに従いリポフェクタミン2000(商標)(Life Technologies, Rockville, MD)を介してトランスフェクトした。トランスフェクトした293DbKb細胞をトランスフェクションの40〜44時間後に回収し、次いで3サイクルの凍結融解で処理した。タンパク質濃度は、販売業者のプロトコールに従いBioRadプロテインアッセイ(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いて測定された。E7タンパク質量をELISAを用いて測定し、E7もしくはCRT/E7 DNAでトランスフェクトした293DbKb細胞に由来する細胞溶解物をE7タンパク質濃度について標準化した。DCを標的細胞として用い、100万個のDCに様々な濃度の細胞溶解物(50Tg/ml、10Tg/ml、2Tg/mlおよび0.4Tg/ml)を最終容量2ml中で16〜20時間パルスすることで調製した。E7特異的CD8+T細胞をエフェクター細胞として用いた。CTLアッセイを、E/T(9/1)の比率を固定して1 x 104の調製したDCと混合した9 x 104のE7特異的T細胞を用いて最終容量200Tl中で実施した。細胞溶解を、上記で記載したようにLDHの定量的測定によって測定した。
【0116】
組織学的および免疫組織化学的研究:
ワクチン接種したマウス由来の肺結節のパラフィンブロックを作製し、6Tmの切片に切断し、脱パラフィン化した。ヘマトキシリンおよびエオシン染色を、慣例の光学顕微鏡検査について実施し、未染色の切片を免疫組織化学的研究のために調製した。マウス抗CD31モノクローナル抗体(DAKO, Capinteria, CA)を、腫瘍内微小血管の検出に用いた。免疫組織化学的染色を、Huang (1999) Hum. Pathol. 30:587-591に記載のプロトコールを用いて双方の検体に由来する切片において実施した。微小血管密度(MVD)を、Cheng (1999) Cancer 85:651-657に記載のように測定した。簡単に言えば、染色したスライドを低い倍率(40x および100xの合計倍率)で検査し、各腫瘍中で最も高い新生血管形成領域(いわゆるホットスポット(hotspot))を同定した。各切片において、3ヶ所の最も血管新生した領域
を選択した。微小血管計数は、200x倍率(20x対物レンズおよび10x接眼レンズ(Olympus BH-2顕微鏡)、接眼ミクロメーターで測定した視野サイズが視野あたり0.74mm2)で得られ、各腫瘍について3ヶ所の視野の平均数を計算して、微小血管密度(MVD)計数と呼んだ。適当な8個の血液細胞よりも大きい厚い筋肉壁および内腔を有する大血管を、計数から除外した。全ての測定は、サンプルの正体が分からない1人の病理学者によって実施された。
【0117】
CRT/E7融合DNAワクチンの生成と特性付け:
カルレティキュリン(CRT)、E7およびカルレティキュリン/E7(CRT/E7)の構築物の概略図を図1に示す。全ての構築物は、DNA配列決定分析によって確認されている。E7含有構築物中のE7タンパク質の発現を示すために、様々なE7含有DNA構築物でトランスフェクトした293DbKb細胞の溶解物を用いたウエスタンブロット分析を実施した。野生型E7でトランスフェクトした293DbKb細胞は、HPV-16 E7に対応する30kDバンドを示した。加えて、CRT/E7でトランスフェクトした293DbKb細胞は、キメラCRT/E7タンパク質に対応するバンドを示した。陰性対照である、カルレティキュリンまたは空のプラスミドでトランスフェクトした293DbKbにおいては、目に見えるバンドは全く観察されなかった。
【0118】
CRT/E7融合DNAを用いたワクチン接種はE7特異的CD8+T細胞数を有意に増強する: CD8+Tリンパ球(CTL)は、抗腫瘍免疫の誘導において最も重要なエフェクターの1つである。本発明のCRT/E7 DNAワクチンのin vivo投与(マウスに対して)後に誘導されるE7特異的CD8+T細胞前駆体の量を決定するために、細胞内サイトカイン染色を、Ji (1999) Human Gene Therapy 10:2727-2740に記載のように使用した。細胞内サイトカイン染色は、単一細胞レベルでIFN-γ(IFN-K)産生を測定するために用いられる感度の高い機能的アッセイであり、従ってこれを適用して抗原特異的CD8+T細胞を定量化することができる。フローサイトメトリー分析(上記で論じたように実施)の結果を図2Aに二次元ヒストグラムで示す。図2Bに要約したように、CRT/E7 DNAでワクチン接種したマウスは、最も高い数のE7特異的IFN-γ発現/CD8+T細胞前駆体(204/3.5 x 105脾細胞)を誘導したが、E7 DNAでワクチン接種したマウスは、より少ない前駆体(47/3.5 x 105脾細胞)しか誘導しなかった(p<0.01)。CRT/E7キメラ構築物の免疫感作により、E7特異的CD8+T細胞前駆体数が5倍増大した。またこれらの結果より、2種のベクター(E7のみを発現するベクターと混合したCRTのみを発現するベクター)(図2Bにおける「CRT+E7」)を用いたワクチン接種はCD8+T細胞活性の増強を誘導しなかったので、CRTへのE7の融合(すなわち、融合タンパク質としての発現)がCD8+T細胞活性の増強には必要であることが示された。
【0119】
CRT/E7融合 DNAを用いたワクチン接種はE7特異的CD4+T細胞媒介免疫応答を増強しない:
これらの各ワクチンによって誘導されるE7特異的CD4+(「ヘルパー」)T前駆体細胞の生成およびサイトカインプロフィールを検査するために、本発明者らは免疫感作したマウス由来の脾細胞におけるCD4表面マーカーおよび細胞内IFN-K+に対する二重染色を実施し、次いでフローサイトメトリー分析を行った。免疫感作したマウス由来の脾細胞を、in vitroでE7ペプチド(aa30-67)とともに一晩培養し、CD4および細胞内IFN-K+の双方について染色した。E7ペプチド(aa30-67)は、HPV-16のE7オープンリーディングフレームタンパク質中の主要なTヘルパーエピトープを含む(Tindle (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:5887-5891)。IFN-K+分泌CD4+T細胞の割合を、フローサイトメトリーを用いて分析した。CRT/E7キメラ構築物でワクチン接種したマウスは、野生型E7 DNA(25/3.5 x 105脾細胞 対 20/3.5 x 105脾細胞、p>0.05)または他のDNA群でワクチン接種したマウスと比較して、類似のCD4+IFNK+二重陽性細胞数を誘導した。フローサイトメトリー染色を用いて観察されたE7特異的CD4+IFNK+細胞数に、無傷のマウスまたは空のプラスミド、CRT、E7、CRT+E7もしくはCRT/E7構築物でワクチン接種したマウスの間に有意な差異はなかった。
【0120】
また様々なDNAワクチンでワクチン接種したマウス中のIL-4分泌性E7特異的CD4+T細胞数を評価した。IL-4分泌活性化マウス脾細胞(MiCK-2(商標)、PharMingen, San Diego, CA)を陽性対照として使用し、この研究における細胞内IL-4染色の成功を確認した。IL-4染色の特異性を、IL-4抗体を除いた場合のCD4+IL-4+T細胞の不在によって示した。CRT/E7、CRT、野生型E7 DNA、プラスミドDNAでワクチン接種したマウスまたはワクチン接種していない無傷のマウスにおいて、有意なCD4+IL-4+二重陽性細胞は同定されなかった。さらに、異なるワクチン接種群に由来するIL-4分泌CD4+IL-4+T細胞の頻度に有意な変化は観察されなかった。
【0121】
CRT/E7を用いたワクチン接種はより高い力価のE7特異的抗体を誘導した:
ワクチン接種したマウスの血清中の抗HPV 16 E7抗体量を、最後のワクチン接種の2週間後に直接的ELISAによって測定した。図3に示すように、CRT/E7ワクチン接種群は、他のワクチン接種群と比較してマウス血清中において最も高い力価の抗E7抗体を誘導した(P<0.01)。この結果より、本発明のCRT/E7キメラ構築物で接種したマウスは有意により高いE7特異的抗体応答を誘導したことが示された。
【0122】
CRT/E7キメラ構築物を用いたワクチン接種はTC-1腫瘍の増殖に対するマウスの防御を増強する:
様々なDNAワクチン構築物を用いたワクチン接種はE7発現腫瘍に対してマウスを防御するか否かを決定するために、in vivo腫瘍防御実験を実施した。マウスを、遺伝子銃を介して裸のDNA 2Tg/マウスでワクチン接種し、1週間後に同じ用量で追加免疫した。次いで、最後のワクチン接種の7日後にマウスを、右脚中に5 x 104 TC-1/マウスで皮下にチャレンジした。図4に示すように、CRT/E7キメラ構築物ワクチン接種を受けたマウスの100%が、TC-1チャレンジの60日後に腫瘍のない状態のままであった。それに反して、ワクチン接種していないマウスおよび空のプラスミド、CRT、野生型E7もしくは野生型E7+CRT DNAを受けたマウスの全てが、腫瘍チャレンジ後15日以内に腫瘍増殖を生じた。またこれらの結果より、E7のみを発現する構築物と混合したカルレティキュリンのみを発現する構築物(図4における「CRT+E7」)は抗腫瘍免疫の増強を誘導しなかったので、カルレティキュリンへのE7の融合が抗腫瘍免疫には必要であったことが示された。従って、本発明のCRT/E7キメラ構築物は、TC-1腫瘍の増殖に対する防御を有意に増強した。
【0123】
CRT/E7キメラ構築物を用いたワクチン接種は肺において確立されるE7発現腫瘍を根絶する:
肺のTC-1腫瘍転移の処置においてキメラCRT/E7 DNA構築物の治療的潜在性を決定するために、まずC57BL/6マウスを、静脈内尾静脈注射を介してマウス1匹あたり1 x 104のTC-1腫瘍細胞でチャレンジした(肺転移モデル)(Ji (1998) Int. J. Cancer 78:41-45)。次いで、マウスを7日後に遺伝子銃を介して裸のDNA 2Tgで処置し、1週間後に同じ用量で追加免疫した。次いで、マウスを腫瘍チャレンジの30日後に屠殺した。図5に示すように、CRT/E7キメラ構築物でワクチン接種したマウスは、野生型E7 DNAのみ(77.6+9.8)またはカルレティキュリンDNAのみ(26.4+4.9)でワクチン接種したマウスと比較して肺結節の最も低い平均数(4.0+1.6)を示した(one-way ANOVA, P<0.001)。データは、肺転移性腫瘍結節の平均数+SEMとして表している。興味深いことに、野生型カルレティキュリンDNAでワクチン接種したマウスは、野生型E7 DNAを受けたマウスまたはワクチン接種を受けていないマウスよりも低い結節の平均数を示した(one-way ANOVA, P<0.001)。CRT単独でワクチン接種したマウスはE7特異的T細胞免疫応答を誘導しなかったので、CRT単独で観察された治療的効果(肺転移性結節のより低い数)は、CRT媒介抗脈管形成効果によって引き起こされたものでありうる。
【0124】
CD4+T細胞もしくはNK細胞ではなく、CD8+T細胞が本発明のCRT/E7キメラDNAワクチンによって誘導される抗腫瘍効果に必須である:
E7陽性腫瘍細胞の排除に重要なリンパ球サブセットを決定するために、本発明者らは、in vivo抗体枯渇実験を実施した。リンパ球サブセットの枯渇を、腫瘍注入の日およびその後毎週、脾細胞のフローサイトメトリー分析によって評価した。適切なサブセットの99%を上回る枯渇が達成され、他のリンパ球サブセットは正常レベルであった。全ての無傷のマウスおよびCD8+T細胞を枯渇した全てのマウスにおいて、腫瘍チャレンジ後の約14日以内に腫瘍が増殖した。それに反して、枯渇していない全てのマウスおよびCD4+T細胞もしくはNK1.1細胞を枯渇した全てのマウスが腫瘍チャレンジの60日後に腫瘍のない状態のままであった。これらの結果は、CD8+T細胞が本発明のCRT/E7キメラワクチンによって誘導される抗腫瘍免疫に必須であることを示すものである。
【0125】
CRT/E7 DNAでトランスフェクトした細胞におけるMHCクラスI経路を介したE7の提示の増強:
上記で論じたように、本発明のCRT/E7キメラ構築物でワクチン接種したマウスは、最も高い数のE7特異的CD8+T細胞前駆体を誘導した。この効果の原因となる機構を決定するために、標的細胞においてE7のMHCクラスI提示の増強が存在するか否かを決定した。この場合、標的細胞は、CRT/E7融合タンパク質コードキメラDNAでトランスフェクトしたDbとKbとを発現するヒト胎児腎293細胞であった。エフェクター細胞としてDb制限E7特異的CD8+T細胞を用いたCTLアッセイを用いて、CRT/E7構築物でトランスフェクトした標的細胞(293DbKb細胞)は、野生型E7のみでトランスフェクトした293DbKb細胞よりも効果的に死滅されうるか否かを決定した。293DbKb細胞は安定したトランスフェクション効率を有することが示されいるが、樹状細胞はin vivoで容易にはトランスフェクトされないので、293DbKb細胞を標的細胞として用いた。さらに、293DbKb細胞におけるE7発現レベルは、様々なE7含有DNA構築物でトランスフェクトした細胞間で類似している。CTLアッセイを、無傷の293DbKb細胞および空のプラスミド、CRT、E7もしくはキメラCRT/E7 DNAでトランスフェクトした293DbKb細胞を用いて、E7特異的T細胞系を用いる様々なエフェクター/標的(E/T)比率(1:1、3:1、9:1、27:1)で実施した。図6に示すように、CRT/E7 DNAでトランスフェクトした293DbKb細胞は、野生型E7 DNAワクチンのみでワクチン接種したマウスと比較して、9:1(20.5+1.0% 対 10.43+0.9%、P<0.001)および27:1(47.1+5.5% 対 15.1+3.0%、P<0.001)のE/T比率で有意により高い割合の特異的溶解を誘導した。これらの結果より、本発明のキメラCRT/E7構築物でトランスフェクトした細胞は、野生型E7 DNAでトランスフェクトした細胞よりも効率的な方法でMHCクラスI経路を介して「直接的プライミング」を経てE7抗原を提示することができたことが示された。
【0126】
キメラCRT/E7タンパク質をパルスした樹状細胞におけるMHCクラスI経路を介したE7の提示の増強:
in vivoでE7特異的CD8+T細胞免疫応答を増強する別の潜在的な機構は、様々なDNA構築物を発現する溶解した細胞の取込みを介して、抗原提示細胞によるMHCクラスI経路を介したE7の提示であり、「クロスプライミング」とも呼ばれる。クロスプライミング実験は、空のプラスミド、カルレティキュリン、E7もしくはCRT/E7 DNAでトランスフェクトした293DbKb細胞の細胞溶解物をパルスした樹状細胞におけるE7のMHCクラスI提示を特性付けるために実施された。E7特異的CD8+T細胞は、エフェクター細胞として機能した。既に述べたように、293DbKb細胞は安定したトランスフェクション効率、および様々なE7含有DNA構築物でトランスフェクトした細胞間で類似したE7発現を有することが示された。トランスフェクトした293DbKb細胞の溶解物を、凍結融解のサイクルから得た。骨髄由来DCに、トランスフェクトした293DbKb細胞の溶解物の連続希釈物(50Tg/ml、10Tg/ml、2Tg/mlおよび0.4Tg/ml)をパルスした。DCを標的細胞として用い、一方、E7特異的CD8+T細胞はエフェクター細胞として機能した。CTLアッセイを、E/T比率(9/1)を固定して実施した。図7に示すように、CRT/E7 DNAでトランスフェクトした293DbKb細胞の溶解物をパルスしたDCは、他のDNA構築物でトランスフェクトした293DbKb細胞の溶解物をパルスしたDCおよび無傷のDCと比較して有意により高い割合の特異的溶解を誘導した(P<0.001)。これらの結果は、CRT/E7融合タンパク質(トランスフェクトした293DbKb細胞の細胞溶解物中に存在)をパルスした樹状細胞は、野生型E7タンパク質コード構築物のみでトランスフェクトした293DbKb細胞の溶解物をパルスした樹状細胞よりも効率的な方法でMHCクラスI経路を介してE7抗原を提示できることを示した。このデータは、E7へのCRTの融合、すなわちカルレティキュリンとの融合タンパク質としてのE7ポリペプチドの発現が、直接的およびクロスプライミング効果の双方を経てE7特異的CD8+T細胞免疫応答を増強することを示すものである。
【0127】
CRTもしくはキメラCRT/E7 DNAワクチンを用いた処置はヌードマウスの肺において確立される腫瘍を根絶する:
上記で論じたように、野生型CRT DNAで処置したマウスは、野生型E7 DNAのみを受けたマウスまたはワクチン接種していないマウスよりも肺結節の低い平均数を示した(one-way ANOVA, P<0.001)。CRTでワクチン接種したマウスは、E7特異的T細胞免疫応答を誘導しなかったので(図2を参照されたい)、CRTを単独で発現する構築物を投与した場合に観察される治療的効果(転移性肺結節数の低減)は、抗腫瘍免疫応答(すなわち、抗原特異的CTLの増大)に関連しないと考えられる。いずれの免疫エフェクター細胞も存在しない肺におけるTC-1腫瘍転移の処置において、E7もしくはCRTポリペプチド単独と比較したCRT/E7融合ポリペプチドの役割を評価するために、まずヌード(BALB/c nu/nu)マウス(Tヘルパーおよびキラー(CTL)リンパ球の双方を欠き、体液性もしくは細胞性免疫応答のいずれも誘導することできない動物)を、上記で論じたように静脈内尾静脈注射を介してマウス1匹あたり1 x 104のTC-1腫瘍細胞でチャレンジした。TC-1腫瘍細胞を用いたチャレンジの2日後、マウスに遺伝子銃を介して16TgのCRTコードDNA、E7コードDNAもしくはCRT/E7コードDNAまたはインサートを含まない空のプラスミドを与えた。9日目と16日目に、これらのマウスを最初のワクチン接種と同じ処方計画で追加免疫した。マウスを21日目に屠殺した。各マウスの肺結節を評価および計数した。図8に示すように、CRTを単独で発現する構築物もしくはCRT/E7融合タンパク質を発現する構築物で処置したヌードマウスは、野生型E7 DNAのみ(36.0+2.8)、ベクターのみ(35.5+12.0)でワクチン接種したマウスまたは無傷の群(47.5+2.1)と比較して、肺結節のより低い平均数(CRTについては6.0+2.8、CRT/E7については2.5+0.7)を示した(one-way ANOVA、P<0.001)。これらのデータより、CRTもしくはCRT/E7 DNAワクチンによって誘導される抗腫瘍効果は、抗腫瘍免疫応答に非依存的であったことが示された。
【0128】
CRTもしくはキメラCRT/E7 DNAワクチンを用いた処置はヌードマウスの肺における腫瘍の微小血管密度を有意に低減した:
免疫エフェクター不在下でのCRTもしくはCRT/E7 DNAのこの抗腫瘍効果は抗脈管形成経路を介するものか否かを決定するために、様々なDNAワクチンで処置したヌードマウスの肺腫瘍における微小血管密度(MVD)を測定した。内皮細胞を、上記したように抗CD31抗体で染色した。全ての測定は、計数前には処置データを何も知らない1人の病理学者によって実施された。CRTもしくはCRT/E7 DNAワクチンのいずれかでワクチン接種したヌードマウス(機能的免疫系を欠く)は、野生型E7で処置したヌードマウスまたは対照ベクター群よりも肺腫瘍において非常に小さいMVDを示した(one-way ANOVA、P<0.001)。これらのデータより、CRT発現ワクチンもしくはCRT/E7融合タンパク質発現ワクチンで処置したマウスは腫瘍において抗脈管形成効果を導くことができたことが示された。
【0129】
実施例2
自己複製RNAウイルスは抗原特異的CTL応答の増強を誘導する
一実施形態において、本発明は本発明のキメラタンパク質(小胞体(ER)シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドドメインと少なくとも1種の抗原性ペプチドを含む第2ポリペプチドドメインとを含むタンパク質)を発現することができる自己複製RNAレプリコンを提供する。以下の実施例は、本発明の方法を用いて、これらの構築物がin vivoで抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を増強するのに効果的であることを示す研究を説明するものである。モデル系として、HPV-16 E7とマイコバクテリウム・ツベルクローシスHSP70とを含む融合タンパク質を、シンドビスウイルス自己複製RNAベクター、SINrep5においてin vivoで発現させた。このベクターによって誘導される抗原特異的免疫の効力を決定した。またこれらの結果は、in vivoでシンドビスウイルス自己複製RNAベクターにおいて発現させたERシャペロンポリペプチドと抗原性ペプチドとを含む融合タンパク質がin vivoで抗原特異的CTL応答を増強するのに効果的であることを示す。
【0130】
これらの実験により、E7/HSP70融合遺伝子を含むRNAレプリコンワクチンは野生型E7遺伝子を含むワクチンよりもワクチン接種したマウスにおいて有意に高いE7特異的T細胞媒介免疫応答を誘導したことが示された。さらに、in vitro研究により、E7/HSP70 RNAレプリコンでトランスフェクトしたアポトーシス細胞に由来するE7抗原は骨髄由来樹状細胞によって取り込まれ、野生型E7 RNAレプリコンでトランスフェクトしたアポトーシス細胞よりも効率的にMHCクラスI経路を介して提示されうることが示された。より重要なことには、E7へのHSP70の融合は、あまり効果的でないワクチンをE7発現腫瘍に対する有意な効力を有するワクチンへと変えたことであった。この抗腫瘍効果は、NK細胞およびCD8+T細胞に依存的であった。これらの結果より、抗原遺伝子へのHSP70の融合が自己複製RNAワクチンの効力を大いに増強したことが示された。これらの結果より、HSP70にE7を連結するシンドビスRNAワクチンはE7特異的CD8+T細胞およびNK細胞の拡大と活性化を劇的に増大し、CD4力を完全に回避し、E7発現腫瘍に対する強力な抗腫瘍免疫を生じたことが示された。
【0131】
さらに抗腫瘍効果を促進するシンドビスRNAワクチンの機構を調査した。シンドビスE7/HSP70 RNAワクチンは宿主細胞のアポトーシス死を誘導し、これらの細胞を貪食するように樹状細胞を促進することができ、E7特異的CD8+T細胞の拡大と活性化を劇的に増大したことを見出した。このCD8応答の増強により、E7発現腫瘍細胞系に対する有力な抗腫瘍免疫が生じた。
【0132】
HPV-16 E7をワクチン開発におけるモデル抗原として選択した。なぜならば、HPV、特にHPV-16は、上記で論じたようにほとんどの子宮頸癌と関連するからである。
【0133】
プラスミドDNA構築物と調製:
ベクターpcDNA3-HSP70、pcDNA3-E7およびpcDNA3-E7/HSP70を、Chen (2000)前掲に記載のように作製した。シンドビスウイルスRNAレプリコンベクター、SINrep5はBredenbeek,前掲に記載されている。ベクターSINrep5-HSP70、SINrep5-E7およびSINrep5-E7/HSP70を、pcDNA3-HSP70、pcDNA3-E7およびpcDNA3-E7/HSP70をそれぞれXba IおよびPme I制限酵素で切断することでマイコバクテリウム・ツベルクローシスHSP70、HPV-16 E7およびキメラE7/HSP70をコードするDNA断片を単離することによって作製した。消化産物を、ゲルを用いて単離した。さらにこれらの単離されたDNA断片をSINrep5ベクターの対応するXabIおよびPml I部位にクローニングして、SINrep5-HSP70、SINrep5-E7およびSINrep5-E7/HSP70構築物を誘導した。これらの構築物の精度を、DNA配列決定分析によって確認した。
【0134】
in vitro RNA調製:
SINrep5-HSP70、SINrep5-E7、SINrep5-E7/HSP70およびSINrep5に由来するRNA転写産物の生成を、Mandl (1998) Nature Med 4:1438-1440に記載のプロトコールを用いて実施した。SpeIは、SINrep5-HSP70、SINrep5-E7、SINrep5-E7/HSP70およびSINrep5に由来するRNAレプリコン合成のためのDNA鋳型を線状化するために用いられた。RNAワクチンをin vitroで転写し、販売業者のマニュアルに従って、標準的in vitro転写キット(Life Technologies, Rockville, MD)からのSP6 RNAポリメラーゼおよびキャッピング類似体を用いてキャッピングした。合成後、DNAをDNアーゼIを用いた消化によって除去した。合成されたRNAを定量化し、変性ホルムアルデヒドアガロースゲルを用いて分析した(Mandl (1998)前掲)。精製RNAをアリコートに分け、動物におけるワクチン接種とBHK21細胞系のトランスフェクションに用いた。転写産物のタンパク質発現を、エレクトロポレーションを用いたBHK21細胞へのRNAのトランスフェクションによって評価した。
【0135】
細胞系:
ベビーハムスター腎(BHK21)細胞をATCC(Rockville, MD)から入手し、5%のFBS、10%のトリプトースホスフェートブロス(tryptose phosphate broth)、2mM グルタミンおよび抗生物質を補足したGlasgow MEMで増殖させた。細胞を加湿した5%のCO2空気下中37℃で維持し、2日ごとに継代した。TC-1細胞の生産と維持は、Lin (1996) Cancer Res. 56:21-26に記載のように行われた。腫瘍チャレンジの日に、TC-1細胞をトリプシン処理によって回収し、1X Hanks緩衝塩溶液(HBSS)で2回洗浄し、最後に1X HBSS中に再懸濁して、指定された注射用濃度にした。
【0136】
SINrep5 RNAワクチンのE7タンパク質発現に対するELISA:
SINrep5-E7およびSINrep5-E7/HSP70 RNAからのE7タンパク質の発現を、間接的ELISA方法によって測定した。E7タンパク質量を、SINrep5-E7もしくはSINrep5-E7/HSP70でトランスフェクトしたBHK21細胞由来の細胞溶解物を用いて測定した。簡単に言えば、1000万個のBHK21細胞を、Liljestrom (1991) J. Virol. 65:4107-4113に記載のようにエレクトロポレーションを介してそれぞれ4μgのSINrep5、SINrep5-E7、SINrep5-HSP70もしくはSINrep5-E7/HSP70のRNA転写産物でトランスフェクトした。トランスフェクトしたBHK21細胞を、エレクトロポレーションの16〜20時間後に回収した。96マイクロウエルプレートを、様々なSINrep5 RNAでトランスフェクトしたBHK21細胞の溶解物で、最終容量100μlにおいてコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。細菌に由来するHPV-16 E7タンパク質を、陽性対照として用いた。次いで、ウエルを20%のウシ胎児血清を含有するPBSでブロッキングした。希釈した抗E7Ab(Zymed, San Francisco, CA)をELISAウエルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。0.05%のTween-20を含有するPBSで洗浄した後、プレートをペルオキシダーゼ-コンジュゲートウサギ抗マウスIgG抗体(Zymed, San Francisco, CA)の1/2000希釈物とともに、室温(RT)で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、1-Step(商標) Turbo TMB-ELISA(Pierce, Rockford, IL)で顕色し、1M H2SO4で停止させた。ELISAプレートを、標準的ELISAリーダーを用いて450nmで読み取った。次いで、細胞溶解物のE7タンパク質量を標準化したE7タンパク質と比較することによって計算し、決定した。
【0137】
マウス:
6〜8週齢のメスC57BL/6マウスをNational Cancer Institute(Frederick, MD)から購入し、Johns Hopkins Hospital(Baltimore, MD)の腫瘍学動物施設で飼育した。全ての動物手順は、認可されたプロトコールおよび実験室動物の適切な使用と注意についての推奨に従って実施された。
【0138】
RNAワクチン接種:
全てのSINrep5 RNAワクチンを、上記のようにin vitro転写を用いて生成した。RNA濃度を、260nmで測定する光学密度によって決定した。さらにRNA転写産物の完全性と量を変性ゲル電気泳動を用いてチェックした。マウスを、SINrep5-E7/HSP70(これは、0.1、1および10μgの量で投与された)を除いて様々なSINrep5 RNA 10μgで右後脚の筋内にワクチン接種した。
【0139】
E7抗体に対するELISA:
血清中の抗HPV 16 E7抗体を、Wu (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:11671-1165に記載のように直接的ELISAによって測定した。96マイクロウエルプレートを、5μg/mlの細菌に由来するHPV-16 E7タンパク質100μlでコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。次いで、ウエルを20%のウシ胎児血清を含有するPBSでブロッキングした。血清を、免疫感作後14日目にマウスから調製し、PBS中に連続希釈し、ELISAウエルに添加し、37℃で2時間インキュベートした。0.05%のTween-20を含有するPBSで洗浄した後、プレートをペルオキシダーゼ-コンジュゲートウサギ抗マウスIgG抗体(Zymed, San Francisco, CA)の1/2000希釈物とともにRTで1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、1-Step(商標) Turbo TMB-ELISA(Pierce, Rockford, IL)で顕色し、1M H2SO4で停止させた。ELISAプレートを、標準的ELISAリーダーを用いて450nmで読み取った。
【0140】
INF-γに対する酵素免疫測定法(ELISA):
脾細胞をワクチン接種の2週間後に回収し、MHCクラスIエピトープを含むE7ペプチド(aa49-57)(Feltkamp (1993) Eur. J. Immunol. 23:2242-2249)とともに、またはMHCクラスIIペプチドを含むE7ペプチド(aa30-67)(Tindle,前掲)とともに、24ウエル組織培養プレートにおいて、10%(vol/vol)のウシ胎児血清、50ユニット/mlのペニシリンおよびストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、2mM非必須アミノ酸を補足したRPMI 1640 2mlの全容量中で6日間培養した。上清を回収し、製造業者のプロトコールに従ってELISAキット(Endogen, Woburn, MA)を用いてIFN-γの存在についてアッセイした。
【0141】
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)アッセイ:
CTLアッセイを、Corr (1999) J. Immunol. 163:4721-4727に記載のように96ウエル丸底プレート中で実施した。細胞溶解を、乳酸脱水素酵素(LDH)の定量的測定によって測定した(Corr (1999) 前掲)。脾細胞をRNAワクチン接種の2週間後に回収し、E7ペプチド(aa49-57)とともに、24ウエル組織培養プレートにおいて、10%(vol/vol)のウシ胎児血清、50ユニット/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、2mM非必須アミノ酸を補足したRPMI 1640 2mlの全容量中で6日間培養し、エフェクター細胞とした。TC-1腫瘍細胞を標的細胞として用いた。TC-1細胞は、様々なエフェクター/標的(E/T)比率で脾細胞と混合した。37℃で5時間のインキュベーション後、培養培地50μlを回収し、CytoTox(商標)アッセイキット(Promega, Madison, WI)の製造業者のプロトコールに従って培養培地中のLDH量を評価した。溶解の割合を以下の等式から計算した:100 X (A-B)/(C-D)(式中、Aは実験のエフェクターシグナル値の読み取り値であり、Bはエフェクターの自発的なバックグラウンドシグナル値であり、Cは標的細胞からの最大シグナル値であり、Dは標的の自発的なバックグラウンドシグナル値である)。
【0142】
細胞質内サイトカイン染色およびフローサイトメトリー分析:
無傷のマウス群またはワクチン接種したマウス群由来の脾細胞を、E7特異的CD4+Tヘルパー細胞前駆体を検出するためにMHCクラスIIペプチドを含むE7ペプチド(aa30-67)(Tindle (1999) 前掲)とともにインキュベートした。E7ペプチドは、10μg/mlの濃度で20時間添加された。Golgistop(商標)(PharMingen, San Diego, CA)を培養物から細胞を回収する6時間前に添加した。次いで細胞をFACScan(商標)バッファー中で1回洗浄して、フィコエリトリン(PE)-コンジュゲートモノクローナルラット抗マウスCD4抗体(PharMingen, San Diego, CA)で染色した。細胞を、製造業者の使用説明書(PharMingen)に従ってCytofix/Cytoperm(商標)キットを用いて細胞内サイトカイン染色に供した。FITC-コンジュゲート抗IFN-γ抗体および免疫グロブリンアイソタイプ対照抗体(ラットIgG1)は、全てPharMingenから購入した。分析は、CELLQuest(商標)ソフトウエアを用いるBecton Dickinson FACScan(商標)(Becton Dickinson Immunocytometry System, Mountain View, CA)において行われた。
【0143】
in vivo腫瘍防御実験:
腫瘍防御実験において、マウス(1群あたり5匹)に異なる用量のSINrep5-HSP70、SINrep5-E7、SINrep5-E7/HSP70および空のSINrep5 RNAワクチンを筋内に(IM)免疫感作した。免疫感作の14日後に、マウスに、1 x 104 細胞/マウスのTC-1腫瘍細胞を尾静脈に静脈内(IV)注射した。3週間後、マウスを安楽死させた。各マウスにおける肺重量および肺結節数は、分からない様式にある実験者によって評価および計数された。
【0144】
in vivo抗体枯渇実験:
in vivo抗体枯渇の手順は、例えばLin (1996) 前掲;Wu (1995) J. Exp. Med. 182:1415-1421に既に記載されている。簡単に言えば、マウスを自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNA 1μgで筋内にワクチン接種し、尾静脈注射を介して1 x 104細胞/マウスのTC-1腫瘍細胞でチャレンジした。腫瘍チャレンジの1週間前に枯渇を開始させた。MAb GK1.5(Dialynas (1983) J. Immunol. 131:2445)をCD4枯渇に使用し、MAb 2.43(Sarmiento (1980) J. Immunol. 125:2665)をCD8枯渇に使用し、そしてMAb PK136(Koo (1986) J. Immunol. 137:3742)をNK1.1枯渇に使用した。フローサイトメトリー分析により、適切なリンパ球サブセットの>95%が枯渇され、他のサブセットは正常レベルであったことが明らかとなった。枯渇を腫瘍チャレンジ後21日目に終了した。
【0145】
細胞表面マーカー染色およびフローサイトメトリー分析:
無傷のマウス群またはワクチン接種したマウス群から取り出した脾細胞を直接細胞表面マーカー染色で、Ji (1999) Human Gene Therapy 10:2727-2740に記載のように処理した。次いで細胞をFACSCAN(商標)バッファー中で1回洗浄して、PE-コンジュゲートモノクローナルラット抗マウスNK1.1抗体およびFITC-コンジュゲートモノクローナルラット抗マウスCD3抗体(Pharmingen, San Diego, CA)で染色した。NK細胞集団は、抗NK1.1抗体で染色されるが、抗CD3抗体では染色されなかった。様々な自己複製RNAワクチンで免疫感作したマウス中のNK細胞の割合をフローサイトメトリーを用いて分析した。
【0146】
骨髄からの樹状細胞(DC)の生成と培養:
DCを、Lu (2000) J. Exp. Med. 191:541-550に記載のようにGM-CSFの存在下で骨髄細胞を培養することによって生成した。簡単に言えば、骨髄をマウスの脛骨から回収した。赤血球を溶解し、残りの細胞をナイロンメッシュを通過させることで小片の骨およびデブリを除去した。細胞を回収し、そして1 X 106細胞/mlを、5%のFCS、2mM β-メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン(Life Technologies, Rockville, MD)および100U/ml GM-CSF(PharMingen, San Diego, CA)を補足したRMPI 1640を含む24ウエルプレートに配置した。培地の3/2を2日ごとに入れ替え、非接着細胞を7日目に回収した。回収した細胞を、DCマーカーについてのフローサイトメトリー分析(FACS)によって特性付けた。
【0147】
E7特異的CD8+T細胞系の生成:
E7特異的CD8+細胞系の生成を、Sig/E7/LAMP-1ワクシニアの腹腔内(IP)注射によってメスC57BL/6(H-2b)マウスを免疫感作することによって行った。脾細胞を8日目に回収した。最初のin vitro刺激については、脾細胞を20U/ml濃度のIL-2および1μM E7ペプチド(アミノ酸49-57)で6日間パルスした。E7特異的CTL細胞系の増殖を、E7特異的CTLを含む1 x 106脾細胞と3 x 106の放射線照射した脾細胞とを混合し(2ml/ウエル)、それらに20U/ml濃度のIL-2および1μM E7ペプチド(アミノ酸49-57)をパルスすることによって、24ウエルプレート中で実施した。この方法を6日ごとに繰り返した。E7 CTL系の特異性を、CTLアッセイによって特性付けた。フローサイトメトリーを実施して、CD8マーカーの発現を示した。
【0148】
in vitro細胞死分析:
1000万個のBHK21細胞を、初期に述べたように4μgのSINrep5、SINrep5-E7、SINrep5-HSP70もしくはSINrep5-E7/HSP70 RNA転写産物でトランスフェクトした。無傷のBHK21細胞またはSINrep5 RNAなしでエレクトロポレーションを行ったBHK21細胞を対照として用いた。BHK21細胞を回収し、24時間ごとに72時間まで評価した。アポトーシスおよびネクローシスBHK21細胞の割合を、製造業者のプロトコールに従ってアネキシンVアポトーシス検出キット(PharMingen, San Diego, CA)を用いて分析し、次いでフローサイトメトリー分析を行った。
【0149】
アポトーシス細胞をパルスしたDCを標的細胞として用いたCTLアッセイ:
アポトーシス細胞をパルスしたDCを標的細胞として用いたCTLアッセイを、Albert (1998) Nature 392:86-89;Albert (1998) J. Exp. Med. 188:1359-1368に記載のプロトコールに類似し、改変を加えたプロトコールを用いて実施した。簡単に言えば、まず1000万個のBHK21細胞を、エレクトロポレーションを介して様々な自己複製SINrep5 RNA 4μgでトランスフェクトした。BHK21細胞をエレクトロポレーションの16〜20時間後に回収した。SINrep5-E7もしくはSINrep5-E7/HSP70 RNA転写産物でトランスフェクトしたBHK21細胞中のE7タンパク質発現レベルは、ELISAで測定した場合には類似していた。次いで3 x 105のトランスフェクトしたBHK21細胞を、1 x 105の骨髄由来DCとともに37℃で48時間同時インキュベートした。次いでこれらの調製したDCを標的細胞として用い、Db制限E7特異的CD8+T細胞をエフェクター細胞として用いた。CTLアッセイを、様々な比率(1:1、3:1、9:1および27:1)で一緒に混合したエフェクター細胞と標的細胞(1ウエルあたり1 x 104)を用いて最終容量200μl中で実施した。37℃で5時間のインキュベーション後、培養培地50μlを回収し、上記のように培養培地中のLDH量を評価した。トランスフェクトしていないBHK21細胞、トランスフェクトしたBHK21細胞単独、未処理のDC単独、およびCD8+T細胞系単独を陰性対照として含めた。
【0150】
自己複製RNA構築物の構築と特性付け:
プラスミドDNA構築物の生成と続く自己複製SINrep5 RNA構築物の調製は、上記のように実施された。SINrep5ベクターは、シンドビスウイルスRNAレプリカーゼをコードする遺伝子およびSP6プロモーターを含む(Bredenbeek (1993) 前掲)。SINrep5、SINrep5-HSP70、SINrep5-E7、SINrep5-E7/HSP70のDNA構築物の概略図を図9Aに示した。さらに、SP6 RNAポリメラーゼを用いてこれらのDNA構築物から誘導されたRNA転写産物の概略図を図9Bに示した。メチル化M7G「キャップ」はmRNAの5'末端に位置し、自己複製において機能する配列(レプリカーゼ)、目的の遺伝子(すなわち、MHCクラスIペプチドエピトープ、E7、HSP70、E7/HSP70など)およびポリアデニル化テイル(tail)(AAAA)が続く。ELISAを実施して、様々な自己複製RNA構築物でトランスフェクトしたBHK21細胞によるE7タンパク質の発現を示した。SINrep5-E7およびSINrep5-E7/HSP70は、類似した量のE7タンパク質を発現させた。
【0151】
自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAを用いたワクチン接種はE7特異的細胞傷害性免疫応答を増強する:
CD8+Tリンパ球は、抗腫瘍免疫の誘導において最も重要なエフェクターの1つである。SINrep5-E7/HSP70 RNAワクチンによって誘導されるE7特異的CD8+T細胞応答の量を決定するために、CTLアッセイを用いた。マウスを、筋内注射を介して様々なSINrep5自己複製RNAワクチンで免疫感作した。脾細胞および血清サンプルを14日後に回収した。細胞傷害性アッセイを実施するために、様々な自己複製SINrep5 RNAワクチンにより誘導された脾細胞を、MHCクラスIエピトープを含むE7ペプチド(aa49-57)とともに6日間培養し、エフェクター細胞とした。TC-1腫瘍細胞を標的細胞とした。様々なE/T(エフェクター/標的比率)でTC-1細胞を脾細胞と混合した。細胞溶解をLDHの定量的測定によって決定した。本明細書で示すCTLアッセイは、実施された2回のうちの1回の代表的実験からのものである。
【0152】
自己複製RNA E7/HSP70ワクチンは、他のRNAワクチンと比較して、有意により高い割合の特異的溶解を誘導した(*:P<0.001、one-way ANOVA)。自己複製SINrep5-E7/HSP70は、他のSINrep5 RNAワクチンでワクチン接種したマウスと比較して、有意により高い割合の特異的溶解を誘導した(P<0.001、one-way ANOVA)。特異的溶解を誘導するSINrep5-E7/HSP70 RNAの能力は、自己複製SINrep5-E7 RNAの約4倍であることが見出された(32.7% 対 8.8%、E/T比率45/1、P<0.001)。
【0153】
自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAを用いたワクチン接種はE7特異的CD8+T細胞を増強することで高いレベルのINF-γを分泌させる:
自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAによって誘導されるE7特異的CD8+T細胞の免疫学的応答の程度を決定するために、ELISAを用いて、脾細胞の培養上清中のINF-γ濃度を検出した。マウスを、筋内注射を介して様々な自己複製RNAワクチンで免疫感作した。脾細胞および血清サンプルを14日後に回収した。様々な自己複製RNAワクチンにより誘導された脾細胞を、in vitroでMHCクラスIエピトープを含むE7ペプチド(aa49-57)とともに(またはいずれのペプチドも含まずに)6日間培養した。また陰性対照として、ペプチドを含まずにELISAを実施した。培養培地中の上清を回収し、ELISAを用いてINF-γ濃度を検出した。
【0154】
E7ペプチド(aa49-57)で刺激した自己複製E7/HSP70 RNA群に由来する脾細胞は、他のRNAワクチンと比較して、最も高いINF-γ濃度を分泌した(P<0.001、one-way ANOVA)。またこれらの結果により、E7へのHSP70の融合はINF-γ分泌E7特異的CD8+T細胞活性を有意に増強することが示された。従って、CD8+T細胞をE7のMHCクラスIエピトープによって誘導することができた。注釈:E7ペプチド(aa49-57)で刺激した自己複製E7/HSP70 RNA群に由来する脾細胞は、他のRNAワクチンと比較して、最も高いINF-γ濃度を分泌した(*:P<0.001、one-way ANOVA)。
【0155】
自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAを用いたワクチン接種は有意なE7特異的CD4+T細胞媒介免疫応答を誘導しない:
これらの各RNAワクチンによるE7特異的CD4+T前駆体細胞の生成およびサイトカインプロフィールを調べるために、本発明者らは免疫感作したマウスから得た脾細胞におけるCD4表面マーカーおよび細胞内IFN-γに対する二重染色を実施し、次いでフローサイトメトリー分析を行った。脾細胞を、in vitroでE7ペプチド(aa30-67)とともに一晩培養し、CD4および細胞内IFN-γの双方について染色した。E7ペプチド(aa30-67)は、HPV-16のE7オープンリーディングフレームタンパク質中の主要なTヘルパーエピトープを含む(Tindle (1991)前掲)。IFN-γ分泌CD4+T細胞の割合を、フローサイトメトリーを用いて分析した。
【0156】
SINrep5-E7/HSP70 RNAでワクチン接種したマウスは、SINrep5-E7 RNA (15/3 x 105脾細胞 対 12/3 x 105脾細胞、p>0.05)または他のRNA群でワクチン接種したマウスと比較して、類似のCD4+IFN-γ+二重陽性細胞数を誘導した。フローサイトメトリー染色を用いて観察されたE7特異的CD4+IFN-γ+細胞数に、無傷のマウスまたは空のプラスミド、E7、HSP70もしくはE7/HSP70 RNAでワクチン接種したマウスの間に有意な差異はなかった。Sig/E7/LAMP-1 DNAでワクチン接種したマウス由来の脾細胞(Ji (1999)前掲)を、この研究の細胞内IFN-γ染色に対する陽性対照として用いた。
【0157】
ワクチン接種したマウスの血清中の抗HPV 16 E7抗体量を、ワクチン接種の2週間後に様々な希釈物(1:100、1:500、1:1000)で直接的酵素免疫測定法(ELISA)を用いて測定した。SINrep5-E7/HSP70は、他のRNAワクチン構築物によって誘導された力価と比較して、ワクチン接種したマウスの血清におけるより高い力価のE7特異的抗体を誘導しなかった。
【0158】
自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAを用いたワクチン接種はTC-1腫瘍の増殖に対してマウスを防御する:
自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAを用いたワクチン接種はE7発現腫瘍に対してマウスを防御するか否かを決定するために、in vivo腫瘍防御実験を、右後脚に筋内投与される異なる用量の自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAを用いて実施した。マウスを、10μgの自己複製SINrep5、 SINrep5-HSP70およびSINrep5-E7 RNAで同様にワクチン接種した。また0.1μg、1μgおよび10μgを含む異なる用量の自己複製SINrep5-E7/HSP70 RNAをマウスに注射した。ワクチン接種の1週間後に、マウスを、静脈内尾静脈注射を介して2 x 104 細胞/マウスの用量のTC-1腫瘍細胞でチャレンジした。マウスを1週間に2回モニターし、腫瘍チャレンジ後21日目に屠殺した。肺結節を、腫瘍チャレンジの21日後に評価した。肺をマウスから、空のSINrep5(10μg)、 SINrep5-HSP70(10μg)、SINrep5-E7(10μg)およびSINrep5-E7/HSP70 RNA(0.1μg、1μgもしくは10μg)を用いたワクチン接種の35日後に切断した。肺病巣の平均数を、HPV-16 E7発現腫瘍増殖を制御する上での様々な自己複製RNAワクチンの有効性の測定値として用いた。
【0159】
自己複製E7/HSP70 RNAワクチン(0.1μg、1μgおよび10μg)でワクチン接種したマウスの平均肺結節は、他のRNAワクチンでワクチン接種したマウスと比較して非常により小さかった(P<0.001、one-way ANOVA)。これらの結果より、自己複製RNA SINrep5-E7/HSP70ワクチンは0.1μgの低い用量でさえも静脈内腫瘍チャレンジからマウスを防御し、一方、インサートなしのSINrep5 10μg、SINrep5-E7 10μgまたはSINrep5-HSP70 10μg由来のRNAでワクチン接種したマウスはTC-1腫瘍チャレンジから多数の肺結節を生じたことが示された。
【0160】
CD8+T細胞およびNK細胞がSINrep5-E7/HSP70 RNAワクチンを用いたワクチン接種によって誘導される抗腫瘍効果に重要である:
E7発現腫瘍細胞に対する防御に重要なリンパ球タイプを決定するために、(CD8+T細胞およびNK細胞の)in vivo抗体枯渇実験を実施した(自己複製RNAワクチンで免疫感作したマウスの脾細胞に由来するNK細胞の割合は免疫感作なしのマウスよりも高く、様々な自己複製RNAワクチン間でNK細胞の割合に有意な差異はなかった)。抗体枯渇を腫瘍チャレンジの1週間前に開始し、腫瘍チャレンジ後21日目に終了した。
【0161】
CD8+T細胞およびNK1.1細胞を枯渇したマウスに由来する平均肺結節は、枯渇していない群のマウスよりも有意に高かった。さらに、NK1.1細胞の枯渇により、CD8+枯渇マウスよりも腫瘍肺結節の平均数が高かった。
【0162】
比較すると、CD4+T細胞を枯渇したマウスに由来する平均肺結節は、枯渇していないマウスから得られた結果と似ており、このことによりCD4+T細胞がこの効果の発生に重要ではなかったことが示された。これらの結果は、CD8+T細胞がSINrep5-E7/HSP70 RNAワクチンによって誘導される抗原特異的抗腫瘍免疫に必須であり、E7/HSP70 RNAワクチンに限定されないが、NK細胞も同様に重要な役割を果たすことを示唆する。
【0163】
またNK細胞効果はE7/HSP70ワクチンに限定されたものか否か、またはそれは用いるベクターの結果であるかを調査した。CD3(-),NK1.1(+)細胞のフローサイトメトリー分析により、それらの存在が無傷のマウスに対して全ての構築物(E7/HSP70、E7、HSP70および対照プラスミド)において著しく増大したことが明らかになり、このことにより、NK細胞はE7/HSP70ワクチンに限定されない抗腫瘍効果の重要なエフェクターであったことが示された。
【0164】
自己複製RNAワクチンはアポトーシスを誘導する:
様々なプラスミドSINrep5 RNAワクチンからin vitroで転写されたRNAを、エレクトロポレーションを介してBHK21細胞にトランスフェクトした。RNAなしでエレクトロポレーションを行ったBHK21細胞および未処理BHK21細胞を対照として用いた。アポトーシスおよびネクローシスBHK21細胞の割合を、アネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウム(PI)によって染色し、次いでフローサイトメトリー分析を行った。
【0165】
SINrep5 RNAワクチンでトランスフェクトした場合には、24〜72時間後にはアポトーシスBHK21細胞の割合は統計的下降を示した(SINrep5-E7/HSP70を例にとると、24時間で70.3±3.6%、48時間で49.3±4.2%、72時間で18.0±3.1%、P<0.001、one-way ANOVA)。SINrep5 RNAワクチンでトランスフェクトしたBHK21細胞は、他の2つの対照群と比較すると24時間、48時間または72時間後にはより高い割合を誘導した。様々なSINrep5 RNAワクチンのアポトーシス割合には統計的差異を見出すことができなかった。
【0166】
SINrep5-E7/HSP70 RNAでトランスフェクトした細胞をパルスした樹状細胞におけるMHCクラスI経路を介したE7の提示の増強:
in vivoでE7特異的CD8+T細胞免疫応答を増強する潜在的な機構は、様々なE7構築物を発現する細胞からのアポトーシス小体の取込みによるMHCクラスI経路を介したE7の提示であり、「クロスプライミング」とも呼ばれる。クロスプライミング実験は、様々な自己複製RNAでトランスフェクトしたBHK21細胞からのアポトーシス小体をパルスした樹状細胞におけるE7のMHCクラスI提示を特性付けるために実施された。既に述べたように、BHK21細胞は安定した高いトランスフェクション効率、および異なるE7含有自己複製RNAでトランスフェクトした細胞間で類似したE7発現を有することが示されている。トランスフェクトしたBHK21細胞を、骨髄由来DCとともに同時インキュベートした。DCを標的細胞として用い、一方、E7特異的CD8+T細胞はエフェクター細胞として機能した。様々なE/T比率でのCTLアッセイを実施した。
【0167】
SINrep5-E7/HSP70 RNAでトランスフェクトしたBHK21細胞とともに同時インキュベートしたDC標的細胞は、SINrep5-E7 RNAでトランスフェクトしたBHK21細胞とともに同時インキュベートしたDCと比較して有意により高い割合の特異的溶解を誘導した(P<0.001)。これらの結果は、E7/HSP70融合タンパク質を含有するアポトーシス小体をパルスした樹状細胞は、野生型E7タンパク質を含有するアポトーシス小体をパルスした樹状細胞よりも効率的にMHCクラスI経路を介してE7抗原を提示したことを示唆した。従って、E7へのHSP70の融合はE7特異的CD8+T細胞免疫応答を増強し;そして、本発明はいずれの特定の機構によっても限定されないが、この増強は「クロスプライミング」を介するものであると考えられた。
【0168】
多数の本発明の実施形態が記載されている。それにもかかわらず、様々な改変が本発明の精神と範囲から逸脱することなく行われうることが理解されるだろう。従って、他の実施形態は以下の特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】図1は、実施例1で論じるように、カルレティキュリン(CRT)、HPVポリペプチドE7および本発明の融合タンパク質カルレティキュリン/E7(CRT/E7)をコードする組換えDNA構築物の概略図を示す。
【図2】図2Aは、実施例1で論じるように、陰性対照、ならびにCRTを単独で発現するDNA、E7を単独で発現するDNAおよび本発明のCRT/E7融合タンパク質を発現するDNAでワクチン接種したマウス由来の脾細胞を、CD8およびINF-γに対する抗体で染色したFACS(フローサイトメトリー)分析を要約する二次元ヒストグラムを示す。図2Bは、ヒストグラムデータの要約図を示す。
【図3】図3は、実施例1で論じるように、構築物単独、およびCRTを単独でコードする構築物、E7を単独でコードする構築物、CRT/E7融合タンパク質をコードする構築物、ならびにCRTとE7を個別に発現する2種の構築物の混合物を用いた最後のワクチン接種の2週間後に直接的ELISAによって測定した、ワクチン接種したマウスの血清中の抗HPV16 E7抗体量を示すデータの要約図を示す。
【図4】図4は、実施例1で論じるように、マウスを様々なDNAワクチン構築物でワクチン接種し、その後にE7発現腫瘍でチャレンジした、in vivo腫瘍防御実験データの要約図を示す。
【図5】図5は、実施例1で論じるように、まずマウスに腫瘍細胞を注射し、次いで様々な裸のDNA構築物でワクチン接種し(ワクチン接種1日目の後の1週間の追加免疫を含む);その後に肺結節の平均数を評価した実験からのデータの要約図を示す。データは、腫瘍細胞チャレンジ後の日数との相関関係として肺転移性腫瘍結節の平均数+SEMとして表している。
【図6】図6は、実施例1で論じるように、様々な裸のDNA構築物でトランスフェクトした293DbKb標的細胞に対するエフェクター細胞としてDb制限E7特異的CD8+T細胞を用いたCTLアッセイのデータの要約図を示す。
【図7】図7は、様々な裸のDNA構築物でトランスフェクトした293DbKb細胞の細胞溶解物をパルスした樹状細胞におけるE7のMHCクラスI提示を特性付けるためのクロスプライミング実験からのデータの要約図を示す。E7特異的CD8+T細胞は、エフェクター細胞として機能した;骨髄由来のDCに、トランスフェクトした293DbKb細胞の溶解物の連続希釈物をパルスした(50 mg/ml、10 mg/ml、2 mg/mlおよび0.4 mg/ml);実施例1で論じるように、E7特異的CD8+T細胞がエフェクター細胞として機能する一方、DCは標的細胞として使用された。
【図8】図8は、いずれの免疫エフェクター細胞も含まない肺への(すなわち、ヌードマウスへの)TC-1腫瘍転移処置における、E7もしくはCRTポリペプチド単独と比較したCRT/E7融合ポリペプチドの役割を評価するために設計した実験からのデータの要約図を示す。まずヌードマウスを腫瘍細胞でチャレンジし、2日後にTC-1腫瘍細胞でチャレンジした;その後に、マウスに様々な裸のDNA構築物をワクチン接種した。9日目および16日目に、これらのマウスを最初のワクチン接種と同じ処方計画で追加免疫した。実施例1で論じるように、マウスを21日目に屠殺し、各マウスの肺結節を評価および計数した。
【図9】図9Aは、SINrep5、SINrep5-HSP70、SINrep5-E7、SINrep5-E7/HSP70のDNA構築物の概略図を示す。図9Bは、実施例2に詳細に説明するように、SP6 RNAポリメラーゼを用いてこれらのDNA構築物から誘導されたRNA転写産物の概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクチン組成物として有用な融合ポリペプチドをコードする核酸分子であって、
(a)小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチドをコードする第1核酸配列;
(b)場合によっては、第1核酸配列とインフレームで融合された、リンカーペプチドをコードするリンカー核酸配列;および
(c)前記第1核酸配列とインフレームで連結されるか、または前記リンカー核酸配列とインフレームで連結され、かつ抗原性ポリペプチドもしくはペプチドをコードする第2核酸配列、
を含む前記核酸分子。
【請求項2】
抗原性ペプチドがMHCクラスIタンパク質に結合するエピトープを含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記エピトープが約8アミノ酸残基〜約11アミノ酸残基の長さである、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
シャペロンポリペプチドがカルレティキュリンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記カルレティキュリンがヒトカルレティキュリンである、請求項5に記載の核酸分子。
【請求項6】
カルレティキュリンが配列番号1の配列を含む、請求項5に記載の核酸分子。
【請求項7】
カルレティキュリンポリペプチドが本質的に配列番号1の第1残基付近〜第180残基付近の配列からなる、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
カルレティキュリンポリペプチドが本質的に配列番号1の第181残基付近〜第417残基付近の配列からなる、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項9】
シャペロンポリペプチドが、
(a)カルネキシンポリペプチドもしくはその等価物;
(b)ER60ポリペプチドもしくはその等価物;
(c)タパシンポリペプチドもしくはその等価物;または
(d)GRP94/GP96ポリペプチド、GRP94ポリペプチドもしくはその等価物、
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項10】
抗原が病原性生物、細胞もしくはウイルスに存在するか、または病原性生物、細胞もしくはウイルスのエピトープと交差反応性を有する抗原である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項11】
ウイルスがヒトパピローマウイルスである、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項12】
抗原がHPV-16のE7ポリペプチドまたはその抗原性断片である、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項13】
HPV-16 E7ポリペプチドが非腫瘍形成性である、請求項12に記載の核酸分子。
【請求項14】
病原性生物が細菌である、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項15】
病原性細胞が腫瘍細胞である、請求項10に記載の核酸分子。
【請求項16】
抗原が腫瘍特異的抗原もしくは腫瘍関連抗原またはそれらの抗原性エピトープである、請求項15に記載の核酸分子。
【請求項17】
抗原がHER-2/neuタンパク質またはそのペプチドを含む、請求項16に記載の核酸分子。
【請求項18】
プロモーターに機能的に連結された、請求項1〜17のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項19】
プロモーターが抗原提示細胞(APC)において発現されるプロモーターである、請求項18に記載の核酸分子。
【請求項20】
APCが樹状細胞である、請求項21に記載の核酸分子。
【請求項21】
(a)プロモーター;および
(b)場合によっては、真核細胞において核酸の発現を調節する付加的調節配列、
に機能的に連結された請求項1〜17のいずれか1項に記載の核酸分子を含む発現ベクターもしくはカセット。
【請求項22】
ウイルスベクターまたはプラスミドである、請求項21に記載の発現ベクターもしくはカセット。
【請求項23】
自己複製RNAレプリコンである、請求項21に記載の発現ベクターもしくはカセット。
【請求項24】
自己複製RNAレプリコンがシンドビスウイルスの自己複製RNAレプリコンである、請求項23に記載の発現ベクターもしくはカセット。
【請求項25】
レプリコンがSINrep5である、請求項24に記載の発現ベクターもしくはカセット。
【請求項26】
シャペロンポリペプチドがカルレティキュリンポリペプチドを含む、請求項21〜25のいずれか1項に記載の発現ベクターもしくはカセット。
【請求項27】
シャペロンポリペプチドがタパシン、ER60、ERP94もしくはカルネキシンポリペプチドまたはそれらの等価物のうちのいずれか1種以上を含む、請求項6に記載の発現ベクターもしくはカセット。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の核酸または発現カセットもしくはベクターを含むように改変された細胞。
【請求項29】
前記核酸分子を発現する、請求項28に記載の細胞。
【請求項30】
APCである、請求項28または29に記載の細胞。
【請求項31】
APCが樹状細胞、ケラチノサイト、マクロファージ、単球、Bリンパ球、小膠細胞、星状細胞または活性化内皮細胞である、請求項30に記載の細胞。
【請求項32】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の核酸または発現カセットもしくはベクターを含む粒子。
【請求項33】
パーティクルボンバードメントによる細胞もしくは動物への導入に好適な物質を含む、請求項32に記載の粒子。
【請求項34】
物質が金である、請求項33に記載の粒子。
【請求項35】
(a)小胞体シャペロンポリペプチドを含む第1ポリペプチド;および
(b)抗原性ペプチドもしくはポリペプチドを含む第2ポリペプチド、
を含む融合もしくはキメラポリペプチド。
【請求項36】
抗原性ペプチドもしくはポリペプチドがMHCクラスIタンパク質に結合し、かつMHCクラスIタンパク質によって細胞表面上に提示されるエピトープを含む、請求項35に記載の融合もしくはキメラポリペプチド。
【請求項37】
シャペロンポリペプチドおよび抗原性ポリペプチドもしくはペプチドが化学的リンカーによって連結されている、請求項35または36に記載の融合もしくはキメラポリペプチド。
【請求項38】
リンカーが柔軟性のある化学的リンカーである、請求項37に記載の融合もしくはキメラポリペプチド。
【請求項39】
請求項35または36に記載の融合ポリペプチド。
【請求項40】
第1ポリペプチドが第2ポリペプチドに対してN末端側にある、請求項39に記載の融合ポリペプチド。
【請求項41】
第2ポリペプチドが第1ポリペプチドに対してN末端側にある、請求項39に記載の融合ポリペプチド。
【請求項42】
シャペロンポリペプチドがカルレティキュリンポリペプチドまたはその相同体を含む、請求項35〜41のいずれか1項に記載の融合もしくはキメラポリペプチド。
【請求項43】
シャペロンポリペプチドがタパシン、ER60、ERP94もしくはカルネキシンポリペプチドまたはそれらの等価物のうちのいずれか1種以上を含む、請求項35〜41のいずれか1項に記載の融合もしくはキメラポリペプチド。
【請求項44】
抗原特異的免疫応答を誘導または増強することができる医薬組成物であって、
(a)(b)の組成物と組み合わせる製薬上および免疫学上許容される賦形剤;
(b) (i)請求項1〜37のいずれか1項に記載の核酸分子または発現ベクターもしくはカセット;
(ii)請求項28〜31のいずれか1項に記載の細胞;
(iii)請求項32〜34のいずれか1項に記載の粒子;
(iv)請求項35〜43のいずれか1項に記載の融合もしくはキメラポリペプチド;および
(v)(i)〜(iv)の任意の組合せ、
からなる群から選択される組成物、
を含む前記医薬組成物。
【請求項45】
シャペロンポリペプチドがカルレティキュリンポリペプチドを含む、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
小胞体シャペロンポリペプチドがタパシン、ER60またはカルネキシンポリペプチドを含む、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項47】
被験者において抗原特異的免疫応答を誘導または増強する方法であって、該被験者に請求項44〜46のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を投与し、それによって前記応答を誘導または増強することを含む、前記方法。
【請求項48】
応答が少なくとも部分的にはCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって媒介される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
応答が少なくとも部分的には抗体によって媒介される、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
細胞または被験者において抗原特異的免疫応答を誘導または増強する方法であって、前記細胞または被験者に請求項44〜46のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を投与し、それによって前記応答を誘導または増強することを含む、前記方法。
【請求項51】
組成物が前記細胞にex vivoで投与される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記細胞がAPCを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記APCが樹状細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
APCもしくは前記樹状細胞がヒト起源である、請求項53または54に記載の方法。
【請求項55】
APCが生きた被験者から単離される、請求項52〜54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
組成物がex vivoで投与された前記細胞を、(i)組織適合性の被験者または(ii)前記細胞が採取された被験者に投与する工程をさらに含む、請求項51〜56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記細胞がヒト細胞であり、および前記被験者がヒトである、請求項50〜57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記被験者がヒトである、請求項47〜49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記投与が筋内、皮内または皮下経路によるものである、請求項47〜50または56〜58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
組成物が前記核酸分子、発現ベクターもしくはカセット、または粒子を含み、かつ前記投与がバイオリスティックインジェクションによるものである、請求項47〜58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
投与が腫瘍内投与または腫瘍周辺投与である、請求項47〜50、56〜58または60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
被験者において選択した抗原に特異的なCD8+CTLの数または溶解活性を増大する方法であって、
(i)前記核酸分子、発現ベクターもしくはカセット、細胞、粒子または融合もしくはキメラポリペプチドが前記選択した抗原を含み、そして
(ii) 前記選択した抗原がMHCクラスIタンパク質に結合し、かつMHCクラスIタンパク質によって細胞表面上に提示されるエピトープを含む、
請求項44〜46のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を前記被験者に投与し、それによって前記CTLの数または活性を増大することを含む、前記方法。
【請求項63】
被験者において腫瘍の増殖を阻害するかまたは腫瘍の再生を予防する方法であって、前記核酸分子、発現ベクターもしくはカセット、細胞、粒子または融合もしくはキメラポリペプチドが前記被験者の前記腫瘍に存在する1種以上の腫瘍関連エピトープまたは腫瘍特異的エピトープを含む請求項44〜46のいずれか1項に記載の医薬組成物の有効量を前記被験者に投与し、それによって前記増殖を阻害するかまたは前記再生を予防することを含む、前記方法。
【請求項64】
前記投与が腫瘍内投与または腫瘍周辺投与である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記医薬組成物の投与の前に、共にまたは後に前記被験者に抗脈管形成活性を有する第2組成物を投与することをさらに含む、請求項63または64に記載の方法。
【請求項66】
前記抗脈管形成組成物がアンジオスタチン、エンドスタチンまたはTIMP-2である、請求項78に記載の方法。
【請求項67】
前記被験者を放射線療法または化学療法で治療することをさらに含む、請求項63〜66のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−17883(P2009−17883A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197856(P2008−197856)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【分割の表示】特願2002−518253(P2002−518253)の分割
【原出願日】平成13年8月2日(2001.8.2)
【出願人】(596102469)ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】JOHNS HOPKINS UNIVERSITY
【Fターム(参考)】