説明

抗原エピトープの同定

本発明は、蛋白抗原のT細胞エピトープの同定および/または検出方法、蛋白抗原に対するペプチドワクチンの製造方法、受容体-リガンド複合体および/またはその成分の品質管理方法、少なくとも1つの固定化受容体ユニットまたは固定化受容体を有するナノ粒子の製造方法、受容体-リガンド固定化複合体、特にペプチド提示MHC分子を有するナノ粒子の製造方法、特定のCD4+-TまたはCD8+-Tリンパ球の末梢血単核細胞からの富化および/または分離方法、in vitroでのCD8+-Tリンパ球反応の初回抗原刺激方法、固定化受容体ユニット、特にMHC分子の固定鎖を有するナノ粒子、固定化受容体、特に固定化MHC分子を有するナノ粒子、受容体-リガンド固定化複合体、特にペプチド提示MHC分子を有するナノ粒子、ペプチドワクチン、蛋白抗原のT細胞エピトープの同定および/または検出用キット、ならびに、T細胞エピトープの同定および/または検出、ペプチドワクチンの製造、特異なTリンパ球の富化および/または分離、また、in vitroでのCD8+-Tリンパ球反応の初回抗原刺激を目的としたナノ粒子の適用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白抗原のT細胞エピトープの同定および/または検出方法、蛋白抗原に対するペプチドワクチンの製造方法、受容体-リガンド複合体および/またはその成分の品質管理方法、少なくとも1つの固定化受容体ユニットまたは固定化受容体を有するナノ粒子の製造方法、固定化したペプチド提示MHC分子を有するナノ粒子の製造方法、特異なCD4+-TまたはCD8+-Tリンパ球の末梢血単核細胞からの富化および/または分離方法、in vitroでのCD4+-TまたはCD8+-Tリンパ球反応の初回抗原刺激および/または再刺激方法、固定化受容体ユニット、特にMHC分子の固定鎖を有するナノ粒子、固定化受容体、特に固定化MHC分子を有するナノ粒子、固定化したペプチド提示MHC受容体を有するナノ粒子、ペプチドワクチン、蛋白抗原のT細胞エピトープの同定および/または検出用キット、ならびに、T細胞エピトープの同定および/または検出、ペプチドワクチンの製造、特異なTリンパ球の富化および/または単離、また、in vitroでのCD4+-TまたはCD8+-Tリンパ球反応の初回抗原刺激を目的としたナノ粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
動物やヒトの生体の健康状態は、外界からの病原体からどのくらい生体が身を守れるか、あるいは、変質した生体物質をどのくらい生体が認識し、除去できるかに、とりわけ依存している。このような機能を発揮するヒトや動物の生体の免疫系は、2つの機能領域、即ち先天性および後天性の免疫系に区分される。先天性免疫は感染に対する第1の防御線であり、大部分の潜在的病原体は、例えば認め得る感染を引き起こす前に無害化される。後天性免疫は、侵入した生物体の抗原と称する表面構造に反応する。後天性免疫反応には2種、即ち体液性免疫反応および細胞性免疫反応がある。体液性免疫反応では、体液中に存在する抗体が抗原に結合し、それを破壊する。細胞性免疫反応では、他の細胞を破壊することのできるT細胞が活性化される。例えば、ある疾患に付随する蛋白が細胞中に存在すると、蛋白分解作用によって細胞内でペプチド断片に分解される。次いで、特異な細胞蛋白が上記蛋白の生成断片即ち抗原に結合し、それを細胞表面に輸送し、そこで該抗原は分子防御機構、特に生体のT細胞に提示される。
【0003】
該ペプチドを細胞表面に輸送し、そこで提示する分子は、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)の蛋白と呼ばれる。MHC蛋白の重要性は、特に、T細胞が「自己」抗原と「非自己」抗原とを識別できるようにすることにある。MHC蛋白は、クラスIおよびクラスIIのMHC蛋白に区分される。両MHCクラスの蛋白が構造的に近似していても、その機能はかなり明瞭に識別される。MHCクラスIの蛋白は、ほぼ全ての体細胞の表面上に存在している。MHCクラスIの蛋白は、通常は生体固有の蛋白に由来する抗原を細胞傷害性Tリンパ球(CTL)に提示する。クラスIIのMHC蛋白は、Bリンパ球、マクロファージおよび他の抗原提示細胞上のみに存在する。それは主に、外来であって生体固有ではない抗原の起源に由来するペプチドを、ヘルパーT(Th)細胞に提示する。
【0004】
クラスIのMHC分子は、生体内のほぼ全ての細胞型の表面上に構成的に形成される。クラスIのMHC蛋白と結合するペプチドは、通常は健常な生体宿主自体に産生する細胞質性蛋白であって、外来細胞にも変異細胞にも関係のない蛋白に由来する。このようなクラスIのMHC蛋白を介して、免疫反応が刺激されることは通常ない。このようなクラスIの「自己」ペプチド提示MHC分子を認識する細胞傷害性Tリンパ球は、そのため胸腺中に輸送されるか、胸腺から遊離した後、生体に許容される。MHC分子は、結合している「非自己」ペプチドが細胞傷害性Tリンパ球と結合するとき以外は、免疫反応を刺激することができない。大部分の細胞傷害性Tリンパ球は、T細胞受容体(TCR)とCD8分子の両方をその表面上に有している。T細胞受容体は、MHCクラスIの分子との複合体の形態を取るときにのみ、非自己ペプチドを認識し、それに結合することができる。T細胞受容体がペプチド-MHC複合体と結合できるためには、2つの条件を満たさなければならない。第1に、T細胞受容体は、ペプチド-MHC複合体との結合を可能とする構造を示さなければならない。第2に、CD8分子が、MHCクラスI分子のα3ドメインに結合しなければならない。各細胞傷害性Tリンパ球は、特異なMHC-ペプチド複合体のみと結合できる特有のT細胞受容体を発現する。
【0005】
該ペプチドは、細胞表面上に提示される前に、小胞体内での競合的な親和性結合によってMHCクラスIの分子と結合する。個々のペプチドの親和性は、その場合、そのアミノ酸配列およびアミノ酸配列内の決まった位置における特異な結合力の存在と直接関係している。このような「非自己」ペプチドの配列を知れば、例えばペプチドワクチンを使用して、例えば、罹患細胞に対する免疫系を操作することが可能になる。しかし、このような「非自己」ペプチドの直接的分析は、幾つかの要因のために困難である。例えば、当該エピトープ、即ち当該ペプチド配列は、大抵の場合十分に発現していない。その上、MHC分子が高度の多型を有することが一層困難にしている。したがって、個体は、MHCクラスIの分子においてのみでも6種までの多型を有することができ、各場合で部分的に非常に異なったペプチド配列が結合している。
【0006】
クラスIまたはIIのMHC分子によりペプチド提示複合体の形態に結合し、次いでこの形態で細胞傷害性Tリンパ球のT細胞受容体により認識される、潜在的なT細胞エピトープ、したがってペプチド配列は、コンピュータアルゴリズムを適用して予測することができる。即ち、このような分析の結果、あるペプチドが特定のMHC分子、例えばHLA表現型に結合する確率が明示される。現在、特に2つのプログラム、即ちSYFPEITHI (Rammensee et al., Immunogenetics, 50 (1999), 213-219)、およびHLA_BIND (Parker et al., J. Immunol., 152 (1994), 163-175)が適用されている。上記のように決定した、クラスIのMHC分子と潜在的に結合し得るペプチド配列は、次いで、実際の結合力に関してin vitroで分析しなければならない。しかし、同時にスクリーニングし、分析できるペプチド数はごく少数に過ぎないので、そのために必要な方法の有効性は著しく制限されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の基礎をなす技術的課題は、潜在的なT細胞エピトープの改良スクリーニング法であって、多数のペプチド配列、例えば、コンピュータアルゴリズムを適用して、特定のMHC分子に対する潜在的な結合相手として既に配列決定したような配列を、特定のMHC分子に対するその結合性に関して同時かつ迅速に分析することを可能とする改良法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、蛋白抗原のT細胞エピトープをin vitroで同定および/または検出する方法であって、抗原のペプチド断片の集団が、とりわけかつ場合により、第1の受容体ユニットと共に受容体を形成できる第2の受容体ユニットの存在下で、第1の固定化受容体ユニットに競合的に結合する状態にあり、該受容体に親和性の1つまたは複数の結合ペプチド断片が、少なくとも第1の受容体ユニット、好ましくは両受容体ユニットに結合し、続いて、1つまたは複数の結合ペプチド断片を単離し、分析する方法であって、
a)少なくとも1つの第1の官能基を有する第1の受容体ユニットを、その表面が、第1の官能基に結合性の少なくとも1つの第2の官能基を有するナノ粒子に固定化すること、
b)蛋白抗原の異なる配列領域を含む、蛋白抗原のペプチド断片の集団を製造または提供すること、
c)場合により、好ましくはクラスIIのMHC分子において、かつ第2の受容体ユニットの存在下で、ナノ粒子に固定化した第1の受容体ユニットにペプチド断片集団を競合的に結合させることであって、第1の受容体ユニットに、または特に、存在する場合は第2の受容体ユニットと共に両受容体ユニットに親和性の1つまたは複数のペプチド断片が、第1の受容体ユニットに結合し、ナノ粒子に固定化した受容体-ペプチド断片複合体を得ること、ならびに
d)固定化した受容体-ペプチド断片複合体、および/または1つまたは複数の結合ペプチド断片を分析すること
を含む方法を提供することにより、その基礎をなす技術的課題を解決する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、例えばクラスIのMHC分子を有する細胞における、実際のin vivoの状態にできる限り対応した条件下で、受容体/リガンド複合体、特に受容体-ペプチド断片複合体をin vitroで産生する方法の提供によっても、その基礎をなす技術的課題を解決する。その際本発明によれば、例えば蛋白抗原の全アミノ酸配列を表すペプチド断片の集団が産生され、次いで、ペプチド断片集団全体が、あるステップで、固定化受容体、特にMHC複合体、または固定化受容体ユニット、すなわちMHC複合体の鎖に結合する。該受容体がMHCクラスIの蛋白である場合、固定化した第1の受容体ユニット、特にα鎖への1つまたは複数のペプチド断片の結合で十分であり、第2の受容体ユニットが存在する必要はない。とはいえ、この第2のユニットが存在できることは言うまでもない。特に該受容体がMHCクラスIIの蛋白である場合、これが有効である。受容体、前記一方の受容体ユニットおよび/または両方の受容体ユニットに親和性を有する、1つまたは複数の該ペプチド断片は、次いで固定化形態の受容体-リガンド複合体、または受容体-ペプチド断片複合体を実際に形成できる。本発明によればナノ粒子への固定化が続いて起こるので、生成した受容体-リガンド複合体は、複合体中に結合したペプチド断片と比較して、受容体に対する親和性が全くないか、はるかに小さいこともあるため、受容体-リガンド複合体を形成できず、したがって第1または両方の受容体ユニットに親和性を示さないペプチド断片から、容易に分離できる。本発明によれば、親和性を有する1つまたは複数の該ペプチド断片は、ペプチド断片の集団から分離し、分析することができる。本発明によれば、このペプチド断片は、結合形態で、即ち受容体-リガンド複合体として、例えばMALDI質量分析を適用して分析することができる。しかし本発明によれば、複合体中に結合したペプチド断片は、固定化複合体から分離し、別個に分析すること、例えばその配列を決定することもできる。本発明の方法のために用意するペプチド断片集団は、本発明による同定を可能とするのに十分な量で個々・別々のペプチド断片を含むこともある。
【0010】
本発明に関しては、「T細胞エピトープ」とは、クラスIまたはIIのMHC分子によりペプチド提示MHC分子またはMHC複合体の形態で結合され、次いでこの形態で細胞傷害性Tリンパ球またはヘルパーT細胞により認識され、結合されることのできるペプチド配列を意味する。
【0011】
本発明に関しては、「受容体」とは、リガンドを結合できる生体の分子または分子群を意味する。受容体は、例えば、細胞、細胞集団または生体における情報伝達をすることができる。受容体は、少なくとも1つの受容体ユニット、好ましくは2つの受容体ユニットで構成され、その各受容体ユニットが1つの蛋白分子、特に1つの糖蛋白分子で構成することができる。受容体は、相補的な構造をリガンドに示し、結合相手としてそのリガンドと複合することができる。情報伝達は、細胞表面でリガンドが複合した後の受容体のコンホメーションの変化により、特に起こる。本発明によれば、受容体とは、リガンド、特に適当な長さのペプチドまたはペプチド断片と受容体-リガンド複合体を形成できる、MHCクラスIおよびIIの蛋白を特に意味する。
【0012】
「リガンド」とは、受容体に相補的な構造を示し、それと複合体を形成できる分子を意味する。本発明によれば、リガンドとは、適当な長さとそのアミノ酸配列中に適当な結合力とを有するペプチドまたはペプチド断片を特に意味し、それにより、そのペプチドまたはペプチド断片がMHCクラスIまたはMHCクラスIIの蛋白と複合体を形成できる。
【0013】
「受容体-リガンド複合体」とは、本発明に関しては、「受容体-ペプチド複合体」または「受容体-ペプチド断片複合体」、特にクラスIまたはクラスIIのペプチド提示もしくはペプチド断片提示MHC分子を意味する。
【0014】
本発明に関しては、「主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)の蛋白もしくは分子」、「MHC分子」または「MHC蛋白」とは、蛋白抗原の蛋白分解的開裂で生じ、潜在的T細胞エピトープを表すペプチドを結合し、細胞表面に輸送し、そこで特定の細胞、特に細胞傷害性Tリンパ球またはヘルパーT細胞に対して提示できる、蛋白を特に意味する。ゲノム中の主要組織適合性遺伝子複合体は、発現したその遺伝子産物を、生体固有および/または異物の抗原を認識し、それにより免疫事象を調節することを主たる目的として、細胞表面上に存在させる、遺伝子領域を含んでいる。主要組織適合性遺伝子複合体は、異なる蛋白、即ちMHCクラスIの分子およびMHCクラスIIの分子をコードする2種の遺伝子群に分類される。両MHCクラスの各分子は、異なる抗原供給源に特化されている。MHCクラスIの分子は、内在的に合成された抗原、例えばウィルス蛋白を提示する。MHCクラスIIの分子は、外来性の蛋白抗原、例えば細菌産物を提示する。両MHCクラスの細胞生物学および表現型は、このような異なる役割に基づいて整理される。
【0015】
クラスIのMHC分子は、約45kDaの重鎖および約12kDaの軽鎖からなり、アミノ酸約8〜10個のペプチドに適当な結合力があれば、それを結合し、細胞傷害性Tリンパ球に対して提示できる。クラスIのMHC分子に結合されるペプチドは、内在性蛋白抗原に由来する。好ましくは、クラスIのMHC分子の重鎖はHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体、軽鎖はβ-2ミクログロブリンである。
【0016】
クラスIIのMHC分子は、約34kDaのα鎖および約30kDaのβ鎖からなり、アミノ酸約15〜24個のペプチドに適当な結合力があれば、それを結合し、ヘルパーT細胞に対して提示できる。クラスIIのMHC分子に結合されるペプチドは、外来性蛋白抗原に由来する。α鎖およびβ鎖は、好ましくはHLA-DR、HLA-DQおよびHLA-DP単量体である。
【0017】
本発明に関しては、「ナノ粒子」とは、分子特異的認識部位を含んだ、少なくとも第1の化学官能基をその表面上に有する、粒子状の結合マトリックスを意味する。本発明に使用するナノ粒子は、第1の官能基を配置した表面を有するコアを含み、該第1の官能基は、ある分子の相補的な第2の官能基を共有結合または非共有結合で結合できる。第1および第2の官能基間の相互作用によって、該分子、特に生体分子がナノ粒子に固定化される、および/またはそれを固定化できる。本発明に使用するナノ粒子は、<500nm、特に<150nmの大きさを有する。ナノ粒子のコアは、特に、化学的に不活性な無機または有機材料、特に優先的にシリカからなる。
【0018】

本発明に関しては、「第1の官能基」とは、例えばナノ粒子の表面上に存在する相補的な官能基と、結合相手双方の間に親和性結合、特に共有結合ができるように相互作用することのできる、受容体ユニット内、特にMHC分子鎖内に存在する、化学基を意味する。本発明によれば、第1の官能基は、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、ビオチン基、Hisタグ、FLAGタグ、StrepタグI基、StrepタグII基、ヒスチジンタグ基およびFLAGタグ基からなる群から選択されることを想定している。
【0019】
ナノ粒子表面上の官能基でもある第2の官能基は、本発明によれば、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、アビジン基、ストレプトアビジン基、ニュートラアビジン基および金属キレート錯体からなる群から選択される。
【0020】
本発明に使用するナノ粒子は、受容体ユニットの第1の官能基と共有結合または非共有結合により連結される、少なくとも1つの第2の官能基も表面上に示し、第1の官能基は第2の官能基とは異なる基である。相互に結合する両方の基は、相互に相補的、即ち、相互に共有結合または非共有結合を形成できなければならない。
【0021】
本発明によれば、第1の官能基として例えばカルボキシ基を指定すれば、ナノ粒子表面上の第2の官能基はアミノ基となる。本発明によれば、受容体ユニットの第1の官能基として逆にアミノ基を使用すれば、ナノ粒子表面上の第2の官能基はカルボキシ基となる。本発明によれば、受容体ユニットの第1の官能基としてチオール基を選択すれば、第2の官能基はマレイミド基となる。本発明によれば、受容体ユニットの第1の官能基としてビオチン基および/またはStrepタグI基および/またはStrepタグII基を使用すれば、ナノ粒子表面上の第2の官能基はアビジン基および/またはストレプトアビジン基および/またはニュートラアビジン基となる。本発明によれば、受容体ユニットの第1の官能基としてチオール基を指定すれば、ナノ粒子表面上の第2の官能基はマレイミド基となる。
【0022】
前記の第1および/または第2の官能基は、スペーサーに補助されて固定化すべき受容体ユニットまたはナノ粒子表面と結合できるか、あるいはスペーサーを介してナノ粒子表面または受容体ユニットに繋ぐことができる。したがって、スペーサーは、一方では官能基をナノ粒子または受容体ユニットから隔てる部分として、他方では官能基の担体として機能している。このようなスペーサーには、本発明によれば、好ましい実施形態では置換されており、ヘテロ原子を有する、炭素数が2〜50個のアルキル基またはエチレンオキシドオリゴマーがなり得る。スペーサーは、可動性および/または直鎖状となり得る。
【0023】
本発明の好ましい一実施形態では、第1の官能基は、受容体ユニットの天然成分であることを想定している。本発明の好ましい更なる実施形態では、第1の官能基を遺伝子工学的方法、生化学的、酵素的および/または化学的誘導体形成法、あるいは化学的合成法により受容体ユニットに繋ぐことを想定している。例えば、非天然アミノ酸は、遺伝子工学的方法により、または化学的蛋白合成中に、例えばスペーサーまたは連結基と共に受容体ユニットに繋ぐことができる。このような非天然アミノ酸は、アミノ酸官能基および残基Rを示し、天然に存在する遺伝暗号で規定されない化合物であり、好ましくはチオール基を有する。本発明によれば、天然に存在するアミノ酸、例えばリジンを、その側鎖、特に一級アミノ基をレブリン酸のカルボン酸官能基で例えば誘導体化することにより、修飾することも想定することができる。
【0024】
本発明の更なる好ましい実施形態では、官能基を修飾することにより受容体ユニットに繋ぐことができ、その際、マーカーとも言う受容体ユニットタグを特にC末端またはN末端に付加する。しかし、このようなタグを分子内に配置することもできる。蛋白受容体は、少なくとも1つのStrepタグ、例えばStrepタグIもしくはStrepタグIIまたはビオチンを、例えばBirAに付加することにより、修飾されることを想定している。本発明によれば、Strepタグとは、ストレプトアビジン基および/またはその等価基を結合できる限り、機能的および/または構造的等価物も意味する。したがって本発明によれば、「ストレプトアビジン」という概念は、その機能的および/または構造的等価物も含んでいる。
【0025】
本発明によれば、ナノ粒子の表面は、第1の官能基に結合した相補的な第2の官能基の捕捉によって修飾されることを特徴とする。本発明によれば、該官能基は、グラフト重合、シラン化、化学的誘導体化および類似の適当な方法をナノ粒子表面に適用することにより、捕捉されることを想定している。
【0026】
本発明の好ましい一態様では、ナノ粒子表面は、追加の官能基の捕捉によって修飾できることを想定している。
【0027】
好ましい実施形態では、ナノ粒子の表面は、他の蛋白のナノ粒子への非特異的吸着を阻害または低減する化合物を有することができる。該表面が、エチレングリコールオリゴマーを有するのが特に好ましい。
【0028】
本発明によれば、ナノ粒子の表面上に、単独または追加でイオン交換性官能基を固定する可能性も生じる。得られた受容体-リガンド複合体、特にペプチド提示MHC分子および/またはその中に結合したペプチド断片の分析をMALDI法で行うべき場合に、特にこれは重要である。MALDI分析法では、マトリックス中の塩分含量は、イオンの蓄積により、イオン化の抑制または例えば妨害ピークも生じるピークの広幅化を招くので、しばしば決定的に重大となる。高いイオン交換能を有し、そのため妨害性塩分をマトリックス中に固定するナノ粒子を用いることで、この問題は回避される。
【0029】
T細胞エピトープを同定および/または検出する本発明の方法の好ましい一実施形態では、存在することが好ましい第2の受容体ユニットは、特にMHCクラスI分子のβ-2ミクログロブリンにおける競合的結合反応の実施前に、遊離した状態で存在することを想定している。即ち、第2の受容体ユニットの入ったこの好ましい実施形態では、本発明の競合的結合反応の実施に使用する緩衝液が、第2の受容体ユニットならびに蛋白抗原のペプチド断片の集団も含んでいる。第1の受容体ユニットの第1の官能基がナノ粒子表面の第2の官能基に結合して固定化が行われた、固定化した第1の受容体ユニットを有するナノ粒子を、次いで第2の受容体ユニットおよびペプチド断片集団を含む緩衝液に添加し、その中でインキュベートすると、第1の受容体ユニット、第2の受容体ユニット、および両受容体ユニットまたは両受容体ユニットから形成される受容体もしくは受容体二量体に親和性を有する、少なくとも1つのペプチド断片が、受容体-リガンド複合体、特にペプチド提示MHC分子を形成できる。形成した受容体-リガンド複合体は、そのときナノ粒子上の固定化した第1の受容体ユニット上に固定化される。
【0030】
T細胞エピトープを同定および/または検出する本発明の方法の好ましい更なる実施形態では、第2の受容体ユニットは、第1の受容体ユニットと共に、競合的結合反応の実施前に、受容体、特にMHC分子を形成する二量体の形態でナノ粒子に固定化されることを想定している。この実施形態では、第2の受容体ユニットは少なくとも1つの第3の官能基を示し、ナノ粒子の表面は、少なくとも1つの相補的で、第3の官能基に結合性の第4の官能基を有することを想定している。好ましくは、受容体二量体を形成している両受容体ユニットは配向しており、受容体の生物活性を保持した状態でナノ粒子に固定化される。
【0031】
本発明に関しては、「配向して(in a targeted manner)固定化される」または「配向した(in a targeted manner)固定化」という概念は、ある分子、特に受容体二量体が、両受容体ユニット内の決まった位置でナノ粒子に固定化される際に、受容体の生物活性に必要なドメイン(1個または複数)の三次元構造が非固定化状態から変化せず、かつこの受容体ドメイン(1個または複数)、特に適当なペプチドを結合するための結合ポケットが、適当なペプチド類と接触した際に自由な接近を受けられるように、固定化されることを意味する。「配向して(in a targeted manner)固定化される」とは、固定化された受容体を細胞または細胞類似の環境で後に用いたとき、受容体が蛋白分解酵素によって全くまたはごく徐々にしか分解できないように、受容体二量体を形成している両受容体ユニットの固定化が行われることも意味している。それは、ナノ粒子表面上の固定化受容体二量体が、プロテアーゼの作用部位をできるだけ提供しないように配向することである。
【0032】
「生物活性の保持」とは、受容体を形成している受容体ユニットが、ナノ粒子の表面に固定化した後、適当なin vitro条件下での非固定化状態の同一の受容体ユニットまたは両受容体ユニットで形成された受容体と、あるいは自然状態の細胞環境にある同一の受容体ユニットまたは同一の受容体と、同じかほぼ同じ生物学的機能を少なくとも類似の程度に行使できることを意味する。
【0033】
本発明に関しては、「二量体」または「受容体二量体」とは、2つのサブユニットまたはユニットの連結によって形成される化合物を意味する。連結した2つの受容体サブユニットでは、その組成、即ちアミノ酸配列ならびにその長さが識別できる異なる分子が問題となる。例えば、固定化された受容体二量体では、各受容体サブユニットまたは受容体ユニットがナノ粒子の表面に結合する。本発明によれば、受容体二量体の1つの受容体ユニットのみが、第1の官能基と第2の官能基との共有結合を介してナノ粒子に固定されることも想定している。
【0034】
本発明によれば、第2の受容体ユニットの第3の官能基は、第1の受容体ユニットの第1の官能基と異なり、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、ビオチン基、Hisタグ、FLAGタグ、StrepタグI基、StrepタグII基、ヒスチジンタグ基およびFLAGタグ基からなる群から選択されることを想定している。本発明によれば、第3の官能基は、第2の受容体ユニットの天然成分であるか、あるいは遺伝子工学法、酵素法および/または化学的誘導体化により第2の受容体ユニット中に導入されることを想定している。
【0035】
本発明によれば、ナノ粒子表面上の第4の官能基は、第1の官能基に結合性の、ナノ粒子の第2の官能基と異なることを想定している。ナノ粒子表面上の官能基でもある第4の官能基は、本発明によれば、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、アビジン基、ストレプトアビジン基、ニュートラアビジン基および金属キレート錯体からなる群から選択される。本発明によれば、第4の官能基は、第2の官能基と同様にグラフトシラン化、シラン化、化学的誘導体化または適当な類似の方法により、ナノ粒子表面上に捕捉される。
【0036】
本発明の好ましい一実施形態では、第1および第2の受容体ユニットは、天然に存在するか、あるいは遺伝子工学法または化学合成法により調製した分子、特にMHC分子鎖であることを想定している。
【0037】
本発明の好ましい一実施形態では、受容体はクラスIのMHC分子である。本発明によれば、好ましくは、第1の受容体ユニットは約45kDaの重鎖および第2の受容体ユニットは約12kDaの軽鎖であり、または第1の受容体ユニットは約12kDaの軽鎖および第2の受容体ユニットは約45kDaの重鎖である。もちろん、例えば鎖の短縮形態や、膜貫通領域を欠いた形態といった、これらの鎖の改変体、突然変異体または変種を使用してもよい。例えば膜貫通領域のない分子量35kDaの重鎖としてこのようなトランケイト体を使用してもよい。すなわち、本発明によれば、第1および第2の受容体ユニットがクラスIのMHC複合体を形成できる場合、アミノ酸約8〜18個、特に約8〜10個のペプチド断片を競合的結合反応において結合し、したがってペプチド提示受容体を形成できる。好ましくは、重鎖はHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体、軽鎖はβ-2ミクログロブリンである。
【0038】
本発明の好ましい更なる実施形態では、受容体はクラスIIのMHC分子である。本発明によれば、好ましくは、第1の受容体ユニットは約34kDaのα鎖および第2の受容体ユニットは約30kDaのβ鎖、または第1の受容体ユニットは約30kDaのβ鎖および第2の受容体ユニットは約34kDaのα鎖である。好ましくは、α鎖およびβ鎖はHLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DP単量体である。本発明によれば、それらの突然変異、改変または変異も使用できる。本発明によれば、α鎖およびβ鎖を使用した場合、分析対象のペプチド断片が外来蛋白抗原に由来することを想定している。すなわち本発明では、第1および第2の受容体ユニットがクラスIIのMHC複合体を形成する場合、アミノ酸約8〜18個、特に約8〜10個のペプチド断片を競合的結合反応において結合し、ペプチド提示受容体を形成できる。本発明によれば、第1および第2の受容体ユニットは、天然に存在するか、あるいは遺伝子工学法または化学合成法により調製した鎖であることを想定している。
【0039】
本発明によれば、分析対象とする蛋白抗原のペプチド断片の集団は、酵素的蛋白開裂、遺伝子工学法または化学合成法により調製されることを想定している。
【0040】
本発明の第1の実施形態では、調製した集団のこのようにして得たペプチド断片は、蛋白抗原の全アミノ酸配列を完全に表すことを想定している。本発明の第2の実施形態では、集団のペプチド断片は、蛋白抗原のアミノ酸配列を部分的にしか表さないものと想定している。その場合、コンピュータアルゴリズムによって決定されるような潜在的T細胞エピトープを表すペプチド断片が、特に好ましい。本発明によれば、潜在的T細胞エピトープの予想にSYFPEETHI (Rammensee et al., 1999)、HLA_BIND (Parker et al., 1994)などのコンピュータアルゴリズムを指定することができる。受容体においてI型のMHC分子を扱う場合は、調製すべき集団のペプチド断片がアミノ酸8〜10個の長さを有することを想定している。それに対し、受容体においてII型のMHC分子を扱う場合は、調製すべき集団のペプチド断片は、好ましくはアミノ酸15〜24個の長さを有する。
【0041】
本発明によれば、該集団のペプチド断片がマーカーおよび/または第5の官能基を備えることを想定している。マーカーは、特にペプチド断片の検出に役立つ。マーカーでは、例えば蛍光マーカーまたは放射性マーカーが重要となり得る。ペプチド断片の第5の官能基は、特にペプチド断片の単離および/または精製に役立つ。例えば、ペプチド提示MHC分子中に結合したペプチド断片は、その複合体から遊離後、適当なナノ粒子上の相補的な第6の官能基に第5の官能基を結合させることにより固定化され、複合体の残部から分離される。第5の官能基は、特に第1、第2、第3および/または第4の官能基と異なり、それらと結合することができない。
【0042】
本発明の好ましい一実施形態では、ナノ粒子上への第1の受容体ユニットの固定化、または第1の受容体ユニットおよび第2の受容体ユニットの固定化を、PBS緩衝液中、1時間〜4時間、特に2時間の間にわたり室温で、受容体ユニットとナノ粒子とを振蕩装置中でインキュベーションすることにより、第1の受容体ユニットを固定化したナノ粒子、または第1および第2の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる。
【0043】
本発明の更なる実施形態では、受容体ユニットのナノ粒子上への固定化は、既知の配列と、使用した受容体、すなわち使用したMHC分子に結合できることが既知の適当な長さとを有するペプチド、ならびに第1の受容体ユニットおよび第2の受容体ユニットを使用して、溶液中でペプチド提示受容体を調製することによっても行われる。このように調製したペプチド提示受容体を、次いでナノ粒子上に固定化し、そのとき得られるペプチド提示受容体を固定化したナノ粒子に、少なくとも結合ペプチドから分離する処理を施すことにより、1個または複数の受容体ユニットを固定化したナノ粒子を得る。本発明によれば、ペプチド提示受容体は、第1の受容体ユニット、第2の受容体ユニットおよび導入したペプチドを、100mMのトリス、2mM EDTA、400mM L-アルギニン、5mMの還元型グルタチオンおよび0.5mMの酸化型グルタチオンを含む緩衝液中、36時間超、好ましくは48時間の間にわたり、20℃未満、好ましくは10℃の温度でインキュベーションすることにより、調製することを特に想定している。
【0044】
ペプチド提示受容体の調製に、第1の官能基を有する第1の受容体ユニット、および第3の官能基を含まない第2の受容体ユニットを使用する場合、溶液中に調製したペプチド提示受容体は、第1の受容体ユニットの第1の官能基がナノ粒子の第2の官能基に結合することによってのみナノ粒子上に固定化される。それに対して、溶液中のペプチド提示受容体の調製に、第1の官能基を有する第1の受容体ユニット、および第3の官能基を有する第2の受容体ユニットを導入する場合、受容体-リガンド複合体のナノ粒子への固定化は、第1および第2の官能基間の結合と、第3および第4の官能基の結合とを介して起こる。
【0045】
ペプチド提示受容体をナノ粒子へ固定化後、前記のようにして得た、受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子を、50mMクエン酸ナトリウムを含むpH3.0の剥離用緩衝液で20秒未満、特に10秒の間にわたり処理する。本発明によれば、そのとき受容体-リガンド複合体が第1の官能基の第2の官能基への結合によってのみ固定化される場合は、得られたナノ粒子の処理で、結合しているペプチドと共に第2の受容体ユニットもナノ粒子から除去され、その結果、第1の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる。第1の受容体ユニットの第1の官能基がナノ粒子の第2の官能基に結合し、第2の受容体ユニットの第3の官能基がナノ粒子の第4の官能基に結合することにより、ペプチド提示受容体が固定化される場合は、得られたナノ粒子の剥離用緩衝液による処理で、結合しているペプチドのみがナノ粒子から除去される。そのとき、第1および第2の受容体ユニットを固定化したナノ粒子も得られる。固定化された第1の受容体ユニット、または固定化された第1および第2の受容体ユニットを含む、前記のように調製したナノ粒子は、次いで、必要であれば精製後に、例えば少なくとも1回の遠心分離および少なくとも1回の洗浄操作により緩衝液から分離し、新たに適当な緩衝液中に懸濁する。このように調製したナノ粒子は、調製したペプチド断片の集団による競合的結合反応の実施に使用することができる。
【0046】
本発明によれば、固定化された第1または第1および第2の受容体ユニットを有するナノ粒子に対する、調製したペプチド断片集団の競合的結合反応は、PBS緩衝液中、2時間〜6時間、特に4時間の間にわたり室温から39℃の温度、特に37℃で、ペプチド断片集団とナノ粒子とをインキュベーションすることによって行う。ナノ粒子が固定化された第1の受容体ユニットのみを有する場合は、競合的結合に使用するPBS緩衝液は第2の受容体ユニットも含む。
【0047】
一方または両方の受容体ユニットに親和性を有する1個または複数のペプチド断片が結合した後、固定化された受容体-リガンド複合体が得られ、次いで遠心分離および少なくとも1回の洗浄操作により、それを緩衝液および該集団の未結合のペプチド断片から分離し、新たに緩衝液中に懸濁する。
【0048】
本発明によれば、得られたペプチド提示受容体および/または結合ペプチド断片の分析を続いて行う。本発明によれば、ペプチドを結合したペプチド提示受容体を固定化するナノ粒子の懸濁液を、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法により分析することを想定している。
【0049】
MALDI法では質量分析法が重要である。質量分析は、原子および分子の小片が質量に応じて分離される、物質の構造解析法である。それは、分子と電子または光子との反応に基づいている。電子が試料に衝突することにより、電子が分離する結果、分子陽イオンが生成し、続いてそれが様々なイオン性、ラジカル性および/または中性のフラグメントに分解する。分子イオンおよびフラグメントは、適当な分離系でその質量数の大きさに従って分離される。したがって質量分析では、化学的分解に基づき、イオン化過程の結果生じる分子イオンまたはフラグメントが、物質の構造解析に使用される。本発明によれば好ましく使用されるMALDI法は、MALDI-TOF-MS法(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化-飛行時間質量分析)である。この方法の主たる利点は、分析対象の物質、例えば蛋白またはペプチドの質量対電荷比(m/z)による迅速で精確な同定、およびフェムトモル領域にあるか、それより少ない微量の検出限界を含む。
【0050】
本発明によれば、例えば懸濁液形態の得られたナノ粒子は、遠心分離および洗浄後にMALDI試料台またはMALDIターゲット上に適用し、分析することを想定している。その場合、MALD適用前もしくは適用後、または適用と同時にMALDI試料台上に載置できる。
【0051】
本発明の更なる実施形態では、固定化された受容体-リガンド複合体に結合された少なくとも1つのペプチド断片を、受容体から除去し、単離し、分析することを想定している。例えば、少なくとも1つのペプチド断片を結合した固定化受容体を有するナノ粒子は、ペプチド断片を遊離するために、50mMクエン酸ナトリウムを含むpH値3.0の剥離用緩衝液中、20秒未満、特に10秒の間にわたり処理できる。本発明によれば、少なくとも1つの該ペプチド断片が第5の官能基を有する場合、ナノ粒子を使用して該断片を単離し、精製してもよい。このような場合、このナノ粒子は第5の官能基を結合した第6の官能基を含み、その結果、遊離したペプチド断片を水溶液または水性懸濁液から特異的に単離してもよい。本発明によれば、少なくとも1つの単離ペプチド断片に対して、続いて配列を決定することを想定している。
【0052】
本発明は、蛋白抗原、特に蛋白抗原発現性もしくは提示性の細胞または生体物質に対するペプチドワクチンの調製法にも関しており、この方法では蛋白抗原のT細胞エピトープのアミノ酸配列をin vitroで同定し、同定したアミノ酸配列を有するペプチドを調製し、好ましい実施においてはその後、調製したペプチドと、第1および必要に応じて第2の受容体ユニット、特にMHC分子の第1鎖および第2鎖の一方とを使用して、受容体-リガンド複合体、特に、ワクチンとして使用できるペプチド提示MHC分子を調製する。本発明の方法は、
a)蛋白抗原のペプチド断片の集団を用意するステップ、
b)MHC分子の少なくとも1つの第1の鎖を表面上に固定化したナノ粒子を用意するステップであって、その鎖がMHC分子の形成を可能とするコンホメーションを有するステップ、
c)場合により、特にMHC分子の第2の鎖の存在下、ナノ粒子に固定化された第1の鎖に対するペプチド断片集団の競合的結合を実行するステップであって、第1の鎖、特にMHC分子の両方の鎖に対して親和性、特に最大の親和性を有するペプチド断片が、場合により第2の鎖と共に第1の鎖に結合し、ペプチド提示MHC分子を得るステップ、および
d)MHC分子からペプチド断片を単離し、そのアミノ酸配列を決定することにより、ペプチドワクチンを得るステップであって、ワクチンがペプチド断片自体またはそのMHC複合体の形態を取ることができるステップ
を含む。
【0053】
場合により、以下のステップを続けて実施してもよい。
【0054】
1)ペプチド断片の決定されたアミノ酸配列に基づき、適当量のペプチドを遺伝子工学的に調製するか、または化学的に合成するステップ、
2)適当量の第1および第2の鎖を遺伝子工学的に調製するか、または化学的に合成するステップ、
3)第1の鎖、第2の鎖および調製したペプチドの同時インキュベーションにより、適当量のペプチド提示MHC分子を調製するステップ、および
4)ペプチド提示MHC分子の凍結乾燥物または水性のコロイド溶液もしくは懸濁液の形態で、ペプチドワクチンを調製するステップ
本発明に関しては、「ワクチン」とは、病状の予防および/または治療のために免疫を生じる組成物を意味する。したがって、ワクチンは、抗原を含み、ヒトや動物への接種で特異的な抗毒素および抗体を発現するために、使用することが定められている医薬である。ワクチンは、抗体の活発な産生に役立つ。
【0055】
本発明によれば、蛋白抗原のペプチド断片の集団は、酵素的蛋白分解、遺伝子工学法または化学合成法により調製することを想定している。好ましい実施形態では、ペプチド集団に含まれるペプチドは、蛋白抗原の全アミノ酸配列を完全に表している。代替的な実施形態では、ペプチド集団に含まれるペプチド断片は、蛋白抗原のアミノ酸配列を部分的にしか表しておらず、その場合、ペプチド断片またはその集団は、特に、コンピュータアルゴリズムで確定した潜在的なT細胞エピトープを表すようなアミノ酸配列を有する。本発明によれば、調製すべきMHC分子がMHC分子I型である場合、ペプチド断片はアミノ酸8〜10個の長さを有することを想定している。調製すべきMHC分子がMHC分子II型である場合、ペプチド断片は、好ましくはアミノ酸15〜24個の長さを有する。
【0056】
調製すべきMHC分子がMHC分子I型である場合、好ましくは、第1の鎖は約45kDaの重鎖および第2の鎖は約12kDaの軽鎖である。好ましくは、このような場合、第1の鎖はHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体、第2の鎖はβ-2ミクログロブリンである。
【0057】
調製すべきMHC分子がMHC分子II型である場合、本発明によれば、第1の鎖は約34kDaのα鎖および第2の鎖は約30kDaのβ鎖である。好ましくは、このような場合、第1の鎖および第2の鎖はHLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DP単量体である。MHC I型クラスでもMHC II型クラスでも、その鎖は突然変異、変化または改変、特に短縮を受けた形態を使用してもよい。
【0058】
特に、第1の鎖は第1の官能基を含み、それによって第1の鎖は、ナノ粒子の表面上にある第2の官能基に第1の官能基が結合することにより、ナノ粒子の表面に固定化される。本発明によれば、該官能基は、第1の鎖の天然成分であるか、あるいは遺伝子工学法、生化学的、酵素的および/もしくは化学的誘導体化、または化学合成法により第1の鎖中に導入することを想定している。第1の官能基は、好ましくはカルボキシ基、アミノ基、チオール基、ビオチン基、Hisタグ、FLAGタグ、StrepタグI基、StrepタグII基、ヒスチジンタグ基およびFLAGタグ基からなる群から選択される。ナノ粒子表面に存在する第2の官能基は、好ましくは、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、アビジン基、ストレプトアビジン基、ニュートラアビジン基および金属キレート錯体からなる群から選択される。その場合、第2の官能基は、グラフトシラン化、シラン化、化学的誘導体化および類似の適当な方法によってナノ粒子表面上に捕捉できる。使用すべきナノ粒子では、化学的に不活性な材料、特にシリカからのコアを示し、直径30〜400nm、特に50nm〜150nmを有するようなものが好ましい。
【0059】
好ましい一実施形態では、表面上に固定された第1の鎖を有するナノ粒子は、以下のステップにより得られる。
【0060】
a)第1の官能基を含む第1の鎖、第2の鎖、ならびにアミノ酸配列および適当な条件下でのMHC分子形成能が知られているペプチドのインキュベーション、
b)表面に第1の官能基に結合性の第2の官能基を有するナノ粒子と、形成した該MHC分子との適当な条件下でのインキュベーションによる、MHC分子のナノ粒子への固定化、
c)MHC分子を固定化したナノ粒子の適当な緩衝液での処理による、第2の鎖およびアミノ酸配列が既知のペプチドのMHC分子からの除去、ならびに
d)第1の鎖を固定化したナノ粒子の精製。
【0061】
本発明によれば、好ましくは、第1の鎖を固定化したナノ粒子へのペプチド断片集団の競合的結合を、適当な緩衝液中、適当な条件下でペプチド断片集団をナノ粒子とインキュベーションすることによって行うことを想定している。該集団の少なくとも1つの親和性ペプチド断片と、場合により第2の鎖とが結合して、固定化MHC分子を形成した後、MHC分子を固定化したナノ粒子は、遠心分離および洗浄により緩衝液および未結合のペプチド断片から分離する。続いて、MHC分子を固定化したナノ粒子を適当な緩衝液、例えば剥離用緩衝液で処理することにより、結合ペプチド断片を遊離させる。次いで、遊離したペプチド断片を単離し、そのアミノ酸配列を決定する。
【0062】
続いて、決定したアミノ酸配列に基づいて結合ペプチド断片を、例えば遺伝子工学法を適用して大量に調製できる。例えば、遊離ペプチド断片の配列決定済みアミノ酸配列に基づいて、配列決定済みアミノ酸配列をコードする核酸を産生し、適当な発現ベクター中に挿入できる。次いで、このベクターを適当な宿主細胞中に移入し、該アミノ酸配列を発現させる。それにより、ペプチドは宿主細胞中により多量に発現され、そこから単離できる。
【0063】
遊離ペプチド断片の配列決定済みアミノ酸配列に基づいて、より多いペプチド量を合成法で調製することもできる。
【0064】
本発明は、少なくとも1つの受容体ユニット、特に、少なくとも1つの受容体ユニットが第1の官能基を有する2つの受容体ユニット、およびリガンドからの溶液中での受容体-リガンド複合体の製造または調製、その表面上に第1の官能基に結合性の少なくとも1つの第2の官能基を有するナノ粒子への受容体-リガンド複合体の固定化、および固定化した受容体-リガンド複合体を有するナノ粒子のMALDI法を適用した分析を含む、受容体-リガンド複合体および/またはその成分の品質管理法にも関する。
【0065】
好ましくは、受容体はMHC分子、リガンドは配列が既知で長さが決まっている受容体結合性のペプチド、および受容体-リガンド複合体はペプチド提示MHC分子である。
【0066】
一実施形態では、好ましくは受容体はクラスIのMHC分子であり、その受容体ユニットは約45kDaの重鎖であり、その受容体ユニットは約12kDaの軽鎖である。その場合、重鎖はHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体であり、軽鎖はβ-2ミクログロブリンである。
【0067】
本発明方法の更なる実施形態では、受容体はクラスIIのMHC分子であり、受容体ユニットは約34kDaのα鎖、および受容体ユニットは約30kDaのβ鎖である。その場合、α鎖およびβ鎖は、HLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DP単量体である。
【0068】
本発明によれば、分析にはMALDI法、特にMALDI-TOF法が指定される。
【0069】
本発明は、同様に、その表面上に少なくとも1つの固定化受容体ユニットまたは固定化受容体を有するナノ粒子の調製法であって、
a)第1の官能基を有する第1の受容体ユニット、場合により好ましい実施形態では、第1の受容体ユニットと共に受容体を形成できる第2の受容体ユニット、およびリガンドの溶液中でのインキュベーションによる、受容体-リガンド複合体の調製、
b)第1の官能基に結合性の少なくとも1つの第2の官能基を表面に有するナノ粒子への、形成された受容体-リガンド複合体の固定化、ならびに
c)受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子の酸性緩衝液での処理による、少なくとも結合しているリガンドの遊離、および受容体ユニットを固定化したナノ粒子の取得
を含む調製法にも関する。
【0070】
本発明の一実施形態では、受容体-リガンド複合体のナノ粒子表面への固定化は、第1の受容体ユニットの第1の官能基がナノ粒子の第2の官能基に結合することによってのみ、行われる。この場合、受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子を酸性緩衝液で処理した後、リガンドと共に第2の受容体ユニットも遊離し、第1の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる。
【0071】
本発明方法の更なる実施形態では、第2の受容体ユニットが第3の官能基を有する一方、ナノ粒子は、第2の受容体ユニットの第3の官能基に対して結合性の第4の官能基をその表面上に有する。したがって、受容体-リガンド複合体のナノ粒子への固定化は、第1の受容体ユニットの第1の官能基がナノ粒子の第2の官能基に結合すること、および第2の受容体ユニットの第3の官能基がナノ粒子の第4の官能基に結合することにより行われる。この場合、受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子を酸性緩衝液で処理した後、リガンドのみを遊離させると、第1および第2の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる。特に、第1および第2の受容体ユニットは、配向して固定化されており、かつリガンドを結合できる受容体を形成している。
【0072】
好ましい実施形態では、受容体はMHC分子、リガンドは、配列が既知で長さの決まった受容体結合性ペプチド、および受容体-リガンド複合体はペプチド提示MHC分子である。
【0073】
好ましくは、受容体は、第1のユニットとして約45kDaの重鎖および第2の受容体ユニットとして約12kDaの軽鎖、または第1の受容体ユニットとして約12kDaの軽鎖および第2の受容体ユニットとして約45kDaの重鎖を有するクラスIのMHC分子である。好ましくは、重鎖はHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体、軽鎖はβ-2ミクログロブリンである。
【0074】
本発明の好ましい更なる実施形態では、受容体は、第1の受容体ユニットとして約34kDaのα鎖および第2の受容体ユニットとして約30kDaのβ鎖、または第1の受容体ユニットとして約30kDaのβ鎖および第2の受容体ユニットとして約34kDaのα鎖を有するクラスIIのMHC分子である。好ましくは、α鎖およびβ鎖は、HLA-DR、HLA-DQおよびHLA-DP単量体である。
【0075】
本発明によれば、第1の官能基および第3の官能基は相互に異なり、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、ビオチン基、Hisタグ、FLAGタグ、StrepタグI基、StrepタグII基、ヒスチジンタグ基およびFLAGタグ基からなる群から選択されることを想定している。
【0076】
本発明によれば、第1の官能基を結合する、ナノ粒子表面上の第2の官能基、および第3の官能基を結合する、ナノ粒子表面上の第4の官能基は、相互に異なり、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、アビジン基、ストレプトアビジン基、ニュートラアビジン基および金属キレート錯体からなる群から選択されることも想定している。
【0077】
好ましくは、受容体-ペプチド複合体を固定化したナノ粒子は、結合しているペプチドを除去するために、50mMクエン酸ナトリウムを含むpH値3.0の剥離用緩衝液で、20秒未満、特に10秒の間にわたり処理する。
【0078】
本発明は、ペプチド提示MHC分子を固定化したナノ粒子の調製法にも関しており、その場合、少なくとも1つの固定化受容体ユニットまたは固定化受容体を有するナノ粒子を本発明の調製法に従って調製した、MHC分子の少なくとも1つの第1の鎖を固定化したナノ粒子を、第1の鎖と共にMHC分子を形成できる第2の鎖の存在下、MHC分子に結合できるペプチドとインキュベートし、ナノ粒子に固定化したペプチド提示MHC分子を得る。
【0079】
MHC分子では、そのペプチドがアミノ酸約8〜約10個の長さを有するクラスIの分子が特に好ましい。MHC分子では、そのペプチドがアミノ酸約15〜約24個の長さを有するクラスIIの分子も好ましい。
【0080】
本発明は、末梢血単核細胞(PBMC)から特定のCD4+-Tリンパ球またはCD8+-Tリンパ球を富化および/または単離する方法にも関しており、この方法は、
a)ペプチドがT細胞エピトープであるペプチド提示MHC分子を固定化したナノ粒子の調製、
b)適当な出発材料からの末梢血単核細胞の単離、
c)単離した末梢血単核細胞とペプチド提示MHC分子を固定化したナノ粒子とのインキュベーションによる、固定化したペプチド提示MHC分子のT細胞エピトープへのTリンパ球の結合、
d)固定化したペプチド提示MHC分子にTリンパ球が結合したナノ粒子の、未結合の末梢血単核細胞からの分離
を含む。
【0081】
本発明によれば、結合しているTリンパ球を続いてナノ粒子から遊離させ、in vitroのクローニングで増殖させることを想定している。遊離および/またはクローニング増殖したTリンパ球は、次いで例えば生体中に導入できる。
【0082】
本発明の好ましい実施形態では、ペプチド提示MHC分子はクラスIの分子であり、結合しているTリンパ球はCD8+-Tリンパ球である。好ましい更なる実施形態では、ペプチド提示MHC分子はクラスIIの分子であり、その場合、結合しているTリンパ球はCD4+-Tリンパ球である。
【0083】
本発明は、CD4+-Tおよび/またはCD8+-Tリンパ球の反応をin vitroで初回抗原刺激および/または再刺激する方法にも関しており、その方法は、
a)T細胞エピトープの同定およびそのアミノ酸配列の決定、
b)T細胞エピトープのアミノ酸配列を有するペプチドをコードする核酸の調製、
c)b)で調製した核酸の適当なベクターへの挿入、
d)培養した末梢血単核細胞から必要に応じて単離した樹状細胞中への、c)で得たベクターの導入、
e)d)で産生した、ベクターを有する樹状細胞のin vitroでの増殖、ならびに
f)d)またはe)で得た樹状細胞の使用による、自家性のCD4+および/またはCD8+細胞のin vitroでの刺激
を含む。
【0084】
本発明は、表面上に少なくとも1つの受容体ユニット、特にMHC分子の固定化された鎖を含んだナノ粒子にも関する。その場合、該固定鎖は、アミノ酸8〜24個のペプチドおよびMHC分子の第2の鎖を結合することにより、ペプチド提示MHC分子を形成できる。該MHC分子鎖は、その中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合によって、ナノ粒子表面上に固定化される。本発明のナノ粒子においては、クラスIのMHC分子の重鎖もしくは軽鎖、またはクラスIIのMHC分子のα鎖もしくはβ鎖が固定化形態を取っている。
【0085】
本発明は、MHC分子を固定化したナノ粒子にも関しており、その場合、MHC分子は第1および第2の鎖を含み、MHC分子は、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合によって、または、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合および第2の鎖中に含まれる第3の官能基とナノ粒子表面上に存在する第4の官能基との結合によって、ナノ粒子表面上に固定化される。
【0086】
本発明は、ペプチド提示MHC分子をナノ粒子表面上に固定化したナノ粒子にも関しており、その場合、ペプチド提示MHC分子は第1の鎖、第2の鎖およびアミノ酸8〜24個のペプチドを含み、該MHC分子は、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合によって、または、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合および第2の鎖中に含まれる第3の官能基とナノ粒子表面上に存在する第4の官能基との結合によって、ナノ粒子表面上に固定化される。
【0087】
本発明は更に、少なくとも1つのペプチド提示MHC分子または本発明によれば同定されるペプチド断片自体を含むペプチドワクチンに関しており、その場合、ペプチドワクチンは本発明の方法により得られる。
【0088】
一実施形態では、ペプチドワクチンは凍結乾燥物として存在することができる。他の実施形態では、該ワクチンは水性のコロイド溶液または懸濁液として存在する。本発明のペプチドワクチンは、更に少なくとも1種のアジュバントを含むことができる。
【0089】
本発明は、蛋白抗原のT細胞エピトープをin vitroで同定および/または検出するためのキットであって、MHC分子を固定化したナノ粒子の懸濁液の容器を含むキットにも関する。更なる実施形態では、該キットは、MHC分子の第1の鎖をその上に固定化したナノ粒子の懸濁液の容器、ならびに第2の鎖の凍結乾燥物の容器を含むことができる。
【0090】
本発明は、蛋白抗原のT細胞エピトープをin vitroで同定および/または検出するための、本発明のナノ粒子の使用にも関する。
【0091】
本発明は更に、ペプチドワクチンを調製するための、本発明のナノ粒子の使用に関する。
【0092】
更に本発明は、特定のCD4+-Tリンパ球またはCD8+-Tリンパ球をin vitroで富化および/または単離するためのナノ粒子の使用に関する。
【0093】
本発明は更に、in vitroでCD4+-Tまたは/およびCD8+-Tリンパ球の反応を初回抗原刺激および/または再刺激するための、本発明のナノ粒子の使用にも関する。本発明は同様に、蛋白抗原に対して動物またはヒト生体を有効に免疫するための、本発明によるペプチドワクチンの使用にも関する。
【0094】
本発明を以下の図1〜3および実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0095】
図1は、溶液中で調製したペプチド提示HLA-A2複合体をナノ粒子に固定化した場合の、T細胞エピトープを単離および/または検出する本発明の方法の好ましい一実施形態を概略的に有する。固定化に続いて、複合体を有するナノ粒子を酸性「剥離」用緩衝液で処理すると、EBV-EBNA-6ペプチド(284〜293番位置、LLDFVRFMGF)およびβ2ミクログロブリン(β2-m)が脱離する。次いで、このように調製したHLA鎖固定化ナノ粒子を添加することにより、ペプチド集団を使用してβ2-mの存在下で競合的結合反応を行うと、HLAおよびβ2-mに親和性の1個または複数のペプチドが結合し、そのペプチドを提示するHLA複合体がナノ粒子表面上に形成される。未結合のペプチドおよび過剰のβ2-mを除去した後、ペプチド提示複合体を固定化したナノ粒子に対し、MALDI質量分析を行う。
【0096】
図2は、ペプチド提示HLA複合体を固定化したナノ粒子のMALDI質量分析で得られた質量スペクトルを有する。図2.1は、実施例4で挙げた5種のペプチドの等モル量混合物に関し、図2.2は、選択後に結合性であると認めた2種のペプチドに関する。
【0097】
図3は、HLA-A2-EBNA-6複合体のSAV-ナノ粒子固定化分子成分全てのMALDIスペクトルを有する。挿入図は、配列LLDFVRFMGV(単一同位体による理論質量[M+H]+1196.6502μ)を有するEBNA-6ペプチド[M+H]+のMALDIスペクトルを有する。11727のピークはβ2-mに特徴的であり、約12900のピーク群は単量体形のSAV-ナノ粒子に特徴的であり、34383のピークはビオチニル化α鎖に特徴的である。
【実施例1】
【0098】
ペプチド合成
ペプチドは、MillGen 9050連続流動合成装置(Millipore、ベッドフォード、米国)上でFmoc固相法を用いて合成した。RP‐HPLCによる精製後、ペプチドを凍結乾燥し、PBS緩衝液中に1mg/mlの濃度に溶解した。
【実施例2】
【0099】
ビオチニル化HLA-A2単量体溶液の調製
HLA-A*0201ペプチド四量体溶液をAltman et al., Science, 274 (1996), 94-96に記載のように合成した。その場合、溶液形態の組換えHLA-A*0201重鎖(1〜276位)、およびβ-2ミクログロブリン(β2-m)を、対応する発現プラスミドで形質転換しておいた大腸菌細胞中で別々に発現させた。HLA-A*0201重鎖の細胞外ドメインの3'末端は、BirAビオチニル化配列で修飾した。HLA-A*0201鎖およびβ2-mをコードする、対応する発現プラスミドで形質転換しておいた大腸菌細胞は、対数増殖期中期まで培養した。その後0.5イソプロピル-β-ガラクトシダーゼで誘導を起こした。更に培養し、組換え蛋白を発現させた後、大腸菌細胞を採集し、精製した。細胞の溶解後、細胞中に含まれる小胞体を分離し、精製し、pH8.0の8M尿素中に溶解した。HLA-A*0201重鎖およびβ2-mを、100mMトリス、2mM EDTA、400mM L-アルギニン、5mM還元形グルタチオンおよび0.5mM酸化形グルタチオン中に希釈し、ペプチドLLDFVRFMGF(EBV EBNA-6、284〜293位)10μMと混合した。続いて48時間のインキュベーションを10℃、撹拌下で行った。フォールディングされた48kDaの複合体(α鎖:約35kDa、β2-m:約12kDa、ペプチド:約1kDa)を、保持能10kDaの膜(Millipore、ベッドフォード、米国)を用いた限外ろ過法により濃縮し、Superdex G75 HiLoad 26/60カラム(Amersham Pharmacia Biotech、ウプサラ、スウェーデン)および移動緩衝液としてpH7.8の150mM NaCl、20mMトリスHCl塩を用いたHPSEC法により精製した。ゲルろ過後、精製単量体をビオチンリガーゼ(BirA: Avidity、デンバー、米国)でビオチニル化し、HPSECで再び精製した。続いて、その複合体を限外ろ過により1μg/μlの濃度に調整した。
【実施例3】
【0100】
ストレプトアビジン修飾ナノ粒子(SAV-ナノパール)の調製および特性決定
シリカ粒子をStoeber et al., J. Coll. inter. Sci., 26 (1968), 62-62に記載のように調製した。その際、Zetasiser 3000 HSA装置(Malvern Instruments、ヘレンベルク、 ドイツ)を用いた動的光散乱の測定により決定したところ、流体力学的粒子直径の中央値100nmを有する球形シリカ粒子を得た。カルボキシ修飾粒子500μgをストレプトアビジン(Roche、トゥーツィンク、ドイツ)15μgと混合した。固定化したストレプトアビジンをビオチン-4-フルオレッセインの蛍光の消失により定量した。ストレプトアビジン合計15μgが、ナノ粒子に固定化されていることが判明した。理論的なビオチン結合部位の約57%は、粒子表面上で自由に接近可能であった。dsilica=100nM、Dsilica=4g/mlおよびMstreptavidin=52kDaになるので、各粒子上に約730個のストレプトアビジン四量体が結合しており、その結果、その表面上には約1600箇所のビオチン結合部位が自由に接近可能であった。ストレプトアビジン修飾粒子は、PBS中0.5mg/mlの濃度に調整した。
【実施例4】
【0101】
HLA-A2ペプチド選択試験
ナノ粒子の全ての洗浄ステップは、温度調節機能付き遠心機中、1.5mlの反応容器中で15000×g、20℃で10分の遠心、およびミクロピペットを用いた該パールの再懸濁により行った。SAV-ナノ粒子55μgと、ペプチドLLDFVRFMGF(EBV EBNA-6、284〜293位)を含んだ溶液状HLA-A2複合体3.5μgとをPBS20μl中に懸濁した。その混合物を横型振とう機中、室温で2時間インキュベーションし、沈殿形成を防止した。20℃で10分遠心後、上清を除き、ナノ粒子を水50μlで洗浄した。β2m分子および複合体中に含まれるペプチドLLDFVRFMGFを遊離させるために、該パールを「剥離用」緩衝液(pH3.0の50mMクエン酸ナトリウム)150μl中で90秒インキュベーションし、遠心後150μlの水で洗浄した。次いで、該パールをβ2m分子 (Sigma、ミュンヘン、ドイツ)1.2μgとペプチド混合物とを含むPBS30μlで再懸濁した。該混合物は、各々0.072μgの量の、合計5種のペプチドを含んでいた。5種の該ペプチドは、ILMEHIHKL、DQKDHAVF、ALSDHHIYL、VITLVYEKおよびSNEEPPPPYの配列を示した。37℃で4時間インキュベーションした後、遠心によりナノ粒子をペレットとし、上清を分離後、PBS緩衝液50μl、続いて水50μlで洗浄した。最後の遠心後、ナノ粒子を0.1%水/TFA(体積/体積)中に再懸濁し、MALDIターゲット上に移した。分析は、Voyager DE-STR質量分析計(Applied Biosystems、フォスターシティー、米国)を使用して陽イオンリフレクトロン操作方式で行った。蛋白およびペプチドを含んだ溶液は、30%アセトニトリル/0.3%TFA(体積/体積)中の飽和したα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸またはシナピン酸の1:20希釈液を用いた同体積のマトリックスと、ターゲット上で混合した。全てのMALDIスペクトルは、標準ペプチド混合物を用いて外部から較正した。
【0102】
本発明によれば以下の結果が得られた。
ビオチニル化HLA-A2複合体の全成分は、MALDI-TOF法を使用して検出され、定量される。
ビオチンを介してSAV-粒子(SAV-ナノパール)上に固定化した完全な複合体を、MALDI質量分析により可視化することができ、その場合、ビオチニル化HLA-A2-α鎖の対応質量シグナルは34379Da、β2-m分子に対しては11727Da、ストレプトアビジン単量体に対しては12907Da、結合ペプチドLLDFVRFMGVに対しては1196.63Daとなった(図3)。したがって、MALDI-TOF法を使用して、一方ではHLA-A2複合体の正確な特性を、ならびにビオチニル化複合体をSAV-ナノ粒子に固定化する方法の有効性も制御することができた。
【0103】
HLA-A2複合化SAV-ナノ粒子は、ペプチド混合物を使用した競合的結合でHLA-A2に対して予測したペプチドのみを結合する。
【0104】
図2は、結合しているHLA-A2ペプチド2種と、結合していないペプチド3種とを含むペプチド混合物のMALDIスペクトルを示し、各ペプチドの量は約70pmolであった。ペプチドの結合予測値をSYFPEITHIプログラムで決定したところ、非常に強い結合ではペプチドILMEHIHKLが点数32、強い結合ではペプチドALSDHHIYLが点数23、および非結合性の蛋白3種が点数0と決定した。使用した混合物中の各ペプチドのシグナル強度の差は、イオン化能の差を原因としている。観察したピークは、MALDI-PSDによる配列決定で同定した。HLA受容体でペプチドを選択した後、処理、即ちPBS緩衝液による洗浄をすると、結合性ペプチドのシグナルのみが残っていた。非結合性蛋白の場合はシグナルが検出されなかったということは、非特異的相互作用も起こらないことを示している。スペクトルには、各ペプチドに対してプロトン化形態([M+H]+)の単一同位体質量、ならびにナトリウム形態([M+Na]+)の単一同位体も示されている。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、溶液中で調製したペプチド提示HLA-A2複合体をナノ粒子に固定化した場合の、T細胞エピトープを単離および/または検出する本発明の方法の好ましい一実施形態を概略的に有する。固定化に続いて、複合体を有するナノ粒子を酸性「除去」用緩衝液で処理すると、EBV-EBNA-6ペプチド(284〜293番位置、LLDFVRFMGF)およびβ2ミクログロブリン(β2-m)が脱離する。次いで、このように調製したHLA鎖固定化ナノ粒子を添加することにより、ペプチド集団を使用してβ2-mの存在下で競合的結合反応を行うと、HLAおよびβ2-mに親和性の1個または複数のペプチドが結合し、そのペプチドを提示するHLA複合体がナノ粒子表面上に形成される。未結合のペプチドおよび過剰のβ2-mを除去した後、ペプチド提示複合体を固定化したナノ粒子に対し、MALDI質量分析を行う。
【図2】図2は、ペプチド提示HLA複合体を固定化したナノ粒子のMALDI質量分析で得られた質量スペクトルを有する。図2.1は、実施例4で挙げた5種のペプチドの等モル量混合物に関し、図2.2は、選択後に結合性であると認めた2種のペプチドに関する。
【図3】図3は、HLA-A2-EBNA-6複合体のSAV-ナノ粒子固定化分子成分全てのMALDIスペクトルを有する。挿入図は、配列LLDFVRFMGV(単一同位体による理論質量[M+H]+1196.6502μ)を有するEBNA-6ペプチド[M+H]+のMALDIスペクトルを有する。11727のピークはβ2-mに特徴的であり、約12900のピーク群は単量体形のSAV-ナノ粒子に特徴的であり、34383のピークはビオチニル化α鎖に特徴的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白抗原のT細胞エピトープをin vitroで同定および/または検出する方法であって、前記抗原のペプチド断片の集団を、好ましくは、第1の受容体ユニットと共に受容体を形成できる第2の受容体ユニットの存在下で、固定化した第1の受容体ユニットに競合的に結合する状態におき、受容体に親和性の少なくとも1つのペプチド断片を、少なくとも第1の受容体ユニット、好ましくは両受容体ユニットに結合させ、続いて、結合した前記ペプチド断片を単離し、分析する方法であり、
a)少なくとも1つの第1の官能基を有する少なくとも第1の受容体ユニットを、その表面が、第1の官能基に結合性の少なくとも1つの第2の官能基を有するナノ粒子に固定化すること、
b)蛋白抗原の異なる配列領域を含む、蛋白抗原のペプチド断片の集団を調製すること、
c)好ましくは第2の受容体ユニットの存在下で、ナノ粒子に固定化した第1の受容体ユニットに前記ペプチド断片集団を競合的に結合させることであって、少なくとも第1の受容体ユニット、好ましくは両受容体ユニットに親和性の少なくとも1つのペプチド断片を、場合により第2の受容体ユニットと共に、第1の受容体ユニットに結合させ、ナノ粒子に固定化した受容体-ペプチド断片複合体を得ること、ならびに
d)固定化した受容体-ペプチド断片複合体、および/または結合した前記ペプチド断片を分析すること
を含む方法。
【請求項2】
第2の受容体ユニットが、競合的結合反応を実施する前に、溶液中に遊離している請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の受容体ユニットが、競合的結合反応を実施する前に、第1の受容体ユニットと共に受容体を形成する二量体の形態で、ナノ粒子に固定化されている請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第2の受容体ユニットが、少なくとも1つの第3の官能基を示し、ナノ粒子の表面が、第3の官能基に結合性の少なくとも1つの第4の官能基を有する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
受容体が配向し、生物活性を保持した状態でナノ粒子に固定化されている、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
受容体が主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子であり、受容体-ペプチド断片複合体がペプチド提示MHC分子であり、第1および第2の受容体ユニットがMHC分子の鎖である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
受容体がクラスIのMHC分子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第1の受容体ユニットが約45kDaの重鎖および第2の受容体ユニットが約12kDaの軽鎖、または第1の受容体ユニットが約12kDaの軽鎖および第2の受容体ユニットが約45kDaの重鎖である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
重鎖がHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体、軽鎖がβ-2ミクログロブリンである、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ペプチド提示MHC分子内に結合したペプチド断片が、内因性蛋白抗原に由来する、請求項6から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
受容体-ペプチド断片複合体中に結合したペプチド断片が、アミノ酸約8〜10個を含む、請求項6から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
受容体がクラスIIのMHC分子である、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
第1の受容体ユニットが約34kDのα鎖および第2の受容体ユニットが約30kDのβ鎖、または第1の受容体ユニットが約30kDaのβ鎖および第2の受容体ユニットが約34kDaのα鎖である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
α鎖およびβ鎖がHLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DP単量体である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
受容体-ペプチド断片複合体中に結合したペプチド断片が、外来の蛋白抗原に由来する、請求項12から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
受容体-ペプチド断片複合体中に結合したペプチド断片が、アミノ酸約15〜24個を含む、請求項12から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
第1および第2の受容体ユニットが、天然に存在するか、あるいは遺伝子工学法または化学合成法により調製される鎖である、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
第1の官能基が、第1の受容体ユニットの天然成分であるか、あるいは遺伝子工学法、生化学的、酵素的および/もしくは化学的誘導体形成法または化学的合成法により、第1の受容体ユニット中に導入される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第3の官能基が、第2の受容体ユニットの天然成分であるか、あるいは遺伝子工学法、生化学的、酵素的および/もしくは化学的誘導体形成法または化学的合成法により、第2の受容体ユニット中に導入される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
第1の官能基および第3の官能基は相互に異なり、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、ビオチン基、Hisタグ、FLAGタグ、StrepタグI基、StrepタグII基、ヒスチジンタグ基およびFLAGタグ基からなる群から選択される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
第1の官能基を結合する、ナノ粒子表面上の第2の官能基、および第3の官能基を結合する、ナノ粒子表面上の第4の官能基は、相互に異なり、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、アビジン基、ストレプトアビジン基、ニュートラアビジン基および金属キレート錯体からなる群から選択される、請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
第2の官能基および第4の官能基が、グラフトシラン化、シラン化、化学的誘導体化および適当な類似の方法により、ナノ粒子表面上に捕捉される請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ナノ粒子が、化学的に不活性な材料、好ましくはシリカからのコアを有する、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
ナノ粒子が、直径30〜400nm、好ましくは50nm〜150nmを有する請求項23に記載の方法。
【請求項25】
蛋白抗原のペプチド断片の集団を、酵素的蛋白分解、遺伝子工学法または化学合成法により調製する、請求項1から24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記集団のペプチド断片が、蛋白抗原の全アミノ酸配列を完全に表す、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記集団のペプチド断片が、蛋白抗原のアミノ酸配列を部分的にしか表さない、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記集団のペプチド断片が、予測される潜在的なT細胞エピトープを表すアミノ酸配列を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
予測される潜在的なT細胞エピトープが、コンピュータアルゴリズムにより決定された、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
受容体がI型MHC分子の場合、前記ペプチド断片がアミノ酸8〜10個の長さを有する、請求項25から29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
受容体がII型MHC分子の場合、前記ペプチド断片がアミノ酸15〜24個の長さを有する、請求項25から29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記集団のペプチド断片に、競合的結合を実施する前に、マーカーおよび/または第5の官能基を付ける、請求項25から31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
マーカーが、蛍光マーカーまたは放射性マーカーである請求項32に記載の方法。
【請求項34】
第5の官能基は、第1、第2、第3および/または第4の官能基とは異なり、これらの基と結合できない請求項32に記載の方法。
【請求項35】
第1の受容体ユニットのナノ粒子への固定化または第1および第2の受容体ユニットのナノ粒子への固定化が、PBS緩衝液中、1h〜4h、好ましくは2hの間にわたり室温で、受容体ユニットとナノ粒子とを振とう装置中でインキュベーションすることにより実施される、請求項1から34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
配列が既知で長さが適当なペプチド、第1の受容体ユニットおよび第2の受容体ユニットを使用して、受容体-ペプチド複合体を溶液中で調製し、受容体-ペプチド複合体をナノ粒子上に固定化し、受容体-ペプチド複合体を固定化したナノ粒子を処理して少なくとも結合ペプチドを除去して、受容体ユニットを固定化したナノ粒子を得ることによって、受容体ユニットのナノ粒子への固定化が行われる請求項1から34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
第1の受容体ユニット、第2の受容体ユニットおよび前記ペプチドを、100mMのトリス、2mM EDTA、400mM L-アルギニン、5mMの還元型グルタチオンおよび0.5mMの酸化型グルタチオンを含む緩衝液中、36h超、好ましくは48hの間にわたり、20℃未満、好ましくは10℃の温度でインキュベーションすることにより、受容体-ペプチド複合体を調製する請求項36に記載の方法。
【請求項38】
第1の受容体ユニットの第1の官能基が、ナノ粒子の第2の官能基に結合することのみにより、受容体-ペプチド複合体がナノ粒子上に固定化される、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
第1の受容体ユニットの第1の官能基が、ナノ粒子の第2の官能基に結合すること、および、第2の受容体ユニットの第3の官能基が、ナノ粒子の第4の官能基に結合することにより、受容体-ペプチド複合体がナノ粒子上に固定化される、請求項36または37に記載の方法。
【請求項40】
結合しているペプチドを除去するために、受容体-ペプチド複合体を固定化したナノ粒子を、50mMクエン酸ナトリウムを含むpH値3.0の剥離用緩衝液で、20s未満、好ましくは10sの間にわたり処理する、請求項36から39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
第1の官能基がナノ粒子の第2の官能基に結合することのみにより、受容体-ペプチド複合体が固定化される場合は、得られたナノ粒子の処理で、ペプチドと共に第2の受容体ユニットもナノ粒子から除去して、第1の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
第1の受容体ユニットの第1の官能基が、ナノ粒子の第2の官能基に結合すること、および、第2の受容体ユニットの第3の官能基が、ナノ粒子の第4の官能基に結合することにより、受容体-ペプチド複合体がナノ粒子上に固定化される場合は、得られたナノ粒子の処理で、結合ペプチドのみがナノ粒子から除去されて、第1の受容体ユニットおよび第2の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
受容体ユニット(複数も)を固定化したナノ粒子を、少なくとも1回の遠心分離および少なくとも1回の洗浄操作により緩衝液から除去し、新たに緩衝液中に懸濁する、請求項35から42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
第1または第1および第2の受容体ユニットを固定化したナノ粒子に対する、ペプチド断片集団の競合的結合を、PBS緩衝液中、2h〜6h、好ましくは4hの間にわたり室温から39℃の温度、好ましくは37℃で、ペプチド断片集団とナノ粒子とをインキュベーションすることによって行う、請求項35から43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
ナノ粒子が第1の受容体ユニットのみを固定化している場合は、PBS緩衝液が第2の受容体ユニットを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
両受容体に最大の親和性を有するペプチド断片を結合し、固定化された受容体-ペプチド断片複合体を形成した後、ナノ粒子を、少なくとも1回の遠心分離および少なくとも1回の洗浄操作により、緩衝液および未結合のペプチド断片から除去し、新たに緩衝液中に懸濁する、請求項44または45に記載の方法。
【請求項47】
ペプチドを結合した受容体-ペプチド断片を固定化するナノ粒子の懸濁液を、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)法、好ましくはMALDI-TOF(飛行時間)法により分析する、請求項1から46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
得られたナノ粒子懸濁液を、遠心分離および洗浄後にMALDI試料台上に適用し、分析する請求項47に記載の方法。
【請求項49】
MALDI法の過程で用いられるマトリックスを、ナノ粒子含有懸濁液の適用前もしくは適用後、または適用と同時にMALDI試料台上に載置する、請求項47または48に記載の方法。
【請求項50】
固定化された受容体-ペプチド断片複合体中に結合するペプチド断片を、前記複合体から遊離させ、単離し、分析する請求項1から46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
受容体-ペプチド断片複合体を固定したナノ粒子を、50mMクエン酸ナトリウムを含むpH値3.0の剥離用緩衝液で20秒未満、好ましくは10秒の間にわたり処理し、ペプチド断片を溶出させる請求項50に記載の方法。
【請求項52】
ナノ粒子を、遠心分離によりペプチド断片含有溶液から除去する、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
遊離ペプチド断片を含む溶液を、前記ペプチド断片の第5の官能基に結合性の第6の官能基を有するナノ粒子と接触させ、第5の官能基の第6の官能基との結合により、前記ペプチド断片をナノ粒子上に固定化し、ペプチド断片を固定化したナノ粒子を溶液から除去する、請求項50から52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
固定化したペプチド断片をナノ粒子から除去し、その配列を決定する、請求項50から53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
蛋白抗原に対するペプチドワクチンを同定および/または調製する方法であって、蛋白抗原のT細胞エピトープのアミノ酸配列をin vitroで同定し、同定したアミノ酸配列を有するペプチドを調製し、調製したペプチドと、第1の鎖および第2の鎖の一方とを使用して、ペプチド提示主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)を調製する方法であり、
a)蛋白抗原のペプチド断片の集団を用意するステップ、
b)MHC分子の少なくとも1つの第1の鎖を表面上に固定化したナノ粒子を用意するステップであって、前記鎖がMHC分子の形成を可能とするコンホメーションを有するステップ、
c)MHC分子の第2の鎖の存在下、ナノ粒子に固定化された第1の鎖に対するペプチド断片集団の競合的結合を実行するステップであって、MHC分子の前記両鎖に対して最大の親和性を有するペプチド断片が、第2の鎖と共に第1の鎖に結合し、ペプチド断片提示MHC分子を得るステップ、および
d)MHC分子から前記ペプチド断片を単離し、ペプチドワクチンに適当なペプチド断片を同定し、そのアミノ酸配列を決定するステップ
を含み、場合により、以下のステップe)からh)、即ち
e)ペプチド断片の決定されたアミノ酸配列に基づき、適当量のペプチドを遺伝子工学法または化学合成法により調製するステップ、
f)適当量の第1および第2の鎖を遺伝子工学法または化学合成法により調製するステップ、
g)第1の鎖、第2の鎖および調製したペプチドの同時インキュベーションにより、適当量のペプチド提示MHC分子を調製するステップ、および
h)ペプチド提示MHC分子の凍結乾燥物または水性のコロイド溶液もしくは懸濁液の形態で、ペプチドワクチンを調製するステップ
の実行を含む方法。
【請求項56】
第1の鎖と共に、第2の鎖もナノ粒子の表面に固定化されている請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記両鎖が、MHC分子形成二量体の形態でナノ粒子表面に固定化されている、請求項55または56に記載の方法。
【請求項58】
蛋白抗原のペプチド断片の集団を、酵素的蛋白分解、遺伝子工学法または化学合成法により調製する、請求項55から57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記集団のペプチド断片が、蛋白抗原の全アミノ酸配列を完全に表す請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記集団のペプチド断片が、蛋白抗原のアミノ酸配列を部分的にしか表さない請求項58に記載の方法。
【請求項61】
前記集団のペプチド断片が、コンピュータアルゴリズムにより決定された潜在的なT細胞エピトープを表すアミノ酸配列を有する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
ペプチド断片またはペプチドは、調製しようとするペプチド断片またはペプチド提示MHC分子がI型MHC分子である場合、アミノ酸8〜10個の長さを示し、あるいは、調製しようとするペプチド断片またはペプチド提示MHC分子がII型MHC分子である場合、アミノ酸15〜24個の長さを有する、請求項58から61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
第1の鎖が約45kDの重鎖であり、第2の鎖が約12kDの軽鎖であり、両鎖がI型MHC分子を形成できる、請求項55から62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
第1の鎖がHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体であり、第2の鎖がβ-2ミクログロブリンである、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
第1の鎖が約34kDのα鎖であり、第2の鎖が約30kDのβ鎖であり、両鎖がII型MHC分子を形成できる、請求項55から62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
第1の鎖および第2の鎖が、HLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DP単量体である、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
第1の鎖は第1の官能基を含み、ナノ粒子の表面上にある第2の官能基に第1の官能基が結合することにより、ナノ粒子の表面に固定化される、請求項55から66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
第2の鎖は第3の官能基を含み、ナノ粒子の表面上にある第4の官能基に第3の官能基が結合することにより、ナノ粒子の表面に固定化される、請求項55から67のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
第1の官能基は、第1の鎖の天然成分であるか、あるいは遺伝子工学法、生化学的、酵素的および/もしくは化学的誘導体化、または化学的合成法により第1の鎖中に導入される、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
第3の官能基は、第2の鎖の天然成分であるか、あるいは遺伝子工学法、生化学的、酵素的および/もしくは化学的誘導体化、または化学的合成法により第2の鎖中に導入される、請求項67に記載の方法。
【請求項71】
第1および第3の官能基は相互に異なり、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、ビオチン基、Hisタグ、FLAGタグ、StrepタグI基、StrepタグII基、ヒスチジンタグ基およびFLAGタグ基からなる群から選択される、請求項69または70に記載の方法。
【請求項72】
ナノ粒子表面上にある第2および第4の官能基は、相互に異なり、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、アビジン基、ストレプトアビジン基、ニュートラアビジン基および金属キレート錯体からなる群から選択される、請求項67または68に記載の方法。
【請求項73】
第2および第4の官能基は、グラフトシラン化、シラン化、化学的誘導体化および適当な類似の方法により、ナノ粒子表面上に捕捉される、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
ナノ粒子は、化学的に不活性な材料、好ましくはシリカからのコアを示し、直径30〜400nm、好ましくは50nm〜150nmを有する、請求項72または73に記載の方法。
【請求項75】
表面上に固定された第1の鎖を有するナノ粒子を以下のステップ、
a)第1の官能基を含む第1の鎖、第2の鎖、ならびにアミノ酸配列および適当な条件下でのMHC分子形成能が知られているペプチドのインキュベーション、
b)ペプチド提示MHC分子と、その表面が、第1の官能基に結合性の少なくとも1つの第2の官能基を有するナノ粒子との適当な条件下でのインキュベーションによる、ペプチド提示MHC分子のナノ粒子上への固定化、
c)ペプチド提示MHC分子を固定化したナノ粒子の適当な緩衝液での処理による、第2の鎖およびアミノ酸配列が既知の前記ペプチドの固定化MHC分子からの除去、ならびに
d)第1の鎖を固定化したナノ粒子の精製
により得る、請求項55から74のいずれか1項に記載の方法。
【請求項76】
第1の鎖を固定化したナノ粒子へのペプチド断片集団の競合的結合を、適当な緩衝液中、適当な条件下でペプチド断片集団をナノ粒子とインキュベーションすることによって行う、請求項55から75のいずれか1項に記載の方法。
【請求項77】
前記集団の親和性が最も高いペプチド断片と、第2の鎖とを結合して、固定化したペプチド断片提示MHC分子を形成した後、ナノ粒子を遠心分離および洗浄により緩衝液および未結合のペプチド断片から除去する、請求項55から76のいずれか1項に記載の方法。
【請求項78】
ペプチド断片提示MHC分子を固定化したナノ粒子を適当な緩衝液で処理することにより、結合ペプチド断片を遊離させる、請求項55から77のいずれか1項に記載の方法。
【請求項79】
遊離ペプチド断片を単離し、そのアミノ酸配列を決定する、請求項55から78のいずれか1項に記載の方法。
【請求項80】
遊離ペプチド断片の決定したアミノ酸配列に基づいて、前記配列決定済みアミノ酸配列をコードする核酸を作製し、適当な発現ベクター中に挿入し、前記核酸含有ベクターを適当な宿主細胞中に導入して前記アミノ酸配列を発現させ、前記ペプチド断片のアミノ酸配列を有するペプチドを細胞中に、好ましくは比較的多量に発現させ、単離する、請求項55から79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項81】
遊離ペプチド断片の決定したアミノ酸配列に基づいて、前記ペプチド断片のアミノ酸配列を有するペプチドの適量を化学的に合成する、請求項55から79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
受容体-リガンド複合体および/またはその成分の品質管理をする方法であって、少なくとも一方の受容体ユニットが第1の官能基を有する2種の受容体ユニット、およびリガンドから受容体-リガンド複合体の溶液を調製または用意すること、その表面上に第1の官能基に結合性の少なくとも1つの第2の官能基を有するナノ粒子に、前記受容体-リガンド複合体を固定化すること、ならびに受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子をMALDI法を使用して分析することを含む方法。
【請求項83】
受容体がMHC分子、リガンドが、配列が既知で長さの決まった受容体に結合性のペプチド、および受容体-リガンド複合体がペプチド提示MHC分子である、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
受容体がクラスIのMHC分子、一方の受容体ユニットが約45kDaの重鎖、および前記受容体ユニットが約12kDaの軽鎖である、請求項82または83に記載の方法。
【請求項85】
重鎖がHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体、軽鎖がβ-2ミクログロブリンである、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
受容体がクラスIIのMHC分子、1つの受容体ユニットが約34kDaのα鎖、および1つの受容体ユニットが約30kDaのβ鎖である、請求項82または83に記載の方法。
【請求項87】
α鎖およびβ鎖が、HLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DP単量体である、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
MALDI法がMALDI-TOF法である、請求項82から87のいずれか1項に記載の方法。
【請求項89】
表面上に少なくとも1つの固定化受容体ユニットまたは固定化受容体を有するナノ粒子の調製法であって、
a)第1の官能基を有する第1の受容体ユニット、第1の受容体ユニットと共に受容体を形成できる第2の受容体ユニット、およびリガンドの溶液中でのインキュベーションによる、受容体-リガンド複合体の調製、
b)第1の官能基に結合性の少なくとも1つの第2の官能基を表面に有するナノ粒子への、形成された受容体-リガンド複合体の固定化、ならびに
c)受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子の酸性緩衝液での処理による、少なくとも結合しているリガンドの遊離、および受容体ユニットを固定化したナノ粒子の取得
を含む調製法。
【請求項90】
受容体-リガンド複合体のナノ粒子表面への固定化が、第1の受容体ユニットの第1の官能基がナノ粒子の第2の官能基に結合することにより専ら行われる、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子を酸性緩衝液で処理した後、リガンドと共に第2の受容体ユニットも遊離し、第1の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる、請求項89または90に記載の方法。
【請求項92】
第2の受容体ユニットが第3の官能基を示し、ナノ粒子は、第2の受容体ユニットの第3の官能基に対して結合性の第4の官能基をその表面上に有する結果、受容体-リガンド複合体のナノ粒子への固定化が、第1の受容体ユニットの第1の官能基がナノ粒子の第2の官能基に結合すること、および第2の受容体ユニットの第3の官能基がナノ粒子の第4の官能基に結合することにより行われる、請求項89に記載の方法。
【請求項93】
受容体-リガンド複合体を固定化したナノ粒子を酸性緩衝液で処理した後、専らリガンドが遊離し、第1および第2の受容体ユニットを固定化したナノ粒子が得られる、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
第1および第2の受容体ユニットが、配向して固定化されており、かつリガンドを結合できる受容体を形成している、請求項92または93に記載の方法。
【請求項95】
受容体がMHC分子、リガンドは、配列が既知で長さの決まった受容体に結合性のペプチド、および受容体-リガンド複合体がペプチド提示MHC分子である、請求項89から94のいずれか1項に記載の方法。
【請求項96】
受容体がクラスIのMHC分子である、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
第1の受容体ユニットが約45kDaの重鎖で、第2の受容体ユニットが約12kDaの軽鎖であるか、または、第1の受容体ユニットが約12kDaの軽鎖で、第2の受容体ユニットが約45kDaの重鎖である、請求項95または96に記載の方法。
【請求項98】
重鎖がHLA-A、HLA-BまたはHLA-C単量体で、軽鎖がβ-2ミクログロブリンである、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
受容体がクラスIIのMHC分子である、請求項95に記載の方法。
【請求項100】
第1の受容体ユニットが約34kDaのα鎖で、第2の受容体ユニットが約30kDaのβ鎖であるか、または、第1の受容体ユニットが約30kDaのβ鎖で、第2の受容体ユニットが約34kDaのα鎖である、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
α鎖およびβ鎖が、HLA-DR、HLA-DQまたはHLA-DP単量体である、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
第1の官能基および第3の官能基は相互に異なり、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、ビオチン基、Hisタグ、FLAGタグ、StrepタグI基、StrepタグII基、ヒスチジンタグ基およびFLAGタグ基からなる群から選択される、請求項89から101のいずれか1項に記載の方法。
【請求項103】
第1の官能基を結合する、ナノ粒子表面上の第2の官能基、および第3の官能基を結合する、ナノ粒子表面上の第4の官能基が相互に異なり、アミノ基、カルボキシ基、マレイミド基、アビジン基、ストレプトアビジン基、ニュートラアビジン基および金属キレート錯体からなる群から選択される、請求項89から102のいずれか1項に記載の方法。
【請求項104】
受容体-ペプチド複合体を固定化したナノ粒子を、結合しているペプチドを除去するために、50mMクエン酸ナトリウムを含むpH値3.0の剥離用緩衝液で、20s未満、好ましくは10sの間にわたり処理する、請求項89から103のいずれか1項に記載の方法。
【請求項105】
ペプチド提示MHC分子を固定化したナノ粒子を調製する方法であって、請求項89から104のいずれか1項に記載の方法に従って調製可能な、MHC分子の少なくとも1つの第1の鎖を固定化したナノ粒子を、第1の鎖と共にMHC分子を形成できる第2の鎖の存在下、MHC分子に結合できるペプチドとインキュベートし、ナノ粒子に固定化したペプチド提示MHC分子を得る方法。
【請求項106】
MHC分子がクラスIの分子であり、前記ペプチドがアミノ酸約8〜約10個の長さを有する、請求項105に記載の方法。
【請求項107】
MHC分子がクラスIIの分子であり、前記ペプチドがアミノ酸約15〜約24個の長さを有する、請求項105に記載の方法。
【請求項108】
末梢血単核細胞(PBMC)から特定のCD4+-Tリンパ球またはCD8+-Tリンパ球を富化および/または単離する方法であって、
a)請求項105から107のいずれか1項に記載の方法に従い、ペプチドがT細胞エピトープである、ペプチド提示MHC分子を固定化したナノ粒子を調製し、
b)適当な出発材料から末梢血単核細胞を単離し、
c)単離した末梢血単核細胞とペプチド提示MHC分子を固定化したナノ粒子とインキュベーションして、固定化したペプチド提示MHC分子のT細胞エピトープをTリンパ球に結合させ、
d)固定化したペプチド提示MHC分子にTリンパ球が結合したナノ粒子を、未結合の末梢血単核細胞から除去すること、を含む前記方法。
【請求項109】
結合したTリンパ球をナノ粒子から遊離させる、請求項108に記載の方法。
【請求項110】
遊離したTリンパ球をin vitroのクローニングで増殖させる、請求項109に記載の方法。
【請求項111】
遊離および/またはクローニング増殖したTリンパ球を生体中に導入する、請求項109または110に記載の方法。
【請求項112】
ペプチド提示MHC分子がクラスIの分子であり、結合したTリンパ球がCD8+-Tリンパ球である、請求項108から111のいずれか1項に記載の方法。
【請求項113】
ペプチド提示MHC分子がクラスIIの分子であり、結合したTリンパ球がCD4+-Tリンパ球である、請求項108から111のいずれか1項に記載の方法。
【請求項114】
CD4+-Tおよび/またはCD8+-Tリンパ球の反応をin vitroで初回抗原刺激および/または再刺激する方法であって、
a)請求項1から54のいずれか1項に従い、T細胞エピトープの同定およびそのアミノ酸配列を決定し、
b)T細胞エピトープのアミノ酸配列を有するペプチドをコードする核酸を調製し、
c)b)で調製した核酸を適当なベクターに挿入し、
d)培養した末梢血単核細胞から必要に応じて単離した樹状細胞中に、c)で得たベクターを導入し、
e)d)で産生した、ベクターを有する樹状細胞をin vitroで増殖させ、そして
f)d)またはe)で得た樹状細胞を使用して、自家性のCD4+および/またはCD8+細胞をin vitroで刺激すること、を含む前記方法。
【請求項115】
表面上に少なくとも1つの受容体ユニット、好ましくはMHC分子の固定化された鎖を含むナノ粒子。
【請求項116】
前記固定鎖が、アミノ酸8〜24個のペプチドおよびMHC分子の第2の鎖を結合することにより、ペプチド提示MHC分子を形成できる、請求項115に記載のナノ粒子。
【請求項117】
前記MHC分子鎖が、その中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合によって、ナノ粒子表面上に固定化される、請求項115または116に記載のナノ粒子。
【請求項118】
MHC分子がクラスIのMHC分子であり、約45kDaの重鎖および約12kDaの軽鎖からなる、請求項115から117のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項119】
重鎖または軽鎖が固定化されている請求項118に記載のナノ粒子。
【請求項120】
MHC分子がクラスIIの分子であり、約34kDaのα鎖および約30kDaのβ鎖からなる、請求項115から117のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項121】
α鎖またはβ鎖が固定化されている請求項120に記載のナノ粒子。
【請求項122】
MHC分子は第1および第2の鎖を含み、前記MHC分子は、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合によって、または、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合および第2の鎖中に含まれる第3の官能基とナノ粒子表面上に存在する第4の官能基との結合によって、ナノ粒子表面上に固定化されている、MHC分子を固定化したナノ粒子。
【請求項123】
ペプチド提示MHC分子は第1の鎖、第2の鎖およびアミノ酸8〜24個のペプチドを含み、前記MHC分子は、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合によって、または、第1の鎖中に含まれる第1の官能基とナノ粒子表面上に存在する第2の官能基との結合および第2の鎖中に含まれる第3の官能基とナノ粒子表面上に存在する第4の官能基との結合によって、ナノ粒子表面上に固定化されている、ペプチド提示MHC分子をナノ粒子表面上に固定化したナノ粒子。
【請求項124】
MHC分子がクラスIのMHC分子であり、約45kDaの重鎖および約12kDaの軽鎖からなる、請求項122または123に記載のナノ粒子。
【請求項125】
第1の鎖が重鎖で、第2の鎖が軽鎖であるか、または、第1の鎖が軽鎖で、第2の鎖が重鎖である請求項124に記載のナノ粒子。
【請求項126】
MHC分子がクラスIIの分子であり、約34kDaのα鎖および約30kDaのβ鎖からなる、請求項122または123に記載のナノ粒子。
【請求項127】
第1の鎖がα鎖で、第2の鎖がβ鎖であるか、または、第1の鎖がβ鎖で、第2の鎖がα鎖である請求項126に記載のナノ粒子。
【請求項128】
請求項55から81のいずれか1項に記載の方法により調製可能な、少なくとも1つのペプチド提示MHC分子、および/または、請求項1から54までに記載の方法により同定されるT細胞エピトープを含んだ少なくとも1つの蛋白抗原を含む、ペプチドワクチン。
【請求項129】
凍結乾燥物として存在する、請求項128に記載のペプチドワクチン。
【請求項130】
水性のコロイド溶液または懸濁液として存在する、請求項128に記載のペプチドワクチン。
【請求項131】
更に少なくとも1種のアジュバントを含む、請求項128から130のいずれか1項に記載のペプチドワクチン。
【請求項132】
蛋白抗原のT細胞エピトープをin vitroで同定および/または検出するためのキットであって、請求項122から127のいずれか1項に記載のMHC分子を固定化したナノ粒子の懸濁液を有する容器、または、請求項115から121のいずれか1項に記載のMHC分子の第1の鎖を固定化したナノ粒子の懸濁液を有する容器と、第2の鎖の凍結乾燥物を有する容器とを含むキット。
【請求項133】
蛋白抗原のT細胞エピトープをin vitroで同定および/または検出するための、請求項115から127のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。
【請求項134】
ペプチドワクチンを調製するための、請求項115から127のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。
【請求項135】
特定のCD4+-Tリンパ球またはCD8+-Tリンパ球をin vitroで富化および/または単離するための、請求項115から127のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。
【請求項136】
in vitroでCD4+-Tまたは/およびCD8+-Tリンパ球の反応を初回抗原刺激および/または再刺激するための、請求項115から127のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。
【請求項137】
蛋白抗原に対して動物またはヒト生体を能動免疫するための、請求項128から131のいずれか1項に記載のペプチドワクチンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−522319(P2006−522319A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504530(P2006−504530)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002170
【国際公開番号】WO2004/078909
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(500242786)フラウンホファー ゲセルシャフトツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ. (47)
【Fターム(参考)】