抗原ペプチドおよび化学療法薬を用いる膵癌のための併用療法
本明細書では、膵癌等の治療に適した併用療法について記載する。ゲムシタビンなどの化学療法薬の治療効果を強化する方法についても記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
優先権
本出願は、2007年8月24日に出願した米国仮特許出願第60/957,923号の恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、抗原ペプチドおよび化学療法薬を使用する膵癌のための新規併用療法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
膵癌はあらゆる悪性腫瘍の中で最も死亡率の高いものの一つであり、患者の5年生存率は4%である。毎年およそ28,000人の患者が膵癌と診断されており、ほぼすべての患者がその疾患のために死亡する(Greenlee, R. T., et al., (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36(非特許文献1))。この悪性腫瘍の予後が不良であることは、早期診断が困難であること、および現行の治療法に対する反応性が乏しいことの結果である(Greenlee, R. T., et al. (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36(非特許文献1)、Klinkenbijl, J. H., et al. (1999) Ann Surg, 230: 776-82; discussion 782-4(非特許文献2))。特に、この疾患の早期の治癒可能な段階での信頼のおけるスクリーニングを可能にする腫瘍マーカーは、現時点では同定されていない。
【0004】
発癌メカニズムの解明を目的とした研究により、抗腫瘍薬を開発するための多くの候補標的分子が明らかにされてきた。例えば、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の治療に有効であることが示されている(Sun J et al., (1998) Oncogene, 16:1467-73(非特許文献3))。この薬剤はその後、転写後のファルネシル化に依存するRasに関連する増殖シグナル経路を阻害するために開発された。原癌遺伝子HER2/neuに拮抗するための、抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブと併用して抗腫瘍薬を適用したヒトでの臨床試験により、臨床反応の改善が達成され、乳癌患者の全体的な生存率が改善された。チロシンキナーゼ阻害剤STI−571は、bcr−ab1融合タンパク質を選択的に不活性化する阻害剤である。この薬剤はその後、bcr−ablチロシンキナーゼの恒常的な活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を治療するために開発された。このような薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を阻害するように設計されている(Molina MA, et al., (2000) Cancer Res, 16:4744-9(非特許文献4))。したがって、癌細胞において、発現が促進される遺伝子産物は一般に、新規抗腫瘍薬を開発するための潜在的標的となる。あるいは、核酸合成阻害剤もまた抗腫瘍薬として用いられ得る。例えば、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))は膵癌の第一線治療法である。ゲムシタビンとパクリタキセルの併用療法もまた、膵癌の治療に適用されている。
【0005】
その一方で、腫瘍の血管新生が腫瘍の進行に決定的に関与している。HLAクラスI分子は内皮細胞上で下方制御されないため、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1および2を標的とする内皮細胞ベースのアプローチに従って、腫瘍の血管新生に対する有効なワクチンを開発できることが以前に実証された(Wada S et al., Cancer Res 2005 Jun 1, 65(11): 4939-46(非特許文献5);Ishizaki H et al., Clin Cancer Res 2006 Oct 1, 12(19): 5841-9(非特許文献6))。VEGFRを発現している細胞に特異的な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導し、それによって特異的かつ効率的なCTL応答で腫瘍の血管新生を抑制するペプチドも、以前に記載されている(参照により本明細書に組み入れられるWO/2004/024766(特許文献1)を参照されたい)。
【0006】
本発明は、抗原ペプチド、特にVEGFR2を標的とする抗原ペプチドおよび癌ワクチン、ならびにゲムシタビンなどの化学療法薬を使用する膵癌のための新規併用療法を提供することにより、当技術分野における膵癌治療の改善の必要性に取り組む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO/2004/024766
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Greenlee, R. T., et al., (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36
【非特許文献2】Klinkenbijl, J. H., et al. (1999) Ann Surg, 230: 776-82; discussion 782-4
【非特許文献3】Sun J et al., (1998) Oncogene, 16:1467-73
【非特許文献4】Molina MA, et al., (2000) Cancer Res, 16:4744-9
【非特許文献5】Wada S et al., Cancer Res 2005 Jun 1, 65(11): 4939-46
【非特許文献6】Ishizaki H et al., Clin Cancer Res 2006 Oct 1, 12(19): 5841-9
【発明の概要】
【0009】
発明の開示
最先端の癌治療を考慮して、本発明の目的は、化学療法の治療効果を高める手段を見出すことであった。VEGFR2は腫瘍性組織の内皮細胞において強く発現されることから、VEGFシグナルの際の内皮細胞の増殖に関与すると考えられている。したがって、本発明は、VEGFR2(KDR/flk−1;以下KDRと称する)を標的とする癌ワクチン療法の可能性に着目した。その後、ゲムシタビンなどの化学療法薬の治療効果が、VEGFR2を発現している細胞に対する細胞傷害性T細胞を誘導するVEGFR2(KDR/flk−1;以下KDRと称する)ペプチドによって強化されることが発見された。したがって、以下を提供することが本発明の目的である。
【0010】
[1]対象に以下の(i)および(ii)を投与する段階を含む、対象における癌を治療する方法:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[2]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[1]の方法。
[3]癌が膵癌である、[1]の方法。
[4]それぞれ有効成分としての以下の(i)および(ii)、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を含む、対象における癌を治療するためのキット:
(i)[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド;および
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[5]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[4]のキット。
[6]癌が膵癌である、[4]のキット。
[7]以下の(i)を(ii)と組み合わせて含む、対象における癌を治療するための抗癌剤:
(i)[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド;および
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[8]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[7]の抗癌剤。
[9]癌が膵癌である、[7]の抗癌剤。
[10]対象における癌の治療における、以下の(i)と(ii)の組み合わせの使用:
(i)[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド;および
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[11]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[10]の使用。
[12]癌が膵癌である、[10]の使用。
[13]対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果を高めるための薬学的組成物を製造するための、[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドの使用。
[14]増強しようとする治療効果が、対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果であり、対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[13]の使用。
[15]癌が膵癌である、[14]の使用。
【0011】
本発明の1つまたは複数の局面は特定の目的を満たすことができる一方、1つまたは複数の他の局面は特定の他の目的を満たすことができることが、当業者によって理解されよう。各目的は、すべての点が、等しく本発明のすべての局面に当てはまらない場合がある。したがって、前述の目的は、本発明の任意の1つの局面に関して択一的に考慮することができる。本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、添付の図面および実施例と併せて以下の詳細な説明を読むことによって、より十分に明らかになるであろう。しかし、本発明の前述の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の様々な局面および用途は、以下の図面の簡単な説明ならびに発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することにより、当業者に明らかとなるであろう。
【図1】本実施例で使用した抗原ペプチドおよび化学療法薬の投与プロトコールを示す。
【図2】CD8陽性T細胞のうち、ナイーブT細胞、記憶T細胞、およびエフェクターT細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示す。機能的リンパ球画分はパーフォリン染色により決定した。
【図3】4カラー染色後にフローサイトメトリーによって測定した、ワクチン投与前後の調節性T細胞(例えば、CD4陽性T細胞のうちCD25高かつFoxp3陽性細胞)の数的変化を示す。
【図4】ワクチン接種後の症例3の、特に接種部位近傍のリンパ節腫脹のPETスキャンの結果を示す。
【図5】症例3における経時的な腫瘍マーカー濃度の変化を示す。
【図6】ワクチン接種前後に症例3で生じた特異的CTL反応のレベルを示す。
【図7】膵癌原発巣に及ぼす治療の縮小効果を示す、症例4の一連のCTスキャンを示す。
【図8】膵癌肝転移巣1に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例4の一連のCTスキャンを示す。
【図9】膵癌肝転移巣2に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例4の一連のCTスキャンを示す。
【図10】治療過程にわたる、症例4で生じた腫瘍マーカーであるCEAおよびCA19−9の変化を示す。
【図11】ワクチン接種前後に症例4で生じた特異的CTL反応を示す。
【図12】膵癌原発巣に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例6の一連のCTスキャンを示す。
【図13】膵癌原発巣に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例6の一連のPETスキャンを示す。
【図14】ワクチン接種前後に症例6で生じた特異的CTL反応を示す。
【図15】膵癌原発巣における変化を示す、症例7の一連のCTスキャンを示す。
【図16】治療過程にわたる、症例7で生じた腫瘍マーカーCA125の変化を示す。
【図17】ワクチン接種前後に症例7で生じた特異的CTL反応を示す。
【図18】膵癌原発巣における変化を示す、症例10の一連のCTスキャンを示す。
【図19】治療過程にわたる、症例10で生じた腫瘍マーカーCA125の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明の態様の実施または試験において、本明細書に記載のものと類似のまたは同等の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料はこれから記載するものである。しかしながら、本明細書に記載の特定の分子、組成物、方法論、またはプロトコールは慣行的な実験および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。説明に用いる専門用語は特定の形態または態様を説明する目的のためのみのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないこともまた理解されるべきである。
【0014】
特記しない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。しかしながら矛盾する場合には、定義も含め本明細書が優先する。したがって、本発明との関連において以下の定義が適用される。
【0015】
定義:
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という語は、特記しない限り「少なくとも1つ」を意味する。
【0016】
本発明との関連において、アミノ酸の付加、欠失、および/または置換に適用する場合の「いくつかの」という用語は、3〜7、好ましくは3〜5、より好ましくは3〜4、さらにより好ましくは3アミノ酸残基を意味する。
【0017】
本明細書で用いる「生物」という用語は、少なくとも1つの細胞から構成される任意の生物体を指す。生物は、例えば真核単細胞のように単純なものであってよく、またはヒトを含む哺乳動物のように複雑なものであってもよい。
【0018】
本明細書で用いる「生体試料」という用語は、生物全体、またはその組織、細胞、もしくは構成部分の一部(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、羊膜臍帯血、尿、膣液、および精液を含むがこれらに限定されない体液)を指す。「生体試料」という用語はさらに、生物全体、またはその細胞、組織、もしくは構成部分の一部から調製されたホモジネート、溶解物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物、あるいはその画分または一部を指す。最後に、「生体試料」は、タンパク質またはポリヌクレオチドなどの細胞成分を含有し、その中で生物が増殖する普通ブロスまたはゲルなどの培地を指す。
【0019】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は本明細書で互換的に用いられて、アミノ酸残基の重合体を指す。本用語は、天然アミノ酸重合体ばかりでなく、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの修飾残基または非天然残基であるアミノ酸重合体にも適用される。
【0020】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、本明細書において互換的に用いられて核酸残基の重合体を指し、特記しない限り、アミノ酸と同様に一般に是認されている1文字コードにより参照される。アミノ酸と同様に、これらの用語は天然および非天然核酸重合体の両方を包含する。
【0021】
本明細書で用いる「化学療法薬」という用語は、癌の治療において有用な化合物を指す。「化学療法薬」の例には、これらに限定されないが、以下のもの、ならびにその薬学的に許容される塩、酸、および誘導体が含まれる:アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロスホスファミド(cyclosphosphamide)など;スルホン酸アルキル、例えばブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなど;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa)など;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む、エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamine);ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビエヒン(novembiehin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなど;ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなど;抗生物質、例えばアクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カリチアマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモイニシン(chromoinycin)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダムビシン(idambicin)、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなど;代謝拮抗薬、例えばメトトレキサートおよび5−フルオロウラシル(5−FU)など;葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなど;プリン類似体、例えばフルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなど;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FUなど;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなど;抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなど;葉酸補充剤、例えばフロリン酸(frolinic acid)など;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK@ラゾキサン;シゾフラン(sizofrran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロフォスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOLO、Bristol−Myers Squibb Oncology、ニュージャージー州、プリンストン)およびドキセタキセル(doxetaxel)(TAXOTEW、Rh6ne−Poulenc Rorer、フランス、アントニー);クロランブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えばシスプラチンおよびカルボプラチンなど;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;xeloda;イバンドロン酸;CTP−11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラマイシン;ならびにカペシタビン。この定義には、抗エストロゲン剤、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼを阻害する4(5)−イミダゾール、4ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、オナプリストン、およびトレミフェン(Fareston)を含む;ならびに抗アンドロゲン剤、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド、およびゴセレリンなどのような、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤;ならびに上記の任意のものの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体も含まれる。
【0022】
抗原ペプチド:
上記の通り、本発明は、化学療法の治療効果を高めるまたは改善する薬剤、より詳細には、VEGFR2を標的とし、VEGFR2を発現している細胞に対する細胞傷害性T細胞を誘導し、続いてゲムシタビンなどの化学療法薬の治療効果を高めるまたは改善する抗原ペプチドに関する。
【0023】
VEGFR2の配列を有する抗原ペプチドを本発明の方法、キット、または組成物に用いることができる。本発明のとの関連における使用に適した抗原ペプチドは、好ましくは以下に示すアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、
GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、
SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、
RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、
KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、または
DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)。
【0024】
変異または改変されたペプチド、すなわち特定のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基の欠失、付加、および/または置換によって改変されたアミノ酸配列を有するペプチドは、当初の生物活性を保持することが知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666、Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。したがって、本発明は、上記配列の変化形および改変物も意図する。特に、上記のアミノ酸配列の1つに対して1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された抗原ペプチドはまた、得られた改変ペプチドが必須の細胞傷害性T細胞誘導能を保持するという条件で、本発明との関連において有用性を見出す。CTL誘導能、および1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された上記のアミノ酸配列を有するそのような改変ペプチドは、これらが別のタンパク質のアミノ酸配列と一致しないという条件で、本明細書において意図される。
【0025】
したがって、1つの好ましい態様では、N末端から2番目のアミノ酸が好ましくはフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、もしくはトリプトファンに置換されるか、またはC末端のアミノ酸が好ましくはフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、もしくはメチオニンに置換される;または1つもしくは2つのアミノ酸がN末端および/もしくはC末端に付加される。
【0026】
あるいは、以下に示すアミノ酸配列を有するペプチドから選択されるノナペプチドおよびデカペプチドもまた、高いCTL誘導能を有するペプチドとして好ましい。
AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、
VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、
AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、
KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、
YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、
IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、または
VLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)。
【0027】
本発明との関連において、上記のアミノ酸配列の1つに対して1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチドもまた用いることができる。1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された、上記の9または10アミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有するペプチドは、これらが別のタンパク質のアミノ酸配列と一致しない限り、CTL誘導能を有し得る。特に、例えば、N末端から2番目のアミノ酸は好ましくはロイシンもしくはメチオニンに置換されるか、またはC末端のアミノ酸は好ましくはバリンもしくはロイシンに置換される;または1つもしくは2つのアミノ酸がN末端および/もしくはC末端に付加される。
【0028】
このような改変ペプチドの例は、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)のペプチドのN末端から2番目のアミノ酸がロイシンに置換されたもの(VLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)であるが、本発明はこの例に限定されない。これらの改変ペプチドによる刺激を受けて得られたCTLクローンは、当初のペプチドを認識し、損傷を引き起こし得る。
【0029】
意図されるアミノ酸配列挿入の例には、1〜数残基の長さのアミノ末端および/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。末端挿入の例には、N末端メチオニル残基、または細胞傷害性ポリペプチドに融合される抗体が含まれる。本発明に用いるペプチドはまた、修飾が本明細書に記載するペプチドの生物活性を破壊しない限り、グリコシル化、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。他の修飾には、ペプチドのN末端またはC末端に対する、抗体の血清半減期を延長させる酵素またはポリペプチドの融合が含まれる。後者の例には、D−アミノ酸または他のアミノ酸模倣体が含まれる。
【0030】
本発明のペプチドに対して1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されるアミノ酸挿入との関連において、本発明は融合タンパク質もまた意図する。融合タンパク質は一般に、関心対象のポリペプチドまたはタンパク質と、有用性が公知であるポリペプチドまたはタンパク質から構成される。融合タンパク質は、フレームが一致するように、本発明のペプチドをコードするDNAと他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAを連結し、融合DNAを発現ベクターに挿入し、宿主においてこれを発現させるなど、当業者に周知の技法により作製することができる。本発明のタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質に関して制限はない。しかしながら、融合タンパク質との関連において用いることができる公知のペプチドの例には、これらに限定されないが、FLAG(Hopp, T. P. et al., Biotechnology (1988) 6, 1204-1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−myc断片、VSP−GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α−チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片等が含まれる。本発明のタンパク質に融合させることができるタンパク質の例には、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が含まれる。アミノ酸置換との関連において、置換しようとするアミノ酸残基は、好ましくはアミノ酸側鎖の特性が保存される異なるアミノ酸に変異させる(保存的アミノ酸置換として知られる過程)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の1文字コードを示すことに留意されたい。
【0031】
本発明の抗原ペプチドは、周知の技法を用いて調製することができる。例えば、組換えDNA技術または化学合成のいずれかを用いて、ペプチドを合成的に調製することができる。ペプチドは、個々に、または2つまたはそれ以上のペプチドから構成されるより長いポリペプチドとして、合成することができる。これらのペプチドは好ましくは単離されている、すなわち他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片を実質的に含まない。
【0032】
本発明の抗原ペプチドはカクテルの状態で提供されてもよいし、または標準的な技法を用いて相互に結合させてもよい。例えば、ペプチドを単一のポリペプチド配列として発現させることができる。組み合わせるペプチドは同じものであってもよいし、または異なるものであってもよい。本発明のペプチドを投与することにより、ペプチドが抗原提示細胞のHLA抗原上に高密度で提示され、次いで提示されたペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、対象から樹状細胞を取り出すことによって得られた、細胞表面上に本発明のペプチドが固定化された抗原提示細胞を、本発明のペプチドにより刺激してもよい。これらの細胞を各対象に再投与すると、CTLが誘導され、その結果として標的細胞に対する攻撃性が増加し得る。
【0033】
薬学的組成物およびその使用方法
本発明は、ゲムシタビンなどの化学療法薬と併用して用いる、膵癌を治療および/または予防するための薬物を提供する。本発明に用いるペプチドは、特に膵癌の治療において有用性を見出す。
【0034】
本発明の抗原ペプチドによる樹状細胞のインビボおよびインビトロ刺激は、該細胞を高濃度の該ペプチドに曝露し、該細胞に当初固定化されていたペプチドをこれらのペプチドで置換することによって、容易に行うことができる。したがって、本発明との関連において有用であるためには、抗原ペプチドは、HLA抗原に対して少なくともある程度のレベルの結合親和性を有さなければならない。
【0035】
このようなペプチドを含有する薬剤は、ペプチド自体として直接投与してもよいし、または従来の製剤化方法により製剤化された薬学的組成物として投与してもよい。そのような場合、薬剤は、ペプチドに加えて、薬剤に通常用いられる担体、賦形剤等を特定の制限なしに適宜含み得る。薬剤は、ゲムシタビンと併用して、膵癌の治療および予防に用いることができる。
【0036】
有効成分として本発明の抗原ペプチドを含有する、膵癌を治療および/または予防するための薬剤は、細胞性免疫を効果的に誘導するアジュバントと共に投与することができ;抗腫瘍薬等の他の有効成分と共に投与することができ;かつ顆粒状形態で投与することができる。適切なアジュバントは、文献(Clin. Microbiol. Rev., 7:277-289, 1994)に記載されている。さらに、本発明の薬剤は、リポソーム製剤として、直径数μmのビーズに結合させた顆粒状製剤として、および脂質を結合させた製剤として投与することができる。
【0037】
投与法は、例えば、経口的に、皮内に、もしくは皮下に、または静脈内注射等により行うことができる。全身投与、または標的腫瘍の近傍への、もしくは標的腫瘍内への直接的な局所投与が適用可能である。本発明のペプチドの用量は、治療しようとする疾患、患者の年齢および体重、投与法等に応じて適宜調整することができる。通常は0.001 mg〜1,000 mg、好ましくは0.001 mg〜1,000 mg、より好ましくは0.1 mg〜10 mgのペプチドを、好ましくは数日〜数カ月に1回投与する。より具体的には、ゲムシタビンの治療効果を高めるために、好ましい態様においては、0.5 mg〜2.0 mgのペプチドをゲムシタビンと併用して、数日〜数カ月に1回、より好ましくは1週間(7日)に1回投与することができる。当業者は、適切な用量を適宜選択することができる。
【0038】
あるいは、本発明との関連において、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体をその表面上に提示する細胞内小胞を、本発明の目的に用いてもよい。これらの細胞内小胞はエキソソームと称される。エキソソームは、例えば、特表平11−510507号公報および特表2000−512161号公報に詳細に記載されている方法に従って調製することができる。エキソソームは好ましくは、治療または予防の標的となる対象から得られた抗原提示細胞を用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様に癌ワクチンとして接種することができる。
【0039】
用いるべきHLA抗原の型は、治療および/または予防を必要とする対象のHLA抗原の型と一致しなければならない。例えば、日本人の場合には、HLA−A24またはHLA−A02、特にHLA−A2402またはHLA−A0201が適切である場合が多い。
【0040】
同様に、本発明との関連において、ペプチドによって誘導された単離された細胞傷害性T細胞を、本発明の目的に用いてもよい。本発明のペプチドを提示する抗原提示細胞での刺激により誘導された細胞傷害性T細胞は、好ましくは治療および/または予防の標的となる対象に由来する。細胞傷害性T細胞は、単独で、または抗腫瘍効果の目的のために、本発明のペプチド、エキソソーム等を含む他の薬物と併用して投与することができる。得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチドを提示する標的細胞、または好ましくは誘導に用いたものと同じペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。標的細胞は、KDRを内因的に発現する細胞であってもよいし、またはKDRを強制的に発現させた細胞であってもよい。さらに、これらのペプチドによる刺激により、本発明のペプチドをその細胞表面上に提示する細胞もまた、標的となり得る。
【0041】
本発明との関連において、HLA抗原とペプチドとの間で形成された複合体を提示する抗原提示細胞を、本発明の目的に用いてもよい。該ペプチド、または該ペプチドをコードするヌクレオチドとの接触によって得られる抗原提示細胞は、好ましくは治療および/または予防の標的となる対象に由来する。抗原提示細胞は、単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、および細胞傷害性T細胞などの他の薬物と併用して、ワクチンとして投与することができる。
【0042】
本発明との関連において、ペプチドは好ましくはゲムシタビンと併用して投与する。ゲムシタビンとは、化合物2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロシチジン一塩酸塩(b異性体)に付与された一般名である。ゲムシタビンの塩酸塩(ゲムシタビンHCl)から構成される薬学的組成物は、一般にGemzar(商品名)として市販されている。本発明との関連において、ゲムシタビン、ゲムシタビンの薬学的に許容される塩、またはそのプロドラッグのうちの少なくとも1つを、上述のペプチドと併用して投与することができる。したがって、特記しない限り、本明細書におけるゲムシタビンへの言及は、その塩またはプロドラッグを含む。
【0043】
ゲムシタビンは、膵癌を含むいくつかの癌の治療薬として既に臨床で用いられている化学療法薬である。膵癌の治療のために成人にゲムシタビンを投与する標準的な治療プロトコールは、1週間当たり1000 mg/m2のゲムシタビンの最長7週間の投与を含む。ゲムシタビンは典型的に、静脈内注入により投与する。膵癌治療においては、一般的に、3週間の投与とそれに続く1週間の未処置というスケジュールを1サイクルと設定し、この治療を必要に応じて継続および反復する。この期間中、ゲムシタビンの用量は、血液毒性等を指標として用いて調整することができる。本発明において、該ペプチドは、ゲムシタビンのそのような投与スケジュールに従って投与する。本発明の抗原ペプチドは、ゲムシタビン投与期間中のいかなる段階でも投与することができる。あるいは、本発明の抗原ペプチドによって誘導されたCTLがインビボでその活性を維持する限り、このようなペプチドをゲムシタビン投与の前に投与することができる。一般的に、それらをゲムシタビン投与と同じスケジュールで投与し、それによって患者の時間的拘束を最小限に維持することが理にかなっている。
【0044】
本明細書において発見された通り、RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)などのアミノ酸配列を有するVEGFR2由来ペプチドの投与により、ゲムシタビンの治療効果が改善され得る。本発明との関連において用いることができる例示的なVEGFR2由来ペプチドのアミノ酸配列を、再度以下に記載する。本発明との関連において、これらのアミノ酸配列の改変または変異型もまた、それらが所望のCTL誘導能を保持する限り、本発明において用いることができる。
VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、
GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、
SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、
RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、
KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、
DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)、
AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、
VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、
AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、
KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、
YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、
IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、または
VLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)。
【0045】
したがって、本発明は、ゲムシタビンの膵癌治療効果を高める薬剤であって、有効成分として上記のVEGFR2由来ペプチドを含む薬剤を提供する。あるいは、本発明は、膵癌に対するゲムシタビンの治療効果を高める薬学的組成物の生成におけるVEGFR2由来ペプチドの使用を提供する。さらに、本発明は、ゲムシタビンを用いる膵癌治療中の、VEGFR2由来ペプチドの併用(組み合わせ)を提供する。
【0046】
本発明に従って、膵癌治療のために、VEGFR2由来ペプチドをゲムシタビンと併用することができる。より具体的には、本発明は、薬学的に許容される担体、上述のVEGFR2由来ペプチド、およびゲムシタビンのそれぞれを有効成分として含有する薬学的組成物から構成される、膵癌を治療するためのキットを提供する。さらに、本発明は、上述のVEGFR2由来ペプチドとゲムシタビンの組み合わせを含む、膵癌を治療するための抗癌剤を提供する。あるいは、本発明は、上述のVEGFR2由来ペプチド、および該ペプチドをゲムシタビンと併用して膵癌患者に投与した場合に、ゲムシタビンの治療効果が高まることを記載してある指示書を含む、膵癌を治療するためのキットを提供する。
【0047】
別の態様において、本発明はまた、膵癌を含む癌を治療するための薬学的組成物の製造における、VECFR2由来ペプチドと、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の組み合わせの使用を提供する。あるいは、別の態様において、本発明は、膵癌を含む癌を治療するための薬学的組成物の製造におけるVEGFR2由来ペプチドの使用を提供し、この場合、薬学的組成物は、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬と併用される。別の態様において、本発明はさらに、膵癌を含む癌を治療するための、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を高めるための薬学的組成物の製造における、VEGFR2由来ペプチドの使用を提供する。
【0048】
あるいは、本発明はさらに、膵癌を含む癌を治療するための、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を高めるための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスであって、薬学的または生理学的に許容される担体を、有効成分としてのVEGFR2由来ペプチドと共に製剤化する段階を含む方法またはプロセスを提供する。別の態様において、本発明はさらに、膵癌を含む癌を治療するための、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を高めるための薬学的組成物を製造する方法またはプロセスであって、VEGFR2由来ペプチドを薬学的または生理学的に許容される担体と混合する段階を含む方法またはプロセスを提供する。
【0049】
別の態様において、本発明はまた、膵癌を含む癌を治療するためのキットを製造する方法またはプロセスであって、VEGFR2由来ペプチドおよび薬学的または生理学的に許容される担体を含む薬学的組成物を、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬と組み合わせるかまたは包装する段階を含む方法またはプロセスを提供する。あるいは、別の態様において、本発明はまた、膵癌を含む癌を治療するためのキットの製造における、VEGFR2由来ペプチドと、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の組み合わせの使用を提供する。
【0050】
本発明の上記の態様において、癌を治療しようとする対象は、HLA−A24陽性またはHLA−A02陽性であってよい。治療しようとする癌には膵癌が含まれる。
【0051】
実施例
以下、実施例を参照しながら、より詳細には、切除不能な進行再発膵癌の治療のための、新生腫瘍血管を標的とするエピトープペプチドのゲムシタビンとの併用をアッセイする臨床試験を参照しながら、本発明を詳細に説明する。しかしながら、そこに記載された材料、方法等は本発明の局面を説明するにすぎず、本発明の範囲を限定することは全く意図していない。したがって、そこに記載されたものと類似のまたは同等の材料、方法等を、本発明の実施または試験において用いてもよい。
【0052】
緒言
これより、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2/KDR)由来エピトープペプチドを不完全フロイントアジュバント(IFA)と混合した後に、患者に皮下投与する、切除不能な進行再発膵癌患者のための新規ワクチン化学療法の臨床試験について説明する。ペプチドワクチンは、腫瘍新血管新生の阻害を介して抗腫瘍効果を示すと予測される。ここでは、ペプチドワクチンを、膵癌化学療法の現在の標準であるゲムシタビンと併用する。本臨床試験は、患者3名のコホートにおいて投与エピトープペプチドの用量の段階的拡大を行うことによって、化学療法により新生腫瘍血管を阻害することおよび抗腫瘍効果をもたらすことを目的とした新規ワクチン化学療法の安全性を検証することを意図する。第2の目的は、奏功率、生存期間、および免疫反応を評価することである。
【0053】
外科的切除は膵癌の治癒に必要な治療法である;しかしながら、早期発見は難しく、診断時にはおよそ60%の患者が切除不能という状況にある[Matsuno S et al. Int J Clin Oncol. 5:153-157, 2000、Pantalone D et al. 18:41-46, 2001]。現在、切除不能な膵癌に対する標準治療としてゲムシタビンが用いられている;しかしながら、生存期間中央値および1年生存率は5−FUのみを投与した群と比較して改善されたが、それらはそれぞれ5.7カ月および18%であり、決して満足できるものではない。さらに、奏功率は5.4%〜14.3%であって高くなく[Burris HA et al. J.Clin Oncol. 15: 2403-2413, 1997、Casper ES et al. 12:29-34, 1994、Carmichael J et al. Br J Cancer;73:101-105, 1996、Rothenberg ML et al. Ann Oncol. 7: 347-53, 1996]、ゲムシタビンとの併用により奏功率および生存期間を改善し得る新規治療法を検討する必要がある。
【0054】
一方、近年、T細胞が抗原を認識する機序が明らかになり、加えて、腫瘍抗原としてCTLにより認識されるタンパク質が発見され、腫瘍抗原または抗原遺伝子を用いる治療法に関する研究が始まった。同定されたこの腫瘍拒絶抗原ペプチドを用いる免疫療法は悪性黒色腫にすぐに採用され、1998年以来、主にRosenberg et al.によって成功が報告されている。[Celis E. et al. Cancer Biology 6:329-336, 1995、Marchard M, et al. Int.J.Cancer 63:883-885, 1995]。その後、IL−2またはGM−CSFとの併用、複数の腫瘍拒絶抗原ペプチドを投与するためのプロトコールの開発、改変ペプチドの開発、およびペプチドパルス樹状細胞の臨床試験が行われ、腫瘍拒絶抗原ペプチドを用いる抗腫瘍免疫療法は、外科手術および化学療法などの従来の治療法を補完する治療法として、今日までも注目を集めている。
【0055】
細胞傷害性T細胞(CTL)によって認識および攻撃される腫瘍抗原が見出され、それ以来次々に腫瘍特異的抗原が同定され、これらの抗原を標的とする特異的免疫療法である、エピトープペプチドを用いる癌ワクチン療法の臨床試験が進行中である。しかしながら、新たな問題も明らかになった。たとえ強力なCTLが誘導され得るとしても、腫瘍細胞におけるMHC分子の発現の低下または欠損、腫瘍細胞における標的分子の欠如等が、CTL抗腫瘍効果を消失させ得る。さらに、今日までに同定された腫瘍抗原ペプチドは、特定の種類の腫瘍には存在するが、すべての腫瘍を包含しているわけではない。したがって、これらの問題を克服するために、ワクチン療法におけるCTLの標的細胞を、腫瘍細胞自体の代わりに、腫瘍新生血管内皮細胞に設定し、新生腫瘍血管由来分子を標的とするワクチン療法を考案した。標的分子として、正常内皮細胞ではほとんど発現されないが、腫瘍新生血管内皮細胞で高く発現され、これらの細胞の増殖にとって不可欠な血管内皮細胞増殖因子受容体である血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2/KDR)に注目した。
【0056】
VEGFR2は、乳癌、結腸癌、腎臓癌、悪性黒色腫、および肺癌などの多くの充実性腫瘍の腫瘍組織において発現されることが知られている[Folkman J. Nature Biotechnol. 15, 510, 1997、Folkman J. EXS 79, 1-8, 1997]。VEGFR2発現はまた、癌細胞増殖に強く関連していることも明らかにされている[Kranz A, et al. Int J Cancer 84: 293-298, 1999、Nakopoulou L, et al. Hum Pathol 33:863-870, 2002、Reden L, et al. Breast Cancer Res. and Treat. 82:147-154, 2003]。
【0057】
一方、VEGFR2が免疫療法の標的となり得るか否かに関して、VEGFR2のタンパク質およびDNAによるワクチン接種に関する基礎研究の結果から、腫瘍の腫瘍にかかわらず、抗腫瘍効果が新生腫瘍血管の抑制を介して認められることが示された;したがって、VEGFR2特異的細胞傷害性T細胞がこの抗腫瘍効果に関与することが確認された。上記より、VEGFR2が腫瘍免疫療法の標的となり得ることが示された[Yiwen, Li. et al. J. Exp. Med. 195, 1575-1584, 2002. Niethammer, A.G. et al. Nature Med. 8, 1369-1375, 2002]。さらに、ヒトにおける本発明者らの基礎解析の結果として、VEGFR2を認識および損傷するCTLクローンの存在が判明し、強力なCTLを誘導し得るHLA−A24またはA02拘束エピトープペプチドのいくつかの型が同定された。これらのエピトープペプチドによって誘導されたCTLは、HLA拘束様式でVEGFR2を内因的に発現する培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を損傷した。さらに、HLAを発現するA2/Kbトランスジェニックマウスを用いるインビボ抗腫瘍効果の試験において、VEGFR2由来エピトープペプチドを用いる癌ワクチン療法により、癌の種類にかかわらない強力な抗腫瘍効果が確認された。CTLは、本臨床試験において使用したペプチドを用いて癌患者の末梢血からも誘導され得たため、CTL前駆細胞が癌患者にも存在することが判明した[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005]。上記に従って、本ペプチドを投与し、患者においてVEGFR2特異的CTLを誘導することにより、腫瘍新血管新生を阻害することができ、強力な抗腫瘍効果を得ることができる。
【0058】
したがって、腫瘍新血管新生の阻害を通じて抗腫瘍効果を示すことが予測されるペプチドワクチンを、膵癌に対する現在の標準化学療法であるゲムシタビンと併用する、新規ワクチン化学療法を考案した。VEGFR2に由来し、HLA−A24またはHLA−A02拘束性エピトープペプチドである、RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)、AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、またはVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005、WO2004/024766]を、併用療法のためのワクチン製剤において用いる。
【0059】
理論的根拠の概要は以下の通りである:
1. VEGFR2は腫瘍新生血管内皮細胞の増殖に関与する重要な分子であり、このペプチドを用いてインビトロで特異的CTLを誘導することができる[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005、WO2004/024766]。
2. VEGFR2由来のHLA−A24またはHLA−A02拘束性エピトープペプチドを用いて、癌患者末梢血単核細胞からもまた、特異的CTLがインビトロで誘導され得る[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005]。
3. 大部分の日本人はHLA−A24またはHLA−A02を保有する[Date Y, et al. Tissue Antigen, 47, 93-101, 1996]。
4. これらは生化学的に安定しており、臨床試験に適している[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005]。
5. ゲムシタビンは、既に膵癌に対する化学療法薬として認可されている。
6. ゲムシタビンは、CTL誘導能などの免疫能を高めることが知られており[Correale P, et al. J Immunol. 175, 820-828, 2005、Dauer M, et al. J Immunother.28,332-342, 2005]、ワクチン製剤との併用からの効果が期待できる。
【0060】
本臨床試験は、上記の理論的根拠に基づいて行った。
【0061】
材料および方法
対象:
対象患者は、以下の選択基準および除外基準に従って選択した。
【0062】
選択基準:
1. 以下のために根治的切除が不可能であると判断された原発性膵癌;CTもしくは超音波検査による画像診断などの様々な診断による、肝転移、腹膜転移、および骨転移などの遠隔転移;日本膵臓学会編集の 膵癌取扱い規約(Classification of Pancreatic Carcinoma)、第5版によって規定される遠隔リンパ節転移;または大血管(再建不能な腹大動脈、固有肝動脈、左および右肝動脈、上腸間膜動脈、ならびに上腸間膜静脈)への浸潤;または再発膵癌。
2. RECISTにより測定可能な病変の有無は問わないが、腫瘍に及ぼす臨床効果の評価が可能でなければならない。
3. ECOG一般状態が0〜2。
4. 同意取得時の年齢が20歳以上かつ80歳以下。
5. ゲムシタビンおよびワクチン療法の開始時に、予想生命予後が3カ月またはそれ以上でなければならない。
6. 患者がある種の手術を受けている場合、患者はその手術の影響から回復していなければならない。あるいは、以前の治療から4週間またはそれ以上経過していなければならない。
7. 主要臓器の機能が維持されていなければならない:骨髄機能(白血球数2000/mm3以上かつ15000/mm3以下、および血小板数7.5/mm3以上);肝機能(GOTが150 IU/L以下、GPTが150 IU/L以下、およびT−bilが3.0 g/dL以下);および腎機能(Cr 3.0以下)。
8. 適切なHLAの存在。
9. 原発性疾患に対してゲムシタビンを用いた治療歴がない。
【0063】
除外基準:
1. 妊婦(妊娠可能な女性は、本臨床試験の開始後に避妊手段をとらなければならない)。
2. 授乳婦(本臨床試験の開始後に、授乳を停止しなければならない)。
3. 妊娠の意思がある患者(試験期間中は、男性および女性の双方で適切な避妊手段を取らなければならない)。
4. 制御が困難な活動性感染症を有する患者。
5. 試験中に以下の薬剤を投与しなければならない患者:
副腎ステロイド剤の全身投与;または免疫抑制剤の全身投与。
6. 制御不能な重複癌を有する患者。
7. 未治癒の外傷性病変を有する患者。
8. 腸管麻痺または間質性肺炎を有する疑いのある患者。
9. 医師または主治医により不適切と判定された患者。
【0064】
治療計画:
対象癌患者の選択:
対象患者は、適切なHLAを保有し、かつ根治的切除が不可能であると判断された原発性膵癌を有するか、または再発膵癌を有する患者であった。画像診断により膵癌が最も大きく疑われた症例も、対象患者に含めた。
【0065】
HLA発現の検査方法:
SRL,Inc(東京)に外部検査を依頼した。
【0066】
ゲムシタビンの用量:
治療投与量の標準であり、保険適用に承認された投与である1,000 mg/m2のゲムシタビン(ゲムシタビンHCl)を3週間投与し、その後1週間は投与しなかった。
【0067】
ペプチドおよびアジュバントの用量および投与方法:
0.5 mg、1 mg、および2 mgの合成ペプチドをそれぞれ0.5 mL、1 mL、および 2 mLの不完全フロイントアジュバント(MONTANIDE*ISA51VG、SEPPIC、フランス)と混合し、患者の脇の下または鼠径部近傍に皮下投与した。
【0068】
投与スケジュール:
スケジュールを図1に示す。1コースを、最初の投与の開始から28日間と設定した。
【0069】
用量段階的拡大法および患者3名のコホート:
ゲムシタビンの投与量および投与(1,000 mg/m2、3週間の投与および1週間の未投与)を固定し、ワクチン投与をペプチド用量に関して0.5 mg、1 mg、および2 mgに用量を段階的に拡大した。具体的には、ペプチド0.5 mgを患者3名に投与する。1名の個体たりとも、紛れもなく相関性のあるグレード4(NCI−CTCバージョン3.0)もしくはそれ以上の血液毒性(悪心/嘔吐を除く)またはグレード3(NCI−CTCバージョン3.0)もしくはそれ以上の血液毒性を示さない場合には、次の用量(1 mg)のペプチドを3名の患者に投与する。2名またはそれ以上の個体において副作用が現れた場合には、本臨床試験を中止する。1名の個体において副作用が現れた場合には、さらなる3名の患者を同一用量にさらに登録し、6症例のうち1症例において副作用が現れた場合には、試験を次の用量に進める。この段階で1名でも個体に副作用が認められれば、本臨床試験を中止する。1 mgから2 mgへの用量の段階的拡大も、同様の様式で行った。
【0070】
品質管理:
投与ペプチドに関しては、cGMP等級のペプチド(Neo−MPS、サンディエゴ)が東京大学、医科学研究所、ヒトゲノム解析センターより贈与された。アジュバントに関しては、GMP等級に従った不完全フロイントアジュバント(MONTANIDE*ISA51VG)をSEPPIC Co.、フランスより購入した。ペプチドの貯蔵およびペプチドワクチンの調製は、和歌山県立医科大学付属病院の薬剤部によって行われた。
【0071】
「予備試験投与]に関して:
アナフィラキシーショックなどの予期せぬ有害事象を回避する目的で、1回目のワクチン投与の前に、ペプチド10 mgを実際の投与部位と別の部位に予備試験投与として皮下投与し、30分間にわたりモニタリングを行う。グレード3またはそれ以上の局所反応または全身的有害事象が認められ得ない場合に、実際の投与を行った。「予備試験投与」に関して、症例のいずれにおいても、局所的有害事象および全身的有害事象は認められなかった。
【0072】
結果
試験データの評価:
安全性評価:
安全性評価は、ゲムシタビンおよびペプチドの投与を少なくとも1回受けた患者を対象とした。有害事象の存在および程度は、米国国立癌研究所−共通毒性基準(NCI−CTC)(日本語訳JCOG版)第3版を参照することにより判定した。
【0073】
免疫学的評価:
ワクチン投与の前、各コースの完了後(最初の投与後28日目)に、末梢血50 mLを採取し、Ficoll−paque密度遠心分離により末梢血単核細胞(PBMC)を分離および測定した。
【0074】
CTL反応の解析:
投与ペプチドによって生じるCTL反応を、IFN−γ ELISPOTアッセイ(ELISPOTヒトIFN−γセット、BD)を用いて測定した。より具体的には、VEGFR2−169(SEQ ID NO:1)およびHIV−A24ペプチドをA24−LCL(HLA−A*2402陽性)にパルスすることにより刺激因子を調製し、HIVペプチドを陰性対照として用いた。R/S比および刺激因子のそれぞれについて3ウェルで同時にアッセイを行い、単一ウェル当たりのスポット数として平均値を算出した。スポット数は、ELISPOTリーダー(IMMUNO SPOT、Cellular Technology Ltd.)で読み取った。VEGFR2−169パルスによるスポット数からHIVパルスによるスポット数を減算することにより得られた値を、VEGFR2−169に関する特異的IFN−γ産生スポット(特異的スポット)とした。1コース後および2コース後に、特異的IFN−γ産生スポットの増加が認められた場合、ワクチン投与により免疫反応が起こったと見なした。
【0075】
CD8陽性T細胞の集団解析(図2):
CD8陽性T細胞の中で、ナイーブT細胞、記憶T細胞、エフェクター記憶T細胞、およびエフェクターT細胞の各画分の割合に変化があるかどうかを、4カラー染色でのフローサイトメトリー(FACS Calibur、BD)により解析した。図2に示すように、PBMCのリンパ球画分にゲートをかけ、CD8陽性画分にゲートをかけた。CD27(BD)およびCD45RA(SD)を用いてCD8陽性画分をさらに展開して、エフェクター画分(CD27陰性/CD45RA陽性)、エフェクター記憶画分(CD27陰性/CD45RA陰性)、記憶画分(CD27陽性/CD45RA陰性)、およびナイーブ画分(CD27陽性/CD45RA陽性)を得た。同時に、パーフォリン染色(Cytofix/Cytopermキット、BD)により、機能的リンパ球画分を決定した。
【0076】
調節性T細胞の解析(図3):
CD4陽性T細胞のうちCD25高かつFoxp3陽性細胞を調節性T細胞と特定し、ワクチン投与前後のそれらの数的変化を、4カラー染色後にフローサイトメトリー(FACS Calibur、BD)によって測定した。より具体的には、図3に示す通り、PBMCのリンパ球画分にゲートをかけ、CD4およびCD25を用いて展開した後に、CD4陽性T細胞のうちCD25高かつFoxp3陽性細胞(ヒト調節性染色キット、eBioscience)の割合を算出した。
【0077】
臨床的有効性の評価:
細胞減少効果
本プロトコールにより規定されるコースを少なくとも1コース完了した患者を、対象として選択した。画像によって判定できる腫瘍に関して、各コースの最終ワクチン接種後に、主に「固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン第2版)日本語訳、JCOG版」に従って、臨床効果を評価した。臨床評価時に4週の期間を完了していない症例においても、それらの症例は客観的反応として記録し、それらの臨床的有意性を参照データとして評価した。抗腫瘍効果の評価には、CTおよびPETを用いた。
【0078】
生存期間:
長期経過観察を行い、生存期間および生存率を調べた。
【0079】
患者の結果:
3名が各レベルに参加し、安全性評価が可能となった。7月31日時点での症例を表1にまとめる(以下を参照されたい)。
【0080】
症例1(レベルI/0.5 mg)
症例1は68歳の女性であり、以前にTS−1を用いる化学療法による治療を受け、非応答性になり、その後本試験に登録した。2コースを行ったが、全身的有害事象はなく、ワクチン接種部位における局所的有害事象もなかった(表1、以下を参照されたい)。画像評価はPDであった。腫瘍マーカーも上昇した。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応は認められなかった(表2、以下を参照されたい)。ワクチン接種前には、調節性T細胞はその正常範囲(正常平均は3.9 +/− 1.2%)内にあったが、1コース後およびまた2コース後には正常範囲を超える増加が認められた(表6、以下を参照されたい)。患者は、最初のワクチン接種から3.3カ月後に、元の疾患の憎悪により死亡した。
【0081】
症例2(レベルI/0.5 mg)
症例2は66歳の男性であり、ワクチン接種を2回受けたが、本人の希望で別の病院に転院し、その後本試験から脱落した(表1、以下を参照されたい)。全身的有害事象はなく、ワクチン接種部位における局所的有害事象もなかった。
【0082】
症例3(レベルI/0.5 mg)
症例3は64歳の男性である。1コースを実施した。全身的有害事象として、グレード3の好中球減少および肝機能障害が認められた(表1、以下を参照されたい)。ゲムシタビンを1週間中止したところ、両状態から回復し、その後投与を継続した。局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められ、接種部位近傍にリンパ節腫脹(鼠径部腫脹)が認められた。PETを用いて、腫脹部位において強力な集積を示す画像が認められ(図4)、生体組織検査の結果として組織病理学的に強力な炎症が認められ、ペプチド接種に応答した免疫反応が示唆された。画像評価はSDであり、腫瘍マーカー(CA19−9)は低下した(図5)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(図6)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分およびエフェクターT細胞画分の増加が認められた(表3、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前には、調節性T細胞は正常範囲(正常平均は3.9 +/− 1.2%)を上回っていたが、1コース後には正常範囲まで減少した(表6、以下を参照されたい)。その後患者は、最初のワクチン接種から7.3カ月後に、元の疾患の憎悪により死亡した。
【0083】
症例4(レベルI/0.5 mg)
症例4は61歳の男性である。2コースを実施した。全身的有害事象はなく、局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められた(表1、以下を参照されたい)。画像評価は奏功であった。より具体的には、1コース後に膵尾部の原発巣はSDであることが判明し、2コース後には原発巣は明らかに縮小し、その効果はほぼ2カ月間持続した(図7)。肝門部の肝転移巣は、2コース後に完全に不顕性となった(図8)。胆嚢近傍の肝転移巣は1コース後に不顕性となり、2コース後にほぼ消失した(図9)。一方、ワクチン接種前に高レベルであった腫瘍マーカー(CA19−9およびCEA)は、1コース後および2コース後には低下し、腫瘍マーカーの低下傾向は1カ月後でさえ継続した(図10)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められた(図11)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。1回目のワクチン接種から6.3カ月間の時点で、この対象は生存していた。
【0084】
症例5(レベルII/1 mg)
症例5は65歳の男性である。2コースを実施した。全身的有害事象および局所的有害事象はなかった(表1、以下を参照されたい)。画像評価はPDであった。腫瘍マーカーも上昇した。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(表2、以下を参照されたい)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分およびエフェクターT細胞画分において増加が認められた(表4、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。その後患者は、最初のワクチン接種から4.5カ月後に、元の疾患の憎悪により死亡した。
【0085】
症例6(レベルII/1 mg)
症例6は57歳の女性である。2コースを実施した。全身的有害事象として、グレード3の好中球減少が認められた(表1、以下を参照されたい)。GEMを1週間中止したところ回復し、その後投与を継続した。局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められ、接種部位近傍にリンパ節腫脹(鼠径部腫脹)が認められた。画像評価は奏功であった。より具体的には、膵頭部の原発巣は2コース後に縮小し、この効果はほぼ2.5カ月間持続した(図12)。ワクチン接種前および2コースの完了後に得られたPETスキャンを比較した。腫瘍に対する集積は、2コース後に明らかに減少した(図13)。腫瘍に対する集積の量を客観的に示すSUV値を比較することにより、6から4.5に減少したことによって、抗腫瘍効果があることが明らかに示唆された。さらに、腫瘍マーカー(DUPAN2以外の腫瘍マーカーは、登録時から正常であった)は2コース後から低下し、低下効果は2カ月後でさえ継続した(表7、以下を参照されたい)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(図14)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分において増加が認められ、エフェクターT細胞画分において減少が認められた(表4、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。1回目のワクチン接種後6カ月の時点で、QOLは良好に保たれ、この対象は生存していた。
【0086】
症例7(レベルII/1 mg)
症例7は69歳の男性である。2コースを実施した。全身的有害事象として、グレード3の好中球減少が認められた(表1、以下を参照されたい)。GEMを1週間中止したところ回復し、その後投与を継続した。局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められ、接種部位近傍にリンパ節腫脹(鼠径部腫脹)が認められた。画像評価はSDであった(図15)。より具体的には、膵頭部の原発巣は2コース後に大きさの変化を全く示さず、この効果はほぼ2カ月間持続した(図15)。さらに、腫瘍マーカー(CA125以外の腫瘍マーカーは登録時より正常であった)は1コース後には低下し、低下効果は2カ月後でさえ継続した(図16)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(図17)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分において減少が認められ、エフェクターT細胞画分において増加が認められた(表4、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。1回目のワクチン接種後4.3の時点で、QOLは良好に保たれ、この対象は生存していた。
【0087】
症例8(レベルIII/2 mg)
症例8は58歳の男性である。1コースを完了し、2コース目を実施中に、拡大した腫瘍から消化管出血が起こった。原因は腫瘍の拡大であると判断され、試験を中止した(表1、以下を参照されたい)。全身的有害事象として、肝機能障害が認められた。局所的有害事象はなかった。1コースの完了時点の画像評価はPDであった。腫瘍マーカーも上昇した。
【0088】
症例9(レベルIII/2 mg)
症例9は73歳の男性である。1回の投与後、腫瘍の拡大によって生じた消化管狭窄のために試験を延期した(表1、以下を参照されたい)。
【0089】
症例10(レベルIII/2 mg)
症例9は62歳の男性である。1コースを実施した。全身的有害事象はなく、局所的有害事象として、グレード2またはそれ以下の硬結および発赤が認められた(表1、以下を参照されたい)。画像評価はSDであった(図18)。さらに、腫瘍マーカー(CA125以外の腫瘍マーカーは登録時から正常であった)は低下し、腫瘍マーカーの低下は約1カ月間継続した(図19)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(表2、以下を参照されたい)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分において増加が認められ、エフェクターT細胞画分において減少が認められた(表5、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前には調節性T細胞は6.4と高値であったが、1コース後には2.1という正常範囲まで減少した(表6、以下を参照されたい)。
【0090】
ゲムシタビン単独との比較
表8において(以下を参照されたい)、症例における抗腫瘍効果の観点、および免疫反応の1つであるDTH反応の観点から、ゲムシタビン単独でこれまでに得られたデータとの比較を行った。抗腫瘍効果を、疾患制御率(CR数+PR数+SD数/全症例)、および明確な抗腫瘍効果発現率(奏功)の点で比較した。GEM単独では該率は45%〜48%に留まったのに対し、本プロトコールを用いることで該率は62.5%と大きく上回った。奏功もまた2倍またはそれ以上上回った。免疫反応の1つであるDTH反応は、高頻度に認められた。DTH反応はVEGFR2単独ではほとんど認められないため(私信)、ゲムシタビンが免疫反応を高めたと考えられた。実際に、DTH反応が起こった症例では、SDまたはそれ以上の反応が臨床的に得られており、PD症例とDTHの見られない症例は完全に一致した。したがって、ある種の免疫反応が誘発される症例は、同様に臨床的に有効であると見なされる。
【0091】
(表1)臨床試験症例の概要
【0092】
(表2)投与ペプチドに対する特異的CTL反応/DTH反応
※NT:未試験
【0093】
(表3)レベルI CD8陽性T細胞画分の解析
※症例3:1コース後に終了。
NT:未試験
【0094】
(表4)レベルII CD8陽性T細胞画分の解析
【0095】
(表5)レベルIII CD8陽性T細胞画分の解析
※症例8 10:1コース後に終了。
NT:未試験
【0096】
(表6)CD4陽性/CD25高/Foxp3陽調節性T細胞の解析
健常個体の平均値(SD)・・・CD4+CD25高Foxp3+:3.9%(±1.2)
【0097】
(表7)治療過程にわたる症例6で生じた腫瘍マーカーの変化
(CEA、CA19−9、CA−125;正常範囲)
【0098】
(表8)本発明の治療に付随する抗腫瘍効果およびDTH反応の概要
【0099】
考察
膵癌が難治性であり、予後が最も悪い腫瘍であることは疑問の余地がない。現在、膵癌に対する唯一の薬学的療法はゲムシタビンであるが、臨床的にまだ満足できるものではない。
【0100】
一方、腫瘍抗原に対するエピトープペプチドが同定されたことを受けて、癌ワクチン療法に大きな期待が寄せられている;しかしながら、今日までの臨床成績はそのような期待に及ばないことは周知の事実である。主な理由は、腫瘍細胞におけるMHC分子の低い発現または欠如である。より具体的には、ワクチンを用いてたとえ強力なCTLが誘導されるとしても、MHC分子が欠如していれば、抗腫瘍効果は示され得ない。
【0101】
ワクチンによって生じたCTL反応が免疫学的モニタリングによって検出され得る場合でさえも、それらが抗腫瘍効果に直接つながらないという事実を考えると、MHC分子の低い発現および欠如に対する対策は非常に重要な目標である。さらに、腫瘍の不均一性もまた重要な問題である。CTLが1つの腫瘍抗原に対して誘導され得る場合でさえも、発現される分子が腫瘍増殖にとって必須の分子でない場合には、その分子はもはやCTLの標的とならないように除去され、腫瘍は増殖し続け得る。これらのワクチン療法の抗腫瘍効果に関する本質的な問題を解決することを目的として、本発明者らは、腫瘍新生血管内皮細胞において高く発現され、ワクチンとして用いることができるエピトープペプチドが同定されているVEGFR2に着目した[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005、WO 2004/024766]。
【0102】
慣習的に、ワクチン療法と化学療法の併用は、それらの生物学的特性に基づき適合しないと考えられている。しかしながら、調節性T細胞の発見およびそれらの解除などの腫瘍免疫の観点から、化学療法との併用の可能性が示唆されている。したがって、臨床試験を計画して、ゲムシタビンと、新生腫瘍血管を標的とするペプチドワクチン療法の併用による効果が膵癌に対して期待され得るかどうかを調べた。
【0103】
結果として、第一に、安全性の点で十分に許容されることが判明した。用量の段階的拡大に関して、グレード3またはそれ以上の全身的有害事象の解析(1コースの完了時)から、レベルIの3症例のうち1症例において、レベルIIの3症例のうち2症例において、およびレベルIIIの2症例のうち1症例において、好中球減少および肝機能障害が現れたことが示された;しかしながら、休薬またはG−CSFの投与により継続投与が可能になった。上記によれば、現在のところ、すべてのレベルが許容範囲内にある。これは腫瘍新生血管内皮細胞を標的とするワクチン療法であるため、出血傾向および他の有害事象が懸念される;しかしながら、正常血管内皮細胞では発現がほとんど見られないなどの、本手順を行う前の理論上の根拠が、ある程度正しいことが証明された。免疫学的モニタリングおよび臨床効果を通じて解析する用量の段階的拡大をDTH反応、CTL反応、および疾患制御率の観点で解析した場合、レベルIでは3症例のうち2症例において、およびレベルIIIでは2症例のうち1症例において、いずれも陽性であった。レベルIIでは、CTL反応のみが3症例のうち3症例において陽性であった(DTH反応および疾患制御率は、レベルIおよびIIIと同一であった)。症例数は少ないものの、上記より、レベルIIが推奨用量である可能性が示唆された。
【0104】
抗腫瘍効果に関して、ワクチン化学療法により併用の効果が明らかに認められたが、ワクチンがゲムシタビンの抗腫瘍効果を高めた可能性について考察する。表8の比較に見られるように、ゲムシタビン単独と比較した場合、明らかな腫瘍縮小効果は2倍またはそれ以上上回った。このことは、ゲムシタビンの直接的抗腫瘍効果がワクチンによって高められたことを意味する。より具体的には、ワクチンによって誘導されたCTLが、ゲムシタビンが効率的に腫瘍に到達し得るように腫瘍新生血管内皮細胞を破壊し、結果として強力な抗腫瘍効果が示されたと考えられる。次に、ゲムシタビンがワクチンの抗腫瘍効果を高めた可能性について考察する。投与ペプチドに対する免疫反応の解析から、強力なCTL反応が、SD症例を含めた主に臨床的に有効な症例において誘導されることが確認された。さらに、DTH反応が増大したため、このことから、ゲムシタビンが、ワクチンによる抗腫瘍効果の核心要素であるCTL反応を高めている可能性が強く示唆された。臨床的にも、SDを含めた抗腫瘍効果が長期間にわたり継続した症例が、5症例のうち4症例あり(症例4:1カ月;症例6:2カ月;症例7:2カ月;および症例10:1カ月)、これはワクチンによる長期抗腫瘍効果の結果であると考えられる。より具体的には、このことから、CTLがゲムシタビンにより効率的に誘導され、このCTLが長期抗腫瘍効果をもたらす可能性が示唆される。さらに、ゲムシタビンのために腫瘍が細胞死を起こし、これがワクチンによって活性化された抗腫瘍免疫反応と相乗的に作用する可能性もある。このように、ゲムシタビンとVEGFR2ペプチドを併用するワクチン化学療法により、副作用を増大させることのない、延命を含めた抗腫瘍効果の増強が、強く期待され得る。これは、予後が不良である膵癌の治療成績の改善にとって極めて朗報である。
【0105】
産業上の利用可能性
例えばゲムシタビンといった膵癌に対する化学療法薬の治療効果が、例えば、その内容が全体として参照により本明細書に組み入れられるWO 2004/024766において癌ワクチンとして同定されたKDRペプチドといった適切な抗原ペプチドと併用した場合に、有意に改善され得るまたは高められ得ることが、本明細書において発見された。したがって、本発明は、これを必要とする対象において膵癌を治療する改善法を提供する。
【0106】
本明細書で引用した出版物、データベース、配列、特許、および特許出願はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【0107】
本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、その境界が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、その範囲内で様々な変更および改変がなされ得ることは、当業者にとって明白であろう。
【技術分野】
【0001】
技術分野
優先権
本出願は、2007年8月24日に出願した米国仮特許出願第60/957,923号の恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、抗原ペプチドおよび化学療法薬を使用する膵癌のための新規併用療法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
膵癌はあらゆる悪性腫瘍の中で最も死亡率の高いものの一つであり、患者の5年生存率は4%である。毎年およそ28,000人の患者が膵癌と診断されており、ほぼすべての患者がその疾患のために死亡する(Greenlee, R. T., et al., (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36(非特許文献1))。この悪性腫瘍の予後が不良であることは、早期診断が困難であること、および現行の治療法に対する反応性が乏しいことの結果である(Greenlee, R. T., et al. (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36(非特許文献1)、Klinkenbijl, J. H., et al. (1999) Ann Surg, 230: 776-82; discussion 782-4(非特許文献2))。特に、この疾患の早期の治癒可能な段階での信頼のおけるスクリーニングを可能にする腫瘍マーカーは、現時点では同定されていない。
【0004】
発癌メカニズムの解明を目的とした研究により、抗腫瘍薬を開発するための多くの候補標的分子が明らかにされてきた。例えば、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の治療に有効であることが示されている(Sun J et al., (1998) Oncogene, 16:1467-73(非特許文献3))。この薬剤はその後、転写後のファルネシル化に依存するRasに関連する増殖シグナル経路を阻害するために開発された。原癌遺伝子HER2/neuに拮抗するための、抗HER2モノクローナル抗体であるトラスツズマブと併用して抗腫瘍薬を適用したヒトでの臨床試験により、臨床反応の改善が達成され、乳癌患者の全体的な生存率が改善された。チロシンキナーゼ阻害剤STI−571は、bcr−ab1融合タンパク質を選択的に不活性化する阻害剤である。この薬剤はその後、bcr−ablチロシンキナーゼの恒常的な活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たす慢性骨髄性白血病を治療するために開発された。このような薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を阻害するように設計されている(Molina MA, et al., (2000) Cancer Res, 16:4744-9(非特許文献4))。したがって、癌細胞において、発現が促進される遺伝子産物は一般に、新規抗腫瘍薬を開発するための潜在的標的となる。あるいは、核酸合成阻害剤もまた抗腫瘍薬として用いられ得る。例えば、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))は膵癌の第一線治療法である。ゲムシタビンとパクリタキセルの併用療法もまた、膵癌の治療に適用されている。
【0005】
その一方で、腫瘍の血管新生が腫瘍の進行に決定的に関与している。HLAクラスI分子は内皮細胞上で下方制御されないため、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1および2を標的とする内皮細胞ベースのアプローチに従って、腫瘍の血管新生に対する有効なワクチンを開発できることが以前に実証された(Wada S et al., Cancer Res 2005 Jun 1, 65(11): 4939-46(非特許文献5);Ishizaki H et al., Clin Cancer Res 2006 Oct 1, 12(19): 5841-9(非特許文献6))。VEGFRを発現している細胞に特異的な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導し、それによって特異的かつ効率的なCTL応答で腫瘍の血管新生を抑制するペプチドも、以前に記載されている(参照により本明細書に組み入れられるWO/2004/024766(特許文献1)を参照されたい)。
【0006】
本発明は、抗原ペプチド、特にVEGFR2を標的とする抗原ペプチドおよび癌ワクチン、ならびにゲムシタビンなどの化学療法薬を使用する膵癌のための新規併用療法を提供することにより、当技術分野における膵癌治療の改善の必要性に取り組む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO/2004/024766
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Greenlee, R. T., et al., (2001) CA Cancer J Clin, 51: 15-36
【非特許文献2】Klinkenbijl, J. H., et al. (1999) Ann Surg, 230: 776-82; discussion 782-4
【非特許文献3】Sun J et al., (1998) Oncogene, 16:1467-73
【非特許文献4】Molina MA, et al., (2000) Cancer Res, 16:4744-9
【非特許文献5】Wada S et al., Cancer Res 2005 Jun 1, 65(11): 4939-46
【非特許文献6】Ishizaki H et al., Clin Cancer Res 2006 Oct 1, 12(19): 5841-9
【発明の概要】
【0009】
発明の開示
最先端の癌治療を考慮して、本発明の目的は、化学療法の治療効果を高める手段を見出すことであった。VEGFR2は腫瘍性組織の内皮細胞において強く発現されることから、VEGFシグナルの際の内皮細胞の増殖に関与すると考えられている。したがって、本発明は、VEGFR2(KDR/flk−1;以下KDRと称する)を標的とする癌ワクチン療法の可能性に着目した。その後、ゲムシタビンなどの化学療法薬の治療効果が、VEGFR2を発現している細胞に対する細胞傷害性T細胞を誘導するVEGFR2(KDR/flk−1;以下KDRと称する)ペプチドによって強化されることが発見された。したがって、以下を提供することが本発明の目的である。
【0010】
[1]対象に以下の(i)および(ii)を投与する段階を含む、対象における癌を治療する方法:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[2]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[1]の方法。
[3]癌が膵癌である、[1]の方法。
[4]それぞれ有効成分としての以下の(i)および(ii)、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を含む、対象における癌を治療するためのキット:
(i)[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド;および
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[5]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[4]のキット。
[6]癌が膵癌である、[4]のキット。
[7]以下の(i)を(ii)と組み合わせて含む、対象における癌を治療するための抗癌剤:
(i)[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド;および
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[8]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[7]の抗癌剤。
[9]癌が膵癌である、[7]の抗癌剤。
[10]対象における癌の治療における、以下の(i)と(ii)の組み合わせの使用:
(i)[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド;および
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
[11]対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[10]の使用。
[12]癌が膵癌である、[10]の使用。
[13]対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果を高めるための薬学的組成物を製造するための、[1]における(i)の、(a)〜(h)からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドの使用。
[14]増強しようとする治療効果が、対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果であり、対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、[13]の使用。
[15]癌が膵癌である、[14]の使用。
【0011】
本発明の1つまたは複数の局面は特定の目的を満たすことができる一方、1つまたは複数の他の局面は特定の他の目的を満たすことができることが、当業者によって理解されよう。各目的は、すべての点が、等しく本発明のすべての局面に当てはまらない場合がある。したがって、前述の目的は、本発明の任意の1つの局面に関して択一的に考慮することができる。本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、添付の図面および実施例と併せて以下の詳細な説明を読むことによって、より十分に明らかになるであろう。しかし、本発明の前述の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の様々な局面および用途は、以下の図面の簡単な説明ならびに発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することにより、当業者に明らかとなるであろう。
【図1】本実施例で使用した抗原ペプチドおよび化学療法薬の投与プロトコールを示す。
【図2】CD8陽性T細胞のうち、ナイーブT細胞、記憶T細胞、およびエフェクターT細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示す。機能的リンパ球画分はパーフォリン染色により決定した。
【図3】4カラー染色後にフローサイトメトリーによって測定した、ワクチン投与前後の調節性T細胞(例えば、CD4陽性T細胞のうちCD25高かつFoxp3陽性細胞)の数的変化を示す。
【図4】ワクチン接種後の症例3の、特に接種部位近傍のリンパ節腫脹のPETスキャンの結果を示す。
【図5】症例3における経時的な腫瘍マーカー濃度の変化を示す。
【図6】ワクチン接種前後に症例3で生じた特異的CTL反応のレベルを示す。
【図7】膵癌原発巣に及ぼす治療の縮小効果を示す、症例4の一連のCTスキャンを示す。
【図8】膵癌肝転移巣1に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例4の一連のCTスキャンを示す。
【図9】膵癌肝転移巣2に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例4の一連のCTスキャンを示す。
【図10】治療過程にわたる、症例4で生じた腫瘍マーカーであるCEAおよびCA19−9の変化を示す。
【図11】ワクチン接種前後に症例4で生じた特異的CTL反応を示す。
【図12】膵癌原発巣に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例6の一連のCTスキャンを示す。
【図13】膵癌原発巣に及ぼす腫瘍縮小効果を示す、症例6の一連のPETスキャンを示す。
【図14】ワクチン接種前後に症例6で生じた特異的CTL反応を示す。
【図15】膵癌原発巣における変化を示す、症例7の一連のCTスキャンを示す。
【図16】治療過程にわたる、症例7で生じた腫瘍マーカーCA125の変化を示す。
【図17】ワクチン接種前後に症例7で生じた特異的CTL反応を示す。
【図18】膵癌原発巣における変化を示す、症例10の一連のCTスキャンを示す。
【図19】治療過程にわたる、症例10で生じた腫瘍マーカーCA125の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明の態様の実施または試験において、本明細書に記載のものと類似のまたは同等の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料はこれから記載するものである。しかしながら、本明細書に記載の特定の分子、組成物、方法論、またはプロトコールは慣行的な実験および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。説明に用いる専門用語は特定の形態または態様を説明する目的のためのみのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないこともまた理解されるべきである。
【0014】
特記しない限り、本明細書で用いる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。しかしながら矛盾する場合には、定義も含め本明細書が優先する。したがって、本発明との関連において以下の定義が適用される。
【0015】
定義:
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という語は、特記しない限り「少なくとも1つ」を意味する。
【0016】
本発明との関連において、アミノ酸の付加、欠失、および/または置換に適用する場合の「いくつかの」という用語は、3〜7、好ましくは3〜5、より好ましくは3〜4、さらにより好ましくは3アミノ酸残基を意味する。
【0017】
本明細書で用いる「生物」という用語は、少なくとも1つの細胞から構成される任意の生物体を指す。生物は、例えば真核単細胞のように単純なものであってよく、またはヒトを含む哺乳動物のように複雑なものであってもよい。
【0018】
本明細書で用いる「生体試料」という用語は、生物全体、またはその組織、細胞、もしくは構成部分の一部(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、羊膜臍帯血、尿、膣液、および精液を含むがこれらに限定されない体液)を指す。「生体試料」という用語はさらに、生物全体、またはその細胞、組織、もしくは構成部分の一部から調製されたホモジネート、溶解物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物、あるいはその画分または一部を指す。最後に、「生体試料」は、タンパク質またはポリヌクレオチドなどの細胞成分を含有し、その中で生物が増殖する普通ブロスまたはゲルなどの培地を指す。
【0019】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は本明細書で互換的に用いられて、アミノ酸残基の重合体を指す。本用語は、天然アミノ酸重合体ばかりでなく、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの修飾残基または非天然残基であるアミノ酸重合体にも適用される。
【0020】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、本明細書において互換的に用いられて核酸残基の重合体を指し、特記しない限り、アミノ酸と同様に一般に是認されている1文字コードにより参照される。アミノ酸と同様に、これらの用語は天然および非天然核酸重合体の両方を包含する。
【0021】
本明細書で用いる「化学療法薬」という用語は、癌の治療において有用な化合物を指す。「化学療法薬」の例には、これらに限定されないが、以下のもの、ならびにその薬学的に許容される塩、酸、および誘導体が含まれる:アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロスホスファミド(cyclosphosphamide)など;スルホン酸アルキル、例えばブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなど;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa)など;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む、エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamine);ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビエヒン(novembiehin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなど;ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなど;抗生物質、例えばアクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カリチアマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモイニシン(chromoinycin)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダムビシン(idambicin)、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなど;代謝拮抗薬、例えばメトトレキサートおよび5−フルオロウラシル(5−FU)など;葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなど;プリン類似体、例えばフルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなど;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FUなど;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなど;抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなど;葉酸補充剤、例えばフロリン酸(frolinic acid)など;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK@ラゾキサン;シゾフラン(sizofrran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロフォスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOLO、Bristol−Myers Squibb Oncology、ニュージャージー州、プリンストン)およびドキセタキセル(doxetaxel)(TAXOTEW、Rh6ne−Poulenc Rorer、フランス、アントニー);クロランブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えばシスプラチンおよびカルボプラチンなど;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;xeloda;イバンドロン酸;CTP−11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラマイシン;ならびにカペシタビン。この定義には、抗エストロゲン剤、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼを阻害する4(5)−イミダゾール、4ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、オナプリストン、およびトレミフェン(Fareston)を含む;ならびに抗アンドロゲン剤、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド、およびゴセレリンなどのような、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように作用する抗ホルモン剤;ならびに上記の任意のものの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体も含まれる。
【0022】
抗原ペプチド:
上記の通り、本発明は、化学療法の治療効果を高めるまたは改善する薬剤、より詳細には、VEGFR2を標的とし、VEGFR2を発現している細胞に対する細胞傷害性T細胞を誘導し、続いてゲムシタビンなどの化学療法薬の治療効果を高めるまたは改善する抗原ペプチドに関する。
【0023】
VEGFR2の配列を有する抗原ペプチドを本発明の方法、キット、または組成物に用いることができる。本発明のとの関連における使用に適した抗原ペプチドは、好ましくは以下に示すアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、
GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、
SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、
RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、
KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、または
DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)。
【0024】
変異または改変されたペプチド、すなわち特定のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基の欠失、付加、および/または置換によって改変されたアミノ酸配列を有するペプチドは、当初の生物活性を保持することが知られている(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666、Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。したがって、本発明は、上記配列の変化形および改変物も意図する。特に、上記のアミノ酸配列の1つに対して1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された抗原ペプチドはまた、得られた改変ペプチドが必須の細胞傷害性T細胞誘導能を保持するという条件で、本発明との関連において有用性を見出す。CTL誘導能、および1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された上記のアミノ酸配列を有するそのような改変ペプチドは、これらが別のタンパク質のアミノ酸配列と一致しないという条件で、本明細書において意図される。
【0025】
したがって、1つの好ましい態様では、N末端から2番目のアミノ酸が好ましくはフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、もしくはトリプトファンに置換されるか、またはC末端のアミノ酸が好ましくはフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、もしくはメチオニンに置換される;または1つもしくは2つのアミノ酸がN末端および/もしくはC末端に付加される。
【0026】
あるいは、以下に示すアミノ酸配列を有するペプチドから選択されるノナペプチドおよびデカペプチドもまた、高いCTL誘導能を有するペプチドとして好ましい。
AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、
VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、
AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、
KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、
YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、
IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、または
VLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)。
【0027】
本発明との関連において、上記のアミノ酸配列の1つに対して1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチドもまた用いることができる。1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換または付加された、上記の9または10アミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有するペプチドは、これらが別のタンパク質のアミノ酸配列と一致しない限り、CTL誘導能を有し得る。特に、例えば、N末端から2番目のアミノ酸は好ましくはロイシンもしくはメチオニンに置換されるか、またはC末端のアミノ酸は好ましくはバリンもしくはロイシンに置換される;または1つもしくは2つのアミノ酸がN末端および/もしくはC末端に付加される。
【0028】
このような改変ペプチドの例は、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)のペプチドのN末端から2番目のアミノ酸がロイシンに置換されたもの(VLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)であるが、本発明はこの例に限定されない。これらの改変ペプチドによる刺激を受けて得られたCTLクローンは、当初のペプチドを認識し、損傷を引き起こし得る。
【0029】
意図されるアミノ酸配列挿入の例には、1〜数残基の長さのアミノ末端および/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。末端挿入の例には、N末端メチオニル残基、または細胞傷害性ポリペプチドに融合される抗体が含まれる。本発明に用いるペプチドはまた、修飾が本明細書に記載するペプチドの生物活性を破壊しない限り、グリコシル化、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。他の修飾には、ペプチドのN末端またはC末端に対する、抗体の血清半減期を延長させる酵素またはポリペプチドの融合が含まれる。後者の例には、D−アミノ酸または他のアミノ酸模倣体が含まれる。
【0030】
本発明のペプチドに対して1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されるアミノ酸挿入との関連において、本発明は融合タンパク質もまた意図する。融合タンパク質は一般に、関心対象のポリペプチドまたはタンパク質と、有用性が公知であるポリペプチドまたはタンパク質から構成される。融合タンパク質は、フレームが一致するように、本発明のペプチドをコードするDNAと他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAを連結し、融合DNAを発現ベクターに挿入し、宿主においてこれを発現させるなど、当業者に周知の技法により作製することができる。本発明のタンパク質に融合させるペプチドまたはタンパク質に関して制限はない。しかしながら、融合タンパク質との関連において用いることができる公知のペプチドの例には、これらに限定されないが、FLAG(Hopp, T. P. et al., Biotechnology (1988) 6, 1204-1210)、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−myc断片、VSP−GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α−チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片等が含まれる。本発明のタンパク質に融合させることができるタンパク質の例には、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)等が含まれる。アミノ酸置換との関連において、置換しようとするアミノ酸残基は、好ましくはアミノ酸側鎖の特性が保存される異なるアミノ酸に変異させる(保存的アミノ酸置換として知られる過程)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の1文字コードを示すことに留意されたい。
【0031】
本発明の抗原ペプチドは、周知の技法を用いて調製することができる。例えば、組換えDNA技術または化学合成のいずれかを用いて、ペプチドを合成的に調製することができる。ペプチドは、個々に、または2つまたはそれ以上のペプチドから構成されるより長いポリペプチドとして、合成することができる。これらのペプチドは好ましくは単離されている、すなわち他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片を実質的に含まない。
【0032】
本発明の抗原ペプチドはカクテルの状態で提供されてもよいし、または標準的な技法を用いて相互に結合させてもよい。例えば、ペプチドを単一のポリペプチド配列として発現させることができる。組み合わせるペプチドは同じものであってもよいし、または異なるものであってもよい。本発明のペプチドを投与することにより、ペプチドが抗原提示細胞のHLA抗原上に高密度で提示され、次いで提示されたペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、対象から樹状細胞を取り出すことによって得られた、細胞表面上に本発明のペプチドが固定化された抗原提示細胞を、本発明のペプチドにより刺激してもよい。これらの細胞を各対象に再投与すると、CTLが誘導され、その結果として標的細胞に対する攻撃性が増加し得る。
【0033】
薬学的組成物およびその使用方法
本発明は、ゲムシタビンなどの化学療法薬と併用して用いる、膵癌を治療および/または予防するための薬物を提供する。本発明に用いるペプチドは、特に膵癌の治療において有用性を見出す。
【0034】
本発明の抗原ペプチドによる樹状細胞のインビボおよびインビトロ刺激は、該細胞を高濃度の該ペプチドに曝露し、該細胞に当初固定化されていたペプチドをこれらのペプチドで置換することによって、容易に行うことができる。したがって、本発明との関連において有用であるためには、抗原ペプチドは、HLA抗原に対して少なくともある程度のレベルの結合親和性を有さなければならない。
【0035】
このようなペプチドを含有する薬剤は、ペプチド自体として直接投与してもよいし、または従来の製剤化方法により製剤化された薬学的組成物として投与してもよい。そのような場合、薬剤は、ペプチドに加えて、薬剤に通常用いられる担体、賦形剤等を特定の制限なしに適宜含み得る。薬剤は、ゲムシタビンと併用して、膵癌の治療および予防に用いることができる。
【0036】
有効成分として本発明の抗原ペプチドを含有する、膵癌を治療および/または予防するための薬剤は、細胞性免疫を効果的に誘導するアジュバントと共に投与することができ;抗腫瘍薬等の他の有効成分と共に投与することができ;かつ顆粒状形態で投与することができる。適切なアジュバントは、文献(Clin. Microbiol. Rev., 7:277-289, 1994)に記載されている。さらに、本発明の薬剤は、リポソーム製剤として、直径数μmのビーズに結合させた顆粒状製剤として、および脂質を結合させた製剤として投与することができる。
【0037】
投与法は、例えば、経口的に、皮内に、もしくは皮下に、または静脈内注射等により行うことができる。全身投与、または標的腫瘍の近傍への、もしくは標的腫瘍内への直接的な局所投与が適用可能である。本発明のペプチドの用量は、治療しようとする疾患、患者の年齢および体重、投与法等に応じて適宜調整することができる。通常は0.001 mg〜1,000 mg、好ましくは0.001 mg〜1,000 mg、より好ましくは0.1 mg〜10 mgのペプチドを、好ましくは数日〜数カ月に1回投与する。より具体的には、ゲムシタビンの治療効果を高めるために、好ましい態様においては、0.5 mg〜2.0 mgのペプチドをゲムシタビンと併用して、数日〜数カ月に1回、より好ましくは1週間(7日)に1回投与することができる。当業者は、適切な用量を適宜選択することができる。
【0038】
あるいは、本発明との関連において、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体をその表面上に提示する細胞内小胞を、本発明の目的に用いてもよい。これらの細胞内小胞はエキソソームと称される。エキソソームは、例えば、特表平11−510507号公報および特表2000−512161号公報に詳細に記載されている方法に従って調製することができる。エキソソームは好ましくは、治療または予防の標的となる対象から得られた抗原提示細胞を用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様に癌ワクチンとして接種することができる。
【0039】
用いるべきHLA抗原の型は、治療および/または予防を必要とする対象のHLA抗原の型と一致しなければならない。例えば、日本人の場合には、HLA−A24またはHLA−A02、特にHLA−A2402またはHLA−A0201が適切である場合が多い。
【0040】
同様に、本発明との関連において、ペプチドによって誘導された単離された細胞傷害性T細胞を、本発明の目的に用いてもよい。本発明のペプチドを提示する抗原提示細胞での刺激により誘導された細胞傷害性T細胞は、好ましくは治療および/または予防の標的となる対象に由来する。細胞傷害性T細胞は、単独で、または抗腫瘍効果の目的のために、本発明のペプチド、エキソソーム等を含む他の薬物と併用して投与することができる。得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチドを提示する標的細胞、または好ましくは誘導に用いたものと同じペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。標的細胞は、KDRを内因的に発現する細胞であってもよいし、またはKDRを強制的に発現させた細胞であってもよい。さらに、これらのペプチドによる刺激により、本発明のペプチドをその細胞表面上に提示する細胞もまた、標的となり得る。
【0041】
本発明との関連において、HLA抗原とペプチドとの間で形成された複合体を提示する抗原提示細胞を、本発明の目的に用いてもよい。該ペプチド、または該ペプチドをコードするヌクレオチドとの接触によって得られる抗原提示細胞は、好ましくは治療および/または予防の標的となる対象に由来する。抗原提示細胞は、単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、および細胞傷害性T細胞などの他の薬物と併用して、ワクチンとして投与することができる。
【0042】
本発明との関連において、ペプチドは好ましくはゲムシタビンと併用して投与する。ゲムシタビンとは、化合物2’−デオキシ−2’,2’−ジフルオロシチジン一塩酸塩(b異性体)に付与された一般名である。ゲムシタビンの塩酸塩(ゲムシタビンHCl)から構成される薬学的組成物は、一般にGemzar(商品名)として市販されている。本発明との関連において、ゲムシタビン、ゲムシタビンの薬学的に許容される塩、またはそのプロドラッグのうちの少なくとも1つを、上述のペプチドと併用して投与することができる。したがって、特記しない限り、本明細書におけるゲムシタビンへの言及は、その塩またはプロドラッグを含む。
【0043】
ゲムシタビンは、膵癌を含むいくつかの癌の治療薬として既に臨床で用いられている化学療法薬である。膵癌の治療のために成人にゲムシタビンを投与する標準的な治療プロトコールは、1週間当たり1000 mg/m2のゲムシタビンの最長7週間の投与を含む。ゲムシタビンは典型的に、静脈内注入により投与する。膵癌治療においては、一般的に、3週間の投与とそれに続く1週間の未処置というスケジュールを1サイクルと設定し、この治療を必要に応じて継続および反復する。この期間中、ゲムシタビンの用量は、血液毒性等を指標として用いて調整することができる。本発明において、該ペプチドは、ゲムシタビンのそのような投与スケジュールに従って投与する。本発明の抗原ペプチドは、ゲムシタビン投与期間中のいかなる段階でも投与することができる。あるいは、本発明の抗原ペプチドによって誘導されたCTLがインビボでその活性を維持する限り、このようなペプチドをゲムシタビン投与の前に投与することができる。一般的に、それらをゲムシタビン投与と同じスケジュールで投与し、それによって患者の時間的拘束を最小限に維持することが理にかなっている。
【0044】
本明細書において発見された通り、RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)などのアミノ酸配列を有するVEGFR2由来ペプチドの投与により、ゲムシタビンの治療効果が改善され得る。本発明との関連において用いることができる例示的なVEGFR2由来ペプチドのアミノ酸配列を、再度以下に記載する。本発明との関連において、これらのアミノ酸配列の改変または変異型もまた、それらが所望のCTL誘導能を保持する限り、本発明において用いることができる。
VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、
GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、
SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、
RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、
KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、
DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)、
AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、
VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、
AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、
KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、
YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、
IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、または
VLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)。
【0045】
したがって、本発明は、ゲムシタビンの膵癌治療効果を高める薬剤であって、有効成分として上記のVEGFR2由来ペプチドを含む薬剤を提供する。あるいは、本発明は、膵癌に対するゲムシタビンの治療効果を高める薬学的組成物の生成におけるVEGFR2由来ペプチドの使用を提供する。さらに、本発明は、ゲムシタビンを用いる膵癌治療中の、VEGFR2由来ペプチドの併用(組み合わせ)を提供する。
【0046】
本発明に従って、膵癌治療のために、VEGFR2由来ペプチドをゲムシタビンと併用することができる。より具体的には、本発明は、薬学的に許容される担体、上述のVEGFR2由来ペプチド、およびゲムシタビンのそれぞれを有効成分として含有する薬学的組成物から構成される、膵癌を治療するためのキットを提供する。さらに、本発明は、上述のVEGFR2由来ペプチドとゲムシタビンの組み合わせを含む、膵癌を治療するための抗癌剤を提供する。あるいは、本発明は、上述のVEGFR2由来ペプチド、および該ペプチドをゲムシタビンと併用して膵癌患者に投与した場合に、ゲムシタビンの治療効果が高まることを記載してある指示書を含む、膵癌を治療するためのキットを提供する。
【0047】
別の態様において、本発明はまた、膵癌を含む癌を治療するための薬学的組成物の製造における、VECFR2由来ペプチドと、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の組み合わせの使用を提供する。あるいは、別の態様において、本発明は、膵癌を含む癌を治療するための薬学的組成物の製造におけるVEGFR2由来ペプチドの使用を提供し、この場合、薬学的組成物は、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬と併用される。別の態様において、本発明はさらに、膵癌を含む癌を治療するための、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を高めるための薬学的組成物の製造における、VEGFR2由来ペプチドの使用を提供する。
【0048】
あるいは、本発明はさらに、膵癌を含む癌を治療するための、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を高めるための薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスであって、薬学的または生理学的に許容される担体を、有効成分としてのVEGFR2由来ペプチドと共に製剤化する段階を含む方法またはプロセスを提供する。別の態様において、本発明はさらに、膵癌を含む癌を治療するための、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を高めるための薬学的組成物を製造する方法またはプロセスであって、VEGFR2由来ペプチドを薬学的または生理学的に許容される担体と混合する段階を含む方法またはプロセスを提供する。
【0049】
別の態様において、本発明はまた、膵癌を含む癌を治療するためのキットを製造する方法またはプロセスであって、VEGFR2由来ペプチドおよび薬学的または生理学的に許容される担体を含む薬学的組成物を、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬と組み合わせるかまたは包装する段階を含む方法またはプロセスを提供する。あるいは、別の態様において、本発明はまた、膵癌を含む癌を治療するためのキットの製造における、VEGFR2由来ペプチドと、ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬の組み合わせの使用を提供する。
【0050】
本発明の上記の態様において、癌を治療しようとする対象は、HLA−A24陽性またはHLA−A02陽性であってよい。治療しようとする癌には膵癌が含まれる。
【0051】
実施例
以下、実施例を参照しながら、より詳細には、切除不能な進行再発膵癌の治療のための、新生腫瘍血管を標的とするエピトープペプチドのゲムシタビンとの併用をアッセイする臨床試験を参照しながら、本発明を詳細に説明する。しかしながら、そこに記載された材料、方法等は本発明の局面を説明するにすぎず、本発明の範囲を限定することは全く意図していない。したがって、そこに記載されたものと類似のまたは同等の材料、方法等を、本発明の実施または試験において用いてもよい。
【0052】
緒言
これより、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2/KDR)由来エピトープペプチドを不完全フロイントアジュバント(IFA)と混合した後に、患者に皮下投与する、切除不能な進行再発膵癌患者のための新規ワクチン化学療法の臨床試験について説明する。ペプチドワクチンは、腫瘍新血管新生の阻害を介して抗腫瘍効果を示すと予測される。ここでは、ペプチドワクチンを、膵癌化学療法の現在の標準であるゲムシタビンと併用する。本臨床試験は、患者3名のコホートにおいて投与エピトープペプチドの用量の段階的拡大を行うことによって、化学療法により新生腫瘍血管を阻害することおよび抗腫瘍効果をもたらすことを目的とした新規ワクチン化学療法の安全性を検証することを意図する。第2の目的は、奏功率、生存期間、および免疫反応を評価することである。
【0053】
外科的切除は膵癌の治癒に必要な治療法である;しかしながら、早期発見は難しく、診断時にはおよそ60%の患者が切除不能という状況にある[Matsuno S et al. Int J Clin Oncol. 5:153-157, 2000、Pantalone D et al. 18:41-46, 2001]。現在、切除不能な膵癌に対する標準治療としてゲムシタビンが用いられている;しかしながら、生存期間中央値および1年生存率は5−FUのみを投与した群と比較して改善されたが、それらはそれぞれ5.7カ月および18%であり、決して満足できるものではない。さらに、奏功率は5.4%〜14.3%であって高くなく[Burris HA et al. J.Clin Oncol. 15: 2403-2413, 1997、Casper ES et al. 12:29-34, 1994、Carmichael J et al. Br J Cancer;73:101-105, 1996、Rothenberg ML et al. Ann Oncol. 7: 347-53, 1996]、ゲムシタビンとの併用により奏功率および生存期間を改善し得る新規治療法を検討する必要がある。
【0054】
一方、近年、T細胞が抗原を認識する機序が明らかになり、加えて、腫瘍抗原としてCTLにより認識されるタンパク質が発見され、腫瘍抗原または抗原遺伝子を用いる治療法に関する研究が始まった。同定されたこの腫瘍拒絶抗原ペプチドを用いる免疫療法は悪性黒色腫にすぐに採用され、1998年以来、主にRosenberg et al.によって成功が報告されている。[Celis E. et al. Cancer Biology 6:329-336, 1995、Marchard M, et al. Int.J.Cancer 63:883-885, 1995]。その後、IL−2またはGM−CSFとの併用、複数の腫瘍拒絶抗原ペプチドを投与するためのプロトコールの開発、改変ペプチドの開発、およびペプチドパルス樹状細胞の臨床試験が行われ、腫瘍拒絶抗原ペプチドを用いる抗腫瘍免疫療法は、外科手術および化学療法などの従来の治療法を補完する治療法として、今日までも注目を集めている。
【0055】
細胞傷害性T細胞(CTL)によって認識および攻撃される腫瘍抗原が見出され、それ以来次々に腫瘍特異的抗原が同定され、これらの抗原を標的とする特異的免疫療法である、エピトープペプチドを用いる癌ワクチン療法の臨床試験が進行中である。しかしながら、新たな問題も明らかになった。たとえ強力なCTLが誘導され得るとしても、腫瘍細胞におけるMHC分子の発現の低下または欠損、腫瘍細胞における標的分子の欠如等が、CTL抗腫瘍効果を消失させ得る。さらに、今日までに同定された腫瘍抗原ペプチドは、特定の種類の腫瘍には存在するが、すべての腫瘍を包含しているわけではない。したがって、これらの問題を克服するために、ワクチン療法におけるCTLの標的細胞を、腫瘍細胞自体の代わりに、腫瘍新生血管内皮細胞に設定し、新生腫瘍血管由来分子を標的とするワクチン療法を考案した。標的分子として、正常内皮細胞ではほとんど発現されないが、腫瘍新生血管内皮細胞で高く発現され、これらの細胞の増殖にとって不可欠な血管内皮細胞増殖因子受容体である血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2/KDR)に注目した。
【0056】
VEGFR2は、乳癌、結腸癌、腎臓癌、悪性黒色腫、および肺癌などの多くの充実性腫瘍の腫瘍組織において発現されることが知られている[Folkman J. Nature Biotechnol. 15, 510, 1997、Folkman J. EXS 79, 1-8, 1997]。VEGFR2発現はまた、癌細胞増殖に強く関連していることも明らかにされている[Kranz A, et al. Int J Cancer 84: 293-298, 1999、Nakopoulou L, et al. Hum Pathol 33:863-870, 2002、Reden L, et al. Breast Cancer Res. and Treat. 82:147-154, 2003]。
【0057】
一方、VEGFR2が免疫療法の標的となり得るか否かに関して、VEGFR2のタンパク質およびDNAによるワクチン接種に関する基礎研究の結果から、腫瘍の腫瘍にかかわらず、抗腫瘍効果が新生腫瘍血管の抑制を介して認められることが示された;したがって、VEGFR2特異的細胞傷害性T細胞がこの抗腫瘍効果に関与することが確認された。上記より、VEGFR2が腫瘍免疫療法の標的となり得ることが示された[Yiwen, Li. et al. J. Exp. Med. 195, 1575-1584, 2002. Niethammer, A.G. et al. Nature Med. 8, 1369-1375, 2002]。さらに、ヒトにおける本発明者らの基礎解析の結果として、VEGFR2を認識および損傷するCTLクローンの存在が判明し、強力なCTLを誘導し得るHLA−A24またはA02拘束エピトープペプチドのいくつかの型が同定された。これらのエピトープペプチドによって誘導されたCTLは、HLA拘束様式でVEGFR2を内因的に発現する培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を損傷した。さらに、HLAを発現するA2/Kbトランスジェニックマウスを用いるインビボ抗腫瘍効果の試験において、VEGFR2由来エピトープペプチドを用いる癌ワクチン療法により、癌の種類にかかわらない強力な抗腫瘍効果が確認された。CTLは、本臨床試験において使用したペプチドを用いて癌患者の末梢血からも誘導され得たため、CTL前駆細胞が癌患者にも存在することが判明した[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005]。上記に従って、本ペプチドを投与し、患者においてVEGFR2特異的CTLを誘導することにより、腫瘍新血管新生を阻害することができ、強力な抗腫瘍効果を得ることができる。
【0058】
したがって、腫瘍新血管新生の阻害を通じて抗腫瘍効果を示すことが予測されるペプチドワクチンを、膵癌に対する現在の標準化学療法であるゲムシタビンと併用する、新規ワクチン化学療法を考案した。VEGFR2に由来し、HLA−A24またはHLA−A02拘束性エピトープペプチドである、RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)、AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、またはVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005、WO2004/024766]を、併用療法のためのワクチン製剤において用いる。
【0059】
理論的根拠の概要は以下の通りである:
1. VEGFR2は腫瘍新生血管内皮細胞の増殖に関与する重要な分子であり、このペプチドを用いてインビトロで特異的CTLを誘導することができる[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005、WO2004/024766]。
2. VEGFR2由来のHLA−A24またはHLA−A02拘束性エピトープペプチドを用いて、癌患者末梢血単核細胞からもまた、特異的CTLがインビトロで誘導され得る[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005]。
3. 大部分の日本人はHLA−A24またはHLA−A02を保有する[Date Y, et al. Tissue Antigen, 47, 93-101, 1996]。
4. これらは生化学的に安定しており、臨床試験に適している[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005]。
5. ゲムシタビンは、既に膵癌に対する化学療法薬として認可されている。
6. ゲムシタビンは、CTL誘導能などの免疫能を高めることが知られており[Correale P, et al. J Immunol. 175, 820-828, 2005、Dauer M, et al. J Immunother.28,332-342, 2005]、ワクチン製剤との併用からの効果が期待できる。
【0060】
本臨床試験は、上記の理論的根拠に基づいて行った。
【0061】
材料および方法
対象:
対象患者は、以下の選択基準および除外基準に従って選択した。
【0062】
選択基準:
1. 以下のために根治的切除が不可能であると判断された原発性膵癌;CTもしくは超音波検査による画像診断などの様々な診断による、肝転移、腹膜転移、および骨転移などの遠隔転移;日本膵臓学会編集の 膵癌取扱い規約(Classification of Pancreatic Carcinoma)、第5版によって規定される遠隔リンパ節転移;または大血管(再建不能な腹大動脈、固有肝動脈、左および右肝動脈、上腸間膜動脈、ならびに上腸間膜静脈)への浸潤;または再発膵癌。
2. RECISTにより測定可能な病変の有無は問わないが、腫瘍に及ぼす臨床効果の評価が可能でなければならない。
3. ECOG一般状態が0〜2。
4. 同意取得時の年齢が20歳以上かつ80歳以下。
5. ゲムシタビンおよびワクチン療法の開始時に、予想生命予後が3カ月またはそれ以上でなければならない。
6. 患者がある種の手術を受けている場合、患者はその手術の影響から回復していなければならない。あるいは、以前の治療から4週間またはそれ以上経過していなければならない。
7. 主要臓器の機能が維持されていなければならない:骨髄機能(白血球数2000/mm3以上かつ15000/mm3以下、および血小板数7.5/mm3以上);肝機能(GOTが150 IU/L以下、GPTが150 IU/L以下、およびT−bilが3.0 g/dL以下);および腎機能(Cr 3.0以下)。
8. 適切なHLAの存在。
9. 原発性疾患に対してゲムシタビンを用いた治療歴がない。
【0063】
除外基準:
1. 妊婦(妊娠可能な女性は、本臨床試験の開始後に避妊手段をとらなければならない)。
2. 授乳婦(本臨床試験の開始後に、授乳を停止しなければならない)。
3. 妊娠の意思がある患者(試験期間中は、男性および女性の双方で適切な避妊手段を取らなければならない)。
4. 制御が困難な活動性感染症を有する患者。
5. 試験中に以下の薬剤を投与しなければならない患者:
副腎ステロイド剤の全身投与;または免疫抑制剤の全身投与。
6. 制御不能な重複癌を有する患者。
7. 未治癒の外傷性病変を有する患者。
8. 腸管麻痺または間質性肺炎を有する疑いのある患者。
9. 医師または主治医により不適切と判定された患者。
【0064】
治療計画:
対象癌患者の選択:
対象患者は、適切なHLAを保有し、かつ根治的切除が不可能であると判断された原発性膵癌を有するか、または再発膵癌を有する患者であった。画像診断により膵癌が最も大きく疑われた症例も、対象患者に含めた。
【0065】
HLA発現の検査方法:
SRL,Inc(東京)に外部検査を依頼した。
【0066】
ゲムシタビンの用量:
治療投与量の標準であり、保険適用に承認された投与である1,000 mg/m2のゲムシタビン(ゲムシタビンHCl)を3週間投与し、その後1週間は投与しなかった。
【0067】
ペプチドおよびアジュバントの用量および投与方法:
0.5 mg、1 mg、および2 mgの合成ペプチドをそれぞれ0.5 mL、1 mL、および 2 mLの不完全フロイントアジュバント(MONTANIDE*ISA51VG、SEPPIC、フランス)と混合し、患者の脇の下または鼠径部近傍に皮下投与した。
【0068】
投与スケジュール:
スケジュールを図1に示す。1コースを、最初の投与の開始から28日間と設定した。
【0069】
用量段階的拡大法および患者3名のコホート:
ゲムシタビンの投与量および投与(1,000 mg/m2、3週間の投与および1週間の未投与)を固定し、ワクチン投与をペプチド用量に関して0.5 mg、1 mg、および2 mgに用量を段階的に拡大した。具体的には、ペプチド0.5 mgを患者3名に投与する。1名の個体たりとも、紛れもなく相関性のあるグレード4(NCI−CTCバージョン3.0)もしくはそれ以上の血液毒性(悪心/嘔吐を除く)またはグレード3(NCI−CTCバージョン3.0)もしくはそれ以上の血液毒性を示さない場合には、次の用量(1 mg)のペプチドを3名の患者に投与する。2名またはそれ以上の個体において副作用が現れた場合には、本臨床試験を中止する。1名の個体において副作用が現れた場合には、さらなる3名の患者を同一用量にさらに登録し、6症例のうち1症例において副作用が現れた場合には、試験を次の用量に進める。この段階で1名でも個体に副作用が認められれば、本臨床試験を中止する。1 mgから2 mgへの用量の段階的拡大も、同様の様式で行った。
【0070】
品質管理:
投与ペプチドに関しては、cGMP等級のペプチド(Neo−MPS、サンディエゴ)が東京大学、医科学研究所、ヒトゲノム解析センターより贈与された。アジュバントに関しては、GMP等級に従った不完全フロイントアジュバント(MONTANIDE*ISA51VG)をSEPPIC Co.、フランスより購入した。ペプチドの貯蔵およびペプチドワクチンの調製は、和歌山県立医科大学付属病院の薬剤部によって行われた。
【0071】
「予備試験投与]に関して:
アナフィラキシーショックなどの予期せぬ有害事象を回避する目的で、1回目のワクチン投与の前に、ペプチド10 mgを実際の投与部位と別の部位に予備試験投与として皮下投与し、30分間にわたりモニタリングを行う。グレード3またはそれ以上の局所反応または全身的有害事象が認められ得ない場合に、実際の投与を行った。「予備試験投与」に関して、症例のいずれにおいても、局所的有害事象および全身的有害事象は認められなかった。
【0072】
結果
試験データの評価:
安全性評価:
安全性評価は、ゲムシタビンおよびペプチドの投与を少なくとも1回受けた患者を対象とした。有害事象の存在および程度は、米国国立癌研究所−共通毒性基準(NCI−CTC)(日本語訳JCOG版)第3版を参照することにより判定した。
【0073】
免疫学的評価:
ワクチン投与の前、各コースの完了後(最初の投与後28日目)に、末梢血50 mLを採取し、Ficoll−paque密度遠心分離により末梢血単核細胞(PBMC)を分離および測定した。
【0074】
CTL反応の解析:
投与ペプチドによって生じるCTL反応を、IFN−γ ELISPOTアッセイ(ELISPOTヒトIFN−γセット、BD)を用いて測定した。より具体的には、VEGFR2−169(SEQ ID NO:1)およびHIV−A24ペプチドをA24−LCL(HLA−A*2402陽性)にパルスすることにより刺激因子を調製し、HIVペプチドを陰性対照として用いた。R/S比および刺激因子のそれぞれについて3ウェルで同時にアッセイを行い、単一ウェル当たりのスポット数として平均値を算出した。スポット数は、ELISPOTリーダー(IMMUNO SPOT、Cellular Technology Ltd.)で読み取った。VEGFR2−169パルスによるスポット数からHIVパルスによるスポット数を減算することにより得られた値を、VEGFR2−169に関する特異的IFN−γ産生スポット(特異的スポット)とした。1コース後および2コース後に、特異的IFN−γ産生スポットの増加が認められた場合、ワクチン投与により免疫反応が起こったと見なした。
【0075】
CD8陽性T細胞の集団解析(図2):
CD8陽性T細胞の中で、ナイーブT細胞、記憶T細胞、エフェクター記憶T細胞、およびエフェクターT細胞の各画分の割合に変化があるかどうかを、4カラー染色でのフローサイトメトリー(FACS Calibur、BD)により解析した。図2に示すように、PBMCのリンパ球画分にゲートをかけ、CD8陽性画分にゲートをかけた。CD27(BD)およびCD45RA(SD)を用いてCD8陽性画分をさらに展開して、エフェクター画分(CD27陰性/CD45RA陽性)、エフェクター記憶画分(CD27陰性/CD45RA陰性)、記憶画分(CD27陽性/CD45RA陰性)、およびナイーブ画分(CD27陽性/CD45RA陽性)を得た。同時に、パーフォリン染色(Cytofix/Cytopermキット、BD)により、機能的リンパ球画分を決定した。
【0076】
調節性T細胞の解析(図3):
CD4陽性T細胞のうちCD25高かつFoxp3陽性細胞を調節性T細胞と特定し、ワクチン投与前後のそれらの数的変化を、4カラー染色後にフローサイトメトリー(FACS Calibur、BD)によって測定した。より具体的には、図3に示す通り、PBMCのリンパ球画分にゲートをかけ、CD4およびCD25を用いて展開した後に、CD4陽性T細胞のうちCD25高かつFoxp3陽性細胞(ヒト調節性染色キット、eBioscience)の割合を算出した。
【0077】
臨床的有効性の評価:
細胞減少効果
本プロトコールにより規定されるコースを少なくとも1コース完了した患者を、対象として選択した。画像によって判定できる腫瘍に関して、各コースの最終ワクチン接種後に、主に「固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン第2版)日本語訳、JCOG版」に従って、臨床効果を評価した。臨床評価時に4週の期間を完了していない症例においても、それらの症例は客観的反応として記録し、それらの臨床的有意性を参照データとして評価した。抗腫瘍効果の評価には、CTおよびPETを用いた。
【0078】
生存期間:
長期経過観察を行い、生存期間および生存率を調べた。
【0079】
患者の結果:
3名が各レベルに参加し、安全性評価が可能となった。7月31日時点での症例を表1にまとめる(以下を参照されたい)。
【0080】
症例1(レベルI/0.5 mg)
症例1は68歳の女性であり、以前にTS−1を用いる化学療法による治療を受け、非応答性になり、その後本試験に登録した。2コースを行ったが、全身的有害事象はなく、ワクチン接種部位における局所的有害事象もなかった(表1、以下を参照されたい)。画像評価はPDであった。腫瘍マーカーも上昇した。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応は認められなかった(表2、以下を参照されたい)。ワクチン接種前には、調節性T細胞はその正常範囲(正常平均は3.9 +/− 1.2%)内にあったが、1コース後およびまた2コース後には正常範囲を超える増加が認められた(表6、以下を参照されたい)。患者は、最初のワクチン接種から3.3カ月後に、元の疾患の憎悪により死亡した。
【0081】
症例2(レベルI/0.5 mg)
症例2は66歳の男性であり、ワクチン接種を2回受けたが、本人の希望で別の病院に転院し、その後本試験から脱落した(表1、以下を参照されたい)。全身的有害事象はなく、ワクチン接種部位における局所的有害事象もなかった。
【0082】
症例3(レベルI/0.5 mg)
症例3は64歳の男性である。1コースを実施した。全身的有害事象として、グレード3の好中球減少および肝機能障害が認められた(表1、以下を参照されたい)。ゲムシタビンを1週間中止したところ、両状態から回復し、その後投与を継続した。局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められ、接種部位近傍にリンパ節腫脹(鼠径部腫脹)が認められた。PETを用いて、腫脹部位において強力な集積を示す画像が認められ(図4)、生体組織検査の結果として組織病理学的に強力な炎症が認められ、ペプチド接種に応答した免疫反応が示唆された。画像評価はSDであり、腫瘍マーカー(CA19−9)は低下した(図5)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(図6)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分およびエフェクターT細胞画分の増加が認められた(表3、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前には、調節性T細胞は正常範囲(正常平均は3.9 +/− 1.2%)を上回っていたが、1コース後には正常範囲まで減少した(表6、以下を参照されたい)。その後患者は、最初のワクチン接種から7.3カ月後に、元の疾患の憎悪により死亡した。
【0083】
症例4(レベルI/0.5 mg)
症例4は61歳の男性である。2コースを実施した。全身的有害事象はなく、局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められた(表1、以下を参照されたい)。画像評価は奏功であった。より具体的には、1コース後に膵尾部の原発巣はSDであることが判明し、2コース後には原発巣は明らかに縮小し、その効果はほぼ2カ月間持続した(図7)。肝門部の肝転移巣は、2コース後に完全に不顕性となった(図8)。胆嚢近傍の肝転移巣は1コース後に不顕性となり、2コース後にほぼ消失した(図9)。一方、ワクチン接種前に高レベルであった腫瘍マーカー(CA19−9およびCEA)は、1コース後および2コース後には低下し、腫瘍マーカーの低下傾向は1カ月後でさえ継続した(図10)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められた(図11)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。1回目のワクチン接種から6.3カ月間の時点で、この対象は生存していた。
【0084】
症例5(レベルII/1 mg)
症例5は65歳の男性である。2コースを実施した。全身的有害事象および局所的有害事象はなかった(表1、以下を参照されたい)。画像評価はPDであった。腫瘍マーカーも上昇した。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(表2、以下を参照されたい)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分およびエフェクターT細胞画分において増加が認められた(表4、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。その後患者は、最初のワクチン接種から4.5カ月後に、元の疾患の憎悪により死亡した。
【0085】
症例6(レベルII/1 mg)
症例6は57歳の女性である。2コースを実施した。全身的有害事象として、グレード3の好中球減少が認められた(表1、以下を参照されたい)。GEMを1週間中止したところ回復し、その後投与を継続した。局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められ、接種部位近傍にリンパ節腫脹(鼠径部腫脹)が認められた。画像評価は奏功であった。より具体的には、膵頭部の原発巣は2コース後に縮小し、この効果はほぼ2.5カ月間持続した(図12)。ワクチン接種前および2コースの完了後に得られたPETスキャンを比較した。腫瘍に対する集積は、2コース後に明らかに減少した(図13)。腫瘍に対する集積の量を客観的に示すSUV値を比較することにより、6から4.5に減少したことによって、抗腫瘍効果があることが明らかに示唆された。さらに、腫瘍マーカー(DUPAN2以外の腫瘍マーカーは、登録時から正常であった)は2コース後から低下し、低下効果は2カ月後でさえ継続した(表7、以下を参照されたい)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(図14)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分において増加が認められ、エフェクターT細胞画分において減少が認められた(表4、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。1回目のワクチン接種後6カ月の時点で、QOLは良好に保たれ、この対象は生存していた。
【0086】
症例7(レベルII/1 mg)
症例7は69歳の男性である。2コースを実施した。全身的有害事象として、グレード3の好中球減少が認められた(表1、以下を参照されたい)。GEMを1週間中止したところ回復し、その後投与を継続した。局所的有害事象として、接種部位にグレード2の硬結および発赤が認められ、接種部位近傍にリンパ節腫脹(鼠径部腫脹)が認められた。画像評価はSDであった(図15)。より具体的には、膵頭部の原発巣は2コース後に大きさの変化を全く示さず、この効果はほぼ2カ月間持続した(図15)。さらに、腫瘍マーカー(CA125以外の腫瘍マーカーは登録時より正常であった)は1コース後には低下し、低下効果は2カ月後でさえ継続した(図16)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(図17)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分において減少が認められ、エフェクターT細胞画分において増加が認められた(表4、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前、1コース後、および2コース後に、調節性T細胞は正常範囲内にあった(表6、以下を参照されたい)。1回目のワクチン接種後4.3の時点で、QOLは良好に保たれ、この対象は生存していた。
【0087】
症例8(レベルIII/2 mg)
症例8は58歳の男性である。1コースを完了し、2コース目を実施中に、拡大した腫瘍から消化管出血が起こった。原因は腫瘍の拡大であると判断され、試験を中止した(表1、以下を参照されたい)。全身的有害事象として、肝機能障害が認められた。局所的有害事象はなかった。1コースの完了時点の画像評価はPDであった。腫瘍マーカーも上昇した。
【0088】
症例9(レベルIII/2 mg)
症例9は73歳の男性である。1回の投与後、腫瘍の拡大によって生じた消化管狭窄のために試験を延期した(表1、以下を参照されたい)。
【0089】
症例10(レベルIII/2 mg)
症例9は62歳の男性である。1コースを実施した。全身的有害事象はなく、局所的有害事象として、グレード2またはそれ以下の硬結および発赤が認められた(表1、以下を参照されたい)。画像評価はSDであった(図18)。さらに、腫瘍マーカー(CA125以外の腫瘍マーカーは登録時から正常であった)は低下し、腫瘍マーカーの低下は約1カ月間継続した(図19)。免疫学的モニタリングによると、投与ペプチドに対する特異的CTL反応が認められ(表2、以下を参照されたい)、CD8陽性T細胞画分解析では、ナイーブT細胞画分において増加が認められ、エフェクターT細胞画分において減少が認められた(表5、以下を参照されたい)。ワクチン接種の開始前には調節性T細胞は6.4と高値であったが、1コース後には2.1という正常範囲まで減少した(表6、以下を参照されたい)。
【0090】
ゲムシタビン単独との比較
表8において(以下を参照されたい)、症例における抗腫瘍効果の観点、および免疫反応の1つであるDTH反応の観点から、ゲムシタビン単独でこれまでに得られたデータとの比較を行った。抗腫瘍効果を、疾患制御率(CR数+PR数+SD数/全症例)、および明確な抗腫瘍効果発現率(奏功)の点で比較した。GEM単独では該率は45%〜48%に留まったのに対し、本プロトコールを用いることで該率は62.5%と大きく上回った。奏功もまた2倍またはそれ以上上回った。免疫反応の1つであるDTH反応は、高頻度に認められた。DTH反応はVEGFR2単独ではほとんど認められないため(私信)、ゲムシタビンが免疫反応を高めたと考えられた。実際に、DTH反応が起こった症例では、SDまたはそれ以上の反応が臨床的に得られており、PD症例とDTHの見られない症例は完全に一致した。したがって、ある種の免疫反応が誘発される症例は、同様に臨床的に有効であると見なされる。
【0091】
(表1)臨床試験症例の概要
【0092】
(表2)投与ペプチドに対する特異的CTL反応/DTH反応
※NT:未試験
【0093】
(表3)レベルI CD8陽性T細胞画分の解析
※症例3:1コース後に終了。
NT:未試験
【0094】
(表4)レベルII CD8陽性T細胞画分の解析
【0095】
(表5)レベルIII CD8陽性T細胞画分の解析
※症例8 10:1コース後に終了。
NT:未試験
【0096】
(表6)CD4陽性/CD25高/Foxp3陽調節性T細胞の解析
健常個体の平均値(SD)・・・CD4+CD25高Foxp3+:3.9%(±1.2)
【0097】
(表7)治療過程にわたる症例6で生じた腫瘍マーカーの変化
(CEA、CA19−9、CA−125;正常範囲)
【0098】
(表8)本発明の治療に付随する抗腫瘍効果およびDTH反応の概要
【0099】
考察
膵癌が難治性であり、予後が最も悪い腫瘍であることは疑問の余地がない。現在、膵癌に対する唯一の薬学的療法はゲムシタビンであるが、臨床的にまだ満足できるものではない。
【0100】
一方、腫瘍抗原に対するエピトープペプチドが同定されたことを受けて、癌ワクチン療法に大きな期待が寄せられている;しかしながら、今日までの臨床成績はそのような期待に及ばないことは周知の事実である。主な理由は、腫瘍細胞におけるMHC分子の低い発現または欠如である。より具体的には、ワクチンを用いてたとえ強力なCTLが誘導されるとしても、MHC分子が欠如していれば、抗腫瘍効果は示され得ない。
【0101】
ワクチンによって生じたCTL反応が免疫学的モニタリングによって検出され得る場合でさえも、それらが抗腫瘍効果に直接つながらないという事実を考えると、MHC分子の低い発現および欠如に対する対策は非常に重要な目標である。さらに、腫瘍の不均一性もまた重要な問題である。CTLが1つの腫瘍抗原に対して誘導され得る場合でさえも、発現される分子が腫瘍増殖にとって必須の分子でない場合には、その分子はもはやCTLの標的とならないように除去され、腫瘍は増殖し続け得る。これらのワクチン療法の抗腫瘍効果に関する本質的な問題を解決することを目的として、本発明者らは、腫瘍新生血管内皮細胞において高く発現され、ワクチンとして用いることができるエピトープペプチドが同定されているVEGFR2に着目した[Wada S, Cancer Res. 65, 4939-4946, 2005、WO 2004/024766]。
【0102】
慣習的に、ワクチン療法と化学療法の併用は、それらの生物学的特性に基づき適合しないと考えられている。しかしながら、調節性T細胞の発見およびそれらの解除などの腫瘍免疫の観点から、化学療法との併用の可能性が示唆されている。したがって、臨床試験を計画して、ゲムシタビンと、新生腫瘍血管を標的とするペプチドワクチン療法の併用による効果が膵癌に対して期待され得るかどうかを調べた。
【0103】
結果として、第一に、安全性の点で十分に許容されることが判明した。用量の段階的拡大に関して、グレード3またはそれ以上の全身的有害事象の解析(1コースの完了時)から、レベルIの3症例のうち1症例において、レベルIIの3症例のうち2症例において、およびレベルIIIの2症例のうち1症例において、好中球減少および肝機能障害が現れたことが示された;しかしながら、休薬またはG−CSFの投与により継続投与が可能になった。上記によれば、現在のところ、すべてのレベルが許容範囲内にある。これは腫瘍新生血管内皮細胞を標的とするワクチン療法であるため、出血傾向および他の有害事象が懸念される;しかしながら、正常血管内皮細胞では発現がほとんど見られないなどの、本手順を行う前の理論上の根拠が、ある程度正しいことが証明された。免疫学的モニタリングおよび臨床効果を通じて解析する用量の段階的拡大をDTH反応、CTL反応、および疾患制御率の観点で解析した場合、レベルIでは3症例のうち2症例において、およびレベルIIIでは2症例のうち1症例において、いずれも陽性であった。レベルIIでは、CTL反応のみが3症例のうち3症例において陽性であった(DTH反応および疾患制御率は、レベルIおよびIIIと同一であった)。症例数は少ないものの、上記より、レベルIIが推奨用量である可能性が示唆された。
【0104】
抗腫瘍効果に関して、ワクチン化学療法により併用の効果が明らかに認められたが、ワクチンがゲムシタビンの抗腫瘍効果を高めた可能性について考察する。表8の比較に見られるように、ゲムシタビン単独と比較した場合、明らかな腫瘍縮小効果は2倍またはそれ以上上回った。このことは、ゲムシタビンの直接的抗腫瘍効果がワクチンによって高められたことを意味する。より具体的には、ワクチンによって誘導されたCTLが、ゲムシタビンが効率的に腫瘍に到達し得るように腫瘍新生血管内皮細胞を破壊し、結果として強力な抗腫瘍効果が示されたと考えられる。次に、ゲムシタビンがワクチンの抗腫瘍効果を高めた可能性について考察する。投与ペプチドに対する免疫反応の解析から、強力なCTL反応が、SD症例を含めた主に臨床的に有効な症例において誘導されることが確認された。さらに、DTH反応が増大したため、このことから、ゲムシタビンが、ワクチンによる抗腫瘍効果の核心要素であるCTL反応を高めている可能性が強く示唆された。臨床的にも、SDを含めた抗腫瘍効果が長期間にわたり継続した症例が、5症例のうち4症例あり(症例4:1カ月;症例6:2カ月;症例7:2カ月;および症例10:1カ月)、これはワクチンによる長期抗腫瘍効果の結果であると考えられる。より具体的には、このことから、CTLがゲムシタビンにより効率的に誘導され、このCTLが長期抗腫瘍効果をもたらす可能性が示唆される。さらに、ゲムシタビンのために腫瘍が細胞死を起こし、これがワクチンによって活性化された抗腫瘍免疫反応と相乗的に作用する可能性もある。このように、ゲムシタビンとVEGFR2ペプチドを併用するワクチン化学療法により、副作用を増大させることのない、延命を含めた抗腫瘍効果の増強が、強く期待され得る。これは、予後が不良である膵癌の治療成績の改善にとって極めて朗報である。
【0105】
産業上の利用可能性
例えばゲムシタビンといった膵癌に対する化学療法薬の治療効果が、例えば、その内容が全体として参照により本明細書に組み入れられるWO 2004/024766において癌ワクチンとして同定されたKDRペプチドといった適切な抗原ペプチドと併用した場合に、有意に改善され得るまたは高められ得ることが、本明細書において発見された。したがって、本発明は、これを必要とする対象において膵癌を治療する改善法を提供する。
【0106】
本明細書で引用した出版物、データベース、配列、特許、および特許出願はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【0107】
本発明をその特定の態様に関して詳細に説明してきたが、その境界が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、その範囲内で様々な変更および改変がなされ得ることは、当業者にとって明白であろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に以下の(i)および(ii)を投与する段階を含む、対象における癌を治療する方法:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項2】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が膵癌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
それぞれ有効成分としての以下の(i)および(ii)、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を含む、対象における癌を治療するためのキット:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項5】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項4記載のキット。
【請求項6】
癌が膵癌である、請求項4記載のキット。
【請求項7】
以下の(i)を(ii)と組み合わせて含む、対象における癌を治療するための抗癌剤:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項8】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項7記載の抗癌剤。
【請求項9】
癌が膵癌である、請求項7記載の抗癌剤。
【請求項10】
対象における癌の治療における、以下の(i)と(ii)の組み合わせの使用:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項11】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
癌が膵癌である、請求項10記載の使用。
【請求項13】
以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドを対象に投与する段階を含む、癌を治療するためのゲムシタビンの治療効果を高める方法:
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド。
【請求項14】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
癌が膵癌である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果を高めるための薬学的組成物を製造するための、以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドの使用:
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド。
【請求項17】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
癌が膵癌である、請求項16記載の使用。
【請求項19】
有効成分として、以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドを含む、ゲムシタビンの治療効果を増強する薬剤:
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド。
【請求項20】
増強しようとする治療効果が、対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果であり、対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項19記載の薬剤。
【請求項21】
癌が膵癌である、請求項20記載の薬剤。
【請求項1】
対象に以下の(i)および(ii)を投与する段階を含む、対象における癌を治療する方法:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項2】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が膵癌である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
それぞれ有効成分としての以下の(i)および(ii)、ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を含む、対象における癌を治療するためのキット:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項5】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項4記載のキット。
【請求項6】
癌が膵癌である、請求項4記載のキット。
【請求項7】
以下の(i)を(ii)と組み合わせて含む、対象における癌を治療するための抗癌剤:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項8】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項7記載の抗癌剤。
【請求項9】
癌が膵癌である、請求項7記載の抗癌剤。
【請求項10】
対象における癌の治療における、以下の(i)と(ii)の組み合わせの使用:
(i)以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチド
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド;
(ii)ゲムシタビン、その薬学的に許容される塩、およびそのプロドラッグからなる群より選択される1つまたは複数の化学療法薬。
【請求項11】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
癌が膵癌である、請求項10記載の使用。
【請求項13】
以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドを対象に投与する段階を含む、癌を治療するためのゲムシタビンの治療効果を高める方法:
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド。
【請求項14】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
癌が膵癌である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果を高めるための薬学的組成物を製造するための、以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドの使用:
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド。
【請求項17】
対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
癌が膵癌である、請求項16記載の使用。
【請求項19】
有効成分として、以下からなる群より選択される1つまたは複数のペプチドを含む、ゲムシタビンの治療効果を増強する薬剤:
(a)RFVPDGNRI(SEQ ID NO:1)、VYSSEEAEL(SEQ ID NO:2)、GYRIYDVVL(SEQ ID NO:3)、SYMISYAGM(SEQ ID NO:4)、KWEFPRDRL(SEQ ID NO:5)、DFLTLEHLI(SEQ ID NO:6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(b)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(a)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(c)N末端から2番目のアミノ酸がフェニルアラニン、チロシン、メチオニン、またはトリプトファンである、(b)のペプチド、
(d)C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、またはメチオニンである、(b)または(c)のペプチド、
(e)AMFFWLLLV(SEQ ID NO:7)、VIAMFFWLL(SEQ ID NO:8)、AVIAMFFWL(SEQ ID NO:9)、KLIEIGVQT(SEQ ID NO:10)、YMISYAGMV(SEQ ID NO:11)、IQSDVWSFGV(SEQ ID NO:12)、およびVLAMFFWLL(SEQ ID NO:13)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つまたは複数のペプチド、
(f)1つ、2つ、またはいくつかのアミノ酸が置換、欠失、または付加された(e)のペプチドであって、細胞傷害性T細胞誘導能を有するペプチド、
(g)N末端から2番目のアミノ酸がロイシンまたはメチオニンである、(f)のペプチド、ならびに
(h)C末端のアミノ酸がバリンまたはロイシンである、(f)または(g)のペプチド。
【請求項20】
増強しようとする治療効果が、対象における癌の治療に対するゲムシタビンの治療効果であり、対象がHLA−A24陽性またはHLA−A02陽性である、請求項19記載の薬剤。
【請求項21】
癌が膵癌である、請求項20記載の薬剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2010−536714(P2010−536714A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506728(P2010−506728)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【国際出願番号】PCT/JP2008/002232
【国際公開番号】WO2009/028150
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【国際出願番号】PCT/JP2008/002232
【国際公開番号】WO2009/028150
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
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