説明

抗原ペプチドの同定法

【課題】本発明は、抗原ペプチドの同定法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、哺乳類生物体由来の限定量の細胞または体液から、それらの配列および同一性を決定するのに十分な量の抗原ペプチドを単離するのに有用な方法を提供する。従って本発明は、診断または治療の目的で利用される新規の疾患関連抗原、例えば腫瘍抗原および自己免疫疾患関連抗原を同定する方法を提供する。本発明の方法を、ワクチンの品質を管理するために利用することもできる。より具体的には、本発明の方法を、生体の最も重要な抗原提示細胞およびワクチン接種用の有用な道具である樹状細胞のペプチド受容体を介して提示された抗原ペプチドの配列を決定するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類生物体由来の限定量の細胞または体液から、それらの配列および同一性を決定するのに十分な量の抗原ペプチドを単離するのに有用な方法に関する。従って本発明は、診断または治療の目的で利用される新規の疾患関連抗原、例えば腫瘍抗原および自己免疫疾患関連抗原を同定する方法に関する。本発明の方法を、ワクチンの品質を管理するために利用することもできる。より具体的には、本発明の方法を、生体の最も重要な抗原提示細胞およびワクチン接種用の有用な道具である樹状細胞のペプチド受容体を介して提示された抗原ペプチドの配列を決定するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
感染症、自己免疫疾患または癌のような病態は、疾患特異的分子の発現により、健康な状態から区別されうる。特に、新たに発現した、変異した、または異常発現したタンパク質は、各々の悪性度マーカーとして利用されうる。
【0003】
主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合したタンパク質断片またはペプチドは、診断用および治療用の道具としてはたらく種類の有力なマーカーである。ヒトにおいて、MHC分子は、ヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれている。HLA会合ペプチドは短く、9個〜25個のアミノ酸を含んでいる(非特許文献1を参照されたい)。一方で、これらのペプチドは、自己寛容を確立するために、自家タンパク質に由来する。他方で、HLA会合ペプチドは、外部からの侵入者と闘うために、ウイルス、真菌、または細菌起源の外来タンパク質に由来する。Tリンパ球(略称:T細胞)と呼ばれる特殊化した免疫細胞の活性化を通して、細胞性または体液性の免疫応答を行うために、HLA-ペプチド複合体は不可欠である。自己抗原ペプチドである特定の自家ペプチドは、自己攻撃性のT細胞により誤って認識され、自己免疫疾患を引き起す。逆に、腫瘍特異的抗原に由来する自家ペプチドのT細胞認識の欠如は、免疫回避および腫瘍の進行性増殖に寄与している(非特許文献2を参照されたい)。従って、疾患関連マーカーペプチドに関する研究者らの知識の増加は、腫瘍免疫学および自己免疫において相当重要であると考えられる。
【0004】
2種類のMHC-ペプチド複合体を、それらの機能に関して区別することができる(非特許文献3を参照されたい):(i)I型MHC-ペプチド複合体は、感染細胞または腫瘍細胞を溶解するCD8+細胞傷害性T細胞を誘引するために、ほとんど全ての有核細胞により発現される;(ii)II型MHC-ペプチド複合体は、Bリンパ球、マクロファージ、または樹状細胞(DC)のような、いわゆる抗原提示細胞(APC)のみにおいて構成的に発現される。特にDCは、CD4+ Tヘルパー細胞をプライミングする能力を有する(非特許文献4を参照されたい)。更にDCは、細胞傷害性CD8+ T細胞を最適に活性化することが許可されており、これは、それらのII型MHC-ペプチド複合体と、CD4+ Tヘルパー細胞との事前相互作用を通じて達成される(非特許文献5を参照されたい)。従って、II型MHC分子によりDCに提示されたペプチドは、T細胞駆動性免疫応答に関連している疾患の病因において優れた役割を果たす。
【0005】
免疫応答の開始においてDCが明らかな役割を有することに刺激されて、特に癌に対して、DCをワクチンとして活用する試みが行われている(非特許文献6を参照されたい)。末梢血、例えば粘着単球、または骨髄由来のCD34+幹細胞前駆体を含む様々な供給源からの、インビトロにおけるDC分化に関する本発明の技術は、重要な進歩となる。インビトロにおいて分化および活性化されたDCを、腫瘍細胞由来抗原との共培養の後に、または、同様の技術の利用により、癌患者のワクチン接種のために使用することができる。樹状細胞ワクチン接種の予備的試験は、臨床反応を含む特異的抗癌反応の誘導に成功している(非特許文献7および8を参照されたい)。
【0006】
DCに基づく癌細胞ワクチンは、通常のもしくは遺伝子修飾された癌細胞でパルスされたDC、癌細胞溶解液、DCに融合した癌細胞、または癌細胞由来の熱ショックタンパク質(Hsp)-ペプチド複合体を含有している。後者の技術の背景理論とは、腫瘍細胞由来のHspは、DCのMHC分子に効率的に転移される腫瘍特異的ペプチドを有するということである。これらのDCは最終的に、マウスにおける腫瘍の根絶につながるような抗腫瘍反応性を持つ細胞傷害性T細胞をプライミングする(非特許文献9〜11を参照されたい)。
【0007】
これらの全ての方法の利点は、腫瘍抗原同一性に関する知識が必要でない点である。欠点は、腫瘍マーカーの同一性が依然不明であり、かつ個々のHLA結合腫瘍ペプチドのコピー数が、持続性抗腫瘍T細胞応答を誘導するには低すぎることが多いということである。
【0008】
癌抗原の同一性に基づくワクチンは、裸のDNA、組換えアデノウイルスもしくはワクシニアウイルス、各腫瘍細胞から精製された天然タンパク質もしくは組換えタンパク質、または腫瘍ペプチドの合成類似体によりプライミングされたDCを含有している。遺伝子前駆体またはタンパク質前駆体よりもむしろ抗原性腫瘍ペプチドでDCをパルスする利点とは、更なるプロセシングなしで、DCのMHC分子上にペプチドを直接負荷できることである。
【0009】
過去十年間に、腫瘍マーカータンパク質に由来しかつI型MHC分子により拘束された多くのペプチドが同定されている。これらは、4種のカテゴリーに分類されている:癌-精巣抗原、メラノーマ-メラノサイト分化抗原、変異型抗原および、腫瘍において過剰発現した非変異型共有抗原。いくつかの臨床的予備ワクチン接種試験において、メラノーマ患者由来のDCは、今のところは独占的にI型HLAで拘束されているメラノーマペプチドのカクテルでパルスされた(非特許文献12および13を参照されたい)。しかし、腫瘍に対する細胞傷害性T細胞応答の効力および寿命が、II型MHC拘束型ヘルパーT細胞の関与により増大し得ることを示す証拠は増加している。従って、改善されたワクチン接種法は、I型MHC抗原に加え、II型MHCに会合した腫瘍ペプチドの併用を予見したものであると考えられる。
【0010】
CD4+ Tヘルパー細胞により認識されたII型MHC拘束型癌抗原についての知識は、I型MHC拘束型抗原の同定に大きく立ち遅れている(非特許文献14を参照されたい)。一つの理由は、腫瘍細胞由来のcDNAライブラリーの標的細胞へのトランスフェクション、およびその後の適当なトランスフェクタントおよび抗原性エピトープを同定するための抗腫瘍T細胞の使用(I型MHC分子を用いて成功した方法)が、コードされたタンパク質がAPC内のII型MHC経路に移動しないために有効ではないからである。
【0011】
革新的代替法は、腫瘍細胞または特定の腫瘍マーカータンパク質でパルスされた自家DC、並びにDC上のMHC分子またはHsp分子に会合したペプチドの配列の使用である。しかし、DCはインビトロにおいて分裂せず、かつ末梢血または骨髄からは非常に少量のみしか入手可能でないため、本方法はこれまで利用されていない。更に、ペプチドの精製および配列決定技術は、今のところ、本方法または他の方法で疾患関連ペプチドを直接同定するには、余りにも感度が悪い。
【0012】
同じ制限が、リウマチ様関節炎(RA)のような自己免疫疾患に関しても明らかである。RA患者は、全身的な関節組織の崩壊を患っており、これは自己攻撃性Tリンパ球および自己抗体により媒介される。自己反応性T細胞および抗体の両方の存在は、II型MHC拘束型ペプチド抗原の提示に依拠している。それに従って、HLA-DR分子、特にヨーロッパ家系の人々のDRB1*0401遺伝子およびDRB1*0404遺伝子は重大なリスク因子であり、かつRAに対する易罹患性の増大をもたらすことが明らかにされている(非特許文献15を参照されたい)。いくつかの自己抗原候補、例えばII型コラーゲン、フィアグリン、IgGおよび軟骨糖タンパク質gp39などが提唱されている。対応する自己抗原ペプチドは、例えばRA患者の血清または滑液中に存在するT細胞クローンを活性化する能力のような間接的手段によってのみ、解明されている。近年、RA患者関節の炎症滑液中に蓄積した主要なCD4+ T細胞クローンは、各々のエピトープを認識しないことが明らかになりつつある(非特許文献16を参照されたい)。これに関する有力な理論的根拠とは、RAにおける滑液組織由来のHLA-DR会合ペプチドの配列を決定することが今のところ不可能であり、その結果自己抗原ペプチドの直接の同一性が依然見いだせないままであることである。
【0013】
従って、腫瘍分野と同様、天然プロセシングされたMHCおよびHspに会合したフェムトモル範囲のペプチドの配列決定を可能にする方法論の確立が、大いに必要とされている。
【0014】
【非特許文献1】Kropshofer, H.およびVogt, A.B.、「Immunol Today」、Vol.18、p.77-82(1997)
【非特許文献2】Boon, T.ら、「Ann Rev Immunol.」、Vol.12、p.337-265(1994)
【非特許文献3】Germain, R.、「Cell」、Vol.76、p.287-299(1994)
【非特許文献4】Banchereau, J. & Steinman, R.M.、「Nature」、Vol.392、p.245-254(1998)
【非特許文献5】Ridge, T.ら、「Nature」、Vol.393、p.474-478(1998)
【非特許文献6】Dallal, R.M.およびLotze, M.T.、「Curr Opinion Immunol」、Vol.12、p.583-588(2000)
【非特許文献7】Timmermann, J.M.およびLevy, R.、「Ann Rev Medicine」、Vol.50、p.507-529(1999)
【非特許文献8】Nestle, F.O.ら、「Nature Medicine」、Vol.7、p.761-765(2001)
【非特許文献9】Srivastava, P.K.ら、「PNAS」、Vol.83、p.3407-3411(1986)
【非特許文献10】Suto, R.ら、「Science」、Vol.269、p.1585-1588(1995)
【非特許文献11】Binder, R.J.ら、「Nature Immunol.」、Vol.1、p.151-162(2000)
【非特許文献12】Nestle, F.O.ら、「Nature Medicine」、Vol.4、p.328-332(1998)
【非特許文献13】Thurner, B.ら、「J Exp Med」、Vol.190、p.1669-1678(1999)
【非特許文献14】Wang, R.-F.、「Trends in Immunol」、Vol.22、p.269-276(2001)
【非特許文献15】Marrack Pら、「Nat. Med.」、Vol.7、p.899-905:2002
【非特許文献16】Kotzin BLら、「PNAS」、Vol.97、p.291-296(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、抗原ペプチドの同定法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、生物体からまたは生物体由来の細胞から単離されたMHC分子またはHsp受容体0.1μg〜5μgにより提示されたフェムトモル量のペプチド抗原を、単離および同定する方法を提供する。本方法は、例えば自己免疫疾患などの疾患の免疫モニタリング、例えば癌などの疾患の治療のための個別化されたペプチドワクチンの設計、および、例えば樹状細胞に基づくワクチンなどのワクチンの品質管理に関する。本発明の方法は、結合したおよび/または提示された抗原ペプチドの同一性を、哺乳類生物体から単離された非常に少量の体液または細胞から解明できるという利点を有する。
【0017】
記載された方法により、単離および同定された抗原ペプチドが、インビボにおいてペプチド受容体により結合および/もしくは提示された抗原ペプチド、またはインビトロにおいてAPC、好ましくはDCにより、天然プロセシングおよび提示された抗原ペプチドであることが確実となる。
【0018】
本発明に係る方法においては、(1)フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法であることを特徴とする:
(a)哺乳類生物体から単離された抗原ペプチドとペプチド受容体との複合体を0.1μg〜5μgの量で提供する段階;および
(b)会合した抗原ペプチドをペプチド受容体から溶離する段階。
【0019】
また、本発明に係る方法においては、(2)哺乳類生物体から単離された細胞から、抗原ペプチドとペプチド受容体との複合体を0.1μg〜5μgの量で単離する段階を含む、上記(1)記載の方法であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る方法においては、(3)ペプチド受容体と抗原ペプチドとの複合体が、以下の段階を含む方法により細胞から単離される、上記(2)記載の方法であることを特徴とする:
界面活性剤により細胞を可溶化する段階、および免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーによりペプチド受容体と抗原ペプチドとの複合体を隔離する段階。
【0021】
また、本発明に係る方法においては、(4)哺乳類生物体から単離された細胞が樹状細胞である、上記(2)または(3)記載の方法であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る方法においては、(5)ペプチド受容体と抗原ペプチドとの隔離された複合体が、ペプチドの溶離前に、限外濾過チューブ中で水により洗浄される、上記(1)〜(4)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る方法においては、(6)抗原ペプチドが、希酸によりペプチド受容体から溶離される、上記(1)〜(5)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る方法においては、(7)単離された抗原ペプチドが、分画され、配列決定されて、同定される、上記(1)〜(6)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る方法においては、(8)単離された抗原ペプチドが、液体クロマトグラフィーおよび質量分析を含む方法により、分画され、配列決定されて、同定される、上記(7)記載の方法であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る方法においては、(9)抗原ペプチドが、天然プロセシングされた抗原ペプチドであるか、または生物体に投与された非天然プロセシングされた抗原ペプチドである、上記(1)〜(8)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係る方法においては、(10)ペプチド受容体が、Hsp分子、MHC I分子およびMHC II分子を含む、上記(1)〜(9)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る方法においては、(11)細胞が、MHC I、MHC IIおよびHsp分子を含む群に属するペプチド受容体を発現する細胞である、上記(2)〜(10)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0029】
また、本発明に係る方法においては、(12)哺乳類生物体がヒト生物体である、上記(1)〜(11)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0030】
また、本発明に係る方法においては、(13)フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法であることを特徴とする:
(a)哺乳類生物体の細胞、組織または体液から単離された抗原ペプチドとペプチド受容体との複合体を0.1μg〜5μgの量で提供する段階;
(b)抗原ペプチドとペプチド受容体との隔離された複合体を、限外濾過チューブ中で水により洗浄する段階;
(c)希釈したトリフルオロ酢酸を用いて、会合した抗原ペプチドをペプチド受容体から37℃で溶離する段階;および
(d)単離されたペプチドを、液体クロマトグラフィーおよび質量分析により、配列決定および同定する段階。
【0031】
また、本発明に係る方法においては、(14)フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法であることを特徴とする:
(a)0.1μg〜5μgのMHC分子を提供する数のMHC発現細胞を提供する段階;
(b)段階(a)の細胞を、抗原の潜在的供給源と接触させる段階;
(c)MHC分子-抗原ペプチド複合体を、細胞から単離する段階;および
(d)会合したペプチドをMHC分子から溶離する段階。
【0032】
また、本発明に係る方法においては、(15)MHC発現細胞が、MHC I発現細胞である、上記(14)記載の方法であることを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係る方法においては、(16)MHC発現細胞が、MHC II発現細胞である、上記(14)記載の方法であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明に係る方法においては、(17)MHC II発現細胞が樹状細胞である、上記(16)記載の方法であることを特徴とする。
【0035】
また、本発明に係る方法においては、(18)樹状細胞が、未成熟樹状細胞として抗原の潜在的供給源に曝露され、同時に樹状細胞への成熟が誘導される、上記(17)記載の方法であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係る方法においては、(19)抗原の潜在的供給源が、腫瘍細胞、腫瘍細胞株、病原体、ならびにウイルス性、細菌性および寄生体性の抗原、自己抗原、ならびに、例えば血清、滑液、腹水などの体液を含む群に属する、上記(14)〜(18)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0037】
また、本発明に係る方法においては、(20)ペプチド受容体と抗原ペプチドとの複合体が、以下の段階を含む方法により細胞から単離されている、上記(14)〜(19)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする:
界面活性剤により細胞を可溶化する段階、および免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーにより抗原ペプチドとペプチド受容体との複合体を隔離する段階。
【0038】
また、本発明に係る方法においては、(21)ペプチド受容体と抗原ペプチドとの隔離された複合体が、ペプチドの溶離前に、限外濾過チューブ内で水により洗浄される、上記(14)〜(20)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0039】
また、本発明に係る方法においては、(22)抗原ペプチドが、希酸によりペプチド受容体から溶離される、上記(14)〜(21)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0040】
また、本発明に係る方法においては、(23)単離された抗原ペプチドが、分画され、配列決定されて、同定される、上記(14)〜(22)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0041】
また、本発明に係る方法においては、(24)単離された抗原ペプチドが、液体クロマトグラフィーおよび質量分析を含む方法により、分画され、配列決定されて、同定される、上記(23)記載の方法であることを特徴とする。
【0042】
また、本発明に係る方法においては、(25)抗原の潜在的供給源と接触している細胞から同定されたペプチドを、抗原の潜在的供給源と接触していない細胞から同定されたペプチドと比較することにより、抗原の潜在的供給源に由来する抗原ペプチドが同定される、上記(23)または(24)記載の方法であることを特徴とする。
【0043】
また、本発明に係る方法においては、(26)抗原ペプチドが、天然プロセシングされた抗原ペプチドである、上記(14)〜(25)のいずれか一つ記載の方法であることを特徴とする。
【0044】
また、本発明に係る方法においては、(27)フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法であることを特徴とする:
(a)0.1μg〜5μgのMHC II分子を提供する数の未成熟樹状細胞を提供する段階;
(b)段階(a)の細胞を抗原の潜在的供給源と接触させる段階および、TNFαの添加により樹状細胞の成熟を誘導する段階;
(c)界面活性剤TX-100による細胞の可溶化、および、免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーによるMHC II分子と抗原ペプチドとの複合体の隔離を含む方法により、MHC II分子-抗原ペプチド複合体を、細胞から単離する段階;
(d)MHC II分子と抗原ペプチドとの隔離された複合体を、限外濾過チューブ中で水により洗浄する段階;
(e)会合した抗原ペプチドを、希釈したトリフルオロ酢酸により37℃でMHC II分子から溶離する段階;ならびに
(f)単離されたペプチドを、液体クロマトグラフィーおよび質量分析により、配列決定および同定する段階。
【0045】
また、本発明に係る使用においては、(28)ワクチンの品質管理のための、上記(14)〜(27)のいずれか一つ記載の方法の使用であることを特徴とする。
【0046】
また、本発明に係る使用においては、(29)疾患の免疫モニタリングのための、上記(1)〜(27)のいずれか一つ記載の方法の使用であることを特徴とする。
【0047】
また、本発明に係る使用においては、(30)治療的処置の効果を制御するための、上記(1)〜(27)のいずれか一つ記載の方法の使用であることを特徴とする。
【0048】
また、本発明に係る使用においては、(31)疾患治療用に個別化されたペプチドワクチンの設計のための、上記(1)〜(27)のいずれか一つ記載の方法の使用であることを特徴とする。
【0049】
また、本発明に係る方法においては、(32)薬学的組成物の製造法であり、以下の段階を含む方法であることを特徴とする:
上記(7)〜(13)のいずれか一つまたは上記(23)〜(27)のいずれか一つ記載の段階;
同定されたペプチドを作製する段階および任意にそれらを修飾する段階;ならびに
得られた生成物を薬学的に許容される担体または希釈剤と共に製剤化する段階。
【0050】
また、本発明に係る方法および使用においては、(33)特に下記実施例を参照して、以下の本明細書において実質的に説明される、方法および使用であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0051】
本発明により、抗原ペプチドの同定法が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
方法
本発明は、哺乳類生物体由来の抗原ペプチドとペプチド受容体との複合体を0.1μg〜5μg、好ましくは0.2μg〜3μg提供する段階を含む、同定が可能なフェムトモル量の疾患関連抗原ペプチドを単離する方法を提供する。この量は、患者または健常ドナーの生検標本または体液から通常入手できる材料の量に等しい。先行技術において必要な材料の最低量は、非限定供給源(近交系マウス)に由来するII型MHC分子約200μgである(Dongre ARら、EJI、31:1485-94(2001))。これは、ヒト患者材料から入手可能な材料よりもほぼ二桁多い。
【0053】
例えば100ngのII型MHC分子を得るために必要な組織または体液の量は、II型MHC発現細胞の数およびII型MHC分子の発現率に依存しており、例えば、100ngのII型MHCは、血液約50mlから得ることができる、約2×105個の成熟DCまたは5〜10×106個の末梢血単球または約5×107個の末梢血単核細胞と同等である。
【0054】
MHCまたはHsp会合ペプチドの同定に必要な感度の高さは、例えばヒトII型MHC遺伝子産物HLA-DR1などの各種ペプチド受容体が、約500個〜1000個の別々の抗原ペプチドを保持するという事実により説明される(Chicz RMら、J Exp. Med.、178:27-47(1993);Chicz RMおよびUrban RG、Immunol. Today、15:155-160(1993))。しかし、500個〜1000個の別々のペプチドのコピー数は、ほとんどが非常に少なく、従ってこれらが生理的役割を果たす可能性は非常に低い。特にII型MHCの分野において、例えばヘルパーT細胞を活性化するものなど、免疫学的関連性を有するこれらのペプチドのコピー数は、中程度〜大量である(Latek RRおよびUnanue ER、Immunol. Rev.、172:209-228(1999))。これらのペプチドは、II型MHC分子から溶離されたペプチド材料の総量の約40%〜50%に相当し、かつ約10種〜200種の個別のペプチドと同等である。
【0055】
II型MHC会合ペプチドの多くが、T細胞受容体による認識に必須の約10個〜13個のアミノ酸の共通コア配列を共有している、2個〜5個のC末端切断型変種およびN末端切断型変種のセットとして表わされる(Rudensky AYら、Nature、359:429-431(1992);Chiczら、Nature、358:764-768(1992))。これらの切断型/伸長型変種は、同じT細胞エピトープを構築している。このことは、別々の重要なエピトープの数は、実際には比較的小さく、約5個〜70個の範囲の別々のエピトープであることを意味する。従って、免疫学的に関連するエピトープの存在比は、0.2%〜5%の範囲である。
【0056】
より詳細には、本発明の方法は、(a)哺乳類生物体から単離された抗原ペプチドとペプチド受容体との複合体0.1μg〜5μgを提供する段階、および(b)会合した抗原ペプチドをペプチド受容体から溶離する段階を含む。
【0057】
ペプチドの起源
本発明の抗原ペプチドは、哺乳類生物体の組織もしくは体液もしくは細胞由来の、または哺乳類生物体由来抗原提示細胞由来の、ペプチド受容体に会合したペプチドである。これらは、免疫系のT細胞に対する抗原ペプチドを細胞表面において提示するMHC I分子およびMHC II分子を含む膜貫通ペプチド受容体に結合することができる。抗原ペプチドはまた、細胞内または細胞外のMHC分子に結合することができる。ペプチドはまた、熱ショックタンパク質(Hsp)ファミリーに関連する細胞内ペプチド受容体に結合することもできる。
【0058】
抗原ペプチドは、自家抗原、腫瘍抗原、自己抗原、ならびにウイルス性、細菌性および寄生体性の抗原を含む。一部の抗原ペプチドは、寛容を誘導しうる。その他の抗原ペプチドは、免疫応答を惹起しうり、従ってこれらは免疫原性ペプチドである。本発明の抗原ペプチドは、これらが各細胞のタンパク質分解系により抗原性タンパク質から作製されてペプチド受容体に負荷されたことを意味する、天然プロセシングされた抗原ペプチドであってもよい。本抗原ペプチドは、生物体に投与され得る、非天然プロセシングされた合成抗原ペプチドまたは組換え抗原ペプチドであってもよく、ここでこれらは、更なるプロセシングなしにペプチド受容体上に負荷されているか、または細胞培養物中でペプチド受容体を発現する細胞もしくはインビトロにおいて単離されたペプチド受容体と接触してもよい。
【0059】
従って本発明の方法は、天然プロセシングされた抗原ペプチドに加えて、合成抗原ペプチドまたは組換え抗原ペプチドも含む。
【0060】
これらのペプチド受容体は全て多種多様なペプチドリガンド(前記参照)に対応できるので、その配列が決定されるべき単独ペプチドはそれぞれ、わずかにフェムトモル量で提示される。1μg II型MHC(16pmol)は、優性ペプチド種を保持することができるが、各単独ペプチドの占有率は0.1%〜2%であり、これは約16フェムトモル〜320フェムトモルに等しい。本発明の方法は、ペプチドに負荷されたペプチド受容体0.1μg〜5μgに由来する、フェムトモル量のこれら抗原ペプチドの単離、およびその後のそれらの配列決定を可能にする。
【0061】
ペプチド受容体の起源
更なる態様において、本発明の方法は、II型MHC分子、I型MHC分子およびHspタンパク質を含む、抗原ペプチドに結合する全てのタンパク質を含むペプチド受容体に関連する。
【0062】
更にペプチド受容体と抗原ペプチドとの複合体は、例えば血液、血清、腹水、滑液などの生物体の多様な体液から、例えば腫瘍生検標本などの生物体の組織試料から、または生物体から単離された細胞から、単離されうる。
【0063】
ペプチド受容体と抗原ペプチドとの複合体は、哺乳類生物体、好ましくはヒト生物体から単離されうる。
【0064】
ペプチド受容体は、0.1μg〜5μgの量で生物体から単離される。好ましくは、ペプチド受容体は、0.2μg〜3μgの量で生物体から単離される。
【0065】
細胞材料の起源
本発明の方法は、ペプチド受容体を発現する全細胞、例えば、抗原に会合したHsp分子を含む全細胞、抗原に会合したMHC分子を含む全細胞を包含しており、MHC IまたはHsp分子を発現する細胞は、ほぼ全ての有核細胞を含み、MHC II分子を発現する細胞は、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、胸腺上皮細胞、小膠細胞、活性化T細胞、並びに、IFNγなど炎症誘発性サイトカインによる誘導後の内皮細胞および上皮細胞を含む。MHC II分子を発現する細胞は、抗原提示細胞(APC)とも呼ばれる(Unanue, ER.、Macrophages, antigen presenting cells and the phenomena of antigen handling and presentation.、Fundamental Immunology、第2版(Paul, W.E編)、New York, Raven Press社、1989年)。
【0066】
細胞由来のペプチド受容体の可溶化
細胞または組織由来のペプチド受容体-ペプチド複合体の精製のために、細胞膜または組織は可溶化されなければならない。細胞溶解は、例えば凍結融解サイクルおよび界面活性剤の使用、並びにそれらの組合せなど、当技術分野において公知の方法により行われうる。好ましい溶解法は、界面活性剤、好ましくはTX-100、NP4O、n-オクチルグルコシド、Zwittergent、Lubrol、CHAPS、最も好ましくはTX-100またはZwittergent3-12を用いた可溶化である。細胞デブリおよび核は、可溶化された受容体-ペプチド複合体を含有する細胞溶解液から、遠心分離により除去されなければならない。従って本発明の更なる態様において、ペプチド受容体と抗原ペプチドとの複合体は、界面活性剤による可溶化を含む方法により、細胞から単離される。
【0067】
MHC-ペプチド複合体のナノスケール精製
更に本発明は、免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーを含む方法による、細胞溶解液由来のMHC-ペプチド複合体の精製を提供する。免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーに関して、I型MHC分子またはII型MHC分子に特異的な抗体およびこれらの方法に適した抗体が使用される。特異的抗体は好ましくはモノクローナル抗体であり、例えばプロテインAを介して共有的または非共有的に、例えばセファロースまたはアガロースビーズなどのビーズに結合されている。先行技術において使用された、広範なパネルの抗HLA抗体の選択には以下が含まれる:
抗HLA-DR抗体:L243、TU36、DA6.147、好ましくはL243;抗HLA-DQ抗体:SPVL3、TU22、TU169、好ましくはTU22およびTU169;抗HLA-DP抗体B7/21ならびに抗HLA-A,B,C抗体W6/32およびB9.12。
【0068】
様々なI型MHC分子およびII型MHC分子に特異的なモノクローナル抗体を購入してもよく(例えば、Pharmingn, Dianova)、または、プロテインA親和性クロマトグラフィーまたはプロテインG親和性クロマトグラフィーを用いて、各ハイブリドーマ細胞の上清から精製してもよい。精製されたモノクローナル抗体は、当技術分野において公知の様々な方法により、好ましくはCNBr活性化セファロースへの抗体アミノ基の共有結合により結合され得る。
【0069】
数時間回転させながら細胞溶解液と抗体ビーズをインキュベーションすることにより、またはマイクロカラムを通じて細胞溶解液をクロマトグラフィー的にポンプ流出することにより、MHC分子の免疫単離を行うことができる。抗体ビーズの洗浄は、エッペンドルフチューブまたはマイクロカラム中で行うことができる。免疫沈降の効率は、SDS-PAGEおよび、変性されたMHC分子を認識する抗体(抗HLA-DRα:1B5;抗I型HLA:HC10またはHCA2)を用いたウェスタンブロットにより分析されうる。
【0070】
Hsp-ペプチド複合体の精製
Hsp-ペプチド複合体は、当技術分野において公知の方法により精製されうる(Binder, R.ら、J. Immunol.、165:2582-2587(2000))。簡単に述べると、細胞を低張緩衝液中でホモジナイズして、その後硫安塩析により分画することができる。Hsp7O-ペプチド複合体を精製するために、50%沈殿物をADP親和性ビーズにに適用し、その後続いてDEAEアニオン交換ビーズに適用できる。前述の硫安塩析の80%沈殿物を用いて、コンカナバリンA親和性クロマトグラフィーおよびDEAEアニオン交換クロマトグラフィーの併用により、Hsp9Oファミリータンパク質-ペプチド複合体を精製することができる。
【0071】
ペプチド受容体会合ペプチドの溶離および分画
受容体分子からペプチドを溶離することにより、抗原の潜在的供給源由来のおよび細胞内または細胞外のポリペプチド由来の天然プロセシングされたペプチドの複合体混合物が得られる。溶離が終了して初めて、ペプチドを分画して配列解析に供することができる。
【0072】
本発明の方法における抗原ペプチドは、当技術分野において公知の様々な方法、好ましくは、例えば希釈アセトニトリル(Jardetzky TSら、Nature、353:326-329(1991))、希釈酢酸および加熱(Rudensky AYら、Nature、353:622-626(1991);Chicz RMら、Nature、358:764-768(1992))、または37℃の希釈トリフルオロ酢酸(Kropshofer Hら、J Exp Med、175:1799-1803(1992))などの希酸の使用により溶離されうる。希釈トリフルオロ酢酸により37℃においてペプチドを溶離するのが最も好ましい。
【0073】
更なる態様において、残留界面活性剤混入物を除去するために、隔離されたペプチド受容体-ペプチド複合体を水または低塩緩衝液で洗浄し、その後溶離する。低塩緩衝液は、濃度0.5mM〜10mMの範囲内の、好ましくは濃度0.5mMの、Tris、リン酸または酢酸の緩衝液でありうる。より好ましい態様において、ペプチド受容体-ペプチド複合体は、通常HPLC分析に使用される超純水(配列決定等級)、好ましくはMERCK社の超純水(配列決定等級)により洗浄される。洗浄段階は、限外濾過により行われうる。限外濾過は、カットオフ値が30kD、20kD、10kDまたは5kDである、好ましくはカットオフ値30kDおよびチューブ容量が0.5ml〜1.0mlである(「ウルトラフリー」チューブ;Millipore社)限外濾過チューブ中で行われうる。限外濾過チューブの洗浄は、受容体-ペプチド複合体を保持しているビーズ容量の10倍〜20倍の容量で、好ましくはビーズの15倍の容量で、4回〜12回、好ましくは6回〜10回行うことができる。溶離されたペプチドを、同じ限外濾過チューブを用いて、残留するペプチド受容体分子から分離することができる。溶離されたペプチドをその後凍結乾燥することができる。
【0074】
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)によるペプチド配列解析
本発明の更なる態様において、単離された抗原ペプチドは、分画され、配列決定されて、同定される。配列決定により、単離された抗原ペプチド混合物中の個々のペプチドのアミノ酸配列が、フェムトモル量のペプチドの配列決定に適した方法により解明されたことが理解される。同定により、抗原ペプチドがどのタンパク質またはポリペプチドに由来し、かつ、これらのタンパク質またはポリペプチド内においてどの配列が構成されているかが確立されるということが理解される。
【0075】
第一の段階において、例えば逆相クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィーまたはそれらの組合せなど種々の可能なクロマトグラフィー法の一つにより、溶離されたペプチドの複合体混合物が分画されうる。好ましくは、C18逆相クロマトグラフィーにより、またはMudPitと呼ばれる逆相/カチオン交換二次元HPLC(Washburn MPら、Nat Biotechnol.、19:242-247(2001))により分離が行われる。
【0076】
分画は、質量分析装置のナノフローエレクトロスプレー源、またはMALDI解析のためにプレート上に画分をスポッティングするマイクロ分画装置のいずれかに連結された、融解石英マイクロキャピラリーカラムを用いて、HPLC様式で行われる。
【0077】
様々な質量分析技術が適しており、好ましくはMALDIポストソース分解(post source decay;PSD)MSまたはエレクトロスプレーイオン化タンデム型質量分析(ESI-MS)が、最も好ましくはイオントラップESI-MSが適している。
【0078】
個々のペプチドの配列を、当技術分野において公知の手段により決定することができる。好ましくは、配列解析は、ペプチドの断片化、および、例えばMASCOTまたはSEQUESTのようなアルゴリズムを用いた、断片化スペクトルのコンピュータ支援翻訳により行われる。コンピュータアルゴリズムは両方とも、タンパク質およびヌクレオチドの配列データベースを用いて、実験的および理論的に作製したタンデム型質量スペクトルの相互相関解析を行う。これにより、高処理自動配列解析が可能になる。
【0079】
MALDI質量分析による定性的ペプチド分析
溶離時に得られた全ペプチドレパートリーの定性分析のために、マトリクス支援レーザー脱離およびイオン化飛行時間(MALDI-TOF)型質量分析を行うことができる。ペプチドを断片化しない設定を用いると、MALDI-TOF分析により、ペプチド混合物の複雑性および優性ペプチドの存在に関するおおよその概略が提供される。
【0080】
定量的ペプチド分析
ペプチド受容体から溶離した単独ペプチドの量を推定するために、マイクロキャピラリーカラムを通る流れを、検出波長214nmで操作されるフロースルーUV検出器により分析することができる。定量のために、分析対象のペプチドのピーク面積を、段階量の合成標準ペプチドのピーク面積と比較する。
【0081】
戦略1(エクスビボ法)
本発明の戦略1は、生物体内のペプチド受容体に負荷された抗原ペプチドを単離するために使用される(エクスビボ法、図1A)。
【0082】
本発明は、フェムトモル量のMHCまたはHsp会合ペプチドを単離および同定する方法に関し、本方法は、哺乳類生物体から、0.1μg〜5μgのMHC-ペプチド複合体またはHsp-ペプチド複合体を提供する段階を含む。このペプチド受容体の量は、患者または健常ドナーの生検標本または体液から通常入手できる材料の量と等しく、例えば、100ngのII型MHC-ペプチド複合体を、約50mlの血液から単離された約5×107個の末梢血単核細胞から精製することができる。
【0083】
MHC-ペプチド複合体またはHsp-ペプチド複合体を、例えば血液単球などの単離細胞から、例えば末梢血単核細胞などの細胞混合物から、例えば腫瘍生検標本などの組織から、または、例えば腹水もしくは滑液などの体液から精製することができる。
【0084】
体液は、例えば滑液などの体液中に存在する細胞に結合した、または、例えば細胞由来のアポトーシス性小胞もしくはエキソソームなど、体液中に存在する小胞に結合した、MHC-ペプチド複合体またはHsp-ペプチド複合体を含んでもよい(Denzer Kら、J Cell Science、113:3365-3374(2000))。または、MHC-ペプチド複合体は、例えば可溶性のI型MHC分子およびII型MHC分子のように、形質膜からの放出により可溶性型で存在してもよい(Aultman Dら、Human Immunol.、60:239-244(1999))。
【0085】
例えば、血液、血清、腹水、滑液など生物体の多様な体液から、または、例えば生検標本、摘出した原発性もしくは続発性の腫瘍など生物体の組織試料から、または生物体から単離した細胞から、MHC-ペプチド複合体またはHsp-ペプチド複合体を単離することができる。
【0086】
ペプチド受容体と抗原ペプチドとの複合体を、哺乳類生物体由来、好ましくはヒト生物体由来の細胞、組織または体液から単離することができる。
【0087】
戦略2(インビトロ法)
本発明の戦略2は、例えば細胞培養物中など、生物体外のペプチド受容体上に負荷された抗原ペプチドの単離を見越したものである(インビトロ法、図1B)。
【0088】
更なる態様において、本発明は、(a)0.1μg〜5μgのMHC分子を提供する数のMHC発現細胞を提供する段階、(b)細胞を、抗原の潜在的供給源と接触させる段階、(c)細胞からMHC分子-抗原ペプチド複合体を単離する段階、および(d)MHC分子から会合したペプチドを溶離する段階を含む、フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法に関する。
【0089】
MHC発現細胞は、MHC I発現細胞またはMHC II発現細胞(APC)であってよい。好ましくは、APCは樹状細胞であり、より好ましくは、APCは未成熟な樹状細胞であり、最も好ましくは、APCは末梢血単球から作製された未成熟な樹状細胞である。
【0090】
樹状細胞は、末梢血単球から、または骨髄由来のCD34+幹細胞前駆体から作製され得る。末梢血単核細胞(PBMC)は、密度勾配遠心分離により、血液試料から単離されうる。その後単球は、例えば磁気ビーズによる選別など、当技術分野において公知の方法により、PBMCから単離され得る。樹状細胞の供給源は、哺乳類種、好ましくはヒトであることができる。その後単球は、細胞培養中で分化され、未成熟樹状細胞となる。分化状態は、例えば上方制御細胞表面マーカーCD83、CD80、CD86、HLA-DRを用いる、フローサイトメトリー分析によりモニタリングすることができる。
【0091】
例えば100ngのII型MHC分子を得るのに必要な組織または体液の量は、II型MHC発現細胞の数、およびII型MHC分子の発現率に依存し、例えば、100ngのII型MHCは、約50mlの血液から得ることができる、約2×105個の成熟DCまたは5〜10×106個の末梢血単球または約5×107個の末梢血単核細胞と等しい。
【0092】
その後APCを、抗原の潜在的供給源と接触させる。同時に、例えば、TNFαまたはTNFα、IL-6、IL1β PGE2の混合物のような炎症サイトカインとのインキュベーションなど当技術分野において公知の方法により、APC、好ましくは未成熟樹状細胞の成熟が誘発される。
【0093】
APCに提供される抗原の潜在的供給源は、以下からなる群より選択されうる:
腫瘍組織、腫瘍細胞、腫瘍細胞株、遺伝子修飾した腫瘍細胞株、これらの細胞または細胞株の粗細胞溶解液、腫瘍細胞由来熱ショックタンパク質、病原体、公知のウイルス性、細菌性および寄生体性の抗原、免疫攻撃対象の組織、公知の自己抗原、自家抗原、ならびに、腫瘍、自己免疫または感染性疾患を持つ患者由来の体液または組織生検標本、ならびに、参照対照としての健常個体由来の体液または組織生検標本。対照APCは、抗原の潜在的供給源に曝露されないこと以外は、同等に処理される。抗原の潜在的供給源は、様々な哺乳類種、好ましくはヒトに由来しうる。
【0094】
APCは、受容体媒介性取込みによりまたは液相取込みおよび内在化によりAPCに取込まれる、抗原の潜在的供給源と接触してもよい。細胞は、例えばウイルスなど抗原の潜在的供給源に感染してもよい。
【0095】
MHC分子からペプチドを溶離することにより、抗原の潜在的供給源、および細胞内起源または細胞外起源のポリペプチドに由来する、天然プロセシングされたペプチドのセットが得られる。
【0096】
MHC会合ペプチドのエピトープ証明
本発明の方法で同定されたペプチド配列は、MHC結合モチーフ、MHC結合能およびT細胞認識を含む、数種類の判定基準の一つにより証明されうる。
【0097】
MHC結合モチーフは、MHC分子との安定した複合体を形成するために必要な特定のMHC分子(対立遺伝子変種)に会合したペプチドに共通の構造的特性である。I型MHC分子から溶離されたペプチドリガンドは比較的短く、8個〜11個の範囲のアミノ酸である。更に、ペプチドの2個または3個の側鎖が結合に関連している。各アミノ酸側鎖の位置はHLA対立遺伝子によって変動するが、これらのいわゆる「アンカー」残基と呼ばれるもののうち2つが2位および9位に位置していることが最も多い。特定のアンカー位置に関して、通常は1種または2種のアミノ酸のみが、例えば、HLA-A2の場合は2位におけるロイシンまたはバリンVなどが、アンカーアミノ酸として通常機能することができる。
【0098】
II型MHC分子の場合、ペプチドは、12アミノ酸長〜18アミノ酸長の間を変動するが、ペプチド結合溝の両端は開放されているので、それより長いペプチドであっても結合することができる。ほとんどのII型HLA分子は、九量体コア領域内に含まれる相対位置P1、P4、P6およびP9に、最大4個のアンカー残基を収容している。しかし、ペプチドのN末端からこのコア領域までの距離は変動可能である。大半の場合、2個〜4個のN末端残基は、コア領域に先行している。従って、P1アンカー残基は、ほとんどのII型HLA会合ペプチドにおいて、3位、4位または5位に位置している。II型HLA-DR分子から溶離されたペプチドは、巨大な疎水性P1アンカーを共有しており、これはチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシンまたはバリンに相当する。
【0099】
アンカー残基の位置および正確な種類は、II型HLA対立遺伝子産物を最も頻繁に生じることが知られているペプチド結合モチーフの構成要素となる。ペプチド配列中のモチーフ証明を可能にするコンピュータアルゴリズムは、Vaccinome(www.vaccinome.com)により市販されている「Tepitope」である。
【0100】
本発明の方法により同定されたペプチドのMHC結合能を、例えば、単離されたII型MHC分子および、本発明の方法により同定されたものと同一のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを使用する、当技術分野において公知の方法により試験することができる(Kropshofer Hら、J. Exp. Med.、175:1799-1803(1992);Vogt ABら、J. Immunol.、153:1665-1673(1994);Sloan VSら、Nature、375:802-806(1995))。または、II型MHC発現細胞株およびビオチン化されたペプチドを用いる細胞結合アッセイ法は、同定されたエピトープを確認するために使用することができる(Arndt SOら、EMBO J.、19:1241-1251(2000))。
【0101】
両アッセイ法において、標識されたレポーターペプチドの結合を50%減少させるのに必要な濃度(IC50)を決定することにより、ペプチドの相対結合能が測定される。関連するII型HLA分子と妥当な親和力で結合するペプチドのIC50値は、確立された参照ペプチドのIC50値の10倍を超えない。
【0102】
同じ結合アッセイ法を、別のII型MHC分子、すなわち本発明の方法を用いて溶離されたもの以外のII型MHC分子とのペプチドの結合能を試験するためにも使用することができる。
【0103】
T細胞認識により、CD4+またはCD8+ T細胞集団を活性化する能力についての、本発明の方法により同定されたペプチドの試験を伴う別のエピトープ証明法を示すことができる。CD4+ T細胞は、II型MHC分子へのペプチド結合により活性化されるのに対し、CD8+ T細胞は、I型MHC分子へのペプチド結合により活性化される。本発明の方法により同定されたものと同一のアミノ酸か、または本発明の方法で同定されたペプチドの入れ子型基(nested group)に由来するコア配列に相当するアミノ酸のいずれかを有するペプチドが合成される。次に合成ペプチドは、(a)関心対象のII型MHC(または、I型MHC)分子を発現しかつ少なくとも1種の疾患症状を有する被験対象;および、(b)関心対象のII型MHC(または、I型MHC)分子を発現するが疾患症状を有さない対照に由来するCD4+(またはCD8+)T細胞を活性化する能力について試験される。疾患の症状を有するが、関心対象のII型MHC(またはI型MHC)分子を発現しないものを、追加の対照とすることができる。
【0104】
一部の疾患(例えば、自己免疫成分を有する疾患)において、被験対象のCD4+ T細胞においては反応するが、(b)にも記載された対照のCD4+ T細胞においては反応しないことは、関連するペプチドは、関連疾患を開始し、促進しまたは増悪するようなCD4+ T細胞を活性化するエピトープであることを確認する上での証拠を提供する。別の疾患(例えば、自己免疫成分を伴わない癌または感染症)において、先の文脈に記載されたのと同様の反応性および非反応性のパターンにより、関連ペプチドは、疾患に対する免疫を媒介、または少なくとも疾患症状を軽減できるCD4+ T細胞を活性化するエピトープであることが示されると考えられる。
【0105】
CD4+(またはCD8+)T細胞反応は、当技術分野において公知の様々なインビトロ法により測定されうる。例えば、全末梢血単核細胞(PBMC)を、候補合成ペプチドの存在下または非存在下で培養し、増幅反応を、例えばそれらのDNAへの[3H]-チミジンの取り込みにより測定できる。増殖T細胞が、CD4+(またはCD8+)T細胞であるかどうかは、アッセイ前にPBMCからCD4+(またはCD8+)T細胞を除去すること、またはT細胞上のCD4+(またはCD8+)分子に結合して、それにより後者の増殖を阻害する阻害抗体を添加することのいずれかにより試験されうる。両方の場合において、増殖反応は、CD4+(またはCD8+)T細胞が増殖細胞である場合にのみ、阻害されると考えられる。あるいは、CD4+(またはCD8+)T細胞をPBMCから精製し、かつ適当なII型MHC(またはI型MHC)分子を発現しているAPC存在下でのペプチドへの増殖反応について試験することができる。このようなAPCは、Bリンパ球、単球、マクロファージ、または樹状細胞、もしくは全PBMCであることができる。APCは更に、Bリンパ球、単球、マクロファージ、または樹状細胞由来の不死化細胞株であることもできる。APCは、関心対象のII型MHC(またはI型MHC)分子を内因性発現させることができ、またはこれらは、このような分子をコードしているトランスフェクションされたポリヌクレオチドを発現することができる。全ての場合において、アッセイ前に、例えば電離放射線またはマイトマイシンCなどによる処理により、APCを非増殖性とすることができる。
【0106】
細胞増殖の測定の代わりに、CD4+ T細胞によるサイトカイン産生を、当技術分野において公知の手法により測定することができる。サイトカインは、インターロイキン-2(IL-2)、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン-4(IL-4)、TNF-α、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-12(IL-12)またはTGFβを含むが、これらに限定されるわけではない。それらを測定するアッセイ法は、ELISA、および、被験試料の存在下で関連サイトカインに反応する細胞を反応性(例えば増殖)について試験するバイオアッセイ法を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0107】
あるいは、CD4+リンパ球によるサイトカイン産生を、細胞内免疫蛍光染色およびフローサイトメトリーにより、直接可視化することができる。
【0108】
用途
本発明の方法を適用して、広範な疾患の病因に関連するペプチドを、特に易罹患性が1種もしくは数種の特定のMHC対立遺伝子の発現に関連しているペプチドまたはMHCで拘束されたT細胞反応が欠けているペプチドを同定できる。
【0109】
候補疾患は、自己免疫疾患(例えば、リウマチ様関節炎(RA)、I型糖尿病、多発性硬化症(MS)、セリアック病、重症筋無力症(MG)および全身性エリテマトーデス(SLE))、癌(例えば、メラノーマ、乳癌、B細胞リンパ腫、前立腺癌、直腸癌)または感染症(例えば、HIV、C型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、ミコバクテリアにより引き起された疾患)を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0110】
本発明の一つの局面とは治療目的であり、ここで、1種または複数の同定されたペプチドが、癌または感染症に対して患者をワクチン接種するために使用される。この目的のために、MHC分子に結合するのに十分な量の関連ペプチドが患者に直接投与されうり、T細胞の活性化、それに続く感染細胞または癌細胞のT細胞媒介性溶解が惹起されうる。
【0111】
あるいは、関連するペプチドを、DCに基づくワクチン産生に利用することができる。この場合、患者の単球由来の自家DCを、関連ペプチドまたは、関連ペプチド配列を含む組換えタンパク質でパルスすることができる。特に、腫瘍に対するワクチン接種において、I型MHCに会合した腫瘍抗原ペプチドおよびII型MHCに会合した腫瘍抗原ペプチドの組合せを用いて、DCをパルスすることができる。同様に、腫瘍細胞をトランスフェクションするために、関連ペプチドをコードする核酸分子をベクターに組込むことができる。これらのトランスフェクションされた腫瘍細胞は、DCと融合してもよい。これらのいずれの場合においても、適当なMHC分子について関連ペプチドを提示しているDCは、T細胞反応を引き起すために患者に投与されると考えられる。
【0112】
ペプチドの更なる治療的適用は、同定されたペプチドが自己免疫疾患における自己抗原であるような状況に関連する。この場合、各々の自己抗原ペプチドとそれを拘束するII型MHC分子との複合体を、キメラ抗体またはヒト化抗体により標的化することができる。本方法は、自己抗原性II型MHCペプチド複合体の減少、およびしたがって、自己免疫における駆動力の一つに属する自己攻撃性CD4+ Tヘルパー細胞の数の減少につながり得る。
【0113】
従って本発明は、疾患、好ましくは癌を治療するための個々のペプチドワクチンの設計に関して記載された方法の使用を提供する。
【0114】
それ以外に、本発明の方法は、いくつかの診断目的で活用されうる。第一に、本発明のペプチドを、治療様式の効果を追跡する応答マーカーとして使用することができる。本質的には、例えばリウマチ様関節炎患者の滑液中の自己抗原ペプチドなどの関連ペプチドの基底値を、本発明の戦略1を用いて決定し、所定の治療薬を投与して、その後、治療効果の指標としてのペプチドレベルの変化を観察することにより、それ以降の自己抗原ペプチドのレベルをモニタリングできる。
【0115】
従って本発明は、治療的処置の効果の制御に関して記載された方法の使用を提供する。
【0116】
同じ様式で、自己免疫疾患(例えば、RA、I型糖尿病、MS、セリアック病、MGまたはSLE)に罹患した患者の血液に由来するMHC会合ペプチドを、自己免疫疾患に対する治療薬のための反応マーカーとして使用することができる。
【0117】
同様に、自己免疫疾患のある病期または病相においてのみ認められる自己抗原ペプチドを、病期特異的マーカーとして利用することができる。
【0118】
従って、本発明は、疾患、好ましくは自己免疫疾患の免疫モニタリングに関して記載された方法の使用を提供する。
【0119】
本発明の更なる局面は、DCに基づくワクチンの品質を管理する方法である。腫瘍に対するワクチンとして使用される自家DCは、適当な腫瘍抗原ペプチドを有するDCのMHC分子を負荷するために、腫瘍抗原に供される。高品質DCワクチンの前提条件とは、高コピー数の腫瘍抗原ペプチドが関連MHC分子に結合することである。本発明の戦略2の適用により、関連ペプチドの有無を、ワクチン接種のために各DC調製物を利用する前に試験することができる。同様に、例えばマクロファージまたはB細胞などの、他のAPCに基づくワクチンの品質を決定することができる。
【0120】
従って本発明は、ワクチンの品質管理に関して記載された方法の使用を提供する。
【0121】
最後に、本発明の方法は、MHCまたはHspに会合したペプチドの同定を可能にするのみではなく、同時に、そのペプチドが由来するタンパク質も同定する。これらのタンパク質を、対応するペプチドに関して以前に記載されたものと非常に類似した様式により、診断用マーカーとして使用することができる。
【0122】
更なる態様において本発明は、以下の段階を含む、薬学的組成物を製造する方法を提供する:
本発明の方法の段階である、同定されたペプチドを作製して任意にそれらを修飾する段階、および、得られた生成物を、薬学的に許容される担体または希釈剤と共に製剤化する段階。
【0123】
組成物の意図された用途に応じて、適当な担体または希釈剤が添加されねばならない。このような担体および、薬学的組成物を製剤化する方法の例は、"Remington's Pharmaceutical Sciences"において見出されうる。有効な投与に適した薬学的に許容される組成物を形成するために、このような組成物は、同定された物質を有効量含むと考えられる。
【0124】
抗原ペプチドは、純粋なまたは実質的に純粋な形状で投与されることが可能であるが、薬学的組成物、製剤または調製物として存在することが好ましい。
【0125】
獣医学用途およびヒト臨床用途の両方に関する本発明の薬学的組成物は、1種または複数の薬学的に許容される担体と共に、および任意でその他の治療的成分と共に、前述の抗原ペプチドを含有する。担体は、製剤のその他の成分と適合性を有し、かつそのレシピエントにとって有害でないという意味で「許容可能」でなくてはならない。薬学的組成物は通常単位剤形で存在してもよく、かつ薬学的分野において周知の任意の方法により調製されてもよい。
【0126】
全ての方法は、1種または複数の付属成分を構成する担体と活性成分を会合させる段階を含む。一般に、活性成分と、液体担体もしくは超微粒子状固形担体またはこれら両方とを均等かつ均質に会合させること、およびその後必要ならば、生成物を所望の製剤に成形することにより、製剤が調製される。
【0127】
静脈内、筋肉内、皮下または腹腔内投与に適した製剤は、好ましくはレシピエントの血液と等張である溶液による、活性成分の無菌水溶液を、都合の良いことに含有している。このような製剤は、塩化ナトリウム(例えば、0.1M〜2.OM)、グリシンなどの生理的適合物質を含有し、かつ生理的条件と適合性のある緩衝pHを有する水中に固形活性成分を溶解し、水溶液を作製して、その溶液を滅菌することにより、都合良く調製されうる。これらは、例えば密封したアンプルまたはバイアルなどの、単位用量容器または多用量容器内に存在しうる。
【0128】
本発明の製剤に、安定化剤を導入してもよい。例となる安定化剤は、それら自身または混合物としてのいずれかで使用されうる、ポリエチレングリコール、タンパク質、糖質、アミノ酸、無機酸および有機酸である。これらの安定化剤を、免疫原1質量部につき、約0.11質量部〜約10,000質量部の量で組み込むことが好ましい。2種またはそれ以上の安定化剤が使用される場合、それらの総量は、上記で規定した範囲内であることが好ましい。これらの安定化剤は、適当な濃度およびpHで水溶液中で使用される。このような水溶液の特定の浸透圧は、一般に、約0.1オスモル〜約3.0オスモルの範囲であり、好ましくは約0.8オスモル〜約1.2オスモルの範囲である。水溶液のpHは、約5.0〜約9.0の範囲内に、好ましくは6〜8の範囲内に調節される。本発明の抗原ペプチドの製剤化において、吸着防止剤を使用することができる。
【0129】
以上まで本発明を全般的に説明したが、これは、添付の図面に関連し、単に例証のみの目的で本明細書に含まれかつ特記しない限り限定を意図しないような、具体的実施例を参照することによりさらに理解されると考えられる。
【0130】
実施例
下記実施例は添付の図面に関連しており、図1Aおよび図1Bで概説されかつ以下で詳細に説明される方法論に基づくものである。実施例において言及された市販の試薬は、特記しない限りは、製造業者の指示に従い使用された。
【0131】
発明の方法論
細胞株および培養
本試験は、以下に説明するように、単球から分化したヒト樹状細胞を用いて行った。単球は、ヒト末梢血から精製した。加えて、メラノーマ細胞株UKRV-Mel-15aおよびUKRV-Mel-20c(Eichmueller Sら、Exp Dermatol、11:292-31(2002))を用いた。
【0132】
全ての細胞を、1mMピルビン酸、2mMグルタミンおよび10%の熱失活ウシ胎仔血清(Gibco BRL社、Rockville、MD)を添加したRPMI 1640培地(略称:RPMI)において培養した。
【0133】
末梢血単核細胞(PBMC)の単離
末梢血を、健常ドナー由来の標準バッフィーコート(buffy coat)調製物として、地域の血液バンクから入手した。ヘパリン(200I.U./ml血液、Liquemine、Roche社)を用い、凝血を防いだ。LSM(登録商標)(1.077g/ml〜1.080g/ml;ICN社、Aurora、OH)において800g(室温)で30分間遠心分離することにより、末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。PBMCを中間相から収集し、20mM Hepesを含有するRPMI中で2回洗浄した(500gで15分間、300gで5分間)。赤血球を除去するために、PBMCを、ALT緩衝液(140mM塩化アンモニウム、20mM Tris、pH7.2)で3分間、37℃で処理した。PBMCを、20mM Hepesを含有するRPMIで2回洗浄した(200gで5分間)。
【0134】
末梢血単球からの樹状細胞の作製
製造業者のプロトコールに従って抗CD14磁気ビーズ(Miltenyi Biotech社、Auburn、CA)を用いた陽性選別により、単球をPBMCから単離した。1%非必須アミノ酸(Gibco, BRL社、Rockville、MD)、50ng/ml組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF;S.A. 1.1×107U/mg)(Leucomax;Novartis社、Basel、スイス)および3ng/ml組換えヒトIL-4(S.A. 2.9×104U/mg)(R&D Systems社、Minneapolis、MN)を添加したRPMI中で、単球を培養した。単球を、6ウェルプレート(Costar社)上に0.3×106/mlで5日間播種し、未成熟樹状細胞を得た。
【0135】
単球由来の未成熟樹状細胞の質は、フローサイトメトリー分析により日常的にモニタリングされ、下記の表現型が確認された:CD1a(高)、CD3(陰性)、CD14(低)、CD19(陰性)、CD56(陰性)、CD8O(低)、CD83(陰性)、CD86(低)およびHLA-DR(高)。対照的に、成熟樹状細胞(下記参照)は、以下の表現型を示している:CD1a(低)、CD80(高)、CD83(高)、CD86(高)およびHLA-DR(高)。CD1a、CD3、CD14、CD19、CD56、CD80、CD83、CD86に対するモノクローナル抗体に加え、各々のアイソタイプ対照を、Pharmingen社(San Diego、CA)から購入した。
【0136】
壊死性メラノーマ細胞への樹状細胞の曝露
メラノーマ細胞株を、液体窒素中での凍結およびその後の室温解凍を4サイクル行うことにより壊死させた。壊死性細胞の割合は、光学顕微鏡でモニタリングされた。樹状細胞にメラノーマ細胞由来抗原を供給するために、6×106個の未成熟樹状細胞を、1.8×107個壊死性細胞(比3:1)に曝露した。同時に、樹状細胞の成熟を、10ng/ml組換えヒト腫瘍壊死因子(TNFα;S.A. 1.1×105U/mg)の添加により誘導した。対照として、6×106個の樹状細胞を、TNFα単独と共にインキュベーションした。
【0137】
24時間〜48時間共培養した後、成熟樹状細胞を、300gの遠心分離10分間により収集した。細胞を、10%FCSを含有するRPMIで洗浄し、エッペンドルフチューブに移した。400gで3分間遠心分離した後、上清を完全に取り除き、細胞を-70℃で凍結させた。
【0138】
抗II型HLAビーズの作製
抗HLA-DRモノクローナル抗体(mAb)L243(ATCC、Manassas、VA)を、各マウスハイブリドーマ細胞株の培養により作製した。mAb L243を、プロテインAセファロース(Pharmacia社、Uppsala、スウェーデン)を用いて精製し、最終濃度2.5mg/mlのCNBr活性化セファロースビーズ(Pharmacia社)に、製造業者のプロトコールに従って固定した。L243ビーズは、0.1%Zwittegent3-12(Calbiochem社、La Jolla、CA)を含有するPBS中に保存された。
【0139】
HLA-DR-ペプチド複合体のナノスケール精製
凍結した樹状細胞ペレットを、10倍容量の氷冷溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤キモスタチン、ペプスタチン、PMSFおよびロイペプチンが添加された、1%Triton-X-100、20mM Tris、pH7.8、5mM MgCl2(Roche社、Manheim、ドイツ))中に再懸濁し、かつ1000rpmの水平振盪機において4℃で1時間溶解した。細胞溶解液を、2000g、4℃で10分間の遠心分離により細胞デブリおよび核から清澄化した。溶解液を、L243ビーズ(5μl〜10μl L243ビーズ/100μl細胞溶解液)と共に、水平振盪機中で、1000rpm、4℃で2時間、共インキュベーションした。L243ビーズに結合した免疫沈降HLA-DR-ペプチド複合体を、2000g、4℃で5分間の遠心分離により遠沈し、0.1%Zwittegent3-12(Calbiochem社)のPBS溶液300μlで3回洗浄した。
【0140】
HLA-DR-ペプチド複合体の枯渇効率は、免疫沈降前後の、各細胞溶解液の分析によりモニタリングした。並行して、ビーズのアリコートを、抗HLA-DRa特異的mAb 1B5を用いるウェスタンブロットにより分析した(Adams, T.E.ら、Immunology、50:613-624(1983))。
【0141】
HLA-DR会合ペプチドの溶離
L243ビーズに結合したHLA-DR-ペプチド複合体を、400μlのH2O(HPLC等級;Merck社、Darmstadt、ドイツ)中に再懸濁し、カットオフ値30kDの限外濾過チューブUltrafree MC(Millipore社、Bedford、MA)に移して、400μl H2O(HPLC等級)と共に14000rpm、4℃で2分間〜4分間遠心分離することにより10回洗浄した。結合したペプチドを溶離するために、0.1%トリフルオロ酢酸(Fluka社、Buchs、スイス)50μlのH2O(HPLC等級)溶液を添加し、かつインキュベーションを37℃で30分間行った。溶離したペプチドを、新たなエッペンドルフチューブに収集し、Ultrafree unitで、14000rpm、3分間室温で遠心分離し、かつ即座にSpeed-Vac(商標)真空遠心分離装置において凍結乾燥した。
【0142】
ナノHPLCによるペプチド分画
HLA-DR分子から溶離した凍結乾燥ペプチドを、0.05%トリフルオロ酢酸、5%アセトニトリル(Merck社、Darmstadt、ドイツ)のH2O(HPLC等級)溶液に溶解し、FAMOS(商標)自動試料採取装置およびULTIMATE(商標)ナノフローHPLC(Dionex社、Olten、スイス)に連結した75μm×15cm C18 PepMapキャピラリー(C18;3μm;100Å)(LC-Packings社、Amsterdam、オランダ)上で分離した。その後の定常流速200nl/分における非線形勾配では、以下を使用した:0分から40分、5%から50%システムB;40分から50分、50%〜90%システムB。システムAは、0.05%トリフルオロ酢酸、5%アセトニトリル/H2Oであり、システムBは、0.04%トリフルオロ酢酸、80%アセトニトリル/H2Oであった。分離を、214nmおよび280nmでのデュアルUV吸収によりモニタリングした。画分(400nl)を、自動分取装置PROBOT(商標)(BAI社、Weiterstadt、ドイツ)を用いて収集し、AnchorChip 600/384 MALDI-MS標的(Bruker社、Bremen、ドイツ)上にスポットした。
【0143】
質量分析によるペプチドの配列解析
MALDI-TOF質量分析
AnchorChipプレート上にスポットしたペプチドを、マトリクス(10mg/ml;a-シアノ-4-ヒドロキシ-ケイヒ酸(Merck社、Darmstadt、ドイツ)、50%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸)と共に、同時結晶化した。全ペプチドレパートリーの定性分析のために、製造業者のプロトコールに従い、Ultraflex(商標)MALDI-TOF質量分析装置(Bruker社、Bremen、ドイツ)において試料を分析した。
【0144】
イオントラップMS/MS質量分析
複合体ペプチド混合物の高処理配列決定を行うために、MudPIT(多次元タンパク質同定技術)を用いた(Washburn MPら、Nat Biotechnol、19:242-247(2001))が、これは液体クロマトグラフィー分画、およびその後の質量分析配列決定を基本としている。
【0145】
この目的のために、HLA分子から溶離した凍結乾燥ペプチドを、5%(v/v)アセトニトリル、0.5%(v/v)酢酸、0.012%(v/v)ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)および5%(v/v)ギ酸を含有する緩衝液中に再懸濁した。試料を、Model P-2000レーザーパルサー(Sutter Instrument社、Novato、CA)により作製された融合シリカマイクロキャピラリーカラム(内径100μm×365μm)上で分離した。マイクロカラムには、3μm/C18逆相材料(C18-ACE 3μm[ProntoSIL 120-3-C18 ACE-EPS、Leonberg、ドイツ])を充填し、その後5μmカチオン交換材(Partisphere SCX;Whatman社、Clifton、NJ)を3cm充填した。
【0146】
Agilent 1100シリーズHPLC(Agilent Technologies社、Waldbronn、ドイツ)で、下記の緩衝液を用いて完全自動化8段階勾配分離を行った:5% ACN/0.02% HFBA/0.5%酢酸(緩衝液A)、80% ACN/0.02% HFBA/0.5%酢酸(緩衝液B)、250mM酢酸アンモニウム/5% ACN/0.02% HFBA/0.5%酢酸(緩衝液C)、および1.5M酢酸アンモニウム/5% ACN/0.02% HFBA/0.5%酢酸(緩衝液D)。第一段階の106分間は、0%から80%緩衝液Bまでの勾配100分間、および80%緩衝液Bでの維持6分間からなる。次の6つの段階(各106分間)は、下記のプロファイルにより特徴付けられる:100%緩衝液Aで5分間、x%緩衝液Cで2分間、100%緩衝液Aで5分間、0%から10%緩衝液Bまでの勾配3分間、10%から35%緩衝液Bまでの勾配55分間、35%から50%緩衝液Bまでの勾配20分間、50%から80%緩衝液Bまでの勾配16分間。段階2〜段階7における2分間の緩衝液Cの割合(x)は、下記のようであった:10%、20%、30%、40%、70%、90%、および100%。段階8は、下記のプロファイルからなる:100%緩衝液Aで洗浄5分間、100%緩衝液Dで塩洗浄20分間、および0%から80%緩衝液Bまでの勾配100分間。
【0147】
HPLCカラムを、ナノLCエレクトロスプレーイオン化供給源を装着した、Finnigan LCQイオントラップ質量分析装置(Finnigan社、Bremen、ドイツ)に直接連結した。MS-MSモードでの質量分析を、製造業者のプロトコールに従って行った。ペプチドの同定は、swiss.fastaデータベースに対する分離アルゴリズム(sequest algorithm)により行った。
【0148】
MALDI-PSD質量分析
上述したようなイオントラップMS/MSによる配列分析を行う代わりとして、Bruker Ultraflex TOF/TOF質量分析装置(Bruker社、Bremen、ドイツ)において、データ捕捉用ソフトウェアFLEXControl 1.1 Alphaを用いてMALDI-PSD分析を行った。ヒト血清アルブミン(Merck社、Darmstadt、ドイツ)のトリプシン消化を用いて、キャリブレーションを行った。まずペプチド混合物を、リフレクトロン(reflectron)モードで走査した。次に関心対象のペプチドを、リフトモードで選択した(MALDI-PSD分析)。得られたペプチド断片化スペクトルを、Xmas 5.1.2およびBiotools 2.1 Software(Bruker社)を用いて自動的に評価し、MASCOTアルゴリズム(http://www.matrixscience.com)を用って、少数(non-redundant)タンパク質データベースにおける配列同定のために使用した。
【実施例1】
【0149】
戦略1(図1A)を用い、末梢血単核細胞(PBMC)表面に発現されたHLA-DR分子に会合したペプチドを同定した。PBMCを、Ficoll密度勾配遠心分離法により、末梢血から単離した。50mlの血液から、5.3×107個のPBMCが回収された。典型的にはPBMC中に存在するこれらの細胞型は、Tリンパ球(約50%)、Bリンパ球(5%〜10%)、単球(15%〜25%)およびナチュラルキラー細胞(約6%)であった。末梢血樹状細胞も存在するが、非常に少量のみであった(<0.5%)。B細胞および単球両方が相当の量のHLA-DR分子を発現しているが、一方でナチュラルキラー細胞およびT細胞染色は陰性であることが、フローサイトメトリーによるPBMCの分析により明らかになった。PBMC中の少量の樹状細胞を、FACSにより可視化することはできない。ヒトT細胞は、活性化時にHLA-DRを上方制御することができるが、活性化T細胞は通常末梢血には存在しない。
【0150】
PBMC中に存在するB細胞の数は単球と比べて2倍〜3倍少ないが、それらのHLA-DR発現レベルは約2倍高い。このことは、PBMC由来の溶解液中において、B細胞を起源とするHLA-DR分子の数が単球由来のHLA-DR分子の数に匹敵することを意味する。
【0151】
PBMCをTX-100中で溶解させ、HLA-DR分子を、抗DR mAb L243を用いて沈降させた。沈降は、抗DRαmAb 1B5を用いたウェスタンブロット分析により制御された。参照としての精製HLA-DR分子を使用する定量的ウェスタンブロット分析により、5.3×107個の細胞から約200ngのHLA-DRが精製されたことが明らかになった。HLA-DR会合ペプチドを0.1%TFAで溶出し、ペプチド混合物を、2次元カチオン交換/逆相液体クロマトグラフィー(MudPit)を用いて分画した。配列決定は、高処理イオントラップ質量分析により行い、データベース検索は、ヒトデータバンク「humangp」を用いて行った。相互相関>2.0により同定されたペプチドを、表1に示す。
【0152】
以下のような27個のペプチドを同定した:8個のペプチドは、ヒト血清アルブミンに由来しており、II型MHC会合ペプチドに典型的な入れ子型セットのペプチドを構成している(同じエピトープのN末端およびC末端伸長/切断変種);3個のペプチドは、アポリポタンパク質AIIに由来しており、これもまたたった一種類のエピトープを示している;3個のペプチドは、α1アンチトリプシンに由来し、一種類のエピトープを表わしている;4個のペプチドは、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ関連タンパク質ERp72に由来する(一種類のエピトープ)。残りの9個のペプチドは異なるタンパク質に由来し、従って、九種類の異なるエピトープを表わしている。
【0153】
15個のペプチド(四種類のエピトープ)は、以下のようなヒト血清の主要構成要素である細胞外タンパク質に由来する:血清アルブミンは、血清中で最も豊富なタンパク質であり、アポリポタンパク質AIIは、高密度リポタンパク質(HDL)の構成要素であり、α1アンチトリプシンは、公知の血清プロテアーゼ阻害剤である。フェリチン軽鎖(ペプチド番号10のドナー)は実際に全細胞に存在しており、かつ血漿中では低濃度である。おそらく、これらのタンパク質は液相取り込みによって内在化され、かつタンパク質分解性プロセシングの後、各ペプチドは、APC(単球またはB細胞)内のHLA-DR分子上に負荷されたのであろう。あるいは、これらのタンパク質または各タンパク質の断片は、細胞表面HLA-DR分子に結合する可能性がある。
【0154】
リソソーム会合型複数回膜貫通タンパク質(lam5)は、ペプチド番号4のドナーであり、造血細胞において発現される。lam5はリソソームに細胞下局在しているため、HLA-DR分子が負荷されている区画に既に存在しており、タンパク質分解性切断の前後に、ここに結合することができる。I型HLA分子(ペプチド番号19を生じる)は、ほぼ全ての有核細胞に存在し、従って、これはAPC自身に由来する可能性が高い。あるいは、I型HLA分子が流れ出たと説明されている血清から、I型HLAを採取することもできる。
【0155】
PDI ERp72は、筋肉および肺においてだけでなく、リンパ芽球細胞株においても発現されることが説明されているER常在タンパク質である。ERp72はペプチド番号20〜23を生じる。ピルビン酸キナーゼは細胞質タンパク質であり、数種類のアイソフォームとして存在するが、アイソフォームM1は、筋肉、心臓および脳において発現され、アイソフォームM2は、胎児組織に関して記載されている。エピトープ(ペプチド20〜23)は、両方のアイソフォームとして存在する。ペプチド番号24は、骨格筋において高度に発現された細胞質タンパク質であるアクチンα1に由来する。従って、3種類のエピトープは全て、微小な組織の外傷または損傷のためにそれらの細胞タンパク質を血清中に放出し得る、筋肉細胞に由来する可能性がある。
【0156】
ペプチド番号5は、F-boxヘリカーゼ1に由来するが、このタンパク質の組織発現についてはまだほとんどわかっていない。
【0157】
ペプチド番号25、26、および27は、第17染色体、第6染色体および第4染色体に割当てられたタンパク質に各々由来するが、各タンパク質またはそれらの機能、組織発現もしくは細胞下局在性に関する情報はない。
【0158】
血清アルブミンエピトープ(ペプチド番号11〜18)のウシ類似体

は、DR対立遺伝子DRB1*1101/DRB1*1104に関連して、HLA-DR会合エピトープとして説明されている(Verreck FAら、Immunogenetics、43:392-397(1996))。これは、培養EBV形質転換B細胞に由来する自己ペプチドのEdman配列決定により同定されている。これらの両対立遺伝子のペプチド結合モチーフは、P1位置に芳香族残基または脂肪族残基を、P4に脂肪族残基を、およびP6に塩基性残基を必要とする(Verreck FAら、Immunogenetics、43:392-397(1996))。これらの必要条件はPBMCに由来し、かつ本明細書において同定されたヒト血清アルブミンエピトープにおいてもまた満たされている(P1=L、P4=V、P6=R)(ペプチド11〜18)が、ペプチド1〜4、6〜10、20〜23および27においても同様である(表1)。更に、ここで見出されたα1アンチトリプシンペプチドと重複しているエピトープは、DRB1*04O2に関連してEBV B細胞において説明されている(Friede Tら、Biochim Biophys Acta、1316:85-101(1996))。
【0159】
DRB1*1101と同時発現したDR対立遺伝子とはDRB3*02O2であり、これがペプチド結合するための必要条件は以下である:P1位置に芳香族残基または脂肪族残基、P4にアスパラギン、およびP6に極性残基(Verreck FAら、Immunogenetics、43:392-397(1996))。これらの必要条件は、ペプチド5および19により満たされている。従って同定されたペプチドのほとんど(n=21)が同じモチーフを有しており、このことは、これらが同じHLA-DRアロタイプに由来するか、または共通モチーフを共有しているHLA-DRアロタイプだけでなくその他に由来することを示している。
【実施例2】
【0160】
戦略2(図1B)を用い、潜在的抗原に曝露されている樹状細胞表面上に発現されたHLA-DR分子に会合した新規ペプチドを同定した。この場合において、抗原供給源は、INFLEXAL Berna V(Berna社、Bern、スイス)と呼ばれる、インフルエンザウイルスに対する市販のワクチンであった。
【0161】
樹状細胞は末梢血単球から分化し、かつ濃度0.5×106細胞/mlで培養された。ワクチンINFLEXAL Berna V(Berna社、Bern、スイス)を濃度100μl/ml(インフルエンザウイルス由来のヘマグルチニン3μg/mlに相当)で添加することにより、6×106個の樹状細胞をINFLEXAL Berna Vに24時間曝露した。同時に、TNFα(10ng/ml)の添加により、樹状細胞の成熟を誘導した。対照として、同量の樹状細胞(6×106)を、抗原非存在下かつTNFα(10ng/ml)の存在下で培養した。
【0162】
樹状細胞の両セットを界面活性剤TX-100で溶解し、HLA-DR分子を、セファロースビーズに固定した抗DR mAb L243を用いて沈降した。HLA-DR会合ペプチドを0.1%TFAで溶離し、MALDI-MSにより分析した(図2A)。上側パネルは、パルスしていないDC由来のHLA-DR会合自家ペプチドの複合体混合物を示している。質量電荷比m/z=2334、m/z=2545およびm/z=2676を示す3種類の優性ペプチドは、成熟樹状細胞中の、CLIPの変種、II型会合インバリアント鎖ペプチド(Riberdy JMら、Nature、360:474-477(1992))、優性自家ペプチドに相当する。下側パネルは、INFLEXALでパルスされたDCのペプチドレパートリーを示している。両方のMSスペクトルの比較により、3種類の新規シグナルが、INFLEXALワクチンとの接触時に、DCのMALDI-MSペプチドプロファイルにおいて優性となっていることが示された。これら3種類の新規シグナルは、m/z=1969.4、m/z=2097.6およびm/z=2196.6において出現した(図2A)。
【0163】
INFLEXAL Berna Vに含まれるヘマグルチニンタンパク質は、以下の3種類の異なるインフルエンザ株に由来する:菌株A/New Caledonia/20/99;菌株A/Panama/2007/99;菌株B/Yamanashi/166/98(循環ウイルスの遺伝的多様性を考慮しWHOの推奨に準ずる(Lindstrom SEら、J. Virol.、73:4413-4426(1999)))。
【0164】
前述のインフルエンザ株の3種類の異なるヘマグルチニン配列において同定された質量を検索することにより、3種類全てのペプチドが、菌株B/Yamanashi/166/98(図2B;配列番号:90)のインフルエンザヘマグルチニンに位置する一つのエピトープの長さの変種(配列番号:86、87、88、89)を表わすことが明らかになった。
【0165】
このエピトープHA(253-271)

(配列番号:88)は、I-260を、Q-264を、およびL-269をそれぞれP1、P4、P9のアンカー残基として使用する、DRB1*0101およびDRB5*01O1に対するMHCペプチド結合モチーフを含む(アンカー残基に下線を付した)。
【0166】
アミノ酸配列

を有する合成ペプチドを用いたMHCペプチド結合試験により、対立遺伝子DRB1*0101およびDRB5*01O1の結合能が確認され、かつDRB1*0401と同じであることが明らかになった。従ってインフルエンザヘマグルチニン(菌株B/Yamanashi/166/98)に由来する新たに同定されたエピトープは、無差別な(promiscuous)結合能を有するエピトープであることが明らかとなった。
【実施例3】
【0167】
更に、戦略2(図1B)を用いて、新規HLA-DR会合腫瘍ペプチドを同定した。以下のように樹状細胞は、壊死性メラノーマ細胞株UKRV-Mel-15aに曝露された。
【0168】
3×106個の樹状細胞を、メラノーマ株UKRV-Mel-15aの壊死性細胞9×106個と同時インキュベーションし、TNFα(10ng/ml)の存在下で24時間培養した。対照として、3×106個の樹状細胞を、TNFα(10ng/ml)のみの存在下で培養した。
【0169】
樹状細胞の両セットを界面活性剤TX-100により溶解し、抗DR mAb L243を用いてHLA-DR分子を沈降させた。HLA-DR会合ペプチドを0.1%TFAで溶離し、MALDI-MSにより分析した(図3A)。
【0170】
本実施例において、両方のDC培養物由来のHLA-DR会合ペプチドをMALDI-MSスペクトルにより比較し、メラノーマ細胞でパルスされたDCのプロファイルに含まれるペプチドシグナルのみを用いて、連続配列決定により新規エピトープを同定した。
【0171】
MALDI-MS分析により、パルスされないDCと比べ、パルスされたDCのスペクトルにおいて観察された質量がm/z=1820.6である一つの優性シグナルが明らかになった(図3A)。
【0172】
MALDI-PSD断片化による配列決定により、アミノ酸配列

(図3B)を有するビメンチン(202-217)である腫瘍抗原ビメンチン由来の新規エピトープがもたらされた。イオントラップMS-MSによる配列分析は、この配列を確認した(図3C)。
【0173】
ビメンチン(202-217)およびその他いくつかの公知のメラノーマ抗原は、HLA-DR4 B1*0401分子への結合に適した共通モチーフを共有している(表2)。自家抗原ペプチドおよび外因性抗原ペプチドに由来する典型的DRB1*0401ペプチド結合モチーフとは対照的に、melanA、CDC27、チロシナーゼおよびビメンチンに由来するペプチドは、アンカーP6位において、トレオニン(T)またはセリン(S)の代わりにアスパラギン酸(D)を提示している。この特性の関連については、依然研究の余地がある。
【0174】
ビメンチンは、様々な良性腫瘍および悪性腫瘍のマーカータンパク質であることが知られている。melanA/MART-1、チロシナーゼおよびS100と共に、ビメンチンは日常的に、メラノーマ患者由来の臨床検体中のメラノーマ細胞の追跡に使用されている。興味深いことに、侵襲能が低いメラノーマクローンはビメンチン発現が多いのにに対し、高度に侵襲性のメラノーマ細胞クローンにおいてビメンチンは下方制御されている(Gutgemann Aら、Arch Dermatol Research、293:283-290(2001))。対照的に、ビメンチンの発現増強は、分化不良かつ転移性の前立腺腫瘍において認められる(Lang SHら、Prostate、52:253-263(2002))。更にビメンチンは、正常腎組織と比べて、ヒト腎細胞腫瘍において過剰発現される(Stassar MJら、Br. J. Cancer、85:1372-1382(2001))。同様に、典型的なホジキンリンパ腫における95%を上回る腫瘍細胞がビメンチン陽性であるのに対し、T細胞に富むB細胞リンパ腫は、ビメンチン陰性である(Rudiger Tら、Am J Surg Path、22:1184-91(1998))。
【0175】
本発明の方法により同定されたビメンチン(202-217)ペプチドは、一番初めに説明されたビメンチン由来II型HLA拘束型エピトープである。
【実施例4】
【0176】
本実施例において、戦略2(図1B)を使用して、TNFα誘導性成熟および潜在的抗原への曝露後に、樹状細胞(DC)のHLA-DR分子に結合したペプチドをできる限り多く同定した。高処理イオントラップMS/MS技術により、配列決定を行った。
【0177】
従って、5×106個の樹状細胞を、メラノーマ株UKRV-Mel-20cの壊死性細胞1.5×107個と同時インキュベーションし、TNFα(10ng/ml)の存在下で24時間培養した。対照として、5×106個の樹状細胞を、TNFα(10ng/ml)のみの存在下で培養した。
【0178】
樹状細胞の両セットを界面活性剤TX-100により溶解し、HLA-DR分子を、抗DR mAb L243を用いて沈降した。HLA-DR会合ペプチドを0.1%TFAで溶離し、LC高処理イオントラップMS/MS技術により分析した。
【0179】
パルスしていないDC(対照)から同定したペプチド配列を表3に示し、壊死性メラノーマ細胞によりパルスしたDCから同定したペプチド配列を表4に示した。
【0180】
DCのHLA-DR分子由来の35個の個別のペプチド配列をメラノーマ細胞非存在下で同定し、40個のペプチド配列を、UKRV-Mel20cメラノーマ細胞存在下で見出した。ペプチド配列の比較により、21個のペプチドが同一(番号1〜21)であり、14個の配列(11種類のエピトープ)が、パルスしていないDCに特異的であり、17個の配列(9種類のエピトープ)がメラノーマ細胞パルス後にのみ提示されたことが示された。
【0181】
メラノーマ細胞により誘導されたペプチド9個のうち7個は、DRB1*0405の結合モチーフを共有していた(表5)。重要なことに、メラノーマ細胞誘導性エピトープ9種類のうち3種類は、公知の腫瘍マーカータンパク質、すなわち翻訳因子IF-4A1、翻訳因子EF-1αおよびインターフェロン-γ(IFNγ)誘導性P78に由来する。
【0182】
翻訳因子IF-4A1は、正常なヒトメラニン細胞に対して、メラノーマ細胞株において定常的に過剰発現されている。IF-4A1の過剰発現は、メラノーマ細胞の重要な特徴であると考えられ、それらの悪性転換に寄与する可能性がある(Eberle Jら、Int. J. Cancer、71:396-401(1997))。
【0183】
様々な証拠により、発癌時におけるリボソーム伸長因子(EF)の関与が示唆されている。いくつかの研究において、タンパク質合成のコア成分であるEF-1αの発現の変化は、形質転換された表現型に関連している。EF-1α mRNAの過剰発現は、哺乳類腺癌における転移可能性の増大に相関しており、EF-1αは、前立腺癌遺伝子PTI-1と相当程度の相同性を有する(Gopalkrishnan RVら、Int J Biochem Cell Biol、31:151-162(1999);Edmonds BTら、J Cell Sci、109:2705-2714(1996))。
【0184】
ペプチド番号42および43(表4)と同じエピトープを含むEF-1αに由来する天然プロセシングされた自家ペプチドもまた、EBV形質転換B細胞株から精製されたHLA-DR分子から溶離されている(Verreck FAら、Immunogenetics、43:392-397(1996))。
【0185】
前立腺癌のホルモン依存段階からホルモン非依存段階への進行は、癌遺伝子活性化および/または腫瘍抑制遺伝子失活により引き起される遺伝的変化のカスケードを含む。アンドロゲン依存型癌細胞株において高度に過剰発現されているいくつかの遺伝子が同定された。とりわけ、インターフェロン誘導性遺伝子1-8Uおよびp78が同定された(Markku Hら、Lab Invest.、80:1259-1268(2000))。
【0186】
従って、本発明の方法により同定された翻訳因子IF-4A1、翻訳因子EF1αおよびIFNγ誘導性P78由来のペプチドは、診断用マーカーまたは治療用ワクチンとして使用されうる新規腫瘍抗原候補である。
【0187】
(表1)末梢血単核細胞由来のHLA-DR結合ペプチド


a各ペプチドのペプチド結合モチーフを含む9merコア領域に下線を付した。
【0188】
(表2)HLA-DR4(B1*0401)関連メラノーマ抗原

aペプチド配列を、HLA-DR4のペプチド結合モチーフ(DRB1*0401)に従って整列化した:P1アンカー:W、Y、F;P4アンカー:D、E、L。アンカー6位における特殊な「D」(T、S、またはNの代わり)は、太字で示した。
bR.F. Wang、Trends in Immunology、22:269-276(2001)
【0189】
(表3)成熟樹状細胞由来のHLA-DR結合ペプチド


aHLA-DR結合ペプチドのP1アンカーに下線を付した。
【0190】
(表4)メラノーマ細胞株UKRV-Mel-20cでパルスした成熟樹状細胞由来のHLA-DR結合ペプチド



aHLA-DR結合ペプチドのP1アンカーに下線を付した。
【0191】
(表5)メラノーマ細胞株UKRV-Mel-20cにより誘導されかつDRB1*0405の結合モチーフを共有しているHLA-DR結合ペプチド

aペプチド配列を、HLA-DR4のペプチド結合モチーフ(DRB1*0405)に従って整列化した:P1アンカー:Y、F、I、L、V;P4アンカー:M、I、V;P9アンカー:E、D。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1A】戦略1(直接法)に従う方法の概略を示す図である。II型MHC-ペプチド複合体またはHsp-ペプチド複合体は、組織または体液から直接単離され、これにより、インビボにおいて提示された天然プロセシングされたII型MHCまたはHsp会合抗原の同一性がもたらされる。
【図1B】戦略2(間接法)に従う方法の概略を示す図である。特殊化された抗原提示細胞(APC)である樹状細胞(DC)は、抗原取り込みおよび抗原プロセシングに最適な条件下で、抗原供給源(例えば体液)と接触される。対照としてDCが、抗原と接触することなく、同じ条件下で培養される。DCの成熟後、抗原負荷したII型MHC分子は精製され、かつ各II型MHC会合抗原ペプチドは単離および同定される。
【図2A】戦略2が例示されており、これは、偽処理された成熟樹状細胞(上側パネル)、または、インフルエンザウイルス由来のビロソーム(virosome)封入組換えヘマグルチニンを含有するインフルエンザワクチンInflexal Berna V(商標)でパルスされた成熟樹状細胞(下側パネル)から単離されたHLA-DR結合ペプチドの質量分析である。Inflexal Berna V(商標)による処理により誘導された3つの主要なシグナルには、矢印および番号で印をつけた。
【図2B】菌株B/Yamanashi/166/98由来のインフルエンザヘマグルチニンタンパク質のタンパク質配列(一文字コード)を示す。新たに同定されたHLA-DRエピトープ(図2Aと比較)には下線を付している。
【図3A】偽処理された成熟樹状細胞(上側パネル)、または壊死性メラノーマ細胞株UKRV-Mel-15aによりパルスされた成熟樹状細胞(下側パネル)から単離されたHLA-DR結合ペプチドのレパートリーの代表的質量分析を含む。メラノーマ細胞との接触時のプロファイルにおいて優性となるペプチドピーク(M+H+)=1820.6に印をつけた。
【図3B】実験質量(M+H+)=1820.6を持つペプチドの対応するMALDI-PSD断片化スペクトルを示している。このペプチドは、壊死性メラノーマ細胞により誘導された(図3A)。データベース検索により、ビメンチンエピトープビメンチン(202-217)が同定された(表2と比較)。
【図3C】実験質量(M+H+)=1820.6を持つペプチドのイオントラップMS-MSスペクトルを示す。このペプチドは、壊死性メラノーマ細胞により誘導された(図3A)。データベースにより、ビメンチンエピトープビメンチン(202-217)が同定された(表2と比較)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法:
(a) 哺乳類生物体から単離された抗原ペプチドとMHC II分子との複合体を0.1μg〜5μgの量で提供する段階;
(b) 会合した抗原ペプチドをMHC II分子から溶離する段階。
【請求項2】
哺乳類生物体から単離された細胞から、抗原ペプチドとMHC II分子との複合体を0.1μg〜5μgの量で単離する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
MHC II分子と抗原ペプチドとの複合体が、界面活性剤により細胞を可溶化する段階、及び免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーによるMHC II分子と抗原ペプチドとの複合体の分離する段階を含む方法により細胞から単離される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
哺乳類生物体から単離された細胞が樹状細胞である、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
MHC II分子と抗原ペプチドとの分離された複合体が、ペプチドの溶離前に、限外濾過チューブ中で水により洗浄される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
抗原ペプチドが、希酸によりMHC II分子から溶離される、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
単離された抗原ペプチドが、分画され、配列決定されて、同定される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
単離された抗原ペプチドが、液体クロマトグラフィーおよび質量分析を含む方法により、分画され、配列決定されて、同定される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
抗原ペプチドが、天然プロセシングされた抗原ペプチドであるか、または生物体に投与された非天然プロセシングされた抗原ペプチドである、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
哺乳類生物体がヒト生物体である、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法:
(a) 哺乳類生物体の細胞、組織または体液から単離された抗原ペプチドとMHC II分子との複合体を0.1μg〜5μgの量で提供する段階;
(b) 分離されたMHC II分子の複合体を、限外濾過チューブ中で水により洗浄する段階;
(c) 希釈したトリフルオロ酢酸を用いて、会合した抗原ペプチドをMHC II分子から37℃で溶離する段階;および
(d) 単離されたペプチドを、液体クロマトグラフィーおよび質量分析により、配列決定および同定する段階。
【請求項12】
フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法:
(a) 0.1μg〜5μgのMHC II分子を提供する数のMHC発現細胞を提供する段階;
(b) 段階(a)の細胞を、抗原の潜在的供給源と接触させる段階;
(c) MHC II分子-抗原ペプチド複合体を、細胞から単離する段階;および
(d) 会合したペプチドをMHC II分子から溶離する段階。
【請求項13】
MHC II発現細胞が樹状細胞である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
樹状細胞が、未成熟樹状細胞として抗原の潜在的供給源に曝露され、同時に樹状細胞への成熟が誘導される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
抗原の潜在的供給源が、腫瘍細胞、腫瘍細胞株、病原体、ならびにウイルス性、細菌性および寄生体性の抗原、自己抗原、ならびに、例えば血清、滑液、腹水などの体液を含む群に属する、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
MHC II分子と抗原ペプチドとの複合体が、以下の段階を含む方法により細胞から単離されている、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法:
界面活性剤により細胞を可溶化する段階、および免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーにより抗原ペプチドとMHC II分子との複合体を分離する段階。
【請求項17】
MHC II分子と抗原ペプチドとの分離された複合体が、ペプチドの溶離前に、限外濾過チューブ内で水により洗浄される、請求項12〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
抗原ペプチドが、希酸によりMHC II分子から溶離される、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
単離された抗原ペプチドが、分画され、配列決定されて、同定される、請求項12〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
単離された抗原ペプチドが、液体クロマトグラフィーおよび質量分析を含む方法により、分画され、配列決定されて、同定される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
抗原の潜在的供給源と接触している細胞から同定されたペプチドを、抗原の潜在的供給源と接触していない細胞から同定されたペプチドと比較することにより、抗原の潜在的供給源に由来する抗原ペプチドが同定される、請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
抗原ペプチドが、天然プロセシングされた抗原ペプチドである、請求項12〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
フェムトモル量の抗原ペプチドを単離する方法であり、以下の段階を含む方法:
(a) 0.1μg〜5μgのMHC II分子を提供する数の未成熟樹状細胞を提供する段階;
(b) 段階(a)の細胞を抗原の潜在的供給源と接触させる段階および、TNFαの添加により樹状細胞の成熟を誘導する段階;
(c) 界面活性剤TX-100による細胞の可溶化、および、免疫沈降または免疫親和性クロマトグラフィーによるMHC II分子と抗原ペプチドとの複合体の分離を含む方法により、MHC II分子-抗原ペプチド複合体を、細胞から単離する段階;
(d) 分離されたMHC II分子の複合体を、限外濾過チューブ中で水により洗浄する段階;
(e) 会合した抗原ペプチドを、希釈したトリフルオロ酢酸により37℃でMHC II分子から溶離する段階;ならびに
(f) 単離されたペプチドを、液体クロマトグラフィーおよび質量分析により、配列決定および同定する段階。
【請求項24】
ワクチンの品質管理のための、請求項12〜23のいずれか一項記載の方法の使用。
【請求項25】
疾患の免疫モニタリングのための、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法の使用。
【請求項26】
治療的処置の効果を制御するための、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法の使用。
【請求項27】
疾患治療用に個別化されたペプチドワクチンの設計のための、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法の使用。
【請求項28】
薬学的組成物の製造法であり、以下の段階を含む方法:
請求項7〜11のいずれか一項または請求項19〜23のいずれか一項記載の段階;
同定されたペプチドを作製する段階および任意にそれらを修飾する段階;ならびに
得られた生成物を薬学的に許容される担体または希釈剤と共に製剤化する段階。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公開番号】特開2007−211020(P2007−211020A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98939(P2007−98939)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【分割の表示】特願2003−343918(P2003−343918)の分割
【原出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】