説明

抗原送達システム

本発明は、(i)動物の樹状細胞に選択的に結合するが、当該動物において自然発生しない分子部分と、(ii)抗原とを含む、動物のワクチン接種用化合物を提供する。通常、前記のように選択的に結合する分子部分はDC−SIGNに結合する。分子部分はHIV−1 gp120でよい。本発明の化合物は動物のワクチン接種に使用することができ、ワクチン接種後、当該動物を自然感染動物から識別することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗原送達システムに関する。特に、本発明は、疾患に対して動物にワクチン接種し、ワクチン接種動物と自然感染動物とを識別するために利用可能なシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
動物に本来備わっている先天的な適応免疫系を理解し、選択的に操作することは、家畜及び伴侶動物を疾患から防御するという観点から、また、あらゆる種において重要性が増しているトピックである、抗生物質耐性の増大リスクによる、疾病管理に対する抗生物質治療への依存の低減という点から、極めて好ましいことである。
【0003】
抗生物質は、農業用・伴侶動物種を広範囲の病原体から防御するために、無差別的に使用されることが多い。この抗生物質を不適切に使用するという風土は、防御免疫に対する病原体関連抗原の効果不足によって生じている。
【0004】
従って、病原体防御における宿主適応免疫の役割の理解を進展・向上させる必要性が、例えば、動物福祉に対する関心及び残留抗生物質が減少した高品質の食肉への消費者の要求増大によって高まっている。
【0005】
現在、ワクチン製品に用いて動物種における防御を誘導することを目的に、分子抗原に関する研究が増加している。しかし、そうした製品では動物の疾患防御に関して細胞性免疫系の初回刺激に対する要件を考慮することが稀であるため、多くの場合、これらの製品の有効性は限定されている。
【0006】
疾病管理の手段としてのワクチン接種の制約の1つは、自然感染動物とワクチン接種動物とを識別することが困難であることである。例えば、これは英国における最近の口蹄疫(FMD)の発生に関連して大問題になり、国内ウシ群にワクチン接種すれば、その群からのウシの輸入を許可しない国もあるだろうという理由もあってワクチン接種が行われなかった。屠畜体は、存在する可能性がある如何なるウイルスも死滅させるために、感染しているかのように処置し、長時間吊るされた状態にしておく必要があるため、現在のワクチン接種法では食肉の市場価値も低下させてしまう。FMDについては、感染のない(クリーンな)群を維持することに重点がおかれているが、感染が問題になるため(例えば、ラット、アナグマ等から)、感染のない群を維持することは殆ど不可能である。自然感染動物とワクチン接種動物とを識別する方法として、ワクチン接種動物には異質となる免疫原を含むマーカーワクチンが、提案されている。
【非特許文献1】Steinman et al (1997) Immunol. Rev. 156, 25-37
【非特許文献2】Werling & Jungi (2003) Vet. Immunol. Immunopathol. 91, 1-12
【非特許文献3】Geijtenbeek et al (2002) J. Biol. Chem. 277, 11314-11320
【非特許文献4】Geijtenbeek et al (2002) J Leukoc. Biol. 71,921-931
【非特許文献5】Geijtenbeek et al (2000) Cell 100, 575-585
【非特許文献6】Kooyk & Geijtenbeek (2002) Immunol. Rev. 186,47-56
【非特許文献7】Tailleux et al (2003) J Exp. Med. 197, 1-5
【非特許文献8】O’Sullivan et al Anal. Biochem. (1979) 100, 100-108
【非特許文献9】Julian et al (1983) Anal. Biochem. 132, 68
【非特許文献10】Sambrook, J. and Russell, D. (2001) "Molecular Cloning: a laboratory manual" 3rd ed. Vol 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press
【非特許文献11】Nestle, F. O. (2002) Clinical & Experimental Dermatology 27 (7), 597-601
【非特許文献12】Werling, D et al (1999) J Leukoc Biol 66 : 50-58
【非特許文献13】Haeberle, HA et al (2002) J Infect Dis 186: 1199-1206
【非特許文献14】Haynes, LM et al (2001) J Virol 75: 10730-10737
【非特許文献15】Kurt-Jones, EA et al (2000) Nat Immunol 1: 398-401
【非特許文献16】Werling, D et al (2004) Immunology 111 : 41-52
【非特許文献17】Werling, D et al (2002) J Leukoc Biol 72: 297-304
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、樹状細胞に選択的に結合する分子部分―このように選択的に結合する分子部分は当該動物種において自然発生しない―を動物の疾患に関連するような抗原と併用して樹状細胞を標的にすることにより、抗原送達(ワクチン接種)の新概念を示すだけでなく、ワクチン接種動物と自然感染動物とを識別することも可能にすることを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、(i)動物の樹状細胞に選択的に結合するが、当該動物において自然発生しない分子部分と、(ii)抗原とを含む、動物のワクチン接種用化合物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者が「動物の樹状細胞に選択的に結合する分子部分」という場合、樹状細胞に選択的に結合するが、他の種類の抗原提示細胞には実質的に結合しない、任意の好適な分子部分のことをいう。分子部分が上記のように選択的に結合するか否かは、例えば、蛍光標識した結合分子部分を用いて、樹状細胞や他の抗原提示細胞に関連する蛍光を測定することにより、樹状細胞への分子部分の結合を他の抗原提示細胞への結合と比較して測定することによって判定できる。また、分子部分の樹状細胞に対する選択性を判定するため、抗分子部分抗体を用いて分子部分がどの細胞に結合するのかを判定することができる。
【0010】
樹状細胞は非常に強力な抗原提示細胞であり、生理的アジュバントとして予防的又は治療的免疫を誘発するのに効果的であることが示されている。樹状細胞は末梢粘膜組織に侵入する微生物を捕捉し、次に、二次リンパ器官に移動してここでこの抗原形態の微生物を休止T細胞に提示し、こうして適応免疫応答を開始する。
【0011】
樹状細胞に選択的に結合する分子部分は、任意の好適な分子部分でありうる。特に、樹状細胞は、通常はその表面に選択的に発現される受容体を有しており、それを樹状細胞の標的として用いうることが知られている。従って、好都合なことに、分子部分は、それ自体が樹状細胞で選択的に発現される受容体に結合する。通常、樹状細胞で選択的に発現される受容体は、他の抗原提示細胞より10倍、好ましくは100倍、より好ましくは1000倍以上のレベルで樹状細胞に存在する受容体である。
【0012】
分子部分は樹状細胞のパターン認識受容体に結合することが好ましい。パターン認識受容体は病原体に関連する分子パターンと結合する受容体である。通常、パターン認識受容体はレクチンと結合する受容体である。好適なパターン認識受容体はDC−SIGN,DEC−205(例えば、Steinman et al (1997) Immunol. Rev. 156, 25-37を参照されたい)及びTOLL様受容体(例えば、Werling & Jungi (2003) Vet. Immunol. Immunopathol. 91, 1-12を参照されたい)を含む。分子部分は、樹状細胞の表面に高発現されている、細胞特異的な細胞間接着分子3に接着する非インテグリンC型レクチンのDC−SIGNに結合することがより好ましい。DC−SIGNはCD209と呼称されることもある。
【0013】
DC−SIGNは、N末端側細胞質ドメイン、膜貫通ドメイン、ネック領域、縦列反復領域及びC末端側のC型(カルシウム依存性)マンノース結合レクチンドメインを形成するII型膜貫通タンパク質である。ヒト及びマウスにおいてDC−SIGNは、真皮、直腸、子宮や頚部のような粘膜組織の基底膜並びに扁桃、リンパ節及び脾臓のT細胞領域に存在する樹状細胞によって発現される。ヒトではDC−SIGNはアミノ酸404個を有する。
【0014】
DC−SIGNはヒト、チンパンジー、ゴリラ、マカク属において見出されており、ポリペプチドをコードしているcDNAがクローニングされている。DC−SIGNのcDNA配列及びアミノ酸配列は、次のGenBankアクセッション番号AF391086(アカゲザル(Macaca mulatta))、AY078913(ナミチンパンジー(Pan troglodytes))、NM_021155(ヒト)及びNM_133238(ハツカネズミ属(Mus))に見出される。図1はウシDC−SIGN一変異体のcDNAの部分配列を示す。ウシDC−SIGN変異体1の推定アミノ酸配列を、チンパンジー、マカク属及びヒト由来のDC−SIGNsと並置して図3に示す。図6はウシDC−SIGN第二変異体のcDNAの部分配列を示す。ウシDC−SIGN変異体2の推定アミノ酸配列を、マウス、ヒト及びウシ変異体1のDC−SIGNと並置して図7に示す。
【0015】
ヒト、マウス及びウシ(変異体2)のDC−SIGNのSMARTタンパク質ドメイン分析により、タンパク質が構造的相同性を共有し、各々がC型レクチン受容体モチーフを含むことが示された。ヒトDC−SIGNにおいて推定C−レクチンドメインは残基256〜378であり、マウスでは推定C−レクチンドメインは残基108〜229であり、ウシ(変異体2)DC−SIGNでは推定C−レクチンドメインは残基129〜248である。
【0016】
DC−SIGNは、樹状細胞の表面に選択的に発現されると考えられ、その免疫系における役割のため、種の間で保存されていると考えられている。従って、例えば、ヒトとマウスのDC−SIGNのアミノ酸配列をコードしているcDNAは、図の説明に記載するコンピュータ・プログラムで評価した際、44%の配列相同性を有する。
【0017】
従って、本発明者は、DC−SIGNに関し、ポリペプチド配列をコードしているcDNAが、図2A〜2Dに示すヒト又はマウスのヌクレオチド配列と少なくとも40%の相同性を有する任意のタンパク質を含める。
【0018】
加えて、例えば、Geijtenbeek et al (2002) J. Biol. Chem. 277, 11314-11320に記載されたアッセイにより判定できるように、通常、DC−SIGN分子はICAM−3や他のICAMファミリーのメンバーと結合可能な分子である。
【0019】
次の論文は、DC−SIGNとHIV−1又はICAM−3との相互作用を述べており、すべて参照により本明細書に組み込まれる:Geijtenbeek et al (2002) J Leukoc. Biol. 71,921-931;Geijtenbeek et al (2002) J. Biol. Chem. 277, 11314-11320;Geijtenbeek et al (2000) Cell 100, 575-585;及びKooyk & Geijtenbeek (2002) Immunol. Rev. 186,47-56。
【0020】
加えて、本発明者は、そのポリペプチドが、GenBankアクセッション番号AF391086、AY078913、NM_021155又はNM_133238のいずれか1つにその配列が見出されるポリヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされている任意のタンパク質を含める。
【0021】
本発明者が言う「ストリンジェント条件」とは、6×SSCにて60℃で少なくとも1時間ハイブリダイズさせ、次に、2×SSCにて60℃で30分間洗浄することである。1×SSCは0.15M NACl/0.015Mクエン酸ナトリウムである。
【0022】
また、本発明者は、ヒト又はマウスのDC−SIGNと免疫学的に交差反応する任意のタンパク質も含める。通常、これは、ヒト又はマウスのDC−SIGNに対するポリクローナル抗血清を用いて評価しうる。
【0023】
樹状細胞に選択的に結合する分子部分はタンパク質であることが好ましい。
【0024】
通常、当該化合物は動物のワクチン接種に使用される。通常、選択的に結合する分子部分は、外来性の、即ち、当該動物と異質の分子の全体又は部分である。分子部分は、ヒトのような別の動物に由来することが可能であり、当該動物において免疫原性であって抗体応答を惹起する分子部分である。従って、上記のように選択的に結合する分子部分は、樹状細胞に対する抗原を標的にするだけでなく、それ自体がワクチン接種のマーカーとして機能する免疫(抗体)応答も惹起する。加えて、選択的に結合する分子部分は、通例はTH1応答を刺激することによって免疫系を刺激する作用を有することも可能であり、従って、アジュバントとして作用する。
【0025】
種々の分子部分がDC−SIGNに結合することが示されており、この中には結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のLAMタンパク質(例えば、Tailleux et al (2003) J Exp. Med. 197, 1-5を参照されたい)、エボラウイルスの糖タンパク質及びHIV−1エンベロープ糖タンパク質gp−120(例えば、Geijtenbeek et al (2002) J. Biol. Chem. 277, 11314-11320を参照されたい)が含まれる。結合分子部分はDC−SIGNに高親和性で結合できることが好ましい。樹状細胞への結合を可能にするために、これら分子の一部分のみが必要とされることを理解されよう。このような部分は「樹状細胞に結合する分子部分」という用語に含まれる。しかし、分子の全体又はほぼ全体を結合分子部分として用いることが好ましい。
【0026】
樹状細胞に選択的に結合する分子部分はHIV−1エンベロープ糖タンパク質gp−120であることが特に好ましい。自然発生の感染下では、DC−SIGNは樹状細胞によるHIVの粘膜表面(HIV暴露部位)から二次リンパ器官(HIV感染部位)への移動を媒介する。この移動には数日かかることがあり、この間、HIVは変性から保護され、感染能を保持する。その機序の可能性の1つは、HIVがDC−SIGNに結合してエンドサイトーシスを起こし、その後、樹状細胞がリンパ節に達してT細胞と相互作用を起こした後に細胞表面に戻るというものである。この内在化仮説は、DC−SIGNの細胞質ドメインにおける2つのエンドサイトーシスモチーフと思われるLL及びYXXLの存在により支持される。これらモチーフは種々の状況でエンドサイトーシス及び再循環を媒介することが示されている。293T細胞に一過性に発現されたDC−SIGNに結合したHIV−1は、数日間、感染能を保持するが、トリプシン処理感受性を示す。これは、DC−SIGNを発現した293T細胞がHIV−1を取り込めないことを示しうる。しかし、HIV−1の内在化が、樹状細胞においてHIV−1が保護される重要な機序である可能性がある。
【0027】
ヒトDC−SIGN分子の相同体がマウスにおいてこれらモチーフを含むことが見出されているように、LL及びYXXLモチーフは種間で保存されている。
【0028】
HIV−1の初期結合がそのエンベロープタンパク質gp120に媒介され、樹状細胞に発現されたDC−SIGNに対してなされ、また、HIVの取込み、T細胞への輸送及び伝搬におけるDC−SIGNの重要性を考慮すれば、gp120分子に結合した抗原を用いて高親和性にて樹状細胞を直接標的にすることが可能であり、従って、本明細書で記載した新規ワクチン接種法の一例を提供することになる。
【0029】
従って、HIV gp120タンパク質を用いてDC−SIGNを標的にすることにより、(a)最も強力な抗原提示細胞を標的にして宿主の先天性免疫応答を刺激し、こうしてワクチン適用数、ワクチン接種毎の必要量を制限するとともに、残留抗生物質又は耐性細菌株の増殖の懸念を払拭することを可能にし、(b)市販の試験装置を用い、ワクチン接種動物では自然発生しないタンパク質のHIV gp120分子に対する抗体応答を分析して、ワクチン接種動物と自然感染動物の識別を可能にすると思われる。
【0030】
本発明は、特に、(i)HIV gp120、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のLAMタンパク質若しくはエボラウイルスの糖タンパク質のいずれか又はこれらの部分及び(ii)抗原を含む、動物のワクチン接種用化合物も含む。
【0031】
当該部分は樹状細胞に、通常はDC−SIGNに結合可能であることが好ましい。通例、当該部分は、10個超のアミノ酸残基長、より典型的には15,20,25,30,40,50,60又は70個超のアミノ酸残基長である。
【0032】
マイコバクテリアLAMタンパク質はDC−SIGNに結合し、本発明の実施に有用でありうるが、ウシ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、シカなどの放飼・自然生息動物の一部はマイコバクテリアと接触してそれらに感染している可能性があるということを理解されよう。従って、動物が放飼・自然生息動物(又はマイコバクテリアに感染した可能性がある他の動物)である場合には、樹状細胞に結合する分子部分としてマイコバクテリアLAMタンパク質を使用しないことが好ましい。
【0033】
当該化合物は、樹状細胞への結合後に前記細胞に取り込まれる化合物であることが好ましい。
【0034】
本発明者が「抗原」という場合、例えば、抗体産生並びにCD−8媒介性及びNK細胞媒介性応答により、体液媒介性であろうと細胞媒介性であろうと免疫応答を誘発できる任意の分子部分を含むものとする。抗原は個々の分子又は抗原性分子の均質集団若しくは異種集団を指しうる。種々の高分子が抗原として作用することができ、この中にはあらゆるタンパク質(適切な状況で存在する場合)、核タンパク質、リポタンパク質、大部分の多糖類(特に、大きな多糖体)、タンパク質又はポリペプチドや他の担体に付着していれば種々の小分子(通常、ハプテンと呼称される)が含まれる。「抗原」という術語は、複数のエピトープを有する多価性又は僅か1つのエピトープを有する一価性の抗原性分子も含む。
【0035】
ワクチン生産の分野において、抗原は疾患に関連する分子又はその部分又はその変異体である。特に、動物ワクチンの分野において、抗原はワクチン接種を行う動物の疾患に関連する分子又はその部分である。抗原は、病原体を伴う疾患、特に感染病に関連し、病原体の成分の抗原性又は免疫原性部分であることが特に好ましい。
【0036】
病原体は次の疾患に関連する病原体を含む:口蹄疫、ブタ水胞症、小反芻獣疫、ランピースキン病、ブルータング病、アフリカウマ疫、古典的ブタコレラ、ニューカッスル病、水胞性口炎、牛疫、ウシ伝染性胸膜肺炎、リフトバレー熱、羊痘・山羊痘、アフリカ豚コレラ及び高病原性トリインフルエンザ。これらは、国境線に関わらず非常に深刻かつ急速な伝播の可能性を有し、社会経済又は公衆衛生上の深刻な影響をもたらし、動物及び畜産物の国際貿易において重大な問題となり、OIE(国際獣疫局(Office International des Epizooties;www.oie.int))のリストA疾患である伝染病である。
【0037】
病原体は次の疾患に関連する病原体も含む:炭疽病、オーエスキー病、エキノコックス症/包虫症、心水病、レプトスピラ症、新大陸スクリューワーム(新大陸ラセンウジバエ(Cochliomyia hominivorax))、旧大陸スクリューワーム(旧大陸ラセンウジバエ(Chrysomya bezziana))、パラ結核、Q熱、旋毛虫症を含む多動物種疾患;ウシアナプラズマ病、ウシバベシア病、ウシブルセラ症、ウシ嚢尾虫症、ウシカンピロバクター症、ウシ海綿状脳症、ウシ結核症、デルマトフィルス症、地方病性ウシ白血病、出血性敗血症、ウシ感染性鼻気管炎/膿疱性伝染性外陰膣炎、悪性カタル熱、タイレリア症、トリコモナス病、トリパノソーマ症(ツェツェバエ媒介)を含むウシ疾患;ヤギ・ヒツジブルセラ症(ヒツジ精巣上体炎(B.ovis)を除く)、ヤギ関節炎/脳炎、伝染性アガラクシア、ヤギ伝染性胸膜肺炎、流行性ヒツジ流産(ヒツジクラミジア症)、マエディ・ビスナ、ナイロビヒツジ病、ヒツジ精巣上体炎(Brucella ovis)、ヒツジ肺腺種症、サルモネラ症(S.abortusovis)、スクレイピーを含むヒツジ・ヤギ疾患;伝染性ウマ子宮炎、交疫、流行性リンパ管炎、ウマ脳脊髄炎(東部・西部)、ウマ伝染性貧血、ウマインフルエンザ、ウマピロプラズマ病、ウマ鼻肺炎、ウマウイルス性動脈炎、ウマ鼻疽、ウマ疥癬、ウマ痘、日本脳炎、スーラ病(Trypanosoma evansi)、ベネズエラウマ脳脊髄炎を含むウマ疾患;ブタ萎縮性鼻炎、ブタエンテロウイルス性脳脊髄炎、ブタブルセラ症、ブタ胞虫症、ブタ繁殖・呼吸障害症候群、伝染性胃腸炎を含むブタ疾患;並びにウサギ粘液腫、ウサギウイルス性出血病及び野ウサギ病を含むウサギ疾患。
【0038】
これらはOIEのリストB疾患の一部であり、諸国内において社会経済及び/又は公衆衛生上の深刻な影響をもたらすと考えられるとともに、動物及び畜産物の国際貿易において深刻な感染症である。
【0039】
特定の病原体には、口蹄疫ウイルス、FeLV(ネコ白血病ウイルス)、FIV(ネコ免疫不全ウイルス)、CDV(イヌジステンパーウイルス)、パルボウイルス、コロナウイルス、ウシ呼吸器多核体ウイルス及びウシウイルス性下痢ウイルスが含まれる。
【0040】
しかし、更に、例えば、腫瘍抗原が疾患に関連する場合の癌のように、抗原は病原体に必ずしも関連しない疾患に関連している。通常、腫瘍抗原は、癌において異常に過剰発現されるか、又は、癌において異常形態、例えば、突然変異型で発現されるタンパク質である。
【0041】
プリオン及びその部分は、本発明の実施に使用可能な抗原であり、病原生物に関連するとは考えられていない。プリオンは、ウシ海綿状脳症(BSE)及びヒツジのスクレイピーのような海綿状脳症に関連している。
【0042】
本発明の分野にて使用するワクチン抗原は、ウイルス、細菌、真菌及び蠕虫を含む寄生虫のような微生物の抗原性又は免疫原性成分又はこのような成分の部分を含み、これは動物疾患の予防を目的とし、又は、動物疾患を防御する。
【0043】
好適な抗原には、例えば、ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)のE2タンパク質、ウシ白血病ウイルスのgp51タンパク質及び呼吸器多核体ウイルス(RSV)のF又はGタンパク質が含まれる。これらタンパク質のアミノ酸配列はウイルスゲノムにコードされている。ウイルスゲノムのGenBankアクセッション番号は、NC001781(ヒトRSV)、NC001989(ウシRSV)、AF033818(ウシ白血病ウイルス)、AF091605(I型BVDV)及びAF145967(II型BVDV)である。
【0044】
他の好適な疾患関連抗原は当業者により選択可能であり、通常、このような多くの抗原については、これらをコードしているアミノ酸配列及びcDNA配列をGenBankにて得ることができる。
【0045】
通常、抗原は、病原体又は腫瘍抗原のポリペプチド成分のような疾患に関連するポリペプチドの全部又は部分である。ポリペプチドの部分は、抗体応答のような免疫応答を誘発可能なポリペプチドの任意の部分でよい。僅か5個のアミノ酸を有するペプチドが抗体応答を誘発しうることが知られているが、通常、より大きなペプチドが使用される。従って、抗原がポリペプチドである場合、少なくとも5個のアミノ酸、通常は5〜500、5〜200、5〜100、5〜50、5〜40、5〜30、5〜20のように5〜1000個のアミノ酸、例えば、5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20個のアミノ酸を有しうる。
【0046】
本発明の化合物の抗原は、疾患を予防する免疫応答を誘発することが可能であれば、疾患に関連する分子の変異体でありうることを理解されよう。このような変異体は、疾患に関連する天然抗原に比し、1つ以上のアミノ酸置換を有するポリペプチドを含み、置換は5%にもなる。通常、置換は保存的置換であり、この場合、例えば、「変異体」とは、1つ以上の位置にてアミノ酸の保存的又は非保存的な挿入、欠失又は置換がなされたタンパク質を指すが、このような変化によりタンパク質の基本特性、例えば、酵素活性(活性型及び特異活性)、耐熱性、pH領域の活性(pH安定性)が有意に変化していないタンパク質を生じる場合のことである。この場合の「有意に」とは、当業者であれば変異体の特性は元のタンパク質の特性に対してやはり異なるかもしれないが、自明でないことはないだろうと述べるであろうということである。
【0047】
「保存的置換」とは、Gly,Ala;Val,Ile,Leu;Asp,Glu;Asn,Gln;Ser,Thr;Lys,Arg;及びPhe,Tyrのような組合せのことである。
【0048】
このような変異体は、タンパク工学及び部位特異的突然変異誘発の標準方法を用いて作製しうる。
【0049】
樹状細胞に選択的に結合する分子部分と抗原は共有結合されることが好ましい。分子部分及び抗原の各々がポリペプチドである場合、当該2部分は任意の従来のポリペプチド架橋法により結合されうる。例えば、本発明の化合物の当該2部分は、O’Sullivan et al Anal. Biochem. (1979) 100, 100-108に概括的に記載された方法のように、任意の従来のポリペプチド架橋法により結合される。例えば、第一の部分はチオール基を導入され、第二の部分は、当該チオール基と反応可能な二価性試薬、例えば、ヨード酢酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHIA)又はN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)のような、共役の種間にジスルフィド橋を挿入するヘテロ二価性架橋剤と反応しうる。例えば、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルでなされるアミド及びチオエーテル結合は、概して、in vivoでジスルフィド結合より安定している。
【0050】
更なる有用な架橋剤には、温和な条件下でスルフヒドリル基の脱保護を可能にする、一級アミンのチオール化試薬であるS−アセチルチオグリコール酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SATA)(Julian et al (1983) Anal. Biochem. 132, 68)、スベルイミノ酸ジメチル二塩酸塩及びN,N−o−フェニレンジマレイミドが含まれる。
【0051】
また、当該化合物は組換えDNA技術により融合化合物(又は融合ポリペプチド)として生成可能であり、これによりDNA長は、樹状細胞に選択的に結合する分子部分のポリペプチド部分と、化合物の所望の特性を破壊しないリンカーペプチドをコードしている領域に互いに隣接しているか、又は、その領域に分離された抗原とをコードしている、それぞれの領域を含む。
【0052】
本明細書で用いるように、融合ポリペプチドは、本発明の化合物の抗原であるポリペプチドのN−又はC−末端に融合した、樹状細胞に結合する分子部分のポリペプチド部分であるポリペプチドを含む融合ポリペプチドである。このような融合ポリペプチドを得る簡便な方法は、ポリヌクレオチド配列のインフレームでの融合を翻訳すること、即ち、混成遺伝子を用いることである。融合ポリペプチドをコードしている混成遺伝子を、宿主細胞を形質転換し、又は、宿主細胞にトランスフェクションするのに用いられる発現ベクターに挿入する。通常、翻訳及び転写制御領域は発現ベクター中に存在する。次に、DNAは好適な宿主に発現され、本発明の第一の態様による化合物を含むポリペプチドを生成する。
【0053】
抗原は、動物の疾患に関連する2個以上の分子又はこのような分子の部分若しくは変異体を含みうる。
【0054】
このように、本発明の化合物は、1種類以上の疾患に対するワクチン接種を行うのに用いうる。従って、化合物は、例えば、1つの病原体由来の抗原(例えば、BVDVのE2ポリペプチド又はその免疫原性部分)と、第二の病原体由来の抗原(例えば、RSVのFタンパク質又はその免疫原)とを、樹状細胞に結合する分子部分として同一ポリペプチド鎖に含みうる。他の変形例は当業者には明らかであろう。
【0055】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の融合化合物をコードしている核酸分子を含む。
【0056】
好適な核酸分子は、Sambrook, J. and Russell, D. (2001) "Molecular Cloning: a laboratory manual" 3rd ed. Vol 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを含むクローニング・マニュアルに記載されているような慣用的方法を用いて、当業者により容易に合成又は構築しうる。
【0057】
本発明の第一の態様の化合物の抗原をコードしているDNA配列は、GenBankなどのDNA配列データベースを検索して同定することが可能である。好適な抗原のDNAコード配列の例は上記で触れた。選択した抗原をコードしているDNA配列が分かれば、これを用いて、例えば、治療する疾患に関連する病原体から抗原をコードしているDNA又はcDNA配列を特異的に分離するのに有用なプライマー及び/又はプローブを設計することが可能である。DNA配列が分かれば、プライマー及びプローブは、市販のソフトウェアを用いて設計し、自動化合成により合成することが可能である。一般的に、抗原をコードしているDNA配列は、選択した病原体のような適切な分離源から生成されるcDNA又はDNA配列のライブラリから分離可能である。ライブラリは、非常に厳密な条件下で、選択した抗原をコードしている既知のDNA配列に相補的なプローブを用いて、対象とするDNA配列に対してスクリーニングすることが可能である。プローブにハイブリダイズするDNA配列はサブクローン可能であり、DNA配列にコードされたポリペプチドは、DNA配列分析及び/又はポリペプチドのin vitro翻訳、発現と検出又は同様のアッセイにより確認できる。しかし、通常、抗原をコードしている好適なDNA配列は、当該技術分野において既知であるように、PCR及びコード領域の5’及び3’末端方向の好適なプライマーを用いて合成しうる。
【0058】
選択した抗原をコードしているDNA配列が分離されれば、これを、例えば、樹状細胞のDC−SIGNに選択的に結合するHIV gp120のような、樹状細胞に結合する分子部分をコードしているDNA配列に機能的に連結できる。抗原をコードしているDNA配列及び樹状細胞に結合する分子部分は、双方とも転写・翻訳制御領域に機能的に連結した同じリーディングフレームに存在する。転写・翻訳制御領域は、プロモーター、エンハンサー、シス調節因子、ポリアデニル化配列、転写・翻訳開始領域及び転写終止配列を含む。
【0059】
次に、DNAは好適な宿主に発現され、本発明の第一の態様による化合物であるポリペプチドを生成する。従って、本発明の化合物を構成するポリペプチドをコードしているDNAは、本明細書に包含される教示に照らして適切に修飾され、既知の技法に従って使用して発現ベクターを構築し、次に、これを使用して本発明のポリペプチドの発現及び生成のために適切な宿主細胞を形質転換しうる。
【0060】
従って、本発明の化合物を構成するポリペプチドをコードしているDNAは、適切な宿主への導入のために他の広範なDNA配列に結合しうる。伴侶のDNAは、宿主の性質、DNAの宿主への導入方法及びエピソームの保持又は組込の要求度に依存する。
【0061】
一般的に、DNAはプラスミドのような発現ベクターに、適切な配向及び適正なリーディングフレームにて挿入されて発現される。必要であれば、DNAは、所望の宿主が認識する適切な転写・翻訳調節制御ヌクレオチド配列に連結しうるが、概してこのような制御は発現ベクターで得られる。次に、標準手法によりベクターを宿主に導入する。一般的に、宿主全てがベクターにより形質転換されるわけではない。従って、形質転換された宿主細胞を選択することが必要になる。1つの選択手法は、抗生物質抵抗性のような形質転換細胞において選択可能な形質をコードするDNAを発現ベクターに組み込むことに関わる。また、このような選択可能な形質の遺伝子を別のベクターに導入し、これを、所望の宿主細胞を同時形質転換するのに用いることができる。
【0062】
次に、本発明の組換えDNAにより形質転換された宿主細胞を、本明細書に開示した教示に照らし、十分な時間、当業者には周知の適切な条件下で培養してポリペプチドを発現させ、次に、これを回収することができる。
【0063】
多くの発現系が知られており、この中には細菌(例えば、大腸菌(E.coli)及び枯草菌(Bacillus subtilis))、酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、糸状菌(例えば、アスペルギルス属(Aspergillus))、植物細胞、動物細胞及び昆虫細胞がある。
【0064】
ベクターは、他の非原核生物細胞種で発現されるのに使用するとしても、原核生物で増殖するようにColE1 oriのような原核生物のレプリコンを含む。ベクターは、形質転換させた大腸菌(E.coli)のような細菌宿主細胞において遺伝子の発現(転写及び翻訳)を誘導できる、原核生物のプロモーターのような適切なプロモーターも含みうる。通常、ベクターは宿主細胞に安定的に組み込まれ、及び/又は、化合物を高発現させるベクターである。好適なベクターは、Invitrogen社から入手可能なpcDNA 3.1(+/−Hisタグ)を含む。
【0065】
本発明者がいう「プロモーター」とは、DNA配列により形成され、RNAポリメラーゼの結合及び転写を生じさせる発現制御因子のことである。通常、典型的宿主に適合するプロモーター配列は、本発明のDNAセグメントの挿入に好都合な制限部位を含むプラスミドベクターにて提供される。
【0066】
従って、本発明の別の態様は、本発明の第一の態様の化合物をコードしている核酸分子により形質転換された宿主細胞を提供する。
【0067】
本発明の化合物の発現に特に好ましい宿主細胞は、タンパク質を糖化することが可能なCOS及びCHO細胞を含む。大腸菌(E.coli)細胞を使用しうるが、その場合、化合物の最終生成物に存在しうるリポ多糖成分それ自体が免疫刺激物質でありうる。これは場合によっては有益であるが、免疫応答測定の障害となりうるような望ましくない場合もありうる。
【0068】
DNAポリマーを発現させる条件下での宿主細胞の培養は、従来の方法で行われる。生成物は、宿主細胞又は発現産物の局在(細胞内又は培地若しくは細胞のペリプラズムに分泌)に従って従来の方法により回収されうる。従って、宿主細胞が大腸菌(E.coli)のような細菌の場合、生成物は、例えば、物質的、化学的又は酵素的に溶解され、タンパク質産物は生じた溶解物から分離しうる。宿主細胞が哺乳動物の場合、一般的に、生成物は栄養培地又は無細胞抽出物から分離しうる。宿主細胞がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)のような酵母の場合、一般的に、生成物は溶解細胞又は培地から分離され、次に、従来の手法を用いて更に精製されうる。発現系の特異性は、対象ポリペプチドに対する抗体を使用したウェスタンブロット法により評価しうる。
【0069】
従来のタンパク質分離法は、選択的沈殿吸着クロマトグラフィー及びモノクローナル抗体アフィニティーカラムを含むアフィニティー・クロマトグラフィーを含む。
【0070】
本発明が「カセット発現」ベクターの提供に容易に適することが理解されようが、これにより、カセット発現ベクターの適切な位置に挿入された選択抗原のコード領域に容易に融合可能な、HIV−1 gp120のような樹状細胞に結合する分子部分のコード配列を含むベクターが生成される。
【0071】
従って、本発明の更なる態様は、(i)樹状細胞に選択的に結合する分子部分をコードする部分と、(ii)抗原をコードしているポリヌクレオチドを挿入するための挿入ポイントとを含み、前記ポリヌクレオチドが前記挿入ポイントに挿入されたとき、前記核酸分子が本発明の第一の態様による化合物をコードする核酸分子を提供する。
【0072】
通常、核酸分子は、抗原コード領域が挿入ポイントに挿入された時点で融合ポリペプチドを発現させるために、適切な転写・翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの形態をとる。当該技術分野で周知のように、「カセット発現」ベクターにおける挿入ポイントは、フレーム内融合物が生成されるように、適切なコード配列(この場合、抗原をコードしている配列)の挿入を容易に可能にする挿入ポイントである。通常、挿入ポイントは核酸内の特有の制限部位である。
【0073】
通常、ベクターは宿主細胞に安定的に組み込まれ、及び/又は、化合物を高レベルで発現させるベクターである。Invitrogen社から入手可能なpcDNA3.1(+/−Hisタグ)ベクターは基礎とすることができ、都合がよい。
【0074】
抗原はそのN末端又はC末端にて結合分子部分に融合されるため、挿入ポイントは結合分子部分のコード配列の5’末端又は3’末端であり、好適な転写・翻訳シグナルは当業者には周知のように適切に配置されうる。
【0075】
本発明の第一の態様の化合物は、動物疾患に対する免疫化及びその治療において有用である。従って、当該化合物はワクチンにおいて有用である。
【0076】
本発明の更なる態様は、本発明の第一の態様による化合物を医薬用として提供する。通常、当該化合物はパッケージされ、動物用医薬として提示される。
【0077】
本発明の更なる態様は、本発明の第一の態様による化合物を含むワクチンを提供し、当該ワクチンは本発明のワクチン製剤においてアジュバント化されていることが好ましい。好適なアジュバントはアラム及びQuilAのように市販されている。
【0078】
アジュバント組成物は、主にTh1型の免疫応答を誘導することが好ましい。高レベルのTh1型サイトカイン(例えば、IFN−γ,TNFα,IL−2及びIL−12)は、投与された抗原に対する細胞性免疫応答の誘導を導く傾向がある。当該化合物はTh1及びTh2応答の双方を生じさせることが好ましい。
【0079】
本発明の更なる態様は、本発明の第一の態様による化合物及び製薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0080】
担体(1つ又は複数)は、本発明の化合物に適合するとともに、そのレシピエントに有害でないという意味において「許容可能」でなければならない。通常、担体は、無菌で発熱物質を含有しない水又は生理食塩水であろう。しかし、他の許容可能な担体も使用しうる。
【0081】
通常、本発明の医薬組成物又は製剤は、非経口投与用、より具体的には静脈投与用である。当該組成物及び製剤は次の経路で投与しうる:筋肉内、皮下、皮内、鼻腔内、静脈内、経口及び腹腔内。筋肉内投与が獣医にとって最も実用的な方法であるため、最も好ましい。
【0082】
非経口投与に好適な製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静細菌剤及び製剤を対象レシピエントの血液と等張にする溶質を含みうる水性及び非水性滅菌注射用溶液;並びに懸濁剤及び増粘剤を含みうる水性及び非水性滅菌懸濁液を含む。
【0083】
本発明は、本発明の第一の態様による化合物を動物に投与するステップを含む、疾患に対して動物を免疫化する方法を提供する。
【0084】
投与する化合物は、(i)免疫化する動物(動物に対して異質の適切な結合分子部分を選択できるように)及び(ii)免疫性を付与する疾患(適切な抗原を選択するように)に基づいて選択されることを理解されよう。
【0085】
従って、本発明の特に好ましい実施形態は、(i)動物の樹状細胞に選択的に結合するが、前記動物において自然発生しない分子部分及び(ii)疾患に関連する抗原を含む化合物を動物に投与するステップを含む、前記疾患に対して動物を免疫化する方法である。
【0086】
当該方法及び組成物は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ及びウサギのような家畜並びにネコ及びイヌのような伴侶動物を含む、好ましくは経済的観点から重要な動物を免疫化し、保護することを目的にしうる。使用する抗原の種類により、これら抗原を用いた動物の免疫化は、結果的に感染の予防、症状の改善、死亡率の減少及び/又は中和抗体の誘導を可能にする。
【0087】
従って、本発明は、本発明の第一の態様による化合物を動物に投与するステップを含む、動物の疾患を治療する方法も提供する。
【0088】
特に好ましい実施形態は、(i)動物の樹状細胞に選択的に結合するが、前記動物において自然発生しない分子部分及び(ii)疾患に関連する抗原を含む化合物を動物に投与するステップを含む、動物の疾患を治療する方法である。
【0089】
通常、当該化合物は免疫原性組成物として投与される。
【0090】
本発明の方法に従って免疫性を付与し、又は、治療しうる疾患は、BVDV,RSV及びウシ白血病ウイルスを含み、適切な抗原は、例えば、BVDV E2タンパク質、RSV F及びGタンパク質並びにウシ白血病ウイルスのgp51から選択しうる。従って、本発明の化合物は予防的又は治療的に使用しうる。
【0091】
通常、治療する疾患は病原体が原因の疾患である。しかし、腫瘍も治療しうる。
【0092】
本発明の方法により治療しうる腫瘍はメラノーマ(例えば、Nestle, F. O. (2002) Clinical & Experimental Dermatology 27 (7), 597-601を参照されたい)を含む。通常、有効であるためには1種以上の抗原が必要なことがある。これら抗原は、ワクチン接種用に同一の化合物において結合させるか、又は、別々の化合物に含有させてもよい。通常、抗原は、上記Nestle(2002)に記載されているように、突然変異抗原(例えば、突然変異p16(CDKN2A))、共通の腫瘍特異抗原(例えば、MAGE−1、MAGE−3及びNY−ESO−1)、分化抗原(例えば、チロシナーゼ、gp100及びMelanA/MART−1)又は細胞表面ガングリオシド類(例えば、GM2,GD2及びGD3)でよい。
【0093】
「腫瘍」という用語は、肺、肝臓、血液細胞、皮膚、膵臓、胃、結腸、前立腺、子宮、乳房、リンパ節及び膀胱の腫瘍を含む、あらゆる形態の新生物細胞増殖を指すものと理解されるものである。固形腫瘍が特に好適である。
【0094】
本発明の更なる態様は、本発明の第一の態様による化合物を、動物の疾患を治療する医薬品の製造;又は動物を免疫化するワクチンの製造に使用することを提供する。
【0095】
特に好ましい実施形態は、(i)動物の樹状細胞に選択的に結合するが、前記動物において自然発生しない分子部分及び(ii)前記動物の疾患に関連する抗原を含む化合物を、動物の疾患を治療する医薬品の製造に使用すること;並びに(i)動物の樹状細胞に選択的に結合するが、前記動物において自然発生しない分子部分及び(ii)前記動物の疾患に関連する抗原を含む化合物を、動物を免疫化するワクチンの製造に使用することを含む。
【0096】
本発明は、特に、(i)HIV gp120、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のLAMタンパク質若しくはエボラウイルスの糖タンパク質のいずれか又はこれらの部分及び(ii)抗原を含む、動物のワクチン接種用化合物を、抗原に関連する疾患を治療する医薬品の製造又は抗原に関連する疾患に対して動物を免疫化するワクチンの製造に使用することを含む。
【0097】
ワクチン接種動物は樹状細胞に結合する分子部分に免疫応答を示すであろうが、自然感染動物は免疫応答を示さないであろうという理由で、本発明の方法を用いたワクチン接種動物は、本発明の化合物の抗原が関連する病原体に自然感染した動物から識別可能である。
【0098】
従って、本発明の更なる態様は、動物が本発明の第一の態様による化合物を投与されているかどうかを判定する方法であって、動物が樹状細胞に選択的に結合する分子部分に免疫応答を示しているかどうかを判定するステップを含む方法を提供する。これは、動物が化合物に存在する抗原に免疫応答を示しているかどうかを判定するのにも有用でありうる。
【0099】
通常、動物から抗体含有試料を採取し、前記分子部分に対する抗体が存在するかどうかを判定する。前記抗原に対する抗体が存在するかどうかも判定する。通常、試料は血液試料である。通例、血液試料は動物の頚静脈又は尾部静脈から得られる。
【0100】
本発明は、自然感染動物と本発明の第一の態様による化合物を投与された動物とを識別するのに使用しうるパーツキットも提供する。
【0101】
1つのパーツキットは、i)本発明の第一の態様による化合物及び(ii)樹状細胞に選択的に結合する、化合物に存在する分子部分に対する免疫応答を検出する手段及び/又は(iii)前記化合物に存在する抗原に対する免疫応答を検出する手段を含む。
【0102】
更なるパーツキットは、i)動物疾患の抗原に対する免疫応答を検出する手段及び(ii)樹状細胞に選択的に結合する分子部分に対する免疫応答を検出する手段を含む。
【0103】
好ましい実施形態において、結合分子部分はHIV−1 gp120又はその部分である。
【0104】
通常、免疫応答は、動物由来の試料が適切な抗体(即ち、抗原及び/又は結合分子部分に対する)を含有するか否かを判定することで検出される。
【0105】
従って、免疫応答(単数又は複数)を検出する手段は、ELISAを用いて抗体応答を判定することを含む。gp120抗体応答を測定するELISAは、例えば、Advanced Biosciences Laboratories Ltd又はImmunoDiagnostics Incで市販されている。
【0106】
本明細書で言及した文献は全て、その全体を参照により本明細書に組み込まれる。本明細書中の過去に公開された文献の一覧又は考察は、文献が最新技術の一部又は一般的な知見であるという認識であると必ずしも解釈すべきではない。
【0107】
次の図面の簡単な説明及び実施例を参照し、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0108】
〈gp120のウシ細胞DC−SIGNへの結合能〉
本発明者は、HIV gp120−FITCタンパク質(カタログ番号1021−F及び1001−F,Immuno Diagnostics Inc.,Woburn,USA)がウシDCに結合することをフローサイトメトリーにより示した。HIV gp120−FITCを4℃で1時間インキュベートした場合、誘導した結合レベルは低かったが、37℃でインキュベートするとレベルが上昇した(図4)。
【0109】
更に、ヒトDC−SIGN分子に対して生成されたウサギ抗ヒトポリクローナル抗体(Dr.T.Geijtenbeck,Department of Molecular Cell Biology,Medical Faculty,Vrije Universiteit Amsterdamよりご分与)は、共焦点レーザ走査顕微鏡法によりヒトDC(図5)よりウシDC(図5)を染色する程度が低いことを示した。
【0110】
HIV−1 gp120タンパク質のウシ細胞DC−SIGNへの結合能を評価すべく、タンパク質をコードしているcDNAを、Hisタグ(即ち、オリゴヒスチジンタグ)含有発現ベクターにクローニングする。対照としてFITC標識オボアルブミン(OVA)のような、DC−SIGNに結合しないことが既知の無関連His標識タンパク質を用いる。DCによるgp120−Hisの取込みを追跡すべく、DC培養物を調製し、4細胞群に振り分ける。第一(試験)及び第二(対照)群をgp120−His又は無関連His標識タンパク質で2時間パルスし、洗浄する。第三(陰性対照)群は増殖培地で処理するのみであるが、第四群(取込対照)は、DCの抗原取込能の機能対照としてDCのFITC標識抗原(この場合、OVA)の取込能を示すために使用する。次に、全細胞群を用いて、共焦点蛍光顕微鏡法によりFITC標識抗His抗体を用いて、タンパク質の細胞局在パターンを観察する。最後に、DC−SIGNを遮断するためにポリクローナル抗体でDCをプレインキュベートすることにより、ウシDC−SIGN分子に対してポリクローナル抗体が生成され、DC−SIGNによるgp120−Hisの取込特異性を示す。DC−SIGNの遮断によりgp120−Hisの取込みは低下するが、他の分子又は対照の取込みは低下しないであろう。
【0111】
加えて、或いは、gp120タンパク質のウシ細胞DC−SIGNへの結合能を評価すべく、タンパク質をコードしているcDNAを、RT−PCR及びNIH AIDS reagent programから得た構築体を用いたディレクショナルクローニング法を用いて、Hisタグ含有発現ベクターにクローニングする。生じたプラスミドを用いてCOS−7細胞にトランスフェクションし、分子量カットオフ・スピンカラム又はHisタグ精製カラムを用いて、細胞上清及び/又は細胞溶解物から発現タンパク質を濃縮する。gp120−Hisの存在を、抗His抗体を用いてウェスタンブロット法により評価する。ウシDCによるgp120−Hisの取込みを追跡すべく、DC培養物を調製し、3細胞群に振り分ける。第一(試験)及び第二(対照)群を、gp120−His又は空プラスミドをトランスフェクションしたCOS−7細胞由来の上清で2時間パルスし、洗浄する。第三群(取込対照;この場合、FITC−OVA)を機能対照として用いてDCの抗原取込能を立証する(Werling, D et al (1999) J Leukoc Biol 66 : 50-58)。次に、全細胞群を用いて、取り込まれたタンパク質の量を観察するか、又は、フローサイトメトリー及び共焦点蛍光顕微鏡法によりタンパク質の細胞局在を同定する。FITC標識抗His抗体を用いてgp120−Hisを検出する。加えて、ヒトDC−SIGN分子を安定的にトランスフェクションしたCOS−7細胞を陽性対照として用いる。
【0112】
(結果)
公開されたDC−SIGN配列の現在の類似性に基づき、gp120−Hisは結合し、次に、ウシDC−SIGN分子により内在化され、また、この結合/取込みはポリクローナル抗体により遮断されるが、これは使用する対照には影響を与えないと考えられる。
【0113】
(考察)
結合したgp120−Hisと内在化したgp120−Hisとを識別すべく、細胞が取り込んだgp120−Hisの量を測定することが可能であり、EDTA−トリプシン溶液で細胞を処理すると、表面に結合したgp120−Hisを分解するが、内在化したgp120−Hisは分解しない。その後、モノクローナル抗体をHisタグ又は直接gp120タンパク質に対して用いて、ウェスタンブロット法により細胞抽出物又はサイトゾル抽出物を分析し、gp120−Hisの存在を確認する。gp120−Hisの取込みが効果を示すと、gp120はモデル抗原(即ち、ウシ呼吸器多核体ウイルス又はウシウイルス性下痢ウイルスのE2タンパク質)とともに発現され、これを更なる検討のために用いる(単純化のため、この生成物をgp120−Agと命名する)。
【実施例2】
【0114】
〈抗原パルス化DCによるTh1免疫応答の発現亢進〉
最近のデータでは、Toll様受容体(TLR)又はDC−SIGNのようなパターン認識受容体による抗原の取込みにより、Th1型免疫応答の発現が亢進し、抗原パルス化DCによりIFNα及びIL−12が放出されることを重視している。これらサイトカインの放出では細胞性免疫の発現が好ましい。
【0115】
TLRに結合することが既知である1つの抗原は呼吸器多核体ウイルス(RSV)のFタンパク質であり、この結合によりIL−12が誘導される(Haeberle, HA et al (2002) J Infect Dis 186: 1199-1206;Haynes, LM et al (2001) J Virol 75: 10730-10737;及びKurt-Jones, EA et al (2000) Nat Immunol 1: 398-401)。RSVはウシ及びヒトを含む、複数の種の新生子(児)における下気道感染の主原因であるため、RSV Fタンパク質をモデル抗原としてこれら試験において用いる。
【0116】
HIV gp120(試験1で生成)、RSV Fタンパク質(Dr.Geraldine Taylor,Institute for Animal Health,Comptonよりご分与)又はgp120/Fタンパク質の融合タンパク質(試験1で生成)を含有するHisタグ発現ベクターを用いて、COS−7細胞にトランスフェクションする。72時間後、ニッケル−アガロースを用いて細胞上清及び溶解細胞からHisタグタンパク質を採取し、抗His抗体を用いたウェスタンブロット法によりその存在を解析する。
【0117】
ウシDCに対するgp120−His、F−タンパク質−His又はgp120−Agの効果を実証すべく、異なる用量の各精製タンパク質で細胞を2時間インキュベートする。この後、上清を採取し、ELISA系を用いてIFNα,IL−10及びIL−12の存在を解析する(Werling, D et al (2004) Immunology 111 : 41-52)。
【0118】
(結果)
gp120−His又はgp120−Agに曝露したDCにより放出されるIFNα及びIL−12の量は、同時間・同量でgp120−Hisに曝露した末梢血リンパ球又はマクロファージにより生成されるIFNα及びIL−12の量より多いと考えられる。更に、gp120−His単独でIL−10の生成、F−タンパク質−Hisでは主にIL−12の生成、gp120−AgではIL−12の高放出になると考えられる。
【実施例3】
【0119】
〈DCによる無感作T細胞の刺激〉
マクロファージ及びB細胞のような他の抗原提示細胞(APC)に比し、DCは無感作T細胞を刺激し、更に強度に記憶T細胞応答を刺激する無類の能力を有する(Werling et al (1999);Werling, D et al (2002) J Leukoc Biol 72: 297-304)。gp120−Agパルス化DCの刺激能を評価すべく、また、これらが無感作T細胞及び記憶T細胞を刺激できるかどうかを評価するために、異なるサブセットのAPCを生成し(Werling et al (2002))、gp120−Agで様々な時間(0〜6時間)インキュベートする。この後、マイトマイシン−Dへの曝露により、DCを不活化し、種々の相関にて同一ドナーの選別したCD4+T細胞に添加する。培養5日後、ベータカウンターを用いた液体シンチレーション計数法により、増殖T細胞のDNAに取り込まれた[H]標識チミジンの量を測定することにより、gp120−Agパルス化DC、マクロファージ及びB細胞の刺激能を評価する。
【0120】
BRSV免疫化ウシ由来のAPC及びT細胞を用いて同様の試験を行い、こうしてAPCサブセットの記憶T細胞応答を刺激する特性を評価する(免疫化動物へのアクセスはDr Geraldine Taylor,Institute for Animal Health,Comptonを介して存在)。
【0121】
(結果)
T細胞の高増殖はDCの存在下でのみ見出され、マクロファージやB細胞では見出されないと考えられる(応答が10倍低いことを示す)。
【0122】
BRSV免疫化動物由来のT細胞で混合培養する際、gp120−AgでパルスしたDCのみが無感作T細胞の増殖を刺激し、他のAPCの10倍の増殖応答を誘導するとも考えられる。
【実施例4】
【0123】
〈HIV−1結合によるDC−SIGNのエンドサイトーシス〉
ヒトの場合のシステムにおいて、HIV−1結合の結果としてのDC−SIGNのエンドサイトーシスにより、DC表面のDC−SIGN分子の数が減少する。標準方法によりマウスにおいて特異的モノクローナル抗DC−SIGN抗体を生成し、或いは、標準方法によりウサギにおいてポリクローナル抗DC−SIGN抗体を生成し、これらがgp120−Ag又はgp120−HisのDC−SIGNへの結合を阻害するか否かの試験を行う。非阻害抗体及び蛍光標識2次抗マウス抗体を用いて、蛍光活性化細胞分類(FACS)を援用し、DC(陰性対照として、gp120−Ag培地又は空プラスミドをトランスフェクションしたCOS−7細胞の上清でパルス化)の表面上のDC−SIGN発現を定量する。gp120−Ag又はgp120−Hisで2時間パルスした後、類似DC群において測定を反復する(試験群)。
【0124】
DC−SIGNの結合及び内在化の可能性を増大させるように、十分な量のgp120−Agを使用するようにする。
【0125】
(結果)
試験群における表面のDC−SIGNの量が対照群のDC−SIGNの量と同程度であれば、恐らく有意なDC−SIGNのエンドサイトーシスは生じず、DC−SIGN結合抗原は分解から保護されて処理されないという理論を支持すると考えられる。gp120−Agの結合時に表面のDC−SIGN発現が低下すれば、恐らくDC−SIGNはDCに取り込まれ、従って、引き続いて細胞内のエンドサイトーシス区画に送達され、これによりタンパク質処理が可能になり、次に、MHCクラスII(及びMHCクラスI)分子を介してT細胞に提示される。こうしてT細胞の増殖応答が引き続くことになる。
【0126】
免疫応答が発現するためにはエンドサイトーシスが生じることが必要である。
【0127】
DC−SIGNの遮断はgp120−Hisの取込みを低下させるであろうが、他の分子はそうではない。
【0128】
有用と思われる対照群には、例えば、短時間のトリプシン処理により表面のDC−SIGNを有さないDC及びDC−SIGNのエンドサイトーシスを惹起する薬剤が含まれる(陽性対照)。
【実施例5】
【0129】
〈動物におけるgp120−Ag免疫化の有効性〉
動物におけるgp120−Ag免疫化の有効性を実証すべく、種々の量のgp120−Agによりウシを免疫化し、Fタンパク質のような抗原又はgp120に対する抗体応答の発現を、特異的Agに利用可能なELISA系を用いて解析する。gp120及びRSV−Fタンパク質に好適なELISA系は市販されている。担体溶液単独、精製gp120−His、精製Fタンパク質−His又はgp120−Agにより4動物群を免疫する。免疫化前後に週1回の頻度で血液試料を採取し、血清試料中の抗体価を測定する。
【0130】
(結果)
gp120−Agにより免疫化した動物は、gp120及びFタンパク質のような対象とするAgの双方に対する抗体を発現すると考えられる。Ag特異的抗体とgp120特異的抗体との関連を評価するためには、gp120−Hisにより免疫化した動物の抗体価が対照として機能し、こうしてgp120−Agの取込み及び提示の効率性を実証するデータが確定する。
【0131】
通常、gp120−Agにより免疫化した動物におけるgp120に対する抗体価を、動物個体の良好な免疫化の直接的な指標として用いることができ、また、これにより免疫化動物と自然感染動物との識別も可能になる。
【実施例6】
【0132】
〈良好に免疫化された動物への抗原曝露〉
動物の免疫化を良好に確定した後、同動物群にRSV Fタンパク質(又は全RSV)のような抗原を曝露し、臨床兆候の発現をモニタリングする。
【0133】
(結果)
Fタンパク質はRSVの主抗原の1つであるため、免疫化動物は以後の曝露に対して防御反応を示し、臨床徴候を示さないが、gp120−His又は担体溶液を投与された動物はそうではないと考えられる。
【実施例7】
【0134】
〈ウシDC−SIGNのcDNA配列の獲得〉
Werling et al(2002)J Leukoc Biol 72:297−304における手順に従ってウシ樹状細胞を分離し、mRNAを分離した。Becton Dickinson社製のSMART(商標)RACE cDNA増幅キット(カタログ番号K1811−1)を使用し、プライマーTAGCTGACTCCTTGTCCAAGTGを用いてcDNAを増幅した。変異体1と呼称する増幅cDNAを配列決定し、図1にそのヌクレオチド配列を示す。
【0135】
マウス及びヒトDC−SIGN分子(それぞれGenBankアクセッション番号AF373408及びNM_021155)が共有する相同性に基づいて縮重プライマーを使用し、更なるウシDC−SIGNのcDNA部分配列を得て、これを変異体2と呼称する。図6にウシDC−SIGNの変異体2のcDNA部分配列を示す。
【0136】
ウシDC−SIGN変異体のcDNA配列は、双方ともC型レクチン受容体をコードし、塩基対及び/又はアミノ酸配列において、対応するマウス及びヒトの配列と最大で89%の相同性を共有する(図7)。
【0137】
図7は、ヒトDC−SIGN(NM_021155_AA)、マウスDC−SIGN(マウスDC−SIGN_AA)及びウシDC−SIGNの2変異体(ウシDC−SIGN変異体1/2)のアミノ酸配列のClustal Wアラインメントを示す。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】ウシDC−SIGN変異体をコードしているcDNAの部分配列を示す配列図である(SEQ ID No.1)。文字“n”は任意の4種の天然ヌクレオチドA,G,C又はTを意味する。
【図2A】Scientific and Educational Software社のSEセントラル配列解析パッケージ(Align Plus及びClone Manager)を用いた、チンパンジー、ナミチンパンジー、ヒト、マカク属及びマウス由来のDC−SIGNをコードしているcDNA配列のアラインメントを示す配列図である(それぞれSEQ ID Nos.2−5)。アラインメント、パラメータ及び設定条件を示す。ダッシュはヌクレオチドが存在しないことを示す。
【図2B】Scientific and Educational Software社のSEセントラル配列解析パッケージ(Align Plus及びClone Manager)を用いた、チンパンジー、ナミチンパンジー、ヒト、マカク属及びマウス由来のDC−SIGNをコードしているcDNA配列のアラインメントを示す配列図である(それぞれSEQ ID Nos.2−5)。アラインメント、パラメータ及び設定条件を示す。ダッシュはヌクレオチドが存在しないことを示す。
【図2C】Scientific and Educational Software社のSEセントラル配列解析パッケージ(Align Plus及びClone Manager)を用いた、チンパンジー、ナミチンパンジー、ヒト、マカク属及びマウス由来のDC−SIGNをコードしているcDNA配列のアラインメントを示す配列図である(それぞれSEQ ID Nos.2−5)。アラインメント、パラメータ及び設定条件を示す。ダッシュはヌクレオチドが存在しないことを示す。
【図2D】Scientific and Educational Software社のSEセントラル配列解析パッケージ(Align Plus及びClone Manager)を用いた、チンパンジー、ナミチンパンジー、ヒト、マカク属及びマウス由来のDC−SIGNをコードしているcDNA配列のアラインメントを示す配列図である(それぞれSEQ ID Nos.2−5)。アラインメント、パラメータ及び設定条件を示す。ダッシュはヌクレオチドが存在しないことを示す。
【図3】チンパンジー、ヒト及びマカク属由来のDC−SIGNのアミノ酸配列(SEQ ID Nos.7−9)に対する、ウシDC−SIGN変異体1の推定部分的アミノ酸配列(SEQ ID No.6)のアラインメントを示す配列図である。ダッシュはアミノ酸が存在しないことを示す。ウシDC−SIGNのアミノ酸配列中のアステリスクは、アミノ酸配置が存在しないことを示す。アラインメントはSEセントラル配列解析パッケージを用いて行った。アラインメントパラメータ:基準分子に対するタンパク質のグローバルアラインメント;パラメータ:スコアマトリックス:BLOSUM62;基準分子:推定ウシDC−SIGN、1−577領域;アラインメントする配列の数:4:推定ウシDC−SIGNのアミノ酸192個;チンパンジーDC−SIGNのアミノ酸404個;ヒトDC−SIGN_CDSのアミノ酸405個;アカゲザル(Macaca mulatta)_CDSのアミノ酸405個であった。
【図4】HIV gp120−FITCのウシDCへの結合を示すグラフである。細胞は未処理状態にし、或いは、4℃又は37℃にてgp120−FITCで60分間インキュベートし、フローサイトメトリーで解析した。
【図5】ヒトDC−SIGN分子に対してポリクローナル抗体が生成された、ヒト単球由来のマクロファージ、ヒト単球由来の樹状細胞及びウシ単球由来の樹状細胞の染色パターンを示す写真である。
【図6】ウシDC−SIGN、変異体2をコードしているcDNAの部分配列を示す配列図である(SEQ ID No.10)。
【図7】ヒトDC−SIGN、マウスDC−SIGN及びウシDC−SIGNの2変異体のアミノ酸配列のCLUSTAL W(1.7)によるアラインメントを示す配列図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)動物の樹状細胞に選択的に結合するが、当該動物において自然に存在しない分子部分と、(ii)抗原とを含む、動物のワクチン接種用化合物。
【請求項2】
前記分子部分が樹状細胞のパターン認識受容体に結合する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記パターン認識受容体がDC−SIGNである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
選択的に結合する前記分子部分がタンパク質である、請求項1又は請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
選択的に結合する前記分子部分が、HIV gp120、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のLAMタンパク質若しくはエボラウイルスの糖タンパク質のいずれか1つ又はこれらの部分である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
HIV gp120、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のLAMタンパク質若しくはエボラウイルスの糖タンパク質のいずれか又はこれらの部分と、(ii)抗原とを含む、動物のワクチン接種用化合物。
【請求項7】
前記抗原がポリペプチドである、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記抗原が、動物の疾患に関連する分子又はその分子の部分若しくは変異体である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
前記抗原が、動物の疾患に関連する2つ以上の分子又はそれらの分子の部分若しくは変異体である、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
前記抗原が、病原体若しくは腫瘍の抗原性成分又はその成分の抗原性部分若しくは変異体である、請求項8又は請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
前記病原体が細菌、ウイルス、真菌、原生動物又は蠕虫のいずれかである、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記抗原が、OIEリストA疾患に関連する病原体から選択される病原体の抗原性成分又はその成分の部分若しくは変異体である、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
前記分子部分と前記抗原とが共有結合された、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
選択的に結合する前記分子部分と前記抗原とが各々ポリペプチドを含み、双方が同一のポリペプチド鎖に存在する、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項15】
請求項14に記載の化合物をコードする核酸分子。
【請求項16】
請求項15に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項15に記載の核酸分子又は請求項16に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項18】
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸分子を含むワクチン。
【請求項19】
更にアジュバントを含む、請求項18に記載のワクチン。
【請求項20】
医薬品における使用のための請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸分子。
【請求項21】
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸分子と、製薬的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項22】
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸分子を動物に投与するステップを含む、疾患に対して動物を免疫する方法。
【請求項23】
請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸分子を動物に投与するステップを含む、動物の疾患を治療する方法。
【請求項24】
前記疾患が病原体に惹起された、請求項22又は請求項23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記病原体が細菌、ウイルス、真菌、原生動物又は蠕虫のいずれかである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記病原体がOIEリストA疾患に関連する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記動物が哺乳動物である、請求項22又は請求項23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記動物が伴侶動物又は家畜である、請求項22から請求項27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記動物がウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ又はウサギである、請求項27又は請求項28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
動物疾患治療用医薬品の製造における、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸の使用。
【請求項31】
動物の免疫化用ワクチンの製造における、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸の使用。
【請求項32】
前記疾患が病原体に惹起される、請求項30又は請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記病原体が細菌、ウイルス、真菌、原生動物又は蠕虫のいずれかである、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記病原体がOIEリストA疾患に関連する、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
前記動物が哺乳動物である、請求項30又は請求項31に記載の使用。
【請求項36】
前記動物が伴侶動物又は家畜である、請求項30又は請求項31に記載の使用。
【請求項37】
前記動物がウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ又はウサギである、請求項35又は請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記分子部分と前記抗原とを結合するステップを含む、請求項1又は請求項6に記載の化合物を作成する方法。
【請求項39】
ポリペプチドを含む、請求項14に記載の化合物を作成する方法であって、(i)前記ポリペプチドを発現する、請求項17に記載の宿主細胞を培養することと、(ii)前記ポリペプチドを単離することとを含む方法。
【請求項40】
樹状細胞に選択的に結合する分子部分をコードする核酸分子と、抗原をコードする核酸分子とを結合することを含む、請求項15に記載の核酸を作成する方法。
【請求項41】
(i)樹状細胞に選択的に結合する分子部分をコードする部分と、(ii)抗原をコードしているポリヌクレオチドを挿入するための挿入ポイントとを含み、前記ポリヌクレオチドが前記挿入ポイントに挿入されたとき、請求項14に記載の化合物をコードする核酸分子。
【請求項42】
前記核酸は樹状細胞のパターン認識受容体に選択的に結合する分子部分をコードする、請求項41に記載の核酸。
【請求項43】
前記パターン認識受容体がDC−SIGNである、請求項42に記載の核酸。
【請求項44】
選択的に結合する前記分子部分が、HIV gp120、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のLAMタンパク質又はエボラウイルスの糖タンパク質のいずれか1つである、請求項41又は請求項42に記載の核酸。
【請求項45】
動物が請求項1に記載の化合物を投与されているかどうかを判定する方法であって、前記動物が樹状細胞に選択的に結合する前記分子部分に免疫応答を示しているかどうかを判定することを含む方法。
【請求項46】
前記動物が前記化合物に存在する抗原に免疫応答を示しているかどうかを判定することを更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
(i)請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の化合物又は請求項15に記載の核酸分子、及び(ii)樹状細胞に選択的に結合する、前記化合物に存在する前記分子部分に対する免疫応答を検出する手段及び/又は(iii)前記化合物に存在する前記抗原に対する免疫応答を検出する手段を含むパーツキット。
【請求項48】
(ii)部が存在する場合には、前記分子部分に対する抗体に結合する前記分子部分の全体又は一部分を含み、(iii)部が存在する場合には、前記抗原に対する抗体に結合する前記抗原の全体又は一部分を含む、請求項47に記載のパーツキット。
【請求項49】
(i)動物疾患の抗原に対する免疫応答を検出する手段と、(ii)樹状細胞に選択的に結合する分子部分に対する免疫応答を検出する手段とを含むパーツキット。
【請求項50】
免疫応答を検出する手段がELISAである、請求項47から請求項49のいずれか一項に記載のパーツキット。
【請求項51】
本明細書に記載したように、ワクチン接種動物を自然感染動物から識別可能とした、動物にワクチン接種する任意の新規の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−501009(P2007−501009A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522404(P2006−522404)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003386
【国際公開番号】WO2005/014040
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505033743)ザ ロイヤル ヴェテリネリ カレッジ (2)
【Fターム(参考)】