説明

抗変異原性剤

【課題】化粧料や食品に含まれる抗変異原性剤はあまり多くないため、十分な効果を得るには日常的かつ継続的に使用あるいは摂取する必要がある。抗変異原性作用を有し、かつ、長期間使用しても安全な抗変異原性剤の提供。
【解決手段】カンナ及び雪霊芝から選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を含有することを特徴とする抗変異原性剤。該抗変異原性剤は、優れた変異原性抑制作用を有するものであり、特にヒトに対し有害な、化学物質の変異原性を抑止し又は不活性化する作用が得られるから、これら物質により誘発されるガンを抑制し、健康を保持する効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変異原性因子によって誘発される遺伝毒性、癌、老化等の抑制あるいはそれらの予防を目的として利用できる新規で安全性に優れた抗変異原性剤を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
癌や遺伝毒性が誘発される原因として、食品や大気、水等の環境中に存在するベンツピレン等種々の変異原性物質が挙げられる。変異原性物質は生体内のDNAに損傷を与えることにより、上記の疾病が誘発される。我々ヒトを含めた生物は、これらの損傷を修復するDNAや酵素を持っているが、すべての損傷を修復できないため、DNA損傷の蓄積が発癌の増加や老化の促進の原因と考えられている。よって、この変異原性物質を無毒化する抗変異原性剤が求められている。
本発明に用いるカンナ(特許文献1:抗炎症作用)及び雪霊芝(特許文献2、3:保湿作用、メラニン生成抑制作用)の抽出物には様々な有効性が知られているが、抗変異原性作用は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−270224号
【特許文献2】特開2007−077079号
【特許文献3】特開2008−280249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化粧料や食品に含まれる抗変異原性剤はあまり多くないため、十分な効果を得るには日常的かつ継続的に使用あるいは摂取する必要がある。本発明は抗変異原性剤の新規な開発を目的としており、抗変異原性作用を有し、かつ、長期間使用しても安全な抗変異原性剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究した結果、種々の植物抽出物の中から、カンナ及び雪霊芝抽出物に抗変異原性作用を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明で使用するカンナには、ハナカンナ(Canna generalis Bailey)、ダンドク(Canna indica L. var. orientalis Hook. fil.)及びその種間雑種あるいは属間雑種等カンナ科に含まれる植物が挙げられ、ハナカンナやその種間雑種等は市販されている品種を、そして、ダンドクは九州等に自生するものを利用することができる。カンナ科植物の植物体としては葉、茎、根、根茎(球根)、花等が挙げられる。好ましくは、根茎が良い。
【0007】
雪霊芝(Arenaria kansuensis Maxim.)は、チベット、甘粛、青海、四川西部等中国で多く分布する多年生の矮小草本で、石灰岩の高山の石の割れ目か、草原に生える。雪霊芝の植物体としては、葉、茎、花、根等の植物体の一部又は全草が挙げられる。好ましくは、植物体の全草が良い。
【0008】
カンナ及び雪霊芝の植物体の抽出方法としては、例えば、植物体を細かく切断し、溶媒を加えて抽出する方法が挙げられる。抽出は、室温で行ってもよいし、加熱してもよい。抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、希釈及び濾過処理、活性炭等による脱色、脱臭処理等をして用いても良い。更には、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0009】
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。
【0010】
本発明の抗変異原性剤には、抽出物の効果を損なわない範囲内で、通常の化粧品や飲食品に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。
【0011】
本発明のカンナ及び雪霊芝の抽出物はそのまま抗変異原性剤として利用できる他、化粧料及び飲食品への配合が可能であり、その配合量としては特に規定するものではないが、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1〜10重量%が良い。0.1重量%未満では十分な効果が得られず、10重量%を超えると不経済である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗変異原性剤は、カンナ及び雪霊芝の抽出物を有効成分とし、優れた変異原性抑制作用を有するものであり、直接的に抗変異原性剤として使用することにより、又は同抽出物を添加混合した化粧料あるいは飲食品を常時使用あるいは摂取することにより、特にヒトに対し有害な、化学物質の変異原性を抑止し又は不活性化する作用が得られるから、これら物質により誘発されるガンを抑制し、健康を保持する効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を詳細に説明するため、本発明の実施例として製造例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
製造例1 ハナカンナ茎葉及び根茎熱水抽出物
ハナカンナの茎と葉及び根茎をそれぞれ生のまま細かく切断し、その100gに1000mLの水をそれぞれ加えた後に100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過した後に凍結乾燥してハナカンナ熱水抽出物を得た。茎と葉からは2.5g、そして、根茎からは5.0gの熱水抽出物を得た。
【0015】
製造例2 ハナカンナ茎葉及び根茎エタノール抽出物
ハナカンナの茎と葉及び根茎をそれぞれ乾燥した後に細かく切断し、その100gに10Lのエタノールをそれぞれ加えた後に50℃で8時間還流抽出した。得られた抽出液を濾過した後に濃縮乾固してハナカンナエタノール抽出物を得た。茎と葉からは2.0g、そして、根茎からは4.5gのエタノール抽出物を得た。
【0016】
製造例3 ダンドク茎葉及び根茎熱水抽出物
ダンドクの茎と葉及び根茎をそれぞれ生のまま細かく切断し、その100gに1000mLの水をそれぞれ加えた後に100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過した後に凍結乾燥してダンドク熱水抽出物を得た。茎と葉からは2.7g、そして、根茎からは5.4gの熱水抽出物を得た。
【0017】
製造例4 ダンドク茎葉及び根茎エタノール抽出物
ダンドクの茎と葉及び根茎をそれぞれ乾燥した後に細かく切断し、その100gに10Lのエタノールをそれぞれ加えた後に室温で抽出した。得られた抽出液を濾過した後に濃縮乾固してダンドクエタノール抽出物を得た。茎と葉からは1.5g、そして、根茎からは3.6gのエタノール抽出物を得た。
【0018】
製造例5 ハナカンナ茎葉及び根茎1,3−BG抽出物
ハナカンナの茎と葉及び根茎をそれぞれ生のまま細かく切断し、その100gに、1,3−ブチレングリコール(1,3−BG)と水の混合液(重量比1:1)を1000mL加え、室温で2日間抽出した。抽出後、その抽出液をそれぞれ濾過してハナカンナ1,3−BG抽出物を得た。
【0019】
製造例6 ダンドク茎葉及び根茎1,3−BG抽出物
ダンドクの茎と葉及び根茎をそれぞれ生のまま細かく切断し、その100gに1,3−ブチレングリコール(1,3−BG)と水の混合液(重量比1:1)を1000mL加え、室温で2日間抽出した。抽出後、その抽出液をそれぞれ濾過してダンドク1,3−BG抽出物を得た。
【0020】
製造例7 雪霊芝の熱水抽出物
雪霊芝の全草75gに精製水1500mLを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して雪霊芝の熱水抽出物を0.8g得た。
【0021】
製造例8 雪霊芝のエタノール抽出物
雪霊芝の地上部75gにエタノールと水の混合液(重量比3:7)を1500mL加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、雪霊芝エタノール抽出物を2.4g得た。
【0022】
製造例9 雪霊芝のエタノール抽出物
雪霊芝の全草75gにエタノール1500mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、雪霊芝のエタノール抽出物を3.1g得た。
【実施例2】
【0023】
抗変異原性作用の評価
Ames試験のプレインキュベーション法により、抗変異原性作用を検討した。試験管に変異原物質のBenzo[a]pyrene:(B[a]P)を100μL加え、更に本発明の製造例で調製した抽出物の溶液100μLを分注した。更に、500μLのS9Mix(オリエンタル酵母社製S9cofactorを配合したもの)を加え、菌懸濁液(Salmonella Typhimurium TA98菌株の対数増殖末期となる菌液)100μLを加え混合後、37℃で20分間インキュベートした。インキュベート後、ヒスチジン−ビオチンを含むトップアガーを2mL加え、最少グルコース寒天平板上に流し込んだ。固化後、37℃にて72時間培養し、生じたコロニー数を計算した。抗変異原性(%)は以下の式を用いて計算した。

抗変異原性(%)=[1−{(A−B)/(C−D)}]×100

A:試料とB[a]P添加時のコロニー数
B:試料のみ添加時のコロニー数
C:B[a]P添加時のコロニー数
D:添加物なしのコロニー数
【0024】
表1及び表2に示すように、ハナカンナ及び雪霊芝の抽出物は添加濃度の上昇にともない抗変異原性率も高くなり、明らかに抗変異原性作用を有することが認められた。製造例3及び製造例4のダンドクの抽出物についても同様の効果がみられたが、ハナカンナの抽出物と比較すると若干弱いものであった。

(表1)熱水抽出物による変異原性抑制効果

(表2)エタノール抽出物による変異原性抑制効果

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は抗変異原性剤の新規な開発を目的としており、抗変異原性作用を有し、かつ、長期間使用しても安全な抗変異原性剤を提供するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンナ及び雪霊芝から選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を含有することを特徴とする抗変異原性剤。
【請求項2】
カンナがハナカンナの根茎であることを特徴とする請求項1記載の抗変異原性剤。
【請求項3】
抽出物がエタノール抽出物であることを特徴とする請求項1又は2記載の抗変異原性剤。

【公開番号】特開2012−56900(P2012−56900A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202703(P2010−202703)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】