説明

抗微生物剤

本発明は、グラム陰性細菌に対する抗微生物剤、とりわけ、グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、およびこの酵素のN末端またはC末端において融合されるペプチドストレッチから構成される融合タンパク質に関連する。さらに、本発明は、該融合タンパク質をコードする核酸分子、該核酸分子を含むベクター、および該核酸分子または該ベクターのいずれかを含む宿主細胞に関連する。加えて、本発明は、医用薬剤としての、とりわけグラム陰性細菌感染症の処置もしくは予防のための、診断手段としての、または美容用物質としての、使用のための融合タンパク質に関連する。本発明はまた、食材の、食品加工器具の、食品加工設備の、食材と接触する表面の、医療装置の、病院および手術室における表面の、グラム陰性細菌汚染の処置または予防にも関連する。さらに、本発明は、融合タンパク質を含む薬学的組成物に関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラム陰性細菌に対する抗微生物剤、とりわけ、グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、および該酵素のN末端またはC末端において融合される追加的なペプチドストレッチから構成される融合タンパク質に関連する。さらに、本発明は、融合タンパク質をコードする核酸分子、該核酸分子を含むベクター、および該核酸分子または該ベクターのいずれかを含む宿主細胞に関連する。加えて、本発明は、医用薬剤としての、とりわけグラム陰性細菌感染症の処置もしくは予防のための、診断手段としての、または美容用物質としての、使用のための融合タンパク質に関連する。本発明はまた、食材の、食品加工器具の、食品加工設備の、食材と接触する表面の、医療装置の、病院および手術室における表面の、グラム陰性細菌汚染の処置または予防にも関連する。さらに、本発明は、融合タンパク質を含む薬学的または美容用組成物に関連する。
【背景技術】
【0002】
グラム陰性細菌は、特徴として特有の非対称性二重層を伴う外膜を所有する。外膜二重層は、リン脂質(主としてホスファチジルエタノールアミン)を含有する内側の単層、および単一の糖脂質であるリポ多糖類(LPS)から主に構成される外側の単層からなる。莫大な多様性のLPS構造が細菌界において存在し、かつLPS構造は優勢な環境条件に応じて改変され得る。LPS層の安定性および異なるLPS分子の間の相互作用は、二価イオン(Mg2+、Ca2+)とLPS分子のアニオン性成分(リピドAおよび内部コアにおけるリン酸基、ならびにKDOのカルボキシル基)との静電相互作用によって主に達成される。さらに、不飽和脂肪酸の欠如によって支持されるリピドAの疎水性部分の緻密なかつ規則正しいパッキングが、高い粘性を伴う強固な構造を形成する。これは、親油性分子の透過性をより低くし、かつ外膜(OM)に追加的な安定性を与える。
【0003】
殺細菌または静細菌活性を有する種々のタイプの剤、例えば、抗生物質、エンドリシン、抗微生物ペプチド、およびデフェンシンが公知である。しかしながら、抗生物質に対する微生物の抵抗性が増加することによって、細菌によって引き起こされるますます多くの感染症を処置することが困難になっている。シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)および腸内細菌科(Enterobacteriaceae)のようなグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症で特に困難が生じる。
【0004】
エンドリシンは、バクテリオファージ(または細菌ウイルス)によってコードされるペプチドグリカンヒドロラーゼである。それらは、ファージ増殖の溶菌サイクルにおいて後期遺伝子発現の間に合成され、かつ細菌ペプチドグリカンの分解を通して感染した細胞からの子孫ウイルス粒子の放出を媒介する。それらは、β(1,4)-グリコシラーゼ(リゾチーム)、トランスグリコシラーゼ、アミダーゼ、またはエンドペプチダーゼのいずれかである。エンドリシンの抗微生物適用は、Gasson(GB2243611号(特許文献1))によって、既に1991年に示唆されていた。エンドリシンの殺傷能力は長期に渡って公知であったが、これらの酵素の抗細菌薬としての使用は、抗生物質の成功および支配のために無視されていた。多剤抗生物質耐性細菌の出現の後で初めて、エンドリシンでヒト病原体と戦うというこの単純な概念が関心を受けた。全く新たなクラスの抗細菌剤を開発するやむを得ない必要性が浮上し、「酵素」および「抗生物質」の混成用語である「エンザイビオティクス(enzybiotics)」として使用されるエンドリシンが、完全にこの必要性を満たした。2001年に、Fischettiおよび共同研究者は、A群連鎖球菌(streptococcus)に対するバクテリオファージC1エンドリシンの治療的可能性を初めて実証した(Nelson et al., 2001(非特許文献1))。それ以来、多くの刊行物によって、特にグラム陽性細菌による細菌感染症を制御するための魅力的かつ相補的な代替法としてのエンドリシンが確立されている。続いて、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)(Loeffler et al., 2001(非特許文献2))、バチルス・アントラシス(Bacillus anthracis)(Schuch et al., 2002(非特許文献3))、S. アガラクチエ(S. agalactiae)(Cheng et al., 2005(非特許文献4))、およびスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(Rashel et al, 2007(非特許文献5))などの他のグラム陽性病原体に対する様々なエンドリシンが、エンザイビオティクスとしてのそれらの効力を証明してきた。外膜がペプチドグリカンへのエンドリシンの接近を遮蔽するため、現今、エンドリシン療法の最も重要な課題は、エンドリシンの外来性作用に対するグラム陰性細菌の非感受性にある。このことが現在、重要なグラム陰性病原体に対して有効なエンドリシンの範囲の拡大を妨げている。
【0005】
抗微生物ペプチド(AMP)は、実質的にあらゆる生物において見出され得る、広範な、短く、カチオン性で、遺伝子にコードされたペプチド抗生物質を意味する。様々なAMPが様々な特性を示し、かつこのクラスの多くのペプチドは、抗生物質としてだけでなく、細胞貫通ペプチドのための鋳型としても集中的に研究されている。数個の共通の特徴(例えば、カチオン性、両親媒性、および短いサイズ)を共有するにもかかわらず、AMP配列は大きく変動し、かつ少なくとも4つの構造群(αへリックス、βシート、伸長型、およびループ型)が、観察されるAMP立体配座の多様性に対応するために提唱されている。同様に、抗生物質としての作用のいくつかの様式が提唱されており、例えば、これらのペプチドの多くの主要な標的は細胞膜であるが、他のペプチドについては主要な標的が細胞質侵入およびコアの代謝機能の破壊であることが示された。AMPは十分濃縮され得、特異的な標的結合が欠如しているにもかかわらず、例えば、大抵のAMPについてそうであるように、膜において孔を形成することによって、協同的活性を示す。しかしながら、この現象は模範的なリン脂質二重層においてのみ観察されており、いくつかの場合においては、6個のリン脂質分子当たり1個のペプチド分子のような、高い、膜におけるAMP濃度が、これらの事象が起きるために必要とされる。これらの濃度は、完全な膜飽和とまではいかなくても、それに近い。AMPについての最小阻止濃度(MIC)は典型的に低いマイクロモル範囲であるため、これらの閾値およびインビボでのそれらの重要性の関連性について当然のことながら懐疑論が生じている(Melo et al., Nature reviews, Microbiology, 2009, 245(非特許文献6))。
【0006】
デフェンシンは、脊椎動物および無脊椎動物の両方において見出される、小さく、カチオン性で、システインおよびアルギニンに富んだ抗微生物ペプチドの大きなファミリーである。デフェンシンは、システインの間隔パターンに従って、植物、無脊椎動物、α-、β-、およびθ-デフェンシンの5つの群に分類される。後半の3つは主として哺乳動物において見出される。α-デフェンシンは、好中球および腸管上皮において見出されるタンパク質である。β-デフェンシンは最も広く分布し、かつ白血球および多くの種類の上皮細胞によって分泌される。θ-デフェンシンはこれまでのところまれに、例えばアカゲザル(Rhesus macaques)の白血球において見出されている。デフェンシンは、細菌、真菌、ならびに多くのエンベロープウイルスおよび非エンベロープウイルスに対して活性を有する。しかしながら、細菌の効率的な殺傷に必要とされる濃度は主として高く、すなわちμモル範囲である。多くのペプチドの活性が、生理学的塩条件、二価カチオン、および血清の存在下において限定され得る。疎水性アミノ酸残基の含量に依存して、デフェンシンはまた溶血活性も示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】GB2243611号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nelson et al., 2001
【非特許文献2】Loeffler et al., 2001
【非特許文献3】Schuch et al., 2002
【非特許文献4】Cheng et al., 2005
【非特許文献5】Rashel et al, 2007
【非特許文献6】Melo et al., Nature reviews, Microbiology, 2009, 245
【発明の概要】
【0009】
従って、新たな抗微生物剤について必要性がある。
【0010】
本目的は、添付の特許請求の範囲において定義される事項によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において使用される「タンパク質」という用語は、同義的に「ポリペプチド」という用語を指す。本明細書において使用される「タンパク質」という用語は、特定の配列においてペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の直線状ポリマーを指す。タンパク質のアミノ酸残基は、例えば、炭水化物およびリン酸などの種々の基の共有結合性付加によって改変されてもよい。ヘムまたは脂質などの他の物質がより緩やかにポリペプチド鎖と会合してもよく、本明細書において使用される「タンパク質」という用語にまた含まれる複合タンパク質を生じさせる。とりわけαへリックスおよびβプリーツシートの存在に関して、ポリペプチド鎖を折り畳む種々の様式が解明されている。本明細書において使用される「タンパク質」という用語は、すべてα、すべてβ、α/β、およびαプラスβであるすべての4つのクラスのタンパク質を指す。さらに、「タンパク質」という用語は複合体を指し、該複合体はホモマーを指す。
【0012】
本明細書において使用される「融合タンパク質」という用語は、2つの核酸配列の融合によって生じる発現産物を指す。そのようなタンパク質は、例えば、組み換えDNA発現系において産生されてもよい。さらに、本明細書において使用される「融合タンパク質」という用語は、例えば酵素のような第1のアミノ酸配列の、第2のまたはさらなるアミノ酸配列との融合物を指す。第2のまたはさらなるアミノ酸配列は、ドメインまたは任意の種類のペプチドストレッチを定義してもよい。好ましくは、第2のおよび/またはさらなるアミノ酸配列は、第1のアミノ酸配列の任意のドメインに対して外来性であり、かつ第1のアミノ配列のいかなるドメインとも実質的に相同でない。
【0013】
本明細書において使用される「ペプチドストレッチ」という用語は、酵素などのタンパク質に連結される任意の種類のペプチドを指す。
【0014】
本明細書において使用される「ペプチド」という用語は、1つのアミノ酸残基のアミノ基が、ペプチド結合によって別のアミノ酸残基のカルボキシル基に連結されている、約2〜約100個のアミノ酸残基、より好ましくは約4〜約50個のアミノ酸残基、より好ましくは約5〜30個のアミノ酸残基からなる短いポリペプチドを指す。ペプチドは特定の機能を有してもよい。ペプチドは、天然に存在するペプチド、または合成的に設計されかつ産生されるペプチドであり得る。ペプチドは、例えば、酵素学的もしくは化学的切断によって天然のタンパク質に由来し得るかもしくは除去され得るか、または、従来のペプチド合成技術(例えば、固相合成)もしくは分子生物学技術(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)を参照されたい)を使用して調製され得る。天然に存在するペプチドの例は、抗微生物ペプチド、デフェンシン、スシ(sushi)ペプチドである。合成的に産生されるペプチドの例は、ポリカチオン性、両親媒性、または疎水性ペプチドである。本発明の意味におけるペプチドは、タンパク質を精製または配置するために使用されるHis-タグ、Strep-タグ、チオレドキシン、またはマルトース結合タンパク質(MBP)などを指さない。
【0015】
本明細書において使用される「エンドリシン」という用語は、細菌の細胞壁を加水分解するのに適している酵素を指す。「エンドリシン」は、以下の活性の少なくとも1つを有する少なくとも1つの「酵素学的活性ドメイン」(EAD)を含む:エンドペプチダーゼ、キチナーゼ、T4様ムラミニダーゼ、λ様ムラミニダーゼ、N-アセチル-ムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ(アミダーゼ)、ムラモイル-L-アラニン-アミダーゼ、ムラミダーゼ、溶解性トランスグリコシラーゼ(C)、溶解性トランスグリコシラーゼ(M)、N-アセチル-ムラミダーゼ、N-アセチル-グルコサミニダーゼ(リゾチーム)、または、例えばKZ144およびEL188などのトランスグリコシラーゼ。加えて、エンドリシンはまた、酵素学的に不活性であり、かつ宿主細菌の細胞壁に結合する領域である、いわゆるCBD(細胞壁結合ドメイン)を含有してもよい。
【0016】
本明細書において使用される「EAD」という用語は、エンドリシンの酵素学的活性ドメインを指す。EADは、細菌のペプチドグリカンを加水分解することを担当する。それは、エンドリシンの少なくとも1つの酵素活性を呈する。EADはまた、1つより多い酵素学的活性モジュールから構成され得る。
【0017】
「オートリシン」という用語は、エンドリシンに関連するが、細菌によってコードされ、かつ例えば細胞分裂に関与する酵素を指す。オートリシンの概要は、「Bacterial peptidoglycan (murein) hydrolases. Vollmer W, Joris B, Charlier P, Foster S. FEMS Microbiol Rev. 2008 Mar;32(2):259-86」において見出され得る。
【0018】
本明細書において使用される「バクテリオシン」という用語は、他の細菌の増殖を阻害することができるタンパク質様、ポリペプチド様、またはペプチド様物質を指す。好ましくは、阻害は具体的に、バクテリオシンの特異的受容体への他の細菌の吸収による。一般に、バクテリオシンは微生物によって産生される。しかしながら、本明細書において使用される「バクテリオシン」という用語は、微生物による単離された形態、または合成的に産生された形態の両方を指し、かつまた、それらの親バクテリオシンの活性を実質的に保持するが、その配列が1つまたは複数のアミノ酸残基の挿入または欠失によって変更されている変異体も指す。
【0019】
本明細書において使用される「抗微生物ペプチド」(AMP)という用語は、殺微生物(microbiocidal)および/または静微生物(microbiostatic)活性を有する任意のペプチドを指す。従って、本明細書において使用される「抗微生物ペプチド」という用語は、とりわけ、抗細菌、抗真菌、抗糸状菌、抗寄生生物、抗原生動物、抗ウイルス、抗感染性、抗伝染性、および/または殺菌、殺藻、殺アメーバ、殺微生物、殺細菌、殺真菌、殺寄生生物、殺原生動物、殺原虫特性を有する任意のペプチドを指す。
【0020】
本明細書において使用される「デフェンシン」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト内に存在するペプチドを指し、デフェンシンは、感染性細菌および/または感染性ウイルスおよび/または真菌などの外来性物質の破壊のような先天性宿主防御系において役割を果たす。デフェンシンは、抗体でない殺微生物および/または殺腫瘍性タンパク質、ペプチド、またはポリペプチドである。「デフェンシン」の例は、「哺乳動物デフェンシン」、α-デフェンシン、β-デフェンシン、インドリシジン、およびマガイニンである。本明細書において使用される「デフェンシン」という用語は、動物細胞から単離された形態、または合成的に産生された形態の両方を指し、かつまた、それらの親タンパク質の細胞傷害活性を実質的に保持するが、その配列が1つまたは複数のアミノ酸残基の挿入または欠失によって変更されている変異体も指す。
【0021】
本明細書において使用される「スシペプチド」という用語は、短いコンセンサスリピートを有する補体制御タンパク質(CCP)を指す。スシペプチドのスシモジュールは、多くの異なるタンパク質においてタンパク質-タンパク質相互作用ドメインとして機能する。スシドメインを含有するペプチドは、抗微生物活性を有することが示されている。
【0022】
本明細書において使用される際、「カチオン性ペプチド」という用語は、正に荷電したアミノ酸残基を有するペプチドを指す。好ましくは、カチオン性ペプチドは、9.0またはそれより大きいpKa値を有する。典型的には、カチオン性ペプチドのアミノ酸残基の少なくとも4個が正に荷電し得、例えば、リジンまたはアルギニンであり得る。「正に荷電した」とは、およその生理学的条件で正味の正電荷を有するアミノ酸残基の側鎖を指す。組み換えで産生され得る天然に存在するカチオン性ペプチドの例は、デフェンシン、マガイニン、メリチン、およびセクロピンである。
【0023】
本明細書において使用される「ポリカチオン性ペプチド」という用語は、大部分リジンおよび/またはアルギニン残基から構成される、合成的に産生されたペプチドを指す。
【0024】
本明細書において使用される「両親媒性ペプチド」という用語は、親水性および疎水性官能基の両方を有するペプチドを指す。好ましくは、本明細書において使用される「両親媒性ペプチド」という用語は、親水性および疎水性基の規定された配列を有するペプチドを指し、例えば、両親媒性ペプチドは、例えばαへリックス状であってもよく、主にヘリックスの1つの側に沿って非極性側鎖を、および残りの表面に沿って極性残基を有する。
【0025】
本明細書において使用される「疎水性基」という用語は、実質的に水に不溶性であるが、油相において可溶性であり、油相における溶解性が水または水相における溶解性よりも高い、アミノ酸側鎖などの化学基を指す。水において、疎水性側鎖を有するアミノ酸は、互いに相互作用して非水性環境を生じる。疎水性側鎖を伴うアミノ酸の例は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、トリプトファン、およびチロシンである。
【0026】
本明細書において使用される「欠失」という用語は、それぞれの出発の配列からの、1、2、3、4、5個、またはそれ以上のアミノ酸残基の除去を指す。
【0027】
本明細書において使用される「挿入」または「付加」という用語は、それぞれの出発の配列への、1、2、3、4、5個、またはそれ以上のアミノ酸残基の挿入または付加を指す。
【0028】
本明細書において使用される「置換」という用語は、ある特定の位置に配置されたアミノ酸残基の、異なるアミノ酸残基との交換を指す。
【0029】
本発明は、グラム陰性細菌に対する新たな抗細菌剤、とりわけ、グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、および、この酵素のN末端もしくはC末端、または両方の末端において融合されるペプチドストレッチから構成される融合タンパク質に関連する。
【0030】
本発明の1つの局面において、グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素は、エンドリシン、オートリシン、またはバクテリオシンである。
【0031】
本発明の別の局面において、本発明による酵素は、酵素学的に不活性であり、かつ宿主細菌の細胞壁に結合する領域である、いわゆるCBD(細胞壁結合ドメイン)をさらに含んでもよい。
【0032】
本発明による好ましい融合タンパク質は、SEQ ID NO:36〜63に示されている。SEQ ID NO:36〜63記載の融合タンパク質は、N末端に1つまたは複数の追加的なアミノ酸残基を含んでもよい。好ましくは、追加的なアミノ酸残基はメチオニンである。
【0033】
好ましくは、エンドリシンは、腸内細菌科(エシェリキア属(Escherichia)、特に大腸菌(E. coli)、サルモネラ属(Salmonella)、シゲラ属(Shigella)、シトロバクター属(Citrobacter)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、ハフニア属(Hafnia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、特にK. ニューモニエ(K. pneumoniae)、モルガネラ属(Morganella)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、セラチア属(Serratia)、エルシニア属(Yersinia))、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)(シュードモナス属(Pseudomonas)、特にP. エルギノーサ、バークホルデリア属(Burkholderia)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、シェワネラ属(Shewanella)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)、コマモナス属(Comamonas))、ナイセリア属(Neisseria)、モラクセラ属(Moraxella)、ビブリオ属(Vibrio)、アエロモナス属(Aeromonas)、ブルセラ属(Brucella)、フランシセラ属(Francisella)、ボルデテラ属(Bordetella)、レジオネラ属(Legionella)、バルトネラ属(Bartonella)、コクシエラ属(Coxiella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、パスツレラ属(Pasteurella)、マンヘミア属(Mannheimia)、アクチノバチルス属(Actinobacillus)、ガードネレラ属(Gardnerella)、スピロヘータ科(Spirochaetaceae)(トレポネーマ属(Treponema)およびボレリア属(Borrelia))、レプトスピラ科(Leptospiraceae)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、スピリルム属(Spirillum)、ストレプトバチルス属(Streptobacillus)、バクテロイデス科(Bacteroidaceae)(バクテロイデス属(Bacteroides)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、プレボテラ属(Prevotella)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas))、アシネトバクター属(Acinetobacter)、特にA. バウマニ(A. baumanii)などのヒトまたは動物にとって病原性である株を含むグラム陰性細菌の細菌群、科、属、または種などのグラム陰性細菌に特異的なバクテリオファージによってコードされる。
【0034】
好ましくは、オートリシンは、腸内細菌科(エシェリキア属、特に大腸菌、サルモネラ属、シゲラ属、シトロバクター属、エドワードシエラ属、エンテロバクター属、ハフニア属、クレブシエラ属、特にK. ニューモニエ、モルガネラ属、プロテウス属、プロビデンシア属、セラチア属、エルシニア属)、シュードモナス科(シュードモナス属、特にP. エルギノーサ、バークホルデリア属、ステノトロホモナス属、シェワネラ属、スフィンゴモナス属、コマモナス属)、ナイセリア属、モラクセラ属、ビブリオ属、アエロモナス属、ブルセラ属、フランシセラ属、ボルデテラ属、レジオネラ属、バルトネラ属、コクシエラ属、ヘモフィルス属、パスツレラ属、マンヘミア属、アクチノバチルス属、ガードネレラ属、スピロヘータ科(トレポネーマ属およびボレリア属)、レプトスピラ科、カンピロバクター属、ヘリコバクター属、スピリルム属、ストレプトバチルス属、バクテロイデス科(バクテロイデス属、フゾバクテリウム属、プレボテラ属、ポルフィロモナス属)、アシネトバクター属、特にA. バウマニなどのヒトまたは動物にとって病原性である株を含むグラム陰性細菌の細菌群、科、属、または種などのグラム陰性細菌によってコードされる。
【0035】
バクテリオシンは、好ましくは上記に列挙したようなグラム陰性細菌に特異的であるが、特異性がより低くてもまたよい。
【0036】
本発明による酵素は、腸内細菌科(エシェリキア属、特に大腸菌、サルモネラ属、シゲラ属、シトロバクター属、エドワードシエラ属、エンテロバクター属、ハフニア属、クレブシエラ属、特にK. ニューモニエ、モルガネラ属、プロテウス属、プロビデンシア属、セラチア属、エルシニア属)、シュードモナス科(シュードモナス属、特にP. エルギノーサ、バークホルデリア属、ステノトロホモナス属、シェワネラ属、スフィンゴモナス属、コマモナス属)、ナイセリア属、モラクセラ属、ビブリオ属、アエロモナス属、ブルセラ属、フランシセラ属、ボルデテラ属、レジオネラ属、バルトネラ属、コクシエラ属、ヘモフィルス属、パスツレラ属、マンヘミア属、アクチノバチルス属、ガードネレラ属、スピロヘータ科(トレポネーマ属およびボレリア属)、レプトスピラ科、カンピロバクター属、ヘリコバクター属、スピリルム属、ストレプトバチルス属、バクテロイデス科(バクテロイデス属、フゾバクテリウム属、プレボテラ属、ポルフィロモナス属)、アシネトバクター属、特にA. バウマニなどのヒトまたは動物にとって病原性である株を含むグラム陰性細菌の細菌群、科、属、または種に対して細胞壁分解活性を有する。
【0037】
ファージに由来するかまたは野生型エンドリシンであるエンドリシン部分の具体例を以下の表に示す。
【0038】
(表1)


【0039】
シュードモナス・エルギノーサ ファージΦKZおよびELのエンドリシン、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)ファージのエンドリシン、大腸菌ファージN4のエンドリシン、ファージLUZ24のエンドリシン、gp61ムラミダーゼ、STM0016エンドリシン、およびPSP3エンドリシンに由来するエンドリシン部分もまた好ましい。
【0040】
エンドリシン部分のさらなる例は、SEQ ID NO:1記載のphiKZgp144、SEQ ID NO:2記載のELgp188、SEQ ID NO:3記載のサルモネラ属エンドリシン、SEQ ID NO:4記載の腸内細菌ファージT4 エンドリシン、SEQ ID NO:5記載のアシネトバクター・バウマニ エンドリシン、SEQ ID NO:18記載の大腸菌ファージK1F エンドリシン、SEQ ID NO:34記載のOBPgpLYS、SEQ ID NO:20記載のPSP3サルモネラ属エンドリシン(PSP3gp10)、SEQ ID NO:21記載の大腸菌ファージP2 エンドリシン(P2gp09)、SEQ ID NO:22記載のサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)ファージムラミダーゼSTM0016、SEQ ID NO:23記載の大腸菌ファージN4ムラミダーゼN4-gp61、およびSEQ ID NO:24記載のN4-gp61切断型、SEQ ID NO:25記載のKZ144からなる群より選択される。
【0041】
本発明の別の好ましい態様において、本発明による融合タンパク質のエンドリシン、オートリシン、およびバクテリオシンは、アミノ酸配列の改変および/または変更を含む。そのような変更および/または改変は、欠失、挿入および付加、置換、もしくはその組み合わせなどの変異、ならびに/または、例えばビオチン化、アセチル化、ペグ化などのアミノ酸残基の化学的変化、アミノ基、SH基、もしくはカルボキシル基の化学的変化を含んでもよい。本発明による融合タンパク質のエンドリシン、オートリシン、およびバクテリオシンは、それぞれの野生型エンドリシン、オートリシン、およびバクテリオシンの溶解活性を呈する。しかしながら、活性は、それぞれの野生型エンドリシンの活性と同一であるか、より高いか、またはより低くあり得る。活性は、それぞれの野生型エンドリシンの活性の約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、もしくは約200%、またはさらにそれ以上であり得る。活性は、例えば、Briers et al., J. Biochem. Biophys Methods 70: 531-533, (2007)またはDonovan DM, Lardeo M, Foster-Frey J. FEMS Microbiol Lett. 2006 Dec;265(1)または同様の刊行物に記載されている、例えばプレート溶解アッセイまたは液体溶解アッセイなどの、当技術分野において当業者に周知であるアッセイによって測定され得る。
【0042】
好ましくは、本発明による融合タンパク質のペプチドストレッチは、エンドリシン、オートリシン、またはバクテリオシンのN末端および/またはC末端に融合される。特に好ましい態様において、ペプチドストレッチは酵素のN末端にのみ融合される。別の好ましい態様において、ペプチドストレッチは酵素のC末端にのみ融合される。しかしながら、N末端およびC末端の両方にペプチドストレッチを有する改変された融合タンパク質もまた好ましい。N末端およびC末端のペプチドストレッチは、同一または別個のペプチドストレッチであり得る。ペプチドストレッチは、例えばクローニングの理由のために、追加的なアミノ酸残基によって酵素に連結され得る。好ましくは、ペプチドストレッチは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の追加的なアミノ酸残基によって融合タンパク質に連結され得る。好ましい態様において、ペプチドストレッチは、追加的なアミノ酸残基であるグリシンおよびセリン(Gly-Ser)、またはロイシンおよびグルタミン酸(Leu-Glu)によって酵素に連結される。さらに、本発明による融合タンパク質のペプチドストレッチは、N末端に追加的なアミノ酸をさらに含む。好ましくは、ペプチドストレッチは、アミノ酸であるメチオニン(Met)、アラニンおよびメチオニンおよびグリシン(Ala-Met-Gly-Ser)、またはアラニンおよびメチオニンおよびグリシンおよびセリン(Ala-Met-Gly-Ser)を含む。
【0043】
本発明による融合タンパク質のペプチドストレッチは、好ましくは共有結合で酵素に結合される。好ましくは、ペプチドストレッチは、少なくとも5個、より好ましくは少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99個、または少なくとも100個のアミノ酸残基からなる。特に、約5〜約100個のアミノ酸残基、約5〜約50個、または約5〜約30個のアミノ酸残基を含むペプチドストレッチが好ましい。約6〜約42個のアミノ酸残基、約6〜約39個のアミノ酸残基、約6〜約38個のアミノ酸残基、約6〜約31個のアミノ酸残基、約6〜約25個のアミノ酸残基、約6〜約24個のアミノ酸残基、約6〜約22個のアミノ酸残基、約6〜約21個のアミノ酸残基、約6〜約20個のアミノ酸残基、約6〜約19個のアミノ酸残基、約6〜約16個のアミノ酸残基、約6〜約14個のアミノ酸残基、約6〜約12個のアミノ酸残基、約6〜約10個のアミノ酸残基、または約6〜約9個のアミノ酸残基を含むペプチドストレッチがより好ましい。
【0044】
好ましくは、ペプチドストレッチは、His-タグ、Strep-タグ、Avi-タグ、Myc-タグ、Gst-タグ、JS-タグ、システイン-タグ、FLAG-タグ、または当技術分野において公知である他のタグなどのタグではなく、かつチオレドキシンまたはマルトース結合タンパク質(MBP)ではない。しかしながら、本発明によるペプチドストレッチおよび/またはエンドリシン、オートリシン、もしくはバクテリオシンは、そのようなタグまたは複数のタグを追加的に含んでもよい。
【0045】
より好ましくは、ペプチドストレッチは、外膜を通して融合タンパク質を導く機能を有するが、酵素と融合されずに投与された時、活性を有してもよく、または、活性を有さないかもしくは低い活性のみを有してもよい。グラム陰性細菌の外膜を通して融合タンパク質を導く機能は、ペプチドストレッチの、外膜またはLPSを破壊するか、または透過処理するか、または不安定化する活性の潜在能力によって引き起こされる。
【0046】
本発明の1つの局面において、融合されるペプチドストレッチは両親媒性ペプチドであり、1つまたは複数の、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、アラニン、チロシン、ヒスチジン、スレオニン、セリン、プロリン、および/またはグリシンの疎水性アミノ酸残基に結合した、1つまたは複数の、リジン、アルギニン、および/またはヒスチジンの正に荷電したアミノ酸残基を含む。アミノ酸残基の側鎖は、好ましくは、カチオン性および疎水性表面がペプチドの反対側でクラスター形成するように配向される。好ましくは、ペプチドにおける約30、40、50、60、または70%より多いアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸である。好ましくは、ペプチドにおける約30、40、50、60、または70%より多いアミノ酸残基が、疎水性アミノ酸残基である。有利に、両親媒性ペプチドが、細胞壁分解活性を有する酵素のN末端側および/またはC末端側終端に融合され、それによって後者のタンパク質の両親媒性を増強する。
【0047】
本発明の別の態様において、酵素に融合される両親媒性ペプチドは、少なくとも5個、より好ましくは少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50個のアミノ酸残基からなる。好ましい態様において、両親媒性ペプチドのアミノ酸残基の少なくとも約30、40、50、60、もしくは70%が、アルギニンもしくはリジン残基のいずれかであり、ならびに/または、両親媒性ペプチドのアミノ酸残基の少なくとも約30、40、50、60、もしくは70%が、疎水性アミノ酸であるバリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、アラニン、チロシン、ヒスチジン、スレオニン、セリン、プロリン、および/もしくはグリシンである。
【0048】
好ましい両親媒性ペプチドは、SEQ ID NO:6記載のプレウロシジン(Pleurocidin)、SEQ ID NO:7記載のセクロピンP1、SEQ ID NO:8記載のブフォリン(Buforin)II、SEQ ID NO:19記載のブフォリンI、およびSEQ ID NO:9記載のマガイニンである。さらなる好ましい両親媒性ペプチドは、カテリジシン(Cathelidicine)、例えば、SEQ ID NO:10記載のLL-37、SEQ ID NO:26記載のニグロシン(Nigrocine)2、およびSEQ ID NO:27記載のアスカフィン(Ascaphine)5である。
【0049】
本発明のさらなる局面において、融合されるペプチドストレッチは抗微生物ペプチドであり、正味の正電荷および約50%の疎水性アミノ酸を含む。抗微生物ペプチドは、約12〜約50個のアミノ酸残基の長さで、両親媒性である。
【0050】
本発明による抗微生物ペプチドの具体例を以下の表に列挙する。
【0051】
(表2)

【0052】
本発明のさらなる局面において、融合されるペプチドストレッチは、Ding JL, Li P, Ho B Cell Mol Life Sci. 2008 Apr;65(7-8):1202-19. The Sushi peptides: structural characterization and mode of action against Gram-negative bacteriaに記載されているスシペプチドである。SEQ ID NO:32記載のスシ1ペプチドが特に好ましい。
【0053】
好ましいスシペプチドは、スシペプチドS1およびS3、ならびにその多数体(multiple)である;FASEB J. 2000 Sep;14(12):1801-13。
【0054】
本発明のさらなる局面において、融合されるペプチドストレッチは、デフェンシン、好ましくはカテリシジン(Cathelicidine)、セクロピンP1、セクロピンA、またはマガイニンIIである。
【0055】
本発明のさらなる局面において、融合されるペプチドストレッチは、疎水性ペプチド、例えば、SEQ ID NO:28記載のアミノ酸配列を有するアピデシン、SEQ ID NO:33記載のアミノ酸配列を有するWLBU2-変異体、およびSEQ ID NO:35記載のアミノ酸配列を有するワルマフ(Walmagh)1である。アミノ酸配列Phe-Phe-Val-Ala-Pro(SEQ ID NO:17)を有する疎水性ペプチドは、本発明の部分ではない。
【0056】
本発明の別の好ましい態様において、本発明による融合タンパク質のペプチドストレッチは、アミノ酸配列の改変および/または変更を含む。そのような変更および/または改変は、欠失、挿入および付加、置換、もしくはその組み合わせなどの変異、ならびに/または、例えばビオチン化、アセチル化、ペグ化などのアミノ酸残基の化学的変化、アミノ基、SH基、もしくはカルボキシル基の化学的変化を含んでもよい。
【0057】
本発明による融合タンパク質の具体例を以下の表に列挙する。
【0058】
(表3)



【0059】
本発明による融合タンパク質、および従って、とりわけ、SEQ ID NO:36〜63記載の特に好ましい融合タンパク質は、N末端にメチオニンを追加的に含んでもよい。
【0060】
本発明による融合タンパク質、および従って、とりわけ、SEQ ID NO:36〜63記載の特に好ましい融合タンパク質は、例えば精製のためのタグを追加的に含んでもよい。好ましくは融合タンパク質のC末端および/またはN末端の、His6-タグが好ましい。タグは、例えばクローニングの理由のために、追加的なアミノ酸残基によって融合タンパク質に連結され得る。好ましくは、タグは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の追加的なアミノ酸残基によって融合タンパク質に連結され得る。好ましい態様において、融合タンパク質は、追加的なアミノ酸残基であるリジンおよびグリシン(Lys-Gly)、またはロイシンおよびグルタミン酸(Leu-Glu)によって融合タンパク質に連結されたC末端のHis6-タグを含む。別の好ましい態様において、融合タンパク質は、追加的なアミノ酸残基であるリジンおよびグリシン(Lys-Gly)、またはロイシンおよびグルタミン酸(Leu-Glu)によって融合タンパク質に連結されたN末端のHis6-タグを含む。別の好ましい態様において、融合タンパク質は、追加的なアミノ酸残基であるリジンおよびグリシン(Lys-Gly)、またはロイシンおよびグルタミン酸(Leu-Glu)によって融合タンパク質に連結されたN末端およびC末端のHis6-タグを含む。
【0061】
より好ましい態様において、融合タンパク質は、追加的なアミノ酸残基であるロイシンおよびグルタミン酸(Leu-Glu)によって融合タンパク質に連結されたC末端のHis6-タグを含み、かつ、本発明による融合タンパク質のペプチドストレッチが、追加的なアミノ酸残基であるグリシンおよびセリンによって酵素のN末端に連結される。別の好ましい態様において、融合タンパク質は、追加的なアミノ酸残基であるロイシンおよびグルタミン酸(Leu-Glu)によtて融合タンパク質に連結されたC末端のHis6-タグを含み、かつ、本発明による融合タンパク質のペプチドストレッチが、追加的なアミノ酸残基であるグリシンおよびセリン(Gly-Ser)によって酵素のN末端に連結され、かつ、融合タンパク質は、N末端に追加的なアミノ酸残基であるメチオニン(Met)、またはアラニン、メチオニンおよびグリシン(Ala-Met-Gly)、またはアラニン、メチオニン、グリシン、およびセリン(Ala-Met-Gly-Ser)を含む。好ましくは、融合タンパク質はSEQ ID NO:77〜90記載である。
【0062】
融合タンパク質は、例えば、Sambrook et al. 2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manualに記載されているような標準的なクローニング技術を使用して、少なくとも2つの核酸配列を連結することによって構築される。そのようなタンパク質は、例えば、組み換えDNA発現系において産生されてもよい。本発明によるそのような融合タンパク質は、エンドリシンおよびそれぞれのペプチドストレッチについての核酸を融合させることによって取得され得る。
【0063】
本発明による融合タンパク質は、他の追加的なタンパク質に融合または連結されてもよい。この他の追加的なタンパク質の例はチオレドキシンである。
【0064】
本発明はさらに、本発明による融合タンパク質をコードする、単離された核酸分子に関連する。本発明はさらに、本発明による核酸分子を含むベクターに関連する。ベクターは、本発明による融合タンパク質の構成性または誘導性の発現を提供してもよい。
【0065】
本発明はまた、融合タンパク質を発現する遺伝学的に改変された適当な宿主細胞などの微生物から、該融合タンパク質を取得するための方法に関連する。宿主細胞は、細菌もしくは酵母などの微生物、または、例えば哺乳動物細胞、とりわけヒト細胞のような動物細胞であってもよい。本発明の1つの態様において、宿主細胞はピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞である。宿主は、単なる生物工学的理由、例えば、収率、溶解性、費用などのために選択されてもよいが、医学的観点から、例えば、非病原性細菌または酵母、ヒト細胞から選択されてもまたよい。
【0066】
本発明の別の局面は、融合タンパク質をコードする遺伝物質の宿主細胞中への導入によって宿主細胞が遺伝学的に改変され、本発明による融合タンパク質の発現を得るため、ならびに、当業者に周知である遺伝子工学法によってそれらの翻訳および発現を得るために、適当な宿主細胞を遺伝学的に形質転換する方法に関連する。
【0067】
さらなる局面において、本発明は、本発明による融合タンパク質、および/または、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子もしくはベクターで形質転換された宿主を含む組成物、好ましくは薬学的組成物に関連する。
【0068】
本発明の好ましい態様において、組成物は、例えばEDTAのような金属キレート剤、TRIS、乳酸、ラクトフェリン、ポリミキシン、クエン酸、および/または、例えばVaaraによって記載されているような他の物質(Agents that increase the permeability of the outer membrane. Vaara M. Microbiol. Rev. 1992 Sep; 56 (3):395-441)などのグラム陰性細菌の外膜を透過処理する剤を追加的に含む。上述した透過剤の組み合わせを含む組成物もまた好ましい。約10μM〜約100 mM EDTA、より好ましくは約50μM〜約10 mM EDTA、より好ましくは約0.5 mM〜約10 mM EDTA、より好ましくは約0.5 mM〜約2 mM EDTA、より好ましくは約0.5 mM〜1 mM EDTAを含む組成物が特に好ましい。しかしながら、約10μM〜約0.5 mM EDTAを含む組成物もまた好ましい。約0.5 mM〜約2 mM EDTA、より好ましくは約1 mM EDTA、および追加的に約10〜約100 mM TRISを含む組成物もまた好ましい。
【0069】
本発明はまた、医用薬剤としての使用のための、本発明による融合タンパク質、および/または、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換された宿主に関連する。さらなる局面において、本発明は、グラム陰性細菌に付随する障害、疾患、または状態の処置および/または予防のための医用薬剤の製造における、本発明による融合タンパク質、および/または、本発明による改変された融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含むベクターで形質転換された宿主の使用に関連する。とりわけ、障害、疾患、または状態の処置および/または予防は、腸内細菌科(エシェリキア属、特に大腸菌、サルモネラ属、シゲラ属、シトロバクター属、エドワードシエラ属、エンテロバクター属、ハフニア属、クレブシエラ属、特にK. ニューモニエ、モルガネラ属、プロテウス属、プロビデンシア属、セラチア属、エルシニア属)、シュードモナス科(シュードモナス属、特にP. エルギノーサ、バークホルデリア属、ステノトロホモナス属、シェワネラ属、スフィンゴモナス属、コマモナス属)、ナイセリア属、モラクセラ属、ビブリオ属、アエロモナス属、ブルセラ属、フランシセラ属、ボルデテラ属、レジオネラ属、バルトネラ属、コクシエラ属、ヘモフィルス属、パスツレラ属、マンヘミア属、アクチノバチルス属、ガードネレラ属、スピロヘータ科(トレポネーマ属およびボレリア属)、レプトスピラ科、カンピロバクター属、ヘリコバクター属、スピリルム属、ストレプトバチルス属、バクテロイデス科(バクテロイデス属、フゾバクテリウム属、プレボテラ属、ポルフィロモナス属)、アシネトバクター属、特にA. バウマニなどのヒトまたは動物にとって病原性である株を含むグラム陰性細菌の細菌群、科、属、または種によって引き起こされ得る。
【0070】
本発明はさらに、本発明による融合タンパク質、および/または、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換された宿主を含む医用薬剤に関連する。
【0071】
さらなる局面において、本発明は、処置および/または予防を必要とする対象において障害、疾患、または状態を処置する方法であって、有効量の本発明による融合タンパク質、および/または、有効量の、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換された宿主、または本発明による組成物を、該対象に投与する段階を含む方法に関連する。対象は、ヒトまたは動物であってもよい。
【0072】
とりわけ、処置の方法は、グラム陰性細菌、とりわけ上記に列挙したグラム陰性細菌によって引き起こされる皮膚、軟組織、呼吸器系、肺、消化管、眼、耳、歯、鼻咽頭、口、骨、膣の感染症、菌血症の創傷、および/または心内膜炎の処置および/または予防のためであってもよい。
【0073】
本発明による処置(または予防)の方法において使用される投与の用量および経路は、処置される特定の疾患/感染の部位に依存する。投与の経路は、例えば、経口的、局所的、鼻咽頭内、非経口的、静脈内、直腸内、または任意の他の投与の経路であってもよい。
【0074】
本発明による融合タンパク質、および/または、有効量の、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換された宿主、または本発明による組成物の、感染の部位(または感染する危険にさらされた部位)への適用のために、感染の部位へ到達するまで、プロテアーゼ、酸化、免疫応答などの環境の影響から活性化合物を保護する製剤が使用されてもよい。従って、製剤は、カプセル、糖剤、丸剤、粉末剤、坐剤、乳剤、懸濁剤、ゲル、ローション、クリーム、軟膏、注射可能な溶液、シロップ、噴霧剤、吸入剤、または任意の他の医学的に妥当な生薬製剤であってもよい。好ましくは、生薬製剤は、適当な担体、安定剤、着香料、緩衝剤、または他の適当な試薬を含んでもよい。例えば、局所適用のために、製剤は、ローション、クリーム、ゲル、軟膏、または硬膏であってもよく、鼻咽頭適用のために、製剤は、噴霧器を介して鼻に適用される生理食塩水であってもよい。経口投与のために、特定の感染部位の、例えば腸における処置および/または予防の場合、感染の部位が到達するまで、本発明による融合タンパク質を胃腸管の苛酷な消化性環境から保護することが必要であり得る。従って、胃における消化の初期段階を生き延び、かつ後に本発明による融合タンパク質を腸環境中に分泌する細菌が、担体として使用され得る。
【0075】
本発明の特定の態様において、シュードモナス属、特にシュードモナス・エルギノーサによって引き起こされる障害、疾患、または状態、とりわけ乳児における腸の罹患、髄膜の感染症、例えば出血性髄膜炎、中耳の感染症、皮膚の感染症(壊疽性膿瘡)、とりわけ熱傷、尿路の感染症、鼻炎、菌血症性肺炎、とりわけ患者が嚢胞性線維症もしくは白血病などの血液系悪性腫瘍を患っているか、または免疫抑制療法由来の好中球減少症を伴うもの、敗血症、とりわけ長期の静脈内または尿道カテーテル処置、侵襲性外科手術手順、および重度の熱傷が理由のもの、心内膜炎、とりわけ患者が静脈内薬物使用者であるもの、または開心術由来の合併症を伴う患者、高度に破壊性の眼感染症、とりわけ汚染された眼科用溶液の使用または重度の顔面熱傷の後、骨軟骨炎、とりわけ重度の外傷または汚染された衣服を通した穿刺創傷の結果としてのもの、の処置および/または予防のための医用薬剤の製造における、本発明による融合タンパク質、および/または、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を含むベクターで形質転換された宿主の使用。
【0076】
本発明の別の特定の態様において、障害、疾患、または状態は、バークホルデリア・シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)によって引き起こされ、とりわけホイットモア病、慢性肺炎、敗血症、とりわけ患者が外傷性皮膚病変を有するものである。
【0077】
本発明の別の特定の態様において、障害、疾患、または状態は、サルモネラ・チフィムリウムおよびサルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)によって引き起こされ、とりわけ急性胃腸炎および局所的化膿性過程、特に骨髄炎、心内膜炎、胆嚢炎、ならびに特にサルモネラ・チフィムリウムによって引き起こされる髄膜炎、とりわけ患者が2歳未満のものである。
【0078】
本発明の別の特定の態様において、障害、疾患、または状態は、サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi)によって引き起こされ、とりわけチフスである。
【0079】
本発明の別の特定の態様において、障害、疾患、または状態は、サルモネラ・パラチフィ(Salmonell paratyphi)によって引き起こされ、とりわけパラチフスである。
【0080】
本発明の別の特定の態様において、障害、疾患、または状態は、アシネトバクター・バウマニによって引き起こされ、とりわけ気管支炎、肺炎、創傷感染症、および敗血症、とりわけ静脈内カテーテル処置の結果としてのものである。
【0081】
本発明の別の特定の態様において、障害、疾患、または状態は、大腸菌によって引き起こされ、とりわけ腸管外感染症、特に虫垂炎、化膿性胆嚢炎、腹膜炎、化膿性髄膜炎、および尿路の感染症、腸内大腸菌感染症、特に流行性腸炎、および赤痢に類似した感染性疾患、敗血症、腸毒血症、乳腺炎、および赤痢である。
【0082】
本発明の別の特定の態様において、障害、疾患、または状態は、クレブシエラ・ニューモニエによって引き起こされ、とりわけ肺炎、菌血症、髄膜炎、および尿路の感染症である。
【0083】
好ましくは、処置(または予防)される感染症が、多耐性細菌株、とりわけ1つまたは複数の以下の抗生物質:ストレプトマイシン、テトラサイクリン、セファロチン、ゲンタマイシン、セフォタキシム、セファロスポリン、セフタジジム、またはイミペネムに対して耐性の株によって引き起こされる場合、本発明による融合タンパク質が医学的処置のために使用される。さらに、本発明による融合タンパク質は、抗生物質、ランチビオティック、バクテリオシン、またはエンドリシンなどの従来の抗細菌剤との組み合わせでそれを投与することによって、処置の方法において使用され得る。
【0084】
本発明はまた、1つまたは複数のコンパートメントを含み、少なくとも1つのコンパートメントが、1つもしくは複数の本発明による融合タンパク質、および/または、1つもしくは複数の、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換された宿主、または本発明による組成物を含む、薬学的パックに関連する。
【0085】
別の局面において、本発明は、1種もしくは複数種の本発明による融合タンパク質、および/または、1種もしくは複数種の、本発明による融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で形質転換された宿主を、薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、または担体と混合する段階を含む、薬学的組成物の調製の工程に関連する。
【0086】
またさらなる局面において、本発明による組成物は、美容用組成物である。いくつかの細菌種は、皮膚などの患者の身体の、環境に曝露された表面上に刺激を引き起こし得る。そのような刺激を予防するため、または細菌性病原体の軽微な症状発現を排除するために、既に存在するか、または新しく定着する病原性グラム陰性細菌を分解するのに十分な量の本発明による融合タンパク質を含む、特別な美容用調製物が利用されてもよい。
【0087】
さらなる局面において、本発明は、医薬、食品、もしくは飼料における診断手段、または環境診断法として、とりわけ、グラム陰性細菌によってとりわけ引き起こされる細菌感染症の診断のための診断手段としての使用のための、本発明による融合タンパク質に関連する。この点において、本発明による融合タンパク質は、病原性細菌、とりわけグラム陰性病原性細菌を特異的に分解するための手段として使用されてもよい。本発明による融合タンパク質による細菌細胞の分解は、Triton X-100のような界面活性剤、またはポリミキシンBのような細菌細胞のエンベロープを弱める他の添加物の添加によって支持され得る。PCR、核酸ハイブリダイゼーション、もしくはNASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)のような核酸ベースの方法、IMS、免疫蛍光法、もしくはELISA技術のような免疫学的方法、または、別個の細菌群もしくは種に特異的なタンパク質(例えば、腸内細菌についてβ-ガラクトシダーゼ、コアグラーゼ陽性株についてコアグラーゼ)を使用する酵素学的アッセイのような細菌細胞の細胞内容物に依拠する他の方法を使用する、その後の細菌の特異的な検出のための初期段階として、特異的な細胞分解が必要とされる。
【0088】
さらなる局面において、本発明は、食材の、食品加工器具の、食品加工設備の、棚および食品貯蔵領域などの食材と接触する表面の、ならびに、病原性細菌、通性病原性細菌、または他の望ましくない細菌が潜在的に食品材料に外寄生し得るすべての他の状況における、医療装置の、ならびに、病院および手術室におけるすべての種類の表面の、グラム陰性細菌汚染の処置、除去、減少、または予防のための、本発明による融合タンパク質の使用に関連する。
【0089】
とりわけ、本発明の融合タンパク質は、消毒剤として予防的に使用されてもよい。消毒剤は、手術の前もしくは後、または例えば血液透析の間に使用されてもよい。さらに、未熟児および易感染性の人、または補綴装置を必要とする対象が、本発明による融合タンパク質で処置されてもよい。処置は、予防的、または急性感染症の間のいずれかであってもよい。同一の文脈において、特に、シュードモナス・エルギノーサ(FQRP)、アシネトバクター属の種、ならびに、大腸菌、サルモネラ属、シゲラ属、シトロバクター属、エドワードシエラ属、エンテロバクター属、ハフニア属、クレブシエラ属、モルガネラ属、プロテウス属、プロビデンシア属、セラチア属、およびエルシニア属などの腸内細菌科の種のような抗生物質耐性株による院内感染症が、予防的にまたは急性期の間に、本発明の融合タンパク質で処置されてもよい。従って、本発明による融合タンパク質は、界面活性剤、テンシド、溶媒、抗生物質、ランチビオティック、またはバクテリオシンのような殺菌溶液において有用である、他の成分との組み合わせでもまた、殺菌剤として使用されてもよい。
【0090】
例えば、病院、歯科手術、獣医学、厨房、または浴室における殺菌剤としての本発明による融合タンパク質の使用のために、融合タンパク質は、例えば、液体、粉末、ゲル、または、ウェットワイプもしくは殺菌シート製品の成分の形態で組成物において調製され得る。組成物は追加的に、それぞれの使用および形態のために適当な担体、添加物、希釈剤、および/または賦形剤を含んでもよいが、EDTAのような抗微生物活性を支持する剤、または融合タンパク質の抗微生物活性を増強する剤もまた含んでもよい。融合タンパク質はまた、アルコール、アルデヒド、酸化剤、フェノール類、四級アンモニウム化合物、またはUV光のような、一般的な殺菌剤と共に使用されてもよい。例えば、表面、対象、および/または装置を殺菌するために、融合タンパク質は、該表面、対象、および/または装置に適用され得る。適用は、例えば、布地または布切れなどの任意の手段で殺菌組成物を湿らせることによって、噴霧すること、注ぐことによって起こってもよい。融合タンパク質は、それぞれの適用、および完全な抗微生物活性を得るように意図される「反応時間」に依存して変動する濃度において、使用されてもよい。
【0091】
本発明の別の局面は、本発明が道具箱のように使用され得ることであり、すなわち、上記で開示された任意のペプチドストレッチは、本明細書において開示される任意のエンドリシン、オートリシン、またはバクテリオシンに融合されてもよい。従って、それぞれの細菌への融合タンパク質の結合を可能にするそれぞれのペプチドストレッチと、それぞれの細菌の増殖を阻害するエンドリシン、オートリシン、またはバクテリオシンとを組み合わせることが可能である。結果的に、排除されるべき任意の細菌について適当な融合タンパク質を構築することが可能である。
【0092】
本発明の適用性のさらなる範囲は、本明細書において以下に提供される詳細な説明から明らかになると考えられるが、本発明の趣旨および範囲内の種々の変化および改変が、この詳細な説明から当業者に明らかになると考えられるため、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい態様を示すが、例証のみのために提供されることが理解されるべきである。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、両方とも例示的かつ説明的であるのみであり、ならびに、特許請求される本発明を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0093】
以下の実施例は、本発明を説明するが、限定的であるとはみなされない。異なるように指示されない限り、例えば、Sambrock et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載されているような分子生物学の標準的な方法が使用された。
【実施例】
【0094】
実施例1.両親媒性ペプチドで改変されたgp144およびgp188のクローニング、発現、および精製
原理の証明として、外膜を通してgp144およびgp188を導く両親媒性ペプチドのLPS破壊活性、ならびに結果として生じるグラム陰性細菌に対する抗細菌活性の可能性を示す。gp144およびgp188は、N末端ペプチドグリカン結合ドメインおよびC末端触媒ドメインを有する、シュードモナス・エルギノーサファージΦKZおよびELに由来するモジュラーエンドリシンである(Briers et al., 2007)。
【0095】
gp144またはgp188をコードするオープンリーディングフレームの5'端を、T4リゾチームの両親媒性α4ヘリックス(aa 143-155: Pro-Asn-Arg-Ala-Lys-Arg-Val-Ile-Thr-Thr-Phe-Arg-Thr、SEQ ID NO: 92記載)をコードする遺伝子断片で伸長させるため、伸長5'プライマーおよび標準3'プライマーでのテールPCRを適用した。PCR産物を、pEXP5CT/TOPO(登録商標)発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)にクローニングした。
【0096】
すべての構築物の発現を、大腸菌BL21(DE3)pLysS細胞において行った。すべてのタンパク質を、C末端6×His-タグを使用してNi2+親和性クロマトグラフィーによって精製した。異なる精製についての収量を表4に示す。注目すべきことに、KZ144と対照的に、α4-KZ144の産生は宿主にとって毒性でなく、有意に、より高い収量をもたらした。
【0097】
精製された保存溶液は約90%の純度であった。すべてのgp144誘導体は、β-メルカプトエタノールの添加によって単量体に変換され得る多量体形成を示し、分子間ジスルフィド結合が多量体化を引き起こすことを示した。
【0098】
(表4)両親媒性ペプチドで改変されたエンドリシンの組み換え精製の収量

大腸菌発現培養液1リットル当たりの、精製された組み換えタンパク質の総収量を示す。この値は、タンパク質濃度の分光光度的測定および精製された保存溶液の総容量によって測定した。高純度を保証するために、gp188誘導体の精製は、gp144誘導体(50mMイミダゾール)と比較して、よりストリンジェントな条件(65 mMイミダゾール)の下で行った。
【0099】
両親媒性ペプチドで改変されたgp144およびgp188の特徴決定
1.A. 両親媒性ペプチドで改変されたgp144およびgp188の酵素活性
gp144またはgp188の酵素活性に対する改変の影響を評価するため、クロロホルムで透過処理したシュードモナス・エルギノーサ細胞について変異体の比活性を測定し、対応する改変されていないエンドリシンと比較した。対応する飽和曲線を測定するため、様々な徐々に増加する量のすべての改変されたエンドリシンを試験した。この曲線の直線領域の直線回帰の勾配が、比活性についての尺度であり、改変されていないgp144またはgp188の勾配に相対的に表した(表5)。
【0100】
(表5)両親媒性ペプチドで改変されたgp144またはgp188の酵素活性

異なる変異体の比酵素活性を測定し、同時に試験した対応する元のエンドリシンの比活性(=100%)と相対的に表した。アッセイの緩衝液条件は、対応するエンドリシンの最適条件であった(gp144およびgp188について、それぞれKH2PO4/K2HPO4 I = 120 mM pH 6.2およびI = 80 mM pH 7.3)。
【0101】
1.B. 両親媒性ペプチドで改変されたgp144およびgp188の抗細菌活性
対数期のP.エルギノーサPAO1細胞(約106/ml)を、改変されていないgp144/gp188および改変されたgp144/gp188と共に室温でインキュベーションした。1時間後、細胞懸濁液を希釈してプレーティングした。一晩インキュベーション後、残留コロニーを計数した(表6)。改変されていないgp144 gp188は、陰性対照と比較して細胞数を有意に減少させない。この観察は、障壁としての外膜の効力を例証する。両親媒性α4-ヘリックスを伴う融合タンパク質は、α4-KZ144およびα4-EL188について、それぞれ50±11および34±11%、対数期の細胞を不活性化する。100倍高い密度を有する定常期の細胞を使用する際、これらの値は同様である(それぞれ、35±18および32±17%)。異なる反復実験間の幾分高い変動性にもかかわらず、これらの値は処置されていない細胞とは有意に異なる(α=0.05)。一般に、改変されたgp144誘導体は、gp188誘導体よりも高い抗細菌活性を有する傾向がある。
【0102】
(表6)エンドリシンgp144およびgp188ならびにそれらの誘導体の抗細菌効果

対数増殖期のP.エルギノーサPAO1細胞を100×希釈し、10μgの透析していないタンパク質(最終濃度100μg/ml、緩衝液:20 mM NaH2PO4-NaOH pH7.4; 0.5 M NaCl; 0.5 Mイミダゾール)と共に1時間室温でインキュベーションした(最終密度は約106/mlであった)。アリコートを希釈してプレーティングする。抗細菌活性を、相対的不活性化(%)(=100-(Ni/N0)100、N0=処置されていない細胞の数、およびNi=処置された細胞の数)として、ならびに対数単位(=log10N0/Ni)において表す。すべての試料を6重に反復実験した。平均値/標準偏差を示す。統計解析はスチューデントのt検定を使用して行った。
【0103】
実施例2.疎水性ペプチドで改変されたgp144およびgp188のクローニング、発現、および精製
原理の証明として、外膜を通してgp144およびgp188を導く疎水性ペンタペプチドのLPS破壊活性、ならびに結果として生じるグラム陰性細菌に対する抗細菌活性の可能性を示す。gp144およびgp188は、N末端ペプチドグリカン結合ドメインおよびC末端触媒ドメインを有する、シュードモナス・エルギノーサファージΦKZおよびELに由来するモジュラーエンドリシンである(Briers et al., 2007)。
【0104】
gp144またはgp188をコードするオープンリーディングフレームの5'端を、5個の疎水性残基(Phe-Phe-Val-Ala-Pro)をコードする遺伝子断片で伸長させるため、伸長5'プライマーおよび標準3'プライマーでのテールPCRを適用した。PCR産物を、pEXP5CT/TOPO(登録商標)発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)にクローニングした。
【0105】
すべての構築物の発現を、大腸菌BL21(DE3)pLysS細胞において行った。すべてのタンパク質を、C末端6×His-タグを使用してNi2+親和性クロマトグラフィーによって精製した。異なる精製についての収量を表7に示す。
【0106】
精製された保存溶液は約90%の純度であった。すべてのgp144誘導体は、β-メルカプトエタノールの添加によって単量体に変換され得る多量体形成を示し、分子間ジスルフィド結合が多量体化を引き起こすことを示した。
【0107】
(表7)エンドリシン誘導体の組み換え精製の収量

大腸菌発現培養液1リットル当たりの、精製された組み換えタンパク質の総収量を示す。この値は、タンパク質濃度の分光光度的測定および精製された保存溶液の総容量によって測定した。高純度を保証するために、gp188誘導体の精製は、gp144誘導体(50mMイミダゾール)と比較して、よりストリンジェントな条件(65 mMイミダゾール)の下で行った。
【0108】
疎水性ペンタペプチドで改変されたgp144およびgp188の特徴決定
2.A. 疎水性ペンタペプチドで改変されたgp144およびgp188の酵素活性
gp144またはgp188の酵素活性に対する改変の影響を評価するため、クロロホルムで透過処理したシュードモナス・エルギノーサ細胞について変異体の比活性を測定し、対応する改変されていないエンドリシンと比較した。対応する飽和曲線を測定するため、様々な徐々に増加する量のすべての改変されたエンドリシンを試験した。この曲線の直線領域の直線回帰の勾配が、比活性についての尺度であり、改変されていないgp144またはgp188の勾配に相対的に表した(表8)。
【0109】
(表8)疎水性ペプチドで改変されたgp144またはgp188の酵素活性

異なる変異体の比酵素活性を測定し、同時に試験した対応する元のエンドリシンの比活性(=100%)と相対的に表した。アッセイの緩衝液条件は、対応するエンドリシンの最適条件であった(gp144およびgp188について、それぞれKH2PO4/K2HPO4 I = 120 mM pH 6.2およびI = 80 mM pH 7.3)。
【0110】
2.B. 疎水性ペンタペプチドで改変されたgp144およびgp188の抗細菌活性
対数期のP.エルギノーサPAO1細胞(約106/ml)を、改変されていないgp144/gp188および改変されたgp144/gp188と共に室温でインキュベーションした。1時間後、細胞懸濁液を希釈してプレーティングした。一晩インキュベーション後、残留コロニーを計数した(表9)。改変されていないgp144 gp188は、陰性対照と比較して細胞数を有意に減少させない。この観察は、障壁としての外膜の効力を例証する。疎水性ペンタペプチド融合タンパク質とのインキュベーションは、細菌細胞数の有意な減少(α=0.05)を引き起こす(改変されたgp144およびgp188について、それぞれ83±7および69±21%)。一般に、改変されたgp144誘導体は、gp188誘導体よりも高い抗細菌活性を有する傾向がある。
【0111】
(表9)エンドリシンgp144およびgp188ならびにそれらの誘導体の抗細菌効果

対数増殖期のP.エルギノーサPAO1細胞を100×希釈し、10μgの透析していないタンパク質(最終濃度100μg/ml、緩衝液:20 mM NaH2PO4-NaOH pH7.4; 0.5 M NaCl; 0.5 Mイミダゾール)と共に1時間室温でインキュベーションした(最終密度は約106/mlであった)。アリコートを希釈してプレーティングする。抗細菌活性を、相対的不活性化(%)(=100-(Ni/N0)100、N0=処置されていない細胞の数、およびNi=処置された細胞の数)として、ならびに対数単位(=log10N0/Ni)において表す。すべての試料を6重に反復実験した。平均値/標準偏差を示す。統計解析はスチューデントのt検定を使用して行った。
【0112】
実施例3:エンドリシンのN末端を種々のペプチドストレッチで改変されたKZ144およびSTM0016のクローニング、発現、および精製
SEQ ID NO: 25記載のKZ144は、N末端ペプチドグリカン結合ドメインおよびC末端触媒ドメインを有する、シュードモナス・エルギノーサのファージΦKZに由来するモジュラーエンドリシンである(Briers et al., 2007)。エンドリシンKZ144は、SEQ ID NO: 64記載の核酸分子によってコードされる。SEQ ID NO: 64記載の核酸分子を、核酸分子の5'端にBamH I (5'-GGA TCC-3')制限部位を、および核酸分子の3'端にXho I (5'-CTC GAG-3')制限部位を伴って合成的に産生した。
【0113】
STM0016は、大腸菌ファージN4エンドリシンN4-gp61に相同性を有する仮定上のタンパク質である。エンドリシンSTM0016は、SEQ ID NO: 65記載の核酸分子によってコードされる。SEQ ID NO: 65記載の核酸分子を、核酸分子の5'端にBamH I (5'-GGA TCC-3')制限部位を、および核酸分子の3'端にXho I (5'-CTC GAG-3')制限部位を伴って合成的に産生した。
【0114】
N4-gp61は、大腸菌N4ファージエンドリシンである。エンドリシンは、SEQ ID NO: 91記載の核酸によってコードされる。SEQ ID NO: 91記載の核酸分子を、核酸分子の5'端にBamH I (5'-GGA TCC-3')制限部位を、および核酸分子の3'端にXho I (5'-CTC GAG-3')制限部位を伴って合成的に産生した。
【0115】
表10における以下のペプチドストレッチを、エンドリシンKZ144またはSTM0016との融合タンパク質の産生に使用した。
【0116】
(表10)

【0117】
それぞれのペプチドストレッチをコードする核酸分子は、スシ1ペプチドをコードする核酸分子を除き、核酸分子の5'端にNde I (5'-CAT ATG-3')制限部位を、および核酸分子の3'端にBamH I (5'-GGA TCC-3')制限部位を伴って合成的に産生し、スシ1ペプチドをコードする核酸分子は、核酸分子の5'端にNco I制限部位に加えて2個の追加的なヌクレオチド (5'-CCA TGG GC-3')を伴って産生した。
【0118】
融合タンパク質は、例えば、Sambrook et al. 2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manualに記載されているような標準的なクローニング技術を使用して、少なくとも2つの核酸配列を連結することによって構築される。従って、ペプチドストレッチをコードする核酸分子を、それぞれの制限酵素Nde IおよびBamH Iでの消化において切断し、ならびにペプチドストレッチスシ1をコードする核酸分子の場合は、消化を制限酵素Nco IおよびBamH Iで行った。続いて、ペプチドストレッチをコードする切断した核酸を、それ以前にそれぞれの制限酵素Nde IおよびBamH Iでの消化において同様に切断したpET21 b発現ベクター(Novagen, Darmstadt, Germany)中にライゲーションした。ペプチドストレッチスシ1をコードする切断した核酸分子は、それ以前にそれぞれの制限酵素Nco IおよびBamH Iでの消化において同様に切断した、改変されたpET32 b発現ベクター(改変されていないベクターをNovagen, Darmstadt, Germanyから取得可能)中にライゲーションした。pET32b発現ベクターの改変とは、S-タグおよび中央のHis-タグをコードする配列の欠失を指す。
【0119】
その後、エンドリシンKZ144をコードする核酸分子を、制限酵素BamH IおよびXho Iでの消化において切断し、それ以前にそれぞれの制限酵素BamH IおよびXho Iでの消化において同様に切断した、pET21b発現ベクター(Novagen, Darmstadt, Germany)および改変されたpET32 b発現ベクター中に、エンドリシンがそれぞれライゲーションされ得るようにした。エンドリシンSTM0016をコードする核酸分子およびエンドリシンN4gp61をコードする核酸分子は、制限酵素BamH IおよびXho Iでの消化において切断し、pET21b発現ベクター(Novagen, Darmstadt, Germany)中にそれぞれのエンドリシンがライゲーションされ得るようにした。
【0120】
こうして、ペプチドストレッチをコードする核酸分子を、エンドリシンKZ144またはSTM0016をコードする核酸分子の5'端に、それぞれのベクター中にライゲーションする。さらに、エンドリシンKZ144またはSTM0016をコードする核酸分子をそれぞれのプラスミド中にライゲーションし、6個のヒスチジン残基からなるHis-タグをコードする核酸分子がエンドリシンをコードする核酸分子の3'端に結合するようにする。
【0121】
いくつかの融合タンパク質は、細菌における発現時に毒性であるか、またはタンパク質分解のために均質でないかのいずれかである可能性があるため、これらの融合タンパク質を他の追加的なタンパク質に融合または連結させて発現する戦略があり得る。これらの他の追加的なタンパク質の例は、大腸菌において毒性抗微生物ペプチドの発現を媒介することが示されたチオレドキシンである(TrxA mediating fusion expression of antimicrobial peptide CM4 from multiple joined genes in Escherichia coli. Zhou L, Zhao Z, Li B, Cai Y, Zhang S. Protein Expr Purif. 2009 Apr;64(2):225-230)。N末端のスシ1ペプチドおよびエンドリシンKZ144からなる融合タンパク質の場合は、スシ1ペプチドを改変されたpET32 b発現ベクター中にライゲーションし、追加的なチオレドキシンがスシ1ペプチドの5'端に結合するようにする。チオレドキシンはエンテロキナーゼの使用によって発現させた融合タンパク質から除去することができ、従って、スシペプチドをコードする核酸分子とチオレドキシンをコードする核酸分子との間にエンテロキナーゼ制限部位が導入される。
【0122】
エンドリシン-ペプチド-融合物の配列はDNA塩基配列決定によって制御し、タンパク質発現のために正確なクローンを大腸菌BL21(DE3)(Novagen, Darmstadt, Germany)中に形質転換した。
【0123】
SEQ ID NO: 77〜90記載の融合タンパク質の組み換え発現は、大腸菌BL21 (DE3) pLysSおよび大腸菌BL21 (DE3)細胞(Novagen, Darmstadt, Germany)において行う。0.5〜0.8のOD600nmの光学密度に達するまで細胞を増殖させた。その後、融合タンパク質の発現を1 mM IPTG(イソプロピルチオガラクトシド)で誘導し、発現を37℃で4時間の間行った。
【0124】
大腸菌BL21細胞を20分間、6000gでの遠心分離によって収集し、氷上での超音波処理によって破壊した。大腸菌粗製抽出物の可溶性および不溶性分画を遠心分離(Sorvall, SS34, 30分, 15 000 rpm)によって分離した。すべてのタンパク質を、pET21bまたはpET32bベクターにコードされるC末端6×His-タグを使用して、Ni2+親和性クロマトグラフィー(Akta FPLC, GE Healthcare)によって精製した。
【0125】
上述したように、融合タンパク質のいくつかは、関心対象のタンパク質のN末端にチオレドキシンを融合する、改変されたpET32bベクター(S-タグおよび中央のHis-タグを欠失したもの)を使用して発現させた。ベクターはまた、関心対象のタンパク質の直前にエンテロキナーゼ切断部位を含有する。この部位は、チオレドキシンと関心対象のタンパク質との間のタンパク質分解性切断を可能にし、関心対象のタンパク質は残存するC末端のHis-タグによって精製することができる。融合タンパク質スシ1-KZ144の抗微生物機能のために、タンパク質分解性切断によってチオレドキシンを除去することが必要である可能性がある。従って、製造業者によって提供されるプロトコルに従い、チオレドキシンを除去するために2〜4単位/mg組み換えエンテロキナーゼ(Novagen, Darmstadt, Germany)で融合タンパク質を切断した。エンテロキナーゼ切断の後、下述するように、His-タグ精製によって融合タンパク質を精製した。
【0126】
Ni2+親和性クロマトグラフィーを、すべて室温で、4つの次の段階において行う:
1.3〜5 ml/分の流速での、10カラム容量までの洗浄緩衝液(20 mMイミダゾール、1 M NaCl、および20 mM Hepes、pH7.4)でのHistrap FF 5 mlカラム(GE Healthcare)の平衡化。
2.3〜5 ml/分の流速での、Histrap FF 5 mlカラムへの全溶解物(求められる融合タンパク質を含む)のローディング。
3.3〜5 ml/分の流速での、結合していない試料を除去するための10カラム容量までの洗浄緩衝液でのカラムの洗浄、続いて10%溶出緩衝液(500 mMイミダゾール、0.5 M NaCl、および20 mM Hepes、pH7.4)での第2の洗浄段階。
4.3〜5 ml/分の流速での、4カラム容量の溶出緩衝液(500 mMイミダゾール、0.5 M NaCl、および20 mM Hepes、pH7.4)の100%への直線勾配での、結合した融合タンパク質のカラムからの溶出。
【0127】
溶出緩衝液(20 mM Hepes pH 7.4; 0.5 M NaCl; 500 mM イミダゾール)中の融合タンパク質の精製された保存溶液は、SDS-PAGEゲル上で視覚的に判定した際、少なくとも90%の純度であった(データは示していない)。
【0128】
実施例4:N末端を種々のペプチドストレッチで改変されたエンドリシンKZ144の抗微生物活性
KZ144およびペプチドストレッチα4ヘリックスからなる融合タンパク質を、実施例1において記載したように構築した。KZ144およびそれぞれのペプチドストレッチからなる他の融合タンパク質を、実施例3において記載したように構築した。
【0129】
大腸菌DSMZ 11753、アシネトバクター・バウマニDSMZ 30007、およびシュードモナス・エルギノーサPAO1p細胞(熱傷創傷単離株、Queen Astrid Hospital, Brussels; Pirnay JP et al. (2003), J Clin Microbiol., 41(3):1192-1202)を、試験株として使用した。一晩培養液を新鮮なLB培地において10倍希釈し、OD600=0.6まで増殖させた。培養液を遠心沈澱させ、希釈緩衝液(10 mM HEPES, 0.5 mM EDTA; pH 7.4)において10倍希釈した。緩衝液(20 mM NaH2PO4-NaOH pH7.4; 0.5 M NaCl; 0.5 Mイミダゾール)において100μg/mlの最終濃度の、各々10μgの透析していない融合タンパク質と共に、細菌を室温でインキュベーションした。1時間後、細胞希釈系列をPBSにおいて作製し、LB上にプレーティングした。加えて、緩衝液(20 mM NaH2PO4-NaOH pH7.4; 0.5 M NaCl; 0.5 Mイミダゾール)を使用して、陰性対照をプレーティングした。37℃で一晩インキュベーション後、残留コロニーを計数した。計数した細胞数に基づいて、対数単位(=log10N0/Ni、N0=処置されていない細胞の数、およびNi=処置された細胞の数)として抗細菌活性を計算した(表11)。すべての試料を少なくとも4重に反復実験した。
【0130】
これらの融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0131】
(表11)種々のペプチドストレッチで改変されたKZ144のグラム陰性細菌に対する抗微生物活性

略語:±<1 log;+:1 log;++:2〜3 log;+++:4またはそれ以上のlog;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。
【0132】
実施例5:N末端を種々のペプチドストレッチで改変されたエンドリシンSTM0016の抗微生物活性
STM0016およびペプチドストレッチザルコトキシンIAまたはSMAP-29からなる融合タンパク質を、実施例3において記載したように構築した。
【0133】
大腸菌DSMZ 11753、サルモネラ・チフィムリウムDSMZ 17058、およびシュードモナス・エルギノーサPAO1p細胞(熱傷創傷単離株、Queen Astrid Hospital, Brussels; Pirnay JP et al. (2003), J Clin Microbiol., 41(3):1192-1202)を、試験株として使用した。エンドリシンSTM0016およびペプチドザルコトキシンIAまたはSMAP-29からなる融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。これらの融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0134】
(表12)

略語:+:1 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。
【0135】
実施例6:N末端をペプチドストレッチで改変されたエンドリシンN4gp61の抗微生物活性
N4gp61およびペプチドストレッチSMAP-29からなる融合タンパク質を、実施例3において記載したように構築した。
【0136】
大腸菌DSMZ 11753、サルモネラ・チフィムリウムDSMZ 17058、およびシュードモナス・エルギノーサPAO1p細胞(熱傷創傷単離株、Queen Astrid Hospital, Brussels; Pirnay JP et al. (2003), J Clin Microbiol., 41(3):1192-1202)を、試験株として使用した。エンドリシンN4gp61およびペプチドSMAP-29からなる融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。この融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0137】
(表13)

略語:+:1 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。
【0138】
実施例7:N末端をペプチドストレッチで改変されたエンドリシンgp188の抗微生物活性
エンドリシンgp188およびペプチドストレッチα4ヘリックス、SMAP-29、またはザルコトキシンIAからなる融合タンパク質を、実施例1において記載したように構築した。大腸菌DSMZ 11753、アシネトバクター・バウマニDSMZ 30007、およびシュードモナス・エルギノーサPAO1p細胞(熱傷創傷単離株、Queen Astrid Hospital, Brussels; Pirnay JP et al. (2003), J Clin Microbiol., 41(3):1192-1202)を、試験株として使用した。エンドリシンgp188およびそれぞれのペプチドストレッチからなる融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。これらの融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0139】
(表14)

略語:±<1 log;+:1 log;++:2〜3 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。
【0140】
実施例8:N末端をペプチドストレッチSMAP-29で改変されたサルモネラ属エンドリシンの抗微生物活性
SEQ ID NO: 3記載のアミノ酸配列を有するサルモネラ属エンドリシンおよびペプチドストレッチSMAP-29からなる融合タンパク質を、実施例3と同様に構築した。大腸菌DSMZ 11753およびサルモネラ・チフィムリウムDSMZ 17058を、試験株として使用した。融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。この融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0141】
(表15)

略語:+:1 log;
【0142】
実施例9:N末端を種々のペプチドストレッチで改変されたアシネトバクター・バウマニエンドリシンの抗微生物活性
SEQ ID NO: 5記載のアミノ酸配列を有するアシネトバクター・バウマニ エンドリシン、ならびにペプチドストレッチSMAP-29、シュージン1、およびスシ1からなる融合タンパク質を、実施例3と同様に構築した。アシネトバクター・バウマニDSMZ 30007およびシュードモナス・エルギノーサPAO1p細胞(熱傷創傷単離株、Queen Astrid Hospital, Brussels; Pirnay JP et al. (2003), J Clin Microbiol., 41(3):1192-1202)を、試験株として使用した。融合タンパク質の抗微生物活性を、実施例4において記載したように検討した。これらの融合タンパク質の抗微生物活性を以下の表に示す。
【0143】
(表16)

略語:±<1 log;+:1 log;++:2〜3 log;n.d.は、この株をそれぞれの融合タンパク質で試験しなかったことを意味する。
【0144】
いずれのタグおよびリンカーも有さない表11〜16における融合タンパク質もまた、上述した活性アッセイで試験した。それらはすべて、使用した細菌株に対して抗微生物活性を示した(データは示していない)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラム陰性細菌の細胞壁を分解する活性を有する酵素、および、該酵素のN末端もしくはC末端、または両方の末端において融合されるペプチドストレッチから構成される融合タンパク質であって、該ペプチドストレッチが、両親媒性ペプチド、スシ(sushi)ペプチド、デフェンシン、疎水性ペプチド、または抗微生物ペプチドである、融合タンパク質。
【請求項2】
SEQ ID NO: 63〜90記載のアミノ酸配列を呈する、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項3】
N末端に追加的なアミノ酸残基を呈する、請求項1または2記載の融合タンパク質。
【請求項4】
C末端および/またはN末端にタグまたは追加的なタンパク質を含む、前記請求項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項5】
タグまたは追加的なタンパク質が、1つまたは複数の追加的なアミノ酸残基によって融合タンパク質に連結されている、請求項4記載の融合タンパク質。
【請求項6】
ペプチドストレッチが、1つまたは複数の追加的なアミノ酸残基によって融合タンパク質に連結されている、前記請求項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項7】
酵素が、エンドリシン、オートリシン、またはバクテリオシンである、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項8】
酵素が、SEQ ID NO: 22〜25記載のアミノ酸配列を呈する、請求項7記載の融合タンパク質。
【請求項9】
抗微生物ペプチドが、SEQ ID NO: 6〜16または26〜31記載のアミノ酸配列を呈する、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項10】
スシペプチドが、SEQ ID NO: 32記載のアミノ酸配列を呈する、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項11】
疎水性ペプチドが、SEQ ID NO: 28、33、または35記載のアミノ酸配列を呈する、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項12】
グラム陰性細菌が、
腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、
とりわけエシェリキア属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、シゲラ属(Shigella)、シトロバクター属(Citrobacter)、エドワードシエラ属(Edwardsiella)、エンテロバクター属(Enterobacter)、ハフニア属(Hafnia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、モルガネラ属(Morganella)、プロテウス属(Proteus)、プロビデンシア属(Providencia)、セラチア属(Serratia)、およびエルシニア属(Yersinia)、
シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、
とりわけシュードモナス属(Pseudomonas)、バークホルデリア属(Burkholderia)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas)、シェワネラ属(Shewanella)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)およびコマモナス属(Comamonas)、
ナイセリア属(Neisseria)、モラクセラ属(Moraxella)、ビブリオ属(Vibrio)、アエロモナス属(Aeromonas)、ブルセラ属(Brucella)、フランシセラ属(Francisella)、ボルデテラ属(Bordetella)、レジオネラ属(Legionella)、バルトネラ属(Bartonella)、コクシエラ属(Coxiella)、ヘモフィルス属(Haemophilus)、パスツレラ属(Pasteurella)、マンヘミア属(Mannheimia)、アクチノバチルス属(Actinobacillus)、ガードネレラ属(Gardnerella)、
スピロヘータ科(Spirochaetaceae)、
とりわけトレポネーマ属(Treponema)およびボレリア属(Borrelia)、
レプトスピラ科(Leptospiraceae)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、スピリルム属(Spirillum)、ストレプトバチルス属(Streptobacillus)、
バクテロイデス科(Bacteroidaceae)、
とりわけバクテロイデス属(Bacteroides)、フゾバクテリウム属(Fusobacterium)、プレボテラ属(Prevotella)およびポルフィロモナス属(Porphyromonas)、ならびに
アシネトバクター属(Acinetobacter)、
とりわけA. バウマニ(A. baumanii)
からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項13】
両親媒性ペプチドが、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、アラニン、チロシン、ヒスチジン、スレオニン、セリン、プロリン、およびグリシン残基からなる群より選択される少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基と組み合わせて、リジン、アルギニン、およびヒスチジン残基からなる群より選択される少なくとも1つの正に荷電したアミノ酸残基を含む、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項14】
両親媒性ペプチドにおけるアミノ酸残基の少なくとも約70%が、アルギニンまたはリジン残基のいずれかであり、かつ該両親媒性ペプチドにおける該アミノ酸残基の少なくとも約30%が、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、アラニン、チロシン、ヒスチジン、スレオニン、セリン、プロリン、またはグリシン残基である、請求項1記載の融合タンパク質。
【請求項15】
ペプチドストレッチが、約5〜約100個のアミノ酸残基、とりわけ約5〜50個のアミノ酸残基、とりわけ約5〜30個のアミノ酸残基を含む、前記請求項のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項記載の融合タンパク質をコードする、単離された核酸分子。
【請求項17】
請求項16記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項18】
請求項16記載の核酸分子、または請求項17記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項19】
細菌細胞または酵母細胞である、請求項18記載の宿主細胞。
【請求項20】
医用薬剤、診断手段、または美容用物質としての使用のための、請求項1〜15のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項21】
グラム陰性細菌感染症の処置または予防用の医用薬剤としての使用のための、請求項1〜15のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項22】
殺菌剤としての使用のための、請求項1〜15のいずれか一項記載の融合タンパク質。
【請求項23】
食材の、食品加工器具の、食品加工設備の、食材と接触する表面の、医療装置の、病院および手術室における表面の、グラム陰性細菌汚染の処置または予防のための、請求項1〜15のいずれか一項記載の融合タンパク質の使用。
【請求項24】
医薬、食品、もしくは飼料における診断手段、または環境診断法としての、請求項1〜15のいずれか一項記載の融合タンパク質の使用。
【請求項25】
請求項1〜15のいずれか一項記載の融合タンパク質を含む、薬学的組成物。

【公表番号】特表2012−530509(P2012−530509A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516776(P2012−516776)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059146
【国際公開番号】WO2010/149792
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511051351)カトリック ユニバーシテイト ルーベン ケイ.ユー. ルーベン アール アンド ディー (4)
【出願人】(511311864)ライサンド アクツィエンゲゼルシャフト (3)
【Fターム(参考)】