説明

抗微生物組成物

本発明は、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む抗微生物組成物に関する。本発明はまた、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む抗微生物ポリマー組成物、並びに該組成物を調製する方法にも関する。本発明はまた、針葉樹の樹脂酸の誘導体の抗微生物剤としての使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む抗微生物組成物に関する。本発明はまた、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む抗微生物ポリマー組成物にも関する。本発明はさらに、針葉樹の樹脂酸の誘導体の抗微生物剤としての使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
数世紀にも亘って、タールは、ボート及び船舶の船体底部及び甲板構造物を保護するために使用されてきた。後に、船舶及びボートの底部のフジツボの増殖が、重金属を含有する物質から生成された防汚塗料の使用によって防止されるようになった。しかしながら、現在では、防汚塗料は、環境に有害であると見なされているため、禁止されているか、又は間もなく禁止される。ボート及び船舶の底部のフジツボは、船舶の動きを妨げるため、コスト及び環境負荷を増大させる。EUは、タールが燃やされるとき、及びタールが生成されるときに発生する発癌性物質のためにタールの使用も制限した。
【0003】
様々な表面、例えば、壁、床、カウンターなどの微生物の増殖、特にカビ及びフジツボの増殖の防止には問題があるため、様々な保護剤及び方法を開発する試みがなされている。可能な限り環境に安全なコーティング、保護塗料、及び材料の大きな需用が存在する。以前は、このような増殖の防止は、例えば、様々な殺生剤、例えば、銀、すず、鉛、及び銅化合物、4原子化合物(quaternary polyatomic compound)、ハロゲン化物、例えば、様々な塩素化合物及び臭素化合物、抗生物質、照射、例えば、紫外線照射又は放射線照射、及び酸化によって行われていた。
【0004】
保護する必要がある多種多様な表面材料が存在する。様々な物体及び表面は、例えば、木材、プラスチック、鋼、金属、岩、ガラス、セラミック材料から形成することができる。
【0005】
広く使用されている材料はプラスチックである。プラスチックは、外部と接触する、従って微生物(micro-organism)及び微生物(microbe)と接触する様々な表面構造を形成するために使用される。プラスチック表面は、微生物(micro-organism)及び微生物(microbe)の増殖の潜在的な生息環境を提供する。プラスチック表面上の微生物(micro-organism)及び微生物(microbe)の増殖は、潜在的な保有部(免疫学的保有部;微生物膜)を形成し、様々な人及び動物が、同じ物体若しくは表面に触れる、又は操作する場所では、微生物が人から人へ移動するリスクを引き起こす。様々な材料、例えば、プラスチックの表面上の微生物(micro-organism)及び微生物(microbe)からなる生物膜は、材料の表面を破壊する、又は損傷する恐れもある。従って、プラスチックの表面及び平面の衛生及び滅菌が、現在広く研究されている。これは、例えば、営業中の劇場、病院、及び食品産業におけるプラスチックから形成された空間、並びに空間における様々なコーティング、例えば、床のコーティング、カウンター、プラスチックアイテムなどに関連する。
【0006】
抗微生物組成物に対して特に高い安全性が要求される保護すべき特殊な表面は、人間又は動物の皮膚である。健康に有害な物質は、このような組成物には利用するべきではないことは明白である。しかしながら、皮膚刺激性又は健康に有害と分類される物質を抗微生物活性剤として含む製品、例えば、手消毒剤が市販されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術の解決策の問題は、一般に、このような解決策が、大きな環境破壊をもたらすことである。防汚塗料は、重金属を含有し、この重金属が、環境に負荷を与える。表面及び材料を抗微生物性にするために抗生物質も使用されているが、これは、抗生物質耐性株の問題を引き起こしている。表面及びコーティングはまた、滅菌もされる。しかしながら、滅菌には、効果が一時的であり、完遂することが困難であり、かつ処理に費用が嵩むという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(本発明の簡単な説明)
針葉樹の樹脂酸は、真菌に対して抗微生物性を有することが見いだされた。驚くべきことに、針葉樹の樹脂酸の誘導体もまた、抗微生物性を有する。この誘導体は、例えば、樹脂酸のエステル、例えば、エチルエステル、イソプロピルエステル、又はグリセロールエステルであり得る。さらに、針葉樹の樹脂酸及びその誘導体の抗微生物性の特徴は、非常に広範囲に及び、細菌だけではなく、真菌及びカビにも十分に有効であることが判明した。
【0009】
針葉樹の樹脂酸は、有利なことに、ロジン、例えば、トウヒ樹脂、及び木材のクラフトパルプ化処理における副産物として得られるトール油分画から得ることができる。ロジンは、アビエチン酸型(例えば、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸)樹脂酸及びピマル酸型(例えば、ピマル酸、イソピマル酸)樹脂酸を主に含む。少量のp-クマル酸及びリグナンもロジン中に含まれ得る。
【0010】
従って、本発明の一態様は、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む抗微生物組成物を提供することである。この組成物は、例えば、塗料、ワックス、油、洗浄剤、表面処理剤、天然若しくは合成繊維、又はプラスチック製品であり得る。
【0011】
本発明の一態様は、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体が抗微生物ポリマー組成物のマトリックスに含められた該抗微生物ポリマー組成物を提供する。本発明の一実施形態は、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体が含められたポリマー材料から形成された抗微生物医用装置を提供する。一実施形態では、このような医用装置は、カテーテル、例えば、尿道カテーテルである。
【0012】
本発明の抗微生物組成物及び抗微生物ポリマー組成物は、針葉樹の樹脂酸が、樹木抽出物に属する天然源に由来し、木材産業の副産物として得ることができ、この副産物をさらに利用できるようになるという利点を提供する。さらに、アビエチン酸のグリセロールエステル、「エステルガム」は、食品産業で許可され得る物質に分類され、E番号445と名付けられている。針葉樹の樹脂酸及びその誘導体は、これらで処理された材料に対して非常に良好な長期間の抗微生物性を付与する。従って、本発明の組成物は、健全で環境に優しい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、Abicin(登録商標)軟膏(salve)の液体−ガスクロマトグラム(LGC)を示している。
【0014】
【図2】図2は、Abicin(登録商標)軟膏の加水分解後の液体−ガスクロマトグラム(LGC)を示している。
【0015】
【図3】図3は、Abilar(登録商標)軟膏の液体−ガスクロマトグラム(LGC)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本発明の詳細な説明)
一態様によると、本発明は、針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む抗微生物組成物を提供する。
【0017】
本発明では、用語「針葉樹の樹脂酸」は、様々な針葉樹の樹脂酸を含むあらゆる原料を含むものとする。好ましくは、このような原料は、ロジン、例えば、トウヒ樹脂、及び木材のクラフトパルプ化処理から得られる粗トール油の蒸留によって得られる樹脂酸の分画のような天然源に由来し、例えば、Taiga Polymers社のTaiga 2010である。この用語はまた、純粋な形のあらゆる個別樹脂酸化合物、これらの化合物の任意の混合物、及び針葉樹の樹脂酸の化合物を含む原料の任意の混合物も含む。
【0018】
針葉樹の樹脂酸の誘導体は、当技術分野の任意の従来の方法で生成することができる。一実施形態では、このような誘導体は、樹脂酸のエステルである。このエステルは、例えば、エチルエステル、イソプロピルエステル、又はグリセロールエステルであり得る。樹脂酸のエステルは、1価、2価、若しくは多価のアルコール、又は当技術分野で既知のその他のエステル形成物質で生成することができる。例えば、樹脂酸のエチルエステルは、樹脂酸のエタノールとの反応によって得られる。エステル化反応は、樹脂酸とエステルの相対量を反応条件によって所望の方法で制御できる平衡反応である。エステル生成は、例えば、エステル化反応で生成される反応混合物からのアルコールや水の除去によって促進される。
【0019】
本発明の組成物は、微生物(細菌、真菌、カビ、酵母、ウイルス)の増殖が防止されるべきあらゆる材料の処理に適用可能である。処理される材料は、固体でも良いし、可溶型でも良い。このような材料は、例えば、溶液、溶媒、ワックス、軟膏、塗料、プラスチック、ゴム、木材、岩、ガラス、セラミック材料、紙、ボール紙、板紙、鋼、金属、繊維、布、シリコーン、プラスターであり得る。このような材料はまた、人又は動物の皮膚でも良い。従って、このような材料は、例えば、洗浄剤若しくは清浄剤、及び消毒剤で処理することができる。
【0020】
本組成物は、材料に対して混合する、広げる、スプレーする、注入する、刷毛で塗る、融解する、吸収させる、含浸させる、浸す、又は他の方法で接触させて、この材料を抗微生物性にすることができる。従って、本組成物を、材料の表面に広げるか、又は、例えば、混合、吸収、若しくは融解によって材料の構造内に含めることができ、これにより、抗微生物性が、該材料の表面のみだけではなく該材料全体にわたって均一に付与される。これは、様々なプラスチック、特に重合の際にプラスチックの原料に既に添加されているアビエチン酸原料で実現することができる。
【0021】
アビエチン酸を含む原料、例えば、樹脂は、そのまま保護されるべき材料に添加しても良いし、又は最初に適切な溶媒に溶解しても良い。多くの適用例では、原料は、有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、エーテル、クロロホルム、又はホルムアルデヒドに65重量%の濃度となるように最初に適切に溶解し、次いで処理されるべき混合物、例えば、ワックス、塗料、又は清浄剤に添加する。抗微生物組成物は、溶液として、保護されるべき物体、例えば、木材に吸収させても良い。水不溶性塗料又は同様の表面処理溶液では、一般的に使用される担体、例えば、アマニ油又はパラフィン油の存在により、吸収がさらに促進され得る。
【0022】
本発明の組成物は、材料の表面に広げて、溶媒の蒸発後に薄い保護膜、例えば樹脂膜を、材料の表面に形成されるようにしても良い。樹脂膜は、水不溶性が高いため、材料の表面に水不溶性の高い保護膜を形成する。本発明の組成物の表面に対する接着性を高めるために、ベース溶液は、保護されるべき表面材料に対して可能な限り良好な接着性を有する製品とするべきである。処理を繰り返すことができるため、保護されるべき表面上の層の厚みを調整することができる。この厚みはまた、広げられる組成物のアビエチン酸原料の濃度を変更することによっても調整することができる。
【0023】
本発明の一実施形態では、トウヒ樹脂を、酵素によって修飾されたセルロース繊維と混合する。抗微生物性を有する修飾された繊維は、例えば、病院の生地製品に使用できる不織製品の製造に特に適している。セルロース繊維を最終製品に加工する前に該繊維をトウヒ樹脂と混合することにより、抗微生物性が、該製品の繊維マトリックス全体に付与される。
【0024】
本発明の抗微生物組成物中の針葉樹の樹脂酸の量は、典型的には、0.1〜20%(w/w若しくはw/v)である。この量は、これよりも多くしても良いが、多くすると、保護されるべき材料の物理特性、例えば、硬度の低下が起きることもある。適切な量は、本組成物の用途によって決まる。例えば、ボート用ワックスは、典型的には、0.5〜10重量%のアビエチン酸原料を含む。
【0025】
別の態様によると、本発明は、針葉樹の樹脂酸を含む抗微生物ポリマー組成物を提供する。このポリマー組成物は、熱硬化性型プラスチックでも熱可塑性型プラスチックでも良い。それぞれのプラスチック型は、その典型的な重合プロセスで、その特徴的な条件下で製造される。針葉樹の樹脂酸は、ポリマー組成物の製造段階で原料混合物に添加しても良いし、又は、例えば、熱処理によって、完成したポリマー組成物に均一に含めても良い。最適な方法は、例えば、ポリマーの型及び針葉樹の樹脂酸原料の状態によって選択される。ポリマー組成物の生成、即ち重合の最中に針葉樹の樹脂酸、例えば樹脂溶液を、該ポリマー組成物に添加することにより、該ポリマー組成物の表面だけではなく、該ポリマー組成物の厚み全体にわたって抗微生物性を有する該ポリマー組成物を提供することが可能である。
【0026】
針葉樹の樹脂酸は、例えば、0.1〜15%(w/w若しくはw/v)、好ましくは約10%(w/w若しくはw/v)の量、ポリマー組成物に添加することができる。ポリマー組成物に添加されるこの樹脂酸の量は、完成したポリマー組成物の物理特性に影響を与える程ではないが、該ポリマー組成物を抗微生物性にするには十分な量である。
【0027】
本発明の一実施形態は、針葉樹の樹脂酸がエポキシのマトリックス全体に含められた該エポキシである。このエポキシは、硬化剤、典型的にはポリアミンでエポキシド樹脂を硬化させる、即ち重合の前に、針葉樹の樹脂酸を該エポキシド樹脂に添加することによって製造する。或いは、針葉樹の樹脂酸は、硬化のために硬化剤をエポキシド樹脂に添加する前に、該硬化剤と混合しても良い。
【0028】
上述のように、針葉樹の樹脂酸は、ポリマー組成物に含浸させても良い。ポリマー組成物は、例えば、シリコーン若しくは別のゴム材料、ポリエチレン、PVC、又は医用装置に適したその他のポリマー材料から形成されるカテーテル、例えば、尿道カテーテルのような医用装置とすることができる。
【0029】
抗微生物プラスチック組成物は、医用装置を形成するための従来の方法でさらに押し出す、又は射出成形することができるように粒状にしても良い。
【0030】
抗微生物カテーテルは、例えば、次のように製造することができる。針葉樹の樹脂酸、即ち抗微生物活性物質、例えば、Taiga 2010を、溶媒、例えば、アセトン、ヘプタン、エタノール、イソプロパノール、又はスチレンなどに溶解する。所望に応じて、安定剤及び界面活性剤を添加しても良い。次いで、得られた溶液又は分散液を、浸漬、スプレー、混転、又は同様の方法によってカテーテルに接触させる。好ましくは、活性物質を用いたカテーテルの膨潤を、閉じた系、例えば、後に溶媒の選択的な除去に使用されるCO2リアクター内で行う。
【0031】
溶媒中でのカテーテルの膨潤能力は、該カテーテルを形成するポリマー材料に依存するが、溶媒の一部、従って活性物質の一部も、カテーテル中に含浸される。吸収される活性物質の量は、溶媒中の活性物質の濃度の調整、活性物質を含む溶媒の曝露時間、及びそれに続くCO2処理の時間によって制御することができる。
【0032】
含浸のために、カテーテルを、排気して加圧することができるリアクター内に入れる。不活性ガス、例えば、CO2による気体容量の排気及び/又は置換の後で、活性物質を含む溶媒を、カテーテルにスプレーする。例えば、シリコーンから形成されたカテーテルは、十分な量のTaiga 2010を5分以内に吸収する。含浸後、例えば、加熱又は音波処理によって過剰な溶液を除去する。
【0033】
残留溶媒を溶解するために加圧CO2を添加する。適切な圧力は、20バール(約2.0MPa)よりも高い、好ましくは30バール(約3.0MPa)よりも高い、より好ましくは40バール(約40MPa)よりも高い。適切な温度は、周囲温度、例えば、約10℃〜約15℃である。可能な限り溶媒を除去するために、例えば、2つ以上の槽を用いてCO2を2回以上添加することができる。液体CO2又は臨界CO2、好ましくは液体CO2を本発明に使用する。最後にCO2をカテーテルから洗い流す。
【0034】
本発明の抗微生物ポリマー組成物はさらに、プラスチック製品の製造用の原料としても使用することができる。従って、抗微生物ポリマー組成物から形成されるプラスチック製品、例えば、プラスチック製の食卓食器類、玩具などは、それ自体が抗微生物性であるため、製品を消毒又は滅菌するための別途の処理が必要ない。
【0035】
本発明の抗微生物組成物は、熱硬化性プラスチック、例えば、ポリエステル、エポキシ、ポリウレタン、及びフェノールプラスチックに添加しても良い。本発明の組成物はさらに、無機熱硬化性プラスチック、例えば、ケイ酸ポリマー、例えば、シリコーンに添加しても良い。これらは、例えば、衛生シリコーン又はシリコーンカテーテルの製造に使用することができる。
【0036】
本発明の組成物はまた、有機プラスチック、例えば、植物系及び動物系ポリマー、又は石油合成プラスチックに添加しても良い。これらは、例えば、床、壁、及び屋根のコーティング、防湿処理、サウナ及び浴室のスプレー、瓶、調理器具、ディスプレイ、プリント回路基板、ガラス状炭素及びアラミド複合材料、ボート、導体、絶縁プレート及び発泡体、発泡プラスチック、車輪及びケーブル、にかわ、及びシーリング材料の製造に使用することができる。
【0037】
本発明の抗微生物組成物はまた、熱可塑性プラスチック、例えば、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチル又はポリアセタール、エチレンクロロフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、及びアクリロニトリルブタジエンスチレンに添加しても良い。これらは、例えば、塗料、コーティング、装飾、ガラス代用品、ブラシ、ビニール袋、小袋、ロープ、家庭用品、自動車部品、生地、管、調理器具、玩具、瓶、導体、絶縁体、レンズ、様々なコーティング(Teflon)及びシール、加工産業の容器及び配管のコーティング、フィルター、弁、軸受、衣類及びアクセサリー、布、家庭用電化製品及び事務機器、ボート、箱、バーナクル(barnacle)及びスイッチ、プラグ、プラスチック詰め物、プラスチックカード、キーボード、バー及びハンガー、にかわ、及び継ぎ合わせ材料の製造に使用することができる。一例として、ポリプロピレンから形成された抗微生物フロアカーペットを挙げることができる。
【0038】
本発明の組成物は、繊維、例えば、動物繊維、植物繊維、鉱物繊維、及び合成繊維、例えば、糸、パルプ、紙、炭素繊維(複合材料)、ビスコース繊維、ナイロン、ポリエステル、ケブラー(商標)、エラスタン、及びポリエステルに添加しても良い。これらは、例えば、エアフィルター、織物、衣類及びアクセサリー、包装材、グラスファイバーボート、壁紙及びモルタル、又は紙幣の製造に使用することができる。抗微生物ビスコース繊維は、例えば、手術室で使用される様々な病院用生地の不織製品の製造に使用することができる。
【0039】
本発明の組成物は、天然ゴム及び合成ゴムの両方のゴム、並びに熱可塑性エラストマーに添加しても良い。これらは、スイッチ、接続部品、ホース、シール、プラグ、シーリング材料、靴、衣類及びアクセサリー、コンドーム、及び玩具の製造に使用することができる。
【0040】
本発明の組成物は、ガラスに添加し、この添加したガラスから、被覆ガラス、レンズ、及び瓶を形成することができる。
【0041】
本発明の組成物は、化学製品、例えば、洗浄剤、及び清浄剤、及び消毒剤に添加しても良い。これらは、例えば、フケ防止シャンプー、清浄剤、及び消毒剤の製造に使用することができる。
【0042】
本発明の組成物は、エマルション及び軟膏に添加しても良い。これらは、創傷及び爪真菌症の治療用の製品の製造に使用することができる。
【0043】
上述のように、本発明の組成物はまた、木材及び金属に添加しても良い。
【0044】
本発明の抗微生物組成物及び本発明の抗微生物ポリマー組成物で処理した材料は、多種多様な用途に使用することができる。このような用途の例には、医療用途及び獣医用途が含まれる。これらの例には、皮膚などの手術部位、及び外傷部の保護用のプラスチック布、及び皮膚又は組織に広げられるコーティング(保護膜)、縫合糸、フック、及び鉗子用のコーティング、及び同様のプラスチック製品、保護手袋、ヘアキャップ、エプロンなど、及びそれらのコーティング、プラスター、創傷ドレッシング、リンス液(腹腔、外耳道、洞、口腔などのような腔用)、プラスチックカテーテル(例えば、尿道カテーテル、ドレーン管など)、ホース、カニューレ、及びそれらのコーティングが含まれる。医療用途及び獣医用途の例には、手術(例えば、結腸造瘻術、回腸造瘻術など)の際に形成される手術創及び皮膚開口部用のプラスチック保護布及び包帯、体又は体腔用の人工プラスチック部品(プロテーゼ及び人工移植片、口腔補綴物、歯科用ブリッジ、インプラント、管、爪など)、及びそのコーティングも含まれる。医療用途及び獣医用途の例には、体内に配置され、かつ金属、又はプラスチック以外の材料から形成された人工部品用のコーティングも含まれる。用途の例には、プラスター、副子、支持プロテーゼ、保護包帯、靴、靴の中底、及びそれらのコーティングも含まれる。
【0045】
加えて、本発明の抗微生物組成物は、手術室、病院、家庭用のシャワー及び看護設備、例えば、機器、カップ、ボウル、家具、例えば、カウンター、テーブル、取っ手、エアコンのダクト、及びそれらのコーティングに使用することができる。
【0046】
本発明はまた、アビエチン酸原料の抗微生物剤としての使用にも関する。
【0047】
以下の例は、本発明を例証する。
【実施例】
【0048】
実施例1は、アビエチン酸エステルの抗微生物性を例証している。
【0049】
実施例2〜8では、本発明の抗微生物組成物の殺微生物効果を、EN13697基準に従って測定した。この基準は、食品、産業、家庭、及び施設の領域で使用される化学消毒剤の殺細菌活性及び/又は殺真菌活性を評価する定量表面試験に関係する。試験した細菌株、真菌株、及びカビ菌株は、この基準に一致したものとした。各試験微生物から、試験懸濁液1ml当たりのコロニー形成単位(cfu)の数(N)及び試験物質の殺微生物効果(Na)を決定する。この基準によると、良好な殺微生物効果は、細菌については微生物減少がlog4のとき、真菌については微生物減少がlog3のときに達成される。
【0050】
(実施例1)
図1は、針葉樹の樹脂酸及びモノプロピレングリコールを含む未変性Abicin(登録商標)ラッカー(laquer)のアセトン抽出物の液体−ガス−クロマトグラム(LGC)を例証している。Abicin(登録商標)ラッカー(laquer)が抗微生物性を有することは公知である。
【0051】
図2は、Abicin(登録商標)ラッカー(laquer)の加水分解後のアセトン抽出物の液体−ガス−クロマトグラム(LGC)を例証している。
【0052】
図3は、針葉樹の樹脂酸は含むがアルコールは含まない未変性Abilar(登録商標)軟膏のアセトン抽出物の液体−ガス−クロマトグラム(LGC)を例証している。
【0053】
図2のスペクトルが、図3のスペクトルに類似していることが分かる。樹脂酸は、図1のクロマトグラムには現れてないが、図2のクロマトグラムには現れている。図1〜図3のスペクトルに基づいて、Abicin(登録商標)ラッカー(laquer)の加水分解により、遊離樹脂酸及びアルコールが生じたと結論付けることができる。従って、抗微生物性を有する未変性Abicin(登録商標)ラッカー(laquer)中の樹脂酸は、エステル型で存在する。
【0054】
(実施例2)
トウヒ樹脂から調製された1% A12tアルコール溶液、対照溶液、及び基準溶液の殺微生物効果を、鋼試験プレートで試験した。このプレート上でのサンプルの有効時間は、24時間であった。この結果を表1に示す。
【0055】
サンプル番号の意味は、次の通りである:
0=A12tアルコール(対照)
1=A12tアルコールに溶解した1%トウヒ樹脂溶液(本発明による)
2=Erisan(登録商標)外科用手消毒剤(基準)
3=無菌鋼プレート(試験プレート)
【0056】
Erisan(登録商標)手消毒剤は、ヘキサデシルトリメチル塩化アンモニウムを含み、ヘキサデシルトリメチル塩化アンモニウムは、皮膚刺激性に分類され、飲み込むと健康に有害である。
【表1】

【0057】
この結果は、変性アルコールが、微生物から長期間保護しないことを示している。基準サンプルは、エンテロコッカス細菌を除く全ての細菌から良好に保護する。本発明の組成物は、試験した全ての微生物から良好に長期間保護する。
【0058】
(実施例3)
0.5%トウヒ樹脂を含むA12tアルコール溶液を調製した。得られた溶液の殺微生物効果を、24時間の有効時間の後に試験した。この結果を表2に示す。
【表2】

【0059】
この結果は、この樹脂を含む溶液が、細菌株及び真菌株から良好に長期間保護し、かつカビ(クロカビ)の増殖も明確に防止することを示している。
【0060】
(実施例4)
1%のTaiga 2010を含むA12tアルコール溶液を調製した。得られた溶液の殺微生物効果を、5分の有効時間の後に試験した。この結果を表3に示す。
【表3】

【0061】
この結果は、本発明の溶液が良好な殺微生物効果を付与することを示している。
【0062】
(実施例5)
0.5%のTaiga 2010を含むA12tアルコール溶液を調製した。得られた溶液の殺微生物効果を、24時間の有効時間の後に試験した。この結果を表4に示す。
【表4】

【0063】
この結果は、Taiga 2010が、細菌株及び真菌株から良好に長期間保護し、かつカビ(クロカビ)の増殖も明確に防止することを示している。
【0064】
(実施例6)
10重量%のTaiga 2010がエポキシ樹脂のマトリックスに含められた該エポキシ樹脂の殺微生物効果を試験した。微生物の標準化された量(N)を、培養液中の硬化プラスチックプレートの表面にピペットで移し、次いで該プラスチックプレートを24時間インキュベートした。次いで、サンプル(Na)を試験領域から取り出し、該サンプルを増殖用の特殊な基板上で24時間増殖させた。細菌の減少を、NとNaの差から算出した。この結果を表5に示す。
【表5】

【0065】
この結果は、良好な長期間の殺微生物効果が、エポキシ樹脂に含められたTaiga 2010で達成されることを示している。
【0066】
(実施例7)
10重量%のTaiga 2010がポリエステルポリマーのマトリックスに含められた該ポリエステルポリマーの殺微生物効果を試験した。Taiga 2010を、ポリエステルポリマーの重合反応における成分に使用されるスチレンに溶解した。この効果を、Taiga 2010がポリマー中で有効な24時間の後に測定した。この試験は、実施例5と同様に行った。
【表6】

【0067】
この結果は、良好な長期間の殺微生物効果が、ポリエステルポリマーに含められたTaiga 2010で達成されることを示している。
【0068】
(実施例8)
エポキシを、エポキシド樹脂及び硬化剤から従来の方法で調製した。針葉樹の樹脂酸(5% w/w)をエポキシド樹脂と混合した。硬化剤を、得られた混合物に添加して重合反応を開始させる。硬化エポキシ樹脂のマトリックス構造全体に針葉樹の樹脂酸が均一に分散された該硬化エポキシ樹脂が得られる。
【0069】
エポキシ樹脂の抗微生物性の特徴を以下の表7に示す。エポキシ樹脂の表面上の様々な微生物の増殖を分析した。微生物の標準化された量(N)(1〜5×105/試験細菌、及び1〜5×104 pmy/試験 酵母/カビ/真菌)を培養液中のエポキシ樹脂の表面にピペットで移し、次いで接触プレートを24時間インキュベートした。
【表7】

略符:‐微生物の増殖がゼロ;+穏やかな増殖;++著しい増殖
【0070】
この結果から、針葉樹の樹脂酸を含むエポキシ樹脂が、その表面上の様々な微生物の増殖を著しく減少させる、又は阻止することが分かる。
【0071】
(実施例9)
この実施例は、トウヒ樹脂酸から形成され、かつプラスチック基板上に設けられた薄膜が、微生物、即ち海フジツボの増殖をかなり防止することを示す。
【0072】
ポリウレタンから形成された2枚の26×20cmプラスチックプレートを、10重量%の精製トウヒ樹脂を含む70%アルコール溶液を該プラスチックプレート上に薄層として流して樹脂膜でコーティングし、次いで該プレートを乾燥させた(アルコール及び水を蒸発させた)。従って、薄い固形の「樹脂膜」がプラスチックプレート上に形成される。2枚の同様のプレート、即ちコーティングされた各プレートの裏面をコーティングしないままとした。これらのプレートを、深さ1メートルの海中に3ヶ月間浸漬した。形態計測的に計算すると(P<0.001)、樹脂膜でコーティングされたプレート上の海フジツボの増殖(プレート全体の表面におけるフジツボの数)は、樹脂膜が設けられていない基準プレート上のフジツボの数と比較すると22%であった。また、対照プレートに付着したフジツボは、樹脂溶液で処理したプレート上のフジツボよりも小さかった。この結果を表8に示す。
【表8】

【0073】
この結果は、樹脂膜が、プラスチック基板へのフジツボの付着及びその増殖を80%防止することを示している。
【0074】
(実施例10)
トウヒ樹脂を、酵素的に修飾されたセルロース繊維のアルカリ溶液に溶解した。樹脂は、セルロース溶液の性質を変更しなくてもアルカリ溶液に容易に溶解した。トウヒ樹脂の添加量は、セルロース繊維の1%の乾物含量とした。トウヒ樹脂で処理された繊維の抗微生物性を試験するために、セルロース溶液が塗布されたガラスプレートを15%硫酸溶液に浸漬することによって該セルロース溶液から膜を沈殿させた。基準膜を、トウヒ樹脂が添加されていない修飾されたビスコース繊維から同様の方法で調製した。この基準膜の抗微生物性試験を、ISO標準20645/20743に従って行った。
【0075】
この抗微生物試験の結果は、本発明のビスコース繊維から形成された膜が、黄色ブドウ球菌、大腸菌、及び肺炎桿菌(K. pneumoniae)に対して優れた抗微生物性(<105)を示す一方、基準膜は抗微生物性を全く示さないことを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む、抗微生物組成物。
【請求項2】
前記針葉樹の樹脂酸が、ロジンに由来する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記針葉樹の樹脂酸が、木材のクラフトパルプ化によって得られる粗タール油に由来する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記針葉樹の樹脂酸の誘導体が、エステルである、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記誘導体が、アビエチン酸のエステルである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記誘導体が、デヒドロアビエチン酸のエステルである、請求項4記載の組成物。
【請求項7】
前記誘導体が、ピマル酸のエステルである、請求項4記載の組成物。
【請求項8】
前記針葉樹の樹脂酸が、アルコールに溶解されている、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体の量が、前記組成物の0.1〜20% w/w若しくは% w/vである、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
表面保護組成物、例えば、表面清浄剤、又は手消毒剤、塗料、ワックス、ニス、油、天然若しくは合成繊維、織物である、請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
前記天然繊維が、ビスコース繊維である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記ビスコース繊維が、該ビスコース繊維の乾物基材上に約1% w/wのトウヒ樹脂を含む、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
請求項12記載のビスコース繊維から作成される不織織物である、請求項10記載の組成物。
【請求項14】
表面清浄剤である、請求項10記載の組成物。
【請求項15】
手消毒剤である、請求項10記載の組成物。
【請求項16】
抗微生物ポリマー組成物のマトリックスに針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む、該ポリマー組成物。
【請求項17】
前記針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体の量が、前記組成物の0.1〜20% w/w若しくは% w/vである、請求項16記載のポリマー組成物。
【請求項18】
ポリプロピレン繊維である、請求項16又は17記載のポリマー組成物。
【請求項19】
エポキシ樹脂である、請求項16又は17記載のポリマー組成物。
【請求項20】
医用装置、例えば、カテーテルである、請求項16又は17記載のポリマー組成物。
【請求項21】
1つ以上のモノマーの重合反応の開始の前に該モノマーに前記針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を添加する工程を含む、請求項16〜20のいずれか1項記載のポリマー組成物を製造する方法。
【請求項22】
前記ポリマー組成物が抗微生物性となるのに十分な時間、前記針葉樹の樹脂酸及び/又はその誘導体を含む溶液を該ポリマー組成物のマトリックスに含浸させる工程を含む、請求項16〜20のいずれか1項記載のポリマー組成物を製造する方法。
【請求項23】
前記含浸を、超臨界COを用いて行う、請求項22記載の方法。
【請求項24】
針葉樹の樹脂酸の誘導体の抗微生物剤としての使用。
【請求項25】
前記誘導体がエステルである、請求項24記載の使用。
【請求項26】
皮膚などの手術部位、及び外傷部の保護用のプラスチック布、
皮膚又は組織に広げられるコーティング、
縫合糸、フック、及び鉗子用のコーティング、
保護手袋、ヘアキャップ、エプロン、及びそれらのコーティング、
腹腔、外耳道、洞、口腔のような腔用のプラスター、創傷ドレッシング、リンス液、
尿道カテーテル及びドレーン管などのプラスチックカテーテル、ホース、カニューレ、及びそれらのコーティング、
例えば、結腸造瘻術、回腸造瘻術などの手術中に形成される手術創及び皮膚開口部用の包帯、
プロテーゼ及び人工移植片、口腔補綴物、歯科用ブリッジ、インプラント、管、爪のような、体又は体腔用の人工プラスチック部品、及びそのコーティング、
体内に配置され、かつ金属、又はプラスチック以外の材料から形成された人工部品用のコーティング、プラスター、副子、支持プロテーゼ、保護包帯、靴、靴の中底、及びそれらのコーティングにおける、請求項24又は25記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−507347(P2013−507347A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532639(P2012−532639)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050787
【国際公開番号】WO2011/042613
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(512091028)
【Fターム(参考)】