説明

抗新生物製剤、及び抗新生物製剤の使用

【課題】新生物細胞に特異的に作用し、同時に正常細胞に対して保護的に作用する新薬の提供。
【解決手段】、α−ケトグルタル酸(AKG)、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びオルニチンのα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのジペプチド、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのトリペプチド、又は/及びグルタミン酸と他のアミノ酸とのジ及びトリペプチド、或いは/並びにα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びα−ケトグルタル酸のオルニチン、の一価及び二価金属塩その他、を含有する製剤。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明の対象は、抗新生物製剤、及び抗新生物製剤の使用である。
【0002】
ここ数年の化学療法、放射線療法及び免疫療法における著しい進歩にもかかわらず、有効な抗新生物療法の問題は、依然として、現在の医学における重大な課題である。疫学的調査により、先進国では、3人のうちの1人が、様々な新生物疾患に罹患していることが示されている。そのグループでは、4分の1の症例が致死的な症例である。治療で実際に使用されている細胞増殖抑制剤には、有効性を制限し、患者の生活の質を低下させる副作用発現の危険性がある。
【0003】
従って、新生物細胞に特異的に作用し、同時に正常細胞に対して保護的に作用する新薬の開発は、特に緊急な課題である。
【0004】
本発明の抗新生物製剤は、α−ケトグルタル酸(AKG)、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びオルニチンのα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのジペプチド、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのトリペプチド、又は/及びグルタミン酸と他のアミノ酸とのジ及びトリペプチド、或いは/並びにα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びα−ケトグルタル酸のオルニチン、の一価及び二価金属塩その他、を含有することを特徴とする。
【0005】
本発明の抗新生物製剤の使用は、α−ケトグルタル酸(AKG)、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びオルニチンのα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのジペプチド、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのトリペプチド、又は/及びグルタミン酸と他のアミノ酸とのジ及びトリペプチド、或いは/並びにα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びα−ケトグルタル酸のオルニチン、の一価及び二価金属塩その他、を含有する製剤の、新生物疾患の予防における使用である。
【0006】
また、本発明の抗新生物製剤の使用は、α−ケトグルタル酸(AKG)、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びオルニチンのα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのジペプチド、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのトリペプチド、又は/及びグルタミン酸と他のアミノ酸とのジ及びトリペプチド、或いは/並びにα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びα−ケトグルタル酸のオルニチン、の一価及び二価金属塩その他、を含有する製剤の、転移抑制のための使用である。
【0007】
本発明の製剤、及び製剤の使用は、新生物細胞の遊走の抑制を可能にするが、これは、転移抑制におけるAKGの潜在的な役割を反映している。食事に添加された本発明の製剤は、新生物治療で使用される既存の方法を支援するネオアジュバントとしての役割を果たす。本発明の製剤は、抗新生物薬との相乗作用、及び正常細胞に対する同時保護作用を通じて、患者の生活の質を改善すると考えられる。
【0008】
本発明の一実施方法として、本発明の製剤の作用及びその使用の例を示す。
【0009】
新生物細胞の培養:
A549:肺癌のヒト新生物細胞;Wroclawのポーランド科学アカデミー経験療法免疫学研究所(the Institute of the Immunology and the Experimental Therapy of Polish Academy of Science)から入手した連続継代性細胞系
HT−29:大腸癌のヒト新生物細胞;Wroclawのポーランド科学アカデミー経験療法免疫学研究所(the Institute of the Immunology and the Experimental Therapy of Polish Academy of Science)から入手した連続継代性細胞系
C6:脳腫瘍(グリオーマ)のラット新生物細胞;フンボルト大学新生児科(ベルリン、ドイツ)から入手した連続継代性細胞系
【0010】
培養の培地:
A549系の細胞はDMEM:F−12HAM(2:1)培地上で培養し、HT−29及びC6細胞はDMEM培地上で培養した。培養培地に、10%動物胎児血清(foetal beast serum)(FBS)、ペニシリン100i.u./ml及びストレプトマイシン100μg/mlを添加した。DMEM:F−12HAM培地及びDMEM培地は、シグマ社(シグマ、セントルイス、ミズーリ州、米国)製であった。動物胎児血清(FBS)は、ライフテクノロジーズ社(ライフテクノロジーズ、カールスルーエ、ドイツ)製であった。残りの試薬はシグマ社製であった。
【0011】
細胞培養物の調製:
組織バンクにおいて液体窒素中に保存されていた細胞を37℃で解凍し、次いで、然るべき培地の入ったプラスチックボトルに注ぎ入れた。それらを、5%COインキュベーター中、37℃で培養した。細胞増殖液を注ぎ出した後、細胞を、PBS(カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含有しない。)で洗浄し、0.25%トリプシン溶液+EDTAで処理して、実験に必要な細胞の懸濁液を得た。
【0012】
細胞培養物におけるAKGの抗増殖活性の評価:
培養培地中で予め調製した密度1×10細胞/ml(A549)、4×10細胞/ml(HT−29)及び0.5×10細胞/ml(C6)の細胞懸濁液を、平底の96穴マイクロプレート(NUNC社、Roskilde、デンマーク)に1穴当たり100μl注ぎ入れた。細胞の固着後(24時間後)、液体を注意深く除去し、次いで、様々な濃度のAKG及び試験対象の細胞増殖抑制剤(シクロホスファミド、イホスファミド、チオテパ)の溶液(10%FBSを含有する。)(100μl/穴)を添加した。プレート上の培養物を、95%空気/5%CO雰囲気下、37℃で96時間インキュベートした。被検物質の抗増殖活性は、MTT法で評価した。
【0013】
MTT法(「細胞増殖キットIII」(ベーリンガー・マンハイム)による):
この方法は、細胞毒性物質及び抗増殖性物質の研究において細胞の増殖能力及び生存能力を判定するために実施した。代謝的に活性な細胞において、黄色のテトラゾリウム塩であるMTTは、ミトコンドリアの脱水酵素で青色のホルマザンに還元される。水に不溶のホルマザン結晶は細胞内に蓄積し、それらを溶解するためには、有機界面活性剤を使用して、膜を破壊し、同時に色素を溶解する必要がある。この目的のために、pH7.4のSDS−HClバッファーが使用される。放出色素の濃度は、波長570nmで、96穴プレート用リーダーで定量的に評価される。色の強度は、生存細胞の量に正比例する。濃度5mg/mlのPBS条件のMTT溶液を、プラスチックプレート上の各穴に1穴当たり15μl添加した。プレートを、37℃で3時間インキュベートした。その後、100μl/穴のSDS−HClバッファーを添加し、プレートを、37℃で一晩放置した。結果は、翌日、E−max Reader(Molecular Devices Corporation、Menlo Park、カリフォルニア、米国)を用いて評価した。
【0014】
「創傷(wound)アッセイ」法による細胞遊走度の評価:
この方法は、in vitroで細胞の移動性に影響を及ぼす物質の活性を評価するためのものである。この方法は、創傷治癒、血管新生及び新生物転移の研究で使用される。
【0015】
10%血清(FBS)を添加した培養培地に懸濁されたC6細胞(1×10)を、直径4cmの培養プレート(NUNC、Roskilde、デンマーク)上に注ぎ入れた。翌日、細胞の均等な層に、自動ピペットの末端で傷(創傷)を作り、剥がれた細胞を、PBS溶液でプレートを2回洗浄することにより除去した。次いで、培養培地に溶解したAKG(10mM及び20mM)を、調製した培養物に添加した。プレートを、95%空気/5%COの湿潤雰囲気下、37℃で24時間インキュベートした。その後、培養物を、May−Grunwald−Giemza法で着色させた。次いで、顕微鏡分析を、ソフトウェアanalySIS(登録商標)(Soft Imaging System GmbH、ミュンスター、ドイツ)を用いて、顕微鏡Olympus BX51(オリンパス光学工業株式会社、東京、日本)で行った。細胞遊走度は、細胞の層に先に作られた創傷に存在する細胞数として、サイトメトリーで評価した。8枚の写真上の少なくとも50個の選択フィールドを評価した。
【0016】
(結果)
AKGの抗増殖活性の評価:
培養物におけるAKGの抗増殖活性を、様々な種類の新生物細胞、すなわち、肺癌細胞(A549)、大腸癌細胞(HT−29)及びグリオーマ細胞(C6)に関して評価した。細胞を、濃度0.5mM、1mM、2.5mM、5mM、10mM及び20mMのAKGで96時間処理した。
【0017】
被検物質は、すべての新生物細胞タイプに関して抗増殖活性を有していた(図1、図2、図3)。細胞増殖の統計的に有意な(4.5%)抑制は、A549細胞系においてAKG濃度2.5mMで観察された(対照群と比較)。その効果は、AKGの用量と相関していて、用量5mM、10mM及び20mMで、それぞれ7.8%、12.4%及び17.5%であった(図1)。グリオーマ細胞(C6)における増殖抑制は、AKG用量2.5mM、5mM、10mM及び20mMで、それぞれ12.6%、7.9%、16%及び19.8%であった。大腸癌細胞(HT−29)の増殖抑制は、1〜10mMのAKG濃度で線形性を有していなかった。用量1mMでは、細胞増殖が11.8%抑制された。ほぼ同様の効果が、用量5mM(11.8%)及び10mM(11.5%)で得られた。用量20mMにおいてのみ、これらの細胞の増殖の有意な(25%)抑制が生じた(図3)。
【0018】
AKGと抗新生物薬との相互作用の評価:
AKGと、癌化学療法で使用される周知の細胞増殖抑制剤と、の相互作用に関する検討を、肺癌細胞(A549)の培養物で行った。その目的のために、3種の細胞増殖抑制剤、すなわち、シクロホスファミド(1.5mM)、イホスファミド(1.5mM)及びチオテパ(5μM)を単独で、又はAKG(5mM、10mM及び20mM)と組み合わせて用いて、細胞を処理した。使用した化学療法剤の細胞増殖抑制活性に対するAKGの相加的効果が観察された(結果を図4、図5及び図6に示す)。濃度1.5mMのシクロホスファミドは、A549細胞の増殖を21.4%抑制した。AKGの添加は、細胞増殖抑制活性を、それぞれ6.4%、9.8%及び14.4%増加させた(図4)。イホスファミド(1.5mM)は、細胞増殖を7.3%抑制した。AKG(5mM、10mM及び20mM)添加後、効果は、それぞれ5%、5.3%及び8.8%増加した(図5)。また、AKGは、チオテパ(5μM−25.9%)の細胞増殖抑制活性を4.2%(5mM)、8%(10mM)及び11.2%(20mM)増強した(結果を図6に示す)。
【0019】
新生物細胞の遊走に対するAKGの影響:
新生物細胞の移動性に関する検討を「創傷アッセイ」モデルで行った。写真1には、C6細胞の層の創傷(A)、AKG非存在下の24時間のインキュベーション後の創傷への細胞の密集(B)、及びAKG20mM存在下の細胞遊走の有意な抑制(C)が示されている。図7には、細胞の均一層に作られた傷の1フィールドへ遊走した細胞の平均数が示されている。10mM及び20mMのAKG存在下の、細胞遊走の統計的に有意な抑制が示された。
【0020】
統計解析:
統計解析は、スチューデントのt検定を用いて行った。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】AKGで刺激した場合のA549細胞の増殖を示す。
【図2】AKG存在下のC6細胞の増殖を示す。
【図3】AKGで刺激した場合のHT−29細胞の増殖を示す。
【図4】シクロホスファミド及びAKGの存在下のヒト新生物細胞A549の増殖を示す。
【図5】イホスファミド及びAKGの存在下のヒト新生物細胞A549の増殖を示す。
【図6】チオテパ及びAKGの存在下のヒト新生物細胞A549の増殖を示す。
【図7】AKGによるC6細胞遊走の抑制を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ケトグルタル酸(AKG)、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びオルニチンのα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのジペプチド、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのトリペプチド、又は/及びグルタミン酸と他のアミノ酸とのジ及びトリペプチド、或いは/並びにα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びα−ケトグルタル酸のオルニチン、の一価及び二価金属塩その他、を含有する抗新生物製剤。
【請求項2】
α−ケトグルタル酸(AKG)、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びオルニチンのα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのジペプチド、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのトリペプチド、又は/及びグルタミン酸と他のアミノ酸とのジ及びトリペプチド、或いは/並びにα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びα−ケトグルタル酸のオルニチン、の一価及び二価金属塩その他、を含有する抗新生物製剤の、新生物疾患の予防における使用。
【請求項3】
α−ケトグルタル酸(AKG)、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びオルニチンのα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのジペプチド、又は/及びグルタミンと他のアミノ酸とのトリペプチド、又は/及びグルタミン酸と他のアミノ酸とのジ及びトリペプチド、或いは/並びにα−ケトグルタル酸、又は/及びグルタミン、又は/及びグルタミン酸、又は/及びα−ケトグルタル酸のオルニチン、の一価及び二価金属塩その他、を含有する抗新生物製剤の、癌転移抑制のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−35864(P2013−35864A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−219701(P2012−219701)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2007−550321(P2007−550321)の分割
【原出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(507130417)エスジーピー アンド ソンズ アーベー (3)
【Fターム(参考)】