説明

抗氷核活性剤及びその製造方法

【課題】 氷核活性物質について幅広く抗氷核活性作用を示し、食品分野への応用が可能であり、餡粕以外のものから得ることが可能な、抗氷核活性剤及びそれの製造方法を提供する。
【解決手段】 日本酒からの抽出成分を含有することを特徴とする抗氷核活性剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本酒からの抽出成分を含有する抗氷核活性剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水は融点(0℃)以下の温度で凝固するが、異物が全く含まれていない純水は−39℃まで凝固しない。このように、融点以下の温度まで冷却しても水が凝固しない現象は、過冷却現象と呼ばれている。かかる過冷却現象は、水の温度が下がると、水分子の持つ運動エネルギーが減少し、水が氷となるために必要な氷の種である氷核を発生させるために必要且つ十分な活性化エネルギーが得られないことが原因となって生じる。
【0003】
このような過冷却を促進する物質は、過冷却促進(抗氷核活性)物質と呼ばれており、抗氷核活性を示す物質として、香辛料の成分であるオイゲノール(非特許文献1参照)や台湾ヒノキの成分であるヒノキチオール−鉄(非特許文献2参照)などの低分子化合物や、Acinetobacter calcoaceticus由来のタンパク質(非特許文献3参照)やBacillus thuringiensis由来の多糖(非特許文献4参照)等の高分子化合物が抗氷核活性を示すことも報告されている。
【0004】
また、より高い氷核活性を示す抗氷核活性物質として、針葉樹のカツラの木部柔細胞から分離されたフラボノイド配糖体が明らかにされており(特許文献1参照)、このようなポリフェノール配糖体のうち、7位の水酸基がグルコシル化されてなる化合物が、高い活性を示すことが報告されている(非特許文献5参照)。
【0005】
しかし、これらの抗氷核活性物質は、水に含まれる氷核活性細菌による過冷却点の上昇を低下させることは可能であるが、ヨウ化銀等の氷核活性を示す異物による過冷却点の上昇を低下させることは困難であり、加えて、これらの化合物は、安全性や生産性の問題から、食品分野での利用が困難となっていた。
【0006】
そこで、食品分野での利用を図ると共に、食品廃棄物の有効利用を図るべく、本出願人は、生餡の製造過程で生じる餡粕から抽出したエキスが抗氷核活性を示すことを見出し、かかる餡粕の抽出エキスを含有する抗氷結活性剤について既に特許出願をしている(特許文献2参照)。このように餡粕から抗氷核活性物質を得ることにより、得られた抗活性物質が食品分野に応用可能になるのみならず、食品廃棄物の有効利用をも図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2008/007684号
【特許文献2】特開2010−121052号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Kawahara et al, J. Antibact. Antifung. Agents, 24, 95-100 2006
【非特許文献2】H.Kawahara et al, Biosci. Biotech. Biochem., 64, 2651-2656, 2000
【非特許文献3】H.Kawahara et al, Biocontrol Sci, 1, 11-17, 1996
【非特許文献4】Y.Yamashita et al, Biosci, Biotech. Biochem., 66, 948-954, 2002
【非特許文献5】J. Kasuga et al., Cryobiology, 60, 240-243 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、餡粕由来の抗氷核活性物質の生成量は、餡粕の生成量、すなわち生餡の製造量に依存しており、抗氷核活性物質の供給が不安定になるおそれがあることから、餡粕以外の食品から抗氷核活性物質を得ることが要望されていた。
【0010】
一方、従来、日本酒が市販されているが、市販後の日本酒のうち残余や消費期限が切れたようなものは企業によって回収され、その量は餡粕よりも多い。このように回収された日本酒を有効利用することができれば、企業のコスト面においても環境面においても無駄が少なくなる。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑み、氷核活性物質について幅広く抗氷核活性作用を示し、食品分野への応用が可能であり、餡粕以外のものから得ることが可能な、抗氷核活性剤及びそれの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、このような課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、日本酒から抽出された抽出成分に優れた抗氷核活性があることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、日本酒からの抽出成分を含有することを特徴とする抗氷核活性剤である。これにより、本発明の抗氷核活性剤は、氷核活性細菌のみならずヨウ化銀等の氷核活性物質について幅広く抗氷核活性作用を示し、日本酒からの抽出成分であることから食品分野への応用が可能であり、餡粕以外の日本酒から得ることが可能となる。
【0013】
また、本発明の抗氷核活性剤は、日本酒の含有成分を合成吸着剤に吸着させ、該合成吸着剤に吸着された吸着物を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。
【0014】
また、本発明の抗氷核活性剤は、前記吸着物を、酢酸エチルで抽出し、該酢酸エチルで抽出された抽出物を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。
【0015】
また、本発明の抗氷核活性剤は、前記吸着物を限外ろ過膜によって分子量3000以下画分に分画し、該分子量3000以下画分を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。
【0016】
また、本発明の抗氷核活性剤は、前記抽出物を限外ろ過膜によって分子量3000以下画分に分画し、該分子量3000以下画分を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。
【0017】
本発明は、日本酒の含有成分を合成吸着剤に吸着させる吸着工程を含み、前記合成吸着剤に吸着された吸着物を日本酒からの抽出成分として含有させることを特徴とする抗氷核活性剤の製造方法である。これにより、氷核活性細菌のみならずヨウ化銀等の氷核活性物質について幅広く抗氷核活性作用を示し、日本酒からの抽出成分であることから食品分野への応用が可能であり、餡粕以外の日本酒から得ることが可能な抗氷核活性剤を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、氷核活性物質について幅広く抗氷核活性作用を示し、食品分野への応用が可能であり、餡粕以外のものから得ることが可能な、抗氷核活性剤及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】吸着画分についてゲルろ過クロマトグラフィーを行ったときの各フラクションの紫外吸収を示すチャート
【図2】図2(a)は、図1のピーク1を示すフラクション、図2(b)は、図1のピーク2を示すフラクション、図2(c)は、図1のピーク3を示すフラクションの紫外吸収スペクトルを示すチャート
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の抗氷核活性剤は、日本酒からの抽出成分を含有する抗氷核活性剤である。本発明において、「日本酒からの抽出成分を含有する」とは、本発明の抗氷核活性剤が、日本酒からの抽出成分のみを含有してもよく、また日本酒からの抽出成分の他に、他の成分を含有していてもよいことを意味する。
【0021】
日本酒は、清酒ともいい、米、米麹及び水を原料として発酵させたものや、これらの原料に、醸造アルコール、糖類、酸味料、うま味調味料、酒粕等の副原料が添加されて製造されたものをいう。日本酒の原料たる米の品種や産地等は特に限定されるものではない。
【0022】
かかる本発明の抗氷核活性剤は、氷核活性細菌のみならずヨウ化銀等の氷核活性物質について幅広く抗氷核活性作用を示し、日本酒からの抽出成分であることから食品分野への応用が可能であり、餡粕以外の日本酒から得ることが可能となる。加えて、回収された日本酒を用いることができることからより大量に生産可能となり、食品廃棄物の有効利用をより図ることも可能となる。
【0023】
本発明の抗氷核活性剤は、日本酒の含有成分を合成吸着剤に吸着させ、該合成吸着剤に吸着された吸着物を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分中に抗氷核活性を有する成分がより多く含有されるため、抗氷核活性をより発揮することができる。また、合成吸着剤は、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤であることが好ましい。かかるスチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体であるダイヤイオンHP21(三菱化学株式会社製)、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体に臭素を付加したセパビーズSP207(三菱化学株式会社製)が挙げられる。
【0024】
また、本発明の抗氷核活性剤は、上記吸着物を酢酸エチルで抽出し、該酢酸エチルで抽出された抽出物を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分中に抗氷核活性を有する成分がより多く含まれるため、抗氷核活性をより向上させることができる。
【0025】
また、本発明の抗氷核活性剤は、上記吸着物を限外ろ過膜によって分子量3000以下画分に分画し、該分子量3000以下画分を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分中に抗氷核活性を有する成分がより多く含まれるため、抗氷核活性をより向上させることができる。
【0026】
また、本発明の抗氷核活性剤は、前記抽出物を限外ろ過膜によって分子量3000以下画分に分画し、該分子量3000以下画分を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。これにより、抽出成分中に抗氷核活性を有する成分がより多く含まれるため、抗氷核活性をより向上させることができる。
【0027】
このように、分子量3000以下の画分に分画する際には、合成吸着剤に吸着された吸着物を分画することも、酢酸エチルで抽出された抽出物を分画することもできる。但し、抗氷核活性をより向上させる観点を考慮すれば、本発明の抗氷核活性剤は、酢酸エチルで抽出された抽出物を、分子量3000以下画分に分画させることが、より好ましい。
【0028】
上記したような抗氷核活性剤を得るために、本発明の抗氷核活性剤の製造方法は、日本酒の含有成分を、合成吸着剤に吸着させる吸着工程を含み、合成吸着剤に吸着された吸着物を日本酒からの抽出成分として含有させることを特徴とする。これにより、抗氷核活性を有する成分がより多く含まれる抽出成分を得ることができるため、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。具体的には、吸着工程で日本酒の成分を合成吸着剤に吸着させ、合成吸着剤に吸着した吸着物をエタノールに溶解させた後、エバポレータで濃縮乾固することにより、抽出成分を得ることができる。
【0029】
また、本発明の抗氷核活性剤の製造方法は、吸着工程で合成吸着剤に吸着された吸着物を酢酸エチルで抽出する抽出工程を含み、酢酸エチルで抽出された抽出物を日本酒からの抽出成分として含有させることが好ましい。これにより、抗氷核活性を有する成分がより多く含まれる抽出成分を得ることができるため、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。具体的には、吸着工程でエバポレータにより濃縮乾固された抽出成分を水に溶解させた後、酸性条件とし、さらに酢酸エチルを加えた後、酢酸エチル層を分液ロート等で分離し、酢酸エチル層を濃縮乾固することにより、抽出成分を得ることができる。
【0030】
また、本発明の抗氷核活性剤の製造方法は、吸着工程で合成吸着剤に吸着された吸着物を、限外ろ過膜を用いて分子量3000以下の画分に分画する分画工程を含み、分子量3000以下の画分を日本酒からの抽出成分として含有させることが好ましい。これにより、抗氷核活性を有する成分がより多く含まれる抽出成分を得ることができるため、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。
【0031】
また、本発明の抗氷核活性剤の製造方法は、抽出工程で酢酸エチルにより抽出された抽出物を、限外ろ過膜を用いて分子量3000以下の画分に分画する分画工程を含み、分子量3000以下の画分を日本酒からの抽出成分として含有させることが好ましい。これにより、抗氷核活性を有する成分がより多く含まれる抽出成分を得ることができるため、抽出成分の抗氷核活性を、より高めることができる。なお、前述した通り、抗氷核活性をより向上させる観点を考慮すれば、本発明の抗氷核活性剤の製造方法は、酢酸エチルで抽出された抽出物を、分子量3000以下画分に分画させることが、より好ましい。
【0032】
上記のような製造方法により得られた抽出成分を、そのまま固形物として使用してもよく、さらに精製して使用してもよい。また、かかる抽出成分の精製には種々の手段、方法を用いることができ、たとえば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー法、セルロース膜や合成膜を用いる限外ろ過法、逆浸透法、吸着法、有機溶媒分画等の分離法を用いることができる。
【0033】
また必要に応じて、抽出成分が溶媒中で沈殿物となった場合には、遠心分離を行ってしてもよい。後述のように、本発明の抽出成分中の抗氷核活性の多くは、限外ろ過膜を用いて分画したとき分子量3000以下の画分に存在することから、かかる分画工程に精製工程を含めることが、効率化の観点から好ましい。
【0034】
本発明の抗氷核活性剤には、日本酒からの抽出成分が有効成分として含有される。この場合、かかる抽出成分を、液状あるいは固形(粉末・顆粒等)に処理加工して用いてもよい。また、抽出成分を溶媒に溶解させる場合には、適宜濃縮あるいは希釈して用いてもよく、かかる溶媒として、例えば水等を挙げることができる。いずれにしても、抽出成分の形態は、その用途に応じて適宜設計することができる。
【0035】
さらに、本発明の抗氷核活性剤を製剤化する場合の剤形も、特に限定されるものではなく、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、クリーム、軟膏等、その種類は問わない。
【0036】
本発明の抗氷核活性剤は、冷凍食品品質保持剤等の食品分野、霜害防除剤、飲料の未凍結冷凍、霜付着阻害剤等の環境分野、細胞保存液、臓器保存液等の医療分野等に広く適用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)合成吸着剤への吸着による抽出成分の取得
日本酒(菊正宗酒造製、原材料名:米、米麹、精米歩合:65%)3.6Lを、60℃に設定されたエバポレータを用いて400mLまで濃縮した。
【0039】
得られた濃縮液に、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤であるダイヤイオンHP21(三菱化学株式会社製、以下、HP21樹脂という)を135g加え、攪拌機を用いて4℃、120rpmで18時間攪拌した後、ろ紙を用いて吸引ろ過を行った。ろ紙に残ったHP21樹脂に50%エタノールを加え、攪拌機を用いて4℃、120rpmで1昼夜攪拌して、HP21樹脂に吸着された吸着物をエタノールに溶解させた。
【0040】
その後、HP21樹脂とエタノールとの混合液を、再びろ紙を用いて吸引ろ過し、得られたろ液(吸着液)を60℃に設定されたエバポレータで濃縮乾固し、日本酒からHP21樹脂に吸着した実施例1の抽出成分として、吸着画分4.81gを得た。
【0041】
(実施例2)酢酸エチルによる抽出による抽出成分の取得
実施例1の抽出成分を超純水に溶解させて10mg/mLの濃度に調整し、これに12NのHClを加えてpH3.0の酸性条件に調整し、かかる水溶液の2倍量の酢酸エチルを加え、分液ロートを用いて水層と酢酸エチル層とに分離した。分離された酢酸エチル層を60℃に設定されたエバポレータで濃縮乾固し、実施例2の抽出成分として酢酸エチル画分1.01gを得た。
【0042】
(実施例3)限外ろ過膜による抽出成分の取得(1)
実施例2の抽出成分を超純水に溶解させて10mg/mLの濃度に調整し、分画分子量が3000の限外ろ過膜(日本ミリポア社製、限外ろ過ディスク、ウルトラセル、PL、再生セルロース、3000NMWL)を装着した限外ろ過装置(日本ミリポア社製、アミコン攪拌式セルModel 18400)を用いて、限外ろ過を行った。分画された分子量3000以下画分を回収し、凍結乾燥させて、実施例3の抽出成分として分子量3000以下画分0.97gを得た。
【0043】
(抗氷核活性測定)
各試料の濃度は1mg/mLとした。抗氷核活性は、Valiの小滴凍結法によって測定した。Valiの小滴凍結法の原理は、銅版の上にアルミニウムのフィルムを置き、その表面に各試料及びブランクの試料を10μLずつ30箇所に滴下し、毎分1.0℃の速度で温度を低下させて、30個の小滴の50%が凍結する温度をT50とする。
【0044】
各試料の上記小滴凍結時の温度をSampleT50とし、ブランクの試料の上記小滴凍結時の温度をBlankT50とすると、抗氷核活性値ΔT50(℃)は、ΔT50(℃)=BlankT50−SampleT50で求められる。各試料は、実施例1〜3の抽出成分にヨウ化銀を加えたものであり、ブランクの試料はヨウ化銀のみからなるものである。
【0045】
尚、上記のようなValiの小滴凍結法によって抗氷核活性を測定する前に、後述するように各試料をリン酸緩衝液に加える必要がある。本実施例では、リン酸緩衝液として、150mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を用いた。かかるリン酸カリウム緩衝液は、0.2μmフィルター(ADVANTEC社製、Cellulose Acetate 0.2μm)を通すことにより予め滅菌した。
【0046】
Valiの小滴凍結法の原理は上述の通りであるが、本実施例では、微水滴凍結測定装置を用い、かかる微水滴凍結測定装置として、ミツワモデルK−1(山本テクニカル株式会社製)を用いた。
【0047】
そして、実施例1〜3の各抽出成分を、超純水に溶解させて1mg/mLの濃度に調整し、0.2μmフィルター(ADVANTEC社製、Cellulose Acetate 0.2μm)を通した後、この溶液100μLを、リン酸カリウム緩衝液にヨウ化銀を加えて1mg/mLの濃度に調整したブランク1mLに添加し、抗氷核活性値を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0048】
表1に示すように、実施例1、2、3の抽出成分の抗氷核活性値は、それぞれ1.4℃、3.6℃、4.3℃であり、吸着画分を酢酸エチルで抽出することによって抗氷核活性値が大きくなり、酢酸エチルで抽出し、さらに分子量3000以下画分に分画することによって、抗氷核活性値がより大きくなることがわかった。なお、実施例2で酢酸エチル層を分画した後の水槽の抗氷核活性値は、0℃であった。
【0049】
(実施例4)限外ろ過膜による抽出成分の取得(2)
実施例1と同様にして得られた抽出成分(吸着画分)を、超純水に溶解させて乾燥重量濃度が1mg/mLとなるように調整し、かかる調整液を、上記実施例3と同様にして、分画分子量が3000の限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行った。このように分画された分子量3000以下分画を回収し、凍結乾燥して、実施例4の抽出成分として分子量3000以下画分4.37gを得た。得られた抽出成分について、上記と同様にして抗氷核活性値を測定した。結果を表2に示す。
【表2】

【0050】
表2に示すように、抗氷核活性値は2.1℃であった。このことから、吸着画分からそのまま分子量3000以下画分を得る場合(実施例4)よりも、吸着画分から酢酸エチルで抽出した酢酸エチル画分を得る場合(実施例2)の方が、抗氷核活性値が大きくなり、吸着画分を得た後、酢酸エチルで抽出することが効果的であることがわかった。また、酢酸エチルに可溶な成分が、高い抗氷核活性を示すことが示唆された。
【0051】
(実施例5〜7)限外ろ過膜による抽出成分の取得(3)
実施例1と同様にして得られた抽出成分(吸着画分)を超純水に溶解させて乾燥重量濃度が1mg/mLとなるように調整し、かかる調整液について、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分画を行った。担体にはセファデックスLH−20(GEヘルスケアジャパン社製)を用い、溶出液には超純水を用いた。また、カラムのサイズは、φ15mm×100mmのものを用い、流速は0.3ml/minとした。ゲル濾過クロマトグラフィーとしては、フラッシュクロマトグラフSYS16020(東京理科器械株式会社製)を用いた。
【0052】
得られたチャートを図1に示す。図1において、横軸にはフラクション番号を示し、縦軸には275nmにおける吸光度(A275)を示している。図1により、3つのピークが認められ(図1においてピーク1、ピーク2、ピーク3)、ピーク1〜3のピーク頂点を示すフラクション番号37、51、70のフラクションについて紫外吸収スペクトルを測定した。得られた紫外吸収スペクトルチャートを図2(a)〜2(c)に示す。
【0053】
図2(a)〜(c)に示すように、各フラクションとも波長215nm付近にピークが見られたことから、各フラクションにはペプチド結合が存在していることが示唆された。また、図2(c)に示すように、ピーク3を示すフラクションには、波長275nm付近にショルダーピークが観察されたことから、芳香族が含まれている可能性が示唆された。
【0054】
そして、ピーク1、2、3を示す3つのフラクション37、51、70をそれぞれ実施例3と同様に凍結乾燥させて、実施例5、6、7の抽出成分を得た後、上記と同様にして抗氷核活性値を測定した。結果を表3に示す。
【表3】

【0055】
表3に示すように、実施例5、6、7の抽出成分の抗氷核活性値は、それぞれ1.8℃、2.0℃、5.3℃であり、実施例7の抽出成分の抗氷核活性値が最も大きかった。この結果、分子量が小さい成分の方が、高い抗氷核活性を示すことが示唆された。
【0056】
(実施例8〜13)各種の日本酒からの抽出成分についての抗氷核活性値測定
表4に示すように、大吟醸酒、吟醸酒、純米酒、本醸造酒、無ろ過生原酒、普通酒の6種類の日本酒を用いた。
【0057】
ここで、大吟醸酒は、精米歩合50%以下の白米、米麹、水、醸造アルコールを原料として製造されたものであり、吟醸酒は、精米歩合60%以下の白米と米麹及び水、またはこれらと醸造アルコールを原料として製造されたものであり、純米酒は、白米、米麹及び水を原料として製造されたものであり、本醸造酒は、精米歩合70%以下の白米、米麹、醸造アルコール及び水を原料として製造されたものであり、無ろ過生原酒は、製成後、ろ過も加熱処理もなされていないものであり、普通酒は、上記した大吟醸酒や吟醸酒等の特定名称酒以外の日本酒であり、一般に流通している日本酒である。
【0058】
これら6種類の日本酒から、実施例1と同様にして吸着画分を得ると共に、実施例3と同様にして酢酸エチル画分から限外ろ過により分子量3000以下画分を得て、それぞれの画分について、上記と同様にして抗氷核活性値を測定した。結果を表4に示す。
【表4】

【0059】
表4に示すように、いずれの日本酒においても、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤によって吸着分画して得られた抽出成分は、抗氷核活性を示し、これを酢酸エチルで抽出し、分子量3000以下画分に分画して得られた抽出成分は、より高い抗氷核活性を示すことが認められた。特に、大吟醸酒から抽出した実施例8、純米酒から抽出した実施例10、無ろ過生原酒から抽出した実施例12の抽出成分には、高い氷核活性を示すことが認められた。
【0060】
なお、実施例9、実施例11、実施例13の抽出成分の抗氷核活性値が低かったのは、吟醸酒、本醸造酒、普通酒は、米と麹以外に醸造アルコールが添加されたことや、日本酒に含まれる氷核活性物質自体の絶対量が少なかったことが一因であると推察される。
【0061】
一方、実施例8の抽出成分の氷核活性値が最も高かったことに鑑みると、大吟醸酒は米を削った割合(精米歩合)が高いことから、タンパク質量が多い米の外側ではなく、米の中心部の心白部分が氷核活性に寄与していることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本酒からの抽出成分を含有することを特徴とする抗氷核活性剤。
【請求項2】
日本酒の含有成分を合成吸着剤に吸着させ、該合成吸着剤に吸着された吸着物を日本酒からの抽出成分として含有することを特徴とする請求項1に記載の抗氷核活性剤。
【請求項3】
前記吸着物を、酢酸エチルで抽出し、該酢酸エチルで抽出された抽出物を日本酒からの抽出成分として含有することを特徴とする請求項2に記載の抗氷核活性剤。
【請求項4】
前記吸着物を限外ろ過膜によって分子量3000以下画分に分画し、該分子量3000以下画分を日本酒からの抽出成分として含有することを特徴とする請求項2に記載の抗氷核活性剤。
【請求項5】
前記抽出物を限外ろ過膜によって分子量3000以下画分に分画し、該分子量3000以下画分を日本酒からの抽出成分として含有することを特徴とする請求項3に記載の抗氷核活性剤。
【請求項6】
日本酒の含有成分を合成吸着剤に吸着させる吸着工程を含み、前記合成吸着剤に吸着された吸着物を日本酒からの抽出成分として含有させることを特徴とする抗氷核活性剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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