説明

抗炎症ペプチド

本発明は、特に、炎症性の皮膚状態を改善する方法に関する。従って、本発明によれば、アミノ酸配列KMIKPを含んで成るペプチドであって、70個未満のアミノ酸を含んで成り、且つアレルゲン誘導型のランゲルハンス細胞遊走を阻害することができ、且つ配列番号19で表されるペプチドでないペプチドが提供される。本発明はまた、炎症性の皮膚状態の処置のための局所用薬物の製造における、アミノ酸配列KMIKPを含んで成るペプチドであって、100個未満のアミノ酸を含んで成り、且つアレルゲン誘導型のランゲルハンス細胞遊走を阻害することができるペプチドの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、炎症性の皮膚状態を改善する方法に関する。炎症性の皮膚状態は、ケモカイン及びサイトカインの発現の変化、特に炎症誘発性サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)−1α、IL−1β及び腫瘍壊死因子α(TNF−α)の活性の増大と関連していることが知られている。これらの同一のサイトカイン類は、皮膚の免疫応答の開始における中心的役割を果たしていることも知られており、事実、表皮ランゲルハンス細胞(LC)が皮膚から遊走するための強制的なシグナルを提供している。表皮からのLCの移動、及び皮膚の流入領域リンパ節におけるそれらのその後の蓄積は、その部位(局所的なリンパ節)に対する抗原の輸送の提供のための機構をもたらし、当該部位で一次免疫応答が誘導される。
【0002】
本発明は、特定のチオレドキシン由来ペプチドが、表皮LCの遊走を阻害することができるという驚くべき発見に基づくものであり、これは皮膚に局所的に適用された場合の炎症誘発性サイトカインの発現の混乱とも一致する。
【0003】
従って、本発明によれば、アミノ酸配列KMIKPを含んで成るペプチドであって、70個未満のアミノ酸を含んで成り、且つアレルゲン誘導型のランゲルハンス細胞遊走を阻害することができ、且つWCGPCKMIKPFF(配列番号19)でないペプチドが提供される。
【0004】
好ましくは、本発明のペプチドは、60又は50又は40又は30又は20又は10個未満のアミノ酸を含んで成る。より好ましくは、当該ペプチドは、
【化1】

から成る群から選択される。
【0005】
本発明は更に、本発明のペプチドを含んで成る医薬組成物を提供するものである。好ましくは、当該医薬組成物は、溶液、ゲル、ローション、軟膏、クリーム及びペーストから成る群から選択される。
【0006】
本発明は、また更に、医薬としての本発明のペプチドの使用に関する。
【0007】
本発明はまた、炎症性の皮膚状態の処置のための局所用薬物の製造における、アミノ酸配列KMIKPを含んで成るペプチドであって、100個未満のアミノ酸を含んで成り、且つアレルゲン誘導型のランゲルハンス細胞遊走を阻害することができるペプチドの使用に関する。好ましくは、炎症性の皮膚状態とは、乾癬、扁平苔癬、アトピー性湿疹、刺激性又はアレルギー性の接触皮膚炎、接触蕁麻疹、乳児湿疹及び尋常性座瘡から成る群から選択される。
【0008】
本発明は更に、本発明のポリペプチドをコードする核酸配列に関する。
【0009】
本発明はまた更に、前記ペプチドの製造方法に関する。適切な場合、当該ペプチドは、当業者に周知の方法を用いる化学合成によって製造される。より長いペプチドの場合、可能性として、組換えDNA技術を使用して前記ペプチドを提供してもよく、また、当業者に周知の方法を用いてもよい。
【0010】
本発明は更に、本発明のペプチドの「保存的変異体」に関する。「保存的変異体」とは、KMIKPモチーフにおける1又は複数のアミノ酸が類似の特性を有するアミノ酸で置換されていることを意味しており、そして、前記ペプチドの生体活性は実質的に置換後も保持されている。
【実施例】
【0011】
以下のペプチドを化学的に合成した。
【化2】

【0012】
組換えヒトチオレドキシン(rhTRX)(配列番号14)も本実験の一部に含められる。
【化3】

【0013】
種々の組織研究を実施して、前述のポリペプチドのそれぞれがアレルゲン(オキサゾロン)誘導型のランゲルハンス細胞(LC)遊走に与える影響を試験した。特に断らない限り、適用はμgの値である。
【0014】
実験1
本実験の目的は、ペプチド1の局所適用が、LCの動員に影響を及ぼすことが知られている強力な接触アレルゲンである、オキサゾロンに対する同一部位でのその後の曝露によって誘導されるLC遊走の完全性に影響を及ぼすことができるか否かを決定することである。代表的な実験結果を図1に示す。この結果は、ペプチド1の事前曝露がアレルゲン誘導型のLC遊走を阻害しないことを示している。
【0015】
実験2
本実験の目的は、ペプチド3の局所適用が、同一部位へのオキサゾロンのその後の曝露によって誘導されたLC遊走の完全性に影響を及ぼすことができるか否かを決定することである。3つの独立した実験結果を図2に示す。この結果は、どの場合でもペプチド3に対する事前曝露が、試験した最高濃度(0.5μg)でのアレルゲン誘導型LC遊走の完全(又はほぼ完全)な阻害をもたらすことを示している。これらの3つの実験のうち2つで、ペプチド3によるアレルゲン誘導型LC遊走の用量依存性阻害についての幾つかの兆候が見られる。導かれる結論としては、局所適用されたペプチド3が、刺激物、この場合接触アレルゲンであるオキサゾロンに応じてLCの効果的な動員及び遊走に必要とされる1又は複数の生物学的過程を阻害することができること、である。
【0016】
実験3
本実験の目的は、ペプチド1及びペプチド3の同時比較解析を実施することである。本実験の結果は図3に示すとおりであり、これは前記実験の知見、すなわち、ペプチド3の事前曝露は、アレルゲン誘導型のLC遊走の実質的な阻害をもたらすこと、一方、ペプチド1の同一の事前曝露はアレルゲン誘導型のLC遊走を阻害しないこと、を確認するものである。
【0017】
実験4
本実験の目的は、ペプチド7の局所適用が、同一部位へのオキサゾロンのその後の曝露によって誘導されたLC遊走の完全性に影響を及ぼすことができるか否かを決定することである。代表的な実験の結果を図4に示す。この結果は、ペプチド7の事前曝露がアレルゲン誘導型のLC遊走を阻害しないことを示している。
【0018】
実験5
本実験の目的は、ペプチド合成バッチ(pep3−1及びpep3−2)間での活性に変化が見られるか否かを決定することであり、また、ペプチドRV−1の活性を試験することである。代表的な実験結果を図5に示す。この結果は、ペプチドRV−1の事前曝露がアレルゲン誘導型のLC遊走を阻害せず、そして活性の僅かな変化がペプチド合成バッチ間で観察されることを示している。
【0019】
実験6
本実験の目的は、ペプチドRV−1の用量応答を試験することである。代表的な実験結果を図7に示す。
【0020】
実験7
本実験の目的は、ペプチド3、ペプチドRV−1及び9量体(CGPCKMIKP)を比較することである。代表的な実験結果を図7に示す。これらの結果は、試験したペプチドの全てが活性であることを示している。
【0021】
実験8
この実験の目的は、9量体ペプチド(CGPCKMIKP)の用量応答を試験することである。代表的な実験結果を図8に示す。当該実験結果により、前記9量体ペプチドが試験した全ての用量で活性であることが確認される。
【0022】
実験9
本実験の目的は、前記9量体ペプチド(CGPCKMIKP)がIL−1β又はTNF−αによって誘導されるランゲルハンス細胞遊走に影響を及ぼしうるか否かを研究することである。代表的な実験結果を図9に示す。これらの実験結果は、前記9量体ペプチドの事前局所曝露が、相同のTNF−αの皮内(id)注射によって誘導されるランゲルハンス細胞遊走のほぼ完全な阻害をもたらすことができることを示している。対照的に、同一の方法で適用された前記9量体ペプチドは、相同のIL−1βのid投与によって引き起こされるランゲルハンス細胞遊走の完全性に影響を及ぼさない。前記9量体ペプチドの局所投与は、IL−1β機能の混乱と関連していると考えられる。
【0023】
実験10
本コントロール実験の目的は、前記9量体(CGPCKMIKP)及びコントロールの「スクランブル」9量体(IPCMPKCKG)の活性を試験することである。代表的な実験結果を図10に示す。この結果は、前記9量体ペプチドと同一のアミノ酸を含んで成るスクランブル9量体が生物学的に活性でないことから、9量体ペプチドのアミノ酸の順序が生体活性を保持するのに重要であることを示している。
【0024】
実験11
本実験の目的は、前記9量体(CGPCKMIKP)の活性を確認すること、そして活性であることが示されているペプチドKMIMPの活性を試験することである。代表的な実験結果を図11に示す。
【0025】
実験12
本比較実験の目的は、本発明のペプチドの誘導した組換えチオレドキシン(hTRX)(配列番号14)、前記9量体ペプチド(CGPCKMIKP)、KMIKPペプチド及びCGPCペプチドの活性を示すことである。全てのペプチドは、等モル用量(1.38μM)で適用され、これは0.5μgのhTRX、0.04μgの前記9量体ペプチド、0.025μgのKMIKPペプチド及び0.016μgのCGPCペプチドに等しい。代表的な実験結果を図12に示す。この図によると、CGPCペプチドを除く全てのものが生体活性を示すようであることが分かる。
【0026】
実験13
本実験の目的は、前記9量体ペプチド(CGPCKMIKP)、コントロールのシステイン無しの「スクランブル」9量体(IPAMPKAKG)及びシステイン無しの9量体ペプチド(AGPAKMIKP)の活性を比較することである。代表的な実験結果を図13に示す。この図によると、前記9量体ペプチド(CGPCKMIKP)及びシステイン無しの9量体ペプチド(AGPAKMIKP)は活性であるが、コントロールのシステイン無しの「スクランブル」9量体が活性でないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
全ての図において、「OX」とはオキサゾロンのことである。
【図1】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ペプチド1の用量応答実験。
【図2】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ペプチド3の用量応答実験。
【図3】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ペプチド1対ペプチド3の比較実験。
【図4】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ペプチド7の用量応答実験。
【図5】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ペプチド3(3−1及び3−2)及びペプチドRV−1の2つの独立した調製物。
【図6】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ペプチドRV−1の用量応答実験。
【図7】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ペプチド3、ペプチドRV−1及び9量体(CGPCKMIKP)の比較実験。
【図8】表皮ランゲルハンス細胞遊走−9量体(CGPCKMIKP)の用量応答実験。
【図9】表皮ランゲルハンス細胞遊走−9量体(CGPCKMIKP)及びIL−1β又はTNF−αによって誘導されるランゲルハンス細胞の遊走に影響を及ぼすか否かを調べるための実験。
【図10】表皮ランゲルハンス細胞遊走−9量体(CGPCKMIKP)及び「スクランブル」9量体(IPCMPKCKG)の活性を示すコントロール実験。
【図11】表皮ランゲルハンス細胞遊走−9量体(CGPCKMIKP)及びKMIMPペプチドの活性を示す比較実験。
【図12】表皮ランゲルハンス細胞遊走−ヒトチオレドキシン(配列番号14)、9量体(CGPCKMIKP)、KMIKPペプチド及びCGPCペプチドの活性を示す比較実験。
【図13】表皮ランゲルハンス細胞遊走−9量体(CGPCKMIKP)、システイン無しの「スクランブル」9量体(IPAMPKAKG)及びシステイン無しの9量体ペプチド(AGPAKMIKP)の活性を示す比較実験。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列KMIKPを含んで成るペプチドであって、70個未満のアミノ酸を含んで成り、且つアレルゲン誘導型のランゲルハンス細胞遊走を阻害することができ、且つ配列番号19でないペプチド。
【請求項2】
20個未満のアミノ酸を含んで成る、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号3、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号16、配列番号17及び配列番号18から成る群から選択されるアミノ酸配列を含んで成る、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを含んで成る医薬組成物。
【請求項5】
溶液、ゲル、ローション、軟膏、クリーム及びペーストから成る群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬としての使用のための請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
炎症性の皮膚状態の処置のための局所用薬物の製造における、アミノ酸配列KMIKPを含んで成るペプチドであって、100個未満のアミノ酸を含んで成り、且つアレルゲン誘導型のランゲルハンス細胞遊走を阻害することができるペプチドの使用。
【請求項8】
前記炎症性の皮膚状態が乾癬、扁平苔癬、アトピー性湿疹、刺激性又はアレルギー性の接触皮膚炎、接触蕁麻疹、乳児湿疹及び尋常性座瘡から成る群から選択される、請求項7に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−518370(P2009−518370A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543886(P2008−543886)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004510
【国際公開番号】WO2007/066081
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(505395858)ザ・ユニバーシティ・オブ・マンチェスター (18)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MANCHESTER
【Fターム(参考)】