説明

抗炎症剤および抗炎症剤の製造方法

【課題】 高い安全性を有し、かつ経口投与した場合でも全身において有効である上、その抗炎症効果は市販の抗炎症薬に匹敵するほど高い抗炎症剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸、またはタンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドやアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸を有効成分とする抗炎症剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤および抗炎症剤の製造方法に関し、より詳細には、タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸、またはタンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドやアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸を有効成分とする抗炎症剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、生体が何らかの有害な刺激を受けたときに誘起される生体防御反応であり、血管拡張、血管透過性亢進、白血球遊走、結合組織増殖などの組織反応が誘起され、発赤、発熱、腫脹、疼痛などの炎症症状が発現する。慢性的な炎症は、腰痛、肩こり、関節痛を始めとする種々の疾病の原因となり、発癌の一因にもなり得る。
【0003】
従って、炎症の予防や治療、症状緩和は大きな課題であり、抗炎症剤の開発が多数行われている。抗炎症剤としては、例えば、ステロイド系抗炎症剤や非ステロイド系抗炎症剤などが知られているが、これらの薬剤は副作用を示す場合があるため、より安全で有効な抗炎症剤の開発が求められている。
【0004】
一方、本発明者らは、従来、魚肉などの筋肉タンパク質の利用に関して研究開発を行っており、本発明者らの特許文献1には水溶性の還元糖付加筋肉タンパク質が開示されている。また、非特許文献1には、鶏卵アルブミンのグルコース付加物が炎症性物質である一酸化窒素(NO)や炎症性サイトカイン(TNF−αおよびIL−6)の産生を誘導することが、非特許文献2には、ラクトグロブリンや血清アルブミンの糖化物が炎症シグナルのカスケードを活性化させないことが、非特許文献3には、ラクトグロブリンのマルトペンタオース付加物が炎症性サイトカイン(TNF−αおよびIL−6)の産生を抑制することがそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−169634号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sladjana D.ら、J.Neurochem.、第87巻、第44−55頁、2003年
【非特許文献2】Timo M.Buetlerら、Mol.Natul.Food Res.、第52巻、第370−378頁、2008年
【非特許文献3】Enomotoら、J.Dairy Sci.、第92巻、第3057−3068頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された水溶性の還元糖付加筋肉タンパク質、非特許文献1に開示された鶏卵アルブミンのグルコース付加物、非特許文献2に開示されたラクトグロブリンや血清アルブミンの糖化物および非特許文献3に開示されたラクトグロブリンのマルトペンタオース付加物は、いずれもタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドやアミノ酸ではない。また、特許文献1に開示された水溶性の還元糖付加筋肉タンパク質が抗炎症効果を有するか否かについて、特許文献1にはなんら記載も示唆もない。また、非特許文献1に開示された鶏卵アルブミンのグルコース付加物は炎症性物質の産生を誘導するものであり、抗炎症効果とは逆の作用効果を有している。さらに、非特許文献3に開示されたラクトグロブリンのマルトペンタオース付加物が有する炎症性サイトカイン産生抑制効果は、極めて僅かである。
【0008】
本発明は、タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸、またはタンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドやアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸を有効成分とする抗炎症剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸、ないしタンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドやアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸が、NO産生抑制効果、炎症性サイトカイン産生抑制効果および浮腫増大抑制効果を有することを見出し、下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)下記の(a)または(b)を有効成分とする抗炎症剤;(a)タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドおよび/または還元糖が付加されたアミノ酸、(b)タンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドおよび/またはアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドおよび/または還元糖が付加されたアミノ酸。
【0011】
(2)タンパク質が、軟体動物または甲殻類の筋肉、魚肉、畜肉もしくは獣肉の少なくともいずれか由来の筋肉タンパク質である、請求項1に記載の抗炎症剤。
【0012】
(3)炎症性疾患予防および/または治療剤である、請求項1または請求項2に記載の抗炎症剤。
【0013】
(4)下記(1)または(2)の工程を有する抗炎症剤の製造方法;(1)(i)タンパク質に還元糖を付加させる工程、(ii)前記還元糖を付加させたタンパク質をタンパク質分解酵素で処理する工程、(2)(iii)タンパク質をタンパク質分解酵素で処理してペプチドおよび/またはアミノ酸を得る工程、(iv)前記ペプチドおよび/またはアミノ酸に還元糖を付加する工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る抗炎症剤は、動物の筋肉タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸、または動物の筋肉タンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドやアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドや還元糖が付加されたアミノ酸を有効成分としており、高い安全性を有している。また、本発明に係る抗炎症剤は、経口投与した場合でも全身において有効である上、その抗炎症効果は市販の抗炎症薬に匹敵するほど高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、還元糖が付加されたペプチド/アミノ酸(Peptides/Amino acids made from Reducing sugar−added and Protease−treated protein;PARP)の調製工程を説明したフロー図である。
【図2】保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチド(A)、ならびに保持時間をそれぞれ1時間(B)、2時間(C)、3時間(D)および4時間(E)として調製したPARPについて、反応性リジン残基含量および還元糖付加量を測定した結果を示す図である。図中、反応性リジン残基含量のシンボルを○で示し、還元糖付加量のシンボルを△で示す。
【図3】保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチドを添加したRAW264.7細胞(a)、保持時間を1,2,3および4時間として調製したPARPを添加したRAW264.7細胞(b)、(c)、(d)および(e)、ならびにPARPを添加しないRAW264.7細胞をそれぞれ培養し、培養上清中の一酸化窒素(NO)量を測定して、PARPを添加しないRAW264.7細胞における培養上清中のNO産生量を100%とした場合のNO産生率を算出した結果を示す図である。
【図4】PARPおよび還元糖を意図的に付加していないペプチド/アミノ酸(Peptides/Amino acids made from Protease−treated protein;PAP)のいずれも添加しないRAW264.7細胞(g)、終濃度100μg/mL、200μg/mL、300μg/mL、400μg/mLおよび500μg/mLのPARPを添加したRAW264.7細胞(h)、(i)、(j)、(k)および(l)、ならびに終濃度500μg/mLのPAPを添加したRAW264.7細胞(m)をそれぞれ培養し、培養上清中のNO量を測定した結果を示す図である。
【図5】保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチドを添加したRAW264.7細胞(n)、保持時間を1、2、3および4時間として調製したPARPを添加したRAW264.7細胞(o)、(p)、(q)および(r)をそれぞれ培養し、培養上清中のTNF−α量を測定して、PARPを添加しないRAW264.7細胞における培養上清中のTNF−α量を100%とした場合のTNF−α産生率を算出した結果を示す図(左図)、ならびに同細胞の培養上清中のIL−6量を測定して、PARPを添加しないRAW264.7細胞における培養上清中のIL−6量を100%とした場合のIL−6産生率を算出した結果を示す図(右図)である。
【図6】PARPおよびPAPのいずれも添加しないRAW264.7細胞(t)、終濃度100μg/mL、200μg/mL、300μg/mL、400μg/mLおよび500μg/mLのPARPを添加したRAW264.7細胞(u)、(v)、(w)、(x)および(y)、ならびに終濃度500μg/mLのPAPを添加したRAW264.7細胞(z)をそれぞれ培養し、培養上清中のTNF−α量を測定した結果を示す図(左図)およびIL−6量を測定した結果を示す図(右図)である。
【図7】生理食塩水を経口投与した後にカラギーナンを皮下注射したマウス(コントロール群)、保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチド(0時間群)、ならびに保持時間を2および4時間として調製したPARPをそれぞれ経口投与した後にカラギーナンを皮下注射したマウス(2時間群および4時間群)について、カラギーナンの皮下注射から0、1、2、3、4および5時間後に足蹠容積を測定して浮腫増大率を算出した結果を示す図(上図)、ならびに浮腫増大率のArea Under Curve(AUC)を算出した結果を示す図(下図)である。
【図8】生理食塩水を経口投与した後にカラギーナンを皮下注射したマウス(コントロール群)、保持時間を4時間として調製したPARPを経口投与した後にカラギーナンを皮下注射したマウス(4時間群)、およびインドメタシンを経口投与した後にカラギーナンを皮下注射したマウス(インドメタシン群)について、カラギーナンの皮下注射から0、1、2、3、4および5時間後に足蹠容積を測定して浮腫増大率を算出した結果を示す図(上図)、ならびに浮腫増大率のAUCを算出した結果を示す図(下図)である。
【図9】PARPおよびPAPを等電点電気泳動装置に供して得られた計20の画分(画分番号1、2、3、・・・20とする)の等電点を示す図である。
【図10】PARPおよびPAPを等電点電気泳動装置に供して得られた計20の画分(画分番号1、2、3、・・・20とする)をRAW264.7細胞に添加して培養し、培養上清中のNO量を測定した結果を示す図(上段図)、TNF−α量を測定した結果を示す図(中段図)およびIL−6量を測定した結果を示す図(下段図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る抗炎症剤および抗炎症剤の製造方法について詳細に説明する。本発明に係る抗炎症剤は下記の(a)または(b)を有効成分とする;
(a)タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドおよび/または還元糖が付加されたアミノ酸、
(b)タンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドおよび/またはアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドおよび/または還元糖が付加されたアミノ酸。
【0017】
本発明における「タンパク質」としては、例えば、コラーゲンやケラチンなどの生体構造を形成するタンパク質や、アクチンやミオシンなどの筋肉を構成するタンパク質、カゼインなどの乳タンパク質、ビテリン、30kDaタンパク質、卵特異タンパク質などの卵黄タンパク質、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイド、卵白ムチンなどの卵白タンパク質、血清アルブミン、グロブリンなどの血清タンパク質などを挙げることができる。なお、本実施例においては、筋肉タンパク質を好適なタンパク質として用いている。
【0018】
筋肉タンパク質は原生動物、中生動物および海綿動物を除くすべての動物が有しており、本発明におおける「筋肉タンパク質」は、そのうちのいずれの動物に由来するものでもよい。本発明において、筋肉タンパク質の由来としては、例えば、軟体動物や甲殻類、爬虫類や両生類の筋肉、魚肉、ウシやウマ、ブタ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ヤギ、イヌ、ネコなどの家畜の畜肉、ウサギやシカ、イノシシ、クマなどの野生動物の獣肉などを挙げることができる。また、筋肉タンパク質は、骨格筋、内臓筋、横紋筋、平滑筋、随意筋、不随意筋または心筋の別を問わない。
【0019】
本発明において、「ペプチド」は、タンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるものであり、そのアミノ酸残基数は特に限定されず、例えば、2〜4残基、5〜7残基、8〜10残基、11〜15残基、16〜20残基、21〜30残基、31〜40残基、41〜55残基、56〜75残基、76〜100残基、101残基以上のアミノ酸残基数を挙げることができるが、それらのうちのいずれでもよい。
【0020】
本発明において、「還元糖」は、すべての単糖や還元末端を有するオリゴ糖を挙げることができる。具体的には、単糖としては、例えば、ソルビトール、グリセルアルデヒド、グルコース、フルクトース、エリトルロース、リブロース、リボース、デオキシリボース、フコース、ヘプトースなどを挙げることができる。還元末端を有するオリゴ糖としては、例えば、ラクツロース、ラクトース、アラビノース、マルトース、コージビオース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ツラノースなどの還元性二糖類や、セロトリオース、ソラトリオースなどの還元性三糖類、セロテトラオースなどの還元性四糖類、セロペンタオースなどの還元性五糖類のほか、アルギン酸オリゴ糖やキトサンオリゴ糖などを挙げることができる。なお、オリゴ糖は一般に単糖が2〜10分子重合したものをいうが、本発明においてオリゴ糖は還元末端を有するものである限り、その重合数はいずれでもよい。
【0021】
本発明において、タンパク質やペプチド、アミノ酸に還元糖を付加させる方法は、常法に従い行うことができ、特に限定されないが、そのような方法としては、例えば、メイラード反応により行う方法などを挙げることができる。
【0022】
一般にメイラード反応とは、還元糖とアミノ化合物(タンパク質やペプチド、アミノ酸など)のαアミノ基またはεアミノ基との間でおこる反応として知られており、シッフ塩基形成および転移反応を経て比較的無色なアマリド化合物を生成するまでの初期反応と、更に複雑な重合反応を経て褐色の高分子(メライノジン)を生成する中期・終期反応からなる。メイラード反応は、温度や時間、水分含量(湿度)、触媒の有無に依存してその反応速度が変化し、例えば、初期反応については、相対湿度65−70%の条件下で反応が促進される(化学総説No.43 食糧と化学 社団法人日本化学会編、学会出版センター 昭和59年2月28日発行 第107−109頁)。また、メイラード反応は概して加熱条件下で促進されるが、常温でも進行する。
【0023】
すなわち、本発明においては、タンパク質やペプチド、アミノ酸の反応性リジン残基と還元糖の還元末端との間でメイラード反応をさせることにより、タンパク質に還元糖を付加することができる。温度や時間、水分含量(湿度)などのメイラード反応の条件は、タンパク質や還元糖の種類や量、触媒添加の有無や種類、達成すべき品質基準などに応じて、適宜設定することができる。なお、本実施例においては、タンパク質と還元糖とを、触媒を添加せずに60℃、相対湿度35%の環境下で保持することによりメイラード反応をさせている。
【0024】
本発明において、タンパク質やペプチド、アミノ酸に還元糖が付加されたか否かや、還元糖が付加された量(還元糖付加量)は、常法に従い確認することができ、そのような方法としては、例えば、オルトフタルアルデヒド(OPA)法やフェノール硫酸法を挙げることができる。すなわち、還元糖を付加させる反応を行ったタンパク質やペプチド、アミノ酸について、OPA法により反応性リジン残基含量を、フェノール硫酸法により還元糖量を測定し、測定した反応性リジン残基含量の値が大きい場合は、還元糖付加量が少ないと評価することができ、測定した還元糖量の値が大きい場合は、還元糖付加量が多いと評価することができる。
【0025】
本発明において、「タンパク質分解酵素」は、エキソ型、エンド型のいずれでもよく、比較的分子量の大きなタンパク質を基質とするプロテナーゼでも、比較的分子量の小さなタンパク質を基質とするペプチダーゼでもよい。また、基質特異性の比較的高いものでもよく、比較的低いものでもよい。タンパク質分解酵素として、具体的には、例えば、キモトリプシン、トリプシン、スブチリシン、ペプシン、カテプシンD、HIVプロテアーゼ、サーモリシン、パパイン、カスパーゼ、N末端スレオニンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、ブロメライン、ショウガプロテアーゼ、フィシン、アクチニジン、マイタケプロテアーゼ、ナットウキナーゼなどを挙げることができる。
【0026】
本発明において、タンパク質をタンパク質分解酵素で処理する方法は、常法に従い行うことができ、例えば、タンパク質分解酵素を溶媒に希釈して、タンパク質と混合し、インキュベートすることにより行うことができる。溶媒の種類やpH、タンパク質分解酵素の濃度、インキュベートする温度や時間などは、用いるタンパク質分解酵素の種類、タンパク質における還元糖付加の有無、タンパク質に付加させた還元糖の量や種類、タンパク質の量や種類などに応じて、適宜設定することができる。
【0027】
本発明において、抗炎症剤の抗炎症効果は、常法に従い確認することができる。in vitroで確認する方法としては、例えば、細胞に抗炎症剤を添加して培養し、培養上清中の一酸化窒素(NO)の量をGriess法により測定する方法や、培養上清中のTNF−αやIL−6、IL−1βなどの炎症性サイトカインの量をELISA法により測定する方法を挙げることができる。また、本発明に係る抗炎症剤を添加して培養した細胞における、Inducible NO synthase遺伝子やCyclooxygenase2遺伝子、種々の炎症性サイトカイン遺伝子などのRNA発現量を定量PCR法やin situ hybridization法により確認してもよい。これら炎症に伴いRNA発現が上昇する遺伝子の発現量が、抗炎症剤を添加した場合に、それを添加しない場合と比較して、減少した場合は抗炎症効果を有すると評価することができる。
【0028】
また、本発明に係る抗炎症剤の抗炎症効果をin vivoで確認する方法としては、マウスやラットなどの実験動物にカラギーナンを皮下注射して浮腫を誘発し、本発明に係る抗炎症剤を投与した場合と投与しない場合とで、浮腫の大きさを比較する方法を挙げることができる。
【0029】
本発明に係る抗炎症剤は、長期間にわたって摂取を続けても、また大量に投与しても、副作用がほとんど生じない。したがって、本発明の抗炎症剤は、安全であるので、抗炎症作用により、炎症性疾患の予防や治療剤として用いることができ、ヒトの健康維持に大きな効果を奏するものである。また、長期間摂取や投与をしても安全であるので、健康食品や機能性食品、化粧品や石鹸、シャンプーなどのボディークレンジング製品、ロ−ション類、乳液類、クリ−ム類、パック類、サンスクリーン類、浴用剤などに配合して用いることもできる。
【0030】
炎症性疾患としては、肩関節周囲炎(いわゆる肩凝り)、炎症性角化症(乾癬など)、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患、慢性関節リウマチ、全身性エリトマトーテス(SLE)、ベーチェット病などの慢性炎症性疾患である自己免疫疾患、B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝炎、薬物アレルギー性肝炎などの炎症性肝疾患、腎炎、糸球体腎炎などの炎症性腎疾患、気管支炎などの炎症性呼吸器疾患、口内炎、喉頭炎、声帯炎、音声障害、人工臓器・人工血管使用時に起こる炎症、非ステロイド性消炎剤による消化管粘膜障害、癌、動脈硬化症、腸粘膜障害などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記腸粘膜障害としては、単純性原発性小腸潰瘍、非特異性結腸潰瘍、非特異性炎症による潰瘍性大腸炎、クローン(Crohn)病などの原因不明のものなどがあり、さらに感染、循環障害、膠原病、放射線、薬剤などが原因で起こる障害などを挙げることができる。
【0031】
次に、本発明は、抗炎症剤の製造方法を提供する。本発明に係る抗炎症剤の製造方法は、下記(1)または(2)の工程を有する;
(1)(i)タンパク質に還元糖を付加させる工程、(ii)前記還元糖を付加させたタンパク質をタンパク質分解酵素で処理する工程、
(2)(iii)タンパク質をタンパク質分解酵素で処理してペプチドおよび/またはアミノ酸を得る工程、(iv)前記ペプチドおよび/またはアミノ酸に還元糖を付加する工程。なお、本発明に係る抗炎症剤の製造方法法において、上述した本発明に係る抗炎症剤の構成と同等または相当する構成については再度の説明を省略する。
【0032】
本発明に係る抗炎症剤の製造方法においては、必要とする抗炎症剤の純度や態様などに応じて、上述の(1)または(2)の工程の他に、原料タンパク質の洗浄工程、粉砕工程、凍結乾燥工程、未反応還元糖の洗浄工程、還元糖付加の確認工程などを1または2回以上行ってもよい。
【0033】
以下、本発明に係る抗炎症剤および抗炎症剤の製造方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0034】
<実施例1>還元糖が付加されたペプチド/アミノ酸(Peptides/Amino acids made from Reducing sugar−added and Protease−treated protein;PARP)の調製
(1)タンパク質への還元糖の付加
産卵回帰シロザケから筋肉タンパク質を採取して洗浄し、これを魚肉とした。魚肉タンパク質:アルギン酸オリゴ糖(平均重合度が約6)=1:1(w/w)となるよう混合したものを計5サンプル用意し、A、B、C、DおよびEとした。A、B、C、DおよびEを凍結乾燥に供した後、「60℃、相対湿度35%」の環境下で、Bは1時間、Cは2時間、Dは3時間、Eは4時間それぞれ保持することにより、魚肉タンパク質にアルギン酸オリゴ糖を付加させて、還元糖付加タンパク質を得た(以下、「60℃、相対湿度35%」の環境下で保持した時間を「保持時間」という)。なお、Aは「60℃、相対湿度35%」の環境下で保持しなかった。
【0035】
(2)未反応の還元糖の洗浄除去
本実施例(1)のA、B、C、DおよびEを、50mmol/L塩化ナトリウム溶液で洗浄することにより、タンパク質に付加していない還元糖を除去した。なお、糖付加によって筋肉タンパク質の一部が水溶化するが、これは加熱変性させて不溶化してから洗浄し除去すればよい。
【0036】
(3)タンパク質分解酵素処理および凍結乾燥
本実施例(2)のA、B、C、DおよびEについて、1%(w/w:タンパク質濃度比)ペプシンをpH2.0、37℃で3時間反応させることにより、ペプシン処理を行った。続いて、1%(w/w)トリプシンをpH8.0、37℃で3時間反応させることによりトリプシン処理を行った後、凍結乾燥を行うことにより、還元糖が付加されたペプチド/アミノ酸(Peptides/Amino acids made from Reducing sugar−added and Protease−treated protein;PARP)を得た。すなわち、Aにおいては保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチド、Bにおいては保持時間を1時間として調製したPARP、Cにおいては保持時間を2時間として調製したPARP、Dにおいては保持時間を3時間として調製したPARP、およびEにおいては保持時間を4時間として調製したPARPを得た。本実施例(1)〜(3)における、PARPの調製工程を図1に示す。
【0037】
(4)還元糖付加の確認
本実施例(3)のA、B、C、DおよびEについて、オルトフタルアルデヒド(OPA)法により反応性リジン残基含量を、フェノール硫酸法によりアルギン酸オリゴ糖の量(還元糖付加量)を、それぞれ測定し、反応性リジン残基含量はAを100%とした。その結果を図2に示す。
【0038】
図2に示すように、反応性リジン残基含量(シンボルが○)は、A>B>C>D>Eであり、還元糖付加量(シンボルが△)はA<B<C<D<Eであった。すなわち、保持時間が長くなるほど、反応性リジン残基が減少し、還元糖付加量が増加することが確認された。これらの結果から、PARPの調製工程における保持時間が長くなるほど、タンパク質中のリジン残基への還元糖の付加が進行することが明らかになった。なお、Aの還元糖付加量が約25μg/mgとなっているのは、凍結乾燥過程によっても還元糖が付加されたことを示す。
【0039】
<実施例2>PARPの抗炎症効果の検討(in vitroでの検討)
(1)NO産生抑制効果の検討
[1−1]還元糖付加量が異なるPARPにおける一酸化窒素(NO)産生抑制効果
〈1−1−1〉細胞へのPARPの添加
マウスのマクロファージ様細胞株であるRAW264.7細胞を2.0×10個/ウェルとなるよう播いた培養皿を6枚用意し、a、b、c、d、eおよびfとした。a、b、c、d、eおよびfを2時間培養した後、培養上清を除去した。続いて、リン酸生理食塩水(PBS)を用いて3回洗浄した後、DMEM+10%FBS培地を添加した。次に、a、b、c、d、eおよびfに、下記のとおりPARPを添加した。
【0040】
a;保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチド(実施例1(3)のA)
終濃度500μg/mL
b;保持時間を1時間として調製したPARP(実施例1(3)のB)
終濃度500μg/mL
c;保持時間を2時間として調製したPARP(実施例1(3)のC)
終濃度500μg/mL
d;保持時間を3時間として調製したPARP(実施例1(3)のD)
終濃度500μg/mL
e;保持時間を4時間として調製したPARP(実施例1(3)のE)
終濃度500μg/mL
f;(添加しない)
【0041】
続いて、a、b、c、d、eおよびfにIFN−γを終濃度1ng/mLとなるよう添加し、さらに細菌由来リポ多糖(LPS)を終濃度5ng/mLとなるよう添加した後、a、b、c、d、eおよびfを24時間培養し、上清を回収した。
【0042】
〈1−1−2〉NO産生量の測定
本実施例(1)[1−1]〈1−1−1〉のa、b、c、d、eおよびfについて、回収した培養上清中の一酸化窒素(NO)量をGriess法により測定し、これをNO産生量とした。続いて、fにおけるNO産生量を100%とした場合の、a、b、c、dおよびeにおけるNO産生量の割合(NO産生率)を算出した。その結果を図3に示す。
【0043】
図3に示すように、NO産生率は、a、b、c、dおよびeのいずれも100%より小さい値であった。また、a、b、c、dおよびeの間でNO産生率を比較すると、a>b>c>d>eであった。これらの結果から、PARPはNOの産生を抑制すること、およびPARPの調製工程における保持時間が長い、すなわちPARPにおける還元糖付加量が多いほどNO産生の抑制効果が大きいことが明らかになった。
【0044】
[1−2]添加量が異なるPARPのNO産生抑制効果
〈1−2−1〉PARPの調製
実施例1(1)〜(3)に記載の方法に従って、保持時間を3時間としたPARPを調製した。
【0045】
〈1−2−2〉還元糖を意図的に付加していないペプチド/アミノ酸(Peptides/Amino acids made from Protease−treated protein;PAP)の調製
産卵回帰シロザケから筋肉タンパク質を採取して洗浄し、これを魚肉とした。実施例1(3)に記載の方法に従ってペプシン処理、トリプシン処理および凍結乾燥を行い、還元糖を意図的に付加していないペプチド/アミノ酸(Peptides/Amino acids made from Protease−treated protein;PAP)を調製した。
【0046】
〈1−2−3〉細胞へのPARPの添加およびNO産生量の測定
RAW264.7細胞を2.0×10個/ウェルとなるよう播いた培養皿を7枚用意し、g、h、i、j、k、lおよびmとした。次に、本実施例(1)[1−1]〈1−1−1〉に記載の方法に従って、g、h、i、j、k、lおよびmの細胞へPARPまたはPAPを添加した。g、h、i、j、k、lおよびmに添加したPARPまたはPAP、ならびにその終濃度は下記のとおりとした。
【0047】
g;添加しない
h;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度100μg/mL
i;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度200μg/mL
j;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度300μg/mL
k;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度400μg/mL
l;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度500μg/mL
m;本実施例(1)[1−2]〈1−2−2〉のPAP 終濃度500μg/mL
【0048】
続いて、g、h、i、j、k、lおよびmについて、本実施例(1)[1−1]〈1−1−2〉に記載の方法に従ってNO産生量を測定した。その結果を図4に示す。
【0049】
図4に示すように、h、i、j、kおよびlのNO産生量はgと比較していずれも少なかった。一方で、mのNO産生量はgと比較して多かった。また、h、i、j、kおよびlの間でNO産生量を比較すると、g>h>i>j>k>lであった。これらの結果から、PAPはNOの産生を抑制しないのに対し、PARPはNOの産生を抑制することが明らかになった。また、PARPの添加量が多いほど、NO産生抑制効果が大きくなることが明らかになった。
【0050】
(2)炎症性サイトカイン産生抑制効果の検討
[2−1]還元糖付加量が異なるPARPの炎症性サイトカイン産生抑制効果
〈2−1−1〉細胞へのPARPの添加
RAW264.7細胞を2.0×10個/ウェルとなるよう播いた培養皿を6枚用意し、n、o、p、q、rおよびsとした。次に、本実施例(1)[1−1]〈1−1−1〉に記載の方法に従ってn、o、p、q、rおよびsの細胞へPARPを添加した。g、h、i、j、k、lおよびmに添加したPARPおよびその終濃度は下記のとおりとした。なお、すべてのサンプルについてIFN−γは添加しなかった。
【0051】
n;保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチド(実施例1(3)のA)
終濃度500μg/mL
o;保持時間を1時間として調製したPARP(実施例1(3)のB)
終濃度500μg/mL
p;保持時間を2時間として調製したPARP(実施例1(3)のC)
終濃度500μg/mL
q;保持時間を3時間として調製したPARP(実施例1(3)のD)
終濃度500μg/mL
r;保持時間を4時間として調製したPARP(実施例1(3)のE)
終濃度500μg/mL
s;(添加しない)
【0052】
〈2−1−2〉炎症性サイトカイン産生量の測定
本実施例(2)[2−1]〈2−1−1〉のn、o、p、q、rおよびsについて、ELISA法を用いて培養上清中のTNF−αの量およびIL−6の量を測定し、それぞれTNF−α産生量およびIL−6産生量とした。続いて、sにおけるTNF−α産生量およびIL−6産生量をそれぞれ100%とした場合のn、o、p、qおよびrにおけるTNF−α産生量の割合(TNF−α産生率)およびIL−6産生量の割合(IL−6産生率)を算出した。その結果を図5に示す。
【0053】
図5左図に示すように、TNF−α産生率は、n、o、p、qおよびrのいずれも100%より小さい値であった。また、n、o、p、qおよびrの間でTNF−α産生率を比較すると、n>o>p>q>rであった。このことから、PARPの調製工程における保持時間が長いすなわちPARPにおける還元糖付加量が多いほど、TNF−α産生の抑制効果が大きいことが明らかになった。また、図5右図に示すように、IL−6産生率は、n、o、p、qおよびrのいずれも100%より小さい値であった。また、n、o、p、qおよびrの間でIL−6産生率を比較すると、n>o>p>q>rであった。このことから、PARPの調製工程における保持時間が長いすなわちPARPにおける還元糖付加量が多いほど、IL−6産生の抑制効果が大きいことが明らかになった。
【0054】
これらの結果から、PARPは炎症性サイトカインの産生を抑制すること、およびPARPにおける還元糖付加量が多いほど炎症性サイトカインの産生抑制効果が大きいことが明らかになった。
【0055】
[2−2]添加量が異なるPARPの炎症性サイトカイン産生抑制効果
RAW264.7細胞を2.0×10個/ウェルとなるよう播いた培養皿を7枚用意し、t、u、v、w、x、yおよびzとした。次に、本実施例(2)[2−1]〈2−1−1〉に記載の方法に従ってt、u、v、w、x、yおよびz細胞へPARPを添加した。t、u、v、w、x、yおよびzに添加したPARPおよびその終濃度は下記のとおりとした。
【0056】
t;(添加しない)
u;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度100μg/mL
v;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度200μg/mL
w;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度300μg/mL
x;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度400μg/mL
y;本実施例(1)[1−2]〈1−2−1〉のPARP 終濃度500μg/mL
z;本実施例(1)[1−2]〈1−2−2〉のPAP 終濃度500μg/mL
【0057】
続いて、t、u、v、w、x、yおよびzについて、本実施例(2)[2−1]〈2−1−2〉に記載の方法に従ってTNF−α産生量およびIL−6産生量を測定した。その結果を図6に示す。
【0058】
図6左図に示すように、u、v、w、x、yおよびzのTNF−α産生量はtと比較していずれも少なかった。また、u、v、w、x、yおよびzの間でTNF−α産生量を比較すると、u≒z>v>w>x>yであった。これらの結果から、PAPおよびPARPはいずれもTNF−αの産生を抑制するが、その効果はPARPの方が大きいことが明らかになった。また、PARPの添加量が多いほど、TNF−α産生抑制効果が大きくなることが明らかになった。
【0059】
また、図6右図に示すように、u、v、w、x、yおよびzのIL−6産生量は、いずれもtと比較して少なかった。また、u、v、w、x、yおよびzの間でIL−6産生量を比較すると、u>z>v>w>x>yであった。これらの結果から、PAPおよびPARPはいずれもIL−6の産生を抑制するが、その効果はPARPの方が大きいことが明らかになった。また、PARPの添加量が多いほど、IL−6産生抑制効果が大きくなることが明らかになった。
【0060】
これらの結果から、PARPは炎症性サイトカインの産生を強く抑制すること、およびPARPの添加量が多いほど炎症性サイトカイン産生抑制効果が大きいことが明らかになった。
【0061】
(3)還元糖としてマルトオリゴ糖を用いたPARPの抗炎症効果
アルギン酸オリゴ糖をマルトオリゴ糖に代えて、実施例1(1)〜(3)に記載の方法に従ってPARPを調製し、これをマルトオリゴ糖PARPとした。マルトオリゴ糖PARPについて、本実施例(1)[1−1]〈1−1−1〉および〈1−1−2〉に記載の方法に従ってNO産生率を求めたところ、NO産生率は62%と顕著に低い値であった。また、マルトオリゴ糖PARPについて、本実施例(2)[2−1]〈2−1−1〉および〈2−1−2〉に記載の方法に従ってTNF−α産生率を求めたところ、TNF−α産生率は16%と極めて低い値であった。
【0062】
すなわち、アルギン酸オリゴ糖に代えてマルトオリゴ糖を用いたPARPは、アルギン酸オリゴ糖を用いたPARPと同様、NO産生抑制効果およびTNF−α産生抑制効果を有することが明らかになった。これらの結果から、PARPは、構成する還元糖の種類に関わらず、抗炎症効果を有することが明らかになった。
【0063】
<実施例3>PARPの抗炎症効果の検討(in vivoでの検討)
(1)PARPの浮腫増大抑制効果の検討
[1−1]還元糖付加量が異なるPARPの浮腫増大抑制効果
〈1−1−1〉PARPの経口投与およびカラギーナンの皮下注射
8週齢の雄のICRマウスを8匹ずつ4群にわけて、コントロール群、0時間群、2時間群および4時間群とした。各群のマウスを16時間絶食させた後、下記のとおりPARPを生理食塩水に溶解して経口投与した。
【0064】
コントロール群;生理食塩水
0時間群 ;保持時間を0時間として調製した還元糖を意図的に付加していないペプチド(実施例1(3)のA)
300mg/kg×マウス個体の体重(kg)量
2時間群 ;保持時間を2時間として調製したPARP(実施例1(3)のC)
300mg/kg×マウス個体の体重(kg)量
4時間群 ;保持時間を4時間として調製したPARP(実施例1(3)のE)
300mg/kg×マウス個体の体重(kg)量
【0065】
PARPの経口投与から1時間後に、各群のマウスの足の裏(足蹠)に1%カラギーナン溶液を0.04mLずつ皮下注射した。なお、カラギーナンをげっ歯類に皮下注射すると浮腫などの炎症を惹起することが知られている(Winterら、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.、第111巻、第544−547頁、1962年)。
【0066】
〈1−1−2〉足蹠の容積の測定
本実施例(1)[1−1]〈1−1−1〉のコントロール群、0時間群、2時間群および4時間群について、カラギーナンの皮下注射から0、1、2、3、4および5時間経過後に、Plethymometerを用いて足蹠の容積を測定し、その測定結果に基づいて、下記の式を用いて浮腫増大率を算出した。また、浮腫増大率について、Area Under Curve(AUC)を求めた。
【0067】
式;浮腫増大率(%)={(1、2、3、4または5時間経過時の容積−0時間経過時の容積)/0時間経過時の容積}×100
【0068】
また、浮腫増大率および浮腫増大率のAUCについて、Tukey−Kramer法により各群間の有意差検定を行った。その結果を図7に示す。なお、図7において、各群間の有意差はアルファベット(a、b、bc、またはc)で示す。各群間でアルファベットが異なる場合は有意差あり(p<0.05)を意味し、アルファベットが同じである場合は有意差なし(p≧0.05)を意味するものとする。例えば、aの場合はb、cおよびbcとは有意差があるがaとは有意差がないことを意味し、bcの場合はaとは有意差があるがb、cおよびbcとは有意差がないことを意味する。
【0069】
図7上図に示すように、浮腫増大率については、コントロール群と比較して0時間群は、1、2、3および4時間経過時点において有意に小さく、5時間経過時点において小さい傾向であった。2時間群および4時間群は、1、2、3、4および5時間経過時点のいずれにおいても有意に小さかった。浮腫増大率について0時間群、2時間群および4時間群の間で比較すると、0時間群>2時間群>4時間群の傾向であった。また、図7下図に示すように、浮腫増大率のAUCについては、コントロール群と比較して0時間群、2時間群および4時間群はいずれも有意に小さかった。浮腫増大率のAUCについて0時間群、2時間群および4時間群の間で比較すると、0時間群>2時間群>4時間群の傾向であった。
【0070】
これらの結果から、PARPは生体に投与した場合に抗炎症効果を有すること、および生体に投与するPARPにおける還元糖付加量が多いほど、抗炎症効果が大きいことが明らかになった。
【0071】
[1−2]市販の抗炎症薬とPARPとの比較
8週齢の雄のICRマウスを8匹ずつ3群にわけて、コントロール群、4時間群およびインドメタシン群とした。各群のマウスに、本実施例(1)[1−1]〈1−1−1〉に記載の方法に従って、生理食塩水に溶解したPARPの経口投与およびカラギーナンの皮下注射を行った。ただし、インドメタシン群にはPARPに代えて市販の抗炎症薬であるインドメタシンを生理食塩水に溶解して経口投与した。すなわち、コントロール群、4時間群およびインドメタシン群に経口投与したものは、下記のとおりとした。
【0072】
コントロール群 ;生理食塩水
4時間群 ;保持時間を4時間として調製したPARP(実施例1(3)のE)
300mg/kg×マウス個体の体重(kg)量
インドメタシン群;インドメタシン
10mg×/kgマウス個体の体重(kg)量
【0073】
続いて、本実施例(1)[1−1]〈1−1−2〉に記載の方法に従って浮腫増大率および浮腫増大率のAUCの算出を行った。その結果を図8に示す。
【0074】
図8上図に示すように、浮腫増大率については、コントロール群と比較して4時間群は1、2、3および4時間経過時点において有意に小さく、5時間経過時点において小さい傾向であった。また、インドメタシン群は1、2、3、4および5時間経過時点のいずれにおいても有意に小さかった。浮腫増大率について4時間群およびインドメタシン群の間で比較すると、5時間経過時点においては4時間群>インドメタシン群であったが、1、2、3および4時間経過時点においてはほぼ同じであった。また、図8下図に示すように、浮腫増大率のAUCについては、コントロール群と比較して4時間群およびインドメタシン群はいずれも有意に小さかった。浮腫増大率のAUCについて4時間群およびインドメタシン群の間で比較すると、ほぼ同じであった。
【0075】
これらの結果から、生体に投与した場合のPARPの抗炎症効果は、市販の抗炎症薬に匹敵するほど強力であることが明らかになった。
【0076】
(2)タンパク質として鶏肉由来の筋肉タンパク質を用いたPARPの抗炎症効果
産卵回帰シロザケの筋肉タンパク質を鶏肉の筋肉タンパク質に代えて、実施例1(1)〜(3)に記載の方法に従ってPARPを調製し、これを鶏肉PARPとした。また、産卵回帰シロザケの筋肉タンパク質を鶏肉の筋肉タンパク質に代えて、実施例2(1)[1−2]〈1−2−2〉に記載の方法に従ってPAPを調製し、これを鶏肉PAPとした。鶏肉PARPおよび鶏肉PAPについて、本実施例(1)[1−1]に記載の方法に従って浮腫増大抑制効果を確認したところ、鶏肉PAPは浮腫増大抑制効果を有さなかったのに対し、鶏肉PARPは浮腫増大抑制効果を有した。
【0077】
すなわち、産卵回帰シロザケの筋肉タンパク質に代えて鶏肉の筋肉タンパク質を用いたPARPは、産卵回帰シロザケの筋肉タンパク質を用いたPARPと同様に、抗炎症効果を有することが明らかになった。これらの結果から、PARPは、構成するタンパク質の種類に関わらず、抗炎症効果を有することが明らかになった。
【0078】
<実施例4>等電点電気泳動画分の抗炎症効果の検討(in vitroでの検討)
(1)等電点電気泳動画分の調製
実施例1(1)〜(3)に記載の方法に従ってPARPを調製した。また、実施例2(1)[1−2]〈1−2−2〉に記載の方法に従ってPAPを調製した。続いて、PARPおよびPAPを、等電点電気泳動装置(ロトフォア;バイオラド社)に供して、それぞれ計20の画分(画分番号1、2、3、・・・20とする)を得た。各画分の等電点を図9に示す。
【0079】
(2)等電点電気泳動画分のNO産生抑制効果および炎症性サイトカイン抑制効果
本実施例(1)の各画分について、実施例2(1)[1−1]〈1−1−1〉および〈1−1−2〉に記載の方法に従ってNO産生量を、実施例2(2)[2−1]〈2−1−1〉および〈2−1−2〉に記載の方法に従ってTNF−α産生量およびIL−6産生量をそれぞれ測定した。また、PARPまたはPAPを添加しないRAW264.7細胞を2.0×10個/ウェルについてのNO産生量、TNF−α産生量およびIL−6産生量をコントロールとした。その結果を図10に示す。
【0080】
図10上段に示すように、NO産生量は、PARPの画分番号5(等電点1.21)および画分番号6(等電点1.59)を用いた場合に、顕著に減少した。また、図10中段に示すように、TNF−α産生量は、PARPの画分番号12(等電点12.0)および13(等電点12.5)を用いた場合に、顕著に減少した。また、図10下段に示すように、IL−6産生量は、PARPの画分番号5(等電点1.21)、6(等電点1.59)、12(等電点12.0)および13(等電点12.5)を用いた場合に、顕著に減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)または(b)を有効成分とする抗炎症剤;
(a)タンパク質に還元糖を付加させてタンパク質分解酵素で処理して得られる還元糖が付加されたペプチドおよび/または還元糖が付加されたアミノ酸、
(b)タンパク質をタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチドおよび/またはアミノ酸に還元糖を付加させた還元糖が付加されたペプチドおよび/または還元糖が付加されたアミノ酸。
【請求項2】
タンパク質が、軟体動物または甲殻類の筋肉、魚肉、畜肉もしくは獣肉の少なくともいずれか由来の筋肉タンパク質である、請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
炎症性疾患予防および/または治療剤である、請求項1または請求項2に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
下記(1)または(2)の工程を有する抗炎症剤の製造方法;
(1)(i)タンパク質に還元糖を付加させる工程、
(ii)前記還元糖を付加させたタンパク質をタンパク質分解酵素で処理する工程、
または、
(2)(iii)タンパク質をタンパク質分解酵素で処理してペプチドおよび/またはアミノ酸を得る工程、
(iv)前記ペプチドおよび/またはアミノ酸に還元糖を付加する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−229165(P2012−229165A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96656(P2011−96656)
【出願日】平成23年4月24日(2011.4.24)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】