説明

抗炎症剤

【課題】抗炎症作用を有する抗炎症剤、及びこれを含有する外用剤の提供
【解決手段】リノレイルエタノールアミド、Oleoyletehanolamideから選択される少なくとも1種を含有する抗炎症剤である。または抗炎症剤を有効成分とする外用剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リノレイルエタノールアミド、オレオイルエタノールアミドを有効成分として含有する抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、主に外界の刺激によって誘起される生体防御反応であり、血管拡張、血管透過性亢進、白血球遊走、結合組織増殖などの組織反応が、キニン、アミン、ペプチド、エイコサノイドなどの化学的メディエイターによって誘起され、発赤、発熱、腫脹、疼痛などの炎症症状が発現する。抗炎症剤は、このような疾病を軽減又は治癒する薬物であり、ステロイド系抗炎症剤や非ステロイド系抗炎症剤など作用の異なる薬剤が知られている。しかし上記薬剤には副作用を示すものが認められる場合があり、長期にわたって利用するには安全性に問題があるものもある。
従来、有用な抗炎症剤を提供すべく、種々の提案があり、アシタバ黄汁から分離される4‐ハイドロキシデリシン等を含む抗炎症剤(特許文献1参照)等があるが、さらなる有用な抗炎症剤の開発が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−1898
【0004】
一方、脂肪酸アルカノールアミドの1種であるリノレオイルエタノールアミド及びオレオイルエタノールアミドには、核受容体ペルオキシソーム増殖物質活性化受容体α(PPAR-α)を活性化することによって脂肪分解を促進することや、睡眠時の自律神経安定作用により睡眠関連呼吸障害を予防することが知られている。
【0005】
【非特許文献1】Jin Fu et al. “Oleoylethanolamide regulates feeding and body weight through activation of the nuclearreceptor PPAR-α” Nature, vol. 425, pp. 90-93, 2003
【0006】
【特許文献2】特表2004−532215
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち本発明は、第一に優れた抗炎症作用を有し、安全性が高く、原料の入手が容易な天然由来の抗炎症剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、第2に前記抗炎症作用を有する外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、酒粕中に含まれる成分であるリノレイルエタノールアミド、オレオイルエタノールアミドが炎症を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明において有効成分として使用されるリノレイルエタノールアミド、オレオイルエタノールアミドは、いずれも食品等に含まれる成分である。すなわち、リノレイルエタノールアミド及びオレオイルエタノールアミドは従来から食品として摂取されてきた天然成分の一種であり、人体に対する安全性が確認されている。従って、本発明によれば、安全且つ優れた抗炎症剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の抗炎症剤は、リノレイルエタノールアミド、オレオイルエタノールアミドから選択される少なくとも一種を含有してなり、さらに必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0011】
各薬剤はリノレイルエタノールアミド、もしくはオレオイルエタノールアミドのみからなるものであってもよく、用途等に応じた酒粕抽出物等のその他の成分を含むものであっても良い。
【0012】
(外用剤)
本発明の外用剤は、本発明の抗炎症剤を含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
【0013】
前記外用剤とは、各種薬剤を意味し、例えば、化粧料、医薬部外品、医薬品、等が含まれる。外用剤の具体例としては、肌に対するものとして、軟膏、パップ、クリーム、クリーム、乳液、エッセンス、ローション、パック、ゼリー、ファンデーション等を例示でき、頭皮に対するものとして、トニック、リンス、シャンプー、アストリンゼント、ヘアクリーム、ヘアフォーム、ヘアスプレー、ヘアジェル等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
前記その他の成分としては、前記外用剤を製造するに当り通常用いられる補助的原料又は添加物等が上げられる。
前記原料又は添加物としては、本発明の効果を損なわない範囲で選択すればよく、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素消去剤、精製水、低級アルコール、多価アルコール、油脂、粉体、界面活性剤、色素、防腐剤、香料等が挙げられる。
【0015】
本発明の外用剤は通常の外用剤として知られる種々の形態の基剤に配合して調製することができる。
本発明の抗炎症剤の外用剤への配合量は、外用剤全量に対し乾燥固形分として、好ましくは0.001-10質量%の範囲であり、より好ましくは0.01-5質量%の範囲である。
【0016】
本発明の外用剤は高い安全性を有し、有効成分であるリノレイルエタノールアミド、オレオイルエタノールアミドの働きによって炎症を効果的に抑制し得、これにより、炎症が関係する各種疾患の予防または治療することができる。
【0017】
以上に説明した本発明の抗炎症剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、本発明の作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用されても良い。
【0018】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
本試験ではTPA(12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)が誘発する炎症に対する抑制効果を確認した。
【0020】
具体的には、マウスの耳に予め所定量のリノレイルエタノールアミド又はオレオイルエタノールアミドを塗布した後、TPAによって誘発されるマウス耳の炎症性浮腫の質量を測定することで阻害効果を算出した。この時、基本的に(Cancer Letters, 1984年, 第25巻, 177-185)に従って、マウスの一方の耳にリノレイルエタノールアミドを所定量してから30分経過した後に、リノレイルエタノールアミドを塗布した箇所と反対側の耳にTPAを0.5 mg塗布する。その後、7時間経過した後に、TPAによって誘発される炎症性浮腫の質量を測定して反対側の耳(コントロール)と比較し、これら炎症性浮腫の質量減少を抗炎症活性として各阻害効果を算出した。
【0021】
この結果、表1に示すように、リノレイルエタノールアミドを塗布した場合、有意に炎症を抑制した。
【表1】

【0022】
(実施例2)
TNFαによるNF-κBの核内移行に対するリノレイルエタノールアミドの阻害効果
ヒト腎臓由来HEK293細胞(細胞数5×105個)を6穴プレートに播種し、24時間培養した。HEK293細胞10 μM、あるいは20 μMのリノレイルエタノールアミドを30分間作用させ、続けて、10 ng/mlのTNFαを30分間処理した。細胞から核タンパク質を抽出し、核内移行したNF-κBをWestern Blotting法により検出した(図1-(A)、図1-(B))。10 μM、ならびに20 μMの結果において、バンドの濃さを数値化し、TNFαのみ処理した場合を100%に、なにも処理していない場合を0%としてグラフに示した(図1-(C))。
【0023】
この結果、図1-(C)に示すように、リノレイルエタノールアミドの添加濃度依存的にNF-κBの核内移行を抑制した。
【0024】
(実施例3)
LPSによるNF-κBの核内移行に対するリノレイルエタノールアミドの阻害効果
マウスマクロファージ細胞株RAW細胞(細胞数5×105個)を6穴プレートに播種し、24時間培養した。RAW細胞に20 μMのリノレイルエタノールアミドと100 ng/mlのLPSとを30分間作用させ、続けて、細胞から核タンパク質を抽出した。核内移行したNF-κBはWestern Blotting法により検出した(図2-(A))。バンドの濃さを数値化し、LPSのみを処理した場合を100%に、何も処理していない場合を0%としてグラフに示した(図2-(B))。
【0025】
この結果、図2-(B)に示すように、リノレイルエタノールアミドの添加濃度依存的にNF-κBの核内移行を抑制した。
【0026】
(実施例4)
LPSによるTNFα産生に対するリノレイルエタノールアミドの阻害効果
マウスマクロファージ細胞株RAW細胞(細胞数1×105個)を12穴プレートに播種し、24時間培養した。RAW細胞に20 μMのリノレイルエタノールアミドと100 ng/mlのLPSとを24時間作用させ、細胞から産生された培地中のTNFα量をELISA法により測定した。
【0027】
この結果、図3に示すように、リノレイルエタノールアミドを20μM添加することにより、TNF-αの産生を51%に抑制した。
【0028】
以上の結果より、リノレイルエタノールアミドは、免疫反応において中心的役割を果たし、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与しているNF-κBの核内移行抑制作用、炎症性サイトカインのTNF-α産生抑制作用に基づく優れた抗炎症剤であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】TNFαによるNF-κBの核内移行に対するリノレイルエタノールアミドの阻害効果の実験図
【図2】LPSによるNF-κBの核内移行に対するリノレイルエタノールアミドの阻害効果の実験図
【図3】LPSによるTNFα産生に対するリノレイルエタノールアミドの阻害効果の実験図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リノレイルエタノールアミド及び/又は薬理学的に許容されるその塩を含有することを特徴とする抗炎症剤。
【請求項2】
オレオイルエタノールアミド及び/又は薬理学的に許容されるその塩を含有することを特徴とする抗炎症剤。
【請求項3】
請求項1から2に記載の抗炎症剤を有効成分として含有する外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−285386(P2010−285386A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141462(P2009−141462)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(591118775)白鶴酒造株式会社 (16)
【出願人】(507307374)学校法人神戸学院 (9)
【Fターム(参考)】