説明

抗炎症剤

【課題】オウレンエキスおよびオウバクエキスのもつ抗炎症作用に影響を及ぼすことなくそれらの細胞毒性を抑制すること。
【解決手段】(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスと、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスとを含有する抗炎症剤であって、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスに対して、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量が、乾燥エキス換算で、0.2〜2.5質量倍である抗炎症剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスを含有する抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症とは、外傷や熱傷、感染、アレルギー反応などの有害な刺激に対し、生体が示す防御反応である。組織や細胞に損傷を受けた生体は、損傷の広がりを抑え、原因を排除し、組織や細胞を修復するが、その過程で生じる浮腫、発熱、痛み、機能障害などの症状を炎症という。
これらの炎症の一部に対するiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)やCOX−2(誘導型シクロオキシナーゼ)の関与が知られている。
【0003】
iNOSは、マクロファージ、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、消化管上皮細胞、気管支上皮細胞、肝実質細胞、中枢神経系細胞など様々な器官に広く存在する酵素であり、通常は活性を示さないが、細胞が炎症性サイトカインや細菌などの刺激を受けると活性化し、大量の一酸化窒素(NO)を産生する。
【0004】
COX−2は、生体が炎症などの刺激を受けて生成する酵素であり、腎髄質、肺、胃などでPGE2(プロスタグランジンE2)を生成する。PGE2は、かゆみ、アレルギー、疼痛、発熱、炎症促進作用を有し、さらには、癌細胞の増殖作用、抗腫瘍免疫抑制作用も有するとされている。アスピリンなどのNSAIDs系抗炎症剤は、COX−2によるPGE2合成を阻害して痛みを緩和するCOX−2産生阻害剤である。
【0005】
天然由来原料を用いたiNOS産生阻害剤、COX−2産生阻害剤がいくつか報告されている。例えば、特許文献1は、ローズマリー抽出液、カルノソール、カルノシン酸、コーヒー豆の抽出液、サクラダソウ抽出液、オウレン抽出液、オウバク抽出液、カンゾウ抽出液、イヌノイバラの抽出液、センキュウ抽出液、トウニン抽出液、シャクヤク抽出液、ヨクイニン抽出液の少なくとも1種を含有するiNOS産生阻害剤を開示している。また、特許文献2は、COX−2産生阻害効果を有するハーブ組成物として、ホーリーバジル、ショウガ、コガネバナ、緑茶、中国オウレンからの抽出液を挙げている。これらの公報に記載の組成物は、上述の通り天然由来原料を用いており、一般的には化学合成原料を用いたものよりも副作用の不安は小さいと考えられているが、それでも、例えばオウレンエキスは、利用者の体質や体調によって下痢や食欲不振等の症状を引き起こすことが知られており、したがってオウレンエキスのiNOS産生抑制効果、COX−2産生抑制効果を抗炎症剤として用いるにはなお問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−87975号公報
【特許文献2】特開2004−532212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、エキスを用いた副作用の少ない抗炎症剤であって、抗炎症効果に優れ、細胞毒性の弱い抗炎症剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、オウレンエキスおよびオ
ウバクエキスは、優れたiNOS産生抑制効果およびCOX−2産生抑制効果を有すること、オウレンエキスおよびオウバクエキスのもつ副作用の原因がそれらの強い細胞毒性にあること、そして、オウレンエキスおよびオウバクエキスの細胞毒性は、オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスに対してトウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの混合エキスを特定の比率で併用することにより特異的に緩和し、その際、iNOS産生抑制効果およびCOX−2産生抑制効果は損なわれないことを見出し、その知見に基づき本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、
1)(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスと、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスとを含有する抗炎症剤であって、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスに対して、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量が、乾燥エキス換算で、0.2〜2.5質量倍である抗炎症剤、
2)(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスが、2〜6質量部のトウキ、2〜6質量部のシャクヤク、2〜6質量部のセンキュウおよび、2〜6質量部のジオウの各生薬原体の混合物から、生薬原体の1〜50質量倍の抽出溶媒で抽出されたエキスである第(1)項に記載の抗炎症剤、
3)(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスに替えて、四物湯エキスを用いた第(1)項に記載の抗炎症剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
オウレンエキスおよびオウバクエキスの優れた抗炎症作用を阻害することなく、細胞毒性を緩和した本発明の抗炎症剤を用いることにより、体内外で炎症を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗炎症剤は、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスと、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスとを含有する抗炎症剤であって、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスの総量に対する(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量が、乾燥エキス換算で0.2〜2.5質量倍の抗炎症剤である。(A)の総量に対する(B)の総量は、好ましくは0.5〜2.5質量倍、より好ましくは0.8〜2.2質量倍、さらに好ましくは1.0〜2.0質量倍、さらに好ましくは1.0〜1.9質量倍であり、例えば、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8または1.9質量倍である。
【0012】
本発明で用いる各種エキスの抽出方法を以下に例示するが、下記以外の方法で得られたエキスを用いても良く、抽出溶媒を蒸発、または凍結乾燥して得られる乾燥エキスを用いても良い。
本発明で用いるオウレンエキスは、キンポウゲ科の植物である黄連(Coptis japonica Makino)の根茎から抽出されたアルカノイドを成分とするエキスであるが、根茎以外の部位を用いてもよく、さらには同属植物から抽出されたエキスを用いることもできる。
オウバクエキスは、ミカン科の黄柏(Phellodendron amurense Ruprecht)、または同属植物のコルク層を除いた樹皮から抽出されたベルベリンなどを成分とするエキスであるが、樹皮以外の部位から抽出されたエキスを用いることもできる。
トウキエキスは、セリ科の当帰(Angelica acutiloba Kitagawa)の根茎からの抽出された精油、タマリンなどを成分とするエキスであるが、根茎以外の部位を用いてもよく、さらには同属植物から抽出されたエキスを用いることもできる。
シャクヤクエキスは、ボタン科の芍薬(Paeonia lactiflora Pallas)、または同属植物(Paeoniaceae)の根の外皮を除去して乾燥した細末から抽出されたモノテルペン配糖体などを成分とするエキスであるが、根のみならず、他の部位から抽出されたエキスを用いることもできる。
センキュウエキスは、セリ科のセンキュウ(Cnidium officinale Makino)の根茎から抽出された精油などを含有するエキスであるが、根茎以外の部位を用いても良く、さらには同属植物から抽出されたエキスを用いることもできる。
ジオウエキスは、ゴマノハグサ科の地黄(Rehmannia glutinosa Liboschitz var.purpurea Makino)の塊状根から抽出されたイリドイド配糖体などを含有するエキスであるが、根以外の部位を用いても良く、さらには同属植物から抽出されたエキスを用いることもできる。
【0013】
エキスとして生の植物から抽出したものを用いることもできるが、抽出効率の観点から、乾燥、粉砕などの処理を行った後で抽出されたエキスを用いるのが好ましい。
【0014】
本発明で用いるエキスの抽出溶剤に特に制限はなく、水、低級アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなど)、液状の多価アルコール(例えば、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、アセトニトリル、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、炭化水素類(例えば、ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィンなど)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテルなど)などの各種の溶剤を用いることができる。これらの溶剤は1種を単独で用いることができ、2種以上の溶剤を任意に組み合わせて使用することもできる。中でも水、水溶性有機溶媒、またはこれらの混合溶媒による抽出が好ましい。
【0015】
溶媒による抽出は公知の方法に従って行うことができる。例えば、水、水溶性有機溶媒またはこれらの混合溶媒を抽出溶媒として用いた場合、乾燥生薬に対して1〜50質量倍、好ましくは5〜20質量倍の抽出溶媒で、かつ抽出溶媒の沸点より低い温度条件下で、0.1〜50時間、好ましくは2〜24時間抽出することによりエキスを得ることができる。抽出効率の観点から抽出温度としては50〜100℃が好ましい。抽出操作は静置状態で行っても良いが、より効率的に抽出するには適度に攪拌させるのが望ましい。また抽出残渣に対して、数回の抽出操作を繰り返すこともできる。濾液と抽出残渣の分離は高温で実施するのが好ましい。低温ではエキスの抽出溶媒への溶解度が低下するため、分離された濾液中のエキス量が低下するおそれがある。好ましい分離温度は用いる溶剤により異なるが、好ましくは50℃以上である。
【0016】
本発明の抗炎症剤は、オウレンエキスおよびオウバクエキスの細胞毒性を、トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスを併用することで特異的に緩和したものであるが、オウレンエキスおよびオウバクエキスの抗炎症性を損なわないためには、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスの総量に対して、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量を、乾燥エキス換算で0.2〜2.5質量倍とする必要がある。(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスの総量に対する(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量が前記下限値未満では、細胞毒性緩和効果が期待できず、前記上限値を超えると、十分な抗炎症効果を得られないおそれがある。
【0017】
本発明において(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスは、2〜6質量部のトウキ、2〜6質量部のシャクヤク、2〜6質量部のセンキュウおよび、2〜6質量部のジオウの各生薬原体の混合物から抽出されたエキスを用いる
ことができ、トウキ、シャクヤク、センキュウおよびジオウから別々に抽出して得られたエキスを混合することもできるが、抽出効率の観点から、各生薬原体を混合し一括して抽出したエキスを用いるのが好ましい。
【0018】
(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスとして、漢方処方で四物湯エキスと呼ばれるエキスを用いることもできる。四物湯エキスは、それぞれ3〜4質量部のトウキ、シャクヤク、センキュウ、ジオウから抽出されたエキスである(以下、トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキス、ジオウエキスの混合エキスを四物湯エキスとも言う)。抽出には前記の抽出溶媒を用いることができる。また市販の漢方薬にある四物湯エキスを用いることもできる。
【0019】
本発明の抗炎症剤は、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスと(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスからなるものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲において、オウレンエキス、オウバクエキス、トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスに、他のエキスを含有することもできる。例えば1.5〜2質量部のオウレンおよび1.5〜3質量部のオウバクと、2〜3質量部のオウゴン、2〜3質量部のサンシシからなる漢方薬処方を黄連解毒湯といい、これから抽出されたエキスを黄連解毒湯エキスというが、このようなオウレンエキスおよび/またはオウバクエキスを含有するエキスを(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスと併用して本発明の抗炎症剤とすることもできる。黄連解毒湯エキスを用いた場合の(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの併用比率は、黄連解毒湯エキス中のオウレンエキス及びオウバクエキスの含有量を基準として求めることができる。
さらに、本発明の抗炎症剤はオウレン、オウバク、トウキ、シャクヤク、センキュウおよびジオウの各生薬原体の混合物から一括して抽出されたエキスを用いることもできる。
【0020】
本発明の抗炎症剤に含有される前記エキスは、安全性が確認され、すでに医薬品や化粧品などに配合されている成分であり、内用剤や飲食物などにして経口投与することも、皮膚外用剤、浴用剤などにして経皮投与することもできる。
【0021】
本発明の抗炎症剤を内用剤に配合して、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などとする場合、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤のような担体を用いることができ、必要に応じて、着色料、香料、防腐剤を添加することもできる。成人の1日当たりの好ましい内用量は、乾燥エキス量で1mg〜10gであり、より好ましくは10mg〜1gである。
本発明の抗炎症剤を飲食物や飼料に配合する場合の剤型に特に制限はなく、例えば、ビスケット、クッキー、キャンディー、錠剤やカプセルなどの固形剤、飲料などの液体製剤、ゼリーなどの半固形製剤など任意の形態とすることができる。成人の1日当たりの好ましい摂取量は、乾燥エキス量で1mg〜10gであり、より好ましくは10mg〜1gである。
【0022】
本発明の抗炎症剤を皮膚外用剤に配合して製剤するときの剤型に制限はなく、ペースト剤、クリーム、ジェル、軟膏、ローション、乳液、パック、パウダー、パップ剤などの形態とすることができ、またはエキスを紙製品に含浸して用いることもできる。皮膚外用剤に配合するエキスの量に特に制限はないが、皮膚外用剤中の乾燥エキスの総配合量として、0.001〜50質量%であることが好ましい。本発明のエキスを配合した皮膚外用剤の使用量にも特に制限はないが、乾燥エキス量で成人1日当たり0.1〜1000mgとなる量を、1〜数回に分けて用いることが好ましい。
【0023】
本発明の抗炎症剤を浴用剤に製剤する場合の剤型にも制限はなく、粉末、顆粒状などの
固形製剤、乳液、ペースト状などの液体製剤などの形態をとることができる。浴用剤に配合可能なエキスの量に特に制限はないが、乾燥エキス量として、0.001〜50質量%であることが好ましい。
【0024】
本発明の抗炎症剤を含有する皮膚外用剤または浴用剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、皮膚外用剤または浴用剤に使用される公知の機能性成分、例えば、グリセリン、ブチレングリコール、尿素、アミノ酸類などの保湿剤;スクワラン、マカデミアナッツ油、ホホバ油などのエモリエント剤;ビタミンE類、トウガラシチンキなどの血行促進剤;ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸などの抗酸化剤;グリチルリチン、アラントインなどの抗炎症剤;ヒノキチオール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩、パラヒドロキシ安息香酸エステルなどの抗菌剤;アスコルビン酸、アルブチンなどの美白剤;スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの過酸化物抑制剤、などを配合することができる。また、イチョウエキスなどのエキスや、胎盤抽出物、乳酸菌培養抽出物など動物・微生物由来の各種エキスを配合することもできる。
【0025】
前記抗炎症剤を含有する外用剤、内用剤には、その剤型化のために界面活性剤や油脂類などの基剤成分を配合することができ、必要に応じて増粘剤、防腐剤、等張化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、香料、着色料など種々の添加剤を併用することもできる。
皮膚外用剤、浴用剤などの外用剤に配合する界面活性剤に特に制限はなく、非イオン界面活性剤として、例えば高級アミンのアルキレンオキシド付加物、高級脂肪酸アミドのアルキレンオキシド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、硬化ひまし油のアルキレンオキシド付加物、ポリエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ステロールなどのアルキレンオキシド付加物などを、陰イオン界面活性剤として、例えばアルキル硫酸ナトリウム、アルキロイルメチルタウリンナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどを、陽イオン界面活性剤として、例えば塩化アルキルピリジニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなどを、両性イオン界面活性剤として、例えばアルキルアミノプロピオン酸ナトリウム、アルキルポリアミノエチルグリシンなどを用いることができる。
飲食物並びに飼料などの内用剤に対しては、レシチン、ショ糖エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどの食添用として認可された界面活性剤を配合することができる。
これらの界面活性剤は1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
前記基剤成分に特に制限はなく、例えばオリーブ油、ツバキ油、ホホバ油、アボガド油、マカデミアナッツ油、杏仁油、スクワラン、スクワレン、馬油などの油脂類を用いることができる。
前記増粘剤として用いる成分に特に制限はないが、水溶性高分子が好ましく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、およびこれらの誘導体;ヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース類およびその誘導体;デキストラン、ゼラチン、アラビアガム、トラガントガムなどのガム類;カルボキシビニルポリマーなどを用いることができる。
前記防腐剤として用いる成分にも特に制限はなく、例えば、パラヒドロキシ安息香酸エステル、塩化アルキルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩、ヒノキチオールなどを用いることができる。
前記等張化剤として用いる成分に特に制限はなく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの無機塩類を用いることができる。
前記紫外線吸収剤として用いる成分に特に制限はなく、例えば、パラアミノ安息香酸、
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などを用いることができる。
使用可能なキレート剤に特に制限はなく、例えば、エチレンジアミン四酢酸、フィチン酸、クエン酸およびこれらの水溶性塩などを挙げることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、下記実施例では乾燥した生薬原体の粉砕物からエキスを抽出した。また、実施例3の黄連解毒湯エキス中のオウレンエキス及びオウバクエキスの比率、および比較例13の温清飲中のオウレンエキスおよびオウバクエキスに対する四物湯エキスの比率は、エキスを別々に抽出した場合の生薬原体量と生薬乾燥エキスの収量の関係と、使用した生薬原体量の値を元に算出した値である。
【0028】
実施例1(オウレン/四物湯エキス)
オウレンの乾燥根茎10gに水100gを加えて95℃で3時間抽出の後、5A濾紙(アドバンテック製)にて濾過し、濾液を凍結乾燥してオウレンエキスを得た。
トウキの乾燥塊状根4g、シャクヤクの根の乾燥粉末4g、センキュウの乾燥根茎4g、ジオウ(熟)の乾燥根茎4gに水100gを加え、95℃で3時間抽出の後、5A濾紙にて濾過し、濾液を凍結乾燥して乾燥エキスを得た(以下、これを四物湯エキスとする)。オウレンエキス1gと四物湯エキス1gを水50gに溶解の後、これを凍結乾燥してオウレン/四物湯エキスを得た。(オウレンエキスに対する四物湯エキスの比率=1.0質量倍)
【0029】
実施例2(オウバク/四物湯エキス)
オウバクの乾燥樹皮10gに50質量%のエタノール−水混合溶剤100gを加えて70℃で3時間抽出の後、5A濾紙で濾過し、濾液を凍結乾燥してオウバクエキスを得た。
オウバクエキス1gと実施例1の四物湯エキス1gとを水50gに溶解の後、これを凍結乾燥して、オウバク/四物湯エキスを得た。(オウバクエキスに対する四物湯エキスの比率=1.0質量倍)
【0030】
実施例3(黄連解毒湯/四物湯エキス)
オウレンの乾燥根茎2g、シソ科コガネバナの根の周皮を除き乾燥したオウゴン3g、オウバクの乾燥根茎3g、クチナシの完熟乾燥果実(サンシシ)2.5gに水100gを加え、95℃で3時間抽出の後、5A濾紙にて濾過し、濾液を凍結乾燥して乾燥エキスを得た(以下、これを黄連解毒湯エキスとする)。この黄連解毒湯エキス中のオウレンエキスおよびオウバクエキスの含量は、51.5質量%と算出された。この黄連解毒湯エキス1gと、実施例1の四物湯エキス1gとを50gの水に溶解の後、これを凍結乾燥して黄連解毒湯/四物湯エキスを得た。(オウレンエキスおよびオウバクエキスに対する四物湯エキスの比率=1.9質量倍)
【0031】
比較例1(オウレンエキス)
実施例1のオウレンエキスを用いた。
【0032】
比較例2(オウバクエキス)
実施例2のオウバクエキスを用いた。
【0033】
比較例3(黄連解毒湯エキス)
実施例3の黄連解毒湯エキスを用いた。
【0034】
比較例4(四物湯エキス)
実施例1の四物湯エキスを用いた。
【0035】
比較例5(トウキエキス)
トウキの乾燥根茎10gに水100gを加え、95℃で3時間抽出の後、5A濾紙にて濾過し、濾液を凍結乾燥してトウキエキスを得た。
【0036】
比較例6(シャクヤクエキス)
シャクヤクの根の乾燥粉末10gに水100gを加え、95℃で3時間抽出の後、5A濾紙にて濾過し、濾液を凍結乾燥してシャクヤクエキスを得た。
【0037】
比較例7(センキュウエキス)
センキュウの乾燥根茎10gに水100gを加え、95℃で3時間抽出の後、5A濾紙にて濾過し、濾液を凍結乾燥してセンキュウエキスを得た。
【0038】
比較例8(ジオウエキス)
熟ジオウの乾燥塊状根10gに水100gを加え、95℃で3時間抽出の後、5A濾紙にて濾過し、濾液を凍結乾燥してジオウエキスを得た。
【0039】
比較例9(オウレン/トウキエキス)
実施例1のオウレンエキス1gと、比較例5のトウキエキス1gとを水50gに溶解し、これを凍結乾燥してオウレン/トウキエキスを得た。
【0040】
比較例10(オウレン/シャクヤクエキス)
実施例1のオウレンエキス1gと、比較例6のシャクヤクエキス1gとを水50gに溶解し、これを凍結乾燥してオウレン/シャクヤクエキスを得た。
【0041】
比較例11(オウレン/センキュウエキス)
実施例1のオウレンエキス1gと、比較例7のセンキュウエキス1gとを水50gに溶解し、これを凍結乾燥してオウレン/センキュウエキスを得た。
【0042】
比較例12(オウレン/ジオウエキス)
実施例1のオウレンエキス1gと、比較例8のジオウエキス1gとを水50gに溶解し、これを凍結乾燥してオウレン/ジオウエキスを得た。
【0043】
比較例13(温清飲エキス)
トウキの乾燥塊状根4g、シャクヤクの根の乾燥粉末4g、センキュウの乾燥根茎4g、ジオウ(熟)の乾燥根茎4g、オウレンの乾燥根茎1.5g、シソ科コガネバナの根の周皮を除き乾燥したオウゴン3g、オウバクの乾燥根茎1.5g、クチナシの完熟乾燥果実(サンシシ)2gに水100gを加え、95℃で3時間抽出の後、5A濾紙にて濾過し、濾液を凍結乾燥して乾燥エキスを得た。黄連解毒湯の成分(オウレンエキス、オウバクエキス、オウゴンエキス、サンシシエキス)と四物湯の成分(トウキ、シャクヤク、センキュウ、ジオウ)で構成された比較例13の処方は、漢方処方で温清飲といわれる処方であり、オウレンエキスおよびオウバクエキスに対する四物湯エキスの比率は、エキスを別々に抽出した場合の生薬原体量とエキスの収量を元に計算した結果、8.0質量倍と算出された(以下これを温清飲エキスとする)。
【0044】
(繊維芽細胞を用いた細胞毒性試験)
細胞毒性は、細胞培養液中の生細胞によりホルマザン色素に変換されたMTT(3−[4,5−dimethylthiazol−2−yl]−2,5−diphenyl tetrazolium bromide)の量を測定する方法で評価した。
ヒューマンサイエンス振興財団より分譲されたTIG−113(PDL(細胞分裂回数)=28)を48wellマルチプレートに5×104cells播種し、250μlのDMEM培地(10質量%FBS含有DMEM培地)を加え2日間培養した。その後、エキス濃度を10μg/mlとしたDMEM培地に交換し、37℃のインキュベーター内に24時間暴露した。暴露後、250μlのリン酸緩衝液(以下PBS(−)とする)で1回洗浄し、MTT濃度が0.5mg/mlの培地を250μl加え、37℃のインキュベーター内に3時間暴露した。その後、PBS(−)250μlにて1回洗浄し、ホルマザン色素を0.4質量%塩酸/イソプロピルアルコール溶液300μlで抽出し、570nmにおける吸光度を測定した。エキスを添加せずに、同一条件にて培養したコントロールの細胞生存率を100%とし、エキスの細胞生存率を評価(n=3)した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
オウレンエキス、オウバクエキス、黄連解毒湯エキスには、強い細胞毒性が認められる(比較例1〜3)が、これに四物湯エキスを併用した実施例1、2、3、および黄連解毒湯エキスと四物湯エキスの併用に相当する比較例13の細胞生存率は高く、併用による細胞毒性の緩和が確認された。
【0047】
(マクロファージを用いたiNOS産生阻害効果試験)
iNOS産生阻害効果試験では、マクロファージ細胞をLPS(Lipopolysaccharides from E.coli O−111)で活性化し、産生される窒素酸化物量を測定した。本来iNOSが産生する一酸化窒素を直接測定すべきであるが、一酸化窒素は不安定で直ちに二酸化窒素に酸化されるため、二酸化窒素量の測定で代用し、この値からiNOS産生阻害効果を評価した。
ヒューマンサイエンス振興財団より分譲されたマウス由来のマクロファージ様細胞株J
744.1(PDL=14)を48wellマルチプレートに20×104cells播種し、フェノールレッド不含のDMEM培地(10質量%FBS含有DMEM培地)を300μl加え24時間培養した。エキス濃度を5μg/mlとしたフェノールレッド不含のDMEM培地に交換し、培地に対し10μg/mlのLPSを加えて37℃のインキュベーター内で24時間暴露させた。暴露後、培地の上澄み100μlにGriess試薬100μlを混和し、室温にて10分間放置後、550nmにおける吸光度を測定(n=3)した。各実施例の二酸化窒素濃度は、NaNO2(試薬)で二酸化窒素量と吸光度の検量線を作成し求めた値である。エキスを添加せず同一条件にて培養した試料をコントロールとした。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
オウレンエキス、オウバクエキス、黄連解毒湯エキスでの二酸化窒素濃度(比較例1〜3)は、コントロールの約半量であり、良好なiNOS産生抑制効果が確認された。これに二酸化窒素濃度がコントロールとほぼ同等の四物湯エキス(比較例4)を併用した処方(実施例1〜3)での二酸化窒素濃度は、オウレンエキス、オウバクエキス、黄連解毒湯単独での二酸化窒素濃度を僅かに増加させたに留まり、iNOS産生抑制効果を損なわないことが確認された。
実施例3と比較例13は、いずれも、黄連解毒湯エキス(オウレンエキス、オウバクエキス、オウゴンエキスおよびサンシシエキスの混合エキス)と四物湯エキスとを併用した処方であるが、四物湯エキス含有量が、乾燥エキス換算で、オウレンエキスおよびオウバクエキスの8質量倍の比較例13では、二酸化窒素濃度が高く、オウレンエキスおよびオウバクエキスの優れたiNOS産生抑制効果が損なわれる結果となった。
【0050】
(マクロファージを用いたCOX−2産生阻害効果試験)
COX−2産生阻害効果は、マクロファージ細胞をLPS(Lipopolysaccharides from E.coli O−111)で活性化し、COX−2が産生するPGE2の量を測定することで評価した。
ヒューマンサイエンス振興財団より分譲されたマウス由来マクロファージ様細胞株J744.1(PDL=14)を48wellマルチプレートに20×104cells播種し、DMEM培地(10質量%FBS含有DMEM培地)を300μl加え24時間培養
した。次に既に発現しているCOX−2を失活させるため、アスピリン濃度500μMのDMEM培地300μlに交換し4時間培養した。その後、PBS(−)で3回洗浄し、エキス濃度を5μg/mlとしたDMEM培地に交換し、培地に対して10μg/mlのLPSを加え、37℃のインキュベーター内で24時間暴露した。その後、培地の上澄みを50μl採取し、プロスタグランジンE2 EIAキット(ケイマン化学製)にて、PGE2量を測定(n=3)した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
オウレンエキス、オウバクエキスおよび黄連解毒湯エキス(比較例1〜3)に優れたCOX−2産生抑制効果が確認された。四物湯エキスのPGE2産生量(比較例4)は、コントロールとほぼ同等の値を示したが、この両者を併用した処方(実施例1〜3)でのPGE2産生量は、比較例1〜3の値を僅かに増加させたに留まり、併用でオウレンエキス、オウバクエキスのCOX−2産生阻害効果が損なわれないことを確認した。しかし、オウレンエキスおよびオウバクエキスに対し、8質量倍の四物湯エキスを含有する比較例13のPGE2産生量はコントロールとほぼ同等で、COX−2産生抑制効果は認められなかった。
【0053】
実施例で示したように、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスの細胞毒性は(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの併用により緩和される。しかし、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスの総量に対し(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量が、8質量倍になると抗炎症効果が得られず、特にCOX−2産生抑制効果はコントロールと同等になる。また、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスの総量に対し(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量が、少ないと細胞毒性を抑制することができない。(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスと、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスからなる抗炎症剤が、優れた抗炎症性を維持しながら低細胞毒性であるためには、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスと、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスとを特定の比率範囲で併用する必要があり、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスの総量に対する(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量を、乾燥エキス換算で0.2〜2.5質量倍とすることにより、オウレンエキスおよびオウバクエキスの優れた抗炎症効果を損なうことなく、細胞毒性を特異的に緩和した副作用の少ない抗炎症剤とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
オウレンエキスおよびオウバクエキスの抗炎症効果を阻害することなく、細胞毒性を特異的に緩和させた本発明のエキスは、副作用の少ない抗炎症剤を構成する成分として医薬品、医薬部外品、食品、化粧品、雑貨などの各分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスと、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスとを含有する抗炎症剤であって、(A)オウレンエキスおよび/またはオウバクエキスに対して、(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスの総量が、乾燥エキス換算で、0.2〜2.5質量倍である抗炎症剤。
【請求項2】
(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスが、2〜6質量部のトウキ、2〜6質量部のシャクヤク、2〜6質量部のセンキュウおよび、2〜6質量部のジオウの各生薬原体の混合物から、生薬原体の1〜50質量倍の抽出溶媒で抽出したエキスである請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
(B)トウキエキス、シャクヤクエキス、センキュウエキスおよびジオウエキスに替えて、四物湯エキスを用いた請求項1に記載の抗炎症剤。

【公開番号】特開2012−121863(P2012−121863A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275508(P2010−275508)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】