説明

抗疲労剤

【課題】 筋肉中のATPの産生促進作用があり、疲労回復に有効である、安全、安価で効果の大きい新規な抗疲労剤の提供。
【解決手段】ラクトフェリン、または、ラクトフェリンに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする、ATPの産生促進作用があり疲労回復に有効である抗疲労剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATP産生及びミトコンドリア酵素活性を上昇させることにより、効果的に、かつ安全に、疲労を改善する抗疲労剤に関する。本発明の抗疲労剤は、ラクトフェリンまたはラクトフェリンと鉄とを結合させた鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とすることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
労働や運動により発生し蓄積する疲労を回復したり、予め服用してから労働や運動を行うと疲労を予防したりすることができる疲労回復剤や疲労予防剤は、ある種のビタミンを有効成分とする錠剤やドリンク剤等の形態で市販されており、特にドリンク剤の需要は年々増加傾向にある。これらは有効成分としてビタミン類のほかに各種の成分を配合し、それぞれの商品特徴を出している。商品特徴は配合物の種類や量がポイントであり、例えばブドウ糖、グルクロノラクトン等の糖類、タウリン、アルギニン塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸類、カフェイン等のほか、鉄やマンガン等の無機物、にんにく、朝鮮人参、ハーブ等の抽出物等、その種類は極めて多岐にわたっている。しかしながら従来のこれら商品は、効果や価格の点で必ずしも満足できるものではなかった。
【0003】
乳から抽出分離した乳タンパク質であるラクトフェリンは、免疫賦活(例えば、特許文献1参照。)、細胞増殖(例えば、特許文献2参照。)、抗リウマチ(例えば、特許文献3参照。)、抗菌(例えば、非特許文献1参照。)、抗腫瘍(例えば、非特許文献2参照。)などの様々な作用をもつことで知られている。また、魚、えび、及び水中に生息する無脊椎動物などの水生動物の抗ストレス剤に含まれる免疫刺激剤の1種としてラクトフェリンが挙げられている(例えば、特許文献4参照。)。さらに、ラクトフェリンを有効成分として含有する陸生動物の抗ストレス剤が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。これらはいずれも攻撃、取り扱い、輸送などの要因により情動ストレスを受けた動物体内でのホルモン分泌によるさまざまな反応を抑制しようとするものであり、本願発明の肉体疲労の回復あるいは予防とは異なる。エネルギー産生にかかわる抗疲労作用に関しては、現在までに明らかにされていない。
【0004】
また、ラクトフェリンは腸管からの鉄の吸収を促進することが知られている。鉄は体内に豊富に存在しているが、体内では合成できないため、食品からの摂取にのみ頼っている。因みに、女性にみられる貧血の多くは鉄欠乏性の貧血であり、鉄分の不足によるものであることは周知である。脂肪は高カロリーで高エネルギーの栄養素であるが、脂肪の構成成分である脂肪酸は、細胞内のミトコンドリアに取り込まれて、β−酸化、三カルボン酸サイクル(TCAサイクル)及び酸化的リン酸化反応を経て、多量の酸素を使用してアデノシン三リン酸(ATP)を生産し、エネルギーとして利用しやすい形となる。又、血液中のヘモグロビンには鉄が含まれており、この鉄が酸素の体内への運搬に重要な役割を担っているのは周知である。このため、鉄分の摂取が不足すると、体内への酸素の供給が低下するため、酸素を多量に必要とする代謝活動が低下し、エネルギー源であるATPへの変換が制限されることになる。つまり、体内への酸素の供給量の増大は、体力の増強・疲労回復及びスタミナアップの効果を高めることが予測される。
酸化的リン酸化反応においてもチトクローム類が関与しているが、この蛋白質にも鉄が含まれている。このように、脂肪の分解によるエネルギーの産出には、鉄が大きく関与しており、鉄の吸収量の増加は体力の増強・疲労回復及びスタミナアップの効果があるということができる。
これらの面から、ATPの産生や酸化的リン酸化反応を促進する作用を持つ物質の探索が求められている。
【0005】
エネルギーを産生するミトコンドリア内への脂肪酸の取り込みにはカルニチンが必要であることが知られている。生体内でのカルニチンの合成過程において、2つのヒドロキシラーゼ(水酸化酵素)が必要であるが、この2つのヒドロキシラーゼは、活性発現に鉄が必要なことがわかっている(例えば、非特許文献3、4参照。)。また、妊娠及び授乳中の母ラットに鉄欠乏食を与えると、子ラットの血中中性脂肪は8倍高くなり、ヘモグロビン濃度や肝臓カルニチン量は有意に低下した(例えば、非特許文献5参照。)。つまり、鉄欠乏状態では組織中のカルニチン含量の低下により、ミトコンドリア内への脂肪酸の輸送が抑制されて、エネルギー源として使用されず、脂肪酸は脂肪へと再合成され、体内に蓄積されることになる。
したがって、ミトコンドリア内のヒドロキシラーゼの酵素活性を上昇させることにより、ミトコンドリア内へ脂肪酸が取り込まれてエネルギーの産生が促進され、疲労回復効果が期待できる。
従来、抗疲労剤としては,ビタミンB1(誘導体を含む)、B2、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン群が用いられてきた。これらのビタミン群は、いずれもTCA回路の反応に関連する補酵素または配合団である。その結果、これらのビタミン群は効率よくATPを産生し、また間接的に乳酸の代謝を促すとされる。ATPの産生は、解糖過程及び酸化的リン酸化に基づくものであるが、ミトコンドリアレベルでのエネルギー産生においては、酸素の利用が、ユビキノンの存在に依存する。ユビキノンは、代謝改善やATP産生の目的で使用されている。しかしながら、ユビキノンは、心筋の抗疲労作用に限定されており、乾燥酵母エキスの様な原料を多量に混合しなければ効果が認められず、またその効果も十分なものであると言い得ないものであった。
また、鉄欠乏状態に起因するエネルギー産生の抑制に関しても、単に鉄分を補給するだけでは、貧血は解消するものの、抗疲労作用については解消することは困難であった。
【特許文献1】特開平7−179355号公報
【特許文献2】特開平6−48955号公報
【特許文献3】特開平5−186368号公報
【特許文献4】特表平11−514973号公報
【特許文献5】特開2001−354583号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・ペディアトリクス(Journal of Pediatrics)、94巻、1頁、1979年
【非特許文献2】キャンサー・リサーチ(Cancer Research)、54巻、2310頁、1994年
【非特許文献3】ジェイ・ディー・ハルセ(Hulse,J.D.)外、ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー(J.Biol.Chem.)、253巻、1654-1659頁、1978年
【非特許文献4】ジー・リンドステット(Lindstedt,G.)、バイオケミストリー(Biochemistry)、5巻、1271-1281頁、1967年
【非特許文献5】エス・ジェイ・バーソロミュー(Bartholmey,S.J.), ジャーナル・オブ・ニュートリション(Journal of Nutrition)、115巻,138-145頁、1985年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、従来、抗疲労剤としてビタミン群が用いられてきた。しかし、ミトコンドリアレベルでのエネルギー産生においては、酸素の利用が、ユビキノンの存在に依存し、ユビキノンは、心筋の抗疲労作用に限定され、その効果も十分なものであると言い得ないものであった。また、鉄欠乏状態に起因するエネルギー産生の抑制に関しても、単に鉄分を補給するだけでは、貧血は解消するものの、抗疲労作用については解消することは困難であった。
したがって本発明の課題は、安全、安価で効果の大きい新規な抗疲労剤を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、乳に含まれるラクトフェリンに、有効な抗疲労作用があることを見出し、本発明を成すに至った。さらに、ラクトフェリンに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンが抗疲労に著しい効果があることを見出し、本発明を成すに至った。
本発明者らは、ラクトフェリン、またはこれに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンを経口摂取することにより、様々な因子に起因する疲労が改善されることを見出し、更にこの知見に基づき本発明の抗疲労剤を完成した。すなわち本発明は、乳から分離したラクトフェリン、またはこれに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする抗疲労剤である。
【0008】
抗疲労剤としての効果は、次の試験により確認することができる。
第一は、ラットの強制運動前後の腓腹筋の総ATP量の変化を測定することにより、投与した被験物質のATP産生促進作用を確認する試験である。すなわち、被験飼料と一般飼料を投与したラットを用い、トレッドミルによる強制運動実験により、走行過労状態に至らせ、実験開始時より、腓腹筋の31P NMRスペクトルを採り、安静時、運動時、運動直後、および運動5分後の筋肉ATP量を算定する。ATPは筋肉をはじめとして広く生体内に存在し、エネルギー伝達体として数多くのエネルギー代謝に関与し、エネルギーの獲得および利用に重要な役割を果たしている。特に好気的代謝においては、酸化的リン酸化反応によってより効率よく生産される。すなわち、1分子のグルコースが代謝される場合には、解糖系を経て酸素呼吸によって完全酸化される際には、38分子のATPが産生される。運動で消費されたATP量が再生されれば、筋肉をはじめとする様々な組織において利用されるエネルギーが増えることによって、疲労回復作用があるということができる。
【0009】
第二は、連続運動負荷によるミトコンドリア中サイトレートシンセターゼ活性の変化を確認する試験である。サイトレートシンターゼは、エネルギー産生に重要な働きをもつクエン酸回路に、解糖や脂肪酸の分解によって生じたアセチルCoAを導くための初期段階の酵素である。アセチルCoAとオキサロ酢酸からCoAとクエン酸を生成し、クエン酸回路を円滑に回すために重要であることが知られている。被検飼料及び一般飼料を投与したラットを用いて、トレッドミルによる強制運動を10日間行い、実験開始後20日後に腓腹筋からミトコンドリアを分離する。分光光度計でミトコンドリア中のサイトレートシンセターゼの酵素活性を測定し、運動開始前後で比較する。被験物質の投与によって、ミトコンドリア中のサイトレートシンセターゼ酵素活性が上昇すると、エネルギー産生に重要な働きをもつクエン酸回路に、解糖や脂肪酸の分解によって生じたアセチルCoAを導き、CoAとクエン酸を生成してクエン酸回路を円滑に回転させ、疲労回復作用があるということができる。
【0010】
第三は、強制水泳における不動時間(秒)の測定である。すなわち、被験物質の経口投与後に、ラットを水槽に入れ、5分間隔で15分後まで不動時間(秒)を測定する。被験物質の投与によって、筋肉の活動が不可能となった不動時間が短縮すると、疲労に対する抵抗性があることが確認される。
【0011】
さらに、強制水泳後において、血中の乳酸濃度を測定することにより、被験物質の投与によって、血中の乳酸濃度の増加を抑制する作用の有無を確認することができる。乳酸はエネルギーを消費した際に産生される疲労物質の一つとして知られており、これが血中や組織に蓄積すると、様々な運動機能に支障をきたすとともに、筋肉疲労などの自覚症状のもとになるといわれている。
【0012】
このように、肉体疲労の改善能は、強制運動実験時の筋肉ATP量の消長、連続強制運動によるミトコンドリア内酵素活性の上昇、そして強制水泳時の不動時間(秒)の測定および血中の乳酸濃度の測定の4点を測定することにより、確認することができる。
本発明は、これらの試験により、乳から分離したラクトフェリン、およびこれに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンが、予期されない薬理学的及び治療学的効果を持つことを確認することができた。
すなわち、本発明は、ラクトフェリンを有効成分とする抗疲労剤に関する。また、本発明は、ラクトフェリンに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする抗疲労剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗疲労剤は、これを服用することにより疲れにくくなり、また疲労回復にも効果がある。すなわち、スポーツなどの筋肉運動に際して肉体疲労を感じたときに服用して疲労の回復を図ることができることはいうまでもないが、予め服用してから労働、スポーツなどを行うと疲労を予防することもできる。また、スポーツを行う前や途中で摂取することにより、持久力向上が期待できる。
本発明の抗疲労剤に使用するラクトフェリンは有史以来の食経験がある乳を原料にした乳由来のタンパク質であるので安全性が高く、副作用の問題がないものであり、数々の医薬品、特定用保健食品、機能性食品等への利用が期待できる。また、長期連用することも可能で、それ自体は殆ど無味無臭であるという汎用性が高いタンパク質であり、さらに比較的安価に入手することができるという利点があり、実用上極めて利用価値が高い。また、鉄結合型ラクトフェリンは、上記ラクトフェリンに鉄を結合させたものであるので、安全性に何ら問題はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の抗疲労剤の有効成分である乳から分離したラクトフェリンは、例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ヒト等の乳、又はこれらの乳の処理物である脱脂乳、ホエー等から、イオン交換クロマトグラフィーなどにより分離して調製することができる。例えば、脱脂乳をカラムに通液し、吸着しているタンパク質を溶出する際に、0.3M食塩水で樹脂を十分洗浄した後に、1.5M食塩水を通液し、イオン交換樹脂に吸着したラクトフェリンの溶出液を得ることができる。この溶出液を限外濾過膜モジュール(商品名:SLP0053、旭化成社製)を用いて限外濾過した後、水を添加して同装置を用いてダイアフィルトレーションで脱塩する。その後、凍結乾燥することによって、粉末状ラクトフェリンを得ることができる。以上の方法により得られたラクトフェリンの純度は、電気泳動法により測定した結果、95%以上の純度を有している。
また、ラクトフェリンは、通常、1分子当たり鉄を2原子までキレート結合することができるが、本発明では、鉄を全く結合していない鉄非結合型ラクトフェリン、乳から調製した1分子当たり鉄が平均0.2原子程度結合したラクトフェリン、1分子当たり鉄が2原子結合したラクトフェリンのいずれも使用することができ、さらにこれらをタンパク質分解酵素で分解したものも使用することができる
【0015】
本発明で使用するラクトフェリンに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンは従来から知られている。
ラクトフェリンは、通常、1分子当たり鉄を2原子までしかキレート結合できないが、本発明で使用する鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリンに特定の処理を行うことにより、ラクトフェリン1分子当たり少なくとも3原子の鉄を安定に保持できるようにしたものである。このような鉄結合型ラクトフェリンは、例えば、ラクトフェリン溶液に鉄塩を添加し、アルカリを加えて溶液のpHを高めることによって得られる。ラクトフェリン1分子当たり少なくとも3原子の鉄を安定に保持したラクトフェリン粉末としては、ラクトフェリンのアミノ基に重炭酸イオンを介して鉄が結合した耐熱性ラクトフェリン−鉄結合体(「耐熱性ラクトフェリン‐鉄結合体及びその製造法」、特許第2835902号公報)、あるいはラクトフェリンに一定の割合で、炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液と、鉄を含む溶液とを添加して得られる鉄−ラクトフェリン複合体(「鉄‐ラクトフェリン複合体及びその製造法」、特許第2884045号公報)等が知られている。
本発明で使用することができる鉄結合型ラクトフェリンは、これらいずれの鉄−ラクトフェリンであっても良い。鉄結合型ラクトフェリンは、鉄とラクトフェリンとが結合した状態のものであって、鉄とラクトフェリンとが結合しているか、あるいは他の物質を介して鉄とラクトフェリンとが結合しているものであって、いわゆる、鉄がイオン状態で存在していないものであれば良い。特にラクトフェリン類に炭酸及び/又は重炭酸を含む溶液と鉄を含む溶液とを添加して得られる前記の「鉄−ラクトフェリン結合体」や「鉄−ラクトフェリン複合体」を例示することができ、これらの鉄結合型ラクトフェリンを使用することが望ましい。また、これらの鉄結合型ラクトフェリンは、鉄の収斂味や金属味等が全く無いという特徴を有しているので、風味上の問題も全くない。
また、鉄結合型ラクトフェリンをタンパク質分解酵素で分解したものも、鉄結合能を保持しており、本発明に使用することができる。さらに、ラクトフェリンをタンパク質分解酵素で分解したものに鉄を結合させたものも本発明に使用することができる。
【0016】
上述したような鉄結合型ラクトフェリンを製造する際に使用することができる鉄としては、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、塩化第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄等を例示することができる。
【0017】
本発明の抗疲労剤の有効成分であるラクトフェリンは、乳由来の天然物であって、摂取した場合の安全性が高く、牛乳等の食品中に含有され、日常的に摂取されているもので、毒性を示さず、長期間連続的に摂取しても副作用が殆ど認められない。従って、経口等の投与方法により適宜使用することが可能である。
【0018】
本発明の有効成分であるラクトフェリン及び鉄結合型ラクトフェリンを用いた抗疲労剤は、そのままあるいは必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤などを混合して、常法により顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、液剤などの経口製剤とすることができる。賦形剤としては、たとえばマンニトール、キシリトール、ソルビトール、ブドウ糖、白糖、乳糖、結晶セルロース、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、小麦デンプン、米デンプン、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、デキストリン、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、カルボキシビニルポリマー、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどが挙げられる。ドリンク剤の場合、必要に応じて他の生理活性成分、ミネラル、ビタミン、栄養成分、香料などを混合することにより、嗜好性をもたせることもできる。
【0019】
また、本発明のラクトフェリン、または鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とした抗疲労剤は、飲食品に配合して食品中に含有させることもでき、抗疲労剤の一態様として抗疲労効果を有する機能性食品又は飼料に加工することも可能である。飲食品に配合する場合は、ラクトフェリン、または鉄結合型ラクトフェリンを調製した直後の状態である液状のまま配合することができるし、さらに、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥を行い粉末化したものも配合することができる。
【0020】
本発明のラクトフェリン、または鉄結合型ラクトフェリンを配合した飲食品としては、チーズ、バター、乳飲料、ジュース、ヨーグルト、ゼリー、パン、アイスクリーム、麺、ソーセージ、育児用調製乳や離乳食等を挙げることができる。
【0021】
本発明における乳から分離したラクトフェリン、およびこれに鉄を結合させた鉄結合型ラクトフェリンの有効投与量は、疲労の程度、目的、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定すればよいが、通常、成人1日あたり10〜2,000mg投与すれば、疲労の回復または予防効果が得られる。このように本発明は低用量で効果がある。 本発明の疲労の回復作用を有する成分は、抗疲労剤として、あるいはそれらを配合した飲食品を経口摂取することによって生体内で疲労を回復させる作用を発揮する。
【0022】
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0023】
[試験例1]
(鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF)の調製)
ラクトフェリン(DMV社製) 90g、塩化第二鉄6水和物 20g、重炭酸ナトリウム5gを水10リットルに溶解し、鉄結合型ラクトフェリンを含む溶液を調製した。この溶液を分子量 5,000カットの限外濾過膜で脱塩及び濃縮した後、水を加えて容量10リットルの鉄結合型ラクトフェリン溶液とした。本溶液を凍結乾燥した後、鉄結合型ラクトフェリン凍結乾燥物の鉄含量を誘導結合プラズマ発光分光器(ICP)(ST-3000、Leeman Labs 社製)で測定したところ、ラクトフェリン1分子当たりに鉄を70原子含んでいたことから、本凍結乾燥物を鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF)粉末とした。
【0024】
(ラット腓腹筋の総ATP量の変化)
ウイスター系雄ラット(体重250〜300g)を用い以下の実験を行った。食餌は強制運動実験開始1週間前までは、一般飼料(CE-2:オリエンタル酵母工業社製)と水を自由摂取させた。その後、対照群には塩化第二鉄を添加した大豆タンパク質20mg/kg体重/日を与え、試験群には20mg/kg体重/日、2mg/kg体重/日、0.2mg/kg体重/日、0.02mg/kg体重/日のラクトフェリン(DMV社製)、および鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF)を摂取させた。なお、一群は5匹とした。1分間の安静時に続き、トレッドミルにより、100m/分で3分間走行過労状態に至らせた。運動終了後5分間を回復期とした。実験開始時より、動物用MRIを用いて1分毎に右後脚の腓腹筋の31P NMRスペクトルを記録し、筋肉中のATPの量を算定した。安静時、運動時、運動直後、および運動5分後の筋肉中のATP量を、安静時の値を1.0とした場合の相対値で表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に見られるように、ATP生成量を対照群(大豆タンパク質+鉄)と比較した場合、ラクトフェリン、鉄結合型ラクトフェリンにおいて有意な効果が認められた。また、その効果は鉄結合型ラクトフェリンで顕著であった。これらの結果より、ラクトフェリン、鉄結合型ラクトフェリンの摂取により、既存データでは予知されないATP産生促進作用があることが示され、疲労回復に有効であることが明らかになった。
【0027】
[試験例2]
(連続運動負荷によるミトコンドリア中サイトレートシンセターゼ活性の変化)
ウイスター系雄ラット(体重250〜300g)20匹を用い以下の実験を行った。食餌はトレッドミルによる強制運動実験開始1週間前までは、一般飼料(CE-2:オリエンタル酵母工業社製)と水を自由摂取させた。その後、ラットを5群に分け、対照群はそのまま一般飼料を与え、試験は20mg/kg体重/日、2mg/kg体重/日、0.2mg/kg体重/日、0.02mg/kg体重/日の鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF)を摂取させた。トレッドミルによる強制運動を1日に120分、40m/分の条件で10日間行った。実験開始後20日目に屠殺し、腓腹筋を分離し、ホモジナイズした後に分画遠心分離に供してミトコンドリアを分離した。Oscai等の方法[Am. J. Physiol., vol. 220, p. 1238-1241, 1971]に従い、分光光度計でミトコンドリアの酵素活性であるサイトレートシンセターゼを測定し、運動開始前後で比較した。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示されるように、運動10日後には(20mg/kg体重/日)群、(2mg/kg体重/日)群および(0.2mg/kg体重/日)群において有意な酵素活性の上昇がみられた。一方、対照群および(0.02mg/kg体重/日)群ではわずかな上昇がみられたにすぎなかった。
【0030】
[試験例3]
(鉄非結合型ラクトフェリン(0FeLF)の調製)
市販のラクトフェリン(シグマ社製)の1%水溶液を透析チューブに封入し、20倍量の0.05%EDTAを含む0.1Mクエン酸水溶液に対して4℃で30時間透析した。引き続き、この透析チューブを取り出して、蒸留水に対して24時間透析し、鉄非結合型ラクトフェリン(0FeLF)溶液を調製し、この溶液を凍結乾燥して、鉄非結合型ラクトフェリン(0FeLF)粉末を得た。
【0031】
(市販ラクトフェリンの鉄含量の確認)
市販のラクトフェリン(シグマ社製) の鉄含量を誘導結合プラズマ発光分光器(ICP)で測定したところ、ラクトフェリン1分子当たりに鉄を 2原子含んでいたことから、本品をラクトフェリン(2FeLF)粉末とした。
【0032】
(鉄結合型ラクトフェリン(200FeLF)の調製)
水2リットルに重炭酸ナトリウム400gを添加し、撹拌機で撹拌して調製した重炭酸ナトリウム過飽和溶液中に、水8リットルに市販のラクトフェリン(DMV社製) 90 g と塩化第二鉄6水和物60 gを溶解した溶液を撹拌しながら添加し、鉄結合型ラクトフェリンを含む溶液を調製した。この溶液を分子量 5,000カットの限外濾過膜で脱塩及び濃縮した後、水を加えて容量10リットルの鉄結合型ラクトフェリン溶液とした。本溶液を凍結乾燥した後、鉄結合型ラクトフェリン凍結乾燥物の鉄含量を誘導結合プラズマ発光分光器(ICP)で測定したところ、ラクトフェリン1分子当たりに鉄を 200原子含んでいたことから、本凍結乾燥物を鉄結合型ラクトフェリン(200FeLF)粉末とした。
【0033】
(ラットの強制水泳実験)
ウイスター系雄ラット(7週齢)を購入後、5日間以上の検疫馴化期間中に体重を測定するとともに一般状態を観察し、健康と判断した動物を試験に供した。動物はすべて温度24±2℃、湿度55±10%、換気回数13回/時、照明12時間(午前7時〜午後7時)の条件下(マウス、ラット区域内飼育室)で飼育した。ラクトフェリンおよび鉄結合型ラクトフェリン(ラクトフェリン1分子あたりの鉄結合分子数:0,2,70,200)投与群、及び対照群として5%アラビアガム生理食塩液を投与する群を設定した。血中の乳酸値の測定では、30分間の前負荷のみを実施する無処置群を設定した。被験物質は経口投与とし、プラスチック製胃ゾンデを用いて強制的に投与した。なお、投与量は5ml/kg体重/日とした。体重範囲299〜323gの8週齢ラットを1群8匹使用した。深さ19.5cmまで25±1℃の水を入れた100 L (底面直径40cm、上面直径50cm×高さ60cm)のポリバケツに動物を30分間入れ(前負荷)、その直後に被験物質を経口投与した。次に、Porsolt らの方法[ネイチャー(Nature), 266,730-732,1977年]に従い、被験物質の経口投与1時間後に、動物を深さ24cmまで25±1℃の水を入れた円筒形塩化ビニル製容器に1匹ずつ入れ、5分間隔で15分後まで不動時間(秒)を測定した。円筒形塩化ビニル製容器は高さ40cm、直径20cmのものを使用した。また、不動時間の測定終了後(無処置群では前負荷終了後)にエチルエーテル麻酔下に腹部大静脈よりヘパリン加血液約5mlを採血した。乳酸量の測定は、過塩素酸により除タンパクした後3,500rpm で10分間遠心分離して得られる血清を用いた。
15分間の後負荷強制水泳の結果を表3に示す。
乳酸量の測定結果を表4に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
表3に見られるように、ラクトフェリン(0FeLF、2FeLF)および鉄結合型ラクトフェリン(70FeLF、200FeLF)の投与によって、不動時間が有意に短縮し、疲労に対する抵抗性が高まることが明らかとなった。また、鉄結合量が多いほど不動時間が短くなる傾向がみられた。
さらに、表4に見られるように、血中の乳酸濃度は、無処置群では、前負荷の水泳後が24.0mg/mlであるのに対して、対照群では後負荷の強制水泳後に43.3mg/mlとなり、血中の乳酸濃度が有意に上昇した。ラクトフェリンおよび鉄結合型ラクトフェリンの経口投与により血中乳酸濃度は有意に低下し、ラクトフェリンおよび鉄結合型ラクトフェリンは血中の乳酸濃度の増加を抑制する作用があることを示した。
【実施例1】
【0037】
(ラクトフェリンの調製)
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績社製)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40L(pH6.7)を流速25ml/分で通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、続いて0.7M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で洗浄した後、0.98M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で樹脂に吸着した画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥してラクトフェリン粉末11gを得た。
このようにして得られたラクトフェリン粉末には、ラクトフェリンが93重量%含まれ、そのまま本発明の抗疲労剤として利用可能である。
【実施例2】
【0038】
(鉄結合型ラクトフェリンの調製)
実施例1で得られたラクトフェリン10μmolと重炭酸ナトリウム1.2molとを含む溶液1LをA液として作製した。硫酸第二鉄を鉄イオンとして1.5mmol含む溶液1LをB液として作製した。A液にB液を加えた後、分子量5,000カットの限外ろ過膜にて脱塩、濃縮し、模擬緩衝液(pH8.9)にて鉄濃度が94mg/100mlになるように希釈して鉄結合型ラクトフェリンを得た。
このようにして得られた鉄結合型ラクトフェリンは、溶液100ml当たりラクトフェリンを0.9g、及び鉄を94mg含有しており、そのまま本発明の抗疲労剤としても利用可能である。
【実施例3】
【0039】
(ラクトフェリンを含有した錠剤の調製)
実施例1の方法で得られたラクトフェリン36重量部、乳糖(DMV社製)36重量部、結晶セルロース(和光純薬工業社製)25重量部、水3重量部を十分混合した後、打錠機(富士薬品機械社製)により打錠し、錠剤型の抗疲労剤を得た。
【実施例4】
【0040】
(鉄結合型ラクトフェリンを含有した錠剤の調製)
実施例2の方法で得られた鉄結合型ラクトフェリン36重量部、乳糖(DMV社製)36重量部、結晶セルロース(和光純薬工業社製)25重量部、水3重量部を十分混合した後、打錠機(富士薬品機械社製)により打錠し、錠剤型の抗疲労剤を得た。
【実施例5】
【0041】
(抗疲労剤を配合した清涼飲料水の調製)
市販のラクトフェリン(DMV社製)0.1重量部、50%乳酸溶液0.12重量部、マルチトール 7.5重量部、香料 0.2重量部、水 92.08重量部を混合し、プレート式加熱殺菌機を用いて90℃、15秒間殺菌し、抗疲労効果を有する清涼飲料水を製造した。
【実施例6】
【0042】
(抗疲労剤を配合した清涼飲料水の調製)
実施例2の方法で得られた鉄結合型ラクトフェリン0.1重量部、50%乳酸溶液0.12重量部、マルチトール 7.5重量部、香料 0.2重量部、水 92.08重量部を混合し、プレート式加熱殺菌機を用いて90℃、15秒間殺菌し、抗疲労効果を有する清涼飲料水を製造した。
【実施例7】
【0043】
(抗疲労剤を配合した乳飲料の調製)
実施例1の方法で得られたラクトフェリンを、100mg/100gとなるように生乳に添加し、150kgf/cm2で均質処理を行い、プレート式加熱殺菌機を用いて 130℃、2秒間殺菌し、抗疲労効果を有する乳飲料を製造した。
【実施例8】
【0044】
(鉄結合型ラクトフェリンを添加した乳飲料の調製)
実施例2の方法で得られた鉄結合型ラクトフェリンを、100mg/100gとなるように生乳に添加し、150kgf/cm2で均質処理を行い、プレート殺菌機を用いて 130℃、2秒間殺菌し、抗疲労効果を有する乳飲料を製造した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする抗疲労剤。
【請求項2】
ラクトフェリンがラクトフェリンと鉄とを結合させた鉄結合型ラクトフェリンである請求項1記載の抗疲労剤。


【公開番号】特開2007−22989(P2007−22989A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210456(P2005−210456)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】