説明

抗痙攣医薬組成物

タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される物質の、細胞外GABAを高レベルに誘発し、または、GABA受容体活性化を増加させる有効成分によって人体または動物の体に引き起こされる望ましくない副作用を予防または阻止するための医薬組成物の製造での使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベルの細胞外GABAを誘発するまたはGABA受容体を活性化する抗痙攣(anticonvulsive)有効成分を用いるヒトまたは動物の治療分野に関するものである。これらの抗痙攣有効成分はてんかん(epilepsy)を含む種々の神経疾患の予防に用いられる。
本発明は特に、これらの抗痙攣有効成分によって人体または動物の体に引き起こされる網膜の損傷を含む望ましくない作用を減らす治療方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GABAはパーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、てんかん、反復的痙攣発作によって特徴付けられる中枢神経系疾患を含む複数の神経疾患で重要である。脳内のGABAの欠乏は痙攣の一因とされている(非特許文献1)。
【0003】
脳内のGABA濃度を上げる目的で、GABAの直接投与と経口投与の両方が研究されている。GABAの脳内への直接投与は抗痙攣効果を有するが、明らかに実用的な方法ではないことが示された。しかし、GABAは血液脳関門すなわち脳内の生体異物からCNSを保護する膜を通過できないので、GABAの経口投与は有効ではない。
【0004】
脳内GABAの欠乏を補正して痙攣を止めるのに重要な方法は、血液脳関門を通過できるGABA−アミノトランスフェラーゼ(GABA-AT)阻害剤を用いることである(非特許文献2)。
【0005】
この酵素の阻害によって脳内のGABA濃度が上がり、てんかん、その他の神経疾患の治療に応用できる。最も有効なGABA-ATのインビボ時間依存性阻害剤の一つは4−アミノ−5−ヘキセン酸であり、これはγ−ビニルGABAまたはビガバトリン(ほぼ世界中で市販されている抗痙攣剤)ともよばれる。
【0006】
脳内GABAの欠乏を補正する他の方法はチアガビンのようなGABAトランスポータを遮断するか、GABA受容体に作用するか(トピラメートまたはフェルバメート)、グルタメートデカルボキシラーゼを活性化してGABA生合成を増加させて(ピリドキサルリン酸、バルプロエート、ガバペンチン)GABA伝達を増加させるものである。全ての戦略は脳内のGABA濃度を増加させるか、その受容体を直接活性化して、てんかんを含む種々の神経疾患におけるGABAの治療効果を促進するという点で共通している。
【0007】
てんかんの場合には特に、既存の抗てんかん薬で新たに診断された患者の80%の発作をなくすことができるが、社会経済的意味で重大な障害となる慢性難治性てんかんの患者も多い。
【0008】
てんかん治療では抗てんかん薬を利用できるが、これらの薬剤にはいくつかの欠点がある。例えば、これらの薬剤は液体および体液に難溶性であることが多いか、極めて吸湿性である。さらに重要なことに、時間とともに薬剤が患者に効かなくなることが多い。さらに、多くの抗てんかん薬は望ましくない副作用、神経毒性および薬物相互作用を引き起こす。臨床で現在使用されている抗てんかん薬または抗てんかん薬の組合せで治療しても、てんかん患者の30%は依然として発作を起こす。多くの抗てんかん薬が開発され、各患者毎に効果的な治療計画を建てる際の臨床医の医薬的選択肢が広がっている。
【0009】
ビガバトリン (vigabatrin) は繃−アミノ酪酸トランスアミナーゼ阻害剤として開発されたもので、新規抗痙攣剤の最も有望な有効成分の一つであった。しかし、ビガバトリンは極めて激しい望ましくない作用、例えば非可逆的視野狭窄を誘発する。ビガバトリンによって誘発される視野狭窄が鼻部分に限定され、より中心の領域に広がるまでは、無症候性である。さらに、ビガバトリンによって誘発される視覚障害には視野狭窄だけでなく、視力低下、色の識別力および対比感度の低下を伴う中心視不全もある。ビガバトリンを用いた治療を停止することで視力障害を安定させることができるが、回復することはほとんどない。
【0010】
しかし、てんかん発作は常に極めて重い障害であり、致死の危険性もあるため、ビガバトリンを含めたGABA濃度を増加させる有効成分が依然として処方されている。同様に、GABAトランスアミナーゼを遮断する(バルプロエート)、GABAトランスポータの遮断によってGABA濃度を増加させる(チアガビン)、GABA生合成および/または遊離を刺激する(ガバペンチン、バルプロエート、levetiracetam)またはGABA受容体活性化を増加させる(トピラメート、フェルバメート、ベンゾジアゼピン、例えばジアゼパム、クロナゼパムおよびクロバザムまたはバルビツレート、例えばプリミドンおよびフェノバルビトン)の他の多くの抗てんかん性分子でも視覚的副作用が記述されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Karlsson,A.; Funnum,F.; Malthe-Sorrensen, D.; Storm-Mathisen, J.Biochem.Pharmacol 1974,22,3053-3061
【非特許文献2】Nanavati,S.M.; Silverman,R.B.J.Med.Chem.1989,32,2413-2421
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、当業界では、GABA濃度を増加させ、または、GABA受容体を活性化する抗痙攣有効成分を投与された人体または動物の体に引き起こされる副作用を避けることができる物質または方法が要望されている。
すなわち、望ましくない作用が少ないか、全くない抗痙攣有効成分をベースにした改良された抗痙攣医薬組成物、例えば抗てんかん医薬組成物が当業界では要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質の、細胞外GABAの増加またはGABA伝達を誘発する有効成分を用いて人体または動物の体に引き起こされる望ましくない副作用を予防または阻止するための医薬組成物の製造での使用にある。
【0014】
副作用を予防または阻止し、細胞外GABAを高レベルに誘発するのに好ましい有効成分はGABAアミノトランスフェラーゼ阻害剤、GABAトランスポータ阻害剤、GABA受容体活性剤およびグルタメートデカルボキシラーゼ活性剤からなる群の中から選択される。
【0015】
副作用を予防または阻止するのに最も好ましい有効成分は4−アミノ−5−ヘキセン酸(ビガバトリンともよばれる)からなる。この有効成分はそのラセミ混合物または活性異性体のいずれかである。
【0016】
本発明はさらに、有効成分として下記の(i)および(ii)と、一種または複数の医薬上許容される賦形剤とを組み合わせて含む医薬組成物を提供する:
(i)高レベルの細胞外GABAを誘発するかあるいはGABA伝達を増加させる第1有効成分、
(ii)タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される第2有効成分。
【0017】
本発明はさらに、(i)と(ii)の組合せを治療を必要とする患者に投与する段階を含む、てんかんを含めた痙攣性疾患の治療方法に関する:
(i)高レベルの細胞外GABAを誘発するかあるいはGABA伝達を増加させる第1有効成分、
(ii)タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に重要な物質、例えばビタミンB6からなる群の中から選択される第2有効成分。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】細胞外GABA誘発剤ビガバトリンによって引き起こされる副作用を防止するタウリンまたはビタミンB6による神経保護を示す図。
【図2】血漿中タウリン濃度とビガバトリンの網膜毒性との相関を示す図。
【図3】ラットのビガバトリン誘発網膜毒性の全ての特徴のタウリン補充による予防を示す図。
【図4】マウスのビガバトリン網膜毒性の全ての特徴のタウリン補充による予防を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[図1]は細胞外GABA誘発剤ビガバトリンによって引き起こされる副作用を防止するタウリンまたはビタミンB6による神経保護を示す図である。
ラット(図1A)およびマウス(図1B)にビガバトリンを投与したときに、タウリンまたはビタミンB6を補充することでビガバトリンのみで認められた明所視網膜電図(ERG)の振幅の減少が予防または部分的に抑制されている。対照とビガバトリン投与動物との間に明所視ERGの振幅の統計的有意差が認められる(VGB:*p<0.05)。逆に、マウスでは、対照動物と、ビガバトリン+タウリンまたはビガバトリン+ビタミンB6を投与した動物との間に有意差はなくなった。ラットでは、依然として対照群との間に有意差が認められた(VGB+タウリン:*p<0.05)。しかし、マウスとラットの両方で、ビガバトリン+タウリンを投与した動物は明所視ERG振幅の減少が、ビガバトリンのみを投与した動物より小さく、統計的有意差を認められる(VGB+タウリン:p<0.05)。同様に、ビガバトリンに加えてビタミンB6を補充したマウスでは、明所視ERGの減少がビガバトリンのみを投与した動物より小さく、統計的有意差が認められた(VGB+B6,p<0.05)。
【0020】
[図2]は血漿中タウリン濃度とビガバトリンの網膜毒性との相関を示す図で、(A)は対照と各群のビガバトリン投与動物の血漿中タウリン濃度、(B)はVGB投与対照ラットの血漿中タウリン濃度と明所視ERG振幅との相関を示し、これら2つの因子の相関因子は0.769(p=0.0093%、n=10)である。(C)は血漿中タウリン濃度と錐体光受容体内節/外節の密度との相関を示し、これら2つのパラメータの相関因子は0.818(p=0.0038%、n=10)である。(D)は明所視ERG振幅と錐体光受容体内節/外節の密度との相関を示し、これら2つの因子の相関因子は0.703(p=0.0023%、n=10)である。(E)はタウリン補充によるVGB投与ラットの血漿中タウリン濃度の回復を示す。(A)および(E)の横線は平均値を示す。
【0021】
[図3]はラットのビガバトリン誘発網膜毒性の全特徴のタウリン補充による予防を示す図で、対照ラット(s.e.m.,n=6)、タウリンを補充したまたはタウリンを補充していないVGB投与動物(VGB、n=7;VGB+タウリン、n=7,s.e.m.)の明所視ERG振幅(3A)と、置換光受容体核を有する網膜領域の長さ(3B)と、錐体内節/外節の密度(3C)と、増加したGFAP発現を有する領域(3D)とを定量化したものである。縮尺目盛りは50μmを示す(IPL:内網状層)。
【0022】
[図4]はマウスのビガバトリン網膜毒性の全ての特徴のタウリン補充による予防を示す図で、対照マウス(s.e.m.,n=5)、タウリンを補充したまたはタウリンを補充していないVGB投与動物(VGB、s.e.m.,n=7;VGB+タウリン、s.e.m.,n=7,)の明所視ERG振幅(4A)と、置換光受容体核を有する網膜領域の長さ(4B)と、錐体内節/外節の密度(4C)と、双極細胞がONL中に出芽する領域(4D)とを定量化したものである。縮尺目盛りは50μmを示す(IPL:内網状層)。
【0023】
驚くことに、細胞外GABA誘発剤ビガバトリンで治療した患者の視力の進行性および非可逆的な低下は血中タウリン濃度の大きな減少に関連するということを本発明者は見出した。特に、ビガバトリンを投与した小児てんかん患者ではタウリン欠乏が認められた。
【0024】
本発明でビガバトリン投与ラットで認められる血漿中の低タウリン濃度とこの動物の視覚機能の低下との間に相関があることがわかった。
本発明ではさらに、驚くべきことに、タウリンまたはタウリン生合成に必要な物質をビガバトリン投与個体に補充することによって、ビガバトリンによって誘発される望ましくない副作用が阻止される、特にビガバトリン誘発網膜病変が阻止されることがわかった。
【0025】
ビガバトリンによってタウリンの濃度は変化しないが、GABA濃度は3倍に増加することが従来技術で示されているので、本発明者のこれらの発見はなおさら驚きである。
本発明者は、細胞外GABA誘発剤の役目をする抗痙攣有効成分によって引き起こされる有害な副作用を、人体または動物の体の血中タウリン量を増加させる物質のいずれか一つを投与することによって予防または遮断できることを見出した。
【0026】
本明細書で人体または動物の体の血中タウリン量を増加させる物質はタウリン自体の他に、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質である。
【0027】
本明細書ではタウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質をまとめて「タウリン様」物質とよぶことができる。
【0028】
本発明の対象は、タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される物質の、細胞外GABAを高レベルに誘発する有効成分によって人体または動物の体に引き起こされる望ましくない副作用を予防または阻止するための医薬組成物の製造での使用にある。
本発明ではタウリンは2−アミノエタンスルホン酸からなる。
本発明ではタウリン前駆体とはヒトまたは動物に投与されたときに直接または間接的にタウリンにトランスフォームできる物質を意味する。
【0029】
好ましいタウリン前駆体はシステイン、シスタチオニン、ホモシステイン、S−アデノシルホモシステイン、セリン、N−アセチル−システイン、グルタチオン、N−ホルミルメチオニン、S−アデノシルメチオニン、ベタインおよびメチオニンからなる群の中から選択される。
本発明では、タウリン代謝物として、タウリンのトランスフォーメーションによってインビボで生成される物質がある。
好ましいタウリン代謝物はヒポタウリン、チオタウリン、タウロコール酸からなる群の中から選択される。
本発明でタウリン誘導体は、構造的にタウリンに近いが、少なくとも一つの構造上の差、例えば一つまたは複数の化学変化のある物質、例えばタウリンで見られる原子または化学基を異なる原子または異なる化学基で少なくとも一つ置換した物質である。
【0030】
好ましいタウリン誘導体はアセチルホモタウリネート、およびピペリジノ−、ベンズアミド−、フタルイミド−またはフェニルスクシニルイミドタウリン誘導体からなる群等の種々の単位の中から選択される。このようなタウリン誘導体は下記非特許文献3および非特許文献4に記載されている。
【非特許文献3】Kontro et al. (1983, Prog Clin Biol Res, Vol. 125 : 211-220)
【非特許文献4】Andersen et al. (2006, Journal of pharmaceutical Sciences, Vol. 73(nー1) : 106-108)
【0031】
誘導体の例としてはタウロリジン(4,4’−メチレン−ビス(テトラヒドロ−2H−1,2,4−チアジアジン−1,1−ジオキシドまたはタウロリン)、タウラルタムおよびタウリンアミド、クロロハイドレート−N−イソプロピルアミド−2−(1−フェニルエチル)アミノエタンスルホン酸が挙げられる。
【0032】
本発明でタウリン類似体とはタウリンとは化学的に異なるが、同じ生物学活性を発揮する物質、例えば細胞外GABA誘発剤ビガバトリンによって誘発される網膜病変を阻止する物質である。
好ましいタウリン類似体は(+/-)ピペリジン−3−スルホン酸(PSA)、2−アミノエチルホスホン酸(AEP)、(+/-)2−アセチルアミノシクロヘキサンスルホン酸(ATAHS)、2−アミノベンゼンスルホネート(ANSA)、ヒポタウリン、±トランス−2−アミノシクロペンタンスルホン酸(TAPS)8−テトラヒドロキノレインスルホン酸(THQS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、β−アラニン、グリシン、グアニジノエチルスルフェート(GES)、3−アセトアミド−1−プロパンスルホン酸(acamprosate)からなる群の中から選択される。
【0033】
本発明でタウリン生合成に必要な物質には、インビボタウリン生合成に関与する全ての物質、例えば酵素および酵素補助因子、従って、システインジオキシゲナーゼ(EC 1.13.11)、スルフィノアラニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.29)およびこれらの酵素補助因子が含まれる。
タウリン生合成に必要な物質はビタミンB6(またはピリドキサール−5’−リン酸)、ビタミンB12(コバラミン)、葉酸、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、チアミン(チアミンピロリン酸)およびパントテン酸からなる群の中から選択するのが好ましい。
【0034】
本発明で細胞外GABAを高レベルに誘発し、または、GABA受容体活性化を増加させるのに有効成分はGABAアミノトランスフェラーゼ阻害剤、GABAトランスポータ阻害剤、グルタメートデカルボキシラーゼ活性剤およびGABA受容体アゴニストまたはモジュレータを含む。
GABAアミノトランスフェラーゼはGABAトランスアミナーゼまたは4−アミノ酪酸トランスアミナーゼ(EC 2.6.1.19)ともよばれる。グルタメートデカルボキシラーゼはEC 4.1.1.15に分類される。
【0035】
本発明で副作用がタウリンによって阻止または遮断されるGABAアミノトランスフェラーゼ阻害剤には下記が含まれる:4−アミノ−5−ヘキセン酸(ビガバトリン)、バルプロエート、(1R,3S,4S)−3−アミノ−4−フルオロシクロペンタン−1−カルボン酸、(1R,4S)−4−アミノ−2−シクロペンテン−1−カルボン酸、(1S,4R)−4−アミノ−2−シクロペンテン−1−カルボン酸、(4R)−4−アミノ−1−シクロペンテン−1−カルボン酸、(4S)−4−アミノ−1−シクロペンテン−1−カルボン酸、(S)−4−アミノ−4,5−ジヒドロ−2−チオフェンカルボン酸、1H−テトラゾール−5−(α−ビニル−プロパンアミン)、2,4−ジアミノブタノエート、2−オキソアジピン酸、2−オキソグルタレート、2−チオウラシル、3−クロロ−4−アミノブタノエート、3−メルカプトプロピオン酸、3−メチル−2−ベンゾチアゾロンヒドラゾン塩酸塩、3−フェニル−4−アミノブタノエート、4−エチニル−4−アミノブタノエート、5−ジアゾウラシル、5−フルオロウラシル、アミノオキシアセテート、β−アラニン、シクロセリンおよびD−シクロセリン。
【0036】
本発明で副作用をタウリンによって阻止または遮断できるグルタメートデカルボキシラーゼ活性剤には2−オキソグルタレート、3−メルカプトプロピオン酸、アミノオキシ酢酸およびグルタレートが含まれる。
GABAトランスポータ阻害剤はチアガビン(tiagabine)で構成できる。
GABA受容体アゴニストおよびモジュレータは下記の群の中から選択できる:トピラメート、フェルバメート、トラマドール、オキシカルバゼピン、カルバマゼピン、エスゾピクロン、ゾピクロン、バクロフェン、γ−ヒドロキシ酪酸、イミダゾピリジン、例えばザレプロン、ゾルピデム、ゾピクロンフェニトイン、プロポフォール、フェニトイン、ベンゾジアゼピンおよびバルビツレート。
【0037】
ベンゾジアゼピンは下記の群の中から選択できる:クロバザム、アプラゾラム(ザナックス、登録商標)、ブロマゼパム(Lexomil、登録商標)、ジアゼパム(ヴァリウム、登録商標)、ロラゼパム(Ativan、登録商標)、クロナゼパム(Klonopin、登録商標)、テマゼパム(Restoril、登録商標)、オキサゼパム(セラックス、登録商標)、フルニトラゼパム(ロヒプノール、登録商標)、トリアゾラム(ハルシオン、登録商標)、クロルジアゼポキサイド(リブリウム、登録商標)、フルラゼパム(ダルメーン、登録商標)、エスタゾラム(ProSom、登録商標)およびニトラゼパム(モガドン、登録商標)。
【0038】
バルビツレートは下記の群の中から選択できる:プリミドン、フェノバルビトン、ペントバルビタール、ミダゾラム、フェニトイン、セコバルビタールおよびアモバルビタールブタバルビタールバルビタール、フェノバルビタール、ブタルビタール、シクロバルビタール、アロバルビタール、メチルフェノバルビタールおよびビニルビタール。
【0039】
本発明の別の対象は、高レベルの細胞外GABAを誘発するかあるいはGABA伝達を増加させる有効成分によって人体または動物体に引き起こされる望ましくない副作用を予防または阻止することを目的とする、タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質を含む医薬組成物にある。
【0040】
本発明の別の対象は、タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される物質の有効量を、治療を必要とする人体または動物の体に投与する段階を含む、高レベルの細胞外GABAを誘発するかあるいはGABA伝達を増加させる有効成分によって人体または動物体に引き起こされる望ましくない副作用を予防または阻止する治療法にある。
以下、これらの組成物および方法をさらに詳細に説明する。
【0041】
医薬組成物および方法
一般に、本発明の医薬組成物は(i)および(ii)と一種ま複数の医薬上許容される賦形剤との組合せからなる:
(i)高レベルの細胞外GABAを誘発するかあるいはGABA伝達を増加させる第1有効成分、
(ii)タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体、および、タウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される第2有効成分。
【0042】
第2有効成分はタウリンおよび「タウリン様」物質とからなる群の中から選択されるといえる。
本発明の医薬組成物で高レベルの細胞外GABAを誘発するのに好ましい有効成分すなわち第1有効成分は4−アミノ−5−ヘキセン酸(ビガバトリン)、そのラセミ混合物または活性異性体である。
【0043】
本発明の医薬組成物は種々の神経疾患、主に痙攣性疾患の予防で使用できる。痙攣性疾患にはてんかん、結節硬化症(tuberous sclerosis)、乳児痙攣、ヘロイン、コカイン、エタノールの薬物嗜癖症等の薬物嗜癖患者に発症する痙攣疾患が含まれる。
【0044】
本発明の医薬組成物は抗痙攣医薬組成物が主成分である。第1および第2有効成分はこの抗痙攣医薬組成物中に「治療上有効な量」含まれる。治療上有効な量とは所望の抗痙攣効果を発揮すると同時に有害な副作用を全く誘発しないか、タウリンもタウリン様物質も含まない第1有効成分を含む医薬組成物によって誘発される有害な副作用に比較して、より少ない副作用を誘発する、十分な有効成分の組合せ量である。
【0045】
一般的には、「治療上有効な量」または「有効量」または「治療上有効」とは所定条件および投与計画で治療効果が得られる量を意味する。これは必要な添加剤および希釈剤すなわちキャリアまたは投与媒体と組み合わせて所望の治療効果が得られるように計算された有効物質の所定量である。さらに、ホストの活性、機能および応答の臨床的に重要な欠陥を減らし、好ましくは予防するのに十分な量を意味する。あるいは、治療上有効量はホスト中で臨床的に有意な条件の改善をもたらすのに十分な量である。化合物の量はその比活性に応じて変えられることは当業者には理解できよう。適切な投与量は必要な希釈剤すなわちキャリアまたは添加剤と組み合わせて所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性組成物を含むことができる。
【0046】
本発明の別の対象は、タウリンまたはタウリン様物質の有効量を、治療を必要とする人体または動物体に投与する段階を含む、高レベルの細胞外GABAを誘発するかあるいはGABA伝達を増加させる有効成分によって人体または動物の体に引き起こされる望ましくない副作用を予防または阻止する方法にある。
【0047】
本発明の別の対象は、(i)と(ii)との組合せを治療を必要とする人体または動物体に投与する段階を含む痙攣性疾患の予防または治療方法にある:
(i)高レベルの細胞外GABAを誘発するかあるいはGABA伝達を増加させる第1有効成分、
(ii)タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される第2有効成分。
【0048】
一般に、第1有効成分は4−アミノ−5−ヘキセン酸(ビガバトリン)からなる。有利な実施例では第2有効成分はタウリンとビタミンB6からなる群の中から選択される。
治療を必要とする患者には痙攣性疾患、特にてんかんに罹った成人または小児の患者が含まれる。
本発明の一つの実施例での方法では、上記医薬組成物を治療を必要とする患者に投与する段階を含む。
【0049】
本発明の医薬組成物で、第1有効成分すなわち高レベルの細胞外GABAを誘発する有効成分の量は、痙攣性疾患に罹った患者の治療で一般に用いられる上記有効成分量である。一般に、ビガバトリンでは平均体重が80キロの成人患者に対して、一日に10μg〜10g、好ましくは100μg〜5g、例えば1mg〜1gのビガバトリンを投与可能にするように医薬組成物の投与形態を合せる。一般に、一日に2回投与で1日量の半分を含むような剤形にする。有効成分の形態がラセミ体でなく活性異性体の場合は、ビガバトリンの使用量を少なくすることができ、その量は一般に従来用いられるラセミ体の量の半分である。
【0050】
本発明の医薬組成物で、第2有効成分すなわちタウリンまたはタウリン様物質の量は、平均体重が80キロの成人患者に対して一日に10μg〜10gの量のタウリンまたはタウリン様物質の投与可能にするように医薬組成物の剤形の量を合わせる。
【0051】
本発明の医薬組成物または薬学方法は実際にはその有効成分を一種以上の医薬上または生理学的に許容される賦形剤と組み合わせて用いる。
一般に、本発明の医薬組成物は、上記組成物が(i)タウリンおよびタウリン様物質の中から選択される一種または複数の物質のみを含む場合、あるいは(ii)高レベルの細胞外GABAを誘発する第1有効成分と、タウリンおよびタウリン様物質の中から選択される第2有効成分との組合せを含む場合にかかわらず、一種または複数の有効成分を医薬組成物の全重量に対して0.1〜99.9重量%、一般に1〜90重量%の量で含む。
【0052】
一般に、本発明の医薬組成物は、一種以上の賦形剤を医薬組成物の全重量に対して0.1〜99.9重量%、一般に10〜99重量%の量で含む。
「生理学的に許容される賦形剤またはキャリア」とは、全身または局所投与で安全に用いることができる固体または液体の充填剤、希釈剤または物質を意味する。医薬上許容されるキャリアは、投与経路に応じて、固体または液体の充填剤、希釈剤、ヒドロトロープ、界面活性剤および封入物質として当業者に周知である。
【0053】
本発明の組成物に含むことができる全身投与用の医薬上許容されるキャリアには糖、デンプン、セルロース、植物油、緩衝液、ポリオールおよびアルギン酸が含まれる。特定の医薬上許容されるキャリアは下記文献に記載されており、これらの文献は全て本明細書の一部を成す。
【特許文献1】米国特許第4,401,663号(Buckwalter、1983年8月30日公開)
【特許文献2】欧州特許出願第089710号(LaHann、1983年9月28日公開)
【特許文献3】欧州特許出願第0068592号(Buckwalter、1983年1月5日公開)
【0054】
非経口投与に好ましいキャリアにはプロピレングリコール、ピロリドン、オレイン酸エチル、水性エタノールおよびこれらの組合せが含まれる。
代表的なキャリアにはアカシア、寒天、アルギン酸塩、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラゲニン、粉末セルロース、グアーガム、コレステロール、ゼラチン、ゴム寒天、アラビアゴム、カラヤゴム、ガティゴム、ローカストビーンガム、オクトキシノール9、オレイルアルコール、ペクチン、ポリ(アクリル酸)およびその同族体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリ(酸化エチレン)、ポリビニルピロリドン、グリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、キサンタンゴム、トラガカント、ソルビタンエステル、ステアリルアルコール、デンプンおよび化工デンプンが含まれる。適切な添加範囲は約0.5〜約1%である。
【0055】
本発明の医薬組成物を配合する場合当業者は欧州薬局方または米国薬局方の最終版を参照するのが有利である。また、当業者は欧州薬局方の第5版「2005年」または米国薬局方のUSP28−NF23版を参照するのが好ましい。
本発明の医薬組成物の各用量に含まれる有効成分の組合せ重量は医療上有効な化合物の分子量および痙攣性疾患を阻害または遮断するのに有効な重量に依存する。痙攣性疾患の予防または治療に必要な細胞外GABA誘発剤、特にビガバトリンの有効量は当業者に周知である。
【0056】
本発明の医薬組成物の投与量での細胞外GABA誘発剤、例えばビガバトリンと組み合わされるタウリンまたはタウリン様物質の適量を決定するために、当業者はその中に含まれるタウリンまたはタウリン様物質に関する技術分野で周知または決定された有効量を参考にするのが有利である。
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0057】
実施例1、2
A.実施例1、2の材料と方法
ビガバトリン処置
ウィスターラットRj Wi IOPS HanとBALB/cマウスをJanvier Breeding Center(フランス国、Le Genest-St-Isle)から生後7週で購入した(Duboc et al.,2004)(非特許文献5)。VGBを0.9%NaClに125mg/mlの濃度で溶かしたものを、40mg(125 mg/ml, 0.32 ml)で45または65日間、および、3mg(60 mg/ml, 0.05 ml)で29日間マウスに毎日腹腔内注射した(一日量はラットで約200mg/kg、マウスで150mg/kg)。ビタミンB6(活性体)を1mM/kg(溶液154,46mg/ml)の用量で投与し、タウリンは0.1モル/lの飲料水で供給した。
最後のVGB注射の後にERGを記録した(Duboc et al.,2004)(非特許文献5)。ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を含む溶液を筋肉注射し、麻酔をかけた。2.5cdm-2の光強度に10分順応させた後、10cdm-2の閃光強度で、30秒の刺激間隔で10回記録し、平均化した。これらの明所視ERG測定をラットで59日間、マウスで29日間行った。
注射の65日後に、ラットを麻酔して、血液サンプルを抽出した。麻酔は上述のようにかけた。麻酔下で留置カテーテルを頸動脈に入れた。この方法によって、一回で大量の良質な血液サンプルを得ることができる。各ラット毎にヘパリン添加血液サンプラーで1mlの血液サンプルを採って直ぐに遠心分離し、−80℃で凍結した。自動アミノ酸イオンクロマトグラフィ(Pasteur Cerba,France)を用いて、サンプル中の全遊離アミノ酸を定量的に決定した。
【0058】
実施例1
細胞外GABA誘発剤ビガバトリンによるタウリン欠乏の誘発
[表1]には、ビガバトリン投与動物と対照アルビノ動物の両方の血液サンプルで測定したアミノ酸濃度が示してある。この表から大部分のアミノ酸トレオニン、セリン、バリン、シトルリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチンでは、7〜32%の濃度は統計的有意差が認められないことがわかる。既に報告されているように、グルタミン酸は血液サンプル中で56%大幅に減少し、統計的有意差を認められる。しかし、最大の変化はタウリンで認められ、ビガバトリン投与動物で373.4から122.2μMまで67%減少し、統計的有意差が認められた(p<0.05)。有意差(22%)はメチオニンでも認められた。これらの観察結果から、ビガバトリン投与によるタウリンおよびメチオニン濃度の有意な減少が認められた。
【0059】
実施例2
細胞外GABA誘発剤ビガバトリンによって引き起こされる望ましくない副作用のタウリンおよびタウリン様物質による予防および治療
タウリン補充によってビガバトリン誘発網膜の毒性を予防できるかどうかを調べるために、動物にビガバトリンのみまたはビガバトリン+タウリン補充を投与した。ビガバトリンのみでは既に述べたように明所視網膜電図(ERG)の測定値が減少した。逆に、マウスでは対照とビガバトリン+タウリン補充またはビガバトリン+ビタミンB6補充との間に統計的有意差を認められなくなった(図1B)。ラットではビガバトリンのみよりも明所視ERG振幅の減少が小さいにもかかわらず、対照動物群では依然として統計的有意差が認められた(図1A)。しかし、全ての種で、ビガバトリンとビガバトリン+タウリン補充との間に投与動物では統計的有意差が認められた[図1])。同様に、ビタミンB6の補充によっても明所視ERG振幅の減少が小さくなり、ビガバトリンのみのマウス群とビガバトリン+ビタミンB6補充投与群との間に統計的有意差が認められた(図1B)。これらの結果はビガバトリン誘発のタウリン濃度低下によってビガバトリンの網膜毒性が生じるという仮説と合致する。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例3、4
A.実施例3、4の材料と方法
A.1.動物の処置
ウィスターラットRj Wi IOPS HanまたはBALB/cマウスをJanvier(フランス国、Le Genest-St-Isle)から生後6〜7週で購入した(非特許文献5)。VGBを0.9%NaClに溶かしたものを40mg(125 mg/ml, 0.32 ml)で45または65日間ラットに、および、3mg(60 mg/ml, 0.05 ml)で29日間マウスに毎日腹腔内注射した。これらの一日量(ラットで200mg/kg、マウスで150mg/kg)はてんかんの動物治療に記載されているもの(非特許文献5)またはてんかんのヒト治療(非特許文献6)に記載されているもの(成人患者:1〜6mg/kg、小児:50〜75mg/kgまたは乳児:100〜400mg/kg)と一致している(非特許文献7)(非特許文献8)、(非特許文献9)。
【非特許文献5】Andre, V., Ferrandon, A., Marescaux, C. & Nehlig, A. Vigabatrin protects against hippocampal damage but is not antiepileptogenic in the lithium-pilocarpine modeT of temporal lobe epilepsy. Epilepsy research Vol. 47, 99-117 (2001)) or in humans (adult patients: 1-6mg/kg; children:50-75mg/kg; or infants: 100-400 mg/kg)
【非特許文献6】Chiron, C., Dumas, C., Jambaque, I., Mumford, J. & Dulac, O. Randomized trial comparing vigabatrin and hydrocortisone in infantile spasms due to tuberous sclerosis. Epilepsy research Vol. 26, 389-395 (1997)
【非特許文献7】Lux, A.L., et al. The United Kingdom Infantile Spasms Study comparing vigabatrin with prednisolone or tetracosactide at 14 days: a multicentre, randomised controlled trial. Lancet Vol. 364, 1773-1778 (2004)
【非特許文献8】Lux, A.L., et al. The United Kingdom Infantile Spasms Study comparing vigabatrin with prednisolone or tetracosactide at 14 days: a multicentre, randomised controlled trial. Lancet Vol. 364, 1773-1778 (2004)
【非特許文献9】Aicardi, J., Mumford, J.P., Dumas, C. & Wood, S. Vigabatrin as initial therapy for infantile spasms: a European retrospective survey. Sabril IS Investigator and Peer Review Groups. Epilepsia Vol. 37, 638-642 (1996))
【0062】
タウリンは0.1M濃度の飲料水で補充した。動物のケージの光強度をラットの場合は125〜130ルクス、マウスは70〜85ルクスにした。
【0063】
A.2.網膜電図(ERG)
最後のVGB注射の後に明所視ERGを記録した(非特許文献5)。ケタミン(40mg/ml)およびキシラジン(4mg/ml Rompum)を含む溶液を筋肉注射(0.8〜1.2mg/kg)して麻酔をかけた。動物を25cdm-2の背景光に10分間明順応させた。次いで、この背景光に閃光を当てた。マウス実験および暗所に維持したラットの場合は10cdsm-2の閃光強度([図2]、[図6])に、その他の実験では25cdsm-2の閃光強度([図3]、[図5])にした。30秒の刺激間隔で10回記録し、平均化した。
【0064】
A.3.組織学
リン酸緩衝食塩水(PBS)(0.01M、pH7.4)中で調製した4%(wt/vol)パラホルムアルデヒド中にアイカップを4℃で一晩固定した。4℃で10%、20%および30%のショ糖を順次含むPBS中で凍結保護した後、組織を背腹軸に沿ってOCT中に包埋した(Labonord,Vielleneuve d'Ascq,France)。網膜切片(8〜10μm厚さ)を0.1%トリトンX−100(Sigma,St.Louis,MO)を含むPBS中で5分間透析処理し、洗浄し、1%ウシ血清アルブミン(Eurobio, Les-Ulis, France)、0.1%Tween20(Sigma)および0.1%アジ化ナトリウム(Merck,Fontenay-Sous-Bois,France)を含むPBS中で室温で2時間インキュベートした。この溶液に添加された一次抗体を室温で2時間インキュベートした。ポリクローナル抗体はVGluT1(1:2000、Chemicon)、ウサギGFAP(1/400,Dako, USA)およびマウス錐体アレスチン/Luminaire junior(LUMIj)(1:20,000)に対する抗体にした。モノクローナル抗体はGoa(1:2000、Chemicon)に対する抗体にした。洗浄後、切片をAlexa TM594またはAlexa TM488(1:500、分子プローブ、Eugene、OR)にコンジュゲートされた二次抗体、ヤギ抗ウサギlgGまたはウサギ抗マウスlgGで2時間インキュベートした。錐体光受容体の内節/外節をピーナッツレクチン(PNA,Sigma)で4℃で12時間インキュベートした。最後のインキュベート期間に色素、ジアミドジフェニル−インドール(DAPI)を添加した。切片を洗浄し、フルオルサブ(Fluorsave)試薬(Calbiochem,San Diege,CA)を付け、ロッパー(Ropper)科学カメラ(Photometrics cool SNAP TM FX)を備えたライカ顕微鏡(LEICA DM 5000B)で観察した。
【非特許文献10】Zhu, X., et al.Mouse cone arrestin expression pattern: light induced translocation in cone photoreceptors. Molecular vision Vol. 8, 462-471 (2002)) (Luminaire junior, LUMIJ, 1:20,000
【0065】
定量化のために、背腹軸に沿った垂直断面を視神経で選択した。DAPI核染色に従って、組織崩壊した網膜領域の長さを測定した。GFAP免疫染色を用いて、反応性グリオーシスを有する網膜領域を検出および定量化した。錐体光受容体密度を錐体アレスチン免疫染色(ラット)またはPNA標識化(マウス)に従って計算し、錐体光受容体の内節/外節を可視化した。組織崩壊した網膜層状を有する領域を除外した。出芽する双極細胞を有する領域の定量化を、これらの細胞をプロテインGoαに対する抗体で免疫標識化して行った。
【0066】
A.3.アミノ酸測定
血液サンプルを、ヘパリン(14IU/ml)を含む溶血管に抽出し、遠心分離した(2200g、15分)。血漿中アミノ酸分析をJEOL AMINOTACアナライザーを使用して、ニンヒドリン検出イオン交換クロマトグラフィーによって行った。
【0067】
B.結果
実施例3
ビガバトリンの網膜毒性はタウリン欠乏に依存する
タウリン欠乏は、マウス(Rascher et al., 2004)、ラット(Lake and Malik, 1987)、ネコ(Leon et al., 1995)およびサル(Imaki et al., 1987)の光受容体の変性を誘発することが知られている。代わりに、ビガバトリン投与動物(Halonen et al., 1990; Neal and Shah, 1990)および患者(Halonen et al., 1988; Pitkanen et al., 1988)のタウリン濃度は不変または増加すると報告されているが、本発明者はVGB網膜毒性におけるタウリンの潜在的な役割を調べた。対照動物およびVGBを65日間投与したラットの血漿中アミノ酸濃度を測定した。大部分のアミノ酸(トレオニン、セリン、バリン、シトルリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、アルギニン、ヒスチジン、リジン、およびオルニチン)の濃度の差は、2つの動物群の間で統計的に異ならなかった。逆に、血漿中グルタミン酸濃度はVGB投与動物の方が対照動物よりもはるかに(56%)低く、既報告(非特許文献11)と合致し、実施例2の[表1]に示すように統計的有意差を認めた(対照: 217.4±56.6 μM; VGB: 94.8±15.6 μM s.e.m., n=5)
【非特許文献11】Bernasconi, R., et al. Gamma-vinyl GABA: comparison of neurochemical and anticonvulsant effects in mice. J Neural Transm Vol. 72, 213-233 (1988)
【0068】
しかし、タウリンで最大差が認められた。タウリン濃度はVGB投与動物(122.2±26.6 μM)の方が対照動物(373.4±46.7 μM)よりも67%低かった(図2A, p<0.05, n=5, s.e.m.)。メチオニンでも有意差(22%低下)を認めた。タウリン濃度のこの低下が視力低下と相関しているかどうかを決めるために、ERG振幅(r =0.769, p=0.0093%)と錐体密度(r=0.818, p=0.0038%)の両方を対照動物およびVGB投与ラットのタウリン濃度に対して示した(図2B、図2C)。タウリン濃度はERG振幅と錐体密度の両方と高度に相関していた。この両因子も互いに相関していた(図2D,r =0.703, p=0.0023%)。従って、低い血中タウリン濃度はラットの網膜VGB毒性に直接関与する可能性がある。
タウリンは主として栄養から得る。従って、VGB投与ラットの一つの群の飲料水にタウリンを補充した(0.1M)(n=7)。これらの動物の血漿中タウリン濃度は対照動物およびタウリンを補充していないVGB投与ラットの血漿中タウリン濃度を超えて上昇した(図2E)。明所視ERG振幅はタウリン補充したVGB投与動物の方がタウリンを補充していないVGB投与動物よりも大きかった(n=7)(図3A,* p<0.01)が、対照動物では低いままであった(n=5) (図3A, * p<0.05)。同様に、錐体節密度はタウリン補充したVGB投与群の方がタウリンを補充していない動物よりも大きかった(図3B, * p<0.05)が、対照動物では低いままであった(図3B, * p<0.001)。さらに、VGB誘発GFAP免疫染色はタウリン補充した動物の方がタウリンを補充していない動物よりも増大しなかった(図3C, * p<0.001)。このような発見から、VGB誘発網膜損傷はラットのタウリン補充によって減弱できることがわかる。
別の種におけるVGB網膜毒性をタウリンによって予防できるかどうかを決めるために、マウスにタウリンを補充して(n=7)またはタウリンを補充せず(n=7)にVGBを29〜30日間投与した。ラットと同様に、VGB投与マウスには対照群(n=5)(図4A, * p<0.01)より有意に低い明所視ERG振幅が認められた。タウリン補充によってこの明所視ERG振幅の減少が抑制され、これらのマウスと対照群との間に統計的有意差は認められなかった。タウリンを補充したまたは補充しない2つのVGB投与群の間には統計的有意差を認めた(図4A,* p<0.05)。この2つのVGB投与群における外核層の組織崩壊の定量化から、タウリンを補充したマウスは補充しなかったマウスよりも網膜組織崩壊の領域が小さいことがわかった(図4B, * p<0.001)。錐体外節および内節をその細胞外マトリクスのレクチン染色に従って定量化することで、VGB投与によって密度が低くなることがわかった(図4C, * p<0.001)。この錐体密度の減少はタウリン補充によって予防される(図4D, * p<0.001)。最後に、VGB投与マウスでみられる双極細胞樹状突起の出芽はタウリン補充によって完全に抑制された。これらの結果から、タウリン補充によってマウスのVGB毒性の特徴も減ることがわかる。
【0069】
実施例5
ビガバトリン治療を受けた乳児のタウリン欠乏
次いで、これらの発見がてんかん患者となんらかの臨床的関連を有するかどうかを評価した。ネッケル病院で過去3年間で、少なくとも6カ月間VGB投与を受けた乳児痙攣を示す患者の血漿中タウリン濃度を遡及的に検査した。乳児痙攣を有する患者の血漿中アミノ酸濃度を、特に脳のRMIが良くないときに、病原学的精密検査の一部として、定期的に測定する。データは6人の患者から入手できた([表2])。5人の患者はタウリン濃度が同年齢の乳児の正常値より低かった。タウリンは2人の患者で検出不可能であった。この2人の患者の一方(患者2)は、タウリン濃度を測定した後に、15カ月の期間のVGB治療を開始し、このタウリン濃度は正常になった。患者6は、タウリン濃度が正常値の下方部分にあったが、この測定値は血液遠心分離までの時間を過剰評価した可能性がある。従って、タウリン濃度はVGBが投与されたてんかんの乳児では下がると思われる。
【0070】
【表2】

(先行技術文献)
【0071】
【非特許文献12】Duboc A, Hanoteau N, Simonuth M, Rudolf G, Nehlig A, Sahel JA, Picaud S (2004) Vigabatrin, the GABA-transaminase inhibitor, damages cone photoreceptors in rats. Ann Neurol 55:695-705.
【非特許文献13】Halonen T, Pitkanen A, Riekkinen PJ (1990) Administration of vigabatrin (gamma-vinyl acid) affects the levels of both inhibitory and excitatory amino acids in rat cerebrospinal fluid. J Neurochem 55:1870-1 874.
【非特許文献14】Halonen T, Lehtinen M, Pitkanen A, Ylinen A, Riekkinen PJ (1988) Inhibitory and excitatory amino acids in CSF of patients suffering from complex partial seizures during chronic treatment with gamma-vinyl GABA (vigabatrin). Epilepsy Res 2:246-252.
【非特許文献15】Imaki H, Moretz R, Wisniewski H, Neuringer M, Sturman J (1987) Retinal degeneration in 3-month-old rhesus monkey infants fed a taurine-free human infant formula. J Neurosci Res 18:602-614.
【非特許文献16】Lake N, Malik N (1987) Retinal morphology in rats treated with a taurine transport antagonist. Exp Eye Res 44:331-346.
【非特許文献17】Leon A, Levick WR, Sarossy MG (1995) Lesion topography and new histological features in feline taurine deficiency retinopathy. Exp Eye Res 61:731-741.
【非特許文献18】Neal MJ, Shah MA (1990) Development of tolerance to the effects of vigabatrin (gamma-vinyl-GABA) on GABA release from rat cerebral cortex, spinal cord and retina. BrJ Pharmacol 100:324-328.
【非特許文献19】Pitkanen A, Matilainen R, Ruutiainen T, Lehtinen M, Riekkinen P (1988) Effect of vigabatrin (gamma-vinyl GABA) on amino acid levels in CSF of epileptic patients. J Neurol Neurosurg Psychiatry 51:1395-1400.
【非特許文献20】Rascher K, Servos G, Berthold G, Hartwig HG, Warskulat U, Heller-Stilb B, Haussinger D (2004) Light deprivation slows but does not prevent the loss of photoreceptors in taurine transporter knockout mice. Vision Res 44:2091-2100.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される物質の、細胞外GABAを高レベルに誘発し、または、GABA伝達を増加させる有効成分によって人体または動物の体に引き起こされる望ましくない副作用を予防または阻止するための医薬組成物の製造での使用。
【請求項2】
タウリン前駆体がシステイン、シスタチオニン、ホモシステイン、S−アデノシルホモシステイン、セリン、N−アセチル−システイン、グルタチオン、N−ホルミルメチオニン、S−アデノシルメチオニン、ベタインおよびメチオニンからなる群の中から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項3】
タウリン代謝物がヒポタウリン、チオタウリン、タウロコール酸からなる群の中から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項4】
タウリン誘導体がアセチルホモタウリネート、ピペリジノ−、ベンズアミド−、フタルイミド−またはフェニルスクシニルイミド誘導体タウロリジン、タウラルタム、タウリンアミド、クロロハイドレート−N−イソプロピルアミド−2−(1−フェニルエチル)アミノエタンスルホン酸からなる群の中から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項5】
タウリン類似体が(+/-)ピペリジン−3−スルホン酸(PSA)、2−アミノエチルホスホン酸(AEP)、(+/-)2−アセチルアミノシクロヘキサンスルホン酸(ATAHS)、2−アミノベンゼンスルホネート(ANSA)、ヒポタウリン、±トランス−2−アミノシクロペンタンスルホン酸(TAPS)8−テトラヒドロキノレインスルホン酸(THQS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、β−アラニン、グリシン、グアニジノエチルスルフェート(GES)、3−アセトアミド−1−プロパンスルホン酸(acamprosate)からなる群の中から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項6】
タウリン生合成に必要な物質がビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、チアミンおよびパントテン酸からなる群の中から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項7】
細胞外GABAを高レベルに誘発し、または、GABA受容体の活性化を増加させる有効成分がGABAアミノトランスフェラーゼ阻害剤、GABAトランスポータ(輸送体)ブロッカー、グルタメートデカルボキシラーゼ活性剤およびGABA受容体アゴニストまたはモジュレータからなる群の中から選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
GABAアミノトランスフェラーゼ阻害剤が4−アミノ−5−ヘキセン酸(ビガバトリン(viGABAtrin))、そのラセミ混合物または活性異性体、バルプロエート、(1R,3S,4S)−3−アミノ−4−フルオロシクロペンタン−1−カルボン酸、(1R,4S)−4−アミノ−2−シクロペンテン−1−カルボン酸、(1S,4R)−4−アミノ−2−シクロペンテン−1−カルボン酸、(4R)−4−アミノ−1−シクロペンテン−1−カルボン酸、(4S)−4−アミノ−1−シクロペンテン−1−カルボン酸、(S)−4−アミノ−4,5−ジヒドロ−2−チオフェンカルボン酸、1H−テトラゾール−5−(α−ビニル−プロパンアミン)、2,4−ジアミノブタノエート、2−オキソアジピン酸、2−オキソグルタレート、2−チオウラシル、3−クロロ−4−アミノブタノエート、3−メルカプトプロピオン酸、3−メチル−2−ベンゾチアゾロンヒドラゾン塩酸塩、3−フェニル−4−アミノブタノエート、4−エチニル−4−アミノブタノエート、5−ジアゾウラシル、5−フルオロウラシル、アミノオキシアセテート、β−アラニン、シクロセリンおよびD−シクロセリンからなる請求項7に記載の使用。
【請求項9】
GABAトランスポータブロッカーがチアガビン(tiagabine)からなる請求項7に記載の使用。
【請求項10】
GABA受容体アゴニストまたはモジュレータがトピラメート、フェルバメート、トラマドールオキシカルバゼピン、カルバマゼピン、エスゾピクロンゾピクロン、バクロフェン、γ−ヒドロキシ酪酸、イミダゾピリジン、例えばザレプロンゾルピデムゾピクロンフェニトイン、プロポフォール、フェニトイン、ベンゾジアゼピンおよびバルビツレートからなる群の中から選択される請求項7に記載の使用。
【請求項11】
有効成分として下記の(i)および(ii)と一種または複数の医薬上許容される賦形剤とを組み合わせて含む医薬組成物:
(i)細胞外GABAを高レベルに誘発し、または、GABA伝達を増加させる第1有効成分、
(ii)タウリン、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群の中から選択される第2有効成分。
【請求項12】
細胞外GABAを高レベルに誘発する第1有効成分が4−アミノ−5−ヘキセン酸(ビガバトリン、vigabatrin)、そのラセミ混合物または活性異性体からなる請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
第2有効成分がタウリンからなる請求項11に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−532331(P2010−532331A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514002(P2010−514002)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058672
【国際公開番号】WO2009/004082
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(599176506)アンセルム(アンスチチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (23)
【Fターム(参考)】