抗癌剤、医薬、及び癌疾患の検査薬
【課題】C5a−C5aRシグナル伝達系に関与する、抗癌剤及び癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬の提供、ならびに癌疾患の検査薬の提供。
【解決手段】癌細胞は細胞表面にC5aRを発現すること、及びC5aは濃度依存的に癌細胞に対して浸潤亢進作用を有する。また、セリンプロテアーゼ阻害剤を用いることによって癌細胞膜プロテアーゼによるC5からのC5aの遊離を抑制すること、及び抗C5a抗体や抗C5a受容体抗体を用いることによってC5aによる癌細胞の浸潤亢進作用を抑制する。また、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに被験者から得られた尿、血液、細胞、組織、臓器などの生体試料を用いれば、被験者が上記した癌に罹患しているか否かを検査することができ、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬。
【解決手段】癌細胞は細胞表面にC5aRを発現すること、及びC5aは濃度依存的に癌細胞に対して浸潤亢進作用を有する。また、セリンプロテアーゼ阻害剤を用いることによって癌細胞膜プロテアーゼによるC5からのC5aの遊離を抑制すること、及び抗C5a抗体や抗C5a受容体抗体を用いることによってC5aによる癌細胞の浸潤亢進作用を抑制する。また、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに被験者から得られた尿、血液、細胞、組織、臓器などの生体試料を用いれば、被験者が上記した癌に罹患しているか否かを検査することができ、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤、該抗癌剤を含む癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬、並びに癌疾患の検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌疾患の治療における大きな難問は原発巣の外科的摘出後に転移に起因して再発することであり、従って、癌転移を抑制することが、癌疾患の治療の重要な課題となっている。癌転移は、癌細胞の原発巣からの離脱と周辺組織への浸潤から始まり、遠隔臓器への定着、増殖による転移巣の形成に至るまでの、種々の複雑な反応から成り立っている。
【0003】
癌細胞が原発巣から離脱してもその周辺には各種の細胞外マトリックスが存在し、浸潤を妨げている。しかし、癌細胞は自分自身あるいは間質の細胞が産生する各種のプロテアーゼを利用しながら細胞外マトリックス構造を分解し、浸潤する。この様にして原発巣から遊離した癌細胞は、血管系に侵入し遠隔臓器に運ばれ、血管内皮膜に接着、浸潤する。従って、癌細胞の周辺組織の浸潤を阻害するために、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤や細胞接着阻害剤などが癌転移抑制剤として開発されているが、いまだ癌転移抑制のための有効な手段とはなっていない。
【0004】
一方、これまでに、補体タンパク質C5が分解されると、アナフィラトキシンと称されるシグナル伝達作用を有するアミノ末端カチオン性断片C5aを生じることが知られている。C5aは、その受容体(C5aRと略す)を細胞膜表面に有する細胞に対して、C5aがC5aRに結合することによって媒介される、非常に広範な反応を誘発する。例えば、C5aとC5aRとの結合によるシグナル伝達系(以下、C5a−C5aRシグナル伝達系と略す)によって、白血球の極性化および浸潤、顆粒中のタンパク質分解酵素の放出、活性酸素および窒素ラジカルの生成、放出物質による血流および毛細管漏出の変化、ならびに平滑筋の収縮などがもたらされる。また、C5aは、すべての骨髄性細胞系譜(好中球、好酸球および好塩基球、マクロファージおよび単球)の走化性を誘発し、またプロスタグランジンによって顕著に増強される血管透過性および白血球循環を引き起こす。このようは諸機能を有することから、C5aは、慢関節リウマチ、乾癬、敗血症、再潅流傷害、および成人呼吸窮迫症候群の発症に関与するとされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−520212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1において癌細胞がC5aRを有するとの裏付けとなるデータ等の記載がないように、癌細胞とC5aRとの関係はこれまでに知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、C5a−C5aRシグナル伝達系と癌細胞との関係を明らかにするこによる、C5a−C5aRシグナル伝達系に関与する、抗癌剤及び癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた結果、驚くべきことに、癌細胞は細胞表面にC5aRを発現すること、及びC5aは濃度依存的に癌細胞に対して浸潤亢進作用を有することをはじめて見出した。また、本発明者らは、セリンプロテアーゼ阻害剤を用いることによって癌細胞膜プロテアーゼによるC5からのC5aの遊離を抑制すること、及び抗C5a抗体や抗C5a受容体抗体を用いることによってC5aによる癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することに成功した。
【0009】
また、乳癌などのHER2(受容体型チロシンキナーゼの一種)を細胞表面に発現する癌に対して、抗体の一種であるtrastumabを投与すると、癌のHER2に特異的に結合して、NK細胞及び単球が抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)によって抗腫瘍効果を発揮することが知られている。これには補体系活性化による細胞傷害作用も含まれると容易に推定されることから、抗C5a受容体抗体は、C5a受容体を発現する癌細胞に対して、ADCCと補体活性化の作用によって、癌細胞を破壊する抗腫瘍効果を発揮する可能性が高い。したがって、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び抗C5a受容体抗体は、癌細胞の浸潤亢進作用を抑制するのみならず、抗腫瘍効果を奏し得るものである。本発明は、これらの知見に基づいて完成された発明である。
【0010】
したがって、本発明によれば、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、抗癌剤が提供される。
【0011】
好ましくは、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、アプロチニンである。
好ましくは、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、フリン阻害剤又はフリン様プロテアーゼ阻害剤である。
好ましくは、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、抗フリン抗体、抗フリン様プロテアーゼ抗体又はdecanoyl−Arg−Val−Lys−Arg−cmkである。
好ましくは、癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である。
【0012】
本発明の別の態様によれば、本発明の抗癌剤を含む、癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬が提供される。
【0013】
好ましくは、癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である。
【0014】
本発明の別の態様によれば、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬が提供される。
【0015】
好ましくは、癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である。
【0016】
好ましくは、癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である。
【0017】
本発明の別の側面によれば、本発明の抗癌剤又は本発明の医薬を製造するための、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体の使用が提供される。
【0018】
本発明の別の側面によれば、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体、又は本発明の抗癌剤を哺乳動物に投与することを含む、癌細胞の浸潤亢進作用を抑制する方法又は癌細胞を死滅させる方法が提供される。
【0019】
本発明の別の側面によれば、本発明の医薬を哺乳動物に投与することを含む、癌疾患の予防及び/又は治療する方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の抗癌剤によれば、C5aによる癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することができ、さらに癌細胞を死滅させることも期待できる。また、本発明の医薬によれば、癌疾患の治療、特に癌の浸潤及び/又は転移の予防及び/又は治療が期待できる。本発明の抗癌剤や医薬は、有効成分として癌細胞膜セリンプロテアーゼやC5、C5a受容体に特異的に作用する物質を用いるので、副作用の弊害が少ないことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】癌細胞プロテアーゼによるC5a遊離のアプロチニンによる抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図2】HuCCT1によるC5a産生のフリン阻害剤による抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図3】フリンによるC5からのC5a遊離生成を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図4】MECを用いて癌細胞による非動化ヒト血漿からのC5a遊離のアプロチニン抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図5】HuCCT1を用いて癌細胞による非動化ヒト血漿からのC5a遊離のアプロチニン抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図6】C5aの濃度勾配による癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制を調べるためのMartigel invasion assayの概略図である。
【図7】C5aの濃度勾配による癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制を調べた細胞数計測結果をグラフ化した図である。
【図8】C5aで一時刺激後洗浄した癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制を調べた細胞数計測結果をグラフ化した図である。
【図9】HuCCT1産生C5aによる浸潤亢進作用の抗C5a抗体による抑制を調べるためのMartigel invasion assayの概略図である。
【図10】HuCCT1産生C5aによる浸潤亢進作用の抗C5a抗体による抑制を調べた細胞数計測結果をグラフ化した図である。
【図11】各種ヒト癌組織における抗C5aR抗体を用いた免疫組織化学染色結果を示した図である。
【図12】各発生臓器別の癌組織におけるC5aRの発現率を示した図である。
【図13】MMP阻害剤による癌細胞のC5a誘導型浸潤の抑制結果を示した図である。
【図14】癌細胞のC5a遊離をイムノブロッティングにより示した図である。
【図15】癌細胞におけるC5a−C5aRシグナル伝達系を模式化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の抗癌剤は、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び/又は抗C5a受容体抗体を含む。
【0023】
[1]作用機序
本発明の癌細胞抑制剤の作用機序を模式化したものが図15である。本発明者らは、図15に示す通り、癌細胞の多くはC5a受容体(C5aR)を細胞表面に発現すること、さらに驚くべきことに、C5a受容体を発現する癌細胞はC5aがC5a受容体に結合することにより、浸潤活性が増長されることを見出した。これらの知見を基に、本発明者らは、血漿中のC5からC5aが癌細胞膜プロテアーゼによって産生されることにより、C5a受容体を発現する癌細胞の浸潤・転移亢進が生物体の表現型として発生し得るものと推測している。
【0024】
これらの知見や推測の基で、本発明者らは、生体内でのC5aの産生やC5aとC5a受容体との結合を妨げれば、癌細胞の浸潤を抑制することができるのではないかと考えた。そこで、後述する実施例にある通り、実際に癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体などを用いて癌細胞を処理したところ、生体内でのC5aの産生やC5aとC5a受容体との結合を妨げることにより、癌細胞の浸潤を抑制することができた。これらの、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、及び抗C5a受容体抗体を用いて、癌細胞の浸潤を抑制することは、本発明者らによってはじめて具体的に実証されたことである。また、これまでに報告されている知見から、C5a受容体拮抗剤の浸潤抑制効果及びC5a受容体抗体による血漿中の補体系活性化を介した癌細胞の破壊効果も容易に推測できる。
【0025】
[2]C5a及びC5a受容体
C5aは、補体タンパク質C5がタンパク質分解されて生成される、アナフィラトキシンと称されるシグナル伝達作用を有するアミノ末端カチオン性断片である。ヒト由来のC5aを構成するアミノ酸配列やC5aをコードする塩基配列は、それぞれNCBIデータベースによりNCBI NP001726.2(アミノ酸配列)及びMN001735.2(塩基配列)として登録されている。C5aは、C5a受容体と結合することにより、生物体に対して種々の表現型、例えば、白血球の極性化および浸潤、顆粒結合性タンパク質分解酵素の放出、活性酸素および窒素ラジカルの生成、肥満細胞の脱顆粒誘導によって放出されるヒスタミンによる血管および毛細管漏出の変化、ならびに平滑筋の収縮などを示す。C5aにおいて、C末端の配列はC5aが機能を発揮するには重要であり、C5a受容体との結合に関与している。
【0026】
C5a受容体は、7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体のファミリーに属するタンパク質であり、ヒト由来のC5a受容体を構成するアミノ酸配列やC5a受容体をコードする塩基配列は、それぞれNCBIデータベースによりNCBI NP001727(アミノ酸配列)及びMN001736.3(塩基配列)として登録されている。C5a受容体は、約1nMのKdを有するC5aの高親和性受容体であり、白血球をはじめとする多くの様々な細胞種上に位置している。細胞当たりの受容体の数は極めて多く、白血球当たり最大200,000部位である。受容体の生物学的活性化は、C5aがC5a受容体に結合した場合に起こる。
【0027】
C5a受容体は伸長したN末端細胞外ドメインを含む。この大きなN末端ドメインは、IL−8およびfMet−Leu−Phe(FMLP)受容体ファミリーをはじめとする、ペプチドと結合するGタンパク質共役受容体に典型的である。C5a受容体構造は7回膜貫通型の受容体ファミリーに従い、細胞外N末端を有し、その後に細胞内ループおよび細胞外ループとして交互に並ぶヘリックス間ドメインでつながれた7回膜貫通ヘリックスが続き、細胞内C末端ドメインで終結する。
【0028】
C5aRのN−末端近くの37個のアミノ酸配列部にC5aのHis15−Arg46−Lys49からなる部位が結合し、さらにC5aRの第2ループにC5aのC−末端の−Leu72−Gly73−Arg74が結合してシグナル伝達がおこり、様々な細胞の反応が誘導される。
【0029】
[3]癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤
抗癌剤として用いられる癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤は、癌細胞膜セリンプロテアーゼの有する補体C5からC5aへの遊離を触媒する活性を阻害するものであれば特に制限されず、化合物やタンパク質などの種々の形態や構造をとり得る。癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤の具体的な例は、アプロチニンを挙げることができる。アプロチニンは、カルビオケム社(Calbiochem, San Diego, CA)から市販されている。また、補体C5からC5aへの遊離を触媒する活性を有する癌細胞膜セリンプロテアーゼとしてはフリン(NCBI NP 002560.1(アミノ酸配列)及びMN 002569.2(塩基配列))やフリン様プロテアーゼがある。フリン様プロテアーゼは、フリンと類似した構造及び/又は作用を有するものである。これらフリンやフリン様プロテアーゼの上記活性を阻害する物質としては、例えば、抗フリン抗体、抗フリン様プロテアーゼ抗体やdecanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-cmkなどが挙げられ、これらを本発明の抗癌剤の有効成分として含むことができる。抗フリン抗体は、例えば、R&D システムズ社(R&D systems, Mineapolis, MN)から市販されている。この抗フリン抗体は、モノクローナルおよびポリクローナル抗体であり、フリン様プロテアーゼにおける細胞膜から露出している部分の1〜数個のエピトープに結合してC5からのC5aの遊離反応を阻害するものと推測される。decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-chloromethyketoneは、カルビオケム社から市販されている。
【0030】
[4]C5a受容体拮抗剤
C5a受容体拮抗剤は、C5a受容体を特異的に認識して、C5aとC5a受容体との結合を阻害する物質であれば特に制限されない。C5a受容体拮抗剤は、C5a様の作用を実質的に有していないことが好ましい。C5a受容体拮抗剤は、便宜的に、濃度依存的にC5a受容体に対する結合部位を本来のリガンドであるC5aと奪い合うことでアゴニストの作用を阻害する競合的拮抗剤と、C5a受容体の結合定数に影響を及ぼすことやC5a受容体と不可逆的に結合するなどしてアゴニストの作用を阻害する非競合的拮抗剤に大別できるが、これらのいずれのものであってもよい。C5a受容体拮抗剤としては、例えば、N-methyl-Phe-Lys-Pro-D-cyclohexylalanine-D-cyckohexylalanine-D-Arg、AcPhe[Orn-Pro-D-cyclohexylalanine-Trp-Arg]などを挙げることができる。
【0031】
[5]抗体
本発明の抗癌剤は、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体及び/又は抗フリン様プロテアーゼ抗体を含み得る。抗C5a抗体は、C5a又はその一部に対して特異的親和性を有し、かつC5aとC5a受容体との結合を妨げる構造をとるものである。抗C5a受容体抗体は、C5a受容体又はその一部に対して特異的親和性を有し、かつC5aとC5a受容体との結合を妨げる構造をとるものである。抗フリン抗体はフリン又はその一部に対して、抗フリン様プロテアーゼ抗体はフリン様プロテアーゼ又はその一部に対して特異的親和性を有し、かつフリンやフリン様プロテアーゼの有するC5からのC5aへの遊離活性を妨げる構造をとるものである。
【0032】
抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体、及び抗フリン様プロテアーゼ抗体は、上記構造をとるものであれば特に制限されず、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。例えば、抗C5a抗体は抗ヒトC5aヤギIgGとしてR&Dシステムズ社(R&D systems, Minneapolis, MN)から、抗C5a受容体抗体は抗ヒトC5a受容体ウサギIgGとしてサンタクルズ社(Santa Cruz, Santa Cruz, CA)から、抗フリン抗体は抗フリンヤギIgGとしてR&Dシステムズ社(R&D systems, Minneapolis, MN)からそれぞれ市販されている。また、これらの抗体は、それぞれC5a、C5a受容体、フリン、フリン様プロテアーゼ又はこれらの部分ペプチドを抗原として用い、自体公知の抗体の製造法に従って製造することもできる。
【0033】
C5a、C5a受容体、フリン、及びフリン様プロテアーゼの部分ペプチドを抗原としては、例えば、それぞれC5aにおけるC5a受容体と結合する部位、C5a受容体におけるC5aと結合する部位、及びフリン様プロテアーゼにおけるC5をC5aへ変換する反応部位を含み、好ましくは各種温血動物間でよく保存された領域の部分アミノ酸配列を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドである。
【0034】
例えば、抗C5a抗体のモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体は、以下の記載を参照して作製することができるが、これらに限定されるものではない。また、抗C5a受容体抗体及び抗フリン抗体も抗原を適宜変更することによって、同様の方法により製造することが可能である。
【0035】
(1)モノクローナル抗体の作製
C5a又はその部分ペプチドを、哺乳動物に対して、投与により抗体産生が可能な部位に、それ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ等が挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
【0036】
例えば、抗原で免疫された哺乳動物、具体的にはマウスから抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、酵素や蛍光などで標識した標識化C5aと抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。融合操作は、既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256、495(1975)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
【0037】
骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0、AP−1などの哺乳動物の骨髄腫細胞が挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、20〜40℃、好ましくは30〜37℃で1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0038】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば、抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例:マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識したC5aを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;などによりスクリーニングすることができる。
【0039】
モノクローナル抗体の選別は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。モノクローナル抗体の選別は、通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地で行うことができる。モノクローナル抗体の選別および育種用培地は、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いてもよい。このような培地としては、例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%のウシ胎仔血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))あるいはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5目〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行うことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0040】
このようにして得られたモノクローナル抗体は、自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例:DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って分離精製することができる。
【0041】
(2)ポリクローナル抗体の作製
C5a又はその部分ペプチドに対するポリクローナル抗体は、自体公知の方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(C5a又はその部分ペプチド)自体、あるいはそれとキャリアータンパク質との複合体を作製し、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行い、該免疫動物から抗C5a抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行うことにより製造することができる。
【0042】
哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアータンパク質との複合体に関し、キャリアータンパク質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どのようなものをどのような比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプリングさせる方法が用いられる。
【0043】
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤、例えばグルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル碁を含有する活性エステル試薬等が用いられる。縮合生成物は、哺乳動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行われる。
【0044】
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
【0045】
また、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体、及び抗フリン様プロテアーゼ抗体のグロブリンタイプは特に限定されず、例えばIgG、IgM、IgA、IgE、IgD等が挙げられる。また、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、及び抗フリン抗体は、フラグメント(断片)化したものであってもよく、例えば、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメントなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
さらに、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体、及び抗フリン様プロテアーゼ抗体は、ヒト由来の一次構造をもつヒト化抗体であることが好ましい。これらのヒト化抗体は、ヒト由来のC5a、C5a受容体又はフリンを認識する抗体における抗原認識部位を解析し、該抗原認識部位を有し、かつそれ以外の部分がヒト由来である組換え抗体をコードする核酸を得ることによって作製することができる。また、ヒトの抗体産生に関わる遺伝子をマウス胚又はマウス由来の抗体産生細胞に移入し、このようにして得られるマウスやマウス抗体産生細胞と、抗原としてヒト由来のC5a、C5a受容体又はフリンとを用いることにより、完全ヒト化抗体を得ることもできる。これらの方法に用いられる遺伝子工学的手法や分子生物学的手法は、これらまでに知られている方法を制限なく用いることができ、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989やCurrent Protocols in Molecular Biology, Supplement 1~38, John Wiley & Sons (1987-1997)などに記載されている方法を参照することができる。
【0047】
[6]抗癌剤
本発明の抗癌剤は、上記した癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び/又は抗C5a受容体抗体を含むことにより、C5a−C5a受容体シグナル伝達系による癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することができる。この場合において、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び抗C5a受容体抗体は、抗癌剤の有効成分として機能する。
【0048】
癌細胞は、通常知られている意味での癌細胞として解釈されるものであり、例えば、生体内において発生部から周辺部へ浸潤することにより身体の各組織・器官に転移し得る悪性腫瘍を形成する細胞をいう。
【0049】
本発明の抗癌剤の対象となる癌細胞は、C5a受容体を発現する癌細胞であれば特に制限されないが、例えば、C5a受容体を発現する、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌、膀胱癌(移行上皮癌)などの癌を形成する癌細胞を挙げることができる。
【0050】
本発明の抗癌剤に含まれる上記有効成分の質量比(有効成分/抗癌剤)は、本発明の抗癌剤を生体内又は試験管内の癌細胞に接触させた場合に、C5a−C5a受容体シグナル伝達系による癌細胞の浸潤亢進作用を抑制できる程度の割合であれば特に制限されないが、例えば、0.5〜0.99が好ましく、0.8〜0.99がより好ましく、0.9〜0.99がさらに好ましい。本発明の抗癌剤は、実質的に有効成分を100%含んだものであってもよい。
【0051】
本発明の抗癌剤は、上記有効成分の有効量を含めば、固体又は液体のいずれの形態でも利用することができるが、これに薬学上許容される担体または添加剤を配合して、固体又は液体状の医薬として調製することもできる。本発明の抗癌剤は、上記有効成分とその他の成分とを通常知られる方法で混合することにより製造することができる。
【0052】
本発明の抗癌剤の使用において、本発明の抗癌剤を癌細胞に接触させる方法としては、上記有効成分が癌細胞と接触できれば特に制限されるものではなく、例えば、静脈投与して血中濃度を有効レベルまで上昇させることにより癌に到達し抗癌剤としての効果が発揮される。
【0053】
本発明の抗癌剤を用いた癌細胞の浸潤亢進作用の抑制は、例えば、実施例に記載のアルビニらの文献(Albini, A. et al., Cancer Res. 47, 32939-3245 (1987)に記載のバイオコートマトリゲル侵入チャンバー(BioCoat Matrigel invasion chambers)(BD Biosciences)を使用した侵入測定により確認することができる。具体的には、本発明の抗癌剤を含む適当な細胞数の癌細胞懸濁液を上記チャンバーの上層に入れ、及びC5a又はコントロールとしてPBSを含むRPMI1640培地を下層に入れる。次いで癌細胞にとって適当な温度、例えば20〜40℃で、数時間〜数十時間インキュバートした後に、フィルターの上部表面上の細胞及び下部表面へ侵入した細胞を通常知られている方法で計測し、下部表面へ侵入した細胞数を求める。本発明の抗癌剤によって、下層チャンバーに侵入した細胞数は、抗癌剤がない場合に比較して、例えば、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、なおさらに好ましくは実質的に0%である。
【0054】
[7]癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬
本発明には、本発明の抗癌剤を含む、癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬が包含される。本発明の医薬において、本発明の抗癌剤が有効成分として機能する。本発明の医薬の適用対象となる癌疾患の好ましい例は、癌の浸潤及び/又は転移である。
【0055】
本発明の医薬は、上記有効成分がC5a−C5a受容体シグナル伝達系による癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することにより、癌の浸潤及び/又は転移を防ぎ、癌疾患を予防及び/又は治療することができる。したがって、本発明の医薬は、好ましくは癌の浸潤及び/又は転移を予防するために、さらに好ましくは癌細胞を破壊して癌を消失させるために用いられる。
【0056】
例えば、癌疾患を発症した患者のうち、症状が軽度な患者は本発明の医薬を投与することにより症状の進行や悪化を防ぐことが可能であり、症状が重篤な患者に対しても治療効果を期待できる場合がある。本発明の医薬の効果は、通常知られている方法によって、癌疾患を経時的にモニタリングすることや、癌転移検査をすることにより確認することができる。
【0057】
本発明の医薬としては、本発明の抗癌剤をそのまま用いてもよいが、通常は有効成分である本発明の抗癌剤と1又は2種以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態に調製して用いることが望ましい。
【0058】
癌疾患の予防及び/又は治療の際には、本発明の医薬だけでなく、既存の癌疾患の予防薬や治療薬、好ましくは癌の浸潤や転移に効果のある医薬と併用することも望ましい。
【0059】
経口投与に適する医薬組成物の態様としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物の態様としては、例えば、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、経皮吸収剤、又は経粘膜吸収剤等を挙げることができる。上記の医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物としては、例えば、乳糖やオリゴ糖などの賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、抗酸化剤、矯味剤、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、保存剤、pH調節剤、安定化剤、等張化剤、噴射剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、キャリアー、薬学的アジュバント及び粘着剤等を挙げることができるが、これらは医薬組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。経口で効果のあるC5a受容体拮抗剤はすでに報告されている(J. Med. Chem. 41:3417, 1998; 42:1965, 1999)。
【0060】
本発明の医薬の好ましい形態として、注射剤を挙げることができる。注射剤としては、通常、非水溶媒(または水溶性有機溶媒)を実質的に含まず、媒体が実質的に水である溶媒で溶解または希釈可能である。注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、注射剤は、生理食塩水、PBSなどの緩衝液、滅菌水等の溶剤に溶解した後、フィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプル等)に充填することにより調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアーを含めてもよい。また、非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法を用いてもよい。本発明で用いることができるキャリアーとしては、中性緩衝化生理食塩水、又は血清アルブミンを含む生理食塩水等が挙げられる。
【0061】
さらに、本発明の医薬の好ましい形態として、凍結乾燥製剤(凍結乾燥した注射剤)を挙げることができる。このような凍結乾燥製剤であっても、注射用水(注射用蒸留水)、電解質液(生理食塩水など)などを含む輸液、栄養輸液などから選択された少なくとも1つの液体または溶媒により溶解可能であり容易に注射液を調製でき、その容器もガラス容器およびプラスチック容器が使用できる。注射剤内容物の100重量部に対して本発明の抗癌剤を0.01重量部以上、好ましくは0.1〜10重量部含有することができる。
【0062】
本発明の医薬の投与量及び投与回数などは特に限定されず、患者の年齢、体重、及び性別などの条件、並びに疾患の種類や重篤度、予防又は治療の目的などに応じて適宜選択可能である。通常は、非経口投与による場合には有効成分量として成人一日あたり0.5μg/ml〜10mg/mlが好ましく、1μg/ml〜1mg/mlがより好ましく、10μg/ml〜0.5mg/mlがさらに好ましいが、このような投与量を一日数回に分けて投与してもよい。本発明の医薬の投与頻度は、例えば、一日一回〜数ヶ月に1回であればよく、一ヶ月に1回の投与が好ましい。
【0063】
本発明の抗癌剤又は医薬は、上記のような医薬品の形態としてだけでなく、医薬部外品、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、飲食物などとして使用することができる。医薬部外品または化粧品として使用する場合、必要に応じて、医薬部外品または化粧品などの技術分野で通常用いられている種々の補助剤とともに使用され得る。あるいは、機能性食品、栄養補助剤、または飲食物として使用する場合、必要に応じて、例えば、甘味料、香辛料、調味料、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤などの食品に通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状などの所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。これらに含まれる割合は、特に限定されず、使用目的、使用形態、および使用量に応じて適宜選択することができる。
【0064】
[8]癌疾患の検査薬
抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに被験者から得られた尿、血液、細胞、組織、臓器などの生体試料を用いれば、被験者が上記した癌に罹患しているか否かを検査することができる。したがって、本発明の別の側面によれば、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬が提供される。
【0065】
本発明の検査薬に含まれる抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体は、酵素や蛍光色素などによって標識されていることが好ましい。本発明の検査薬の別の好ましい態様は、例えば、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに酵素や蛍光色素などによって標識された抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体に対する抗体を含む。具体例として、イムノグロブリンタイプがIgGの抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに酵素又は蛍光色素などによって標識された抗IgG抗体を含む検査薬を挙げることができる。
【0066】
標識に使用する蛍光色素としては、TEXAS RED、RITC(ローダミン)、FITC(fluorescein isothiocyanate)、PE(フィコエリスリン)、Cy2、Cy3、Cy5などを例示できる。
【0067】
標識に使用する酵素としては、Horseradish peroxidase(HRP)及びAlkaline phosphataseを例示できる。Horseradish peroxidase(HRP)の基質としては、例えば、3,3’−Diaminobenzidine tetra hydrochloride(DAB)やo−Phenylenediamine hydrochloride(OPD)が挙げられ、Alkaline phosphataseの基質としては、例えば、Bromo choro indole phosphate/nitro blue tetrazoliumやp−Nitrophenyl phosphate disodium salt hexahydrate(NPP)が挙げられる。
【0068】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0069】
後述する例1〜9は、下記1〜7の実験方法に従った。
【0070】
1.細胞株と細胞培養
ヒト胆管癌細胞株であるMEC及びHuCCT1、並びにヒト結腸癌細胞株であるHCT15及びCOLO205は、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターから入手した。ヒト胆管癌細胞株であるSSP-25、RBE、YSCCC及びTKKKは、理研セルバンク(筑波、日本)から購入した。ヒト結腸癌細胞株であるHCT116及び肝臓癌細胞株SKHep1は、ジョンス・ホプキンス大学のB.ヴォゲルスタイン(B.Vogelstein)博士及び久留米大学のイトウ キョウゴ博士によって譲り受けた。細胞は、37℃の5% CO2大気中で10% FBS、ペニシリン(40U/ml)およびストレプトマイシン(40μg/ml)を補ったRPMI1640培地又はDMEM培地で培養した。
【0071】
2.組織試料及び免疫組織化学
癌組織試料は、熊本大学病院での外科的切除又は針生検を受けた225人の患者から得られた。脱パラフィン化した2μm厚の切片を、内因性ペルオキシダーゼ活性を遮断するために20分間0.3% H2O2を含むメタノールで前処理し、次いで非特異IgG結合を遮断するためにタンパク質ブロック無血清(Dako Cytomation、Glostrup、Denmark)で20分間前処理した。切片をC5aR (2μg/ml)に対する第一次抗体と4℃でオーバーナイト培養し、次いでEnVision+溶液(Dako Cytomation)及び0.006%の過酸化水素を含む3,3′-ジアミノベンジジン・テトラヒドロクロリド溶液を使用して、製造業者の指示に従って染色した。核を、ヘマトキシリンで軽く逆染色した。
【0072】
3.免疫蛍光法
線維状アクチン(F−アクチン)形成をスクラウフスタターらの文献(Schraufstatter, I.U. et al., J. Immunol. 169, 2102-2110 (2002))に記載の通りに視覚化した。細胞をガラスカバーグラス上に低密度で播種し、48時間培養した。無血清培地に移してから2時間後、これらの細胞を様々な時間で100nM C5aで刺激した。次いで細胞を4% パラホルムアルデヒドで固定化し、0.2% トリトンX-100中に5分間置き、5U/ml Alexa 488−ファロイジン(Molecular Probes, Eugene, OR)の中で40分間インキュベートし、次いでPBSで3回洗浄した。イメージを、レーザー走査型共焦点顕微鏡であるオリンパスFluoView 300 (オリンパス、Melville、NY)を使用して得た。
【0073】
4.細胞計測
生細胞を2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(WST−8)(Dojin Laboratories, Kumamoto, Japan)を含む細胞計数キット-8を用いて数えた。ICC細胞株(MEC、1×104細胞/100μl; HuCCT1又はC5aR(+)HuCCT1、0.3×104細胞/100μl)を、96ウェルプレートの中に接種して12時間培養し、次いでFCS無添加培地にC5a(10nM又は100nM)を含むRPMI培地を置換した。各ウェルにWST-8(10μl)を加えた後に、細胞を37℃で2時間培養した。450nmの光学密度で自動化ELISAプレート・リーダーを使用して測定した。実験はそれぞれ3回繰り返した。
【0074】
5.イムノブロッティング
C5aR;
胆管癌及び結腸癌の細胞から得られた細胞溶解物を、10% ポリアクリルアミドゲルを使用して還元下でSDS−PAGEで分析し、ポリビニリデンフッ素膜(Immobilon Transfer Membranes; Millipore)に移した。5% 無脂肪ミルクで処理した後に、膜を抗ヒトC5aRウサギIgG(1000倍希釈)(Santa Cruz、Santa Cruz、CA)又はポリクローナル抗アクチン抗体(500倍希釈)(Santa Cruz)とインキュベートし、次いでHRP結合IgG(1000倍希釈)とインキュベートした。
【0075】
C5a、C5b;
MEC又はHuCCT1によるC5からのC5a生産を検出するために、6.8μl C5(最終濃度、350 nM)を、37℃で24時間培養し、4cmディッシュにおいて100μlの無血清培地中の癌細胞又はMEC若しくはHuCCT1コンフルエントの上清を用いてインキュベートした。様々なインキュベーション期間で、20μlの混合液を採取した。癌細胞によってヒト血漿からC5a又はC5bの生産を調べるために、56℃、30分間で処理されたクエン酸塩が加えられた100μlのヒト血漿を、37℃で1×104細胞でインキュベートした。様々なインキュベーション期間で、2μlの反応液を採取した。陽性対照として糖鎖化C5a又はC5bを得るために、5mlの血漿を、1Uのコブラ毒因子(CVF)(Quidel Corporation, San Diego, CA)を用いて37℃、30分間インキュベートし、次いで5μlのカルボキシペプチダーゼN抑制剤、DL-2-メルカプトメチル-3-グアニジノエチルチオプロパン酸(3mM)(Calbiochem, La Jolla, CA)及び2μlの血漿を使用した。これらの試料を、15% ポリアクリルアミドゲルを使用した減少条件下でのSDS−PAGEで分析し、ポリビニリデンフッ素膜上に移し、さらに抗ヒトC5aヤギIgG(1000倍希釈) (R&D systems, Minneapolis, MN)又は抗ヒトC5bモノクローナルIgG(1000倍希釈)(Progen biotechnik、Heidelberg、Germany)を用いてインキュベートした。バンドを増強化ケモルミネッセンス(chemoluminescence)(Amersham Biosciences, Blauvelt, NY)によって視覚化した。
【0076】
6.FACS分析
MEC、HuCCT1又はC5aR(+)HuCCT1を、マウスモノクローナルFITC結合抗C5a受容体抗体(Serotec Ltd, Oxford, UK) 又はFITC結合アイソタイプの一致した対照抗体(Serotec Ltd)を用いて、30分間処理し、次いでPBSで2回洗浄した。蛍光をFACScan装置(BD Biosciences)で分析した。
【0077】
7.浸潤測定
癌細胞の浸潤度は、アルビニらの文献(Albini, A. et al., Cancer Res. 47, 32939-3245 (1987))に記載のバイオコートマトリゲル侵入チャンバー(BioCoat Matrigel invasion chambers)(24ウェルプレート、8μm孔) (BD Biosciences)を使用して、測定した。HuCCT1(3.75×104)又はMEC(7.5×104)の0.5mlの細胞浮遊液を上層チャンバーに入れ、C5a又はPBSのいずれかを追加した0.75mlのRPMI1640培地を下層チャンバーに入れた。さらに、C5aR依存性を調べるために、C5aR抗体(10μg/ml)を、上層チャンバー中の細胞浮遊液に加えた。代わりに、1%のBSAを含むRPMI 1640培地中の様々な濃度のC5aを用いて、37℃で12又は24時間インキュバートした後に、洗浄したHuCCT1又はMECを上層チャンバーに入れ、10% FBSを含む培地を下層チャンバーに入れた。両方の場合で、チャンバーを37℃で24又は36時間でインキュベートした。フィルターの上部表面上の細胞を、生綿スワブで除去した。下部表面へ侵入した細胞は100%メタノール中で固定し、1% トルイジンブルー中で染色した。移動した細胞を、5つの視野 (×20)で数えた。
【0078】
例1 癌細胞プロテアーゼによるC5a遊離 のアプロチニンによる抑制
無血清のRPMI 1640培地で培養した5×104個のHuCCT1又はMEC浮遊液100 μlに、血漿濃度の補体5因子C5(350μM)を添加し、さらに下記物質:10μg/ml aprotinin(calbiochem社)、10μM E64(Peptide Institute、Minou、Japan)、1μM pepstatin(Peptide Institute)、5μM GM6001(calbiochem社)若しくは10μM phospholamidon(Peptide Institute)を添加して又はこれらを添加せず(control)に、37°C、24時間培養した。その培養上清20μlを採取し、還元下SDS-15%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、これをニトロセルロース膜に転写した。転写されたC5aを検出するために一次抗体に抗ヒトC5aヤギIgG(R&D systems、Minneapolis、MN)を、二次抗体にhorseraddish peroxidase結合抗ヤギIgGウサギIgG(Dako社)を反応させ、ケモルミネッセンス法でバンドを可視化した。
【0079】
癌細胞によってC5から遊離されるC5a量は、セリンプロテアーゼインヒビターであるaprotininの添加によって顕著に抑制された(図1を参照)。典型的なセリンプロテアーゼインヒビターであるdiisopropylphospate(DFP)はfurinを抑制するが比較的高濃度を要しかつ毒性が強い。Furinを含むProprotein convertaseに特異的なインヒビターとしてα1-antitrypsinポートランド型があるが、高分子タンパク質なので、大量生産は困難である。
【0080】
例2 HuCCT1によるC5a産生のFurin Inhibitorによる抑制
無血清のRPMI 1640培地で培養した5×104個のHuCCT1浮遊液100 μlに、血漿濃度の補体5因子C5(350μM)を添加し、さらに下記物質:10μg/ml aprotinin(calbiochem社)、2μM decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-cmk(calbiochem社;以下、FIともいう)、20μM FI、DMSO、0.1μg/ml 抗フリンIgG(FAb、R&D systems社)若しくは0.1μg/ml 非特異IgG(Dako社)を添加して又は添加せずに、37°C、24時間培養した。培養上清におけるC5aの検出は例1と同様に実施した。
【0081】
また、C5からのC5aの遊離がフリンを介することを調べた。C5を100nM フリンを用いてインキュベートし、C5a遊離をイムノブロッティングにより検出した。
【0082】
HuCCT1によるC5a遊離は、フリン様プロテアーゼの抑制剤(decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-cmk;FI)と抗フリン抗体によりアプロチニン同様に抑制された(図2を参照)。細胞膜セリンプロテアーゼであるフリンは、C5の濃度依存的に、C5からC5aを遊離した(図3を参照)。癌細胞C5a遊離プロテアーゼはフリンであることが推定された。なお、CVFで処理した血漿(CVFP)は陽性対照を示す。
【0083】
例3 癌細胞による非動化ヒト血漿からの C5a遊離のアプロチニン抑制
ヒト血漿を56℃で30分間処理し、C1q及びB因子を不活化して補体系の活性化能を消失させたヒト非動化血漿を調製した。無血清のRPMI 1640培地で培養した5×104個のHuCCT1又はMECに、上記ヒト非動化血漿と、10μg/ml アプロチニン(calbiochem社)を添加して若しくは添加せずに、37°C、24時間又は48時間培養した。培養後の培養上清におけるC5aを検出した。また、同様に37℃で24時間インキュベートした血漿を陰性対照とした。
【0084】
生理的にC5が存在する血漿からも癌細胞はC5aを遊離したので(図4及び図5のCVFPのバンドを参照)、この現象が患者の癌でも起こっている可能性が高いことが示唆された。図4のMECと血漿のアプロチニンの存在又は非存在下での24時間培養の結果及び図5のHuCCT1と血漿のアプロチニンの存在又は非存在下での48時間培養の結果から、アプロチニン(10μg/ml)はこの場合でもC5a遊離を顕著に抑制した。
【0085】
例4 C5aの濃度勾配による癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制(1)
図6に模式図を示した通り、抗ヒトC5a受容体抗体を含む又は含まない10%FBS−RPMI1640培地を用いて、MEC(75,000/0.75ml)を上穴に、C5aを下穴に入れ、37°C、12時間インキュベートした。ラミニン、コラーゲン IVなどからなるMartrigel(図6を参照)を通り8μmの小孔を抜けてフィルター下面に達した細胞をメタノール固定後1% トルイジンブルーで染色し、光学顕微鏡を用いてx20視野5カ所で数えた。C5aの代わりに上記培地を下穴に入れた場合の細胞数をcontrolとしてその割合で活性を表した。
【0086】
C5aR発現癌細胞はC5a濃度に依存して浸潤が亢進した(図7を参照)。このC5aの浸潤亢進作用は抗ヒトC5a受容体抗体(10μg/ml)によって顕著に抑制された。
【0087】
例5 C5a刺激後洗浄した癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制(2)
抗ヒトC5a受容体抗体を含む又は含まない10%FBS−RPMI1640培地を用いて、MEC(75,000/0.75ml)をC5a共存下で37°C、12時間培養した後に、培養液中の細胞を回収し、PBSで洗浄した。次いで回収した細胞を上記培地に再懸濁して上穴に入れ、さら上記培養液の上清を下穴に入れ、37°C、24時間インキュベートした。例4と同様にして、ゲル層を通り抜けた細胞数を計測した。C5aの代わりに培地を下穴に入れた場合の細胞数をcontrolとしてその割合で活性を表した。
【0088】
C5aR発現癌細胞は、一旦C5aで刺激されると、C5aの濃度勾配がない条件下でも、移動が亢進した(図8を参照)。この場合でもC5a刺激時に抗ヒトC5a受容体抗体を添加することにより顕著に抑制された。
【0089】
例6 HuCCT1産生C5aによる浸潤亢進作用の抗C5a抗体による抑制
図9に模式図として示した通り、抗ヒトC5a抗体を含む又は含まない10%FBS−RPMI1640培地を用いて、下穴でHuCCT1(100,000/ml)をC5 (350nM)の存在下又は非存在下で37°C、24時間培養した後に、C5a受容体陽性HuCCT1細胞(100,000/ml)を上層に入れ、下層において2.6μg/ml 抗C5a抗体又は2.6μg/ml 非特異IgGの存在下で24時間培養した。上層から下層に浸潤した細胞を例5と同様に数えた。
【0090】
C5添加HuCCT1培養液はC5aR高発現HuCCT1の浸潤を亢進したので、癌細胞が遊離するC5aは癌細胞自身を刺激することがわかった(図10を参照)。また、抗C5a抗体を下層に添加すると、この浸潤亢進作用は顕著に抑制された。
【0091】
例7 各種ヒト癌組織におけるC5aR発現
抗C5aR抗体を用いて免疫組織化学染色により、C5aRを発現する癌組織を調べた。図11に、各種ヒト癌組織における抗C5aR抗体を用いた免疫組織化学染色結果を示した。各癌組織において、C5aRを発現する細胞は茶色に染色された。なお、枠内の写真は、陰性対照を示す。また、今回調べた症例において、由来臓器ごとにC5aR陽性症例数の全症例数に対する比をC5aR陽性率として図12に示した。大腸癌、胆管細胞癌、前立腺癌、腎細胞癌においては過半数の症例でC5aR陽性であった。また、扁平上皮癌(食道)、腺癌(上記食道以外)に加え移行上皮癌(膀胱)でも陽性があり、すべての癌型でC5aR(+)が確認された(図12を参照)。
【0092】
例8 MMP阻害剤による癌細胞のC5a誘導型浸潤の抑制
GM6001の存在若しくは非存在下で、MEC(図13の左図)又はC5aR陽性HuCCT1(図13の右図)を上層に置き、下層に100nM C5aを置いてインキュベートした。値は、平均±SD(n=3)を示す。P<0.01である。MMP阻害剤であるGM6001はC5a刺激による癌細胞の浸潤促進を抑制した。
【0093】
例9 癌細胞のC5a遊離
5×104個の癌細胞を350nM C5を用いてインキュベートし、培養上清からイムノブロッティングによりC5aを調べた。調べた胆管からの5種及び大腸からの3種の癌細胞のすべてが、その血漿濃度において、ヒトC5からC5aを放出した(図14を参照)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤、該抗癌剤を含む癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬、並びに癌疾患の検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌疾患の治療における大きな難問は原発巣の外科的摘出後に転移に起因して再発することであり、従って、癌転移を抑制することが、癌疾患の治療の重要な課題となっている。癌転移は、癌細胞の原発巣からの離脱と周辺組織への浸潤から始まり、遠隔臓器への定着、増殖による転移巣の形成に至るまでの、種々の複雑な反応から成り立っている。
【0003】
癌細胞が原発巣から離脱してもその周辺には各種の細胞外マトリックスが存在し、浸潤を妨げている。しかし、癌細胞は自分自身あるいは間質の細胞が産生する各種のプロテアーゼを利用しながら細胞外マトリックス構造を分解し、浸潤する。この様にして原発巣から遊離した癌細胞は、血管系に侵入し遠隔臓器に運ばれ、血管内皮膜に接着、浸潤する。従って、癌細胞の周辺組織の浸潤を阻害するために、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤や細胞接着阻害剤などが癌転移抑制剤として開発されているが、いまだ癌転移抑制のための有効な手段とはなっていない。
【0004】
一方、これまでに、補体タンパク質C5が分解されると、アナフィラトキシンと称されるシグナル伝達作用を有するアミノ末端カチオン性断片C5aを生じることが知られている。C5aは、その受容体(C5aRと略す)を細胞膜表面に有する細胞に対して、C5aがC5aRに結合することによって媒介される、非常に広範な反応を誘発する。例えば、C5aとC5aRとの結合によるシグナル伝達系(以下、C5a−C5aRシグナル伝達系と略す)によって、白血球の極性化および浸潤、顆粒中のタンパク質分解酵素の放出、活性酸素および窒素ラジカルの生成、放出物質による血流および毛細管漏出の変化、ならびに平滑筋の収縮などがもたらされる。また、C5aは、すべての骨髄性細胞系譜(好中球、好酸球および好塩基球、マクロファージおよび単球)の走化性を誘発し、またプロスタグランジンによって顕著に増強される血管透過性および白血球循環を引き起こす。このようは諸機能を有することから、C5aは、慢関節リウマチ、乾癬、敗血症、再潅流傷害、および成人呼吸窮迫症候群の発症に関与するとされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−520212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1において癌細胞がC5aRを有するとの裏付けとなるデータ等の記載がないように、癌細胞とC5aRとの関係はこれまでに知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、C5a−C5aRシグナル伝達系と癌細胞との関係を明らかにするこによる、C5a−C5aRシグナル伝達系に関与する、抗癌剤及び癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた結果、驚くべきことに、癌細胞は細胞表面にC5aRを発現すること、及びC5aは濃度依存的に癌細胞に対して浸潤亢進作用を有することをはじめて見出した。また、本発明者らは、セリンプロテアーゼ阻害剤を用いることによって癌細胞膜プロテアーゼによるC5からのC5aの遊離を抑制すること、及び抗C5a抗体や抗C5a受容体抗体を用いることによってC5aによる癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することに成功した。
【0009】
また、乳癌などのHER2(受容体型チロシンキナーゼの一種)を細胞表面に発現する癌に対して、抗体の一種であるtrastumabを投与すると、癌のHER2に特異的に結合して、NK細胞及び単球が抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)によって抗腫瘍効果を発揮することが知られている。これには補体系活性化による細胞傷害作用も含まれると容易に推定されることから、抗C5a受容体抗体は、C5a受容体を発現する癌細胞に対して、ADCCと補体活性化の作用によって、癌細胞を破壊する抗腫瘍効果を発揮する可能性が高い。したがって、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び抗C5a受容体抗体は、癌細胞の浸潤亢進作用を抑制するのみならず、抗腫瘍効果を奏し得るものである。本発明は、これらの知見に基づいて完成された発明である。
【0010】
したがって、本発明によれば、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、抗癌剤が提供される。
【0011】
好ましくは、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、アプロチニンである。
好ましくは、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、フリン阻害剤又はフリン様プロテアーゼ阻害剤である。
好ましくは、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、抗フリン抗体、抗フリン様プロテアーゼ抗体又はdecanoyl−Arg−Val−Lys−Arg−cmkである。
好ましくは、癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である。
【0012】
本発明の別の態様によれば、本発明の抗癌剤を含む、癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬が提供される。
【0013】
好ましくは、癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である。
【0014】
本発明の別の態様によれば、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬が提供される。
【0015】
好ましくは、癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である。
【0016】
好ましくは、癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である。
【0017】
本発明の別の側面によれば、本発明の抗癌剤又は本発明の医薬を製造するための、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体の使用が提供される。
【0018】
本発明の別の側面によれば、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体、又は本発明の抗癌剤を哺乳動物に投与することを含む、癌細胞の浸潤亢進作用を抑制する方法又は癌細胞を死滅させる方法が提供される。
【0019】
本発明の別の側面によれば、本発明の医薬を哺乳動物に投与することを含む、癌疾患の予防及び/又は治療する方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の抗癌剤によれば、C5aによる癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することができ、さらに癌細胞を死滅させることも期待できる。また、本発明の医薬によれば、癌疾患の治療、特に癌の浸潤及び/又は転移の予防及び/又は治療が期待できる。本発明の抗癌剤や医薬は、有効成分として癌細胞膜セリンプロテアーゼやC5、C5a受容体に特異的に作用する物質を用いるので、副作用の弊害が少ないことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】癌細胞プロテアーゼによるC5a遊離のアプロチニンによる抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図2】HuCCT1によるC5a産生のフリン阻害剤による抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図3】フリンによるC5からのC5a遊離生成を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図4】MECを用いて癌細胞による非動化ヒト血漿からのC5a遊離のアプロチニン抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図5】HuCCT1を用いて癌細胞による非動化ヒト血漿からのC5a遊離のアプロチニン抑制を調べたイムノブロッティング結果を示した図である。
【図6】C5aの濃度勾配による癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制を調べるためのMartigel invasion assayの概略図である。
【図7】C5aの濃度勾配による癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制を調べた細胞数計測結果をグラフ化した図である。
【図8】C5aで一時刺激後洗浄した癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制を調べた細胞数計測結果をグラフ化した図である。
【図9】HuCCT1産生C5aによる浸潤亢進作用の抗C5a抗体による抑制を調べるためのMartigel invasion assayの概略図である。
【図10】HuCCT1産生C5aによる浸潤亢進作用の抗C5a抗体による抑制を調べた細胞数計測結果をグラフ化した図である。
【図11】各種ヒト癌組織における抗C5aR抗体を用いた免疫組織化学染色結果を示した図である。
【図12】各発生臓器別の癌組織におけるC5aRの発現率を示した図である。
【図13】MMP阻害剤による癌細胞のC5a誘導型浸潤の抑制結果を示した図である。
【図14】癌細胞のC5a遊離をイムノブロッティングにより示した図である。
【図15】癌細胞におけるC5a−C5aRシグナル伝達系を模式化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の抗癌剤は、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び/又は抗C5a受容体抗体を含む。
【0023】
[1]作用機序
本発明の癌細胞抑制剤の作用機序を模式化したものが図15である。本発明者らは、図15に示す通り、癌細胞の多くはC5a受容体(C5aR)を細胞表面に発現すること、さらに驚くべきことに、C5a受容体を発現する癌細胞はC5aがC5a受容体に結合することにより、浸潤活性が増長されることを見出した。これらの知見を基に、本発明者らは、血漿中のC5からC5aが癌細胞膜プロテアーゼによって産生されることにより、C5a受容体を発現する癌細胞の浸潤・転移亢進が生物体の表現型として発生し得るものと推測している。
【0024】
これらの知見や推測の基で、本発明者らは、生体内でのC5aの産生やC5aとC5a受容体との結合を妨げれば、癌細胞の浸潤を抑制することができるのではないかと考えた。そこで、後述する実施例にある通り、実際に癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体などを用いて癌細胞を処理したところ、生体内でのC5aの産生やC5aとC5a受容体との結合を妨げることにより、癌細胞の浸潤を抑制することができた。これらの、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、及び抗C5a受容体抗体を用いて、癌細胞の浸潤を抑制することは、本発明者らによってはじめて具体的に実証されたことである。また、これまでに報告されている知見から、C5a受容体拮抗剤の浸潤抑制効果及びC5a受容体抗体による血漿中の補体系活性化を介した癌細胞の破壊効果も容易に推測できる。
【0025】
[2]C5a及びC5a受容体
C5aは、補体タンパク質C5がタンパク質分解されて生成される、アナフィラトキシンと称されるシグナル伝達作用を有するアミノ末端カチオン性断片である。ヒト由来のC5aを構成するアミノ酸配列やC5aをコードする塩基配列は、それぞれNCBIデータベースによりNCBI NP001726.2(アミノ酸配列)及びMN001735.2(塩基配列)として登録されている。C5aは、C5a受容体と結合することにより、生物体に対して種々の表現型、例えば、白血球の極性化および浸潤、顆粒結合性タンパク質分解酵素の放出、活性酸素および窒素ラジカルの生成、肥満細胞の脱顆粒誘導によって放出されるヒスタミンによる血管および毛細管漏出の変化、ならびに平滑筋の収縮などを示す。C5aにおいて、C末端の配列はC5aが機能を発揮するには重要であり、C5a受容体との結合に関与している。
【0026】
C5a受容体は、7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体のファミリーに属するタンパク質であり、ヒト由来のC5a受容体を構成するアミノ酸配列やC5a受容体をコードする塩基配列は、それぞれNCBIデータベースによりNCBI NP001727(アミノ酸配列)及びMN001736.3(塩基配列)として登録されている。C5a受容体は、約1nMのKdを有するC5aの高親和性受容体であり、白血球をはじめとする多くの様々な細胞種上に位置している。細胞当たりの受容体の数は極めて多く、白血球当たり最大200,000部位である。受容体の生物学的活性化は、C5aがC5a受容体に結合した場合に起こる。
【0027】
C5a受容体は伸長したN末端細胞外ドメインを含む。この大きなN末端ドメインは、IL−8およびfMet−Leu−Phe(FMLP)受容体ファミリーをはじめとする、ペプチドと結合するGタンパク質共役受容体に典型的である。C5a受容体構造は7回膜貫通型の受容体ファミリーに従い、細胞外N末端を有し、その後に細胞内ループおよび細胞外ループとして交互に並ぶヘリックス間ドメインでつながれた7回膜貫通ヘリックスが続き、細胞内C末端ドメインで終結する。
【0028】
C5aRのN−末端近くの37個のアミノ酸配列部にC5aのHis15−Arg46−Lys49からなる部位が結合し、さらにC5aRの第2ループにC5aのC−末端の−Leu72−Gly73−Arg74が結合してシグナル伝達がおこり、様々な細胞の反応が誘導される。
【0029】
[3]癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤
抗癌剤として用いられる癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤は、癌細胞膜セリンプロテアーゼの有する補体C5からC5aへの遊離を触媒する活性を阻害するものであれば特に制限されず、化合物やタンパク質などの種々の形態や構造をとり得る。癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤の具体的な例は、アプロチニンを挙げることができる。アプロチニンは、カルビオケム社(Calbiochem, San Diego, CA)から市販されている。また、補体C5からC5aへの遊離を触媒する活性を有する癌細胞膜セリンプロテアーゼとしてはフリン(NCBI NP 002560.1(アミノ酸配列)及びMN 002569.2(塩基配列))やフリン様プロテアーゼがある。フリン様プロテアーゼは、フリンと類似した構造及び/又は作用を有するものである。これらフリンやフリン様プロテアーゼの上記活性を阻害する物質としては、例えば、抗フリン抗体、抗フリン様プロテアーゼ抗体やdecanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-cmkなどが挙げられ、これらを本発明の抗癌剤の有効成分として含むことができる。抗フリン抗体は、例えば、R&D システムズ社(R&D systems, Mineapolis, MN)から市販されている。この抗フリン抗体は、モノクローナルおよびポリクローナル抗体であり、フリン様プロテアーゼにおける細胞膜から露出している部分の1〜数個のエピトープに結合してC5からのC5aの遊離反応を阻害するものと推測される。decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-chloromethyketoneは、カルビオケム社から市販されている。
【0030】
[4]C5a受容体拮抗剤
C5a受容体拮抗剤は、C5a受容体を特異的に認識して、C5aとC5a受容体との結合を阻害する物質であれば特に制限されない。C5a受容体拮抗剤は、C5a様の作用を実質的に有していないことが好ましい。C5a受容体拮抗剤は、便宜的に、濃度依存的にC5a受容体に対する結合部位を本来のリガンドであるC5aと奪い合うことでアゴニストの作用を阻害する競合的拮抗剤と、C5a受容体の結合定数に影響を及ぼすことやC5a受容体と不可逆的に結合するなどしてアゴニストの作用を阻害する非競合的拮抗剤に大別できるが、これらのいずれのものであってもよい。C5a受容体拮抗剤としては、例えば、N-methyl-Phe-Lys-Pro-D-cyclohexylalanine-D-cyckohexylalanine-D-Arg、AcPhe[Orn-Pro-D-cyclohexylalanine-Trp-Arg]などを挙げることができる。
【0031】
[5]抗体
本発明の抗癌剤は、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体及び/又は抗フリン様プロテアーゼ抗体を含み得る。抗C5a抗体は、C5a又はその一部に対して特異的親和性を有し、かつC5aとC5a受容体との結合を妨げる構造をとるものである。抗C5a受容体抗体は、C5a受容体又はその一部に対して特異的親和性を有し、かつC5aとC5a受容体との結合を妨げる構造をとるものである。抗フリン抗体はフリン又はその一部に対して、抗フリン様プロテアーゼ抗体はフリン様プロテアーゼ又はその一部に対して特異的親和性を有し、かつフリンやフリン様プロテアーゼの有するC5からのC5aへの遊離活性を妨げる構造をとるものである。
【0032】
抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体、及び抗フリン様プロテアーゼ抗体は、上記構造をとるものであれば特に制限されず、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。例えば、抗C5a抗体は抗ヒトC5aヤギIgGとしてR&Dシステムズ社(R&D systems, Minneapolis, MN)から、抗C5a受容体抗体は抗ヒトC5a受容体ウサギIgGとしてサンタクルズ社(Santa Cruz, Santa Cruz, CA)から、抗フリン抗体は抗フリンヤギIgGとしてR&Dシステムズ社(R&D systems, Minneapolis, MN)からそれぞれ市販されている。また、これらの抗体は、それぞれC5a、C5a受容体、フリン、フリン様プロテアーゼ又はこれらの部分ペプチドを抗原として用い、自体公知の抗体の製造法に従って製造することもできる。
【0033】
C5a、C5a受容体、フリン、及びフリン様プロテアーゼの部分ペプチドを抗原としては、例えば、それぞれC5aにおけるC5a受容体と結合する部位、C5a受容体におけるC5aと結合する部位、及びフリン様プロテアーゼにおけるC5をC5aへ変換する反応部位を含み、好ましくは各種温血動物間でよく保存された領域の部分アミノ酸配列を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドである。
【0034】
例えば、抗C5a抗体のモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体は、以下の記載を参照して作製することができるが、これらに限定されるものではない。また、抗C5a受容体抗体及び抗フリン抗体も抗原を適宜変更することによって、同様の方法により製造することが可能である。
【0035】
(1)モノクローナル抗体の作製
C5a又はその部分ペプチドを、哺乳動物に対して、投与により抗体産生が可能な部位に、それ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ等が挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
【0036】
例えば、抗原で免疫された哺乳動物、具体的にはマウスから抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、酵素や蛍光などで標識した標識化C5aと抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。融合操作は、既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256、495(1975)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
【0037】
骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0、AP−1などの哺乳動物の骨髄腫細胞が挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、20〜40℃、好ましくは30〜37℃で1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0038】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば、抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例:マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識したC5aを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;などによりスクリーニングすることができる。
【0039】
モノクローナル抗体の選別は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。モノクローナル抗体の選別は、通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地で行うことができる。モノクローナル抗体の選別および育種用培地は、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いてもよい。このような培地としては、例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%のウシ胎仔血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))あるいはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5目〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行うことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0040】
このようにして得られたモノクローナル抗体は、自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例:DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って分離精製することができる。
【0041】
(2)ポリクローナル抗体の作製
C5a又はその部分ペプチドに対するポリクローナル抗体は、自体公知の方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(C5a又はその部分ペプチド)自体、あるいはそれとキャリアータンパク質との複合体を作製し、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行い、該免疫動物から抗C5a抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行うことにより製造することができる。
【0042】
哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアータンパク質との複合体に関し、キャリアータンパク質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どのようなものをどのような比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプリングさせる方法が用いられる。
【0043】
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤、例えばグルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル碁を含有する活性エステル試薬等が用いられる。縮合生成物は、哺乳動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行われる。
【0044】
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
【0045】
また、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体、及び抗フリン様プロテアーゼ抗体のグロブリンタイプは特に限定されず、例えばIgG、IgM、IgA、IgE、IgD等が挙げられる。また、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、及び抗フリン抗体は、フラグメント(断片)化したものであってもよく、例えば、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメントなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
さらに、抗C5a抗体、抗C5a受容体抗体、抗フリン抗体、及び抗フリン様プロテアーゼ抗体は、ヒト由来の一次構造をもつヒト化抗体であることが好ましい。これらのヒト化抗体は、ヒト由来のC5a、C5a受容体又はフリンを認識する抗体における抗原認識部位を解析し、該抗原認識部位を有し、かつそれ以外の部分がヒト由来である組換え抗体をコードする核酸を得ることによって作製することができる。また、ヒトの抗体産生に関わる遺伝子をマウス胚又はマウス由来の抗体産生細胞に移入し、このようにして得られるマウスやマウス抗体産生細胞と、抗原としてヒト由来のC5a、C5a受容体又はフリンとを用いることにより、完全ヒト化抗体を得ることもできる。これらの方法に用いられる遺伝子工学的手法や分子生物学的手法は、これらまでに知られている方法を制限なく用いることができ、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989やCurrent Protocols in Molecular Biology, Supplement 1~38, John Wiley & Sons (1987-1997)などに記載されている方法を参照することができる。
【0047】
[6]抗癌剤
本発明の抗癌剤は、上記した癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び/又は抗C5a受容体抗体を含むことにより、C5a−C5a受容体シグナル伝達系による癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することができる。この場合において、癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、C5a受容体拮抗剤、抗C5a抗体、及び抗C5a受容体抗体は、抗癌剤の有効成分として機能する。
【0048】
癌細胞は、通常知られている意味での癌細胞として解釈されるものであり、例えば、生体内において発生部から周辺部へ浸潤することにより身体の各組織・器官に転移し得る悪性腫瘍を形成する細胞をいう。
【0049】
本発明の抗癌剤の対象となる癌細胞は、C5a受容体を発現する癌細胞であれば特に制限されないが、例えば、C5a受容体を発現する、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌、膀胱癌(移行上皮癌)などの癌を形成する癌細胞を挙げることができる。
【0050】
本発明の抗癌剤に含まれる上記有効成分の質量比(有効成分/抗癌剤)は、本発明の抗癌剤を生体内又は試験管内の癌細胞に接触させた場合に、C5a−C5a受容体シグナル伝達系による癌細胞の浸潤亢進作用を抑制できる程度の割合であれば特に制限されないが、例えば、0.5〜0.99が好ましく、0.8〜0.99がより好ましく、0.9〜0.99がさらに好ましい。本発明の抗癌剤は、実質的に有効成分を100%含んだものであってもよい。
【0051】
本発明の抗癌剤は、上記有効成分の有効量を含めば、固体又は液体のいずれの形態でも利用することができるが、これに薬学上許容される担体または添加剤を配合して、固体又は液体状の医薬として調製することもできる。本発明の抗癌剤は、上記有効成分とその他の成分とを通常知られる方法で混合することにより製造することができる。
【0052】
本発明の抗癌剤の使用において、本発明の抗癌剤を癌細胞に接触させる方法としては、上記有効成分が癌細胞と接触できれば特に制限されるものではなく、例えば、静脈投与して血中濃度を有効レベルまで上昇させることにより癌に到達し抗癌剤としての効果が発揮される。
【0053】
本発明の抗癌剤を用いた癌細胞の浸潤亢進作用の抑制は、例えば、実施例に記載のアルビニらの文献(Albini, A. et al., Cancer Res. 47, 32939-3245 (1987)に記載のバイオコートマトリゲル侵入チャンバー(BioCoat Matrigel invasion chambers)(BD Biosciences)を使用した侵入測定により確認することができる。具体的には、本発明の抗癌剤を含む適当な細胞数の癌細胞懸濁液を上記チャンバーの上層に入れ、及びC5a又はコントロールとしてPBSを含むRPMI1640培地を下層に入れる。次いで癌細胞にとって適当な温度、例えば20〜40℃で、数時間〜数十時間インキュバートした後に、フィルターの上部表面上の細胞及び下部表面へ侵入した細胞を通常知られている方法で計測し、下部表面へ侵入した細胞数を求める。本発明の抗癌剤によって、下層チャンバーに侵入した細胞数は、抗癌剤がない場合に比較して、例えば、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、なおさらに好ましくは実質的に0%である。
【0054】
[7]癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬
本発明には、本発明の抗癌剤を含む、癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬が包含される。本発明の医薬において、本発明の抗癌剤が有効成分として機能する。本発明の医薬の適用対象となる癌疾患の好ましい例は、癌の浸潤及び/又は転移である。
【0055】
本発明の医薬は、上記有効成分がC5a−C5a受容体シグナル伝達系による癌細胞の浸潤亢進作用を抑制することにより、癌の浸潤及び/又は転移を防ぎ、癌疾患を予防及び/又は治療することができる。したがって、本発明の医薬は、好ましくは癌の浸潤及び/又は転移を予防するために、さらに好ましくは癌細胞を破壊して癌を消失させるために用いられる。
【0056】
例えば、癌疾患を発症した患者のうち、症状が軽度な患者は本発明の医薬を投与することにより症状の進行や悪化を防ぐことが可能であり、症状が重篤な患者に対しても治療効果を期待できる場合がある。本発明の医薬の効果は、通常知られている方法によって、癌疾患を経時的にモニタリングすることや、癌転移検査をすることにより確認することができる。
【0057】
本発明の医薬としては、本発明の抗癌剤をそのまま用いてもよいが、通常は有効成分である本発明の抗癌剤と1又は2種以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態に調製して用いることが望ましい。
【0058】
癌疾患の予防及び/又は治療の際には、本発明の医薬だけでなく、既存の癌疾患の予防薬や治療薬、好ましくは癌の浸潤や転移に効果のある医薬と併用することも望ましい。
【0059】
経口投与に適する医薬組成物の態様としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物の態様としては、例えば、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、経皮吸収剤、又は経粘膜吸収剤等を挙げることができる。上記の医薬組成物の製造に用いられる製剤用添加物としては、例えば、乳糖やオリゴ糖などの賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、抗酸化剤、矯味剤、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、保存剤、pH調節剤、安定化剤、等張化剤、噴射剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、キャリアー、薬学的アジュバント及び粘着剤等を挙げることができるが、これらは医薬組成物の形態に応じて当業者が適宜選択することができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。経口で効果のあるC5a受容体拮抗剤はすでに報告されている(J. Med. Chem. 41:3417, 1998; 42:1965, 1999)。
【0060】
本発明の医薬の好ましい形態として、注射剤を挙げることができる。注射剤としては、通常、非水溶媒(または水溶性有機溶媒)を実質的に含まず、媒体が実質的に水である溶媒で溶解または希釈可能である。注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、注射剤は、生理食塩水、PBSなどの緩衝液、滅菌水等の溶剤に溶解した後、フィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプル等)に充填することにより調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアーを含めてもよい。また、非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法を用いてもよい。本発明で用いることができるキャリアーとしては、中性緩衝化生理食塩水、又は血清アルブミンを含む生理食塩水等が挙げられる。
【0061】
さらに、本発明の医薬の好ましい形態として、凍結乾燥製剤(凍結乾燥した注射剤)を挙げることができる。このような凍結乾燥製剤であっても、注射用水(注射用蒸留水)、電解質液(生理食塩水など)などを含む輸液、栄養輸液などから選択された少なくとも1つの液体または溶媒により溶解可能であり容易に注射液を調製でき、その容器もガラス容器およびプラスチック容器が使用できる。注射剤内容物の100重量部に対して本発明の抗癌剤を0.01重量部以上、好ましくは0.1〜10重量部含有することができる。
【0062】
本発明の医薬の投与量及び投与回数などは特に限定されず、患者の年齢、体重、及び性別などの条件、並びに疾患の種類や重篤度、予防又は治療の目的などに応じて適宜選択可能である。通常は、非経口投与による場合には有効成分量として成人一日あたり0.5μg/ml〜10mg/mlが好ましく、1μg/ml〜1mg/mlがより好ましく、10μg/ml〜0.5mg/mlがさらに好ましいが、このような投与量を一日数回に分けて投与してもよい。本発明の医薬の投与頻度は、例えば、一日一回〜数ヶ月に1回であればよく、一ヶ月に1回の投与が好ましい。
【0063】
本発明の抗癌剤又は医薬は、上記のような医薬品の形態としてだけでなく、医薬部外品、化粧品、機能性食品、栄養補助剤、飲食物などとして使用することができる。医薬部外品または化粧品として使用する場合、必要に応じて、医薬部外品または化粧品などの技術分野で通常用いられている種々の補助剤とともに使用され得る。あるいは、機能性食品、栄養補助剤、または飲食物として使用する場合、必要に応じて、例えば、甘味料、香辛料、調味料、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤などの食品に通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状などの所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。これらに含まれる割合は、特に限定されず、使用目的、使用形態、および使用量に応じて適宜選択することができる。
【0064】
[8]癌疾患の検査薬
抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに被験者から得られた尿、血液、細胞、組織、臓器などの生体試料を用いれば、被験者が上記した癌に罹患しているか否かを検査することができる。したがって、本発明の別の側面によれば、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬が提供される。
【0065】
本発明の検査薬に含まれる抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体は、酵素や蛍光色素などによって標識されていることが好ましい。本発明の検査薬の別の好ましい態様は、例えば、抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに酵素や蛍光色素などによって標識された抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体に対する抗体を含む。具体例として、イムノグロブリンタイプがIgGの抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体、並びに酵素又は蛍光色素などによって標識された抗IgG抗体を含む検査薬を挙げることができる。
【0066】
標識に使用する蛍光色素としては、TEXAS RED、RITC(ローダミン)、FITC(fluorescein isothiocyanate)、PE(フィコエリスリン)、Cy2、Cy3、Cy5などを例示できる。
【0067】
標識に使用する酵素としては、Horseradish peroxidase(HRP)及びAlkaline phosphataseを例示できる。Horseradish peroxidase(HRP)の基質としては、例えば、3,3’−Diaminobenzidine tetra hydrochloride(DAB)やo−Phenylenediamine hydrochloride(OPD)が挙げられ、Alkaline phosphataseの基質としては、例えば、Bromo choro indole phosphate/nitro blue tetrazoliumやp−Nitrophenyl phosphate disodium salt hexahydrate(NPP)が挙げられる。
【0068】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0069】
後述する例1〜9は、下記1〜7の実験方法に従った。
【0070】
1.細胞株と細胞培養
ヒト胆管癌細胞株であるMEC及びHuCCT1、並びにヒト結腸癌細胞株であるHCT15及びCOLO205は、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターから入手した。ヒト胆管癌細胞株であるSSP-25、RBE、YSCCC及びTKKKは、理研セルバンク(筑波、日本)から購入した。ヒト結腸癌細胞株であるHCT116及び肝臓癌細胞株SKHep1は、ジョンス・ホプキンス大学のB.ヴォゲルスタイン(B.Vogelstein)博士及び久留米大学のイトウ キョウゴ博士によって譲り受けた。細胞は、37℃の5% CO2大気中で10% FBS、ペニシリン(40U/ml)およびストレプトマイシン(40μg/ml)を補ったRPMI1640培地又はDMEM培地で培養した。
【0071】
2.組織試料及び免疫組織化学
癌組織試料は、熊本大学病院での外科的切除又は針生検を受けた225人の患者から得られた。脱パラフィン化した2μm厚の切片を、内因性ペルオキシダーゼ活性を遮断するために20分間0.3% H2O2を含むメタノールで前処理し、次いで非特異IgG結合を遮断するためにタンパク質ブロック無血清(Dako Cytomation、Glostrup、Denmark)で20分間前処理した。切片をC5aR (2μg/ml)に対する第一次抗体と4℃でオーバーナイト培養し、次いでEnVision+溶液(Dako Cytomation)及び0.006%の過酸化水素を含む3,3′-ジアミノベンジジン・テトラヒドロクロリド溶液を使用して、製造業者の指示に従って染色した。核を、ヘマトキシリンで軽く逆染色した。
【0072】
3.免疫蛍光法
線維状アクチン(F−アクチン)形成をスクラウフスタターらの文献(Schraufstatter, I.U. et al., J. Immunol. 169, 2102-2110 (2002))に記載の通りに視覚化した。細胞をガラスカバーグラス上に低密度で播種し、48時間培養した。無血清培地に移してから2時間後、これらの細胞を様々な時間で100nM C5aで刺激した。次いで細胞を4% パラホルムアルデヒドで固定化し、0.2% トリトンX-100中に5分間置き、5U/ml Alexa 488−ファロイジン(Molecular Probes, Eugene, OR)の中で40分間インキュベートし、次いでPBSで3回洗浄した。イメージを、レーザー走査型共焦点顕微鏡であるオリンパスFluoView 300 (オリンパス、Melville、NY)を使用して得た。
【0073】
4.細胞計測
生細胞を2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(WST−8)(Dojin Laboratories, Kumamoto, Japan)を含む細胞計数キット-8を用いて数えた。ICC細胞株(MEC、1×104細胞/100μl; HuCCT1又はC5aR(+)HuCCT1、0.3×104細胞/100μl)を、96ウェルプレートの中に接種して12時間培養し、次いでFCS無添加培地にC5a(10nM又は100nM)を含むRPMI培地を置換した。各ウェルにWST-8(10μl)を加えた後に、細胞を37℃で2時間培養した。450nmの光学密度で自動化ELISAプレート・リーダーを使用して測定した。実験はそれぞれ3回繰り返した。
【0074】
5.イムノブロッティング
C5aR;
胆管癌及び結腸癌の細胞から得られた細胞溶解物を、10% ポリアクリルアミドゲルを使用して還元下でSDS−PAGEで分析し、ポリビニリデンフッ素膜(Immobilon Transfer Membranes; Millipore)に移した。5% 無脂肪ミルクで処理した後に、膜を抗ヒトC5aRウサギIgG(1000倍希釈)(Santa Cruz、Santa Cruz、CA)又はポリクローナル抗アクチン抗体(500倍希釈)(Santa Cruz)とインキュベートし、次いでHRP結合IgG(1000倍希釈)とインキュベートした。
【0075】
C5a、C5b;
MEC又はHuCCT1によるC5からのC5a生産を検出するために、6.8μl C5(最終濃度、350 nM)を、37℃で24時間培養し、4cmディッシュにおいて100μlの無血清培地中の癌細胞又はMEC若しくはHuCCT1コンフルエントの上清を用いてインキュベートした。様々なインキュベーション期間で、20μlの混合液を採取した。癌細胞によってヒト血漿からC5a又はC5bの生産を調べるために、56℃、30分間で処理されたクエン酸塩が加えられた100μlのヒト血漿を、37℃で1×104細胞でインキュベートした。様々なインキュベーション期間で、2μlの反応液を採取した。陽性対照として糖鎖化C5a又はC5bを得るために、5mlの血漿を、1Uのコブラ毒因子(CVF)(Quidel Corporation, San Diego, CA)を用いて37℃、30分間インキュベートし、次いで5μlのカルボキシペプチダーゼN抑制剤、DL-2-メルカプトメチル-3-グアニジノエチルチオプロパン酸(3mM)(Calbiochem, La Jolla, CA)及び2μlの血漿を使用した。これらの試料を、15% ポリアクリルアミドゲルを使用した減少条件下でのSDS−PAGEで分析し、ポリビニリデンフッ素膜上に移し、さらに抗ヒトC5aヤギIgG(1000倍希釈) (R&D systems, Minneapolis, MN)又は抗ヒトC5bモノクローナルIgG(1000倍希釈)(Progen biotechnik、Heidelberg、Germany)を用いてインキュベートした。バンドを増強化ケモルミネッセンス(chemoluminescence)(Amersham Biosciences, Blauvelt, NY)によって視覚化した。
【0076】
6.FACS分析
MEC、HuCCT1又はC5aR(+)HuCCT1を、マウスモノクローナルFITC結合抗C5a受容体抗体(Serotec Ltd, Oxford, UK) 又はFITC結合アイソタイプの一致した対照抗体(Serotec Ltd)を用いて、30分間処理し、次いでPBSで2回洗浄した。蛍光をFACScan装置(BD Biosciences)で分析した。
【0077】
7.浸潤測定
癌細胞の浸潤度は、アルビニらの文献(Albini, A. et al., Cancer Res. 47, 32939-3245 (1987))に記載のバイオコートマトリゲル侵入チャンバー(BioCoat Matrigel invasion chambers)(24ウェルプレート、8μm孔) (BD Biosciences)を使用して、測定した。HuCCT1(3.75×104)又はMEC(7.5×104)の0.5mlの細胞浮遊液を上層チャンバーに入れ、C5a又はPBSのいずれかを追加した0.75mlのRPMI1640培地を下層チャンバーに入れた。さらに、C5aR依存性を調べるために、C5aR抗体(10μg/ml)を、上層チャンバー中の細胞浮遊液に加えた。代わりに、1%のBSAを含むRPMI 1640培地中の様々な濃度のC5aを用いて、37℃で12又は24時間インキュバートした後に、洗浄したHuCCT1又はMECを上層チャンバーに入れ、10% FBSを含む培地を下層チャンバーに入れた。両方の場合で、チャンバーを37℃で24又は36時間でインキュベートした。フィルターの上部表面上の細胞を、生綿スワブで除去した。下部表面へ侵入した細胞は100%メタノール中で固定し、1% トルイジンブルー中で染色した。移動した細胞を、5つの視野 (×20)で数えた。
【0078】
例1 癌細胞プロテアーゼによるC5a遊離 のアプロチニンによる抑制
無血清のRPMI 1640培地で培養した5×104個のHuCCT1又はMEC浮遊液100 μlに、血漿濃度の補体5因子C5(350μM)を添加し、さらに下記物質:10μg/ml aprotinin(calbiochem社)、10μM E64(Peptide Institute、Minou、Japan)、1μM pepstatin(Peptide Institute)、5μM GM6001(calbiochem社)若しくは10μM phospholamidon(Peptide Institute)を添加して又はこれらを添加せず(control)に、37°C、24時間培養した。その培養上清20μlを採取し、還元下SDS-15%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、これをニトロセルロース膜に転写した。転写されたC5aを検出するために一次抗体に抗ヒトC5aヤギIgG(R&D systems、Minneapolis、MN)を、二次抗体にhorseraddish peroxidase結合抗ヤギIgGウサギIgG(Dako社)を反応させ、ケモルミネッセンス法でバンドを可視化した。
【0079】
癌細胞によってC5から遊離されるC5a量は、セリンプロテアーゼインヒビターであるaprotininの添加によって顕著に抑制された(図1を参照)。典型的なセリンプロテアーゼインヒビターであるdiisopropylphospate(DFP)はfurinを抑制するが比較的高濃度を要しかつ毒性が強い。Furinを含むProprotein convertaseに特異的なインヒビターとしてα1-antitrypsinポートランド型があるが、高分子タンパク質なので、大量生産は困難である。
【0080】
例2 HuCCT1によるC5a産生のFurin Inhibitorによる抑制
無血清のRPMI 1640培地で培養した5×104個のHuCCT1浮遊液100 μlに、血漿濃度の補体5因子C5(350μM)を添加し、さらに下記物質:10μg/ml aprotinin(calbiochem社)、2μM decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-cmk(calbiochem社;以下、FIともいう)、20μM FI、DMSO、0.1μg/ml 抗フリンIgG(FAb、R&D systems社)若しくは0.1μg/ml 非特異IgG(Dako社)を添加して又は添加せずに、37°C、24時間培養した。培養上清におけるC5aの検出は例1と同様に実施した。
【0081】
また、C5からのC5aの遊離がフリンを介することを調べた。C5を100nM フリンを用いてインキュベートし、C5a遊離をイムノブロッティングにより検出した。
【0082】
HuCCT1によるC5a遊離は、フリン様プロテアーゼの抑制剤(decanoyl-Arg-Val-Lys-Arg-cmk;FI)と抗フリン抗体によりアプロチニン同様に抑制された(図2を参照)。細胞膜セリンプロテアーゼであるフリンは、C5の濃度依存的に、C5からC5aを遊離した(図3を参照)。癌細胞C5a遊離プロテアーゼはフリンであることが推定された。なお、CVFで処理した血漿(CVFP)は陽性対照を示す。
【0083】
例3 癌細胞による非動化ヒト血漿からの C5a遊離のアプロチニン抑制
ヒト血漿を56℃で30分間処理し、C1q及びB因子を不活化して補体系の活性化能を消失させたヒト非動化血漿を調製した。無血清のRPMI 1640培地で培養した5×104個のHuCCT1又はMECに、上記ヒト非動化血漿と、10μg/ml アプロチニン(calbiochem社)を添加して若しくは添加せずに、37°C、24時間又は48時間培養した。培養後の培養上清におけるC5aを検出した。また、同様に37℃で24時間インキュベートした血漿を陰性対照とした。
【0084】
生理的にC5が存在する血漿からも癌細胞はC5aを遊離したので(図4及び図5のCVFPのバンドを参照)、この現象が患者の癌でも起こっている可能性が高いことが示唆された。図4のMECと血漿のアプロチニンの存在又は非存在下での24時間培養の結果及び図5のHuCCT1と血漿のアプロチニンの存在又は非存在下での48時間培養の結果から、アプロチニン(10μg/ml)はこの場合でもC5a遊離を顕著に抑制した。
【0085】
例4 C5aの濃度勾配による癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制(1)
図6に模式図を示した通り、抗ヒトC5a受容体抗体を含む又は含まない10%FBS−RPMI1640培地を用いて、MEC(75,000/0.75ml)を上穴に、C5aを下穴に入れ、37°C、12時間インキュベートした。ラミニン、コラーゲン IVなどからなるMartrigel(図6を参照)を通り8μmの小孔を抜けてフィルター下面に達した細胞をメタノール固定後1% トルイジンブルーで染色し、光学顕微鏡を用いてx20視野5カ所で数えた。C5aの代わりに上記培地を下穴に入れた場合の細胞数をcontrolとしてその割合で活性を表した。
【0086】
C5aR発現癌細胞はC5a濃度に依存して浸潤が亢進した(図7を参照)。このC5aの浸潤亢進作用は抗ヒトC5a受容体抗体(10μg/ml)によって顕著に抑制された。
【0087】
例5 C5a刺激後洗浄した癌細胞の浸潤亢進作用と抗C5a受容体抗体による抑制(2)
抗ヒトC5a受容体抗体を含む又は含まない10%FBS−RPMI1640培地を用いて、MEC(75,000/0.75ml)をC5a共存下で37°C、12時間培養した後に、培養液中の細胞を回収し、PBSで洗浄した。次いで回収した細胞を上記培地に再懸濁して上穴に入れ、さら上記培養液の上清を下穴に入れ、37°C、24時間インキュベートした。例4と同様にして、ゲル層を通り抜けた細胞数を計測した。C5aの代わりに培地を下穴に入れた場合の細胞数をcontrolとしてその割合で活性を表した。
【0088】
C5aR発現癌細胞は、一旦C5aで刺激されると、C5aの濃度勾配がない条件下でも、移動が亢進した(図8を参照)。この場合でもC5a刺激時に抗ヒトC5a受容体抗体を添加することにより顕著に抑制された。
【0089】
例6 HuCCT1産生C5aによる浸潤亢進作用の抗C5a抗体による抑制
図9に模式図として示した通り、抗ヒトC5a抗体を含む又は含まない10%FBS−RPMI1640培地を用いて、下穴でHuCCT1(100,000/ml)をC5 (350nM)の存在下又は非存在下で37°C、24時間培養した後に、C5a受容体陽性HuCCT1細胞(100,000/ml)を上層に入れ、下層において2.6μg/ml 抗C5a抗体又は2.6μg/ml 非特異IgGの存在下で24時間培養した。上層から下層に浸潤した細胞を例5と同様に数えた。
【0090】
C5添加HuCCT1培養液はC5aR高発現HuCCT1の浸潤を亢進したので、癌細胞が遊離するC5aは癌細胞自身を刺激することがわかった(図10を参照)。また、抗C5a抗体を下層に添加すると、この浸潤亢進作用は顕著に抑制された。
【0091】
例7 各種ヒト癌組織におけるC5aR発現
抗C5aR抗体を用いて免疫組織化学染色により、C5aRを発現する癌組織を調べた。図11に、各種ヒト癌組織における抗C5aR抗体を用いた免疫組織化学染色結果を示した。各癌組織において、C5aRを発現する細胞は茶色に染色された。なお、枠内の写真は、陰性対照を示す。また、今回調べた症例において、由来臓器ごとにC5aR陽性症例数の全症例数に対する比をC5aR陽性率として図12に示した。大腸癌、胆管細胞癌、前立腺癌、腎細胞癌においては過半数の症例でC5aR陽性であった。また、扁平上皮癌(食道)、腺癌(上記食道以外)に加え移行上皮癌(膀胱)でも陽性があり、すべての癌型でC5aR(+)が確認された(図12を参照)。
【0092】
例8 MMP阻害剤による癌細胞のC5a誘導型浸潤の抑制
GM6001の存在若しくは非存在下で、MEC(図13の左図)又はC5aR陽性HuCCT1(図13の右図)を上層に置き、下層に100nM C5aを置いてインキュベートした。値は、平均±SD(n=3)を示す。P<0.01である。MMP阻害剤であるGM6001はC5a刺激による癌細胞の浸潤促進を抑制した。
【0093】
例9 癌細胞のC5a遊離
5×104個の癌細胞を350nM C5を用いてインキュベートし、培養上清からイムノブロッティングによりC5aを調べた。調べた胆管からの5種及び大腸からの3種の癌細胞のすべてが、その血漿濃度において、ヒトC5からC5aを放出した(図14を参照)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、抗癌剤。
【請求項2】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、アプロチニンである、請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項3】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、フリン阻害剤又はフリン様プロテアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項4】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、抗フリン抗体、抗フリン様プロテアーゼ抗体又はdecanoyl−Arg−Val−Lys−Arg−cmkである、請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項5】
癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗癌剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗癌剤を含む、癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬。
【請求項7】
癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬。
【請求項9】
癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である、請求項8に記載の検査薬。
【請求項10】
癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である、請求項8又は9に記載の検査薬。
【請求項1】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤、抗C5a抗体、C5a受容体拮抗剤、及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、抗癌剤。
【請求項2】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、アプロチニンである、請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項3】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、フリン阻害剤又はフリン様プロテアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項4】
癌細胞膜セリンプロテアーゼ阻害剤が、抗フリン抗体、抗フリン様プロテアーゼ抗体又はdecanoyl−Arg−Val−Lys−Arg−cmkである、請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項5】
癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗癌剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗癌剤を含む、癌疾患を予防及び/又は治療するための医薬。
【請求項7】
癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
抗C5a抗体及び/又は抗C5a受容体抗体を含む、癌疾患の検査薬。
【請求項9】
癌が、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、膵癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎細胞癌、口頸部癌、子宮癌、卵巣癌、皮膚癌、尿管癌又は膀胱癌である、請求項8に記載の検査薬。
【請求項10】
癌疾患が、癌の浸潤及び/又は転移である、請求項8又は9に記載の検査薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−229122(P2010−229122A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130393(P2009−130393)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
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